【実施例】
【0070】
以下に、実施例および比較例によって本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。
【0071】
実施例および比較例において用いた塩基性陰イオン交換樹脂の中性塩分解容量および総交換容量の測定方法を以下に示す。
【0072】
(i)強塩基性陰イオン交換樹脂の中性塩分解容量、総交換容量の測定
後述する比較例で用いた強塩基性陰イオン交換樹脂デュオライトA113LFおよびデュオライトA116LFの中性塩分解容量、総交換容量は以下の方法により決定した。
【0073】
<中性塩分解容量の測定>
塩基性陰イオン交換樹脂を約60mlはかりカラムに充填した。2mol/L NaOH 1LをSV=8(2時間)で通液した後、イオン交換水 1L をSV=8(2時間)で通液し、続いて流出水が中性付近(pH=<8)になるまで水洗を続けた。
【0074】
5%NaCl 1.5LをSV=16(1.5時間)で通液し、流出水全量をビーカーに受け、イオン交換水を加えて全量を2.0Lに調整した。
【0075】
イオン交換水0.4LをSV=16(0.33時間)で通液し、その後、カラムから塩基性陰イオン交換樹脂を取り出した。取り出した塩基性陰イオン交換樹脂と水とをメスシリンダーに入れ、バイブレータを用いて1分間振動を与えた後の塩基性陰イオン交換樹脂の体積を測定し、この体積を最小体積量Vとした。
【0076】
全量を2.0Lに調整した前記流出水から、100mlをはかり取り、1mol/L HClで中和滴定し、下記式(1)により、中性塩分解容量を計算した。なお、式(1)中、N1=HClの濃度(単位:mol/L)であり、V1=滴定量(単位:ml)である。また、RはCl型の湿潤樹脂を表す。
【0077】
中性塩分解容量(単位:eq/L−R)
=(N1×(V1×2000/100))/V ・・・式(1)
<総交換容量の測定>
次に、中性塩分解容量を測定後の塩基性陰イオン交換樹脂をカラムに充填した。0.1mol/L HCl 400mlをSV=12(0.5時間)で通液し、流出水全量をビーカーに受けとった。このときの、HClの濃度(0.1mol/L)をN2とし、使用量をV2とする。
【0078】
イオン交換水0.1LをSV=16(0.1時間)で通液し、流出水を上記のビーカーに受け、イオン交換水を加えて全量を0.6Lに調整した。カラムから塩基性陰イオン交換樹脂を取り出し、塩基性陰イオン交換樹脂と水をメスシリンダーに入れて最小体積量V0を測定した。
【0079】
全量を0.6Lに調整した前記流出水から100mlをはかり取り、1mol/L NaOHで中和滴定し、下記式(2)により、弱塩基容量を計算した。なお、式(2)中、N3=NaOHの濃度(単位:1mol/L)であり、V3=滴定量(単位:ml)である。
【0080】
弱塩基容量(単位:eq/L−R)
=(N2×V2−(N3×V3×600/100))/V0 ・・・式(2)
また下記式(3)により、総交換容量を計算した。
【0081】
総交換容量=中性塩分解容量+弱塩基容量 ・・・式(3)
なお、中和滴定は、平沼製のCOMTIT 500を用い、電極GE−101およびRE−201を用い、終点をpH=7.0として行った。
【0082】
(ii)弱塩基性陰イオン交換樹脂の中性塩分解容量、総交換容量の測定
以下の実施例で用いた弱塩基性陰イオン交換樹脂であるスミキレートMC300およびピュロライトA870の中性塩分解容量、総交換容量は以下の方法により決定した。
【0083】
<中性塩分解容量の測定>
上記(i)と同様にして、中性塩分解容量の測定を行った。
【0084】
<総交換容量の測定>
弱塩基性陰イオン交換樹脂を約60mlはかりカラムに充填した。2mol/L NaOH 0.2LをSV=7(0.5時間)で通液した後、イオン交換水0.6LをSV=15(0.7時間)で通液し、続いて流出水pHが8〜9になるまで水洗を続けた。
【0085】
カラムから弱塩基性陰イオン交換樹脂を取り出し、弱塩基性陰イオン交換樹脂と水とをメスシリンダーに入れ、バイブレータを用いて1分間振動を与えた後の塩基性陰イオン交換樹脂の体積を測定し、この体積を最小体積量Vとした。
【0086】
0.1mol/L HCl 1.5LをSV=12(2時間)で通液し、流出水全量をビーカーに受けた。このときの、HClの濃度(0.1mol/L)をN1とし、使用量をV1とする。
【0087】
エタノール0.1L をSV=6(0.2時間)で通液し、流出水全量を上記のビーカーに受け、全量をイオン交換水を加えて2.0Lに調整した。
【0088】
全量を2.0Lに調整した前記流出水から、100mlをはかり取り、1 mol/L NaOHで中和滴定し、下式(4)により総交換容量を計算した。なお、式(4)中、N1=NaOHの濃度(単位:1mol/L)であり、V2=滴定量(単位:ml)である。
【0089】
総交換容量(eq/L−R)
=(N1×V1−(N2×V2×2000/100))/V ・・・(4)
なお、中和滴定は、平沼製のCOMTIT 500を用い、電極GE−101およびRE−201を用い、終点をpH=7.0として行った。
【0090】
〔実施例1:1当量硫酸で脱離後の吸着試験による原液中の過塩素酸イオン濃度低下率の検討〕
スチレン系の弱塩基性陰イオン交換樹脂であるスミキレートMC300(販売元:住化ケムテックス株式会社)を用い、過塩素酸イオン含有液のバッチ吸着脱離試験を行った。なお、スミキレートMC300の総交換容量は1.4eq/L−R、中性塩分解容量は0.09eq/L−R、総交換容量に対する中性塩分解容量の割合は6.4%であった。
【0091】
まず、10重量%H
2SO
4にて、スミキレートMC300をSO
4型に調整した。SO
4型に調整した樹脂0.2mLと、過塩素酸イオン含有液(過塩素酸イオン濃度:424mg/L、pH:9.2)50mLとを、100mLの容器に入れ、室温(20〜25℃)にて20時間振とうし、樹脂に過塩素酸イオンを吸着させた。
【0092】
この100mLの容器から、樹脂を取り出し、イオン交換水10mLにて水洗した。次に50mLの容器に、水洗した樹脂と、0.5mol/LのH
2SO
4水溶液20mLとを入れ、室温(20〜25℃)にて20時間振とうした。この50mLの容器から樹脂を取り出しイオン交換水100mLで水洗した。
【0093】
水洗した樹脂を100mLの容器に入れ、過塩素酸イオン含有液(過塩素酸イオン濃度:424mg/L、pH:9.2)50mLを加え、室温(20〜25℃)にて20時間振とうし、樹脂に過塩素酸イオンを吸着させた。その後、当該容器中の上澄み液中の過塩素酸イオン濃度を測定し、原液からの過塩素酸イオン濃度低下率を求めた。原液からの過塩素酸イオン濃度低下率は21%であった。かかる結果より、前記弱塩基性陰イオン交換樹脂に吸着された過塩素酸イオンは、硫酸と接触させることで脱離することが判った。表1に、弱塩基性陰イオン交換樹脂に吸着された過塩素酸イオンの酸との接触による脱離の状況を示す。表1中、弱塩基性陰イオン交換樹脂に吸着された過塩素酸イオンが酸との接触により脱離する場合を「○」、弱塩基性陰イオン交換樹脂に吸着された過塩素酸イオンが酸との接触により非常によく脱離する場合を「◎」で示す。
【0094】
【表1】
【0095】
〔実施例2:2当量硫酸で脱離後の吸着試験による原液中の過塩素酸イオン濃度低下率の検討〕
脱離剤として、1mol/LのH
2SO
4水溶液を用いた以外は実施例1と同様にして過塩素酸イオン含有液のバッチ吸着脱離試験を行った。
【0096】
原液からの過塩素酸イオン濃度低下率は43%であった。よく脱離出来たと判定し結果を表1に示す。
【0097】
〔実施例3:4当量塩酸で脱離後の吸着試験による原液中の過塩素酸イオン濃度低下率の検討〕
脱離剤として、4mol/Lの塩酸水溶液を用いた以外は実施例1と同様にして過塩素酸イオン含有液のバッチ吸着脱離試験を行った。
【0098】
原液からの過塩素酸イオン濃度低下率は52%であった。よく脱離出来たと判定し結果を表1に示す。
【0099】
〔実施例4:過塩素酸イオン含有液の通液吸着と脱離リサイクル試験〕
スミキレートMC300(販売元:住化ケムテックス株式会社)を用い、過塩素酸イオン含有液の通液吸着脱離試験を繰り返し行った。
【0100】
まず、外筒付のカラム(内径6mm、高さ500mm)に、MC300(フリー型)10mLを充填した。
【0101】
<1サイクル目の通液吸着脱離試験>
過塩素酸イオン含有液(過塩素酸イオン濃度:180mg/L、pH:8.1)を、下向流SV=5、室温(20〜25℃)でブレークするまで通液した(吸着工程)。通液した過塩素酸イオン含有液中の過塩素酸イオンの全負荷量と、カラムを通過した過塩素酸イオン含有液中の過塩素酸イオンの量(リーク量)とから、樹脂への過塩素酸イオンの吸着量を求めた。
【0102】
過塩素酸イオン吸着後のカラムに、50℃の20重量%H
2SO
4を、上向流SV=2にて10BV流した(脱離工程)。なお、ここで「BV」は、樹脂量に対して通液された原水の流量倍数である。
【0103】
続いて、20重量%H
2SO
4通液後のカラムに、イオン交換水を、下向流SV=10、室温(20〜25℃)で10BV通液し水洗した。
【0104】
<通液吸着脱離試験の繰り返し>
水洗された樹脂を使用して、上記1サイクル目の通液吸着脱離試験と同様の通液吸着脱離試験を5サイクル目まで繰り返し行った。また、上記1サイクル目の樹脂への過塩素酸イオンの吸着量に対する、各サイクルにおける吸着量の割合を、吸着量の保持率として算出した。結果を表2に示す。3サイクル目、5サイクル目の吸着量は同等であり、10サイクル行っても吸着量は保持されると予想される。
【0105】
【表2】
【0106】
〔実施例5:過塩素酸イオン含有液の通液吸着と脱離リサイクル試験〕
弱塩基性陰イオン交換樹脂として、ピュロライト社のピュロライトA870を用い、過塩素酸イオン含有液の過塩素酸イオン濃度が118mg/Lであった以外は実施例4と同様にして、過塩素酸イオン含有液の通液吸着脱離試験を行った。なお、ピュロライトA870の総交換容量は1.2eq/L、中性塩分解容量は0.44eq/L、総交換容量に対する中性塩分解容量の割合は36.7%であった。結果を表2に示す。4サイクル目、5サイクル目の吸着量は同等であり、10サイクル行っても吸着量は保持されると予想される。
【0107】
〔実施例6〕
弱塩基性陰イオン交換樹脂である、ランクセス社のレバチットMP62の総交換容量は1.6eq/L−R、中性塩分解容量は0.05eq/L−R、総交換容量に対する中性塩分解容量の割合は3.1%であった。この樹脂を用いて、過塩素酸イオン含有液のバッチ吸着試験を行ったところ、除去率は25%であった。なお、バッチ吸着試験は、過塩素酸イオン濃度が174mg/Lの過塩素酸イオン含有液50mlにOH型のレバチットMP62を添加して室温で20時間振とうすることにより行った。総交換容量に対する中性塩分解容量の割合は3.1%で、除去率が25%であったことから、この樹脂を用いて実施例4と同様の処理を10サイクル繰り返しても吸着量は保持されると予想される。
【0108】
〔実施例7〕
弱塩基性陰イオン交換樹脂である、ランクセス社のレバチットMP64の総交換容量は1.3eq/L−R、中性塩分解容量は0.18eq/L−R、総交換容量に対する中性塩分解容量の割合は13.8%であった。この樹脂を用いて、実施例6と同様にして過塩素酸イオン含有液のバッチ吸着試験を行ったところ、除去率は29%であった。総交換容量に対する中性塩分解容量の割合は13.8%で、除去率が29%であったことから、この樹脂を用いて実施例4と同様の処理を10サイクル繰り返しても吸着量は保持されると予想される。
【0109】
〔比較例1:過塩素酸イオン含有液の通液吸着と脱離リサイクル試験〕
塩基性陰イオン交換樹脂として、強塩基性陰イオン交換樹脂であるデュオライト(登録商標)A113LF(販売元:住化ケムテックス株式会社)を用いた以外は実施例4と同様にして、過塩素酸イオン含有液の通液吸着脱離試験を行った。なお、デュオライトA113LFの総交換容量は1.2eq/L−R、中性塩分解容量は1.2eq/L−R、総交換容量に対する中性塩分解容量の割合は100%であった。結果を表2に示す。
【0110】
〔比較例2:過塩素酸イオン含有液の通液吸着と脱離リサイクル試験〕
塩基性陰イオン交換樹脂として、強塩基性陰イオン交換樹脂であるデュオライト(登録商標)A116LF(販売元:住化ケムテックス株式会社)を用いた以外は実施例4と同様にして、過塩素酸イオン含有液の通液吸着脱離試験を行った。なお、デュオライトA116LFの総交換容量は1.3eq/L−R、中性塩分解容量は1.3eq/L−R、総交換容量に対する中性塩分解容量の割合は100%であった。結果を表2に示す。
【0111】
表2中、「吸着量の保持率」とは、上記方法で算出された1サイクル目の吸着量に対する保持率であり、表2に示されるように、デュオライトA113LFとA116LFにおいては、1サイクル目から5サイクル目と繰り返し使用するにつれて、吸着量が急激に減少し続けることが判る。これに比べ、スミキレートMC300では、3サイクル目からは吸着量の減少は殆どなく、5サイクル目においても吸着量の保持率は70%を超えていた。かかる結果から、スミキレートMC300ではデュオライトA113LFやA116LFと比較して吸着量が顕著に高く維持されることが判る。また、ピュロライトA870においては、吸着量が減少する傾向が、4サイクル目で止まることが判った。
【0112】
さらに、スミキレートMC300を用い、より大きなスケールで行った通液吸着脱離試験の結果でも、一日一回の脱離工程を行い、5ヶ月後でも、過塩素酸イオンの吸着量が大きく変化しないことが確認された。
【0113】
〔実施例8:実機における過塩素酸イオン含有液の過塩素酸除去確認〕
スミキレートMC300(販売元:住化ケムテックス株式会社)を実機に1500L充填し、向流再生方式による過塩素酸イオン含有液の通液吸着脱離試験を繰り返し行った。脱離工程は一日一回行い、過塩素酸イオン含有液の過塩素酸イオン濃度は100〜250mg/L、pHは8.5〜9.5であった。
【0114】
カラムを通過した過塩素酸イオン含有液中の過塩素酸イオンの濃度(以下、出口濃度と称する)を確認しながら、定体積処理による吸着脱離試験を繰り返し行った。脱離剤として23重量%のH
2SO
4を用い、50℃で脱離を行った。出口濃度は5ヶ月間は、0.1mg/L未満で定常状態を示したが、6ヶ月後に過塩素酸イオンの出口濃度が2mg/Lに上昇した。
【0115】
そこで、再生条件を変更し、一回だけ、29重量%、H
2SO
4、55℃で脱離を行ったところ、吸着工程での過塩素酸イオンの出口濃度は0.1mg/L未満の定常状態に復帰した。
【0116】
〔実施例9:低濃度過塩素酸イオン含有液の過塩素酸除去試験〕
スミキレートMC300を用い、過塩素酸イオン含有液中の過塩素酸イオンが低濃度の場合における、過塩素酸イオンの除去について検討を行った。
【0117】
まず、外筒付のカラム(内径9mm、高さ1500mm)にスミキレートMC300(フリー型)80mLを充填した。
【0118】
H
2SO
4(2.5mol/L)を、50℃にて10BV通液した。通液後、イオン交換水を、下向流SV=2、室温(20〜25℃)にて2BV通液し、さらに、イオン交換水を、下向流SV=10、室温(20〜25℃)にて10BV通液し水洗した。
【0119】
大阪市の水道水に過塩素酸ナトリウムを添加し、過塩素酸イオン濃度を110μg/L、pHを7.78に調製した原水を、水洗後のカラムに、下向流SV=2、室温(20〜25℃)で通液した。通液水をサンプリングし、過塩素酸イオン濃度を測定した。
【0120】
結果を表3に示す。表3に示されるように、通液水中の過塩素酸イオン濃度は、最大でも10μg/Lまで除去される。このように、過塩素酸イオン含有液中の過塩素酸イオンが、100μg/L程度の低濃度の場合においても、本発明の処理方法によれば、過塩素酸イオンを好適に除去できることがわかる。
【0121】
【表3】
【0122】
〔実施例10:過塩素酸イオン含有液の通液吸着脱離試験〕
スミキレートMC300を用い、過塩素酸イオン含有液の通液吸着脱離試験を行うにあたり、脱離工程の通液方法の検討を行った。
【0123】
まず、カラム(内径6.5cm、高さ70cm)にスミキレートMC300(フリー型)1.8Lを充填した。
【0124】
<1サイクル目の通液吸着脱離試験>
過塩素酸イオン含有液(過塩素酸イオン濃度:113mg/L、pH:約9)を、下向流SV=6、室温(20〜25℃)で完全ブレークするまで通液した(吸着工程)。通液水を適宜サンプリングし、過塩素酸イオン濃度を分析した。結果を
図2の左側のグラフに示す。
【0125】
過塩素酸イオン吸着後のカラムに、約29重量%H
2SO
4を、上向流と、下向流との異なる2種類の通液方法で、SV=2、70℃にて10BV通液した(脱離工程)。続いて、29重量%H
2SO
4通液後のカラムに、イオン交換水を下向流SV=2、室温(20〜25℃)で2BV通液し水洗した。
【0126】
<2サイクル目の通液試験>
2種類の通液方法で行った脱離工程後、上記1サイクル目の通液吸着脱離試験と同様に、過塩素酸イオン含有液を通液した。通液水を適宜サンプリングし、過塩素酸イオン濃度を分析した結果を
図2の右側のグラフに示す。
図2の右側のグラフに示されるように、上向流で脱離したときの方が、下向流に比べ、過塩素酸イオン濃度が低く、上向流で脱離することがより好ましいことが判る。