特許第5719044号(P5719044)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5719044
(24)【登録日】2015年3月27日
(45)【発行日】2015年5月13日
(54)【発明の名称】生物材料の自動染色法および装置
(51)【国際特許分類】
   G01N 21/27 20060101AFI20150423BHJP
   G01N 33/48 20060101ALI20150423BHJP
   C12M 1/34 20060101ALI20150423BHJP
   C12Q 1/02 20060101ALI20150423BHJP
【FI】
   G01N21/27 A
   G01N33/48 P
   C12M1/34 B
   C12Q1/02
【請求項の数】15
【全頁数】17
(21)【出願番号】特願2014-21658(P2014-21658)
(22)【出願日】2014年2月6日
(62)【分割の表示】特願2009-552807(P2009-552807)の分割
【原出願日】2008年2月29日
(65)【公開番号】特開2014-134544(P2014-134544A)
(43)【公開日】2014年7月24日
【審査請求日】2014年2月6日
(31)【優先権主張番号】60/892,736
(32)【優先日】2007年3月2日
(33)【優先権主張国】US
(73)【特許権者】
【識別番号】595117091
【氏名又は名称】ベクトン・ディキンソン・アンド・カンパニー
【氏名又は名称原語表記】BECTON, DICKINSON AND COMPANY
(74)【代理人】
【識別番号】110001243
【氏名又は名称】特許業務法人 谷・阿部特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】クラウス ダブリュ.ベルント
【審査官】 横尾 雅一
(56)【参考文献】
【文献】 米国特許出願公開第2003/0138877(US,A1)
【文献】 国際公開第03/039441(WO,A2)
【文献】 特開平08−145871(JP,A)
【文献】 特開2005−055180(JP,A)
【文献】 特表平09−503586(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 21/00−21/61
G01N 21/75−21/83
G01N 1/00− 1/34
G01N 33/48−33/98
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
生物試料の染色手順を実行する方法であって、
前記試料を、画像化システムの試料ステージと使用可能に係合させること、
前記試料への染色剤および脱色剤の接触の前後に、前記画像化システムを使用して前記試料の1つまたは複数の画像を記録すること、
前記試料への前記染色剤および前記脱色剤の前記接触の前後に記録された前記試料の前記画像の比較に基づいて、差分画像を生成すること、および、
前記差分画像に基づいて、前記染色剤と前記脱色剤の前記接触を補正すること
を含むことを特徴とする方法。
【請求項2】
前記補正ステップに従って、前記染色剤と前記脱色剤のうちの少なくとも一方を再び接触させること、および、
前記試料中の少なくとも1つの関心のあるターゲットを区別するように、前記試料の最終画像を生成すること
をさらに含むことを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記試料の画像を記録する前に、前記試料を洗浄液で洗浄すること
をさらに含むことを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記染色剤の前記接触は、染色された複数の実体、および/または、外面が染色された複数の実体を調製するように行われ、前記脱色剤の前記接触は、存在する場合に、前記外面が染色された実体から少なくとも一部の前記染色剤が除去された部分脱色試料を調製するように行われることを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項5】
存在する場合に、前記外面が染色された実体の形態を解析することをさらに含むことを特徴とする請求項4に記載の方法。
【請求項6】
存在する場合に、前記染色された実体の形態を解析することをさらに含むことを特徴とする請求項4に記載の方法。
【請求項7】
前記染色剤はグラム染色剤を含み、前記外面が染色された実体は、存在する場合に、複数のグラム陰性菌を含み、前記染色された実体は、存在する場合に、複数のグラム陽性菌を含むことを特徴とする請求項4に記載の方法。
【請求項8】
生物試料の染色手順を実行するシステムであって、
染色剤の供給源および脱色剤の供給源と流体連通したチャネルを画定したフローチャンバと、
前記フローチャンバ、前記染色剤の前記供給源、および前記脱色剤の前記供給源と流体連通した流体システムと、
前記染色剤と前記脱色剤のうちの少なくとも一方の接触の前、最中および/または後に、前記試料の画像を記録するように構成され、前記記録された画像の比較に基づいて、少なくとも1つの差分画像を生成するように構成された画像化システムと、
前記画像化システムおよび前記流体システムと通信するコントローラ装置であって、前記染色剤と前記脱色剤のうちの少なくとも一方の前記接触を、前記少なくとも1つの差分画像に基づいて制御するように構成されたコントローラ装置と
を備えることを特徴とするシステム。
【請求項9】
前記フローチャンバは、前記試料と使用可能に係合する表面を画定したスライドを受け取るように適合されており、前記フローチャンバは、スライド開口を画定したフローチャネルハウジングを備え、前記スライド開口は、前記スライドが前記スライド開口の中に配置された場合に、前記試料が、前記スライドと前記フローチャネルハウジングの間に実質的に配置されるように前記スライドを受け取るように構成されており、前記フローチャネルハウジングは、前記スライドと前記フローチャネルハウジングの間に前記試料が配置されている間に、前記画像化システムが前記試料の前記画像を記録することができるように、実質的に透光性の材料を含むことを特徴とする請求項8に記載のシステム。
【請求項10】
前記画像化システムは、
前記スライドと前記フローチャネルハウジングの間に前記試料が配置されている間に、前記試料の前記画像を記録するように構成されたカメラ装置と、
前記カメラ装置と動作可能に係合したアクチュエータ装置であって、前記フローチャンバに対する前記カメラ装置の位置を調整するように構成されたアクチュエータ装置と
を備えることを特徴とする請求項9に記載のシステム。
【請求項11】
前記流体システムは、染色された複数の実体、および/または、外面が染色された複数の実体を含む染色された試料を調製するように、前記試料に前記染色剤を接触させるように構成されており、前記流体システムはさらに、前記染色された試料から少なくとも一部の染色が除去された部分脱色試料を調製するように、前記染色された試料に前記脱色剤を接触させるように構成されていることを特徴とする請求項8に記載のシステム。
【請求項12】
前記流体システムはさらに、存在する場合に、前記外面が染色された実体が実質的に脱色されており、存在する場合に、前記染色された実体が実質的に脱色されていない実質的に脱色された試料を調製するように、前記フローチャンバと協働して、所定の暴露時間の間、前記部分脱色試料に前記脱色剤を接触させるように構成されていることを特徴とする請求項11に記載のシステム。
【請求項13】
前記画像化システムは、前記画像を解析するように構成された画像処理コンピュータを備えることを特徴とする請求項8に記載のシステム。
【請求項14】
前記画像処理コンピュータは、
画像減算、
画像加算、
画像比計算、および、
これらの組合せ
を含むグループから選択されたプロセスを使用して、前記少なくとも1つの差分画像を生成するように構成されていることを特徴とする請求項13に記載のシステム。
【請求項15】
前記染色剤はグラム染色剤を含み、前記外面が染色された実体は複数のグラム陰性菌を含み、前記染色された実体は複数のグラム陽性菌を含むことを特徴とする請求項11に記載のシステム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、病原微生物を検出し、同定する目的で生物材料を染色する方法および装置に関する。より詳細には、本発明は、顕微鏡スライド上で自動グラム染色(Gram stain)を実行する方法および装置に関する。
【背景技術】
【0002】
グラム染色は、現代の微生物実験室において最も頻繁に実行されている手順の1つである。該手順は、細菌を「グラム陽性」または「グラム陰性」に大まかに分類するために使用される。細菌を含む試料を顕微鏡スライドに付着させた後、その試料を、クリスタルバイオレット(crystal violet)とグラムヨウ素(Gram’s iodine)の組合せなどの染色試薬を使用して処理する。この最初のステップはすべての細菌を濃い青色または青紫色に染色する。「グラム陽性」菌と「グラム陰性」菌の主な違いは、「グラム陽性」試料では染色試薬が細胞構造全体に吸収されるのに対して、「グラム陰性」試料では染色が外面でのみ起こることである。その結果、続いて試料を(酸アルコールなどの)脱色剤で処理すると、グラム陰性菌はその色を失う傾向があり、グラム陽性菌は青色または青紫色に染められたまま残る。
【0003】
グラム染色は従来から手作業で調製され、分析されている。手作業でのグラム染色は労働集約的であり、熟練した作業者を必要とするものであり、その試料セットの最適な染色特性を達成することができないことがある。最適でない染色は、偽グラム陽性菌および偽グラム陰性菌を生み出す可能性がある。
【0004】
グラム染色手順を自動化することはこれまでにも様々に試みられている。例えばWilkins他の特許文献1を参照されたい。同様に、Wescor,Inc.社(米ユタ州Logan)から市販されているAerospray Slide Stainerは初歩的な自動染色装置である。染色装置にはこのほか、Merck KGaA社(ドイツ、Darmstadt)から市販されているMidas III Slide Stainer、IUL Instruments GmbH社(ドイツ、Koenigswinter)から市販されているPoly Stainer、およびGG&B Company社(米テキサス州Wichita Falls)から市販されており、Gibbs他の特許文献2に概要が記載されているAutomated Gram Stainerなどがある。しかしながら、これらの機器または技法はいずれも、試料スライドの検査および/または画像処理の前、最中ならびに/あるいは後に、染色剤および/または脱色剤を接触させる(apply)機能を持たない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】米国特許第4029470号明細書
【特許文献2】米国特許第6468764号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
したがって、改良された自動染色法およびシステムが求められている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、様々な実施形態において、生物試料の(例えばグラム染色などの)染色手順の最適化に関する多くの技術的課題を解決する方法およびシステムを提供する。具体的には、一実施形態では、本発明は、試料を染色する方法であって、試料を、画像化システムの試料ステージと使用可能に係合させるステップと、試料への染色試薬および脱色試薬の接触の前後に、画像化システムを使用して試料の画像を記録するステップとを含む方法を提供する。この方法はさらに、試料への染色試薬および脱色試薬の接触の前後に記録された試料の画像の比較に少なくとも部分的に基づいて、差分画像を生成すること、ならびに差分画像に少なくとも部分的に基づいて、染色試薬および脱色試薬の接触を補正することを含む。この方法はさらに、前記補正ステップに従って、染色試薬と脱色試薬のうちの少なくとも一方を再び接触させること、ならびに前記再接触ステップによって識別可能となった試料中の少なくとも1つの関心のあるターゲットを区別するため、試料の最終画像を生成することを含む。
【0008】
いくつかの実施形態はさらに、試料の染色手順を実行する方法であって、試料の第1の画像を記録するステップと、染色された複数の実体を含む染色された試料を調製するため、試料に染色剤を接触させるステップとを含む方法を提供する。いくつかの方法実施形態はさらに、第1の画像を記録する前に、(染色剤と脱色剤のうちの少なくとも一方の接触の後に記録された試料の画像と比較するためのベースを提供する)「ゼロ」染色レベルを確立するために、それぞれの試料が洗浄されることを保証するため、試料の第1の画像を記録する前に、試料を洗浄液で洗浄するステップを含む。
【0009】
染色された複数の実体は、染色された複数の実体と外面が染色された複数の実体のうちの少なくとも一方を含むことができる。このようないくつかの実施形態では、存在する場合に、外面が染色された実体が複数のグラム陰性実体を含み、存在する場合に、染色された実体が複数のグラム陽性実体を含むように、染色剤がグラム染色剤を含むことができる。この方法はさらに、染色された試料の第2の画像を記録すること、および少なくとも1つの染色された実体の表面上における位置を決定するため、第2の画像を第1の画像と比較することにより、第1の差分画像を生成することを含むことができる。
【0010】
この方法はさらに、外面が染色された実体から少なくとも一部の染色試薬が除去された部分脱色試料を調製するため、染色された試料に脱色剤を接触させること、および部分脱色試料の第3の画像を記録することを含むことができる。この方法はさらに、少なくとも1つの外面が染色された実体の表面上における位置を決定するため、第3の画像を第2の画像と比較することにより、第2の差分画像を生成することを含むことができる。最後に、この方法はさらに、染色された実体を実質的に脱色することなく、外面が染色された実体を実質的に脱色するために、部分脱色試料に脱色剤を接触させることができる暴露時間を決定するため、第2の差分画像を解析することを含むことができる。
【0011】
いくつかの実施形態では、この方法がさらに、外面が染色された実体が実質的に脱色されており、染色された実体が実質的に脱色されていない実質的に脱色された試料を調製するため、決定された暴露時間の間、部分脱色試料に脱色剤を接触させることを含むことができる。このようないくつかの実施形態では、この方法がさらに、(1)実質的に脱色された試料の第4の画像を記録すること、(2)第4の画像を第2の画像と比較することにより、少なくとも1つの外面が染色された実体の表面上における位置を示す第3の差分画像を生成すること、および(3)第4の画像を第1の画像と比較することにより、少なくとも1つの染色された実体の表面上における位置を示す第4の差分画像を生成することを含むことができる。染色された実体および外面が染色された実体の位置が、第3の差分画像と第4の差分画像のうちの少なくとも一方において少なくとも部分的に識別可能である方法実施形態では、この方法がさらに、染色された実体および/または外面が染色された実体の形態を解析することを含むことができる。
【0012】
本発明の様々な実施形態はさらに、試料の最適化された染色手順を実行するシステムを提供することができる。一実施形態では、このシステムは、染色剤の供給源および脱色剤の供給源と流体連通したチャネルを画定するフローチャンバ(flow chamber)を備える。さらに、このようないくつかの実施形態では、フローチャンバが、試料と使用可能に係合するように構成された表面を含むことができる。このシステムはさらに、フローチャンバ、染色剤の供給源および/または脱色剤の供給源と流体連通した流体システム(fluidics system)を備えることができる。
【0013】
このようなシステム実施形態によれば、(例えばフローチャンバと協働する)この流体システムを、染色された複数の実体を含む染色された試料を調製するため、試料に染色剤を接触させるように構成することができ、染色された複数の実体は、染色された複数の実体と外面が染色された複数の実体のうちの少なくとも一方を含む。本発明の様々な方法実施形態に関して上で述べたとおり、存在する場合に、外面が染色された実体が複数のグラム陰性実体を含み、存在する場合に、染色された実体が複数のグラム陽性実体を含むように、染色剤はグラム染色剤を含むことができる。様々なシステム実施形態によれば、(例えばフローチャンバと協働する)この流体システムを、外面が染色された実体から少なくとも一部の染色剤が除去された部分脱色試料を調製するため、染色された試料に脱色剤を接触させるように構成することができる。
【0014】
様々なシステム実施形態では、フローチャンバを、試料と使用可能に係合する表面を画定したスライドを受け取るように適合させることができる。このような実施形態によれば、フローチャンバはさらに、スライド開口を画定したフローチャネルハウジングを備えることができ、スライド開口は、スライドがスライド開口の中に配置されたときに、試料が、スライドとフローチャネルハウジングの間に実質的に配置されるようにスライドを受け取るように構成される。さらに、フローチャネルハウジングは、スライドとフローチャネルハウジングの間に試料が配置されている間に、画像化システムが試料の画像を記録することができるように、実質的に透光性の材料を含むことができる。
【0015】
このシステムはさらに、フローチャンバに隣接して配置された画像化システムを備え、試料を画像化システムの視野内に配置されるようにすることができる。このようなシステム実施形態では、画像化システムを、フローチャンバを通した染色剤と脱色剤のうちの少なくとも一方の接触を監視するように構成することができる。さらに、この画像化システムを、脱色剤の第1の接触の前に得られた試料の少なくとも1つの画像と、脱色剤の第1の接触の後に得られた試料の少なくとも1つの画像とを比較することにより、差分画像を生成するように構成することができる。この画像化システムをさらに、外面が染色された実体から染色された実体をより容易に識別することができるように、染色された実体を実質的に脱色することなく、外面が染色された実体を実質的に脱色するための脱色剤の第2の接触の暴露時間を、差分画像に少なくとも部分的に基づいて決定することができるように構成することができる。
【0016】
いくつかの実施形態では、このシステムがさらに、画像化システムおよび流体システムと通信するコントローラ装置を備えることができる。このコントローラ装置をさらに、染色剤と脱色剤のうちの少なくとも一方の接触を、画像化システムによって生成された画像および/または差分画像に少なくとも部分的に基づいて制御するように構成することができる。
【0017】
いくつかのシステム実施形態では、画像化システムが、(例えばスライドとフローチャネルハウジングの間などの)フローチャンバ内に試料が配置されている間に、試料の画像を記録することができるように構成されたカメラ装置を備えることができる。このようないくつかの実施形態によれば、画像化システムがさらに、カメラ装置と動作可能に係合したアクチュエータ装置であり、フローチャンバに対するカメラ装置の位置を調整するように構成されたアクチュエータ装置を備えることができる。さらに、いくつかのシステム実施形態では、画像化システムがさらに、差分画像を生成するように構成された画像処理コンピュータを備えることができる。このようないくつかの実施形態では、この画像処理コンピュータを、限定はされないが画像減算、画像加算、画像比計算およびこのようなプロセスの組合せを含むことができるプロセスを使用して差分画像を生成するように構成することができる。
【0018】
様々な方法実施形態に関して本明細書において概略的に説明されているとおり、画像化システムを、試料の第1の画像を記録し、続いて、フローチャンバと協働する流体システムを使用して試料に染色剤を接触させた後に、染色された試料の第2の画像を記録するように構成することができる。画像化システムをさらに、少なくとも1つの染色された実体(すなわちいくつかの実施形態では「グラム陽性」実体)の表面上における位置を決定するため、第2の画像を第1の画像と比較することにより、第1の差分画像を生成するように構成することができる。さらに、画像化システムを、フローチャンバを使用して脱色剤を接触させた後に、部分脱色試料の第3の画像を記録し、続いて、少なくとも1つの外面が染色された実体(すなわちいくつかの実施形態では「グラム陰性」実体)の位置を決定するため、第3の画像を第2の画像と比較することにより、第2の差分画像を生成するように構成することができる。画像化システムをさらに、染色された実体を実質的に脱色することなく、外面が染色された実体を実質的に脱色するために、部分脱色試料に脱色剤を接触させるべき暴露時間を決定するため、第2の差分画像を解析するように構成することができる。本明細書において記載されているとおり、このようないくつかのシステム実施形態では、フローチャンバをさらに、存在する場合に、外面が染色された実体が実質的に脱色されており、存在する場合に、染色された実体が実質的に脱色されていない、実質的に脱色された試料を調製するため、決定された暴露時間の間、部分脱色試料に脱色剤を接触させるように構成することができる。
【0019】
このようないくつかのシステム実施形態では、画像化システムをさらに、実質的に脱色された試料の第4の画像を記録し、続いて、第4の画像を第2の画像と比較することにより、第3の差分画像を生成するように構成することができる。第3の差分画像は、少なくとも1つの外面が染色された実体の位置を示すことができる。画像化システムをさらに、第4の画像を第1の画像と比較することにより、第4の差分画像を生成するように構成することができ、第4の差分画像は、少なくとも1つの染色された実体の位置を示す。
【0020】
したがって、本発明の実施形態において説明された生物材料の染色手順を実行する方法およびシステムは、試料の染色および脱色をよりうまく制御し、かつ/または最適化するため、染色プロセスの間、試料の識別可能な光学的変化を監視することができる方法およびシステムを提供すること、染色および/または脱色ステップ間において識別可能であることがある光学的変化を監視し、試料中のグラム陽性および/またはグラム陰性実体に固有の光学的変化を際立たせることにより、試料中のグラム染色された実体を分類し、試料中のグラム染色された実体の位置を決定することができる特別な方法およびシステムを提供すること、試料中の(例えば病原菌などの)関心のある実体を探索するために染色された試料を解析するときに「偽陽性」および/または「偽陰性」を最小限に抑えることができる独自の方法およびシステムを提供すること、ならびに光学画像化装置によってリアルタイムで監視し、かつ/または制御することができる最適化された染色法およびシステムを提供すること、を含む多くの利点を提供する。ただし利点はこれらに限定されるわけではない。したがって、本発明の様々な実施形態はさらに、完成した(最適化された)染色済み試料スライドを、下流での形態学的調査に対しても同じ画像化装置上に置くことができる「オールインワン(all−in−one)」染色装置/試料解析ツールを提供することができる。試料調製(すなわち染色)ステップおよび解析ステップのこの完全な統合は、より効率的な実験室処理能力を可能にすることができる。
【発明を実施するための形態】
【0021】
次に、本発明をより詳細に説明する。実際、本発明は多くの異なる形態で具体化することができ、本発明が、本明細書に記載された実施形態に限定されると解釈すべきではない。むしろ、これらの実施形態は、この開示が、適用可能な法律上の要件を満たすように提供される。全体を通じて同様の符号は同様の要素を指す。
【0022】
本明細書に開示された様々な方法およびシステム実施形態は、グラム染色手順の文脈で説明されるが、本明細書に記載された様々な方法およびシステム実施形態は、試料の光学的変化および/または比色上の変化(colorimetric change)を生じさせることができる他の多くの染色手順にも適用することができることを理解すべきである。さらに、例示的な画像は2次元画像の1本のラインだけを表すことが強調されるべきである。本発明の様々な方法およびシステム実施形態を実施する際には、例えばスライドと使用可能に係合した試料の2次元画像に結合される、このような多くのラインを処理することができる。さらに、本明細書においてさらに説明するように、いくつかの実施形態では、試料中の複数の細菌、または他の染色された実体(entity)および外面が染色された実体の位置を決定し、それらを分類するため、使用者が、画像化システム(および/またはそれに含まれるカメラ装置8)を利用して、試料スライド上の2つ以上のフィールドにおいて画像を記録することができる。
【0023】
本明細書で使用される用語「画像を記録する」は、例えばカメラによって捕捉されたアナログ画像に限定されないことも理解すべきである。より詳細には、いくつかの実施形態では、「画像を記憶する」ことが、画像を表し、かつ/または画像に対応するデータを捕捉することを指すことがある。例えば、いくつかの実施形態では、「画像を記録する」ことが、表面上の1つまたは複数の点の色および/または光強度に対応するデジタルデータを集めることを含むことがある。
【0024】
本発明の様々な方法およびシステム実施形態は、(例えばグラム染色などの)染色プロセスが、試料の識別可能かつ/または検出可能な光学的変化を生み出すことができることを利用することを理解すべきである。染色プロセスの間のこのような変化を、試料が使用可能に係合した(顕微鏡スライドなどの)表面において直接に監視することによって、染色ステップおよびそれに続く脱色ステップを制御し、最適化することができる。本発明のこの態様は特に脱色ステップに適用することができる。例えば、グラム染色プロセスでは、過少な脱色が偽グラム陽性菌を生み出す可能性があり、過度な脱色が偽グラム陰性菌を生み出す可能性があることが知られている。本明細書において説明されているとおり、本発明の様々な実施形態は、(例えばグラム染色プロセスを含む)様々な染色プロセスにおける脱色の程度を向上させるのを助けることができる。
【0025】
さらに、本発明の様々な実施形態は、試料中のグラム陽性実体およびグラム陰性実体に対して異なって生じる可能性がある識別可能かつ/または検出可能な光学的変化を際立たせて、(限定はされないがグラム染色された細菌実体を含むことができる)これらの実体の分類を可能にするため、差分画像(difference image)を利用することもできることを理解すべきである。本明細書においてさらに説明されるとおり、本発明の様々なシステムおよび方法実施形態は、例えば、部分脱色ステップの前後および/または完全脱色ステップの前後に捕捉されたスライドの画像を比較することによって生成される様々な差分画像を解析することによって、存在する場合に、試料が使用可能に係合した(一般的な顕微鏡スライドなどの)表面上のグラム陽性菌および/またはグラム陰性菌の特定の位置の正確な決定を可能にすることができる。
【0026】
本発明の様々な実施形態は、試料に対して(例えばグラム染色手順などの)染色手順を実行する方法を提供することができる。一実施形態では、この方法が、試料32の第1の画像を記録するステップ103を含む。本発明の様々な実施形態によれば、ステップ103が、未染色試料32上の異なるフィールドにおいて一連の第1の画像を記録することを含むことができる。染色試薬を接触させる他の方法ステップは、試料中の実体を概ね青色に着色することを含むことができるため、ステップ103では、試料32と(CCDカメラ)などのカメラ装置との間に配置された青色フィルタを使用して、第1の画像を記録することができる。
【0027】
第1の画像は、それをもとに(染色された試料の第2の画像を第1の画像と比較することにより)第1の差分画像を生成することができる「ベースライン(baseline)」画像の役目を果たすことができる。
【0028】
1つまたは複数の第1の画像を記録するステップ103の前に、様々な試料調製ステップを実行することができる。例えば、いくつかの方法実施形態は、(顕微鏡スライドなどの)表面に試料または標本を付着させ、この表面に試料を固定するステップ101を含むことができる。例えば、いくつかの実施形態では、表面を画定する顕微鏡スライド30上の一般的な試料付着領域31内に試料32を配置し、(例えば熱を巧妙に加えることによって)熱固定することができる。
【0029】
本発明の様々なシステム実施形態に関して本明細書において説明されているとおり、次いで、この調製されたスライド30を、スライド30を受け取るように構成されたスライド開口を画定したフローチャネルハウジング(flow channel housing)の中へ、スライドがスライド開口の中に配置されたときに、試料32が、スライド30とフローチャネルハウジングとの間に実質的に配置されるように、「スナップ式にはめ込む」ことができる。本明細書においてさらに説明されるように、フローチャネルハウジングは、スライド30とフローチャネルハウジングとの間に試料が配置されている間に、画像化システム5が試料の画像を記録することができるように、実質的に透光性(translucent)の材料を含むことができる。フローチャネルハウジングは、スナップ式にはめ込まれた顕微鏡スライド30とカバーガラスとが、洗浄液(例えばステップ102参照)、脱色試薬(例えばステップ107および112参照)および/または染色試薬(例えばステップ104参照)を接触させるためのフロースルーセル(flow−through cell)を形成することができるように構築された使い捨てのボディ(body)を備えることができる。このカバーガラスは、このボディに組み込むことができる。その結果形成されるフロースルーセル(または本明細書においてさらに説明されるフローチャネル(flow channel))は、洗浄、脱色および染色試薬の入口ポート(port)および出口ポートを備えることができる。
【0030】
洗浄し(ステップ102)、染色剤を接触させ(ステップ104)、脱色剤を接触させる(例えばステップ107および112)様々な方法ステップは、フローチャンバ(flow chamber)システム実施形態に関して本明細書に記載されたもの以外の様々な洗浄および/または流体接触技術によって達成することができることを理解すべきである。例えば、洗浄液、染色剤および/または脱色剤の接触は、限定はされないが、ピペット法、吸引法、混合法、遠心法およびこのような方法の組合せを含む知られている様々な実験室法によって達成することができる。
【0031】
さらに、いくつかの方法実施形態はさらに、試料の第1の画像を記録する前に試料を洗浄液で洗浄するステップ102を含むことができる。例えば、ステップ102は、フローチャネル、または試料32が使用可能に係合した表面とカバーガラスとの間に画定された他の空間(および/またはこの表面を画定した顕微鏡スライドを受け取るように構成されたフローチャネルハウジング)の中へ、実質的に無色の洗浄液を導入することを含むことができる。この洗浄液は、試料(および試料を構成する生物実体)を液体と接触させることにより試料の「状態を整え」、試料を「準備する」ために、フローチャネルの中に流すことができる。洗浄ステップ102は、試料中の様々な実体が、例えば(本明細書においてさらに説明される)ステップ104において接触させることができる染色剤を適正かつ特徴的に吸収し、および/または外面において吸収することを保証することができるため、ステップ102は、様々な画像を互いに比較する後続のステップにとって(すなわち差分画像を生成するときに)重要であることがある。また、洗浄ステップ102はさらに、試料とカバーガラス(またはフローチャネルハウジング)との間の空間を実質的に無色の洗浄流体で有利に満たすことができ、これによりさらに、試料の画像を記録するとき(例えばステップ103参照)に画像化条件を向上させることができる。
【0032】
グラム染色分野の技術者には知られているとおり、それぞれの染色ステップおよびそれぞれの脱色ステップは、過剰の染料または脱色試薬を除去するために水などの洗浄液で試料を洗浄する部分ステップを含む。単純にするため、本明細書では、これらの部分ステップについては言及せず、それらのステップは、染色ステップステップおよび/または脱色ステップの一部であるとみなす。任意の染色または脱色ステップの前に実施される洗浄ステップ102は単に例外であり、したがって本明細書において言及される。
【0033】
未染色試料の第1のベースライン画像を(例えばステップ103で)記録した後、本発明の様々な方法実施形態はさらに、複数の染色された実体を含む染色された試料を調製するため、試料に染色剤を接触させるステップ104を含むことができる。これらの染色された複数の実体は、(染色剤が実体によって吸収された)染色された複数の実体(すなわち例えばグラム陽性菌)と、(染色剤が単に実体の外面に存在する)外面が染色された複数の実体(すなわち例えばグラム陰性菌)とのうちの少なくとも一方を含むことができる。本発明の様々なシステム実施形態に関して本明細書において説明されているとおり、染色剤を接触させるステップ104は、試料を染色するために(試料が使用可能に係合する表面によってその一部分が画定された)フローチャネルの中に染色剤を流すことによって達成することができる。さらに、本明細書において説明されているとおり、ステップ104で接触させる染色剤はグラム染色剤を含むことができる。このような実施形態によれば、外面が染色された実体は複数のグラム陰性実体を含むことができ、染色された実体は複数のグラム陽性の実体を含むことができる。さらに、ステップ104で接触させる染色剤は、下流側での画像化および形態学的調査に備えて試料を調製するのに適当な様々な染色剤を含むことができることを理解すべきである。例えば、染色剤は、限定はされないが、クリスタルバイオレットとグラムヨウ素とを含む試薬を含むことができる。
【0034】
染色剤を試料に接触させた(例えばステップ104)後、いくつかの方法実施形態はさらに、染色された試料の第2の画像を記録するステップ105を含むことができる。第1の画像の詳細な特徴に応じて、実体の「見え具合(visibility)」は、存在する可能性がある構造化された背景信号によって、より最適になることも、それほど最適にならないこともある。
【0035】
この方法はさらに、(存在する場合に)少なくとも1つの染色された実体のスライドの表面における位置を決定するため、第2の画像を第1の画像と比較することにより、第1の差分画像を生成するステップ106を含むことができる。ステップ106で生成された第1の差分画像は、第1の差分画像を生成することにより、本発明の様々な実施形態によって、試料中に存在する細菌または他の実体の見え具合を相当に高めることができることを示す。第1の差分画像は、ステップ106で、カメラ8を備える画像化システムと通信する画像処理コンピュータ18によって生成することができる。例えば、ステップ106は、第2の画像と第1の画像との間の(例えば画像減算(image subtraction)などの)画像処理ステップを実行する画像処理コンピュータ18によって実行することができる。このような(画像減算などの)画像処理ステップを実行することにより、グラム染色ステップによって影響されない画像特徴の多くを、第1の差分画像から除去することができる。本発明の様々なシステム実施形態に関して本明細書において説明されているとおり、S=(J1−J2)/(Jl+J2)の形の画像処理アルゴリズムを使用して、差分画像信号(1つまたは複数)を生成することができる。J1およびJ2はそれぞれ第1および第2の画像の信号強度を指す。
【0036】
したがって、第1の差分画像中には、存在する(細菌などの)実体に関係し、この染色手順に反応する特徴だけが示され、構造化された背景信号は除去される。第1の差分画像は、(例えばグラム陽性菌、グラム陰性菌などの)染色された実体および/または外面が染色された実体のスライド上における位置を際立たせ、それらの位置の可視化を増強するため、第1の差分画像は本発明の方法の一実施形態の技術的な効果を示す。この増強効果は特に、(形態解析(morphology analysis)(例えばステップ116参照)などの)画像の可能な後続の目視検査に役立つ。
【0037】
様々な方法実施形態はさらに、外面が染色された実体から少なくとも一部の染色試薬が除去された部分脱色試料を調製するため、染色された試料に脱色剤を接触させるステップ107を含むことができる。様々な実施形態によれば、ステップ107はさらに、脱色の程度を制御することを含むことができ、これは例えば、スライド2とカバーガラス3との間の空間に酸アルコールなどの脱色剤を流す持続時間を調整することによって実行することができる。ステップ107で脱色剤を追加することによって、X位置50および80の外面が染色された(例えばグラム陰性菌を含む)実体に対応する信号をやや低減させることができる。やはり試料中に存在する可能性がある(例えばグラム陽性菌に対応する)染色された実体に対するある割合の脱色も明らかなことがあるが、染色された実体の脱色は、(例えばグラム陰性菌に対応する)外面が染色された実体の脱色に比べて全体にはるかに目立たない。ステップ108は一般に、第3の画像を与える。
【0038】
いくつかの方法実施形態はさらに、少なくとも1つの外面が染色された実体のスライド2の表面上における位置を決定するため、第3の画像を第2の画像と比較することにより、第2の差分画像を生成するステップ109を含むことができる。本発明の様々なシステム実施形態に関して本明細書においてさらに説明されるように、第2の差分画像は、(例えばCCDカメラ8と通信する)画像処理コンピュータ18によって生成することができる。画像処理コンピュータ18は例えば、(ステップ107での脱色剤の追加によって最も影響を受けた(すなわち脱色された)試料中の実体を際立たせるために第3の画像を第2の画像から差し引く)画像減算ステップを実行することにより、第2の差分画像を生成するように構成することができる。グラム染色実施形態において、ステップ109は、この脱色手順に最も反応するグラム陰性菌の位置を明らかにし、かつ/または際立たせることができる。第2の差分画像を生成するステップ109はさらに、使用者(および/または画像処理コンピュータ18)が、外面が染色された実体(すなわちグラム陰性菌)の信号を定量的および/または定性的に比較し、部分脱色ステップ(例えばステップ107)中に達成されたその時点における脱色の程度を決定するステップ110を実行することを可能にする技術的効果を提供する。
【0039】
したがって、第2の差分画像を生成するステップ109はさらに、試料の最適化された脱色を得るために必要な追加の脱色時間を推定するステップ111の実行を可能にする比較のベースを提供する。より具体的には、いくつかの方法実施形態では、ステップ111が、染色された実体(すなわち例えばグラム陽性菌)を実質的に脱色することなく、外面が染色された実体(すなわち例えばグラム陰性菌)を実質的に脱色するために、部分脱色試料に脱色剤を接触させるべきである暴露時間を決定するため、第2の差分画像を解析することを含むことができる。ステップ111は、第2の差分画像の「青色強度」を調べることによって明らかな外面が染色された実体の脱色レベルを与えた暴露時間に少なくとも部分的に基づく比計算(ratio calculation)を実行することにより、後続のステップ112において外面が染色された実体を実質的に脱色する暴露時間を定量的に推定することを含むことができる。
【0040】
いくつかの方法実施形態はさらに、外面が染色された実体(すなわち例えばグラム陰性菌)が実質的に脱色されており、染色された実体(例えばグラム陽性菌)が実質的に脱色されていない実質的に脱色された試料を調製するため、(ステップ111で決定された暴露時間の間)部分脱色試料に(例えば酸アルコールなどの)脱色剤を接触させるステップ112を含むことができる。この方法はさらに、実質的に脱色された試料の第4の画像を記録するステップ113を含むことができる。
【0041】
様々な方法実施形態はさらに、第3の差分画像を生成するステップ114を含むことができる。第3の差分画像は、第4の画像を第2の画像と比較することにより生成することができる。いくつかの実施形態では、第2の画像で検出された信号から第4の画像で検出された信号を「差し引く」画像減算手順を実行することにより、第3の差分画像を生成することができる。第3の差分画像は、少なくとも1つの外面が染色された実体(すなわち例えばグラム陰性菌)の表面上における位置を明らかに示すことができる。
【0042】
染色された実体(すなわちグラム陽性菌)のスライド表面上における位置を確認するため、いくつかの方法実施形態はさらに、第4の画像を第1の画像と比較することにより第4の差分画像を生成するステップ115を含むことができる。第4の差分画像は、少なくとも1つの染色された実体のスライドの表面上における位置を示すことができる。いくつかの実施形態では、CCDカメラ8(または他の画像化システム構成要素)と通信する画像処理コンピュータ18によって、ステップ115を実行することができる。この差分画像は、グラム陽性菌の信号(および対応する位置)を示す。
【0043】
いくつかの方法実施形態では、第3および第4の差分画像を使用して、試料32中に見られるすべての実体(すなわち例えばグラム陽性菌およびグラム陰性菌)をさらに分類するためのより詳細な形態解析(ステップ116参照)を実行することができる。ステップ116は例えば、ステップ101〜115に示された様々な方法ステップによって位置が決定され、かつ/または確認された様々な実体(すなわち例えばグラム陰性菌およびグラム陽性菌)を使用者が分類するのを助けるために既知の実体のライブラリ(library)を記憶するように構成された一体化された記憶装置(図示せず)を有する画像処理コンピュータ18を使用して実行することができる。例えば、ステップ116は、外面が染色された実体(すなわちグラム陰性菌)の形態(morphology)を解析することを含むことができる。また、いくつかの実施形態ではステップ116がさらに、染色された実体(すなわちグラム陽性菌)の形態を解析することを含むことができる。
【0044】
様々な方法およびシステム実施形態に関して本明細書において説明されているとおり、差分画像はそれぞれ、CCDカメラ8または他の画像化システム構成要素によって提供される様々な像を使用して画像減算手順を実行するように構成された画像処理コンピュータ18によって生成することができる。
【0045】
試料を染色する本発明の代替実施形態に基づく方法は最初に、試料を、画像化システムの試料ステージ1と使用可能に係合させるステップ201を含む。いくつかの実施形態では、通常の顕微鏡スライド30上の一般的な試料付着領域31内に試料32が配置され、熱固定される。次いで、使用可能に係合した試料32を一方の表面が有する調製されたスライド30が、使い捨てボディの中に「スナップ式にはめ込まれる」。この使い捨てボディは、スナップ式にはめ込まれた顕微鏡スライドと使い捨てボディの中に組み込まれたカバーガラスとが、染色試薬と脱色試薬のうちの少なくとも一方を試料32に接触させるためのフローチャンバ20を形成するように構築される。フローチャンバ20は、フローチャンバ20の中の試料32を通過するように脱色および染色試薬を「流す」ため、試薬入口22および試薬出口23を画定することができる。顕微鏡ステージ1上に配置するため、フローチャンバ20をひっくり返すことができる。
【0046】
様々な方法実施形態はさらに、試料への染色試薬および脱色試薬の接触の前後に、画像化システムを使用して試料の画像を記録するステップ202を含むことができる。ステップ202は例えば、本明細書に記載された染色および/または脱色プロセスの様々な段階において、試料の画像を記録することを含むことができる。ステップ202で記録される像は、限定はされないが、未染色試料の画像、染色された試料の画像、および部分脱色試料の画像を含むことができる。
【0047】
この方法はさらに、試料への染色試薬および脱色試薬の接触の前後に記録された試料の画像の比較に少なくとも部分的に基づいて、差分画像を生成するステップ203を含むことができる。いくつかの実施形態では、ステップ203が例えば、染色された試料の画像中に存在する画像信号から部分脱色試料の画像の画像信号を差し引くことにより、第2の差分画像を生成することを含むことができる。
【0048】
本発明の様々な方法実施形態はさらに、ステップ203で生成された差分画像に少なくとも部分的に基づいて、染色試薬および/または脱色試薬の接触を補正するステップ204を含むことができる。ステップ204は例えば、ステップ203の差分画像を解析することにより、試料中(および/またはその中に含まれる外面が染色された実体中)の見掛けの脱色の程度を定量的に決定することを含むことができる。例えば、測定可能な「青色強度」は一般に、脱色剤の接触中に達成された脱色の量を定量的に示す。露出および/または「フラッシング(flushing)」時間が既知である場合、ステップ204は、試料中に存在する外面が染色された実体から残りの染色試薬を除去することが予想される補正されたおよび/または追加の暴露時間を決定することを含むことができる。この方法はさらに、補正ステップ204で計算された(露出および/またはフラッシング時間などの)様々なパラメータに基づいて、染色試薬と脱色試薬のうちの少なくとも一方を再接触させるステップ205を含むことができる。最後に、このような方法実施形態はさらに、再接触ステップ205によって識別可能とすることができる試料中の少なくとも1つの関心のあるターゲット(target)(すなわちグラム陽性菌実体)を区別するため、試料の最終画像を生成することを含むことができる。
【0049】
本発明の様々な実施形態はさらに、(グラム染色手順などの)最適化された染色手順を試料32に対して実行するシステムおよび/または装置実施形態を提供することができる。例えば、1つのシステム実施形態は、染色剤の供給源11および脱色剤の供給源12と流体連通したチャネルを画定したフローチャンバ20を備え、このフローチャンバは、試料32と使用可能に係合するように構成された表面31を含む。いくつかのシステム実施形態では、(本明細書においてさらに説明されるように)、フローチャンバを画定するためそれらの間に使用可能に係合したスペーサ4を有するスライド2とカバーガラス3の間に、フローチャンバを画定することができる。
【0050】
フローチャンバ20は、試料32と使用可能に係合する表面31を画定したスライド30を備えることができる。フローチャンバ20はさらに、スライド開口を画定したフローチャネルハウジングを備えることができ、スライド開口は、スライドがスライド開口の中に配置されたときに、試料32が、スライド30とフローチャネルハウジングの間に実質的に配置されるように標準スライドを受け取るように適合されている。フローチャネルハウジングはさらに、スライド30とフローチャネルハウジングの間に試料32が配置されている間に、画像化システム(および/またはそのレンズ5)が、試料32の画像を記録することができるように、(組み込まれたガラスおよび/またはポリカーボネートカバーガラス21などの)実質的に透光性の材料を含むことができる。
【0051】
フローチャンバ20(および/またはそれと通信するシステムのシステムコントローラ19部分)は、染色された複数の実体を含む染色された試料を調製するため、(例えば試薬入口22を通して)試料32に染色剤を接触させるように構成された(適当な様々なポンプ14、弁15、および1つまたは複数の結合弁16を備える)流体システム(fluidics system)と協働することができる。様々な方法実施形態に関して本明細書において説明されているとおり、染色された複数の実体は、染色された複数の実体(例えばグラム陽性菌実体)と外面が染色された複数の実体(例えばグラム陰性菌実体)のうちの少なくとも一方を含むことができる。(フローチャンバ20と協働する)流体システム14、15、16をさらに、外面が染色された実体から少なくとも一部の染色剤が除去された部分脱色試料を調製するため、染色された試料に脱色剤を(例えば試薬入口22を通して)接触させるように構成することができる。いくつかのシステムおよび/または装置実施形態では、(フローチャンバ20および/またはシステムコントローラ19と協働する)流体システム14、15、16をさらに、外面が染色された実体が実質的に脱色されており、染色された実体が脱色剤の接触によって実質的に脱色されていない実質的に脱色された試料を調製するため、(例えばステップ111で計算された)決定された暴露時間の間、部分脱色試料に脱色剤12を接触させるように構成することができる。さらに、様々なシステム実施形態は、それぞれ洗浄、染色、脱色および対比染色(counter−straining)試薬を含むリザーバ(reservoir)10、11、12および13を備えることができる。これらの試薬を、適当なポンプ14、弁15および1つまたは複数の結合弁16によって、フロースルー使い捨て品(すなわちフローチャンバ20)の試薬入口6に向かって導くように、システムコントローラ19を構成することができる。フローチャンバ20に流した試薬は、いくつかのシステム実施形態において提供される廃液リザーバ17の中に集めることができる。
【0052】
本発明のシステムおよび装置実施形態はさらに、試料32が画像化システムの視野内に配置されるようにフローチャンバ20に隣接して配置された画像化システム(および/またはその対物レンズ5)を備えることができる。画像化システムは、対物レンズ5と、スライド30とフローチャネルハウジング20の間に試料32が配置されている間に試料の画像を記録することができるように構成された、CCDカメラなどの画像化受信器またはカメラ装置8と、カメラ装置8と動作可能に係合したアクチュエータ装置であり、フローチャンバ20に対するカメラ装置8の位置を調整するように構成された(例えばXYZ並進機構9などの)アクチュエータ装置とを含むことができる。代替システム実施形態では、このシステムが、ステージ1と動作可能に係合したアクチュエータ装置であり、カメラ装置8に対するフローチャンバ20の位置を調整するように構成された(XYZ並進機構などの)アクチュエータ機構を備えることができることを理解すべきである。いくつかの実施形態では、カメラ装置8が、(本明細書においてさらに説明される)画像処理コンピュータ18と通信することができ、画像処理コンピュータ18はシステムコントローラ19と通信することができる。また、システムコントローラ19は、試料32上の異なる関心のあるフィールドへ対物レンズ5を移動させ、試料32に対する自動焦点操作を実行するために、XYZ並進機構9の制御入力とも通信することもできる。
【0053】
スライド30および/またはフローチャンバ20は、画像化システムのステージ1と動作可能に係合しているため、染色剤と脱色剤のうちの少なくとも一方の接触の前、最中および/または後に試料32を(リアルタイムで)監視するように、画像化システムの(画像化受信器8などの)構成要素を構成することができる。画像化システム(および/またはその画像処理コンピュータ18)をさらに、脱色剤の第1の接触の前に得られた試料32の少なくとも1つの画像と、脱色剤の第1の接触の後に得られた試料の少なくとも1つの画像とを比較することにより、差分画像を生成するように構成することができる。
【0054】
いくつかの実施形態では、画像化システム(および/またはその中に含まれる画像処理コンピュータ18)をさらに、外面が染色された実体から染色された実体をより容易に識別することができるように、染色された実体を実質的に脱色することなく、外面が染色された実体を実質的に脱色するための脱色剤の第2の適用の暴露時間を、差分画像に少なくとも部分的に基づいて決定する(例えばステップ111参照)ように構成することができる。様々なシステム実施形態はさらに、画像化システム8、9、18および流体システム14、15、16と通信する(例えばシステムコントローラ19などの)コントローラ装置を備えることができる。このコントローラ装置を、染色剤と脱色剤のうちの少なくとも一方の接触を、(例えばカメラ装置8を備える)画像化システムによって生成された画像に少なくとも部分的に基づいて制御するように構成することができる。
【0055】
いくつかのシステム実施形態では、画像化システム(および/または(画像処理コンピュータ18などの)その構成要素)を、方法ステップのうちの1つまたは複数のステップを実行するように構成することができる。例えば、一実施形態では、画像化システム(および/またはそのカメラ装置8)を、試料32の第1の画像を記録するステップ103を実行するように構成することができる。画像化システムをさらに、フローチャンバ20を使用して試料に染色剤を接触させた後に、染色された試料の第2の画像を記録するように構成することができる。
【0056】
さらに、画像化システム(および/またはその中に含まれる画像処理コンピュータ18)を、少なくとも1つの染色された実体のスライド30の表面31上における位置を決定するため、第2の画像を第1の画像と比較することにより、第1の差分画像を生成するように構成することができる。画像化システム(および/またはそのカメラ装置8)をさらに、フローチャンバ20を使用して脱色剤を接触させた後に(ステップ107参照)、部分脱色試料の第3の画像を記録するように構成することができる。画像化システム(および/または画像処理コンピュータ18)をさらに、少なくとも1つの外面が染色された実体の位置を決定するため、第3の画像を第2の画像と比較することにより、第2の差分画像を生成するように構成することができる。最後に、いくつかのシステム実施形態では、画像化システム(および/またはシステムコントローラ19と協働する画像処理コンピュータ18)をさらに、染色された実体を実質的に脱色することなく、外面が染色された実体を実質的に脱色するために、部分脱色試料に脱色剤を接触させる暴露時間を決定するため、第2の差分画像を解析するステップ111を実行するように構成することができる。
【0057】
本発明の様々なシステム実施形態によれば、(様々な画像処理コンピュータ18および/またはカメラ装置8構成要素を含む)画像化システムをさらに、限定はされないが、実質的に脱色された試料の第4の画像を記録するステップ113、第4の画像を第2の画像と比較することにより、第3の差分画像を生成するステップ114、および第4の画像を第1の画像と比較することにより第4の差分画像を生成するステップ115を含む、様々な方法ステップを実行するように構成することができる。本発明の様々な方法実施形態に関して本明細書において説明されているとおり、第3の差分画像は、少なくとも1つの外面が染色された実体(すなわち例えばグラム陰性菌実体)の位置を示すことができる。さらに、第4の差分画像は、少なくとも1つの染色された実体(すなわち例えばグラム陽性菌実体)の位置を示すことができる。
【0058】
本発明の様々なシステム実施形態において提供される画像化システムは、限定はされないが第1の差分画像、第2の差分画像、第3の差分画像および第4の差分画像を含むことができる差分画像を生成するように構成された画像処理コンピュータ18を備えることができる。このようなシステム実施形態では、画像処理コンピュータ18を、限定はされないが画像減算、画像加算、画像比計算およびこのような画像処理ルーチンの組合せを含むことができるプロセスを使用して様々な差分画像のうちの1つまたは複数の差分画像を生成するように構成することができる。例えば、いくつかの実施形態では、画像処理コンピュータ18(および/またはいくつかの実施形態ではシステムコントローラ19)を、S=(J1−J2)/(Jl+J2)の形の画像処理アルゴリズムを使用して差分画像信号(S)を生成するように構成することができる。J1およびJ2はそれぞれ第1および第2の画像の信号強度を指す。
【0059】
顕微鏡のXYステージ1上に配置することができる顕微鏡スライド2上に生物試料が配置され、固定され、顕微鏡対物レンズ5を通し、CCDカメラなどの画像化受信器(または他のカメラ装置8)に向かって画像化される。顕微鏡スライド2から選択されたある距離のところに、適当な厚さを有するスペーサ4によってカバーガラス3が保持される。スペーサ4は、片側に試薬入口6、別の側に試薬出口7を有するフローチャネルを、スライド2とカバーガラス3の間に形成することができる。スペーサ4は、スペーサ4とスライド2の間、およびスペーサ4とカバーガラス3の間に実質的な流体密(fluid−tight)係合を提供し、それによって平行フローチャンバが形成されるように構成されたエラストマー物質を含むことができる。効果的なスペーサ4の厚さは、たとえ対物レンズ5の倍率が100×であったとしても、カメラ装置8(または他の画像化システム構成要素)によって、顕微鏡スライド2上の生物試料の鮮明な画像を得ることができるように選択することができる。
【0060】
いくつかの実施形態では、フローチャンバと液体処理システムとの間の流体連通を、コネクタパイプ33および34によって確立することができ、コネクタパイプ33および34は、画像化システム(および/またはその対物レンズ5)に対して使い捨てフローチャンバ20を所定の位置に保持するように構成し、さらに、圧力フィッティング35および36を介してそれぞれ試薬入口22および試薬出口23への実質的に流体密の接続を提供するように構成することができる。いくつかの実施形態では、コネクタパイプ33、34が、画像化システムのステージ1と係合するように使い捨てフローチャンバ20を全体的に下方へ押し付けるように構成された相当に堅いポリマー物質を含むことができる。
【0061】
本明細書で説明した様々なシステム実施形態を、様々な画像に関して説明し、要約した様々な方法ステップを実行するように構成することができることを理解すべきである。例えば、システムコントローラ19を、自動化された染色プロセス(例えばステップ104参照)および脱色プロセス(ステップ107および112参照)を制御するように構成することができる。自動焦点操作を実行するとき、画像を記録するとき、関心のある新しいフィールドへ移動するとき、および様々な差分画像を生成するために(例えば画像減算などの)画像処理ステップを実行すべきときを決定するため、システムコントローラ19をさらに、画像処理コンピュータ18および(例えばXYZ並進機構を備える)アクチュエータ装置9と通信するように構成することができる。いくつかの実施形態では、画像処理コンピュータ18が、グラム陽性菌またはグラム陰性菌を示す最適化された画像を自動的に生成することができる。使用者が、形態解析を手作業で実行し、かつ/または所与の試料中に存在する可能性がある様々な実体を同定することを可能にするため、このような画像を、画像処理コンピュータ18によって(例えばその中に組み込まれた記憶装置内に)記憶することができ、実験技師、微生物学者または他の使用者がそれらの画像を利用できるようにすることができる。例えば、いくつかの実施形態では、顕微鏡ステージ1または画像化システムに対する他の解析フィールドから試料を除去する必要なしに、試料実体の形態を解析するステップ116を使用者が実行することができるよう、試料中のグラム陽性菌またはグラム陰性菌の最適化された画像の視覚表現を生成するように構成された(高解像度ディスプレイ(図示せず)などの)ユーザインターフェースを、画像処理コンピュータ18が備えることができる。他の実施形態では、画像処理コンピュータ18が、様々な既知の微生物(およびそれに対応する染色された特性画像)を含む画像データベースを含んだ記憶装置を備えることができる。画像処理コンピュータ18は次いで、自動細菌同定手順を実行することができ、続いて、ユーザインターフェースを介して使用者に結果を提供することができる。使用者は次いで、自動同定の出力を受け入れることができ、または、その自動同定の結果を、フォローアップ手動確認の出発点として使用することができる。これらの様々なシステム実施形態では、使用者が、画像処理コンピュータ18によって生成された様々な差分画像を、最適に染色された試料の実際の未処理画像と比較することができるように、試料32を、画像化システムの試料ステージ1上に残すことができる。
【0062】
以上の説明に提示された教示の恩恵を受ける本発明が属する分野の技術者には、本明細書に記載された発明の多くの変更および他の実施形態が思い浮かぶであろう。したがって、本発明は開示された特定の実施形態に限定されないこと、ならびに変更および他の実施形態は、添付の特許請求の範囲に含まれることが意図されていることを理解すべきである。本明細書では特定の用語が使用されるが、それらは、単に総称的かつ記述的な意味で使用されているのであって、限定目的で使用されているのではない。