特許第5718759号(P5718759)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5718759
(24)【登録日】2015年3月27日
(45)【発行日】2015年5月13日
(54)【発明の名称】加振装置の制御システム
(51)【国際特許分類】
   G01M 7/02 20060101AFI20150423BHJP
【FI】
   G01M7/00 B
【請求項の数】1
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2011-163723(P2011-163723)
(22)【出願日】2011年7月26日
(65)【公開番号】特開2013-29331(P2013-29331A)
(43)【公開日】2013年2月7日
【審査請求日】2014年1月6日
(73)【特許権者】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000143949
【氏名又は名称】株式会社鷺宮製作所
(74)【代理人】
【識別番号】100080621
【弁理士】
【氏名又は名称】矢野 寿一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100124730
【弁理士】
【氏名又は名称】正津 秀明
(72)【発明者】
【氏名】行田 伸吾
(72)【発明者】
【氏名】伊 栄生
【審査官】 田中 秀直
(56)【参考文献】
【文献】 特開平11−014495(JP,A)
【文献】 特開平11−311583(JP,A)
【文献】 特開昭63−075635(JP,A)
【文献】 特開2010−110145(JP,A)
【文献】 特開2010−178510(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01M 7/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
流体の差圧により供試体を加振する流体圧式加振部と、磁界内に配置される駆動コイルに駆動電流を供給することにより前記供試体を加振する動電式加振部とにより、一つの振動板に載置される前記供試体を加振する加振装置の動作を制御する加振装置の制御システムであって、
前記差圧に基づいて前記動電式加振部を動作させ、前記流体圧式加振部の加振力の位相に、前記動電式加振部の加振力の位相を合わせる動力同期制御部を具備し、
前記動力同期制御部は、
前記流体の差圧に基づいて前記動電式加振部の加振力に対応する駆動電流値を算出する変換部と、
前記変換部によって算出される前記駆動電流値を、前記動電式加振部の駆動コイルへの駆動電圧値にフィードフォワードするフィードフォワード部と、
前記供試体を加振するときに前記動電式加振部で発生する逆起電圧の大きさを、前記供試体の加速度に基づいて算出し、前記動電式加振部の駆動コイルへの駆動電圧値にフィードバックするフィードバック部と、
を備える、
加振装置の制御システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、流体圧式の加振装置と動電式の加振装置とにより、一つの振動板に載置される供試体を加振する加振装置の動作を制御する加振装置の制御システムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、供試体(例えば、自動車等)を加振して、供試体の状態変化等を検査する際には、加振装置が用いられる。
加振装置には、流体(例えば、油や水等)の差圧により供試体を加振する流体圧式の加振装置や、磁界内に配置される駆動コイルに駆動電流を供給することにより供試体を加振する動電式の加振装置等がある。
【0003】
流体圧式の加振装置は、高加振力および高周波加振を両立させて供試体を加振可能であるが、常に最大の圧力で流体が供給される。このため、その最大加振力よりも小さな加振力で供試体を加振する場合、そのエネルギー消費量が増大する。
動電式の加振装置は、励磁電流値や駆動電流値を調整することで加振力を調整できるため、加振力に応じてエネルギー消費量が減少するが、加振力を大きくした場合、加振速度が低下してしまう。このため、高加振力および高周波加振を両立できない。
【0004】
そこで、高負荷(高加振力での加振)時に流体圧式および動電式の加振装置の加振力を同期させることで、各加振装置の容量を小さくし、高加振力および高周波加振を両立できるとともに、加振力に応じてエネルギー効率を向上できるハイブリッド式の加振装置を用いることが考えられる。
【0005】
流体圧式および動電式の加振装置は、それぞれその応答性(指令信号を出してから動き出すまでの時間)等の特性が異なる。
従って、流体圧式および動電式の加振装置に同時に指令信号を出した場合、各加振装置の加振力の位相にずれが生じ、動力損失が発生してしまう。このため、流体圧式および動電式の加振装置を組み合わせたハイブリッド式の加振装置の動作を制御する制御システムが求められている。
【0006】
特許文献1には、個別に駆動する複数のモータの軸の、回転数や回転方向等を同期させる技術が開示されている。
特許文献1に開示される技術では、各モータに対して送信される共通の位置指令および各モータの位置等に基づく位置補正量を算出する。そして、各位置補正量のうち、その補正量が大きい(最も応答の遅いモータの)位置補正量を全モータの位置補正量として設定する。
【0007】
特許文献1に開示される技術を適用した場合、制御システムは、例えば、流体圧式および動電式の加振装置に共通の指令信号を出して各加振装置を駆動させ、各加振装置のうちいずれか一方の加振軸の加速度等を基準として、他方の加振軸の加速度等を補正する構成となる。
【0008】
しかし、このような補正量をフィードバックするだけの構成では、周波数領域が高くなるにつれて、流体圧式および動電式の加振装置の特性(応答性等)の影響度合いが大きくなる。従って、高周波領域において、流体圧式および動電式の加振装置の加振力の位相にずれが生じる可能性がある。
つまり、従来の技術では、高周波領域で流体圧式および動電式の加振装置の加振力の位相を同期させることができなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2010−178510号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、以上の如き状況を鑑みてなされたものであり、高周波領域で各加振部の加振力を同期できる加振装置の制御システムを提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
請求項1においては、流体の差圧により供試体を加振する流体圧式加振部と、磁界内に配置される駆動コイルに駆動電流を供給することにより前記供試体を加振する動電式加振部とにより、一つの振動板に載置される前記供試体を加振する加振装置の動作を制御する加振装置の制御システムであって、前記差圧に基づいて前記動電式加振部を動作させ、前記流体圧式加振部の加振力の位相に、前記動電式加振部の加振力の位相を合わせる動力同期制御部を具備し、前記動力同期制御部は、前記流体の差圧に基づいて前記動電式加振部の加振力に対応する駆動電流値を算出する変換部と、前記変換部によって算出される前記駆動電流値を、前記動電式加振部の駆動コイルへの駆動電圧値にフィードフォワードするフィードフォワード部と、前記供試体を加振するときに前記動電式加振部で発生する逆起電圧の大きさを、前記供試体の加速度に基づいて算出し、前記動電式加振部の駆動コイルへの駆動電圧値にフィードバックするフィードバック部と、を備える、ものである。
【発明の効果】
【0012】
本発明は、差圧を動電式加振部への指令信号とすることで、油圧式加振部の加振力の位相に動電式加振部の加振力の位相を合わせることができるため、高周波領域で各加振部の加振力を同期できる、という効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】加振装置の制御システムの全体的な構成を示すブロック図。
図2】動力同期制御部の構成を示すブロック図。
図3】本実施形態の加振装置および各加振部の加振力の位相を示す図。
図4】動電式加振部の等価回路を示す図。
図5】逆起電圧が作用した場合の各加振部の加振力の位相を示す図。
図6】加振装置の全体的な構成を示す断面図。
図7】油圧式加振部の構成を示す断面図。
図8】各加振部に同時に指令信号を送った場合の各加振部の加振力の位相を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下では、本実施形態の加振装置10の制御システム1について説明する。
【0015】
図1に示すように、加振装置10(図6参照)の制御システム1(以下、単に「制御システム1」と表記する)は、油圧式および動電式の加振装置を組み合わせたハイブリッド式の加振装置の動作を制御するときに用いられる。
【0016】
まず、加振装置10の構成について説明する。
図6に示すように、加振装置10は、供試体Wの振動試験等に用いられ、供試体Wを加振するものである。加振装置10は、振動板20、油圧式加振部30、および動電式加振部40等を具備する。
【0017】
なお、以下では、説明の便宜上、図6における紙面の上下方向を基準として「加振装置10の上下方向」を規定する。
【0018】
振動板20は、上部が略円板状に形成される。振動板20の下部は、振動板20の上部より振動板20の中心に向けて縮径しながら下方向に延出する。振動板20の下端部は、加振軸33の上端部に連結される。振動板20の上面には、供試体Wが載置される。
【0019】
本実施形態の供試体Wは、重量の異なる自動車(例えば、小型車や大型車等)であるものとするが、これに限定されるものでない。
本実施形態のように供試体Wが自動車である場合、自動車の各車輪が複数の加振装置10の振動板20に載置される。
【0020】
油圧式加振部30は、油圧によって供試体Wを加振するものである。油圧式加振部30は、動電式加振部40の内側に位置する。図7に示すように、油圧式加振部30は、シリンダスリーブ31、ピストン32、加振軸33、二つの軸受34・34、二つの油圧サーボ弁36・36、および二つのバイパス弁38・38を備える。
【0021】
シリンダスリーブ31は、中空の略筒状の部材であり、振動板20の下方に位置する。シリンダスリーブ31は、その内側にピストン32を収容する。シリンダスリーブ31の上部および下部の外周面は、それぞれ二箇所ずつ外部に開口し、各開口部分と中空部分とが連通している。
【0022】
ピストン32は、シリンダスリーブ31内を上下方向に摺動可能な形状を有する。ピストン32の上側には、加振軸33の下端部が連結される。ピストン32の下側には、加振軸33の外径と同一の外径を有する連結軸35が連結される。
なお、ピストン32、加振軸33、および連結軸35は、一体的に構成される構造であっても構わない。
【0023】
加振軸33は、その軸方向が上下方向に対して平行に配置される。加振軸33は、その上端部が振動板20に連結され、振動板20を支持する。加振軸33の外径は、シリンダスリーブ31の内径よりも小さい。つまり、加振軸33の外周面とシリンダスリーブ31の内周面との間には所定の隙間が形成される。
【0024】
シリンダスリーブ31の内側においては、シリンダスリーブ31と加振軸33との隙間がピストン32により上下方向に分割され、各分割された隙間が油室として形成される。
本実施形態では、シリンダスリーブ31のピストン32を挟んだ上側の油室が第一油室31a、下側の油室が第二油室31bとして形成される。
【0025】
各軸受34・34は、それぞれ既存の油圧式の静圧軸受であり、シリンダスリーブ31の上側および下側に配置され、供試体Wを加振するときに加振軸33および連結軸36にかかる横荷重およびモーメントを支持する。
【0026】
各油圧サーボ弁36・36は、それぞれ各油室31a・31bに流体を供給するものである。
【0027】
なお、本実施形態で各油室31a・31bに供給する流体は油であるものとするが、これに限定されるものでなく、例えば、水等であっても構わない。
【0028】
各油圧サーボ弁36・36は、それぞれシリンダスリーブ31の外周面に取り付けられるとともに、ホースおよび配管等を介して油圧源と連通する。
各油圧サーボ弁36・36には、それぞれその内側に各油室31a・31bと連通する内部通路が形成されるとともに、内部通路の油圧源側(各油室31a・31bと離間する側)の端部に複数のポートが形成される。
【0029】
油圧式加振部30は、各油圧サーボ弁36・36の内部に上下摺動自在に設けられるスプール37を移動させることで各ポートの開閉を行い、各ポートより各油室31a・31bに高圧の流体を供給するとともに、各油室31a・31bから油圧源に流体を戻す。これにより生じる各油室31a・31bの圧力差で、ピストン32を上下方向に摺動させる。
【0030】
このように、油圧式加振部30は、流体の差圧により供試体Wを加振する流体圧式加振部として機能する。
【0031】
各バイパス弁38・38は、それぞれ第一油室31aに流体を供給する経路である第一供給経路C1と、第二油室31bに流体を供給する経路である第二供給経路C2と、を連通する、あるいは各供給経路C1・C2の連通状態を解除するものである。
各バイパス弁38・38は、それぞれ各供給経路C1・C2における各油圧サーボ弁36・36とシリンダスリーブ31との間に位置する。
【0032】
各供給経路C1・C2は、それぞれその流動方向中途部にて、各バイパス弁38・38に向けて分岐する。当該分岐する側の端部は、各バイパス弁38・38と連通する。
【0033】
各バイパス弁38・38は、それぞれその内側に上下方向に摺動自在なロックブロック39が配置され、ロックブロック39を上下方向に摺動させることで、各供給経路C1・C2を連通する経路であるバイパス経路C3・C3の開閉を行う。
各バイパス弁38・38は、それぞれ油圧式加振部30によって供試体Wを加振するとき、各バイパス経路C3・C3を閉塞する。
【0034】
図6に示すように、動電式加振部40は、磁界40aと駆動コイル43との作用により、供試体Wを加振するものである。動電式加振部40は、取付部材を介して油圧式加振部30の上側に連結される。動電式加振部40は、本体41、励磁コイル42、および駆動コイル43を備える。
【0035】
本体41は、油圧式加振部30をその内側に収容可能な略円筒状の部材である。本体41の上側は、本体41の径方向内側に向けて突出する収容部41aとして形成される。
【0036】
収容部41aには、本体41の筒軸方向に沿った断面形状が略矩形状となるとともに、収容部41aの形状に沿って略円環状に連続して形成される中空部が形成される。収容部41aの上側には、隙間部41bが形成される。
隙間部41bは、本体41を上方から見たときに略円環状に形成される本体41の開口部であり、収容部41aの中空部と連通する。
収容部41aは、磁性体(例えば、鉄等)によって構成される。
【0037】
励磁コイル42は、上下方向に沿って並んだ状態で収容部41aに環状に配置されるとともに、所定の電源より励磁電流(直流電流)が供給される。
【0038】
駆動コイル43は、その上端部がコイルホルダ43aを介して振動板20の外側端部に連結される。駆動コイル43の下端部は、隙間部41bを通って収容部41aおよび励磁コイル42の間に形成される隙間に配置される。
【0039】
動電式加振部40は、励磁コイル42に励磁電流を供給することで収容部41aを励磁して、励磁コイル42により隙間部41bに直交する磁界40aを形成する。このとき、駆動コイル43は、隙間部41bに直交する磁界40a内に配置される。
そして、動電式加振部40は、駆動コイル43に駆動電流を供給することにより駆動コイル43を上下方向に往復移動させ、供試体Wを加振する。
【0040】
このように、加振装置10は、一つの振動板20に載置される供試体Wを各加振部30・40により加振する。
【0041】
各加振部30・40の最大加振力は、それぞれ加振装置10の最大加振力よりも小さい加振力が設定されている。本実施形態の各加振部30・40は、それぞれその最大加振力が加振装置10の最大加振力の50%の加振力まで加振可能に構成される。
従って、各加振部30・40は、それぞれ加振装置10の最大加振力に対応する加振力を出力可能な各加振部30・40と比較して、その容量が小さい。
【0042】
本実施形態の加振装置10は、高負荷時(より詳細には、油圧式加振部30の最大加振力よりも大きい加振力で供試体Wを加振するとき)に、各加振部30・40で供試体Wを加振する。このとき、各加振部30・40の加振力F1・F2を同期させて供試体Wを加振する。
【0043】
すなわち、加振装置10は、高加振力および高周波加振を両立できるとともに、加振力に応じてエネルギー効率を向上できるハイブリッド式の加振装置である。
【0044】
ここで、「各加振部30・40の加振力F1・F2を同期させる」とは、図3に示すように、各加振部30・40の加振力F1・F2の位相T1・T2を互いに合わせる、あるいは実用範囲まで各位相差を小さくすることをいう。
【0045】
図6に示すように、各加振部30・40で供試体Wを加振するとき、油圧式加振部30は、その最大加振力で供試体Wを加振し、動電式加振部40は、残りの加振力を補う(図6に示す加振装置10の加振力Fおよび各加振部30・40の加振力F1・F2参照)。
例えば、油圧式加振部30の最大加振力の120%の加振力で供試体Wを加振する場合、油圧式加振部30で100%、動電式加振部40で残り20%の加振力を出力する。
【0046】
ここで、各加振部30・40は、それぞれその応答性(指令信号を出してから動き出すまでの時間)等の特性が異なる。
従って、各加振部30・40に同時に指令信号を出した場合、図8に示すように、各加振部30・40の加振力F1・F2の位相T1・T2にずれが生じる。つまり、各加振部30・40の加振力F1・F2を同期できず、動力損失が発生してしまう。
【0047】
制御システム1は、加振装置10の動作を制御するものである。図1に示すように、制御システム1は、油圧制御部2および動力同期制御部3等を具備する。
【0048】
油圧制御部2は、油圧式加振部30を動作させるものである。油圧制御部2は、加速度信号や変位信号等の制御信号に基づいて指令信号(サーボ指令)を生成する(図1に示す制御装置およびS/V参照)。そして、油圧制御部2は、指令信号に基づいて油圧式加振部30を動作させる(図1に示すH−ACT参照)。
【0049】
制御システム1は、供試体Wの速度(dx/dt)を油圧式加振部30にフィードバックするとともに、供試体Wの位置ベクトルxや速度等を制御信号にフィードバックして、指令信号に対応する加振動作を行う。
【0050】
油圧式加振部30の加振力F1は、第一油室31aの圧力をP1、第二油室31bの圧力をP2、差圧をPL、ピストン32の有効断面積をAとした場合、以下の式(1)によって求められる(図7参照)。
F1=(P1−P2)×A=PL×A・・・(1)
【0051】
つまり、油圧式加振部30は、その加振力F1が差圧PLに対応している。
制御システム1では、既存の圧力センサ等により差圧PLを測定している。また、測定した差圧PLは、動力同期制御部3の変換部4に入力される。
【0052】
動力同期制御部3は、油圧式加振部30の加振力F1の位相T1に、動電式加振部40の加振力F2の位相T2を合わせるとともに、所望の加振力で供試体Wを加振するように動電式加振部40の動作を制御するものである。図2に示すように、動力同期制御部3は、変換部4、フィードフォワード部5、動電制御部6等、およびフィードバック部7を備える。
【0053】
変換部4は、差圧PLを入力値として、入力された差圧PLに基づいて、動電式加振部40の加振力F2の大きさを算出し、算出した動電式加振部40の加振力F2に対応する駆動電流値iを出力するものである。
【0054】
動電式加振部40の加振力F2は、隙間部41bの磁束密度をB、駆動コイル43の長さをl、駆動電流値をi、磁束密度Bと駆動コイル43の長さlとの積をΨとした場合、以下の式(2)によって求められる。
F2=B×l×i=Ψ×i・・・(2)
【0055】
動電式加振部40は、磁界40a内に配置される駆動コイル43に駆動電流を供給することで供試体Wを加振する。すなわち、磁束密度Bおよび駆動コイル43の長さlはそれぞれ一定値である。
つまり、動電式加振部40は、その加振力F2が駆動電流値iに対応している。
【0056】
各加振部30・40で供試体Wを加振する場合、動電式加振部40の加振力F2は、供試体Wを加振するときの加振力Fと油圧式加振部30の加振力F1とによって決まる。
具体的には、10KNの加振力で供試体Wを加振するときに、油圧式加振部30が8KNの加振力を出力する場合、動電式加振部40は2KNの加振力を出力する。
【0057】
以下では、このような油圧式加振部30の加振力F1に対する動電式加振部40の加振力F2の割合を、「分配係数γ」と表記する。
【0058】
変換部4は、差圧PLと分配係数γとに基づいて、動電式加振部40の加振力F2を算出する。具体的には、上記式(1)に基づいて差圧PLから油圧式加振部30の加振力F1を算出し、当該算出結果に対して分配係数γを乗算する。
そして、変換部4は、上記式(2)に基づいて算出した動電式加振部40の加振力F2に対応する駆動電流値iを出力する。
出力した駆動電流値iは、フィードフォワード部5に入力される。
【0059】
フィードフォワード部5は、変換部4によって算出される駆動電流値iを、動電式加振部40の駆動コイル43への駆動電圧値eにフィードフォワードするものである。
フィードフォワード部5は、入力される駆動電流値iに対して所定の計算を行い、駆動電圧値eを出力する。出力した駆動電圧値eは、動電制御部6に入力される。
なお、フィードフォワード部5による計算の内容に関しては後述する。
【0060】
動電制御部6は、入力された駆動電圧値eに基づいて、動電式加振部40を動作させるものである。
【0061】
図4に示すように、動電式加振部40の等価回路は、駆動コイル43の抵抗Rおよび駆動コイル43のインダクタンスLが直列に配置されるとともに、駆動電圧値eに対して駆動コイル43に逆起電圧Eb(駆動電流の増減を妨げる自己誘導起電力)が作用する。
【0062】
逆起電圧Ebは、駆動コイル43の長さlと磁束密度Bと供試体Wの速度との積によって求められる。
【0063】
このため、供試体Wの位置ベクトルをx、時間をtとした場合、動電式加振部40の等価回路に印加する駆動電圧値eは、以下の式(3)によって求められる。
e=L×di/dt+R×i+Eb=L×di/dt+R×i+Ψ×dx/dt・・・(3)
図2に示す動電制御部6にて行われる演算は、上記式(3)の右辺(つまり、上記式(3)の「L×di/dt+R×i+Ψ×dx/dt」の部分)に対応している。なお、図2に示す「S」は、ラプラス演算子である。
【0064】
このように、動力同期制御部3では、差圧PLに対応する駆動電流値iを変換部4によって算出し、算出した駆動電流値iに対応する駆動電圧値eをフィードフォワード部5によって算出する。
そして、駆動電圧値eに対応する駆動電圧を、動電制御部6にて動電式加振部40の等価回路に印加し、差圧PLに対応する駆動電流値iを駆動コイル43に供給する(図2に示す動電制御部6の出力値である駆動電流値i参照)。
これにより、動電式加振部40は、差圧PLに対応する加振力F2で供試体Wを加振する(図2に示すΨおよび加振力F2参照)。
【0065】
つまり、制御システム1は、供試体Wの加速度等に基づく補正量を駆動電圧値eにフィードバックするのではなく、予め差圧PLに対応する駆動電圧値eをフィードフォワードし、動電式加振部40を動作させる構成である。
【0066】
これにより、制御システム1は、各加振部30・40の特性(応答性等)の影響を受けることなく、差圧PLの位相に駆動電流値iの位相を合わせることができる。
差圧PLおよび駆動電流値iは、各加振部30・40の加振力F1・F2に対応している。このため、各加振部30・40の加振力F1・F2の位相差がなくなり、各加振部30・40の加振力F1・F2を同期できる。
【0067】
このように、動力同期制御部3は、図3に示すように、差圧PLに基づいて動電式加振部40を動作させ、油圧式加振部30の加振力F1の位相T1に、動電式加振部40の加振力F2の位相T2を合わせる(あるいは実用範囲となるまで各位相差を小さくする)。
【0068】
仮に、供試体Wに与える加振力Fの大きさが変わった場合、分配係数γにより、フィードフォワード部5への入力値である駆動電流値iも変わる。
また、周波数が変わった場合、動力同期制御部3の変換部4に入力される差圧PLが、周波数に応じて変わる。
【0069】
つまり、制御システム1は、どの加振力領域や周波数領域においても、各加振部30・40の特性の影響を受けることなく、各加振部30・40の加振力F1・F2を同期できる。
【0070】
これによれば、制御システム1は、高周波領域で各加振部30・40の加振力F1・F2を互いに同期でき、動力損失が発生することなく供試体Wを加振できる(図3に示す加振装置10の加振力Fの位相T参照)。
【0071】
前述のように、動電制御部6では、駆動電圧値eに対して逆起電圧Ebが作用する(上記式(3)参照)。
すなわち、動電制御部6は、逆起電圧Eb(つまり、供試体Wに対する負荷)によって駆動電圧値eから駆動電流値iまでの伝達特性が変化する。
【0072】
仮に、フィードフォワード部5にて、逆起電圧Ebを考慮しなかった場合、逆起電圧Ebが作用する分だけ動電式加振部40の加振力F2が低下し、その位相T2もずれてしまう。
すなわち、図5に示すように、動電式加振部40の加振力F2の位相T2において、その振幅が所望の振幅よりも小さくなってしまう(図5に二点鎖線で示す動電式加振部40の加振力F2の位相T2参照)。また、油圧式加振部30の加振力F1の位相T1に対して、動電式加振部40の加振力F2の位相T2が所定時間だけずれてしまう。
【0073】
つまり、本実施形態のように差圧PLに対応する駆動電圧値eを動電制御部6にフィードフォワードする場合、制御システム1は、予め逆起電圧Ebの影響度合いを考慮した駆動電圧値eを動電制御部6に入力する必要がある。
【0074】
図2に示すように、フィードバック部7は、逆起電圧Ebによる駆動電圧値eの変動を補正するためのものである。
制御システム1は、既存の加速度センサにより供試体Wの加速度aを測定し、測定した加速度aをフィードバック部7に入力する。
【0075】
フィードバック部7は、供試体Wの加速度aを時間で積分して速度を算出する(図2に示す1/S参照)。
そして、フィードバック部7は、駆動コイル43の長さlと磁束密度Bと算出した速度との積より、逆起電圧Ebの大きさを算出する(図2のフィードバック部7の内側に示すΨ参照)。算出結果は、フィードフォワード部5の出力値である駆動電圧値eに合算される。
【0076】
このように、フィードバック部7は、供試体Wを加振するときに動電式加振部40で発生する逆起電圧Ebの大きさを、供試体Wの加速度aに基づいて算出する。
そして、フィードバック部7は、算出した逆起電圧Ebを駆動コイル43への駆動電圧値eにフィードバックする。
【0077】
このようにしてフィードバック部7は、逆起電圧Ebによる駆動電圧値eの変動を補正する。つまり、フィードバック部7は、駆動電圧値eに作用する逆起電圧Ebの影響を打ち消す。
このような逆起電圧Ebのフィードバック制御を行うことで、上記式(3)は、以下の式(4)に変形できる。
e=L×di/dt+R×i・・・(4)
【0078】
上記式(4)から明らかなように、逆起電圧Ebのフィードバック制御を行うことで、フィードフォワード部5では、逆起電圧Ebの影響を考慮する必要がなくなる。
【0079】
従って、フィードフォワード部5では、上記式(4)に基づいて駆動電流値iに対応する駆動電圧値eを算出すればよい。つまり、フィードフォワード部5では、上記式(4)の逆伝達関数を計算する。
【0080】
これによれば、動電制御部6は、差圧PLに対応する駆動電流値i(フィードフォワード部5の入力値である駆動電流値i)と同一の大きさの駆動電流値i(動電制御部6の出力値である駆動電流値i)を、駆動コイル43に供給できる。
【0081】
従って、制御システム1は、所望の加振力F2で供試体Wを加振するように、動電式加振部40の動作を制御できる。つまり、図3に示すように、動電式加振部40の加振力F2の位相T2において、所望の振幅を設定できる。
また、油圧式加振部30の加振力F1の位相T1に対する動電式加振部40の加振力F2の位相T2のずれを小さくできる。
【0082】
なお、制御システム1は、駆動電圧値eを油圧式加振部30の指令信号とするのではなく、本実施形態のように、差圧PLを動電式加振部40の指令信号とすることが好ましい。
これは、動電式加振部40の応答性が油圧式加振部30の応答性よりも高い点、および、動電式加振部40が線形性を持っている(つまり、駆動電流値iを変えるだけで確実に所望の加振力F2となる)点に起因する。
【0083】
つまり、差圧PLを動電式加振部40の指令信号とすることで、制御システム1の構成をより簡素にできるとともに、各加振部30・40の加振力F1・F2の位相差をより小さくできる。
【0084】
また、動電式加振部40は、エネルギー効率をより向上できるという観点から、その加振力F2の大きさに応じて励磁電流値を段階的に切り替える構成であることが好ましい。
仮に、励磁電流値を変更した場合、磁束密度Bの大きさが変わる。この場合、変えた磁束密度Bの分だけ駆動電流値iも変更する必要がある(上記式(2)参照)。
【0085】
このような場合においても、制御システム1によれば、フィードフォワード部5にて変わった磁束密度Bで駆動電圧値eを算出できる。つまり、動電式加振部40の加振力F2の大きさに応じて励磁電流値を切り替える構成であっても、制御システム1にて加振装置10の動作を制御できる。
従って、制御システム1によって動作を制御される加振装置10のエネルギー効率をより向上できる。
【0086】
ここで、従来技術においては、流体圧式および動電式の加振装置のそれぞれで、加速度等を測定する必要がある。従って、供試体Wに対して二つの入力点を持つこととなる。
この場合、供試体Wの特性(例えば、質量やバネ定数等)の影響で、各入力点でそれぞれどれだけの加速度や変位量を与えているか管理できない。
【0087】
一方、本実施形態の制御システム1では、各加振部30・40の加振力F1・F2を同期させるために、各加振部30・40のそれぞれで加速度等を測定する必要はない。
【0088】
従って、制御システム1によって動作を制御される加振装置10は、各加振部30・40から供試体Wへの入力点を一つにできる。つまり、一つの振動板20に載置される供試体Wを加振する構成にできる(図6参照)。
これによれば、供試体Wの特性を考慮して(具体的には、入力点から出力点までの伝達関数の逆伝達関数により)、所望の振動を供試体Wに与えることができる。
【0089】
なお、周波数領域が低い場合、制御システム1は、駆動コイル43の駆動電流値iをフィードバックして、差圧PLに対応する駆動電流値iと比較しても構わない。
【0090】
仮に、フィードバックした駆動電流値iが、差圧PLに対応する駆動電流値iと比較して差異がある場合、制御システム1は、この差異を考慮してフィードフォワード部5にて駆動電圧値eを再計算する。
このように構成することで、各加振部30・40の加振力F1・F2の位相差をより小さくできる。
【符号の説明】
【0091】
1 制御システム
3 動力同期制御部
4 変換部
5 フィードフォワード部
7 フィードバック部
10 加振装置
20 振動板
30 油圧式加振部(流体圧式加振部)
40 動電式加振部
40a 磁界
43 駆動コイル
e 駆動電圧値
i 駆動電流値
PL 差圧
T1 油圧式加振部の加振力の位相
T2 動電式加振部の加振力の位相
W 供試体
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8