特許第5718801号(P5718801)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許5718801温度分布推定装置、温度分布推定方法およびシミュレーション装置、
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5718801
(24)【登録日】2015年3月27日
(45)【発行日】2015年5月13日
(54)【発明の名称】温度分布推定装置、温度分布推定方法およびシミュレーション装置、
(51)【国際特許分類】
   C23C 16/02 20060101AFI20150423BHJP
   H05H 1/00 20060101ALI20150423BHJP
   C23C 16/46 20060101ALI20150423BHJP
   C23C 16/52 20060101ALI20150423BHJP
   C23C 14/02 20060101ALI20150423BHJP
   H05H 1/46 20060101ALI20150423BHJP
【FI】
   C23C16/02
   H05H1/00 A
   C23C16/46
   C23C16/52
   C23C14/02
   H05H1/46 R
【請求項の数】4
【全頁数】15
(21)【出願番号】特願2011-266026(P2011-266026)
(22)【出願日】2011年12月5日
(65)【公開番号】特開2013-117059(P2013-117059A)
(43)【公開日】2013年6月13日
【審査請求日】2014年1月27日
(73)【特許権者】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000003609
【氏名又は名称】株式会社豊田中央研究所
(74)【代理人】
【識別番号】110000028
【氏名又は名称】特許業務法人明成国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】冨安 城司
(72)【発明者】
【氏名】井田 敦巳
(72)【発明者】
【氏名】小泉 雅史
(72)【発明者】
【氏名】中西 和之
(72)【発明者】
【氏名】伊関 崇
【審査官】 若土 雅之
(56)【参考文献】
【文献】 特開2006−186147(JP,A)
【文献】 特開2002−373889(JP,A)
【文献】 特開2000−169969(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C23C 16/00−16/56
C23C 14/00−14/58
H05H 1/00
H05H 1/46
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
イオンガス中の物体の発熱に基づいて、前記イオンガス中の所定領域の温度の分布を推定する温度分布推定装置であって、
前記所定領域の各位置における電位の分布を算出する電位分布算出部と、前記所定領域の各位置におけるイオンの速度の分布を算出するイオン速度分布算出部と、前記所定領域の各位置におけるイオンの密度の分布を算出するイオン密度分布算出部と、を有する装置によって算出された、前記所定領域の各位置における電位のデータとイオンの速度のデータとイオンの密度のデータとを取得し、
前記取得した各イオンの密度に基づいて、前記所定領域の各位置に存在するイオンが単位時間当たりに前記物体に衝突する数である衝突イオン数を算出する衝突イオン数算出部と、
前記取得した各イオンの速度のデータを用いて算出した前記各イオンの運動エネルギと、前記取得した各電位のデータを用いて算出した前記各イオンの電位エネルギとに基づいて、前記各イオンが前記物体に衝突した際に該物体に与えるエネルギである衝突エネルギを算出する衝突エネルギ算出部と、
前記取得した各イオンの速度のデータに基づいて、前記所定領域の各位置に存在するイオンが単位時間当たりに前記物体に衝突する頻度である衝突頻度を算出する衝突頻度算出部と、
前記衝突イオン数と前記衝突エネルギと前記衝突頻度とに基づいて、前記イオンの衝突による前記物体の発熱量の分布を算出することにより、前記所定領域の温度の分布を算出する温度分布算出部と、
前記算出した温度の分布を外部に出力する外部出力部と
を備える温度分布推定装置。
【請求項2】
請求項1記載の温度分布推定装置であって、さらに、
前記外部出力部が出力した前記温度の分布を視認可能に表示する表示部を備える
温度分布推定装置。
【請求項3】
イオンガス中の物体の発熱に基づいて、前記イオンガス中の所定領域の温度の分布を推定する温度分布推定方法であって、
前記所定領域の各位置において電位の分布を有する前記各位置における電位のデータを取得し、
前記所定領域の各位置においてイオンの速度の分布を有する前記各位置におけるイオンの速度のデータを取得し、
前記所定領域の各位置においてイオンの密度の分布を有する前記各位置におけるイオンの密度のデータを取得し、
前記取得した各イオンの密度に基づいて、前記所定領域の各位置に存在するイオンが単位時間当たりに前記物体に衝突する数である衝突イオン数を算出し、
前記取得した各イオンの速度のデータを用いて算出した前記各イオンの運動エネルギと、前記取得した各電位のデータを用いて算出した前記各イオンの電位エネルギとに基づいて、前記各イオンが前記物体に衝突した際に該物体に与えるエネルギである衝突エネルギを算出し、
前記取得した各イオンの速度のデータに基づいて、前記所定領域の各位置に存在するイオンが単位時間当たりに前記物体に衝突する頻度である衝突頻度を算出し、
前記衝突イオン数と前記衝突エネルギと前記衝突頻度とに基づいて、前記イオンの衝突による前記物体の発熱量の分布を算出することにより、前記所定領域の温度の分布を算出し、
前記算出した温度の分布を外部に出力する温度分布推定方法。
【請求項4】
イオンガス中の物体の発熱に基づいて、前記イオンガス中の所定領域の温度の分布をシミュレーションするシミュレーション装置であって、
前記所定領域の各位置における電位の分布を算出する電位分布算出部と、前記所定領域の各位置におけるイオンの速度の分布を算出するイオン速度分布算出部と、前記所定領域の各位置におけるイオンの密度の分布を算出するイオン密度分布算出部と、前記所定領域の各位置におけるイオンの密度に基づいて、前記所定領域の各位置に存在するイオンが単位時間当たりに前記物体に衝突する数である衝突イオン数を算出する衝突イオン数算出部と、前記所定領域の各位置におけるイオンの速度のデータを用いて算出した各イオンの運動エネルギと、前記所定領域の各位置における電位を用いて算出した前記各イオンの電位エネルギとに基づいて、前記各イオンが前記物体に衝突した際に該物体に与えるエネルギである衝突エネルギを算出する衝突エネルギ算出部と、前記所定領域の各位置におけるイオンの速度のデータに基づいて、前記所定領域の各位置に存在するイオンが単位時間当たりに前記物体に衝突する頻度である衝突頻度を算出する衝突頻度算出部と、を有する装置によって算出された、前記所定領域の各位置における前記衝突イオン数と前記衝突エネルギと前記衝突頻度とを取得し、
前記衝突イオン数と前記衝突エネルギと前記衝突頻度とに基づいて、前記イオンの衝突による前記物体の発熱量の分布を算出することにより、前記所定領域の温度の分布を算出する温度分布算出部と、
前記算出した温度の分布を外部に出力する外部出力部と
を備えるシミュレーション装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、イオンガス中の物体の発熱に基づいて、所定領域の温度の分布を推定する技術に関するものである。
【背景技術】
【0002】
イオンガス中の基材にイオンを衝突させることによって基材温度を制御する技術が知られている。例えば、ボンバード効果を利用した技術を挙げることができる。これは、イオンガス中の基材にイオンを衝突させることにより基材温度を制御したり、基材表面の不純物の除去を行ったりする技術である。この技術は、例えば、プラズマCVD方式を用いて所定の基材に薄膜を成膜する前に、アルゴンイオンから成るイオンガスを基材に衝突させ、基材温度の制御を行う成膜方法において用いられる(例えば、下記特許文献1)。
【0003】
しかし、これまでイオン衝突に起因した物体の発熱による温度を予測する手段がなかったため、イオンガスを封入する領域の形状、基材の形状、イオンガスの流量、領域内における基材の設置場所などの設備所条件や処理条件が基材温度に与える影響を捉えることができず、これら設備条件や処理条件の最適化を行うことができなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2004−277800号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、上述した従来の課題を解決するためになされたものであり、イオン衝突に起因した物体の発熱による温度を予測することのできる技術を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、上述の課題の少なくとも一部を解決するために、以下の形態または適用例を取ることが可能である。
[形態1]
イオンガス中の物体の発熱に基づいて、前記イオンガス中の所定領域の温度の分布を推定する温度分布推定装置であって、
前記所定領域の各位置における電位の分布を算出する電位分布算出部と、前記所定領域の各位置におけるイオンの速度の分布を算出するイオン速度分布算出部と、前記所定領域の各位置におけるイオンの密度の分布を算出するイオン密度分布算出部と、を有する装置によって算出された、前記所定領域の各位置における電位のデータとイオンの速度のデータとイオンの密度のデータとを取得し、
前記取得した各イオンの密度に基づいて、前記所定領域の各位置に存在するイオンが単位時間当たりに前記物体に衝突する数である衝突イオン数を算出する衝突イオン数算出部と、
前記取得した各イオンの速度のデータを用いて算出した前記各イオンの運動エネルギと、前記取得した各電位のデータを用いて算出した前記各イオンの電位エネルギとに基づいて、前記各イオンが前記物体に衝突した際に該物体に与えるエネルギである衝突エネルギを算出する衝突エネルギ算出部と、
前記取得した各イオンの速度のデータに基づいて、前記所定領域の各位置に存在するイオンが単位時間当たりに前記物体に衝突する頻度である衝突頻度を算出する衝突頻度算出部と、
前記衝突イオン数と前記衝突エネルギと前記衝突頻度とに基づいて、前記イオンの衝突による前記物体の発熱量の分布を算出することにより、前記所定領域の温度の分布を算出する温度分布算出部と、
前記算出した温度の分布を外部に出力する外部出力部と
を備える温度分布推定装置。
この温度分布推定装置によると、衝突イオン数と衝突エネルギと衝突頻度とに基づいて、イオン衝突に起因する発熱による温度分布を出力することができる。従って、イオン衝突に起因した物体の発熱による温度を予測することができる。
[形態2]
形態1記載の温度分布推定装置であって、さらに、前記外部出力部が出力した前記温度の分布を視認可能に表示する表示部を備える温度分布推定装置。
この温度分布推定装置によれば、イオン衝突に起因する発熱による温度分布を視認可能に表示することができる。
[形態3]
イオンガス中の物体の発熱に基づいて、前記イオンガス中の所定領域の温度の分布を推定する温度分布推定方法であって、
前記所定領域の各位置において電位の分布を有する前記各位置における電位のデータを取得し、
前記所定領域の各位置においてイオンの速度の分布を有する前記各位置におけるイオンの速度のデータを取得し、
前記所定領域の各位置においてイオンの密度の分布を有する前記各位置におけるイオンの密度のデータを取得し、
前記取得した各イオンの密度に基づいて、前記所定領域の各位置に存在するイオンが単位時間当たりに前記物体に衝突する数である衝突イオン数を算出し、
前記取得した各イオンの速度のデータを用いて算出した前記各イオンの運動エネルギと、前記取得した各電位のデータを用いて算出した前記各イオンの電位エネルギとに基づいて、前記各イオンが前記物体に衝突した際に該物体に与えるエネルギである衝突エネルギを算出し、
前記取得した各イオンの速度のデータに基づいて、前記所定領域の各位置に存在するイオンが単位時間当たりに前記物体に衝突する頻度である衝突頻度を算出し、
前記衝突イオン数と前記衝突エネルギと前記衝突頻度とに基づいて、前記イオンの衝突による前記物体の発熱量の分布を算出することにより、前記所定領域の温度の分布を算出し、
前記算出した温度の分布を外部に出力する温度分布推定方法。
この温度分布推定方法によると、衝突イオン数と衝突エネルギと衝突頻度とに基づいて、イオン衝突に起因する発熱による温度分布を出力することができる。従って、イオン衝突に起因した物体の発熱による温度を予測することができる。
[形態4]
イオンガス中の物体の発熱に基づいて、前記イオンガス中の所定領域の温度の分布をシミュレーションするシミュレーション装置であって、
前記所定領域の各位置における電位の分布を算出する電位分布算出部と、前記所定領域の各位置におけるイオンの速度の分布を算出するイオン速度分布算出部と、前記所定領域の各位置におけるイオンの密度の分布を算出するイオン密度分布算出部と、前記所定領域の各位置におけるイオンの密度に基づいて、前記所定領域の各位置に存在するイオンが単位時間当たりに前記物体に衝突する数である衝突イオン数を算出する衝突イオン数算出部と、前記所定領域の各位置におけるイオンの速度のデータを用いて算出した各イオンの運動エネルギと、前記所定領域の各位置における電位を用いて算出した前記各イオンの電位エネルギとに基づいて、前記各イオンが前記物体に衝突した際に該物体に与えるエネルギである衝突エネルギを算出する衝突エネルギ算出部と、前記所定領域の各位置におけるイオンの速度のデータに基づいて、前記所定領域の各位置に存在するイオンが単位時間当たりに前記物体に衝突する頻度である衝突頻度を算出する衝突頻度算出部と、を有する装置によって算出された、前記所定領域の各位置における前記衝突イオン数と前記衝突エネルギと前記衝突頻度とを取得し、
前記衝突イオン数と前記衝突エネルギと前記衝突頻度とに基づいて、前記イオンの衝突による前記物体の発熱量の分布を算出することにより、前記所定領域の温度の分布を算出する温度分布算出部と、
前記算出した温度の分布を外部に出力する外部出力部と
を備えるシミュレーション装置。
このシミュレーション装置によると、衝突イオン数と衝突エネルギと衝突頻度とに基づいて、イオン衝突に起因する発熱による温度分布を出力することができる。
[適用例1]
イオンガス中の物体の発熱に基づいて、前記イオンガス中の所定領域の温度の分布を推定する温度分布推定装置であって、前記所定領域における電位のデータを取得する電位取得部と、前記所定領域におけるイオンの速度のデータを取得するイオン速度取得部と、前記所定領域におけるイオンの密度のデータを取得するイオン密度取得部と、前記取得したイオンの密度に基づいて、前記所定領域に存在するイオンが単位時間当たりに前記物体に衝突する数である衝突イオン数を算出する衝突イオン数算出部と、前記取得したイオンの速度のデータを用いて算出した前記所定領域における1つのイオンの運動エネルギと、前記取得した電位のデータを用いて算出した前記1つのイオンの電位エネルギとに基づいて、前記1つのイオンが前記物体に衝突した際に該物体に与えるエネルギである衝突エネルギを算出する衝突エネルギ算出部と、前記取得したイオンの速度のデータに基づいて、前記所定領域に存在するイオンが単位時間当たりに前記物体に衝突する頻度である衝突頻度を算出する衝突頻度算出部と、前記衝突イオン数と前記衝突エネルギと前記衝突頻度とに基づいて、前記イオンの衝突による前記物体の発熱量の分布を算出することにより、前記所定領域の温度の分布を算出する温度分布算出部と、前記算出した温度の分布を外部に出力する外部出力部とを備える温度分布推定装置。
【0007】
この温度分布推定装置によると、衝突イオン数と衝突エネルギと衝突頻度とに基づいて、イオン衝突に起因する発熱による温度分布を出力することができる。従って、イオン衝突に起因した物体の発熱による温度を予測することができる。
【0008】
[適用例2]
適用例1記載の温度分布推定装置であって、さらに、前記外部出力部が出力した前記温度の分布を視認可能に表示する表示部を備える温度分布推定装置。
この温度分布推定装置によれば、イオン衝突に起因する発熱による温度分布を視認可能に表示することができる。
【0009】
[適用例3]
イオンガス中の物体の発熱に基づいて、前記イオンガス中の所定領域の温度の分布を推定する温度分布推定方法であって、前記所定領域における電位のデータを取得し、前記所定領域におけるイオンの速度のデータを取得し、前記所定領域におけるイオンの密度のデータを取得し、前記取得したイオンの密度に基づいて、前記所定領域に存在するイオンが単位時間当たりに前記物体に衝突する数である衝突イオン数を算出し、前記取得したイオンの速度のデータを用いて算出した前記所定領域における1つのイオンの運動エネルギと、前記取得した電位のデータを用いて算出した前記1つのイオンの電位エネルギとに基づいて、前記1つのイオンが前記物体に衝突した際に該物体に与えるエネルギである衝突エネルギを算出し、前記取得したイオンの速度のデータに基づいて、前記所定領域に存在するイオンが単位時間当たりに前記物体に衝突する頻度である衝突頻度を算出し、前記衝突イオン数と前記衝突エネルギと前記衝突頻度とに基づいて、前記イオンの衝突による前記物体の発熱量の分布を算出することにより、前記所定領域の温度の分布を算出し、前記算出した温度の分布を外部に出力する温度分布推定方法。
【0010】
この温度分布推定方法によると、衝突イオン数と衝突エネルギと衝突頻度とに基づいて、イオン衝突に起因する発熱による温度分布を出力することができる。従って、イオン衝突に起因した物体の発熱による温度を予測することができる。
【0011】
[適用例4]
イオンガス中の物体の発熱に基づいて、前記イオンガス中の所定領域の温度の分布をシミュレーションするシミュレーション装置であって、前記所定領域に存在するイオンが単位時間当たりに前記物体に衝突する数である衝突イオン数を取得する衝突イオン数取得部と、前記所定領域における1つのイオンの運動エネルギと電位エネルギとに基づいて決定されるエネルギであって、前記1つのイオンが前記物体に衝突した際に該物体に与えるエネルギである衝突エネルギを取得する衝突エネルギ取得部と、前記所定領域に存在するイオンが単位時間当たりに前記物体に衝突する頻度である衝突頻度を取得する衝突頻度取得部と、前記衝突イオン数と前記衝突エネルギと前記衝突頻度とに基づいて、前記イオンの衝突による前記物体の発熱量の分布を算出することにより、前記所定領域の温度の分布を算出する温度分布算出部と、前記算出した温度の分布を外部に出力する外部出力部とを備えるシミュレーション装置。
【0012】
このシミュレーション装置によると、衝突イオン数と衝突エネルギと衝突頻度とに基づいて、イオン衝突に起因する発熱による温度分布を出力することができる。
【0013】
なお、本発明は、種々の態様で実現することが可能である。例えば、ボンバード効果シミュレーション装置および方法、成膜方法、基材温度制御方法および装置、基材温度制御システム、それらの方法または装置の機能を実現するための集積回路、コンピュータプログラム、そのコンピュータプログラムを記録した記録媒体等の形態で実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】シミュレーション装置100の構成を説明するブロック図である。
図2】シミュレーション装置100の機能ブロック図である。
図3】温度分布算出処理の計算モデルMDを説明する説明図である。
図4】イオン衝突による基材の温度上昇を説明する説明図である。
図5】シミュレーション装置100が出力した各種分布図を示した説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
次に、本発明の実施の形態を実施例に基づいて説明する。
A.第1実施例:
(A1)シミュレーション装置の構成:
本発明における実施例としてのシミュレーション装置100について説明する。シミュレーション装置100は、所定領域内に設置した基材にイオンを衝突させ、そのイオン衝突に起因する所定領域の温度の分布をシミュレーションするための装置である(図3参照)。
【0016】
図1は、シミュレーション装置100の構成を説明するブロック図である。シミュレーション装置100は、全体の動作を制御するCPU110を中心として、RAM120、ROM130、HDD140、出力インターフェース(I/F)150、入力インターフェース(I/F)160を備える。また、シミュレーション装置100は、出力I/F150に接続された表示部170、入力I/F160に接続された入力デバイスとしてのキーボード162、及びポインティングデバイスとしてのマウス164を備える。
【0017】
HDD140には、後述する温度分布シミュレーションプログラムPGが格納されている。ユーザが、キーボード162およびマウス164を用いて温度分布シミュレーションプログラムPGを起動すると、CPU110が温度分布シミュレーションプログラムPGをRAM120に読み出して実効することにより、後述する温度分布算出処理を行う。温度分布算出処理を行うに当たり、CPU110は、キーボード162およびマウス164を介してユーザが入力した種々のパラメータを温度分布算出処理に用いる。CPU110は、温度分布算出処理による処理結果を表示部170に表示する。
【0018】
図2は、シミュレーション装置100を機能的に示す機能ブロック図である。シミュレーション装置100は、データ入力部203、電位分布算出部205、衝突エネルギ算出部207、イオン速度分布算出部209、衝突頻度算出部211、イオン密度分布算出部213、衝突イオン数算出部215、発熱量分布算出部217、温度分布算出部219、分布画像出力部221を備える。これら機能部は、上述したように、HDD140に格納されている温度分布シミュレーションプログラムPGを、CPU110が読み出して、温度分布算出処理を実効することにより実現する。これら機能部については後で詳しく説明する。
【0019】
(A2)温度分布算出処理
シミュレーション装置100が行う温度分布算出処理について説明する。図3は、温度分布算出処理に用いる用いるの計算モデルの一例(計算モデルMD)を説明する説明図である。計算モデルMDは、チャンバ310内のアルゴンガスをプラズマ化し、発生したアルゴンイオンを基材に衝突させることにより基材の温度を上昇させる計算モデルである。
【0020】
チャンバ310には、ガス流入口320、ガス流出口330、基材搬送部340が設けられている。ガス流入口320からは、流速が500[sccm]で、300[K]のアルゴンガスが流入する。チャンバ310の外壁は300[K]で一定とする。外壁下面は400[K]とする。外壁下面を400[K]とする理由は、外壁下面にはガス流出口330が設けられているため、アルゴンイオンのイオン衝突がガス流出口330で頻繁に発生し、ガス流出口330周辺の温度が上昇することを考慮したものである。
【0021】
チャンバ310内には、厚さ10[mm]のチタンの基材が3つ(基材351、基材352、基材353)設置されている。チタン基材には直流の−1000[V]の電圧が印加されている。またチャンバ310の外壁は接地されている。ガス流入口320から流入したアルゴンガスは、1000Vの電位差によってプラズマ化し、アルゴンイオンが発生する。発生したアルゴンイオンは、−1000[V]に印加された基材に引き寄せられて衝突する。このアルゴンイオンの衝突によって、基材の温度は上昇する。
【0022】
図4は、イオン衝突による基材の温度上昇を説明する説明図である。図示するように、1000[V]の電位差によってアルゴンイオンが基材に引き寄せられ基材に衝突する。基材に衝突した際、アルゴンイオンはエネルギを損失する。アルゴンイオンが損失したエネルギによって、基材には発熱量Qが与えられ、基材の温度は上昇する。
【0023】
次に、図3で説明した計算モデルMDにおいて、シミュレーション装置100(CPU110)が行う温度分布算出処理を説明する。説明にあたり、図2の機能ブロック図を用いて説明する。CPU110は温度分布算出処理を開始すると、電位分布算出部205(図2)の機能として、チャンバ310内の各位置(各座標)における電位Vの分布である電位分布を算出する。電位Vの分布の算出にあたってCPU110は、種々のデータをデータ入力部203から取得する。データ入力部203から取得するデータとしては、例えば、印加電圧、チャンバ310内の内部形状、基材形状、基材の設置位置、電圧の印加位置、接地位置など、電位Vに影響を与えるパラメータが挙げられる。CPU110は、これら取得したデータに基づいてチャンバ310内の電位Vの分布を算出する。
【0024】
電位分布を算出後、CPU110は、イオン速度分布算出部209の機能として、チャンバ310内の各位置に存在するアルゴンイオンの速度u(イオン速度u)の分布であるイオン速度分布を算出する。イオン速度は電位差に依存するため、CPU110はイオン速度分布の算出に当たって、電位分布算出部205として算出した電位Vの分布のデータを取得する。CPU110は、その他、種々のデータをデータ入力部203から取得する。データ入力部203から取得するデータとしては、例えば、ガス流入口320からのアルゴンガスの流入量、ガス流出口330からのアルゴンガスの流出量、チャンバ310内の圧力、アルゴンガスの流入または電圧の印加を行ってからの経過時間(以下、単に経過時間とも呼ぶ)など、イオン速度uに影響を与えるパラメータが挙げられる。CPU110は、これら取得したデータに基づいてチャンバ310内のアルゴンイオンの速度uの分布を算出する。
【0025】
イオン速度分布の算出後、CPU110は、イオン密度分布算出部213の機能として、チャンバ310内の各位置におけるアルゴンイオンのイオン密度ρの分布であるイオン密度分布を算出する。イオン密度ρは電位Vおよびイオン速度uに依存するため、CPU110はイオン速度分布の算出にあたって、電位分布算出部205において算出した電位Vの分布のデータ、およびイオン速度分布算出部209で算出した速度uの分布のデータを取得する。CPU110は、その他、種々のデータをデータ入力部203から取得する。データ入力部203から取得するデータとして、例えば、ガス流入口320からのアルゴンガスの流入量、ガス流出口330からのアルゴンガスの流出量、チャンバ310内の圧力、経過時間、チャンバ310内の内部形状、基材形状、基材の設置位置など、イオン密度ρに影響を与えるパラメータが挙げられる。CPU110は、これら取得したデータに基づいてチャンバ310内のアルゴンイオンのイオン密度ρの分布を算出する。
【0026】
上記説明した電位分布算出部205、イオン速度分布算出部209、イオン密度分布算出部213の機能は、3次元空間においてイオン濃度の分布を算出し、シミュレーションが可能な汎用のソフトウェアの機能を用いることができる。
【0027】
CPU110は、チャンバ310内における電位Vの分布、イオン速度uの分布、イオン密度ρの分布を算出すると、次に、衝突エネルギ算出部207の機能として、1つのアルゴンイオンが物体に衝突した際、衝突したアルゴンイオンが物体に与えるエネルギである衝突エネルギEを算出する。衝突エネルギEは、換言すると、衝突により1つのアルゴンイオンが損失するエネルギである。衝突エネルギ算出部230は、下記式(1)によって衝突エネルギEを算出する。
【0028】
【数1】
【0029】
式(1)において、mはアルゴンイオンの質量、uはイオン速度分布算出部209で算出したアルゴンイオンの速度、eは電荷、Vは電位分布算出部205で算出した電位を意味する。またイオンが持つエネルギから熱エネルギへの変換効率を与えるため、係数Ca、係数Cbを導入した。係数Caおよび係数Cbは、実験値をシミュレーションにフィードバックし、最適化することによって確定した値である。係数Caおよび係数Cbは、0≦Ca,Cb≦1である。式(1)における、質量m、電荷eは、ユーザが入力した値をCPU110が取得するとしてもよいし、予め、温度分布シミュレーションプログラムPGとしてHDD140に格納されている値をCPU110が読み込むことによって取得するとしてもよい。
【0030】
次にCPU110は、衝突頻度算出部211の機能として、単位時間当たり(本実施例では1秒間当たり)に、アルゴンイオンが物体(基材)に衝突する回数である衝突頻度zを算出する。CPU110は、下記式(2)を用いて衝突頻度zを算出する。
【0031】
【数2】
【0032】
式(2)において、uはイオン速度分布算出部209で算出したアルゴンイオンのイオン速度uである。λはアルゴンイオンの平均自由行程である。平均自由行程λはチャンバ310の圧力に基づいて衝突頻度算出部211で算出するとしてもよいし、温度分布シミュレーションプログラムPGとして予め用意したテーブルデータから読み出すことによって取得するとしてもよい。
【0033】
衝突頻度zを算出すると、次にCPU110は、衝突イオン数算出部215の機能として、基材に衝突するアルゴンイオンの数である衝突イオン数Nを算出する。CPU110は衝突イオン数Nの算出にあたり、下記式(3)を用いる。
【0034】
【数3】
【0035】
式(3)において、αは衝突割合、dSは検査面積、dxは格子間隔である。シミュレーション装置100によってシミュレーションを行う場合、シミュレーションを行う空間の各位置を3次元座標で規定する。検査面積dSは、異なる2つの座標軸で確定する2次元平面の単位面積を意味する。dxは、dSに直交する座標軸の単位長さを意味する。「ρ・dSdx/m」は検査体積dSdx中のアルゴンイオンの個数を意味する。衝突割合αはアルゴンイオンが物体(基材)に衝突する衝突割合を意味する。衝突割合αは、実験値をシミュレーションにフィードバックし、最適化することによって確定した値である。衝突割合αは、0≦α≦1である。
【0036】
衝突エネルギE、衝突イオン数N、衝突頻度zを算出すると、CPU110は、発熱量分布算出部217の機能として、イオン衝突による基材の発熱量Qを算出する。CPU110は、発熱量Qの算出には下記式(4)を用いる。なお、イオン衝突は物体表面でしか起こらないことから、本実施例における温度分布算出処理においては、基材表面およびチャンバ310の内側表面の各位置に対応する座標点における発熱量Qを算出する。基材表面およびチャンバ310の内側表面の各位置に対応する座標点のデータは、電位分布算出部205、イオン速度分布算出部209、イオン密度分布算出部213の機能として演算を行う際に取得したチャンバ310内の内部形状、基材形状、基材の設置位置のデータを用いる。
【0037】
【数4】
【0038】
CPU110は、発熱量分布算出部217において、基材表面およびチャンバ310の各点における発熱量Qを算出すると、次に、温度分布算出部219の機能として、経過時間ごとのチャンバ310内の温度Tの分布を算出する。温度分布を算出するにあたっては、発熱量Q、チャンバ310および基材の比熱、およびチャンバ310内の圧力に基づいて算出したチャンバ310内の各位置における熱伝導性等、熱伝導に影響を与えるパラメータを用いる。これらパラメータは、ユーザによる入力、演算による算出、予め設定された値を用いる等、種々の手段を採ることができる。
【0039】
チャンバ310内の温度Tの分布を算出した後、CPU110は、温度分布算出部219の機能として、温度Tの値毎に色分けを行ったチャンバ310内の各位置における温度分布の画像(温度分布画像)を生成する。そして、CPU110は、温度分布画像を表示部170を介してユーザに視認可能に表示する。なお、温度分布画像は、経過時間毎の複数の画像を表示可能としてもよいし、温度分布算出処理を行う際に、予め経過時間tがユーザから指定されている場合には、指定された経過時間tの温度分布画像のみ表示するとしてもよい。また、シミュレーション装置100は、電位分布算出部205の機能として算出した電位Vの分布を画像化した電位分布画像や、イオン密度分布算出部213の機能として算出したイオン密度ρの分布を画像かしたイオン密度分布画像を分布画像出力部221を介して表示部170に表示することも可能である。
【0040】
図5は、図3で説明した計算モデルを用いて、シミュレーション装置100が出力した、各種分布図を示した説明図である。図5の最上段の図がイオン衝突による温度Tの分布図である。また、理解を容易にするために、電位分布算出部205の機能として出力可能な電位Vの分布図、および、イオン密度分布算出部213の機能として出力可能であるイオン密度ρの分布図を示した。また、図5の最下段に比較例として、従来から出力可能であってジュール熱による温度の分布図を示した。図5に示したイオン衝突による温度分布は白黒画像であるため正確に表現できていないが、実際のカラー表現による温度分布画像においては、基材の表面に近いほど高温に表現されている。
【0041】
以上説明したように、本実施例におけるシミュレーション装置100は、衝突エネルギEと、衝突頻度zと、衝突イオン数Nを算出し、更に、式(4)を導入することにより、イオン衝突による発熱に起因する温度の分布を算出することができる。また、イオン衝突による発熱に起因する温度の分布を視認可能にユーザに表示することができる。
【0042】
イオン衝突による発熱に起因する温度分布がシミュレーション可能になることで、イオン衝突を利用して温度制御を行う際に、設備条件や処理条件の最適化をシミュレーションによって行うことが可能になる。具体的には、チャンバ310内における基材の配置位置や、ガス流入量、ガス流出量、圧力、基材形状、経過時間など、上記説明において温度分布算出処理を行うために用いた各種パラメータの最適化をシミュレーションによって行うことができる。その他、イオン衝突に起因する発熱を考慮して行うことが好ましい種々の技術に、シミュレーション装置100は適用可能である。
【0043】
B.変形例:
なお、この発明は上記の実施例や実施形態に限られるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲において種々の態様において実施することが可能であり、例えば次のような変形も可能である。
【0044】
B1.変形例1:
上記実施例においては、チャンバ310内の温度の分布を分布図として視認可能に表示するとしたが、電位V、速度u、イオン密度ρ、衝突エネルギE、衝突頻度z、衝突イオン数N、発熱量Qの、チャンバ310内における各種分布図を視認可能に表示部170に表示するとしてもよい。これらを視認化することで、設備条件や処理条件が各種パラメータにどのように影響をしているのか捉えることができる。
【0045】
B2.変形例2:
上記実施例において温度分布算出処理として算出した各種数値および分布の一部を、予め設定された数値および分布等の読込みや、ユーザによる入力など、算出以外の手段によって取得するとしてもよい。また、シミュレーション装置100が備える構成の一部を、他の機器が備えるとし、当該他の機器が算出または取得したパラメータや分布をシミュレーション装置100が取得し温度分布を算出するとしてもよい。その他、シミュレーション装置100に用いるパラメータや分布など、設定条件および設備条件の一部を、実験設備やプロセスチャンバ等の実際の装備から取得するものとしてもよい。
【0046】
B3.変形例3:
上記実施例においてソフトウェアで実現されている機能の一部をハードウェアで実現してもよく、あるいは、ハードウェアで実現されている機能の一部をソフトウェアで実現してもよい。
【符号の説明】
【0047】
100…シミュレーション装置
110…CPU
120…RAM
130…ROM
140…HDD
150…出力I/F
160…入力I/F
162…キーボード
164…マウス
170…表示部
203…データ入力部
205…電位分布算出部
207…衝突エネルギ算出部
209…イオン速度分布算出部
211…衝突頻度算出部
213…イオン密度分布算出部
215…衝突イオン数算出部
217…発熱量分布算出部
219…温度分布算出部
230…衝突エネルギ算出部
310…チャンバ
320…ガス流入口
330…ガス流出口
340…基材搬送部
351〜353…基材
Q…発熱量
V…電位
u…イオン速度
E…衝突エネルギ
m…イオン質量
e…電荷
z…衝突頻度
N…衝突イオン数
T…温度
t…経過時間
MD…計算モデル
PG…温度分布シミュレーションプログラム
図1
図2
図3
図4
図5