(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5718562
(24)【登録日】2015年3月27日
(45)【発行日】2015年5月13日
(54)【発明の名称】土壌安定処理材及びこれを用いた土壌安定処理方法
(51)【国際特許分類】
C09K 17/08 20060101AFI20150423BHJP
B09B 3/00 20060101ALI20150423BHJP
B09C 1/02 20060101ALI20150423BHJP
B09C 1/08 20060101ALI20150423BHJP
C09K 17/06 20060101ALI20150423BHJP
C09K 17/02 20060101ALI20150423BHJP
E02D 3/12 20060101ALI20150423BHJP
C09K 103/00 20060101ALN20150423BHJP
【FI】
C09K17/08 PZAB
B09B3/00 301E
B09B3/00 304K
C09K17/06 P
C09K17/02 P
E02D3/12 103
C09K103:00
【請求項の数】4
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2009-250754(P2009-250754)
(22)【出願日】2009年10月30日
(65)【公開番号】特開2011-94063(P2011-94063A)
(43)【公開日】2011年5月12日
【審査請求日】2012年4月17日
(73)【特許権者】
【識別番号】000001373
【氏名又は名称】鹿島建設株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100113435
【弁理士】
【氏名又は名称】黒木 義樹
(72)【発明者】
【氏名】齋藤 潤
(72)【発明者】
【氏名】吉迫 和生
(72)【発明者】
【氏名】伊達 健介
(72)【発明者】
【氏名】岡本 道孝
(72)【発明者】
【氏名】今立 文雄
(72)【発明者】
【氏名】間宮 尚
【審査官】
福山 則明
(56)【参考文献】
【文献】
特開2003−064361(JP,A)
【文献】
特開2000−239660(JP,A)
【文献】
特開2005−270783(JP,A)
【文献】
特開平09−075884(JP,A)
【文献】
特開2007−021461(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09K 17/00−17/52
E02D 3/12
B09B 3/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリ塩化アルミニウム及び硫酸塩を含む凝集剤と、
生石灰及び消石灰の少なくとも一方を含むカルシウム含有化合物と、
を含有する土壌安定処理材であり、
当該土壌安定処理材の全質量100質量部に対して前記凝集剤を50質量部以上含有し、前記凝集剤は当該凝集剤の全質量を基準とする硫酸塩の含有量が0.1〜20質量%であり、
被処理土1m3に対して当該土壌安定処理材を100〜200kg混合して得られる処理土は、pHが5.8〜8.6であり且つ24時間後のコーン指数が121.1kN/m2以上であることを特徴とする土壌安定処理材。
【請求項2】
当該土壌安定処理材の全質量100質量部に対して前記凝集剤を60〜90質量部含有することを特徴とする、請求項1に記載の土壌安定処理材。
【請求項3】
土壌安定処理材と被処理土とを混合する工程を備える土壌安定処理方法であって、
前記土壌安定処理材は、
ポリ塩化アルミニウム及び硫酸塩を含む凝集剤と、
生石灰及び消石灰の少なくとも一方を含むカルシウム含有化合物と、
を含有する土壌安定処理材であり、
当該土壌安定処理材の全質量100質量部に対して前記凝集剤を50質量部以上含有し、前記凝集剤は当該凝集剤の全質量を基準とする硫酸塩の含有量が0.1〜20質量%であり、
被処理土1m3に対して前記土壌安定処理材を100〜200kg混合することによって、pHが5.8〜8.6であり且つ24時間後のコーン指数が121.1kN/m2以上である処理土を得ることを特徴とする土壌安定処理方法。
【請求項4】
前記土壌安定処理材は、当該土壌安定処理材の全質量100質量部に対して前記凝集剤を60〜90質量部含有することを特徴とする、請求項3に記載の土壌安定処理方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、地盤改良分野又は地盤環境分野に適用可能な土壌安定処理材及びこれを用いた土壌安定処理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、環境負荷低減及びコスト削減の観点から、堤防盛土材や埋戻材として建設発生土が利用されている。建設発生土は、土砂状のものから、シールド泥土に代表される高含水比のものまで状態が多岐にわたり、主としてコーン指数q
Cに基づいて用途が定められる。建設汚泥処理土利用技術基準(平成18年8月国土交通省)によると、発生土を有効利用する際、コーン指数を200kN/m
2超とすることが必要である。
【0003】
また、処理土から溶出して周囲のpHに影響を与える物質が環境負荷因子として認識され始めている。水質基準に関する省令(平成15年5月厚生労働省)では、水道水のpHが中性域(5.8〜8.6)を満足するように定められており、この条件が建設汚泥処理土に課されるケースが増えている。
【0004】
こうした状況から、建設発生土のコーン指数の向上、またpHの中性化などを目的とした土壌改質材が多数検討されている(特許文献1〜5参照)。特許文献1,2にはセメント又は酸化マグネシウムを主材とする固化材等が記載されている。上記特許文献3には石膏を主材とする固化材が記載されている。特許文献4には、ペーパースラッジを主材とする改良材が記載されている。特許文献5にはポリ塩化アルミニウム(PAC)と他の材料とを併用した固化材が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平10−273660号公報
【特許文献2】特開2003−147359号公報
【特許文献3】特開2005−306939号公報
【特許文献4】特開2005−288338号公報
【特許文献5】特開2006−219547号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、セメント、酸化マグネシウム又はペーパースラッジ等を主材として使用した処理材は、処理土のpHが上昇すると考えられ、水質基準に関する上記省令の条件を満たすことができないおそれがある。また、処理土を中性域に保つためには他の材料を多量に添加する必要があり、この場合、改質材の量が膨大となるため、扱いの点でも改善の余地がある。
【0007】
石膏を主材として使用した従来の処理材は、必ずしも発生土の強度向上が十分ではなく、上記の建設汚泥処理土利用技術基準に規定された条件を満たすことができないおそれがある。また、ポリ塩化アルミニウムと他の材料とを併用した処理材は、処理土のpHを中性域に保つことができてもポリ塩化アルミニウムをどの程度添加すれば発生土のpHの条件及び強度の条件を両立できるのか明らかではないのが現状である。
【0008】
本発明は、上記実情に鑑みてなされたものであり、建設発生土のpH上昇を十分に抑制できる土壌安定処理材及びこれを用いた土壌安定処理方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明に係る土壌安定処理材は、ポリ塩化アルミニウム及び硫酸塩を含む凝集剤と、生石灰及び消石灰の少なくとも一方を含むカルシウム含有化合物とを含有するものであり、当該土壌安定処理材の全質量100質量部に対して上記凝集剤を50質量部以上含有し、上記凝集剤は当該凝集剤の全質量を基準とする硫酸塩の含有量が0.1〜20質量%であ
り、被処理土1m3に対して当該土壌安定処理材を100〜200kg混合して得られる処理土は、pHが5.8〜8.6であり且つ24時間後のコーン指数が121.1kN/m2以上であることを特徴とする。
【0010】
本発明に係る処理材は、従来のものと比較し、カルシウム含有化合物(例えば、セメント組成物等)の配合量が少なく、凝集剤の配合量が多いため、処理土のpH上昇を抑制できる。また、本発明に係る処理材は、所定量の硫酸塩を含有する凝集剤を配合したことによって、処理土の強度を向上し得る。すなわち、硫酸塩から生じるSO
42−、カルシウム、ポリ塩化アルミニウム及び水分を共存せしめることによって水酸化アルミニウムゲル及び二水石膏が生成する。水酸化アルミニウムゲル中に分散した柱状の石膏によって高い強度が発現すると推察される(
図5参照)。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、建設発生土のpH上昇を十分に抑制できる。また、上記凝集剤を所定の比率で含有する土壌安定処理材と土壌とを混合することで、24時間程度の短時間のうちに土壌の強度が十分に向上する。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】(a)は普通ポルトランドセメントと凝集剤とを混合して生成したゲル状物質のSEM画像であり、(b)はこのゲル状物質のEDS分析結果を示すグラフである。
【
図2】(a)は高炉セメントB種と凝集剤とを混合して生成したゲル状物質のSEM画像であり、(b)はこのゲル状物質のEDS分析結果を示すグラフである。
【
図3】(a)は普通ポルトランドセメントと凝集剤とを混合して生成した柱状物質のSEM画像であり、(b)はこの柱状物質のEDS分析結果を示すグラフである。
【
図4】(a)は高炉セメントB種と凝集剤とを混合して生成した柱状物質のSEM画像であり、(b)はこの柱状物質のEDS分析結果を示すグラフである。
【
図5】柱状物質によってゲル状物質の塊同士が繋がれている様子を示すSEM画像である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
<土壌安定処理材>
本実施形態に係る安定化処理材は、ポリ塩化アルミニウム及び硫酸塩を含む凝集剤と、セメント組成物(カルシウム含有化合物)とを含有する。セメント組成物としては、例えば、普通ポルトランドセメントや高炉セメントB種を使用できる。
【0014】
凝集剤は、ポリ塩化アルミニウム及び硫酸塩を含有する。この凝集剤は、当該凝集剤の全質量を基準とする硫酸塩の含有量は0.1〜20質量%であり、0.1〜9.3質量%であることが好ましく、8.4〜8.7質量%であることがより好ましい。硫酸塩の含有量が0.1質量%未満であると、土壌の強度向上が不十分となり、他方、20質量%を超えて硫酸塩を含有しても土壌の強度向上効果が飽和する。
【0015】
硫酸塩としては、硫酸アルミニウム(Al
2(SO
4)
3)、硫酸アルミニウムカリウム(AlK(SO
4)
2・12HO)、硫酸アンモニウム((NH
4)
2SO
4)、硫酸カリウム(K
2SO
4)などを例示できる。
【0016】
本実施形態に係る土壌安定処理材は、当該処理材の全質量100質量部に対して上記凝集剤を50質量部以上含有する。凝集剤の含有量が50質量部未満であると、セメント組成物の含有量の増加により土壌のpHが向上して中性域に保つことが困難となる。処理すべき土壌の種類や含水比にもよるが、土壌のpHを中性域に保ちながら土壌の高い強度を達成する観点から、凝集剤の含有量は60〜90質量部であることが好ましく、70〜80質量部であることがより好ましい。処理土の土壌は、環境に対する負荷の低減の観点からpH5.8〜8.6の中性域に保たれることが好ましい。
【0017】
<建設発生土の処理方法>
本実施形態に係る土壌安定処理方法は、上記安定化処理材と建設発生土(被処理土)とを混合する工程を備える。両者を混合する方法は、特に限定されず、例えば、現場で混合を行うには被処理土に処理材を撒き出し、バックホウなどの重機を用いて混合すればよい。被処理土が流動性を有する場合は、被処理土に処理材を添加して攪拌することによって混合してもよい。
【0018】
被処理土の含水比ωは、高い強度の処理土を得る観点から、5〜1000%であることが好ましく、25〜1000%であることがより好ましい。なお、含水比ω(%)は、下記式(1)で定義されるものである。式中、W
Wは土壌に含まれる水の質量、W
Sは土壌に含まれる固形分の質量をそれぞれ示す。
ω=(W
W/W
S)×100 (1)
【0019】
被処理土に添加する処理材の量は、被処理土の特性あるいは処理土の用途又は要求性能に応じて適宜調整すればよい。例えば、建設発生土を有効利用する場合には、コーン指数が200kN/m
2超となるように、処理材を添加することが好ましい。具体的には、被処理土1m
3に対して処理材を100〜200kg程度添加することが好ましい。なお、廃棄する建設発生土を単に運びやすくする場合などにあっては、上記と比較して少なめの添加量でもよい。
【0020】
本実施形態に係る処理材によって土壌のコーン指数が高くなるメカニズムは以下のように推察される。すなわち、走査電子顕微鏡観察結果によると、普通ポルトランドセメント又は高炉セメントB種と上記凝集剤とを混合することによって、
図1(a)又は
図2(a)に示すゲル状物質、並びに、
図3(a)又は
図4(a)に示す柱状物質が生成する。これらの物質について、EDS成分分析を行った(
図1〜4のグラフ(b)参照)。その結果、ゲル状物質は主にAl,Cl,Ca及びSiを含み、その形態及び成分からCa
2+を取り込んだ水酸化アルミニウムゲルであることが分った。他方、柱状物質は主にCa及びSを含み、その形態及び成分から石膏であることが分った。
図5に示す通り、水酸化アルミニウムゲル中に柱状の石膏が分散しており、柱状の石膏が水酸化アルミニウムゲルの塊同士を繋いでいる。なお、SEM画像中の「Agel」は水酸化アルミニウムゲルを、「Gyp」は石膏を、「EDS」は成分分析を行った位置をそれぞれ意味する。
【実施例】
【0021】
本発明に係る土壌安定処理材の効果を確認するため、複数の種類の処理材を調製し、これらを用いて土壌の処理試験を実施した。セメント及び凝集剤は以下のものを使用した。下記凝集剤に含まれる硫酸塩は、当該凝集剤の全質量を基準として8.5質量%であった。
普通ポルトランドセメント(OPC):太平洋セメント社製、
高炉セメントB種(BB):太平洋セメント社製、
凝集剤:大明化学工業社製 タイパック(商品名)。
【0022】
(
参考例1及び実施例
2〜5)
普通ポルトランドセメント(OPC)と凝集剤とを併用して5種類の処理材を調製した。表1に各凝集剤の配合比率を示す。他方、シルト質粘土を用いて含水比ωが42%の模擬土壌を準備した。このシルト質粘土の液性限界ω
Lは35%であり、含水比ωが42%とした場合には流動性を有するヘドロ状を呈する。
【0023】
模擬土壌1m
3に対して150kgの処理材を添加し、ホバートミキサーで1分間攪拌し、その後放置した。24時間経過後、処理後の模擬土壌に対して、ポータブルコーン貫入試験(JGS1228−2000)及びpH試験(JGS0211−2000)を実施した。表1に結果を示す。
【0024】
【表1】
【0025】
(
参考例6,7及び実施例
8〜10)
普通ポルトランドセメント(OPC)の代わりに高炉セメントB種(BB)を使用したことの他は、実施例1〜5と同様にして5種類の処理材をそれぞれ調製し、これらを用いて模擬土壌の処理を行った。また、処理後の土壌のコーン指数及びpHの測定も実施例1〜5と同様に行った。表2に結果を示す。
【0026】
【表2】
【0027】
(実施例11〜13)
実施例3に係る処理材を使用し、関東ローム(含水比140%)の処理を行った。処理材の添加量は、土壌1m
3に対して100kg、150kg及び200kgとした。処理後の土壌のコーン指数及びpHの測定は実施例1〜5と同様に行った。表3に結果を示す。
【0028】
【表3】