【実施例】
【0012】
<1>全体構成
図1、2を参照する。
本発明に係る浮き型地下ダムAは、地中の淡水レンズのうち少なくとも一部を平面的に閉合するように設けた遮水壁からなる。
そして、前記遮水壁のうち、平面視して陸地Bの
海岸側にある遮水壁の深度を、陸地Bの
内陸側から海岸側へと伸びる遮水壁の深度よりも浅くして構成することを必須とするものである。
【0013】
[遮水壁の構築方法]
遮水壁は、薬液注入工法、その他の公知の方法で構築する。
【0014】
[遮水壁の分類]
前記の遮水壁のうち「陸地の
内陸側から海岸側へと伸びる遮水壁」を「第一遮水壁1」、「陸地の
海岸側にある遮水壁の深度」を「第二遮水壁2」と定義して、詳細を説明する。
【0015】
<2>第一遮水壁
第一遮水壁1は、平面視して、
島の陸地の
海岸側から内陸側を経由して再度
海岸側に折り返すように連続する一つ以上の辺、
すなわち、少なくとも、島の内陸側から海岸側へと伸びる辺を二辺含んでなる遮水壁を指す。
【0016】
[形状例]
図1に示す第一遮水壁1は、平面視して略Λ字形状を呈するタイプである。より詳細に説明すると、陸地Bの
内陸側のある一点から、角度を設けて
海岸側に放射状に延伸した二辺の遮水壁11,12で構成し、各遮水壁の一端を解放したタイプである。
【0017】
なお、第一遮水壁1を構成する各辺が、地下の流線B1を遮らないような軌跡であることが望ましい。
図1に示すように、地下の流線は、平面視して陸地Bの
内陸側(中央側)から
海岸側(海側)へと放射状に延伸していることが一般的であるため、島の中央近傍から
海岸側へ拡がるように第一遮水壁1を構築する態様が、流線B1を阻害しにくい点で有益である。
【0018】
[形状例]
その他、第一遮水壁1は、平面視して略コ字形状を呈するように構築しても良い。より詳細に説明すると、陸地Bの
内陸側に設けた一辺の遮水壁と、当該一辺の遮水壁の両端から
海岸側に延伸した二辺の遮水壁とで構成し、該二辺の遮水壁の一端を解放するよう構成することができる。なお、前記一辺の遮水壁と、二辺の遮水壁の各辺との間の角度は必ずしも直角である必要は無く、地下の流線B1の遮断が過剰にならない程度に拡縮することができる。
その他、第一遮水壁1は、四辺以上の多辺形状を呈するタイプや、円弧を描くタイプであってもよい。
【0019】
<3>第二遮水壁
第二遮水壁2は、前記第一遮水壁1の両端間を繋ぐ遮水壁を指す。
【0020】
[形状例]
前記第一遮水壁1の両端間を繋ぐ方法としては、直線状に繋いでも良いし、曲線で繋いでも良いし、それらの組合せで繋いでも良い。
【0021】
[深度]
図2に示すように、第二遮水壁2は、第一遮水壁1よりも深度を浅く構築する。
これは、湧昇流Cの発生を第二遮水壁2の近傍に誘導し、第一遮水壁1の近傍での湧昇流Cの発生を抑制するためである。
【0022】
なお、本発明は、第二遮水壁2のうち一部の深度を前記第一遮水壁1より浅くした構成であってもよい。
また、第二遮水壁2の深度が一定であることを必須とするものでもない。
【0023】
<4>シミュレーション結果
従来の浮き型地下ダム、並びに、本発明の構造を呈する浮き型地下ダムによる、淡水レンズの態様をシミュレーションした結果を以下に示す。
本実験は三次元数値シミュレーション(解析CODE:TOUGH2−EOS7)を用い、一定期間経過後の塩淡境界(塩水混入率:50%)を示すものである。
【0024】
<4−1>従来の浮き型地下ダム
図3は、浮き型地下ダムの構築前の状態を示す図である。
図4は、遮水壁の深度を均一とした従来の浮き型地下ダムを島の中央に構築した場合の状態を示す図である。
図5は、前記した従来の浮き型地下ダム
を構築した場合の状態を示す図である。
図3と比較した場合、
図4,5ともに、遮水壁の全周で湧昇流が発生することにより、既存の淡水レンズの厚さが大きく減少する結果となった。
【0025】
<4−2>本発明の浮き型地下ダム(矩形形状)
図6は、本発明の浮き型地下ダム(矩形形状)
を構築した場合の状態を示す図である。
この場合、湧昇流の発生は、島の
海岸側(第二遮水壁2側)に限定されたため、島中央側の淡水レンズの厚さは、構築前の状態(
図3)をほぼ維持できている。
【0026】
<4−3>本発明の浮き型地下ダム(三角形状)
図7は、本発明の浮き型地下ダム(三角形状)
を構築した場合の状態を示す図である。
この場合も、
湧昇流の発生は、島の
海岸側(第二遮水壁2側)に限定されるため、島中央側の淡水レンズの厚さは、構築前の状態(
図3)をほぼ維持できている。
さらに、
図6に係る矩形形状の浮き型地下ダムと比較した場合、
島の内陸側から海岸側へと伸びる第一遮水壁1の近傍でも、淡水レンズの厚さは、さらに構築前の状態(
図3)を維持する結果となった。
【0027】
以上説明した通り、島の
海岸側の遮水壁をその他の遮水壁よりも深度を浅くすることにより、従来の深度が均一な遮水壁で構成した浮き型地下ダムよりも、淡水レンズの厚さに悪影響を与えずに、淡水貯水量を増大させることが確認できた。
また、浮き型地下ダムを構成する遮水壁の平面形状を、島の
内陸側から海岸側に向けて順次拡げたような形状(略三角形状又は略扇型形状)とした場合、島の地下の流線を遮るおそれが低減するため、より淡水貯水量の増大・確保が期待できることが確認できた。