特許第5718806号(P5718806)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許5718806不活性支持体に結合したフルオロエラストマー構成部品および関連する方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5718806
(24)【登録日】2015年3月27日
(45)【発行日】2015年5月13日
(54)【発明の名称】不活性支持体に結合したフルオロエラストマー構成部品および関連する方法
(51)【国際特許分類】
   B32B 27/30 20060101AFI20150423BHJP
   B05D 7/24 20060101ALI20150423BHJP
   C09D 4/06 20060101ALI20150423BHJP
   E21B 12/00 20060101ALI20150423BHJP
【FI】
   B32B27/30 A
   B32B27/30 D
   B05D7/24 302L
   B05D7/24 302Z
   C09D4/06
   E21B12/00
【請求項の数】42
【全頁数】20
(21)【出願番号】特願2011-502112(P2011-502112)
(86)(22)【出願日】2009年3月27日
(65)【公表番号】特表2011-515258(P2011-515258A)
(43)【公表日】2011年5月19日
(86)【国際出願番号】US2009038654
(87)【国際公開番号】WO2009121012
(87)【国際公開日】20091001
【審査請求日】2012年1月11日
(31)【優先権主張番号】61/040,055
(32)【優先日】2008年3月27日
(33)【優先権主張国】US
(73)【特許権者】
【識別番号】505283588
【氏名又は名称】グリーン, ツイード オブ デラウェア, インコーポレイテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100078282
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 秀策
(74)【代理人】
【識別番号】100062409
【弁理士】
【氏名又は名称】安村 高明
(74)【代理人】
【識別番号】100113413
【弁理士】
【氏名又は名称】森下 夏樹
(72)【発明者】
【氏名】キャンプベル, ロナルド アール.
【審査官】 山本 昌広
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2008/019077(WO,A1)
【文献】 特表2011−505465(JP,A)
【文献】 特表2008−528727(JP,A)
【文献】 特表2008−520434(JP,A)
【文献】 特表平11−514394(JP,A)
【文献】 特表2010−516864(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2007/0135577(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B32B 1/00−43/00
B05D 1/00−7/26
C09D 1/00−201/10
E21B 10/00−12/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
不活性支持体に結合した硬化したフルオロエラストマー組成物を含む物品であって、該硬化したフルオロエラストマー組成物が、フルオロポリマー、シリカ、および(i)アクリレート化合物または(ii)メタクリレート化合物を含み、ここで、該アクリレート化合物が金属アクリレートであ該メタクリレート化合物が金属メタクリレートである、物品。
【請求項2】
前記結合の結合耐久性が、20℃で少なくとも約1500ポンドの荷重である、請求項1に記載の物品。
【請求項3】
前記フルオロエラストマーが、パーフルオロエラストマーである、請求項1に記載の物品。
【請求項4】
前記不活性支持体が、金属支持体である、請求項1に記載の物品。
【請求項5】
前記不活性支持体が、ベリリウム、銅、銀、アルミニウム、チタン、ニッケル、鋼、クロム、およびステンレス鋼から選択される、請求項1に記載の物品。
【請求項6】
前記不活性支持体が、チタン合金、銅合金、ベリリウム銅合金、ニッケル銀合金、ニッケルチタン合金、クロム合金、および鋼から選択される、請求項1に記載の物品。
【請求項7】
前記不活性支持体が、ケトン系ポリマー、ポリエーテルエーテルケトン、ポリエーテルケトンケトン、ポリアリールエーテルケトン、ポリエーテルケトンエーテルケトンケトン、およびポリエーテルケトンから選択される、請求項1に記載の物品。
【請求項8】
前記フルオロポリマーが、フッ素含有エチレン性不飽和モノマー、テトラフルオロエチレン、パーフルオロ化オレフィン、ヘキサフルオロプロピレン、およびパーフルオロ(エチルビニルエーテル)から選択されるモノマーを含む、請求項1に記載の物品。
【請求項9】
硬化の前に、前記フルオロエラストマー組成物が、硬化剤と、硬化部位モノマーを含む硬化していないパーフルオロポリマーとを含む、請求項1に記載の物品。
【請求項10】
少なくとも1つの硬化部位モノマーが、シアノ基硬化部位モノマー、オレフィン含有硬化部位モノマー、およびハロゲン化オレフィン含有硬化部位モノマーから選択される、請求項9に記載の物品。
【請求項11】
前記硬化剤が、過酸化物硬化剤、有機スズ硬化剤、アミノ硬化剤、ビスアミノフェノール硬化剤、ビスアミノチオフェノール硬化剤、ビスアミドラゾン硬化剤、官能基化されたビフェニル系硬化剤、ならびにそれらの誘導体および組み合わせから選択される、請求項9に記載の物品。
【請求項12】
前記アクリレート化合物がジアクリル酸亜鉛である、請求項1に記載の物品。
【請求項13】
前記アクリレート化合物がジアクリル酸銅であるかあるいは前記メタクリレート化合物が、ジメタクリル酸亜鉛である、請求項1に記載の物品。
【請求項14】
前記フルオロエラストマー組成物が、フィラー、可塑剤、ポリマーブレンド、および着色料から選択される添加剤をさらに含む、請求項1に記載の物品。
【請求項15】
前記フルオロエラストマー組成物が、カーボンブラック、ガラス繊維、ガラス球、ケイ酸塩、繊維ガラス、硫酸カルシウム、アスベスト、ホウ素繊維、セラミック繊維、水酸化アルミニウム、硫酸バリウム、炭酸カルシウム、フッ化黒鉛、黒鉛、炭酸マグネシウム、アルミナ、窒化アルミニウム、ホウ砂、パーライト、テレフタル酸亜鉛、炭化ケイ素小板、珪灰石、テレフタル酸カルシウム、フラーレンチューブ、ヘクトライト、タルク、マイカおよび炭化ケイ素ホイスカーから選択される添加剤をさらに含む、請求項1に記載の物品。
【請求項16】
フルオロエラストマー組成物を不活性支持体に結合させる方法であって、該方法は:
(a)(i)アクリレート化合物または(ii)メタクリレート化合物、硬化剤、シリカ、および硬化部位モノマーを含む硬化性フルオロポリマーを含む硬化性フルオロエラストマー組成物を不活性支持体に接触させる工程;および
(b)該フルオロエラストマー組成物と不活性支持体との間に結合を形成するために、該フルオロエラストマー組成物を硬化させる工程
を含み、
ここで、該アクリレート化合物が金属アクリレートであり、該メタクリレート化合物が金属メタクリレートである、
方法。
【請求項17】
前記ステップ(b)で形成される結合が、20℃で少なくとも約1500ポンドの結合耐久性を有する、請求項16に記載の方法。
【請求項18】
前記フルオロエラストマー組成物が、パーフルオロエラストマー組成物である、請求項16に記載の方法。
【請求項19】
前記不活性支持体が、金属支持体である。請求項16に記載の方法。
【請求項20】
前記不活性支持体が、ベリリウム、銅、銀、アルミニウム、クロム、チタン、ニッケル、鋼、およびステンレス鋼から選択される金属支持体である、請求項16に記載の方法。
【請求項21】
前記不活性支持体が、チタン合金、銅合金、ベリリウム銅合金、ニッケル銀合金、ニッケルチタン合金、クロム合金、および鋼から選択される金属合金である、請求項16に記載の方法。
【請求項22】
前記パーフルオロポリマーが、フッ素含有エチレン性不飽和モノマー、テトラフルオロエチレン、パーフルオロ化オレフィン、ヘキサフルオロプロピレン、およびパーフルオロ(エチルビニルエーテル)から選択されるモノマーを含む、請求項16に記載の方法。
【請求項23】
前記組成物が、加熱硬化、光硬化、圧力硬化、蒸気硬化、および電子ビーム硬化から選択される硬化によって硬化する請求項16に記載の方法。
【請求項24】
不活性支持体に結合させるための硬化性フルオロエラストマー組成物であって、
(a)少なくとも1つの硬化部位モノマーを含むフルオロポリマー;
(b)硬化剤;
(c)シリカ;および
(d)(i)アクリレート化合物または(ii)メタクリレート化合物
を含み、
ここで、該アクリレート化合物は金属アクリレートであり、該メタクリレート化合物は金属メタクリレートであり、
ここで、硬化後は、該不活性支持体への該組成物の結合耐久性が、20℃で少なくとも約1500ポンドの荷重である、組成物。
【請求項25】
前記フルオロポリマーが、フッ素含有エチレン性不飽和モノマー、テトラフルオロエチレン、パーフルオロ化オレフィン、ヘキサフルオロプロピレン、およびパーフルオロ(エチルビニルエーテル)から選択されるモノマーを含む、請求項24に記載の組成物。
【請求項26】
少なくとも1つの前記硬化部位モノマーが、シアノ基硬化部位モノマー、オレフィン含有硬化部位モノマー、およびハロゲン化オレフィン含有硬化部位モノマーから選択される、請求項24に記載の組成物。
【請求項27】
前記硬化剤が、過酸化物硬化剤、有機スズ硬化剤、アミノ硬化剤、ビスアミノフェノール硬化剤、ビスアミノチオフェノール硬化剤、ビスアミドラゾン硬化剤、および官能基化されたビフェニル系硬化剤から選択される、請求項24に記載の組成物。
【請求項28】
前記アクリレート化合物が、ジアクリル酸亜鉛である、請求項24に記載の組成物。
【請求項29】
前記アクリレート化合物がジアクリル酸銅であるか、または前記メタクリレート化合物が、ジメタクリル酸亜鉛である、請求項24に記載の組成物。
【請求項30】
フィラー、可塑剤、ポリマーブレンド、および着色料から選択される添加剤をさらに含む、請求項24に記載の組成物。
【請求項31】
カーボンブラック、ガラス繊維、ガラス球、ケイ酸塩、繊維ガラス、硫酸カルシウム、アスベスト、ホウ素繊維、セラミック繊維、水酸化アルミニウム、硫酸バリウム、炭酸カルシウム、フッ化黒鉛、黒鉛、炭酸マグネシウム、アルミナ、窒化アルミニウム、ホウ砂、パーライト、テレフタル酸亜鉛、炭化ケイ素小板、珪灰石、テレフタル酸カルシウム、フラーレンチューブ、ヘクトライト、タルク、マイカ、および炭化ケイ素ホイスカーから選択される添加剤をさらに含む、請求項24に記載の組成物。
【請求項32】
フルオロエラストマー組成物に結合した不活性支持体を含む物品を形成する方法であって、該方法は:
(a)硬化性フルオロエラストマー組成物を含むプリフォームを形成する工程(ここでは、該硬化性フルオロエラストマー組成物は、少なくとも1つの硬化部位モノマー、(i)アクリレート化合物または(ii)メタクリレート化合物、シリカ、および硬化剤を有する硬化性フルオロポリマーを含む);
(b)不活性支持体にプリフォームを接触させる工程;および
(c)プリフォームを硬化し、20℃で少なくとも約1500ポンドの荷重の結合耐久性を有する、該フルオロエラストマー組成物と不活性支持体との間の結合を形成する工程
を含み、
ここで、該アクリレート化合物が金属アクリレートであり、該メタクリレート化合物が金属メタクリレートである、
方法。
【請求項33】
前記不活性支持体が、金属支持体およびケトン系ポリマー支持体から選択される、請求項32に記載の方法。
【請求項34】
前記組成物が、加熱硬化、光硬化、圧力硬化、蒸気硬化およびeビーム硬化から選択される硬化によって硬化する、請求項32に記載の方法。
【請求項35】
硬化したフルオロエラストマー組成物に結合した不活性支持体を含み、該フルオロエラストマー組成物が、フルオロポリマー、シリカ、および(i)アクリレート化合物または(ii)メタクリレート化合物を含む、ダウンホール工具。
【請求項36】
前記結合の結合耐久性が、20℃で少なくとも約1500ポンドの荷重である、請求項35に記載の工具。
【請求項37】
前記支持体が、金属支持体およびケトン系ポリマー支持体から選択される、請求項35に記載の工具。
【請求項38】
前記不活性支持体が、ベリリウム、銅、銀、アルミニウム、チタン、クロム、ニッケル、鋼、およびステンレス鋼、チタン合金、銅合金、ベリリウム銅合金、ニッケル銀合金、ニッケルチタン合金、クロム合金、および鋼から選択される、請求項35に記載の工具。
【請求項39】
前記フルオロポリマーが、フッ素含有エチレン性不飽和モノマー、テトラフルオロエチレン、パーフルオロ化オレフィン、ヘキサフルオロプロピレン、およびパーフルオロ(エチルビニルエーテル)から選択されるモノマーを含む、請求項35に記載の工具。
【請求項40】
硬化の前に、前記フルオロエラストマー組成物が、硬化剤と、硬化部位モノマーを含むフルオロポリマーとを含む、請求項35に記載の工具。
【請求項41】
少なくとも1つの前記硬化部位モノマーが、シアノ基硬化部位モノマー、オレフィン含有硬化部位モノマー、およびハロゲン化オレフィン含有硬化部位モノマーから選択される、請求項35に記載の工具。
【請求項42】
前記硬化剤が、過酸化物硬化剤、有機スズ硬化剤、アミノ硬化剤、ビスアミノフェノール硬化剤、ビスアミノチオフェノール硬化剤、ビスアミドラゾン硬化剤、および官能基化されたビフェニル系硬化剤から選択される、請求項35に記載の工具。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
(発明の背景)
油井およびガス井作業中に使用される地下の井戸用工具(ダウンホール工具)は、高温および損傷を与える化学薬品への曝露を含めた、穿設作業に付随する苛酷な環境条件に耐えられなければならない。これらの工具が使用される陸および沖合の井戸は、ますます深くなってきており、その結果、こうした工具にかかる作業圧力および温度も高くなっている。
【0002】
穿設される井戸の環境は、化学的かつ力学的に攻撃的である。穿設を容易にするためにしばしば使用される泥水および他の流体は、検層器具およびドリルを含めた、ダウンホール工具の非金属部品を劣化させる可能性がある化学的添加剤を含有する。こうした化学薬品は、非常に苛性であり、12.5ものpHを有する。他の攻撃的な井戸流体としては、塩水、原油、二酸化炭素、および/または硫化水素を挙げることができるが、これらは、多くの材料に対して損傷を与える。所与の井戸の深さが増大すると、環境的ストレス(圧力、温度、化学攻撃)は、より大きくなる。例えば、5,000から8,000メートルの深さでは、350°Fから400°F(177℃から204℃)の坑底温度および約15,000psi(約103MPa)の圧力が一般的である。
【背景技術】
【0003】
穿設作業に使用されるダウンホール工具は一般に、多数の構成部品からなる複雑な装置である。可能である最も耐久性が高く、かつ/または不活性である材料から部品を作製することが望ましい。しばしば、化学的もしくは力学的な強度および耐久性、または他の商業的もしくは工業的要件に関連する原因により、部品は、フルオロエラストマー、パーフルオロエラストマー、金属、金属合金、および/またはケトン系樹脂などの、互いに結合または固着させられた1種または複数の材料で作製され得る。しかし、(パーフルオロエラストマーを含めた)フルオロエラストマーの不活性さは、ダウンホール環境における利点である一方、ダウンホール工具の構成部品の製作を困難にする。その不活性さのため、例えば、交換を必要とするまでのかなりの量の作業時間の間、ダウンホール環境の力学的および化学的なストレスを乗り切るのに十分な強度および耐久性の金属とポリマーとの結合を達成することが難しい。
【0004】
例えば、半導体加工、下水処理、および医療装置を含めた他の業界の分野でも、材料の使用における、同様に攻撃的な環境およびそれに対応する難点が存在する。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
したがって、耐久力のある結合強さを示す、金属または他の不活性支持体に接合されたフルオロエラストマーの物品および構成部品や、こうした部品を調製する関連方法における、いまだ満足されない必要性が、当分野において存在する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の範囲内には、不活性支持体に結合した硬化したフルオロエラストマー組成物の物品が含まれる。硬化したフルオロエラストマー組成物は、フルオロポリマー、シリカ、およびアクリレート化合物を含む。フルオロエラストマー組成物は、20℃で少なくとも約1500ポンドの荷重の結合耐久性を有する結合で、不活性支持体に結合している。不活性支持体は、金属支持体またはケトン系ポリマー支持体であり得る。
【0007】
例えば金属支持体またはケトン系ポリマー支持体であり得る不活性支持体に、フルオロエラストマー組成物を結合させる方法も、含まれる。この方法は、硬化性フルオロエラストマー組成物を不活性支持体に接触させる工程、およびフルオロエラストマー組成物を硬化させて、該組成物と不活性支持体との間に結合を形成させる工程を含む。この方法の硬化性フルオロエラストマー組成物は、アクリレート化合物、硬化剤、シリカ、および少なくとも1つの硬化部位モノマーを含むフルオロポリマーを含む。
【0008】
不活性支持体に結合させるための組成物を開示する。これらの組成物は、少なくとも1つの硬化部位モノマー、硬化剤、シリカ、およびアクリレート化合物を含むフルオロポリマーを含む。硬化後、不活性支持体に対する組成物の結合耐久性は、20℃で少なくとも約1500ポンドの荷重である。
【0009】
フルオロエラストマー組成物に結合した不活性支持体の物品を形成する方法であって、硬化性フルオロエラストマー組成物を含むプリフォームを形成する工程と、該プリフォームを不活性支持体に接触させる工程と、プリフォームを硬化させて、20℃で少なくとも約1500ポンドの荷重の結合耐久性を有するフルオロエラストマー組成物と不活性支持体との間の結合を形成する工程とを含む方法も含まれる。この方法のフルオロエラストマー組成物は、少なくとも1種の硬化部位モノマーを有するフルオロポリマー、アクリレート化合物、シリカ、および硬化剤を含む。
【0010】
先に述べた通りの硬化したフルオロエラストマー組成物に結合した不活性支持体を含有するダウンホール工具も開示する。
【発明を実施するための形態】
【0011】
(発明の詳細な記述)
ダウンホール工具およびダウンホール工具部品などの、1つまたは複数の不活性支持体に結合したフルオロエラストマー組成物を含有する物品;不活性支持体に結合させるための硬化性フルオロエラストマー組成物;およびこうした材料を調製するための方法を、本明細書に記載する。
【0012】
本明細書では、「フルオロエラストマー組成物」は、硬化性フルオロポリマーを含むポリマー組成物を指す。フルオロポリマーは、2つまたはそれ以上のモノマー(好ましくは、これらのうちの1つは、フッ素化またはパーフルオロ化されており、かつ、これらのうちの少なくとも1つは、硬化を可能にするための硬化部位モノマー、すなわち少なくとも1種のフルオロポリマー硬化部位モノマーである)を重合させることによって形成することができる。本明細書に記述する通りのフルオロエラストマー組成物は、フルオロエラストマーを形成するために硬化させることが可能な任意の適切な硬化性フルオロエラストマーフルオロポリマー(1つまたは複数)(FKM)、および本明細書に記述する通りの1つまたは複数の硬化剤を含むことができる。
【0013】
パーフルオロエラストマーは、本明細書では、少なくとも1種の硬化部位モノマーによって提供される硬化を可能にするための少なくとも1つの架橋基を有するパーフルオロポリマー(本明細書で定義する通り)を硬化させることによって誘導体化される、任意の実質的に硬化したエラストマー材料であり得る。パーフルオロポリマーの骨格上の炭素原子に関しては、パーフルオロポリマーは、本明細書では、実質的にフッ素化され、好ましくは完全にフッ素化される。ある種のパーフルオロエラストマー調合物中の官能性架橋基中の水素の使用により、いくらかの残留水素が、架橋内のパーフルオロエラストマー中に存在し得ることが理解されよう。パーフルオロエラストマー組成物は、本明細書では、硬化していても硬化していなくても(硬化性であっても)良い。用語「硬化していない」または「硬化性」によって修飾される場合、パーフルオロエラストマー組成物は、こうした架橋が実質的にまだ起こっておらず、その結果、この材料が、意図される用途にまだ適していない、パーフルオロポリマー含有組成物を指す。
【0014】
本明細書に記載されるフルオロエラストマー組成物は、1つまたは複数のフルオロエラストマー、1つまたは複数の様々な硬化部位を有するパーフルオロポリマー、硬化剤(1つまたは複数)、シリカ、アクリレート化合物、および多数の他の任意のフィラーおよび添加剤などのいくつかの異なる成分を、以下に詳細に述べる通りの様々な組み合わせで含有することができる。
【0015】
該フルオロエラストマー組成物中には、1つまたは複数の硬化性フルオロポリマーが存在する。こうしたポリマーは、1つまたは複数のパーフルオロ化モノマー(これらのうちの1つは、いくつかの硬化系のうちのどの硬化系下でも硬化を可能にする官能基を有するフッ素化またはパーフルオロ化硬化部位モノマーであることが好ましい)を重合または共重合させることによってそれ自体形成される。本明細書では、パーフルオロポリマー(コポリマーを含む)は、硬化を可能にするための少なくとも1種の官能基を有する少なくとも1種のパーフルオロ化モノマー(すなわち少なくとも1種の硬化部位モノマー)を含む、2つ以上のパーフルオロ化モノマーを重合させることによって形成される硬化性パーフルオロポリマーを含むポリマー組成物である。
【0016】
硬化性パーフルオロポリマーは、そのうちの少なくとも1つが、フッ素含有エチレン性不飽和モノマー(テトラフルオロエチレン(TFE)、パーフルオロ化オレフィン(ヘキサフルオロプロピレン(HFP))、および直鎖または分枝状であるアルキル基を含み、かつ1つまたは複数のエーテル結合パーフルオロアルキルビニルエーテル(PAVE)(パーフルオロ(メチルビニルエーテル)、パーフルオロ(エチルビニルエーテル)、パーフルオロ(プロピルビニルエーテル)、および類似化合物など)を含む、2つまたはそれ以上の様々なパーフルオロ化コポリマーを含むことができる。PAVEの適切な例としては、例えば、米国特許第5,001,278号およびWO 00/08076中に記載されるものが挙げられ、PAVEのタイプに関連するその開示を、参照により本明細書に組み込む。さらなる適切なPAVEは、例えば、米国特許第5,696,189号および第4,983,697号に記載され、PAVEのタイプに関連するその開示も、参照により本明細書に組み込む。適切なパーフルオロポリマーは、ASTM V−1418−05中にFFKMとして列挙されるパーフルオロエラストマーの工業的に認められた定義を満たすものであり得、TFE、PAVEのターポリマーまたはテトラポリマーであり得、そしてターポリマーの架橋を可能にするための官能基を組み込んだ1つのパーフルオロ化硬化部位モノマー(そのうちの少なくとも1つは、本発明の実施において使用される硬化系によって硬化することが可能な硬化部位である)を有し得る。
【0017】
本発明の様々な実施形態に使用できるパーフルオロポリマーとしては、例えば、Daikin Industries,Inc.;Solvay Solexis;Dyneon;E.I.du Pont de Nemours,Inc.;Federal State Unitary Enterprise S.V.;ロシアのLebedev Institute of Synthetic Rubber、および日本のNippon Mektronから得られるものが挙げられる。
【0018】
本発明のフルオロエラストマー組成物は、その硬化していないまたは硬化性の状態では、フルオロポリマー上に存在する少なくとも1種の硬化部位モノマーのうちの1つに対応する(例えば、少なくとも1種の硬化部位モノマーのうちの1つの架橋形成を容易にすることが可能である)少なくとも1種の硬化剤を含む。いずれの硬化剤または硬化剤の組み合わせも使用することができる。例として、フルオロエラストマー組成物の所望される最終生成物および物理的特性に応じて、過酸化物硬化性の系またはシアノ硬化性の系を利用することが所望され得る。利用される硬化系または系の組み合わせに関係なく、フルオロポリマーは、少なくとも1種の硬化部位モノマーを含有することができるが、約2から約20の(同じか、または異なる)硬化部位モノマーの存在が所望される場合もある。
【0019】
過酸化物硬化性の系を使用する場合、適切な硬化性フルオロポリマーとしては、TFEと、米国特許第5,001,279号(参照によって関連部分を本明細書に組み込む)に記載されるものなどのPAVEと、過酸化物硬化性官能基(例えば、ハロゲン化されたアルキルおよび他の誘導体、および部分的または完全にハロゲン化された炭化水素基など)を有する、フッ化構造を有する硬化部位モノマーとのターポリマーを挙げることができる。
【0020】
シアノ硬化性の系が使用される場合、適切なフルオロポリマーとしては、WO 00/08076(参照により本明細書に組み込む)に記載される通りのものまたは他の同様の構造が挙げられる。例としては、テトラフルオロエチレン、パーフルオロメチルビニルエーテル、CF=CFO(CFOCF(CF)CN、および/またはCF=CFOCFCF(CF)O(CFCNが挙げられる。他の適切な化合物は、ムーニー粘度(TechPro(登録商標)viscTECH TPD−1585粘度計で100℃で測定される)が、約45から約95、好ましくは約45から約65であるものであり得る。こうした材料はまた、硬化促進剤などの他の硬化剤と組み合わせて使用することができる。
【0021】
いずれの硬化剤または硬化剤の組み合わせも使用することができる。過酸化物系硬化系のための硬化剤は、有機過酸化物および過酸化ジアルキルなどの、当分野で開発されたことが知られている任意の過酸化物硬化剤および/または共硬化剤であり得る。シアノ系の系については、適切な主要な硬化剤として、米国特許公開第US−2004−0214956−A1号(その開示の関連部分を参照により本明細書に組み込む)に記載される通りのモノアミジンおよびモノアミドオキシムが挙げられる。
【0022】
アミジン系およびアミドキシム系材料としては、以下にさらに記載される以下の式(I)のモノアミジンおよびモノアミドキシムが挙げられる。好ましいモノアミジンおよびモノアミドオキシムは、式(I)によって表すことができる:
【0023】
【化1】
式中、Yは、約1から約22個の炭素原子を有する、置換されたアルキル、アルコキシ、アリール、アラルキル、またはアラルコキシ基、あるいは、非置換または置換の完全に、または部分的にハロゲン化されたアルキル、アルコキシ、アリール、アラルキル、またはアラルコキシ(alalkoxy)基であり得る。Yはまた、約1から約22個の炭素原子のパーフルオロアルキル、パーフルオロアルコキシ、パーフルオロアリール、パーフルオロアラルキル、またはパーフルオロアラルコキシ基、あるいは約1から12個の炭素原子または約1から約9個の炭素原子のパーフルオロアルキルまたはパーフルオロアルコキシ基であり得;Rは、水素あるいは約1から約6個の炭素原子の置換もしくは非置換の低級アルキルまたはアルコキシ基、酸素(その結果、NHRはNOH基となる)、あるいはアミノ基であり得る。Rは、Rまたはヒドロキシルについて、先に列挙した基のうちのいずれかとは独立している場合がある。Y、R、またはRと置換される基としては、ハロゲン化アルキル、パーハロゲン化アルキル、ハロゲン化アルコキシ、パーハロゲン化アルコキシ、チオ、アミン、イミン、アミド、イミド、ハロゲン、カルボキシル、スルホニル、ヒドロキシルなどが挙げられるが、これに限定されるものではない。RとRが、両方とも酸素およびヒドロキシルとして選択される場合、該化合物上に2つのNOH基が存在し(ジオキシムを使用することができる)、その場合、式(I)は、ジオキシム式(式中、炭素原子とY基は共に、介在する芳香環を形成し、かつNOH基は、例えばp−ベンゾキノンジオキシムのように、環上で互いにオルト−、パラ−、またはメタ−に位置する)を提供するように修飾されることが見出され得る。
【0024】
式(I)では、Rは、ヒドロキシル、水素、あるいは約1から約6個の炭素原子の置換または非置換のアルキルまたはアルコキシ基、より好ましくはヒドロキシルまたは水素であり得る。Rは、水素、酸素、アミノ、または約1から約6個の炭素原子の置換もしくは非置換の低級アルキルであり得るのに対して、Rは、水素またはヒドロキシルである。RとRは、両方とも水素であってもよい。Yは、上記の通りの鎖長を有するパーフルオロアルキル、パーフルオロアルコキシ、置換または非置換のアリール基、および置換または非置換のハロゲン化アリール基であり得、特に好ましいのは、RとRが両方とも水素であり、かつYが、CF(CF−である場合、すなわち化合物がヘプタフルオロブチリルアミジンまたは同様のアミドオキシム化合物である場合である。
【0025】
例示的なモノアミジン系およびモノアミドオキシム系硬化剤としては、パーフルオロアルキルアミジン、アリールアミジン(arylmidine)、パーフルオロアルキルアミドオキシム、アリールアミドオキシム、およびパーフルオロアルキルアミドラゾン(perfluoroalkylmidrazones)が挙げられる。他の例としては、パーフルオロオクタンアミジン、ヘプタフルオロブチリルアミジン、トリフルオロメチルベンズアミドオキシム、およびトリフルオロメトキシベンズアミドオキシム(trifluoromethoxybenzamidoxixime)が挙げられ、ヘプタフルオロブチリルアミジン(heptaflourobutyrlamidine)が最も好ましい。
【0026】
他の硬化剤としては、ビスフェニル系硬化剤およびビスアミノフェノールなどのその誘導体、テトラフェニルスズ、トリアジン、過酸化物系硬化系(例えば過酸化ジアルキルなどの有機過酸化物)またはそれらの組み合わせを挙げることができる。他の適切な硬化剤としては、有機金属化合物および水酸化物、特に、アリル(ally)−、プロパルギル(propargl)−、トリフェニル−、およびアレニルスズを含めた有機スズ化合物;N,N’−ジシンナミリデン−1,6−ヘキサンジアミン、トリメチレンジアミン、シンナミリデン、トリメチレンジアミン、シンナミリデンエチレンジアミンおよびシンナミリデンヘキサメチレンジアミン、ヘキサメチレンジアミンカルバメート、ビス(4−アミノシクロヘキシル(aminocyclohexly))メタンカルバメート、1,3−ジアミノプロパンモノカルバメート、エチレンジアミンカルバメート、トリメチレンジアミンカルバメート、ビスアミノチオフェノール、ビスアミドオキシム、およびビスアミドラゾンなどのジアミンおよびジアミンカルバメートなどのアミノ基を含有する硬化剤が挙げられる。過酸化物硬化系(任意の必要な助剤を含む)を使用することが最も好ましい。
【0027】
任意の硬化剤(1つまたは複数)を、単独で、組み合わせて、または第二の硬化剤と共に使用することができる。したがって、硬化系は、ビスフェニル系硬化剤およびその誘導体、テトラフェニルスズ(tetrapheyltin)、トリアジン(traizine)、過酸化物系硬化系(例えば過酸化ジアルキルなどの有機過酸化物)(第一の薬剤として使用されない場合、または組み合わせで使用される場合)または過酸化物、あるいはこれらの系の組み合わせなどの様々な第二の硬化剤を、必要とはしないが、任意選択で含むことができる。他の適切な第二の硬化剤としては、有機金属化合物およびその水酸化物、特に、アリル(ally)−、プロパルギル−、トリフェニル−、およびアレニルスズを含めた有機スズ化合物;N,N’ジシンナミリデン−1,6−ヘキサンジアミン、トリメチレンジアミン、シンナミリデン、トリメチレンジアミン、シンナミリデンエチレンジアミンおよびシンナミリデンヘキサメチレンジアミン、ヘキサメチレンジアミンカルバメート、ビス(4−アミノシクロヘキシル(aminocyclohexly))メタンカルバメート、1,3−ジアミノプロパンモノカルバメート、エチレンジアミンカルバメート、トリメチレンジアミンカルバメートおよびビスアミノチオフェノールなどのジアミンおよびジアミンカルバメートなどのアミノ基を含有する硬化剤が挙げられる。
【0028】
フルオロエラストマー組成物は、例えばヒュームドシリカなどのシリカ(二酸化ケイ素)を含むことができる。シリカは、例えば、アメリカ合衆国、New Jersey、PiscatawayのEvonik Degussa Corporationから市販されている(例えば、商品名AEROSIL(登録商標)972)。
【0029】
フルオロエラストマー組成物は、アクリレート化合物、例えば、1つまたは複数の官能性アクリレート基を含む当分野で知られているか、または開発される任意の化合物を含有することができる。アクリレート化合物は、金属アクリレート、あるいは異なるアクリレート化合物および/または金属アクリレートの組み合わせであり得る。例としては、ジアクリレート、メタクリレート、ジメタクリレート、トリアクリレート、および/またはテトラアクリレート(tetracrylate)化合物を挙げることができる。より詳細には、適切な例として、亜鉛または銅のジアクリレートおよびメタクリレートを挙げることができる。こうした化合物は、例えば、アメリカ合衆国、Pennsylvania、ExtonのSartomerから市販品として入手できることが知られている(例えば、商品名SARET(登録商標)SR633およびSARET(登録商標)SR634)。その構造に組み込まれるアクリレート基を含有する、パーフルオロエラストマー、フルオロエラストマー、エラストマー、または他の樹脂も含まれる。
【0030】
フルオロエラストマー組成物はまた、1つまたは複数のさらなる添加剤(例えばフィラー、可塑剤、ポリマーブレンドおよび着色剤)を含有することができる。所望するならば、他の添加剤は、例えば、カーボンブラック、ガラス繊維、ガラス球、ケイ酸塩、繊維ガラス、硫酸カルシウム、アスベスト、ホウ素繊維、セラミック繊維、水酸化アルミニウム、硫酸バリウム、炭酸カルシウム、フルオロ黒鉛、炭酸マグネシウム、アルミナ、窒化アルミニウム、ホウ砂、パーライト、テレフタル酸亜鉛、炭化ケイ素小板、珪灰石、テレフタル酸カルシウム、フラーレンチューブ、ヘクトライト、タルク、マイカ、カーボンナノチューブ、および炭化ケイ素ホイスカーを含むことができる。
【0031】
上述のフルオロエラストマー組成物は、任意の割合、比率、または並べ替えで、上述の様々な成分のうちのいずれかまたはすべてを含有することができる。当業者は、こうした成分および相対比は、最終生成物の所望の特性(これは、結合する成分が使用されることとなる用途によってわかることとなる)に応じて、変化および変動し得ることを知ることとなる。しかし、ある種の場面では、(フルオロポリマー100部につき(「phr」))約1から約20、約3から約15、または約5から約10phrの量のアクリレート化合物、および/または約1から約20、約3から約15、または約5から約10phrの量のシリカを組成物中に含むことが望ましい場合がある。硬化剤は、適切な硬化を提供するのに必要な量で、例えば、少なくとも約5、または約2から約4phrまでの量で存在することができる。
【0032】
本発明の物品、部品、工具、および方法は、パーフルオロエラストマー組成物が結合または接触する不活性支持体の使用を伴う。不活性支持体としては、本明細書では、ダウンホール環境において、または半導体ウエハ加工において経験され得るものなどの、攻撃的な力学的、化学的、または気圧的な力または力の任意の組み合わせにも実質的に耐性である1つまたは複数の材料で作製されるいずれのものも含まれる。不活性支持体としては、例えば、金属支持体またはケトン系ポリマー支持体を挙げることができる。支持体は、完全にまたは部分的にこうした材料を含有する任意のものでもあり得る;例えば、薄板を伴う材料、(不連続なまたは連続的な)コーティング、または複合材料が挙げられる。
【0033】
不活性支持体としては、例えばベリリウム、銅、銀、アルミニウム、クロム、チタン、ニッケル、鋼、および/または金属合金または他の金属混合物(例えば、チタン合金および銅合金、ベリリウム銅合金、ニッケル銀合金、ニッケルチタン合金、クロム合金、および鋼など)などの任意の金属を挙げることができる。ある種の場面では、金属支持体は、黄銅以外の任意の金属、または銅もしくは亜鉛の他の合金を含有することができる。アメリカ合衆国、New York、New HartfordのSpecial Metal Corporationによって、商品名INCONEL(登録商標)で販売されているオーステナイトニッケル系超合金などのチタン合金およびニッケル合金も、適切であり得る。あるいは、不活性支持体は、例えば、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)、ポリエーテルケトンケトン(PEKK)、ポリアリールエーテルケトン(PAEK)、ポリエーテルケトンエーテルケトンケトン(PEKEKK)、熱可塑性ポリイミドとブレンドされたPEEK(PEEK+TP−PI)、およびポリエーテルケトン(PEK)などの、ケトン系ポリマー(1つまたは複数)を含有することができる。
【0034】
硬化後、該フルオロエラストマー組成物は、不活性支持体との結合を形成する。結合は、20℃で、少なくとも約1500ポンドの荷重(例えば破損時の荷重)、約2000から約4000ポンドの荷重、約2500から約3500ポンドの荷重、または、約2750から約3000ポンドの荷重の結合耐久性を有する。加えて、結合は、260℃で、約500から約2000ポンドの荷重、約700から約1500ポンドの荷重、または約950から約1100ポンドの荷重の結合耐久性を有する。この結合耐久性は、硬質支持体へのゴム特性粘着のための標準試験法、ASTM D 429−03(2006)Method A(その内容を、参照により本明細書に組み込む)を使用して測定される。この方法は、2枚の1250+/−5mmの金属または硬質支持体プレートの間に、試験ゴムの3.2+/−1mmシリンダを鋳込むことを含む。40+/−.04mm/sの一定速度で、プレートを引っ張る。結合が損なわれた荷重(ポンド)が、結合の強度を示す「ポンド荷重」単位である。
【0035】
本発明は、(先に述べた通りの)硬化性パーフルオロポリマー組成物を支持体に接触させ、当分野で知られているまたは開発される任意の硬化手段によってそれを硬化させることによって、不活性支持体にフルオロエラストマー組成物を結合させる方法を含む。別の方法は、フルオロエラストマー組成物のプリフォームを最初に調製することを含む。プリフォームは、切断、クリッキング(clicking)、押し出し、または成型を含めた、いずれの手段によっても形成することができる。プリフォームは、部分的に硬化していてもよい(例えば、所望の程度には達しないが、若干の架橋が生じていてもよい)。プリフォームを、不活性支持体に接触させ、in situで硬化させる。
【0036】
上述の結合耐久性を有する結合が、フルオロエラストマー組成物と不活性支持体との間に形成される。結合が、ポリマー加硫物として形成される場合、これは、例えば、プレス硬化中に生じる。
【0037】
不活性支持体にフルオロエラストマー組成物を結合させる方法も、本発明の範囲内に含まれる。こうした方法は、硬化性フルオロエラストマー組成物(上述の成分のいずれかまたはすべてを含有する)およびアクリレート化合物および硬化剤を、不活性支持体と接触させることを含む。フルオロポリマーは、少なくとも1種の硬化部位モノマーを含むべきである。接触後、フルオロエラストマー組成物を、in situ硬化させ、該組成物と不活性支持体との間に結合を形成させる。結合は、ASTM D 429−03によって測定されるとき、先に開示した耐久性に相当する結合耐久性を有する。
【0038】
加熱硬化、高エネルギーの適用による硬化、加熱硬化、プレス硬化、蒸気硬化、圧力硬化、電子ビーム硬化または手段の任意の組み合わせによる硬化などを含めた、当分野で知られているまたは開発される任意の手段によって、いずれの方法における硬化も、達成することができる。所望するならば、硬化後処理も適用することができる。
【0039】
上記の物品および/または方法は、石油化学工業において使用されるダウンホール工具の一部分を調製するために使用することができる。こうした一部品または工具としては、例えば、米国特許第7,339,161号;第7,337,858号;第7,337,852号;第7,334,642号;第7,328,755号;第7,328,750号;第7,322,408号;第7,322,407号;第7,320,366号;第7,320,252号;第7,316,281号;第7,316,277号;第7,305,306号(これらの各々の内容を、開示される工具のタイプに関して参照により本明細書に組み込む)に開示されるものが挙げられる。
【0040】
発明の広範な概念から逸脱することなく、上記の実施形態に対する変更を行うことができることが、当業者によって理解されるであろう。したがって、この発明は、開示される特定の実施形態に限定されず、特許請求の範囲において定義した本発明の趣旨および範囲内の改変形態を包含することが意図されることが理解されよう。
【実施例】
【0041】
実施例1
フルオロエラストマー組成物の調製
硬化性フルオロエラストマー組成物を、以下の成分(表1)を組み合わせるためのバンバリーミキサーを使用して合成する:
表1:
【0042】
【表1】
SARET SR633は、アメリカ合衆国、Pennsylvania、ExtonのSartomerから入手可能な、市販品として入手できる無水ジアクリル酸亜鉛である。
【0043】
実施例2
パーフルオロエラストマー組成物の調製
硬化性パーフルオロエラストマー組成物を、以下の成分(表2)を組み合わせるためのバンバリーミキサーを使用して合成する:
表2:
【0044】
【表2】
STRUCKTOL WS 280は、アメリカ合衆国、Ohio、StowのStrucktol Americaから入手可能な、専有の有機シリコーン化合物である。AEROSIL R972は、アメリカ合衆国New Jersey、PiscatawayのEvonik Degussa Corporationから入手可能な、ヒュームドシリカに対する商品名(例えば、商品名AEROSIL(登録商標)972)である。SARET SR633は、アメリカ合衆国、Pennsylvania、ExtonのSartomerから入手可能な、市販品として入手できる無水ジアクリル酸亜鉛である。Varox(dbph 50%)は、炭酸カルシウムおよびシリカバインダーを含む2,5−ジメチル−2,5 ジ−(t−ブチルペルオキシ)ヘキサンの専有の調合物に対する商品名である。
【0045】
得られた材料を、様々な支持体に結合させ、結合耐久性ならびに他の力学的および化学的特性を、実施例3および4に記載する通りに評価する。
【0046】
実施例3
結合耐久性の評価
組成物1〜4を、アルミニウム、ステンレススチール、INCONEL 825(モリブデン、銅、およびチタンを添加した、ニッケル−鉄−クロム合金)、およびチタンの支持体に結合させた。先に述べた通りのASTM D429−03、方法Aを使用する20℃での破損時の荷重によって評価される通りの結合耐久性の結果を、以下の表2に示す。各組成物に対する数は、3つのサンプルについて行われた3つの試験の平均に相当する。
表3:
【0047】
【表3】
実施例4
物理的および化学的特性の評価
実施例2の各々の組成物1〜5の標準の物理的および化学的特性を評価し、結果を表3に示す:
表4:
【0048】
【表4-1】
【0049】
【表4-2】
上のデータを得るために、液体のゴム特性効果についてのASTM D471標準試験法に記載された試験プロトコル(その文脈を参照により本明細書に組み込む)を使用して、Oリングを試験した。
本発明の好ましい実施形態によれば、例えば、以下が提供される。
(項1)
不活性支持体に結合した硬化したフルオロエラストマー組成物を含む物品であって、該硬化したフルオロエラストマー組成物が、フルオロポリマー、シリカ、およびアクリレート化合物を含む物品。
(項2)
前記結合の結合耐久性が、20℃で少なくとも約1500ポンドの荷重である、上記項1に記載の物品。
(項3)
前記フルオロエラストマーが、パーフルオロエラストマーである、上記項1に記載の物品。
(項4)
前記不活性支持体が、金属支持体である、上記項1に記載の物品。
(項5)
前記不活性支持体が、ベリリウム、銅、銀、アルミニウム、チタン、ニッケル、鋼、クロム、およびステンレス鋼から選択される、上記項1に記載の物品。
(項6)
前記不活性支持体が、チタン合金、銅合金、ベリリウム銅合金、ニッケル銀合金、ニッケルチタン合金、クロム合金、および鋼から選択される、上記項1に記載の物品。
(項7)
前記不活性支持体が、ケトン系ポリマー、ポリエーテルエーテルケトン、ポリエーテルケトンケトン、ポリアリールエーテルケトン、ポリエーテルケトンエーテルケトンケトン、およびポリエーテルケトンから選択される、上記項1に記載の物品。
(項8)
前記フルオロポリマーが、フッ素含有エチレン性不飽和モノマー、テトラフルオロエチレン、パーフルオロ化オレフィン、ヘキサフルオロプロピレン、およびパーフルオロ(エチルビニルエーテル)から選択されるモノマーを含む、上記項1に記載の物品。
(項9)
硬化の前に、前記フルオロエラストマー組成物が、硬化剤と、硬化部位モノマーを含む硬化していないパーフルオロポリマーとを含む、上記項1に記載の物品。
(項10)
少なくとも1つの硬化部位モノマーが、シアノ基硬化部位モノマー、オレフィン含有硬化部位モノマー、およびハロゲン化オレフィン含有硬化部位モノマーから選択される、上記項9に記載の物品。
(項11)
前記硬化剤が、過酸化物硬化剤、有機スズ硬化剤、アミノ硬化剤、ビスアミノフェノール硬化剤、ビスアミノチオフェノール硬化剤、ビスアミドラゾン硬化剤、官能基化されたビフェニル系硬化剤、ならびにそれらの誘導体および組み合わせから選択される、上記項9に記載の物品。
(項12)
前記アクリレート化合物が金属アクリレートである、上記項1に記載の物品。
(項13)
前記アクリレート化合物がジアクリル酸亜鉛である、上記項1に記載の物品。
(項14)
前記アクリレート化合物が、メタクリレート化合物、ジメタクリレート化合物、ジメタクリル酸亜鉛、およびジアクリル酸銅から選択される、上記項1に記載の物品。
(項15)
前記フルオロエラストマー組成物が、フィラー、可塑剤、ポリマーブレンド、および着色料から選択される添加剤をさらに含む、上記項1に記載の物品。
(項16)
前記フルオロエラストマー組成物が、カーボンブラック、ガラス繊維、ガラス球、ケイ酸塩、繊維ガラス、硫酸カルシウム、アスベスト、ホウ素繊維、セラミック繊維、水酸化アルミニウム、硫酸バリウム、炭酸カルシウム、フッ化黒鉛、黒鉛、炭酸マグネシウム、アルミナ、窒化アルミニウム、ホウ砂、パーライト、テレフタル酸亜鉛、炭化ケイ素小板、珪灰石、テレフタル酸カルシウム、フラーレンチューブ、ヘクトライト、タルク、マイカおよび炭化ケイ素ホイスカーから選択される添加剤をさらに含む、上記項1に記載の物品。
(項17)
フルオロエラストマー組成物を不活性支持体に結合させる方法であって、該方法は:
(a)アクリレート化合物、硬化剤、シリカ、および硬化部位モノマーを含む硬化性フルオロポリマーを含む硬化性フルオロエラストマー組成物を不活性支持体に接触させる工程;および
(b)該フルオロエラストマー組成物と不活性支持体との間に結合を形成するために、該フルオロエラストマー組成物を硬化させる工程
を含む、方法。
(項18)
前記ステップ(b)で形成される結合が、20℃で少なくとも約1500ポンドの結合耐久性を有する、上記項17に記載の方法。
(項19)
前記フルオロエラストマー組成物が、パーフルオロエラストマー組成物である、上記項17に記載の方法。
(項20)
前記不活性支持体が、金属支持体である。上記項17に記載の方法。
(項21)
前記不活性支持体が、ベリリウム、銅、銀、アルミニウム、クロム、チタン、ニッケル、鋼、およびステンレス鋼から選択される金属支持体である、上記項17に記載の方法。
(項22)
前記不活性支持体が、チタン合金、銅合金、ベリリウム銅合金、ニッケル銀合金、ニッケルチタン合金、クロム合金、および鋼から選択される金属合金である、上記項17に記載の方法。
(項23)
前記パーフルオロポリマーが、フッ素含有エチレン性不飽和モノマー、テトラフルオロエチレン、パーフルオロ化オレフィン、ヘキサフルオロプロピレン、およびパーフルオロ(エチルビニルエーテル)から選択されるモノマーを含む、上記項17に記載の方法。
(項24)
前記アクリレート化合物が、金属アクリレートである上記項17に記載の方法。
(項25)
前記組成物が、加熱硬化、光硬化、圧力硬化、蒸気硬化、および電子ビーム硬化から選択される硬化によって硬化する上記項17に記載の方法。
(項26)
不活性支持体に結合させるための硬化性フルオロエラストマー組成物であって、
(a)少なくとも1つの硬化部位モノマーを含むフルオロポリマー;
(b)硬化剤;
(c)シリカ;および
(d)アクリレート化合物;
を含み、硬化後は、該不活性支持体への該組成物の結合耐久性が、20℃で少なくとも約1500ポンドの荷重である、組成物。
(項27)
前記フルオロポリマーが、フッ素含有エチレン性不飽和モノマー、テトラフルオロエチレン、パーフルオロ化オレフィン、ヘキサフルオロプロピレン、およびパーフルオロ(エチルビニルエーテル)から選択されるモノマーを含む、上記項26に記載の組成物。
(項28)
少なくとも1つの前記硬化部位モノマーが、シアノ基硬化部位モノマー、オレフィン含有硬化部位モノマー、およびハロゲン化オレフィン含有硬化部位モノマーから選択される、上記項26に記載の組成物。
(項29)
前記硬化剤が、過酸化物硬化剤、有機スズ硬化剤、アミノ硬化剤、ビスアミノフェノール硬化剤、ビスアミノチオフェノール硬化剤、ビスアミドラゾン硬化剤、および官能基化されたビフェニル系硬化剤から選択される、上記項26に記載の組成物。
(項30)
前記アクリレート化合物が、金属アクリレートである、上記項26に記載の組成物。
(項31)
前記アクリレート化合物が、ジアクリル酸亜鉛である、上記項26に記載の組成物。
(項32)
前記アクリレート化合物が、メタクリレート化合物、ジメタクリレート化合物、ジメタクリル酸亜鉛、およびジアクリル酸銅から選択される、上記項26に記載の組成物。
(項33)
フィラー、可塑剤、ポリマーブレンド、および着色料から選択される添加剤をさらに含む、上記項26に記載の組成物。
(項34)
カーボンブラック、ガラス繊維、ガラス球、ケイ酸塩、繊維ガラス、硫酸カルシウム、アスベスト、ホウ素繊維、セラミック繊維、水酸化アルミニウム、硫酸バリウム、炭酸カルシウム、フッ化黒鉛、黒鉛、炭酸マグネシウム、アルミナ、窒化アルミニウム、ホウ砂、パーライト、テレフタル酸亜鉛、炭化ケイ素小板、珪灰石、テレフタル酸カルシウム、フラーレンチューブ、ヘクトライト、タルク、マイカ、および炭化ケイ素ホイスカーから選択される添加剤をさらに含む、上記項26に記載の組成物。
(項35)
フルオロエラストマー組成物に結合した不活性支持体を含む物品を形成する方法であって、該方法は:
(a)硬化性フルオロエラストマー組成物を含むプリフォームを形成する工程(ここでは、該硬化性フルオロエラストマー組成物は、少なくとも1つの硬化部位モノマー、アクリレート化合物、シリカ、および硬化剤を有する硬化性フルオロポリマーを含む);
(b)不活性支持体にプリフォームを接触させる工程;および
(c)プリフォームを硬化し、20℃で少なくとも約1500ポンドの荷重の結合耐久性を有する、該フルオロエラストマー組成物と不活性支持体との間の結合を形成する工程
を含む方法。
(項36)
前記不活性支持体が、金属支持体およびケトン系ポリマー支持体から選択される、上記項35に記載の方法。
(項37)
前記組成物が、加熱硬化、光硬化、圧力硬化、蒸気硬化およびeビーム硬化から選択される硬化によって硬化する、上記項35に記載の方法。
(項38)
硬化したフルオロエラストマー組成物に結合した不活性支持体を含み、該フルオロエラストマー組成物が、フルオロポリマー、シリカ、およびアクリレート化合物を含む、ダウンホール工具。
(項39)
前記結合の結合耐久性が、20℃で少なくとも約1500ポンドの荷重である、上記項38に記載の工具。
(項40)
前記支持体が、金属支持体およびケトン系ポリマー支持体から選択される、上記項38に記載の工具。
(項41)
前記不活性支持体が、ベリリウム、銅、銀、アルミニウム、チタン、クロム、ニッケル、鋼、およびステンレス鋼、チタン合金、銅合金、ベリリウム銅合金、ニッケル銀合金、ニッケルチタン合金、クロム合金、および鋼から選択される、上記項38に記載の工具。
(項42)
前記フルオロポリマーが、フッ素含有エチレン性不飽和モノマー、テトラフルオロエチレン、パーフルオロ化オレフィン、ヘキサフルオロプロピレン、およびパーフルオロ(エチルビニルエーテル)から選択されるモノマーを含む、上記項38に記載の工具。
(項43)
硬化の前に、前記フルオロエラストマー組成物が、硬化剤と、硬化部位モノマーを含むフルオロポリマーとを含む、上記項38に記載の工具。
(項44)
少なくとも1つの前記硬化部位モノマーが、シアノ基硬化部位モノマー、オレフィン含有硬化部位モノマー、およびハロゲン化オレフィン含有硬化部位モノマーから選択される、上記項38に記載の工具。
(項45)
前記硬化剤が、過酸化物硬化剤、有機スズ硬化剤、アミノ硬化剤、ビスアミノフェノール硬化剤、ビスアミノチオフェノール硬化剤、ビスアミドラゾン硬化剤、および官能基化されたビフェニル系硬化剤から選択される、上記項38に記載の工具。
(項46)
前記アクリレート化合物が、金属アクリレートである、上記項38に記載の工具。