特許第5718692号(P5718692)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許5718692埋設金属パイプラインのカソード防食方法及びカソード防食システム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5718692
(24)【登録日】2015年3月27日
(45)【発行日】2015年5月13日
(54)【発明の名称】埋設金属パイプラインのカソード防食方法及びカソード防食システム
(51)【国際特許分類】
   C23F 13/00 20060101AFI20150423BHJP
【FI】
   C23F13/00 C
【請求項の数】6
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2011-58609(P2011-58609)
(22)【出願日】2011年3月16日
(65)【公開番号】特開2012-193414(P2012-193414A)
(43)【公開日】2012年10月11日
【審査請求日】2013年3月21日
(73)【特許権者】
【識別番号】000220262
【氏名又は名称】東京瓦斯株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000626
【氏名又は名称】特許業務法人 英知国際特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100118898
【弁理士】
【氏名又は名称】小橋 立昌
(72)【発明者】
【氏名】梶山 文夫
【審査官】 深草 祐一
(56)【参考文献】
【文献】 特開2010−001549(JP,A)
【文献】 特開2004−250779(JP,A)
【文献】 特開2008−292360(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C23F13/00−13/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
プラスチック被覆鋼管とコーティングの無い鋳鉄管が絶縁継手を介して接続された埋設金属パイプラインが交流誘導の影響を受けている状況下でのカソード防食方法であって、
前記プラスチック被覆鋼管に当該プラスチック被覆鋼管と前記鋳鉄管の両方にカソード防食電流を供給する流電陽極を接続し、当該プラスチック被覆鋼管と前記流電陽極とを少なくとも非極性容量素子を介して接続し、
前記プラスチック被覆鋼管と前記鋳鉄管との間に、前記絶縁継手を挟んで前記鋳鉄管から前記プラスチック被覆鋼管へ向けた流れを順方向とする整流素子を含むボンド電流調整器を接続し、
交流誘導によって前記流電陽極から流出する接地電流をカソード防食電流として、前記プラスチック被覆鋼管と前記鋳鉄管をカソード防食し、
前記プラスチック被覆鋼管のクーポン流入直流電流密度及びクーポン交流電流密度がクーポン電流密度を指標としたカソード防食管理基準に合格していると共に、
前記ボンド電流調整器をオフすることで計測される前記鋳鉄管のインスタントオフ電位が自然電位から少なくとも100mVマイナス側にシフトしていることを特徴とする埋設金属パイプラインのカソード防食方法。
【請求項2】
前記ボンド電流調整器の電圧−電流特性は、前記整流素子の順電圧より高い電圧で電圧の上昇に対して電流の上昇が抑制されていることを特徴とする請求項1に記載された埋設金属パイプラインのカソード防食方法。
【請求項3】
プラスチック被覆鋼管とコーティングの無い鋳鉄管が絶縁継手を介して接続された埋設金属パイプラインが交流誘導の影響を受けている状況下でのカソード防食システムであって、
前記プラスチック被覆鋼管に接続される流電陽極と、
前記プラスチック被覆鋼管と前記流電陽極との間に設けられ、前記プラスチック被覆鋼管と前記流電陽極とを少なくとも非極性容量素子を介して接続する交流誘導低減器と、
前記絶縁継手を挟んで前記プラスチック被覆鋼管と前記鋳鉄管との間に接続され、前記鋳鉄管から前記プラスチック被覆鋼管へ向けた流れを順方向とするボンド整流素子を含むボンド電流調整器とを備え、
前記ボンド電流調整器の電圧−電流特性は、前記ボンド整流素子の順電圧より高い電圧で電圧の上昇に対して電流の上昇が抑制されており、
前記ボンド電流調整器をオフすることで計測される前記鋳鉄管のインスタントオフ電位が自然電位から少なくとも100mVマイナス側にシフトするのに十分なように設定されることを特徴とする埋設金属パイプラインのカソード防食システム。
【請求項4】
前記交流誘導低減器は、前記非極性容量素子と並列に接続されて前記プラスチック被覆鋼管から前記流電陽極へ向けた流れを順方向とする逆流防止整流素子を含むことを特徴とする請求項3に記載された埋設金属パイプラインのカソード防食システム。
【請求項5】
前記交流誘導低減器は、前記非極性容量素子及び前記逆流防止整流素子と並列に接続されたサージ防護素子を含むことを特徴とする請求項4に記載された埋設金属パイプラインのカソード防食システム。
【請求項6】
前記ボンド電流調整器は、前記ボンド整流素子と並列接続されたコイル素子を含むことを特徴とする請求項5に記載された埋設金属パイプラインのカソード防食システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、埋設金属パイプラインのカソード防食方法及びカソード防食システムに関するもので、詳しくは、プラスチック被覆された鋼管とコーティングの無い鋳鉄管とが絶縁継手を介して接続された埋設金属パイプラインにおいて、鋼管が交流誘導を受けている状況下でなされるカソード防食方法及びカソード防食システムに関する。
【背景技術】
【0002】
鋳鉄管は継手に溶接を必要としないため配管工事が容易であり、長年にわたり我が国及び欧米等で水道,ガス等のパイプラインとして用いられている。この鋳鉄管は低強度材料であるため、埋設箇所の地上環境が変化して、例えば埋設箇所が大きな輪荷重のかかる幹線道路の交差点下や鉄道輸送力の増大した直流電気鉄道軌条下になった場合には、そこに埋設されたパイプラインに強度上の問題が生じる。このような埋設箇所の地上環境変化に対しては、既設の鋳鉄管に換わって延性特性を有し高強度の鋼管を新設することが行われており、この場合には鋳鉄管に部分的に鋼管が接続されることになる。
【0003】
このように既設の鋳鉄管に対して新設の鋼管を接続する場合には、既設の鋳鉄管はコーティングの無いいわゆる裸管であり、鋼管はプラスチック被覆が施されている。この場合に、仮に両パイプラインを電気的に接続したとすると、既設の鋳鉄管はその表面に鉄酸化物の生成物が形成されることで管対地電位がプラス側にシフトしており(管対地電位は−0.5VCSE(飽和硫酸銅電極CSE基準電位)程度)、鋼管の管対地電位(プラスチック被覆に欠陥が有る場合、−0.8VCSE程度)に比べてプラスの位になるので、鋼管のプラスチック被覆に欠陥部が生じると、既設の鋳鉄管がカソードで鋼管がアノードになり、大きなカソードと小さなアノードの組み合わせになって、鋼管の被覆欠陥部で腐食が進行することになる。
【0004】
このような腐食を防止するためには、鋳鉄管と鋼管との間に絶縁継手を挿入し、更に鋼管の防食を万全なものにするために、鋼管に対してカソード防食を施すことが求められる。カソード防食の方式としては外部電源方式と流電陽極方式があるが、一般に距離の短い鋼管の両端が絶縁継手になる場合には、流電陽極方式が採用される。
【0005】
一方、絶縁継手によって埋設パイプラインを接続する場合には、雷害や電力事故等によるサージ(高電圧)が絶縁継手にかからないようにし、絶縁継手の焼損や火花発生、或いは感電事故等が起きないようにすることが必要になる。これに対しては、図1に示すように、絶縁継手J1を介して接続されるパイプラインJ2,J3に、シリコンダイオードD,Dを逆並列接続することが行われている(下記非特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】電気学会電食防止研究委員会編「新版 電食・土壌腐食ハンドブック」電気学会,1977年5月,p.263〜264
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
プラスチック被覆鋼管とコーティングの無い鋳鉄管(以下単に鋳鉄管という)が絶縁継手を介して接続された埋設金属パイプラインが、高圧交流送電線や交流電気鉄道輸送路と並行している等して交流誘導の影響を受けている場合には、プラスチック被覆鋼管に交流腐食リスクが生じることになる。絶縁継手を介して接続されるプラスチック被覆鋼管と鋳鉄管を従来技術で示したようにシリコンダイオードで逆並列接続すると、シリコンダイオードの順電圧Vf(動作電圧)以上の交流電圧で両パイプラインに交流電流が流れることになり、プラスチック被覆鋼管の被覆に欠陥があると、その欠陥部の面積が小さいほど交流腐食リスクは高くなる。
【0008】
これに対しては、プラスチック被覆鋼管にアース電極としての流電陽極(Mg陽極)を接続することで、プラスチック被覆鋼管の交流誘導を低減させることが行われている。しかしながら、様々な迷走電流が存在する状況下では、接続された流電陽極からプラスチック被覆鋼管内に迷走電流が流入し、これがダイオードを介して鋳鉄管側に流れ込み、鋳鉄管の接地抵抗の低い箇所で流出することがあり、これによって鋳鉄管側に腐食リスクが生じる問題がある。これを回避するには、プラスチック被覆鋼管と流電陽極とを接続する電線に逆流防止器を挿入することが考えられるが、これによると、プラスチック被覆鋼管から流電陽極に向けた一方向の電流しか流れなくなるので、大地に逃がす交流電流が半波整流されてアース電極としての機能が半減することになり、流電陽極を接続したことによる交流誘導低減効果が十分に得られなくなる問題がある。
【0009】
一方、鋳鉄管側の腐食リスクを解消するために、鋳鉄管側を別途カソード防食することが考えられ、鋳鉄管にも流電陽極を接続することが行われているが、これによると、プラスチック被覆鋼管に接続された流電陽極や鋳鉄管に接続された流電陽極から流出するカソード防食電流の大半が接地抵抗の低い鋳鉄管に流入することになり、プラスチック被覆鋼管を適正にカソード防食することができない問題が生じる。
【0010】
本発明は、このような問題に対処することを課題の一例とするものである。すなわち、プラスチック被覆鋼管とコーティングの無い鋳鉄管が絶縁継手を介して接続された埋設金属パイプラインが交流誘導の影響を受けている場合に、プラスチック被覆鋼管の交流腐食リスクを効果的に低減することができること、発生したカソード防食電流を接続されたプラスチック被覆鋼管と鋳鉄管の両方に適正に供給することで、両方のパイプラインを良好なカソード防食状態にすること、カソード防食電流の一部を鋳鉄管側に流し、その残りの一部で鋼管側をカソード防食するに際して、両管の防食状態を個別に把握して、両管の防食状態が適正になるようにカソード防食システムの条件を適正に設定すること、等が本発明の目的である。
【課題を解決するための手段】
【0011】
このような目的を達成するために、本発明による埋設金属パイプラインのカソード防食方法及びカソード防食システムは、以下の構成を少なくとも具備する。
【0012】
プラスチック被覆鋼管とコーティングの無い鋳鉄管が絶縁継手を介して接続された埋設金属パイプラインが交流誘導の影響を受けている状況下でのカソード防食方法であって、前記プラスチック被覆鋼管に当該プラスチック被覆鋼管と前記鋳鉄管の両方にカソード防食電流を供給する流電陽極を接続し、当該プラスチック被覆鋼管と前記流電陽極とを少なくとも非極性容量素子を介して接続し、前記プラスチック被覆鋼管と前記鋳鉄管との間に、前記絶縁継手を挟んで前記鋳鉄管から前記プラスチック被覆鋼管へ向けた流れを順方向とする整流素子を含むボンド電流調整器を接続し、交流誘導によって前記流電陽極から流出する接地電流をカソード防食電流として、前記プラスチック被覆鋼管と前記鋳鉄管をカソード防食し、前記プラスチック被覆鋼管のクーポン流入直流電流密度及びクーポン交流電流密度がクーポン電流密度を指標としたカソード防食管理基準に合格していると共に、前記ボンド電流調整器をオフすることで計測される前記鋳鉄管のインスタントオフ電位が自然電位から少なくとも100mVマイナス側にシフトしていることを特徴とする埋設金属パイプラインのカソード防食方法。
【0013】
プラスチック被覆鋼管とコーティングの無い鋳鉄管が絶縁継手を介して接続された埋設金属パイプラインが交流誘導の影響を受けている状況下でのカソード防食システムであって、前記プラスチック被覆鋼管に接続される流電陽極と、前記プラスチック被覆鋼管と前記流電陽極との間に設けられ、前記プラスチック被覆鋼管と前記流電陽極とを少なくとも非極性容量素子を介して接続する交流誘導低減器と、前記絶縁継手を挟んで前記プラスチック被覆鋼管と前記鋳鉄管との間に接続され、前記鋳鉄管から前記プラスチック被覆鋼管へ向けた流れを順方向とするボンド整流素子を含むボンド電流調整器とを備え、前記ボンド電流調整器の電圧−電流特性は、前記ボンド整流素子の順電圧より高い電圧で電圧の上昇に対して電流の上昇が抑制されており、前記ボンド電流調整器をオフすることで計測される前記鋳鉄管のインスタントオフ電位が自然電位から少なくとも100mVマイナス側にシフトするのに十分なように設定されることを特徴とする埋設金属パイプラインのカソード防食システム。
【発明の効果】
【0014】
本発明は、このような特徴を有することで、プラスチック被覆鋼管とコーティングの無い鋳鉄管が絶縁継手を介して接続された埋設金属パイプラインが交流誘導の影響を受けている場合に、プラスチック被覆鋼管の交流腐食リスクを効果的に低減することができる。また、本発明は、発生したカソード防食電流を接続されたプラスチック被覆鋼管と鋳鉄管の両方に適正に供給することで、両方のパイプラインを良好なカソード防食状態にすることができる。また、本発明は、カソード防食電流の一部を鋳鉄管側に流し、その残りの一部で鋼管側をカソード防食するに際して、両管の防食状態を個別に把握して、両管の防食状態が適正になるようにカソード防食システムの条件を適正に設定することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】従来技術の説明図である。
図2】本発明の一実施形態に係る埋設金属パイプラインのカソード防食方法及びカソード防食システムを説明する説明図である。
図3】本発明の実施形態における交流誘導低減器とボンド電流調整器の具体的な回路構成を示した説明図である(図2(a)が交流誘導低減器を示しており、図2(b)がボンド電流調整器を示している)。
図4】本発明の実施形態におけるボンド電流調整器の電圧−電流特性を示した説明図である。
図5】クーポン電流密度を指標としたカソード防食基準を示す線図であって、横軸がクーポン流入直流電流密度IDCで縦軸がクーポン交流電流密度IACを示している。
図6】鋳鉄管におけるインスタントオフ電位の計測方法を説明する説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、図面を参照しながら本発明の実施形態を説明する。図2は本発明の一実施形態に係る埋設金属パイプラインのカソード防食方法及びカソード防食システムを説明する説明図である。ここでの防食対象は、鋳鉄管P1の一部に鋼管P2が接続された埋設金属パイプラインである。鋳鉄管P1はコーティングの無いいわゆる裸管であり、鋼管P2にはポリエチレン被覆などのプラスチック被覆が施されている。鋳鉄管P1と鋼管P2は絶縁継手1を介して接続されている。そして、この埋設金属パイプラインは、高圧交流送電線LACや交流電気鉄道輸送路と並行している等して交流誘導の影響を受けている。
【0017】
このような状況下で鋳鉄管P1及び鋼管P2に対して設置されるカソード防食システムは、鋼管P2に接続される流電陽極(例えば、Mg陽極)2と、鋼管P2と流電陽極2との間に設けられる交流誘導低減器3と、絶縁継手1を挟んで鋳鉄管P1と鋼管P2との間に接続されるボンド電流調整器4を備えている。交流誘導低減器3は電線w1によって流電陽極2に接続されると共に電線w2によって鋼管P2に接続されている。ボンド電流調整器4は電線w3によって鋼管P2に接続されると共に電線w4によって鋳鉄管P1に接続されている。
【0018】
また、鋳鉄管P1には、鋳鉄管P1のカソード防食状況を把握するために、電線w5を介して照合電極(例えば、飽和硫酸銅電極)5が接続されており、この電線w5に鋳鉄管P1の管対地電位を計測する電圧計6が設置されている。一方、鋼管P2には、鋼管P2のカソード防食状況を把握するために、電線w6を介して鋼管P2の近傍に設置されたクーポン7が接続されており、この電線w6に鋼管P2のクーポン電流密度(クーポン流入直流電流密度IDC及びクーポン交流電流密度IAC)を計測するための直流・交流電流計8が設置されている。
【0019】
ここで流電陽極2は、高圧交流送電線LACや交流電気鉄道輸送路などによって鋼管P2に印加される交流電圧VACを低減するアース電極として機能するだけでなく、接地電流として鋼管P2を流れる交流電流を大地に逃がし、これをカソード防食電流Icとして鋳鉄管P1と鋼管P2に供給している。
【0020】
図3は、本発明の実施形態における交流誘導低減器3とボンド電流調整器4の具体的な回路構成を示した説明図である(図3(a)が交流誘導低減器3を示しており、図3(b)がボンド電流調整器4を示している)。図3(a)に示される交流誘導低減器3は、少なくとも鋼管P2と流電陽極2との間に非極性容量素子(コンデンサ)30を挿入したものである。鋼管P2と流電陽極2は非極性容量素子30を介して接続されているので、交流の接地電流を効果的に大地に逃がすことができると共に、直流の迷走電流が流電陽極2から鋼管P2に向けて流れるのを阻止することができる。
【0021】
また、交流誘導低減器3は、非極性容量素子30と並列に接続されて鋼管P2から流電陽極2へ向けた流れを順方向とする逆流防止整流素子31(ダイオード)を含み、更には、非極性容量素子30及び逆流防止整流素子31と並列に接続されたサージ防護素子32を含む。ここでのサージ防護素子32は、コイル素子32a,アレスタ32b,バリスタ32cなどを備える。また、必要に応じて、交流誘導低減器3の接続線には鋼管P2と流電陽極2との接続を電気的に遮断するスイッチ素子33やヒューズを設けることができる。
【0022】
図3(b)に示されるボンド電流調整器4は、少なくとも、絶縁継手1を挟んで鋳鉄管P1と鋼管P2との間に接続され、鋳鉄管P1から鋼管P2へ向けた流れを順方向とするボンド整流素子(ダイオード)40を含み、更には、ボンド整流素子40と並列に接続されたサージ防護素子41を含む。ここでのサージ防護素子41は、コイル素子41a,アレスタ41b,バリスタ41cなどを備える。また、必要に応じて、ボンド電流調整器4の接続線には鋳鉄管P1と鋼管P2との接続を電気的に遮断するスイッチ素子42やヒューズを設けることができる。
【0023】
図4は、本発明の実施形態におけるボンド電流調整器4の電圧−電流特性を示した説明図である。ボンド電流調整器4の電圧−電流特性は、基本的にはボンド整流素子40の特性によって特定されており、順方向(矢印方向)に印加された電圧Vに対しては順電圧(Vf)を超えると電流Iを流し、順方向(矢印方向)と逆極性の電圧Vに対してはある程度の大きさの電圧までは電流Iを流さない特性を備えている。そして、ボンド電流調整器4はコイル素子41aを備えることで、ボンド整流素子40の順電圧(Vf)より高い電圧で電圧の上昇に対して電流の上昇が抑制されている。すなわち、図示の破線で示す特性がボンド整流素子40の電圧−電流特性であるとすると、コイル素子41aの機能によって、これを実線で示すように調整している。これによると、鋳鉄管P1と鋼管P2間の順方向電圧が高くなってもそれに伴って順方向に流れる電流の大きさをある程度の大きさに制限することができる。
【0024】
以下に、前述した埋設金属パイプラインにおけるカソード防食システムの機能及びカソード防食方法を説明する。
【0025】
先ず、鋼管P2と流電陽極2との間に設置された交流誘導低減器3は、第1に、鋼管P2に印加された交流電圧に対して効果的に接地電流を流して接地効果(交流誘導低減効果)を高める機能を有し、第2に、直流迷走電流が流電陽極2から鋼管P2に流入するのを阻止する効果を有する。また、流電陽極2は、第1に、アース電極として鋼管P2の交流誘導を低減する機能を有し、第2に、出力する接地電流によって鋳鉄管P1と鋼管P2にカソード防食電流Icを供給する機能を有する。
【0026】
そして、ボンド電流調整器4は、交流迷走電流が流電陽極2に流入し、鋼管P2の対地電位が鋳鉄管P1の対地電位よりもプラスになった場合に、鋼管P2から鋳鉄管P1の方向に流れる電流を阻止することにより、鋳鉄管P1の腐食リスクを回避する機能を有する。更には、前述したボンド電流調整器4の電圧−電流特性により、流電陽極2から出力されたカソード防食電流Icが過剰に鋳鉄管P1に流れ込まないようにしており、これによって鋼管P2側に供給されるカソード防食電流が極端に少なくならないようにしている。
【0027】
このようなカソード防食システムによると、鋳鉄管P1の一部に鋼管P2が絶縁継手1を介して接続された埋設金属パイプラインが高圧交流送電線LACなどによって交流誘導の影響を受けている状況下で、鋼管P2の交流腐食リスクを排除し、且つ鋳鉄管P1と鋼管P2を良好なカソード防食状態にすることができる。
【0028】
ここで、鋼管P2のカソード防食状況は、クーポン電流密度(クーポン流入直流電流密度IDC及びクーポン交流電流密度IAC)を指標としたカソード防食基準に合格するように管理される。図5は、クーポン電流密度を指標としたカソード防食基準を示す線図であって、横軸がクーポン流入直流電流密度IDCで縦軸がクーポン交流電流密度IACを示している。線図の太線枠内が適正なカソード防食状況の範囲であり、直流・交流電流計8の計測値から求められるクーポン流入直流電流密度IDCとクーポン交流電流密度IACがこの枠内に入るようにカソード防食状況を管理する。
【0029】
一方、鋳鉄管P1は、100mVカソード分極基準を適用し、鋳鉄管P1の管対地電位が自然電位から少なくとも100mVマイナス側にシフトするようにカソード防食状態を管理する。ここでの管対地電位は電圧計6で計測され、ボンド電流調整器4の接続線をオフすることで計測されるインスタントオフ電位を用いることが好ましい。
【0030】
本発明の実施形態に係るカソード防食方法では、鋳鉄管P1のインスタントオフ電位を計測し、鋳鉄管P1の自然電位と計測されたインスタントオフ電位との差が基準値(100mV)以上であるか否かで、鋳鉄管P1のカソード防食状態を把握する。鋳鉄管P1の自然電位と計測されたインスタントオフ電位との差は、流電陽極2から出力されるカソード防食電流が鋳鉄管P1に流入したことによる鋳鉄管P1のカソード分極量になるから、このカソード分極量が基準値(100mV)以上であれば、鋳鉄管P1のカソード防食状態が適正であることを把握することができる。鋳鉄管P1の自然電位と計測されたインスタントオフ電位との差が100mV以上であるということは、鋳鉄管P1の腐食速度が自然腐食速度よりも一桁小さくなっていることを指す。
【0031】
図6は、鋳鉄管P1におけるインスタントオフ電位の計測方法を説明する説明図である。同図は、縦軸が鋳鉄管P1の管対地電位を示し、横軸が経過時間を示したグラフであって、鋳鉄管P1の管対地電位の経時的な変化を示している。図において、Aの電位は鋳鉄管P1がカソード防食されていない状態の電位(自然電位)、Bの電位は、前述したカソード防食システムを構築して、時間T1にボンド電流調整器4の接続をオン状態にした直後の電位、Cの電位はボンド電流調整器4をオン状態にした後十分にカソード分極が進んだ状態の電位、Dの電位はCの電位状態で時間T2にスイッチ素子42によってボンド電流調整器4の接続をオフにした直後の電位をそれぞれ示している。
【0032】
図示のAの電位からBの電位に至る電位差或いはCの電位からDの電位に至る電位差は、照合電極5を地上に設置して埋設管の管対地電位を計測していることによって生じるIRドロップであり、カソード防食電流Icと土壌抵抗Rの積からなる電位差である。インスタントオフ電位は、カソード分極が十分に進んだ状態の管対地電位(Cの電位)からIRドロップを差し引いた電位(Dの電位)として定義することができる。図示のBの電位からCの電位に至る電位差がカソード防食電流Icによる鋳鉄管P1のカソード分極量であるが、IRドロップを計測すること無しに鋳鉄管P1のカソード分極量を求めるために、十分にカソード分極が進んだCの状態でボンド電流調整器4をオフにして、Dの電位で示されるインスタントオフ電位を計測し、既知のAの電位(自然電位)と計測されたDの電位(インスタントオフ電位)との差によって、鋳鉄管P1のカソード分極量を求めている。
【0033】
鋳鉄管P1と鋼管P2が適正なカソード防食状況になるためのシステム上の設定は、交流誘導低減器3による接地電流の設定とボンド電流調整器4における電圧−電流特性の設定によって行われる。ボンド電流調整器4の電圧−電流特性は、鋳鉄管P1のインスタントオフ電位が自然電位から少なくとも100mVマイナス側にシフトするのに十分なように設定され、この条件を満たすように電圧の上昇に対する電流の上昇が抑えられる。これによって流電陽極2から出力されるカソード防食電流Icが過剰に鋳鉄管P1に流入するのを抑えることができ、鋼管P2側を適正にカソード防食することが可能になる。
【0034】
以上説明したように、本発明の実施形態に係る埋設金属パイプラインのカソード防食方法及びカソード防食システムによると、プラスチック被覆が施された鋼管P2とコーティングの無い鋳鉄管P1が絶縁継手1を介して接続された埋設金属パイプラインが交流誘導の影響を受けている場合に、鋼管P2の交流腐食リスクを効果的に低減することができる。また、発生したカソード防食電流Icを鋳鉄管P1と鋼管P2の両方に適正に供給することで、両方のパイプラインを良好なカソード防食状態にすることができる。また、カソード防食電流Icの一部を鋳鉄管P1側に流し、その残りの一部で鋼管P2側をカソード防食するに際して、両管の防食状態を個別に把握して、両管の防食状態が適正になるようにカソード防食システムの条件を設定することができる。
【符号の説明】
【0035】
P1:鋳鉄管,P2鋼管,
1:絶縁継手,2:流電陽極(Mg陽極),
3:交流誘導低減器,30:非極性容量素子(コンデンサ),
31:逆流防止整流素子,32:サージ防護素子,
32a:コイル素子,32b:アレスタ,32c:バリスタ,
33:スイッチ素子,
4:ボンド電流調整器,40:ボンド整流素子,41:サージ防護素子,
41a:コイル素子,41b:アレスタ,41c:バリスタ,
42:スイッチ素子,
5:照合電極(飽和硫酸銅電極),6:電圧計,
7:クーポン,8:直流・交流電流計,
w1〜w6:電線,Ic:カソード防食電流,LAC:高圧交流送電線,
AC:交流電圧
図1
図2
図3
図4
図5
図6