【課題を解決するための手段】
【0010】
この発明の転がり軸受材料の特性評価方法は、転がり軸受の軌道輪または転動体となる金属材料のせん断疲労特性を、前記金属材料からなる試験片を用いて試験し評価する方法であって、
前記試験片に超音波領域の周波数範囲でねじり振動を与えて前記試験片をせん断疲労破壊させる試験を
行うものであり、前記試験は、前記ねじり振動を与える手段に対して前記試験片を共振させてせん断疲労破壊させる試験であり、交流電力が印加されることで回転中心軸回りの正逆の回転となるねじり振動を発生するねじり振動コンバータと、先端に同心に試験片を取付ける取付部を有し基端で前記ねじり振動コンバータに固定され、基端に与えられた前記ねじり振動コンバータのねじり振動の振幅を拡大する振幅拡大ホーンとを用い、前記振幅拡大ホーンの形状、寸法を、前記ねじり振動コンバータの駆動によるねじり振動に共振する形状、寸法とし、前記試験片の形状、寸法を、前記振幅拡大ホーンのねじり振動に共振する形状、寸法とし、前記ねじり振動コンバータを超音波領域の周波数範囲で駆動し、前記振幅拡大ホーンと前記試験片を共振させて、試験片をせん断疲労破壊させる試験を行い、前記振幅拡大ホーンの形状は、前記試験片の取付部となる先端側が細くなる指数関数型であり、この試験により得られたせん断応力振幅と負荷回数との関係を用いて、前記金属材料のせん断疲労特性を評価することを特徴とする。
なお、この明細書において、「超音波領域の周波数範囲」は、広義となる16000Hz以上の音波の周波数領域を言う。
【0011】
この方法によると、加振周波数が超音波領域となる極めて高速な超音波ねじり疲労試験機を行うため、転がり軸受の軌道輪または転動体となる金属材料のせん断疲労特性を評価するにつき、短時間で必要な負荷回数に達し、せん断疲労特性を迅速に評価することができる。例えば、20000Hzで連続加振すれば,わずか半日余りで10
9 回の負荷回数に到達する。また、実際にせん断疲労破壊を生じさせる試験を行うため、従来の非金属介在物の最大サイズを鋼の品質の指標とする方法に比べて、精度良くせん断疲労特性を求めることができる。
なお、材料の疲労破壊を支配する応力は、突き詰めれば垂直応力かせん断応力のどちらかである。垂直応力による疲労特性を高速に評価するため、超音波軸荷重疲労試験機(完全両振り)が市販されてから数年が経つ。それに対し、せん断疲労特性を高速に評価するための超音波ねじり疲労試験の研究はほとんど行われておらず、これまでに評価された材料は、最大せん断応力振幅(完全両振り)が250MPa以下で疲労破壊する軟鋼やアルミ合金である。この発明は、このような技術水準下で、転がり軸受の軌道輪または転動体となる金属材料につき、超音波領域の加振周波数となるねじり振動の付与によりせん断疲労破壊させ、迅速なせん断疲労特性の評価を実現可能としたものである。
【0012】
前記ねじり振動を与える手段に対して試験片を共振させてせん断疲労破壊させ
る。このように試験片を共振させるため、僅かなエネルギの投入で効率良くせん断疲労破壊を生じさせることができる。
前記試験片は、熱処理された金属材料からなるものとしても良い。例えば、軌道輪または転動体に使用される熱処理条件で熱処理された金属材料からなる試験片を試験することで、精度の高い特性評価を行うことが可能となる。
【0013】
前記試験は、前記ねじり振動コンバータと
、前記振幅拡大ホーンと、発振器と、この発振器の出力を増幅して前記ねじり振動コンバータに印加するアンプと、このアンプに前記制御の入力を与える制御手段とを用
いるものとしても良い。
【0014】
前記ねじり振動コンバータにより発生するねじり振動は、正回転方向と逆回転方向とが対称となる振動である完全両振りとすることが好ましい。
前記ねじり振動コンバータを駆動する周波数の下限値が(20000−500+α)Hz、上限値が(20000+500)Hz、ただしαは試験片の試験中の性状変化に対する余裕値であって200Hz以下、であっても良い。このように周波数の下限値を(20000−500+α)Hzとし、上限値を(20000+500)Hzとし、ねじり振動コンバータを実施可能な最大出力で試験する場合、共振不安定を生じないようにし得る。
また、前記試験片を前記振幅拡大ホーンの振動に共振させてせん断疲労破壊させる試験を行うときに、前記振幅拡大ホーンを前記ねじり振動コンバータの振動に共振させることが好ましい。この場合に、前記振幅拡大ホーンは、横断面形状が円形であって、基端部を除く部分の縦断面形状が、指数関数で表される先細り形状とするのが良い。この形状とすることで、振幅拡大が効果的に行われる。
【0015】
この発明において、前記試験片が、両端の円柱形状の肩部と、これら両側の肩部に続き軸方向に沿う断面形状が円弧曲線となる中細り部とでなるダンベル形であることが好ましい。上記ダンベル形であると、中細り部でせん断疲労破壊を生じさせ易い。試験片は共振させる必要があり、そのため各部の形状,寸法を適切に設計することが必要である。
共振可能な適正な形状,寸法の試験片を設計,製作するには、次の方法が好ましい。
試験片の前記肩部の長さをL
1 、前記中細り部の半分の長さである半弦長さをL
2 、前記肩部の半径をR
2 、前記中細り部の最小半径をR
1 ,前記円弧曲線の半径をR(いずれも単位はm,RはR
1 ,R
2 ,L
2 から求まる) とし、共振周波数をf(単位はHz)、ヤング率E(単位はPa),ポアソン比ν( 無次元) ,密度ρ( 単位はkg/m
3)とし、
前記L
2 ,R
1 ,R
2 を任意の値とし、前記共振周波数fを前記振動コンバータが振動する周波数として、次式(1) 〜(6) により、前記共振周波数fで試験片がねじり共振する肩部の長さをL
1 を理論解として求める。
【数1】
【0016】
この理論解として求めた肩部長さL
1 およびこの解の計算に用いた上記各部の寸法L
2 ,R
1 ,R
2 ,Rの試験片を作成して試験しても良いが、共振を生じない場合がある。
その場合は、上記理論解となる肩部の長さL
1 、およびこの長さL
1 を求めた他の前記各部の寸法L
2 、R
2 、R
1 ,Rを基準として、各部のいずれかの寸法を僅かに異ならせた複数種類の試験片の形状データ等からなる形状モデルを作成し、
これらの各形状モデルにつき、E,ν,ρを定まった物性値とし、有限要素解析による自由ねじり共振の固有値解析により、前記各部の寸法L
1 、L
2 、R
2 、R
1 ,Rを、前記共振周波数fでねじり共振するように求める。この求められた各部の寸法の試験片を作成して試験に用いる。
このような試験片の形状,寸法とすることで、試験片の共振が生じる。
【0017】
この発明において、前記のように有限要素解析による自由ねじり共振の固有値解析により求めた各部の寸法L
1 、L
2 、R
2 、R
1 ,Rの試験片を用いて試験する場合に、前記共振周波数fを、20000±500Hzの範囲とし、前記ねじり振動コンバータの最大出力を300Wとした場合、前記試験片の振幅拡大ホーンへの取付用の雄ねじ部からなる取付用突部を除く重量を、9.36g以下とすることが好ましい。
試験片を共振可能な形状,寸法としても、共振不安定を生じることがある。研究の結果、共振不安定には試験片重量に重量が大きく影響することが分かった。また、上記形状,寸法の試験片あって、加振周波数が20000±500Hz、ねじり振動コンバータの最大出力が300Wの試験を行う場合、試験片重量が9.36g以下であると、共振不安定が生じないことが確認できた。
【0018】
また、上記のように試験片重量を9.36g以下とする場合に、前記アンプの出力が90%で試験片の端面ねじり角の実測値が0.018rad 以上となり、有限要素解析による自由ねじり共振の固有値解析で求まる端面ねじり角が0.018rad のときの試験片最小径部の表面に作用する最大せん断応力が951MPa以上となるようにすることが好ましい。
【0019】
この発明方法において、試験片の温度上昇を抑制するために、試験片を強制空冷しても良い。また、試験片の温度上昇を抑制するために、前記ねじり振動コンバータによる試験片に対するねじり振動の負荷と休止を交互に繰り返しても良い。試験片の発熱が試験結果に対して問題にならない低負荷域では連続負荷しても良く、これにより迅速に試験が行える。
ある程度高いせん断応力振幅で連続加振すると試験片が発熱する。そのため、試験片を強制空冷することが好ましい。強制空冷だけでは試験片の発熱抑制が不十分な場合は、加振と休止を交互に繰り返すことが好ましい。休止することで実質の負荷周波数は小さくなるが、休止時間を加振時間の10倍程度としても実質の負荷周波数は2000Hz程度と依然高速であり、1週間もあれば10
9 回の負荷回数に到達する。
【0020】
この発明方法において、前記試験により得た負荷回数とせん断応力振幅の関係から求まる、超長寿命領域におけるせん断疲労強度に対する85%の値を、せん断疲労特性の評価に用いるための、超長寿命領域におけるせん断疲労強度τ
w0としても良い。超音波ねじり疲労試験では、従来の疲労試験に対し、大きな負荷を受ける体積(危険体積)が略等しい場合、せん断疲労強度を高めに評価する傾向があるためである。
【0021】
この発明方法において、前記試験により得た負荷回数とせん断応力振幅の関係から求まる、超長寿命領域におけるせん断疲労強度に対する80%の値を、せん断疲労特性の評価に用いるための、超長寿命領域におけるせん断疲労強度τ
w0としても良い。上記試験片にねじり振動を与えた場合、試験片の断面内の各部の応力は、中心部で最も低く外周面で最大となるように応力勾配が生じる。このため、試験により得た負荷回数とせん断応力振幅の関係から求まる、超長寿命領域におけるせん断疲労強度に対する80%の値が、せん断疲労特性の評価に用いるのに適切な値となる。
【0022】
この発明方法において、前記試験により得たせん断応力振幅と負荷回数との関係から、任意の破壊確率のP−S−N線図を求め、このP−S−N線図における超長寿命領域におけるせん断疲労強度を、せん断疲労特性の評価に用いるための、超長寿命領域におけるせん断疲労強度τ
w0としても良い。
【0023】
この発明方法において、超長寿命領域におけるせん断疲労強度を安全に見積もるため、前記試験により得たせん断応力振幅と負荷回数との関係から、任意の破壊確率のP−S−N線図を求め、このP−S−N線図から超長寿命領域におけるせん断疲労強度を、せん断疲労特性の評価に用いるための、超長寿命領域におけるせん断疲労強度τ
w0とする補正である破壊確率補正と、前記試験により得たせん断応力振幅と負荷回数の関係から求まる、超長寿命領域におけるせん断疲労強度に対する85%の値を、せん断疲労特性の評価に用いるための、超長寿命領域におけるせん断疲労強度τ
w0とする補正である過大評価補正と、前記試験により得た負荷回数とせん断応力振幅の関係から求まる、超長寿命領域におけるせん断疲労強度に対する80%の値を、せん断疲労特性の評価に用いるための、超長寿命領域におけるせん断疲労強度τ
w0とする補正である寸法効果補正との、いずれか2つ以上の補正を組み合わせて求まる値を、せん断疲労特性の評価に用いるための、超長寿命領域におけるせん断疲労強度τ
w0としてもよい。これにより、より一層、超長寿命領域におけるせん断疲労強度を安全に見積もることができる。
【0024】
この発明の転がり軸受材料の選定方法は、この発明の上記いずれかの構成の転がり軸受材料の特性評価方法により評価されたせん断疲労特性値が、定められたせん断疲労特性値以上である金属材料を、転がり軸受の軌道輪または転動体の材料として使用するものである。
【0025】
この発明の特性評価方法によれば、短時間の疲労試験の結果から、転がり軸受用の金属材料のせん断疲労特性を精度良く推定することができる。そのため、転がり軸受の軌道輪または転動体に使用する材料の試験項目の一つとしてせん断疲労特性を採用することができる。実際に疲労試験して求めたせん断疲労特性値が、定められたせん断疲労特性値以上である材料のみを軸受材料として用いることで、転がり軸受の信頼性向上に大きく役立つ。せん断疲労特性を使用材料の試験項目の一つとして採用することは、従来では試験に長年かかり、あまりにも実情から離れていて発想になかったが、この発明方法によると、実用化が可能であり、その採用により軸受の信頼性向上に役立てることができる。なお、判定基準となる「定められたせん断疲労特性値」は、目的等に応じて適宜設定すれば良い。また、せん断疲労特性値の推定は、例えば、材料のロット毎や、一度に購入した量毎、購入先毎等に行う。
【0026】
この発明のせん断疲労特性評価装置は、転がり軸受の軌道輪または転動体となる金属材料のせん断疲労特性を、前記金属材料からなる試験片を用いて試験し評価する装置であって、前記試験片に超音波領域の周波数範囲でねじり振動を与え、前記試験片をせん断疲労破壊させるねじり振動付与手段と、このねじり振動付与手段を制御し、このねじり振動付与手段で試験片に与えたねじり振動の加振周波数および負荷回数を含むデータを採取する制御・データ採取手段とを備
え、前記ねじり振動付与手段が、交流電力が印加されることで回転中心軸回りの正逆の回転となるねじり振動を発生するねじり振動コンバータと、先端に同心に試験片を取付ける取付部を有し、基端で前記ねじり振動コンバータに固定され、基端に与えられた前記ねじり振動コンバータのねじり角を拡大する振幅拡大ホーンとを有し、
前記振幅拡大ホーンの形状、寸法を、前記ねじり振動コンバータの駆動によるねじり振動に共振する形状、寸法とし、
前記試験片の形状、寸法は、前記振幅拡大ホーンのねじり振動に共振する形状、寸法であり、
前記ねじり振動コンバータを超音波領域の周波数範囲で駆動し、前記振幅拡大ホーンと前記試験片を共振させて、試験片をせん断疲労破壊させるようにし、
前記振幅拡大ホーンの形状は、前記試験片の取付部となる先端側が細くなる指数関数型であることを特徴とする。
前記ねじり振動付与手段が
、前記ねじり振動コンバータと
、前記振幅拡大ホーンと、発振器と、この発振器の出力を増幅して前記ねじり振動コンバータに印加するアンプとで構成され、前記制御・データ採取手段が、前記アンプに前記制御の入力を与え、かつ試験中の加振周波数、前記アンプの状態、および負荷回数を含むデータを採取する機能を
有するものであっても良い。
この構成のせん断疲労特性評価装置を用いることにより、前述のこの発明のせん断疲労特性評価方法を実施することができる。
【0027】
前記ねじり振動コンバータは、発生するねじり振動が、正回転方向と逆回転方向とが対称となる振動である完全両振りであることが好ましい。また、前記振幅拡大ホーンは、ねじり振動コンバータの試験中の加振周波数による振動に共振するものであることが好ましい。この場合に、前記振幅拡大ホーンは、横断面形状が円形であって、基端部を除く部分の縦断面形状が、指数関数で表される先細り形状とするのが良い。この形状とすることで、振幅拡大が効果的に行われる。
【0028】
この発明のせん断疲労特性評価装置において、試験片を強制空冷する試験片冷却手段を設けても良い。また、この発明のせん断疲労特性評価装置において、前記制御・データ採取手段は、前記ねじり振動コンバータにねじり振動の発生と休止を交互に繰り返えさせる間欠発振の制御を行う間欠発振制御部を有し、間欠発振と連続発振とを切換可能としても良い。上記強制空冷や間欠発振により、試験片の発熱による温度上昇が防止でき、適正な評価が行える。
【0029】
この発明のせん断疲労特性評価装置において、前記制御・データ採取手段は、前記ねじり振動コンバータを駆動する条件、および前記データを採取する条件を含む試験条件を入力に従って設定する試験条件設定部と、この試験条件設定部に設定された試験条件に従って前記ねじり振動コンバータの駆動、および前記データの採取を行う試験制御部とを有するものとしても良い。
このように、ねじり振動コンバータの駆動条件およびデータ採取条件を含む試験条件を入力によって設定可能とし、その設定された試験条件で試験が行われるように制御可能とすることで、種々の条件に応じた適切な試験、評価を行うことができる。