特許第5718588号(P5718588)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許5718588切り屑除去機械加工用回転工具、ルーズトップ及び基体
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5718588
(24)【登録日】2015年3月27日
(45)【発行日】2015年5月13日
(54)【発明の名称】切り屑除去機械加工用回転工具、ルーズトップ及び基体
(51)【国際特許分類】
   B23B 51/00 20060101AFI20150423BHJP
【FI】
   B23B51/00 T
【請求項の数】31
【全頁数】17
(21)【出願番号】特願2010-142896(P2010-142896)
(22)【出願日】2010年6月23日
(65)【公開番号】特開2011-5632(P2011-5632A)
(43)【公開日】2011年1月13日
【審査請求日】2013年4月23日
(31)【優先権主張番号】0900845-9
(32)【優先日】2009年6月23日
(33)【優先権主張国】SE
(73)【特許権者】
【識別番号】507226695
【氏名又は名称】サンドビック インテレクチュアル プロパティー アクティエボラーグ
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100092624
【弁理士】
【氏名又は名称】鶴田 準一
(74)【代理人】
【識別番号】100102819
【弁理士】
【氏名又は名称】島田 哲郎
(74)【代理人】
【識別番号】100112357
【弁理士】
【氏名又は名称】廣瀬 繁樹
(74)【代理人】
【識別番号】100154380
【弁理士】
【氏名又は名称】西村 隆一
(74)【代理人】
【識別番号】100157211
【弁理士】
【氏名又は名称】前島 一夫
(72)【発明者】
【氏名】オーケ ダニエルソン
【審査官】 大川 登志男
(56)【参考文献】
【文献】 特開平11−197923(JP,A)
【文献】 特開2005−169542(JP,A)
【文献】 特開昭55−070512(JP,A)
【文献】 特表平11−500967(JP,A)
【文献】 欧州特許出願公開第01358979(EP,A2)
【文献】 特表2002−501441(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23B 51/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
切り屑除去機械加工のための回転工具であって、
一方において、前端と後端(4,5)を有し、前端と後端(4,5)の間に第1の中心軸(C1)が延伸する基体(1)であって、包絡面(6)が中心軸と同心であり、中心軸のまわりで回転できる基体(1)を備え、
他方において、前端と後端(9,10)を含み、前端と後端(9,10)の間に第2の中心軸(C2)が延伸し、包絡面(11)が第2の中心軸(C2)と同心であるルーズトップ(2)を備え、
基体(1)の前端は、二つのトルクを伝達するドライバ(27a、27b)と中間底面(28)によって画定されるジョー(26)を含み、ジョー(26)がルーズトップ(2)の後方結合部(22)を受け入れることができ、
後方結合部(22)から軸方向後方に突出するセンターピン(24)がジョー(26)の中間底面(28)に開口し孔壁を有するセンターホール(29)に挿入可能であり、
孔壁は基体の内側に軸方向に延び、孔壁に第3の中心軸(C3)と同心であるねじ溝つきのラジアルホール(30)が開口し、該ラジアルホールは基体の外側からアクセスできるセンターピン(24)と協働動作するねじ(31)のためのものであり、
ルーズトップ(2)後方結合部(22)が一対の外側接触表面(33、33)を備え、基体(1)二つのドライバ(27a、27b)が内側支持表面(41)をそれぞれ前記後方結合部(22)の前記一対の外側接触表面(33、33)と前記二つのドライバ(27a、27b)の内側支持表面(41)とが接触することによって、前記ルーズトップ(2)と前記ドライバ(27a、27b)との間でトルクを伝達する回転工具において、
ルーズトップ(2)の後方結合部(22)が側方に突出する二つの雄部材(32a,32b)を含み、二つの雄部材(32a,32b)がドライバ(27a、27b)の内側の対応する二つのシート(39)と軸方向にロックする位置で係合するように配置され、
ルーズトップ(2)センターピン(24)が、前記ねじ(31)によって回される手段(51a)を含むことを特徴とする工具。
【請求項2】
ルーズトップの後方結合部(22)が、細長く、直径方向で対向する二つの軸方向接触表面(23)の間に位置し、該軸方向接触表面(23)が二つのドライバ(27a、27b)の自由端の軸方向支持表面(38)を押しつけることを特徴とする請求項1に記載の工具。
【請求項3】
個々の雄部材が細長い隆起(32a,32b)の形であり、個々のシートがふくらみ(40)の背後に位置する細長い樋(39)である、ことを特徴とする請求項1又は2に記載の工具。
【請求項4】
ルーズトップの後方結合部(22)上の個々の雄部材(32a,32b)が、トルクを受ける外側接触表面(33)を含み、
外側接触表面(33)に軸方向接触表面(23)から軸方向に間隔をあけて中心軸(C2)と直角方向に延びる基準面(RP)が交わり、
外側接触表面(33)が基準面(RP)に対して後方/外向き方向に、凹のアール移行部(34)から個々の軸方向接触表面(23)の側へ傾斜しており、
ドライバ(27a、27b)の個々の樋(39)がトルクを伝達する内側支持表面(41)を含み、
内側支持表面(41)がジョーの底面(28)の方へ後方/外向き方向に傾斜している、
ことを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の工具。
【請求項5】
個々の隆起(32a,32b)及び個々の樋(39)が周縁の外側端(43,46)と中心軸(C)の付近の内側端(45,47)との間で延びている、ことを特徴とする請求項3又は4に記載の工具。
【請求項6】
ルーズトップ(2)の二つの隆起(32a,32b)が軸方向背後から見たときに異なる輪郭形状を有し、樋(39)の前に位置するドライバ(27a,27b)のふくらみ(40)が軸方向前方から見たときに異なる輪郭形状を有し、これらの輪郭形状が、後方結合部(22)をジョー(26)にひとつの予め定められた以外の仕方で軸方向に挿入する事を不可能にするように互いに対応していることを特徴とする請求項1〜5のいずれか1項に記載の工具。
【請求項7】
ルーズトップ(2)の後方結合部(22)上の隆起の少なくともひとつ(32a)が、折れ曲がった二つの部分であり、周端(36)から内側へ分断点(48)まで延びる第1の部分(32c)と、第1の部分に対して鈍角で接続し、分断点(48)から隆起の内側端(37)まで延びる第2の部分(32d)とを含み、
基体(1)の二つのドライバのひとつ(27a)の協働動作するふくらみ(40)が、折れ曲がった二つの部分からなり、周端(43)から内側への分断点(44)まで延びる第1の部分と、第1の部分に対して鈍角接続し、分断点(44)から内側端(45)まで延びる第2の部分と、
を含むことを特徴とする請求項6に記載の工具。
【請求項8】
隆起の一方(32a)の第1の部分(32c)が、周端(36)から延びる他方の隆起(32b)の対応す部分よりも短いことを特徴とする請求項7に記載の工具。
【請求項9】
ルーズトップ(2)のセンターピン(24)の断面積が基体(1)のセンターホール(29)の断面積より小さく、センターピン(24)で回される手段は、ねじ(31)を押しつけることができるショルダー表面(51a)であることを特徴とする請求項1〜8のいずれか1項に記載の工具。
【請求項10】
センターピン(24)が、ショルダー表面(51a)の反対側にあって、二つの軸方向にている境界母線(53a,53b)の間で接戦方向に延びている凸の接触表面(50)を含み、
二つの境界母線(53a,53b)は、前記センターホール(29)の想像上の外接円(S1)に沿って位置し、それによって前記接触表面(50)の両端が規定され、前記外接円(S1)の中心がルーズトップの中心軸(C2)と合致し、二つの境界母線(53a,53b)の間の円弧角(α)が180°より小さく、
接触表面(50)は、境界母線を介して、外接円(S1)から内向きに間隔があき、センターホール(29)の孔壁から間隔があいた二つの逃げ面(54a,54b)に変わってゆく、
ことを特徴とする請求項9に記載の工具。
【請求項11】
センターピン(24)のショルダー表面(51a)が平面である、ことを特徴とする請求項9又は10に記載の工具。
【請求項12】
センターピン(24)の逃げ面(54a,54b)が想像上の円(“S2”)によって定められる曲率半径を有し、その中心(M)がルーズトップの中心軸に対して偏心している、ことを特徴とする請求項10又は11に記載の工具。
【請求項13】
センターホール(29)が円筒形である、ことを特徴とする請求項9〜12のいずれか1項に記載の工具。
【請求項14】
ルーズトップのセンターピン(24)上の接触表面(50)が円筒状である、ことを特徴とする請求項13に記載の工具。
【請求項15】
ルーズトップのセンターピン(24)上の接触表面(50)が楕円筒状である、ことを特徴とする請求項13に記載の工具。
【請求項16】
切り屑除去機械加工用の回転工具のためのルーズトップであって、前端と後端(9,10)を含み、前端と後端(9,10)の間に中心軸(C2)が延伸し、中心軸(C2)と一対の包絡部分表面(11)が同心であり、後方結合部(22)からセンターピン(24)が突出しているルーズトップにおいて、
後方結合部(22)が、前記回転工具の基体(1)の軸方向支持表面(38)を押しつける二つの軸方向接触表面(23)を分離すると共に、側方に突出する二つの雄部材(32a,32b)を含み、二つの雄部材(32a,32b)は、軸方向接触表面(23)から軸方向に間隔があいており、基体(1)のジョーから後方結合部(22)が抜け出ることを防ぎ、
センターピン(24)は、該センターピン(24)が回されることによってルーズトップ全体を回わすことを可能にする手段(51a)を含む、ことを特徴とするルーズトップ。
【請求項17】
後方結合部(22)は、細長く、二つの包絡部分表面(11)の間で直径方向に延びていることを特徴とする請求項16に記載のルーズトップ。
【請求項18】
個々の雄部材(32a,32b)が、前記基体(1)の内側支持表面(41)と接触してトルクを受ける一対の外側接触表面(33、33)を含み、外側接触表面(33)に軸方向接触表面(23)から軸方向に間隔をあけて中心軸(C2)と直角方向に延び基準面(RP)が交わり、外側接触表面(33)が基準面に対してアール移行部(34)から個々の軸方向接触表面の方へ後方/外向きに傾斜している、ことを特徴とする請求項16又は17に記載のルーズトップ。
【請求項19】
個々の雄部材が細長い隆起(32a、32b)であり、後方結合部(22)の一部に沿い、周縁の外側端(36a、36b)と中心軸(C2)の近くの内側端(37a、37b)の間で延びている、ことを特徴とする請求項18に記載のルーズトップ。
【請求項20】
後方結合部(22)の両側の二つの隆起(32a、32b)が異なる形を有する、ことを特徴とする請求項19に記載のルーズトップ。
【請求項21】
隆起の少なくとも一方(32a)が折れ曲がった二つの部分を含み、後方結合部(22)の周縁端から内向きに分断点(48)まで延びる第1の部分(32c)と、第1の部分に対して鈍角で接続し、分断点から内側端(37a)まで延びる第2の部分(32d)を含む、ことを特徴とする請求項20に記載のルーズトップ。
【請求項22】
隆起の一方(32a)の第1の部分(32c)が、周縁端から続く他方の隆起(32b)の対応する部分より短い、ことを特徴とする請求項20又は21に記載のルーズトップ。
【請求項23】
センターピン(24)が回される手段が、前記センターピン(24)上の接触表面(50)と反対側にある平面のショルダー表面(51a)である、ことを特徴とする請求項16〜22のいずれか1項に記載のルーズトップ。
【請求項24】
接触表面(50)が、前記センターホール(29)の想像上の外接円(S1)に沿って位置し、前記接触表面(50)の両端を規定する二つの軸方向に延びる境界母線(53a、53b)の間で接戦方向に延び、前記外接円(S1)の中心がルーズトップの中心軸(C2)と合致し、二つの境界母線(53a、53b)の間の円弧角(α)が180°より小さく、
接触表面(50)は境界母線を介して、外接円から内側に間隔があいた逃げ面(54a、54b)に移行してゆく、ことを特徴とする請求項23に記載のルーズトップ。
【請求項25】
センターピン(24)上の接触表面(50)が円筒状である、ことを特徴とする請求項23又は24に記載のルーズトップ。
【請求項26】
逃げ面(54a、54b)が想像上の円(S2)によって定められる曲率半径を有し、その中心(M)はルーズトップの中心軸(C2)に対して偏心している、ことを特徴とする請求項24又は25に記載のルーズトップ。
【請求項27】
ショルダー表面(51a)がセンターピン(24)の全長に沿って延びている、ことを特徴とする請求項23〜26のいずれか1項に記載のルーズトップ。
【請求項28】
切り屑除去機械加工用の回転工具の基体であって、
前端と後端(4,5)を含み、前端と後端(4,5)との間に中心軸(C1)が延伸し、中心軸(C1)のまわりで基体が回転でき、包絡面が中心軸(C1)と同心であり、
前端がジョー(26)を含み、ジョー(26)がトルクを受ける二つのドライバ(27a,27b)と中間底面(28)によって画定され、
ジョー(26)に孔壁を有するセンターホールが開口し、センターホールが軸方向に基体の内側へ延び、センターホールにはラジアルホール(30)が開口し、開口はねじ(31)のための雌ねじ溝を含み、かつセンターホールと包絡面の間に貫通する基体において、
ドライバ(27a,27b)の自由な前端が、協働動作するルーズトップのための支持表面(38)を構成し、ドライバの内側にシート(39)が凹んで設けられ、シート(39)がジョーの中心に向かって内向きに開いている、
ことを特徴とする基体。
【請求項29】
個々のシート(39)がトルクを伝達する内側支持表面(41)によって画定され、軸方向支持表面(38)から軸方向で後方に間隔をあけて中心軸(C1)と直角方向に延びる基準面(RP)がそれと交わり、内側支持表面が基準面に対して内向き/前方の方向に傾斜している、ことを特徴とする請求項28に記載の基体。
【請求項30】
個々のシートが細長い樋(39)であり、樋(39)が個々のドライバに沿って、周縁の外側端と中心軸の近くにある内側端の間で延びる、ことを特徴とする請求項28又は29に記載の基体。
【請求項31】
二つの樋(39)が膨らみ(40)の背後に軸方向に形成され、膨らみ(40)が軸方向から見て異なる輪郭形状を有する、ことを特徴とする請求項30に記載の基体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
第1の様態で、本発明は、切り屑除去機械加工のための回転工具であって、一方で基体を含み、他方でルーズトップを含んで成るタイプの回転工具に関する。基体は、前端と後端を有し、その間に第1の中心軸が延伸し、それと包絡面が同心であり、そのまわりで基体が回転できる。ルーズトップは、前端と後端を有し、その間に第2の中心軸が延伸し、それと包絡面が同心である。基体の前端は、二つのトルク伝達ドライバと中間底面によって画定され、ルーズトップの後方結合部が受け入れられるジョー有し、この結合部から軸方向後方に突出するセンターピンが、ジョーの底面に開口し孔壁を有するセンターホールに挿入可能であり、孔壁は基体の内側で軸方向に延伸し、第3の中心軸と同心なねじ溝がある孔が開口し、前記の孔はピンと協働動作するねじのためのものであり、基体の外側からそれにアクセスすることができ、その他にルーズトップの結合部と基体のドライバはトルクと軸方向の力をそれらの間で伝達するための協働動作する接触表面と支持表面の対を含む。
【0002】
別の様態で、本発明はまた、このようなルーズトップと基体そのものに関する。
【0003】
問題としているタイプの工具は、鋼、鋳鉄、アルミニウム、チタン、イエローメタル、などの金属のワークピースの切り屑除去又は切削機械加工に適する。この工具はいろいろなタイプの複合材料の機械加工にも使用できる。
【背景技術】
【0004】
10年以上前から、一体型の工具と異なり、二つの部分から、すなわち基体とそれに着脱可能に結合された、したがって交換可能な、ヘッドから構成され、このヘッドに必要な刃が含められる工具、例えばシャンクエンドミルの形の孔あけ工具、並びにフライス削り工具、が開発されている。こうすると、工具の大きな部分は小さな弾性率の比較的安価な材料、例えば鋼、で製造することができ、小さな部分、すなわちヘッドはもっと硬い高価な材料、例えば超硬合金、サーメット、セラミックなど、から製造することができ、必要な切れ刃、良い切り屑除去能力、高い加工精度、及び長い使用寿命が得られる。別の言い方をすると、ヘッドは摩耗した後で廃棄できる摩耗部分となり、基体は何回でも(例えば10回から20回取り替えて)再使用できる。このような切れ刃がついたヘッドは“ルーズトップ”という呼び名が現在では認められており、この明細書でも以下ではこの呼び方が用いられる。
【0005】
ルーズトップタイプの回転工具には、複数の必要条件が課されるが、そのひとつは、回転する駆動される基体からトルクが信頼できる仕方で、交換可能なルーズトップに伝達されなければならないということである。さらに、基体は、穴あけなどの動作中にルーズトップに加わる後方へのポジティブな軸方向の力に問題なく耐えることができなければならない。もうひとつの必要条件は、ルーズトップは正確かつ信頼できる仕方で基体に対して中心を合わせて保持されなければならないということである。したがって、ルーズトップの中心軸と基体の中心軸の間の意図されない偏心は0.01mm以下でなければならない。最も好ましくは、正確な中心合わせが達成できない場合、それは0.005mmより小さくなければならない。穴あけ工具で特に重要な別の必要条件は、穴を開けているときだけでなく、穴あけ工具を穴から引き抜くときにルーズトップに軸方向の引っ張り力が加わり、基体のジョーからそれを引き出すようにそれが作用してもルーズトップは基体に対して固定して保持されなければならないということである。さらに、ユーザーの側からの要求又は希望として、駆動する機械から基体を取り外すことを必要とせずにルーズトップを迅速かつ簡単に取り付けたり外したりできるということがある。さらに、工具は、特に高価な材料で作られるルーズトップは、低いコストで製造できなければならない。
【0006】
ルーズトップタイプの穴あけ工具、並びにフライス削り工具(シャンクエンドミル)は広く知られており、設計の基本となっている考え方によっていくつかの異なるカテゴリーに分けられる。したがって、基体のジョーにおけるドライバとしてフレキシブルで弾性的に曲げることができるブランチを用いることをベースとする第1のカテゴリーの工具と、ドライバとして曲がらない(non-compliant)固定したラグ(lug)を用いる第2のカテゴリーの工具との間には決定的な境界線がある。第1のカテゴリーの工具では、ルーズトップの取り付けに関連してブランチは外へ曲げられ、ルーズトップは基体のジョーに弾力的にクランプされる。このような工具の一般的な利点は、ルーズトップのクランピングが本質的にブランチに内在する弾性以外の手段なしに行われることである。言い換えると、別の締め付け又は固定手段、例えばねじという形での手段は必要でない。
【0007】
しかし、ドライバがフレキシブルなブランチから成ることの短所は、ブランチに内在する弾性が工具をある一定時間使用すると低下する危険があることである。何個かのルーズトップを交換したとき、ブランチは弾性的ではなく塑性的に変形し、クランプする力が順次低下するようになる。これはいろいろな点で不利になる。特に、ルーズトップが基体に対して正確に中心合わせができなくなる危険がある。さらに、ルーズトップをジョーから軸方向に引き抜くことにブランチが対抗する能力が大きく損なわれる可能性がある。これは特に穴あけ工具にとって不利であり、工具をあけた穴から引き抜くときにルーズトップが穴に残る危険がある。
【0008】
第2のカテゴリーの工具、すなわちトルクを伝達するドライバが曲がらない工具としては、特許文献1に開示された穴あけ工具がある。この場合、ルーズトップの後方結合部は二つの曲がらないドライバの間でジョーに軸方向に挿入され、ドライバの内側にはトルクを伝達する軸方向に延びる隆起があってルーズトップの結合部の対応する樋(chute)と係合し、そのわきでルーズトップから後方へ突出するセンターピンが基体に形成されジョーの底面に開口している穴に挿入される。このピンと、基体のラジアルホールに取り付けられるラジアルねじが協働動作して、基体に対してルーズトップを固定し中心合わせする。
【0009】
しかし、特許文献1に開示された穴あけ工具の欠点は、工具に課せられるいくつかの必要条件が両立させにくいものであって、実際にそれを製造することが、不可能とまでは言わないが、難しいということである。したがって、中心合わせを受容できるものにするためには、ルーズトップの中心合わせを目的とするドライバと結合部の、それぞれ凹と凸の接触表面の間の精密なフィットが必要である。しかし、接触表面の間のきわめて精密なフィットは、取り付け並びに取り外しを実行することが困難であるということを意味する。もうひとつの欠点は、ルーズトップに作用するすべてのネガティブな(引き抜く)軸方向の力は、ピンを介するラジアルねじだけで担わなければならないということである。この任務を果たすには、ラジアルねじは頑丈でなければならない。さらに、ルーズトップのセンタリングピンと基体の穴の間のフィットも精密でなければならない。すなわち、このフィットが大きいと(例えば0.1mm)、ラジアルねじは、締めたときにピンに、そしてそれによってルーズトップに、半径方向の力を及ぼし、それがルーズトップを中心位置からずらすように働く。フィットが精密(例えば、約0.01mm)であると、ピンを穴に押し込もう又は穴から引き抜こうとするとき、打ち勝つことが難しい摩擦抵抗が生ずる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】米国特許第6012881号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明は、従来の工具の上述した欠点を軽減し、改良されたルーズトップ工具、特に穴あけ工具を提供することを目指している。したがって、本発明の第1の目的は、ルーズトップがかなりのネガティブな軸方向の力を受けた場合でもルーズトップを基体のジョーに信頼できる仕方で保持することができるルーズトップ工具を提供することである。さらに、本発明は基体に対してルーズトップをきわめて正確に中心合わせできるようにすることを目指している。本発明のさらなる目的は、不利な摩擦抵抗を考慮する必要がなく単純で容易な仕方でルーズトップを取り付けることができるルーズトップ工具を提供することである。さらに、中心合わせはルーズトップの後方ピンによって行われ、中心合わせがピンと受け入れる穴の協働動作する接触表面以外の面と無関係になるようにしなければならない。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明によって、少なくとも第1の目的は、請求項1の特徴部分によって達成される。本発明による工具の好ましい実施形態はさらに従属請求項2〜15に定義されている。
【0013】
別の様態では、本発明はまたルーズトップそのものに関する。このルーズトップの決定的な特徴は独立請求項16に定義され、その他に好ましい実施形態が従属請求項17〜27に定義されている。
【0014】
第3の様態では、本発明はまた基体そのものに関する。基体の特徴は、主に独立請求項28,並びに従属請求項29〜31に見られる。
【0015】
本発明は必要な中心合わせ機能と軸方向ロッキング機能を互いから切り離し、同時にルーズトップの簡単な取り付け及び取り外しを、それぞれ、確実にするというアイディアに基づいている。これは、ルーズトップの後方結合部の二つの対向する雄部材が、ルーズトップをジョーに軸方向でドライバの間にロックするために、ドライバの内側の対応する雌シートと協働動作することを可能にすることで実現される。そうすることで、ルーズトップの中心合わせは本質的に後方ピンだけによって行われ、それがユニークなデザインによって基体に対するルーズトップのきわめて正確な中心合わせを可能にし、しかもそれによってルーズトップを、取り付け及び取り外しするのに困難を生じない。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】穴あけ工具の形のルーズトップ工具を示す部分切断斜視図であり、その基体とルーズトップが組み立てられた状態を示す。
図2】基体から分離されたルーズトップを示す分解斜視図である。
図3】基体に含まれるジョーを上からの斜視図で示し、ルーズトップを下からの斜視図で示す拡大分解図である。
図4】ルーズトップを示す上からの斜視図である。
図5】ルーズトップを前から見た端面図である。
図6】ルーズトップの側面図である。
図7】ルーズトップを後から見た端面図である。
図8】もうひとつのルーズトップの側面図であり、図6に対して90度の角度で見た図である。
図9】基体とルーズトップの上からの分解斜視図である。
図10】基体を前から見た端面図である。
図11】組み立てられた工具の拡大細部断面図である。
図12】基体から離れたルーズトップを示す同様の細部断面図である。
図13】基体の前部を示す部分側面図である。
図14】基体から分離したねじを示す図13の線A−Aでの断面図である。
図15】基体のラジアルホールに挿入されているねじを示す図13の線A−Aでの断面図である。
図16】ルーズトップに含まれるセンタリングピンの幾何デザインを示す拡大概略図である。
図17】センタリングピンの別の実施形態を示す同様の図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下の説明とクレームでは、それぞれ基体とルーズトップの表面のいくつかの協働動作する対が記載される。これらの表面が基体に存在する場合、それは“支持表面”と呼ばれ、ルーズトップの対応する表面は“接触表面”と呼ばれる(例えば、それぞれ、“軸方向支持表面”と“軸方向接触表面”)。
【0018】
図では、本発明によるルーズトップ工具は穴あけ工具の形、詳しくはツイストドリル、すなわちその切り屑フルートがらせん形であるドリル、の形で例示される。図1と2に見られるように、工具は、基体1とルーズトップ2を含み、必要な切れ刃3はルーズトップ2に含まれる。図1による組立てられた動作する状態で、穴あけ工具はCで示された中心軸のまわりで、詳しくは回転Rの方向に、回転できる。図2では、基体1が前端と後端4,5を含み、その間に基体に特有な中心軸C1が延伸していることが見られる。前端4から後方へ円筒状の包絡面6が延び、そこに二つの切り屑フルート7が食い込んでおり、それはこの場合らせん形である(本発明は真っ直ぐな切り屑フルートを有するいわゆるタップボーラーにも適用できる)。この例では、切り屑フルート7は、駆動機械(図示せず)に取り付けられるための後部8に含まれるカラーで終わっている。
【0019】
ルーズトップ2も、前端と後端9,10と自身の中心軸C2を含み、二つの凸包絡部分表面11がそれと同軸である。これらの表面11の間に、二つのらせん形切り屑フルート又は切り屑フルート部12が食い込んでおり、ルーズトップを基体に取り付けたときにそれは基体1の切り屑フルート7の延長になっている。ルーズトップ2を基体に対して正しく中心合わせした場合、個々の中心軸C1とC2は組み立てられた穴あけ工具の中心軸Cと合致する。
【0020】
基体1の主要部分は本発明に関連した興味が乏しいので、以下ではその前端部分だけをルーズトップ2と合わせて図示する、もっと正確に言うと拡大して図示する。
【0021】
次に他の図面を参照すると、そのうち図3と9は基体1の切り屑フルート7がらせん形境界線14,15の間に延びる凹表面13によって画定される様子を示している。同様に、ルーズトップ2の各切り屑フルート12を画定する凹表面13を含む。
【0022】
ルーズトップの前端9(図4と5参照)には切れ刃3が含まれるが、これは複数の部分表面で構成される端表面で表され、それらはペアで同一であり、したがって個別に記載しない。個々の切れ刃3の背後に、回転方向Rで見て、1次逃げ面16が形成される。これは小さな逃げ角を有し、もっと大きな逃げ角を有する2次逃げ面17に変わってゆく。逃げ面17は第3の逃げ面18に変わり、それがさらに凹のアーチ状境界線19を経て切り屑フルート12に変わってゆく。各2次逃げ面17に、洗浄媒体のダクト20が開口している。個々の切り屑フルート12の凹の限界表面13は軸方向に、境界線19までだけでなく、個々の切れ刃3までにも延び、そこでそれに隣接する切り屑表面を形成する。各表面13と(回転で)あとを追う包絡面11の間の移行部分に、ガイドパッド21が形成されるが、その主な目的は穴を作るときに穴あけ工具をガイドすることである。また、ガイドパッド21は、生成される穴の壁の表面仕上げにも用いられる。生成される穴の直径は、切れ刃3がガイドパッド21と出会う周縁ポイント3a,3bの間の直径上の距離によって決定される。また、切れ刃3はフロント先端3cに収斂して互いに鈍角の、例えば120-160°の範囲にある、ノーズ角を形成することも言っておかなければならない。
【0023】
図3では、さらに、ルーズトップ2は全体が22で表される結合部を含み、それが直径方向で対向する軸方向接触表面23の間に位置していることが見られる。センタリングピン24が結合部22の後方端表面25から軸方向後方へ突出している。
【0024】
基体1には、ジョー26(図3参照)が形成され、それは二つの直径方向で離れているドライバ27a、27b、並びに中間底面28によって画定される。底面28には、センターホール29が開口し、そこにピン24を挿入できる。ドライバ27a、27bは(弾性的に曲がるブランチと異なり)本質的に曲がらないラグである。図14に最もよく見られるように、貫通孔30がセンターホール29と基体の包絡面6の間に径方向に延びている。貫通孔30をセンターホール29と区別するために、以下ではこれを“ラジアルホール”と呼ぶ。ラジアルホール30の中心軸をC3で表されるが、ラジアルホール30には雌ねじ溝が含まれ、それはねじ31の雄ねじと協働動作し、ピン24と協働動作するように配置される。
【0025】
従来の工具に含まれ、ルーズトップを軸方向にロックすることを目的とするラジアルねじと異なり、本発明による工具のラジアルねじはピン24を回し、それによってルーズトップ全体を回し、その後それを与えられた回動位置に保持することだけを目的とする。ルーズトップの軸方向のロッキングは他のもっと信頼できる手段によって、すなわち以下でもっと詳しく見るように、結合部とドライバに含まれる協働動作する雄と雌部材によって保証される。
【0026】
ルーズトップの結合部22は、長く細い、すなわち細長いレール状の基本形を有し、二つの対向する包絡部分表面11の間に直径方向に延びている。対向する側面に、結合部は一対の側方へ突出する雄部材32a、32bを有し、この例ではそれは長く細い隆起の形である。このような隆起の各々はトルクを受ける外側接触表面33で画定されおり(図12参照)、この場合それは平面であり、軸方向接触表面23から間隔をあけてルーズトップの中心軸C2と直角に延びる基準面RPがそれと交わっている。各外側接触表面は規準面RPに対して傾斜している、もっと正確に言うと、凹のアール移行部34から個々の軸方向接触表面23の側へ後方/外向きの方向に傾斜している。その後端で、外側接触表面33は凸のアール移行部35に変わり、結合部の平面の端面25になる。個々の外側接触表面33と規準面RPの間の角度(表示なし)は、この例では約80°であるが、上下に変動する可能性がある。
【0027】
図7で、一方の隆起32aが包絡部分表面11のひとつに隣接する周端36aからルーズトップの中心の近くの内側端37aまで延びており、他方の隆起32bが周端36bからルーズトップの中心のエリアの内側端37bまで延びていることが見られる。隆起は個別に結合部22の長さのほぼ半分に沿って延び、切り屑フルート表面13で終わっていることに留意されたい。
【0028】
ルーズトップの軸方向接触表面23(図3参照)は、ドライバ27a、27bの自由端の軸方向支持表面38と協働動作する。この例では、軸方向支持表面38,並びに軸方向接触表面23は平面である。ドライバの内側に樋39(図12参照)が形成され、これが雌部材として働いて、ルーズトップの結合部22の雄部材32a、32bと協働動作する。図12に最もよく見られるように、ドライバ27aの個々の樋39は、樋に含まれる内側支持表面41並びに内側支持表面41と軸方向支持表面38の間の移行部を形成する面取り表面42によって画定されるふくらみ42の背後に軸方向に形成される。凹のアール移行部43を経て、内側支持表面41はジョーの底面28に変わってゆく。ルーズトップの外側接触表面33と同様に、内側支持表面41も平面であり、基体の軸方向支持表面38から間隔をあけ中心軸C1と直角に交わっている基準面RPに対して傾斜している。実際には、内側支持表面41と協働動作する外側接触表面33はそれぞれの基準面に対してほぼ同じ傾斜角(例えば、10°)を有する。ルーズトップ2の表面23と25の間のレベル差(図12参照)は、基体の表面38と28の間のレベル差より少し小さい。したがって、ルーズトップが、動作状態で、基体のジョーにおける結合部に取り付けられているとき、軸方向接触表面23は軸方向支持表面38に押しつけられるが、結合部の後端表面25はジョーの底面28に接触しない(図11参照)。
【0029】
ルーズトップ2がねじ31に対して常に正しい所定の仕方で取り付けられるようにするために,隆起32a、32bにはふくらみ40と同様に非対称な輪郭形状が与えられる。基体1が軸方向前方から示されている図10に見られるように、左側に示されたふくらみ40(ドライバ27a上の)は二つの部分40c、40dに分解され、そのひとつである第1の部分40cは周端43から内側へ分断点44まで延び、そこで第2の部分40dに変わり、部分40c、40dは互いに対して鈍角(この例では、約172°)を成す。また、ふくらみの内側端45はセンターホール29の近くに位置していることも注意される。もっと詳しく言うと、ふくらみ40は切り屑フルート7のひとつまで延びている。他方のふくらみ40(ドライバ27b上の)は周端46から他方の切り屑フルート7に隣接する内側端47までの全長に沿って真直である。図7に見られるように、ルーズトップの結合部22上の隆起32aも同様に角度的に二つの部分32c、32dに分解され、そのうち第1の部分32cは周端36aから分断点48まで延び、そこで他方の部分32dに変わり、それに対して鈍角(172°)を成す。隆起32aの内側端37aはピン24の近くに位置している。対向する隆起32bは略真直であるが、その内側端で角度がある短い部分32eに変わってゆく。これは、結合部を基体のジョーに軸方向に挿入できるようにするためだけのものである。
【0030】
上述した非対称性によって、ルーズトップの結合部22だけが、所定の単一の仕方でジョー26に挿入できることが保証されることは明らかであろう。その理由は以下でさらにはっきりする。
【0031】
本発明に係わる工具の図示された好ましい実施形態では、ルーズトップ2の中心合わせは、ラジアルねじ31と協働するルーズトップのピン24のユニークなデザインによって可能になる。ピンの第1の実施形態は図16の概略図に示されている。そこでは穴9の壁が円筒形であると想定して一点鎖線の円S1で示され、その中心は基体の中心軸C1と合致する。同時に、円S1はピン24のまわりに外接する円を構成し、ピンの中心はルーズトップの中心軸C2と合致する。ルーズトップが中心合わせされると、個別の中心軸C1とC2は構成された工具の中心軸Cと合致するので、図16には中心軸Cだけが示されている。ピン24は直径方向で対向する二つの部分表面で構成され、そのうち第1の部分表面50は接触表面を形成し、この場合それは円筒状の基本形を有し、ほぼ図3で52と記されている表面フィールドで穴の壁に押しつけられる。表面フィールド52はラジアルホール30の反対側に位置している。接触表面50(図16参照)は外接円S1に沿って位置する軸方向に延びる二つの境界母線53a、53bの間で接線方向に延びる。接触表面50の接線方向の延長は、円弧角αによって決定され、それは本発明によれば180°より小さい。図16の例では、αは170°になる。二つの境界母線53a、53bで、接触表面は二つの逃げ面54a、54bに変わってゆく。これらは51と記された第2の部分表面に含まれ、それには平面のショルダー表面51aも含まれる。二つの逃げ面54a、54bは円筒状であり、想像の共通円S2に接し、その中心Mは外接円S1の中心、すなわち中心軸C、に対して偏心している。図16からはっきりと見られるように、二つの逃げ面54a、54bは円形ラインS1,すなわち穴29の孔壁、から間隔があいており、円S1とそれぞれの逃げ面の間の径方向距離は境界母線53a、53bから逃げ面が平面のショルダー表面51aに変わってゆく境界母線55a、55bの方へ順次大きくなっている。この幾何形状によって、二つの逃げ面54a、54bはルーズトップの動作エンド位置で孔壁と接触するようにならないことが保証される。さらに、この幾何形状の結果、ピン24の中心軸と境界母線53a、53bの間で画定される接触表面50に沿った任意の点との間の径方向距離Rは常に等しい大きさであり、孔壁と基体の中心軸の間の対応する径方向距離と一致する。このことは、接触表面50が(ねじ31によって)孔壁に押しつけられると、ピンはその中心軸C2と共に確実に穴の中心軸C1と合致する位置になるということを意味する。正確な中心合わせを保証するために、ピンの接触表面50をきわめて高い寸法精度で、例えば精密研削によって、作ることができる。このようにして寸法のずれが0.01mm(以下)になることが保証される。
【0032】
図16では、ラジアルホール30の中心軸C3は一点鎖線で示されている。中心軸に対して、ピン24は基体のジョー26において初期位置をとっており、そこでは平面の部分表面51aは角度βで傾斜しているが、この例ではそれは115°となる。
【0033】
上述したことから、ピン24の断面積は穴29の断面積よりも小さいということは自明であろう。
【0034】
図17に、ピン24の別の実施形態が示されている。この場合も穴29の孔壁は円筒状であり、その断面積はピン24の断面積より大きい。この場合、ピン24の接触表面は円筒状でなく、接触表面の接線方向の延長を決定する二つの境界母線53a、53bの間で楕円形である。こうすることによって、接触表面と孔壁の間に三日月型のギャップ56が発生し、ピンは二つの別々の場所、すなわち境界母線53a、53bに沿って孔壁と線接触できる。接触表面50に高い寸法精度を付与することによって、ピン(及びルーズトップ)の中心軸と境界母線53a、53bの間の径方向距離又は半径R1を、この場合も孔壁と基体の中心軸の間の半径R2と正確に等しい大きさにすることができる。したがって、ねじが傾斜したショルダー表面に押しつけられると、ピンがどの位置に回されるかに関わりなくルーズトップの正確な中心合わせが得られる。
【0035】
実際には、境界母線53a、53bの間の円弧角αは、少なくとも90°、高々175°でなければならない。
【0036】
ルーズトップを基体のジョー26に取り付けるとき、ねじ31は、その内側端が基体のセンターホール29から出ている初期位置で保持される。この状態で、ルーズトップ2の結合部22が軸方向にドライバ27a、27bの間に挿入され、ピン24がセンターホール29にはまり込む。ピンの断面積がセンターホールの断面積よりも小さいので、センターホールへのピンの挿入は何の困難もなく行うことができる。結合部とピンの最初の挿入の間、ルーズトップの軸方向接触表面23はドライバ27a、27bの軸方向支持表面38に押しつけられてそこに静止する(表面25と28は互いに接触することなく)。次に、ルーズトップがその動作エンド位置に回される。これは最初手で行うことができ、その後にねじ31が締められる。そうすることで、ねじはピンのショルダー表面51aに押しつけられ(図15参照)、これがラジアルホール30の中心軸C3に対して傾斜しているため、ピンは、結合部22の外側接触表面33が圧されてドライバ27a、27bのそれぞれの内側支持表面41と密に接触するようになるまで回される。こうして、ルーズトップ2はきわめて効率的な仕方で軸方向にロックされる、もっと詳しくは隆起32が結合部22の雄部材として働き、樋39が基体のドライバ27a、27bにおける雌部材として働く。軸方向にロックされたこの位置で、ねじ31がピンを想定された角度位置にロックする限り、ルーズトップは信頼できる仕方で保持される。ルーズトップの回し込みに関連して、協働する外側接触表面33と内側支持表面41の傾斜は、軸方向接触表面23を軸方向支持表面38に押しつけようとするポジティブな軸方向の力がそれに作用するということを意味する。
【0037】
本発明の根本的な利点は、ルーズトップに作用するネガティブな(引き出す)軸方向の力が協働動作する雄と雌部材、すなわち隆起と樋によって担われ、センタリングピンによって担われないということである。さらに、センタリングピンのユニークなデザインを用いると、基体に対するルーズトップのきわめて正確な中心合わせが得られる。さらに、ピンの断面積が穴の断面積よりも小さいことによって、ピンは―正確な中心合わせにもかかわらず―それを受け入れる穴に何の困難もなく挿入したり引き出したりすることができる。
【0038】
上述した工具は、以下のクレームの範囲内でいろいろな形に変形することができる。したがって、本発明の一般的なアイディア、すなわちルーズトップの結合部と基体のドライバにおける協働動作する雄と雌の部材によって、回すことができるルーズトップをロックするというアイディア、はピンのデザインに関わりなく適用できる。しかし、正確な中心合わせ、並びに簡便な取り付けと取り外しを可能にするためには、例示されたピンが好ましい。本発明はまた、穴あけ工具以外の他の回転工具にも、特にシャンクエンドミルなどのフライスにも適用できる。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
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図9
図10
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図17