特許第5718944号(P5718944)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5718944
(24)【登録日】2015年3月27日
(45)【発行日】2015年5月13日
(54)【発明の名称】金属材料の塑性加工用潤滑剤
(51)【国際特許分類】
   C10M 173/00 20060101AFI20150423BHJP
   C10M 125/30 20060101ALN20150423BHJP
   C10M 133/04 20060101ALN20150423BHJP
   C10M 137/12 20060101ALN20150423BHJP
   C10M 135/02 20060101ALN20150423BHJP
   C10M 129/26 20060101ALN20150423BHJP
   C10M 159/06 20060101ALN20150423BHJP
   C10N 10/12 20060101ALN20150423BHJP
   C10N 30/00 20060101ALN20150423BHJP
   C10N 30/06 20060101ALN20150423BHJP
   C10N 40/24 20060101ALN20150423BHJP
【FI】
   C10M173/00
   !C10M125/30
   !C10M133/04
   !C10M137/12
   !C10M135/02
   !C10M129/26
   !C10M159/06
   C10N10:12
   C10N30:00 Z
   C10N30:06
   C10N40:24
【請求項の数】15
【全頁数】29
(21)【出願番号】特願2012-549783(P2012-549783)
(86)(22)【出願日】2011年12月19日
(86)【国際出願番号】JP2011079283
(87)【国際公開番号】WO2012086564
(87)【国際公開日】20120628
【審査請求日】2013年5月23日
(31)【優先権主張番号】特願2010-283274(P2010-283274)
(32)【優先日】2010年12月20日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000229597
【氏名又は名称】日本パーカライジング株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100105315
【弁理士】
【氏名又は名称】伊藤 温
(74)【代理人】
【識別番号】100131576
【弁理士】
【氏名又は名称】小金澤 有希
(72)【発明者】
【氏名】芹田 敦
(72)【発明者】
【氏名】幢崎 康介
(72)【発明者】
【氏名】小見山 忍
(72)【発明者】
【氏名】藤脇 健史
(72)【発明者】
【氏名】大竹 正人
【審査官】 馬籠 朋広
(56)【参考文献】
【文献】 特開2005−314558(JP,A)
【文献】 国際公開第02/014458(WO,A1)
【文献】 国際公開第03/080774(WO,A1)
【文献】 特開昭64−074294(JP,A)
【文献】 特開昭53−127352(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C10M 101/00−177/00
CAplus/REGISTRY(STN)
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
層状粘土鉱物の層間に陽イオン性の有機化合物を坦持した有機変性粘土鉱物を、固形分比で5〜95質量%の範囲で含有する金属材料の塑性加工用潤滑液であって、当該潤滑液を構成する液体が、水からなる(ここで、水以外の他の液体媒体を当該液体の全質量を基準として10質量%以下含有していてもよい)ことを特徴とする塑性加工用潤滑液。
【請求項2】
(C)滑剤成分が固形分比で0〜25質量%の範囲で且つ(A)有機変性粘土鉱物と(C)滑剤成分との質量比が(A)/(C)=25/75〜100/0の範囲であることを特徴とする請求項1に記載の金属材料の塑性加工用潤滑
【請求項3】
(A)有機変性粘土鉱物と(B)バインダー成分との合計が固形分比で30〜100質量%の範囲で且つ(A)と(B)の質量比が(A)/(B)=5/95〜95/5の範囲である請求項1又は2に記載の金属材料の塑性加工用潤滑
【請求項4】
(A)有機変性粘土鉱物が、前記層状粘土鉱物が持つ陽イオン交換容量(CEC)の0.8〜1.2モル量の陽イオン性の有機化合物をイオン交換させたものである請求項1〜3のいずれか一項に記載の金属材料の塑性加工用潤滑
【請求項5】
(A)有機変性粘土鉱物が、固形分比で10〜40質量%である請求項1〜4のいずれか一項に記載の金属材料の塑性加工用潤滑
【請求項6】
層状粘土鉱物が、スメクタイト(モンモリロナイト、バイデライト、ノントロナイト、サポナイト、鉄サポナイト、ヘクトライト、ソーコナイト)、スチーブンサイト、バーミキュライト、雲母族、脆雲母族の天然品もしくは合成品から選ばれる少なくとも1種であることを特徴とする請求項1〜5のいずれか一項に記載の金属材料の塑性加工用潤滑
【請求項7】
層状粘土鉱物が、合成スメクタイト、合成雲母から選ばれる少なくとも1種であることを特徴とする請求項6に記載の金属材料の塑性加工用潤滑
【請求項8】
前記、層間に坦持した有機化合物が、有機アンモニウム塩類、有機ホスホニウム塩類、有機スルホニウム塩類から選ばれる少なくとも1種であることを特徴とする請求項1〜7のいずれか一項に記載の金属材料の塑性加工用潤滑
【請求項9】
前記、層間に坦持した有機化合物が、脂肪族の四級アンモニウム塩類から選ばれる少なくとも1種であることを特徴とする請求項8に記載の金属材料の塑性加工用潤滑
【請求項10】
(B)バインダー成分が、硫酸塩、ケイ酸塩、ホウ酸塩、モリブデン酸塩、バナジン酸塩、タングステン酸塩の水溶性無機塩、リンゴ酸塩、コハク酸塩、クエン酸塩、酒石酸塩の水溶性有機塩、アクリル系樹脂、アミド系樹脂、エポキシ系樹脂、フェノール系樹脂、ウレタン系樹脂、ポリマレイン酸系樹脂の有機高分子から選ばれる少なくとも1種であることを特徴とする請求項3〜9のいずれか一項に記載の金属材料の塑性加工用潤滑
【請求項11】
(C)滑剤成分が、石鹸類、金属石鹸類、ワックス類から選ばれる少なくとも1種であることを特徴とする請求項2〜10のいずれか一項に記載の金属材料の塑性加工用潤滑
【請求項12】
被加工材となる金属材料が鉄鋼、ステンレス、アルミニウムおよびアルミニウム合金、チタンおよびチタン合金、銅および銅合金、マグネシウムおよびマグネシウム合金である請求項1〜11のいずれか一項に記載の金属材料の塑性加工用潤滑
【請求項13】
適用される加工法が冷間鍛造であることを特徴とする請求項1〜12のいずれか一項に記載の金属材料の塑性加工用潤滑
【請求項14】
層状粘土鉱物の層間に陽イオン性の有機化合物を坦持した有機変性粘土鉱物を固形分比で2〜5質量%の範囲で含有し、滑剤成分を固形分比で1〜10質量%の範囲で含有する鍛造用潤滑液であって、当該潤滑液を構成する液体が、水からなる(ここで、水以外の他の液体媒体を当該液体の全質量を基準として10質量%以下含有していてもよい)ことを特徴とする鍛造用潤滑液。
【請求項15】
有機変性粘土鉱物が合成雲母又はモンモリロナイトである請求項14に記載の鍛造用潤滑
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は鉄鋼、ステンレス、アルミニウムおよびアルミニウム合金、チタンおよびチタン合金、銅および銅合金、マグネシウムおよびマグネシウム合金などの被加工材となる金属材料を、鍛造、伸線、伸管、圧延、プレスなどの塑性加工を行う際に生じる、被加工材となる金属材料と金型などの工具の摩擦界面での焼付きや摩擦抵抗を軽減するための潤滑剤に関する。
【0002】
本発明が有用な技術分野は、前記金属材料の冷間塑性加工分野全般であり、最も適しているのが摩擦界面で高い接触圧力を受けやすい冷間鍛造分野である。
【0003】
より詳しく述べるならば、本発明は、被加工材となる金属材料と金型などの工具の摩擦界面に介在し、耐焼付き性と摩擦低減能両方の性能を発現する金属材料の非黒色系塑性加工用潤滑剤に関する。
【背景技術】
【0004】
鍛造、伸線、伸管、圧延、プレスなどに代表される金属材料の塑性加工では、被加工材である金属材料と金型などの工具が摩擦界面で激しく擦れ合うため、潤滑剤の使用が不可欠である。
【0005】
金属材料の塑性加工における潤滑剤は、その摩擦界面に介在して焼付き(金属同士の直接接触)の防止、摩擦抵抗の低下および摩耗の抑制などに寄与し、工具の寿命向上や加工エネルギーの低減および加工製品の品質向上などに直結する重要な要素の一つである。
【0006】
例えば鍛造においては、被加工材である金属材料に対し降伏応力を超えた力を与えることで塑性変形を起こさせるため、その摩擦界面は極めて高い接触圧力を受けており、被加工材は変形仕事と摩擦仕事から変換される熱および表面積の増大などの影響を受ける。
【0007】
このような高面圧、熱負荷、表面積拡大などの過酷な条件下にて、潤滑剤は性能を維持することが必要であることから、耐焼付き性と摩擦低減能両方を併せ持つように工夫された潤滑剤が用いられてきた。
【0008】
塑性加工用潤滑剤として、軽度の加工には油類、石鹸類、ワックス類などの滑剤を摩擦界面に介在させる方法が用いられることもあるが、特に高い接触圧力での摺動を強いられる冷間鍛造などにおいては、被加工材と金型との直接接触を防ぎきれずに焼付きを起こしやすいため通常は用いられない。
【0009】
そのため一般的には、被加工材である金属材料の表面にリン酸塩やシュウ酸塩などの結晶性化成皮膜を生成させ、その上に石鹸などの潤滑処理を行った塑性加工用化成皮膜が潤滑剤として用いられている。
【0010】
この塑性加工用化成皮膜は、被加工材である金属表面に化学反応により析出した無機塩皮膜が耐焼付き性を担い、上層の石鹸皮膜は下層の無機塩と化学反応し金属石鹸を生成して優れた摩擦低減能を示す理想的な潤滑皮膜を形成している。
【0011】
しかしながら塑性加工用化成皮膜は、各々の処理工程で化学反応を制御しなければならないため液管理を必要とし、処理槽を高温に保つため大量のエネルギーを消費する。
【0012】
また、処理工程では大量の不溶性塩(スラッジ)および廃液が発生し廃水処理や産業廃棄物処理が必要である。
【0013】
これらの影響および処理時の水洗や酸洗いまでを含め多数の工程により構成されていることから、導入時および操業時とも多くの費用が必要であり、工程管理、環境保全の点で好ましい手法とは言えないことから、工程が簡便で且つ廃棄物が生じない潤滑剤や処理方法が望まれている。
【0014】
このような要望から種々の潤滑剤や処理方法が提案されている。
【0015】
例えば、「水溶性高分子又はその水性エマルジョンを基材とし、固体潤滑剤と化成皮膜形成剤とを配合した潤滑剤組成物」(特許文献1)、「金属材料の塑性加工用潤滑剤組成物」(特許文献2)などでは合成樹脂を主成分とした簡便な塗布、乾燥により潤滑皮膜が形成される潤滑剤が示されている。
【0016】
また、「金属材料の冷間塑性加工用水系潤滑剤」(特許文献3)では、被加工材表面に合成樹脂と水溶性無機塩が均一に析出した皮膜を形成させることによって、工具との直接金属接触を避けるものであり、さらに任意の割合で潤滑成分などを皮膜中に含有させることにより、リン酸塩皮膜上に潤滑成分層を形成した場合と同等以上の性能が得られるものとして示されている。
【0017】
また、「傾斜型2層潤滑皮膜を有する塑性加工用金属材料およびその製造方法」(特許文献4)では、りん酸塩、硫酸塩、ホウ酸塩、ケイ酸塩、モリブデン酸塩およびタングステン酸塩等の無機化合物を主成分とするベース層と、金属石鹸、ワックス、ポリテトラフルオロエチレン、二硫化モリブデンおよびグラファイト等を主成分の滑剤層の傾斜型2層潤滑層を形成することで塑性加工用化成皮膜と同等の性能を持つ潤滑剤として示されている。
【0018】
近年の塑性加工、特に冷間鍛造においては、環境保全、金型の長寿命化といった従来からのニーズに加え、材料損失のある切削加工を極力減らし、複雑な形状で且つ高い寸法精度でより平滑な表面の高品質な加工品を経済的に得ようとするネットシェイプ鍛造品を目指しており、潤滑剤への要求は高まっている。
【0019】
そのため、加工時の面圧や表面積拡大はより増して加工の難易度は上昇、従来の塑性加工用潤滑剤では対応が困難になる加工が増えつつある。
【0020】
このような強加工に対応の可能性がある潤滑剤としては、二硫化モリブデン、二硫化タングステン、グラファイトといった固体潤滑剤を多量に含有した潤滑剤が一般的である。
【0021】
これら固体潤滑剤は六方晶の層状結晶構造を持っており、層間の結合力(ファンデルワールス力、π結合)が小さいことにより摩擦低減能を発現、表面積の増大にも追従し、高圧、高熱にもよく耐えるといった塑性加工に適した特徴を有している。
【0022】
これら固体潤滑剤の利用例としては、「金属材料塑性加工用水系潤滑剤および潤滑皮膜の処理方法」(特許文献5)にて、(A)水溶性無機塩と、(B)二硫化モリブデンおよびグラファイトから選ばれる1種以上の滑剤と、(C)ワックスとを含有し、かつこれらの成分が水に溶解または分散しており、固形分濃度比(質量比)(B)/(A)が1.0〜5.0、(C)/(A)が0.1〜1.0であることを特徴とする金属材料塑性加工用水系潤滑剤が示されている。
【0023】
しかしながら、二硫化モリブデン、二硫化タングステン、グラファイトといった固体潤滑剤の外観は黒色系であることから、その作業環境では著しい汚染が問題視されており、非黒色系の外観で且つ潤滑性に優れた固体潤滑剤が強く望まれている。
【0024】
なお、非黒色系の外観を持つ一般的な固体潤滑剤としては次のようなものがある。
【0025】
フッ化黒鉛は、グラファイトなどの炭素材料を高温でフッ素ガスを用いてフッ素化することにより合成され(高結晶性炭素材料を高温で合成することでより白い外観の合成品が得られる)、フッ素と炭素の共有結合で構成された滑りやすい層平面を持つ層状構造の固体潤滑剤であるが、原料コストや高温熱処理を必要とするため非常に高価な材料になってしまうのが欠点である。
【0026】
また、六方晶窒化ホウ素(h−BN)は、黄白色または白色の外観を持ち、六方晶の層状構造を有しており、耐熱性に優れているが、層間の結合力が高く類似構造の二硫化モリブデン、グラファイトと比べると摩擦係数は高い。
【0027】
また、白色の外観を持つ有機高分子のポリテトラフルオロエチレン(PTFE)は、平滑で凝集性の小さい分子構造のため、分子鎖同士が互いに滑りやすいことにより低摩擦係数を発現する固体潤滑剤であるが、有機物で且つ化学的に不活性であるため、耐圧性、耐熱性などでは無機物には及ばない。
【0028】
また、へき開性をもつ薄片状鉱物で層状構造を有した雲母、これに属する絹雲母(セリサイト)は非常に細粒で白色の外観を持つ固体潤滑剤であり、耐圧性や金属表面の酸化を抑制する作用を有するが、層間が強いイオン結合であるため層間が滑りにくく摩擦係数も高くなる。
【0029】
その他、タルク、軽質炭酸カルシウム、水酸化マグネシウム、酸化マグネシウムなど層状構造もしくはへき開性のある結晶構造をもつ無機物についても摩擦低減能は低い。
【0030】
また、メラミンシアヌレート、アミノ酸化合物などは有機物でありポリテトラフルオロエチレン同様摩擦低減能は有るものの耐圧性、耐熱性などで無機物には及ばない。
【0031】
これら一般的な非黒色系の固体潤滑剤では、塑性加工用として黒色系の二硫化モリブデン、二硫化タングステン、グラファイトなどの持つ耐焼付き性と摩擦低減能に匹敵するような材料は見出せていないのが現状である。
【0032】
また、熱間鍛造用分野では白色の非黒鉛系鍛造用潤滑剤が提案されているが、これは固体潤滑作用ではなく、高温条件下での有機物の溶融・熱分解による融解物と残渣の混合物による擬似固体潤滑、および熱分解で発生するガスによる離型効果の組み合わせで性能を発揮すると考えられているものであり、加工力の高い冷間鍛造分野では適しているとは云い難い。
【0033】
一般的な塑性加工用潤滑剤の滑剤成分である石鹸類やワックスなどは、せん断に弱く、また加工時の摩擦や材料変形から生じる熱を受けて溶融状態となることで摩擦低減能を発現しており、このもの自体の耐焼付き性はほとんどない。
【0034】
溶融したこれら滑剤成分は金型などの工具中で流動し、加工時に脱落した潤滑皮膜も相まって局所的に堆積する。
【0035】
これにより金型の細部形状への被加工材の流れが阻害されて欠肉や寸法不良などの成形不良に発展するのである。
【0036】
前記の通り、所望の加工品を高精度で得ようとしている近年のニーズに対してこの問題は重大であり、改善が不可欠な問題である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0037】
【特許文献1】特開昭52−20967号公報
【特許文献2】特開2000−63880
【特許文献3】特開平10−008085号公報
【特許文献4】特開2002−264252号公報
【特許文献5】国際公開WO2002/012419号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0038】
これまでの記述の通り、現在の塑性加工用潤滑剤が抱える主な問題は以下の通りである。
【0039】
(1)強加工用途における黒色系固体潤滑剤含有潤滑剤の作業環境における汚染
【0040】
(2)滑剤成分が原因となり生じた潤滑カスが金型内に堆積することによる成形不良
【0041】
以上を踏まえ、本発明の主課題はこれら問題を解決するためのものであり、具体的には、強加工用途でも適用可能で、且つ作業環境を著しく汚染するような黒色系の外観では無く、且つ成型不良の要因となる潤滑カスが生じにくい、金属材料の塑性加工用潤滑剤を提供することである。
【0042】
前記主課題に加え、更なる課題もある。一般的に、多くの鍛造部品メーカーは、先ず、大きな塑性変形を伴う鍛造を行った後、最後に、精密鍛造を行い、最終的な部品形状に仕上げている。しかし、近年、コスト競争の激化により、各メーカーでは、生産コストの更なる低減化への動きが活発化している。コスト低減化の手段の一つとしては、鍛造工程数の短縮が挙げられ、例えば、最終工程である精密鍛造を省略できると、精密鍛造前の焼鈍工程、精密鍛造向け潤滑処理及び鍛造工程などが省略される為、コストの大幅な低減化が可能となる。その為には、大きな変形に耐え、加工精度及び作業性に優れた潤滑皮膜剤を提供する必要がある。
【0043】
精密鍛造を省略する為、大きな塑性変形を伴う鍛造を行っても、良好な寸法精度や表面仕上がりを維持することが求められる。その為には、成形不良やワーク導入不良の原因である金型に付着する皮膜カスの発生を制御することが必要となる。
【0044】
以上を踏まえ、本発明の副課題は、精密鍛造を省略する為に、皮膜カスの発生を極力防止できる金属材料の塑性加工用潤滑剤を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0045】
(主課題を解決するための手段)
本発明者らは前記主課題を解決するため鋭意研究を行ってきた結果、層間に陽イオン性の有機化合物を坦持した有機変性粘土鉱物(好適には、交換性陽イオンを層間に持つ層状粘土鉱物と陽イオン性の有機化合物のイオン交換により得られた有機変性粘土鉱物)を特定比率で含有する潤滑剤が、耐焼付き性と摩擦低減能両方の性能を併せ持つことができることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0046】
本発明の特徴の一つとして外観が非黒色系であることであり、二硫化モリブデン、グラファイトなどの黒色系の固体潤滑剤を含有する潤滑剤が抱えている、作業環境における著しい汚染は本発明を適用することで無くなる。
【0047】
また、耐焼付き性を発現する層状粘土鉱物の層間に、摩擦低減能を発現する有機化合物を化学的な結び付きにより坦持させているため、一般的な滑剤成分が引き起こすような金型内での流動による局所的な堆積が起こりにくく、石鹸類やワックスなどの滑剤成分を使わなくて済むか極力減ずることができるといった効果につながる。
【0048】
その結果、潤滑カスの原因とされてきた滑剤成分を多量に含有している一般の塑性加工用潤滑剤が抱えている、潤滑カスの堆積による成形不良の問題が本発明により改善される。
【0049】
本発明の潤滑剤は、バインダー成分などとともに塗料化した上で周知の手段である塗布、浸漬などした後含まれている水分を乾燥することにより、被加工材となる金属材料と金型などの工具の摩擦界面に介在させることが出来る。
【0050】
なおここで、本発明における黒色系および非黒色系といった外観について定義する。
【0051】
色の表現として大きくは三つの要素があり、色あいを表す色相、明るさを表す明度、あざやかさを表す彩度である。
【0052】
その中で明度は、白くなれば高い値となり、黒くなれば低い値になるといったように、汚染の官能的な度合いが表現されやすい要素であり、例えば(財)土木研究センターが行っている構造物の防汚材料評価促進試験では、明度の差を汚れの程度の指標として用いられている。
【0053】
よって、この明度が低い材料が飛散するほど著しい汚染になると考えられ、二硫化モリブデンおよびグラファイトについて、各々の固体潤滑剤粉末の明度を実際に測定した。
【0054】
測定は固体潤滑剤粉末をガラスシャーレに適量入れて垂直に圧縮し厚さ2mmにした試料に対して、ガラス板を透して色彩色差計を用いて行った。(コニカミノルタ製CR−300、D65光源、CAE Lab表色系のL値)
【0055】
その結果、二硫化モリブデンが約45、グラファイトが約40という値であった。
【0056】
このことから、実用において著しい汚染とされている二硫化モリブデンおよびグラファイトの明度値より低い値、つまり暗い色の外観では当然汚染が目立つ材料となり、逆に明度が高い、つまり明るい色の外観であれは汚染が目立ちにくくなる材料になるものと考えられる。
【0057】
よって、色相と彩度は考慮せず明度を指標として、明度50未満の暗い色を「黒色系」とし、明度50以上の明るい色を「非黒色系」とした。
【0058】
(副課題を解決するための手段)
皮膜カス発生は、加工熱により皮膜が軟化して金型に粘着するケースと、塑性変形によって皮膜が脱落して金型に付着するケースの2通りがある。前者を解決する為には、加工熱で粘着化しやすい(C)潤滑成分の配合量を制御する必要がある。また、後者を解決する為には、潤滑皮膜の密着性を阻害する(A)有機変性粘土鉱物の配合量を制御する必要がある。具体的には、剤組成において、(A)有機変性粘土鉱物が固形分比で2〜5質量%の範囲であり、(C)滑剤成分が固形分比で1〜10質量%の範囲であるよう構成することで、前記副課題は達成される。
【発明の効果】
【0059】
以上説明してきたように、前記主課題と対応した効果としては、陽イオン性の有機化合物を層間に坦持した有機変性粘土鉱物を特定比率で含有することを特徴とする金属材料の非黒色系塑性加工用潤滑剤は、極めて優れた耐焼付き性、摩擦低減能両方の性能を発現することができる。本発明の適用により、従来から塑性加工用潤滑剤が抱えていた問題点(黒色系固体潤滑剤含有潤滑剤の作業環境の汚染問題、および潤滑カスの堆積による成形不良問題)の解決につながるといった効果を奏する。
【0060】
更に、前記副課題と対応した効果として、皮膜カスの発生を極力防止できるため、精密鍛造を省略することが可能となるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0061】
図1図1は、実施例(主課題と対応した実施例)での密閉押出し加工試験で使用する密閉押出し加工金型を示したものである。
図2図2は、実施例(副課題と対応した実施例)でのスパイクテストの原理図と鍛造後外観である。
図3図3は、実施例(副課題と対応した実施例)での据込−ボールしごき試験の原理図と試験後外観である。
【発明の実施の形態】
【0062】
以下に本発明の内容をより詳細に説明する。
【0063】
≪塑性加工用潤滑剤≫
(成分A:有機変性粘土鉱物)
・層状粘土鉱物
本発明に係る有機変性粘土鉱物の一原料である層状粘土鉱物は、耐焼付き性と摩擦低減能を付与する基材として作用し、層間の滑り性を向上する陽イオン性有機化合物とのイオン交換反応が可能な交換性陽イオンを層間に持つものが用いられる。
【0064】
前記、層状粘土鉱物としては、スメクタイト(モンモリロナイト、バイデライト、ノントロナイト、サポナイト、鉄サポナイト、ヘクトライト、ソーコナイト)、スチーブンサイト、バーミキュライト、雲母族、脆雲母族などの天然品もしくは合成品から選ばれる少なくとも1種が例示されるが、より好ましいものとしては小粒径の合成粘土鉱物であり、その具体例としては合成雲母、ヘクトライト型の合成スメクタイトである。
【0065】
特にヘクトライト型の合成スメクタイトは粒子径が小さく、摩擦界面で極度に薄膜となる潤滑剤の中で保持されやすく本発明に好ましい。
【0066】
ヘクトライト型の合成スメクタイトの一次粒子は厚さ約1nmの二次元小板すなわち方形又は円板状のプレートでプレート面の一辺もしくは直径は20〜500nmであると考えられており、厚さ約1nmで20〜40nmの直径を持つ円板状粒子である合成品が販売されている。
【0067】
なお、ヘクトライト型のスメクタイトの合成については、例えば特公昭61−12845号公報、特開平5−279012号公報などに示されているような水熱合成などが挙げられており、雲母の合成については、例えば特開平6−298522号公報などに示されているようなタルクと遷移金属化合物、ケイフッ化アルカリを熱処理することで合成する方法などが挙げられており、各々既製品として存在しその過程は重要ではない。
【0068】
ここで、一般的な層状粘土鉱物とその構造について説明する。
【0069】
粘土鉱物は粘土を構成する主成分鉱物で、層状珪酸塩鉱物(フィロ珪酸塩鉱物)、方解石(カルサイト)、苦灰石(ドロマイト)、長石類、石英、沸石(ゼオライト)類、その他鎖状構造を持つもの(アタパルジャイト、セピオライトなど)、はっきりとした結晶構造を持たないもの(アロフェン)などが粘土鉱物と呼ばれているが、一般的にはその中の層状珪酸塩鉱物のことを層状粘土鉱物と呼んでいる。
【0070】
層状粘土鉱物は、正負のイオンの二次元的な層が平行に積み重なって結合し結晶構造を作っており、この層構造の中には2つの構造単位、一つはSi4+とこれを囲んだO2−とから成る四面体層、他はAl3+(あるいはMg2+、Fe2+など)とこれを囲んだ(OH)とから成る八面体層で構成されている。
【0071】
四面体層中では、四面体の4つの頂点にあるOと中心に位置するSiによりSi−Oの四面体が形成され、これが3つの頂点で互いに連結して二次元的に広がり、Si10の組成を有する層格子を形成している。Si4+はしばしばAl3+で置換される。
【0072】
八面体層中では、八面体の6つの頂点にある(OH)またはOとその中心に位置するAl、Mg、Feなどにより形成された八面体が、各頂点で連結して二次元的に広がり、Al(OH)あるいはMg(OH)の組成を有する層格子を形成している。
【0073】
八面体層には、6個の陰イオンで囲まれた陽イオンの格子点に2価の陽イオン(Mg2+など)が入り格子点のすべてを占めている3−八面体型、陽イオンの格子点に3価の陽イオン(Al3+など)が入り2/3が占め、残りの1/3は空所となっている2−八面体型がある。
【0074】
四面体層と八面体層の組み合わせには2種類あり、一つは1枚の四面体層と1枚の八面体層の結合を単位とする1:1型構造、他は2枚の四面体層とその間に挟まれた1枚の八面体層の結合を単位とする2:1型構造がある。
【0075】
四面体層では通常は1個のSi4+が4個のO原子で囲まれて安定な配位をとっているが、ときにこのSi4+よりわずかにイオン半径の大きいAl3+がSi4+の代わりに四面体層に存在する。
【0076】
配位するO原子の数には変化が無いので、一つのAl3+がSi4+を置換するごとに四面体層には一単位の負電荷を生じる。
【0077】
同様に八面体層でもMg2+、Fe2+によるAl3+、Fe3+の置換に伴い負電荷を生じる。
【0078】
この負電荷を生じた層は、Li、K、Na、NH、H、Ca2+、Mg2+、Sr2+、Ba2+、Co2+、Fe2+、Al3+などの陽イオンが介在することで電気的中性になり、層間にこれら交換性陽イオンが存在した積層構造となる。
【0079】
・陽イオン性の有機化合物
本発明に係る有機変性粘土鉱物の一原料である陽イオン性の有機化合物(層間に挿入、坦持する有機化合物)は、前記層状粘土鉱物の層間隔を増大させるとともに層間の滑り性を向上する滑剤として優れた効果を示す。
【0080】
前記、有機化合物としては、有機アンモニウム化合物、有機ホスホニウム化合物、有機スルホニウム化合物から選ばれる少なくとも1種の陽イオン性有機化合物(有機基+カチオン性基)を挙げることができる。ここで、当該有機化合物が有する有機基は、特に限定されないが、炭素数1〜30の直鎖状、分岐鎖状または環状の(環式基を有する)、飽和炭化水素基または不飽和炭化水素基が好適である。また、炭素鎖又は炭素環を構成する炭素原子に結合している水素原子が他の置換基で置換されていてもよく、炭素鎖又は炭素環を構成する一部の炭素原子が他の原子(例えば、OやS等)で置換されていてもよく、更には、C−C鎖間に他の結合(例えば、エステル結合、エーテル結合)を含んでいてもよい。好ましいものとしては、摩擦低減能に有利な脂肪族炭化水素基(好適には炭素数1〜30)と、層間での固定能で有利なアンモニウム基で構成される有機アンモニウム化合物である。ここで、当該有機化合物を層間に導入する際に使用される有機塩類としては、塩化物、臭化物、沃化物、硝化物、フッ化物、水酸化物などが好適である。特に好ましい有機塩類としては、副生した塩を水洗除去しやすい四級アンモニウム塩化物(カプリルトリメチルアンモニウム塩化物、ラウリルトリメチルアンモニウム塩化物、ステアリルトリメチルアンモニウム塩化物、ジカプリルジメチルアンモニウム塩化物、ジラウリルジメチルアンモニウム塩化物、ジステアリルジメチルアンモニウム塩化物など)である。
【0081】
・層状粘土鉱物/陽イオン性の有機化合物の量比
各々の層状粘土鉱物が持つ陽イオン交換容量(CEC)の0.8〜1.2モル量の陽イオン性の有機化合物をイオン交換させることが好適である。
【0082】
・有機変性粘土鉱物の製造方法
有機変性粘土鉱物の製造方法(層状粘土鉱物の層間に有機化合物を挿入、坦持する手段)としては、周知の技術である粘土鉱物の有機化によって行われる。
【0083】
層状粘土鉱物は前記の通り、層構造中の負電荷を電気的中性に保つために層間に陽イオンが存在した積層構造となっており、水相に分散されると層間の陽イオンが水和されて粒子が膨潤して層小板に分離する。
【0084】
その状態で有機化剤である陽イオン性有機塩を共存させてイオン交換反応を行い、副生した塩を水洗除去、乾燥、粉砕することで層間に有機化合物が挿入、坦持された有機変性粘土鉱物が粉体材料として得られる。
【0085】
本発明における層状粘土鉱物の層間にある交換性陽イオンの種類は、水和や置換の容易性からLi、Naが好ましいが、その他であっても用いることができ、例えばCa2+が層間に存在する層状粘土鉱物の場合は、NaCO水溶液内でNaと置換するなどの前処理をするといったように間接的に有機化を行うことができる。
【0086】
なお、層状粘土鉱物の層間に有機化合物を挿入した有機変性粘土鉱物を生成する手段については、例えば特開平2−267113号公報、特開2002−348365号公報などでその手段が挙げられており、既製品として存在しその過程は重要ではない。
【0087】
また、水を介さないで直接もしくは有機溶剤中で挿入する方法でもかまわない。
【0088】
・作用機序
本発明における層状粘土鉱物の層間に坦持した有機化合物は、負電荷に帯電したプレート面に陽イオン基を向けて吸着した状態で、層間で有機鎖を生やしたような状態で存在しているものと思われる。
【0089】
具体例として、アンモニウム基と脂肪族炭化水素基を有する構造の有機化合物では、アンモニウム基を層状粘土鉱物のプレート面に向けて吸着し、層間で脂肪族炭化水素基を生やしたような状態となり、脂肪族炭化水素基が滑剤成分として作用して層間が非常に滑りやすくなる。
【0090】
層間に滑剤成分が坦持されていることにより、石鹸類やワックス類などの滑剤成分を使わずに済むか極力減ずる形で摩擦低減能を発現することができ、加工時における金型内での流動による局所的な潤滑カスの堆積は、一般的な塑性加工用潤滑剤と比べると非常に起こりにくくなるため、潤滑カスの堆積により生じていた成形不良の問題は改善される。
【0091】
本発明の有機変性粘土鉱物の外観について、具体例としてジステアリルジメチルアンモニウム塩化物で有機処理をした合成ヘクトライト粉末、および未処理の合成ヘクトライト粉末を前記同様の手法で明度を測定したところ、いずれも約95であり非黒色系の外観であることから、作業環境の汚染問題改善を目的とする本発明に適した外観である。
【0092】
層状粘土鉱物と有機化合物を組み合わせた事例として、「塑性加工用離型剤」(特開昭56−145994号公報)では、雲母粉末と初留点230℃以上のろうを主成分とする混合物(ろう/雲母比=1.5〜9の範囲)が本発明同様の目的で提案されているが、これは熱間鍛造時に生じるろうの蒸気が離型性能を発現しており、層間を滑らせるものとしては記述が無く、滑剤成分を多量に含有した混合物であるため、例えばこの組成物を冷間鍛造で適用した場合、潤滑カスは生じやすい。
【0093】
層状粘土鉱物の層間に有機化合物を挿入した材料については有機物中における特性付与、例えば有機溶媒中における膨潤性、粘性付与、もしくは各種有機物に混練することによる機械的物性の向上、バリア効果などが主たる目的である。
【0094】
潤滑分野では、塗料やグリースにおいて粘稠剤として一般的に用いられているが、層間の有機化合物が有機溶媒中における膨潤性を付与しているもので、本発明とは有機化合物の作用が異なる。
【0095】
また、「有機粘土複合体及びその製造方法」(特開2006−52136号公報)では、層状粘土鉱物の層間に有機化合物を挿入した材料について、高融点高分子材料との溶融混練や重合反応に耐え、有機溶媒に対し分散、充分な増粘効果を発揮する耐熱性フィラーとして提供する内容が挙げられている。
【0096】
ここでの有機化合物も、高分子材料や有機溶媒との親和性を目的として選択されており、本発明の有機化合物の作用とは異なる。
【0097】
(成分B:バインダー成分)
本発明の潤滑剤にて、(A)有機変性粘土鉱物やその他の配合成分を金型との摩擦界面に導入保持するための皮膜成分として用いられる(B)バインダー成分としては、硫酸塩、ケイ酸塩、ホウ酸塩、モリブデン酸塩、バナジン酸塩、タングステン酸塩などの水溶性無機塩、リンゴ酸塩、コハク酸塩、クエン酸塩、酒石酸塩などの水溶性有機塩、アクリル系樹脂、アミド系樹脂、エポキシ系樹脂、フェノール系樹脂、ウレタン系樹脂およびポリマレイン酸系樹脂などの有機高分子が例示されるが特に制限はなく、要求項目を考慮して選定される。
【0098】
(成分C:滑剤成分)
本発明の潤滑剤にて用いられる(C)滑剤成分としては、石鹸類(ステアリン酸ナトリウム、ステアリン酸カリウム、オレイン酸ナトリウム等)、金属石けん類(ステアリン酸カルシウム、ステアリン酸マグネシウム、ステアリン酸アルミニウム、ステアリン酸バリウム、ステアリン酸リチウム、ステアリン酸亜鉛、パルミチン酸カルシウム等)、ワックス類(ポリエチレンワックス、ポリプロピレンワックス、カルナウバロウ、ミツロウ、パラフィンワックス、マイクロクリスタリンワックス等)などから選ばれる少なくとも1種を適宜含有することができる。
【0099】
(成分D:その他の成分)
本発明の潤滑剤には、その他の成分として以下の記載したものを例として適宜選択して含有することが出来る。
【0100】
なお、二硫化モリブデン、二硫化タングステン、グラファイトなどの黒色系固体潤滑剤を少量配合することは本発明の目的を損なわないが、配合する量によっては作業環境の汚染を招くため考慮が必要である。
【0101】
・固体潤滑剤
二硫化モリブデン、二硫化タングステン、グラファイト、フッ化黒鉛、六方晶窒化ホウ素(h−BN)、雲母、タルク、炭酸カルシウム、塩基性炭酸マグネシウム、塩基性炭酸亜鉛、水酸化カルシウム、水酸化マグネシウム、酸化マグネシウム、リン酸カルシウム、リン酸亜鉛、トリポリリン酸二水素アルミニウム、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、メラミンシアヌレート、アミノ酸化合物など
【0102】
・極圧添加剤
硫化オレフィン、硫化エステル、サルファイト、チオカーボネート、塩素化脂肪酸、リン酸エステル、亜リン酸エステル、モリブデンジチオカーバメート(MoDTC)、モリブデンジチオホスフェート(MoDTP)、亜鉛ジチオホスフェート(ZnDTP)などの硫黄系極圧添加剤、有機モリブデン系極圧添加剤、リン系極圧添加剤及び塩素系極圧添加剤など
【0103】
・腐食抑制剤
亜リン酸塩、ジルコニウム化合物、タングステン酸塩、バナジン酸塩、タングステン酸塩、ケイ酸塩、ホウ酸塩、炭酸塩、アミン類、ベンゾトリアゾール類、キレート化合物など
【0104】
・粘度調整剤
ヒドロキシエチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、ポリアクリル酸アミド、ポリアクリル酸ナトリウム、ポリビニルピロリドン、ポリビニルアルコール、スメクタイト系粘土鉱物、微粉シリカ、ベントナイト、カオリンなど
【0105】
・油類
植物油、鉱物油、合成油など
【0106】
・各成分を分散または乳化させるための各種界面活性剤や高分子分散剤
非イオン性界面活性剤、陰イオン性界面活性剤、両性界面活性剤、陽イオン性界面活性剤、水溶性高分子分散剤など
【0107】
(液体媒体)
本発明に係る潤滑剤の液体媒体は、好適には水(例えば、脱イオン水、純水)である。なお、液体媒体として水以外の他の液体媒体を含有していてもよく(例えばアルコール)、この場合には液体媒体の全質量を基準として10質量%以下とすることが好適である。また、本剤は、乾燥形態又は濃縮形態であってもよい。この場合に現場にて水で希釈して使用する。
【0108】
(組成)
次に、本発明に係る潤滑剤中に含まれる各成分の組成について説明する。
【0109】
・成分Aの含有量
本発明の潤滑剤は、該有機変性粘土鉱物を固形分比で5〜95質量%の範囲で含有するが、この範囲より少ないと潤滑性および耐焼付き性が不十分であり、この範囲より多くなると該有機変性粘土鉱物を皮膜中に保持することが困難となり耐焼付き性を発現できなくなる。より好ましくは、該有機変性粘土鉱物が固形分比で10〜40質量%の範囲である。
【0110】
・成分A/成分Bの含有比
本発明の潤滑剤は、(A)有機変性粘土鉱物と(B)バインダー成分との合計が固形分比で30〜100質量%の範囲で且つ(A)と(B)の質量比が(A)/(B)=5/95〜95/5の範囲で構成される。
【0111】
より好ましくは、(A)と(B)との合計が固形分比で50〜90質量%の範囲で且つ(A)と(B)の質量比が(A)/(B)=15/85〜65/35の範囲である。
【0112】
・成分A/成分Cの含有比(+成分Cの含有量)
本発明の潤滑剤は、(A)有機変性粘土鉱物と(C)滑剤成分との質量比が(A)/(C)=25/75〜100/0の範囲で且つ(C)が固形分比で0〜25質量%の範囲で構成される。
【0113】
(C)は摩擦低減能を補う目的で含有することができるが潤滑カスの原因となるため、極力少量とするのが好ましい。
【0114】
≪塑性加工用潤滑剤(特に鍛造用潤滑剤)≫
以上は塑性加工全般における説明であったが、鍛造という用途、特に精密鍛造を省略することを想定した場合、剤は下記組成であることが好適である。
【0115】
(成分A〜成分C)
鍛造用潤滑剤は、塑性加工全般における説明での成分A〜成分Cのいずれの組み合わせでもよいが、当該用途を考慮した場合には、成分Aとして、合成スメクタイト及び/又は合成雲母、成分Bとして、水溶性無機塩(ケイ酸塩、ホウ酸塩、モリブデン酸塩、タングステン酸塩)及び/又はポリマレイン酸系樹脂、成分Cとして、金属石鹸類及び/又はワックス類、の組み合わせが特に好適である。更に、成分Cとしては、ポリエチレンワックス及び/又はポリプロピレンワックスが特に好ましい。
【0116】
(成分A及び成分Cの量)
鍛造用潤滑剤は、(成分A)有機変性粘土鉱物を固形分比で2〜5質量%の範囲で含有する。この範囲より少ないと、耐焼き付き能が不十分である。この範囲より多くなると潤滑皮膜が、塑性変形によって脱落して金型に付着しやくなり、成形性が不十分となる。より好ましいのは、該有機変性粘土鉱物成分が固形分比で2〜4質量%の範囲である。また、鍛造用潤滑剤は、(成分C)滑剤成分を固形分比で1〜10質量%の範囲で含有する。この範囲より少ないと、摩擦低減能が不十分である。この範囲より多くなると、潤滑皮膜が金型に粘着し、成形性が不十分となる。より好ましいのは、該滑剤成分が固形分比で5〜7質量%の範囲である。
【0117】
(成分Aと成分Cの比)
鍛造用潤滑剤における(A)成分と(C)成分との比{(A)/(C)}は、好ましくは2/10〜5/1であり、より好ましくは2/7〜4/5である。
【0118】
≪塑性加工用潤滑剤の使用方法・用途≫
本発明の潤滑剤は、塑性加工用として被加工材となる金属材料と金型などの工具の摩擦界面に介在させるための手段は問わない。
【0119】
本発明の潤滑剤を、被加工材となる金属材料もしくは金型などの工具に対し、周知の手段である塗布、浸漬などした後含まれている水分を乾燥することにより摩擦界面に介在させることで冷間鍛造における耐焼付き性と摩擦低減能を付与することができる。
【0120】
また、本発明の潤滑剤を被加工材となる金属材料と金型などの工具の摩擦界面に介在させる前に、耐焼付き性を大幅に底上げするなど必要に応じて被加工材に対し各種下地処理を施しても良い。
【0121】
ここでの下地処理としては、リン酸亜鉛処理、リン酸鉄亜鉛処理、リン酸カルシウム亜鉛処理、リン酸鉄処理、シュウ酸鉄処理、酸化ジルコニウム処理、フッ化アルミニウム処理などの化成皮膜処理、アルカリケイ酸塩処理、アルカリ硫酸塩処理、アルカリホウ酸塩処理、有機酸塩類のアルカリ金属塩処理、有機高分子皮膜処理などの塗布型皮膜処理が例示されるが特に制限はない。
【0122】
本発明で使用する金属材料は、本発明の組成物を付着させるのに先立って、アルカリ洗浄、酸洗浄、サンドブラストおよびショットブラストから選ばれる少なくとも1種以上の方法により清浄化するのが好ましい。
【0123】
これは、金属表面が汚れていると該潤滑剤の付着性に悪影響を与え、潤滑性に支障を来たすからである。
【0124】
近年、環境保全の面より廃液を生じないことが望まれているが、これに対してはブラスト処理を適用すれば廃水を生じることなくこと金属表面を清浄化することができる。
【0125】
本発明で対象とする金属材料は、材質面から特に限定されるものではないが、鉄、鋼、ステンレス鋼、銅、銅合金、アルミニウム、アルミニウム合金、チタン、チタン合金、マグネシウム、マグネシウム合金等の金属よりなる金属材料が例示される。
【0126】
また、形状面からは、本発明で対象とする金属材料は特に限定されるものではなく、例えば、線材、管材、棒材、ブロック材等の素材だけでなく、形状物(ギヤやシャフト等)をも包含する。
【0127】
≪塑性加工用潤滑剤を用いて形成される潤滑被膜≫
前記によって形成される皮膜の付着量は0.1〜50g/m2であることが必要であり、0.5〜30g/m2であることが好ましく、1〜25g/m2であることがより好ましい。0.1g/m2未満では、潤滑性が不十分であり塑性加工に対して充分な性能を発揮できない。50g/m2を超えると余剰分が多くなり、金型に潤滑皮膜のカスが堆積しやすくなり、成形不良の要因となることおよびコスト面でも好ましくない。
【0128】
≪実施例≫
以下に本発明に関し、いくつかの実施例を挙げ、その有用性を比較例と対比して示す。尚、前記主課題と対応した実施例と前記副課題と対応した実施例とに分けて説明する。
【0129】
{1.主課題と対応した実施例}
実施例と比較例の処方について、(A)〜(D)の成分種類と固形分比、および皮膜量を表1に記載した。それに続けて、(A)の作製方法と処理液作製方法の詳細を記載した。なお、表1での割合は質量部である。
(A)有機変性粘土鉱物
(B)バインダー成分
(C)滑剤成分
(D)その他の成分
【0130】
【表1】
【0131】
≪(成分A)有機変性粘土鉱物の作製方法≫
(合成雲母(有機A))
脱イオン水1000mlに合成雲母(コープケミカル(株)製:ソマシフME−100;交換性陽イオン=Na;CEC値=120meq/100g)を50g添加しホモジナイザーで1時間攪拌し水中に分散し、その後90℃に加温してプロペラ攪拌しながらジステアリルジメチルアンモニウム塩化物(花王(株)製:コータミンD86P)を有効成分で36g(CC値の1.0モル量相当)を添加した。その後攪拌を1時間継続し、生成した不溶性粒子をろ紙(5C)を用いてろ過、脱イオン水で洗浄をした後、60℃温風乾燥炉で16時間かけて乾燥、その後粉砕して合成雲母(有機A)の粉末を得た。
【0132】
(合成スメクタイト(有機A))
脱イオン水1000mlに合成スメクタイト(コープケミカル(株)製:ルーセンタイトSWN;交換性陽イオン=Na;CEC値=101meq/100g)を50g添加しホモジナイザーで1時間攪拌、中に分散し、その後90℃に加温してプロペラ攪拌しながらジステアリルジメチルアンモニウム塩化物(花王(株)製:コータミンD86P)を有効成分で32g(CC値の1.0モル量相当)を添加した。その後攪拌を1時間継続し、生成した不溶性粒子をろ紙(5C)を用いてろ過、脱イオン水で洗浄をした後、60℃温風乾燥炉で16時間かけて乾燥、その後粉砕して合成スメクタイト(有機A)の粉末を得た。
【0133】
(天然モンモリロナイト(有機A))
脱イオン水1000mlに天然モンモリロナイト(ホージュン(株)製:ベンゲルA;交換性陽イオン=Na;CEC値=115meq/100g)を50g添加しホモジナイザーで1時間攪拌、中に分散し、その後90℃に加温してプロペラ攪拌しながらジステアリルジメチルアンモニウム塩化物(花王(株)製:コータミンD86P)を有効成分で27g(CC値の1.0モル量相当)を添加した。その後攪拌を1時間継続し、生成した不溶性粒子をろ紙(5C)を用いてろ過、脱イオン水で洗浄をした後、60℃温風乾燥炉で16時間かけて乾燥、その後粉砕して天然モンモリロナイト(有機A)の粉末を得た
【0134】
(合成スメクタイト(有機B))
脱イオン水1000mlに合成スメクタイト(コープケミカル(株)製:ルーセンタイトSWN;交換性陽イオン=Na;CEC値=101meq/100g)を50g添加しホモジナイザーで1時間攪拌、中に分散し、その後90℃に加温してプロペラ攪拌しながらジオレイルジメチルアンモニウム塩化物(ライオン(株)製:アーカード2O−75I)を有効成分で30g(CC値の1.0モル量相当)添加した。その後攪拌を1時間継続し、生成した不溶性粒子をろ紙(5C)を用いてろ過、脱イオン水で洗浄をした後、60℃温風乾燥炉で16時間かけて乾燥、その後粉砕して合成スメクタイト(有機B)の粉末を得た。
【0135】
(合成スメクタイト(有機C))
脱イオン水1000mlに合成スメクタイト(コープケミカル(株)製:ルーセンタイトSWN;交換性陽イオン=Na;CEC値=101meq/100g)を50g添加しホモジナイザーで1時間攪拌、中に分散し、その後90℃に加温してプロペラ攪拌しながらステアリルトリメチルアンモニウム塩化物(花王(株)製:コータミン86W)を有効成分で17g(CC値の1.0モル量相当)添加した。その後攪拌を1時間継続し、生成した不溶性粒子をろ紙(5C)を用いてろ過、脱イオン水で洗浄をした後、60℃温風乾燥炉で16時間かけて乾燥、その後粉砕して合成スメクタイト(有機C)の粉末を得た。
【0136】
(天然モンモリロナイト(有機D))
脱イオン水1000mlに天然モンモリロナイト(ホージュン(株)製:ベンゲルA;交換性陽イオン=Na;CEC値=115meq/100g)を50g添加しホモジナイザーで1時間攪拌、中に分散し、その後90℃に加温してプロペラ攪拌しながらベンジルトリフェニルホスホニウム塩化物を有効成分で22g(CC値の1.0モル量相当)を添加した。その後攪拌を3時間継続し、生成した不溶性粒子をろ紙(5C)を用いてろ過、脱イオン水で洗浄をした後、60℃温風乾燥炉で16時間かけて乾燥、その後粉砕して天然モンモリロナイト(有機D)の粉末を得た。
【0137】
(合成雲母(有機D))
脱イオン水1000mlに合成雲母(コープケミカル(株)製:ソマシフME−100;交換性陽イオン=Na;CEC値=120meq/100g)を50g添加しホモジナイザーで1時間攪拌し水中に分散し、その後90℃に加温してプロペラ攪拌しながらベンジルトリフェニルホスホニウム塩化物を有効成分で23g(CC値の1.0モル量相当)を添加した。その後攪拌を3時間継続し、生成した不溶性粒子をろ紙(5C)を用いてろ過、脱イオン水で洗浄をした後、60℃温風乾燥炉で16時間かけて乾燥、その後粉砕して合成雲母(有機D)の粉末を得た。
【0138】
≪実施例の処理液作製方法≫
(実施例1)
脱イオン水77.4gをプロペラ攪拌しながら四ホウ酸カリウムを16.8g添加、60℃に加温して溶解させた。その後室温としてプロペラ攪拌しながら非イオン性界面活性剤(信越化学工業(株)製)を0.2g、作製した合成雲母(有機A)を1.6g添加し、その液をホモジナイザーで1時間攪拌して液中に分散させた。その後、プロペラ攪拌しながらポリエチレンワックスエマルジョン(三井化学(株)製)を4g添加して、濃度約20%の処理液100gを得た。
【0139】
(実施例2)
脱イオン水58.1gをプロペラ攪拌しながらエポキシ樹脂水溶液(荒川化学工業(株)製)を24.2g、非イオン性界面活性剤(信越化学工業(株)製)を0.4g、作製した合成スメクタイト(有機C)を3g、炭酸カルシウムを6g添加し、その液をホモジナイザーで1時間攪拌して液中に分散させた。その後プロペラ攪拌しながらステアリン酸亜鉛エマルジョン(中京油脂(株)製)を8.3g添加して、濃度約20%の処理液100gを得た。
【0140】
(実施例3)
脱イオン水76.2gをプロペラ攪拌しながらクエン酸ナトリウムを13g添加、60℃に加温して溶解させた。その後室温としてプロペラ攪拌しながら非イオン性界面活性剤(信越化学工業(株)製)を0.2g、作製した合成スメクタイト(有機C)を3g、リン酸亜鉛を2g添加し、その液をホモジナイザーで1時間攪拌して液中に分散させた。その後、プロペラ攪拌しながらステアリン酸亜鉛エマルジョン(中京油脂(株)製)を5.6g添加して、濃度約20%の処理液100gを得た。
【0141】
(実施例4)
脱イオン水79.8gをプロペラ攪拌しながら四ホウ酸カリウムを17g添加、60℃に加温して溶解させた。その後室温としてプロペラ攪拌しながら非イオン性界面活性剤(信越化学工業(株)製)を0.2g、作製した合成スメクタイト(有機C)を3g添加し、その液をホモジナイザーで1時間攪拌して液中に分散させて、濃度約20%の処理液100gを得た。
【0142】
(実施例5)
脱イオン水75.1gをプロペラ攪拌しながらケイ酸ナトリウムを8g添加、60℃に加温して溶解させた。その後室温としてプロペラ攪拌しながら非イオン性界面活性剤(信越化学工業(株)製)を0.4g、作製した合成スメクタイト(有機A)を5g、メラミンシアヌレート(堺化学工業(株)製)を4g添加し、その液をホモジナイザーで1時間攪拌して液中に分散させた。その後、プロペラ攪拌しながらポリプロピレンワックスエマルジョン(三井化学(株)製)を7.5g添加して、濃度約20%の処理液100gを得た。
【0143】
(実施例6)
脱イオン水28.2gをプロペラ攪拌しながらスチレン−無水マレイン酸樹脂水溶液(ニチユソリューション(株)製)を60g、非イオン性界面活性剤(信越化学工業(株)製)を0.2g、作製した合成スメクタイト(有機A)を5g、未処理の合成スメクタイト(コープケミカル(株)製)を1g添加し、その液をホモジナイザーで1時間攪拌して液中に分散させた。その後プロペラ攪拌しながらステアリン酸亜鉛エマルジョン(中京油脂(株)製)を5.6g添加して、濃度約20%の処理液100gを得た。
【0144】
(実施例7)
脱イオン水73.4gをプロペラ攪拌しながらケイ酸ナトリウムを5g添加、60℃に加温して溶解させた。その後室温としてプロペラ攪拌しながら非イオン性界面活性剤(信越化学工業(株)製)を0.6g、作製した合成スメクタイト(有機B)を7g、炭酸カルシウムを4g添加し、その液をホモジナイザーで1時間攪拌して液中に分散させた。その後、プロペラ攪拌しながらパラフィンワックスエマルジョン(日本精鑞(株)製)を10g添加して、濃度約20%の処理液100gを得た。
【0145】
(実施例8)
脱イオン水77.6gをプロペラ攪拌しながら四ホウ酸カリウムを9g添加、60℃に加温して溶解させた。その後室温としてプロペラ攪拌しながら非イオン性界面活性剤(信越化学工業(株)製)を0.4g、作製した合成スメクタイト(有機B)を7g、水酸化マグネシウムを2g添加し、その液をホモジナイザーで1時間攪拌して液中に分散させた。その後、プロペラ攪拌しながらステアリン酸カルシウムエマルジョン(近代化学工業(株)製)を4g添加して、濃度約20%の処理液100gを得た。
【0146】
(実施例9)
脱イオン水74.9gをプロペラ攪拌しながらバナジン酸ナトリウムを4g添加、60℃に加温して溶解させた。その後室温としてプロペラ攪拌しながら非イオン性界面活性剤(信越化学工業(株)製)を0.6g、作製した合成雲母(有機A)を9g、タルク(日本タルク(株)製)を4g添加し、その液をホモジナイザーで1時間攪拌して液中に分散させた。その後、プロペラ攪拌しながらポリエチレンワックスエマルジョン(三井化学(株)製)を7.5g添加して、濃度約20%の処理液100gを得た。
【0147】
(実施例10)
脱イオン水79.4gをプロペラ攪拌しながらコハク酸ナトリウムを7g添加、60℃に加温して溶解させた。その後室温としてプロペラ攪拌しながら非イオン性界面活性剤(信越化学工業(株)製)を0.6g、作製した合成雲母(有機A)を9g、未処理の合成雲母(コープケミカル(株)製)を2g、ステアリン酸リチウムを2g添加し、その液をホモジナイザーで1時間攪拌して液中に分散させて、濃度約20%の処理液100gを得た。
【0148】
(実施例11)
脱イオン水35.6gをプロペラ攪拌しながらイソブチレン−無水マレイン酸樹脂水溶液(クラレ(株)製)を55g、非イオン性界面活性剤(信越化学工業(株)製)を0.4g、作製した合成雲母(有機A)を9g添加し、その液をホモジナイザーで1時間攪拌して液中に分散させて、濃度約20%の処理液100gを得た。
【0149】
(実施例12)
脱イオン水76.6gをプロペラ攪拌しながらポリアミド樹脂(東レ(株)製)を5g添加、60℃に加温して溶解させた。その後室温としてプロペラ攪拌しながら非イオン性界面活性剤(信越化学工業(株)製)を0.4g、作製した天然モンモリロナイト(有機A)を11g、炭酸カルシウムを2g添加し、その液をホモジナイザーで1時間攪拌して液中に分散させた。その後、プロペラ攪拌しながらポリプロピレンワックスエマルジョン(三井化学(株)製)を5g添加して、濃度約20%の処理液100gを得た。
【0150】
(実施例13)
脱イオン水79.4gをプロペラ攪拌しながら酒石酸ナトリウムを7g添加、60℃に加温して溶解させた。その後室温としてプロペラ攪拌しながら非イオン性界面活性剤(信越化学工業(株)製)を0.6g、作製した合成スメクタイト(有機B)を11g、層状構造アミノ酸化合物(味の素(株)製)を2g添加し、その液をホモジナイザーで1時間攪拌して液中に分散させて、濃度約20%の処理液100gを得た。
【0151】
(実施例14)
脱イオン水79.4gをプロペラ攪拌しながらモリブデン酸アンモニウムを5g添加、60℃に加温して溶解させた。その後室温としてプロペラ攪拌しながら非イオン性界面活性剤(信越化学工業(株)製)を0.6g、作製した合成スメクタイト(有機A)を13g、ステアリン酸バリウムを2g添加し、その液をホモジナイザーで1時間攪拌して液中に分散させて、濃度約20%の処理液100gを得た。
【0152】
(実施例15)
脱イオン水68.6gをプロペラ攪拌しながらポリウレタン樹脂水溶液(アデカ(株)製)を13.3g添加、60℃に加温して溶解させた。その後室温としてプロペラ攪拌しながら非イオン性界面活性剤(信越化学工業(株)製)を0.6g、作製した合成スメクタイト(有機C)を15g添加し、その液をホモジナイザーで1時間攪拌して液中に分散させた。その後、プロペラ攪拌しながらマイクロクリスタリンワックスエマルジョン(日本精鑞(株)製)を2.5g添加して、濃度約20%の処理液100gを得た。
【0153】
(実施例16)
脱イオン水88.2gをプロペラ攪拌しながら四ホウ酸カリウムを3.5g添加、60℃に加温して溶解させた。その後室温としてプロペラ攪拌しながら非イオン性界面活性剤(信越化学工業(株)製)を0.3g、作製した合成スメクタイト(有機A)を3.5g、水酸化マグネシウムを1.5g添加し、その液をホモジナイザーで1時間攪拌して液中に分散させた。その後、プロペラ攪拌しながらステアリン酸カルシウムエマルジョン(近代化学工業(株)製)を3g添加して、濃度約10%の処理液100gを得た。
【0154】
(実施例17)
脱イオン水53.2gをプロペラ攪拌しながらコハク酸ナトリウムを14g添加、60℃に加温して溶解させた。その後室温としてプロペラ攪拌しながら非イオン性界面活性剤(信越化学工業(株)製)を0.8g、作製した合成スメクタイト(有機B)を18g、リン酸亜鉛を4g添加し、その液をホモジナイザーで1時間攪拌して液中に分散させた。その後、プロペラ攪拌しながらポリエチレンワックスエマルジョン(三井化学(株)製)を10g添加して、濃度約40%の処理液100gを得た。
【0155】
(実施例18)
脱イオン水35.8gをプロペラ攪拌しながらフェノール樹脂水溶液(小西化学工業(株)製)を6.7g、非イオン性界面活性剤(信越化学工業(株)製)を0.4g、作製した合成雲母(有機A)を18g添加し、その液をホモジナイザーで1時間攪拌して液中に分散させて、濃度約20%の処理液100gを得た。
【0156】
(実施例19)
脱イオン水77.8gをプロペラ攪拌しながら四ホウ酸カリウムを9g添加、60℃に加温して溶解させた。その後室温としてプロペラ攪拌しながら非イオン性界面活性剤(信越化学工業(株)製)を0.4g、作製した天然モンモリロナイト(有機D)を9g添加し、その液をホモジナイザーで1時間攪拌して液中に分散させた。その後、プロペラ攪拌しながらステアリン酸カルシウムエマルジョン(近代化学工業(株)製)を3.8g添加して、濃度約20%の処理液100gを得た。
【0157】
(実施例20)
脱イオン水76.6gをプロペラ攪拌しながらケイ酸ナトリウムを11g添加、60℃に加温して溶解させた。その後室温としてプロペラ攪拌しながら非イオン性界面活性剤(信越化学工業(株)製)を0.4g、作製した合成雲母(有機D)を7g添加し、その液をホモジナイザーで1時間攪拌して液中に分散させた。その後、プロペラ攪拌しながらポリエチレンワックスエマルジョン(三井化学(株)製)を5g添加して、濃度約20%の処理液100gを得た。
【0158】
≪比較例の処理液作製方法≫
(比較例1)
脱イオン水12.4gをプロペラ攪拌しながらスチレン−無水マレイン酸樹脂水溶液(ニチユソリューション(株)製)を80g、非イオン性界面活性剤(信越化学工業(株)製)を0.2g、作製した合成雲母(有機A)を0.6g添加し、その液をホモジナイザーで1時間攪拌して液中に分散させた。その後、プロペラ攪拌しながらステアリン酸カルシウムエマルジョン(近代化学工業(株)製)を6.8g添加して、濃度約20%の処理液100gを得た。
【0159】
(比較例2)
脱イオン水79.6gをプロペラ攪拌しながら四ホウ酸カリウムを0.6g添加、60℃に加温して溶解させた。その後室温としてプロペラ攪拌しながら非イオン性界面活性剤(信越化学工業(株)製)を0.4g、作製した合成スメクタイト(有機B)を19.4g添加し、その液をホモジナイザーで1時間攪拌して液中に分散させて、濃度約20%の処理液100gを得た。
【0160】
(比較例3)
脱イオン水35.6gをプロペラ攪拌しながらイソブチレン−無水マレイン酸樹脂水溶液(クラレ(株)製)を55g、非イオン性界面活性剤(信越化学工業(株)製)を0.4g、未処理の合成雲母(コープケミカル(株)製)を9g添加し、その液をホモジナイザーで1時間攪拌して液中に分散させて、濃度約20%の処理液100gを得た。
【0161】
(比較例4)
脱イオン水48.8gをプロペラ攪拌しながらイソブチレン−無水マレイン酸樹脂水溶液(クラレ(株)製)を30g、非イオン性界面活性剤(信越化学工業(株)製)を0.2g、未処理の合成雲母(コープケミカル(株)製)を6g添加し、その液をホモジナイザーで1時間攪拌して液中に分散させた。その後、プロペラ攪拌しながらポリエチレンワックスエマルジョン(三井化学(株)製)を15g添加して、濃度約20%の処理液100gを得た。
【0162】
(比較例5)
脱イオン水79.4gをプロペラ攪拌しながらクエン酸ナトリウムを6g添加、60℃に加温して溶解させた。その後室温としてプロペラ攪拌しながら非イオン性界面活性剤(信越化学工業(株)製)を0.6g、メラミンシアヌレート(堺化学工業(株)製)を7g、ステアリン酸バリウムを7g添加し、その液をホモジナイザーで1時間攪拌して液中に分散させて、濃度約20%の処理液100gを得た。
【0163】
(比較例6)
脱イオン水42.3gをプロペラ攪拌しながらイソブチレン−無水マレイン酸樹脂水溶液(クラレ(株)製)を30g、非イオン性界面活性剤(信越化学工業(株)製)を0.2g、リン酸亜鉛を5g添加し、その液をホモジナイザーで1時間攪拌して液中に分散させた。その後、プロペラ攪拌しながらポリエチレンワックスエマルジョン(三井化学(株)製)を22.5g添加して、濃度約20%の処理液100gを得た。
【0164】
(比較例7)
脱イオン水75.6gをプロペラ攪拌しながら酒石酸ナトリウムを8g添加、60℃に加温して溶解させた。その後室温としてプロペラ攪拌しながら非イオン性界面活性剤(信越化学工業(株)製)を0.4g、PTFE(住友3M(株)製)を8g添加し、その液をホモジナイザーで1時間攪拌して液中に分散させた。その後、プロペラ攪拌しながらステアリン酸カルシウムエマルジョン(近代化学工業(株)製)を8g添加して、濃度約20%の処理液100gを得た。
【0165】
(比較例8)
脱イオン水72.1gをプロペラ攪拌しながらケイ酸ナトリウムを5g添加、60℃に加温して溶解させた。その後室温としてプロペラ攪拌しながら非イオン性界面活性剤(信越化学工業(株)製)を0.4g、二硫化モリブデンを10g添加し、その液をホモジナイザーで1時間攪拌して液中に分散させた。その後、プロペラ攪拌しながらパラフィンワックスエマルジョン(日本精鑞(株)製)を12.5g添加して、濃度約20%の処理液100gを得た。
【0166】
(比較例9)
脱イオン水47.7gをプロペラ攪拌しながらポリウレタン樹脂水溶液(アデカ(株)製)を30g添加、60℃に加温して溶解させた。その後室温としてプロペラ攪拌しながら非イオン性界面活性剤(信越化学工業(株)製)を0.6g、グラファイトを5g添加し、その液をホモジナイザーで1時間攪拌して液中に分散させた。その後、プロペラ攪拌しながらステアリン酸亜鉛エマルジョン(中京油脂(株)製)を16.7g添加して、濃度約20%の処理液100gを得た。
【0167】
≪試験方法≫
(密閉押出し加工試験)
<試験片素材>
SAE1008(引張り強さ488MPa)の円柱状(直径11.8mmφ×20mm)
<処理工程>
■清浄化:アルカリ脱脂市販のアルカリ脱脂剤(ファインクリーナー4360,日本パーカライジング(株)製)濃度20g/L、温度60℃、浸漬10分にて行った。
■水洗:水道水、常温、浸漬1分にて行った。
■表面処理:各水準の薬剤に試験片を浸漬塗布し、100℃、30分の条件で乾燥させた。
<加工条件>
図1に示す密閉押出し加工金型を用いて、サーボプレスにて試験片を押出し加工を行い、その際の加工荷重について、塑性加工用化成処理(リン酸亜鉛化成皮膜の上に石鹸潤滑処理を行ったもの。以下、ボンデと称す)と比較することにより潤滑性の評価を行った。
<評価基準>
・潤滑性
◎:平均加工荷重がボンデ以下
○:平均加工荷重がボンデ同等〜10%増以下
△:平均加工荷重がボンデの10%超〜20%増以下
×:平均加工荷重がボンデの20%超
【0168】
≪スパイクテスト≫
<試験片素材>
S45C球状化焼鈍材の円柱状(直径25mmφ、高さ30mm)
<処理工程>
■清浄化:アルカリ脱脂市販のアルカリ脱脂剤(ファインクリーナー4360,日本パーカライジング(株)製)濃度20g/L、温度60℃、浸漬10分にて行った。
■水洗:水道水、常温、浸漬1分にて行った。
■表面処理:各水準の薬剤に試験片を浸漬塗布し、100℃、30分の条件で乾燥させた。
<加工条件>
特開平5−7969号公報の発明に準じて、200トンクランクプレスを用い、上部に拘束仕上げの平面金型(SKD11)、下部に鏡面仕上げのロート状金型(SKD11)をセット、下部金型の中心に試験片を置き上方から打ち付けた(加工速度は30ストローク/分)。加工後の試験片のスパイク先端部の焼付き度合いを観察して耐焼付き性を評価した。
<評価基準>
・耐焼付き性
加工後の試験片のスパイク先端部を観察して焼付き有無を評価する。
○:焼付き無し
△:微小焼付き
×:重度焼付き
【0169】
≪据込み加工試験≫
<試験片素材>
S45C球状化焼鈍材の円柱状(直径25mmφ、高さ30mm)
<処理工程>
■清浄化:アルカリ脱脂市販のアルカリ脱脂剤(ファインクリーナー4360,日本パーカライジング(株)製)濃度20g/L、温度60℃、浸漬10分にて行った。
■水洗:水道水、常温、浸漬1分にて行った。
■表面処理:各水準の薬剤に試験片を浸漬塗布し、100℃設定の温風電気炉で1時間乾燥させた。(比較例2の表面処理は水準の項目に記載の方法で行った。)
<加工条件>
200トンクランクプレスを用い、上部および下部ともに鏡面仕上げの平面金型(SKD11)をセット、下部金型の中心に試験片を置き、圧縮率が約50%になるよう上方から打ち付けた(加工速度は30ストローク/分)。3ヶの試験片を連続して加工し、下部金型に堆積した潤滑カスの度合いを観察して評価を行った。
<評価基準>
・耐潤滑カス性
加工後の下部金型に堆積した潤滑カスを観察して評価する。
○:堆積ほとんど無し、もしくは少なく容易に脱落
△:堆積やや多いが除去しやすい
×:堆積多く、融着気味
【0170】
≪作業環境性評価≫
前記の各加工試験にて、作業時における金型周辺の汚染状況を観察した。
<評価基準>
・作業環境性
○:目立つ汚染はほとんど無し、もしくは軽度である
×:黒いなど目立つ汚れが生じている
【0171】
以上の試験の結果を表2に示す。
【0172】
本発明を用いた実施例1〜20は、実用レベルの潤滑性、耐焼付き性を発現しており、加工時に生じる潤滑カスも少ないことが分かる。
【0173】
比較として、該有機変性粘土鉱物が少ない比較例1では潤滑性と耐焼付き性が劣り、多すぎる比較例2では成分の脱落により耐焼付き性と耐潤滑カス性が劣る。
【0174】
有機化合物が挿入されていない層状粘土鉱物を含有した比較例3では潤滑性が劣っており、それを補うよう滑剤成分を含有した比較例4では耐潤滑カス性が劣る。
【0175】
一般的な固体潤滑剤と滑剤成分の組合せである比較例5〜7は、潤滑性、耐焼付き性の評価と耐潤滑カス性の評価が相反する傾向であった。
【0176】
黒色系固体潤滑剤を用いた比較例7〜8は、潤滑性、耐焼付き性は良いが、当然ながら金型周辺は黒く汚染されてしまう状態となった。
【0177】
【表2】
【0178】
{2.副課題と対応した実施例}
表3は、成分A〜Cの組み合わせを変えた際の、スパイクテストでの判定結果(摩擦低減能)の一例を示したものである。尚、潤滑皮膜の付着量を10g/mとした(他の試験も同様)。ここで、図2は、本例におけるスパイクテストの原理図と鍛造後外観である。尚、剤の製法等、特記していない事項は「1.主課題と対応した実施例」に準じて実施した。この表から分かるように、摩擦低減能に関しては、A成分として、合成雲母又はモンモリロナイト、B成分として、四ホウ酸カリウム、タングステン酸ナトリウム又はモリブデン酸ナトリウム、C成分としてポリエチレンワックス、の組み合わせが特に良好であることが確認された。また、この結果から、ワックスを下限値として1質量%含有していれば摩擦低減能が担保されていることが分かる。尚、以下では、これら良好な組み合わせの内、一例として、A成分として合成雲母、B成分として四ホウ酸カリウム、C成分としてポリエチレンワックスについての試験結果を記載する。尚、以後の表中、「%」は特記しない限り「質量%」を示す。
【0179】
【表3】
【0180】
表4は、合成雲母を3質量%に固定した上でポリエチレンワックスの固形分比を変えた際の、金型へのカス転着量を検証した結果を示したものである(据え込み試験)。この結果から、上限値として10質量%までであればワックスを含有していても金型へのカス転着量低減を担保できることが分かる。
【0181】
【表4】
【0182】
また、表5は、ポリエチレンワックスを5質量%に固定した上で合成雲母の固形分比を変えた際の、皮膜カスの脱落しにくさを検証した結果を示したものである{拘束据え込み試験(据込−ボールしごき試験)}。ここで、図3は、本例での据込−ボールしごき試験の原理図と試験後外観である。この結果から、上限値として5質量%までであれば有機変性粘土鉱物を含有していても皮膜カスの脱落しにくさが担保できることが分かる。
【0183】
【表5】
【0184】
また、表6は、ポリエチレンワックスを5質量%に固定した上で有機変性粘土鉱物含有量を変えた際の据込−ボールしごき試験での判定結果(耐焼き付き能)を示したものである。この結果から、有機変性粘土鉱物を下限値として2質量%含有していれば耐焼き付き能が担保できることが分かる。
【0185】
【表6】
図1
図2
図3