(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5718910
(24)【登録日】2015年3月27日
(45)【発行日】2015年5月13日
(54)【発明の名称】圧電素子
(51)【国際特許分類】
H01L 41/083 20060101AFI20150423BHJP
H01L 41/09 20060101ALI20150423BHJP
H01L 41/187 20060101ALI20150423BHJP
H01L 41/27 20130101ALI20150423BHJP
B32B 7/02 20060101ALI20150423BHJP
【FI】
H01L41/083
H01L41/09
H01L41/187
H01L41/27
B32B7/02 104
【請求項の数】11
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2012-512308(P2012-512308)
(86)(22)【出願日】2010年5月19日
(65)【公表番号】特表2012-528475(P2012-528475A)
(43)【公表日】2012年11月12日
(86)【国際出願番号】EP2010056912
(87)【国際公開番号】WO2010136367
(87)【国際公開日】20101202
【審査請求日】2013年1月24日
(31)【優先権主張番号】102009023356.3
(32)【優先日】2009年5月29日
(33)【優先権主張国】DE
(31)【優先権主張番号】102009043220.5
(32)【優先日】2009年9月28日
(33)【優先権主張国】DE
(73)【特許権者】
【識別番号】510263560
【氏名又は名称】エプコス アーゲー
【氏名又は名称原語表記】EPCOS AG
(74)【代理人】
【識別番号】100147485
【弁理士】
【氏名又は名称】杉村 憲司
(74)【代理人】
【識別番号】100164448
【弁理士】
【氏名又は名称】山口 雄輔
(74)【代理人】
【識別番号】100169823
【弁理士】
【氏名又は名称】吉澤 雄郎
(72)【発明者】
【氏名】アレクサンドル グラズノフ
(72)【発明者】
【氏名】オリバー デルノヴセク
【審査官】
境 周一
(56)【参考文献】
【文献】
特開2008−041921(JP,A)
【文献】
国際公開第2008/138906(WO,A1)
【文献】
特開平05−007029(JP,A)
【文献】
国際公開第2009/101858(WO,A1)
【文献】
特開2006−188414(JP,A)
【文献】
特開2008−120665(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 41/00−41/47
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
互いに重ねて配置された圧電材料層(2,2',2",2'",3,3',3",3'")と,
これら圧電材料層の間に配置された第1及び第2電極層(4,5)とで構成された積層体(1)を備える圧電素子において,
前記積層体(1)が,第1の保磁力を有する少なくとも1つの第1圧電材料層(2)と,これに直接隣接して配置され,前記第1の保磁力とは異なる第2の保磁力を有する少なくとも1つの第2圧電材料層(3)とを含み、
前記第1及び第2圧電材料層(2,3)は,異なるセラミック材料,異なるドーパント,異なるドーピング濃度,異なる原材料粒径,異なる層厚及び/又はこれらの組み合わせで構成されており、
前記第1及び第2圧電材料層(2,3)は,各成分がそれぞれ所定の含有量を有する多成分系セラミック材料で構成され,かつ,少なくとも1つの成分の含有量において相違しており、
前記第1及び第2圧電材料層(2,3)が同一成分を有するセラミック材料で構成され,該セラミック材料は,少なくとも1つの第1成分の含有量に応じて,該セラミック材料の第1構造及び第2構造の間に位置するモルフォトロピック相境界を有し,前記第1及び第2圧電材料層(2,3)のセラミック材料における前記第1成分の含有量は,前記第1圧電材料層(2)が前記第1構造を有するセラミック材料で構成され,かつ,前記第2圧電材料層(3)が前記第2構造を有するセラミック材料で構成されるように選択されている、圧電素子。
【請求項2】
請求項1に記載の圧電素子であって,前記第1及び第2圧電材料層(2,3)は,両圧電材料層間の接触境界が,前記電極層(4,5)とほぼ平行に延在する放電クラック及び/又は分極クラック(6)の生成領域を形成するように選択されている圧電素子。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の圧電素子であって,前記第1及び第2圧電材料層(2,3)は,異セラミック材料,ドーパント,ドーピング濃度,原材料粒径及び層厚から選択した単一の特性において相違している圧電素子。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか一項に記載の圧電素子であって,前記第1及び第2圧電材料層(2,3)は,粒径の異なる原材料粉末から製造したセラミック材料で構成されている圧電素子。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか一項に記載の圧電素子であって,前記原材料粉末の粒径d50が0.3μm以上,2.0μm以下であり,かつ前記原材料粉末の粒径d50の差が0.1μm以上,1.5μm以下である圧電素子。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれか一項に記載の圧電素子であって,前記第1圧電材料層(2)が第1の層厚を有し,前記第2圧電材料層(3)が第2の層厚を有し,これら第1及び第2の層厚が互いに異なる圧電素子。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれか一項に記載の圧電素子であって,前記第1及び第2の層厚の層厚比が1.1以上,3.0以下である圧電素子。
【請求項8】
請求項1〜7の何れか一項に記載の圧電素子であって,前記積層体(1)が,互いに直接的に重ねて配置された層よりなる層配列を有し,この層配列は,第1電極層(4),第1圧電材料層(2),第2電極層(5),第2圧電材料層(3)及び更なる第1電極層(4)で構成されている圧電素子。
【請求項9】
請求項1〜8の何れか一項に記載の圧電素子であって,前記積層体(1)が,互いに直接的に重ねて配置された層よりなる層配列を有し,この層配列は,第1電極層(4),第1圧電材料層(2),第2圧電材料層(3)及び第1電極層(4)に隣接する第2電極層(5)で構成されている圧電素子。
【請求項10】
請求項8又は9に記載の圧電素子であって,前記積層体(1)が,更なる第1圧電材料層(2',2",2''')と,少なくとも1つの第2圧電材料層(3)とを備える圧電素子。
【請求項11】
請求項8〜10の何れか一項に記載の圧電素子であって,前記積層体(1)が,互いに同数の第1及び第2圧電材料層(2',2",2''',3',3",3''')を備える圧電素子。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は,圧電材料層を有する圧電素子に関するものである。
【背景技術】
【0002】
多層圧電アクチュエータ等の圧電素子は多数の圧電材料層を備え,これら圧電材料層の間に内側電極を配置している。通常,アクチュエータは,全体が同一の圧電材料で構成されている。圧電アクチュエータは,互いに重ねて配置され,交互に異なる電気的極性と接触させた内側電極を備え,これら内側電極の間で圧電材料を内側電極に印加した電圧に応じて変形可能としている。内側電極に容易に接触可能とするため,通常は,いわゆる不活性領域に一方の電気的極性のみに関連する内側電極を配置している。他方の電気的極性に関連する内側電極は,当該領域において完全にアクチュエータの縁部まで延在せず,アクチュエータ内部における一平面で終止している。したがって,電圧を印加した際に不活性領域で圧電材料が変形を生じることはなく,縁部においては活性領域での変形に由来する引張荷重が作用する。すなわち,圧電層の数及び印加電圧に応じて,不活性領域の縁部に生じる引張応力が高まるものである。
【0003】
多層圧電アクチュエータの信頼性は,結果的に生じるクラックの制御に大幅に依存する。熱的積層プロセス,例えば800〜1500℃の温度下での焼結,メタライゼーション,接合及び分極化に際し,制御された活性領域と絶縁性の不活性領域との間における変形量の相違により弾性変形が発生し,この弾性変形は,いわゆる放電クラック及び/又は分極クラックを発生させるものである。このようなクラックは,不活性領域内で,又は電極層に沿って延在する可能性がある。この場合,クラックが少なくとも2つの電極間を架橋すると短絡が生じ,圧電アクチュエータの故障につながる。
【0004】
特許文献1(独国特許第10234787号明細書)及び特許文献2(独国特許出願公開第10307825号公報)は,多孔質構造を有し,この多孔質構造が他の圧電層よりも低強度である圧電アクチュエータを開示している。より高い気孔率は,当該領域における有機バインダの含有量が,他の圧電層における含有量よりも大きいことにより生成されるものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】独国特許第10234787号明細書
【特許文献2】独国特許出願公開第10307825号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の課題は,制御されないクラックの発生を回避し,又は少なくとも抑制可能とした圧電素子を提案することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
この課題は,独立請求項1に記載した特徴を有する本発明の圧電素子により解決される。また,本発明の有利な実施形態は従属請求項に記載したとおりである。
【0008】
本発明に係る圧電素子は,互いに重ねて配置された圧電材料層と,これら圧電材料層の間に配置された第1及び第2の電極層とで構成された積層体を備え,この積層体が,第1の保磁力を有する少なくとも1つの第1圧電材料層と,第1圧電材料層に直接隣接して配置され,第1の保磁力とは異なる第2の保磁力を有する少なくとも1つの第2圧電材料層とを含むものである。
【0009】
特に,本発明に係る圧電素子は,種々の構成を有する圧電アクチュエータとして形成することができる。
【0010】
すなわち,本発明に係る圧電素子は,特に,互いに直接隣接して配置される圧電材料層が異なる保磁力を有することを特徴とするものである。保磁力は,電界を印加したときに圧電材料が所定の強度をもっていかに良好に分極化しているかを規定し,したがって当該材料中における弾性変形及び応力の大きさを規定する。保磁力の異なる2つの材料を互いに接触させると,分極化の間にその接触境界に弾性応力差が生じ,これは両材料の間の接触境界に放電クラック及び/又は分極クラックを誘発させ得るものである。本明細書において,圧電材料層の積層体における「保磁力」とは,当該層自体の有する電気的な保磁力を意味している。
【0011】
本発明に係る圧電素子においては,放電クラック及び/又は分極クラックが発生し,かつ,電極層と平行に成長する箇所を設けることにより,電極層と交差する方向における制御されない成長を阻止し,又は少なくとも抑制することが可能となる利点が達成される。少なくとも2つの電極層を架橋する放電クラック及び/又は分極クラックとは対照的に,内側電極と平行又は略平行に延在するクラックは,アクチュエータの寿命を損なう危険がない。そのために,本発明に係る圧電素子において,第1及び第2圧電材料層は,両圧電材料層間の接触境界が,電極層と平行又は略平行に延在する放電クラック及び/又は分極クラックの生成領域を形成するように選択することができる。本明細書において,「略並行」とは,放電クラック及び/又は分極クラックが,完全に直線状をなして数学的な意味で平行に配置された構成に限定されるものでなく,主延在方向が電極層に沿っており,2つの電極層を架橋する部分を含まない配置を想定したものである。
【0012】
保磁力が異なる第1及び第2の圧電層においては,例えば熱処理の間,メタライゼーションの間,接合の間,分極化プロセスの間及び/又は圧電素子の作動の間に,圧電素子における積層体内に局所的な弾性応力が発生し,この弾性応力は目的とするクラックを生成させるものである。少なくとも第1及び第2の圧電層を上記のごとく配置したことにより,例えば分極化プロセスに際して,第1及び第2の圧電層間の接触境界において異なる分極状態により,分極クラックを生成させることができる。この分極クラックは,電極層に対して平行又は略平行に延在する。したがって,従来技術において既知の多孔質構造を圧電素子内部に設ける必要なしに,電極層と交差する方向における,制御されないクラック成長を阻止することが可能である。
【0013】
第1及び第2の圧電層の保磁力を異ならせるためには圧電材料の組成を異ならせ,すなわち,圧電層のセラミック材料,ドーパント,ドーパント濃度,原材料粒径及び/又はこれらの組み合わせを異ならせることができる。さらに,第1及び第2の圧電層は,層厚を異ならせることができる。保磁力が異なる第1及び第2の圧電層を製造するため,上記特性の1種又は2種以上を異ならせることができる。その際,発明者らの知見によれば,上記特性の1種又は少数のみを異ならせる場合に,生産性の向上と,製造プロセスにおける経済性が達成可能である。しかしながら,第1及び第2の圧電層の間で異なる特性の種類が多いほど,互いに異なる第1及び第2の保磁力を実現するための自由度が高まる利点がある。
【0014】
第1及び第2圧電層は,各成分がそれぞれ所定の含有量を有する多成分系セラミック材料で構成することができる。この場合,第1及び第2圧電材料層は少なくとも1つの成分の含有量において相違させることができる。例えば,第1圧電材料層は鉛を含有するセラミック材料,すなわちチタン酸ジルコン酸鉛(PZT)等で構成し,第2圧電材料層は鉛を含有しないセラミック材料で構成することができる。代替的に,第1及び第2圧電材料層を,何れも鉛を含有しないセラミック材料で構成し,かつ,前記特性の1種において異ならせることもできる。
【0015】
第1圧電材料層を第1のセラミック材料で構成すると共に,第2圧電材料層を第2のセラミック材料で構成することができる。第1及び第2のセラミック材料は,同一の成分組成を有するも,少なくとも1つの成分の含有量において異ならせることができる。このようなセラミック材料を以下においてはPZTとして例示するが,本発明は,この特定のセラミック材料に限定されるものでなく,他の圧電セラミック材料にも適用可能である。第1及び第2のセラミック材料としてPZTを使用する場合,第1及び第2圧電材料層は,例えばチタン含有量,すなわちチタン成分の含有量において異ならせることができる。さらに,第1及び第2圧電材料層はチタン含有量のみにおいて異ならせ,他の特性,例えば第1及び第2圧電材料層におけるドーパント等は同一とすることができる。
【0016】
発明者らは,第1及び第2圧電層を構成するセラミック材料として,いわゆるモルフォトロピック相境界を有するセラミック材料を使用するのが特に有利であることを知見した。これは,第1及び第2圧電材料層が同一成分を有するセラミック材料で構成され,該セラミック材料は,少なくとも1つの第1成分の含有量に応じて,該セラミック材料の第1構造及び第2構造の間に位置するモルフォトロピック相境界を有することを意味している。第1及び第2圧電材料層のセラミック材料における第1成分の含有量は,第1圧電材料層が第1構造を有するセラミック材料で構成され,かつ,第2圧電材料層が第2構造を有するセラミック材料で構成されるように選択する。この場合,第1及び第2のセラミック材料はその成分組成,特に前述した第1成分の含有量において相違しており,これにより第1及び第2構造の間の遷移領域が,第1成分の含有量に応じて,モルフォトロピック相境界における相転移により特徴付けられるものである。その際,モルフォトロピック相境界は鋭敏な相転移を示すものでなく,2つの結晶構造間における連続的変化を示すことができる。互いに異なる第1及び第2の構造により,第1及び第2圧電層に異なる保磁力を持たせることができる。
【0017】
例えば,PZTは,約50mol%のチタンと約50mol%のジルコニウムの領域でモルフォトロピック相境界を有し,これらの値はセラミック材料の厳密な成分組成に依存している。したがって,約46mol%のチタン領域でモルフォトロピック相境界を有するPZTの成分組成も存在する。この場合にチタン含有量を約46mol%から増加させると,モルフォトロピック相境界を超える際に保磁力が上昇するので,圧電素子において,例えば第1圧電層についてはチタン含有量を46mol%未満,第2圧電層ついてはチタン含有量を46mol%以上に選択することができる。
【0018】
第1及び第2圧電層として同一成分を有するセラミック材料を選択すると共に,少なくとも1つの成分の含有量を第1及び第2圧電層において異ならせた場合には,接触境界,すなわち第1及び第2圧電層の間の界面における弾性応力の正確な制御が可能となる利点が得られる。更に,第1及び第2の保磁力を,少なくとも1つの成分の含有量,例えば上述した例におけるチタン含有量の変化により整合させることができる。更に,ドーパントは同一のドーピング濃度で添加することができる。これは圧電素子の製造に際して特に有利である。すなわち,圧電素子の第1及び第2圧電層間における化学的な不均一性が最小となり,圧電層の焼結挙動に影響が及ぼされないからである。特に,ドーパント及び/又はドーピング濃度を異ならせる場合には,セラミック材料の焼結挙動が大きく影響を受けるため,このような異なる材料間における焼結収縮に関して特殊な補償が必要となる。
【0019】
更に,第1及び第2の圧電層は,異なる粒径を有する原材料粉末で製造されたセラミック材料で構成することができる。典型的には,圧電素子におけるセラミック層は,未焼結のセラミック粉末と,焼結助剤等の更なる成分とを含むグリーンシートから製造され,そのグリーンシートを引き続いて電極層と共に焼結するものである。発明者らの知見によれば,化学的な組成が同一であり,焼結前の粒径が異なるセラミック材料が,第1及び第2の圧電層を製造するために特に好適である。より粗大な原材料粒子は,通常は,焼結後の粒子の粗大化,ひいては保磁力の低下につながる。
【0020】
この場合,粒径は,各セラミック材料における粒径分布に関して当業者間で周知のメジアン径d50として定義することが適切である。第1及び第2の圧電層の原材料粉末における焼結前の粒径d50は,好適には0.3μm以上,2.0μm以下であり,更に好適には0.4μm以上,1.2μm以下である。
【0021】
第1及び第2圧電層における保磁力を原材料粉末の粒径差に基づいて異ならせる場合,第1圧電層のメジアン径d50と第2圧電層のメジアン径d50との差は好適には0.1μm以上,1.5μm以下であり,更に好適には0.3μm以上,1.0μm以下である。発明者らの知見によれば,このような粒径及び粒径差は,第1及び第2の保磁力を達成すると同時に圧電素子の生産性を高めるものである。
【0022】
更に,第1及び第2圧電層は,それぞれ添加するドーパントを異ならせることができる。特に,両圧電層を,同一の成分及び同一の成分含有量を有する同一のセラミック材料で構成し,第1圧電層のセラミック材料に添加するドーパントを,第2圧電層のセラミック材料に添加するドーパントとは異ならせることができる。この場合において,例えば第1圧電層にネオダイン(Nd)をドープし,第2圧電層には亜鉛(Zn)及びニオブ(Nb)の混合物をドープすることができる。このようなドーパントの組み合わせは,PZTのみならず,他のセラミック材料の場合でも,両層のセラミック材料として有利である。これに加えて,第1及び第2圧電層は,異なるドーピング濃度を有することができる。この場合,両圧電層は同一のドーパントを有することもできる。例えば,セラミック材料としてPZTを,ドーパントとしてZn及びNbの混合物を使用する場合,第1圧電層におけるドーピング濃度を2mol%,第2圧電層におけるドーピング濃度を5mol%とすることができる。それぞれのドーパント及びドーピング濃度は,セラミック材料及び所望の保磁力に応じて選択する。
【0023】
更に,第1圧電材料層が第1の層厚を有し,前記第2圧電材料層が第2の層厚を有し,これら第1及び第2の層厚が互いに異なる構成とすることができる。第1及び第2の層厚を適切に設定することにより,第1及び第2の保磁力に適合させることが可能である。特にこの実施形態において,第1の圧電層を,第1の電極層及び第2の電極層により形成された対の間に配置されるように,第1の電極層及び第2の電極層に直接隣接させて配置することができる。第2の圧電層は,第1の電極層及び第2の電極層により形成された更なる対の間に配置し,その際に第1又は第2の電極層は両対において共用することができる。この場合,第1及び第2圧電層における電界強度Eは,印加電圧U及び第1又は第2の層厚tに応じて,次式:E=U/tで表わされる。この場合,第1及び第2圧電層は,成分組成,ドーパント,ドーピング濃度及び粒径がそれぞれ同一のセラミック材料で構成することができ,これにより圧電素子全体を同一のセラミック材料から製造し,第1及び第2の保磁力を,第1及び第2の電極層の間隔により調整することが可能である。
【0024】
第1及び第2の層厚の基準層厚に対する差,又は第1及び第2の層厚の比は,好適には1.1以上,3.0以下であり,特に好適には1.3以上,2.5以下である。
【0025】
少なくとも1つの実施形態において,圧電素子の積層体は,互いに直接的に重ねて配置した層の配列を有するものとし,その層配列は,第1電極層と,第1圧電層と,第2電極層と,第2圧電層と,更なる第1電極層とで構成することができる。この場合,互いに隣接する第1の電極層と第2電極層との間に第1圧電層が配置され,その第2電極層と更なる第1電極層との間に第2圧電層が配置されるものである。
【0026】
少なくとも1つの他の実施形態において,圧電素子の積層体は,互いに直接的に重ねて配置した層の配列を有するものとし,その層配列は,第1電極層と,第1圧電層と,第2圧電層,及び第1電極層に隣接する第2電極層とで構成することができる。この場合,第1及び第2圧電層は,第1電極層と,これに対して隣接する第2電極層とで構成された同一の対の間に配置されることとなる。
【0027】
更に,上述した層配列は,何れも1つの圧電素子内に配置することができる。
【0028】
更に,圧電素子の積層体は更なる第1圧電層と,少なくとも1つの第2圧電層とを備えることができる。すなわち,圧電素子は,少なくとも1つの第2圧電層と,複数の第1圧電層とを含む積層体を備えることができる。これに加えて,圧電素子は,複数の第2圧電層を備えることもできる。積層体は,最大でも複数かつ同数の第1及び第2圧電層を備え,積層体における全ての圧電層の半数が第1又は第2圧電層を構成する配置とすることもできる。
【0029】
更に,電極層は,銅,銀,白金,銅及びパラジウムの合金又は混合物,銀及びパラジウムの合金又は混合物,或いは白金及び銀の合金又は混合物で構成することができる。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【
図2】
図2A及び2Bは既知の圧電素子を示す略図である。
【
図3】
図3A〜3Cは本発明の一実施形態における圧電材料を示す略図である。
【
図4】本発明の一実施形態に係る圧電素子を示す略図である。
【
図5】本発明の他の実施形態に係る圧電素子を示す略図である。
【
図6】本発明の他の実施形態に係る圧電素子を示す略図である。
【
図7】本発明の他の実施形態に係る圧電素子を示す略図である。
【
図8】本発明の他の実施形態における圧電材料の一特性を示すグラフである。
【
図9】本発明の他の実施形態における圧電材料の他の特性を示すグラフである。
【
図10】本発明の他の実施形態における圧電材料の更に他の特性を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0031】
以下,
図1〜10に示す好適な実施形態を参照しつつ本発明を更に詳述する。なお,図面において,構成又は機能が対応する要素は同一の参照数字で表わされている。各要素,例えば層,構成部分及び領域等は定縮で表わされたものでなく,図示又は理解を容易とするために誇張されている場合があることに留意されたい。
【0032】
図1は,多数の圧電材料層を有する積層体91を備え,これら圧電層間に内側電極92,93を配置した既知の圧電アクチュエータを示す。この場合,アクチュエータ全体は同一の圧電材料で構成されている。内側電極92,93は,くし歯を互いに入り組ませた形態を有するくし構造とされている。内側電極92,93間には,積層体91の外側におけるメタライズ層94,95で構成した接触面を介して電圧が印加可能とされている。内側電極92,93が交互に重ねて配置された積層体91の活性領域96においては,アクチュエータにおける圧電材料の変形により圧電変位が生じる。積層体91の不活性領域97においては,内側電極92,93に電圧を印加しても僅かな電界しか生じないので,当該領域では圧電材料がアクチュエータの変位に寄与するものではない。これにより不活性領域97に引張応力が生じ,この引張応力は,
図2A及び2Bに線図的に示される放電クラック及び/又は分極クラックを生成することがある。例えば,
図2Bに示される分極クラック99が生成されると,このクラックは内側電極92,93に対して略平行に延在する。これに加えて,既知の圧電アクチュエータにおいては
図2Aに示される放電クラック98も生成され,この放電クラックは活性領域への移行部において曲げられて内側電極を架橋することにより短絡を生じかねない。
図2Aに示される放電クラック98は,
図1に示す既知の圧電アクチュエータの故障につながるものである。
【0033】
図3A〜3Cは,圧電材料101,102の実施形態を線図的に示し,上述した本発明に係る圧電素子の基本概念を説明するものである。この場合,第1圧電材料101は第1保磁力を有し,第2圧電材料102は第2保磁力を有している(
図3A)。図示の実施形態においては,第2保磁力が第1保磁力よりも小さい。
図3Bは,第1及び第2圧電材料101,102間に機械的接触がない状態で電界を印加した後(電界は正負の符号で示し,電極層は図示せず。)に第1及び第2圧電材料101,102に生じる変形を線図的に示す。この電界により生じた変形を,例えば圧電材料については矢印で表わす。この場合,保磁力がより小さい第2圧電材料102は,第1圧電材料101よりも大きく変形する。第1及び第2圧電材料101,102を互いに接触させてから焼結すると,電圧を印加したときに
図3Cに示すように第1及び第2圧電材料101,102の変形が生じる。第1及び第2圧電材料101,102が互いに堅固に結合しているため,これらの境界面に弾性応力が生じる。これは,圧電材料102に引っ張り応力が,そして圧電材料101に圧縮応力が作用することに基づく変形の相違に起因するものである。したがって,第1及び第2圧電材料101,102間の境界面において弾性応力勾配が生じ,これにより当該領域におけるクラックの生成が誘発される。
【0034】
図4は,多層構造の圧電アクチュエータとして構成した圧電素子の1実施形態を示すものである。この圧電素子は,互いに重ねて配置された圧電層と,これら圧電層の間に配置された第1及び第2電極層とで構成された積層体1を備えている。なお,図示を明確化するため,圧電層2,2‘及び3と,一部の第1電極層4及び第2電極層5のみに参照数字を付している。破線は,圧電層を明示するために加入したものである。積層体1は,第1の保磁力を有する第1圧電材料層2と,第1圧電材料層2に直接隣接して配置され,第1の保磁力とは異なる第2の保磁力を有する少なくとも1つの第2圧電材料層3とを含んでいる。第1及び第2電極層4,5間に電圧を印加するために積層体1の外側に設けられたメタライゼーションは,図示されていない。電極層4,5は銅で構成されている。
【0035】
第1及び第2圧電材料層2,3は,互いに隣接する2つの電極層4,5の間にそれぞれ配置されている。したがって,積層体1は,1電極層4,第1圧電材料層2,第2電極層5,第2圧電材料層3及び更なる第1電極層4で構成されている層配列を有している。
図3A〜3Cを参照して上述した原理に基づき,第1及び第2保磁力を互いに異ならせることにより,第1及び第2圧電層間における接触境界6において,熱処理の間,メタライゼーションの間,接合の間,分極化プロセスの間及び/又は圧電素子の作動の間に局所的な弾性応力を発生させ,この弾性応力により,電極層4,5に対して略平行に延在する放電クラック及び/又は分極クラックを生成させるものである。また,積層体1は更なる第1圧電層2'を備え,この圧電層2'は第2圧電層3に直接隣接して配置され,第2圧電層3と共に更なる接触境界6'を規定し,この接触境界6'においても目的とする放電クラック及び/又は分極クラックを生成させることができる。
【0036】
第1圧電層2,2'と第2圧電層3は,図示の実施形態においてはそれぞれPZT系セラミック材料で構成されており,第2圧電層3は第1圧電層2,2'に対してチタン含有量を異ならせた組成を有している。電層2,2',3の層厚は,図示の実施形態においては等しい。
【0037】
このような圧電材料における弾性変形及び保磁力を例示すれば,
図8〜10に示すとおりである。
【0038】
更に,第1及び第2圧電層は,本実施形態及び更なる実施形態において,本明細書中の発明の概要において記載した少なくとも1つの特徴,例えばドーパント,ドーピング濃度,粒径又は層厚を異ならせる構成を付加的又は代替的に有する構成とすることができる。
【0039】
図5は,多層圧電素子の更なる実施形態を示すものである。上述した実施形態と対比して,
図5に示す圧電素子の積層体1は,複数の第1圧電層2,2',2'',2'''のみならず,複数の第2圧電層3,3',3'',3'''をも備え,これら第1及び第2圧電層が交互に重ねて配置された構成を有しているため,目的とする放電クラック及び/又は分極クラックを形成することのできる複数の接触限界を有するものである。この場合,第1圧電層2,2',2'',2'''の数に対する第2圧電層3,3',3'',3'''の数は,各種の要求仕様や,第1及び第2保磁力に応じて適宜に決定可能である。もっぱら例示目的のため,図示の実施形態では同数の第1圧電層及び第2圧電層が設けられており,積層体1内における全ての圧電層の50%が第2圧電層を構成している。
【0040】
図6及び7は,多層圧電素子の更なる実施形態を示すものである。この実施形態は,
図5に示すものと対比して,第1及び第2圧電層2,3が互いに直接隣接して配置され,何れも第1電極層と,これに隣接する第2電極層5との間に配置されていることである。この場合,
図7の実施形態においては,それぞれ互いに隣接する電極層4,5間に配置された全ての圧電層が,第1及び第2圧電層2,2',2",2'",3,3',3",3'"で構成されている。
図6及び7の実施形態の代替案として,隣接する2つの電極層4,5間に2つ以上の第1圧電層と,1つの第2圧電層とを配置することもできる。上記以外の点では,
図4及び5についての記載が
図6及び7の実施形態にも妥当する。
【0041】
図8は,前述した実施形態における第1及び第2圧電層を製造するために使用することのできる2種類の圧電材料について,弾性変形D[%]を印加された電界強度E[kV/mm]の関数として表わした曲線7,8を示すものである。曲線7において変形が電界に対して垂直な圧電材料は保磁力が1.0kV/mmであり,曲線8において変形が電界に対して垂直な圧電材料は保磁力が2.3kV/mmである。電界の印加により保磁力が高まると,圧電材料に電界方向及びこれに対する直角方向に変形が生じる(
図3Bも参照)。曲線7に対応する材料は,参照数字9で表わされた2.3kV/mmの電界強度よりも低い保磁力を有するため,印加された電界に対して直角方向に0.17%にも達する大きな変形が達成される。これに対して,曲線8に対応する材料は,図示のとおり保磁力が印加された電界の値と同等であるため,0.03%までの顕著に小さい変形しか達成されない。
【0042】
図9は,1実施形態に係るチタン酸ジルコン酸鉛系の圧電材料における保磁力K[kV/mm]をチタン含有量k[mol%]の関数として表わした曲線10を示すグラフである。参照数字11は,チタン含有量が44〜46mol%である圧電材料におけるモルフォトロピック相境界を表わしている。チタン含有量を増加させると,モルフォトロピック相境界11を超えた後に保磁力Kが高まることを示すものである。発明の概要において記載したとおり,第1圧電層及び第2圧電層としては同一組成を有するも,モルフォトロピック相境界11に対する保磁力を異ならせたセラミック材料を使用することができる。すなわち,例えば第1圧電層についてはチタン含有量を約46mol%未満,第2圧電層ついてはチタン含有量を約46mol%以上に選択することにより,第1の保磁力を第2の保磁力より小さくすることができる。
【0043】
図10は,更なる実施形態に係るセラミック材料における保磁力K[kV/mm]を粒径d50の関数として表わした曲線12を示すグラフである。
図10との関連で実験に供したセラミック材料はPZT系セラミック材料であり,この場合に粒径d50が増加するとセラミック材料の保磁力が低下することが明らかである。
【0044】
上述したところにおいて明示したセラミック材料は,単なる例示に過ぎず,本発明を限定するものではない。上述した実施形態及び実施例は,前記した以外のセラミック材料にも適用可能である。
【0045】
本発明は,上述した実施形態に限定されるものでなく,特許請求の範囲に記載した新規な個別的特徴又はこれら特徴の組み合わせを,それらが明示されていない場合でも包含するものである。
【符号の説明】
【0046】
1 積層体
2,2',2",2'" 第1圧電層
3,3',3",3'" 第2圧電層
4 第1電極層
5 第2電極層
6,6' 接触境界
7,8 変形
9 電界強度
10,12 保磁力
11 モルフォトロピック相境界
91 積層体
92,93 内部電極
94,95 メタライゼーション
96 活性領域
97 不活性領域
98,99 分極クラック
101,102 圧電材料