特許第5718584号(P5718584)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許5718584フッ素化ナノダイヤモンドを含むテフロン定着器部材
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5718584
(24)【登録日】2015年3月27日
(45)【発行日】2015年5月13日
(54)【発明の名称】フッ素化ナノダイヤモンドを含むテフロン定着器部材
(51)【国際特許分類】
   C09D 127/12 20060101AFI20150423BHJP
   G03G 15/20 20060101ALI20150423BHJP
   B05D 7/24 20060101ALI20150423BHJP
   C09D 1/00 20060101ALI20150423BHJP
   C09D 5/02 20060101ALI20150423BHJP
【FI】
   C09D127/12
   G03G15/20 510
   B05D7/24 302L
   B05D7/24 301C
   B05D7/24 303A
   C09D1/00
   C09D5/02
【請求項の数】4
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2010-103156(P2010-103156)
(22)【出願日】2010年4月28日
(65)【公開番号】特開2010-261035(P2010-261035A)
(43)【公開日】2010年11月18日
【審査請求日】2013年4月26日
(31)【優先権主張番号】12/436,554
(32)【優先日】2009年5月6日
(33)【優先権主張国】US
(73)【特許権者】
【識別番号】596170170
【氏名又は名称】ゼロックス コーポレイション
【氏名又は名称原語表記】XEROX CORPORATION
(74)【代理人】
【識別番号】100092093
【弁理士】
【氏名又は名称】辻居 幸一
(74)【代理人】
【識別番号】100082005
【弁理士】
【氏名又は名称】熊倉 禎男
(74)【代理人】
【識別番号】100067013
【弁理士】
【氏名又は名称】大塚 文昭
(74)【代理人】
【識別番号】100086771
【弁理士】
【氏名又は名称】西島 孝喜
(74)【代理人】
【識別番号】100109070
【弁理士】
【氏名又は名称】須田 洋之
(74)【代理人】
【識別番号】100109335
【弁理士】
【氏名又は名称】上杉 浩
(72)【発明者】
【氏名】ジン ウー
【審査官】 ▲吉▼澤 英一
(56)【参考文献】
【文献】 特開2006−297685(JP,A)
【文献】 国際公開第2007/070601(WO,A1)
【文献】 特開2007−119881(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09D 127/12
B05D 7/24
C09D 1/00
C09D 5/02
G03G 15/20
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
フッ素樹脂ポリマーと、
前記フッ素樹脂ポリマーに混合された複数のフッ素化ダイヤモンド含有粒子とを含み、前記複数のフッ素化ダイヤモンド含有粒子の各粒子が、ダイヤモンドコアの上にsp2カーボンブラックを含むシェル層を含み、前記シェル層がフッ素を含むことを特徴とするコーティング組成物。
【請求項2】
前記複数のフッ素化ダイヤモンド含有粒子の前記シェル層が、四級化アミン、カルボキシル化アミン又はそれらの組合せを含む官能基をさらに含み、
前記ダイヤモンドコアがsp3ダイヤモンドを含むことを特徴とする、請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
ベルト基材と、
前記基材上に配置された最外層とを含み、前記最外層が、フッ素プラスチックマトリックス中に分散された複数のフッ素化ナノダイヤモンド含有粒子を含み、前記複数のフッ素化ナノダイヤモンド含有粒子の各粒子が、ダイヤモンドコアの上に、フッ素化されたsp2カーボンブラックを含むシェル層を含むことを特徴とする、定着器部材。
【請求項4】
定着器部材を作成する方法であって、
ベルト基材を提供し、
水性溶液中にフッ素樹脂ポリマーと複数のフッ素化ダイヤモンド含有粒子とを含むコーティング組成物を形成し、前記複数のフッ素化ダイヤモンド含有粒子の各粒子が、ダイヤモンドコア上にsp2カーボンブラックを含むシェル層を含み、前記シェル層がフッ素を含んでおり、
前記コーティング組成物を前記ベルト基材に塗工して、前記定着器部材の最外層を形成する
ステップを含むことを特徴とする方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、一般に、静電写真装置のために用いられる定着器部材に関し、より詳細には、フッ素樹脂マトリックス中に分散されたフッ素化ダイヤモンド含有粒子を含む最外層を有する定着器部材に関する。
【背景技術】
【0002】
ゼログラフィ、電子写真画像形成又は静電写真画像形成としても知られる静電写真技術において画像形成プロセスは、支持体表面(例えば、用紙)上に可視のトナー像を形成することを含む。可視トナー像はしばしば、静電潜像を含む受光体から転写され、通常は、定着器部材を用いて支持体表面に固定又は定着されて恒久的な画像を形成する。
【0003】
現在の電子写真プロセスにおいて、2つの主要なタイプの定着器外層材料が定着技術のために用いられている。2つの主要なタイプの材料は、フッ素エラストマー、例えば、E.I.DuPont de Nemours,Inc.(Wilmington、デラウェア州)のVITON(登録商標)、及びフッ素プラスチック、例えば、これもまたE.I.DuPont de Nemours,Inc.(Wilmington、デラウェア州)のTEFLON(登録商標)を含む。
【0004】
VITON(登録商標)フッ素エラストマーは、定着器部材に衝撃エネルギーを吸収する能力を有する良好な機械的柔軟性を与えるために用いられる。また、VITON(登録商標)フッ素エラストマーは、高い印刷品質で高速動作を可能にする。VITON(登録商標)フッ素エラストマーは、「ゴム的」性質をより多く有し、剥離剤又は定着オイルと組み合わせて用いることができる。
【0005】
TEFLON(登録商標)フッ素プラスチックは、オイルレス定着用に広く用いられており、すなわち定着動作の間に定着オイルを必要としない。TEFLON(登録商標)フッ素プラスチックは、順応性のシリコーン層の上に配置されたTEFLON(登録商標)PFA(パーフルオロアルキルビニルエーテルコポリマー)表面を含むことができ、これにより、粗い紙固定及び良好な均一性を可能にする。さらに、TEFLON(登録商標)PFA表面は、定着器部材に対して耐熱性/耐化学薬品性を与えることができる。しかしながら、TEFLON(登録商標)材料の機械的強度が十分でないこと、及び耐摩耗性が劣ることに起因する問題がいまだに生じている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
これらの問題を解決する従来の手法は、定着器部材の最外層材料に充填剤を添加することを含む。従来の充填剤は、カーボンブラック、金属酸化物、及びカーボンナノチューブ(CNT)を含む。しかしながら、最外層定着器材料の機械的性質(例えば、弾性率及び/又は硬度)及び耐摩耗性をさらに改善するための他の充填剤が、依然として所望されている。
【図面の簡単な説明】
【0007】
図1A】本教示の種々の実施形態による、フッ素化ダイヤモンド含有粒子のために用いられるダイヤモンドコアの例示的な構造を示す模式図である。
図1B】本教示の種々の実施形態による、例示的な定着器ベルト部材の部分を示す。
図1C】本教示の種々の実施形態による、図1Bの定着器部材のために用いられる例示的な最外層を示す模式図である。
図2】本教示の種々の実施形態による、印刷装置の例示的な定着器サブシステムを示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
例示的な実施形態は、最外層定着器材料及び関連の定着器部材用のコーティング組成物のための材料及び方法を提供する。コーティング組成物及び最外層定着器材料は、1つ又はそれ以上のフッ素樹脂、フッ素プラスチック又は他の樹脂を含むポリマーマトリックス中に分散されたフッ素化ダイヤモンド含有粒子を含むことができる。開示された最外層定着器材料を含む定着器部材は、電子写真印刷装置及びプロセスにおいて用いることができる。例示的な定着器部材は、改善された機械的性質、表面耐摩耗性、及び寿命を有することができる。
【0009】
本明細書において用いられる場合、特に断りのない限り、「フッ素化ダイヤモンド含有粒子」という用語は、フッ素の原子を含むいずれかの「ダイヤモンド含有粒子」のことを指す。例えば、「フッ素化ダイヤモンド含有粒子」は、ダイヤモンド含有粒子に物理的に結合した(例えば、イオン結合、水素結合、又はファンデルワールス)又は化学的に結合した(すなわち共有結合)フルオロ官能基を含むことができる。
【0010】
本明細書において用いられる場合、特に断りのない限り、「ダイヤモンド含有粒子」は、化学的に不活性なダイヤモンドコアの周囲に化学的に活性なシェル層を有するコア−シェル構造を含むことができる。例えば、化学的に活性なシェル層は、sp3炭素のダイヤモンドコアの周囲を殻で覆う、sp2炭素のカーボンブラックを含むことができる。sp2カーボンブラックシェルは、種々の官能基(フルオロ基を含む)で修飾することができるが、sp3ダイヤモンドコアは、ダイヤモンドコアの炭素が飽和しているので化学的に修飾することはできない。
【0011】
種々の実施形態において、「ダイヤモンド含有粒子」は粉末又は分散体の形態で、例えばNanoblox,Inc.(Boca Raton、フロリダ州)から商業的に入手することが可能である。市販のダイヤモンド含有粒子の例としては、50パーセントのsp3炭素コアと50パーセントのsp2炭素シェルとを含む未加工のナノダイヤモンドブラック(例えば、製品NB50)、及び90パーセントのsp3炭素コアと10パーセントのsp2炭素シェルとを含むナノダイヤモンドグレー(例えば、製品NB90)を挙げることができる。
【0012】
種々の実施形態において、「フッ素化ダイヤモンド含有粒子」もまた、例えばNanoblox,Inc.(Boca Raton、フロリダ州)から商業的に入手することが可能である。市販のフッ素化ダイヤモンド含有粒子の例としては、90パーセントのsp3炭素コアと、フッ素化された10パーセントのsp2炭素シェルとを含む製品NB90−Fを挙げることができる。
【0013】
種々の実施形態において、フッ素化ダイヤモンド含有粒子は、ダイヤモンド含有粒子の化学的に活性なシェル、例えばカーボンブラックsp2をフッ素化することによって形成することができる。例えば、コア−シェル型ダイヤモンド含有粒子は、フッ素と反応させることによって処理することができるが、その際、特定の所望の粒子を生成するためにフッ素の量を変化させることができる。種々の実施形態において、フッ素化ダイヤモンド含有粒子は、例えば、ポリ(カーボンジフルオライド)、ポリ(ジカーボンモノフルオライド)又はそれらの組合せと共に濃縮することができる。具体的には、ポリ(カーボンモノフルオライド)は式CFxを有することができ、式中、xはフッ素原子の数を表し、約0.01から約1.5までの数であり、一方、ポリ(ジカーボンモノフルオライド)は通常、当業者に知られているように(C2F)nという簡略表記で表記される。
【0014】
一般に、フッ素化は、ダイヤモンド含有粒子のカーボンブラックシェルを元素フッ素と共に約150℃から約600℃のような高温にて加熱することによって行うことができる。窒素のような希釈剤をフッ素に混合することが好ましいことがある。得られたフッ素化粒子の性質及び特性は、反応条件によって、及び得られた最終生成物におけるフッ素化度によって様々であり得る。最終生成物におけるフッ素化度は、プロセス反応条件、主として温度及び時間を変更することによって変化させることができる。例えば、温度が高いほど、及び時間が長いほど、フッ素含有量は高くなる。
【0015】
種々の実施形態において、フッ素化ダイヤモンド含有粒子は、総粒子重量の約1パーセントから約40パーセントまでの範囲のフッ素含有量を含むことができる。さらなる例において、フッ素含有量は、フッ素化ダイヤモンド含有粒子の総重量の約2パーセントから約30パーセントまでの範囲にわたることができ、又はいくつかの場合においては、総粒子重量の約5パーセントから約20パーセントまでの範囲にわたる。
【0016】
種々の実施形態において、フッ素化ダイヤモンド含有粒子は、さらなる機能性表面を提供するように表面修飾することができる。例えば、粒子の化学的に活性なシェル層を修飾して、−OH、−COOH、−NH2、−SO3H、アルキル、カルボキシル化アミン及び四級化アミンから成る群より選択される化学官能基のスペクトルを有するようにすることができる。
【0017】
これらの官能基は、例えばsp2カーボンブラックシェルに対して直接結合することができ、さらなる所望の性質をフッ素化ダイヤモンド含有粒子に対して与えることができる。例えば、−OH、−COOH、−NH2、アルキル、−SO3H又はそれらの組合せによって表面修飾された場合、修飾された「フッ素化ダイヤモンド含有粒子」は、未修飾の「フッ素化ダイヤモンド含有粒子」と比べて、ポリマー/有機系(例えば、フッ素エラストマー有機系)内でより良好に分散することができる。別の例において、四級化アミン、カルボキシル化アミン又はそれらの組合せによって表面処理された場合、修飾された「フッ素化ダイヤモンド含有粒子」は、未修飾の「フッ素化ダイヤモンド含有粒子」と比べて、水性ポリマー系(例えば、水性フッ素樹脂系)内でより良好に分散することができる。
【0018】
種々の実施形態において、フッ素化ダイヤモンド含有粒子は、約1nmから約1000nm(1ミクロン)までのナノメートルの範囲のサイズを有するナノダイヤモンド粒子を含むことができる。種々の実施形態において、フッ素化ナノダイヤモンド含有粒子は、約1nmから約100nmまで、又は約20nmから約50nmまでの範囲のサイズを有することができる。サイズ範囲は、具体的な使用又は具体的な用途の構成に応じて変更することができることに留意されたい。
【0019】
本明細書において用いられる場合、平均粒径は、粒子の形状に基づくダイヤモンド含有粒子のいずれかの特徴的な寸法、例えば、当業者に公知の、重量による中央粒子サイズ(d50)のことを指す。平均粒径は、実質的に球形の粒子の直径又は不規則な形状の粒子の公称直径に関して与えることができる。さらに、粒子の形状はいかなる様式によっても制限されるものではない。そのようなナノ粒子は、円形、長円形、方形、自形などを含む多様な断面形状を取ることができる。
【0020】
種々の実施形態において、フッ素化ダイヤモンド含有粒子は、例えば、ナノスフェア、ナノチューブ、ナノファイバ、ナノシャフト、ナノピラー、ナノワイヤ、ナノロッド、ナノニードル、及びそれらの種々の機能化され、派生したフィブリル形態などの形態を取ることができ、これは、例示的な形態として糸、ヤーン、織物などであるナノファイバを含む。他の種々の実施形態において、フッ素化ダイヤモンド含有粒子は、球形、ウィスカ、ロッド、フィラメント、かご型構造、バッキーボール(例えば、バックミンスターフラーレン)、及びそれらの混合物の形態とすることができる。
【0021】
種々の実施形態において、フッ素化ダイヤモンド含有粒子は、モース硬度スケールで約9から約10までの硬度を有するダイヤモンドコアを有することができ、モース硬度スケールでは10が最大値、例えば純粋なダイヤモンド粒子の値である。いくつかの実施形態において、ダイヤモンドコアは、約9.5から約10まで、又はいくつかの場合には約9.7から約10までの硬度を有することができる。
【0022】
種々の実施形態において、フッ素化ダイヤモンド含有粒子のダイヤモンドコアは、天然若しくは合成ダイヤモンド又はそれらの組合せから形成することができる。天然ダイヤモンドは典型的には面心立方晶構造を有し、その構造中で炭素原子は四面体結合しており、これはsp3結合として知られる。具体的には、各炭素原子は、正四面体の頂点に各々が位置する4つの他の炭素原子によって囲まれ、それらと結合している。さらに、どの2つの炭素原子間の結合長も、周囲温度にて1.54オングストロームであり、どの2つの結合間の角度も、109度である。天然ダイヤモンドの密度は約3.52g/cm3である。ダイヤモンドを形成するために正四面体(normal or regular tetrahedron)構造で結合した炭素原子の表現を図1Aに示す。1つの実施形態において、ナノダイヤモンドは、ダイヤモンドブレンドのデトネーションと、例えばその後の化学的精製によって生成することができる。
【0023】
合成ダイヤモンドは、化学気相成長又は高圧といった化学的又は物理的プロセスによって形成される、工業的に製造されたダイヤモンドである。天然由来のダイヤモンドと同様に、合成ダイヤモンドは三次元炭素結晶を含むことができる。合成ダイヤモンドは、非晶質形態の炭素であるダイヤモンド様炭素とは同じではないことに留意されたい。
【0024】
例示的な実施形態のために有用であり得る合成ダイヤモンドの例としては、多結晶ダイヤモンド及び金属結合ダイヤモンドを挙げることができる。多結晶ダイヤモンドは、化学気相成長によって、例えば厚さ約5mmまで及び直径約30cmまでの平坦なウェファとして、又はいくつかの場合には三次元形状として、成長させることができる。多結晶ダイヤモンドは、ポップコーン様構造を有することができる。ダイヤモンドは通常は黒色であるが、完全に透明にすることができる。結晶構造は八面体となり得る。合成ダイヤモンドの金属結合形態は、グラファイトと金属粉末との混合物を高圧で長時間加圧することによって形成することができる。例えば、ニッケル/鉄ベースの金属結合ダイヤモンドは、グラファイト及びニッケル鉄ブレンド粉末を高圧高温(HPHT)プレス内に十分な時間置くことによって製造され、天然ダイヤモンドを模造する生成物が形成される。コバルトのような他の金属を用いることもできる。ダイヤモンドは、プレスから取り出された後、ミリングプロセスに供される。化学的及び熱的な洗浄プロセスを利用して、表面をこすり洗いすることができる。これは次に、所望のサイズ範囲を得るために微粉化される。このようにして形成された粒子は、一定の形状を持たないフレーク又は小さな破片(シャード)となり得る。結晶構造は、天然ダイヤモンドと同様に単結晶であり得る。
【0025】
種々の実施形態において、フッ素化ダイヤモンド含有粒子は、定着器部材の最外層として用いられる複合材料の形成のために用いることができる。
【0026】
説明の目的で「定着器部材」という用語がここで本出願の全体にわたって用いられているが、「定着器部材」という用語は、固定部材、加圧部材、加熱部材、及び/又はドナー部材を含むがそれらに限定されない、印刷プロセス又はプリンタにおいて有用な他の部材をも包含することが意図される。種々の実施形態において、「定着器部材」は、例えば、ローラ、シリンダ、ベルト、プレート、フィルム、シート、ドラム、ドレルト(drelt)(ベルトとドラムの中間)、又は定着器部材のための他の公知の形態などの形態を取ることができる。
【0027】
特定の実施形態において、定着器部材は、ベルト基材又はロール基材の形態の基材を含むことができる。ベルト構造における基材の厚さは、約50μmから約300μmまで、いくつかの場合には、約50μmから約100μmまでとすることができる。シリンダ又はロール構造における基材の厚さは、約2mmから約20mmまで、いくつかの場合には約3mmから約10mmまでとすることができる。
【0028】
図1Bは、本開示による例示的な定着器ベルト部材100の一部を示す。当業者には、図1Bに示される部材100が一般化された模式図を示すこと、及び、他の成分/層/膜/粒子を付加すること又は既存の成分/層/膜/粒子を除去し若しくは変更することができることが明らかである。
【0029】
図示されるように、定着器部材100は、ベルト基材110と、ベルト基材110の上に配置された最外層120とを含むことができる。
種々の実施形態において、ベルト基材110と最外層120との間に1つ又はそれ以上の機能層を配置することができる。例えば、最外層120は、ベルト基材110の上に形成された弾性層(例えば、シリコーン層)の上に形成することができる。別の例において、弾性層と最外層120との間に界面層をさらに配置することができる。
【0030】
本明細書に開示される場合、ベルト基材110は、ベルト、プレート、フィルム、シート、又はドレルトを含むことができるがそれらに限定されない。種々の実施形態において、ベルト基材110は、金属、合金、ゴム、ガラス、セラミック、プラスチック、又は織物といった多様な材料を含むことができる。さらなる例において、用いられる金属としては、アルミニウム、陽極処理アルミニウム、鋼、ニッケル、銅、及びそれらの混合物を挙げることができ、用いられるプラスチックとしては、ポリイミド、ポリエステル、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)、ポリ(アリーレンエーテル)、ポリアミド、及びそれらの混合物を挙げることができる。
【0031】
種々の実施形態において、最外層120は、定着器部材100の改善された機械的堅牢性、表面耐摩耗性、表面疎水性、及び/又は熱若しくは電気伝導性を提供するために、ポリマーマトリックス中に分散された複数のフッ素化ダイヤモンド含有粒子を含むことができる。
【0032】
本明細書において用いられる場合、開示された最外層120のために用いられる「ポリマーマトリックス」は、例えば、フッ素樹脂、フッ素プラスチック、及び/又は他の熱硬化性又は熱可塑性樹脂といった、1つ又はそれ以上の樹脂を含むことができる。適切なフッ素樹脂又はフッ素プラスチックの例としては、ポリテトラフルオロエチレン、テトラフルオロエチレンとヘキサフルオロプロピレンとのコポリマー、テトラフルオロエチレンとパーフルオロ(プロピルビニルエーテル)とのコポリマー、テトラフルオロエチレンとパーフルオロ(エチルビニルエーテル)とのコポリマー、テトラフルオロエチレンとパーフルオロ(メチルビニルエーテル)とのコポリマー、又はそれらの組合せを挙げることができる。
【0033】
種々の実施形態において、フッ素樹脂又はフッ素プラスチックは、TEFLON(登録商標)PFA(ポリフルオロアルコキシポリテトラフルオロエチレン)、TEFLON(登録商標)PTFE(ポリテトラフルオロエチレン)、及びTEFLON(登録商標)FEP(フッ素化エチレンプロピレンコポリマー)として種々の名称で商業的に公知のものとすることができる。TEFLON(登録商標)という名称はE.I.DuPont de Nemours,Inc.(Wilmington、デラウェア州)の商標である。特定の実施形態において、最外層120のために用いられるポリマーマトリックスはTEFLON(登録商標)PFAとすることができる。
【0034】
図1Cは、本教示による図1Bの定着器部材100のために用いられる例示的な最外層120aを模式的に示す。当業者には、図1Cに示される最外層が一般化された模式図を示すこと、及び、他の粒子/充填剤/層を付加すること又は既存の粒子/充填剤/層を除去し若しくは変更することができることが明らかである。
【0035】
図示されるように、最外層120aは、ポリマーマトリックス128内に分散された複数のフッ素化ダイヤモンド含有粒子125を含むことができる。種々の実施形態において、複数のフッ素化ダイヤモンド含有粒子125は、充填剤材料として用いることでき、ポリマーマトリックス128全体にわたって、ランダム、均一及び/又は空間的に制御された状態で分散することができ、その結果、例えば、種々の定着サブシステム及び実施形態において定着器材料として用いられる、得られたポリマーマトリックスの機械的堅牢性、及び/又は熱/電気伝導性を含む物理的性質を実質的に制御すること、例えば強化することができる。その上、開示されたフッ素化ダイヤモンド含有粒子125を配合することで、低い摩擦係数ことにより、最外層120の耐摩耗性を改善することができる。さらに、開示されたフッ素化ダイヤモンド含有粒子125を配合することで、最外層120の表面自由エネルギーを低下させ、及び/又表面疎水性を高めることができ、それゆえ、オイルレス定着表面をもたらすことができる。
【0036】
種々の実施形態において、最外層120は、開示された粒子125を用いない従来の最外層(例えば、TEFLON(登録商標)のみ)と比べて、改善された硬度といった、改善された機械的性質を有することができる。硬度は一般に、例えば、当業者に公知のように、ロックウェル硬度試験、ブリネル硬度試験、ビッカース硬度試験、ヌープ硬度試験、及び鉛筆硬度試験によって測定することができる。種々の実施形態において、最外層120は、鉛筆硬度試験によって測定された約1H又はそれ以上の硬度を有することができる。いくつかの場合において、最外層120の硬度は、約1Hから約4Hまでの範囲、又は約2Hから約4Hまでの範囲であり得る。
【0037】
種々の実施形態において、最外層120は、改善された電気伝導性、すなわち低下した電気抵抗率を有することができる。例えば、最外層120は約1015オーム/sq又はそれ以下の表面抵抗率を有することができる。さらなる例において、最外層120の表面抵抗率は、約105オーム/sqから約1015オーム/sqの範囲、又は約107オーム/sqから約1012オーム/sqの範囲とすることができる。
【0038】
種々の実施形態において、最外層120は、オイルレス定着に適した所望の最外層表面を有することができる。具体的には、最外層表面は、開示された粒子125が配合されていない従来の材料(例えば、TEFLON(登録商標)のみ)と比べて、より高い疎水性であり得る。例えば、最外層表面は、約110度若しくはそれ以上、又はいくつかの場合には、約110度から約150度の範囲の水接触角を有することができる。特定の実施形態において、最外層表面は、約150度またはそれ以上の水接触角を有する超疎水性であり得る。
【0039】
種々の実施形態において、開示された最外層120aは、約1ミクロンから約200ミクロンまで、いくつかの場合においては、約10ミクロンから約150ミクロンまで、又は約20ミクロンから約100ミクロンまでの厚さを有することができる。種々の実施形態において、ポリマーマトリックス128は、最外層120aの重量の少なくとも約50パーセント、いくつかの実施形態においては、少なくとも約60パーセント又は少なくとも約70パーセントを占めることができる。複数のフッ素化ダイヤモンド含有粒子125は、最外層120aの重量の少なくとも約1パーセント、いくつかの実施形態においては、最外層120aの重量の少なくとも約5パーセント又は少なくとも約10パーセントとすることができる。
【0040】
種々の実施形態において、最外層120は、ポリマーマトリックス128内に無機粒子のような他の充填剤をさらに含むことができる。種々の実施形態において、無機粒子は、金属酸化物、非金属酸化物、及び金属から成る群より選択することができる。具体的には、金属酸化物は、酸化ケイ素、酸化アルミニウム、酸化クロム、酸化ジルコニウム、酸化亜鉛、酸化スズ、酸化鉄、酸化マグネシウム、酸化マンガン、酸化ニッケル、酸化銅、五酸化アンチモン、及び酸化インジウムスズから成る群より選択することができる。非金属酸化物は、窒化ホウ素及び炭化ケイ素(SiC)から成る群より選択することができる。金属は、ニッケル、銅、銀、金、亜鉛、及び鉄から成る群より選択することができる。種々の実施形態において、当業者に公知の他の添加剤をダイヤモンド含有コーティング複合材料内に配合することもできる。
【0041】
種々の実施形態において、開示された最外層120、120aを調製するためにコーティング組成物を形成することができる。コーティング組成物は、例えば、複数のフッ素化ダイヤモンド含有粒子、1つ又はそれ以上のポリマー及び/又は対応する硬化剤、並びに、随意に、無機充填剤粒子又は当業者に公知の界面活性剤を分散させるための、有効な溶媒を含むように調製することができる。
有効な溶媒は、水、又はメチルイソブチルケトン(MIBK)、アセトン、メチルエチルケトン(MEK)及びそれらの混合物を含むがそれらに限定されない有機溶媒を含むことができる。適切な分散体を形成することができる他の溶媒は、本明細書における実施形態の範囲内であり得る。
【0042】
種々の実施形態は、被覆技術、押出技術及び/又は成形技術を含むがそれらに限定されない技術を用いて定着器部材100を形成するための方法を含むことができる。本明細書において用いられる場合、「被覆技術」という用語は、分散体を材料又は表面に塗工、形成、又は堆積させる技術又はプロセスのことを指す。したがって、「被覆」又は「被覆技術」という用語は特に現行の技術に限定されるものではなく、浸漬塗り、ペイント塗り、刷毛塗り、ローラ塗り、たんぽずり、吹付け塗り、スピンコーティング、キャスティング、又は流し塗りを利用することができる。例えば、ベルト又はプレートのような平坦な基材を被覆するためにはギャップコーティング(gap coating)を用いることができ、ドラム又は定着ロールのような円筒形の基材を被覆するためには流し塗りを用いることができる。被覆された部材はその後、種々の構成を有するように形成することができる。
【0043】
特定の実施形態において、コーティング組成物は、フッ素化ダイヤモンド含有粒子、TEFLON(登録商標)フッ素プラスチック、及び、随意に無機充填剤(例えば、MgO)を含む水性分散体を含むことができる。水溶液中でより良好に分散するために、フッ素化ダイヤモンド含有粒子を、例えば、−NH−(CH2n−N+123[式中nは約1から約8であり、R1、R2及びR3は各々独立して、水素、約1から約16までの炭素原子を有するアルキルである]のような四級化アミン、又は−N+456(CH2mCOO-[式中、mは約1から約8であり、R4、R5及びR6は、各々独立して、水素、及び約1から約16までの炭素原子を有するアルキルである]のようなカルボキシル化アミンでさらに修飾することができる。次にコーティング組成物をベルト基材のような基材上に堆積するか、被覆するか、又は押出することができ、その後、硬化プロセスが行われる。種々の実施形態において、最外層を形成するための硬化プロセスに先だって、コーティング組成物を、ある時間をかけて部分的に又は完全に蒸発させることができる。硬化プロセスは用いられるポリマーによって決定することができ、例えば、段階硬化プロセスを含むことができる。しかしながら、当業者に公知のいかなる硬化スケジュールも本明細書における実施形態の範囲内であり得る。
【0044】
例示的な実施形態において、被覆部材は、ベルト構造を有する定着器部材として用いることができる。図2は、本教示による、ゼログラフィ・プリンタの例示的なベルト構造の定着器サブシステム200を模式的に示す。例示的な定着器サブシステム200は、定着器ベルト100aと、定着ニップ211を形成するように取り付けられた回転可能な加圧ロール212とを含むことができる。未定着のトナー像を載せた媒体220は、定着のために定着ニップ211を通して給送することができる。
【0045】
種々の実施形態において、定着器ベルト100a及び加圧ロール212は、図1B図1Cに示されるように、ベルト基材110の上に配置された、トップコート層又は最外層120、120a、例示的なフッ素プラスチック128中に分散された複数のフッ素化ダイヤモンド含有粒子125を含むことができる。それゆえ、最外層120、120aは、連続的な自己剥離性表面、改善された機械的性質、表面耐摩耗性及び所望の熱/電気伝導性を有することができる。
【0046】
具体的には、フッ素樹脂128中に分散された複数のフッ素化ダイヤモンド含有粒子125を含む定着器部材110、100aの開示された例示的な最外層120、120aは、オイルレス定着に必要とされる低い表面エネルギー及び化学的不活性性を有する。さらに、最外層120中のフッ素化ダイヤモンド含有粒子125は、トップコートの弾性率を高め、かつ、用紙の縁部が低表面エネルギーの定着面に接触しながら摺動することができるので前縁部又は側縁部の摩耗を減少させ、長寿命の定着器部材110、110aのために望ましい。
【実施例1】
【0047】
最外層定着器材料の調製
コーティング組成物を、フッ素化ナノダイヤモンド粒子(NB90−F、フロリダ州Boca RatonのNanoblox,Inc.から入手可能な90パーセントのsp3炭素及び10パーセントのフッ素化sp2炭素)とDuPontから入手されるTEFLON(登録商標)PFA TE7224とを水中で重量比10/90で混合することによって調製する。
次に、ドローバーコーティングプロセスによって、調製されたコーティング組成物で例示的なガラス板を被覆して、膜を形成する。
膜をさらに、約300℃から約400℃、又は約360℃にて約1分間から約60分間、又は約10分間加熱して、向上した電気伝導性及び改良された機械的性質を有する熱的に安定な靱性のコーティングを形成する。このようなコーティングを最外層定着器材料として用いる。
【符号の説明】
【0048】
100:定着器部材
100a:定着器ベルト
110:ベルト基材
120、120a:最外層
125:フッ素化ダイヤモンド含有粒子
128:ポリマーマトリックス
200:定着器サブシステム
211:定着ニップ
212:加圧ロール
220:媒体
図1A
図1B
図1C
図2