(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記区域が第1の区域であり、前記システムはさらに、前記第1の区域の外側に配置され、かつ、前記第1の極性で帯電するために構成される複数の第3の電極を含み、前記第3の電極、前記第2の電極、および、前記周辺電極の一部により、前記第1の区域と部分的に重なる第2の区域が規定され、かつ、前記周辺電極のうちの第1の周辺電極が前記第2の区域の中に配置される、請求項1に記載のシステム。
前記ポリマーを分配することが、半径方向に整列した繊維の層を作製するために、前記第2の電極から前記第1の電極にまで広がる複数のポリマー繊維を形成させることを含む、請求項10に記載の方法。
前記1つまたは複数の第1の電極が、内側区域を規定する1つまたは複数の内側電極であり、かつ、前記半径方向に整列した繊維の層が、半径方向に整列した繊維の内側区域であり、
前記内側区域よりも大きい外側区域を規定する1つまたは複数の外側電極を前記第1の極性で電気的に帯電させること;および
前記ポリマーを前記紡糸口金から分配して、前記内側電極から前記外側電極にまで広がる半径方向に整列した繊維の外側区域を作製することをさらに含む、請求項11に記載の方法。
生物学的組織における空隙部を修復するための繊維構造物であって、中心および周囲を規定し、前記中心と、前記周囲との間に広がる複数の半径方向に整列したポリマー繊維を含む繊維構造物。
【発明を実施するための形態】
【0010】
詳細な説明
本明細書中に提供される実施形態は、生物学的組織を修復することを、複数の繊維を含む生物医学的パッチの使用により容易にする。そのような繊維は、非常に小さい断面直径(例えば、1ナノメートル〜1000ナノメートル)を有することができ、従って、ナノ繊維として示されることがある。生物医学的パッチが本明細書中では硬膜に関連して記載され、代用硬膜として使用されるが、記載される実施形態は、どのような生物学的組織に対してでも適用することができる。その上、生物医学的パッチとして記載されているが、整列した繊維を有する構造物は他の目的のために使用することができる。従って、記載される実施形態は生物医学的パッチに限定されない。
【0011】
働きにおいて、本明細書中に提供される生物医学的パッチは細胞成長を容易にしており、「膜」、「足場」、「マトリックス」または「基体」として示されることがある。そのような生物医学的パッチはさらに、生物医学的パッチの周囲から生物医学的パッチの中心への細胞遊走を容易にする。本明細書中に記載されるような、整列した繊維を有する生物医学的パッチは、ナノスケールの組織化および指向性の手がかりを有しない代用物よりも著しく早い組織(例えば、硬膜など)の治癒および/または再生を促すことができる。
【0012】
硬膜は、脳および脊髄を取り囲む髄膜の3つの層の最も外側に位置する膜性の結合組織であり、この組織は硬膜静脈洞を覆い、支え、そして、血液を脳から心臓に向けて運ぶ。代用硬膜が、切開、損傷または切除を受けた硬膜の修復、拡張または置き換えのために、神経外科的手技の後で必要となることが多い。
【0013】
多くの努力がこれまでなされているが、好適な代用硬膜を開発するための難題が、限定された成功とともに対処されている。自家移植片(例えば、大腿筋膜、側頭筋膜および頭蓋骨膜)が、それらは重篤な炎症反応または免疫学的反応を誘発しないので好ましい。自家移植片の潜在的欠点には、水密性の閉鎖を達成することにおける困難さ、瘢痕組織の形成、大きい硬膜欠損部を閉じるための移植片材料が十分に入手できないこと、感染の増大した危険性、ドナー部位の罹患、および、さらなる手術部位が必要であることが含まれる。自家移植片および異種移植片には、様々な有害影響が伴うことが多く、例えば、移植片溶解、被包、異物反応、瘢痕化、癒着形成、および、免疫抑制療法から生じる毒性誘導副作用などが伴う。代用硬膜としての凍結乾燥されたヒト硬膜はまた、伝染性疾患、具体的には、プリオンを伴う伝染性疾患(例えば、クロイツフェルト−ヤコブ病など)の原因として報告されている。
【0014】
材料に関して、非吸収性の合成ポリマー、例えば、シリコーンおよび発泡ポリテトラフルオロエチレン(ePTFE)などは多くの場合、それらは異物応答を長期にわたって刺激することに起因する肉芽組織形成の誘導を含み得る重大な合併症を引き起こす。コラーゲン、フィブリンおよびセルロースを含めて、天然の吸収性ポリマーは、感染および疾患を伝染させる危険性を引き起こすことがある。結果として、合成ポリマー、例えば、ポリ(3−ヒドロキシブチラート−コ−3−ヒドロキシバレラート)(PHBV)、ポリ(乳酸)(PLA)、ポリグリコール酸(PGA)、PLA−PCL−PGA三元コポリマーおよびヒドロキシエチルメタクリラートヒドロゲルなどが近年、硬膜修復のための生分解性インプラント材料として注目されている。本明細書中に記載される方法およびシステムは、これらの材料を用いて、および/または、どのような生物医学的ポリマーを用いてでも実施することができる。
【0015】
手術後の硬膜の成功した再生および/または修復を容易にするために、合成された代用硬膜または生物医学的パッチは下記のことを促さなければならない:i)硬膜線維芽細胞(硬膜に存在する原発性細胞タイプ)の、生物医学的パッチの表面への接着;ii)硬膜線維芽細胞の、生物医学的パッチの周囲から中心に向かう遊走;およびiii)最小限の免疫応答。今日まで、合成された代用硬膜は、ホイル、フィルム、メッシュ、接着剤およびヒドロゲルの形態でのみ試験されているだけである。等方性の表面性状のために、そのような代用物は細胞付着および方向性を持った内側への遊走のためには十分に適していない。
【0016】
この問題は潜在的には、上記ポリマーを、特定の秩序および組織化を有するナノスケールの繊維として製作することによって解決することが可能である。例えば、細胞遊走の速度は平坦な等方性表面では非常に低いかもしれず、これに対して、細胞は、一軸方向に整列した繊維状足場では、一定速度により、非常に相関する様式で非常に長い距離を遊走するかもしれない。
【0017】
電気紡糸は、ナノスケールの繊維を非常に多数のポリマーから製造することができる可能化技術である。電気紡糸されたナノ繊維は典型的には、ランダム配向した不織マットとして集められる。ナノ繊維の一軸方向に整列したアレイもまた、特定の条件のもとで得ることができ、具体的には、エアーギャップコレクター、または、高速度で回転するマンドレルを用いるときに得ることができる。しかしながら、一軸方向に整列したナノ繊維の足場は細胞遊走を1つの特定の方向に沿ってだけ促すだけであり、従って、代用硬膜として理想的に適していない。
【0018】
周りの組織から硬膜欠損部の中心への細胞遊走を促し、かつ、硬膜の治癒および再生のための時間を短縮するために、整列したナノスケール特徴物(例えば、半径方向に整列したナノスケール特徴物、および/または、1つもしくは複数の多角形的に整列したナノスケール特徴物)によりパターン化される表面は、人工代用硬膜として非常に好都合であると考えられる。より具体的には、整列したナノ繊維を用いて組み立てられる足場は、そのような要求を、硬膜欠損部の端部から中心への細胞遊走を導き、高めることによって満たし得ると考えられる。
【0019】
多くのポリマーが電気紡糸における使用のために入手可能である。本明細書中に記載されるいくつかの実施形態において、代用硬膜のためのナノ繊維が、非毒性の分解産物を伴って生理学的条件下でのそのエステル連結の加水分解により分解し得るFDA承認の半結晶性ポリエステルであるポリ(ε−カプロラクトン)(PCL)から電気紡糸ポリマーとして製造される。このポリマーは、薬物送達キャリア、縫合糸または接着バリアを製作するための材料として広範囲に使用されており、また、ヒト身体において研究されている。本明細書中に記載されるように、電気紡糸されたPCLナノ繊維は、代用硬膜として有用である足場を生じさせるために整列させることができる。
【0020】
本明細書中に提供される実施形態は、電気紡糸の新規な方法により形成されるポリマーのナノ繊維材料を含む新規なタイプの人工代用組織を製造することを容易にする。このポリマー材料は、材料シート内に整列している不織ナノ繊維(例えば、直径が1ナノメート〜1000ナノメートルである繊維)を含む。
【0021】
代表的な実施形態において、整列したナノ繊維を有する材料が、区域を規定し、および/または、その区域に少なくとも部分的に外接する1つまたは複数の第1の電極または「周辺」電極と、その区域に中に配置される第2の電極または「内側」電極とを含むコレクターを用いる電気紡糸の新規な方法により形成される。これらの電極が第1の極性で電気的に帯電し、かつ、ポリマーを(例えば、内側電極に向かって)分配する紡糸口金が第1の極性とは逆の第2の極性で電気的に帯電するとき、分配されたポリマーにより、内側電極から外側電極にまで広がる複数の繊維が形成される。電極は、くぼみまたは「ウエル」が繊維の構造物の電極面側に形成されるように、丸みのある(例えば、凸型)表面を含むことができる。代替において、電極は、ウエルが構造物の電極面側とは反対側に形成されるように、凹型の表面を含むことができる。
【0022】
いくつかの実施形態において、コレクターは、ただ1つだけの内側電極と、ただ1つだけの周辺電極とを含む。他の実施形態において、コレクターは複数の周辺電極を含み、分配されたポリマーにより、そのような周囲電極の間に広がる繊維が、内側電極から周辺電極の1つまたは複数にまで広がる繊維に加えて形成され得る。
【0023】
さらに、いくつかの実施形態において、多数の区域が周辺電極によって規定され、および/または、部分的に外接される。例えば、内側の周辺電極は、内側電極を取り囲む内側の囲まれた区域を規定することができ、外側の周辺電極は、内側周辺電極を取り囲む外側の囲まれた区域を規定することができる。他の実施形態において、電極はアレイで配列され、例えば、グリッドパターンおよび/または他の多角形パターン(例えば、六角形のパターン)などで配列され、多数の部分的に重なる区域がそのような電極によって規定され得る。例えば、1つの区域の内側電極は別の区域の周辺電極として機能することができる。そのような実施形態において、分配されたポリマーにより、コレクターの電極の間に広がる繊維を、繊維が複数の多角形の辺を規定するように形成することができ、ただし、この場合、電極が多角形の頂点に配置される。
【0024】
知られているナノ繊維構造物とは異なり、本明細書中に提供される整列したナノ繊維材料は、細胞遊走(例えば、材料シートの至る所での細胞遊走、または、材料シートの中心への細胞遊走)を高め、導くナノスケールのトポグラフィー的手がかりをその場の細胞に与えることができる。結果として、整列したナノ繊維材料は、ランダム配向した材料(例えば、加工された代表的なコラーゲンマトリックスなど)よりも早い細胞の遊走および集合(population)を誘導することができる。本明細書中に記載される材料は、創傷保護、閉鎖、治癒、修復および/または組織再生を誘導するために設計される様々なタイプの生物医学的パッチまたは移植片のための基体として特に有用であるかもしれない。
【0025】
本明細書中に記載されるような、整列したナノ繊維の足場は、並置された無傷の硬膜からの、影響を受けにくい細胞遊走を助長することができ、かつ、硬膜の修復を誘導するために要求されるナノ繊維マトリックスの迅速な細胞集合を促すことができるという点で、人工代用硬膜としての著しい潜在的能力を有している。加えて、そのようなナノ繊維材料は、安価に製造することができ、完全にカスタマイズ可能であり、かつ、再吸収性であるという利点を提供する。ナノ繊維の代用硬膜はまた、手術中に適用されたとき、拘縮の危険性を低下させることができ、かつ、伝染した人畜共通疾患の危険性を完全に排除することができ、これらは一般に、手術後の患者の結果を改善する。
【0026】
内側電極および周辺電極
図1は、半径方向に整列した繊維の構造物を製造するための代表的な電気紡糸システム100の透視図を示す図である。システム100は、第1の電極0(これは周辺電極として示されることがある)および第2の電極115(これは内側電極または中心電極として示されることがある)を有するコレクター105を含む。システム100はまた、紡糸口金120を含む。周辺電極110により、囲まれた区域125が規定され、中心電極115が、囲まれた区域125のおおよそ中心に配置される。
【0027】
システム100は、電位を、コレクター105と、紡糸口金120との間に生じさせるために構成される。1つの実施形態において、周辺電極110および中心電極115は、第1の振幅および/または極性で電気的に帯電するように構成される。例えば、周辺電極110および中心電極115を、導体135を介して電源130に電気的につなぐことができる。電源130は、周辺電極110および中心電極115を、導体135を介して第1の振幅および/または極性で帯電させるために構成される。
【0028】
図1に示される実施形態において、周辺電極110は、円形である囲まれた区域125を規定するリングである。例えば、円形の囲まれた区域125は1センチメートル〜20センチメートルの間の直径を有することができる。他の実施形態において、周辺電極110は、本明細書中に記載される方法とともに使用されるために好適であるどのような形状であってもよい。例えば、周辺電極110は、楕円形、卵形、長方形、正方形、三角形および/または他の直線構成もしくは曲線構成の囲まれた区域125を規定することができる。いくつかの実施形態において、周辺電極110は、5平方センチメートル〜100平方センチメートルの間での囲まれた区域125を規定する。周辺電極110は0.5センチメートル〜2.0センチメートルの間の高さ112を有することができる。中心電極115は、一点または一組の点で終わる金属ニードルおよび/または任意の他の構造物を含むことができる。
【0029】
1つの実施形態において、囲まれた区域125は水平面127を規定する。紡糸口金120が中心電極115に関して位置合わせされ、可変距離で水平面127から垂直方向に偏位させられる。例えば、紡糸口金120は、1センチメートル〜100センチメートルの距離で水平面127から垂直方向に偏位させることができる。
【0030】
紡糸口金120は、第1の極性とは逆の第2の振幅および/または極性で電気的に帯電しながら、ポリマー140を分配するために構成される。
図1に示されるように、紡糸口金120は導体145によって電源130に電気的につながれる。電源130は、紡糸口金120を、導体145を介して第2の振幅および/または極性で帯電させるために構成される。いくつかの実施形態において、電源130は直流(DC)電圧(例えば、10キロボルト〜17キロボルトの間の電圧)を提供する。1つの実施形態において、導体145が正に帯電し、導体135が負に帯電するか、または接地される。いくつかの実施形態において、電源130は、電流、電圧および/または電力の調節を可能にするために構成される。
【0031】
1つの実施形態において、紡糸口金120は、ポリマー140を液体溶液の形態で含有するシリンジ150につながれる。シリンジ150は手動またはシリンジポンプ155によって操作することができる。1つの代表的な実施形態において、紡糸口金120は、直径が100マイクロメートル〜2ミリメートルの間である開口部を有する金属ニードルである。
【0032】
シリンジ150により、ポリマー140が加圧されるにつれ、紡糸口金120はポリマー140を流れ160として分配する。流れ160は直径が紡糸口金120の開口部直径におおよそ等しい。流れ160はコレクター105に向かって下降する。例えば、流れ160は重力の影響下で下に向かって落下させることができ、および/または、コレクター105の下側に配置される帯電した導電性表面162によって下に向かって引き寄せることができる。例えば、導電性表面162を導体135に電気的につなぎ、周辺電極110および中心電極115と同じ振幅および/または極性で帯電させることができる。流れ160が下降するにつれ、ポリマー140により、1つまたは複数の中実ポリマー繊維165が形成される。
【0033】
いくつかの実施形態において、導電性材料または非導電性材料から構成されるマスク164が、繊維165の堆積を操作するためにコレクター105に適用される。例えば、マスク164を、繊維165がマスク164の真下のコレクター105の上に堆積しないように、紡糸口金120と、コレクター105との間に配置することができる。その上、マスク164は、その位置を、紡糸口金120がポリマー140を分配する間に調節することによって時間変動マスクとして使用することができ、このことは、コレクター105上における繊維密度の空間変動を容易にする。マスク164が円形として示されるが、マスク164は、システム100とともに使用されるために好適である任意の形状(例えば、長方形または半円形)およびサイズを有することができる。代替において、または、加えて、コレクター105における繊維165の堆積を、コレクター105の位置を紡糸口金120に対して調節することによって、あるいは、紡糸口金120、および/または、コレクター105を構成する電極の間に加えられる電位を空間的に変えることによって操作することができる。例えば、コレクター105の一方の側を紡糸口金120のすぐ真下に配置することにより、そのような側には、コレクター105の反対側に堆積させられるよりも多くの繊維165を堆積させることができる。
【0034】
図2は、システム100によって生じる電場を示す
図200である。
図200は、(
図1に示される)紡糸口金120と、コレクター105の周辺電極110および中心電極115との間における電場強度ベクトルの二次元断面図を示す。知られている電気紡糸システムとは異なり、コレクターの近傍における電場ベクトル(流れ線)が、周辺電極110の方向に向く集団と、中心電極115の方向に向く集団との2つの集団に分割される。
【0035】
ポリマー繊維上の電荷の影響を無視した場合、電位場を、下記のポアソン式を使用して計算することができる:
▽
2V=−ρ/ε
式中、Vは電位であり、εは空気の誘電率であり、ρは空間電荷密度である。その後、電場Eを、電位場の負の勾配を取ること(E=−▽V)によって計算することができる。なお、電場は、堆積した繊維によって明らかにされるアライメント効果を確認するために計算された。この計算は、ソフトウエアCOMSOL3.3を使用して行われた。
【0036】
図3は、電気紡糸システム100(
図1に示される)から取り出され、かつ、生物医学的パッチ170を形成する複数の繊維165が堆積している周辺電極110の図である。繊維165が、中心電極115(
図1に示される)の位置に対応する中心175と、周辺電極110の位置に対する周囲178との間において半径方向に広がる。例えば、周囲178は、1センチメートル〜6センチメートルの間の直径を規定する、中心175の周りでの円形の周囲であり得る。
【0037】
生物医学的パッチ170が、明確化のために、
図3において少量の繊維165とともに示される。いくつかの実施形態において、生物医学的パッチ170は、数千、数万、数十万またはそれ以上の繊維165(これらは、周辺電極110の(
図1に示される)囲まれた区域125の全体にわたって一様に分布する)を含む。数百万の繊維165を用いた場合でさえ、生物医学的パッチ170は可撓性および/または柔軟であり、このことは、生物医学的パッチ170を平らでない生物学的組織表面(例えば、硬膜の表面など)に適用することを容易にする。
【0038】
半径方向での繊維165の整列により、周囲178と、中心175との間における可能な限り最短の経路が表される。従って、生物医学的パッチ170はまた、直接に周囲178から中心175への細胞遊走を容易にし、このことは、細胞が適用後の生物医学的パッチに浸潤し、集合するために、また、生来的な組織が再生するために要求される時間における短縮を可能にする。
【0039】
繊維165は直径が1ナノメートル〜1000ナノメートルである。1つの実施形態において、繊維は直径がおよそ220ナノメートル(例えば、215nm〜225nm)である。繊維165の直径、生物医学的パッチ170の厚さ、および/または、生物医学的パッチ170内の繊維密度は、生物医学的パッチ170の耐久性(例えば、引張り強さ)に影響を与え得る。生物医学的パッチ170は、電気紡糸システム100を比較的より長い継続期間または比較的より短い継続期間にわたって操作することにより生物医学的パッチ170の厚さおよび/または繊維密度を変えることによって、様々な機械的性質を伴って製造することができる。
【0040】
図4は、周辺電極110に堆積させられる複数の半径方向に整列した電気紡糸繊維を含む生物医学的パッチ305の写真300である。
図5は、生物医学的パッチ305の繊維が半径方向に整列していることをさらに示す、生物医学的パッチ305の走査型電子顕微鏡(SEM)画像310である。
【0041】
図1および
図3を参照して、繊維165は中実または中空であり得る。いくつかの実施形態において、繊維165のサイズおよび/または構造が紡糸口金120の設計によって決定される。
図6は中実繊維用紡糸口金120Aの図解である。中実繊維用紡糸口金120Aは、中心線182を規定する円錐状本体180を含む。分配末端部184において、円錐状本体180は環帯部186を含む。環帯部186により、円形の開口部190Aが規定され、これを介してポリマー140が分配され得る。中実繊維用紡糸口金120Aを用いて製造される繊維165は中実構成を有する。
【0042】
図7は中空繊維用紡糸口金120Bの図解である。中実繊維用紡糸口金120Aと同様に、中空繊維用紡糸口金120Bは、環帯部186を分配末端部184に有する円錐状本体180を含む。中空繊維用紡糸口金120Bはまた、環帯部186の内部に配置される中心体188Bを含む。環帯部186および中心体188Bにより、環状開口部190Bが規定される。従って、ポリマー140が中空繊維用紡糸口金120Bによって分配されるとき、繊維165は中空構成を有し、外壁が空洞を取り囲む。中空繊維用紡糸口金120Bによって分配される繊維165の外壁により、環帯部186の内径に対応する外径と、中心体188Bの直径に対応する内径とが規定される。従って、中空繊維165の外径および内径を、環帯部186および中心体188Bの直径を調節することによって調節することができる。
【0043】
中空繊維用紡糸口金120Bは、所定の物質(例えば、生物学的薬剤、増殖因子および/または薬物(例えば、化学療法物質)など)を生物医学的パッチ170に取り込むことを容易にする。例えば、そのような物質を、生物医学的パッチ170の中空繊維165によって規定される空洞の中に堆積させることができる。1つの実施形態において、ポリマー140が、多孔性および/または半溶解性の繊維165を作製するために選択され、物質が繊維165を通って空洞から分配される。別の実施形態において、ポリマー140は分解性であり、物質が、繊維165が生体内で分解するにつれて分配される。例えば、繊維165は、12ヶ月以内、6ヶ月以内または3ヶ月以内に分解するように構成され得る。ポリマー140の分解速度は、ポリマー140内の成分ポリマーの比率を調節することによって操作することができる。
【0044】
別の実施形態において、物質が中実繊維165によって送達される。例えば、中実繊維165を、物質を溶解状態で含むポリマー140から作製することができる。中実繊維165が分解するにつれ、物質が周りの組織に放出される。
【0045】
図6および
図7に示されるように、環帯部186は中心線182に対して直角である。代替となる実施形態において、環帯部186は中心線182に対して斜めである(例えば、鋭角または鈍角で配向する)。繊維165の外径が環帯部186の内径によって決定され得る。
【0046】
いくつかの実施形態は、半径方向に整列した繊維と、半径方向に整列していない繊維とを有する生物医学的パッチを製造することを容易にする。例えば、半径方向に整列した繊維を第1の層に堆積させることができ、半径方向に整列していない繊維を第2の層に堆積させることができる。代替において、半径方向に整列した繊維と、半径方向に整列していない繊維とを、(例えば、同時、逐次的および/または交互に)ただ1つの層に堆積させることができる。
図1を参照して、システム100は、導電性表面162を帯電させるか、または接地することによって、ランダム配向した繊維を作製するために使用することができる。場合により、周辺電極110および中心電極115を非帯電または非接地とすることができる(例えば、導体135から切り離すことができる)。
【0047】
図8は、複数のランダム配向した繊維405を有する生物医学的パッチ層400、および、複数の半径方向に整列した繊維415を有する生物医学的パッチ層410の図解である。
図8に示されるように、生物医学的パッチ層400および生物医学的パッチ層410は、ランダム配向した繊維405と、半径方向に整列した繊維415との両方を有するか、あるいは、任意の数またはタイプの繊維層の任意の他の組合せを有する多層の生物医学的パッチ420を製造するために組み合わせることができる(例えば、重ねることができる)。半径方向に整列していない繊維405と、半径方向に整列した繊維415とを組み合わせることは、生物医学的パッチの中心への細胞遊走を促進させ、一方で、半径方向に整列した繊維415のみを有する生物医学的パッチよりも潜在的に大きい耐久性(例えば、引張り強さ)を示す生物医学的パッチを提供することを容易にする。半径方向に整列していない繊維405と、半径方向に整列した繊維415とを組み合わせることはまた、生物医学的パッチの面に対して直角な軸に沿った細胞の遊走および浸潤の空間的制御を可能にすることができ、このことは、天然の組織層に類似する、細胞および/または細胞外マトリックスタンパク質の特定の層の形成および組織化を容易にする。
【0048】
いくつかの実施形態において、半径方向に整列した繊維415を有する多数の生物医学的パッチ層410を、多層の生物医学的パッチを作製するために組み合わせることができる。例えば、
図1および
図3を参照して、第1の一組の繊維をコレクター105に堆積させた後、第1の一組の繊維165が完全に固化するか、または硬化するために待ち、その後、第2の一組の繊維165をコレクター105に堆積させることができる。第2の一組の繊維165は、コレクター105における第1の一組の繊維165を覆うように直接に堆積させることができる。代替において、第1の一組の繊維165をコレクター105から取り除き、第2の一組の繊維165を導電性表面162および/またはコレクター105に堆積させ、その後、取り除き、第1の一組の繊維165に重ねることができる。そのような実施形態は、半径方向に整列した繊維のみが使用される場合でさえ、生物医学的パッチの増大した耐久性、および、細胞遊走/活性の増した空間的制御を容易にする。いくつかの実施形態において、ヒドロゲルまたはポリマーの足場を生物医学的パッチ層400の間および/または生物医学的パッチ層410の間に配することができる。
【0049】
多層の生物医学的パッチは、硬膜移植片のために、同様にまた、他の組織工学適用のために有用であり得る。繊維の連続した層を、変化する秩序(例えば、半径方向に整列した秩序またはランダム配向した秩序)および密度(例えば、低い繊維密度または高い繊維密度)を伴って作製することができ、このことは、特定のタイプの細胞が人工の生物医学的パッチの選ばれた層に浸潤し、集合することを可能にし得る。例えば、高い繊維密度を含有する生物医学的パッチは一般に、細胞の遊走および浸潤を妨げ、一方、低い繊維密度を含有する生物医学的パッチは一般に、細胞の遊走および浸潤を高める。
【0050】
全体として、本明細書中に記載されるような多層の繊維材料を形成することができることは、硬膜だけでなく、他の生物学的組織(例えば、皮膚、心臓弁小葉、心膜、および/または、任意の他の生物学的組織など)の天然の多層構造を再現するために設計される生物医学的パッチを組み立てることにおいて極めて有益であり得る。さらに、生物医学的パッチの1層または複数層を、得られたナノ繊維材料が埋め込み後に完全に再吸収されるように生分解性ポリマーから製作することができる。これらの足場を製作するために利用されるポリマーの化学的組成の操作はさらに、埋め込み後の生物医学的パッチの分解速度および/または再吸収速度の特異的な制御を可能にし得る。
【0051】
いくつかの実施形態により、複数の入れ子状(例えば、同心状)の区域を含む生物医学的パッチが提供される。
図9は、中心電極115、第1または内側の囲まれた区域515を規定する第1または内側の周辺電極510、および、内側の囲まれた区域515よりも大きい第2または外側の囲まれた区域525を規定する第2または外側の周辺電極520を有するコレクター505の図である。いくつかの実施形態において、外側周辺電極520は内側周辺電極510と同心状に配向する。内側周辺電極510および外側周辺電極520が、
図9では円形の囲まれた区域(515、525)を規定するとして示されているが、内側周辺電極510および外側周辺電極520は、本明細書中に記載される方法とともに使用されるために好適である任意の形状の囲まれた区域(515、525)を規定することができる。その上、内側の囲まれた区域515および外側の囲まれた区域525は、異なる形状および/または異なる中心を有することができる。
【0052】
電気紡糸システム100(
図1に示される)を用いた操作において、中心電極115および内側周辺コレクター505が第1の振幅および/または極性(これは、紡糸口金120が帯電する極性とは逆である)で帯電させられ、一方、紡糸口金120により、ポリマー140が流れ160として分配される。流れ160はコレクター505に向かって下降し、中心電極115から内側周辺電極510にまで広がる1つまたは複数の繊維530を形成する。
【0053】
第1の極性の電荷が、(例えば、中心電極115を導体135から切り離すことによって)中心電極115から除かれ、外側周辺電極520が第1の振幅および/または極性で帯電させられる。紡糸口金120により、ポリマー140が流れ160として分配され、流れ160はコレクター505に向かって下降し、内側周辺電極510から外側周辺電極520にまで広がる1つまたは複数の繊維535を形成する。まとめると、繊維530および繊維535により、
図10に示されるような同心状の生物医学的パッチ550が形成される。いくつかの実施形態において、電荷が、繊維535を内側周辺電極510と、外側周辺電極520との間に堆積させるに先立って中心電極115から除かれない。
【0054】
図10は、コレクター505(
図9に示される)を用いて製造され得る同心状の生物医学的パッチ550の図である。繊維530により、中心560から内側周囲565にまで広がる円として示される内側の区域555が規定される。外側の区域570は、ほぼ内側周囲565(内側周囲565の約100μm〜2000μm内側)から外側周囲575にまで広がる繊維535を含む。繊維535は中心560に関して半径方向に、または、おおよそ半径方向に(例えば、1度以内、3度以内または5度以内に)配向する。
【0055】
図10に示されるように、内側区域555および外側区域570は重複区域580において重なることができる。1つの実施形態において、重複区域580は内側周辺リング510(
図8に示される)の厚さに対応する。
図3と同様に、同心状の生物医学的パッチ550が、明確化のために少量の繊維530および繊維535とともに
図10に示される。いくつかの実施形態において、内側区域555および外側区域570はそれぞれが、数千、数万、数十万またはそれ以上の繊維530および繊維535をそれぞれ含む。繊維530および繊維535は重複区域580において互いにつなげることができる。例えば、繊維535を、繊維530が完全に固化してしまう前に堆積させることができる(または、逆に、繊維530を、繊維535が完全に固化してしまう前に堆積させることができる)。いくつかの実施形態において、繊維530および繊維535は、同時に、または、交互様式でコレクター505(
図9に示される)に堆積させられる。
【0056】
図9および
図10に記載される実施形態などの実施形態は、比較的一貫した繊維密度を全体にわたって有する生物医学的パッチを提供することを容易にする。対比のために、繊維530が中心560から外側周囲575にまで広がるならば、中心560における繊維密度は、外側周囲575における繊維密度よりもかなり高いと考えられる。低い周辺繊維密度は、大きい直径(例えば、5センチメートルまたは6センチメートルを超える直径)ではとりわけ、外側周囲の近くでの生物医学的パッチの耐久性を損なうかもしれない。従って、そのような実施形態はさらに、生物医学的パッチの耐久性を維持しながら、大きい直径(例えば、10センチメートルまたは12センチメートルに至るまでの直径)の生物医学的パッチを提供することを容易にする。いくつかの実施形態において、半径方向に整列していない繊維の層が、
図8に関して上記で記載されるように、生物医学的パッチ550と組み合わされ、このことは生物医学的パッチ550の耐久性をさらに高めることができる。
【0057】
いくつかの実施形態において、内側区域555内の空間繊維密度が外側区域570内の空間繊維密度と異なる。1つの実施形態において、繊維530が、中心電極115と、内側周辺電極510との間に第1の継続期間にわたって堆積させられ、繊維535が、内側周辺電極510と、外側周辺電極520との間に第2の継続期間にわたって堆積させられる。
【0058】
コレクター505および同心状の生物医学的パッチ550が円形の内側区域および外側区域とともに示されるが、任意の量および形状の周辺電極を、任意の数の異なった繊維区域を生物医学的パッチの内部に作製するために使用することができる。
【0059】
図11は、囲まれた区域を規定する周辺電極と、その囲まれた区域のおおよそ中心に配置される中心電極とを使用して、半径方向に整列した繊維の構造物を製造するための代表的な方法600のフローチャートである。方法600の1つの実施形態が
図11に示されるが、示される操作のいずれかが省略され得ること、および、操作が、示されるのとは異なる順序で行われ得ることが意図される。
【0060】
方法600は、周辺電極および中心電極を第1の振幅および/または極性で電気的に帯電させること(605)(例えば、負に帯電させるか、または、接地すること)を含む。中心電極に関しておおよそ位置合わせされる紡糸口金が、第1の振幅および/または極性とは逆の第2の振幅および/または極性で帯電させられる610(例えば、正に帯電させられる)。
【0061】
ポリマー(例えば、液状ポリマー)が紡糸口金から分配される(615)。代表的な実施形態において、ポリマーを分配すること(615)により、中心電極から周辺電極にまで広がる複数のポリマー繊維が形成されて、半径方向に整列した繊維の層を作製する。
【0062】
いくつかの実施形態は、多数の周辺電極を使用して、半径方向に整列した繊維の同心状構造物を作製することを容易にする。1つの実施形態において、周辺電極は内側の周辺電極である。内側の囲まれた区域よりも大きい外側の囲まれた区域を規定する外側の周辺電極が第1の振幅および/または極性で電気的に帯電させられる(620)。電荷が中心電極および内側周辺電極から除かれてもよく、または、除かれなくてもよい(622)。ポリマーが、内側周辺電極から外側周辺電極にまで広がる半径方向に整列した繊維の外側区域を作製するための紡糸口金から分配される(625)。
【0063】
さらに、いくつかの実施形態は、半径方向に整列した繊維と、半径方向に整列していない繊維との両方を含む多層の構造物を作製することを容易にする。電荷が周辺電極および中心電極から除かれる(630)。半径方向に整列した繊維の下側にある導電性表面が第1の振幅および/または極性で電気的に帯電させられる(635)。ポリマーが、半径方向に整列していない繊維(例えば、ランダム配向した繊維および/または一軸方向に整列した繊維)を、半径方向に整列した繊維の層を覆って作製するために紡糸口金から分配される(640)。
【0064】
図12は、生物学的組織における欠損部を修復するための代表的な方法700のフローチャートである。欠損部には、空隙部、傷害部、および/または、生物学的組織の低下した機能をもたらす任意の他の状態が含まれ得る。1つの実施形態において、方法700は、空隙部を生物学的組織において作製すること(705)を含み、欠損部は、作製された空隙部である。例えば、空隙部を、下にある組織(例えば、腫瘍)への接近を提供するための外科的切開によって作製することができる(705)。別の例では、空隙部が、壊死組織(例えば、皮膚細胞)を切除することによって作製される(705)。欠損部を覆うことができる1つまたは複数の生物医学的パッチが選択される(710)。例えば、複数の生物医学的パッチを、大きいおよび/または複雑な(例えば、不規則な形状の)欠損部のために選択することができる(710)。生物医学的パッチは、生物医学的パッチの中心から生物医学的パッチの周囲にまで広がる複数の半径方向に整列したポリマー繊維を含む。例えば、おおよそ円形の欠損部の直径よりも大きい直径を有する生物医学的パッチを選択することができる(710)。
【0065】
選択(710)された生物医学的パッチはまた、半径方向に整列していないポリマー繊維(例えば、ランダム配向したポリマー繊維および/または一軸方向に整列したポリマー繊維)を含むことができる。例えば、半径方向に整列した繊維と、半径方向に整列していない繊維とを別個の層で配列させることができる。
【0066】
いくつかの実施形態において、生物医学的パッチは、半径方向に整列した繊維の多数の区域を含む。1つの実施形態において、第1の一組の半径方向に整列した繊維が生物医学的パッチの中心から第1の周囲にまで広がり、内側の区域を規定する。第2の一組の半径方向に整列した繊維が第1の周囲から第2の周囲にまで広がり、外側の区域を規定する。
【0067】
増殖因子および/または薬物(例えば、化学療法薬物)などの物質を生物医学的パッチに加えることができる(715)。例えば、生物医学的パッチを、物質が生物医学的パッチの中空繊維内の空洞を占めること、または、生物医学的パッチにおける繊維を構成するポリマーにドープされること、または、生物医学的パッチ内の繊維の表面を被覆することを可能にするために物質に浸けることができる。
【0068】
生物医学的パッチが、欠損部の少なくとも一部を覆うために生物学的組織に適用される(720)(例えば、重ねられる)。例えば、生物医学的パッチを、欠損部を含む硬膜組織、心臓組織および/または任意の生物学的組織に適用することができる(720)。1つの実施形態において、生物医学的パッチの周囲が、欠損部全体が生物医学的パッチによって覆われるように欠損部の周囲を超えて広がる。いくつかの実施形態において、生物医学的パッチは、複数回の縫合、接着剤、および/または、生物医学的パッチを生物学的組織に取りつける任意の他の手段を用いて生物学的組織につながれる(725)。代替となる実施形態において、生物医学的パッチは単に、例えば、生物学的細胞を生物医学的パッチに接着することなどによって生物学的組織に融合させることができる。
【0069】
生物医学的パッチが生物学的組織に適用され(720)、また、場合により、生物学的組織につながれた(725)後、生物学的組織は覆われる(730)。1つの実施形態において、欠損部に重なる他の組織(例えば、真皮および/または表皮)が修復される(例えば、縫合され、閉じられる)。別の実施形態において、1つまたは複数の保護層が生物学的組織を覆って適用される。例えば、包帯を、保護物質(例えば、ゲル、軟膏および/または抗菌剤など)の有無にかかわりなく、皮膚移植片に適用することができる。1つの実施形態において、保護層は、本明細書中に記載されるようなナノ繊維構造物(例えば、さらなる生物医学的パッチなど)を含む。
【0070】
本明細書中に記載される実施形態は、経蝶形骨手技(例えば、下垂体腺腫の外科的除去)、様々なタイプの頭蓋底手術、および/または、頭蓋腫瘍もしくは脊髄腫瘍(例えば、髄膜種および/または星状膠細胞腫)の外科的除去(これらに限定されない)を含めて、硬膜の修復、置換または拡張を伴う任意の神経外科的手技とともに実施できる。1つの実施形態において、生物医学的パッチを骨折部(例えば、複雑骨折)に適用することができる。別の実施形態において、生物医学的パッチを皮膚における欠損部(例えば、火傷部)に適用することができる。
【0071】
その上、そのような実施形態は、代用硬膜、皮膚移植片(例えば、真皮または表皮)のための生物医学的パッチ、気管修復のための生物医学的パッチ、人工心臓弁小葉のための足場、胃腸管(例えば、腹部ヘルニアまたは潰瘍)の外科的修復のための人工メッシュ、心臓欠損部の外科的修復のための人工メッシュを提供するために実施できる。例えば、半径方向に整列した繊維を含む心臓用の生物医学的パッチを、心筋細胞の再生を促すために使用することができる。本明細書中に記載される実施形態は、生物学的組織(例えば、心筋細胞)による生物医学的パッチの動きを可能にするための十分な可撓性を有する心臓パッチを提供することを容易にする。
【0072】
いくつかの実施形態において、生物医学的パッチは、修復されつつある生物学的組織の厚さよりも小さい厚さを有する。細胞が生物医学的パッチの半径方向の繊維に沿って遊走するにつれ、生物学的組織が再生される。
【0073】
半径方向に整列したポリマー繊維を有する生物医学的パッチは、組織修復の費用を削減すること、組織治癒時間を改善すること、および、人畜共通感染症の危険性を低下させるか、または排除することを容易にする。その上、そのような生物医学的パッチは製造が比較的容易であり、このことは、形状、サイズおよび化学的組成のカスタマイズ化、ならびに、改善された利用性および非免疫原性を可能にする。加えて、半径方向に整列したポリマー繊維を有する生物医学的パッチは、知られている製造物と比較したとき、その布地様構成に起因する優れた取り扱い性を示し、また、自家移植片組織を採取するための第2の手術が必要であることを排除し、また、拘縮および癒着の危険性を低下させる。
【0074】
実験結果
硬膜は、数多くの細胞および細胞タイプ、細胞外マトリックスタンパク質ならびに栄養因子(これらのすべてが、人工代用硬膜の定着および硬膜化(duralization)において、また、そのような生物医学的パッチのインビボでの成功した履行において重要な役割を果たす)からなる複雑な線維性膜である。半径方向に整列したナノ繊維が天然の硬膜と整合し、移植片への宿主細胞接着を促し、かつ、移植片に沿った宿主細胞遊走を高めることができるかを評価するために、小さい硬膜欠損部の外科的修復のエクスビボモデルが開発された。
【0075】
典型的な手順において、「人為的硬膜欠損部」を、小さい円形の穴(7mmの直径)を試料片の中心に顕微手術で開けることによって硬膜片(1cm×1cm)に導入した。その後、ナノ繊維の足場を、移植片を硬膜試料片に重ねることによって人為的欠損部を修復するために利用した。
【0076】
図13は、生物学的細胞が、無傷の硬膜組織(足場の端部に並置される)から、半径方向に整列したナノ繊維に沿って足場の中心部分に広がることの模式的図解である。移植片は、硬膜組織と試料片の周辺部で同時に接触しながら、模擬された硬膜欠損部の全体を覆った。移植片は、無傷な組織における生来的(native)な細胞がナノ繊維の足場に容易に接着し、かつ、その至る所に遊走し得ることを明らかにする。
【0078】
図14Aに示されるように、フルオレセインジアセタート(FDA)により染色される硬膜の線維芽細胞が、4日間のインキュベーションの後で、周りの組織から、半径方向に整列したナノ繊維に沿って、さらには円形の足場の中心にまで遊走した。細胞が4日で足場の表面全体を完全に覆い得ることが見出された。対照的に、空隙が、ランダム繊維から作製される足場については同じ期間のインキュベーション時間の後で認められ(
図14B)、このことは、半径方向に整列したナノ繊維の足場における生来的細胞の遊走が、ランダムな対応物の場合よりも早いことを示している。半径方向に整列したナノ繊維から作製される足場(
図14Aおよび
図14Cに示される)に、並置されている硬膜組織の縁から遊走してきた硬膜の細胞が完全に集合したことが明らかである。これに反して、無細胞領域が、同じインキュベーション時間の後で、ランダム配向したナノ繊維から作製される足場の中心において明瞭に視認され、このことは、細胞の浸潤が不完全であり、かつ、より遅い速度で生じたことを示している。
【0079】
細胞遊走に対する繊維の整列および改変後のナノ繊維足場の影響をさらに調べるために、硬膜組織から単離された初代硬膜線維芽細胞を、半径方向に整列したナノ繊維の足場およびランダム配向したナノ繊維の足場で、フィブロネクチン被覆を有する足場およびフィブロネクチン被覆を有しない足場において培養した。
図15は、組織欠損部の創傷治癒をモデル化するために設計される特注作製された細胞培養システムの模式図である。具体的には、硬膜線維芽細胞が、7mmの「模擬された硬膜欠損部」をサンプルの中心に事実上形成するナノ繊維の円形足場の周辺に選択的に播種された。
【0080】
図16A〜
図16Dは、フィブロネクチン被覆を有しない場合およびフィブロネクチン被覆を有する場合の、半径方向に整列したナノ繊維の足場(
図16A、
図16C)およびランダム配向したナノ繊維の足場(
図16B、
図16D)における細胞の形態学および分布を1日間のインキュベーションの後で示す蛍光顕微鏡写真である。
図16Aに示されるように、多くの細胞が、半径方向に整列したナノ繊維を含む非被覆の足場に付着し得る。比較において、より少ない細胞が、ランダム配向したナノ繊維の非被覆の足場に不良に付着し、細胞凝集が認められた(
図16B)。播種された細胞が、半径方向に整列したナノ繊維のフィブロネクチン被覆された足場の表面全体にわたって一様に分布し、細胞は、ナノ繊維の整列の軸に平行する細長い形状を示した(
図16C)。この結果は、フィブロネクチン被覆が、整列した繊維によって提供される細胞形態学に対するトポグラフィー的手がかりの影響を高め得ることを示している。細胞はまた、半径方向に配向したナノ繊維のフィブロネクチン被覆された足場に十分に接着し得るし、また、細胞分布が非被覆のサンプルよりも均一であり、だが、細胞の伸長または整列が全く認められなかった(
図16D)。ランダム配向したナノ繊維の足場における細胞のランダムな組織化はまた、瘢痕組織における細胞の組織化を模倣する。このことは、整列した足場が、瘢痕組織形成を、より規則的な細胞組織化/機能を促すことによって低下させることを助け得ることを示唆する。
【0081】
足場における細胞の運動性を特徴づけるために、細胞を種々の時点でFDAにより染色し、蛍光画像を撮影した。
図17A〜
図17Dは、半径方向に整列したナノ繊維のフィブロネクチン被覆された足場に、1日間(
図17A)、3日間(
図17B)および7日間(
図17C)にわたって播種された硬膜線維芽細胞の遊走を示す蛍光顕微鏡写真である。
図17Dは
図17Cの拡大図である。細胞は、
図17Dに示されるように半径方向に整列した(このことは、真下にある繊維の整列を再現する)。
【0082】
硬膜線維芽細胞が、模擬された硬膜欠損部の中に遊走し、再び集合し得るかを、代用物の再生能の評価として、実験期間を通して様々な時点で測定した。
図18は、所与の時点で足場に残存する模擬された組織欠損部の面積を求める(例えば、計算する)図解である。
図19は、インキュベーション時間の関数とする空隙空間の面積の図解である。
図19において、「ランダム」は、ランダム繊維の足場によるサンプルを示し、「ランダムF」は、ランダム繊維のフィブロネクチン被覆された足場によるサンプルを示し、「整列」は、半径方向に整列したナノ繊維の足場によるサンプルを示し、「整列F」は、半径方向に整列したナノ繊維のフィブロネクチン被覆された足場によるサンプルを示す。星印(*)およびハッシュ(#)は、同じ期間のインキュベーション時間においてランダムサンプルおよびランダムFサンプルと比較されるサンプルについて、p<0.05であることを示す。
【0083】
空隙の面積が、細胞の内側への遊走のために、調べられた足場のすべてについてインキュベーション時間の増大とともに減少した。
図17A〜
図17Dによって示されるように、整列した繊維は、細胞遊走を、ランダム繊維と比較して著しく高めることができ、また、細胞は、最初の3日間のインキュベーションについては、半径方向に整列したナノ繊維のフィブロネクチン被覆された足場において最も早く遊走した。およそ5mm
2の表面積が、7日間のインキュベーションの後でさえ、非被覆のランダム足場においては細胞によって覆われないままであった。対照的に、細胞が、他の3つのタイプの足場については同じ期間のインキュベーションにおいて、模擬された欠損部の区域のほぼ全体を覆った。
【0084】
図20A〜
図20Dは、フィブロネクチン被覆を有する、半径方向に整列したナノ繊維の足場における、膜色素で標識された生存している硬膜線維芽細胞を、1日間の培養(
図20A)、3日間の培養(
図20B)、7日間の培養(
図20C)および10日間の培養(
図20D)の後で示す蛍光顕微鏡写真である。
図20Dは、細胞が、整列した足場において半径方向に整列していたことを示す
図20Dの高倍率画像の挿入図を含む。半径方向に整列したナノ繊維のフィブロネクチン被覆された足場の中心に向かう細胞遊走がさらに、
図20A〜
図20Dに示される経時的画像化によって確認された。
【0085】
硬膜組織は主にI型コラーゲンから構成される。硬膜線維芽細胞からのI型コラーゲンの産生もまた調べた。
図21A〜
図21Dは、青色での4’,6−ジアミジノ−2−フェニルインドール(DAPI)による細胞核を伴うI型コラーゲンの免疫染色を、半径方向に整列したナノ繊維の足場(
図21A、
図21C)およびランダム配向したナノ繊維の足場(
図21B、
図21D)について行うことによって得られる蛍光顕微鏡写真である。同等レベルのI型コラーゲンが、ランダム繊維の足場と比較した場合、半径方向に整列したナノ繊維の足場における細胞によって産生されたことが認められ、だが、1つの以前の研究では、より細長い細胞が、それほど細長くない細胞が発現するよりも多くのI型コラーゲンを発現したことが示された。加えて、フィブロネクチン被覆は、I型コラーゲンの産生に対する著しい影響を有していなかった。I型コラーゲンがランダム足場についてはでたらめに配向し(これは不定形の瘢痕組織の細胞外構成に似ている)、また、半径方向に整列した足場については大きな程度の組織化を有した(これは健全な結合組織に似ている)。
【0086】
細胞−生体材料の相互作用における近年の進歩は、材料表面の化学的性質およびトポグラフィー的性質の両方により、細胞の形状および機能が規制および制御され得ることを示している。細胞の配向、運動性、接着および形状が、表面の特定のミクロトポグラフィーおよびナノトポグラフィーによって調節され得る。細胞は、表面における微小溝または類似するナノトポグラフィー的特徴部に沿って整列することができる。線維芽細胞が、内皮細胞および平滑筋細胞と比較して最も敏感な細胞タイプであり、そのようなトポグラフィー的特徴部に沿った強い整列、伸長および遊走を伴って応答したことが明らかにされた。
【0087】
同時に、電気紡糸が、皮膚移植片、人工血管弁および神経修復などを含む組織工学における数多くの様々な適用のためのナノ繊維を製造するために広く使用されている。それにもかかわらず、以前の研究は、ランダムなナノ繊維および一軸方向に整列したナノ繊維から作製される足場の使用に限定された。一軸方向に整列したナノ繊維から構成される足場は、不規則な形状をした創傷の共通性のために、創傷修復適用のためには実用的でない。本明細書中に記載される研究により、半径方向に整列したナノ繊維から作製される新しいタイプの足場の製作が初めて明らかにされた。この新しいタイプの足場は、硬膜線維芽細胞が繊維の整列の方向に沿って広がることを誘導し、かつ、足場の中心に向かう細胞運動性を導き、その結果、ランダム配向したナノ繊維から構成される足場と比較して、より早い細胞の遊走および浸潤を生じさせることができる。
【0088】
加えて、一軸方向に整列したナノ繊維の足場は、細胞遊走を一方向でのみ誘導し得るという点で、そのような能力を整合させることができない。細胞の配向または形態学をトポグラフィー(いわゆる「接触誘導」)によって制御することは、細胞外マトリックスの組織化を可能にし得ることが報告された。ほとんどの傷害について、修復は、以前には機能的であった組織が、細胞(例えば、線維芽細胞)および細胞外マトリックス(例えば、コラーゲン繊維)のまとまりのない、瘢痕として知られている混合物になることを生じさせる。高度に組織化された細胞および細胞外マトリックスが、適正な組織再生および機能には要求され、これは通常、瘢痕化を伴う組織修復とは非常に異なる。半径方向に整列したナノ繊維の足場における細胞外マトリックスのI型コラーゲンが大きな程度の組織化を示したことが本研究において明らかにされている。このことは、半径方向に整列したナノ繊維の足場が創傷治癒後の瘢痕組織形成の可能性を低下させ得ることを示唆する。
【0089】
代用硬膜は、安全で、有効で、取り扱いが容易で、水密性で、かつ、生来的組織と類似する新しい組織を形成するために周りの組織に容易に一体化されなければならない。同様に、代用硬膜は有害な異物反応を回避しなければならず、また、感染の何らかの潜在的危険性を有してはならず、また、特に可撓性および強さに関しては天然の硬膜の機械的性質と類似する機械的性質を有しなければならず、また、安定および/または貯蔵可能でなければならず、また、即時使用のために入手可能でなければならない。本研究において、生分解性ポリマーであるPCLが、PCLは他の生体吸収性ポリエステルと比較していくつかの利点を有するという点で、代用硬膜のための材料として選定された。PGAおよびポリ(L−乳酸)(PLLA)は不均一に分解することにより、酸性条件および毒性反応を周りの組織において生じさせる分解産物の突然の増大を引き起こし得る。PCLの分解はより遅く、また、それほど酸性でない分解産物をもたらし、そのため、1970年代以降は創傷被覆材として研究されている。
【0090】
水密性を得るために、半径方向に整列したナノ繊維の足場は、2層化された、または、それどころか、多層化された代用物を形成するために、不織マットと組み合わせることができる。同時に、抗生物質を、炎症性応答をさらに軽減させるために、また、創傷治癒を改善するために、また、術後の癒着を防止するために、ナノ繊維の内側に容易に封入することができる。代替において、PCLは、その生体適合性を、機械的性質、物理的性質および化学的性質と同様にさらに改善するために、他のポリマーとブレンドすることができる。その上、細胞外タンパク質および/または増殖因子を、細胞接着を高めるために、様々な表面修飾法を使用して、ナノ繊維の表面に固定化することができる。本研究は、硬膜線維芽細胞の接着および運動性に対する、静電相互作用を介したPCLナノ繊維におけるフィブロネクチン被覆の影響を明らかにする。本明細書中に示される結果は、フィブロネクチン被覆により、硬膜線維芽細胞の接着が高まり、ランダム配向したナノ繊維の足場における細胞遊走が改善されたことを明らかにする。対照的に、被覆は、むき出しの足場と比較した場合、わずかな寄与を、半径方向に整列したナノ繊維の足場における細胞運動性に対して有しただけであった。このことは、ナノ繊維の整列および生じた表面トポグラフィーによって果たされる支配的な役割を示している。
【0091】
まとめると、半径方向に整列した繊維を含む電気紡糸されたナノ繊維足場の新しいタイプの製作、および、代用硬膜としてのそのような構造物の潜在的適用が本明細書中に記載される。半径方向に整列したナノ繊維の足場で培養された硬膜線維芽細胞は繊維の軸に平行して細長く、かつ、足場の中心向かう細胞遊走が、I型コラーゲンのような細胞外マトリックスの規則的配列(これは新生硬膜(neodura)の早い再生および形成を潜在的に促進させる)の発達と一緒に加速された。まとめると、これらの結果は、半径方向に整列したナノ繊維が人工代用硬膜としての大きい潜在的可能性を有すること、硬膜欠損部の修復における代替法を提供し得ること、および、さらには、他に例を見ない望ましい特殊分野を神経外科界内に占めることを示唆する。
【0092】
さらなる実験結果
PCL(Mw=65kDa、Sigma−Aldrich)ナノ繊維を電気紡糸するための典型的な手順において、体積比が8:2であるジクロロメタン(DCM)およびN,N−ジメチルホルムアミド(DMF)(Fisher Chemical)の混合物における20%(w/v)PCLの溶液を使用した。繊維を、紡糸口金としての23ゲージのニードルとともに、0.5mL/hからの範囲の供給速度を用いて、10kV〜17kVで紡糸した。アルミニウムホイル片を、ランダムナノ繊維の足場を得るためのコレクターとして使用した。半径方向に整列したナノ繊維の足場を、リング電極(例えば、金属リング)および点電極(例えば、鋭利なニードル)からなるコレクターを利用して製作した。電気紡糸されたPCLナノ繊維をフィブロネクチン(Millipore、Temecular、CA)により下記のように被覆した。電気紡糸されたナノ繊維の足場を70%エタノールにおける一晩の浸漬によって殺菌し、リン酸塩緩衝化生理的食塩水(PBS)により3回洗浄した。その後、足場を0.1%のポリ−L−リシン(PLL)(Sigma−Aldrich)溶液に室温で1時間浸け、その後、PBS緩衝液(Invitrogen)により3回洗浄した。続いて、サンプルをフィブロネクチン溶液(26μL、5mLのPBS緩衝液により希釈される50μg/mLのフィブロネクチン溶液)に4℃で一晩浸けた。細胞を播種する前に、フィブロネクチン溶液を除き、ナノ繊維の足場をPBS緩衝液によりゆすいだ。
【0093】
PCLナノ繊維の足場を、15kVの加速電圧での走査型電子顕微鏡(Nova 200 NanoLab、FEI、Oregon、米国)による画像化の前に金によりスパッターコーティングした。細胞培養における使用のために調製されたサンプルを24ウエルのTCPS培養プレートに入れ、足場を70%エタノールに浸すことによって殺菌した。
【0094】
線維芽細胞を、外植された硬膜の切片から単離した。具体的には、2.0cm×1.5cmの硬膜切片を鋭的切離により取り出し、冷PBSにより3回洗浄した。その後、硬膜の線維芽細胞を、切り刻んだ硬膜を、0.05%のトリプシンおよび0.04%のEDTA(Sigma−Aldrich、St.Louis、MO)を含有する4mLの暖かいハンクス平衡塩溶液(HBSS)において3回消化することによって単離した。消化後、集めた上清を遠心分離し、硬膜の細胞のペレットを単離し、10%の子ウシ血清ならびに1%のペニシリンおよびストレプトマイシンが補充されたダルベッコ改変イーグル培地(DMEM)に再懸濁した。その後、このようにして得られた硬膜の細胞を75cm
2のフラスコに置床し、拡大培養した(最大でも5回、継代培養した)。
【0095】
大きい連続した硬膜片を冷PBSに入れ、1cm×1cmの切片に顕微手術で切り取った。その後、人為的な欠損部を、小さい円形の穴(7mmの直径)を切片の中央に顕微手術により開けることによってそれぞれの硬膜切片に導入した。その後、硬膜切片を、10%の子ウシ血清ならびに1%のペニシリンおよびストレプトマイシンが補充された4mLのDEMEMを含有する6ウエル培養プレートの個々のウエルに導入した。その後、ランダム配向したナノ繊維の足場および半径方向に整列したナノ繊維の足場(1cmの直径)を、移植片を硬膜試料片に重ねることによって人為的欠損部を修復するために利用した。ナノ繊維の足場を硬膜の上に置き、その結果、移植片が、硬膜組織と試料片の周辺で同時に接触しながら、欠損部全体を覆うようにした。ナノ繊維の足場は、殺菌された金属リングを、足場および硬膜の両方を覆って置くことによって実験期間中を通してこの配置で保たれた。4日間の培養の後、細胞がFDAにより緑色に染色され、蛍光顕微鏡により画像化された。蛍光画像を、Olympus顕微鏡にOCapture2.90.1(オリンパス、東京、日本)とともに取りつけられるQICAM Fast Cooled Mono 12ビットカメラ(Q Imaging、Burnaby、BC、カナダ)を使用して撮影した。同様に、およそ1×10
5個の硬膜線維芽細胞を、
図15に示される特注作製された培養システムを使用してナノ繊維足場の周辺に播種した。異なる期間の後で、細胞がFDAにより緑色に染色され、蛍光顕微鏡により画像化された。その後、遊走している細胞が存在しないナノ繊維足場の総表面積を、Image Jソフトウエア(National Institute of Health)を使用して定量化した。
【0096】
生細胞を、1日目、3日目、7日目および10日目に、VYBRANT DiO細胞標識溶液(Invitrogen)を製造者の説明書に従って使用して膜色素により標識し、その後、画像化した。
【0097】
繊維足場における硬膜線維芽細胞によるI型コラーゲンの産生を、免疫組織化学を使用して評価した。7日目に、細胞をPBSによりゆすぎ、3.7%ホルマリンにより1時間固定した(N=4)。細胞を、PBSにおける0.1%のTriton X−100(Invitrogen)を使用して20分間、透過処理し、その後、5%の正常ヤギ血清(NGS)を含有するPBSにおいて30分間、ブロッキング処理した。I型コラーゲンに対するモノクローナル抗体(1:20の希釈)を、EMD Chemicals(Calbiochem、San Diego、CA)から得た。細胞を、2%のFBSを含有するPBSにより3回洗浄した。二次抗体のGt×Rb IgG Fluor(Chemicon、Temecula、CA)(1:200の希釈)を室温で1時間加えた。蛍光画像を、Olympus顕微鏡にOCapture2.90.1(オリンパス、東京、日本)とともに取りつけられるQICAM Fast Cooled Mono 12ビットカメラ(Q Imaging、Burnaby、BC、カナダ)を使用して撮影した。
【0098】
平均値および標準偏差が報告された。比較分析を、95%の信頼水準での分散分析によるチューキー事後検定を使用して行った。
【0099】
副次的な研究として、小さい硬膜欠損部の外科的修復のエクスビボモデルを開発した。大きい健全な硬膜片(3cm×3cm)を冷たい補充されたダルベッコ改変イーグル培地(DMEM)に入れ、より小さい小片(1cm×1cm)に顕微手術で切り取った。人為的な欠損部を、小さい円形の穴(6mm〜8mmの直径)を試料片の中央に顕微手術で開けることによって硬膜片に導入した。その後、半径方向に整列したナノ繊維の足場、ランダム配向したナノ繊維の足場、および、DURA MATRIXコラーゲン足場(1cm×1cm)を、移植片が、硬膜組織と試料片の周辺で同時に接触しながら、欠損部全体を覆うように、移植片を硬膜試料片に重ねることによって人為的欠損部を修復するために利用した。
【0100】
その後、硬膜/代用硬膜の組立物を、補充されたDMEMにおいてインビトロで4日間培養した。終了時点において、光学顕微鏡観察および蛍光顕微鏡観察を利用して、代用物の再生能(これは、硬膜の細胞が人工代用物に遊走し、人為的欠損部の内部における代用硬膜の無細胞領域に再び集合する能力として定義される)を評価した。
【0101】
結果から、無傷の硬膜に存在する生来的細胞(原発性の硬膜線維芽細胞)が、外植硬膜片と接触させられた後24時間〜48時間のうちに高い濃度で、並置されているポリマーナノ繊維の代用硬膜に容易に遊走したことが明らかにされた。代表的なコラーゲンマトリックスへの硬膜細胞の遊走は、類似する時間的経過をたどり、だが、ナノ繊維の代用硬膜と比較して、わずかに低い濃度の硬膜細胞がコラーゲンマトリックスに遊走していることが認められた。この観察結果は、ナノ繊維の代用硬膜が生来的な硬膜組織に容易に接着すること(このことは、この材料の術中での取り扱いおよび/または設置に関する重要な特性である)、および、ナノ繊維の代用硬膜は、硬膜線維芽細胞の接着のための理想的な代用物を提供することを示唆する。
【0102】
4日間の培養の後における様々な代用硬膜のさらなる試験により、材料の中心の無細胞領域への硬膜線維芽細胞の遊走が、半径方向に整列したナノ繊維の代用物では、ランダム配向したナノ繊維の代用物またはコラーゲンマトリックスでの場合よりも著しく速く進行したことが明らかにされた。この発見は、4日間の培養の後で、顕著な無細胞領域(「空隙空間」)がランダムナノ繊維の代用物およびコラーゲンマトリックスの両方のサンプルに残っていたという事実によって立証された。
【0103】
対照的に、同じ時点で調べられた、半径方向に整列したナノ繊維材料のサンプルには、並置された硬膜組織の縁から遊走してきた硬膜細胞が完全に集合していた。実際、半径方向に整列したナノ繊維の代用物は、両方のランダム配向した材料よりも著しく速い、この模擬された硬膜欠損部の「治癒」を誘導することができた。このエクスビボ培養物の中における代用硬膜の高倍率画像ではさらに、半径方向に整列したナノ繊維材料が、生来的な遊走性の硬膜細胞を整列させ、導くことができること(これは、播種前の硬膜線維芽細胞を使用して行われた以前の研究の結果と類似する結果である)が明らかにされた。具体的には、硬膜細胞は、人工代用物の中における個々のナノ繊維に平行して整列し、広がること、同様にまた、整列したナノ繊維材料における組織化された細胞外マトリックスタンパク質(すなわち、I型コラーゲン)を堆積させることが認められた。この観察結果から、整列したナノ繊維の代用物によって提示されるトポグラフィー的手がかりは、無傷な硬膜から遊走する生来的な硬膜細胞を組織化し、導くことが可能であり、また、これらの遊走性細胞が、硬膜欠損部の治癒および修復のために必要な細胞外マトリックスタンパク質を堆積させ得ることを高め得ることが示唆される。
【0104】
この副次的研究の結果は、ナノ繊維の代用硬膜は、硬膜細胞の接着および遊走のための好都合な足場を提供するだけでなく、無傷の硬膜の全体からの硬膜細胞の内方成長(ingrowth)を容易に支持することを明らかにする。ナノ繊維材料が無傷の硬膜に密に整合し、ポリマー足場の迅速な細胞集合を容易にし得ることにより、この材料が、複雑な硬膜欠損部の外科的修復における人工移植片として並外れて十分に機能し得ることが強く示唆される。加えて、半径方向に整列したナノ繊維から構築される代用硬膜は、ランダム配向した材料よりも早い、模擬された硬膜欠損部の「治癒」を促すことが明らかにされた。このことは、ナノスケールのトポグラフィー的特徴を与える整列したナノ繊維足場が、臨床での代表的なコラーゲンマトリックスを上回る有意な技術的進歩を表し得ることを示唆する。
【0105】
本明細書中に記載される実験は継続期間において制限されたが、これらの実験の結果は、半径方向に整列したナノ繊維を含む生物医学的パッチが、より長い継続期間での組織修復における使用のために実行可能であることを示唆する。例えば、観測されている加速された細胞の内方成長が、欠損部の部位における生物学的組織が完全に再生されるまで、および/または、生物医学的パッチの分解が完了するまで継続するであろうことが予想される。
【0106】
インビボ実験の結果
インビボ実験を、生来的なブタ硬膜における12ミリメートルの直径の硬膜欠損部を与えることによって行った。欠損部が、コラーゲンの代用硬膜、ランダム配向したノノ繊維を有する単層代用硬膜、および、(例えば、
図8を参照して上記で記載されるように)1層の半径方向に整列したナノ繊維が層毎の積み重ねにより第2の層のランダム配向したナノ繊維に融合される二層代用硬膜を用いて修復された。コントロール群において、欠損部は非修復であった。
【0107】
図22は、修復された硬膜欠損部の中心における再生した硬膜の厚さを経時的に示すグラフ2200である。グラフ2200において、y軸2205は、硬膜欠損部の中心における再生した硬膜の総厚さ(再生性組織および一体化された代用硬膜材料の両方を含む)を表す。代用硬膜を有しないサンプル(コントロールサンプル)、コラーゲンの代用硬膜を有するサンプル、単層のランダム配向したナノ繊維の代用硬膜を有するサンプル、および、二層の半径方向に整列したナノ繊維の代用硬膜を有するサンプルが、x軸2210において経過時間によってグループ分けされる。
【0108】
図23は、再生性のコラーゲン組織含有量を経時的に示すグラフ2300である。グラフ2300において、y軸2305は、再生性のコラーゲン組織から構成される再生した硬膜の百分率を表す。コラーゲンの代用硬膜を有するサンプル、単層のランダム配向したナノ繊維の代用硬膜を有するサンプル、および、二層の半径方向に整列したナノ繊維の代用硬膜を有するサンプルが、x軸2310において経過時間によってグループ分けされる。
【0109】
電極アレイ
いくつかの実施形態において、コレクターは、区域に少なくとも部分的に外接する複数の電極と、この区域の中に配置される第2の電極とを含む。これらの電極はアレイ(例えば、グリッドパターンおよび/または他の多角形パターンなど)で配列させることができ、電極に堆積するポリマーにより、コレクターの電極の間に広がる繊維を、繊維が複数の多角形の辺を規定するように形成させることができ、ただし、この場合、電極が多角形の頂点に配置される。いくつかの実施形態において、そのような繊維によって作製される構造物は、例えば、構造物に細胞を播種し、構造物全体にわたる細胞の増殖を促すために細胞をインキュベートすることなどによって、細胞マイクロアレイを作製するために使用することができる。
【0110】
細胞マイクロアレイは、薬物発見および毒物学から幹細胞研究および組織工学にまで及ぶ数多くの適用において有用であるハイスループットスクリーニングのための強力な実験ツールを提供するかもしれない。例えば、細胞マイクロアレイは、シナプス形成および神経可塑性をインビトロで研究することにおいて有用な秩序のある神経回路網を製作する効果的な手段を表すかもしれない。ニューロンマイクロアレイを製作するための少なくともいくつかの知られている技術は、細胞接着性および/または細胞反発性の材料および作用因の空間的パターン化の使用に集中している。残念ながら、そのような作製技術は、時間および費用がかかることがあり、また、高機能な器具(例えば、フォトリソグラフィー、ソフトリソグラフィー、密着焼き付け、マイクロ流体工学、ナノ印刷およびインクジェット印刷)の使用を伴うことがある。
【0111】
電気紡糸は、直径が数ナノメートルから数ミクロンにまで及ぶ一次元繊維を製造することができる。電気紡糸されたナノ繊維の大きい表面積対体積比およびナノスケールの形態学は、これらの材料が細胞外マトリックス(ECM)の構造を効果的に模倣することを示唆し得る。結果として、電気紡糸されたナノ繊維材料が広範囲の様々な生物医学的適用において利用されている。電気紡糸されたナノ繊維は、電場の操作および/または機械的力の適用により、導電性コレクターの上にランダム様式で堆積させることができ、および/または、一軸方向のアレイに整列させることができる。
【0112】
本明細書中に記載される実施形態は、複雑な細胞マイクロアレイを、電気紡糸されたナノ繊維を使用して製造することを容易にする。代表的な実施形態において、電極のアレイを有するコレクターが、秩序のある複雑な構造と、数多くのマルチウエルとを含む電気紡糸されたナノ繊維の足場を製作するために使用される。そのような足場は、少なくとも、i)細胞マイクロアレイ形成、および、ii)神経回路網形成のために有益であり得る。示された複雑なナノ繊維アレイの使用は、神経工学適用において有用な進歩した基体、ならびに、バイオセンシング適用および薬物スクリーニング適用において有用な細胞アレイを製作することを容易にし得る。
【0113】
図24は、多角形に整列させた繊維の構造物を、電極のアレイを使用して製造するための代表的な電気紡糸システム2400の透視図を示す図である。システム2400は、構造および操作においてシステム100(
図1に示される)と類似している。コレクター2405は複数の第1の電極2410を含む(これらは周辺電極として示されることがある)。第1の電極2410により、区域2415(例えば、多角形など)が規定され、および/または、第1の電極2410は区域2415(例えば、多角形など)に少なくとも部分的に外接する。
図24に示されるように、第1の電極2410によって規定される区域2415は六角形である。第2の電極2420(これは内側電極として示されることがある)が区域2415の中に(例えば、区域2415のおおよそ中心に)配置され、その結果、第1の電極2410が第2の電極2420を取り囲むようにされる。代表的な実施形態において、第1の電極2410および第2の電極2420は、直径が0.5ミリメートル(mm)〜5.0ミリメートル(mm)の間(例えば、1.0mmまたは2.0mm)である金属(例えば、ステンレススチール)ビーズである。
【0114】
システム2400はまた、
図1を参照して上記で記載されるように、紡糸口金120を含み、電位を、コレクター2405と、紡糸口金120との間に生じさせるために構成される。代表的な実施形態において、周辺電極2410および内側電極2420が導体135を介して電源130に電気的につながれ、紡糸口金120が導体145を介して電源130に電気的につながれる。電源130は、周辺電極2410を、導体135を介して第1の振幅および/または極性で帯電させるために、かつ、紡糸口金120を、導体145を介して第2の振幅および/または極性(これは第1の極性とは逆である)で帯電させるために構成される。
【0115】
図24に示される実施形態において、周辺電極2410および内側電極2420は、六角形のパターンで配列される金属(例えば、ステンレススチール)のビーズまたはボール(これらは「マイクロビーズ」として示されることがある)である。いくつかの実施形態において、円形の囲まれた区域125は1センチメートル〜20センチメートルの間の直径を有することができる。他の実施形態において、周辺電極2410および内側電極2420は任意の形状であってもよく、および/または、本明細書中に記載される方法とともに使用するために好適な任意のパターンで配列させることができる。例えば、周辺電極2410および内側電極2420は、ピン、ロッド、ドームおよび/または尾根であり得る。さらに、周辺電極2410および内側電極2420は、例えば、八角形、五角形および/または正方形のパターンで配列させることができ、だが、規則的および/または不規則であっても、他の多角形配列および非多角形配列もまた意図される。
【0116】
1つの実施形態において、区域2415は水平面2425を規定する。紡糸口金120が内側電極2420に関して位置合わせされ、可変距離で水平面2425から垂直方向に偏位させられる。例えば、紡糸口金120は、1センチメートル〜100センチメートルの距離で水平面2425から垂直方向に偏位させることができる。代表的な実施形態において、内側電極2420および/または周辺電極2410は、水平面2425に向かって配向する丸みのある(例えば、凸型)表面(例えば、
図24に示される金属ビーズの表面など)を含む。
【0117】
図1を参照して上記で記載されるように、紡糸口金120は、紡糸口金120が第2の振幅および/または極性で電気的に帯電し、かつ、周辺電極2410および内側電極2420が第1の振幅および/または極性で電気的に帯電しながら、ポリマー140を分配するために構成される。紡糸口金120はポリマー140を流れ160として分配する。流れ160は直径が紡糸口金120の開口部直径におおよそ等しい。流れ160はコレクター2405に向かって下降する。例えば、流れ160は重力の影響下で下に向かって落下させることができ、および/または、コレクター2405の下側に配置される帯電した導電性表面162によって下に向かって引き寄せることができる。例えば、導電性表面162を導体135に電気的につなぎ、周辺電極2410および中心電極2420と同じ振幅および/または極性で帯電させることができる。流れ160が下降し、コレクター2405に堆積するにつれ、ポリマー140により、内側電極2420から周辺電極2410にまで広がり、および/または、周辺電極2410の間に広がる1つまたは複数の中実ポリマー繊維2430が形成される。
【0118】
いくつかの実施形態において、コレクター2405は、複数の区域2415を規定する周辺電極2410を含む。例えば、内側電極2420をじかに取り囲む周辺電極2410は内側の周囲電極と見なすことができ、複数の外側周辺電極2435は内側周囲電極2410を取り囲むことができ、その結果、内側周囲電極2410が外側周辺電極2435の中に入れ子にされる。コレクター2405は周辺電極の入れ子になった組をどのような数であっても含むことができる。コレクター2405は電極を密に詰まった配列(例えば、電極が互いに接触している配列)で含む一方で、電極が、コレクター全体にわたって一定であり得る電極間距離によって、または、異なる電極対の間で変化し得る電極間距離によって互いにずらされ得ることが意図される。
【0119】
さらに、いくつかの実施形態において、コレクターは、複数の部分的に重なる区域をモジュール様式で規定する電極を含むことができる。
図25は、代表的なモジュール型電気紡糸コレクター2500の透視図を示す図である。コレクター2500は、第2の電極2510を取り囲む第1の電極2505を含む。第1の電極2505により、第1の六角形区域2515が規定される。第1の六角形区域2515に関して、第2の電極2510は内側電極と見なすことができ、第1の電極2505は周辺電極と見なすことができる。
【0120】
コレクター2500はまた、第1の六角形区域2515の外側に配置される複数の第3の電極2520を含む。第3の電極2520、第2の電極2510、および、第1の電極2505の一部により、第1の六角形区域2515と部分的に重なる第2の六角形区域2525が規定される。第1の電極2505のうちの1つ(例えば、第1の六角形区域2515に関して周辺電極)が第2の六角形区域2525の中に配置される。第2の六角形区域2525に関して、この第1の電極2505は内側電極と見なすことができる。第3の電極2520、第1の電極2505の一部、および、第2の電極2510は、周辺電極と見なすことができる。2つの部分的に重なる区域を規定する電極が
図25に示されているが、コレクター2500のモジュール性は、任意の量の区域を規定する任意の量の電極を含み、その結果、コレクター2500が、電極をコレクター2500の周囲に加えることによって1つまたは複数の方向で拡張され得ることを容易にすることが意図される。
【0121】
システム2400(
図24に示される)を参照して上記で記載されるように、コレクター2500(例えば、第1の電極2505、第2の電極2510および第3の電極2520)は、紡糸口金120が電気的に帯電させられる振幅および/または極性とは逆の振幅および/または極性で電気的に帯電するために構成される。これらの成分がそのように帯電するとき、紡糸口金120によって分配されるポリマー140により、コレクター2500の電極(例えば、第1の電極2505、第2の電極2510および/または第3の電極2520)の間に広がる繊維が形成され得る。
【0122】
図26は、電気紡糸システム(例えば、電気紡糸システム2400(
図24に示される)など)によって生じる電場を示す
図2600である。
図2600は、紡糸口金120と、複数の電極2605との間における電場強度ベクトルの二次元断面図を示す。
【0123】
電極2605の表面に近い電場ベクトルは、電極2605の表面に対して直角に配向する。2つの隣接する電極の間における電場ベクトルは、2つの隣り合った電極2605の中心の方向に向く2つの主な流れに分かれる。従って、電極2605の表面に堆積する繊維はランダムに分布することができ、一方、2つの隣接する電極2605の間の領域に堆積する繊維は、これら2つの隣り合った電極2605の間に一軸方向に整列することができる。
【0124】
図27A〜
図27Fは、電極のアレイを有するコレクター(例えば、コレクター2405(
図24に示される)など)を使用して製造されるナノ繊維膜2705の顕微鏡観察画像である。例えば、膜2705を、ステンレススチール製ビーズのアレイを使用して製造することができる。
図27Aは膜2705の光学顕微鏡観察画像である。
図27Aは、光源が像の右手側にある膜2705の拡大を示す挿入
図2710を含む。挿入
図2710における影部分は、位置がコレクターにおける電極の位置に対応する膜2705内のウエルを示している。
【0125】
図27Bは膜2705の走査型電子顕微鏡観察(SEM)像であり、一軸方向に整列した繊維アレイ2720とつながれる六角形に配列されたウエル2715から構成される秩序のある複雑な構造を示す。電気紡糸されたナノ繊維を、直径が1.0mmおよび2.0mmである詰まったステンレススチール製マイクロビーズの上に堆積させることによって形成されるウエルの深さがそれぞれ、およそ200マイクロメートル(μm)および400μmであった。そのようなウエルは「マイクロウエル」として示すことができる。
【0126】
図27C〜
図27Fは、
図27B内の対応する区域の拡大である。
図27Cは、マイクロビーズ電極の表面に堆積する繊維がランダム分布であったことを示唆する。
図27Dは、電極の表面と、電極間の隙間との境界における繊維がランダム配向から整列配向に移行したことを示す。
図27Eは、2つの隣り合った電極の中心をつなぐ軸に沿って堆積する繊維がその軸に対して平行して一軸方向に整列したことを示している。
図27Fは、繊維密度が、隣接するビーズの間で、隣り合ったビーズの中心をつなぐ軸から離れると、他の領域(例えば、
図27C〜
図27Eに示される領域)における密度よりも著しく低かったこと、および、この領域に堆積する繊維がランダム配向であったことを示す。
【0127】
いくつかの実施形態において、繊維膜(例えば、膜2705など)は他の膜と組み合わせることができる。例えば、一軸方向に整列した繊維によって相互につながれる複数のウエルを有する膜を、
図8を参照して上記で記載されるような多層構造物の内部における1つの層として使用することができる。加えて、または、代替において、異なるコレクタータイプを、例えば、電極アレイコレクターを内側コレクター(例えば、これは生物医学的パッチの中心に対応する)を使用し、リングタイプのコレクター(例えば、
図1に示されるようなコレクター)を、内側コレクターを取り囲む外側コレクターとして使用することなどによって組み合わせることができる。
【0128】
実験結果
上記のような電極アレイコレクターによって製造される繊維膜または「足場」を、細胞マイクロアレイを作製するための基体としての使用について評価した。細胞を、指定された数の細胞を含有する少量の培地をナノ繊維アレイ内に存在するマイクロウエルに置くことによって足場の表面に選択的に播種した。
【0129】
図28A〜
図28Dは、膜(例えば、膜2705(
図27A〜
図27Fに示される)など)における細胞成長を示す顕微鏡観察画像である。
図28Aは、細胞を含有する液滴2805が繊維膜のウエルに置かれ得ることを示す光学顕微鏡観察画像である。さらに、疎水性繊維は、そのような液滴を2時間以上にわたって維持することを容易にし得る。2時間後のナノ繊維マトリックスに接着している細胞は、ゆるく付着していることが見出され、PBS緩衝液を使用して容易に除かれた。このことは、マイクロアレイ内における細胞の早い可逆的な結合を示唆する。24時間後のナノ繊維マトリックスに接着している細胞が、生細胞を確認するために、フルオレセインジアセタート(FDA)により緑色に染色された。
【0130】
図28B〜
図28Dは、細胞マイクロアレイを示す蛍光顕微鏡観察画像である。生存するMG−63細胞をフルオレセインジアセタートにより染色した。生存するMG−63細胞が、
図28B〜
図28Dにおいて、暗い背景に対する明るい区域として示される。
【0131】
図28Bは、ナノ繊維膜内のマイクロアレイに選択的に接着する細胞のアレイを示す。足場内のそれぞれのウエルが、およそ45個の細胞を含有することが認められ、一方、非常に少ない細胞が繊維膜内のマイクロアレイの外側に認められた。それぞれのマイクロウエルに接着している細胞の平均数を、播種する液滴に存在する細胞の密度を制御することによって容易に操作することができる。
【0132】
図28Cは、
図28Bに示されるアレイで使用されたよりも多い数の細胞(ウエルあたりおよそ150個の細胞)が播種される細胞マイクロアレイを明らかにする。細胞濃度を増大させたにもかかわらず、細胞は、多くがナノ繊維足場におけるウエルに閉じ込められたままであった。
図28Dは、
図28Cに示される同じ細胞マイクロアレイを3日間のインキュベーションの後で示す。
図28Dを
図28Cに対して比較することにより、播種された細胞はナノ繊維足場の表面で増殖し、遊走することができ、それにもかかわらず、一般には細胞マイクロアレイのウエルの中に物理的に閉じ込められたままであったことが明らかにされる。
【0133】
神経工学適用のための効果的な基体としてのこれらの特異なナノ繊維足場の潜在的可能性を調べるために、後根神経節(DRG)を、ポリリシンおよびラミニンにより機能化される繊維膜に播種し、6日間インキュベートした。DRGから突き出る生じた神経突起場を、下にあるナノ繊維足場に沿った神経突起の広がりを可視化するために抗ニューロフィラメント200により染色した。
【0134】
図29Aおよび
図29Bは、膜(例えば、膜2705(
図27A〜
図27Fに示される)など)における神経突起の伝播を示す顕微鏡観察画像である。
図29Aは、光学顕微鏡観察画像および蛍光顕微鏡観察画像の重ね合わせであり、神経突起が、6日の培養の後で、
図29Aの中心に位置するDRG本体から生じ、目に見えるほどの神経回路網を形成したことを示す。神経突起は、一軸方向に整列したナノ繊維の軸に沿って成長し、隣接するマイクロウエルに達すること(このことは、下にあるナノ繊維構造の幾何学的様式を事実上再現する)が認められた。
【0135】
図29Bは、
図29Aに示される領域に隣り合った光学顕微鏡観察画像および蛍光顕微鏡観察画像の重ね合わせである。
図29Bは、神経突起が、隣接ウエルに達した後もナノ繊維の一軸方向の整列の方向に沿って成長し続け、そして、いくつかの方向で繊維の整列に沿って他の隣接ウエルにまで進み得ることを明らかにする。隣り合ったマイクロウエルにまで広がる神経突起はその後、二次的な一組の隣り合ったウエルにつながる整列した繊維アレイに従って5つの群に分かれることが認められた。このことはさらに、足場により、複雑な神経回路網がインビトロで形成され得ることを示している。
【0136】
図30Aおよび
図30Bは、膜(例えば、
図27A〜
図27Fに示される膜など)における胚様体からの神経回路網形成を示す光学顕微鏡観察画像および蛍光顕微鏡観察画像の重ね合わせである。胚性幹(ES)細胞(これは、4−/4+プロトコルを使用して胚様体(EB)に凝集させるために培養された)を電気紡糸ナノ繊維の足場(例えば、
図27A〜
図27Fに示される足場など)に播種し、B27補充物とともにインキュベートして、ニューロン分化を誘導させた。Tuj1(ニューロンマーカー)による免疫染色を14日間のインキュベーションの後で行って、下にあるナノ繊維足場がニューロン分化をインビトロで促進させ得るかを調べた。
【0137】
図30Aおよび
図30Bは、EBがナノ繊維膜基体の上で神経回路網を形成し得ることを明らかにする。1つの事例において、
図30Aに示されるように、1つのEBがマイクロウエルの1つに閉じ込められ、一方、神経突起が、下にある繊維パターンに沿って周辺に広がった。培養されたEBから広がる神経突起は、繊維が非常に組織化された足場の一軸方向部分に同じように整列した。隣り合ったウエルの領域に達したとき、神経突起は、下にある繊維のランダム配向の結果としてでたらめに組織化された。
【0138】
別の事例において、EBを、
図30Bに示されるように、ナノ繊維アレイ内の一軸方向に整列したナノ繊維の領域に播種した。神経突起が再び、繊維の整列の方向に沿って広がり、そして、最も近いウエルに達したとき、乱れた組織化を示した。注目すべきことに、神経突起が広がってマイクロウエル領域を通り過ぎたとき、それらの一軸方向の整列(これは、下にある繊維の整列に平行している)が回復された。まとめると、これらの結果から、本明細書中に記載されるナノ繊維構造は、複雑な神経回路網を初代ニューロンまたは胚性幹細胞のどちらからでも発達させる簡便かつ効果的な手段を表すことが示唆される。
【0139】
実験手順
整列したナノ繊維を製作し、集めるために使用される電気紡糸システムは、システム2400(
図24に示される)と類似していた。電気紡糸のために使用されるポリマー溶液は、体積比が80:20であるジクロロメタン(DCM)およびジメチルホルムアルデヒド(DMF)の混合溶媒における20%のPCL(w/v)を含有した。コレクターは、直径がそれぞれ1mmおよび2mmであるステンレススチール製マイクロビーズのアセンブリーを含んでいた。繊維膜を培養プレートに移し、その後、医療用シリコン接着剤によって固定した。PCL繊維を、15kVの加速電圧での走査型電子顕微鏡による画像化の前に金によりスパッターコーティングした。
【0140】
後根神経節(DRG)の培養および免疫染色のために、DRGを胚発生8日目のニワトリの胸領域から解剖し(E8、HH35−36段階)、置床前にハンクス緩衝化塩溶液(HBSS)に集めた。DRGを繊維構造体に播種し、1%のABAM、1%のN−2補充物(Invitrogen)および30ng/mlのベータ−神経増殖因子(B−NGF)(R&D Systems、Minneapolis、MN)を含有する改変された神経基礎(NB)培地において6日間インキュベートした。6日間のインキュベーションの後、DRGをマーカーの抗ニューロフィラメント200(Sigma−Aldrich)により免疫染色した。簡単に記載すると、DRGを、3.7%のホルムアルデヒドにおいて45分間、固定処理し、0.1%のTriton X−100によって30分間、透過処理した。サンプルを、2.5%のウシ血清アルブミン(BSA)(Sigma−Aldrich)を含有するPBSにおいて1時間、ブロッキング処理した。1.5%のBSAを含有するPBSにより希釈される抗NF200を、4℃で一晩、細胞に加えた。その後、二次抗体のAlexaFluor488ヤギ抗マウスIgG(1:200、Invitrogen)を室温で1時間加えた。染色後、蛍光画像を捕らえた。
【0141】
胚様体の形成および免疫染色のために、EBを繊維構造体に播種し、B27補充物を含有する神経基礎培地とともにインキュベートした。14日後、免疫組織化学を、本発明者らの以前の研究に従って行って、神経突起の空間分布を可視化した。
【0142】
MG−63細胞株を使用して、細胞マイクロアレイの形成を明らかにした。細胞を、10%のウシ胎児血清(FBS、Invitrogen)および1%の抗生物質(ペニシリンおよびストレプトマイシン(Invitrogen)を含有する)が補充されたアルファ最小必須培地(α−MEM、Invitrogen、Grand Island、NY)において培養した。培地を1日おきに交換し、培養物を、5%のCO
2を含有する加湿雰囲気において37℃でインキュベートした。特定の数の細胞を、小さい液滴をウエルに置くことによって足場の各ウエルに播種した。2時間のインキュベーションの後、足場を培養培地により洗浄して、ゆるく付着した細胞を除いた。その後、生細胞を24時間のインキュベーションの後でフルオレセインジアセタート(FDA)により染色し、蛍光顕微鏡により画像化した。
【0143】
さらなる電極アレイ配置
実験結果を参照して上記で記載される電極アレイの具体的な例に加えて、様々なナノ繊維構造物(例えば、本明細書中に記載されるナノ繊維構造物など)が様々な他の電極アレイにより製造され得ることが意図される。
図31A〜
図31Dは、様々な電極アレイを使用して製造される膜を示す走査型電子顕微鏡観察画像である。
【0144】
図31Aは、ステンレススチール製ビーズの六角形アレイから構成されるコレクターを使用して製作される繊維膜を示す。
図31Bは、
図31Aに示される膜を製造するために使用されるステンレススチール製ビーズよりも大きい直径を有するステンレススチール製ビーズの六角形アレイから構成されるコレクターを使用して製作される繊維膜を示す。
【0145】
他の六角形以外の詰め込み秩序もまた、異なる幾何形状を達成するための電極とともに用いることができる。
図31Cは、ステンレススチール製ビーズの密に詰められた正方形アレイから構成されるコレクターを使用して製作される繊維膜を示す。
図31Dは、電極間距離が一方向に徐々に増大するステンレススチール製マイクロビーズの正方形アレイから構成されるコレクターを使用して製造される繊維膜を示す。繊維膜が、SEM画像化の期間中、コレクターから取り除かれなかった。繊維膜は、必要とされる場合、コレクターから容易に取り除くことができる(例えば、コレクターから剥がすことができる)。
【0146】
図32は、周辺電極3205が区域3210に部分的に外接するコレクター3200の図である。コレクター3200はまた、内側電極3215を含む。周辺電極3205および内側電極3215により、区域3210の一部3220が規定される。代表的な実施形態において、周辺電極3205が区域3210の周囲3225に配置される。
【0147】
図32に示される実施形態において、区域3210が楕円(例えば、円)として示され、一部3220が楕円の扇形として示される。区域3210は任意の幾何学的形状または非幾何学的形状(例えば、楕円、多角形、卵形、長方形、正方形、三角形および/または他の直線構成もしくは曲線構成の形状)であってもよく、また、一部3220はそのような形状の任意の一部であってもよいことが意図される。
【0148】
本明細書中に記載される電極アレイ繊維構造物は、繊維膜内における「くぼみ」構造物の形成を可能にする。従って、そのような膜の製造は、記載される繊維膜が、秩序のある変更可能な幾何学に配列される多数のマイクロウエルを有するという点で著しい進歩を表す。さらに、そのような構造物は、足場の表面に播種された細胞を物理的に閉じ込めることができ、かつ、細胞マイクロアレイの製作を容易にすることができる特異な三次元マイクロウエルを有する。マイクロアレイ製作に対する既知の取り組みと比較して、繊維膜の使用は、インビトロ使用およびインビボ使用のための複雑な細胞マイクロアレイを形成するためのより簡便で、かつ、より安価な技術であり得る。さらに、上記の実験結果は、ウエルの部位における神経突起がランダムな分布をもたらしたこと、および、神経突起が、間にある整列した繊維に沿って1つのウエルから別のウエルに橋渡しし得ることを明らかにする。そのような構造物を使用して発達させた神経回路網は、神経毒物学および神経発生生物学におけるハイスループット適用のために使用され得るであろう。
【0149】
本発明の様々な実施形態の構成および使用が上記において詳しく議論されるが、本発明の実施形態は、広範囲の様々な具体的状況において具体化され得る多くの適用可能な発明概念を提供する。本明細書中で議論される具体的な実施形態は、本発明を構成および使用するための具体的な方法を単に例示するだけであり、本発明の範囲を限定しない。
【0150】
本発明の理解を容易にするために、いくつかの用語が下記で定義される。本明細書中で定義される用語は、本発明の実施形態に関連する分野における当業者によって一般に理解されるような意味を有する。“ある”、“ひとつの”および“前記”などの用語は、単数の実体のみを示すために意図されるのではなく、その具体例が例示のために使用され得る一般的クラスを包含する。本明細書中における専門用語は、本発明の具体的な実施形態を記述するために使用され、しかし、それらの使用は、請求項において概要が述べられるような場合を除き、本発明を限定しない。
【0151】
本明細書中に例示および記載される本発明の実施形態における操作の実行順序または遂行順序は、別途指定される場合を除き、本質的ではない。例えば、特定の操作を別の操作の前に、または、別の操作と同時に、または、別の操作の後で実行または遂行することは本発明の様々な局面の範囲内であることが意図される。本発明の実施形態は、本明細書中に開示される操作に比べてさらなる操作またはより少ない操作を含むことができる。