【文献】
島村佳伸,他5名,超音波ねじり疲労試験装置の高強度鋼への適用,日本材料学会第58期学術講演会講演論文集,日本,2009年 5月22日,58th,pp.97-98
【文献】
飯島淳,他3名,超音波疲労試験による高サイクル捩り疲労特性,日本機械学会東海支部総会講演会講演論文集,日本,2005年 3月 1日,No.053-1,54th,pp.131-132
【文献】
I.M.Garcia, et al.,Development of a new device to perfome torsional ultrasonic fatigue testing,International Journal of Fatigue,米国,2007年 4月11日,Vol.29,pp.2094-2101
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
請求項1または請求項2において、前記せん断疲労強度決定過程における、前記超長寿命領域におけるせん断疲労強度τlim を決める前記定められた基準は、せん断疲労強度を示す疲労限度型折れ線モデルに、試験結果のせん断応力振幅と負荷回数の関係を当てはめた曲線を求め、その曲線からせん断疲労強度を求める処理である航空機用転がり軸受材料の疲労限面圧の推定方法。
請求項1ないし請求項3のいずれか1項において、前記せん断疲労強度決定過程における、前記超長寿命領域におけるせん断疲労強度τlim を決める前記定められた基準は、せん断疲労強度を示す連続低下型曲線モデルに、試験結果のせん断応力振幅と負荷回数の関係を当てはめた曲線を求め、その曲線からせん断疲労強度を求める処理である航空機用転がり軸受材料の疲労限面圧の推定方法。
請求項1ないし請求項4のいずれか1項において、前記試験過程では、複数回の前記超音波ねじり疲労試験を行って、金属材料のせん断応力振幅と負荷回数の関係を複数求め、前記せん断疲労強度決定過程では、前記複数回の試験過程で求めたせん断応力振幅と負荷回数の関係から任意の破壊確率のP−S−N線図を求め、このP−S−N線図から、前記超長寿命領域におけるせん断疲労強度τlim を決める航空機用転がり軸受材料の疲労限面圧の推定方法。
請求項1ないし請求項5のいずれか1項において、前記せん断疲労強度決定過程では、前記定められた基準に従って決められたせん断疲労強度に対する85%の値を、前記疲労限面圧計算過程で用いるせん断疲労強度τlim の値とする航空機用転がり軸受材料の疲労限面圧の推定方法。
請求項1ないし請求項6のいずれか1項において、前記せん断疲労強度決定過程で決めた前記超長寿命領域におけるせん断疲労強度に対する80%の値を、前記疲労限面圧計算過程で用いるせん断疲労強度τlim の値とする航空機用転がり軸受材料の疲労限面圧の推定方法。
請求項1ないし請求項4のいずれか1項において、せん断疲労強度の絶対値を安全に見積もるため、前記試験過程において、複数回の前記超音波ねじり疲労試験を行って、金属材料のせん断応力振幅と負荷回数の関係を複数求め、前記せん断疲労強度決定過程では、前記複数回の試験過程で求めたせん断応力振幅と負荷回数の関係から任意の破壊確率のP−S−N線図を求め、このP−S−N線図から、前記超長寿命領域におけるせん断疲労強度τlim を決める補正である破壊確率補正と、前記せん断疲労強度決定過程において、前記定められた基準に従って決められたせん断疲労強度に対する85%の値を、前記疲労限面圧計算過程で用いるせん断疲労強度τlim の値とする補正である過大評価補正と、前記せん断疲労強度決定過程で決めた前記超長寿命領域におけるせん断疲労強度に対する80%の値を、前記疲労限面圧計算過程で用いるせん断疲労強度τlim の値とする補正である寸法効果補正との3つの補正のうち、任意の2つ以上の補正を組み合わせて求まる断疲労強度τlim を絶対値と見なす航空機用転がり軸受材料の疲労限面圧の推定方法。
請求項1ないし請求項8のいずれか1項において、前記金属材料が、M50またはM50NiLであり、前記試験片は熱処理品である航空機用転がり軸受材料の疲労限面圧の推定方法。
請求項1ないし請求項9のいずれか1項に記載の疲労限面圧の推定方法により推定された疲労限面圧が、定められた疲労限面圧以上である金属材料を、航空機用の転がり軸受の軌道輪または転動体の材料として使用する航空機用転がり軸受材料の選定方法。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
内部起点型はく離に先立つ転がり接触面表層における疲労き裂の進展様式はモードII型と考えられている。上記の非金属介在物の最大サイズから疲労限面圧を推定する方法として、非特許文献1の考察に記載の考え方がある。非特許文献1の
図13にあるように、ヘルツ接触圧力が移動する場合について、交番せん断応力振幅がおよそ最大になる深さb/2(bは接触楕円の短軸半径)に直径2aの円板状き裂が存在すると考える。このき裂を最大介在物の直径に見立てる。非特許文献1では、独自のモードII疲労き裂進展実験を行い、疲労き裂進展しなくなる応力拡大係数の下限界値をΔK
IIth=3MPa√mと求めている。非特許文献1の
図14では、ΔK
IIth=3MPa√mの場合について、き裂面間の摩擦係数を0.5と仮定し、最大接触面圧と疲労き裂進展するか否かの臨界き裂直径2aの関係が示されている。例えば、2a=50μmとすると、疲労限面圧はP
max lim=2.5GPaと推定されている。しかしながら、この方法では、き裂面間の摩擦係数は未知であり、ある値に仮定しなければならない。また、非特許文献2でも、独自のモードII疲労き裂進展実験を行い、疲労き裂進展しなくなる応力拡大係数の下限界値をΔK
IIth=13MPa√mと求めており、非特許文献1のΔK
IIthとは大きく異なる。
【0007】
特に、航空機用の機械部品では、一般の産業用の機械部品に比べて、高度に信頼性が要求される。そのため、使用材料の購入先やロット毎等のねじり疲労試験を行って疲労限面圧の推定を行うことができれば、信頼性向上に効果的である。しかし、従来の技術では、前述のようにねじり疲労試験には長期間を要し、使用材料の疲労限面圧の推定は実質不可能であった。このため、軸受材料の試験項目の一つとして、疲労限面圧を採用するという発想はなかった。
【0008】
この発明の目的は、短期間の疲労試験の結果から、転がり軸受用鋼等の転がり接触する疲労強度の高い金属材料の疲労限面圧を精度良く推定することができる航空機用転がり軸受材料の疲労限面圧の推定方
法および推定システムを提供することを目的とする。
この発明の他の目的は、従来では発想になかった試験項目の採用により、航空機用転がり軸受の信頼性向上が図れる航空機用転がり軸受材料の選定方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
この発明方法は、概要を説明すると、超音波ねじり疲労試験によって超長寿命域までのせん断疲労特性を求め、航空機用の転がり軸受の軌道輪または転動体となる金属材料の内部起点型はく離が起きなくなる最大接触面圧P
maxを疲労限面圧P
max 1imとして推定する方法である。
この発明の航空機用転がり軸受材料の疲労限面圧の推定方法は、航空機用の転がり軸受の軌道輪または転動体となる金属材料の疲労限面圧P
max 1imを推定する方法であって、
超音波ねじり疲労試験によって金属材料のせん断応力振幅と負荷回数の関係を求める試験過程(S1)と、
この求められたせん断応力振幅と負荷回数の関係から超長寿命領域におけるせん断疲労強度τ
1imを、定められた基準に従って決めるせん断疲労強度決定過程(S2)と、
前記金属材料で製造される物体およびこの物体に対して転がり接触する物体の互いに接触する面の形状,寸法と接触面圧を与える負荷とから決まる前記金属材料の表層内部に作用する最大交番せん断応力振幅τ
0 が、前記せん断疲労強度τ
1imに等しくなる前記負荷が作用するときの最大接触面圧P
maxを定められた計算式によって求め、この最大接触面圧P
maxを疲労限面圧P
max 1imの推定値とする疲労限面圧計算過程(S3)とを
含み、
前記超音波ねじり疲労試験は、交流電力が印加されることで回転中心軸回りの正逆の回転となるねじり振動を発生するねじり振動コンバータと、先端に同心に試験片を取付ける取付部を有し基端でねじり振動コンバータに固定され、基端に与えられた前記振動コンバータのねじり振動の振幅を拡大する振幅拡大ホーンとを用い、前記試験片の形状,寸法を、前記ねじり振動コンバータの駆動による振幅拡大ホーンの振動に共振する形状,寸法とし、前記振動コンバータを超音波領域の周波数で駆動し前記試験片を前記振幅拡大ホーンの振動に共振させてせん断疲労破壊させることによって行い、
前記振幅拡大ホーンの形状は、前記試験片の取付部となる先端側が細くなる指数関数型である。
前記超音波ねじり疲労試験は、試験片に対して、正回転方向と逆回転方向のねじりが対称となるねじり振動を与える完全両振りのねじり疲労試験とするのが良い。前記金属材料は、転がり軸受の軌道輪または転動体となる転がり軸受用鋼であっても良い。
【0010】
なお、上記の「超長寿命領域におけるせん断疲労強度」は、「せん断疲労限度」と同義であるが、この明細書では「超長寿命領域におけるせん断疲労強度」として説明する。
前記せん断疲労強度決定過程で用いる前記の「定められた基準」は、例えば、せん断疲労強度を示す確立された理論の曲線に、試験結果のせん断応力振幅と負荷回数の関係を当てはめた曲線を求め、その曲線からせん断疲労強度を求める処理とされる。具体的には、日本材料学会の金属材料疲労信頼性評価標準JSMS-SD-6-02の疲労限度型折れ線モデルにあてはめて求めたS−N線図(破壊確率50%の疲労強度線図) を用いることができる。疲労限度型折れ線モデルに限らず、連続低下型曲線モデルに当てはめてS−N線図を求めても良い。ただし、その場合は、τ
1imは、例えば「10
10回におけるS−N線図上の値」などとして定義する必要がある。
前記疲労限面圧計算過程で用いる「定められた計算式」は、非特許文献3に記載されている。非特許文献3のFIGURE 5.13は、線接触状態において接触面下に作用する交番せん断応力が最大になる深さの交番せん断応力の周方向分布であり、最大交番せん断応力τ
0の4倍が最大接触面圧P
maxに等しくなることを示している。したがって、線接触状態と見なせる金属材料の場合は、
(疲労限面圧P
max 1im)=4×(せん断疲労強度τ
1im)
となる。
前記「航空機用」は、宇宙用を含むものとする。
【0011】
この発明方法によると、疲労試験を超音波ねじり疲労試験で行うため、極めて高速な負荷が可能で、短時間で金属材料のせん断応力振幅と負荷回数の関係を求めることができる。このように求めた関係から超長寿命領域におけるせん断疲労強度τ
1imを決め、金属材料の接触寸法諸元から表層内部に作用する最大交番せん断応力振幅τ
0 が前記せん断疲労強度τ
1imに等しくなる負荷が作用するときの最大接触面圧P
maxを疲労限面圧P
max 1imとして推定するため、ねじり疲労試験の結果から精度良く疲労限面圧P
max 1imを推定することができる。このため、前記せん断疲労強度τ
1imが強い材質である転がり軸受用鋼の疲労限面圧P
max 1imの推定を行う場合に、その短時間の試験で済むという効果がより一層効果的に発揮される。したがって、航空機用の転がり軸受の軌道輪または転動体となる金属材料のせん断疲労特性を求め、求めたせん断疲労特性から疲労限面圧P
max 1imを評価し得る。この疲労限面圧P
max 1imを評価した金属材料を有する転がり軸受を用いることで、超長寿命域の軸受寿命を実現することができる。
【0012】
なお、材料の疲労破壊を支配する応力は、突き詰めれば垂直応力かせん断応力のどちらかである。垂直応力による疲労特性を高速に評価するため、超音波軸荷重疲労試験機( 完全両振り) が市販されてから数年が経つ。それに対し、せん断応力による疲労特性を高速に評価するための超音波ねじり疲労試験の研究はほとんど行われておらず、これまでに評価された材料は最大せん断応力振幅(完全両振り) が250MPa以下で疲労破壊する軟鋼やアルミ合金である。それに対し、転がり軸受の動定格荷重及び定格寿命の規格であるISO-281:2007で定められている転がり軸受の疲労限面圧は1500MPaであり、線接触状態を考えると、そのときに表層内部に作用する最大交番せん断応力振幅はτ
0 =375MPaである。したがって、375MPa以上の最大せん断応力振幅で評価できる超音波ねじり試験機が必要であるが、このような大きな最大せん断応力振幅で評価できる超音波ねじり試験機は、従来に例がない。そのため、この発明は、超音波ねじり試験機の開発と、表層内部に作用する最大交番せん断応力振幅τ
0 が前記せん断疲労強度τ
1imに等しくなる負荷が作用するときの最大接触面圧P
maxを疲労限面圧P
max 1imとして推定できるという知見との、総合的な案出によりなされたものである。
【0013】
この発明方法において、せん断疲労強度決定過程では、前記定められた基準に従って決められたせん断疲労強度に対する85%の値を、前記疲労限面圧計算過程で用いるせん断疲労強度τ
1imの値として良い。
超音波ねじり疲労試験では、従来の疲労試験に対し、大きな負荷を受ける体積(危険体積)が略等しい場合、せん断疲労強度を高めに評価する傾向があるためである。
【0014】
この発明方法において、せん断疲労強度決定過程では、前記定められた基準に従って決められたせん断疲労強度に対する80%の値を、前記疲労限面圧計算過程で用いるせん断疲労強度τ
1imの値として良い。
ねじり疲労試験では、せん断応力は試験片表面で最大,軸芯でゼロになる。すなわち、応力勾配をもつ疲労試験である。引張圧縮疲労試験のうち、軸荷重疲労試験では平滑部断面内の垂直応力は均一であり、平滑部直径によらず一定の疲労限度を示すことが知られているが、応力勾配をもつ回転曲げ疲労試験では、平滑部直径が大きくなるにつれて疲労限度が低下し、軸荷重疲労試験での疲労限度に漸近していく寸法効果を示すことが知られている。非特許文献4によると、軸荷重疲労試験での疲労限度は平滑部直径が4mmの回転曲げ疲労試験での疲労限度の約80%となっている。応力勾配をもつ以上、ねじり疲労試験でも寸法効果は避けられない。そこで、ねじり疲労試験についても引張圧縮疲労試験の基準がそのまま適用できると仮定すると、前記定められた基準に従って決められたせん断疲労強度に対する80%の値を、前記疲労限面圧計算過程で用いるせん断疲労強度τ
1imの値として用いることが適切である。
【0015】
この発明方法において、前記試験過程では、複数回の前記超音波ねじり疲労試験を行って、金属材料のせん断応力振幅と負荷回数の関係を複数求め、前記せん断疲労強度決定過程では、前記複数回の試験過程で求めたせん断応力振幅と負荷回数の関係から任意の破壊確率のP−S−N線図を求め、このP−S−N線図から、前記超長寿命領域におけるせん断疲労強度τ
1imを決めるようにしても良い。
上記の応力勾配をもつ疲労試験で現れる寸法効果は,応力勾配という力学的要因と、大きな負荷を受ける体積(危険体積)が増減するという統計的要因によってもたらされる。統計的要因という観点から、複数応力水準で複数本の評価を行ってP-S-N 線図を得ればよい。
【0016】
この場合に、前記せん断疲労強度決定過程では、前記P−S−N線図から決められた前記超長寿命領域におけるせん断疲労強度に対する85%の値を、前記疲労限面圧計算過程で用いるせん断疲労強度τ
1imの値としても良い。
最も安全に見積もるために、上記と同様に、P−S−N線図から決められた前記超長寿命領域におけるせん断疲労強度の85%の値を、さらに80%した値を前記疲労限面圧計算過程で用いるせん断疲労強度τ
1imの値とすることが好ましい。
【0017】
この発明において、せん断疲労強度の絶対値を安全に見積もるため、前記試験過程において、複数回の前記超音波ねじり疲労試験を行って、金属材料のせん断応力振幅と負荷回数の関係を複数求め、前記せん断疲労強度決定過程では、前記複数回の試験過程で求めたせん断応力振幅と負荷回数の関係から任意の破壊確率のP−S−N線図を求め、このP−S−N線図から、前記超長寿命領域におけるせん断疲労強度τ
1imを決める補正である破壊確率補正と、前記せん断疲労強度決定過程において、前記定められた基準に従って決められたせん断疲労強度に対する85%の値を、前記疲労限面圧計算過程で用いるせん断疲労強度τ
1imの値とする補正である過大評価補正と、前記せん断疲労強度決定過程で決めた前記超長寿命領域におけるせん断疲労強度に対する80%の値を、前記疲労限面圧計算過程で用いるせん断疲労強度τ
1imの値とする補正である寸法効果補正との3つの補正のうち、任意の2つ以上の補正を組み合わせて求まる断疲労強度τ
1imを絶対値と見なしても良い。このように、2つ以上の補正を組み合わせることにより、せん断疲労強度を安全に見積もってより一層安全に疲労限面圧を安全に推定することができる。
【0019】
この発明方法において、前記試験過程では、前記超音波ねじり疲労試験において前記金属材料の試験片の発熱を抑制するために、試験片を強制空冷しても良い。また、試験片の発熱を抑制するために、負荷と休止を交互に繰り返しても良い。前記試験過程で、超音波ねじり疲労試験において前記金属材料の試験片の発熱が問題にならない低負荷域では連続負荷しても良い。
この発明は、高速に負荷が可能な超音波ねじり疲労試験を用いるようにしており、例えば、加振周波数が20000Hzと極めて高速な超音波ねじり疲労試験を行う。これにより、連続加振すれば、わずか半日余りで10
9 回の負荷回数に到達する。しかし、ある程度高いせん断応力振幅で連続加振すると試験片が発熱し、精度の良いせん断応力振幅と負荷回数の関係を求めることができない。そのため、試験片を強制空冷することが好ましい。強制空冷だけでは試験片の発熱抑制が不十分な場合は、加振と休止を交互に繰り返すことが好ましい。休止することで実質の負荷周波数は小さくなるが、加振周波数が20000Hzの超音波ねじり疲労試験機を用いると、休止時間を加振時間の10倍程度としても2000Hz程度と依然高速であり、1週間もあれば10
9 回の負荷回数に到達する。
この発明方法において、前記金属材料が、M50またはM50NiLであり、前記試験片は熱処理品であっても良い。
【0020】
この発明の航空機用転がり軸受材料の選定方法は、この発明の上記いずれかの構成の疲労限面圧の推定方法により推定された疲労限面圧が、定められた疲労限面圧以上である金属材料を、航空機用の転がり軸受の軌道輪または転動体の材料として使用するものである。
【0021】
この発明の疲労限面圧の推定方法によれば、短時間の疲労試験の結果から、転がり軸受用の金属材料の疲労限面圧を精度良く推定することができる。そのため、転がり軸受の軌道輪または転動体に使用する材料の試験項目の一つとして疲労限面圧を採用することができる。実際に疲労試験して求めた疲労限面圧が、定められた疲労限面圧以上である材料のみを軸受材料として用いることで、航空機用軸受の信頼性向上に大きく役立つ。疲労限面圧を使用材料の試験項目の一つとして採用することは、従来では試験に長年かかり、あまりにも実情から離れていて発想になかったが、この発明方法によると、実用化が可能であり、その採用により軸受の信頼性向上に役立てることができる。なお、判定基準となる「定められた疲労限面圧」は、目的等に応じて適宜設定すれば良い。また、疲労限面圧の推定は、例えば、材料のロット毎や、一度に購入した量毎、購入先毎等に行う。
【0022】
この発明の航空機用転がり軸受材料の疲労限面圧の推定
システムは
、航空機用の転がり軸受の軌道輪または転動体となる転がり接触する金属材料の試験片について、完全両振りの超音波ねじり疲労試験を行う超音波ねじり疲労試験機本体と、この超音波ねじり疲労試験機本体を、入力された試験条件に従って制御する試験機制御装置と、疲労限面圧の推定装置とを備え、
前記超音波ねじり疲労試験機本体は、交流電力が印加されることで回転中心軸回りの正逆の回転となるねじり振動を発生するねじり振動コンバータと、先端に同心に試験片を取付ける取付部を有し基端でねじり振動コンバータに固定され、基端に与えられた前記振動コンバータのねじり振動の振幅を拡大する振幅拡大ホーンとを有し、前記試験片の形状,寸法を、前記ねじり振動コンバータの駆動による振幅拡大ホーンの振動に共振する形状,寸法とされ、前記振動コンバータを超音波領域の周波数で駆動し前記試験片を前記振幅拡大ホーンの振動に共振させてせん断疲労破壊させることによって行う構成であって、かつ前記振幅拡大ホーンの形状は、前記試験片の取付部となる先端側が細くなる指数関数型であり、
前記疲労限面圧の推定装置は、航空機用の転がり軸受の軌道輪または転動体となる金属材料の疲労限面圧P
max 1imを推定する装置であって、
完全両振りの超音波ねじり疲労試験によって求められた金属材料のせん断応力振幅と負荷回数の関係を、定められた記憶領域に記憶させる入力手段22と、
この記憶されたせん断応力振幅と負荷回数の関係から超長寿命領域におけるせん断疲労強度τ
1imを、定められた基準に従って決めるせん断疲労強度決定手段23と、
前記金属材料で製造される物体M1およびこの物体M1に対して転がり接触する物体M2の互いに接触する面の形状,寸法と接触面圧を与える負荷とから決まる前記金属材料の表層内部に作用する最大交番せん断応力振幅τ
0 が、前記せん断疲労強度τ
1imに等しくなる前記負荷が作用するときの最大接触面圧P
max を定められた計算式によって求め、この最大接触面圧P
maxを疲労限面圧P
max 1imの推定値とする疲労限面圧計算手段24とを備える。
前記金属材料は、航空機用の転がり軸受の軌道輪または転動体となる転がり軸受用鋼であっても良い。前記入力手段22は、キーボート等の手入力を行う入力装置や、記録媒体の読み出し装置、通信ネットワークなどを用いて、例えば、前記金属材料のせん断応力振幅と負荷回数の関係を纏めたファイルを、後の計算のために、定められた記憶領域、またはその記憶場所が特定できるように記憶させる手段である。
【0023】
この
システムによると、この発明方法につき説明したと同様に、極めて高速な負荷が可能な超音波ねじり疲労試験を用いることができて、短期間で転がり軸受用鋼のせん断応力振幅と負荷回数の関係を求め、疲労限面圧P
max 1imを精度良く推定することができる。
線接触とみなせる場合、前記疲労限面圧計算手段24における前記定められた計算式は、例えば次式、
(疲労限面圧P
max 1im)=4×(せん断疲労強度τ
1im)
とする。
【0024】
前記疲労限面圧の推定装置において、前記入力手段22は、複数回の各超音波ねじり疲労試験によって求められた金属材料のせん断応力振幅と負荷回数の関係を、定められた記憶領域に記憶させる機能を有し、前記せん断疲労強度決定手段23は、前記複数回の試験におけるせん断応力振幅と負荷回数の関係から任意の破壊確率のP−S−N線図を求め、このP−S−N線図から、前記超長寿命領域におけるせん断疲労強度τ
1imを決めるものであっても良い。
【発明の効果】
【0026】
この発明の航空機用転がり軸受材料の疲労限面圧の推定方
法および推定システムは
、指数関数型の振幅拡大ホーンを用いる超音波ねじり疲労試験によって金属材料のせん断応力振幅と負荷回数の関係を求め、その関係から超長寿命領域におけるせん断疲労強度τ
1imを決め、金属材料の接触寸法諸元から表層内部に作用する最大交番せん断応力振幅τ
0 が前記せん断疲労強度τ
1imに等しくなる負荷が作用するときの最大接触面圧P
max を疲労限面圧P
max 1imとして推定するため、極めて高速な負荷が可能な超音波ねじり疲労試験を用いることができて、転がり軸受用鋼等の疲労強度の高い金属材料であっても、短期間でせん断応力振幅と負荷回数の関係を求め、疲労限面圧P
max 1imを精度良く推定することができる。
【0027】
この発明の航空機用転がり軸受材料の選定方法は、この発明の上記いずれかの構成の疲労限面圧の推定方法により推定された疲労限面圧が、定められた疲労限面圧以上である金属材料を、航空機用の転がり軸受の軌道輪または転動体の材料として使用するため、従来では発想になかった試験項目の採用により、航空機用転がり軸受の信頼性向上が図れる。
【発明を実施するための形態】
【0029】
この発明の一実施形態を図面と共に説明する。以下の説明は、航空機用転がり軸受材料の選定方法についての説明をも含む。この転がり接触金属材料の疲労限面圧の推定方法は、航空機用の転がり軸受の軌道輪または転動体となる金属材料の疲労限面圧P
max 1imを推定する方法であって、
図1(A)のように、試験過程(S1)と、せん断疲労強度決定過程(S2)と、疲労限面圧計算過程(S3)とを含む。この転がり軸受は、航空機の例えば、エンジンのタービンの主軸を支持する軸受等に使用される。前記金属材料は、例えば、転がり軸受の軌道輪または転動体となる転がり軸受用鋼である。
【0030】
試験過程(S1)は、完全両振りの超音波ねじり疲労試験によって金属材料のせん断応力振幅と負荷回数の関係を求める過程である。この試験は、同図(B)に示す金属材料の試験片1に対して完全両振りの超音波ねじり振動を与える超音波ねじり疲労試験機2を用いる。この超音波ねじり疲労試験機2は、加振周波数が20000Hzと極めて高速な超音波ねじり疲労試験(完全両振り) を用いることにした。この超音波ねじり疲労試験機2は、市販のものをそのまま使用することができず、種々の改良を施したものである。
【0031】
せん断疲労強度決定過程(S2)は、試験過程(S1)で求められたせん断応力振幅と負荷回数の関係から超長寿命領域におけるせん断疲労強度τ
1imを、定められた基準に従って決める。なお、上記の「超長寿命領域におけるせん断疲労強度」は、「せん断疲労限度」のことであるが、この明細書では、「超長寿命領域におけるせん断疲労強度」として説明する。せん断疲労強度決定過程(S2)で言う上記の「定められた基準」は、例えば、せん断疲労強度を示す確立された理論の曲線に、試験結果のせん断応力振幅と負荷回数の関係を当てはめた曲線を求め、その曲線からせん断疲労強度を求める処理とされる。具体的には、日本材料学会の金属材料疲労信頼性評価標準JSMS-SD-6-02の疲労限度型折れ線モデルにあてはめて求めたS−N線図(破壊確率50%の疲労強度線図) (同図(C)参照)を用いることができる。疲労限度型折れ線モデルに限らず、連続低下型曲線モデルに当てはめてS−N線図を求めても良い。ただし、その場合は、例えば「τ
1imは、10
10回におけるS−N線図上の値」等として定義する必要がある。
【0032】
日本材料学会の金属材料疲労信頼性評価標準JSMS-SD-6-02の疲労限度型折れ線モデルは、次式にあてはめて回帰する。
σ=-Alog
10N+B(N<N
W)
σ=E(N≧N
W)
ここで、A、B、E、N
wは定数である。疲労限度(上式のE)は、N=5×10
6以上の負荷回数における打ち切りデータが1点以上存在する場合、以下のように推定する。破断データ応力最小値σ
f minと、これより低応力の打ち切りデータ応力最大値σ
r maxの平均値を疲労限度とする(
図21参照)。なお、σ
f minと同じ応力レベルに打ち切りデータがあり、かつこれより低い応力レベルで打切りデータが存在しない場合は、このσ
f minを疲労限度とする。こうして疲労限度を決めた上で、この値を固定して破断データのみから上式中の他のパラメータを推定する。
連続低下型曲線モデルはストロメイヤー(Stromeyer)の基礎式である次式にあてはめて回帰する。
【数1】
ここで、A、B、Dは定数である。
疲労強度、疲労寿命にはバラツキがある。本来、確率疲労特性は、複数の応力振幅で複数個の試験片を評価し、ある破壊確率におけるP−S−N線図を求めて評価する(非特許文献5参照)。しかしながら、P−S−N線図を求めるには多大な工数と時間を要する。金属材料疲労信頼性評価標準JSMS-SD-6-02では、S−N線図から任意の破壊確率におけるP−S−N線図を求める方法が提案されている。それは、
図22のように、任意の疲労寿命における強度分布は正規分布に従い、その標準偏差σは一定と仮定する。
得られたS−N線図を破壊確率50%の疲労強度曲線とする。疲労限度型折れ線モデルでは時間強度部(傾斜直線部)の破損データ、連続低下型曲線モデルは全範囲の破損データを対象とする。
図23は連続低下型曲線モデルの例である。直線または曲線に沿って個々の破損データを任意の疲労寿命に平行移動し、それらが正規分布するとして標準偏差を求める。例えば、得られた標準偏差をsとすると、破壊確率50%の疲労強度曲線を1.282sだけ下に平行移動したものが破壊確率10%のP−S−N線図となる。
【0033】
疲労限面圧計算過程(S3)は、前記金属材料で製造される物体M1(同図(D))およびこの物体M2に対して転がり接触する物体M2の互いに接触する面の接触寸法諸元(形状および寸法)と接触面圧を与える負荷とから決まる前記金属材料の物体M1の表層内部に作用する最大交番せん断応力振幅τ
0が、前記せん断疲労強度τ
1imに等しくなる前記負荷が作用するときの最大接触面圧P
max を定められた計算式によって求め、この最大接触面圧P
max を疲労限面圧P
max 1imの推定値とする。
金属材料で製造される物体M1は、金属材料が転がり軸受用鋼である場合、転がり軸受の軌道輪または転動体である。この転がり軸受は、玉軸受であっても、ころ軸受であっても良い。
【0034】
この疲労限面圧計算過程(S3)で用いる上記の「定められた計算式」は、前出の非特許文献3に記載されている。非特許文献3のFIGURE 5.13は、線接触状態にお
いて接触面下に作用する交番せん断応力が最大になる深さの交番せん断応力の周方向分布であり、最大交番せん断応力τ
0の4倍が最大接触面圧P
maxに等しくなることを示している。したがって、線接触状態の場合は、
(疲労限面圧P
max 1im)=4×(せん断疲労強度τ
1im)
となる。
接触楕円の長軸半径a、単軸半径bに対し、線接触状態はb/a=0であり、その場合、上記のようにτ
0の4倍がP
maxに等しい。b/a≠0の場合のτ
0とP
maxの比例定数は非特許文献3のFIGURE 5.14に示されている。
【0035】
この実施形態の推定方法によると、疲労試験を超音波ねじり疲労試験で行うため、極めて高速な負荷が可能で、短時間で金属材料のせん断応力振幅と負荷回数の関係を求めることができる。このように求めた関係から超長寿命領域におけるせん断疲労強度τ
1imを決め、金属材料の接触寸法諸元から表層内部に作用する最大交番せん断応力振幅τ
0 が前記せん断疲労強度τ
1imに等しくなる負荷が作用するときの最大接触面圧P
max を疲労限面圧P
max 1imとして推定するため、ねじり疲労試験の結果から精度良く疲労限面圧P
max 1imを推定することができる。このため、前記せん断疲労強度τ
1imが強い材質である転がり軸受用鋼の疲労限面圧P
max 1imの推定を行う場合に、その短時間の試験で済むという効果がより一層効果的に発揮される。したがって、航空機用の転がり軸受の軌道輪または転動体となる金属材料のせん断疲労特性を求め、求めたせん断疲労特性から疲労限面圧P
max 1imを評価し得る。この疲労限面圧P
max 1imを評価した金属材料を、転がり軸受の軌道輪または転動体に用いることで、超長寿命域の軸受寿命を実現することができる。
【0036】
この実施形態では、上記のように、加振周波数が20000Hzと極めて高速な完全両振りの超音波ねじり疲労試験により、短期間で転がり軸受用鋼のせん断応力振幅と負荷回数の関係を求め、超長寿命領域におけるせん断疲労強度(またはせん断疲労限度)τ
1imを決め、転がり軸受の接触寸法諸元から表層内部に作用する交番せん断応力振幅τ
0
がせん断疲労強度τ
1imに等しくなる負荷が作用するときの最大接触面圧P
maxを疲労限面圧P
max 1imとして推定する。例えば、20000Hzで連続加振すれば、わずか半日余りで10
9 の負荷回数に到達する。しかし、ある程度高いせん断応力振幅で連続加振すると試験片1が発熱するため、試験片1を冷却する必要があり、強制空冷を行う。強制空冷だけでは試験片1の発熱抑制が不十分な場合は、加振と休止を交互に繰り返すようにする。休止することで実質の負荷周波数は小さくなるが、加振周波数が20000Hzの試験機2であれば、休止時間を加振時間の10倍程度としても2000Hz程度と依然高速であり、1週間もあれば10
9 回の負荷回数に到達する。
【0037】
なお、材料の疲労破壊を支配する応力は、突き詰めれば垂直応力かせん断応力のどちらかである。垂直応力による疲労特性を高速に評価するため、超音波軸荷重疲労試験機( 完全両振り) が市販されてから数年が経つ。それに対し、せん断応力による疲労特性を高速に評価するための超音波ねじり疲労試験の研究はほとんど行われておらず、これまでに評価された材料は最大せん断応力振幅(完全両振り) が250MPa以下で疲労破壊する軟鋼やアルミ合金である。それに対し、転がり軸受の動定格荷重及び定格寿命の規格であるISO-281:2007で定められている転がり軸受の疲労限面圧は1500MPaであり、線接触状態を考えると、そのときに表層内部に作用する最大交番せん断応力振幅はτ
0 =375MPaである。したがって、375MPa以上の最大せん断応力振幅で評価できる超音波ねじり試験機が必要であるが、このような大きな最大せん断応力振幅で評価できる超音波ねじり試験機は、従来に例がない。そのため、この発明は、超音波ねじり試験機の開発と、表層内部に作用する最大交番せん断応力振幅τ
0 が前記せん断疲労強度τ
1imに等しくなる負荷が作用するときの最大接触面圧P
max を疲労限面圧P
max 1imとして推定できるという知見との、総合的な案出によりなされたものである。
【0038】
この実施形態の航空機用転がり軸受材料の選定方法は、この発明の上記いずれかの構成の疲労限面圧の推定方法により推定された疲労限面圧が、定められた疲労限面圧以上である金属材料を、航空機用の転がり軸受の軌道輪または転動体の材料として使用するものである。
この実施形態の疲労限面圧の推定方法によれば、短時間の疲労試験の結果から、転がり軸受用の金属材料の疲労限面圧を精度良く推定することができる。そのため、転がり軸受の軌道輪または転動体に使用する材料の試験項目の一つとして疲労限面圧を採用することができる。実際に疲労試験して求めた疲労限面圧が、定められた疲労限面圧以上である材料のみを軸受材料として用いることで、航空機用軸受の信頼性向上に大きく役立つ。疲労限面圧を使用材料の試験項目の一つとして採用することは、従来では試験に長年かかり、あまりにも実情から離れていて発想になかったが、この方法によると、実用化が可能であり、その採用により軸受の信頼性向上に役立てることができる。なお、判定基準となる「定められた疲労限面圧」は、目的等に応じて適宜設定すれば良い。また、疲労限面圧の推定は、例えば、材料のロット毎や、一度に購入した量毎、購入先毎等に行う。
【0039】
図2は、上記推定方法に用いる転がり接触金属材料の疲労限面圧の推定システムの概念構成を示す。この推定システムは、超音波ねじり疲労試験機2と、
図1のせん断疲労強度決定過程(S2)および疲労限面圧計算過程(S3)の処理を行う疲労限面圧の推定装置5とで構成される。
【0040】
図2において、超音波ねじり疲労試験機2は、試験機本体3と試験機制御装置4とで構成される。試験機本体3は、フレーム6の上部に設置したねじり振動コンバータ7に、下向きに突出する振幅拡大ホーン8を取付け、その先端に試験片1を着脱可能に取付け、ねじり振動コンバータ7で発生した超音波振動を、振幅拡大ホーン8の軸心回りの正逆回転方向の振動として拡大して試験片1に伝えるものである。
【0041】
試験機制御装置4は、コンピュータ10と、このコンピュータ10で実行可能な試験機制御プログラム11とで構成される。コンピュータ10は、デスクトップ型等のパーソナルコンピュータであり、中央処理装置12、メモリ等の記憶手段13、および入出力インタフェース14を備える。記憶手段13に上記試験機制御プログラム11が記憶され、記憶手段13の残りの記憶領域が、データ記憶エリア13aや作業エリアとなる。この他に、キーボードやマウス等の入力装置15と、液晶表示装置等の画像を表示する表示装置やプリンタ等の出力装置16が、コンピュータ10の一部として、またはコンピュータ10に接続して設けられている。
試験機制御装置4は、試験機本体3のねじり振動コンバータ7を制御する装置であり、制御出力は、入出力インタフェース14から、アンプ17を介して振動コンバータ7に与えられる。この試験機制御装置4は、試験機制御プログラム11に従って次の処理を行う。まず、
図19に画面例を示すように、試験条件(出力、間欠運転と連続運転のいずれとするか、試験終了条件、データ採取条件等)の入力を促す画面を出力装置16となる表示装置に出力し、入力装置15から上記試験条件が入力され、試験開始命令が入力されると、入力された条件に従って試験機本体3を駆動し制御する。なお、最大せん断応力振幅の値は、入力した出力Pに対し、後述の(9)式によって換算表示される。
【0042】
図2において、疲労限面圧の推定装置5は、コンピュータ10と、このコンピュータ10で実行可能な疲労限面圧推定プログラム19とで構成される。コンピュータ10は、試験機制御装置4を構成するコンピュータと同じものであっても良く、また別のものであってよく、中央処理装置12、メモリ等の記憶手段13、および入出力インタフェース14を備える。また上記入力装置15および出力装置16が、コンピュータ10の一部として、またはコンピュータ10に接続して設けられている。
図3は、試験機制御プログラム11と疲労限面圧推定プログラム19とを同じコンピュータ10に記憶させ、試験機制御装置兼疲労限面圧の推定装置9とした例を示す。
【0043】
疲労限面圧の推定装置5は、コンピュータ10と前記疲労限面圧推定プログラム11とで、
図4に概念構成で示す各手段が構成されたものである。この疲労限面圧の推定装置5は、転がり接触する金属材料の疲労限面圧P
max 1imを推定する装置であって、入力手段22、せん断疲労強度決定手段23、および疲労限面圧計算手段24を備え、また記憶手段13、出力手段4Aが構成されている。
【0044】
入力手段22は、完全両振りの超音波ねじり疲労試験によって求められた金属材料のせん断応力振幅と負荷回数の関係を、記憶手段13の定められた記憶領域に記憶させる手段である。入力手段22は、詳しくは、キーボート等の手入力を行う入力装置や、記録媒体の読み出し装置、通信ネットワークなどを用いて、例えば、前記金属材料のせん断応力振幅と負荷回数の関係を纏めたファイルを、後の計算のために、定められた記憶領域、またはその記憶場所が特定できるように記憶させる手段である。
せん断疲労強度決定手段23は、前記記憶領域に記憶されたせん断応力振幅と負荷回数の関係から超長寿命領域におけるせん断疲労強度τ
1imを、定められた基準に従って決める手段である。せん断疲労強度決定手段23で行う具体的な処理内容は、
図1の疲労限面圧計算過程(S3)について説明するとおりである。
疲労限面圧計算手段24は、前記金属材料で製造される物体M1およびこの物体M1に対して転がり接触する物体M2の互いに接触する面の形状,寸法と接触面圧を与える負荷とから決まる前記金属材料の物体M1の表層内部に作用する最大交番せん断応力振幅τ
0が、前記せん断疲労強度τ
1imに等しくなる前記負荷が作用するときの最大接触面圧P
maxを定められた計算式によって求め、この最大接触面圧P
max を疲労限面圧P
max 1imの推定値とする手段である。疲労限面圧計算手段24で行う具体的な処理内容は、
図1の疲労限面圧計算過程(S3)について説明するとおりである。
【0045】
次に、超音波ねじり疲労試験機2の詳細、およびこの疲労限面圧の推定方法の詳細を説明する。この超音波ねじり疲労試験機2は、転がり軸受用鋼に極めて高速にせん断疲労が与えられる完全両振りの超音波ねじり疲労試験機として設計したものである。ねじり振動コンバータ7の加振周波数範囲は20000±500Hzである。なお、超音波軸荷重疲労試験に用いられる縦振動コンバータには様々な出力のものがあるのに対し、ねじり振動コンバータの市販品は低出力のものしかなく、自作することも実質不可能であった。したがって、振幅拡大ホーン8と試験片1の形状を最適化して高強度な転がり軸受用鋼にねじり疲労を与える必要があった。
【0046】
振幅拡大ホーン8は、指数関数型であり、ねじり振動コンバータ7に固定する大径側端面の直径は38mm、試験片1を固定する小径側端面の直径は13mmである。なるべく拡大率(小径側のねじり角の大径側のねじり角に対する比)を大きく、かつ20000Hz付近で共振するように設計・調整されている。なお、振幅拡大ホーン8の大径側の端面にはねじり振動コンバータに固定するための雄ねじ部が軸方向に突出して設けられ、小径側の端面には試験片を固定するための雌ねじが開けられている。振幅拡大ホーン8の素材はチタン合金である。ヤング率E、ポアソン比ν、密度ρを実測した結果、それぞれE=1.16×10
11Pa、ν=0.27、ρ=4460kg/m
3であった。FEM解析ソフト(Marc Mentat 2008 r1)(登録商標)を用い、上記のE 、ν、ρを物性値として、自由ねじり共振の固有値解析を行った。その結果、拡大率は43.1倍になった。
【0047】
図6に試験片の模式図を示す。実際の試験片1の一端には、振幅拡大ホーン8の先端に固定するための雄ネジ部が設けられている。
図6において、試験片1はダンベル型で、肩部長さL
1、半弦長さL
2、肩部半径R
2、最小半径R
1、円弧半径Rで決定される。
【0048】
試験片1の設計にあたっては、半弦長さL
2、肩部半径R
2 、最小半径R
1 を適当に与え(いずれも単位はm)、共振周波数f(=20000Hz) ,ヤング率E ,ポアソン比ν,密度ρ( 標準熱処理した軸受鋼SUJ2の実測値はE=2.04×10
11Pa,ν=0.29 ,ρ=7800kg/m
3) とともに、次式(1) 〜(6) 式に代入すれば肩部長さL
1が求まる(単位はm)。円弧半径RはR
1,R
2,L
2から求まる。
【0050】
ここで、なるべく大きなせん断応力が試験片最小径部の表面に作用するように事前検討したL
2=0.0065m,R
2=0.0045m,R
1=0.002m を、上記のf ,E ,ν,ρとともに(1) 〜(6) 式に代入するとL
1=0.00753m となる。しかし、標準焼入焼戻した軸受鋼SUJ2でL
1=0.00753m とした試験片を製作したところ共振しなかった。そこで,FEM 解析ソフト(Marc Mentat 2008 r1) (登録商標)を用い、上記のf ,E ,ν,ρを物性値として自由ねじり共振の固有値解析を行った。その結果,L
1=0.00753m でねじり共振する周波数は19076Hz となり、ねじり振動コンバータの加振周波数範囲である20000 ±500Hz を外れていた。そのため、20000Hz でねじり共振するL
1を求めた結果、L
1=0.00677m となった。標準焼入焼戻した軸受鋼SUJ2でL
1=0.00677m とした試験片を製作したところ20000Hz 付近で共振した。
図7に試験片図面を示す(単位はmm)。
【0051】
図8は、
図7の試験片モデルで自由ねじり共振の固有値解析を行って得たねじり角θと表面のせん断応力τである。
図8は端面ねじり角θ
end が0.01rad の場合であり、このときの試験片最小径部の表面に作用する最大せん断応力τ
maxは526.18MPa となった。
すなわち、線形弾性の範疇では、端面ねじり角θ
end と試験片最小径部における表面の最大せん断応力τ
max の関係は(7) 式のようになる。ただし,τ
max の単位はMPa 、θ
end は無次元である。
τ
max =52618θ
end (7)
【0052】
図7の形状の標準焼入焼戻した軸受鋼SUJ2製の試験片1を3本用い、アンプ出力P(%)を変えて端面ねじり角θ
end を測定した。表1に試験片素材の合金成分を示す。硬さは722HV であった。
【0054】
加振中の試験片肩部下端の写真をデジタルマイクロスコープ( キーエンス製VHX-900)にて200倍で撮影した。それに先立ち、ボール盤で試験片肩部にエメリー研磨(#500 ,#2000)とダイヤモンドラッピング(1μm)を施して鏡面状態にした。試験片を試験機に取り付けた後、肩部にカラーチェックの現像剤を塗布した。
図9は静止時の写真であり、所々に現像剤が塗布されない箇所ができる。それら塗布されない箇所の加振時の挙動を観察した。
図9の場合、矢印を付した箇所の挙動に着目した。アンプ出力Pを10% から90% まで5%刻みで変えて1 秒間加振し、その間にシャッタースピード1/15sec で写真撮影した。
図10はP=50%で加振中に撮影した写真で、範囲2aが
図9の着目箇所の軌跡である。
【0055】
アンプ出力P(%)を変えて測定した範囲2aから、
図11のように端面ねじり角θ
end を求めた。その結果、
図12のように、3本の試験片1とも、Pとθ
end の間にはほぼ同一の直線関係が見られ、回帰直線として(8) 式が得られた。
【0056】
(7) 式と(8) 式から、アンプ出力Pと試験片最小径部における表面の最大せん断応力振幅τ
maxの関係は(9) 式のようになった。(9) 式から、P=90%でτ
max=951MPaとなり、高強度な転がり軸受用鋼にねじり疲労を与えられることが十分に見込める。
【0058】
製作した超音波ねじり疲労試験機2は、
図2と共に前述したパーソナルコンピュータ10および試験機制御プログラム11で構成した試験機制御装置4で、アンプ17を制御するようになっている。
図19に、超音波ねじり疲労試験機2の試験条件を入力する画面を示す。
図20は試験過程の詳細の流れ図であり、試験過程では、入力された試験条件に従って、同図のようにアンプ出力の制御や、連続発振または間欠発振を選択した制御、情報取得(周波数とアンプ状態の取得)、試験の終了等の制御等が行われる。
【0059】
図19の入力画面例で、計測準備の欄に共振周波数が19.97 と表示されているのは、出力10%で試験片が19.97kHzで共振したことを示しており、ねらいの20000Hzにほぼ等しい。この試験機制御装置4によると、計測条件の欄にアンプ出力を入力すると、あらかじめ初期設定画面に入力した(9) 式の直線の傾きと切片から、最大せん断応力振幅に変換される。同欄では、加振し続ける連続運転か、加振と休止を交互に繰り返す間欠運転のどちらかを選択する。
【0060】
き裂が発生し、ある程度の寸法に成長すると、試験片1の共振周波数が低下する。同欄の周波数変動幅に50.00 と入力されているのは、共振周波数が試験時よりも50Hz以上低下したら疲労破壊したとして試験を停止させるためである。なお、この値は可変であり、試験片材質に応じて適切な値を入力すべきである。
図13にねじり疲労破壊した試験片の例を示す。軸方向のせん断き裂が発生し、ある程度の長さに成長した後、引張型に遷移して斜め方向に逸れていったことを示している。
【0061】
常温大気中にて標準焼入焼戻した軸受鋼SUJ2を、加振と休止を交互に繰り返す間欠運転で評価した。最大せん断応力振幅の大小によらず、一貫して加振時間は110msec ,休止時間は1100msecとした。試験片は上記の端面ねじり角測定に用いたものと同ロットである。10
10回まで損傷が起きなければ試験を打ち切った。
【0062】
図15に超音波ねじり疲労試験で得られたせん断応力振幅と負荷回数の関係を示す。
図15中の実線は、日本材料学会の金属材料疲労信頼性評価標準JSMS-SD-6-02の疲労限度型折れ線モデルにあてはめて求めたS-N 線図(破壊確率50%の疲労強度線図) であり、せん断疲労限度はτ
1im=564MPaとなった。線接触状態を考え、τ
1im=564MPaが最大交番せん断応力振幅τ
0 に等しいとすると、以下の式、
(疲労限面圧P
max 1im)=4×(せん断疲労強度τ
1im)
に従って計算すれば、疲労限面圧はP
max 1im=2256MPaと推定されることになる。
なお、疲労限度型折れ線モデルではなく、連続低下型曲線モデルに当てはめてS-N 線図を求めてもよい。ただし、その場合、例えば「τ
1imは10
10回におけるS-N 線図上の値」などとして定義する必要がある。
【0063】
表1の軸受鋼SUJ2を素材に用い、
図14のように、直径10mmの平行部に、超音波ねじり疲労試験片と同じ最小直径4mmの中細り部を設けたねじり疲労試験片(標準焼入焼戻)を製作した(図中の寸法の単位はmmである)。中細り部を設けたのは、危険体積を略等しくするためである。なお、
図14のねじり疲労試験片はR=11.4mmに対し、超音波ねじり疲労試験片はR=9.7mmである。Rを変えた理由は応力集中係数を揃えるためである。ねじり疲労試験に先立ち、表面粗さの影響をなくす目的で、中細り部にエメリー研磨(#500、#2000)とダイヤモンドラッピング(粒径1μm)を施した。ねじり疲労試験は油圧サーボ型ねじり疲労試験機にて、完全両振り、負荷周波数10Hzで行った。その結果、
図15中の白丸プロットのようになり、油圧サーボねじり疲労試験結果の時間強度は,超音波ねじり疲労試験結果のものよりも約15%低くなった。超音波ねじり疲労試験は、従来のねじり疲労試験よりも、せん断疲労強度を高めに評価する傾向がある。したがって、超音波ねじり疲労試験で得られたせん断疲労限度564MPaの85%である479MPa(
図15中の破線)をτ
1imとする。その場合、線接触状態を考え、τ
1im=479MPaが最大交番せん断応力振幅τ
0に等しいとすると、疲労限面圧はP
max 1im=1916MPaと推定されることになる。
【0064】
ねじり疲労試験では、せん断応力は試験片表面で最大、軸芯でゼロになる。すなわち、応力勾配をもつ疲労試験である。ここで、引張圧縮疲労試験のうち、軸荷重疲労試験では平滑部断面内の垂直応力は均一であり、平滑部直径によらず一定の疲労限度を示すことが知られている。それに対し、応力勾配をもつ回転曲げ疲労試験では、平滑部直径が大きくなるにつれて疲労限度が低下し、軸荷重疲労試験での疲労限度に漸近していく寸法効果を示すことが知られている。引張強度が異なる3鋼種について、軸荷重疲労試験と平滑部直径を種々変えた回転曲げ疲労試験を行い、それぞれの疲労限度を求めた報告がある(前出の非特許文献4参照)。それによると、鋼種によらず、軸荷重疲労試験での疲労限度は、平滑部直径が4mmの回転曲げ疲労試験での疲労限度の約80%となっている。
【0065】
引張圧縮疲労試験では、応力勾配をもたない軸荷重疲労試験での疲労限度が安全側の基準になるが、ねじり疲労試験では、平滑部直径をいくら大きくしても応力勾配をもつため基準が存在しない。応力勾配をもつ以上、ねじり疲労試験でも寸法効果は避けられない。そこで、ねじり疲労試験についても引張圧縮疲労試験の基準がそのまま適用できると仮定する。つまり、超音波ねじり疲労試験片の最小直径は4mmなので、上記の超音波ねじり疲労試験の過大評価補正をしたせん断疲労限度479MPaの80%である383MPa(
図15中の点線)をτ
1imとする。その場合、線接触状態を考え、τ
1im=383MPaが最大交番せん断応力振幅τ
0 に等しいとすると、疲労限面圧はP
max 1im=1532MPaと推定されることになる。
【0066】
上記の応力勾配をもつ疲労試験で現れる寸法効果は、応力勾配という力学的要因と、大きな負荷を受ける体積(危険体積) が増減するという統計的要因によってもたらされる。統計的要因という観点から、複数応力水準で複数本の評価を行ってP-S-N 線図を得ればよい。しかしながら、時間的制約から実施が困難な場合が多いであろう。
図15でせん断疲労限度τ
1imを求めるのに日本材料学会の金属材料疲労信頼性評価標準JSMS-SD-6-02を用いた。それには少ないデータ数でP-S-N 線図を得る機能がある。
図16は、それによって得た破壊確率10%のP-S-N 線図(
図16中の破線)であり、10%せん断疲労限度は500MPaとなった。その値に対し、上記の超音波ねじり疲労試験の過大評価補正をすると、500×0.85=425MPaとなる(
図16中の点線)。さらに、上記の寸法効果補正をすると、425×0.8=340MPa(
図16中の一点鎖線)となる。この値が最も安全なτ
1imの見積といえる。線接触状態を考え、τ
1im=340MPaとして、それが最大交番せん断応力振幅τ
0 に等しいとすると、疲労限面圧はP
max 1im=1360MPaと推定されることになる。ここでは適当な破壊確率として10%としたが、超音波ねじり疲労試験片の危険体積と実際の転がり軸受の危険体積を比較し、妥当な破壊確率を考慮すべきである。
【0067】
上記のように、超音波ねじり疲労試験(完全両振り) によって転がり軸受用鋼のせん断応力振幅と負荷回数の関係を求め、それから超長寿命領域におけるせん断疲労強度(またはせん断疲労限度)τ
1imを決め、転がり軸受の接触寸法諸元から表層内部に作用する最大交番せん断応力振幅τ
0 がせん断疲労強度τ
1imに等しくなる負荷が作用するときの最大接触面圧P
maxを疲労限面圧P
max 1imとして推定する方法を示した。
【0068】
ところで、
図17に線接触状態でP
max =1500MPaが作用する場合の接触面下の周方向断面の交番せん断応力τ
yzと深さ方向の垂直応力σ
z の分布を示す(
y: 周方向,
z:深さ方向) 。座標は接触楕円の単軸半径bで無次元化してある。交番せん断応力τ
yzは点線の深さで絶対値が最大になる。
図18は、はく離が起きる前に転がり疲労試験を中止し、周方向断面を観察したところ、交番せん断応力の絶対値が最大になる深さ辺りに見られた表面に平行な微小き裂である。表面に平行に進展した駆動力は交番せん断応力と考えられる。つまり、き裂の進展様式はモードII型(面内せん断型) である。
図17に示したように、き裂面に垂直な方向の垂直応力σ
z は圧縮なので、モードI型(引張型) は有り得ず、かつσ
z はき裂面間を干渉させるため、モードII進展を妨げるように作用する。
【0069】
一方、超音波ねじり疲労試験で発生、進展するモードIIき裂(
図13中のせん断き裂) については、き裂面に垂直な圧縮応力は作用しない。したがって、超音波ねじり疲労試験で求める超長寿命領域におけるせん断疲労強度τ
1imから推定する疲労限面圧P
max1imは、実際より低めの値、安全側の値を与えるといえる。
【実施例】
【0070】
<実施例1>;航空機用の転がり軸受の軌道輪または転動体となる金属材料の疲労限面圧P
max 1imを推定する。
前記金属材料として、M50、M50NiLなどが挙げられる。実施例2では、M50素材に熱処理等を施した試験片と、M50NiL素材に熱処理等を施した試験片とを用いて各試験片のせん断疲労特性を求め、このせん断疲労特性から疲労限面圧を推定した。各試験片として
図7に示した試験片を用いた。
【0071】
表2に、試験片に用いたM50素材、M50NiL素材の合金成分を示す。
【表2】
【0072】
上記表2のM50素材を順次、旋削 → 熱処理 → 研削仕上げして試験片を製作した。この場合の熱処理は、M50素材全体を焼入れするいわゆるずぶ焼入、サブゼロ処理、焼戻し(加熱: 850℃×80min. + 1090℃×20min.,真空 → 油焼入 → サブゼロ処理:-60℃×90min.→焼戻: 450℃×60min. + 550℃×180min.)である。
【0073】
また上記表2のM50NiL素材を順次、旋削 → 熱処理 → 研削仕上げして試験片を製作した。この場合の熱処理は、浸炭焼入れ、中間焼鈍、焼入れ、サブゼロ処理、焼戻し(浸炭: 960℃×15h,RXガス雰囲気,カーボンポテンシャルを1.2に保持 → 拡散: 960℃×74h,RXガス雰囲気 → 中間焼鈍: 650℃×6h → 加熱: 850℃×40min. + 1090℃×25min.,真空 → 油焼入 → サブゼロ処理:-80℃×180min.→焼戻: 450℃×60min. + 550℃×180min.)である。
前記RXガス雰囲気とは、ブタン、メタン等の炭化水素系ガスに空気を混合した後、触媒を充填し高温加熱してなるCO,H
2,N
2を主な成分とする雰囲気ガスである。
【0074】
得られたせん断疲労特性とそれらから求めた疲労限面圧について
図24は、M50標準の試験片のせん断疲労特性を示す図である。同図中の実線は、日本材料学会の金属材料疲労信頼性評価標準JSMS-SD-6-02の疲労限度型折れ線モデルにあてはめて求めたS-N線図であり、せん断疲労限度τ
w0は551MPaとなった。このせん断疲労限度τ
w0に対し、それぞれ破壊確率補正(破壊確率10%),寸法効果補正,過大評価補正をして、線接触状態における疲労限面圧P
max 1imを求めた。この疲労限面圧P
max 1imの推定結果を表3に示す。
【0075】
【表3】
【0076】
図25は、M50NiL浸炭の試験片の同図中の実線は、日本材料学会の金属材料疲労信頼性評価標準JSMS-SD-6-02の疲労限度型折れ線モデルにあてはめて求めたS-N線図であり、せん断疲労限度τ
w0は678MPaとなった。このせん断疲労限度τ
w0に対し、それぞれ破壊確率補正(破壊確率10%),寸法効果補正,過大評価補正をして、線接触状態における疲労限面圧P
max 1imを求めた。この疲労限面圧P
max 1imの推定結果を表4に示す。
【0077】
【表4】
【0078】
実施例1によると、航空機用の転がり軸受の軌道輪または転動体となる金属材料についても、疲労試験を超音波ねじり疲労試験で行うことで、極めて高速な負荷が可能で、短時間(例えば、半日乃至1週間)で各金属材料のせん断応力振幅と負荷回数の関係を求めることができる。この関係から疲労限面圧P
max 1imを精度良く推定することができる。そのため、航空機用の転がり軸受の軌道輪または転動体に使用する材料の試験項目の一つとして疲労限面圧を採用することができる。実際に疲労試験して求めた疲労限面圧が、定められた疲労限面圧以上である材料のみを軸受材料として用いることで、航空機用軸受の信頼性向上に大きく役立つ。疲労限面圧を使用材料の試験項目の一つとして採用することは、従来では試験に長年かかり、あまりにも実情から離れていて発想になかったが、この方法によると、実用化が可能であり、その採用により軸受の信頼性向上に役立てることができる。