特許第5719022号(P5719022)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許5719022組織に到達し、嚢切開を実施するための眼科用の外科デバイス
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5719022
(24)【登録日】2015年3月27日
(45)【発行日】2015年5月13日
(54)【発明の名称】組織に到達し、嚢切開を実施するための眼科用の外科デバイス
(51)【国際特許分類】
   A61F 9/007 20060101AFI20150423BHJP
【FI】
   A61F9/007 130H
【請求項の数】19
【全頁数】38
(21)【出願番号】特願2013-514140(P2013-514140)
(86)(22)【出願日】2010年6月7日
(65)【公表番号】特表2013-528447(P2013-528447A)
(43)【公表日】2013年7月11日
(86)【国際出願番号】US2010037627
(87)【国際公開番号】WO2011155922
(87)【国際公開日】20111215
【審査請求日】2013年5月10日
(73)【特許権者】
【識別番号】512315407
【氏名又は名称】ミノシス セルラー デバイシズ インコーポレイテッド
(74)【代理人】
【識別番号】110001243
【氏名又は名称】特許業務法人 谷・阿部特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】クリストファー ギルド ケラー
【審査官】 川島 徹
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2009/140414(WO,A1)
【文献】 米国特許出願公開第2005/0283162(US,A1)
【文献】 特表2001−511662(JP,A)
【文献】 特表2005−500893(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61F 9/007
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
眼の角膜を通って水晶体嚢に到達するための嚢切開用デバイスであって、
先端部を有するハンドピースと、
前記ハンドピースに対して移動するように、摺動可能に配設された摺動要素であって、該摺動要素の一部が前記ハンドピースの前記先端部から突き出ることができるように該ハンドピース内に位置付けられた摺動要素と、
前記ハンドピースに対して移動可能であるように、前記摺動要素と接触する吸引カップと、
前記吸引カップに関連付けられる圧縮機構であって、該圧縮機構は、アーム基部に取り付けられるアームを備え、該アームと該アーム基部とは前記ハンドピースに対して移動可能に設計され、該アームと該アーム基部とは前記眼の前記角膜の切開部を通しての前記吸引カップの配置を可能にするように位置付けられ、かつ、前記切開部を通しての前記吸引カップの配置の間、該吸引カップの圧縮をもたらすように構成されていて、前記吸引カップは、前眼房の内側で前記水晶体嚢上の切断位置に広がるように構成される圧縮機構と、
前記水晶体嚢の一部を切断するように、前記吸引カップに取り付けられた切断要素と
を備えることを特徴とするデバイス。
【請求項2】
前記吸引カップに吸引を加え、前記吸引カップを前記水晶体嚢に対して固定するように前記吸引カップに接続された、1つまたは複数の吸引要素をさらに備えることを特徴とする請求項1に記載のデバイス。
【請求項3】
前記切断要素は電極であり、前記電極に接続され、前記水晶体嚢の組織の一部を切除するように前記電極を加熱する電気リードに電流を送り込むための1つまたは複数の電気的な要素をさらに備えることを特徴とする請求項1に記載のデバイス。
【請求項4】
前記電極は、前記吸引カップの下面のまわりに取り付けられ、前記電極は、切り離される前記組織の前記一部のまわりに電流を均一に伝導するように、電流がそれに沿って2つの逆の方向に伝わることができる連続的な要素をさらに備えることを特徴とする請求項3に記載のデバイス。
【請求項5】
前記電極は上側リングおよび下側リングを備え、前記上側リングは前記電気リードに接続し、前記下側リングは、前記下側リングの相対する側の2つの位置で前記上側リングに接続し、電流は、前記上側リングから前記下側リングまで前記位置の一方を介して伝わり、次いで、前記下側リングの両側を回って前記下側リングの反対側の前記位置まで伝わり、前記電流を、前記水晶体嚢に接触している前記下側リングのまわりに均等に分配することを特徴とする請求項4に記載のデバイス。
【請求項6】
前記吸引カップは、前記吸引カップを前記水晶体嚢に対して固定して真空シールを形成するように、前記吸引カップの縁部から広がるフレアスカート状部をさらに備えることを特徴とする請求項1に記載のデバイス。
【請求項7】
前記圧縮機構は、前記アーム基部に取り付けられた2つのアームを備え、該2つのアームは、内側に互いに向かって動き、前記吸引カップ、および前記吸引カップの中に取り付けられた切断要素を圧縮するように構成され、前記吸引カップの両側に位置決めされている、ことを特徴とする請求項1に記載のデバイス。
【請求項8】
前記2つのアームは、前記摺動要素と共に遠位に移動し、前記アームを前記ハンドピースの内部の壁に押し付け、前記アームを内側に互いに向かって動かして前記吸引カップを圧縮するように、前記摺動要素に摺動可能に取り付けられることを特徴とする請求項7に記載のデバイス。
【請求項9】
前記2つのアームは、前記ハンドピースのハウジングに取り付けられ、遠位に前記アームの上で摺動し、前記アームを一緒に押して前記吸引カップを圧縮するように、前記ハウジングに摺動可能に取り付けられた摺動可能な部材をさらに備えることを特徴とする請求項7に記載のデバイス。
【請求項10】
外力に応答して前記摺動要素を遠位に移動させ、前記ハンドピース内の前記吸引カップを、前記先端部を通して出し、前記前眼房内の前記水晶体嚢まで動かすように、前記摺動要素の前記吸引カップと反対側の端部に接続され、前記ハンドピースと摺動可能に関連付けられたピストンをさらに備えることを特徴とする請求項1に記載のデバイス。
【請求項11】
外力に応答して前記摺動要素を遠位に移動させ、前記ハンドピース内の前記吸引カップを動かして先端部を通して出し、前記前眼房内の水晶体嚢に対して位置決めするように、前記ハンドピースのハウジングの溝を介して前記摺動要素の側面に接続されたつまみをさらに備えることを特徴とする請求項1に記載のデバイス。
【請求項12】
前記圧縮機構は、前記つまみに対する外力に応答して前記吸引カップを遠位に移動させ、圧縮するように、前記アーム基部に取り付けられた2つのアームを備えることを特徴とする請求項11に記載のデバイス。
【請求項13】
前記ハンドピースの遠位端の前記先端部は、前記先端部を前記切開部に挿入するために前記圧縮された吸引カップを前記先端部の中に移動させるときに、前記圧縮された吸引カップを収容するための開口部を備えることを特徴とする請求項1に記載のデバイス。
【請求項14】
前記圧縮された吸引カップを前記先端部から前記前眼房の中に移動させるときに、前記圧縮された吸引カップを平らになった位置に維持するように、前記ハンドピースの前記先端部に配設された2つの挿入用のフィンガ部をさらに備えることを特徴とする請求項1に記載のデバイス。
【請求項15】
前記挿入用のフィンガ部は、前記フィンガ部の先端部で内側に互いに向かって傾けられ、前記先端部は一緒に押されて、前記角膜の切開部を通って確実に摺動するためのウェッジ部を形成し、前記フィンガ部は、前記吸引カップが前進して前記ハンドピースから出ることによる圧力によって分離するように構成されることを特徴とする請求項14に記載のデバイス。
【請求項16】
組織の第1の層の後ろの組織の第2の層に到達し、顕微手術または治療作業を実施するためのデバイスであって、
先端部を有するハンドピースと、
前記ハンドピースに対して移動するように、摺動可能に配設された摺動要素であって、該摺動要素の一部が前記ハンドピースの前記先端部から突き出ることができるように該ハンドピース内に位置付けられた摺動要素と、
前記ハンドピースに対して移動可能であるように、前記摺動要素と接触する折り重ね可能な構造体と、
前記折り重ね可能な構造体に隣接して位置決めされ、前記ハンドピースに関連付けられた圧縮アームであって、該圧縮アームは、前記ハンドピースに対して移動可能に設計され、該圧縮アームは眼の角膜の切開部を通しての前記折り重ね可能な構造体の配置を可能にするように位置付けられ、かつ、前記切開部を通しての前記折り重ね可能な構造体の配置の間、該折り重ね可能な構造体の圧縮をもたらすように構成されている、圧縮アームと、
前記圧縮アームを操作し、前記組織の第1の層を過ぎたところに配置するように、前記折り重ね可能な構造体の圧縮をもたらす操作機構であって、前記折り重ね可能な構造体は、前記組織の第2の層上の操作可能な位置に広がる操作機構と、
前記組織の第2の層に対する顕微手術または治療作業に携わるために、前記折り重ね可能な構造体に関連付けられた操作可能な要素と
を備えることを特徴とするデバイス。
【請求項17】
前記操作機構は、前記摺動要素と共に遠位に移動し、前記アームを前記ハンドピースの内部の壁に押し付け、前記アームを内側に互いに向かって動かして前記折り重ね可能な構造体を圧縮するように、前記摺動要素に摺動可能に取り付けられたアーム基部を備えることを特徴とする請求項16に記載のデバイス。
【請求項18】
前記操作機構は、前記折り重ね可能な構造体に向かって、前記折り重ね可能な構造体の両側に位置決めされた前記圧縮アームの上を摺動し、前記アームを一緒に押して前記折り重ね可能な構造体を圧縮するように、前記ハンドピースに摺動可能に取り付けられた摺動可能な部材を備えることを特徴とする請求項16に記載のデバイス。
【請求項19】
前記操作可能な要素は、前記組織の第2の層の一部を切断するために、前記折り重ね可能な構造体に取り付けられた切断要素をさらに備えることを特徴とする請求項16に記載のデバイス。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、一般に組織の顕微手術に関し、より具体的には、ある組織に他の組織層を通って到達し、その組織を切断する、あるいは操作するための処置およびデバイスに関する。例えば、その処置およびデバイスを用いて、眼科用の外科デバイスを、角膜を通して眼の前眼房内の水晶体前嚢の膜に送達することができる。
【背景技術】
【0002】
水晶体の白内障は、世界的に失明の主な原因であり、白内障の除去による外科治療は最適な治療である。白内障は、眼の水晶体またはその包膜の中で発生する曇りである。水晶体内に不透明な領域が生じると、光の通過が妨げられる。眼の水晶体は、透明であることが前提とされる。白内障のように水晶体に不透明な領域が生じた場合、水晶体を外科的に取り除かなければならない。眼の中に水晶体が存在しない場合、網上に像を結ぶために重い矯正眼鏡が必要になる。しかしながら、水晶体を人工的な眼内レンズ(IOL)で置換し、白内障の除去後により良い視力を与えることができる。その機能を適切に果たしていない水晶体を置換するのに、他の理由が存在することもある。
【0003】
IOLと置換するための水晶体の除去は、かなりの精度を必要とする外科処置である。水晶体は水晶体嚢と呼ばれる膜によって完全に囲まれており、したがって、外科医は、水晶体に到達するために、まず嚢を切開しなければならない。嚢をまさに正しい方法で切断することが重要である。白内障の除去中に水晶体嚢が正確に切断され、損傷を受けなかった場合には、水晶体嚢を使用してIOLを保持することができる。IOLの移植では、水晶体嚢の中に、インプラントの安定性および最適なIOLの機能のために正確に中央に置かれ、大きさを定められ、成形された開口部を作成する必要がある。水晶体嚢の開口部のサイズをIOLの周縁縁部に合わせることがきわめて重要である。外科医の目的は、嚢の中に、眼の光軸に正確に中心を一致させた完全な円形(例えば、直径5.5+/−0.1mm)の孔を、孔の縁部に裂け目または欠陥がない状態で作成することである。孔の縁の裂け目または欠陥によって、嚢がきわめて弱くなり、IOLを適切に保持する能力を失いやすくなる。IOLの設計が異なると、孔に異なる直径(例えば、4.5+/−0.1mmから5.75+/−0.1mmの範囲)が必要になる場合があるが、定められた直径がどのようなものであれ、白内障手術の適切な結果には、実際に孔を得る際の外科医の正確さがきわめて重要である。これは特に、複雑な光学的機能および焦点合わせの機能を実現することを企図されたIOLにあてはまる。
【発明の概要】
【0004】
水晶体嚢の中にこの必要なレベルの精度を有する開口部を作成することは、従来型の手持ち式の切断器具を制御および案内し、水晶体嚢上で正確な円形の経路をたどることを試みる外科医にとって難しい作業である。現在のところ、嚢切開(capsulotomy)(水晶体嚢内の開口部の作成)を実施するために、外科医は通常、水晶体嚢の前方領域に小さい裂け目を手作業で作成している。その場合、外科医は十分に注意して、小さい針状の水晶体嚢切開刀および/または鉗子を用いて、眼の光軸に中心を一致させた特定の直径の円形経路をたどるように裂け目の縁部を広げることを試みる。実際には、孔が最終的に円形もしくは正確な直径にならない、または光軸に中心が一致しないということがしばしば起こる。孔の縁部に、嚢を著しく弱める放射状の裂け目が存在することもある。こうした誤りの結果として、嚢がIOLを適切に保持できなくなることがあり、最適な視覚の成果を得ることができなくなる。
【0005】
水晶体に到達する際に水晶体嚢の正確な嚢切開を実施することによって外科医が直面する困難に加えて、外科医はまた、水晶体嚢自体に到達できなければならない。水晶体は、眼の前眼房に位置決めされている。水晶体嚢に到達するために、外科医は角膜内に切開部を作成し、この切開部を通して嚢切開用の器具を注意深く挿入しなければならない。組織の第1の層の後ろまたはその下の組織の第2の層に到達できるようになる前に、組織の第1の層内の切開部を通過しなければならない、いくつかの顕微手術の処置にも同じ要求がある。外科医が角膜の切開部を通して顕微手術用の器具を操作するには、切開部がこうした器具を受け入れるのに十分なサイズのものでなければならない。しかしながら、切開部が大きくなるほど、感染症、角膜の歪みおよび他の合併症のリスクが高まる。顕微手術用の器具は、一般的には十分にコンパクトではない、または十分に簡素化されておらず、外科医が切開部のサイズを最小限に抑えることが難しくなるか、または場合によっては、切開部位での断裂または他の損傷のリスクを冒すことになる。挿入の間、切断要素または他の鋭利な構成要素が露出することがあり、外科医にはきわめて厳密であることが求められ、切開部を通して器具を挿入するときには、組織に付随的な損傷を与えるという他のリスクが生じる。さらに、この挿入にはしばしば複数のステップが必要であり、また外科医による器具の複雑な操作が必要になることもあり、誤りの余地はほとんどない。挿入後、器具を容易に操作できないことがしばしばであり、外科医は、小さい空間の中で複数の別個の部分を扱うまたは動かすことを余儀なくされる場合がある。こうした問題のいずれによっても、特に第2の層が眼の中などきわめて小さい領域内の組織であるとき、外科医が第1の層の後ろの組織の第2の層に到達することがきわめて困難になる可能性がある。
【0006】
水晶体嚢などの組織に到達し、手術を実施するための既存の治療デバイス/処置の欠点を考慮すると、顕微手術を実施するための改善された技術およびデバイスが求められる。
【0007】
本発明の実施形態は、眼の角膜を通って水晶体嚢に到達し、眼の中で嚢切開を実施するためのデバイスおよび方法を含む。水晶体の嚢切開用デバイスは、眼の角膜内の切開部に挿入するように設計された先端部を有するハンドピースを含む。ハンドピースは、その中に配設された摺動要素を有し、吸引カップが、ハンドピースの内外に動くように摺動要素に取り付けられる。切断要素が吸引カップに取り付けられる。吸引カップおよびハンドピースに関連付けられた圧縮機構が、吸引カップを先端部を通して配置するように圧縮する。デバイスの先端部を角膜の切開部を通して挿入した後、圧縮された吸引カップと切断要素を、1回の滑らかな動きでデバイスの先端部を通して出し、水晶体嚢の近くに移動させることができる。吸引カップと切断要素は、水晶体嚢内に開口部を作成するように前眼房の内側で広がる。
【0008】
操作時に、外科医は(例えば、ハンドピース上のつまみまたは他の機構を操作することによって)吸引カップと切断要素を圧縮し、外科医は、嚢切開用デバイスの先端部を眼の角膜内の切開部を通して動かす(吸引カップの圧縮前に、嚢切開用デバイスの先端部を切開部に挿入することも可能である)。圧縮された吸引カップを、ハンドピースの先端部を通して出させ、前眼房の中に配置し、吸引カップは前眼房の内側で水晶体嚢上の切断位置に広がる。カップを水晶体嚢に固定し、吸引カップの切断要素に接する水晶体嚢の組織を引っ張り、水晶体嚢の一部(例えば円形部分)を切断するように、吸引カップに吸引を加えることができる。次いで、デバイスを抜く間、切除された組織の断片を依然として吸引カップによって保持しながら、吸引を低減し、吸引カップを水晶体嚢から解放することができる。デバイスは切開部を通して引き出され、眼から取り出される。次いで、眼に対して白内障または他の水晶体の手術を実施することができる(すなわち、次いで、白内障手術の通常の方法によって水晶体を取り除くことができる)。
【0009】
他の実施形態は、組織の第1の層の後ろの組織の第2の層に到達し、第2の層に対する顕微手術または治療作業を実施するためのデバイスおよび処置を含むが、組織は水晶体嚢または眼の組織に限定されない。外科デバイスは、組織の第1の層内の切開部を通して挿入するための先端部を有するハンドピース、およびハンドピースの中に配設された摺動要素を含む。折り重ね可能な構造体(例えば、吸引カップまたは他の折り畳み可能なデバイス)が、ハンドピースの内外に動くように摺動要素に取り付けられる。折り重ね可能な構造体の側面に、折り重ね可能な構造体を圧縮するための圧縮アームが位置決めされ、ハンドピースに関連付けられる。操作機構が圧縮アームを操作し、折り重ね可能な構造体を、ハンドピースの先端部を通して出し、組織の第1の層を過ぎたところに配置するように圧縮する。配置された後、折り重ね可能な構造体は、組織の第2の層上の操作可能な位置に広がる。折り重ね可能な構造体に関連付けられた操作可能な要素を用いて、組織の第2の層に対する顕微手術または治療作業に携わる。いくつかの実施形態において、操作可能な要素は、組織の第2の層の一部を切断するために用いられる切断要素である。
【0010】
操作時に、外科医は、(例えば、つまみまたは他のハンドピース機構を押すことによって)デバイスのハンドピースの内側で折り重ね可能な構造体の側面に圧力を加え、折り重ね可能な構造体を圧縮する。外科医は、顕微手術用デバイスの先端部を組織の第1の層内の切開部を通して動かすことによって、組織の第1の層の後ろの組織の第2の層に到達する(折り重ね可能な構造体の圧縮前に、デバイスの先端部を切開部に挿入することも可能である)。処置は、ハンドピース内の摺動要素を先端部に受かって移動させ、圧縮された折り重ね可能な構造体を、ハンドピースの先端部を通して出し、組織の第1の層を過ぎたところに配置することをさらに含む。配置された後、折り重ね可能な構造体は、組織の第2の層上で操作可能な構成に広がる。次いで外科医は、組織の第2の層に対する顕微手術または治療上業に携わる。いくつかの実施形態において、実施される顕微手術または治療作業には、(例えば、折り重ね可能な構造体に関連付けられた切断要素を用いて)組織の第2の層の一部を切断することが含まれる。
【0011】
こうした技術によって、外科医が水晶体嚢などの組織に到達し、組織に対する低侵襲性の顕微手術を実施することが可能になる。直径が切開部の長さ(例えば、約2mmから3mmの長さ)より大きい(例えば、約5mmから7.5mm)、切断要素を有する折り重ね可能な構造体/吸引カップをハンドピースの中で小さいサイズに圧縮し、ハンドピースの先端部を通して滑らかに配置することができるため、外科医は、元に戻れる形で、きわめて小さい切開部を介して水晶体嚢に到達することができる。これにより、これまでの到達技術に比べて感染症および角膜の歪みのリスクが最小限に抑えられる。デバイスを切開部に挿入する間、切断要素はデバイスの中に保護され、付随的な組織の損傷および切断要素への損傷が回避される、またはどんな要素でもデバイスを用いて配置される。水晶体嚢に到達するのに、コンパクトな簡素化されたデバイスによる、ただ1回の吸引カップを配置する滑らかな動きしか必要とせず、外科医が組織に到達するのに必要な操作の量が低減される。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】本発明の一実施形態による、吸引カップが配置された状態の顕微手術/嚢切開用デバイスの上面斜視図である。
図2】本発明の一実施形態による、眼の前眼房に使用する際の顕微手術/嚢切開用デバイスの上面斜視図である。
図3】本発明の一実施形態による、吸引カップが内側に収容された状態の顕微手術/嚢切開用デバイスの上面斜視図である。
図4】本発明の一実施形態による、吸引カップが内側に収容された状態の顕微手術/嚢切開用デバイスの覆われていない上面斜視図である。
図5】本発明の一実施形態による、吸引カップが内側に収容された状態の顕微手術/嚢切開用デバイスの覆われていない上面図である。
図6】本発明の一実施形態による、吸引カップが圧縮された状態の顕微手術/嚢切開用デバイスの覆われていない上面図である。
図7】本発明の一実施形態による、吸引カップが圧縮され、先端部の中に移動された状態の顕微手術/嚢切開用デバイスの覆われていない上面図である。
図8】本発明の一実施形態による、吸引カップが配置された状態の顕微手術/嚢切開用デバイスの覆われていない上面図である。
図9】本発明の一実施形態による、吸引カップが配置された状態の顕微手術/嚢切開用デバイスの部分分解斜視図である。
図10】本発明の一実施形態による、内部の構成要素が分解斜視図としても示される顕微手術/嚢切開用デバイスの分解上面斜視図である。
図11】本発明の一実施形態による圧縮アームおよびハンドピースの一部の分解斜視図である。
図12】本発明の一実施形態による摺動要素および圧縮アームの分解斜視図である。
図13】本発明の一実施形態による切断要素の上面斜視図である。
図14】本発明の一実施形態による、テザー(tether)を融解させた状態の(またはテザーなしで作製された)切断要素の上面斜視図である。
図15】本発明の一実施形態による吸引カップの底面斜視図である。
図16】本発明の一実施形態による吸引カップの断面底面斜視図である。
図17】本発明の一実施形態による他の設計の吸引カップの断面側面図である。
図18】本発明の一実施形態による他の設計の切断要素の上面斜視図である。
図19】本発明の一実施形態による、他の設計の吸引カップ、および二重の管類を含む切断要素の分解上面斜視図である。
図20】本発明の一実施形態による、吸引カップが収容された状態の他の設計の顕微手術/嚢切開用デバイスの上面斜視図である。
図21】本発明の一実施形態による、吸引カップが配置された状態の他の設計の顕微手術/嚢切開用デバイスの底面斜視図である。
図22】本発明の一実施形態による、吸引カップが配置された状態の他の設計の顕微手術/嚢切開用デバイスの上面斜視図である。
図23】本発明の一実施形態による顕微手術/嚢切開処置に対する準備ステップを示す流れ図である。
図24】本発明の一実施形態による顕微手術/嚢切開処置に対するステップを示す流れ図である。
図25】本発明の一実施形態による顕微手術/嚢切開処置に対するステップの続きを示す流れ図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
各図面は、本発明の一実施形態を例示の目的で示したものにすぎない。以下の記述から、本明細書に記載される本発明の原理から逸脱することなく、本明細書に示される構造体および方法の代替的実施形態を使用することが可能であることが、当分野の技術者には容易に認識されるであろう。
【0014】
顕微手術/嚢切開用デバイス
本明細書では、水晶体嚢の前方表面の一部を切断する、水晶体嚢手術の状況における本発明の実施形態について記述する。この技術を用いて、水晶体嚢の中にある水晶体のすべてまたは一部を眼から取り除く、白内障に対する治療を実施することができる。その処置を用いて、水晶体嚢内に到達するための孔を作成し、それを通して水晶体嚢の中に人工的なレンズ(例えば、眼内レンズまたはIOL)を移植することもできる。本明細書では、多くの場合、水晶体嚢手術の実施に関する用語で記述するが、デバイスおよび処置は水晶体嚢の手術に限定されず、とりわけ、角膜の手術、緑内障の治療、視神経の微小穿孔(microfenestration)、デスメ膜を含む手術など眼に関する他の治療にも有用である可能性がある。さらに、デバイスおよび処置は、薬理学的、生物学的および化学的な実体ならびに治療法の送達にも有用である場合がある。デバイスおよび処置を用いて、吸引に加えて流体を送達することも可能であり、送達は、(例えば、吸引カップによって)明確に局所化し、暴露を所望の組織のみに限定することができる。さらに、デバイスおよび処置は、工業的用途、または傷つきやすい膜または組織構造の切除、脳硬膜の穿孔などを伴う処置などの眼以外の他の医療処置の実施に有用である場合がある。工業的用途などの場合、デバイスおよび処置は、身体から切除され分離した組織に対して体外(in vitro)で使用することもできる。こうした他のタイプの用途において、処置およびデバイスは、概して水晶体嚢手術に関して記述したものと同じ形で機能するが、各構成要素は、異なる組織に対応するように、異なる形で配置し、大きさを定め、成形することができる。
【0015】
図1は、本発明の一実施形態による、吸引カップ/折り重ね可能な構造体2が配置された状態の顕微手術/嚢切開用デバイス1の上面斜視図である。デバイス1は、顕微手術を実施する場合、組織の第1の層(例えば角膜)の後ろの組織の第2の層(例えば水晶体嚢)に到達するように設計される。デバイス1は、外科医が外科処置を実施するために(例えば、水晶体手術の嚢切開ステップを実施するために)操作することが可能な、ハウジングを備えたハンドピース5または構造体を含む。ハンドピースは、組織の第1の層内の切開部(例えば、眼の角膜内の切開部)を通して挿入するための先端部3を含む。先端部3は細く簡素化された形であり、したがって、切開部を断裂すること、あるいは組織を損傷することなく、先端部3を組織の切開部の中に容易に摺動させることができる。先端部3は開口部14を含み、それを通して、軸19の端部に接続された折り重ね可能な構造体または吸引カップ2を配置することができる。図1では、ハンドピース5は、長く略円筒形の構造体として示されているが、ハンドピース5は、様々な形および形態を取ることができる。
【0016】
ハンドピース5の先端部を通して配置される構造体は、図1に示すような吸引カップ2とすることができる。しかしながら、折り重ねることができる、任意の他のタイプの折り重ね可能、折り畳み可能または圧縮可能な構造体とすることもできる。例えば構造体2は、特定の組織のタイプと共に機能するために必要な他の形にすることが可能である。デバイス1は、任意のタイプまたは形の折り重ね可能な構造体を、このデバイスを整然と折り重ねることを可能にすることにより小さい開口部を通して送達する機構を提供する。したがって、この説明全体を通して「吸引カップ」に言及する場合、それを他のタイプの折り畳み可能なデバイスで置き換えることも可能である。さらに、図1に示される吸引カップ2は、主に1つの軸に沿って折り重ねられるように設計され、具体的には、(以下においてさらに詳しく記述するように)デバイス1の内側で依然として平坦な状態にとどまりながら、主に横に圧縮される。しかしながら、異なる吸引カップまたは折り重ね式の構造体のタイプを、主に異なる軸に沿って折り重ねる、あるいは様々な組織のタイプに対して配置するように圧縮することもできる。いくつかの実施形態では、吸引カップが1つの軸のみに沿って折り重ねられ、他の実施形態では、吸引カップが1つより多い軸に沿って折り重ねられる。
【0017】
デバイス1は、ハンドピース5のハウジング内の溝9を介して摺動部/摺動要素7に接続されたつまみ8を備える操作機構をさらに含み、摺動部/摺動要素7は、外科医がつまみ8を押すことによって前後に動かすことができる。摺動部7の一部が、ハンドピース5の先端部3と反対側の端部に示されている。外科医は、つまみ8を溝9に沿って往復して操作することができる。図1に示されるように、ハウジング内の溝9によって、摺動部7の動きを最前位置および最後位置に制限することができる。いくつかの実施形態では、ストレージラッチ(storage latch)12が、摺動部7を使用前のその出荷位置に保持する。レバー、押し下げられるボタン、スイッチ、回転可能なつまみ、フラップなど、つまみ8以外の操作機構を用いて構成要素をデバイスの中で動かすこともできる。
【0018】
使用時には、ハンドピース5を、(例えば、ホースバーブ10を介して)空気の流れおよび吸引をもたらす制御システムに通じるホースに接続することができる。ハンドピース5は、(例えば、電気コネクタ11で)電流を供給し、電気的な測定を行う制御システムに通じる電線に接続することもできる。デバイス1は、ホースバーブ10から吸引カップ2へ流体を運ぶことができるように、摺動部7の中に内腔をさらに含む。電気コネクタ11は、摺動部7の内腔内の電気回路に接続することもできる。潤滑孔4によって、吸引カップ2、および吸引カップ2がそれを通って摺動する通路に対して、(通常は、白内障手術の間に眼の内側で使用される)粘弾性体(viscoelastic)を含めた適切な潤滑剤を適用することが可能になる。いくつかの実施形態では、デバイス1のすべてまたは一部が使い捨てである。
【0019】
図2は、本発明の一実施形態による、眼100の前眼房に使用する際の顕微手術/嚢切開用デバイス1の上面斜視図である。眼100の図2に示される部分には、強膜102、角膜101、虹彩103および水晶体嚢104が含まれる。図2に示されるデバイス1は、眼科外科医によって、白内障手術で通常実施されるステップの1つである嚢切開を実施するために使用されている。嚢104は、眼100の水晶体を封じ込める透明な膜である。図2では、外科医によって角膜101を通る切開部105が作成されている。デバイス1の挿入先端部3は、角膜の切開部105を機械的に見出し、それに入るために、細い形の前縁(13、図3参照)を有する。図2では、デバイス1の先端部3は、角膜101の切開部105を通して既に挿入され、吸引カップ2および軸19は押されて挿入先端部3の内腔(14、図3参照)を通過している。システムがホースバーブ10を介して吸引を加えると、水晶体嚢は強制的に、吸引カップ2、および(図13、14および18に示される)その中に含まれる切断要素に押し付けられる。
【0020】
水晶体を除去し、IOLを挿入することができるように、前方嚢104に円形の孔があけられる。いくつかの実施形態では、嚢104または他の組織内の円形の開口部の直径は、約5mmから7.5mmである。しかしながら、様々な外科処置に所望される他の実施形態では、他の直径の開口部を作成することもできる(例えば、1mm、2mm、3mm、4mm、8mm、9mm、10mm、15mm、20mmなど)。切除された膜の円形の小片を、吸引によって吸引カップ2の中に保持し、デバイス1と一緒に眼100から取り出すことができる。デバイス1が眼100から取り出された後、切除された組織を処分することができる。残りの水晶体嚢を損傷のない状態にとどめることができ、したがって、それはIOLを保持するのに必要な構造健全性を有する。
【0021】
いくつかの実施形態では、デバイス1は切断要素を含まない。こうした実施形態において、デバイス1は、治療作業のための1つまたは複数の他の操作可能な要素を含むことができる。例えばデバイス1は、組織を把持する、あるいは操作するための組織操作機構を含むことが可能である。他の例として、デバイス1は、組織を焼灼する、組織を伸ばす、組織を調整する、組織を安定化する、組織に流体を供給する、または組織に対して他の動作を実施するための機構を含むことが可能である。
【0022】
図3は、本発明の一実施形態による、吸引カップ2が内側に収容された状態の収容された構成における顕微手術/嚢切開用デバイス1の上面斜視図である。いくつかの実施形態において、デバイス1は、出荷中に吸引カップ2を保護するために、この引っ込められた構成で顧客に出荷される。つまみ8は、(吸引カップ2が先端部3から広げられるときの、つまみ8が溝9の遠位端に示される図1と比較すると)溝9のデバイス1の近位端に近い反対側の端部にある。ストレージラッチ12は、摺動部7で移動止め(22、図5)と係合される。ストレージラッチ12は、(例えば出荷中の)意図しない動きを防止するが、所定の閾値を上回る意図された力を受けて解放されるように設計される。図3は、組織の切開部を通して挿入される挿入先端部3の前縁13、および吸引カップ2がそれを通ってデバイス1に出入りすることができる挿入先端部3の内腔14も示している。
【0023】
図4は、本発明の一実施形態による、吸引カップ2が内側に収容された状態の、デバイス1のハンドピース5のハウジングの下側半分5Aの顕微手術/嚢切開の覆われていない上面斜視図である。吸引カップ2は、ハンドピース5の内外に移動するように、ハンドピース5の中で軸19を介して摺動部7に取り付けられる。摺動部7は、図1および3ではハンドピース5の吸引カップ2の反対側の近位端に見られたが、図4ではハンドピース5のハウジングの中に見られる。図4は、摺動部7に取り付けられたつまみ8(図1および3に示されるように、ハンドピース5のハウジング内の溝9を通して取り付けられる)も示している。外科医はつまみ8に力を加え、つまみ8を溝9に沿って遠位に摺動させて、摺動部7をハンドピース5の中で遠位に移動させることができる。これにより、吸引カップ2を、第1の層内の組織の第2の層に対して(例えば、前眼房内の水晶体嚢に対して)位置決めするように先端部3を通して外へ摺動させる。
【0024】
図4は、吸引カップ2およびハンドピース5に関連付けられた圧縮機構の一部も示している。デバイス1の設計では、その機構は、ハンドピース5および摺動部7に対して移動するように設計された(図5に示す)アーム基部21に取り付けられた、2つの圧縮アーム15を含む。圧縮機構は、つまみ8が摺動部7に取り付けられる位置を囲む(図6により明確に示す)ラッチアーム18も含む。圧縮機構を用いて、圧縮アーム15の先端部16の間で吸引カップ2をより小さい断面に圧縮し、その結果、先端部3を組織の切開部に挿入した後、吸引カップ2をハンドピース5の先端部3を通して配置することが可能になる。吸引カップ2は圧縮されるため、切開部を断裂する、あるいは切開部に損傷をもたらすことなく、先端部を容易に通り抜けることができる。圧縮アーム15の先端部16は、デバイス1の中でハウジングの側壁の内側で狭まる傾斜面17に接して遠位に移動させると、互いに向かって動かされ、吸引カップ2を圧縮する。
【0025】
図5は、本発明の一実施形態による、吸引カップ2が内側に収容された状態の顕微手術/嚢切開用デバイス1全体の覆われていない上面図である。図5では、アーム基部21、圧縮アーム15およびラッチアーム18で構成される圧縮機構をより明確に見ることができる。図5の設計では、アーム基部21は、摺動部7に沿って移動するように摺動部7のまわりに位置決めされるが、アーム基部は、摺動部7に対して摺動できるように他の方法で設計することもできる(例えば、アーム基部を摺動部7に接続し、摺動部7の溝の中で摺動可能にすることができるなど)。圧縮アーム15は吸引カップ2の側面に位置決めされ、アーム基部21に取り付けられる。図5の収容された位置では、アーム15は隔てられ、吸引カップ2に接触せず、つまみ8は、圧縮機構のラッチアーム18内の最近位の位置に位置決めされる。図5はアームの屈曲部20をさらに示し、そこではアーム15が曲がり、アーム先端部16を互いに寄せて吸引カップ2を圧縮する。図5は、摺動部7内の移動止め22も示しており、デバイス1を安全に出荷するために、収容された位置では、ストレージラッチ12が移動止め22と係合される。図5では、(切断要素が電気的な要素である)吸引カップ2の切断要素に電流を供給するための電気コネクタ11Aと11Bの両方を見ることができる。
【0026】
図6は、本発明の一実施形態による、吸引カップが圧縮された状態(2B)の顕微手術/嚢切開用デバイス1の覆われていない上面図である。外力を加えてつまみ8を移動させると、つまみ8は、ハンドピース5の外側では溝9に沿って、内側ではラッチアーム18の中を摺動する。図6は、つまみ8が摺動部7にそれを介して取り付けられる取り付け用の受け口である、ラッチボス(latch boss)27を示している。摺動部7の頂面と底面の両方で突出するラッチボス(図では頂面のみを示す)は、ラッチアーム18の中を、(アーム基部21に近い)ラッチアーム18の近位端のある位置から(挿入先端部3に向かって)ラッチアーム18の遠位端へ摺動する。(ラッチアーム18内でラッチボス27を動かす)つまみ8のこの移動によって、(吸引カップ2を含む)摺動部7と圧縮機構の両方を遠位に動かす。アーム15は、アーム15の先端部16が狭まる傾斜面17の初めの部分24と接触するまで、ハンドピース5の中を遠位に摺動する。傾斜面17は、アーム15の先端部16を内側に互いに向かって押し、吸引カップ2を圧縮する。アーム15が遠位に動き続けると、先端部16は傾斜面17に沿って摺動し、吸引カップ2が完全に圧縮される、狭まる傾斜面17の終わりの部分23に達するまでさらに内側に押される。アーム基部21は、(例えば、ハンドピース5の頂部および底部のハウジングに成形された)1つまたは複数のアームストップ(arm stop)26と接触し、それによって、圧縮機構がデバイス1の中でさらに動くことを防止する。
【0027】
吸引カップ2とアーム先端部が一緒に進むため、傾斜面17の互いに近付く面が、アーム15を、吸引カップ2が所望の幅まで圧縮されるような所定の量だけ(例えば、ピンセットのように)互いに向かって押し進める。したがって、エラストマーの吸引カップ2に対する摩擦抵抗は全くないか、または限られたものになる。吸引カップ2が互いに近付く側壁に対して直接摺動すれば、摩擦が吸引カップ2を後方に変形させ、適切な横方向の圧縮を妨げる可能性がある。互いに近付く側壁と吸引カップ2の間にある剛性のピンセット型の先端部16を使用することによって、純粋な横方向の圧縮が可能になる。
【0028】
図7は、本発明の一実施形態による、吸引カップが圧縮され(2B)、先端部3に移動された状態の顕微手術/嚢切開用デバイス1の覆われていない上面図である。図7は、アームラッチ18の向きを変え、ラッチボス27に対する把持を解放させた後のデバイス1を示している。この時点では、つまみ8を依然として溝9に沿ってさらに摺動させて、摺動部7をさらに遠位に移動させることができるが、圧縮機構は、アーム基部21がアームストップ26と接触しているために、さらに遠位に動くことができない。ラッチアーム18は遠位端に開口部を含み、アーム15がその移動範囲の端に達した後、(ここには示されていない、つまみ8に接続された)ラッチボス27は、その開口部を通して移動することが可能になる。吸引カップ2が先端部3の中に配置されると、ラッチボス27は開口部を通って動き、摺動部7の移動を継続させることができる。吸引カップ2の圧縮および先端部3への移動後に、外科医が通常、角膜の切開部を通して先端部3を挿入するのはこの時点である。
【0029】
図8は、本発明の一実施形態による、吸引カップ2が配置された状態の顕微手術/嚢切開用デバイス1の覆われていない上面図である。この図では、エラストマーの吸引カップ2が完全に配置され広げられて、収容されていたときの以前の形に戻っている。摺動部7は遠位に移動されている。摺動部7の残りの部分より広い摺動部7の最近位の端部が、アーム基部21と接触している。したがって、吸引カップ2をさらに移動させることができない。つまみ8も、溝9の遠位端まで完全に移動した状態で示されている。
【0030】
図9は、本発明の一実施形態による、吸引カップ2が配置された状態の顕微手術/嚢切開用デバイス1の部分分解斜視図である。この図は、配置された状態におけるデバイス1の様々な構成要素を示し、またハンドピース5のハウジングの上側半分5Bと下側半分5Aの両方を示している。ラッチボス27は遠位に移動されてラッチアーム18から離れ、つまみ8は溝9の遠位端まで移動されている。摺動部7は、アーム基部21と接触するまで遠位に移動されている。摺動部7および圧縮機構が除かれた、底部のハウジング5Aも見られる。底部のハウジング5Aの中の溝28によって、デバイス1のその側面におけるラッチボス27の移動が可能になる。図9には、吸引カップ2が完全に圧縮された後、アーム基部21がさらに移動しないようにする、底部のハウジング5A内のアームストップ26も見られる。図9ではさらに、アームの曲げ位置20をより明確に見ることができる。
【0031】
図10は、本発明の一実施形態による、内部の構成要素も分離して示された顕微手術/嚢切開用デバイス1の他の分解上面斜視図である。この図では、摺動部7および圧縮機構も互いに分離されている。この実施形態では、摺動部7は、流体吸引用の内腔31および電気導体(例えばワイヤ、図示せず)を収容するための深い溝29、30を備えた、底部の半分7Aおよび頂部の半分7Bを有する。(吸引カップ2、軸19および摺動部7は単一の部品とすることも可能であるが)吸引カップ2と軸19は、摺動部7から分離して示され、電気的な構成要素11および吸引用の構成要素10は、デバイス1から外した状態で示されている。電気的なピン11は、電気的なワイヤを内部に収容することができる深い溝29、30に接続する。ホース接続部10は、吸引カップ2対する吸引を行うための流体吸引用の内腔31に接続する。
【0032】
図11は、本発明の一実施形態による、圧縮アームおよびハンドピースの一部の分解斜視図である。図11は、ハウジングおよび圧縮機構の構成要素の図を、それらの機能をより適切に見せるように示している。上側のハウジング5B内の釘部34は、下側のハウジング5Aの孔35と係合し、組み立てを容易にする。突出するストレージラッチの形体12は、ハンドピース5がその出荷用の構成であるとき、摺動部7で移動止め(22、図12)と係合する。アーム取り付け部21の前縁25と後縁32の両方が示されている。先端部3が接続するハウジングの狭まった部分33も示されている。
【0033】
図12は、本発明の一実施形態による、摺動要素7および圧縮アーム15の分解斜視図である。図12は、摺動部7および圧縮用の構成要素の図を、完全に配置された構成においてアーム基部の後縁32が摺動部基部の前縁35と接触するまで、摺動部7がどのようにアーム基部21の内部の内腔34を通って動くことができるかを見せるように示している。
【0034】
切断要素および吸引カップの設計
図13は、本発明の一実施形態による、切断要素50の上面斜視図である。図13の実施形態では、切断要素50は嚢膜を切断する電極であるが、他の設計も実施可能である(例えば、鋭利なナイフ、または複数の鋭利なナイフもしくは歯)。使用時には、電流が剛性リード53A、90度のアークリード51A、電極のアークリードの接続部52Aを通り、次いで電極リング54に流入することができる。電流の半分は、リング54のまわりを時計回りに流れ、半分は反時計回りに流れ、接続部52Bに至り、90度のアークリード51Bに入ることができる。最終的には、電流は剛性のリード53Bを通って流出する。この設計によって、有利には、連続的なリング54を、組織の一部を均一に加熱して切り離すように加熱することが可能になる。電流は接続部52Aを通ってリング54まで伝わり、リング54に沿って両方向に伝わるため、(電流がリングの1点からリングを通って一方向のみに流れ、そのために組織があまり均一に加熱されないリングとは対照的に)電流は電極の両側で均等に分配され、組織をより均一に加熱する。これは電極の構成および電流の経路の一例にすぎない。複数の他の設計を使用することもできる。
【0035】
剛性リード53A、53B、アンカータブ56、59、および90度のアークリード51A、51Bは、エラストマー(例えば、シリコーンまたはポリウレタン)でオーバーモールドする(overmold)ことができる。剛性リード53A、53Bを隔てるギャップ55は、オーバーモールド用のエラストマーで満たすことが可能であり、剛性リード53A、53Bの間での電流の短絡を防止することができる。流体の流れおよび吸引のために、剛性リードの中に内腔を含むようにすることができ、したがって、通常、内腔はエラストマーで満たされない。溶解可能なテザー57、58は、電極がオーバーモールド前のその形を維持するように処理するために、電極を強固にするきわめて薄いリガメントとして設計することができる。オーバーモールド後に、定められた一連の電流を印加し、テザーを開回路になるように融解することができる。断面がより大きい構成要素は通常、小さい断面のテザー57、58を融解するのに必要な電流によって影響を受けない。この融解プロセスは、出荷前に工場で実施することができる。各ユニットが適切に製造されることを保証するために、品質管理の目的で印加される電圧、結果として生じる電流、および(前後の)抵抗を監視し、記録することがある。任意選択で、テザーを用いずに電極を作製することが可能である。
【0036】
図14は、本発明の一実施形態による、テザー57、58が除かれた、またはテザーなしに作製された切断要素の上面斜視図である。図14は、テザー57、58が飛ばされ、非導電性のギャップ57x、58xが残された電極を示している。
【0037】
図15は、本発明の一実施形態による吸引カップ2の底面斜視図である。吸引カップ2は、中央に屋根部66および開口部60を有する。吸引カップ2は、内径(ID)壁67および外径(OD)壁68によって両側で境界を定められた内部流路61も有する。電極リング54は、OD壁68の他方の側に位置決めされる。
【0038】
吸引カップ2が水晶体嚢104に向かい合い、内腔62を通して吸引が加えられると、吸引カップ2の流路61内の圧力を下げることができる。内腔62は、軸63、デバイス1およびホースバーブ10を通して、吸引を加えるための吸引機構に接続する。吸引カップ2の外径(OD)リップ64および内径(ID)リップ65を、嚢膜104に接触させて引っ張り、低漏出シールを形成することが可能であり、したがって、流路61の圧力を所定の値までさらに下げることができる。吸引によって、組織に対する真空シールを設けることもできる。吸引カップ2を組織に対して固定する、または切断要素を用いて組織を切り離すことを可能にするために、吸引によって組織の各部を吸引カップ2の中にさらに引き上げることができる。加えられた吸引力によって、嚢膜を切断要素の縁部の上で伸ばし、ちょうど切断が望まれる円上に高い引張応力の状態を生じさせることができる。取り外す間、吸引を用いて組織の切断部分をデバイス1の内側に保持することもできる。切断要素は吸引能力ももたらすデバイス1に直接組み込まれるため、デバイス1を、嚢切開を実施するための1ステップの処置に使用することができる。
【0039】
吸引カップ2のODリップ64は、吸引カップ2の外側周縁部のまわりの縁部から延びるフレアスカート状の設計を有する。フレアスカート状であることによって、吸引カップ2を小さい力で嚢104の湾曲した面に支えることが可能になり、また切断処置のために、吸引カップ2を嚢104に対して真空シールすることが可能になる。
【0040】
図16は、本発明の一実施形態による吸引カップの断面底面斜視図である。切断要素50のアンカータブ56が、オーバーモールドされたエラストマーに埋め込まれている。剛性リード53Bが、吸引カップ2の軸63の内側に示されている。リード53Bは、電極リング54と電気的に接続している。吸引を行うために、軸63の内腔62が吸引カップ2の流路61に接続される。
【0041】
図17は、本発明の一実施形態による他の設計の吸引カップ70(例えば、中央の隆起部または二重流路の吸引カップの設計)の断面側面図である。図17は、流路61の中央に位置する支持用のエラストマーの隆起部71によって保持された、露出した電極リング54を示している。これによって2つの吸引流路73、72が生成され、したがって、嚢膜104を強制的に電極54の縁部の上に伸ばすことができる。
【0042】
図18は、本発明の一実施形態による他の設計の切断要素200の上面斜視図である。使用時には、電流が、剛性リード53Aから接続リード203Aを通り、電極リング201に流入することができる。電流の一部はリング201のまわりを進み、残りの部分はギャップ材料204を通って接続リード203Bに向かうことができる。ギャップ204を通って流れる部分は、ギャップ204の材料が導電性でない場合にはゼロにすることができる。しかし、ギャップが十分に小さい場合には、放電からの熱の切断作用は、ギャップを埋め、その結果、完全な円形の嚢膜の小片が切断されるように設計することができる。ギャップ材料が導電性である場合には、ギャップ204は、(適切な長さ、幅および厚さを有することによって)リング201のまわりで生じる周囲の長さ1ミリメートルあたりの電力損が同じになり、完全な円形に対する均一な加熱および切断作用が得られるように設計することができる。例示的な構造は、剛性リード53Aおよび53B、ならびにギャップ204に、電鋳されたニッケルまたは鋼を含むことができる。電極リング201は、電鋳された金もしくはニッケル、またはエッチングされたステンレス鋼とすることができる。図18には、図14に示されたタブ56と同様のアンカータブ202も示されている。図13、15および18の実施形態では、切断要素は、吸引カップの下面に取り付けられた円形の切断要素である。しかしながら、組織内に異なる形で成形された切開部が所望される異なるタイプの外科処置では、切断要素は他の形(例えば、楕円形、正方形、長方形、不規則な形および他の形)をとることができる。同様に、吸引カップも他の形をとることができる。
【0043】
デバイス1の実施形態は、電気的、機械的、および組み合わされた電気機械的な切断要素と共に使用することができるが、他の設計を使用することも可能である。電気的な切断要素は、抵抗器として機能する。きわめて短い電気パルスは、要素を迅速に(例えば、600℃、700℃、800℃、900℃、1000℃、1200℃、1500℃など、500℃超まで)加熱する。いくつかの実施形態では、加熱プロセスは数マイクロ秒(例えば、10マイクロ秒未満)にわたって続くが、他の実施形態では加熱時間が異なってもよい(例えば、1マイクロ秒、5マイクロ秒、10マイクロ秒、20マイクロ秒、1ミリ秒、5ミリ秒など)。放電の持続時間は、熱が切断要素からの伝導によって数ミクロン超を伝わるには短すぎ、したがって、数マイクロ秒の間、嚢と切断要素の間に捉えられた水の薄層が、放出のエネルギーを吸収して蒸気を形成する。蒸気は高い圧力で急速に膨張し、嚢内の引張応力を嚢を断裂するのに十分になるまで高める。電流が数マイクロ秒間しか印加されないため、焼灼器具の場合のように組織を燃やすことはなく、したがって、デバイス1によって、患者の眼の中で組織を燃やすこと、場合によって隣接する組織に付随的な損傷を与えること、非常に長く熱を加えること、および他の問題に伴うリスクが回避される。さらに、デバイス1の電気的な切断要素は、切り離された部分を取り除くためにしばしばピンセットを必要とする焼灼デバイスとは異なり、組織の切り離しを完了して切り離された部分を嚢104から解放する。さらに、いくつかの施形態において、切断要素は0.35ミリグラム未満の質量を有し、したがって、一般的に焼灼器具の場合に見られるかさばった加熱要素は不要である。
【0044】
切断要素が機械的である場合、要素は、1つまたは複数の極端に鋭利な微小歯(または他の組織を切り離すためのナイフもしくは機構)を有し、微小歯は、吸引力が歯を過ぎたところの膜を引っ張って円形の小片を切り離すと、嚢に穴をあける。過去に嚢切開を実施するために用いられた機械的なナイフデバイスは、ナイフを使用して組織を伸ばし、切れ刃に対して十分な力を与える。対照的に、このデバイスでは、デバイス1の機械的な切断要素を用いて切断するために必要な反力は、デバイスによって供給される吸引から生じる。吸引によって組織を切れ刃に対して垂直に引っ張り、したがって、切断が進行することが想定される場所から離れたところに横方向の歪みが存在することはなく、正確な微小な切断を再現可能に行うことができる。さらに、過去に用いられた微小ナイフでは、しばしば複数の経路が必要になるのとは対照的に、切断要素では完全な切断を行うことができる。切断要素は、図13、14および18に示されるものと同様の連続的なリングでも、非連続的なリングでもよい。
【0045】
切断要素が組み合わされた電気機械的な切断要素である場合、切断要素は、1つの微小歯(もしくは任意選択で複数)、または嚢内に最初の裂け目を生じさせる、組織を切り離すための他の機構を有する。これまでに説明したように、短い電気パルスを加えるための電気的な切断要素の設計を用いて、裂け目を伝播させる。また無傷な嚢に必要とされるより低い蒸気圧によって、裂け目を伝播させ、嚢切開を完了させることができる。
【0046】
図19は、本発明の一実施形態による、他の設計80の吸引カップ、および二重の管類を含む切断要素の分解上面斜視図である。設計は、組み立てられた状態と組み立てられていない状態の両方で示されている。図19の設計80は、剛性ポリマーの軸84の中に組み立てられた管類の2つの部分86A、86B(例えば、ステンレス鋼の管類)を含む。管類86A、86Bの成形された端部87が電極85に結合され、エラストマー81でオーバーモールドされて、管類を保持する軸83を有する吸引カップ82を形成する。他の形状は、絶縁層によって分離された2つの同心の導電性の管、互いに絶縁された1つの管および隣接するワイヤ、2つの隣接するワイヤを有する非導電性の管などを含むことができる。
【0047】
他の顕微手術/嚢切開用デバイスの設計
図20は、本発明の一実施形態による、吸引カップが収容された状態の他の設計の顕微手術/嚢切開用デバイス90の上面斜視図である。図20では、デバイス90は収容された(または出荷時の)構成であり、吸引カップ99がデバイスの中に保護されている。この設計は、外部の圧縮機構のハンドピースの設計90である。操作機構は、吸引カップ99をデバイス90から移動させるためのピストン97を含み、圧縮機構は、ハンドピース95のハウジングに取り付けられた、外部の摺動可能なリング/部材94および圧縮アーム93を含む。摺動可能なリング94は、遠位に吸引カップ99に向かって、吸引カップ99の両側に位置決めされた圧縮アーム93の上を摺動し、アーム93の先端部92を一緒に押して吸引カップ99を圧縮するように、ハンドピース95に摺動可能に取り付けられる。
【0048】
吸引カップ99はさらに、ピストン97に接続されたデバイス90内の摺動要素に接続する、軸199に取り付けられる。ピストン97は、遠位に吸引カップ99に向かって操作され、または押され、摺動要素をデバイス90の内側で遠位に押す。これによって、軸199および吸引カップ99は遠位に動かされる。デバイス90の先端部は、吸引カップを先端部から組織まで移動させるとき、圧縮された吸引カップを平らになった位置に維持するように、ハンドピースの先端部に配設された2つの挿入用のフィンガ部91(例えば、従順であるように設計可能な2つのリップ)を含む。図20の実施形態において、フィンガ部91は、先端部で内側に互いに向かって傾けられ、一緒に押されて、切開部を通って確実に摺動するためのウェッジ部を形成する。フィンガ部91は、吸引カップ99が前進してハンドピース95から出ることによる圧力によって分離するように構成される。図20の実施形態では、ハンドピース94の遠位部は、配置の間、やはり吸引カップ99を平坦に保つことを助ける、上側の平坦部分および下側の平坦部分を有するように設計される。圧縮アーム93は、上側部分と下側部分の間を摺動して吸引カップ99を横方向に圧縮するように設計される。吸引カップ99に対する吸引を行うためのホースコネクタ96は、図20ではわずかに見えるだけである。
【0049】
図21は、本発明の一実施形態による、吸引カップ99が配置された状態の図20の設計の顕微手術/嚢切開用デバイス90の底面斜視図である。この図は、(デバイス1で行われるものと同様の方法で)吸引カップに流体および/または吸引をもたらすホースコネクタ96、ならびに電流をデバイスの中、および吸引カップ99内の切断要素に供給する電気コネクタ98をより適切に示している。デバイス90内の切断要素は、前述の切断要素の設計の任意のものとすることができる。デバイス1または90において切断要素が電気的なものではない場合、電気的な接続部および構成要素は設計に含まれなくてもよい。
【0050】
図22は、本発明の一実施形態による、吸引カップ99が配置された状態の図20、21の設計の顕微手術/嚢切開用デバイス90の上面斜視図である。配置後、吸引カップ99は広がり、その以前の形に戻っている。
【0051】
外科処置
図23は、本発明の一実施形態による、デバイス1、90と共に使用することができる処置を含む、顕微手術/嚢切開処置に対する様々な準備ステップを示す流れ図である。図23〜25の場合、各ステップは、追加のステップまたは示されたものと異なるステップを有することを含めて、様々な処置の間で変更してもよく、また各ステップを異なる順序で行ってもよい。
【0052】
図23では、外科医/ユーザは、デバイスを使い捨てではない制御システムへのコネクタに接続する、または差し込む(2300)。コネクタによって、吸引をデバイスの内腔に伝えること、および電流をデバイスの電極に伝えること(すなわち、切断要素が電極である場合)が可能になる。制御システムに関連付けられたコンピュータが、デバイスの電気的および流体工学的な実行可能性をチェックする。この自己チェックの間、コンピュータは電極の電気抵抗を測定することができる(2302)。適切な、または十分に機能的/許容可能なデバイスに対して容認される範囲を超えた場合、アラームまたは他の通知機構(例えば、光、ビープ音、振動、スクリーン上のテキスト表示など)によって、ユーザにデバイスを交換するように知らせ(2304)、コンピュータは、問題が改善されるまで手術用のプログラムを実行しない。抵抗が適切で許容可能な範囲内である場合には、操作を進めることができる。コンピュータは、引き続き所定の間隔で(例えば1秒に1回)抵抗の測定を行う(2302)。同様に、測定によって問題が示された場合には、アラームによってユーザに警告し(2304)、処置を中止することができる。外科処置で以前に使用されたユニットは、許容される範囲を上回る高い抵抗を有し、したがって、コンピュータによって、使用された、または損傷を受けたユニットを誤って使用することが防止されることに留意されたい。
【0053】
また自己チェックの処置の間、コンピュータによって空気の流量と圧力の関係を測定することができる(2306、すなわち、この試験のために、清浄な乾燥した濾過空気を吸引カップを通して吹き出すことができる)。許容される範囲内ではない場合には、アラームまた他の通知システムによって、ユーザにデバイスを交換する、あるいは問題を修正するように知らせ(2308)、コンピュータは、問題が修正されるまで手術用のプログラムを実行しない。これは、少なくとも差し込み後に、ユーザが任意の他のステップに移る見込みをたてる前に行われる。準備ステップが完了した後(2310)、デバイスは使用の準備ができた状態になる。
【0054】
図24は、本発明の一実施形態による顕微手術/嚢切開処置に対するステップを示す流れ図である。ユーザは、潤滑のために吸引カップに潤滑剤(例えば、粘弾性体)を注入することができる(2400)。粘弾性体は、白内障手術において、眼の前眼房を膨らませた状態に保つために一般的に使用される。ユーザは、(例えば、つまみ8または摺動可能なリング94を介して)デバイスを操作することによって吸引カップを圧縮する(2402)。デバイス1の場合、ユーザは、つまみ8を溝9に沿って押し、吸引カップ/圧縮機構全体を挿入先端部3の入口まで移動させ、それにより圧縮アームを遠位に動かし、アームをハンドピース5の内部の壁に押し付け、アームを内側に互いに向かって動かして吸引カップ2を圧縮することにより、ステップ2402を実施する。デバイス90の場合、ユーザは、摺動可能なリング94を遠位に圧縮アーム93の上で摺動させ、アーム93を一緒に押して吸引カップ99を圧縮することにより、ステップ2402を実施する。次いで、ユーザはデバイスをさらに操作し、潤滑および圧縮された吸引カップをデバイスの挿入先端部の中に移動させることができる(2404)。デバイス1の場合、ユーザは、つまみ8を溝9に沿ってさらに押し、吸引カップ2を遠位に先端部3の中に動かすことによって、ステップ2404を実施する。デバイス90の場合、ユーザは、ピストン97を押し、吸引カップ99をデバイスの先端部まで動かすことによって、ステップ2404を実施する。
【0055】
ユーザは、嚢切開用デバイスの先端部を組織(例えば、眼の角膜)の切開部を通して動かす/挿入する(2406)。処置のいくつかの実施形態では、ステップ2406の前にステップ2402および2404の一方または両方が行われ、したがって、先端部を切開部を通して挿入した(2406)後に、吸引カップを圧縮する(2402)、かつ/または挿入先端部の中に移動させる(2404)。ユーザは、圧縮された吸引カップをハンドピースの先端部を通して出し、組織に(例えば、前眼房の中の水晶体嚢に)配置する(2408)。吸引カップは、組織の内側(例えば、角膜を過ぎて眼の前眼房の中)で切断位置に(例えば、水晶体嚢の上に)広がる。デバイス1および90などのデバイスの場合、吸引カップは摺動要素に取り付けられ、したがって、圧縮された吸引カップを配置することは、摺動要素を遠位に移動させ、ハンドピース内の吸引カップを先端部を通して出し、組織まで動かすことを含む。次いで、ユーザは、吸引カップを組織の上で中央に置くことによって位置決めし(2410)、縦揺れおよび横揺れの方向を確かめ、吸引カップを組織(例えば水晶体嚢)に接して位置付けることができる。ユーザは吸引を作動させ(2412)、組織に接する吸引カップを引っ張り、それによって切断要素を組織(例えば水晶体嚢の膜)に押し付ける。
【0056】
ユーザは、デバイスを水平方向または垂直方向に(例えば0.25mmだけ)動かし、水晶体がデバイスと共に動くことを確認することによって、所望の低漏出の吸引シールが確立されていることを確かめることができる(2414)。ユーザはさらに、吸引カップのシールに対して1つまたは複数のシステムチェックを実施することができる。制御コンピュータは、吸引ラインの中に液体の流れがほとんどない、または全くないことを示すはずである流れセンサを読み取る(2416)ことによって、低漏出のシールが確立されていることを確かめることもできる。吸引ラインでは通常、コンピュータが手術用のプログラムに進む前に閾値の低い圧力に達するため、圧力センサも監視される(2418)。読み取り(2416)または監視(2418)によって問題が示された場合、ユーザは、問題を修正するように知らせを受けることができる(2417、2419)。次いでユーザは、続けて切断要素を用いて組織を切断するためのデバイスの使用を開始する。デバイスに電気的な切断要素が存在しない場合、ユーザは続けて非電気的に組織を切断する(2420)。例えばユーザは、機械的な切断要素(例えば、(1つまたは複数の)鋭利な刃)に接する組織を引っ張るように吸引カップに加えられた吸引によって、組織を切断することができる(2420)。デバイスに電気的な切断要素が存在する場合、処置は電気的な切断ステップのための図25に移る。
【0057】
図25は、本発明の一実施形態による顕微手術/嚢切開処置に対するステップの続きを示す流れ図である。ユーザは、(例えば、ボタンを押すことによって、音声認識ソフトウェアを用いて言葉によってなど、任意のタイプのユーザインターフェースによって)切断のための放電を要求する(2500)。制御コンピュータは、電極の抵抗、圧力および流れのセンサについて1回の最新の測定を行う(2502)。すべての条件が範囲内である場合、切断が行われ(2503)、放電が加えられる。そうでない場合には、ユーザは知らせを受け(2504)、問題を改善する措置をとることができる。手術のための放電は、以下のものなど複数の段階を含むことができる、すなわち、1)脱気(例えば、電極を60℃から99℃に保つ)、2)サーマルタングリング(thermal tangling)(例えば、電極を60℃から99℃に保つ)、3)切断のための放電(例えば、電極を200℃から1000℃まで加熱する)、および/または4)電極改質用のスパイク(例えば、1つまたは複数の電極の成分を融解する短い電流スパイク)である。放電後、システムは電極の抵抗をチェックする(2506)。抵抗が予想された放電後の範囲を超えた場合、アラームによってユーザに異常が生じたことを知らせ、適当な診断処置を実施するように知らせる(2508)。そうでなければ、ユーザは次のステップに進むことができる。
【0058】
次いで、ユーザは、吸引カップに加えられた吸引を低減させる(2510)。吸引真空が弱められ、ユーザが吸引カップを組織から引き離すことが可能になる。膜の切除された小片が軸の内腔に吸い込まれている場合には、吸引を完全に止めることができる。そうでなければ、ある程度の吸引を、小片が保持され、デバイスと一緒に眼から取り出されることを保証するのに必要なレベルに維持することができる。次いで、ユーザは組織から(例えば眼から)デバイスを抜く(2512)。
【0059】
デバイスの製造
デバイスの構成要素の製造には、様々な異なる機構を用いることができる。例えば、ハンドピースの構成要素は、プラスチックを射出成形することによって作製することができる。吸引カップは、型の中に位置決めされている電極および軸の上に、適切なエラストマー(例えば、シリコーンまたはポリウレタン)をオーバーモールドすることによって作製することができるが、他の材料を用いることもできる。吸引カップは、小さい断面に折り畳むことができるように設計され、したがって、角膜の切開部(例えば、2から3mm未満の長さの切開部)を通して挿入することができるが、その場合には、配置後、速やかにその円形形状に戻ることができる。壁が薄いほど、材料を堅く(デュロメータを高く)することができる。吸引カップのサイズは、約4.5mmから約7mmの直径の範囲とすることができ、高さは一般に、約0.5mmから約1.5mmの範囲になる。吸引カップおよびデバイス全体の設計およびサイズの範囲は、実施される外科処置に合うように変更することができる。
【0060】
切断要素は、様々な材料から作製することができる。電極の金属性の構成要素は、ニッケル、金、鋼、銅、白金、イリジウムなどの適切な金属の電鋳によって作製することができる。軸内の電極とリードの間の接続は、電気めっきまたは溶接によって行うことができる。通常、電気的な切断要素の場合には、切断要素用の材料は導電性であり、機械的な切断要素の場合には、材料は膜を穿孔するように十分に固いものである。電気的な切断要素と機械的な切断要素の両方の場合には、材料は一般に、圧縮されて組織の切開部を通り抜けた後、その以前の形に戻るように十分に弾力的であるか、または重合体の支持リングによって、かつ/もしくは切断要素が内部に取り付けられる吸引カップによって押されて円形形状に戻るように十分に柔らかいものである。例えば電気的な切断要素の場合、材料は、ばね鋼、ステンレス鋼、チタンニッケル合金、グラファイト、ニチノール(NiTi合金の「形状記憶合金」)、ニッケル、ニッケル−クロム合金、タングステン、モリブデン、または要素がその以前の形に戻ることを可能にする任意の他の材料など、光化学エッチングによって作製されるものを含むことができる。電気的な切断要素用の他の材料には、互いに接触を確立し、放電の継続時間にわたって互いに接触し続けることができる、適当に成形された導電性の粒子(例えば、銀、金、グラファイト、銅など)と混合されたエラストマー(例えば、シリコーンまたはポリウレタン)を含む、導電性のエラストマーが含まれる。電気的な切断要素用の材料の他の例には、エラストマーの支持リングに固定して導電性の要素を作製することができる、きわめて細いワイヤ(例えば、約1または2ミクロンの直径)の従順なメッシュが含まれる。他の例として、重合体の支持体の上に金属をスパッタリングすることによって作製される電気的な切断要素に対して、高導電性の金属(例えば、金、アルミニウム、銅など)などの材料を使用することが可能であり、それを用いて、RFプラズマスパッタリングによって堆積させた、使用可能な範囲内(例えば、1から10オーム)の抵抗を有するきわめて薄い(例えば1ミクロンの)要素を作製することができる。
【0061】
機械的な切断要素に使用される材料は、とりわけ、光化学的にエッチングされた金属(例えばステンレス鋼)、または比較的固いプラスチック(例えばフェノール樹脂)を含むことができる。不連続な微小な歯を、単結晶シリコンからエッチングすることが可能である。光化学エッチングを用いて、例えば25ミクロン、または12.5ミクロン、または5ミクロンなどの厚さを有する切断要素を作製することができる。
【0062】
これまでの記述は、実施形態の操作を説明するために含まれるものであり、本発明の範囲を限定するものではない。本発明の範囲は、以下の特許請求の範囲によってのみ限定される。これまでの議論から、依然として本発明の趣旨および範囲に包含される多くの変形形態が、関連技術の技術者には明らかになるであろう。本明細書で使用されるとき、「一実施形態(one embodiment、またはan embodiment)」に言及することは、その実施形態に関連して記述される特定の要素、機能、構造または特徴が、少なくとも1つの実施形態に含まれることを意味する。本明細書の様々な箇所に「一実施形態において(in one embodiment)」という語句が出てくるが、それは必ずしもすべて同じ実施形態を指すものではない。
図2
図23
図24
図25
図1
図3
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