(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の実施形態を、図面を用いて説明する。
図1〜6は、本発明の実施形態を示す図である。
図1は、本発明の実施形態に係る回転電機駆動システムの概略構成を示す図である。
図2は、本発明の実施形態において、ステータとロータとの対向する部分の一部を示す略図である。
図3Aは、本発明の実施の形態において、ロータ中に磁束が流れる様子を示す模式図である。
図3Bは、
図2の回転電機において、周方向に関するロータ巻線の幅θを変化させながらロータ巻線への鎖交磁束の振幅を計算した結果を示す図である。
図4は、本発明の実施の形態において、制御装置の構成を示すブロック図である。
図1に示すように、本実施形態の回転電機駆動システム34は、回転電機10と、回転電機10を駆動する駆動部であるインバータ36と、インバータ36を制御する制御部である制御装置38と、電源部である蓄電装置40とを備え、回転電機10を駆動する。また、
図2に示すように、電動機または発電機として機能する回転電機10は、図示しないケーシングに固定されたステータ12と、ステータ12と所定の空隙をあけて径方向内側に対向配置され、ステータ12に対し回転可能なロータ14とを備える。なお、「径方向」とは、ロータの回転軸に対し直交する放射方向をいう(以下、特に断らない限り「径方向」の意味は同じである。)。
【0020】
また、ステータ12は、磁性材製のステータコア26と、ステータコア26に配設された複数相(より具体的には例えばU相、V相、W相の3相)のステータ巻線28u,28v,28wとを含む。ステータコア26の周方向複数個所には、径方向内側へ(ロータ14(
図23)へ向けて)突出する複数のステータティースである、ティース30が配置されており、各ティース30間にステータ側スロットであるスロット31が形成されている。なお、「周方向」とは、ロータの回転中心軸を中心として描かれる円形に沿う方向をいう(以下、特に断らない限り「周方向」の意味は同じである。)。
【0021】
すなわち、ステータコア26の内周面には、径方向内側へ(ロータ14へ向けて)突出する複数のティース30が、ロータ14の回転軸である回転中心軸周りの周方向に沿って互いに間隔をおいて配列されており、各ティース30間にスロット31が、周方向に互いに間隔をおいて形成されている。すなわち、ステータコア26には、複数のスロット31が、ロータ14の回転軸まわりの周方向に互いに間隔をおいて形成されている。
【0022】
各相のステータ巻線28u,28v,28wは、スロット31を通ってステータコア26のティース30に短節集中巻で巻装されている。このように、ティース30にステータ巻線28u,28v,28wが巻装されることで磁極が構成される。そして、複数相のステータ巻線28u,28v,28wに複数相の交流電流を流すことで、周方向に並べられたティース30が磁化し、周方向に回転する回転磁界をステータ12に生成することができる。なお、ステータ巻線は、このようにステータのティースに巻線する構成に限定するものではなく、ステータのティースから外れたステータコアに巻線することもできる。
【0023】
ティース30に形成された回転磁界は、その先端面からロータ14に作用する。
図2に示す例では、3相(U相、V相、W相)のステータ巻線28u,28v,28wがそれぞれ巻装された3つのティース30により1つの極対が構成されている。
【0024】
また、ロータ14は、磁性材料製のロータコア16と、複数のロータ巻線42n,42sとを含む。ロータコア16の外周面の周方向複数個所には、径方向外側に向けて(ステータ12に向けて)突出して設けられた複数の磁極部であり、突部であり、突極であり、かつロータティースであるティース19が、ロータコア16の周方向に沿って互いに間隔をおいて配置されており、各ティース19がステータ12と対向している。また、ロータコア16の各ティース19間にロータ側スロットであるスロット20が、周方向に互いに間隔をおいて形成されている。すなわち、ロータコア16には、複数のスロット20が、ロータ14の回転軸まわりの周方向に互いに間隔をおいて形成されている。
【0025】
ロータ14においては、このティース19により、ステータ12(ティース30)からの磁束が通る場合の磁気抵抗が回転方向に応じて変化し、ティース19の位置で磁気抵抗が低くなり、ティース19間の位置で磁気抵抗が高くなる。そして、周方向においてロータ巻線42nとロータ巻線42sが交互に並ぶように、ロータ巻線42n,42sがこれらのティース19に巻装されている。ここでは、各ロータ巻線42n,42sの巻回中心軸が径方向と一致している。
【0026】
また、ロータ14の周方向に関して1つおきのティース19に複数の第1ロータ巻線42nをそれぞれ集中巻きで巻線され、すなわち巻装され、第1ロータ巻線42nが巻装されたティース19と隣り合う別のティース19であって、周方向1つおきのティース19に、複数の第2ロータ巻線42sがそれぞれ集中巻きで巻装されている。また、複数の第1ロータ巻線42nを含む第1ロータ巻線回路44と、複数の第2ロータ巻線42sを含む第2ロータ巻線回路46とに、それぞれ1ずつのダイオード21n、21sが接続されている。すなわち、ロータ14の周方向に1つおきに配置された複数の第1ロータ巻線42nは、電気的に直列に接続され、かつ無端状に接続されるとともに、その間の一部に整流部であり、かつ、整流素子であり、第1ダイオードであるダイオード21nが各第1ロータ巻線42nと直列に接続されることで、第1ロータ巻線回路44が構成されている。各第1ロータ巻線42nは、同じ磁極(N極)として機能するティース19に巻装されている。
【0027】
また、複数の第2ロータ巻線42sは、電気的に直列に接続され、かつ無端状に接続されるとともに、その間の一部に整流部であり、かつ、整流素子であり、第2ダイオードであるダイオード21sが各第2ロータ巻線42sと直列に接続されることで、第2ロータ巻線回路46が構成されている。各第2ロータ巻線42sは、同じ磁極(S極)として機能するティース19に巻装されている。また、周方向に隣り合う(異なる磁極の磁石が形成される)ティース19に巻装されたロータ巻線42n、42sは、互いに電気的に分断されている。このように、ロータ巻線42n、42sは、それぞれの一部がスロット20に配置されるように、ロータコア16の外周部の周方向複数個所に巻装されている。
【0028】
また、ロータ14の周方向に隣り合うティース19同士で、異なる磁極の磁石が形成されるように、各ダイオード21n、21sによるロータ巻線42n、42sの電流の整流方向を互いに逆方向にしている。すなわち、ロータ14の周方向に隣り合うように配置されたロータ巻線42nとロータ巻線42sとで流れる電流の向き(ダイオード21n、21sによる整流方向)、すなわち順方向が互いに逆になるように、ダイオード21n、21sが互いに逆向きでロータ巻線42n、42sに接続されている。そして各ダイオード21n、21sは、ステータ12で生成される空間高調波を含む回転磁界による誘導起電力の発生により、対応するロータ巻線42n、42sに流れる電流を整流することで、ロータ14の周方向に隣り合うロータ巻線42n、42sに流れる電流の位相を、A相とB相とに交互に異ならせている。A相は、対応するティース19の先端側にN極を生成するものであり、B相は、対応するティース19の先端側にS極を生成するものである。すなわち、ロータ14に設けられる整流素子は、対応するロータ巻線42n、42sにそれぞれ接続される第1整流素子であるダイオード21nと第2整流素子であるダイオード21sとである。また、ダイオード21n、21sは、誘導起電力の発生により、対応するロータ巻線42n、42sに流れる電流を独立して整流し、各ロータ巻線42n、42sに流れる電流により生成される周方向複数個所のティース19の磁気特性を周方向に交互に異ならせている。このように、複数のダイオード21n、21sは、ロータ巻線42n、42sに発生する誘導起電力によって複数のティース19に生じる磁気特性を、周方向で交互に異ならせている。すなわち、各ダイオード21n、21sは、各ロータ巻線42n、42sにそれぞれ接続され、各ロータ巻線42n、42sの磁気特性を複数のロータ巻線42n、42s同士で周方向に交互に異ならせている。この構成では、上記の
図21〜23に示した構成の場合と異なり、ダイオード21n、21sの数を2つに減らすことができ、ロータ14の巻線構造を簡略化することができる。また、ロータ14は、図示しないケーシングに回転可能に支持された回転軸22(
図21,23等参照、
図2では図示を省略する。)の径方向外側に同心に固定している。なお、本実施の形態では、整流素子をロータ巻線42n、42sに接続しているが、本発明では、ロータ巻線に、各ロータ巻線の磁気特性を複数のロータ巻線同士で周方向に交互に異ならせる整流部が接続されていればよく、この整流部は、整流素子以外の構成を使用できる。なお、各ロータ巻線42n、42sは、対応するティース19に、樹脂等により造られる電気絶縁性を有するインシュレータ等を介して巻装することもできる。
【0029】
また、ロータ14の周方向に関するロータ巻線42n、42sの幅θは、ロータ14の電気角で180°に相当する幅よりも短く設定し、ロータ巻線42n、42sは、それぞれティース19に短節巻きで巻装されている。より好ましくは、ロータ14の周方向に関するロータ巻線42n、42sの幅θは、ロータ14の電気角で90°に相当する幅に等しく、あるいはほぼ等しくする。ここでのロータ巻線42n,42sの幅θについては、ロータ巻線42n,42sの断面積を考慮して、ロータ巻線42n,42sの断面の中心幅で表すことができる。すなわち、ロータ巻線42n,42sの内周面の幅と外周面の幅との平均値でロータ巻線42n,42sの幅θを表すことができる。なお、ロータ14の電気角は、ロータ14の機械角にロータ14の極対数pを乗じた値で表される(電気角=機械角×p)。このため、周方向に関する各ロータ巻線42n,42sの幅θは、ロータ14の回転中心軸からロータ巻線42n,42sまでの距離をrとすると、以下の(1)式を満たす。
【0030】
θ<π×r/p (1)
このように幅θを(1)式で規制している理由は、後で詳しく説明する。
【0031】
また、
図1に示すように、蓄電装置40は、直流電源として設けられ、充放電可能であり、例えば二次電池により構成する。インバータ36は、U相、V相、W相の3相のアームAu,Av,Awを備え、各相アームAu,Av,Awは、それぞれ2のスイッチング素子Swを直列に接続している。スイッチング素子Swは、トランジスタ、IGBT等である。また、各スイッチング素子Swに逆並列にダイオードDiを接続している。さらに、各アームAu,Av,Awの中点は、回転電機10を構成する対応する相のステータ巻線28u、28v、28wの一端側に接続されている。ステータ巻線28u、28v、28wにおいて、同じ相のステータ巻線同士は互いに直列に接続され、異なる相のステータ巻線28u、28v、28wが中性点で接続されている。
【0032】
また、蓄電装置40の正極側及び負極側は、インバータ36の正極側と負極側とにそれぞれ接続されており、蓄電装置40とインバータ36との間にコンデンサ68が、インバータ36に対し並列に接続されている。制御装置38は、例えば車両のアクセルペダルセンサ(図示せず)等から入力される加速指令信号に応じて回転電機10のトルク目標を算出し、トルク目標等に応じた電流指令値に応じて各スイッチング素子Swのスイッチング動作を制御する。制御装置38には、3相のうち、少なくとも2相のステータ巻線(例えば28u、28v)側に設けられた電流センサ70で検出された電流値を表す信号と、レゾルバ等の回転角度検出部82(
図4)で検出された回転電機10のロータ14の回転角度を表す信号とがそれぞれ入力される。制御装置38は、CPU,メモリ等を有するマイクロコンピュータを含むもので、インバータ36のスイッチング素子Swのスイッチングを制御することにより、回転電機10のトルクを制御する。制御装置38は、機能ごとに分割された複数の制御装置により構成することもできる。
【0033】
このような制御装置38は、インバータ36を構成する各スイッチング素子Swのスイッチング動作により蓄電装置40からの直流電力を、U相、V相、W相の3相の交流電力に変換して、ステータ巻線28u、28v、28wの各相に対応する相の電力を供給することを可能とする。このような制御装置38によれば、ステータ巻線28u、28v、28wに流す交流電流の位相(電流進角)を制御することで、ロータ14(
図2)のトルクを制御できる。
【0034】
また、
図2に示す回転電機10によれば、ステータ12で発生した空間高調波を含む回転磁界によりロータ巻線42n、42sに誘導電流を生じさせ、ロータ14にトルクを発生させることができる。すなわち、ステータ12に回転磁界を発生させる起磁力の分布は、各相のステータ巻線28u,28v,28wの配置や、ティース30及びスロット31によるステータコア26の形状に起因して、(基本波のみの)正弦波分布にはならず、高調波成分を含むものとなる。特に、集中巻においては、各相のステータ巻線28u,28v,28wが互いに重なり合わないため、ステータ12の起磁力分布に生じる高調波成分の振幅レベルが増大する。例えばステータ巻線28u,28v,28wが3相集中巻の場合は、高調波成分として、入力電気周波数の(時間的)3次成分である空間的な2次成分の振幅レベルが増大する。このようにステータ巻線28u,28v,28wの配置やステータコア26の形状に起因して起磁力に生じる高調波成分は空間高調波と呼ばれている。
【0035】
また、3相のステータ巻線28u,28v,28wに3相の交流電流を流すことでティース30に形成された回転磁界(基本波成分)がロータ14に作用するのに応じて、ロータ14の磁気抵抗が小さくなるように、ティース19がティース30の回転磁界に吸引される。これによって、ロータ14にトルク(リラクタンストルク)が作用する。
【0036】
さらに、ティース30に形成された空間高調波成分を含む回転磁界がロータ14の各ロータ巻線42n,42sに鎖交すると、各ロータ巻線42n,42sには、空間高調波成分によりロータ14の回転周波数(回転磁界の基本波成分)と異なる周波数の磁束変動が生じる。この磁束変動によって、各ロータ巻線42n,42sに誘導起電力が発生する。この誘導起電力の発生に伴って各ロータ巻線42n,42sに流れる電流は、各ダイオード21n,21sにより整流されることで一方向(直流)となる。そして、各ダイオード21n,21sで整流された直流電流が各ロータ巻線42n,42sに流れるのに応じてロータティースである各ティース19が磁化することで、各ティース19が磁極が(N極かS極のいずれか一方に)固定された磁石として機能する。前述のように、ダイオード21n,21sによるロータ巻線42n,42sの電流の整流方向が互いに逆方向であるため、各ティース19に生じる磁石は、周方向においてN極とS極が交互に配置されたものとなる。そして、各ティース19(磁極が固定された磁石)の磁界がステータ12により生成される回転磁界(基本波成分)と相互作用して、吸引及び反発作用が生じる。このステータ12により生成される回転磁界(基本波成分)とティース19(磁石)の磁界との電磁気相互作用(吸引及び反発作用)によっても、ロータ14にトルク(磁石トルクに相当するトルク)を作用させることができ、ロータ14がステータ12で生成される回転磁界(基本波成分)に同期して回転駆動する。このように回転電機10は、ステータ巻線28u,28v,28wへの供給電力を利用してロータ14に動力(機械的動力)を発生させる電動機として機能させることができる。
【0037】
この場合、ロータ14では、
図3Aに模式図で示すように、ロータ14の周方向に隣り合うティース19に巻装されるロータ巻線42n、42s同士で別のダイオード21n、21sが接続されており、ステータ12(
図2)で生成された高調波を含む回転磁界が鎖交することで、各ロータ巻線42n、42sにダイオード21n、21sで方向を規制された誘導電流が誘導され、各ティース19が隣り合うティース19同士で異なる磁極部として磁化する。この場合、
図3Aの矢印αで示す方向に誘導電流による磁束が、ティース19とロータコア16のティース19以外の部分とに流れる。
【0038】
また、
図1に示す回転電機駆動システム34は、例えば、車両用走行動力発生装置として、エンジンと走行用モータとを駆動源として備えるハイブリッド車、燃料電池車、電気自動車等に搭載して使用される。なお、蓄電装置40とインバータ36との間に電圧変換部であるDC/DCコンバータを接続して、蓄電装置40の電圧を昇圧してインバータ36に供給可能とすることもできる。
【0039】
また、回転電機駆動システム34が備える制御装置38は、ロータ巻線42n,42sの巻回中心軸方向である磁極方向に対し電気角で90度進んだ方向に界磁磁束を発生させるようにステータ巻線28u、28v、28wに電流を流すためのq軸電流指令に、パルス状に減少させる減少パルス電流を重畳させる減少パルス重畳手段72(
図4)を有する。これについて、
図4を用いて詳しく説明する。
図4は制御装置38のうち、インバータ制御部の構成を示す図である。制御装置38は、図示しない電流指令算出部と、減少パルス重畳手段72と、減算部74,75と、PI演算部76,77と、3相/2相変換部78と、2相/3相変換部80と、回転角度検出部82と、図示しないPWM信号生成部及びゲート回路とを含む。
【0040】
電流指令算出部は、予め作成されたテーブル等にしたがって、ユーザから入力される加速指示に応じて算出される回転電機10のトルク指令値に応じて、d軸、q軸に対応する電流指令値Id*,Iq*を算出する。ここで、d軸とは、回転電機10の周方向に関してロータ巻線42n、42sの巻回中心軸方向である磁極方向をいい、q軸とはd軸に対し電気角で90度進んだ方向をいう。例えば、上記の
図2に示すようにロータ14の回転方向が規定される場合、d軸方向、q軸方向は、
図2に矢印で示したような関係で規定される。また、電流指令値Id*,Iq*は、それぞれd軸電流成分の指令値であるd軸電流指令値、q軸電流成分の指令値であるq軸電流指令値である。このようなd軸、q軸を用いて、ステータ巻線28u、28v、28wに流す電流をベクトル制御により決定することが可能となる。
【0041】
3相/2相変換部78は、回転電機10に設けられた回転角度検出部82により検出された回転電機10の回転角度θと、電流センサ70により検出された2相の電流(例えばV相、W相の電流Iv、Iw)とから、2相の電流であるd軸電流値Id、q軸電流値Iqとを算出する。なお、電流センサ70により2相の電流しか検出していないのは、2相の電流の和が0となるため、1相の電流は算出で求めることができるからである。ただし、U相、V相、W相の電流を検出し、その電流値からd軸電流値Id、q軸電流値Iqを算出することもできる。
【0042】
減少パルス重畳手段72は、減少パルス電流を生成する減少パルス生成部84と、q軸電流指令値Iq*に一定周期で減少パルス電流Iqp*を重畳させる、すなわち加算して、加算後の重畳後q軸電流指令値Iqsum*を対応する減算部75に出力する加算部86とを有する。また、d軸に対応する減算部74は、d軸電流指令値Id*と3相/2相変換部78で変換されたd軸電流Idとの偏差δIdを求めて、d軸に対応するPI演算部76に偏差δIdを入力する。
【0043】
また、q軸に対応する減算部75は、重畳後q軸電流指令値Iqsum*と3相/2相変換部78で変換されたq軸電流Iqとの偏差δIqを求めて、q軸に対応するPI演算部77に偏差δIqを入力する。PI演算部76,77は、それぞれに入力された偏差δId,δIqについて、所定ゲインによるPI演算を行って制御偏差を求め、制御偏差に応じたd軸電圧指令値Vd*及びq軸電圧指令値Vq*を算出する。
【0044】
2相/3相変換部80は、PI演算部76,77から入力された各電圧指令値Vd*,Vq*に基づいて、回転電機10の回転角度θから得られた、1.5制御周期後に位置すると予測される予測角から、U相、V相、W相の3相の電圧指令値Vu、Vv、Vwに変換する。電圧指令値Vu、Vv、Vwは、図示しないPWM信号生成部でPWM信号に変換され、PWM信号は、図示しないゲート回路に出力される。ゲート回路は、制御信号を印加するスイッチング素子Swを選択することにより、スイッチング素子Swのオンオフを制御する。このように、制御装置38は、ステータ巻線28u、28v、28wに流れるステータ電流をdq軸座標系に変換してd軸電流成分及びq軸電流成分とし、フィードバック制御を含むベクトル制御により、目標トルクに対応する各相のステータ電流が得られるようにインバータ36を制御する。
【0045】
図5Aは、本発明の実施の形態におけるステータ電流の時間的変化の1例を、d軸電流指令値Id*と重畳後q軸電流指令値Iqsum*と各相電流とで示す図であり、
図5Bは、
図5Aに対応するロータ起磁力の時間的変化を示す図であり、
図5Cは、
図5Aに対応するモータトルクの時間的変化を示す図である。なお、
図5A,
図5B,
図5Cでは、シミュレーション結果を示しており、かつ、極短い時間を時間的に拡大、すなわち各図の横方向に拡大して示している。したがって、実際には、U相、V相、W相電流は、それぞれ回転電機の駆動時に正弦波となるが、
図5Aでは、パルス電流を重畳させる前後で直線状として表している。なお、以下の説明では、
図1〜4に示した要素と同一の要素には同一の符号を付して説明する。
【0046】
図5Aに示すように、
図4に示した減少パルス重畳手段72は、q軸電流指令値Iq*のみに減少パルス電流を重畳させる。d軸電流指令値Id*は、トルク指令に対応して算出される一定値である。このようにq軸電流指令値Iq*には、減少パルス重畳手段72により、一定周期で、パルス状に減少してから増大する電流指令が重畳される。なお、パルス電流は、
図5Aのように矩形波状として指令した場合でも、実際には応答性の遅れにより破線βで示すように曲線を組み合わせたパルス状となる場合がある。また、減少パルス電流のパルス状波形は、矩形波でも、三角波でも、複数の曲線や直線から突起状に形成された波形でも、いずれでもよい。
【0047】
このように減少パルス電流を重畳させる場合、例えば、1相のステータ巻線に最大の電流が流れる場合であり、残りの2相に均等に電流が流れてその和が1相に流れる場合でも、電流の絶対値が減少するようになる。例えば、
図5Aでは、W相のステータ巻線28wに最大の電流が流れる場合であり、残りのU相、V相の2相のステータ巻線28u、28vに均等に電流が流れてその和がW相に流れる場合を示している。この場合、矢印γは、電流制限範囲を示しており、破線P,Qは設計上要求される電流の許容限界である。すなわち、インバータ36の容量等の各部品の関係から、破線P、Qの間に電流値が収まることが要求されている。これに対して、W相のステータ巻線28wに流れる電流値は許容限界付近に位置する。この場合、減少パルス電流の重畳で、各相電流値の絶対値が小さくなるが、電流変化に応じてステータ12で生じる回転磁界に含まれる空間高調波成分の磁束変化が大きくなる。このため、
図5Bに示すようにロータ起磁力が大きくなり、
図5Cに示すようにモータトルクが大きくなる。また、正側のU相、V相のパルス電流のピークは低下し、負側のW相のパルス電流のピークは上昇するため、各相電流を電流制限範囲(
図5Aの矢印γ範囲)に収めることができる。
【0048】
これについて、
図6を用いてさらに詳しく説明する。
図6は、本発明の実施の形態において、q軸電流を一定値とした場合(a)と、q軸電流に減少パルス電流を重畳させた場合の前期(b)と、q軸電流に減少パルス電流を重畳させた場合の後期(c)とで、ステータとロータとに磁束が通過する様子を示す模式図である。
図6は、いずれも各相のステータ巻線28u、28v、28wを巻装したティース30がロータ巻線42n、42sを巻装したティース19に径方向に対向していないで、1のティース30がロータ14の周方向に関して隣り合う2のティース19の間の中央位置に対向する。この状態で、
図6の実線矢印R1、破線矢印R2で示すように、ステータ12とロータ14とに流れる磁束はq軸磁束である。
【0049】
図6(a)は、
図5Aの重畳後q軸電流指令値Iqsum*が一定値であるA1の状態に対応し、
図6(b)は、
図5Aの重畳後q軸電流指令値Iqsum*に減少パルス電流が発生している前期、すなわち、Iqsum*が急激に減少するA2の状態に対応するものである。また、
図6(c)は、
図5Aの重畳後q軸電流指令値Iqsum*に減少パルス電流が発生している後期、すなわち、Iqsum*が急激に増大するA3の状態に対応するものである。
【0050】
まず、
図6(a)に示すように、減少パルス電流が発生する以前の重畳後q軸電流指令値Iqsum*が一定値である状態では、実線矢印R1で示すように、U相、V相のティース30からロータ14側のティース19の上部を通過し、W相のティース30に磁束が流れる。ただし、この場合には各ティース30を通過する基本波による磁束の変化は生じないので、
図5B、
図5CのB1部に示すように空間高調波を考慮しなければロータ起磁力は生じず、モータトルクは発生しない。
【0051】
これに対して、
図6(b)に示すように、減少パルス電流が発生している前期、すなわちq軸電流が急激に減少する状態では、ステータ巻線28u、28v、28wを流れる電流の絶対値が減少する方向に変化して、見かけ上は、破線矢印R2で示すように、
図6(a)からの変化で磁束が逆方向に流れるように変化する。なお、この磁束の変化は、実際に
図6(a)とは逆方向に磁束が流れるようにステータ電流値の正負が逆転してもよい。いずれにしても、Aのティース19でN極がS極になろうとする方向に磁束が流れ、それを妨げる方向にロータ巻線42nに誘導電流が流れようとし、その
図6(b)の矢印T方向の流れはダイオード21nでブロックされることがない。これに対して、Bのティース19でS極を強める方向に磁束が流れ、それを妨げる方向、すなわちBのティース19をN極にしようとする方向にロータ巻線42sに誘導電流が流れようとするが、その向きの流れはダイオード21sでブロックされるため、Bでは電流は流れない。
【0052】
続いて、
図6(c)に示すように、減少パルス電流が発生している後期、すなわちq軸電流が急激に増大する状態では、ステータ巻線28u、28v、28wを流れる電流の絶対値が増大する方向に変化して、実線矢印R1で示すように、
図6(b)から磁束が逆方向に流れるようになる。この場合、Aのティース19でN極を強める方向に磁束が流れ、それを妨げる方向、すなわちAのティース19をS極にしようとする方向(ダイオード21nと逆方向のX方向)にロータ巻線42nに誘導電流が流れようとするが、
図6(b)ですでに電流が流れているので、その電流は少なくともある時間の間で徐々に減少するがX方向と逆方向に流れる。また、Bのティース19でS極がN極になろうとする方向に磁束が流れ、それを妨げる方向にロータ巻線42sに誘導電流が流れようとし、その
図6(c)の矢印Y方向の流れはダイオード21sでブロックされることがない。この結果、
図5B、
図5CのB2部に示すように減少パルス重畳によりロータ起磁力が増大し、モータトルクが増大する。
【0053】
また、減少パルス電流が0になり再び
図6(a)の状態に戻ると、ロータ巻線42n、42sに流れる電流は徐々に低下するが、減少パルス電流を周期的に重畳させることでトルクの増大効果を得られることとなる。なお、上記の説明では、W相のステータ巻線28wに流れる電流が最大となるときに減少パルス電流を重畳させる場合を説明したが、U相、V相の場合も同様である。
【0054】
このような回転電機駆動システムによれば、すべてのステータ巻線28u、28v、28wに過大な電流が流れることを防止しつつ、低い回転領域でもトルクの増大を図れる回転電機を実現できる。例えば、W相のステータ巻線28wに対するパルス電流重畳前に、W相に流れる電流の絶対値が他の2相であるU相、V相のステータ巻線28u、28vを流れる電流の絶対値よりも高い場合でも、減少パルス電流の重畳で、全部の相に流れる電流の絶対値をパルス状に下げつつロータ巻線42n、42sに生じる誘導電流を大きくすることができる。このため、すべてのステータ巻線28u、28v、28wに流す電流であるステータ電流のピークを抑えつつ、低回転領域でも回転電機10のトルクを大きくすることができる。また、ロータ14側に磁石を設ける必要がないため、磁石レス化と高トルク化とを図れる。
【0055】
また、
図5Aに示すように、q軸電流指令に減少パルス電流を重畳させることにより、1相、例えばW相のステータ巻線28wを流れる電流の絶対値が大きくパルス状に減少するようにしているが、このようにパルス状に変化する電流のピーク先端は0付近に位置するようにする場合に限定しない。例えば、W相のステータ巻線28wを流れる負の電流が、0付近まで上昇した後、正側に大きくなるように重畳後q軸電流指令Iqsum*の減少パルス電流の減少幅E(
図5A)を大きくすることもできる。この場合でもステータ電流を過度に大きくすることなく、空間高調波によるq軸磁束の変化量を大きくすることができ、トルクの増大を図れる。
【0056】
これに対して、上記の特許文献2に記載された同期機の場合、パルス電流によってロータで電磁石を形成しているが、ロータの外周部に径方向にまたがるようにロータ巻線を設けており、ロータ巻線に1の整流素子を接続することでロータの径方向反対側に異なる2の磁極を形成している。このため、q軸電流にパルスを重畳させても2の磁極を形成するための誘導電流が互いに打ち消しあいロータ巻線に誘導電流を発生させることができない。すなわち、この構成では、q軸電流にパルス電流を重畳させて、トルクを発生させることはできない。
【0057】
また、上記の特許文献3に記載された同期機の場合、d軸電流とq軸電流とにパルス状に増大してから減少する増加パルス電流を重畳させているので、ステータ巻線に流れる電流のピークが過度に上昇する可能性がある。また、上記の特許文献4に記載された同期機の場合、ステータ巻線に過大な電流が流れることを防止しつつ、低い回転領域でもトルクの増大を図れる回転電機を実現することを目的として、q軸電流に減少パルス電流を重畳させる手段は開示されていない。
【0058】
例えば、
図7は、本発明とは異なる比較例であって、ステータ電流に増加パルス電流を重畳させる比較例の回転電機駆動システムにおいて、U相のステータ巻線に流す電流(ステータ電流)と、ロータ巻線に生じる誘導電流(ロータ誘導電流)との1例を示す図である。この比較例では、減少パルス電流の代わりに増加パルス電流を重畳させる以外は、上記の実施の形態と同様とする。
図7に示すように、比較例では、正弦波のステータ電流にパルス状に増大してから減少する増加パルス電流を重畳させている。この場合、矢印C1で示すようにステータ電流が急上昇することで、矢印D1で示すように、ロータ誘導電流が電磁誘導の原理にしたがって急激に減少している。その後、矢印C2で示すように、ステータ電流が急低下することで、ロータ誘導電流が矢印D2のように増大している。この原理により、3相のステータ巻線のうち、いずれかの相に流れる電流は増大する。このため、所望のトルクを発生させるために大きな電流パルスを重畳させることが必要になる場合がある。この場合、上記の特許文献2〜3の同期機と同様に、d軸電流に増加パルス電流を重畳させている。このため、電流のピーク値が過大となり、設計上要求されるインバータ電流制限を越える可能性がある。このため、インバータのスイッチング素子の大容量化が必要になる等、インバータを含む制御システムのコスト増大や大型化を招く可能性がある。また、電流制御のための電流センサの検出範囲を拡大する必要があるため、センサの大型化や検出精度の低下を招く可能性もある。このため、電流ピーク値が過大となることを防止しつつトルクの増大を図れる手段の実現が求められていた。
【0059】
これに対して、上記の本実施の形態によれば、ステータ電流が過大となることを防止できる、すなわち、電流のピーク値が過大となることを防止できるので、上記の不都合をいずれも解消できる。
【0060】
また、上記の本実施の形態によれば、各ロータ巻線42n、42sは、ロータ14の周方向に隣り合うロータ巻線42n、42s同士で順方向が逆になる整流素子である、ダイオード21n、21sに接続し、各ダイオード21n、21sは、該誘導起電力の発生によりロータ巻線42n、42sに流れる電流を整流することで、該周方向に隣り合うロータ巻線42n、42sに流れる電流の位相を、A相とB相とに交互に異ならせている。これに対して、
図8に示すように本実施の形態とは異なる比較例も考えられる。
図8は、比較例において、q軸電流にパルス電流を重畳させた場合の変化を示すロータの模式図である。
【0061】
図8の比較例では、ロータ14の周方向複数個所に設けたティース19にロータ巻線88n、88sを巻装するとともに、隣り合うロータ巻線88n、88s同士をダイオード90を介して接続し、各ロータ巻線88n、88sに流れる電流により生成される磁極部である、ティース19の磁気特性を交互に異ならせている。この比較例では、
図8の破線矢印で示すようにq軸電流にパルス電流を重畳させることによる空間高調波のq軸磁束が流れる場合に、(a)でN極とS極との両方がS極になろうとして電流が流れようとするが、その電流がN極側とS極側とで互いに打ち消し合ってしまう。また、(a)とは逆方向にq軸磁束が流れる場合でも、(b)でN極とS極との両方がN極になろうとして電流が流れようとするが、その電流がN極側とS極側とで互いに打ち消し合ってしまう。このため、比較例では、q軸電流にパルス電流を重畳させても、ロータ巻線88n、88sに電流を誘導することができない。これに対して、本実施の形態では、上記のようにq軸電流にパルス電流を重畳させることによりトルクの増大効果を得られる。
【0062】
また、本実施の形態では、各ロータ巻線42n、42sのロータ14の周方向に関する幅θを上記の(1)式で述べたように規制しているので、ロータ巻線42n、42sに発生する、回転磁界の空間高調波による誘導起電力を大きくすることができる。すなわち、空間高調波によるロータ巻線42n,42sへの鎖交磁束の振幅(変動幅)は、周方向に関するロータ巻線42n,42sの幅θにより影響を受ける。ここで、周方向に関するロータ巻線42n,42sの幅θを変化させながら、ロータ巻線42n,42sへの鎖交磁束の振幅(変動幅)を計算した結果を
図3Bに示している。
図3Bでは、コイル幅θを電気角に換算して示している。
図3Bに示すように、コイル幅θが180°から減少するにつれてロータ巻線42n,42sへの鎖交磁束の変動幅が増大しているため、コイル幅θを180°よりも小さくする、すなわちロータ巻線42n,42sを短節巻とすることで、全節巻と比較して、空間高調波による鎖交磁束の振幅を増大させることができる。
【0063】
したがって、回転電機10(
図2)では、周方向に関する各ティース19の幅を電気角で180°に相当する幅よりも小さくし、ロータ巻線42n,42sを各ティース19に短節巻で巻装することで、ロータ巻線42n,42sに発生する空間高調波による誘導起電力を効率よく増大させることができる。この結果、ロータ14に作用するトルクを効率よく増大させることができる。
【0064】
さらに、
図3Bに示すように、コイル幅θが90°の場合に、空間高調波による鎖交磁束の振幅が最大となる。したがって、空間高調波によるロータ巻線42n,42sへの鎖交磁束の振幅をより増大させるためには、周方向に関する各ロータ巻線42n,42sの幅θがロータ14の電気角で90°に相当する幅に等しい(あるいはほぼ等しい)ことが好ましい。このため、ロータ14の極対数をpとし、ロータ14の回転中心軸からロータ巻線42n,42sまでの距離をrとした場合に、周方向に関する各ロータ巻線42n,42sの幅θは、以下の(2)式を満たす(あるいはほぼ満たす)ことが好ましい。
【0066】
このようにすることで、ロータ巻線42n,42sに発生する空間高調波による誘導起電力を最大にすることができ、誘導電流により各ティース19に発生する磁束を最も効率よく増大させることができる。この結果、ロータ14に作用するトルクをより効率よく増大させることができる。すなわち、幅θが90°に相当する幅を大きく超えると、互いに打ち消し合う方向の起磁力がロータ巻線42n,42sに鎖交しやすくなるが、90°に相当する幅よりも小さくなるのにしたがって、その可能性が低くなる。ただし、幅θが90°に相当する幅よりも大きく減少すると、ロータ巻線42n,42sに鎖交する起磁力の大きさが大きく低下する。このため、幅θを約90°に相当する幅とすることでそのような不都合を防止できる。このため、周方向に関する各ロータ巻線42n,42sの幅θは、電気角で90°に相当する幅に略等しくすることが好ましい。
【0067】
このように、本実施の形態では、各ロータ巻線42n、42sのロータ14の周方向に関する幅θを電気角で90°に相当する幅に略等しくした場合に、ロータ巻線42n、42sに発生する、回転磁界の空間高調波による誘導起電力を大きくすることができ、各ロータ巻線42n、42sに流れる誘導電流により生成される磁極部であるティース19の磁束を最も効率よく増大させることができる。この結果、ロータ14に作用するトルクをより効率よく増大させることができる。なお、本実施の形態では、ロータ14が、周方向に隣り合うロータ巻線42n,42sを互いに電気的に分断し、周方向において1つおきに配置されたロータ巻線42n同士を電気的に直列接続し、周方向において1つおきに配置されたロータ巻線42s同士を電気的に直列接続した構成について説明した。ただし、本実施の形態では、上記の
図21〜23に示した構成と同様に、各ティース19に巻装されたロータ巻線42n,42sのそれぞれにダイオード21n、21sが接続され、各ロータ巻線42n,42sが互いに電気的に分断されているロータ14を含む回転電機を用いるとともに、制御装置38が減少パルス重畳手段72(
図4)を有する構成を採用することもできる。
【0068】
なお、本実施の形態では、制御装置38がq軸電流に減少パルス電流を重畳させる減少パルス重畳手段72を有し、d軸電流にはパルス電流を重畳しない場合を説明した。ただし、制御装置38は、減少パルス重畳手段72とともに、q軸電流指令Iq*に減少パルス電流を重畳させるのと同時に、d軸電流指令Id*に増加パルス電流、すなわちパルス状に急激に増大してから急激に減少するパルス電流を重畳させる増加パルス重畳手段を有するようにすることもできる。この場合には、各相のステータ電流を電流制限範囲に収めつつ、d軸電流により生成されるd軸磁路を通過する磁束の変動量を大きくできるので、ロータでの誘導電流をより大きくして回転電機のトルクをより有効に増大できる。
【0069】
また、本実施の形態では、減少パルス重畳手段72は、回転電機のトルク及び回転数の一方または両方により規定される予め定められる所定領域にある場合にのみ、q軸電流指令Iq*に減少パルス電流を重畳させるようにすることもできる。例えば、回転電機の回転数が予め設定された所定回転数以下で、かつ、予め設定された所定トルク以上である場合にのみ、減少パルス重畳手段72は、q軸電流指令Iq*に減少パルス電流を重畳させるようにすることもできる。
【0070】
次に、
図9は、本発明の別の実施の形態を示す、
図3Aに対応する図である。また、
図10は、
図9の実施の形態において、ロータ巻線及びロータ補助巻線の等価回路を示す図である。
図9に示す実施の形態の回転電機では、上記の
図1〜6に示した実施の形態と異なり、ロータ14に設けられた各ティース19には、先端側に巻装されたロータ巻線42n、42sとともに、根元側に巻装された補助ロータ巻線92n、92sを備える。すなわち、本実施の形態では、
図1〜6の実施の形態と同様に、ロータコア16は、ロータ14の周方向に互いに間隔をおいて配置され、ステータ12(
図2参照)へ向け突出する複数の磁極部であり突部であるティース19を含む。また、ティース19は、ダイオード21n、21sで整流された電流がロータ巻線42n、42s、92n、92sに流れるのに応じて磁化することで磁極が固定された磁石として機能する。また、補助ロータ巻線92n、92sは、各ティース19の根元側に巻装され、ロータ14の周方向に隣り合うティース19に巻装されている。2ずつの補助ロータ巻線92n、92sは、互いに直列に接続されて補助巻線組94を構成している。
【0071】
また、ロータ14の周方向に隣り合うティース19に巻装される隣り合う2ずつのロータ巻線42n、42sの一端は、それぞれに対応するダイオード21n、21sが逆方向に対向するように、ダイオード21n、21sを介して接続点R(
図10)で接続されている。また、補助巻線組94の一端に、ロータ14の周方向に隣り合う2ずつのロータ巻線42n、42sの他端がそれぞれ接続され、補助巻線組94の他端に接続点Rが接続されている
【0072】
このような構成では、ロータ巻線42n、42s及び補助ロータ巻線92n、92sに整流された電流が流れることでティース19が磁化し、磁極部として機能する。すなわち、ステータ巻線28u、28v、28wに交流電流を流すことで、ステータ12(
図2)から空間強調波成分を含む回転磁界がロータ14に作用する。空間高調波成分の磁束変動により、ロータ14のティース19間の空間に漏れ出す漏れ磁束の変動が発生し、これにより誘導起電力が発生する。また、ティース19の先端側のロータ巻線42n、42sに主に誘導電流を発生させる機能を持たせ、補助ロータ巻線92n、92sに主にティース19を磁化する機能を持たせることができる。また、隣り合うティース19に巻装されたロータ巻線42n、42sを流れる電流の合計が補助ロータ巻線92n、92sに流れる電流となる。また、隣り合う補助ロータ巻線92n、92s同士を直列に接続しているので、両方で巻き数を増加させたのと同じ効果を得られ、各ティース19に流れる磁束を同じとしたままで各ロータ巻線42n、42s、92n、92sに流す電流を低減できる。その他の構成及び作用は、上記の
図1〜6に示した実施の形態と同様である。
【0073】
次に、
図11は、本発明の別の実施の形態において、ステータとロータとの対向する部分の断面の一部を示す略断面図である。本実施の形態の回転電機10では、上記の
図1〜6の実施の形態または
図9,10の実施の形態において、ロータ14の周方向に隣り合うティース19同士の間に、磁性材により構成される補助極96が設けられている。また、補助極96は、非磁性材の柱部98の先端部に結合されている。柱部98の根元部は、ロータコア16の外周面の周方向に隣り合うティース19同士の間のスロット100の底部において、周方向中央部に結合されている。なお、柱部98は、磁性材により構成するとともに、強度確保を図れることを前提に、ロータ14の周方向に関する柱部98の断面積を十分に小さくすることもできる。
【0074】
このような構成によれば、補助極96を含む部分に空間高調波成分が通過する磁路を形成しやすくでき、ステータ12で発生する回転磁界に含まれる空間高調波を補助極96に多く通過させ、空間高調波の磁束変動を高くすることができる。このため、ロータ巻線42n、42sに生じる誘導電流をより大きくして、回転電機10のトルクをより増大できる。その他の構成及び作用は、上記の
図1〜6に示した実施の形態と同様である。
【0075】
次に、上記の実施形態の回転電機駆動システムを構成する回転電機の他の構成例について説明する。以下に示すように、本発明では、種々の回転電機の構成例を使用できる。
【0076】
例えば上記の実施形態では、ロータ14の径方向に突出する突極であるティースにロータ巻線42n、42sを巻装していたが、
図12に示すように、ロータコア16にロータ側スロットであるスリット(空隙)48を形成することによっても、ロータ14の磁気抵抗を回転方向に応じて変化させることができる。
図12に示すように、ロータコア16において、複数のスリット48を径方向に配置するように形成した部分の周方向中央部の磁路をq軸磁路部分50とし、ロータ巻線を配置した磁極部方向の磁路をd軸磁路部分52とすると、ステータ12(ティース30)と対向するd軸磁路部分50及びq軸磁路部分52が周方向において交互に配置されるようにスリット48が形成されており、周方向においてd軸磁路部分50がq軸磁路部分52間に位置する。
【0077】
各ロータ巻線42n,42sは、スリット48を通って磁気抵抗の低いq軸磁路部分52に巻装されている。この場合、スリット48はロータコア16において、ロータ14の回転軸回りの周方向に互いに間隔をおいて形成されており、ロータ巻線42n、42sは、一部がスリット48に配置されるように、ロータコア16の外周部の周方向複数個所に巻装されている。
図12に示す構成例では、ステータ12で形成された空間高調波成分を含む回転磁界が各ロータ巻線42n,42sに鎖交することで、各ロータ巻線42n,42sに各ダイオード21n,21sで整流された直流電流が流れて各d軸磁路部分52が磁化する結果、各d軸磁路部分52が磁極の固定された磁石(磁極部)として機能する。その際には、周方向に関する各d軸磁路部分52の幅(各ロータ巻線42n,42sの幅θ)をロータ14の電気角で180°に相当する幅よりも短く設定し、ロータ巻線42n,42sを各d軸磁路部分52に短節巻で巻装することで、ロータ巻線42n,42sに発生する空間高調波による誘導起電力を効率よく増大させることができる。さらに、ロータ巻線42n,42sに発生する空間高調波による誘導起電力を最大にするためには、周方向に関する各ロータ巻線42n,42sの幅θを、ロータ14の電気角で90°に相当する幅に等しく(あるいはほぼ等しく)することが好ましい。その他の構成及び作用は上記の実施形態と同様である。
【0078】
また、上記の実施形態では、例えば
図13に示すように、ロータコア16は、磁性材料製のロータコア本体17と複数の永久磁石54とを含み、ロータコア16に永久磁石54を配設することもできる。
図13に示す構成例では、磁極の固定された磁石として機能する複数の磁極部56が周方向に互いに間隔をおいた状態でステータ12(
図2参照)と対向配置されており、各磁極部56にロータ巻線42n,42sが巻装されている。この場合、ロータコア16の周方向複数個所にロータ側スロットであるスリット102が形成されており、ロータ巻線42n、42sは、それぞれの一部がスリット102に配置されるように、ロータコア16の外周部の周方向複数個所に巻装されている。各永久磁石54は、周方向において磁極部56間に位置する部分に、ステータ12(ティース30)と対向配置されている。ここでの永久磁石54については、ロータコア16の内部に埋設されていてもよいし、ロータコア16の表面(外周面)に露出していてもよい。また、ロータコア16の内部に永久磁石54をV字状に配置することもできる。
図13に示す構成例では、ステータ12で形成された空間高調波成分を含む回転磁界が各ロータ巻線42n,42sに鎖交することで、各ロータ巻線42n,42sに各ダイオード21n,21sで整流された直流電流が流れて各磁極部56が磁化する結果、各磁極部56が磁極の固定された磁石として機能する。その際には、周方向に関する各磁極部56の幅(各ロータ巻線42n,42sの幅θ)をロータ14の電気角で180°に相当する幅よりも短く設定し、ロータ巻線42n,42sを各磁極部56に短節巻で巻装することで、ロータ巻線42n,42sに発生する空間高調波による誘導起電力を効率よく増大させることができる。さらに、ロータ巻線42n,42sに発生する空間高調波による誘導起電力を最大にするためには、周方向に関する各ロータ巻線42n,42sの幅θを、ロータ14の電気角で90°に相当する幅に等しく(あるいはほぼ等しく)することが好ましい。その他の構成及び作用は上記の実施形態と同様である。
【0079】
また、上記の実施形態では、例えば
図14に示すように、ロータ巻線42n,42sをトロイダル巻きにすることもできる。
図14に示す構成例では、ロータコア16は環状コア部58を含み、各ティース19は、環状コア部58から径方向外側へ(ステータ12へ向けて)突出している。ロータ巻線42n,42sは、環状コア部58における各ティース19付近の位置にトロイダル巻きで巻装されている。また、ロータ巻線42n、42sは、それぞれの一部がスロット20に配置されるように、ロータコア16の周方向複数個所に巻装されている。
図14に示す構成例でも、ステータ12で形成された空間高調波成分を含む回転磁界が各ロータ巻線42n,42sに鎖交することで、各ロータ巻線42n,42sに各ダイオード21n,21sで整流された直流電流が流れ、各ティース19が磁化する。その結果、ロータ巻線42n付近に位置するティース19がN極として機能し、ロータ巻線42s付近に位置するティース19がS極として機能する。その際には、周方向に関する各ティース19の幅θをロータ14の電気角で180°に相当する幅よりも短く設定することで、ロータ巻線42n,42sに発生する空間高調波による誘導起電力を効率よく増大させることができる。さらに、ロータ巻線42n,42sに発生する空間高調波による誘導起電力を最大にするためには、周方向に関する各ティース19の幅θを、ロータ14の電気角で90°に相当する幅に等しく(あるいはほぼ等しく)することが好ましい。なお、
図14では、
図2に示す構成例と同様に、周方向に隣接するロータ巻線42n,42sを互いに電気的に分断し、周方向において1つおきに配置されたロータ巻線42n同士を電気的に直列接続し、周方向において1つおきに配置されたロータ巻線42s同士を電気的に直列接続した例を示している。ただし、ロータ巻線42n,42sをトロイダル巻にした例においても、
図21〜23に示す構成例と同様に、各ティース19に巻装されたロータ巻線42n,42sを互いに電気的に分断することもできる。その他の構成及び作用は上記の実施形態と同様である。
【0080】
また、以下の構成例で示すように、上記の実施の形態では、回転電機の各ロータ巻線は、ロータの磁石と同位置、または、ティース同士の間のスロットと同位置、または複数のスリットによる磁気的突極性を有する部分と同位置に配置する構成を採用することもできる。
図15は、回転電機を、回転軸と平行方向に見た略図である。
図16は、
図15のロータの概略構成を、回転軸と平行方向に見た略図である。
【0081】
本構成例の回転電機10は、図示しないケーシングに固定されたステータ12と、ステータ12と所定の空隙を空けて径方向内側に対向配置され、ステータ12に対し回転可能なロータ14とを備える。なお、ステータ12の構成及び作用は、上記の
図1〜6で説明した実施形態と同様である。
【0082】
図16に示すように、ロータ14は、ロータコア16と、ロータコア16の周方向複数個所に配置され、巻装されたロータ巻線42n,42sとを含み、ロータコア16は、磁性材料製のロータコア本体17と、ロータ14の周方向複数個所に配置された永久磁石54とを含む。ロータ14は、回転軸22に固定されている。ロータコア16の周方向複数個所に、径方向に伸びる柱部等の磁極部60が形成され、ロータ巻線42n,42sは、各磁極部60に巻装されている。すなわち、ロータコア16の周方向複数個所にロータ側スロットであるスリット102が形成されており、ロータ巻線42n、42sは、それぞれの一部がスリット102に配置されるように、ロータコア16の外周部の周方向複数個所に巻装されている。
【0083】
永久磁石54は、ロータ14の周方向複数個所の、各ロータ巻線42n,42sとロータ14の周方向に関して一致する部分に設けられた磁極部60の内部に配置され、すなわち埋設されている。逆に言えば、各永久磁石54の周囲にロータ巻線42n,42sが巻装されている。永久磁石54は、ロータ14の径方向に着磁させるとともに、その着磁方向を、ロータ14の周方向に隣り合う永久磁石54同士で異ならせている。
図15、16(後述する
図17も同様。)において、永久磁石54の上に配置された実線矢印は、永久磁石54の磁化方向を表している。なお、磁極部60は、ロータ14の周方向複数個所に径方向に伸びるように配置した突極等により構成することもできる。
【0084】
ロータ14は、周方向に関して異なる磁気的突極特性を有する。ロータ14のうち、各永久磁石54から周方向に外れ、周方向に関して磁極部60と外れた位置である、周方向に隣り合う磁極部の間の周方向中央部の磁路をq軸磁路とし、各ロータ巻線42n,42sの巻回中心軸と周方向に一致する磁路をd軸磁路とすると、各永久磁石54は、ロータ14の周方向複数個所に位置するd軸磁路に配置されている。
【0085】
また、各磁極部60に巻装されたロータ巻線42n,42sは、互いに電気的に接続されておらず分断(絶縁)されている。そして、電気的に分断された各ロータ巻線42n,42sに、整流素子であるダイオード21n(または21s)が並列に接続されている。また、ロータ14の周方向の一つ置きの一部のロータ巻線42nに接続したダイオード21nと、残りのロータ巻線42sに接続したダイオード21sとの電流の流れ方向を逆にして、互いの順方向を逆にしている。このため、各ロータ巻線42n,42sは、ダイオード21n(または21s)を介して短絡されている。したがって、各ロータ巻線42n,42sに流れる電流が一方向に整流される。本構成例の場合も、各ダイオード21n,21sは、誘導起電力の発生によりロータ巻線42n,42sに流れる電流を整流することで、ロータ14の周方向に隣り合うロータ巻線42n,42sに流れる電流の位相を、隣り合うロータ巻線42n,42s同士でA相とB相とに交互に異ならせている。
【0086】
ロータ巻線42n,42sにダイオード21n,21sの整流方向に応じた直流電流が流れると、ロータ巻線42n,42sが巻装された磁極部60が磁化することで、この磁極部60が磁極の固定された磁石として機能する。
図15,16にロータ巻線42n,42sの、ロータ14の径方向に関する外側に示した破線矢印の向きは、磁極部60の磁化方向を表している。
【0087】
また、
図16に示すように、ロータ14の周方向に隣り合うロータ巻線42n,42s同士で直流電流の方向が互いに逆方向になる。そして、ロータ14の周方向に隣り合う磁極部60同士で磁化方向が互いに逆になる。すなわち、本構成例では、磁極部60の磁気特性が、ロータ14の周方向に関して交互に異なっている。例えば、
図15,16では、ロータ14の周方向1つ置きの磁極部60である、ロータ巻線42nとロータ14の周方向に一致する部分の径方向外側にN極が配置され、N極の磁極部60と周方向に隣り合う磁極部60である、ロータ巻線42sとロータ14の周方向に一致する部分の径方向外側にS極が配置されるようにする。そして、ロータ14の周方向に隣り合う2つの磁極部60(N極及びS極)により、1つの極対が構成される。また、各永久磁石54の磁化方向と、各永久磁石54に対しロータ14の周方向に一致する磁極部60の磁化方向とを一致させている。
【0088】
また、
図15,16に示す例では、8極の磁極部60が形成され、ロータ14の極対数は4極対となる。また、ステータ12(
図15)の極対数とロータ14の極対数とはいずれも4極対で、ステータ12の極対数とロータ14の極対数とは等しい。ただし、ステータ12の極対数及びロータ14の極対数は、いずれも4極対以外とすることもできる。
【0089】
また、本構成例では、ロータ14の周方向に関する各磁極部60の幅がロータ14の電気角で180°に相当する幅よりも短く設定されている。そして、周方向に関する各ロータ巻線42n,42sの幅θ(
図16)はロータ14の電気角で180°に相当する幅よりも短く設定されており、ロータ巻線42n,42sは各磁極部60に短節巻きで巻装されている。また、好ましくは、ロータ14の周方向に関する各ロータ巻線42n,42sの幅θは、電気角で90°に相当する幅と等しく(またはほぼ等しく)する。
【0090】
このような回転電機10において、3相のステータ巻線28u,28v,28wに3相の交流電流を流すことでティース30(
図15)に生成された高調波成分を含む周波数の回転磁界がロータ14に作用する。そしてこれに応じて、ロータ14に、リラクタンストルクTreと永久磁石生成トルクTmgとロータ巻線生成トルクTcoilとが作用して、ロータ14がステータ12で生成される回転磁界(基本波成分)に同期して回転駆動する。ここで、リラクタンストルクTreは、各磁極部60が、ステータ12が生成した回転磁界に吸引されることにより発生するトルクである。また、永久磁石生成トルクTmgは、各永久磁石54により生成される磁界とステータ12の回転磁界との相互作用である、吸引及び反発作用により生じるトルクである。また、ロータ巻線生成トルクTcoilは、ステータ12により発生する起磁力の空間高調波成分がロータ巻線42n,42sに作用することにより、ロータ巻線42n,42sに誘導される電流によるトルクであり、各磁極部60により生成される磁界とステータ12の回転磁界との電磁気的相互作用である、吸引及び反発作用により生じるトルクである。
【0091】
このような本構成例の回転電機10によれば、回転電機10のトルクを有効に高くすることができる。また、ロータ巻線42n,42sに流れる誘導電流により、各永久磁石54内の磁束変動が抑えられるため、各永久磁石54内部での渦電流損失が抑えられ、磁石発熱を低減できる。この結果、各永久磁石54内部での渦電流損失が抑えられ、磁石発熱を低減できる。
【0092】
また、
図17は、別の構成例において、
図16に対応する略図である。本構成例では、複数のロータ巻線42n,42sのうち、ロータ14の周方向において1つおきに配置された一部のロータ巻線42n同士を電気的に直列接続し、周方向において1つおきに配置された残りのロータ巻線42s同士を電気的に直列接続している。すなわち、同じ方向に磁化される磁石として機能する磁極部60に巻装されたロータ巻線42n(または42s)同士を電気的に直列接続している。また、ロータ14の周方向に隣り合う磁極部60に巻装されたロータ巻線42n,42s同士は、電気的に分断している。そして、互いに電気的に接続したロータ巻線42n(または42s)を含む回路により、互いに電気的に分断された2組のロータ巻線回路62a、62bを構成している。すなわち、ロータ巻線42n,42sは、互いに同じ磁気特性を有する磁極部60に巻装されるもの同士で、電気的に接続している。
【0093】
また、2組のロータ巻線回路62a、62bにそれぞれ整流素子であり、互いに異なる極性を有するダイオード21n、21sを、1つおきのロータ巻線42n,42sに対して直列に接続し、それぞれのロータ巻線回路62a、62bに流れる電流の向きを一方向に整流している。また、2組のロータ巻線回路62a、62bのうち、一方のロータ巻線回路62aを流れる電流と、他方のロータ巻線回路62bを流れる電流とを互いに逆方向にしている。その他の構成及び作用については、上記の
図15,16に示す構成例と同様である。
【0094】
図18は、別の構成例において、
図16に対応する略図である。本構成例の回転電機を構成するロータ14は、上記の
図17に示した構成例で、ロータ14に設けていた永久磁石54(
図17参照)を省略している。また、ロータコア16は、外周面の周方向複数個所に径方向に突出するティース64を設けた構成とし、各ロータ巻線42n,42sを、ロータ14の周方向に隣り合うティース64の間に配置している。すなわち、各ロータ巻線42n,42sは、内部が空間部となる空芯状態で配置される。また、ロータ14の周方向に関してロータ巻線42n,42sの間部分が、ステータ12(
図15参照)側に突出し、ロータコア16は磁気的突極特性を有する。この場合、ロータ巻線42n、42sは、それぞれの一部または全部がスロット20に配置されるように、ロータコア16の外周部の周方向複数個所に巻装されている。
【0095】
このようなロータ14の場合、ロータ14の周方向に関してティース64と一致する磁路がq軸磁路となり、ロータ14の周方向に関してロータ巻線42n,42sと一致する位置がd軸磁路となる。
【0096】
このような本構成例では、上記の
図15〜16の構成例と異なり、ロータ14に永久磁石54(
図17参照)が配置されていないが、ロータ14の回転方向にかかわらず回転電機のトルクを大きくできる。すなわち、ロータ14の回転方向にかかわらず、電流位相−トルク特性が同じになり、しかもトルクの最大値が高くなり、トルクを有効に高くすることができる。例えば、力行トルクを大きくする場合に、ロータ14の正転時と逆転時との両方で力行トルクを大きくすることができる。また、回生トルクを大きくする場合に、ロータ14の正転時と逆転時との両方で回生トルクを大きくすることができる。したがって、ロータ14の回転の正転逆転両方で高いトルクを得られる回転電機の実現が可能になる。その他の構成及び作用については、上記の
図15〜16の構成例または
図17の構成例と同様である。
【0097】
図19は、別の構成例において、
図16に対応する略図である。本構成例の回転電機を構成するロータ14も、上記の
図18に示した構成例の場合と同様に、ロータ14に永久磁石54(
図16等参照)を設けていない。本構成例では、ロータ14を構成するロータコア16の内部に空隙部であり、ロータ側スロットであるスリット48を形成することにより、ロータ14の磁気抵抗を回転方向に関して変化させている。すなわち、ロータコア16の周方向複数個所に、断面略U字形で軸方向に伸び、径方向外側に開口する複数のスリット48を、ロータ14の径方向に間隔をあけて配置している。そして、ロータコア16の周方向複数個所で、複数のスリット48の周方向中央位置と一致する位置にロータ巻線42n,42sを配置してd軸磁路とし、周方向に隣り合うスリット48の間の磁路をq軸磁路としている。
【0098】
また、ロータ巻線42n,42sを、隣り合うロータ巻線42n,42s同士で異なる極性を有するダイオード21n、21sで短絡している。ダイオード21nで短絡したロータ巻線42nと、ダイオード21sで短絡したロータ巻線42sとを、ロータ14の周方向に関して交互に配置し、ロータ巻線42n,42sに流れる電流により生成される複数の磁極部66の磁気特性を、ロータ14の周方向に関して交互に異ならせている。この場合、スリット48は、ロータコア16において、ロータ14の回転軸回りの周方向に互いに間隔をおいて形成されており、ロータ巻線42n、42sは、それぞれの一部がスリット48に配置されるように、ロータコア16の外周部の周方向複数個所に巻装されている。
【0099】
このような本構成例の場合には、ステータ12(
図15参照)からの回転磁界がロータ巻線42n,42sに鎖交することで、各ロータ巻線42n,42sに各ダイオード21n,21sで整流された直流電流が流れて、各d軸磁路に位置する周方向複数個所の磁極部66が磁化し、各磁極部66が磁極の固定された磁石として機能する。また、ロータ14の周方向に関する各ロータ巻線42n,42sの幅を、ロータ14の電気角で180°に相当する幅よりも短く設定し、ロータ巻線42n,42sを各磁極部60に短節巻きで巻装している。また、好ましくは、周方向に関する各ロータ巻線42n,42sの幅はロータ14の電気角で90°に相当する幅と等しく(またはほぼ等しく)する。
【0100】
このような本構成例の場合も、ロータ14に永久磁石が配置されていないが、ロータ14の回転方向にかかわらず回転電機のトルクを大きくできる。その他の構成及び作用については、上記の
図15〜16の構成例と同様である。
【0101】
図20は、別の構成例において、
図16に対応する略図である。本構成例の回転電機を構成するロータ14では、上記の
図15〜16に示した構成例を構成するロータ14において、ロータコア16は、磁性材料製のロータコア本体104と複数の永久磁石54とにより構成されている。また、ロータコア本体104に磁気的突極特性を持たせず、ロータコア本体104の外周面の周方向複数個所に永久磁石54を固定している。また、ロータコア16は、永久磁石54間にスロット20がロータ回転軸まわりの周方向に互いに間隔をおいて形成されている。また、各永久磁石54の周囲にロータ巻線42n,42sが巻装されている。この場合、ロータ巻線42n、42sは、それぞれの一部がスロット20に配置されるように、ロータコア16の外周部の周方向複数個所に巻装されている。本構成例では、ロータ14の周方向複数個所の、各永久磁石54と周方向に一致する部分を磁極部としている。また、各ロータ巻線42n,42sを、隣り合うロータ巻線42n,42s同士で異なる極性を有するダイオード21n、21sで短絡している。その他の構成及び作用については、上記の
図15〜16の構成例と同様である。
【0102】
以上の実施形態及び構成例の説明では、ステータ12とロータ14とが回転軸22と直交する径方向において対向配置されているラジアル型の回転電機の場合を説明した。ただし、上記の実施形態を構成する回転電機は、ステータ12とロータ14とが回転軸22と平行方向(回転軸方向)において対向配置されたアキシャル型の回転電機であってもよい。また、上記では、ステータの径方向内側にロータが対向配置された場合を説明したが、ステータの径方向外側にロータが対向配置された構成でも本発明を実施できる。
【0103】
上記のように本発明の回転電機駆動システムは、ステータとロータとが対向配置された回転電機と、前記回転電機を駆動する駆動部と、前記駆動部を制御する制御部とを備える回転電機駆動システムにおいて、前記ステータは、周方向複数個所に形成されたステータ側スロットを有するステータコアと、前記ステータ側スロットを通って前記ステータコアに集中巻きで巻装された複数相のステータ巻線とを有し、前記ロータは、ロータコアと、ロータコアの周方向複数個所に巻装されたロータ巻線と、前記各ロータ巻線に接続され、前記各ロータ巻線の磁気特性を前記複数のロータ巻線同士で周方向に交互に異ならせる整流部とを有し、前記各ロータ巻線に流れる電流により生成される周方向複数個所の磁極部の磁気特性を周方向に交互に異ならせており、前記制御部は、前記ロータ巻線の巻回中心軸方向である磁極方向に対し電気角で90度進んだ方向に界磁磁束を発生させるように前記ステータ巻線に電流を流すためのq軸電流指令に、パルス状に減少させる減少パルス電流を重畳させる減少パルス重畳手段を有する構成を有する。そしてこの構成により、上記のように、ステータ巻線に過大な電流が流れることを防止しつつ、低い回転領域でもトルクの増大を図れる回転電機を実現できる。
【0104】
以上、本発明を実施するための形態について説明したが、本発明はこうした実施形態に何ら限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において、種々なる形態で実施し得ることは勿論である。