【課題を解決するための手段】
【0017】
本発明は、これらの従来技術の不利点を克服しようとするものである。よって、本発明により、少なくとも1層の金属酸化物結晶性セラミック層を基板の表面上に堆積させる方法であって、該方法が、
(i)金属酸化物結晶性セラミックの可溶性塩前駆体の溶液を該基板の該表面上に堆積させ、該可溶性塩前駆体の該溶液の層を該表面上に画定する工程であって、該表面が金属表面およびセラミック表面からなる群から選択させる工程と、
(ii)該可溶性塩前駆体の該溶液を乾燥させ、該可溶性塩前駆体の層を該表面上に画定する工程と、
(iii)該可溶性塩前駆体を該表面上で150〜600℃の温度まで加熱し、分解して金属酸化物膜の層を該表面上に形成する工程と、
(iv)工程(i)〜(iii)を少なくとももう1回繰り返す工程であって、該可溶性塩前駆体の該溶液を該金属酸化物膜上に堆積させ、該表面上の該金属酸化物膜が複数の金属酸化物層を含むようにする工程と、
(v)該表面上に該金属酸化物膜を有する該基板を500〜1100℃の温度で焼成して該金属酸化物膜を結晶化し、該基板の該表面に結合した金属酸化物結晶性セラミック層を生成させる工程と
を含み、
各工程(ii)、(iii)および(v)を空気雰囲気中で行う方法を提供する。
【0018】
好適には、各工程(i)〜(v)は空気雰囲気中で行う。これは、処理工程を費用のかかる雰囲気を用いる密閉または高度に制御されたガス環境で行う必要性を回避するので、商業的に非常に有用かつ便利である。
【0019】
「溶液」とは、少なくとも1つの物質(溶剤)中の少なくとも1つの他の物質(溶質)からなる真溶液を意味し、すなわち、固体粒子の存在を除き、よってコロイド分散液、コロイド溶液、および機械的懸濁液を除く。
【0020】
本発明者らが行う実験は、工程(i)の層における固体の存在が亀裂およびひいては層の質を低下させる応力点をもたらすことを示した。よって、本発明者らは、均一に乾燥およびアニールする薄層堆積処理を有することが望ましいことを見出した。均一な層の堆積は、亀裂のリスクの低い均一な乾燥およびアニールを可能にする。ゾルゲル混合物または固体粒子を含む懸濁液からなる層は、不均一に乾燥し、また、不均一に焼結する傾向があり、懸濁液領域は、粒子またはゲルのまわりより早く乾燥し、亀裂を引き起こし得る機械的乾燥およびアニール応力を発生させる。従って、十分な厚さの層を生成させるには、いくつもの薄層を堆積させることが必要である。
【0021】
さらに、国際公開公報第96/29712号の方法は、アニール温度で直接結晶化形態へゾルゲル転移し、本発明の工程(iii)の中間形態を有しないので、本発明の方法を明らかに含まない。よって、亀裂のない層を生成させるには、何度も堆積させてアニールすることが必要となるだろう。これは処理時間および費用を増加させ、金属基板を用いて空気中でアニールを行う場合、金属基板を酸化物層成長条件ならびに金属または酸化物層から燃料電池電極および電解質層への金属イオンの移動にさらす回数も増加させるが、どちらの結果も、とくに燃料電池の製造、作動および耐久性にとって望ましくない。
【0022】
国際公開公報第96/29712号は、ゾルのスピンコートを用いることも教示するが、それは必然的に粒子の不均一な分散をもたらし、結果として金属酸化物の結晶性セラミックが基板の表面にわたり不均一となり、最終製品の機械的欠陥および不均一/次善の使用性能のさらなるリスクをもたらす。燃料電池および空気分離装置の電解質層の場合、(i)電極を互いに電気絶縁して短絡を防ぎ、(ii)確実にガス不透過性とするためには高密度が好ましいので、ゾルを用いることは得ることができる金属酸化物の結晶性セラミックの密度を制限し、ひいては使用性能を制限することになり得る。
【0023】
後述するように、本発明の方法は、金属酸化物の結晶性セラミックの層の堆積およびひいては高真空または1100℃を超える温度のような非経済的、不便、または非実用的な処理条件の要件なしに固体電解質型燃料電池の製造を可能にする。これはフェライトステンレス鋼のようなステンレス鋼基板などの基板を用いることを可能にする。
【0024】
好適には焼成工程(v)の最高温度は、1000℃以下である。1000℃を超える処理温度では、より急速な鋼の酸化、ならびに不安定な金属種、とくに例えばフェライトステンレス鋼のようなステンレス鋼によく見られるクロムの、一般的なカソードおよび/または電解質および/またはアノード材料への移動が起こり、これは燃料電池の性能の低下をもたらすことが知られている。
【0025】
また、複合ジルコニア/セリア電解質構造の従来技術の実施形態(例えば国際公開公報第02/17420号のもの)は、セリアとアノードとの間に、すなわちアノードと接触してジルコニア層を置いていることが認識されるだろう。これは、ジルコニア層がガス不透過性であるならば、上記のCGO層の還元を回避し、よって混合伝導性の問題を完全に回避するという特定の理論的利点を有する。しかしながら、こうした従来技術の実施形態は、とりわけ以下のような重大な欠陥を有し、本発明はこれを克服しようとするものである。
・低SOFC作動温度(<600℃)では、電解質にドープセリアよりずっと低いイオン伝導性を有するジルコニアを用いることにより、アノード−電解質界面でアノードの触媒活性が低下する可能性が高い。
・こうした実施形態を、有害な材料の相互作用が起こる、金属支持型SOFCの最高処理温度より高い温度で、ジルコニアとCGOとを共焼結することなく製造することは困難である。
【0026】
よって、好適には、本発明の方法は、燃料電池または空気分離装置の電解質中間層を堆積させる方法であって、表面は電解質表面であり、その方法は少なくとも1層の追加層を少なくとも1層の金属酸化物の結晶性セラミックの層の上に堆積させるステップ、および電極層を少なくとも1層の追加層の上に堆積させ、少なくとも1層の金属酸化物の結晶性セラミックの層が電極層に接触しないようにするステップをさらに含む方法である。より好適には、電極層はカソード層である。
【0027】
従来技術とは対照的に、電極孔の透過性により、工程(i)の溶液(金属酸化物の結晶性セラミックの可溶性塩前駆体の溶液)がその表面上に不透過層となり得る連続層を形成せずに多孔質構造にしみ込んでしまうので、本発明の方法を用いて直接多孔質電極基板上に層を製造することはできないことをさらに記載する。
【0028】
このように、本発明は、金属酸化物の結晶性セラミック層を予備形成した不透過セラミック層の表面上および金属または鋼、例えばフェライトステンレス鋼箔基板のような不透過性の金属表面などの表面の上に堆積させるのにとくに適している。
【0029】
本発明は、とくには、英国特許第2368450号および同第2434691号に開示されるもののような金属支持型中温燃料電池の設計に適用可能である。
【0030】
とりわけ、本発明は、燃料電池電極を互いに電気絶縁して内部短絡を防止するため燃料電池のドープセリア主電解質中に堆積させる安定化ジルコニアの中間層の製造に有用である。
【0031】
好適には、少なくとも1層の金属酸化物の結晶性セラミックの層の堆積前の基板の表面は、通常、平面または連続して平滑である。好適には、基板の表面は、通常、不透過性、すなわち非多孔質で液体に対して不浸透性である。好適には、基板は急速な温度サイクルに耐えることができる。
【0032】
このように、本発明の方法は、とくに、SOFC、より好適には低温または中温SOFCの一部としての金属酸化物の結晶性セラミックの層の堆積によく適している。とくに、本発明の方法は、金属支持型SOFC、より好適には低温または中温金属支持型SOFCの一部としての金属酸化物の結晶性セラミックの層の堆積によく適しており、金属支持体(好適にはフェライトステンレス鋼のようなステンレス鋼から製造する箔、およびより好適には無孔領域に囲まれた有孔領域を有する箔)固有のロバスト性は、本発明のパラメータ内の最高処理温度に制限をかけながら、急速な温度サイクルを可能にする。
【0033】
よって、表面は、好適には電解質層であり、より好適には混合イオン電子伝導性電解質材料から製造する電解質層であり、より好適にはCGO電解質層である。上に堆積を行う他の好適なセラミック表面としては、スカンジア安定化ジルコニア(ScSZ)およびスカンジアイットリア共安定化ジルコニア(ScYSZ)が挙げられる。
【0034】
好適には、金属酸化物の結晶性セラミックの層は、高密度の層である。好適には、金属酸化物の結晶性セラミックの層は、少なくとも90%の密度(すなわち、その理論的密度は少なくとも90%)である。より好適には、少なくとも91、92、または93%の密度である。より好適には少なくとも93%の密度である。金属酸化物の結晶性セラミック層は、好適にはガス不透過性である。これは、金属酸化物結晶性セラミックの堆積層がジルコニアを含むことができ、内部短絡を防止するため中間層がイオン透過性、電気絶縁性、およびガス不透過性であることが望ましい燃料電池電解質の製造に、本発明を用いる場合にとくに重要である。
【0035】
可溶性塩前駆体は、表面上に堆積させる場合、連続する均一な膜として広げて乾燥することが望ましい。好適には、金属酸化物結晶性セラミックの可溶性塩前駆体の溶液は、噴霧、浸漬、インクジェット印刷およびスピンコートからなる群から選択する方法により表面上に堆積させる。噴霧技術の例は、空気補助およびガス補助噴霧である。
【0036】
好適には、可溶性塩前駆体は、表面張力の低い溶剤中に溶解させる。好適な溶剤としては、メタノール、エタノール、プロパノール、メトキシプロパノール(別名1-メトキシ-2-プロパノール、PGME、1-メトキシプロパン-2-オール、プロピレングリコールメチルエタール)、アセトンおよびブチルカルビトールが挙げられる。可溶性塩前駆体の溶剤を選択するときに考慮する要素としては、溶剤における前駆体の可溶性、乾燥速度および表面張力効果によって表面上の可溶性塩前駆体層をならす容易さが挙げられる。適切な溶剤は当、業者には容易に明らかであろう。
【0037】
上記で詳述するように、可溶性塩前駆体は、加熱して金属酸化物膜を形成する場合、分解させる必要がある。適切な塩としては、硝酸塩および有機金属塩が挙げられるが、これらに限定されない。有機金属塩は、一般的に良好な膜を形成するので、とくに好ましい。好ましい塩は、アセチルアセトナートである。
【0038】
出願人は、可溶性塩前駆体中にポリエチレングリコール(PEG)のような高分子量の有機化合物を含むことにより、均一な膜を表面上に堆積させることができることを見出した。
【0039】
例えば、(i)スカンジア安定化ジルコニア(ScSZ)膜または(ii)スカンジアイットリア安定化ジルコニア(ScYSZ)膜の堆積に適した可溶性塩前駆体としては(それぞれ)(i)ジルコニウムアセチルアセトナートおよび硝酸スカンジウム、ならびに(ii)ジルコニウムアセチルアセトナート、硝酸スカンジウムおよび硝酸イットリウムが挙げられる。セリアガドリニア(CGO)膜の堆積に適した可溶性塩前駆体としては、セリウムアセチルアセトナートおよび硝酸ガドリニウムが挙げられる。こうした可溶性塩前駆体に適した溶剤は、エタノールおよびメチルプロパノールの混合物である。
【0040】
後述するように、金属酸化物膜および得られる金属酸化物の結晶性セラミックの層は、単一の金属酸化物から形成する必要はなく、従って可溶性塩前駆体は、複数種の金属の複数種の可溶性塩を含むことができる。
【0041】
好適には、用いる堆積技術は、噴霧であり、より好適には空気噴霧である。好適には、噴霧は、音波噴霧器または超音波噴霧器を用いて行う。好適には、堆積工程(i)は、単一噴霧パスで行う。好適には、堆積工程(i)は、10〜100℃の温度、より好適には15〜50℃、より好適には室温で行う。好適には、温度は、基板の表面温度であり、すなわち堆積工程(i)は、10〜100℃の温度、より好適には15〜50℃、より好適には室温の基板の表面(または必要応じて金属酸化物膜)を用いて行う。
【0042】
よって、可溶性塩前駆体の溶液を噴霧する場合、噴霧条件は、好適には表面(または金属酸化物膜)上に噴霧した溶液がたまって水滴となる傾向を最小化するように最適化する。これは、単一パスでの噴霧を用いて好適に堆積させ、均一でコヒーレントな膜を形成するのに十分な液体を確実に堆積させることにより行うことができる。空気噴霧を用いる場合、用いる空気を低減することは、堆積層の形成を補助する。音波噴霧器または超音波噴霧器を追加で用いることもまた、空気堆積処理を補助し、良好で均一かつコヒーレントな堆積膜をもたらす。基板を加熱することは通常必要ではなく、15〜50℃の基板温度がコヒーレントで均一な膜を得るには十分である。
【0043】
好適には、表面(または金属酸化物膜)上に堆積させた可溶性塩前駆体の層は、乾燥工程(ii)の前に均一な厚さにならすことができる。よって、本方法は、表面上に堆積させた溶液を少なくとも5、10、15、20、25、30、35、40、45、50、55または60秒の間置いておく工程を、工程(ii)の前にさらに含むことができる。この堆積後のドウェル時間は、好適には、空気中で、標準雰囲気条件で、室温で、より好適には、15〜50℃の温度で行う。このドウェル時間中に、膜は通常乾燥し始める。
【0044】
不適当な乾燥または加熱条件は、可溶性塩前駆体の層の不均一な厚さ(乾燥工程後)および表面(または金属酸化物膜)上の金属酸化物膜の不均一な層をもたらし得るので、乾燥工程は重要である。乾燥後に可溶性塩前駆体の層が、または、加熱後に金属酸化膜が不均一になるほど、とくに最も厚い場所に亀裂が入る可能性がますます高くなる。
【0045】
本発明者らは、堆積工程、とくに堆積工程の反復中に温度を制御することが技術的にとくに重要であり、加熱工程(iii)の完了直後の100℃を超える基板/金属酸化物膜の表面温度での可溶性塩前駆体の溶液の層の堆積は、溶液の急速な乾燥および不均一な厚さを有する可溶性塩前駆体層の形成をもたらし、ひいては得られる金属酸化物の結晶性セラミックの層における亀裂および機械的欠陥の増加ならびに製品寿命の減少をもたらすことを見出した。
【0046】
好適には、可溶性塩前駆体の堆積溶液中の溶剤の少なくとも90%を乾燥工程(ii)終了までに除去する。
【0047】
乾燥工程(ii)の一般的な条件は、15〜50℃の温度、より一般的には室温である。
【0048】
特定の条件では(例えば、特定のタイプの溶剤を用いる場合、または特定の雰囲気条件では)、>90%の溶剤蒸発を達成するため、乾燥工程(ii)中に追加の加熱を要することがあり得る。例えば、乾燥工程中、可溶性塩前駆体の溶液は、>90%の溶剤蒸発を達成するのに十分な時間、約100℃まで加熱することができる。
【0049】
乾燥工程は、十分な溶剤(一般的に>90%)を除去し、さらなる処理のため安定した、コヒーレントで均一な膜を作製する。
【0050】
可溶性塩前駆体を表面上で加熱して分解し、金属酸化物膜を形成する工程は、好適には、可溶性塩前駆体を150〜600℃の温度まで、より好適には約550℃まで加熱するステップを含む。
【0051】
可溶性塩前駆体を表面上で150〜600℃まで加熱する工程は、結晶化を開始させることができる。そのため、金属酸化物膜は、半結晶性の金属酸化物膜とみなすことができる。しかしながら、結晶化は、加熱工程(iii)の終了時では不完全であり、焼成工程(v)をさらに要する。
【0052】
好適には、加熱は、赤外線熱源のような急速加熱熱源を用いて行う。これは加熱を5分未満、好適には4、3、2または1分未満で、均一かつ便利に行うことを可能にする。より好適には、加熱工程(iii)は、60秒未満で行う。この急速加熱は、製造処理中の電池の急速スループットを可能にする。
【0053】
堆積、乾燥および加熱のサイクルごとに得ることができる最大層厚は、乾燥または分解(加熱)中の亀裂の回避次第である。
【0054】
好適には、金属酸化物膜の各層は、10〜999nm、より好適には25〜250nm、より好適には50〜200nm、より好適には75〜150nm、より好適には100〜150nmの厚さを有する。
【0055】
工程(i)〜(iii)を繰り返し、複数の金属酸化物膜の層を表面上に画定する。好適には、加熱工程(iii)の後、堆積工程(i)の反復の前、基板および金属酸化物膜を加熱工程(iii)で用いた分解温度を下回る温度まで、より好適には<100℃まで、より好適には<50℃まで冷却する。大量生産工場では、急速冷却は、被膜基板(例えば金属箔)を水冷金属板のような冷表面上に置くことにより行うことができ、そこでは、比較的熱容量の低い基板から比較的熱容量が大きく、より冷たい金属冷却板への急速な熱移動を行うことができる。他の冷却機構は、当業者には明らかであろう。簡単な処理では、次の処理段階の前に電池を空気中で冷却することができる。
【0056】
各反復工程(iv)で異なる可溶性塩前駆体を用いることができ、よって、金属酸化物結晶性セラミック内で、層構造が生成する。このように、例えば、ジルコニウムアセチルアセトナート、硝酸スカンジウム、および硝酸イットリウムからなる群から選択する可溶性塩前駆体を工程(i)〜(iii)に用いることができ、工程(i)〜(iii)の反復では、可溶性塩前駆体は、セリウムアセチルアセトナートおよび硝酸ガドリニウムからなる群から選択することができる。こうして、工程(v)で生成する金属酸化物の結晶性セラミック層は、第1の結晶性セラミックScYSZ膜および第2の結晶性セラミックCGO膜からなる薄層状となる。
【0057】
乾燥および分解(加熱工程(iii))は、ともに可溶性塩前駆体層の大幅な収縮を引き起こす。層が十分に薄い場合、乾燥および/または分解の結果として蓄積する収縮応力は、亀裂または機械的欠陥を引き起こさず、高密度で欠陥のない金属酸化物膜が形成される。しかしながら、層が厚すぎる場合、収縮応力は、亀裂または層間剥離さえも、およびひいては得られる金属酸化物結晶性セラミック層の欠陥を引き起こし得る。
【0058】
結晶化の際にさらなる収縮が起こるので、結晶化前に堆積させ、分解することができる金属酸化物膜の最大厚さは、結晶化の際の亀裂の回避に要するものである。金属酸化物の膜厚は、結晶化前に行う連続堆積および分解数により決定し、これらの膜の各厚さは、上述のように制限される。
【0059】
結晶化前の実際の金属酸化物膜の許容可能な最大厚さは、堆積させる材料および結晶化の際のその収縮度合、分解処理から残される炭素のような残存材料の濃度、ならびに堆積層の均一性などの要素によって決まるだろう。
【0060】
好適には、工程(i)〜(iv)の完了後、金属酸化物膜は、100〜999nm、より好適には400〜600nmの範囲内の厚さを有する。
【0061】
好適には、金属酸化物の結晶性セラミック層は、100〜999nm、より好適には200〜800nm、より好適には250〜700nm、より好適には400〜600nmの厚さを有する。
【0062】
好適には、焼成工程(v)で金属酸化物膜は、ほぼ完全に結晶化し、より好適には完全に結晶化し、金属酸化物の結晶性セラミック層となる。
【0063】
好適には、金属酸化物の結晶性セラミック層は、不透過性である。好適には、金属酸化物の結晶性セラミック層は、連続する、すなわち亀裂の入っていない、多孔質、有孔性、透過性の層であり、そうでなければ機械的に損傷した層である。
【0064】
より厚い金属酸化物結晶性セラミック層を提供することを所望する場合、工程(i)〜(v)を繰り返すことができ、このとき表面は、前に生成した金属酸化物結晶性セラミック層である。しかしながら、基板から燃料電池電解質および/または電極への不要な金属イオン種の移動を回避し、また、基板上での不要な酸化物層成長を回避するため、追加の焼結工程は、回避することが一般的に望ましい。
【0065】
よって、本方法は
(vi)工程(i)〜(v)を少なくとも1回繰り返す工程であって、表面が工程(v)で前に生成させた金属酸化物結晶性セラミック層である工程
をさらに含むことができる。
【0066】
こうして中間結晶を有し、その後さらなる層を結晶化層の上に堆積させて、全層厚をさらに増加させることができる。
【0067】
工程(vi)を用いる場合、工程(i)〜(v)の各反復を前反復と同じ条件を用いて行う必要はない。よって、同じまたは異なる金属酸化物結晶性セラミックの可溶性塩前駆体の異なる溶液を用いることができる。工程(iv)は、反復工程(v)に組み込んでも組み込まなくてもよく、組み込む場合、工程(i)〜(iii)を異なる回数繰り返すことができる。
【0068】
こうして、同じ金属酸化物の結晶性セラミックの一連の層を生成させるのと同様に、工程(i)〜(v)を所望の回数繰り返すことにより(その製品は単一材料の層として扱うことができる)、複数の別々の金属酸化物の結晶性セラミックの層を、表面上に順に重ねて生成させることもでき、金属酸化物結晶性セラミックの各層は、前に生成した金属酸化物結晶性セラミック層とは異なる。
【0069】
これは、本発明の方法を電解質中間層の製造、さらに低温または中温金属支持型SOFCの製造に用いる場合、とくに有用となり得る。ひいては、例えば、本発明は、混合イオン電子伝導性電解質層の製造に用いることができる。
【0070】
このように、本発明の方法は好適には、燃料電池電解質の少なくとも1つの層を形成する方法である。より好適には、SOFC、IT‐SOFCおよび金属支持型IT‐SOFCからなる群から選択する燃料電池の電解質の少なくとも1つの層を形成する方法である。
【0071】
例えば(上で詳述するように)、SOFCのアノード−電解質−カソードの層構造内では、混合イオン電子伝導性電解質層中に電気絶縁性のイオン伝導層を備えることが大いに望ましくあり得る。よって、ガス不透過性、イオン透過性、電気絶縁性の金属酸化物結晶性セラミック層という形をとる中間層をCGO主層(金属酸化物結晶性セラミック層)の上に堆積させ、追加のCGO層を中間層の上に堆積させることができる。
【0072】
このように、本発明の方法は、上で詳述するように工程(vi)を含むことができ、
工程(i)〜(v)の第1セットでは、可溶性塩前駆体は、ジルコニウムアセチルアセトナート、硝酸スカンジウム、および硝酸イットリウムからなる群の少なくとも1種から選択し、
工程(i)〜(v)の第2セットでは、可溶性塩前駆体は、セリウムアセチルアセトナートおよび硝酸ガドリニウムからなる群の少なくとも1種から選択する。
【0073】
本発明の方法が一連の電解質ドーパント材料に同様に適応可能であり、よってScYSZのような特定の電解質材料への参照がScSZ、YSZ、ScCeSZ(スカンジアセリア共安定化ジルコニア)のような電解質材料群全体および当業界で知られるその他のドープ安定化ジルコニアに同様に当てはまることは、当業者には明らかであろう。同じく、CGO/GDC(セリアガドリニア酸化物/ガドリニアドープセリア;2つの語は置き換え可)についてのすべての記載は、SDC(サマリアドープセリア)、PDC(プラセオジムドープセリア)およびSGDC(サマリアカドリニアドープセリア)のような共ドープ系などのすべての希土類酸化物ドープセリア系に同様に当てはまる。また、本発明の方法は、CGO10、CGO20、8ScSZおよび10Sc1YSZのような当業界で知られるドーパント濃度に同様に適用可能である。
【0074】
よって、金属酸化物結晶性セラミックは、好適には、ドープ安定化ジルコニアまたは希土類酸化物ドープセリアである。好適には、金属酸化物結晶性セラミックは、スカンジア安定化ジルコニア(ScSZ)、イットリア安定化ジルコニア(YSZ)、スカンジアセリア共安定化ジルコニア(ScCeSZ)、スカンジアイットリア共安定化ジルコニア(ScYSZ)、サマリウムドープセリア(SDC)、ガドリニウムドープセリア(GDC)、プラセオジムドープセリア(PDC)、およびサマリアガドリニアドープセリア(SGDC)からなる群から選択する。
【0075】
例えば、本発明の方法を用いて、第1に、ScYSZまたはScSZの金属酸化物結晶性セラミック層をCGO電解質材料上に堆積させ、第2に、CGOの金属酸化物結晶性セラミック層を前に堆積させたScYSZまたはScSZ層の上に堆積させることができる。こうして、CGO−ScYSZ−CGOまたはCGO−ScSZ−CGO構造を有する電解質を形成することができる。
【0076】
このように、本発明の方法は、アノード−第1電解質層−堆積電解質中間層−第2堆積電解質層−カソード、例えば、アノード−CGO−ScYSZ−CGO−カソードまたはアノード−CGO−ScSZ−CGO−カソードの層構造を有する燃料電池の製造に用いることができる。
【0077】
上記で詳述するように、本発明は、(好適には薄い)ジルコニア層をドープセリアの基層(表面)上に堆積させるのにとくに有用であり、(好適には薄い)ドープセリアがジルコニア層上を被覆する。他の実施形態では、ドープセリア層(好適には薄いドープセリア層)をジルコニア基層(表面)上に堆積させることができる。こうした実施形態では、ドープセリア層の上に次に堆積させる(薄いジルコニア層のような)金属酸化物結晶性セラミック層について絶対的な要件はない。
【0078】
こうして、ScYSZ−CGO、ScSZ−CGO構造を有する電解質を形成することができる。よって、本発明の方法は、アノード−電解質−第1堆積電解質中間層−カソード、例えば、アノード−ScYSZ−CGO−カソードまたはアノード−ScSZ−CGO−カソードの層構造を有する燃料電池の製造に用いることができる。このタイプの構造は、隣接するドープセリア層およびジルコニア層の処理温度が1200℃以下、またはより好適には1100℃以下である場合に可能である。
【0079】
別の実施形態では、CGO−ScYSZまたはCGO−ScSZ構造を有する電解質を形成することができる。このように、本発明の方法は、アノード−電解質−第1堆積電解質中間層−カソード、例えば、アノード−CGO−ScYSZまたはアノード−CGO−ScSZの層構造を有する燃料電池の製造に用いることができる。一般的なカソードとしては、LSCF、LSCおよびLSMが挙げられる。このタイプの構造は、隣接するドープセリア層およびジルコニア層の処理温度が1200℃以下、または、より好適には1100℃以下であり、隣接するカソードおよびジルコニア層の処理温度が1100℃以下、または、より好適には1000℃以下である場合に可能である。
【0080】
他の実施形態では、金属酸化物結晶性セラミック層厚に表面にわたり勾配をつける。これは、金属酸化物結晶性セラミック層の配置を変えてさらに使用効率を向上することができ、具体的には、金属酸化物結晶性セラミック層の配置/厚さを変えることにより過度に電子を漏出させることなく、低温電池性能を向上させることができるので、本発明の方法を燃料電池の製造に用いる場合とくに有用である。これは、燃料電池の使用中のガス流路および温度プロファイルによって金属酸化物結晶性セラミック層厚/配置を変えることによって行う。
【0081】
より詳細には、作動燃料電池スタックは、一般的に50〜150℃の電池のガス流路に沿った温度差によって生じる電解質の作動温度勾配を有する。これは、燃料電池スタックの作動中に発生した熱を空気冷却および場合により供給する炭化水素燃料の一部の内部水蒸気改質の混合で消散させるため必要である。
【0082】
燃料電池から熱を取り除くため、スタックのカソード側に燃料電池反応用の酸素を供給するのに要する速度をほぼ上回る速度で空気を供給する。過剰空気を用いて熱を取り除く。しかしながら、スタックを冷却するためのかなりの量の空気の供給には、スタックの電気出力の潜在的に大きな割合をシステムに空気を供給するのに要する送風機の駆動に消費し得るため、システム効率という点で大きな不利益がある。従って、要する空気量を最小化することが望ましい。
【0083】
しかしながら、消散させる熱を固定すると仮定すると、供給する冷却空気の質量流を低下させるほど、要する空気の温度上昇は大きくなる。燃料電池スタックの最高作動温度は、通常、温度上昇により悪化する傾向がある潜在的な劣化問題を最小化する必要性により制約される。許容可能な絶対最高作動温度が約650℃である燃料電池スタックでは、これは、従って電池作動温度の特定の範囲を示唆し、温度は、冷却空気の流路に沿って上昇する。
【0084】
SOFCの内部抵抗が温度の低下により急激に増加することは周知である。これは、主に電解質のイオン伝導性が温度低下により急激に低下し、電極、とくにカソードの過電圧が急激に増加するためである。さらに、ジルコニアのイオン伝導性は、600℃と500℃との間では、大幅に低下する。よって、600℃では、ScYSZまたはScSZバリア層(金属酸化物結晶性セラミック層)からの追加の電解質抵抗は、ごくわずかだが、500℃では、全電池抵抗のかなりの割合である。このように、低い作動温度では、燃料電池抵抗を最小化することが大いに望ましい。
【0085】
燃料電池条件下でのドープセリアの電子伝導性が温度上昇により急激に増加し、よって内部短絡の問題が500℃よりも600℃ではずっと悪化することも周知である。従って、高温では、電解質における電子漏出を減少させることが望ましい。
【0086】
ジルコニア層、スカンジアイットリア共安定化ジルコニア層などの金属酸化物結晶性セラミック層のような電気絶縁層は、従って、使用時の作動温度が例えば約500℃と低い可能性が高い電池の端部で薄くして使用時の追加の電池抵抗を最小化し、使用時の電力密度を向上させることができる(特定の実施形態では、使用時の作動温度が低いであろう電池の端部には、電気絶縁層がなくてもよい)。金属酸化物結晶性セラミック層は、その後表面にわたり使用時の作動温度が例えば600℃と高いであろう電池の端部に向かって段階的に厚くする。例えば、金属支持型IT SOFC用にスカンジアイットリア共安定化ジルコニアの金属酸化物結晶性セラミック層をCGOの表面に堆積させる実施形態では、その厚さに、使用時冷たい端部で0nmから使用時熱い端部で1000nm未満まで、またはより好適には最大800nmまで勾配をつけることができる。
【0087】
この金属酸化物の結晶性セラミック層厚の勾配は、例えば、堆積層の数が電池の異なる領域で異なるように、連続堆積工程(工程(i)〜(iii)の反復)で異なる大きさの噴霧マスクを用いてつけることができる。もう1つの方法として、基板を噴霧方向に対して傾けることにより、または噴霧パターンの微調整により勾配をつけることができる。微調整は、インクジェット印刷技術または多重噴霧ヘッドを用いることにより容易に行うことができる。
【0088】
このように、本発明により、少なくとも1層の金属酸化物結晶性セラミック層を基板の表面上に堆積させる方法であって、該少なくとも1層の金属酸化物結晶性セラミック層の厚さは該基板の該表面にわたり変化し、該方法は、
(i)金属酸化物結晶性セラミックの可溶性塩前駆体の溶液を該基板の該表面上に堆積させ、該可溶性塩前駆体の該溶液の層を該表面上に画定する工程であって、該表面が金属表面およびセラミック表面からなる群から選択される工程と、
(ii)該可溶性塩前駆体の該溶液を乾燥させ、該可溶性塩前駆体の層を該表面上に画定する工程と、
(iii)該可溶性塩前駆体を該表面上で150〜600℃の温度まで加熱し、分解して金属酸化物膜の層を該表面上で形成する工程と、
(iv)工程(i)〜(iii)を少なくとももう1回繰り返す工程であって、該表面上の該金属酸化物膜が複数の金属酸化物の層を含むように、該可溶性塩前駆体の該溶液を該金属酸化物膜上に堆積させる工程と、
(v)該表面上に該金属酸化物膜を有する該基板を500〜1100℃の温度で焼成して該金属酸化物膜を結晶化し、該基板の該表面に結合した金属酸化物結晶性セラミック層を生成させる工程と
を含み、
各工程(i)、(iii)および(v)を空気雰囲気中で行う方法も提供する。
【0089】
上述のように、少なくとも1つの金属酸化物結晶性セラミック層の厚さは、とくに工程(i)〜(iii)を繰り返し、金属酸化物膜の異なる厚さの領域を画定することにより、可溶性塩前駆体の溶液を堆積させる際にマスクを用いることにより、インクジェット印刷を用いることにより、および他の勾配技術を用いることにより、基板の表面にわたり変化させることができる。
【0090】
少なくとも1つの燃料電池を含む燃料電池スタックの特定の実施形態では、いくつかのスタックの空気冷却に加えて、燃料電池へ供給する炭化水素燃料の一画分の内部改質による冷却も供給する。こうした場合では、少なくとも1つの燃料電池の温度プロファイルが異なり、少なくとも1つの燃料電池の最も熱い領域は、通常、燃料電池の排気装置に最も近い端部ではなく、燃料電池の中心に位置するだろう。よって、金属酸化物結晶性セラミック層の厚さは、使用時の局所的な作動温度により、この場合もやはり変化する。しかしながら、これは、最も薄い燃料電池の燃料入口端部から始まる最も厚い燃料排出端部までの配置ではなく、燃料電池の作動温度に関連して配置された厚さの勾配をもたらすだろう。この方法では、厚さに燃料電池の幅にわたり勾配をつけるように配置することもできる。このように、燃料電池の電子機械的活性領域全体にわたる作動温度のいかなる水平分散にも対応するように、中間層厚にすべての方向で勾配をつけることができる。
【0091】
金属酸化物結晶性セラミック層の平面燃料電池の表面のような平面上への堆積に関するのと同様に、本発明は、非平面上への堆積にも適用可能である。例えば、本発明の方法は、可溶性塩前駆体溶液を、例えば、回転チューブ上に噴霧することにより堆積させる、ロールまたはチューブ形状のSOFC用の金属酸化物結晶性セラミック層の堆積に用いることができる。他の実施形態では、チューブを可溶性塩前駆体中に浸漬し、チューブの片面またはチューブの両面を被覆することができる。厚さの制御は、溶液の粘度特性の制御によってのみならず、浸漬中およびその後のチューブの回転により行うことができる。チューブ状燃料電池の勾配制御は、前の層をチューブ上で乾燥させた後の次の浸漬の浸漬深さを変えることにより行うことができる。浸漬は、被覆は要さないか望ましくない燃料の領域を保護するためにマスクを用いる平面燃料電池に用いることもできる。
【0092】
円形燃料電池の表面のような円形表面には、円板を被覆するのに適した噴霧パターンを用いることができる。適当な金属酸化物結晶性セラミック層厚を得るためには、上記堆積、分解および結晶化方法を用いることができる。実際に、平面と同様にチューブ状、円筒状または円形表面のような表面にわたり勾配をつけることができる。
【0093】
このように、本発明の方法は、高処理温度、従来の焼結工程またはPVD(物理蒸着法)のような費用のかかる高真空技術の要件なしに、金属酸化物の結晶性セラミックの層、とくには、サブミクロンの層の簡単で便利な堆積を提供する。
【0094】
よって、これは、とくには、基板により制約される空気中または空気含有環境での焼結温度により従来焼結がさらに困難となり、処理温度が1100℃を超えることができない、低温または中温金属支持型SOFC上への電解質中間層の堆積によく適している。
【0095】
実験は、前駆体液が表面の地表形状にぴったり付くので、本発明の方法が金属酸化物膜/金属酸化物結晶性セラミック層と下の表面(または必要に応じて金属酸化物結晶性セラミック層)との間の優れた界面の形成に有利であることを示した。これは、とくに基板を上の層を堆積させる前にすでに焼結し、よって上層の焼結が制約される場合、異なる材料の従来焼結により行うことは困難である。とくに、問題の界面がSOFC電解質中にある場合、質の低い界面は高イオン抵抗をもたらし、機械的欠点となり、ひいては製品欠陥の増加および平均耐用年数の減少をもたらすだろう。
【0096】
また、本発明により、本発明の方法による少なくとも1つの金属酸化物結晶性セラミック層をその上に堆積させた基板の表面を提供する。
【0097】
本発明は、少なくとも1つの金属酸化物結晶性セラミック層を基板の表面上に堆積させる方法を例としてのみ示す添付の図面を参照して行う以下の説明からさらに明らかとなるだろう。