特許第5718911号(P5718911)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許5718911ポリオレフィンナノフィラメント多孔質シートからなる電池用セパレータ
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5718911
(24)【登録日】2015年3月27日
(45)【発行日】2015年5月13日
(54)【発明の名称】ポリオレフィンナノフィラメント多孔質シートからなる電池用セパレータ
(51)【国際特許分類】
   H01M 2/16 20060101AFI20150423BHJP
   D04H 1/4382 20120101ALI20150423BHJP
   D04H 1/4291 20120101ALI20150423BHJP
   D04H 3/016 20120101ALI20150423BHJP
【FI】
   H01M2/16 P
   D04H1/4382
   D04H1/4291
   D04H3/016
【請求項の数】13
【全頁数】19
(21)【出願番号】特願2012-512811(P2012-512811)
(86)(22)【出願日】2011年4月22日
(86)【国際出願番号】JP2011059896
(87)【国際公開番号】WO2011136133
(87)【国際公開日】20111103
【審査請求日】2013年8月8日
(31)【優先権主張番号】特願2010-105128(P2010-105128)
(32)【優先日】2010年4月30日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】304023994
【氏名又は名称】国立大学法人山梨大学
(73)【特許権者】
【識別番号】000004444
【氏名又は名称】JX日鉱日石エネルギー株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100110249
【弁理士】
【氏名又は名称】下田 昭
(74)【代理人】
【識別番号】100116090
【弁理士】
【氏名又は名称】栗原 和彦
(74)【代理人】
【識別番号】100113022
【弁理士】
【氏名又は名称】赤尾 謙一郎
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 章泰
(72)【発明者】
【氏名】豊岡 武裕
(72)【発明者】
【氏名】松尾 彰
(72)【発明者】
【氏名】西澤 剛
(72)【発明者】
【氏名】小丸 篤雄
【審査官】 冨士 美香
(56)【参考文献】
【文献】 特開平09−302563(JP,A)
【文献】 特表2002−510128(JP,A)
【文献】 特開2006−244804(JP,A)
【文献】 特表2002−513868(JP,A)
【文献】 特表2005−539154(JP,A)
【文献】 国際公開第2008/084797(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 2/16
D04H 1/4291
D04H 1/4382
D04H 3/016
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
平均フィラメント径が1μm未満のポリオレフィンフィラメント群から構成され、かつ該フィラメントが10万倍以上の倍率に延伸されている多孔質シートからなる電池用セパレータであることを特徴とする、ポリオレフィンナノフィラメント多孔質シートからなる電池用セパレータ。
【請求項2】
前記電池がリチウムイオン2次電池であることを特徴とする、請求項1記載のポリオレフィンナノフィラメント多孔質シートからなる電池用セパレータ。
【請求項3】
前記フィラメントの示差熱分析測定による結晶化度が50%以上であることを特徴とする、請求項1記載のポリオレフィンナノフィラメント多孔質シートからなる電池用セパレータ。
【請求項4】
前記多孔質シートが、融点−30℃以上で熱処理されていることを特徴とする、請求項1記載のポリオレフィンナノフィラメント多孔質シートとからなる電池用セパレータ。
【請求項5】
平均フィラメント径が1μm未満のポリオレフィンフィラメント群から構成されている該ポリオレフィンナノフィラメントが、
原フィラメント群がP1気圧下において送出手段によって一定速度で送り出されて行く工程と、
該原フィラメント群がオリフィス中を通過して、P2気圧下(P1>P2)の延伸室へ導かれる工程と、
該延伸室において、該オリフィスを通過してきた該原フィラメント群が、炭酸ガスレーザービームを照射されることによって加熱され、P1からP2の気圧差によって生ずる該オリフィスからの気体の流れによって生ずる牽引力によって延伸される工程と、
延伸されたフィラメント群を集積する工程と、
によって製造され、
かつ、該気体のオリフィス出口における速度が音速以上である延伸フィラメントの製造方法によって製造されていることを特徴とする、ポリオレフィンナノフィラメント多孔質シートからなる電池用セパレータ。
【請求項6】
A.多孔質シート製造工程
a.ポリオレフィンポリマーからなる原フィラメント群が、P1気圧下において送出手段によって一定速度で送り出されて行く工程と、
b.該原フィラメント群がオリフィス中を通過して、P2気圧下(P1>P2)の延伸室へ導かれる工程と、
c.該延伸室において、該オリフィスを通過してきた該原フィラメント群が、炭酸ガスレーザービームを照射されることによって加熱され、P1からP2の気圧差によって生ずる該オリフィスからの気体の流れによって生ずる牽引力によって延伸される工程と、
d.延伸されたフィラメント群を集積する工程と、
によって製造される多孔質シート製造工程、
B.前処理工程
a.前記多孔質シートが、融点−30℃以上で熱処理される工程、
b.前記多孔質シートが、薬剤によって表面処理される工程、
c.前記多孔質シートが電池形状に合わせて、一定サイズに切断される工程、
の内の少なくとも一つの工程からなる前処理工程、
C.前記前処理された多孔質シートを、電池に組み込む工程、
のA、B、C工程からなる、ポリオレフィンナノフィラメント多孔質シートからなる電池用セパレータの製造方法。
【請求項7】
前記P1が大気圧であり、前記P2が負圧であることを特徴とする、請求項記載のポリオレフィンナノフィラメント多孔質シートからなる電池用セパレータの製造方法。
【請求項8】
前記原フィラメント群がオリフィス中を通過して、P2気圧下(P1>P2)の延伸室へ導かれる工程において、オリフィス出口における風速が、音速以上であることを特徴とする、請求項記載のポリオレフィンナノフィラメント多孔質シートからなる電池用セパレータの製造方法。
【請求項9】
前記延伸され集積されたフィラメントが、10万倍以上の倍率で延伸されていることを特徴とする、請求項記載のポリオレフィンナノフィラメント多孔質シートからなる電池用セパレータの製造方法。
【請求項10】
前記延伸されたナノフィラメント群の集積が、前記延伸室内で走行しているコンベアによって行われることを特徴とする、請求項記載のポリオレフィンナノフィラメント多孔質シートからなる電池用セパレータの製造方法。
【請求項11】
前記延伸されたフィラメント群の集積が、前記延伸室内の巻取機の回転軸を中心に巻き取られ、該回転軸の外側に、該延伸されたフィラメント群が降下してくる巾に対応した巾を持ち、該回転軸に沿って湾曲している壁を有する捕集ガイドによってフィラメント群等を有効に回転軸に巻きつけるのを補助することを特徴とする、請求項記載のポリオレフィンナノフィラメント多孔質シートからなる電池用セパレータの製造方法。
【請求項12】
正極、セパレータ、電解質溶液および負極を含むリチウムイオン電池において、該セパレータとして請求項1のセパレータを用いてなることを特徴とする、リチウムイオン二次電池。
【請求項13】
正極、セパレータ、電解質溶液および負極を含むリチウムイオン電池において、該セパレータとして請求項の製造方法によって製造されたセパレータを用いてなることを特徴とする、リチウムイオン二次電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、平均フィラメント径が1μm未満のポリオレフィンフィラメント群から構成されている多孔質シートの電池用セパレータに関し、特に、内部抵抗が小さく導電性の良く、電極の変質をもたらす電極活物質の通過を防ぎ、リチウム金属の析出(デンドライト)を制御することでショートを防ぎ安全性を高めたリチウムイオン2次電池に関する。
【背景技術】
【0002】
近年の電気自動車やモバイル電気機器の発達には、電池の発達が最も重要な要素になっている。その電池の基本構成要素に電池用セパレータがあり、電池の高性能、小型化、安全性には、セパレータの高性能化が欠かせない要件となっている。電池用セパレータとしては、従来はポリオレフィンフィルムからなる多孔膜が使用されているが、フィルム法では多孔質化には限界がある。そこで、孔数を増やすために、極細繊維を使用した不織布のセパレータとする試みがなされている(特開2004−115980等)。しかし、この方式はフィラメントの微細化に海島繊維法を用いるために製法が複雑であり、フィラメントの微細化も充分ではなく、さらにそのフィラメントを切断して短繊維化した後不織布にするという工程も複雑で、品質、コスト両面より問題があった。
【0003】
不織布の繊維径をできるだけ細くしナノファイバーの領域にする代表的な技術として、エレクトロスピニング法(以下、ES法)(You Y., et, al 「Journal of Applied Polymer Science、vol.95、p.193−200、2005年」)がある。しかし、ES法はポリマーを溶剤に溶かして高圧電圧をかける方法であり、ポリオレフィンのように安全性の面から適当な溶剤が無い場合には適応できず、また、ES法によるウェブは、紡糸中に切断するため連続フィラメントではなく短繊維であり、紡糸中の切断箇所が収縮して繊維径以上の溶融樹脂の塊(ダマ)が多く発生することも欠点となる。また、溶剤を使用しない溶融型ES法も試みられている(特開2009−299212等)が、平均繊維径がナノファイバー領域に達しておらず、また、繊維径以上のダマが多く発生すると思われ、溶剤法と同様の問題点もあり、製法もレーザーと高圧電極の両方を使用するなど、複雑で、電気用セパレータを製造するには品質、コスト両面より問題があった。またメルトブロー法も極細フィラメント不織布の製法の一つではあるが、フィラメント径をナノフィラメントの領域とすることは困難であり、ダマも発生することも同様の問題点となる。
【0004】
本発明は、赤外線加熱によるフィラメントの延伸技術で、減圧下での延伸に関する発明者の先出願(国際公開公報WO2008/084797A1)を応用したものである。本発明は、これらの技術をさらに改良し、ポリオレフィン多孔シートの電池用セパレータに有効に適応できるようにしたものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2004−115980号(請求項1−3)。
【特許文献2】特開2009−299212号(請求項1、図1図4)。
【特許文献3】国際公開公報WO2008/084797A1(第1−2頁、図1−3)
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】You Y., et, al 「Journal of Applied Polymer Science、vol.95、p.193−200、2005年、(米国)。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、内部抵抗が小さく導電性の良く、電極の変質をもたらす電極活物質の通過を防ぎ、リチウム金属の析出(デンドライト)を制御することでショートを防ぎ安全性を高めた電池用セパレータ、特にリチウムイオン2次電池用セパレータを提供することにあり、また、これらの電池用セパレータを安定して生産性良く製造できる手段を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は電池用セパレータに関する。電池は化学反応等によって発生された電位差から変化された直流電力を直接取り出す装置である。電池には種々の種類があるが、本発明では化学電池に関し、特に、繰り返し充電して使うことができる二次電池に関する。二次電池は、近年特に小型化、高出力化、安全性確保など特に高性能化が求められており、本発明ではこれらの要望に答えるためのものである。これらの二次電池の内、近年、出力が大きく蓄電能力の高いリチウムイオン電池が注目されており、本発明では、化学電池の内、特に、リチウムイオン二次電池の性能を高めるための電池用セパレータに関する。これらのリチウムイオン電池には、自動車等に使用できる大型のものから、ボタン型電池のような小型のものも含まれる。
【0009】
本発明は電池用セパレータに関する。電池用セパレータは、電池における電極の正極と負極との隔離を行うもので、電極間の電気的短絡を防止し、電池の電解液を保持して正極と負極との間のイオン電導性を確保する機能を有する。したがって、正極と負極を物理的に分離することや、短絡を防ぐための電気絶縁性を有することは当然として、イオン電導性を阻害しないこと、電解液の保持性が良いこと、電解液に対して化学的に安定であることなどが要求される。また、電池組み立て作業における物理的強度も要求される。また、電池におけるミクロン単位の粒子である電極活物質の通過を防いで電極の変質を防止し、さらに、リチウム金属等の金属の析出(デンドライト)を制御することでショートを防ぐ安全性機能等を高めることが求められている。
【0010】
本発明の電池用セパレータは、ポリオレフィンフィラメントからなる多孔質シートからなることを特徴とする。ポリオレフィンは、分子中に炭素・炭素2重結合を含む(オレフィン)モノマーが重合されることによって生成されるポリマーで、本発明では、特にポリプロピレン、高密度ポリエチレン、ポリメチルペンテン(PTX)が利用され、これらの変性樹脂も使用される。ポリオレフィンは耐薬品性が良いので、電解液で分解せず、安定した電池用セパレータとすることができる。また、耐酸化性も良いので、電池が長寿命化する特性も有する。
【0011】
本発明のポリオレフィン多孔質シートは、その構成するフィラメント群が1μm未満の平均フィラメント径からなるナノフィラメントであることを特徴とする。フィラメントは、実質的に連続した長さを有する繊維の1種であるが、通常、50mm程度より小さい短繊維と呼ばれているものより長く、100mm以上であり、特に本発明では、繊維径が小さいので、そのアスペクト比(長さ/径)は非常に大きく、実質的に連続フィラメントであること特徴とする。本発明のフィラメントは、平均フィラメント径が1μm未満のナノフィラメントからなることを特徴とし、望ましくは0.7μm以下、最も好ましくは0.5μmに達しないナノフィラメントからなることを特徴とする。フィラメント径(平均フィラメント径)は、数千―2万倍の電子顕微鏡下で、100本のフィラメントを数えて、算術平均して求める。本発明のフィラメント径が小さいことより、一定面積でのフィラメント数が大きくなり、多孔質シートを構成する孔の数がきわめて大きくなり、かつ、孔径を微細化することができた。これらの孔の数の増大と孔径の微細化によって、電池用セパレータの高機能化をもたらすことができた。
【0012】
本発明のフィラメントが上述のように連続フィラメントであることより、ショットまたはダマと呼ばれる樹脂の小さい塊が非常に少ないことを特色とする。ダマは、紡糸や延伸における切断時に、切断部前後が収縮して塊になると考えられている。本発明の延伸されたポリオレフィンフィラメントからなる多孔質シートは、ナノフィラメントの領域におけるフィラメント径を有していながら、延伸中に切断が殆どないので、実質的に連続フィラメントであり、ダマ等が発生しないので、高性能な電池用セパレータとすることができた。
【0013】
本発明における多孔質シートを構成している延伸ナノフィラメントは、フィラメント径が非常に揃っていることを特徴とする。フィラメント径分布は、SEM写真から測長用ソフトでフィラメント径を100箇測定して求めた。またそれらの測定値より、標準偏差を求め、フィラメント径分布の尺度とした。また、この測定法によりフィラメント径の平均値が求められている場合は、本発明の平均フィラメント径として採用する。通常のスパンボンド不織布やメルトブロー不織布では、フィラメント径分布の標準偏差は0.5以上であり、本発明のナノフィラメント多孔質シートでは、フィラメント径が細くなっているにもかかわらず、標準偏差が0.2以下であり、好ましくは0.1以下である。フィラメント径が揃っている多孔質シートは、多孔質の孔径が均一になり、ナノフィラメントでありながら、極端に太いフィラメントが無いので、同一重量の多孔質シートでフィラメントの本数が多くなり、また極端に小さい径のフィラメントも少ないので、耐薬品性などの化学的安定性も大きく、高性能の電池用セパレータとすることができた。
【0014】
本発明における多孔質シートを構成するナノフィラメントは、超高倍率に延伸されていることを特徴とし、少なくとも10万倍以上、好ましくは20万倍以上、最も好ましくは50万倍以上である。このように超高倍率延伸によりナノフィラメント領域のフィラメントとなり、上記の高品質電池用セパレータとすることができた。また、高度に延伸されることにより、下記に述べる高強度や低伸度、高度の分子配向による結晶化向上で熱的安定を可能にすることができた。
【0015】
上記のように、本発明の多孔質シートを構成するナノフィラメントは、超高倍率延伸されていることにより、高強度、低伸度であることを特徴とする。ナノフィラメントは、あまりにもフィラメント径が小さいので単体での取り扱いが困難で、そのフィラメント強度を測定することは困難である。しかし、高度に分子配向していることはDSC測定で高度の熱安定を有することからもわかる。高強度であることは、本発明の電池用セパレータを電池に組み込む際の作業性がよく、低伸度であることは、力学的外力に対して寸法安定性が良く、やはり電池に組み込む際の作業性がよく、自動組立装置への適合性がよい。
【0016】
不織布は、通常、何らかの繊維間の交絡を行ってシート状にされている多孔質シートである。本発明では、フィラメント径が非常に小さいので、単位重量あたりのポリオレフィンフィラメント数が極端に多い。したがって、特に交絡工程を設けなくても、メルトブローン不織布同様、ポリオレフィンフィラメントを集積する際にフィラメントが絡み合い、簡単なプレス程度でシート化されて使用することもできる。勿論、通常の不織布で行われている、熱エンボスやニードルパンチ、ウオータジェット、接着剤接合等の手段を用いることもできる。
【0017】
本発明のポリオレフィン多孔質シートは、本発明者の内の一人による先願発明(特許文献3)の炭酸ガスレーザービームとオリフィス間の気圧差を利用したフィラメントの超高倍率延伸手段を、ポリオレフィンフィラメントに応用したものである。ポリオレフィン原フィラメントは、数10μmから数100μmの太いフィラメント径から、数万倍から数十万倍に超延伸されて、数ミクロンメータから数十nmに至る極細フィラメントとなり、延伸されたフィラメント群は集積されて、多孔質シートとなる。本発明におけるポリオレフィン原フィラメントとは、既にフィラメントとして製造されて、リール等に巻き取られたものである。また紡糸過程において、溶融または溶解フィラメントが冷却や凝固によりフィラメントとなったものを紡糸過程に引き続き使用され、本発明の原フィラメントとしうる。原フィラメントは、単独で存在することが望ましいが、数本ないし数十本に集合されていても使用することができる。
【0018】
本発明においは、フィラメントの送出手段から送り出された原フィラメントについて延伸が行われる。送出手段は、ニップローラや数段の駆動ローラの組み合わせなどの一定の送出速度でフィラメントを送り出すことが出来るものであれば種々のタイプのものが使用できる。
【0019】
本発明では、多錘のポリオレフィン原フィラメントがP1気圧下で送出手段によって送り出されて、オリフィス中を通過して、P2気圧下(P1>P2)の延伸室へ導かれる。オリフィスを通過してきた原フィラメント群が、炭酸ガスレーザービームを照射されることによって加熱され、P1からP2の気圧差によって生ずる気体の流れによって生ずる牽引力によって延伸される。なお、この原フィラメント群が送り出されてくる際の圧力P1が大気圧であり、延伸室における圧力P2が減圧下であることは、装置を簡便にできるので、好ましい態様の一つである。P1を加圧下、P2を減圧下にすると、P2の減圧度をそれほど大きくすることなく、P1とP2の差圧を大きくできるので、これも好ましい態様の一つである。なお延伸室は、オリフィスの出口で、レーザービームによって原ポリオレフィンフィラメントが延伸される狭義の延伸室と、延伸されたフィラメントが集積される狭義のフィラメント集積室に分ける場合もあるが、狭義の延伸室と狭義のフィラメント集積室は一体的に結合されて、同一気圧に保たれ、広義の延伸室を構成している。
【0020】
なおP1またはP2は、通常室温の空気が使用される。しかし、原フィラメントを予熱したい場合や、延伸したフィラメントを熱処理したい場合は、加熱エアーが使用される場合もある。
【0021】
本発明における原フィラメント供給室と延伸室は、オリフィスによってつながっている。オリフィス中では、原フィラメントとオリフィス内径との間の狭い隙間に、P1>P2の圧力差で生じた高速気体の流れが生じる。この高速気体の流れを生じるために、オリフィスの内径Dと繊維の径dとは、あまり大きくかけはなれてはならない。実験結果、D>dであって、D<30d、好ましくはD<10d、さらに好ましくはD<5dであってD>2dであることが最も好ましい。
【0022】
上記におけるオリフィス内径Dは、オリフィスの出口部における径をいう。但し、オリフィス断面が円では無い場合、一番狭い部分の径をDとする。同様に、フィラメントの径も、断面が円ではない場合、一番小さい径の値をdとし、断面の最も小さい箇所を基準に10カ所を測定して算術平均する。また、オリフィスの内径は、均一な径ではなく、テーパ状で出口において狭くなる形状も好ましい。なお、オリフィスの出口は、通常、原フィラメントが上から下へ通過するので、縦に配置されたオリフィスの下方が出口となる。下から上へ原フィラメントが通過する場合は、オリフィスの上方に出口がある。同様に、オリフィスが横に配置されて、原フィラメントが横方向に通過する場合は、オリフィスの横方向に出口がある。
【0023】
上記のように、オリフィス内を高速の気体が流れるので、オリフィスの内部は抵抗の少ない構造が望ましい。本発明のオリフィスの形状は、1本1本独立したものも使用されるが、板状物に多数の孔を開けて多錘のオリフィスとすることもできる。オリフィスの内部の断面も円形のものが望ましい。複数のフィラメントを通過させる場合や、フィラメントの形状が楕円やテープ状の場合には、断面が楕円や矩形のものも使用される。また、オリフィス入り口では、原フィラメントを導入しやすいように大きく、出口部分のみ狭い形状が、フィラメントの走行抵抗を小さくし、オリフィスの出口からの風速も大きくできるので好ましい。
【0024】
本発明におけるオリフィスは、本発明人らによる従来の延伸前の送風管とは役割を異にしている。従来の送風管は、レーザーをフィラメントの定位置に当てる役目であり、できるだけ抵抗少なく、定位置に原フィラメントを搬送する役目であった。本発明はそれにプラスすることの、高速の気体流が原フィラメント供給室の気圧P1と延伸室の気圧P2の気圧差によって発生する点で異なる。なお、通常のスパンボンド不織布製造においては、エアーサッカー等によって溶融フィラメントに張力が与えられる。しかし、スパンボンド不織布製造におけるエアーサッカーと本発明におけるオリフィスとは、その作用機構と効果が全く異なる。スパンボンド法では、溶融フィラメントをエアーサッカー内の高速流体で送られ、エアーサッカー内でそのフィラメント径の細化の殆どが完了する。それに対して、本発明では固体の原フィラメントがオリフィスで送られ、オリフィス内ではフィラメントの細化は始まらず、オリフィスを出た所でレーザービームが照射されることによって、始めて延伸が開始される。またスパンボンド法では、エアーサッカー内に高圧エアーを送りこむことにより高速流体を発生させるが、本発明では、オリフィス前後における部屋の気圧差でオリフィス内の高速流体を発生させる点でも異なる。またその効果も、スパンボンド法では、せいぜい10μm前後のフィラメント径しか得られないのに対して、本発明では1μm未満のナノフィラメントが得られるという大きな効果が得られる点が異なる。
【0025】
本発明に使用されるオリフィスにおけるオリフィス出口での風速は、下記の式であらわされる(Graham's theorem)。
ν={2(P1―P2)/ρ}1/2
ここで、ρはエアー密度。
P1が大気圧で、P2を負圧にしていった場合の、オリフィス出口の流速と、その音速換算を表1に示す。本発明において、このオリフィス出口の風速は、340m/sec(15℃での音速)以上であることが好ましく、365m/sec以上であることがさらに好ましい。
【0026】
【表1】
【0027】
オリフィスから送り出されてきた原フィラメントは、オリフィスの出口で、炭酸ガスレーザービームによって加熱され、オリフィスからの高速流体によってフィラメントに与えられる張力によって、原フィラメントは延伸される。オリフィスの直下とは、実験結果、炭酸ガスレーザービームの中心がオリフィス先端より30mm以下、好ましくは10mm以下、5mm以下であることが最も好ましい。オリフィスから離れると、原フィラメントが振れ、定位置に収まらず、炭酸ガスレーザービームに安定して捉えられないからである。また、オリフィス出口での高速エアーは、オリフィスから離れると、急激に速度が低下し、オリフィスからの高速気体によってフィラメントに与えられる張力が、オリフィスから離れることによって弱くなり、また安定性も小さくなる。
【0028】
本発明は、原フィラメントが炭酸ガスレーザービームによって加熱されて延伸されることを特徴とする。本発明の炭酸ガスレーザービームは、10.6μm前後の波長を有している。レーザーは、照射範囲(ビーム)を小さく絞り込むことが可能であり、また、特定の波長に集中しているので、無駄なエネルギーも少ない。本発明の炭酸ガスレーザーは、パワー密度が50W/cm2以上、好ましくは100W/cm2以上、最も好ましくは、180W/cm2以上である。狭い延伸領域に高パワー密度のエネルギーを集中することによって、本発明の超高倍率延伸が可能となるからである。なお、本発明のレーザービームは、ビームエキスパンダー等で形状を変えて使用することもできる。
【0029】
本発明の原フィラメントは、炭酸ガスレーザービームにより延伸適温に加熱されるが、延伸適温に加熱される範囲がフィラメントの中心でフィラメントの軸方向に沿って、上下4mm(長さ8mm)以内であることが好ましく、さらに好ましくは上下3mm以下、最も好ましくは上下2mm以下で加熱される。このビームの径は、走行するフィラメントの軸方向に沿って測定する。本発明においては、原フィラメントが複数本であるので、原フィラメントの軸方向で測定される。本発明は、狭い領域で急激に延伸されることにより、高度に極細化され、ナノ領域までに細くした延伸を可能にし、しかも超高倍率延伸であっても、延伸切れを少なくすることができた。なお、この炭酸ガスレーザービームが照射されるフィラメントがマルチフィラメントである場合は、上記のフィラメントの中心は、マルチフィラメントのフィラメント束の中心を意味する。
【0030】
オリフィスを出た多錘の原ポリオレフィンフィラメント群は、レーザービームを照射されることによって延伸される。その際、多錘の原フィラメント群に均一にレーザービームが当たる必要がある。その手段として、延伸室全体を微細に回転させながら原フィラメント群の全てが均一に延伸される好適な位置を探る。その好適な回転位置において延伸を始めることが好ましい。なお、延伸室全体は、回転ばかりでなく、横方向(X方向)、ビームの照射方向(Y方向)、高さ方向(Z方向)へも微細に移動させることで、好適な位置が探られる。
【0031】
本発明の延伸されたフィラメントの集積装置として、走行するコンベアが使用される。コンベア上に集積され、積層されることによって、極細フィラメントの集積体または多孔質シートとして巻き取ることもできる。このようにすることにより、ナノフィラメントからなる多孔質シートを製造することができる。本発明のコンベアとして、網状の移動体が通常使用されるが、ベルトやシリンダ上に集積させてもよい。
【0032】
本発明の延伸されたフィラメントの集積装置として、フィラメント群やシート等の巻取装置も使用される。延伸されて下降してくるフィラメント群の巾に相当した紙管やアルミ管の管状物が回転軸として取り付けられた巻取機で、これらの管状物の上に延伸されたフィラメントは直接集積され、捕集されて巻き取られる。
【0033】
本発明の集積装置として巻取機を用いた場合、巻取軸に沿って湾曲している壁からなる捕集ガイドを設けることが望ましい。この捕集ガイドは、回転軸の外側に多錘の延伸されたフィラメント群が降下する巾に対応した巾を持つ。対応した巾とは、フィラメント群が下降した巾より広く、好ましくは50mm前後、さらに好ましくは100mm前後に両側に広いことが最も好ましい。オリフィスから高速エアーと共に走行してくる延伸されたフィラメントが巻取軸に巻きつかれて行く場合、高速エアーが巻取軸で反射して周囲へ飛散し、巻取軸上のフィラメントの集積状態が乱れる場合がある。その場合、この捕集ガイドの壁によって高速エアーが巻取機の回転軸方向に曲げられ、延伸されたフィラメントの飛散を防ぐことができる。巻取軸から捕集ガイドの壁までの距離は、500mm以下、好ましくは200mm以下、100mm以下であることが最も好ましい。
【0034】
コンベア上に集積された延伸されたフィラメント群は、熱処理されてシートが形成されることが望ましい。このように熱処理されることにより本発明の多孔質シートが、寸法安定性と熱安定性を備えた電池用セパレータとすることができる。そして、この多孔質シートシートは、延伸室内に設けられているシート巻取装置に巻き取られることが望ましい。熱処理は、熱風循環されている空間中に多孔質シートを通過させることや、誘導加熱等で加熱されているロール上を通過させることで行われる。本発明のポリオレフィンナノフィラメントからなる多孔質シートの熱処理温度は、ポリオレフィンの融点より30℃以下より高温で、融点より5℃低い温度範囲であることが望ましく、融点より20℃以下より高温で融点より10℃低い温度範囲であることがさらに望ましい。
【0035】
本発明における延伸倍率λは、原フィラメントの径doと延伸後のフィラメントの径dより、下記の式で表される。この場合、フィラメントの密度は一定として計算する。繊維径の測定は、走査型電子顕微鏡(SEM)で、原フィラメントは100倍、延伸されたフィラメントは1000倍またはそれ以上の倍率での撮影写真に基づき、100点の平均値で行う。
λ=(do/d)2
【0036】
本発明における延伸フィラメントは、延伸されることにより分子配向し、熱的にも安定している。本発明の延伸フィラメントはフィラメント径が非常に小さいので、フィラメントの分子配向を測定することは困難である。本発明の延伸フィラメントは、単に細くなっただけではなく、分子配向も生じていることが、熱分析の結果により示唆されている。原フィラメントや延伸フィラメントの示差熱分析(DSC)測定は、株式会社リガク製THEM PLUS2 DSC8230Cにより、昇温速度10℃/minで測定した。
【発明の効果】
【0037】
本発明の電池セパレータは、ナノフィラメントからなる多孔質シートであることより空隙率が高く、内部抵抗が小さいので導電性が良い。さらに、電極の変質をもたらす電極活物質の通過を防ぎ、リチウム金属の析出(デンドライト)を制御することでショートを防ぎ安全性を高めたセパレータであり、特にリチウムイオン2次電池に適したセパレータを提供することができた。本発明のセパレータは、ポリオレフィンフィラメントからなることより化学的に安定しており、電解液で分解しない耐薬品性を有する。さらにポリオレフィンであることより耐酸化性も有し、電池を長寿命化することができる。また、本発明の電池用セパレータを構成する多孔質シートを構成するナノフィラメント群は、フィラメント径が揃っており、多孔質シートの孔の均一性が大きく、セパレータとしての性能の高度化と安定性が高い。さらに本発明の電池用セパレータを構成するポリオレフィンナノフィラメントは、高度に延伸され、分子配向度も大きいので、高強度とすることができ、電池用セパレータの物理的強度が増し、このセパレータを電池に組み込む際の取り扱いが容易である。さらに、本発明の電池用セパレータである多孔質シートは、高度に熱処理されているので、熱による寸法安定性が高く、安全性も高いことを特徴とする。
【0038】
従来のナノファイバーの生産方式であるES法は、ポリマーを溶剤に溶かす作業や出来た製品から脱溶剤をする必要があり、製造法において煩雑であり、コストアップである。また出来た製品も、ダマやショットと呼ばれる樹脂の固まりが生じること、フィラメント径の分布が広いなど、フィラメントの品質的にも問題であった。また出来たファイバーも、ショートファイバー(短繊維)で、長さ数mmからせいぜい数10mmと云われている。
【0039】
本発明は、特殊で高精度・高レベルな装置を必要とせずに、簡便な手段で容易に分子配向が向上したポリオレフィンナノフィラメントが得られる。本発明では、延伸されたフィラメントを直接巻取機に巻き取って多孔質シートとすることができることも特徴とする。したがって本発明では、これらの高性能の電池用セパレータを安定して生産性良く製造できる手段を提供することができた。さらに本発明は、閉鎖系の密閉室でナノファイバー製造を行うことができるので、開放系で行うメルトブロー法やES法に比べ、得られたナノファイバーの大気中への飛散を防ぐことができ、作業環境における安全性が高い。
【図面の簡単な説明】
【0040】
図1図1は、本発明の電池用セパレータが使用される電池の例を断面図で示す。
図2】本発明における原フィラメント供給室が気圧P1の部屋で、延伸室がP2気圧である部屋である場合の例を示す装置の断面図。
図3】本発明の多錘延伸によって得られたポリオレフィンナノフィラメントを巻取装置に直接集積する例を示す斜視図。
図4】本発明の延伸されたフィラメントを構成するフィラメント径のヒストグラム。
図5】レーザーパワー20Wの場合に得られたフィラメントの電子顕微鏡写真(20,000倍)。
図6】レーザーパワー20Wの場合に得られたフィラメントの電子顕微鏡写真(1,000倍)。
図7】レーザーパワー25Wの場合に得られたフィラメントの電子顕微鏡写真(20,000倍)。
図8】本発明の多孔質シートを構成するナノフィラメントの示差熱測定による吸熱曲線。
図9】実施例に使用した電池用セパレータとしての単層ラミネートセルの外観写真。
図10】本発明の多孔質シートを使用した電池Aの負荷特性放電カーブ。
図11】比較例の多孔質フィルムを使用した電池Bの負荷特性放電カーブ。
【発明を実施するための形態】
【0041】
以下、本発明の実施の形態の例を、図面に基づいて説明する。図1は、本発明の電池用セパレータが使用される性能試験を行った電池の例を断面図で示す。電池1は、缶2の中に正極3と負極4が向き合って配置されている。この正極3と負極4の間に本発明のポリオレフィンナノフィラメントからなる多孔質シートである電池用セパレータ5が挟まれており、周囲が電解液6に浸されている。缶2の中の正極3、負極4、セパレータ5、電解液6等は、パッキン7を介して蓋8で覆われている。缶2と蓋8は導電性で、缶2は正極の端子、蓋8は負極の端子となり、電気エネルギーを外部へ取り出すことができる。
【0042】
図2は、本発明の電池用セパレータ用のポリオレフィンナノフィラメントからなる多孔質シートを製造するための装置の例を示す断面図である。原フィラメント供給室11が気圧P1の部屋で、延伸室12がP2気圧である部屋である。原フィラメント供給室11のP1気圧は、バルブ13と配管14を経てコンプレッサー(又は真空ポンプ)へ通じている。P1気圧は、気圧計15により管理されている。延伸室12のP2気圧は、バルブ16と配管17を経て真空ポンプ(又はコンプレッサー)へ通じている。P2気圧は、気圧計18により管理されている。ポリオレフィン原フィラメント19a、19b、19cは、リール20a、20b、20cに巻かれた状態から繰り出され、コーム21a、21b、21cを経て、繰出ニップローラ22a、23a、22b、23b、22c、23cより一定速度で送り出され、オリフィス24a、24b、24cへと導かれる。
【0043】
図2のオリフィス24a、24b、24cの出口以降は、P2気圧下にある延伸室12となる。オリフィス24を出たポリオレフィン原フィラメント19a、19b、19cは、原フィラメント供給室11と延伸室12との気圧差P1−P2によってもたらされる高速エアーと共に延伸室12に導かれる。送り出されたポリオレフィン原フィラメント19a、19b、19cは、オリフィス直下において、炭酸ガスレーザー発振装置25より発振されたレーザービーム26となる。レーザービーム26は、走行する原フィラメント19a、19b、19cに対して照射される。レーザービーム26の届く先には、レーザービームのパワーメータ27が設けれ、レーザーパワーを一定に調節されていることが好ましい。レーザービーム26により加熱され、P1−P2の気圧差によってもたらされる高速エアーが下方のフィラメントに与える張力により、原フィラメント19a、19b、19cは延伸されて、延伸されたフィラメント28a、28b、28cとなって下降し、コンベア29上に集積されて、多数のポリオレフィンナノフィラメントからなる多孔質シート30となる。
【0044】
図2において、コンベア29の裏からは、負圧吸引室31によって吸引されて、コンベア29上のポリオレフィン多孔質シート30を安定化させることが好ましい。ポリオレフィン多孔質シート30は、下記の熱処理手段の少なくとも一つにより熱処理されることが好ましい。熱処理手段の1は、赤外線ランプ32による輻射熱で、ポリオレフィン多孔質シート30が加熱され、熱処理される。熱処理手段の2は、熱風ノズル33より噴出する熱風によりポリオレフィン多孔質シート30が加熱され、熱処理される。コンベア29を出る多孔質シート30は、コンベア29上でゴムロール34により圧縮され、シート化されることが好ましい。熱処理手段の3は、コンベア29を出たポリオレフィン多孔質シート30が加熱ロール35により熱処理され、ゴムロール36により圧縮され、シート化される。熱処理されたポリオレフィン多孔質シート37は巻取ロール38に巻き取られる。
【0045】
図3は、本発明のフィラメント集積装置として巻取機を用い、延伸室内に捕集ガイドを設けた場合の例を装置の斜視図で示す。多数のポリオレフィン原フィラメント41a、41b、41c、・・・が、フィラメント供給装置(図では省略)を通じて、オリフィス42a、42b、42cを通じてP2気圧下(この図では、バルブVを通じて負圧状態に保たれている)にある延伸室43へと導かれる。炭酸ガスレーザー発振装置44より出たレーザービーム45は、オリフィス42直下において、多錘の原フィラメント41a、41b、41c、・・・に対して照射される。なお、レーザービーム45を延伸室43内へ導くには、Zn−Seからなる窓を通過するが、その窓は図では省略してある。レーザービーム45により加熱され、P1−P2の気圧差によってもたらされる高速エアーが下方のフィラメントに与える張力により、原フィラメント41a、41b、41c、・・・は延伸されて、延伸されたフィラメント47a、47b、47c、・・・となって下降し、巻取装置48へ直接巻き取られる。巻取装置48は、巻取架台49に設置された巻取管50からなり、巻取管50がモータにより駆動(図示されていない)されて回転し、この巻取管50上に延伸されたフィラメント47が直接巻き付けられ、集積されて、多数のポリオレフィンナノフィラメントからなる多孔質シート51となる。この延伸室43には、巻取管50に沿って湾曲している捕集ガイド52が設けられていることを特徴とする。この捕集ガイド52により、ポリオレフィン多孔質シート51は、安定して巻取管50に巻かれ、地合の良いポリオレフィン多孔質シート51となる。
【0046】
なお図3において、延伸室43は位置微調整架台52、53、54上に設けられており、レーザービーム45の照射範囲の中にオリフィス42a,42b,42c等を出たポリオレフィン原フィラメント41a、41b、41c等が最適に収まるように位置を微調整する。一番下の位置微調整架台54は上下(Z軸)方向に調整し、中の位置微調整架台53は横(X軸又はY軸)方向調整し、一番上の位置微調整架台52はターンテーブルになっており、回転させて位置を微調整する。
【実施例1】
【0047】
原フィラメントとしてポリプロピレンフィラメント163.2μmを用意した。ポリマーの重量平均分子量は349,000、数平均分子量は89,300で、イソタクトは92.4%であった。図3の装置で、炭酸ガスレーザー発振装置でレーザーのビーム径は3.5mmである。そして、オリフィスの内径は0.3mm、オリフィスの数は7本で、フィラメント供給速度は0.1m/分で実験した。延伸室の真空度を10kPaで、レーザーパワー10Wから25Wまで変化させた場合のフィラメント径と計算より求めた延伸倍率を表2に示す。表2より、レーザーパワー10Wでも平均フィラメント径はナノフィラメントの領域に入っており、フィラメント径分布の標準偏差は0.12と小さい。そして、計算より求めた延伸倍率は20万倍を超えている。レーザーパワーを20Wにすると、平均フィラメント径は220nmで、標準偏差も0.0455とさらに小さくなり、延伸倍率は55万倍にも達している。レーザーパワーを25Wにすると、平均フィラメント径は200nm以下になり、延伸倍率も75万倍にも達する。レーザーパワー10W、15W、20W、25Wにおけるこれらのフィラメント径分布のヒストグラムを図4に示す。また、レーザーパワー20Wの場合に得られたフィラメントの電子顕微鏡(SEM)写真を図5(20,000倍)と、図6(1,000倍)で示す。これらの写真より、連続フィラメントであり、ダマがなく、フィラメント径が揃っていることがわかる。また、レーザーパワー25Wで得られたフィラメントの電子顕微鏡写真(20,000倍)を図7に示す。
【0048】
【表2】
【実施例2】
【0049】
上記実施例1で得られたフィラメントについて、示差熱分析(DSC)測定を行った結果を表3と、図8に示す。図より、延伸されることにより吸熱ピークは急激にシャープになり、結晶の完全性が高まっていることがわかる。また、表より、平均フィラメント径(dav)が小さくなるにつけて、融点がアップし、融解熱量(△Hm)は大きくなり、結晶化度(Xc)も大きくなる。このように、延伸されただけで、熱処理されていないフィラメントの融点が上がり、結晶化度が増し、結晶の完全性が増しているのは、フィラメントが分子配向しているものと思われる。
【0050】
【表3】
【実施例3】
【0051】
実施例1の装置を使用し、同じ原フィラメントを使用して、延伸室の真空度20kPaで、フィラメント供給速度0.1m/分、レーザーパワー20Wで、図の下部の巻取管に10分間直接巻き取った。その巻き取られたシートを巻取管から切り取り、縦18cm、横17cm、坪量4.16g/m、平均フィラメント径は0.409μmの多孔質シートを得た。そのシートをもとに電池用セパレータとしての単層ラミネートセルを作成した(図9)。この単層セパレートセルで、図1のリチウムイオン電池試験装置を用いて、電池としての諸特性を測定して、表4、5に示す。なお比較例は、ポリプロピレン製1軸延伸微多孔膜(商品名セルガード、厚み25μm)である。電池の正極は、LiCoOが89%、導電性カーボンブラック6%、結着剤(ポリフッ化ビニリデン)5%で成型したものを使用した。負極は、メソカーボンマイクロビーズ黒鉛化品90%に結着剤(ポリフッ化ビニリデン)10%(いずれも重量%)で成型したものを使用した。電解質溶液は、エチレンカーボネートとジメチルカーボネートの1:1(容積比)混合溶媒に、LiPFを1mol/lを溶解したものを使用した。そのような電池で、充電電流1.8mA、充電電圧4.2Vで、8時間定電流定電圧充電試験を行い、その後、各周波数にて交流インピーダンスを測定した結果を表4に示す。比較例に較べて実施例が各周波数で電気抵抗が低い。また、充電電流1.8mA、充電電圧4.2Vで、8時間定電流定電圧充電試験を行い、その後、放電電流1.8mAで2.7Vまで放電し、電池初期容量を測定し、引き続き、放電電流のみを18mAと換えて、充放電を繰り返した測定結果を表5に示す。電流が大きくなったときの容量および維持率は、比較例に較べて実施例が高い。
【0052】
【表4】
【0053】
【表5】
【実施例4】
【0054】
本発明のセパレータの評価は、2032型のコイン電池を用いて以下のように実施した。正極は以下のように作製した。活物質LiCoO 90重量%、導電助剤アセチレンブラック 5重量%、結着材PDVF5重量%の混合物にNMPを加え、混練し、スラリーを作製した。作製したスラリーをアルミニウム集電体上に滴下し、マイクロメーター付フィルムアプリケーターおよび自動塗工機を用いて製膜し、オーブン中110℃、窒素雰囲気下にて乾燥させた。作製した正極を直径15mmの円形に打ち抜いた後、プレスを行った。正極活物質量は約26mgであった。負極は以下のように作製した。活物質人造黒鉛 94重量%、導電助剤アセチレンブラック 1重量%、結着材PVDF5重量%の混合物にNMPを加え、混練し、スラリーを作製した。作製したスラリーを銅集電体上に滴下し、マイクロメーター付フィルムアプリケーターおよび自動塗工機を用いて製膜し、オーブン中110℃、窒素雰囲気下にて乾燥させた。作製した負極を直径15mmの円形に打ち抜いた後、プレスを行った。負極活物質量は約13mgであった。上述の方法で作製した正極、負極とエチレンカーボネートとジメチルカーボネートを体積比3対7で混合した溶媒にLiPF6を1mol/Lの割合で溶解させた電解液、および円形に打ち抜いたセパレータを用いてコイン電池を作製した。セパレータには、本発明品であるポリプロピレン製ナノフィラメントシートを用いた。繊維径が約0.4μm、目付けが6g/mのシートを用いて、電池Aを作製した。また、比較例としてポリプロピレン製の多孔質フィルム(セルガード、PP、25μm)をセパレータとして用いた電池も作製した。この電池を電池Bとする。上述の方法で作製したコイン電池を25℃一定の恒温器内に設置し、充放電試験を行った。なお、電池の設計容量は約4mAhである。まず0.25Cの定電流、4.2Vの定電圧にて8時間充電を行った後、0.25Cの定電流で3Vまで放電を行い、10分間休止させた。次に充電方法を0.5Cの定電流、4.2Vの定電圧4時間の一定にし、放電の負荷特性を行った。負荷特性は、放電の電流値をサイクル毎に0.25C、0.5C、1C、2Cと変化させた。また、各サイクルの放電後、10分間の休止を入れた。電池AおよびBの負荷特性放電カーブをそれぞれ順に図10図11に示す。また、負荷特性試験の放電容量維持率を、0.25Cの放電容量を基準にしてまとめたものを表6に示す。表10より、高いCレートにおいて、電池Aの放電容量維持率が電池Bに比較して高いことが明らかとなった。以上の結果より、本発明によるナノフィラメントシートをセパレータに用いることで、高いCレートにおける電池特性が、従来の多孔質フィルムに比べて向上することが示された。
【0055】
【表6】
【産業上の利用可能性】
【0056】
本発明は、ポリオレフィンナノフィラメントからなる多孔質シートで構成されている電池用セパレータに関する。
【符号の説明】
【0057】
1:電池、 2:缶、 3:正極、 4:負極、 5:電池用セパレータ、
6:電解液、 7:パッキン、 8:蓋。
11:原フィラメント供給室、 12:延伸室、 13:バルブ、14:配管、
15:気圧計、 16:バルブ、 17:配管、 18:気圧計、
19:ポリオレフィン原フィラメント、 20:リール、 21:コーム、
22、23:繰出ニップロール、 24:オリフィス、
25:炭酸ガスレーザー発振装置、 26:レーザービーム、
27:パワーメータ、 28:延伸されたフィラメント、 29:コンベア、
30:ポリオレフィン多孔質シート、 31:負圧吸引室、 32:赤外線ランプ、
33:熱風ノズル、 34:ゴムロール、 35:加熱ロール、
36:ゴムロール、 37:ポリオレフィンナノフィラメント多孔質シート、
38:巻取ロール。
41:ポリオレフィン原フィラメント、 42:オリフィス、 43:延伸室、
44:炭酸ガスレーザー発振装置、 45:レーザービーム、
47:延伸されたフィラメント、 48:巻取装置、 49:巻取架台、
50:巻取管、 51:多孔質シート、 52:捕集ガイド、
53、54、55:位置微調整架台。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11