(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
内燃機関の排気通路に排出される排気ガスの一部を吸気通路に還流するEGR通路と、上記EGR通路に設けられ、上記排気通路から吸気通路に還流されるEGR量を調整するEGRバルブと、上記EGR通路に設けられたEGRクーラとを有するEGR装置を備えた内燃機関の制御装置において、
排気ガス中のSoot濃度に基づいて、上記EGRクーラのPM堆積量を算出し、
算出されたPM堆積量に基づいて、上記EGR量の減少量を算出し、
算出されたEGR量の減少量に基づいて、上記EGRバルブの開度を補正し、
上記排気ガス中のSoot濃度は、内燃機関の回転数、および内燃機関の体積効率に基づいて算出され、
上記算出された排気ガス中のSoot濃度を、内燃機関のインジェクタの実開弁期間、および内燃機関のオイル消費量のうち、少なくとも1つによって補正することを特徴とする内燃機関の制御装置。
内燃機関の排気通路に排出される排気ガスの一部を吸気通路に還流するEGR通路と、上記EGR通路に設けられ、上記排気通路から吸気通路に還流されるEGR量を調整するEGRバルブと、上記EGR通路に設けられたEGRクーラとを有するEGR装置を備えた内燃機関の制御装置において、
排気ガス中のSoot濃度が大きいときには、Soot濃度が小さいときに比べて上記EGRバルブの開度を大きくし、
上記排気ガス中のSoot濃度は、内燃機関の回転数、および内燃機関の体積効率に基づいて算出され、
上記算出された排気ガス中のSoot濃度を、内燃機関のインジェクタの実開弁期間、および内燃機関のオイル消費量のうち、少なくとも1つによって補正することを特徴とする内燃機関の制御装置。
内燃機関の排気通路に排出される排気ガスの一部を吸気通路に還流するEGR通路と、上記EGR通路に設けられ、上記排気通路から吸気通路に還流されるEGR量を調整するEGRバルブと、上記EGR通路に設けられたEGRクーラとを有するEGR装置を備えた内燃機関の制御装置において、
排気ガス中のSOF濃度に基づいて、上記EGRクーラのPM堆積量を算出し、
算出されたPM堆積量に基づいて、上記EGR量の減少量を算出し、
算出されたEGR量の減少量に基づいて、上記EGRバルブの開度を補正し、
上記排気ガス中のSOF濃度は、内燃機関の回転数、および内燃機関の体積効率に基づいて算出され、
上記算出された排気ガス中のSOF濃度を、内燃機関のオイル消費量によって補正することを特徴とする内燃機関の制御装置。
内燃機関の排気通路に排出される排気ガスの一部を吸気通路に還流するEGR通路と、上記EGR通路に設けられ、上記排気通路から吸気通路に還流されるEGR量を調整するEGRバルブと、上記EGR通路に設けられたEGRクーラとを有するEGR装置を備えた内燃機関の制御装置において、
排気ガス中のSOF濃度が大きいときには、SOF濃度が小さいときに比べて上記EGRバルブの開度を大きくし、
上記排気ガス中のSOF濃度は、内燃機関の回転数、および内燃機関の体積効率に基づいて算出され、
上記算出された排気ガス中のSOF濃度を、内燃機関のオイル消費量によって補正することを特徴とする内燃機関の制御装置。
【発明を実施するための形態】
【0020】
本発明を具体化した実施形態について添付図面を参照しながら説明する。
【0021】
まず、本発明の実施形態に係るエンジンの概略構成について、
図1を参照して説明する。なお、
図1では、エンジンの1気筒の構成のみを示している。
【0022】
エンジン1は、複数(例えば4つ)の気筒が形成されたシリンダブロック1aと、このシリンダブロック1aの上端に取り付けられたシリンダヘッド1bとを備えている。シリンダブロック1aの気筒には、上下方向に往復動するピストン1cが設けられている。ピストン1cは、コネクティングロッド16を介してクランクシャフト15に連結されており、ピストン1cの往復運動がコネクティングロッド16によってクランクシャフト15の回転運動に変換される。
【0023】
シリンダヘッド1bとピストン1cとの間には、燃焼室1dが形成されている。燃焼室1dには、点火プラグ3が配置されている。点火プラグ3の点火タイミングは、イグナイタ4によって調整される。イグナイタ4は、ECU(Electronic Control Unit)100によって制御される。
【0024】
クランクシャフト15には、シグナルロータ17が取り付けられている。シグナルロータ17の外周面には、複数の歯(突起)17aが等角度(例えば、10°CA(クランク角度))ごとに設けられている。シグナルロータ17は、歯17aの2枚分が欠落した欠歯部17bを有している。
【0025】
シグナルロータ17の側方近傍には、クランク角を検出するクランクポジションセンサ31が配置されている。クランクポジションセンサ31は、例えば電磁ピックアップであって、クランクシャフト15が回転する際にシグナルロータ17の歯17aに対応するパルス状の信号(電圧パルス)を発生する。
【0026】
シリンダブロック1aの下部には、潤滑油(オイル)を貯留するオイルパン18が設けられている。オイルパン18に貯留されたオイルは、エンジン1の運転時に、異物を除去するオイルストレーナを介してオイルポンプ(図示せず)によって汲み上げられて、ピストン1c、クランクシャフト15、コネクティングロッド16などのエンジン1の各部に供給され、その各部の潤滑・冷却等に使用される。そして、オイルは、エンジン1の各部の潤滑・冷却等の後、オイルパン18に戻され、再びオイルポンプによって汲み上げられるまでオイルパン18内に貯留される。シリンダブロック1aには、エンジン1によって消費されるオイルの消費量を検出するオイル消費量センサ32が配置されている。
【0027】
燃焼室1dには、吸気通路11と排気通路12とが接続されている。吸気通路11の一部は、吸気ポート11aおよび吸気マニホールド11bによって形成されている。吸気通路11には、サージタンク11cが設けられている。また、吸気通路11には、吸気を濾過するエアクリーナ7、熱線式のエアフロメータ33、エンジン1の吸入空気量を調整するためのスロットルバルブ5などが配置されている。スロットルバルブ5は、サージタンク11cの上流側(吸気流れの上流側)に設けられており、DCモータ等のスロットルモータ6によって駆動される。スロットルバルブ5の開度は、スロットル開度センサ34によって検出される。スロットルバルブ5の開度(スロットル開度)は、ECU100によって制御される。
【0028】
排気通路12の一部は、排気ポート12aおよび排気マニホールド12bによって形成されている。排気通路12には三元触媒12cが配置されている。三元触媒12cにおいては、燃焼室1dから排気通路12に排気された排気ガス中のCO、HCの酸化、およびNOxの還元が行われ、それらをCO
2、H
2O、N
2とすることによって排気ガスの浄化が図られている。
【0029】
吸気通路11と燃焼室1dとの間には、吸気バルブ13が設けられており、吸気バルブ13を開閉駆動することにより、吸気通路11と燃焼室1dとが連通または遮断される。また、排気通路12と燃焼室1dとの間には、排気バルブ14が設けられており、排気バルブ14を開閉駆動することにより、排気通路12と燃焼室1dとが連通または遮断される。これら吸気バルブ13および排気バルブ14の開閉駆動は、クランクシャフト15の回転がタイミングチェーン等を介して伝達される吸気カムシャフト21および排気カムシャフト22の各回転によって行われる。
【0030】
シリンダヘッド1bには、吸気ポート11aに燃料を噴射するインジェクタ2が配置されている。インジェクタ2は気筒ごとに設けられる。インジェクタ2はデリバリパイプ91に接続されている。デリバリパイプ91には、燃料供給系9の燃料タンク94に貯留された燃料が供給され、これによってインジェクタ2から吸気ポート11a内に燃料が噴射される。
【0031】
インジェクタ2から噴射された燃料は、吸入空気と混合されて混合気となり、吸気バルブ13の開弁にともない燃焼室1dに導入される。燃焼室1dに導入された混合気(燃料+空気)は、点火プラグ3にて点火されて燃焼・爆発する。混合気の燃焼室1d内での燃焼・爆発によって、ピストン1cが往復運動してクランクシャフト15が回転する。そして、混合気の燃焼により生じた燃焼ガスは、排気バルブ14の開弁にともない排気ガスとして排気通路12に排出される。
【0032】
燃料供給系9は、デリバリパイプ91、このデリバリパイプ91に接続された燃料供給管92、燃料ポンプ(例えば電動ポンプ)93、燃料タンク94などを備えている。燃料ポンプ93の駆動はECU100によって制御される。そして、燃料ポンプ93を駆動することにより、燃料タンク94内に貯留された燃料が、燃料供給管92を介してデリバリパイプ91に供給されるようになっている。
【0033】
また、エンジン1には、EGR装置8が備えられている。EGR装置8は、排気ガスの一部を吸気通路11に還流させて燃焼室1dへ再度供給することにより燃焼温度を低下させ、これによってNOx発生量を低減させる装置である。EGR装置8は、排気通路12の三元触媒12cの上流側(排気流れの上流側)と、吸気通路11のスロットルバルブ5の下流側とを接続するEGR通路81を備えている。EGR通路81には、EGRバルブ82と、EGRクーラ83とが設けられている。EGRバルブ82の開度を調整することにより、排気通路12から吸気通路11に還流されるEGR量(排気還流量)が調整される。EGRバルブ82の開度は、ECU100によって制御される。EGRクーラ83により、EGR通路81を通過するEGRガスが冷却される。
【0034】
ECU100は、エンジン1の運転状態を制御するもので、例えば、CPU、ROM、RAM、バックアップRAMなどを備えた構成となっている。CPU、ROM、RAM、およびバックアップRAMは、双方向性バスを介して相互に接続されるとともに、入力インターフェースおよび出力インターフェースと接続されている。
【0035】
入力インターフェースには、上述したクランクポジションセンサ31、オイル消費量センサ32、エアフロメータ33、スロットル開度センサ34などの各種センサが接続されている。出力インターフェースには、インジェクタ2、点火プラグ3のイグナイタ4、スロットルバルブ5のスロットルモータ6、EGR装置8のEGRバルブ82、燃料供給系9の燃料ポンプ93などが接続されている。
【0036】
ECU100は、上述した各種センサの検出信号に基づいて、以下に述べるEGR装置8のEGRバルブ82の開度補正制御を含むエンジン1の各種制御を実行する。
【0037】
次に、EGR装置8のEGRバルブ82の開度補正制御について説明する。この実施形態では、排気ガス(EGRガス)中のSoot、SOF、およびHCがEGRクーラ83に堆積することに起因するEGR量の減少量を求め、このEGR量の減少量に基づいてEGRバルブ82の開度を補正するようにしている。より詳細には、排気ガス中のSoot濃度、SOF濃度、およびHC濃度に基づいて、EGRクーラ83のSoot、SOF、およびHCの堆積量(堆積厚さ)を算出し、算出されたEGRクーラ83のSoot、SOF、およびHCの堆積量からEGR量の減少量を算出して、EGRバルブ82の開度を補正する。
【0038】
以下、EGRバルブ82の開度補正制御について
図2のフローチャートを参照して詳しく説明する。
図2のフローチャートに示すルーチンは、ECU100が実行するEGRバルブ82の開度補正制御に関するものであり、一定周期ごとに繰り返される。
【0039】
まず、ECU100は、ステップST1において、エンジン1のエンジン回転数Neおよびエンジン1の体積効率Evolを読み込む。この場合、エンジン回転数Neは、クランクポジションセンサ31の検出信号から算出することが可能である。また、体積効率Evolは、エンジン回転数Ne、および、エアフロメータ33の検出信号から算出される吸入空気量に基づいて算出することが可能である。
【0040】
次に、ECU100は、ステップST2において、ステップST1で得られたエンジン回転数Neおよび体積効率Evolに基づいて、排気ガス中のSoot濃度X
SOOT、SOF濃度X
SOF、およびHC濃度X
HCを算出する。排気ガス中のSoot濃度X
SOOT、SOF濃度X
SOF、およびHC濃度X
HCは、エンジン回転数Neおよび体積効率Evolに応じて変化する。この実施形態では、エンジン回転数Neおよび体積効率Evolと、排気ガス中のSoot濃度X
SOOTとの関係を予め実験・計算等によって求めて、ECU100のROMに(Soot濃度算出マップ)として記憶させておくようにしている。このSoot濃度算出マップは、例えば
図3に示すように、エンジン回転数Neおよび体積効率Evolをパラメータとする2次元マップとされる。Soot濃度算出マップは、
図3の矢印で示すように、エンジン回転数Neが高いほど、排気ガス中のSoot濃度X
SOOTが大きくなり、また、体積効率Evolが高いほど、排気ガス中のSoot濃度X
SOOTが大きくなるようなマップとされる。そして、ステップST1で得られたエンジン回転数Neおよび体積効率Evolに基づき、Soot濃度算出マップを参照することによって、排気ガス中のSoot濃度X
SOOTを算出するようにしている。
【0041】
同様に、エンジン回転数Neおよび体積効率Evolと、排気ガス中のSOF濃度X
SOFとの関係を予め実験・計算等によって求めて、ECU100のROMにマップ(SOF濃度算出マップ)として記憶させておき、このマップを参照することによって、排気ガス中のSOF濃度X
SOFを算出する。また、エンジン回転数Neおよび体積効率Evolと、排気ガス中のHC濃度X
HCとの関係を予め実験・計算等によって求めて、ECU100のROMにマップ(HC濃度算出マップ)として記憶させておき、このマップを参照することによって、排気ガス中のHC濃度X
HCを算出する。
【0042】
次に、ECU100は、ステップST3において、インジェクタ2の実開弁期間t
INJおよび基本開弁期間t
INJ0を読み込む。インジェクタ2の基本開弁期間t
INJ0は、適合時に予め設定されるインジェクタ2の開弁期間(初期値)であり、インジェクタ2の実開弁期間t
INJは、基本開弁期間t
INJ0に対してエンジン1の運転状態に応じた各種の補正処理を行った後の開弁期間である。
【0043】
次に、ECU100は、ステップST4において、ステップST3で得られたインジェクタ2の実開弁期間t
INJおよび基本開弁期間t
INJ0によって、ステップST2で得られた排気ガス中のSoot濃度X
SOOTを補正する。詳細には、基本開弁期間t
INJ0に対する実開弁期間t
INJの比(t
INJ/t
INJ0)に基づいて、ステップST2で得られた排気ガス中のSoot濃度X
SOOTを補正する。この場合、上記比(t
INJ/t
INJ0)と、排気ガス中のSoot濃度X
SOOTとの関係を予め実験・計算等によって求めて、ECU100のROMに(Soot濃度補正マップ)として記憶させておくようにしている。このSoot濃度補正マップは、例えば
図4に示すように、上記比(t
INJ/t
INJ0)が大きくなるほど、排気ガス中のSoot濃度X
SOOTが大きくなるようなマップとされる。そして、ステップST3で得られたインジェクタ2の実開弁期間t
INJおよび基本開弁期間t
INJ0に基づき、Soot濃度補正マップを参照することによって、Soot濃度X
SOOTの増加量ΔX
SOOT1(
図4参照)を求めて、排気ガス中のSoot濃度X
SOOTを補正するようにしている。
【0044】
ここで、ステップST4の補正を行うのは次の理由による。ステップST2で得られた排気ガス中のSoot濃度X
SOOTは、エンジン回転数Neおよび体積効率Evolに基づくものではあるが、インジェクタ2の噴孔詰りの影響は考慮されていない。インジェクタ2の噴孔詰りが発生すると、インジェクタ2の燃料噴射量がエンジン1の運転状態に応じた最適な値から乖離し、これに起因して、不完全燃焼の割合が増加し、排気ガス中のSoot濃度が増加する。そこで、インジェクタ2の燃料噴射量の最適値からの乖離度を表す上記比(t
INJ/t
INJ0)に応じて、排気ガス中のSoot濃度X
SOOTを補正することで、排気ガス中のSoot濃度X
SOOTを精度よく求めるようにしている。
【0045】
次に、ECU100は、ステップST5において、エンジン1のオイル消費量ΔLを読み込む。この場合、エンジン1のオイル消費量ΔLは、オイル消費量センサ32の検出信号から求めることが可能である。
【0046】
次に、ECU100は、ステップST6において、ステップST5で得られたオイル消費量ΔLによって、ステップST4で得られた排気ガス中のSoot濃度X
SOOT、および、ステップST2で得られたSOF濃度X
SOFを補正する。この場合、オイル消費量ΔLと、排気ガス中のSoot濃度X
SOOTとの関係を予め実験・計算等によって求めて、ECU100のROMに(Soot濃度補正マップ)として記憶させておくようにしている。このSoot濃度補正マップは、例えば
図5に示すように、オイル消費量ΔLが増加するほど、排気ガス中のSoot濃度X
SOOTが大きくなるようなマップとされる。そして、ステップST5で得られたオイル消費量ΔLに基づき、Soot濃度補正マップを参照することによって、Soot濃度X
SOOTの増加量ΔX
SOOT2(
図5参照)を求めて、排気ガス中のSoot濃度X
SOOTを補正するようにしている。
【0047】
同様に、オイル消費量ΔLと、排気ガス中のSOF濃度X
SOFとの関係を予め実験・計算等によって求めて、ECU100のROMに(SOF濃度補正マップ)として記憶させておくようにしている。このSOF濃度補正マップは、例えば
図6に示すように、オイル消費量ΔLが増加するほど、排気ガス中のSOF濃度X
SOFが大きくなるようなマップとされる。そして、ステップST5で得られたオイル消費量ΔLに基づき、SOF濃度補正マップを参照することによって、SOF濃度X
SOFの増加量ΔX
SOF(
図6参照)を求めて、排気ガス中のSOF濃度X
SOFを補正するようにしている。
【0048】
ここで、ステップST6の補正を行うのは次の理由による。ステップST2で得られた排気ガス中のSoot濃度X
SOOTおよびSOF濃度X
SOFは、エンジン回転数Neおよび体積効率Evolに基づくものではあるが、エンジン1のオイル消費量ΔLの影響は考慮されていない。例えばオイル上がりや、オイル下がりなどの増加により、オイル消費量が増加すると、エンジン1の燃焼室1d内に流入するオイル量が増加し、これに起因して、オイル由来のHC成分が不完全燃焼し、排気ガス中のSoot濃度が増加する。同様に、オイル消費量ΔLの増加に起因して、排気ガス中のSOF濃度X
SOFが増加する。そこで、エンジン1のオイル消費量ΔLの増加量に応じて、排気ガス中のSoot濃度X
SOOTおよびSOF濃度X
SOFを補正することで、排気ガス中のSoot濃度X
SOOTおよびSOF濃度X
SOFを精度よく求めるようにしている。
【0049】
次に、ECU100は、ステップST7において、EGR量の前回値W’と、EGRクーラ83のSoot、SOF、およびHCの堆積量(以下では、PM堆積量とも言う)の前回値δ’を読み込む。つまり、前回実行されたフローチャートで得られたEGR量およびPM堆積量が読み込まれる。
【0050】
次に、ECU100は、ステップST8において、排気ガス中のSoot濃度X
SOOT、SOF濃度X
SOF、およびHC濃度X
HCに基づいて、EGRクーラ83へのSoot、SOF、およびHCの堆積速度(以下では、PM堆積速度と言う)dδ/dtを算出する。この場合、ステップST6の補正後の排気ガス中のSoot濃度X
SOOTおよびSOF濃度X
SOF、ステップST2で算出された排気ガス中のHC濃度X
HCが用いられる。具体的には、EGRクーラ83へのPM堆積速度dδ/dtは、次の式(1)〜(3)によって算出される。
【0054】
この式(1)において、Wは、現在のEGR量であり、Sは、EGRクーラ83の流路断面積であり、δは、現在のEGRクーラ83のPM堆積量である。また、k
1,k
2は、排気ガス中のSoot濃度X
SOOT、SOF濃度X
SOF、およびHC濃度X
HCに起因する係数である。この式(1)は、円管に対するPM堆積モデルの近似式であり、PM堆積速度dδ/dtが、PMの付着力(右辺第1項で表される)と、PMの剥離力(右辺第2項で表される)との釣り合いから求められることを意味している。
【0055】
式(2)、(3)において、a
1〜a
4,b
1〜b
4は、比例係数であり、予め実験・計算等によって求めることが可能である。式(2)、(3)は、式(1)の係数k
1,k
2の近似式であり、係数k
1,k
2が、排気ガス中のSoot濃度X
SOOT、SOF濃度X
SOF、およびHC濃度X
HCにそれぞれ比例することを意味している。
【0056】
式(1)〜(3)によってEGRクーラ83へのPM堆積速度dδ/dtを算出する場合、まず、式(2)、(3)によって、排気ガス中のSoot濃度X
SOOT、SOF濃度X
SOF、およびHC濃度X
HCから、係数k
1,k
2をそれぞれ算出する。そして、算出された係数k
1,k
2を式(1)に代入して、EGRクーラ83へのPM堆積速度dδ/dtを算出すればよい。
【0057】
次に、ECU100は、ステップST9において、ステップST7で得られたEGRクーラ83のPM堆積量前回値δ’、および、ステップST8で得られたEGRクーラ83へのPM堆積速度dδ/dtから、現在のEGRクーラ83のPM堆積量δを算出する。具体的には、現在のEGRクーラ83のPM堆積量δは、次の式(4)によって算出される。
【0058】
(数4)
δ=δ’+(dδ/dt)・t
CUL ・・・(4)
【0059】
この式(4)より、現在のEGRクーラ83のPM堆積量δは、前回実行されたフローチャートで得られたPM堆積量δ’に、演算間隔(演算周期)t
CUL間に増加するPM増加量(dδ/dt)・t
CULを加算した値となっている。つまり、現在のEGRクーラ83のPM堆積量δは、フローチャートが実行される度に得られるPM増加量(dδ/dt)・t
CULが積算された値となっている。
【0060】
次に、ECU100は、ステップST10において、ステップST9で得られた現在のEGRクーラ83のPM堆積量δに基づいて、EGRクーラ83の圧力損失の増加量ΔPを算出する。この場合、現在のEGRクーラ83のPM堆積量δと、EGRクーラ83の圧力損失との関係を予め実験・計算等によって求めて、ECU100のROMに(圧力損失算出マップ)として記憶させておくようにしている。この圧力損失算出マップは、例えば
図7に示すように、現在のEGRクーラ83のPM堆積量δが増加するほど、EGRクーラ83の圧力損失が増加するようなマップとされる。そして、ステップST9で得られた現在のEGRクーラ83のPM堆積量δに基づき、圧力損失算出マップを参照することによって、EGRクーラ83の圧力損失を求めて、その増加量ΔPを算出するようにしている。
【0061】
次に、ECU100は、ステップST11において、ステップST10で得られたEGRクーラ83の圧力損失の増加量ΔP、および、ステップST7で得られたEGR量の前回値W’に基づいて、EGR量の減少量ΔWを算出する。具体的には、EGR量の減少量ΔWは、次の式(5)によって算出される。
【0063】
この式(5)において、Paは、EGRバルブ82の上流側のEGR通路81(EGRクーラ83からEGRバルブ82間のEGR通路81を通過するEGRガスの圧力であり、Pbは、EGRバルブ82の下流側のEGR通路81を通過するEGRガスの圧力であり、Kは、流量係数である。この式(5)は、オリフィスを通過する流体の流量の算出式である。この場合、現在のEGR量Wは、EGRバルブ82の前後の圧力差(Pb−Pa)から、[W=K√(Pb−Pa)]と表せるので、EGRクーラ83の圧力損失の増加量ΔPに起因するEGR量の減少量ΔWは、EGR量の前回値W’を用いて、式(5)により算出することが可能となっている。
【0064】
次に、ECU100は、ステップST12において、ステップST7で得られたEGR量の前回値W’、および、ステップST11で得られたEGR量の減少量ΔWから、現在のEGR量Wを算出する。具体的には、現在のEGR量Wは、次の式(6)によって算出される。
【0065】
(数6)
W=W’−ΔW ・・・(6)
【0066】
この式(6)より、現在のEGR量Wは、前回実行されたフローチャートで算出されたEGR量W’から、ステップST11で算出されたEGR量の減少量ΔWを減算した値となっている。
【0067】
次に、ECU100は、ステップST13において、ステップST12で得られた現在のEGR量Wと、例えばエンジン回転数Neおよびスロットル開度に応じた目標EGR量W
AIMとに基づいて、EGRバルブ82の開度補正量αを算出する。詳細には、目標EGR量W
AIMに対する現在のEGR量Wの比(W/W
AIM)に基づいて、EGRバルブ82の開度補正量αを算出する。この場合、上記比(W/W
AIM)と、EGRバルブ82の開度補正量αとの関係を予め実験・計算等によって求めて、ECU100のROMに(開度補正量算出マップ)として記憶させておくようにしている。この開度補正量算出マップは、例えば
図8に示すように、上記比(W/W
AIM)が大きくなるほど、EGRバルブ82の開度補正量αが比例的に大きくなるようなマップとされる。そして、ステップST12で得られた現在のEGR量Wおよび目標EGR量W
AIMに基づき、開度補正量算出マップを参照することによって、EGRバルブ82の開度補正量αを算出するようにしている。
【0068】
次に、ECU100は、ステップST14において、ステップST13で得られたEGRバルブ82の開度補正量αに応じて、EGRバルブ82への制御指令値を補正する。そして、補正した制御指令値をEGRバルブ82へ送り、EGEバルブ82を駆動する。
【0069】
この実施形態によれば、排気ガス中のPMの堆積に起因するEGRクーラ83の経年劣化によらず、高精度に目標EGR量W
AIMを確保することができる。
【0070】
すなわち、EGRクーラ83に次第に堆積するPM堆積量を、排気ガス中のSoot濃度X
SOOT、SOF濃度X
SOF、およびHC濃度X
HCを用いて積算している。詳しくは、排気ガス中のSoot濃度X
SOOT、SOF濃度X
SOF、およびHC濃度X
HCからEGRクーラ83へのPM堆積速度dδ/dtを算出し(ステップST7)、算出されたEGRクーラ83へのPM堆積速度dδ/dtから現在のEGRクーラ83のPM堆積量δしている(ステップST9)。そして、算出された現在のEGRクーラ83のPM堆積量δからEGR量の減少量ΔWを算出している(ステップST12)。これにより、現在のEGRクーラ83のPM堆積量δを精度よく算出することができ、EGRクーラ83の経年劣化に起因するEGR量の減少量ΔWを精度よく算出することができる。そして、EGR量の減少量ΔWからEGRバルブ82の開度補正量αを精度よく算出することができるので、EGRクーラ83の経年劣化を考慮したEGR量Wの制御を行うことができ、高精度に目標EGR量W
AIMを確保することができる。
【0071】
−他の実施形態−
上記実施形態では、排気ガス中のSoot濃度X
SOOT、SOF濃度X
SOF、およびHC濃度X
HCの3つの濃度に基づいて、EGRクーラ83のPM堆積量δを算出した。しかし、これに限らず、排気ガス中のSoot濃度X
SOOT、SOF濃度X
SOF、およびHC濃度X
HCのうち、1つまたは2つの濃度に基づいて、EGRクーラ83のPM堆積量δを算出してもよい。この場合にも、算出されたPM堆積量δに基づいて、EGR量の減少量ΔWを算出し、算出されたEGR量の減少量ΔWに基づいて、EGRバルブ82の開度を補正することが可能である。そして、EGRクーラ83のPM堆積量δは、排気ガス中のSoot濃度X
SOOT、SOF濃度X
SOF、およびHC濃度X
HCのうち、1つまたは2つの濃度から算出されるEGRクーラ83へのPM堆積速度dδ/dtに基づいて算出することが可能である。この際、上記の近似式(2)、(3)において、排気ガス中のSoot濃度X
SOOT、SOF濃度X
SOF、およびHC濃度X
HCのうち、EGRクーラ83へのPM堆積速度dδ/dtに用いない濃度の比例係数は、0とされる。
【0072】
また、上記実施形態では、インジェクタ2の実開弁期間t
INJおよびエンジン1のオイル消費量ΔLによって、ステップST2で算出した排気ガス中のSoot濃度X
SOOTを補正した(ステップST4、ST5)。しかし、これに限らず、インジェクタ2の実開弁期間t
INJおよびエンジン1のオイル消費量ΔLのうち、いずれか1つのみによって排気ガス中のSoot濃度X
SOOTを補正してもよい。
【0073】
また、上記実施形態では、エンジン回転数Neおよび体積効率Evolに基づいて、排気ガス中のSoot濃度X
SOOT、SOF濃度X
SOF、およびHC濃度X
HCを算出し(ステップST2)、ステップST7のEGRクーラ83へのPM堆積速度dδ/dtの算出を行った。しかし、これに限らず、排気通路12に設けたセンサにより検出された排気ガス中のSoot濃度X
SOOT、SOF濃度X
SOF、およびHC濃度X
HCに基づいて、ステップST7のEGRクーラ83へのPM堆積速度dδ/dtの算出を行うことも可能である。この場合、
図1に示すように、排気通路12の三元触媒12cの上流側に、排気ガス中のSoot濃度X
SOOTを検出するSoot濃度センサ36、排気ガス中のSOF濃度X
SOFを検出するSOF濃度センサ37、および、排気ガス中のHC濃度X
HCを検出するHC濃度センサ38を設けておけばよい。Soot濃度センサ36、SOF濃度センサ37、HC濃度センサ38は、それぞれ排気ガス中のSoot濃度X
SOOT、SOF濃度X
SOF、HC濃度X
HCに応じた信号を発生するもので、それぞれECU100に接続されている。
【0074】
以上では、排気ガス中のSoot濃度X
SOOT、SOF濃度X
SOF、およびHC濃度X
HCに基づいて、EGRクーラ83のPM堆積量δを求めることによって、EGRバルブ82の開度を補正した。しかし、これに限らず、EGRクーラ83のPM堆積量δを求めることなく、EGRバルブ82の開度を補正することも可能である。具体的には、排気ガス中のSoot濃度X
SOOTが大きいときには、Soot濃度X
SOOTが小さいときに比べてEGRバルブ82の開度を大きくするようにEGRバルブ82の開度を補正する。なお、排気ガス中のSOF濃度X
SOFが大きいときには、SOF濃度X
SOFが小さいときに比べてEGRバルブ82の開度を大きくするようにEGRバルブ82の開度を補正してもよい。あるいは、排気ガス中のHC濃度X
HCが大きいときには、HC濃度X
HCが小さいときに比べてEGRバルブ82の開度を大きくするようにEGRバルブ82の開度を補正してもよい。