(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記圧縮機から前記第一熱交換器へ向かう前記冷媒の流れと、前記圧縮機から前記第二熱交換器へ向かう前記冷媒の流れと、を切り換える四方弁を備える、請求項1に記載の熱交換装置。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、図面に基づいてこの発明の実施の形態を説明する。なお、以下の図面において、同一または相当する部分には同一の参照番号を付し、その説明は繰返さない。
【0016】
(実施の形態1)
図1は、実施の形態1の熱交換装置の構成を示す模式図である。
図1に示すように、熱交換装置1は、蒸気圧縮式冷凍サイクル10を備える。蒸気圧縮式冷凍サイクル10は、たとえば、車両の車内の冷暖房を行なうために、車両に搭載される。蒸気圧縮式冷凍サイクル10を用いた冷房は、たとえば、冷房を行なうためのスイッチがオンされた場合、または、自動的に車両の室内の温度を設定温度になるように調整する自動制御モードが選択されており、かつ、車室内の温度が設定温度よりも高い場合に行なわれる。蒸気圧縮式冷凍サイクル10を用いた暖房は、たとえば、暖房を行なうためのスイッチがオンされた場合、または、自動制御モードが選択されており、かつ、車室内の温度が設定温度よりも低い場合に行なわれる。
【0017】
蒸気圧縮式冷凍サイクル10は、圧縮機12と、第一熱交換器としての熱交換器14と、減圧器の一例としての膨張弁16と、第二熱交換器としての熱交換器18と、を含む。蒸気圧縮式冷凍サイクル10はまた、四方弁13を含む。四方弁13は、圧縮機12から熱交換器14へ向かう冷媒の流れと、圧縮機12から熱交換器18へ向かう冷媒の流れと、を切り換え可能に配置されている。
【0018】
圧縮機12は、車両に搭載されたモータまたはエンジンを動力源として作動し、冷媒ガスを断熱的に圧縮して過熱状態冷媒ガスとする。圧縮機12は、蒸気圧縮式冷凍サイクル10の作動時に流通する気相冷媒を吸入圧縮して、高温高圧の気相冷媒を吐出する。圧縮機12は、冷媒を吐出することで、蒸気圧縮式冷凍サイクル10に冷媒を循環させる。
【0019】
熱交換器14,18は、冷媒を流通するチューブと、チューブ内を流通する冷媒と熱交換器14,18の周囲の空気との間で熱交換するためのフィンと、を含む。熱交換器14,18は、車両の走行によって発生する自然の通風によって供給された空気流れ、またはファンによって供給された空気流れと、冷媒と、の間で熱交換を行なう。
【0020】
膨張弁16は、高圧の液相冷媒を小さな孔から噴射させることにより膨張させて、低温・低圧の霧状冷媒に変化させる。膨張弁16は、凝縮された冷媒液を減圧して、気液混合状態の湿り蒸気とする。なお、冷媒液を減圧するための減圧器は、絞り膨張する膨張弁16に限られず、毛細管であってもよい。
【0021】
蒸気圧縮式冷凍サイクル10はまた、冷媒通路21〜26を含む。冷媒通路21は、圧縮機12と四方弁13とを連通する。冷媒は、冷媒通路21を経由して、圧縮機12から四方弁13へ向かって流通する。冷媒通路22は、四方弁13と熱交換器14とを連通する。冷媒は、冷媒通路22を経由して、四方弁13と熱交換器14との一方から他方へ向かって流通する。冷媒通路23は、熱交換器14と膨張弁16とを連通する。冷媒は、冷媒通路23を経由して、熱交換器14と膨張弁16との一方から他方へ向かって流通する。
【0022】
冷媒通路24は、膨張弁16と熱交換器18とを連通する。冷媒は、冷媒通路24を経由して、膨張弁16と熱交換器18との一方から他方へ向かって流通する。冷媒通路25は、熱交換器18と四方弁13とを連通する。冷媒は、冷媒通路25を経由して、熱交換器18と四方弁13との一方から他方へ向かって流通する。冷媒通路26は、四方弁13と圧縮機12とを連通する。冷媒は、冷媒通路26を経由して、四方弁13から圧縮機12へ向かって流通する。
【0023】
蒸気圧縮式冷凍サイクル10は、圧縮機12、熱交換器14、膨張弁16および熱交換器18が、冷媒通路21〜26によって連結されて構成される。なお、蒸気圧縮式冷凍サイクル10の冷媒としては、たとえば二酸化炭素、プロパンやイソブタンなどの炭化水素、アンモニアまたは水などを用いることができる。
【0024】
熱交換器14と膨張弁16との間を流通する冷媒の経路には、第一通路と、第三通路としての冷媒通路23aと、が並列に接続されて設けられている。冷媒通路23aは、熱交換器14と膨張弁16との間を流通する冷媒の経路を形成する冷媒通路23の一部を形成する。第一通路上には、熱交換部30が設けられている。熱交換部30は、熱交換器14と膨張弁16との間を流通する冷媒の経路上に設けられている。熱交換部30は、温度を調節される対象物である被温度調節部31と、冷媒が流通する配管である冷却通路32と、を含む。熱交換装置1は、熱交換部30を経由しない経路である冷媒通路23aと、熱交換部30を通過する経路である冷媒通路52,54,55および冷却通路32と、を含む。熱交換器14と膨張弁16との間の冷媒の経路が分岐して、冷媒の一部が熱交換部30へ流通する。
【0025】
冷却通路32へ冷媒を流通するための経路として、冷媒通路52,54,55が設けられている。冷却通路32の一方の端部は、冷媒通路54に接続される。冷却通路32の他方の端部は、冷媒通路55に接続される。冷媒通路52と冷媒通路54とは、開閉弁53を介して連通されている。冷媒通路52,54と冷媒通路55との一方を経由して、冷媒通路23から冷却通路32へ冷媒が流通する。冷却通路32を流通して被温度調節部31と熱交換した後の冷媒は、冷媒通路52,54と冷媒通路55との他方を経由して、冷媒通路23へ戻る。冷媒通路23aと並列に接続される第一通路は、熱交換部30よりも熱交換器14に近接する側の冷媒通路52,54と、熱交換部30に含まれる冷却通路32と、熱交換部30よりも膨張弁16に近接する側の冷媒通路55と、を含む。開閉弁53は、第一通路を開閉する。
【0026】
熱交換器14と膨張弁16との間を流通する冷媒は、冷却通路32を経由して流れる。冷媒は、冷却通路32内を流通するとき、被温度調節部31から熱を奪って、被温度調節部31を冷却させる。熱交換部30は、冷却通路32によって被温度調節部31と冷媒との間で熱交換が可能な構造を有するように設けられる。本実施の形態においては、熱交換部30は、たとえば、被温度調節部31の筐体に冷却通路32の外周面が直接接触するように形成された冷却通路32を有する。冷却通路32は、被温度調節部31の筐体と隣接する部分を有する。当該部分において、冷却通路32を流通する冷媒と、被温度調節部31との間で、熱交換が可能となる。
【0027】
被温度調節部31は、蒸気圧縮式冷凍サイクル10の熱交換器14から膨張弁16に至る冷媒の経路の一部を形成する冷却通路32の外周面に直接接続されて、冷却される。冷却通路32の外部に被温度調節部31が配置されるので、冷却通路32の内部を流通する冷媒の流れに被温度調節部31が干渉することはない。そのため、蒸気圧縮式冷凍サイクル10の圧力損失は増大しないので、圧縮機12の動力を増大させることなく、被温度調節部31を冷却することができる。
【0028】
代替的には、熱交換部30は、被温度調節部31と冷却通路32との間に介在して配置された任意の公知のヒートパイプを備えてもよい。この場合被温度調節部31は、冷却通路32の外周面にヒートパイプを介して接続され、被温度調節部31から冷却通路32へヒートパイプを経由して熱伝達することにより、冷却される。被温度調節部31をヒートパイプの加熱部とし冷却通路32をヒートパイプの冷却部とすることで、冷却通路32と被温度調節部31との間の熱伝達効率が高められるので、被温度調節部31の冷却効率を向上できる。たとえばウィック式のヒートパイプを使用することができる。
【0029】
ヒートパイプによって被温度調節部31から冷却通路32へ確実に熱伝達することができるので、被温度調節部31と冷却通路32との間に距離があってもよく、被温度調節部31に冷却通路32を接触させるために冷却通路32を複雑に配置する必要がない。その結果、被温度調節部31の配置の自由度を向上することができる。
【0030】
熱交換器14と膨張弁16との間を冷媒が流通する経路として、熱交換部30を通過する経路である冷媒通路52,54,55および冷却通路32と、熱交換部30を通過しない経路である冷媒通路23aと、が並列に設けられる。冷媒通路52,54,55を含む被温度調節部31の冷却系は、冷媒通路23aと並列に接続されている。熱交換器14と膨張弁16との間を熱交換部30を経由せずに流れる冷媒の経路と熱交換部30を経由して流れる冷媒の経路とを並列に設け、一部の冷媒のみを冷媒通路52,54,55へ流通させることで、熱交換器14と膨張弁16との間を流れる冷媒の一部のみが熱交換部30へ流れる。
【0031】
熱交換部30において被温度調節部31を冷却するために必要な量の冷媒を冷媒通路52,54,55へ流通させ、全ての冷媒が熱交換部30に流れない。したがって、被温度調節部31は適切に冷却され、被温度調節部31が過冷却されることを防止できる。また、冷媒通路52,54,55および冷却通路32を含む被温度調節部31の冷却系への冷媒の流通に係る、圧力損失を低減することができる。それに伴い、冷媒を循環させるための圧縮機12の運転に必要な消費電力を低減することができる。
【0032】
被温度調節部31はたとえば、車両に搭載されるトランスアクスルの潤滑油および油圧作動油として使用されるATFと熱交換してATFを冷却するための、ATF冷却器である。図示しないトランスアクスルの内部に充填され、トランスアクスルを構成する各部材の冷却および潤滑を行なうATFは、トランスアクスルから図示しない配管を経由して被温度調節部31へ流れ、被温度調節部31において冷媒と熱交換し、再び図示しない配管を経由してトランスアクスルへ戻る。
【0033】
熱交換器18は、空気が流通するダクト40の内部に配置されている。熱交換器18は、冷媒とダクト40内を流通する空調用空気との間で熱交換して、空調用空気の温度を調節する。ダクト40は、ダクト40に空調用空気が流入する入口であるダクト入口41と、ダクト40から空調用空気が流出する出口であるダクト出口42と、を有する。ダクト40の内部の、ダクト入口41の近傍には、ファン43が配置されている。
【0034】
ファン43が駆動することにより、ダクト40内に空気が流通する。ファン43が稼働すると、ダクト入口41を経由してダクト40の内部へ空調用空気が流入する。ダクト40へ流入する空気は、外気であってもよく、車両の室内の空気であってもよい。
図1中の矢印45は、熱交換器18を経由して流通し、蒸気圧縮式冷凍サイクル10の冷媒と熱交換する空調用空気の流れを示す。冷房運転時には、熱交換器18において空調用空気が冷却され、冷媒は空調用空気からの熱伝達を受けて加熱される。暖房運転時には、熱交換器18において空調用空気が加熱され、冷媒は空調用空気へ熱伝達することにより冷却される。矢印46は、熱交換器18で温度調節され、ダクト出口42を経由してダクト40から流出する、空調用空気の流れを示す。
【0035】
冷房運転時には、
図1に示すA点、B点、C点、D点およびE点を順に通過するように蒸気圧縮式冷凍サイクル10内を冷媒が流れ、圧縮機12と熱交換器14と膨張弁16と熱交換器18とに冷媒が循環する。冷媒は、圧縮機12と熱交換器14と膨張弁16と熱交換器18とが冷媒通路21〜26によって順次接続された冷媒循環流路を通って、蒸気圧縮式冷凍サイクル10内を循環する。
【0036】
図2は、実施の形態1の蒸気圧縮式冷凍サイクル10の冷房運転時の冷媒の状態を示すモリエル線図である。
図2中の横軸は、冷媒の比エンタルピー(単位:kJ/kg)を示し、縦軸は、冷媒の絶対圧力(単位:MPa)を示す。図中の曲線は、冷媒の飽和蒸気線および飽和液線である。
図2中には、圧縮機12から熱交換器14を経由して冷媒通路23へ流入し、被温度調節部31を冷却し、冷媒通路23へ戻り膨張弁16、熱交換器18を経由して圧縮機12へ戻る、蒸気圧縮式冷凍サイクル10中の各点(すなわちA、B,C,DおよびE点)における冷媒の熱力学状態が示される。
【0037】
図2に示すように、圧縮機12に吸入された過熱蒸気状態の冷媒(A点)は、圧縮機12において等比エントロピー線に沿って断熱圧縮される。圧縮するに従って冷媒の圧力と温度とが上昇し、高温高圧の過熱度の大きい過熱蒸気になって(B点)、冷媒は熱交換器14へと流れる。
【0038】
熱交換器14へ入った高圧の冷媒蒸気は、熱交換器14において外気と熱交換して冷却される。冷媒は、等圧のまま過熱蒸気から乾き飽和蒸気になり、凝縮潜熱を放出し徐々に液化して気液混合状態の湿り蒸気になり、冷媒の全部が凝縮すると飽和液になり、さらに顕熱を放出して過冷却液になる(C点)。熱交換器14は、圧縮機12において圧縮された過熱状態冷媒ガスを、外部媒体へ等圧的に放熱させて冷媒液とする。圧縮機12から吐出された気相冷媒は、熱交換器14において周囲に放熱し冷却されることによって、凝縮(液化)する。熱交換器14における熱交換によって、冷媒の温度は低下し冷媒は液化する。
【0039】
熱交換器14で液化した高圧の液相冷媒は、冷媒通路52、開閉弁53および冷媒通路54を順に経由して熱交換部30へ流れ、被温度調節部31を冷却する。被温度調節部31との熱交換により、冷媒の過冷却度が小さくなる。つまり、被温度調節部31から顕熱を受けて過冷却液の状態の冷媒の温度が上昇し、液冷媒の飽和温度に近づき、飽和温度をわずかに下回る温度にまで加熱される(D点)。その後冷媒は、冷媒通路23を経由して膨張弁16に流入する。膨張弁16を通過することで、過冷却液状態の冷媒は絞り膨張され、冷媒の比エンタルピーは変化せず温度と圧力とが低下して、低温低圧の気液混合状態の湿り蒸気となる(E点)。
【0040】
膨張弁16から出た湿り蒸気状態の冷媒は、冷媒通路24を経由して熱交換器18へ流入する。熱交換器18のチューブ内には、湿り蒸気状態の冷媒が流入する。冷媒は、熱交換器18のチューブ内を流通する際に、フィンを経由して空調用空気の熱を蒸発潜熱として吸収することによって、等圧のまま蒸発する。全ての冷媒が乾き飽和蒸気になると、さらに顕熱によって冷媒蒸気は温度上昇して、過熱蒸気となる(A点)。冷媒は、熱交換器18において周囲から吸熱し加熱される。気化した冷媒は、冷媒通路25を経由して四方弁13へ流れ、さらに冷媒通路26を経由して圧縮機12に吸入される。圧縮機12は、熱交換器18から流通する冷媒を圧縮する。冷媒はこのようなサイクルに従って、圧縮、凝縮、絞り膨張、蒸発の状態変化を連続的に繰り返す。
【0041】
なお、上述した蒸気圧縮式冷凍サイクルの説明では、理論冷凍サイクルについて説明しているが、実際の蒸気圧縮式冷凍サイクル10では、圧縮機12における損失、冷媒の圧力損失および熱損失を考慮する必要があるのは勿論である。
【0042】
冷房運転時に、熱交換器18は、その内部を流通する霧状冷媒が気化することによって、熱交換器18に接触するように導入された周囲の空気の熱を吸収する。熱交換器18は、膨張弁16によって絞り膨張され減圧された低温低圧の冷媒を用いて、冷媒の湿り蒸気が蒸発して冷媒ガスとなる際の気化熱を、車両の室内へ流通する空調用空気から吸収して、車両の室内の冷房を行なう。熱が熱交換器18に吸収されることによって温度が低下した空調用空気が車両の室内に流入することによって、車両の室内の冷房が行なわれる。
【0043】
蒸気圧縮式冷凍サイクル10の運転中に、冷媒は、熱交換器18において気化熱を車両の室内の空気から吸収して、車室内の冷房を行なう。加えて、熱交換器14から出た高圧の液冷媒が熱交換部30へ流通し、被温度調節部31と熱交換することで被温度調節部31を冷却する。熱交換装置1は、車両に搭載された被温度調節部31を、車両の室内の空調用の蒸気圧縮式冷凍サイクル10を利用して、冷却する。なお、被温度調節部31を冷却するために必要とされる温度は、少なくとも被温度調節部31の温度範囲として目標となる温度範囲の上限値よりも低い温度であることが望ましい。
【0044】
図1に戻って、熱交換装置1は、流量調整弁51を備える。流量調整弁51は、熱交換器14と膨張弁16との間の冷媒通路23の一部を形成する冷媒通路23aに配置されている。流量調整弁51は、その弁開度を変動させ、冷媒通路23aを流れる冷媒の圧力損失を増減させることにより、冷媒通路23aを流れる冷媒の流量と、冷媒通路52,54,55および冷却通路32を流れる冷媒の流量と、を任意に調節する。
【0045】
たとえば、流量調整弁51を全閉にして弁開度を0%にすると、熱交換器14と膨張弁16との間を流れる冷媒の全量が冷媒通路52,54,55および冷却通路32へ流入する。流量調整弁51の弁開度を大きくすれば、熱交換器14と膨張弁16との間を流れる冷媒のうち、冷媒通路23aを経由して流れる流量が大きくなり、冷媒通路52,54,55および冷却通路32を経由して流れ被温度調節部31を冷却する冷媒の流量が小さくなる。流量調整弁51の弁開度を小さくすれば、熱交換器14と膨張弁16との間を流れる冷媒のうち、冷媒通路23aを経由して流れる流量が小さくなり、冷媒通路52,54,55および冷却通路32を経由して流れ被温度調節部31を冷却する冷媒の流量が大きくなる。
【0046】
流量調整弁51の弁開度を大きくすると被温度調節部31を冷却する冷媒の流量が小さくなり、被温度調節部31の冷却能力が低下する。流量調整弁51の弁開度を小さくすると被温度調節部31を冷却する冷媒の流量が大きくなり、被温度調節部31の冷却能力が向上する。流量調整弁51を使用して、熱交換部30に流れる冷媒の量を最適に調節できるので、被温度調節部31の過冷却を確実に防止することができ、加えて、冷媒通路52,54,55および冷却通路32の冷媒の流通に係る圧力損失および冷媒を循環させるための圧縮機12の消費電力を、確実に低減することができる。
【0047】
流量調整弁51の弁開度調整に係る制御の一例について、以下に説明する。
図3は、流量調整弁51の開度制御の概略を示す図である。
図3のグラフ(A)〜(D)に示す横軸は、時間を示す。グラフ(A)の縦軸は、流量調整弁51がステッピングモータを用いた電気式膨張弁である場合の弁開度を示す。グラフ(B)の縦軸は、流量調整弁51が温度の変動により開閉動作する温度式膨張弁である場合の弁開度を示す。グラフ(C)の縦軸は、被温度調節部31の温度を示す。グラフ(D)の縦軸は、被温度調節部31の出入口温度差を示す。
【0048】
冷媒が熱交換部30を経由して流通することで、被温度調節部31は冷却される。流量調整弁51の弁開度調整は、たとえば、被温度調節部31の温度、または被温度調節部31の出口温度と入口温度との温度差を監視することにより、行なわれる。たとえばグラフ(C)を参照して、被温度調節部31の温度を継続的に計測する温度センサを設け、被温度調節部31の温度を監視する。またたとえば、グラフ(D)を参照して、被温度調節部31の入口温度と出口温度とを計測する温度センサを設け、被温度調節部31の出入口の温度差を監視する。
【0049】
被温度調節部31の温度が目標温度を上回る、または、被温度調節部31の出入口温度差が目標温度差(たとえば3〜5℃)を上回ると、グラフ(A)およびグラフ(B)に示すように、流量調整弁51の開度を小さくする。流量調整弁51の開度を絞ることにより、上述した通り、熱交換部30へ流れる冷媒の流量が大きくなるので、被温度調節部31をより効果的に冷却できる。その結果、グラフ(C)に示すように被温度調節部31の温度を低下させて目標温度以下にすることができ、または、グラフ(D)に示すように被温度調節部31の出入口温度差を小さくして目標温度差以下にすることができる。
【0050】
このように、流量調整弁51の弁開度を最適に調整することで、被温度調節部31を適切な温度範囲に保つために必要な放熱能力を得られる量の冷媒を確保し、被温度調節部31を適切に冷却することができる。したがって、被温度調節部31が過熱して損傷する不具合の発生を、確実に抑制することができる。
【0051】
図4は、四方弁13を切り換えた状態の熱交換装置1を示す模式図である。
図1と
図4とを比較して、四方弁13が90°回転することにより、圧縮機12出口から四方弁13へ流入した冷媒が四方弁13を出る経路が切り換えられている。
図1に示す冷房運転時には、圧縮機12において圧縮された冷媒は、圧縮機12から熱交換器14へ向かって流れる。一方、
図4に示す暖房運転時には、圧縮機12において圧縮された冷媒は、圧縮機12から熱交換器18へ向かって流れる。
【0052】
暖房運転時には、
図4に示すA点、B点、E点、D点およびC点を順に通過するように蒸気圧縮式冷凍サイクル10内を冷媒が流れ、圧縮機12と熱交換器18と膨張弁16と熱交換器14とに冷媒が循環する。冷媒は、圧縮機12と熱交換器18と膨張弁16と熱交換器14とが冷媒通路21〜26によって順次接続された冷媒循環流路を通って、蒸気圧縮式冷凍サイクル10内を循環する。
【0053】
図5は、実施の形態1の蒸気圧縮式冷凍サイクル10の暖房運転時の冷媒の状態を示すモリエル線図である。
図5中の横軸は、冷媒の比エンタルピー(単位:kJ/kg)を示し、縦軸は、冷媒の絶対圧力(単位:MPa)を示す。図中の曲線は、冷媒の飽和蒸気線および飽和液線である。
図5中には、圧縮機12から熱交換器18、膨張弁16を経由して冷媒通路23へ流入し、被温度調節部31を冷却し、冷媒通路23へ戻り熱交換器14を経由して圧縮機12へ戻る、蒸気圧縮式冷凍サイクル10中の各点(すなわちA、B,E,DおよびC点)における冷媒の熱力学状態が示される。
【0054】
図5に示すように、圧縮機12に吸入された過熱蒸気状態の冷媒(A点)は、圧縮機12において等比エントロピー線に沿って断熱圧縮される。圧縮するに従って冷媒の圧力と温度とが上昇し、高温高圧の過熱度の大きい過熱蒸気になって(B点)、冷媒は熱交換器18へと流れる。
【0055】
熱交換器18へ入った高圧の冷媒蒸気は、熱交換器18において冷却され、等圧のまま過熱蒸気から乾き飽和蒸気になり、凝縮潜熱を放出し徐々に液化して気液混合状態の湿り蒸気になり、冷媒の全部が凝縮すると飽和液になり、さらに顕熱を放出して過冷却液になる(E点)。熱交換器18は、圧縮機12において圧縮された過熱状態冷媒ガスを、外部媒体へ等圧的に放熱させて冷媒液とする。圧縮機12から吐出された気相冷媒は、熱交換器18において周囲に放熱し冷却されることによって、凝縮(液化)する。熱交換器18における熱交換によって、冷媒の温度は低下し冷媒は液化する。冷媒は、熱交換器18において周囲へ放熱し冷却される。
【0056】
熱交換器18で液化した高圧の液相冷媒は、冷媒通路24を経由して膨張弁16に流入する。膨張弁16において、過冷却液状態の冷媒は絞り膨張され、冷媒の比エンタルピーは変化せず温度と圧力とが低下して、低温低圧の気液混合状態の湿り蒸気となる(D点)。膨張弁16において温度が下げられた冷媒は、冷媒通路23,55を経由して熱交換部30の冷却通路32へ流れ、被温度調節部31を冷却する。被温度調節部31との熱交換により、冷媒が加熱され、冷媒の乾き度が増大する。被温度調節部31から潜熱を受け取って一部の冷媒が気化することにより、湿り蒸気状態の冷媒中に含まれる飽和蒸気の割合が増加する(C点)。
【0057】
熱交換部30から出た湿り蒸気状態の冷媒は、冷媒通路54,52を経由して冷媒通路23へ戻り、熱交換器14へ流入する。熱交換器14のチューブ内には、湿り蒸気状態の冷媒が流入する。冷媒は、チューブ内を流通する際に、フィンを経由して外気の熱を蒸発潜熱として吸収することによって等圧のまま蒸発する。全ての冷媒が乾き飽和蒸気になると、さらに顕熱によって冷媒蒸気は温度上昇して、過熱蒸気となる(A点)。気化した冷媒は、冷媒通路22を経由して圧縮機12に吸入される。圧縮機12は、熱交換器14から流通する冷媒を圧縮する。冷媒はこのようなサイクルに従って、圧縮、凝縮、絞り膨張、蒸発の状態変化を連続的に繰り返す。
【0058】
暖房運転時に、熱交換器18は、その内部を流通する冷媒蒸気が凝縮することによって、熱交換器18に接触するように導入された周囲の空気へ熱を加える。熱交換器18は、圧縮機12で断熱圧縮された高温高圧の冷媒を用いて、冷媒ガスが凝縮して冷媒の湿り蒸気となる際の凝縮熱を、車両の室内へ流通する空調用空気へ放出して、車両の室内の暖房を行なう。熱交換器18から熱を受け取ることによって温度が上昇した空調用空気が車両の室内に流入することによって、車両の室内の暖房が行なわれる。
【0059】
熱交換装置1において、膨張弁16と熱交換器18との間を流通する冷媒の経路には、第二通路と、第四通路としての冷媒通路24aと、が並列に接続されて設けられている。冷媒通路24aは、膨張弁16と熱交換器18との間を流通する冷媒の経路を形成する冷媒通路24の一部を形成する。熱交換部30は、上述した通り第一通路と熱交換可能に設けられ、かつ、第二通路と熱交換可能に第二通路上に設けられている。熱交換部30は、膨張弁16と熱交換器18との間を流通する冷媒の経路上に設けられている。熱交換部30は、被温度調節部31および冷却通路32に加え、冷媒が流通する配管である加熱通路33を含む。熱交換装置1は、熱交換部30を経由しない経路である冷媒通路24aと、熱交換部30を通過する経路である冷媒通路62,64,65および加熱通路33と、を含む。膨張弁16と熱交換器18との間の冷媒の経路が分岐して、冷媒の一部が熱交換部30へ流通する。
【0060】
加熱通路33へ冷媒を流通するための経路として、冷媒通路62,64,65が設けられている。加熱通路33の一方の端部は、冷媒通路64に接続される。加熱通路33の他方の端部は、冷媒通路65に接続される。冷媒通路62と冷媒通路64とは、開閉弁63を介して連通されている。冷媒通路62,64と冷媒通路65との一方を経由して、冷媒通路24から加熱通路33へ冷媒が流通する。加熱通路33を流通して被温度調節部31と熱交換した後の冷媒は、冷媒通路62,64と冷媒通路65との他方を経由して、冷媒通路24へ戻る。冷媒通路24aと並列に接続される第二通路は、熱交換部30よりも熱交換器18に近接する側の冷媒通路62,64と、熱交換部30に含まれる加熱通路33と、熱交換部30よりも膨張弁16に近接する側の冷媒通路65と、を含む。開閉弁63は、第二通路を開閉する。
【0061】
図6は、被温度調節部31を加熱する際の熱交換装置1を示す模式図である。
図1および
図4に示す被温度調節部31を冷却する場合には、開閉弁53が開状態とされ開閉弁63が閉状態とされる。開閉弁53の開放時に、開閉弁63は閉止されている。そのため、冷却通路32を冷媒が流通し、加熱通路33には冷媒は流れない。冷却通路32を流れる冷媒に被温度調節部31から熱が伝達されることにより、被温度調節部31が冷却される。一方、
図6に示す被温度調節部31を加熱する場合には、開閉弁63が開状態とされ開閉弁53が閉状態とされる。開閉弁53の閉止時に、開閉弁63は開放されている。そのため、加熱通路33を冷媒が流通し、冷却通路32には冷媒は流れない。加熱通路33を流れる冷媒から被温度調節部31に熱が伝達されることにより、被温度調節部31が加熱される。
【0062】
図6に示すように、膨張弁16と熱交換器18との間を流通し加熱通路33を経由して流れる冷媒は、加熱通路33内を流通するとき、被温度調節部31へ熱を加えて、被温度調節部31を昇温させる。熱交換部30は、加熱通路33によって被温度調節部31と冷媒との間で熱交換が可能な構造を有するように設けられる。上述した冷却通路32に対する被温度調節部31の配置と同様に、被温度調節部31の筐体に加熱通路33の外周面が直接接触してもよい。または、被温度調節部31と加熱通路33との間にヒートパイプが配置され、加熱通路33をヒートパイプの加熱部とし被温度調節部31をヒートパイプの冷却部としてもよい。加熱通路33の外部に被温度調節部31が配置され、蒸気圧縮式冷凍サイクル10の圧力損失は増大しないので、圧縮機12の動力を増大させることなく、被温度調節部31を加熱することができる。
【0063】
膨張弁16と熱交換器18との間を冷媒が流通する経路として、熱交換部30を通過する経路である冷媒通路62,64,65および加熱通路33と、熱交換部30を通過しない経路である冷媒通路24aと、が並列に設けられる。冷媒通路62,64,65を含む被温度調節部31の加熱系は、冷媒通路24aと並列に接続されている。膨張弁16と熱交換器18との間を熱交換部30を経由せずに流れる冷媒の経路と熱交換部30を経由して流れる冷媒の経路とを並列に設け、一部の冷媒のみを冷媒通路62,64,65へ流通させることで、膨張弁16と熱交換器18との間を流れる冷媒の一部のみが熱交換部30へ流れる。
【0064】
熱交換部30において被温度調節部31を加熱するために必要な量の冷媒を冷媒通路62,64,65へ流通させ、全ての冷媒が熱交換部30に流れない。したがって、被温度調節部31は適切に加熱され、被温度調節部31が過熱されることを防止できる。また、冷媒通路62,64,65および加熱通路33を含む被温度調節部31の加熱系への冷媒の流通に係る、圧力損失を低減することができる。それに伴い、冷媒を循環させるための圧縮機12の運転に必要な消費電力を低減することができる。
【0065】
冷媒通路24aには、流量調整弁51とは異なる他の流量調整弁としての流量調整弁61が配置されている。流量調整弁61は、上述した流量調整弁51と同様に、その弁開度を変動させ、冷媒通路24aを流れる冷媒の圧力損失を増減させることにより、冷媒通路24aを流れる冷媒の流量と、冷媒通路62,64,65および加熱通路33を流れる冷媒の流量と、を任意に調節する。
【0066】
流量調整弁61の弁開度を大きくすると被温度調節部31を加熱する冷媒の流量が小さくなり、被温度調節部31の昇温能力が低下する。流量調整弁61の弁開度を小さくすると被温度調節部31を加熱する冷媒の流量が大きくなり、被温度調節部31の昇温能力が向上する。流量調整弁61を使用して、熱交換部30に流れる冷媒の量を最適に調節できるので、被温度調節部31の過熱を確実に防止することができ、加えて、冷媒通路62,64,65および加熱通路33の冷媒の流通に係る圧力損失および冷媒を循環させるための圧縮機12の消費電力を、確実に低減することができる。
【0067】
なお、被温度調節部31を冷却する際には、流量調整弁61は全開状態に保たれ、流量調整弁51は
図3を参照して説明したようにその開度を制御される。開閉弁63を閉状態にすることで加熱通路33へ冷媒が流通することを確実に防止でき、流量調整弁61を全開にすることで冷媒通路24aを流れる冷媒の圧力損失を最小とすることができる。一方、被温度調節部31を加熱する際には、流量調整弁51が全開状態に保たれ、流量調整弁61は、被温度調節部31を加熱するための加熱通路33を流れる冷媒の流量を適切に維持できるように、
図3を参照して説明した流量調整弁51の開度制御と同様に、その開度を制御される。開閉弁53を閉状態にすることで冷却通路32へ冷媒が流通することを確実に防止でき、流量調整弁51を全開にすることで冷媒通路23aを流れる冷媒の圧力損失を最小とすることができる。
【0068】
図7は、被温度調節部31を加熱する際の実施の形態1の蒸気圧縮式冷凍サイクル10の冷媒の状態を示すモリエル線図である。
図7中の横軸は、冷媒の比エンタルピー(単位:kJ/kg)を示し、縦軸は、冷媒の絶対圧力(単位:MPa)を示す。図中の曲線は、冷媒の飽和蒸気線および飽和液線である。
図7中には、圧縮機12から熱交換器18を経由して冷媒通路24へ流入し、被温度調節部31を加熱し、冷媒通路24へ戻り膨張弁16、熱交換器14を経由して圧縮機12へ戻る、蒸気圧縮式冷凍サイクル10中の各点(すなわちA、B,E,FおよびD点)における冷媒の熱力学状態が示される。
【0069】
図7に示すように、圧縮機12に吸入された過熱蒸気状態の冷媒(A点)は、圧縮機12において等比エントロピー線に沿って断熱圧縮される。圧縮するに従って冷媒の圧力と温度とが上昇し、高温高圧の過熱度の大きい過熱蒸気になって(B点)、冷媒は熱交換器18へと流れる。
【0070】
熱交換器18へ入った高圧の冷媒蒸気は、熱交換器18において冷却され、等圧のまま過熱蒸気から乾き飽和蒸気になり、凝縮潜熱を放出し徐々に液化して気液混合状態の湿り蒸気になる(E点)。熱交換器18は、圧縮機12において圧縮された過熱状態冷媒ガスを、外部媒体へ等圧的に放熱させて冷媒液とする。圧縮機12から吐出された気相冷媒は、熱交換器18において周囲に放熱し冷却されることによって、凝縮(液化)する。熱交換器18における熱交換によって、冷媒の温度は低下し冷媒は液化する。冷媒は、熱交換器18において周囲へ放熱し冷却される。
【0071】
熱交換器18から流出した湿り蒸気状態の冷媒は、冷媒通路24,62,64を経由して熱交換部30の加熱通路33へ流れ、被温度調節部31を加熱する。被温度調節部31との熱交換により、冷媒は冷却され凝縮する。熱交換部30において冷媒の全部が凝縮すると、冷媒は飽和液になり、さらに顕熱を放出して過冷却液になる(F点)。
【0072】
熱交換部30で液化した高圧の液相冷媒は、冷媒通路65,24を経由して膨張弁16に流入する。膨張弁16において、過冷却液状態の冷媒は絞り膨張され、冷媒の比エンタルピーは変化せず温度と圧力とが低下して、低温低圧の気液混合状態の湿り蒸気となる(D点)。
【0073】
膨張弁16において温度が下げられた冷媒は、冷媒通路23を経由して熱交換器14へ流入する。熱交換器14のチューブ内には、湿り蒸気状態の冷媒が流入する。冷媒は、チューブ内を流通する際に、フィンを経由して外気の熱を蒸発潜熱として吸収することによって等圧のまま蒸発する。全ての冷媒が乾き飽和蒸気になると、さらに顕熱によって冷媒蒸気は温度上昇して、過熱蒸気となる(A点)。気化した冷媒は、冷媒通路22を経由して圧縮機12に吸入される。圧縮機12は、熱交換器14から流通する冷媒を圧縮する。冷媒はこのようなサイクルに従って、圧縮、凝縮、絞り膨張、蒸発の状態変化を連続的に繰り返す。
【0074】
寒冷期の暖房運転時に、
図4,5を参照して説明したように低温の冷媒を熱交換部30の冷却通路32へ流通させ被温度調節部31を冷却すると、被温度調節部31は非常に低い温度まで冷やされてしまう。被温度調節部31がATF冷却器である場合、燃費の悪化を抑制し、ギヤ潤滑を確保するために、ATFを冷却し過ぎないことが望まれる。そこで、ATF温度が低いときには、
図6,7に示すように、高圧の冷媒を熱交換部30の加熱通路33へ導入し被温度調節部31と熱交換させることにより、積極的にATFを加熱させることができる。ATFを適度に昇温させることができるので、ATFの粘度が増大しギヤの潤滑不足やフリクションロスの増大などの問題が発生するのを、回避することができる。ATFが低温のときにATFを早期に暖気することができるので、燃費を向上できるとともに、ギヤの潤滑を確保することができる。
【0075】
以上のように、本実施の形態の熱交換装置1は、熱交換器18において空調用空気と熱交換することで車両の室内の冷暖房を行なうために設けられた、蒸気圧縮式冷凍サイクル10を備える。冷房運転時と暖房運転時とで蒸気圧縮式冷凍サイクル10内の冷媒の流れる方向を四方弁13を用いて切り換えることにより、一台の熱交換器18を使用して、冷房運転時と暖房運転時との両方の場合に、車両の室内へ流通する空調用空気の温度を適切に調節できる。空調用空気と熱交換する熱交換器を二台配置する必要がないので、熱交換装置1のコストを低減することができ、かつ熱交換装置1を小型化することができる。
【0076】
冷房運転時に冷媒は、膨張弁16の出口において、車両の室内の冷房のために本来必要とされる温度および圧力を有する。熱交換器14は、冷媒を十分に冷却できる程度に、その放熱能力が定められている。膨張弁16を通過した後の冷媒を被温度調節部31の冷却に使用すると、熱交換器18における空調用空気の冷却能力が減少して車室用の冷房能力が低下するが、本実施の形態の熱交換装置1では、熱交換器14において冷媒を十分な過冷却状態にまで冷却し、熱交換器14の出口の高圧の冷媒を被温度調節部31の冷却に使用する。そのため、車室内の空気を冷却する冷房の能力に影響を与えることなく、被温度調節部31を冷却することができる。
【0077】
熱交換器14の仕様(すなわち、熱交換器14のサイズまたは熱交換性能)は、熱交換器14を通過した後の液相冷媒の温度が車室内の冷房のために必要とされる温度よりも低下するように、定められる。熱交換器14の仕様は、被温度調節部31を冷却しない場合の蒸気圧縮式冷凍サイクルの熱交換器よりも、冷媒が被温度調節部31から受け取ると想定される熱量分だけ大きい放熱量を有するように、定められる。このような仕様の熱交換器14を備える熱交換装置1は、車両の室内の優れた冷房性能を維持しつつ、圧縮機12の動力を増加させることなく、被温度調節部31を適切に冷却できる。
【0078】
暖房運転時に冷媒は、熱交換部30において被温度調節部31から吸熱することにより加熱され、熱交換器14において外気から吸熱することによりさらに加熱される。熱交換部30と熱交換器14との両方で冷媒を加熱することにより、熱交換器14の出口において冷媒を十分な過熱蒸気の状態にまで加熱できるので、車両の室内の優れた暖房性能を維持しつつ、被温度調節部31を適切に冷却できる。熱交換部30で冷媒が加熱され、被温度調節部31の廃熱を室内の暖房に有効利用できるので、成績係数が向上し、暖房運転時の圧縮機12での冷媒の断熱圧縮のための消費動力を低減することができる。
【0079】
さらに、寒冷期の暖房運転時には、圧縮機12で加圧された高温高圧の冷媒を用いて、空調用空気を加熱するとともに、被温度調節部31を加熱する。暖房運転時に、被温度調節部31の温度をサーミスタなどで計測し、被温度調節部31の温度が高い場合には開閉弁53を開にし開閉弁63を閉にすることで被温度調節部31を冷却でき、被温度調節部31の温度が低い場合には開閉弁63を開にし開閉弁53を閉にすることで被温度調節部31を加熱できる。被温度調節部31は、冷却通路32を流通する冷媒により冷却され、かつ、加熱通路33を流通する冷媒により加熱され得るように配置され、冷却通路32および加熱通路33への冷媒の流通は開閉弁53,63の開閉によって切り換えられる。したがって、簡単な構成かつ簡単な制御によって、被温度調節部31を自在に冷却または加熱でき、被温度調節部31の温度を最適に調節することが容易になる。
【0080】
熱交換装置1では、蒸気圧縮式冷凍サイクル10を利用して、被温度調節部31の冷却および加熱が行なわれる。被温度調節部31の冷却のための専用の水循環ポンプもしくは冷却ファンなどの冷却機器、または、被温度調節部31の加熱のための専用のヒータなどの加熱機器を設ける必要はない。被温度調節部31の温度調節のために必要な構成を低減でき、装置構成を単純にできるので、熱交換装置1の製造コストを低減できる。加えて、被温度調節部31の温度調節のためにポンプ、冷却ファンまたはヒータなどの動力源を運転する必要がなく、動力源を運転するための消費動力を必要としない。したがって、被温度調節部31の冷却および加熱のための消費動力を低減することができる。
【0081】
(実施の形態2)
図8は、実施の形態2の熱交換装置1の構成を示す模式図である。実施の形態2の熱交換装置1は、熱交換部30と膨張弁16との間の冷媒の経路に、第三熱交換器としての熱交換器15が配置されている点で、実施の形態1と異なっている。
【0082】
熱交換器15が設けられるので、熱交換器14と膨張弁16との間の冷媒の経路は、熱交換器15よりも熱交換器14に近接する側の冷媒通路23と、熱交換器15よりも膨張弁16に近接する側の冷媒通路27と、に分割されている。冷媒通路23は、熱交換器14と熱交換器15との間を流通する冷媒の経路として設けられている。冷却通路32を含む被温度調節部31の冷却系である第一通路は、冷媒通路23の一部を形成する冷媒通路23aと並列に接続されている。
【0083】
冷房運転時には、
図8に示すA点、B点、C点、D点、G点およびE点を順に通過するように蒸気圧縮式冷凍サイクル10内を冷媒が流れ、圧縮機12と熱交換器14,15と膨張弁16と熱交換器18とに冷媒が循環する。冷媒は、圧縮機12と熱交換器14,15と膨張弁16と熱交換器18とが冷媒通路21〜27によって順次接続された冷媒循環流路を通って、蒸気圧縮式冷凍サイクル10内を循環する。
【0084】
図9は、実施の形態2の蒸気圧縮式冷凍サイクル10の冷房運転時の冷媒の状態を示すモリエル線図である。
図9中の横軸は、冷媒の比エンタルピー(単位:kJ/kg)を示し、縦軸は、冷媒の絶対圧力(単位:MPa)を示す。図中の曲線は、冷媒の飽和蒸気線および飽和液線である。
図9中には、圧縮機12から熱交換器14を経由して冷媒通路23へ流入し、被温度調節部31を冷却し、冷媒通路23へ戻り熱交換器15を経由して冷媒通路27へ流入し、膨張弁16、熱交換器18を経由して圧縮機12へ戻る、蒸気圧縮式冷凍サイクル10中の各点(すなわちA、B,C,D,GおよびE点)における冷媒の熱力学状態が示される。
【0085】
実施の形態2の蒸気圧縮式冷凍サイクル10は、熱交換器14から膨張弁16へ至る系統を除いて、実施の形態1と同じである。つまり、
図2に示すモリエル線図におけるD点からE点、A点を経由してB点へ至る冷媒の状態と、
図9に示すモリエル線図におけるG点からE点、A点を経由してB点へ至る冷媒の状態と、は同じである。そのため、実施の形態2の蒸気圧縮式冷凍サイクル10に特有の、B点からG点へ至る冷媒の状態について、以下に説明する。
【0086】
圧縮機12によって断熱圧縮された高温高圧の過熱蒸気状態の冷媒(B点)は、熱交換器14において冷却される。冷媒は、等圧のまま顕熱を放出して過熱蒸気から乾き飽和蒸気になり、凝縮潜熱を放出し徐々に液化して気液混合状態の湿り蒸気になり、冷媒の全部が凝縮して飽和液になる(C点)。
【0087】
熱交換器14から流出した飽和液状態の冷媒は、冷媒通路52,54を経由して熱交換部30へ流れる。熱交換部30において、熱交換器14を通過して凝縮された液冷媒に熱を放出することで、被温度調節部31が冷却される。被温度調節部31との熱交換により、冷媒が加熱され、冷媒の乾き度が増大する。冷媒は、被温度調節部31から潜熱を受け取って一部の冷媒が気化することにより、飽和液と飽和蒸気とが混合した湿り蒸気となる(D点)。
【0088】
その後冷媒は、熱交換器15に流入する。冷媒の湿り蒸気は、熱交換器15において外気と熱交換することで再度凝縮され、冷媒の全部が凝縮すると飽和液になり、さらに顕熱を放出して過冷却された過冷却液になる(G点)。その後膨張弁16を通過することで、冷媒は低温低圧の湿り蒸気になる(E点)。
【0089】
蒸気圧縮式冷凍サイクル10において、圧縮機12から吐出された高圧の冷媒は、熱交換器14と熱交換器15との両方によって凝縮される。熱交換器15において十分に冷媒を冷却することにより、膨張弁16の出口において、冷媒は、車両の室内の冷房のために本来必要とされる温度および圧力を有する。そのため、熱交換器18において冷媒が蒸発するときに外部から受け取る熱量を十分に大きくすることができる。このように、冷媒を十分に冷却できる熱交換器15の放熱能力を定めることにより、車室内の空気を冷却する冷房の能力に影響を与えることなく、被温度調節部31を冷却することができる。したがって、被温度調節部31の冷却能力と、車室用の冷房能力との両方を、確実に確保することができる。
【0090】
実施の形態1の蒸気圧縮式冷凍サイクル10では、圧縮機12と膨張弁16との間に熱交換器14が配置され、冷房運転時には、冷房と被温度調節部31の冷却とに相当する分の熱交換を熱交換器14で行なう必要がある。そのため、熱交換器14において冷媒を飽和液の状態からさらに冷却し、冷媒が所定の過冷却度を有するまで冷却する必要があった。過冷却液の状態の冷媒を冷却すると、冷媒の温度が大気温度に近づき、冷媒の冷却効率が低下するので、熱交換器14の容量を増大させる必要がある。その結果、熱交換器14のサイズが増大し、車載用の熱交換装置1として不利になるという問題がある。一方、車両へ搭載するために熱交換器14を小型化すると、熱交換器14の放熱能力も小さくなり、その結果、膨張弁16の出口における冷媒の温度を十分に低くできず、車室用の冷房能力が不足する虞がある。
【0091】
これに対し、実施の形態2の蒸気圧縮式冷凍サイクル10では、圧縮機12と膨張弁16との間に二段の熱交換器14,15を配置し、被温度調節部31の冷却系である熱交換部30が熱交換器14と熱交換器15との間に設けられる。熱交換器14では、
図9に示すように、冷媒を飽和液の状態にまで冷却すればよい。被温度調節部31から蒸発潜熱を受け取り一部気化した湿り蒸気の状態の冷媒は、熱交換器15で再度冷却される。湿り蒸気状態の冷媒を凝縮させ完全に飽和液にするまで、冷媒は一定の温度で状態変化する。熱交換器15はさらに、車両の室内の冷房のために必要な程度の過冷却度にまで、冷媒を冷却する。そのため、実施の形態1と比較して、冷媒の過冷却度を大きくする必要がなく、熱交換器14,15の容量を低減することができる。したがって、車室用の冷房能力を確保でき、かつ、熱交換器14,15のサイズを低減することができるので小型化され車載用に有利な、熱交換装置1を得ることができる。
【0092】
熱交換器14から熱交換部30へ流れる冷媒は、被温度調節部31を冷却するときに、被温度調節部31から熱を受け取り加熱される。熱交換部30において冷媒が飽和蒸気温度以上に加熱され冷媒の全量が気化すると、冷媒と被温度調節部31との熱交換量が減少して被温度調節部31を効率よく冷却できなくなり、また冷媒が配管内を流れる際の圧力損失が増大する。そのため、被温度調節部31を冷却した後に冷媒の全量が気化しない程度に、熱交換器14において十分に冷媒を冷却するのが望ましい。
【0093】
具体的には、熱交換器14の出口における冷媒の状態を飽和液に近づけ、典型的には熱交換器14の出口において冷媒が飽和液線上にある状態にする。このように冷媒を十分に冷却できる能力を熱交換器14が有する結果、熱交換器14の冷媒から熱を放出させる放熱能力は、熱交換器15の放熱能力よりも高くなる。放熱能力が相対的に大きい熱交換器14において冷媒を十分に冷却することにより、被温度調節部31から熱を受け取った冷媒を湿り蒸気の状態に留めることができ、冷媒と被温度調節部31との熱交換量の減少を回避できるので、被温度調節部31を十分に効率よく冷却することができる。被温度調節部31を冷却した後の湿り蒸気の状態の冷媒は、熱交換器15において効率よく再度冷却され、飽和温度をわずかに下回る程度の過冷却液の状態にまで冷却される。したがって、車室用の冷房能力と被温度調節部31の冷却能力との両方を確保した、熱交換装置1を提供することができる。
【0094】
図10は、四方弁13を切り換えた状態の実施の形態2の熱交換装置1を示す模式図である。
図8と
図10とを比較して、四方弁13が90°回転することにより、圧縮機12出口から四方弁13へ流入した冷媒が四方弁13を出る経路が切り換えられている。
図8に示す冷房運転時には、圧縮機12において圧縮された冷媒は、圧縮機12から熱交換器14へ向かって流れる。一方、
図10に示す暖房運転時には、圧縮機12において圧縮された冷媒は、圧縮機12から熱交換器18へ向かって流れる。
【0095】
暖房運転時には、
図10に示すA点、B点、E点、G点、D点およびC点を順に通過するように蒸気圧縮式冷凍サイクル10内を冷媒が流れ、圧縮機12と熱交換器18と膨張弁16と熱交換器15,14とに冷媒が循環する。冷媒は、圧縮機12と熱交換器18と膨張弁16と熱交換器15,14とが冷媒通路21〜27によって順次接続された冷媒循環流路を通って、蒸気圧縮式冷凍サイクル10内を循環する。
【0096】
図11は、実施の形態2の蒸気圧縮式冷凍サイクル10の暖房運転時の冷媒の状態を示すモリエル線図である。
図11中の横軸は、冷媒の比エンタルピー(単位:kJ/kg)を示し、縦軸は、冷媒の絶対圧力(単位:MPa)を示す。図中の曲線は、冷媒の飽和蒸気線および飽和液線である。
図11中には、圧縮機12から熱交換器18、膨張弁16、熱交換器15を経由して冷媒通路23へ流入し、被温度調節部31を冷却し、冷媒通路23へ戻り熱交換器14を経由して圧縮機12へ戻る、蒸気圧縮式冷凍サイクル10中の各点(すなわちA、B,E,G,DおよびC点)における冷媒の熱力学状態が示される。
【0097】
実施の形態2の蒸気圧縮式冷凍サイクル10は、膨張弁16から熱交換器14へ至る系統を除いて、実施の形態1と同じである。つまり、
図5に示すモリエル線図におけるA点からB点、E点を経由してD点へ至る冷媒の状態と、
図11に示すモリエル線図におけるA点からB点、E点を経由してG点へ至る冷媒の状態と、は同じである。そのため、実施の形態2の蒸気圧縮式冷凍サイクル10に特有の、G点からA点へ至る冷媒の状態について、以下に説明する。
【0098】
膨張弁16において温度が下げられた冷媒(G点)は、冷媒通路27を経由して熱交換器15へ流入する。熱交換器15のチューブ内には、湿り蒸気状態の冷媒が流入する。冷媒は、チューブ内を流通する際に、フィンを経由して外気の熱を蒸発潜熱として吸収することによって等圧のまま蒸発する。熱交換器15における外気との熱交換により、冷媒が加熱され、冷媒の乾き度が増大する。熱交換器15において潜熱を受け取って一部の冷媒が気化することにより、湿り蒸気状態の冷媒中に含まれる飽和蒸気の割合が増加する(D点)。
【0099】
熱交換器15から出た湿り蒸気状態の冷媒は、冷媒通路23,55を経由して熱交換部30の冷却通路32へ流れ、被温度調節部31を冷却する。熱交換部30において、飽和液と飽和蒸気とが混合した湿り蒸気状態の冷媒に熱を放出することで、被温度調節部31が冷却される。被温度調節部31との熱交換により、冷媒が加熱され、冷媒の乾き度が増大する。被温度調節部31から潜熱を受け取って一部の冷媒が気化することにより、湿り蒸気状態の冷媒中に含まれる飽和蒸気の割合がさらに増加する(C点)。
【0100】
熱交換部30から出た湿り蒸気状態の冷媒は、冷媒通路54,52を経由して冷媒通路23へ戻り、熱交換器14へ流入する。熱交換器14のチューブ内には、湿り蒸気状態の冷媒が流入する。冷媒は、チューブ内を流通する際に、フィンを経由して外気の熱を蒸発潜熱として吸収することによって等圧のまま蒸発する。全ての冷媒が乾き飽和蒸気になると、さらに顕熱によって冷媒蒸気は温度上昇して、過熱蒸気となる(A点)。
【0101】
暖房運転時に冷媒は、熱交換器14,15の両方において外気から吸熱することにより加熱され、熱交換部30において被温度調節部31から吸熱することによりさらに加熱される。熱交換部30と熱交換器14,15との両方で冷媒を加熱することにより、熱交換器14の出口において冷媒を十分な過熱蒸気の状態にまで加熱できるので、車両の室内の優れた暖房性能を維持しつつ、被温度調節部31を適切に冷却できる。熱交換部30で冷媒が加熱され、被温度調節部31の廃熱を室内の暖房に有効利用できるので、暖房運転時の圧縮機12での冷媒の断熱圧縮のための消費動力を低減することができる。
【0102】
図12は、実施の形態2の被温度調節部31を加熱する際の熱交換装置1を示す模式図である。実施の形態1と同様に、開閉弁53,63の開閉状態を切り換え、開閉弁53を閉に、開閉弁63を開にすることにより、加熱通路33を冷媒が流通し、冷却通路32には冷媒は流れない状態とする。このとき、加熱通路33を流れる冷媒から被温度調節部31に伝熱することにより、被温度調節部31が加熱される。
【0103】
図13は、被温度調節部31を加熱する際の実施の形態2の蒸気圧縮式冷凍サイクル10の冷媒の状態を示すモリエル線図である。
図13中の横軸は、冷媒の比エンタルピー(単位:kJ/kg)を示し、縦軸は、冷媒の絶対圧力(単位:MPa)を示す。図中の曲線は、冷媒の飽和蒸気線および飽和液線である。
図13中には、圧縮機12から熱交換器18を経由して冷媒通路24へ流入し、被温度調節部31を加熱し、冷媒通路24へ戻り膨張弁16、熱交換器15,14を経由して圧縮機12へ戻る、蒸気圧縮式冷凍サイクル10中の各点(すなわちA、B,E,F,GおよびD点)における冷媒の熱力学状態が示される。
【0104】
実施の形態2の蒸気圧縮式冷凍サイクル10は、膨張弁16から熱交換器14へ至る系統を除いて、実施の形態1と同じである。つまり、
図7に示すモリエル線図におけるA点からB点、E点、F点を経由してD点へ至る冷媒の状態と、
図13に示すモリエル線図におけるA点からB点、E点、F点を経由してG点へ至る冷媒の状態と、は同じである。そのため、実施の形態2の蒸気圧縮式冷凍サイクル10に特有の、G点からA点へ至る冷媒の状態について、以下に説明する。
【0105】
膨張弁16において温度が下げられた冷媒(G点)は、冷媒通路27を経由して熱交換器15へ流入する。熱交換器15のチューブ内には、飽和液と飽和蒸気とが混合した湿り蒸気状態の冷媒が流入する。冷媒は、チューブ内を流通する際に、フィンを経由して外気の熱を蒸発潜熱として吸収することによって等圧のまま蒸発する。熱交換器15における外気との熱交換により、冷媒が加熱され、冷媒の乾き度が増大する。熱交換器15において潜熱を受け取って一部の冷媒が気化することにより、湿り蒸気状態の冷媒中に含まれる飽和蒸気の割合が増加する(D点)。
【0106】
熱交換器15から出た湿り蒸気状態の冷媒は、冷媒通路23を経由して熱交換器14へ流入する。熱交換器14のチューブ内には、飽和液と飽和蒸気とが混合した湿り蒸気状態の冷媒が流入する。冷媒は、チューブ内を流通する際に、フィンを経由して外気の熱を蒸発潜熱として吸収することによって等圧のまま蒸発する。全ての冷媒が乾き飽和蒸気になると、さらに顕熱によって冷媒蒸気は温度上昇して、過熱蒸気となる(A点)。
【0107】
寒冷期の暖房運転時に、空調用空気を加熱するとともに、高圧の冷媒を熱交換部30へ導入し被温度調節部31と熱交換させることにより被温度調節部31を加熱する。被温度調節部31がATF冷却器である場合、積極的にATFを加熱してATFを適度に昇温させることができるので、ATFの粘度が増大しギヤの潤滑不足やフリクションロスの増大などの問題が発生するのを、回避することができる。膨張弁16を経由した後の低温低圧の冷媒は二段の熱交換器15,14で加熱されるので、熱交換器14,15の各々の熱交換能力を小さくでき、熱交換器14,15のサイズを低減することができるので小型化され車載用に有利な、熱交換装置1を得ることができる。
【0108】
(実施の形態3)
図14は、実施の形態3の熱交換装置1の構成を示す模式図である。実施の形態3の熱交換装置1は、熱交換器14と熱交換部30との間の冷媒の経路において、冷媒通路52,54を連通または非連通の状態にする開閉弁53に替えて、第一の減圧器(膨張弁16)とは異なる第二の減圧器としての膨張弁56を備える点で、実施の形態1および2とは異なっている。膨張弁56は、膨張弁16と同様に、熱交換器14から出た高圧の液相冷媒を膨張させ、冷媒の温度と圧力とを低下させる。熱交換装置1はさらに、膨張弁56をバイパスする冷媒の経路である冷媒通路57と、冷媒通路57上に設けられ冷媒通路57への冷媒の流通を切り換える開閉弁58と、を備える。
【0109】
冷房運転時には、
図14に示すように、開閉弁58は閉状態とされる。熱交換器14において凝縮された冷媒は、冷媒通路52、膨張弁56、冷媒通路54を経由して、熱交換部30へ向かって流通する。熱交換部30へ流通し、冷却通路32を経由して流れる冷媒は、被温度調節部31から熱を奪って、被温度調節部31を冷却させる。熱交換部30は、熱交換器14から出て膨張弁56で減圧された低温低圧の冷媒を用いて、被温度調節部31を冷却する。
【0110】
図15は、実施の形態3の蒸気圧縮式冷凍サイクル10の冷房運転時の冷媒の状態を示すモリエル線図である。
図15中の横軸は、冷媒の比エンタルピー(単位:kJ/kg)を示し、縦軸は、冷媒の絶対圧力(単位:MPa)を示す。図中の曲線は、冷媒の飽和蒸気線および飽和液線である。
図15中には、熱交換器14の出口の冷媒通路23から冷媒通路52へ流入し、膨張弁56において膨張した後に冷媒通路54を流通し、被温度調節部31を冷却し、冷媒通路55から熱交換器15の入口の冷媒通路23へ戻る、蒸気圧縮式冷凍サイクル10中の各点(すなわちA,B,H,C,D,GおよびE点)における冷媒の熱力学状態が示される。
【0111】
実施の形態3の蒸気圧縮式冷凍サイクル10は、熱交換器14から膨張弁16へ至る系統を除いて、実施の形態2と同じである。つまり、
図9に示すモリエル線図におけるE点からA点、B点を経由してC点へ至る冷媒の状態と、
図15に示すモリエル線図におけるE点からA点、B点を経由してH点へ至る冷媒の状態と、は同じである。そのため、実施の形態3の蒸気圧縮式冷凍サイクル10に特有の、H点からE点へ至る冷媒の状態について、以下に説明する。
【0112】
熱交換器14において液化した冷媒(H点)は、冷媒通路23,52を経由して膨張弁56に流入する。膨張弁56において、飽和液状体の冷媒は絞り膨張され、冷媒の比エンタルピーは変化せず温度と圧力とが低下して、飽和液と飽和蒸気とが混合した湿り蒸気となる(C点)。膨張弁56において温度が下げられた冷媒は、冷媒通路54を経由して熱交換部30の冷却通路32へ流れ、被温度調節部31を冷却する。被温度調節部31との熱交換により、冷媒が加熱され、冷媒の乾き度が増大する。被温度調節部31から潜熱を受け取って一部の冷媒が気化することにより、湿り蒸気状態の冷媒中に含まれる飽和蒸気の割合が増加する(D点)。
【0113】
その後冷媒は、熱交換器15に流入する。冷媒の湿り蒸気は、熱交換器15において再度凝縮され、冷媒の全部が凝縮すると飽和液になり、さらに顕熱を放出して過冷却された過冷却液になる(G点)。その後膨張弁16を通過することで、過冷却液状態の冷媒は絞り膨張され、比エンタルピーは変化せず温度と圧力とが低下して、低温低圧の気液混合状態の湿り蒸気となる(E点)。
【0114】
実施の形態3の熱交換装置1では、冷房運転時に、膨張弁56で膨張することにより温度が低下した冷媒を使用して被温度調節部31を冷却できるので、被温度調節部31をより効率よく冷却できる。膨張弁56の仕様を最適に選定することにより、熱交換部30で被温度調節部31を冷却する冷媒の温度を任意に調整することができる。被温度調節部31の冷却に適したより低い温度の冷媒を熱交換部30に供給して、被温度調節部31を冷却することができる。
【0115】
図16は、四方弁を切り換えた状態の実施の形態3の熱交換装置を示す模式図である。実施の形態3の熱交換装置1を使用して暖房運転する場合、膨張弁56は全閉(開度0%)にされ、開閉弁58が開とされる。そのため、
図16に示すA点、B点、E点、G点、D点およびC点を順に通過するように蒸気圧縮式冷凍サイクル10内を冷媒が流れ、圧縮機12と熱交換器18と膨張弁16と熱交換器15,14とに冷媒が循環する。
【0116】
このとき冷媒は、
図11と同様に状態を変化させながら、蒸気圧縮式冷凍サイクル10内を循環する。したがって、実施の形態2と同様に、熱交換部30と熱交換器14,15との両方で冷媒を加熱することにより、熱交換器14の出口において冷媒を十分な過熱蒸気の状態にまで加熱できるので、車両の室内の優れた暖房性能を維持しつつ、被温度調節部31を適切に冷却することができる。
【0117】
図17は、実施の形態3の被温度調節部31を加熱する際の熱交換装置1を示す模式図である。実施の形態3の熱交換装置1を使用して、寒冷期の暖房運転時に被温度調節部31を加熱する場合、膨張弁56が全閉(開度0%)にされるとともに開閉弁58が閉とされ、開閉弁63が開とされる。そのため、
図17に示すA、B,E,F,GおよびD点を順に通過するように蒸気圧縮式冷凍サイクル10内を冷媒が流れ、圧縮機12と熱交換器18と膨張弁16と熱交換器15,14とに冷媒が循環する。
【0118】
このとき冷媒は、
図13と同様に状態を変化させながら、蒸気圧縮式冷凍サイクル10内を循環する。したがって、実施の形態2と同様に、寒冷期の暖房運転時に、空調用空気を加熱するとともに、高圧の冷媒を熱交換部30へ導入し被温度調節部31を加熱することができる。被温度調節部31がATF冷却器である場合、積極的にATFを加熱してATFを適度に昇温させることができるので、ATFの粘度が増大しギヤの潤滑不足やフリクションロスの増大などの問題が発生するのを、回避することができる。
【0119】
なお、実施の形態1〜3においては、ATF冷却器を例として車両に搭載された被温度調節部の温度を最適に調節する熱交換装置1について説明した。本発明の熱交換装置1により温度を調節される被温度調節部31は、車両に搭載されたATF冷却器に限られず、外気温などの諸条件に従って冷却または加熱されることを必要とする任意の機器、または任意の機器の発熱する一部分であってもよい。
【0120】
以上のように本発明の実施の形態について説明を行なったが、各実施の形態の構成を適宜組合せてもよい。また、今回開示された実施の形態はすべての点で例示であって、制限的なものではないと考えられるべきである。この発明の範囲は上記した説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味、および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。