(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0015】
次に、発明を実施するための形態(以降、「実施形態」と称す。)について、適宜図面を参照しながら詳細に説明する。
【0016】
《概要》
本実施形態に係る電力変換装置は、PWM制御のパルス信号を用いて直流電力を交流電力に変換する電力変換回路(インバータ)と、電力変換回路に流れる電流を検出してその電力変換回路をベクトル制御するベクトル制御部とを備えている。さらに、電力変換回路に流れる電流位相のゼロクロス点を基準として定められた区間のパルス信号を停止させて、同相の上下アームのスイッチ素子を停止させる開放相区間を設けている。これにより、PWM制御時のスイッチング回数を低減させてスイッチング損失を低下させることができると共に、開放相区間を設けることで電流位相のゼロクロス点によって、電動機の磁石位置の正確な位置情報を取得することができる。その結果、安定したベクトル制御を行って、電力変換回路(インバータ)および電動機の効率を向上させることが可能となる。
【0017】
以下、本発明に係る電力変換装置の実施形態について図面を参照しながら詳細に説明する。なお、各実施形態を説明するための全図において、同一の構成要素は原則として同一の符号を付し、その繰り返しの説明は省略する。また、以下に述べる実施形態においては、理解を容易にするために、従来方式を用いた比較例と対比しながら本実施形態の内容について説明する。
【0018】
《第1実施形態》
図1は、第1実施形態に係るPWM制御方式の電力変換装置1aの回路構成を示している。第1実施形態の電力変換装置1aでは、
図1に示すように、PWM制御で駆動する三相インバータからなる電力変換回路4によって、永久磁石同期電動機である交流電動機3をベクトル制御で駆動する場合において、電力変換回路4のパルス信号に相パルス停止区間(すなわち、開放相区間)を設けたときの制御方法について説明する。
【0019】
〈電力変換装置の回路構成〉
図1に示すように、電力変換装置1aは、直流電力を交流電力に変換する3相インバータからなる電力変換回路4と、電力変換回路4に接続された交流電動機(電動機)3に流れる電動機電流を検出する相電流検出部6と、相電流検出部6で検出された相電流情報(電流)6Aに基づいてPWM制御を行うパルス信号を用いてベクトル制御を行う制御装置5aとを備えて構成される。また、電力変換回路4は、IGBT(Insulated Gate Bipolar Transistor)とダイオードとが逆並列された三相構成の半導体スイッチング素子Sup、Sun、Svp、Svn、Swp、Swnから構成された電力変換主回路41と、パルス制御部7からのパルス信号7Aに基づいて電力変換主回路41のIGBTへ供給されるゲート信号を発生するゲート・ドライバ42とを備えて構成される。
【0020】
また、制御装置5aは、印加電圧指令(指令電圧)V
*に基づいて制御されたパルス信号7Aをゲート・ドライバ42へ供給するパルス制御部7と、相電流検出部6で検出された相電流情報6Aを用いてベクトル制御を行い、印加電圧指令V
*を算出するベクトル制御部8と、ベクトル制御により算出された電流の位相情報(電流位相)8Aに基づいて電流ゼロクロス付近で相パルス停止区間(開放相区間)δのパルス信号7Aを停止させる相パルス停止制御信号(パルス停止制御信号)9Aをパルス制御部7へ出力するパルス停止制御部9と、によって構成される。
【0021】
ここで、ベクトル制御部8は、例えば、非特許文献1(坂本他、「家電機器向け位置センサレス永久磁石同期モータの簡易ベクトル制御」電学論D、Vol.124巻11号(2004年)pp.1133−1140)や非特許文献2(戸張他、「高速用永久磁石同期モータの新ベクトル制御方式の検討」電学論D、Vol.129巻1号(2009年)pp.36−45)に記載されているように、インバータ出力電流を検出して3相−2相変換(dq変換;direct-quadrature変換)して制御系にフィードバックし、再び2相−3相変換してインバータを駆動する一般的なベクトル制御を用いることで実現可能であり、制御方式については特定するものではない。したがって、ベクトル制御部8の動作は周知の技術であるので詳細な説明は省略する。
【0022】
〈比較例〉
ここで、第1実施形態の電力変換装置1aにおけるPWM制御時のスイッチング動作を明確化するため、従来方式を用いた比較例の電力変換装置1b(
図6参照)におけるPWM制御について、
図2および
図6を用いて説明する。
図2は、比較例における、交流電動機3に流れる交流電圧、交流電流およびパルス信号の関係を示す波形図であり、横軸に電圧位相、縦軸に電圧、電流およびパルス信号の各レベルを示している。また、
図6は、比較例のPWM制御方式の電力変換装置1bの回路構成を示している。なお、
図6において、
図1と同じ符号の要素は同じ機能を有している。また、ベクトル制御部8が行うベクトル制御は
図1の場合と同様の制御方法である。
【0023】
図6に示す制御装置5bは、パルス制御部7において、
図2(a)に示すように、PWMキャリア信号と印加電圧指令V
*とを比較してPWMパルス信号を生成する。また、この印加電圧指令V
*の指令値は、相電流検出部6で検出された相電流情報6Aを基にベクトル制御部8で演算を行って得られたものである。ここで、相電流検出部6による相電流情報6Aの取得は、例えば、特開2004−48886号公報の
図1に開示されているように、CT(Current Transformer)によって交流出力電流を直接検出しても良いし、同
公報の
図12に開示されているように、シャント抵抗によって直流母線の電流情報を取得し、この電流情報に基づいて相電流を再現させる方式でも良い。
【0024】
次に、
図2を用いて、電力変換装置1b(
図6参照)から交流電動機3へ供給される交流電圧および交流電流とパルス信号との関係について詳細に説明する。
図2(a)はPWMキャリア信号と印加電圧指令V
*とを示しており、代表としてU相印加電圧指令Vu
*を示している。ここで、θvはU相を基準とする電圧位相を示している。
【0025】
PWM制御方式では、パルス制御部7は、
図2(a)に示す通り、U相印加電圧指令Vu
*と三角波キャリア信号(PWMキャリア信号)とを基にして、
図2(c)に示すパルス信号「GPU+:U相上側素子(Sup)のパルス信号」、「GPU−:U相下側素子(Sun)のパルス信号」を生成し、このパルス信号を、電力変換主回路41を駆動するためにゲート・ドライバ42へ出力する。すなわち、GPU+のパルス信号とGPU−のパルス信号は正負(1,0)が逆の信号となっている。
【0026】
このパルス信号(GPU+/GPU−のパルス信号)によって電力変換主回路41がPWM制御を行うことにより、交流電動機3には
図2(b)に示すようなU相交流電流Iuが流れる。ここで、φは電圧と電流の位相差を示している。
【0027】
また、ベクトル制御部8では、U相交流電流Iuを含む相電流情報6Aを基に、ベクトル制御を行うことで、電圧の振幅および電圧と電流の位相差φの制御を行っている。
【0028】
図2に示す通り、比較例によるPWM制御では、電圧・電流の一周期の間は常にスイッチング動作を行って180度通電しており、スイッチング動作が停止する期間が存在する120度通電方式や150度通電方式よりスイッチング回数が多い。したがって、180度通電では、これに起因するスイッチング損失が多くなる。
【0029】
〈第1実施形態におけるパルス停止制御部の動作〉
以下の説明においては、PWM制御を行うパルス信号のスイッチング動作を一時停止させるパルス停止制御部9(
図1参照)の動作について、
図1と
図3を用いて説明する。したがって、比較例で述べたPWM制御の基本的な動作については、重複を避けるために説明を省略する。
【0030】
図3は、第1実施形態における、交流電動機3に流れる交流電圧、交流電流およびパルス信号と、相パルス停止制御信号との関係を示す波形図であり、横軸に電圧位相、縦軸に電圧、電流、パルス信号および開放相制御信号(相パルス停止制御信号)の各レベルを示している。すなわち、
図3は、
図2の波形図と対比して示した本実施形態の波形図である。
【0031】
パルス停止制御部9は、
図3(d)に示すように、ベクトル制御により制御された電流位相のゼロクロス点φを基準として、位相φと位相φ+πにおいて、下記の式(1)に示すように、相パルス停止区間(開放相区間)δの間、パルス信号GPU+、GPU−共にスイッチングを停止する相パルス停止制御信号(開放相制御信号)9Aをパルス制御部7へ出力する。この相パルス停止制御信号9Aは、パルス信号GPU+、GPU−共にスイッチングを停止する場合は“0”、スイッチングを停止せず比較例のPWM制御方式のスイッチングを行う場合は“1”を出力する。
【0033】
すなわち、式(1)からわかるように、φを電圧と電流の位相差、δを相パルス停止区間(開放相区間)としたとき、U相を基準とする電圧位相θvが、φ−δ/2<θv<φ+δ/2のときおよびφ+π−δ/2<θv<φ+π+δ/2のときは、パルス信号GPU+およびGPU−によるスイッチングを停止する。そして、それ以外のときはパルス信号GPU+およびGPU−によるスイッチングを行う。
【0034】
このため、パルス制御部7からの出力状態は、相パルス停止制御信号9Aの相パルス停止区間δでは、パルス信号GPU+、GPU−が共にオフとなる。したがって、パルス制御部7からは、
図3(c)に示すように、相パルス停止区間δで休止したパルス信号の信号列が出力される。言い換えると、電圧および電流の一周期の間に2回に亘って相パルス停止区間(開放相区間)δを設定することとなる。なお、第1実施形態の構成の場合、対象となるPWM制御の変調方式は正弦波PWM制御方式のみではなく、二相変調型PWM制御方式や三次調波加算型PWM制御方式でも、同様の相パルス停止区間δを設けることが可能となる。
【0035】
このように、第1実施形態のパルス停止制御部9によりスイッチング動作を停止する期間が設けられたパルス信号GPU+、GPU−は、スイッチング停止区間とスイッチング動作区間では、印加電圧位相および交流電動機3の誘起電圧位相を基準として設けられていない形状となる。すなわち、パルス信号GPU+、GPU−のスイッチング停止区間とスイッチング動作区間は、電流位相のゼロクロス点を基準として設定される。
【0036】
言い換えると、比較例では、誘起電圧の電圧位相を基準にしたパルス信号であるため、
図2(c)に示すように、パルス信号列は、電圧のゼロクロス点の前後においてON/OFFデューティが対称となる形状になっている。ところが、第1実施形態では、電流位相を基準として相パルス停止区間δが設けられているため(つまり、電圧位相を基準にしたパルス信号ではないため)、
図3(c)に示すように、電圧のゼロクロス点の前後において、パルス信号列のON/OFFデューティは対称にはならない。すなわち、第1実施形態では、電流のゼロクロス点の前後において、パルス信号列のON/OFFデューティは非対称となっている。
【0037】
このように、第1実施形態では、電流のゼロクロス点を含んだ区間に相パルス停止区間δを設けているので、
図3(c)に示すように、相パルス停止区間δを中心とした前後のパルス信号列AおよびBが非対称な形状となる。このことから、第1実施形態のように電流のゼロクロス点を含んだ区間に相パルス停止区間δを設けた場合は、相パルス停止区間δの前後のパルス信号が非対称であるか否かを観測するにより、第1実施形態が適用されたか否かを容易に判別することができる。
【0038】
〈実機による駆動時の波形〉
図4は、第1実施形態の電力変換装置1aを備える実機を駆動した場合の、U相電圧、U相電流、およびパルス信号の関係を示す波形図であり、横軸に電圧位相、縦軸に電圧、電流、およびパルス信号の各レベルを示している。すなわち、
図4は、第1実施形態による電流のゼロクロス点を含んだ近傍に相パルス停止区間を設けた手法で、二相変調型PWM制御方式において相パルス停止区間を設定して実機を駆動した場合の電圧、電流およびパルス信号を示している。
【0039】
図4(a)は電力変換主回路41のU相端子電圧Vun、同図(b)は交流電動機3に流れるU相電流Iu、同図(c)にパルス信号GPU+、GPU−を示している。
【0040】
図4(c)に示すように、一点鎖線で挟まれた区間(δで表示)においてパルス信号GPU+、GPU−のスイッチング信号が共にオフとなっており、相パルス停止区間δが設定されていることが確認できる。また、相パルス停止区間δが設定されているため、一点鎖線で挟まれた区間ではU相電流Iuがゼロとなることも併せて確認することができる。
【0041】
〈第1実施形態の効果〉
図5は、第1実施形態の電力変換装置1aによる、相パルス停止区間(開放相区間)δに対する電力変換回路損失、電動機損失およびそれらを足し合わせた総合損失の関係を示す特性図であり、横軸に相パルス停止区間(開放相区間)δ、縦軸に損失を表わしている。すなわち、
図5は、パルス停止制御部9で設定する相パルス停止区間δと電力変換回路4の損失、交流電動機3の損失およびこれらの二つの損失を合わせた総合損失の特性を示している。
【0042】
図5に示すように、第1実施形態の電力変換回路4の損失(電力変換回路損失)は、相パルス停止区間δを大きくしていくにしたがってスイッチング回数が低減するため、これに起因して低減する。また、交流電動機3の損失(電動機損失)は、相パルス停止区間δを設けることで電流の高調波成分が増加するため、これに起因して大きくなる。さらに、相パルス停止区間δが大きくなることにより、電流の高調波成分の増加が顕著となるため、これに起因する交流電動機3の損失(電動機損失)の増加も顕著となる。このため、
図5に示すように、これら二つの損失(電力変換回路損失と電動機損失)を加算した総合損失が最少となる相パルス停止区間δoptが存在し、相パルス停止区間δをこの相パルス停止区間δoptに設定することで、電力変換装置1a全体の損失を低減させることが可能となる。
【0043】
以上、説明したように、パルス停止制御部9を用いることで、比較例のPWM制御方式と同様の電力変換回路4の構成で、PWM制御を行うパルス信号のスイッチング回数を低減させることが可能となる。言い換えると、マイコンの制御で行われるパルス停止制御部9をソフトウェアで構成した場合は、比較例の電力変換回路4の構成は変えずに、新規のハードウェアを追加することなく電力変換装置1aの高効率化を達成することが可能となる。また、交流電動機3の電流のゼロクロス付近でスイッチング動作を停止させるため、150度通電方式に対してトルク脈動の増加を抑制することができる。
【0044】
〈第1実施形態の変形例〉
ここで、第1実施形態の変形例として、相パルス停止区間δを1サイクル区間の片方のみとする場合と、相パルス停止区間の位相を固定の状態にする場合とについて説明する。
図7は、第1実施形態の変形例に係る電力変換装置における、電動機に流れる交流電圧、交流電流およびパルス信号と、相パルス停止制御信号との関係を示す波形図であり、横軸に電圧位相θv、縦軸に電圧、電流、パルス信号および開放相制御信号の各レベルを表している。
【0045】
この変形例では、
図1に示すパルス停止制御部9の相パルス停止区間δを電流一周期(1サイクル)に対して1回のみ設定する方式について述べる。なお、上述した第1実施形態の電力変換装置1aと共通する内容については説明を省略する。
【0046】
図1に示す制御装置5aをマイコン等の集積回路で実現させる場合は、そのマイコンの演算負荷を低減させることが好適である。そこで、
図7(d)に示すように、パルス停止制御部9が、相パルス停止区間δを電流一周期につき1回のみ設定するようすれば、マイコンの演算負荷を低減させることができる。
【0047】
すなわち、この変形例では、マイコンの制御で行われるパルス停止制御部9が、ベクトル制御により制御された電流位相のゼロクロス点φを基準として、位相φ+πにおいて(
図7(d)参照)、下記の式(2)に示すように、相パルス停止区間δの間パルス信号GPU+とGPU−のスイッチング信号を共に停止させる相パルス停止制御信号9Aをパルス制御部7へ出力する。
【0049】
すなわち、式(2)からわかるように、φを電圧と電流との位相差、δを相パルス停止区間(開放相区間)としたとき、U相を基準とする電圧位相θvが、φ+π−δ/2<θv<φ+π+δ/2のときのみ、1回だけパルス信号GPU+およびGPU−によるスイッチングを停止する。そして、それ以外のときはパルス信号GPU+およびGPU−によるスイッチングを行う。なお、電圧と電流との位相差φにおいて電流一周期につき1回のみ相パルス停止区間δを設定する構成としても良い。
【0050】
このように、相パルス停止区間δを電流一周期につき1回だけ設定する構成とすることで、マイコンによるパルス停止制御部9の演算負荷を半減することが可能となる。また、あらかじめ駆動する負荷条件における電圧と電流との位相差φを測定しておき、パルス停止制御部9の相パルス停止制御信号9Aにおける電圧と電流との位相差φを固定値とすることで、マイコンの演算負荷のさらなる低減が可能となる。
【0051】
以上説明したように、第1実施形態の電力変換回路4は、パルス制御部7から出力されたパルス信号7Aによるスイッチング動作によってPWM制御を行い、交流電動機3へ交流電力を出力している。このとき、ベクトル制御部8が、相電流検出部6からの相電流情報6Aに基づいて算出した電流の位相情報8Aをパルス停止制御部9ヘ出力している。これによって、パルス停止制御部9は、電流の位相情報8Aに基づいて生成した相パルス停止制御信号9Aをパルス制御部7へ出力する。したがって、パルス制御部7は、電力変換回路4の所定の相(例えば、U相)の電流位相のゼロクロスを基準として所定の区間のパルス信号7Aを停止する。よって、電力変換回路4は、電流のゼロクロス付近でスイッチングを停止するのでスイッチング損失が低減される。その結果、電力変換装置1aの効率を向上させることができると共に、出力電流の歪を低減させることができる。
【0052】
《第2実施形態》
第2実施形態では、第1実施形態のように相パルス停止区間δを設けたPWM制御方式と、相パルス停止区間δを設けない通常のPWM制御方式との切替えについて説明する。すなわち、第2実施形態では、運転条件(例えば、交流電動機の回転速度)によって相パルス停止区間δを切り替えることができる電力変換装置について説明する。
【0053】
図8は、第2実施形態に係るPWM制御方式の電力変換装置11の回路構成を表す。
図8に示すように、電力変換装置11は、
図1に示す第1実施形態の電力変換装置1aの相電流検出部6の代わりに、直流母線電流I
DCを検出する直流母線電流検出部(電流検出部)10を備えている。すなわち、第2実施形態の電力変換装置11は、直流母線電流検出部10がベクトル制御部8へ直流母線電流情報(電流)10Aを出力するように構成される。
【0054】
図8において、ベクトル制御部8は、ベクトル制御によって算出された電流の位相情報8Aと、交流電動機3の回転速度である回転速度情報8Bとをパルス停止制御部91へ出力するように構成される。これによって、第2実施形態のパルス停止制御部91は、相パルス停止区間δを運転条件(つまり、交流電動機3の回転速度)によって切り替えることができる。その他の構成内容は、
図1で示した第1実施形態の電力変換装置1aと同じであるため、説明は省略する。
【0055】
図9は、第2実施形態の電力変換装置11における相パルス停止区間(開放相区間)の設定例を示す特性図であり、横軸に回転速度、縦軸に開放相区間δを表わしている。すなわち、第2実施形態の電力変換装置11においては、パルス停止制御部91は、
図9(a)に示すように、交流電動機3の現在の回転速度Nとあらかじめ設定した回転速度N1との大小関係を判定し、現在の回転速度Nが回転速度N1未満の場合は、相パルス停止区間δを設定した相パルス停止制御信号91Aをパルス制御部7へ出力する。また、現在の回転速度Nが回転速度N1以上の場合は、相パルス停止区間δを0とし、相パルス停止区間δを設定しない相パルス停止制御信号91Aをパルス制御部7へ出力する。
【0056】
言い換えると、交流電動機3の現在の回転速度Nが回転速度N1未満の場合は、パルス制御部7は相パルス停止区間δのあるパルス信号を出力し、回転速度N1以上の場合は、パルス制御部7は相パルス停止区間δのないパルス信号を出力する。
【0057】
なお、運転条件によって相パルス停止区間δを切り替えるときの交流電動機3の回転速度・トルクの過度的な変動を抑制するため、
図9(b)に示すように、相パルス停止区間δを回転速度N2から回転速度N3まで一定の変化率で変化させる方式としても良い。また、相パルス停止区間δの切り替えをさらにスムーズにするため、
図9(c)に示すように、回転速度N2から回転速度N3までは、所定の曲線に沿って非線形な変化率で相パルス停止区間δを変えるような方式としても良い。
【0058】
また、交流電動機3の回転速度に基づいて相パルス停止区間δを切り替えるのではなく、
図8の直流母線電流検出部10で検出される直流母線電流I
DCの平均値I
DCaveに基づいて、相パルス停止区間δを切り替える構成としても良い。この場合は、
図9(a)、(b)、(c)の特性図における横軸は、回転速度Nではなく、直流母線電流平均値I
DCaveに読み替える。
【0059】
また、交流電動機3の回転速度に基づいて相パルス停止区間δを切り替えるのではなく、交流電動機3が出力するトルクτに基づいて相パルス停止区間δを切り替える構成としても良い。この場合は、
図9(a)、(b)、(c)の特性図における横軸は、回転速度Nではなく、出力トルクτに読み替える。
【0060】
以上、説明したように、相パルス停止区間δを交流電動機3の運転条件(交流電動機3の回転速度N、出力トルクτまたは直流母線電流平均値I
DCave等)によって切り替えることにより、交流電動機3が低速回転域にある場合は、相パルス停止区間δを設定することで、比較例のPWM制御方式よりも電力変換装置を高効率に駆動することが可能となる。また、交流電動機3が高速回転域の場合は、相パルス停止区間δを0とし、相パルス停止区間を設定しない180度通電にスムーズに移行することが可能となる。
【0061】
なお、交流電動機3の運転条件によって相パルス停止区間δを狭める方向へ変更させる場合は、所定の停止区間から停止区間ゼロの状態へ直ちに切り替える、所定の停止区間から停止区間ゼロの状態へ一定の変化率で変化させる、または、所定の停止区間から停止区間ゼロの状態へ非線形な変化率で変化させる、のいずれかによって行うことができる。
【0062】
また、交流電動機3の運転条件によって相パルス停止区間δを広げる方向へ変更させる場合は、停止区間ゼロの状態から所定の停止区間へ直ちに切り替える、停止区間ゼロの状態から所定の停止区間へ一定の変化率で変化させる、停止区間ゼロの状態から所定の停止区間へ非線形な変化率で変化させる、のいずれかによって行うことができる。
【0063】
《第3実施形態》
第3実施形態では、第1実施形態の電力変換装置1aまたは第2実施形態の電力変換装置11を空調機の圧縮機駆動に適用した場合について、説明する。
図10は、第3実施形態に係る空調機100の全体構成図を表している。
【0064】
図10に示すように、第3実施形態の空調機100は、外気と熱交換を行う室外機101と、室内の雰囲気と熱交換を行う室内機102と、室外機101と室内機102とをつなぐ配管103とによって構成される。
【0065】
室外機101は、冷媒を圧縮する圧縮機104と、圧縮機104を駆動する圧縮機駆動電動機105と、圧縮機駆動電動機105を駆動制御する電動機駆動装置106と、圧縮冷媒を用いて外気と熱交換を行う熱交換機107とによって構成される。ここで、電動機駆動装置106には、第1実施形態の電力変換装置1aまたは第2実施形態の電力変換装置11が用いられる。また、室内機102は、室内と熱交換を行う熱交換機108と、室内に送風する送風機109とによって構成される。
【0066】
ここで、圧縮機駆動電動機105の効率について、
図11を用いて説明する。
図11は、
図10に示す空調機100における圧縮機駆動電動機105の回転速度に対する効率の関係を示す特性図であり、横軸は圧縮機駆動電動機105の回転速度を示し、縦軸は圧縮機駆動電動機105の効率を表している。
【0067】
電動機駆動装置106にPWM制御を適用するとき、圧縮機駆動電動機105の回転速度がN4以上の場合は、電力変換回路4の正弦波変調方式で出力可能な電圧を上回る電圧飽和領域では、弱め界磁制御により無効電流を流すことによって界磁コイルの電流を減らすことで、圧縮機駆動電動機105の高速回転域における安定駆動を実現することができる。ところが、このような弱め界磁制御を行うため、
図11の実線に示すように、圧縮機駆動電動機105の高速回転域(回転速度N4以上)においては効率の低下が発生する。
【0068】
そこで、第3実施形態では、例えば、第1実施形態の電力変換装置1aを空調機100に適用し、パルス制御部7からパルス停止制御部9により相パルス停止区間δが設けられたパルス信号7Aを出力することにより電力変換回路4を制御する。言い換えると、相パルス停止区間δを設けたことによって、電力変換回路4のスイッチング回数を低減させることができるので、結果的に電動機駆動装置106の損失を低減させることができる。
【0069】
このようにして、電力変換回路4のスイッチング損失を低減させることで、
図11の一点鎖線の特性に示すように、圧縮機駆動電動機105を駆動させる電動機駆動装置106の効率がピークとなる回転速度N4より低速回転の領域において、効率の向上を図ることが可能となる。また、回転速度N4以上の電圧飽和領域においては、
図1のパルス停止制御部9により相パルス停止区間δを0としたパルス信号を出力して、180度通電のPWM制御方式へ切り替えて、弱め界磁制御領域の駆動を行うことが可能である。
【0070】
以上説明したように、第3実施形態により、比較例のPWM制御方式と同様の電力変換回路4の構成で電力変換回路4のスイッチング回数を減らすことができるため、マイコンの制御で行われるパルス停止制御部9をソフトウェアにより構成した場合は、ハードウェアの追加を行うことなく、空調機100の高効率化を実現することが可能となる。
【0071】
なお、本発明に係る電力変換装置1a,11およびこの電力変換装置1a,11を用いた電動機駆動装置106、並びにこの電動機駆動装置106を用いた空調機100の実施形態について具体的に説明したが、本発明は前記した各実施形態の内容に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で種々の変更が可能であることは言うまでもない。
【0072】
すなわち、本発明は、第1実施形態ないし第3実施形態の内容に限定されるものではなく、様々な変形が可能である。言い換えると、前記した各実施形態は、本発明の内容を分かりやすく説明するために詳細に例示したものであり、必ずしも前記で説明した全ての構成を備えるものに限定されるものではない。また、ある実施形態の構成の一部を他の実施形態の構成に置き換えることも可能であり、さらに、ある実施形態の構成に他の実施形態の構成を加えることも可能である。
【0073】
また、各実施形態の構成の一部について、他の実施形態の構成を追加、削除、置換をすることも可能である。さらに、前記の各構成、機能、処理部、処理手段等は、それらの一部または全部を、例えば集積回路で設計する等によりハードウェアで実現しても良い。また、上記の各構成、機能等は、プロセッサがそれぞれの機能を実現するプログラムを解釈して実行することにより、ソフトウェアで実現しても良い。なお、各機能を実現するプログラム、テーブル、ファイル等の情報は、メモリ、ハードディスク、SSD(Solid State Drive)等の記録装置、または、IC(integrated circuit)カード、SDカード、DVD(Digital Versatile Disc)等の記録媒体に置くことができる。また、制御線や情報線は説明上必要と考えられるものを示しており、製品上必ずしも全ての制御線や情報線を示しているとは限らない。実際には殆ど全ての構成が相互に接続されていると考えても良い。