(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリ(3,4−ジアルコキシチオフェン)とポリ陰イオンとの複合体の水分散体の製造方法、ならびに該方法により得られる水分散体に関する。
【背景技術】
【0002】
透明導電膜は、液晶ディスプレイ、エレクトロルミネッセンスディスプレイ、プラズマディスプレイ、エレクトロクロミックディスプレイ、太陽電池、タッチパネルなどの透明電極、ならびに電磁波シールド材などの基材のコーティングに用いられている。最も広く応用されている透明導電膜は、インジウム−スズの複合酸化物(ITO)の蒸着膜であるが、成膜に高温が必要であり、成膜コストが高いという問題点がある。塗布成膜法によるITO膜も、成膜に高温が必要であり、その導電性はITOの分散度に左右され、ヘイズ値も必ずしも低くない。また、ITOなどの無機酸化物膜は、基材の撓みによりクラックが入りやすく、そのため導電性の低下が起こりやすい。
【0003】
また、ITOの原料であるインジウムは希少金属であり、近年、透明導電膜としての需要も高まっていることから、原料価格が高騰しているのが現状である。
【0004】
一方、有機材料でなる透明導電膜として、低温かつ低コストで成膜可能な導電性ポリマーを用いたものが提案されている。例えば、特許第2636968号公報には、水分散性が良好なポリ(3,4−ジアルコキシチオフェン)とポリ陰イオンとの複合体の製造方法が示されている。その水分散体を含むコーティング用組成物を基材上に付与してなる薄膜は、帯電防止機能については十分であるが、透明性および導電性については不十分である。
【0005】
特開平8−48858号公報には、上記の特許第2636968号公報に記載のポリ(3,4−ジアルコキシチオフェン)とポリ陰イオンとの複合体の水分散体に、ジヒドロキシ基、ポリヒドロキシ基、アミド基、およびラクタム基からなる群より選択される基を有する化合物を添加することによって得られたコーティング用組成物を基材上に付与してなる薄膜の導電性が向上することが記載されている。また、特開2000−153229号公報には、特許第2636968号公報に記載のポリ(3,4−ジアルコキシチオフェン)とポリ陰イオンとの複合体の水分散体及びε≧15の誘電率を有する非プロトン性化合物を含むコーティング用組成物を基材に付与し、100℃未満の温度で乾燥させてなる薄膜の導電性が向上することが記載されている。
【0006】
これらの公報に記載のコーティング用組成物は、いずれも上記特許第2636968号公報に記載のポリ(3,4−ジアルコキシチオフェン)とポリ陰イオンとの複合体の水分散体に特定の化合物を添加することにより、その性質を向上させたものであり、導電性は比較的改良されている。しかし、使用される導電性ポリマーを含む水分散体自体は同一であるため、得られる水分散体の透明性および導電性は必ずしも十分なものではない。
【0007】
特開2004−59666号公報には、3,4−ジアルコキシチオフェンをポリ陰イオンの存在下で重合させる際に、ペルオキソ二硫酸を酸化剤として用いること、あるいは重合時に酸を添加してpHを低下させることによって、透明性および導電性に優れた薄膜を形成し得る複合体を含む水分散体が得られることが開示されている。これらの手法により比較的優れた透明性および導電性を有する薄膜が形成されるが、さらに透明性および導電性に優れた薄膜を形成し得る材料およびそれを製造する方法の開発が求められている。
【発明の開示】
【0008】
本発明の課題は、上記従来の問題点を解決することにあり、その目的とするところは、透明性および導電性に優れた導電性薄膜を形成することの可能な、導電性ポリマー成分を含む水分散体の製造方法、および該方法により得られる水分散体を提供することにある。
【0009】
本発明者らは、上記課題を解決するため、3,4−ジアルコキシチオフェンをポリ陰イオンの存在下で酸化剤を用いて重合させる際の重合条件について種々の検討を行い、本発明を完成するに至った。
【0010】
本発明のポリ(3,4−ジアルコキシチオフェン)とポリ陰イオンとの複合体の水分散体の第1の製造方法は、以下の式(1)で表される3,4−ジアルコキシチオフェン
【0011】
【化1】
【0012】
(式中、R
1およびR
2は相互に独立して水素またはC
1−4のアルキル基であるか、あるいは一緒になってC
1−4のアルキレン基を形成し、該アルキレン基は任意に置換されてもよい)を、ポリ陰イオンの存在下で、酸化剤を用いて、水系溶媒中で重合させる工程を含み、該重合工程において、該酸化剤は、該酸化剤を含有する溶液または分散液を反応液中に滴下することにより添加される。
【0013】
本発明のポリ(3,4−ジアルコキシチオフェン)とポリ陰イオンとの複合体の水分散体の第2の製造方法は、以下の式(1)で表される3,4−ジアルコキシチオフェン
【0014】
【化2】
【0015】
(式中、R
1およびR
2は相互に独立して水素またはC
1−4のアルキル基であるか、あるいは一緒になってC
1−4のアルキレン基を形成し、該アルキレン基は任意に置換されてもよい)を、ポリ陰イオンの存在下で、酸化剤を用いて、水系溶媒中で重合させる工程を含み、該重合工程において反応液中のアルカリ金属イオン濃度が400ppm以下に保持される。
【0016】
本発明のポリ(3,4−ジアルコキシチオフェン)とポリ陰イオンとの複合体の水分散体の第3の製造方法は、以下の式(1)で表される3,4−ジアルコキシチオフェン
【0017】
【化3】
【0018】
(式中、R
1およびR
2は相互に独立して水素またはC
1−4のアルキル基であるか、あるいは一緒になってC
1−4のアルキレン基を形成し、該アルキレン基は任意に置換されてもよい)を、ポリ陰イオンの存在下で、酸化剤を用いて、水系溶媒中で重合させる工程を含み、該酸化剤は、該酸化剤を含有する溶液または分散液を反応液中に滴下することにより添加され、かつ該重合工程において反応液中のアルカリ金属イオン濃度が400ppm以下に保持される。
【0019】
本発明は、上記いずれかの方法により得られる、ポリ(3,4−ジアルコキシチオフェン)とポリ陰イオンとの複合体の水分散体を包含する。
【0020】
本発明の方法により、ポリ(3,4−ジアルコキシチオフェン)とポリ陰イオンとの複合体の水分散体が容易に製造される。この水分散体を用いるとウェットプロセスにより低温条件下においても基材上に薄膜を容易に形成することが可能である。得られた薄膜は可撓性を有し、かつ透明性および導電性に極めて優れる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
本発明のポリ(3,4−ジアルコキシチオフェン)とポリ陰イオンとの複合体の水分散体の製造方法は、以下の式(1)で表される3,4−ジアルコキシチオフェン
【0022】
【化4】
【0023】
(式中、R
1およびR
2は相互に独立して水素またはC
1−4のアルキル基であるか、あるいは一緒になってC
1−4のアルキレン基を形成し、該アルキレン基は任意に置換されてもよい)を、ポリ陰イオンの存在下で、酸化剤を用いて水系溶媒中で重合させる工程を包含する。
【0024】
本発明の第1の方法においては、上記酸化剤は、該酸化剤を含有する溶液または分散液(以下、該酸化剤を含有する溶液または分散液を酸化剤含有液という場合がある)を反応液中に滴下することにより添加される。第2の方法においては、重合工程における反応液中のアルカリ金属イオン濃度が400ppm以下に保持される。第3の方法においては、上記酸化剤が、該酸化剤を含有する溶液または分散液を反応液中に滴下することにより添加され、かつ重合工程において反応液中のアルカリ金属イオン濃度が400ppm以下に保持される。
【0025】
以下にこれらの方法について、順次説明する。
【0026】
(I)第1の方法
第1の方法で用いられる、上記式(1)で示される3,4−ジアルコキシチオフェンにおいて、R
1およびR
2のC
1−4のアルキル基としては、好適には、メチル基、エチル基、n−プロピル基などが挙げられる。R
1およびR
2が一緒になって形成されるC
1−4のアルキレン基としては、1,2−アルキレン基、1,3−アルキレン基などが挙げられ、好適には、メチレン基、1,2−エチレン基、1,3−プロピレン基などが挙げられる。このうち、1,2−エチレン基が特に好適である。また、C
1−4のアルキレン基は置換されていてもよく、置換基としては、C
1−12のアルキル基、フェニル基などが挙げられる。置換されたC
1−4のアルキレン基としては、1,2−シクロヘキシレン基、2,3−ブチレン基などが挙げられる。このようなアルキレン基の代表例として、R
1およびR
2が一緒になって形成されるC
1−12のアルキル基で置換された1,2−アルキレン基は、エテン、プロペン、ヘキセン、オクテン、デセン、ドデセン、スチレンなどのα−オレフィン類を臭素化して得られる1,2−ジブロモアルカン類から誘導される。
【0027】
上記方法においては、上述のようにポリ陰イオンの存在下で重合反応が進行する。このポリ陰イオンを形成し得る化合物(以下、ポリ陰イオン化合物という場合がある)としては、ポリアクリル酸、ポリメタクリル酸、ポリマレイン酸などのポリカルボン酸類;ポリスチレンスルホン酸、ポリビニルスルホン酸などのポリスルホン酸類などが挙げられる。これらの中で、ポリスチレンスルホン酸が特に好適である。ポリ陰イオン化合物の分子量は特に限定されないが、通常、重量平均分子量が1,000から2,000,000の範囲であり、好ましくは、2,000から1,000,000の範囲であり、より好ましくは、10,000から500,000の範囲である。特に、上記分子量範囲のポリスチレンスルホン酸が好適である。ポリスチレンスルホン酸のスルホン化率は特に限定されないが、好ましくは80から100%、さらに好ましくは85%から95%の範囲である。ここで「スルホン化率」とは、ポリスチレンスルホン酸において、分子中のスルホン酸基を有するスチレン単位およびスルホン酸基を有していないスチレン単位の合計に対する、スルホン酸基を有するスチレン単位の割合(%)を指して言う。
【0028】
上記ポリ陰イオン化合物の使用量は、上記3,4−ジアルコキシチオフェン100質量部に対して、50から3,000質量部の範囲が好ましく、より好ましくは100から1,000質量部の範囲であり、特に好ましくは、150から500質量部の範囲である。
【0029】
第1の方法において用いられる酸化剤としては、以下の化合物が挙げられるが、これらに限定されない:ペルオキソ二硫酸、ペルオキソ二硫酸ナトリウム、ペルオキソ二硫酸カリウム、ペルオキソ二硫酸アンモニウム、無機酸化第二鉄塩、有機酸化第二鉄塩、過酸化水素、過マンガン酸カリウム、二クロム酸カリウム、過ホウ酸アルカリ塩、銅塩など。これらのうち、ペルオキソ二硫酸、ペルオキソ二硫酸ナトリウム、ペルオキソ二硫酸カリウム、およびペルオキソ二硫酸アンモニウムが特に好適である。さらに、酸化触媒として、必要に応じて触媒量の遷移金属イオン(例えば、鉄、コバルト、ニッケル、モリブデン、バナジウムイオンなど)を形成し得る化合物を添加しても良い。酸化剤の使用量は、上記チオフェン1モル当たり、1から5当量の範囲が好ましく、より好ましくは、2から4当量の範囲である。
【0030】
第1の方法においては、用いられる溶媒は水系溶媒であり、特に好ましくは水である。メタノール、エタノール、2−プロパノール、1−プロパノールなどのアルコール;アセトン、アセトニトリルなどの水溶性の溶媒を水に添加して用いてもよい。
【0031】
第1の方法に従い、ポリ(3,4−ジアルコキシチオフェン)とポリ陰イオンとの複合体の水分散体を製造するには、上記3,4−ジアルコキシチオフェンおよびポリ陰イオンを上記溶媒中に含有する混合物中に、上記酸化剤を含有する溶液または分散液(酸化剤含有液)を滴下する。ここで、「酸化剤を含有する溶液または分散液を滴下する」とは、酸化剤含有液を少量ずつ断続的または連続的に添加することを意味し、例えば、反応液中に該酸化剤含有液を微量ずつ連続して注入するような形態をも包含する。
【0032】
酸化剤含有液に用いられる溶媒は、上記と同様の水系溶媒、好ましくは水が用いられる。酸化剤の濃度、滴下速度、および滴下に要する時間は、添加する酸化剤の種類および量、ポリ(3,4−ジアルコキシチオフェン)およびポリ陰イオン化合物の種類および量、反応液の量などの種々の要件に応じて適宜決定される。通常、滴下時間は、1分以上、好ましくは、5分〜30時間、さらに好ましくは、30分〜18時間とされる。
【0033】
上記重合時における反応液のpHは比較的低いことが好ましく、pHは1.5以下であることが好ましい。反応液のpHは、必要に応じて酸を加えることにより調整される。例えばペルオキソ二硫酸水溶液を滴下する場合には、滴下に従って反応液のpHが低下し、通常、滴下終了時にはpHが1.5以下となるので好適である。
【0034】
上記重合時に添加され得る酸としては、水溶性の無機酸および有機酸からなる群より選択される酸が使用される。無機酸としては、塩酸、硫酸、硝酸、リン酸、過塩素酸などが挙げられる。有機酸としては、p−トルエンスルホン酸、ベンゼンスルホン酸、メタンスルホン酸、トリフルオロメタンスルホン酸などが挙げられる。
【0035】
第1の方法においては、重合を行う際の反応混合液の温度は、0〜100℃であり、副反応を抑制する観点から、好ましくは0〜50℃、さらに好ましくは0〜30℃である。
【0036】
第1の方法においては、重合反応を行う時間は、添加する酸化剤の種類および量、酸化剤含有液の滴下速度、重合温度、反応液のpHなどに依存して適宜決定される。反応時間は、例えば、5〜100時間、通常10〜40時間である。
【0037】
第1の方法においては、反応液中のアルカリ金属イオン濃度は特に限定されない。
【0038】
上記酸化剤含有液を滴下により添加することにより、反応液中の酸化剤の濃度が徐々に上昇する。そのことにより、反応を穏やかに進行させることができ、かつ副反応を抑えることができる。このような方法により、生成するポリ(3,4−ジアルコキシチオフェン)とポリ陰イオンとの複合体は、分子量分布が狭く、均質となり得る。
【0039】
(II)第2の方法
第2の方法で用いられる3,4−ジアルコキシチオフェンは、上記第1の方法で用いられる3,4−ジアルコキシチオフェンと同様である。ポリ陰イオンあるいはポリ陰イオン化合物についても、上記第1の方法と同様のものが用いられ得る。
【0040】
第2の方法においては、3,4−ジアルコキシチオフェンをポリ陰イオンの存在下で、酸化剤を用いて重合させる際の反応液中のアルカリ金属イオン濃度が、400ppm以下に保持される。アルカリ金属イオン濃度は、好適には300ppm以下、さらに好適には200ppm以下に保持される。そのためには、例えば、上記酸化剤がアルカリ金属イオンを含有しないことが好ましい。あるいは酸化剤含有液中にアルカリ金属イオンが含有されないか、アルカリ金属イオン濃度が低いことが望ましい。
【0041】
アルカリ金属イオンを含有しない酸化剤としては、以下の化合物が挙げられるが、これらに限定されない:ペルオキソ二硫酸、ペルオキソ二硫酸アンモニウム、無機酸の第二鉄塩、有機酸の第二鉄塩、過酸化水素、銅塩など。これらのうち、無機酸の第二鉄塩としては、硫酸第二鉄、塩化第二鉄、硝酸第二鉄などが、有機酸の第二鉄塩としては、クエン酸第二鉄、クエン酸アンモニウム鉄(III)、p−トルエンスルホン酸第二鉄、ジイソプロピルナフタレンスルホン酸第二鉄などが挙げられる。銅塩としては、酸化銅(I)、酸化銅(II)、塩化銅(I)、塩化銅(II)、臭化銅(I)、臭化銅(II)、酢酸銅(II)、アセチルアセトン酸銅(II)、塩基性炭酸銅(II)、硫酸銅(II)などが挙げられる。これらのうちペルオキソ二硫酸およびペルオキソ二硫酸アンモニウムが特に好適である。
【0042】
上記酸化剤のうち、ペルオキソ二硫酸は、それ自身は非常に不安定な化合物であり、単独であるいは水溶液の状態で放置すると徐々に分解する。そのため、例えば、使用する直前に、ペルオキソ二硫酸塩(例えば、ペルオキソ二硫酸ナトリウム塩)溶液を陽イオン交換樹脂によるイオン交換反応に供し、ペルオキソ二硫酸溶液とする。このとき、イオン交換の度合いを適切に調整することにより、もとのペルオキソ二硫酸塩に由来する対イオン(例えば、ナトリウムイオン)の濃度が所望の値に制御された酸化剤溶液が得られる。
【0043】
上記酸化剤に加え、酸化触媒として、必要に応じて触媒量の遷移金属イオン(例えば、鉄、コバルト、ニッケル、モリブデン、バナジウムイオンなど)を形成し得る化合物を添加しても良い。酸化剤の使用量は、上記チオフェン1モル当たり、1から5当量の範囲が好ましく、より好ましくは、2から4当量の範囲である。
【0044】
第2の方法においては、用いられる溶媒は、上記第1の方法で用いられる溶媒と同様である。重合時における好適なpHは、上記第1の方法と同様であり、第1の方法と同様に酸によりpHが調整され得る。重合時の反応混合液の温度、時間などについても、上記第1の方法と同様である。
【0045】
この第2の方法においては、酸化剤の添加方法は特に限定されない。反応系に一度に加えられても、徐々に加えられても、さらに上記第1の方法と同様に酸化剤含有液を滴下することにより加えられてもよい。
【0046】
この方法により、反応液中のアルカリ金属イオン濃度を低く維持することにより、アルカリ金属イオンがポリ陰イオンと結合することを防ぐことができ、副反応を抑え、より反応を効率的に行うことが出来る。このような方法により、生成するポリ(3,4−ジアルコキシチオフェン)とポリ陰イオンとの複合体は、分子量分布が狭く、均質となり得る。
【0047】
(III)第3の方法
第3の方法で用いられる3,4−ジアルコキシチオフェンは、上記第1の方法で用いられる3,4−ジアルコキシチオフェンと同様である。ポリ陰イオン(ポリ陰イオン化合物)および酸化剤についても、上記第1の方法と同様のものが用いられ得る。
【0048】
この第3の方法においては、上記第1の方法と同様に、3,4−ジアルコキシチオフェンおよびポリ陰イオンを溶媒中に含有する混合物中に、上記酸化剤含有液を滴下する。さらに、上記第2の方法と同様に、重合時の反応液中のアルカリ金属イオン濃度が400ppm以下に保持される。
【0049】
反応に用いられる溶媒、酸化剤含有液の滴下の手法、および反応液のpHを400ppm以下に保持する手法は、上記第1および第2の方法と同様である。反応時の好適なpH、PHを調整するための酸の使用、反応温度、反応時間などの条件についても上記第1および第2の方法と同様である。
【0050】
本発明の第3の方法においても、第1の方法と同様に反応液の酸化剤の濃度が徐々に上昇する。そのことにより、反応を穏やかに進行させることができ、かつ副反応を抑えることができる。しかもアルカリ金属イオン濃度を低く維持することにより、アルカリ金属イオンがポリ陰イオンと結合することを防ぐことができ、副反応を抑え、より反応を効率的に行うことが出来る。その結果、生成する複合体は、さらに分子量分布が狭く、均質となり得る。
【0051】
上記第1〜第3の方法における重合反応により、いずれもポリ(3,4−ジアルコキシチオフェン)が生成する。このポリ(3,4−ジアルコキシチオフェン)は、ポリ陰イオンがドープした状態であると考えられ、本明細書では、これを「ポリ(3,4−ジアルコキシチオフェン)とポリ陰イオンとの複合体」、あるいは単に「複合体」と記載する。
【0052】
上記複合体の水分散体は、基材上に薄膜を形成するのに利用される。上記方法で得られる水分散体に含有される複合体は、上述のように優れた性質を有する。そのため、得られた基材表面の薄膜は、これまでのポリチオフェン系導電性ポリマーによる薄膜に比べて、飛躍的に向上した透明性と導電性を有する。特に、上記第3の方法により得られる複合体を含む水分散体を用いて得られた薄膜は極めて透明性および導電性に優れる。さらに、これらの薄膜は可撓性を有するため、広い分野で利用可能である。
【実施例】
【0053】
以下、実施例および比較例に基づいて本発明を具体的に説明するが、本発明はこの実施例に限定されるものではない。なお、以下の実施例および比較例において「部」は「質量部」を示す。
【0054】
1.使用材料
実施例または比較例において、ポリ(3,4−ジアルコキシチオフェン)とポリ陰イオンとの複合体の水分散体のイオン交換処理には、陽イオン交換樹脂として、BAYER社製Lewatit S100Hを、陰イオン交換樹脂として、BAYER社製Lewatit MP62を用いた。
【0055】
2.ポリスチレンスルホン酸の精製
各実施例および比較例で使用するポリスチレンスルホン酸の精製において、限外濾過には、限外濾過膜(ミリポア社製Biomax−100)を用いた。限外濾過により低分子量物を除去した後、Lewatit S100Hを充填したカラムを用いた陽イオン交換処理を行った。
【0056】
3.アルカリ金属イオン濃度測定
各実施例および比較例における反応液中のアルカリ金属イオン濃度測定においては、原子吸光法(島津製作所製AA−6600F)を用いた。
【0057】
4.ペルオキソ二硫酸水溶液の調製
各実施例および比較例において、ペルオキソ二硫酸水溶液は、ペルオキソ二硫酸ナトリウムの水溶液を、陽イオン交換樹脂(BAYER製LewatitS100H;以下、S100Hと記載)を用いイオン交換処理を行うことにより調製した。
【0058】
5.コーティング剤の塗布および乾燥方法
基材としてガラス板(JIS R3202)を用いた。実施例または比較例で得られるコーティング剤を固形分0.90%となるよう希釈し、ワイヤーバー[No.8(形成される乾燥膜厚0.11μm)]で塗布し、100℃で3分間送風することにより塗膜を乾燥させて、薄膜を有する被膜基材を得た。
【0059】
6.基材表面の薄膜の評価
6.1 表面抵抗率は、JIS K6911に従い「三菱化学(株)製ロレスターGP(MCP−T600)を用いて測定した。
【0060】
6.2 全光線透過率およびヘイズ値は、JIS K7150に従い、スガ試験機(株)製ヘイズコンピュータHGM−2Bを用いて測定した。なお、未処理のガラス板(JIS R−3202)の全光線透過率は90.6%であり、ヘイズ値は0.1%である。
【0061】
(実施例1.1)
日本エヌエスシー(株)のポリスチレンスルホン酸9X401を、ミリポア社製Biomax−100を用いて限外濾過した後、陽イオン交換を行い、脱塩水で希釈することにより、ポリスチレンスルホン酸(重量平均分子量253,000;スルホン化率90%)24.7部を含む1,887部の水溶液を得た。この水溶液に、49部の1%硫酸鉄(III)水溶液、30部の濃硝酸、および8.8部の3,4−エチレンジオキシチオフェンを加えて攪拌し、反応系内の温度を10℃に保ったまま、121部の10.9%のペルオキソ二硫酸水溶液(ペルオキソ二硫酸ナトリウムの15%水溶液と、1.2質量倍のS100Hを混合し、ろ過を行うことにより得られた)を6時間かけて滴下した。ペルオキソ二硫酸水溶液添加後の反応液中のナトリウムイオン濃度は430ppmであった。滴下終了後、10℃で23時間攪拌した。次いで、この反応液に、154部の陽イオン交換樹脂および232部の陰イオン交換樹脂を加えて、2時間攪拌した後、イオン交換樹脂をろ別して、ポリ(3,4−エチレンジオキシチオフェン)とポリスチレンスルホン酸との複合体の水分散体(2,033部:固形分1.30%)を得た。
【0062】
(実施例1.2)
日本エヌエスシー(株)のポリスチレンスルホン酸9X401を、ミリポア社製Biomax−100を用いて限外濾過した後、陽イオン交換を行い、脱塩水で希釈することにより、ポリスチレンスルホン酸(重量平均分子量253,000;スルホン化率90%)24.7部を含む1,887部の水溶液を得た。この水溶液に、49部の1%硫酸鉄(III)水溶液、30部の濃硝酸、および8.8部の3,4−エチレンジオキシチオフェンを加え攪拌し、反応系内の温度を10℃に保ったまま、121部の10.9%のペルオキソ二硫酸水溶液(ペルオキソ二硫酸ナトリウムの15%水溶液を、4.0質量倍のS100Hを詰めたカラムに通すことにより得られた)を18時間かけて滴下した。ペルオキソ二硫酸水溶液添加後の反応液中のナトリウムイオン濃度は1ppmであった。滴下終了後、10℃で11時間攪拌した。次いで、この反応液に、154部の陽イオン交換樹脂および232部の陰イオン交換樹脂を加えて、2時間攪拌した後、イオン交換樹脂をろ別して、ポリ(3,4−エチレンジオキシチオフェン)とポリスチレンスルホン酸との複合体の水分散体(2,033部:固形分1.30%)を得た。
【0063】
(
比較例1.3)
日本エヌエスシー(株)のVERSA−TL125を、ミリポア社製Biomax−100を用いて限外濾過した後、陽イオン交換を行い、脱塩水で希釈することにより、ポリスチレンスルホン酸(重量平均分子量125,000;スルホン化率100%)24.7部を含む1,887部の水溶液を得た。この水溶液に、49部の1%硫酸鉄(III)水溶液、30部の濃硝酸、および8.8部の3,4−エチレンジオキシチオフェンを加えて攪拌し、さらに、121部の10.9%のペルオキソ二硫酸水溶液(ペルオキソ二硫酸ナトリウムの15%水溶液を、2.0質量倍のS100Hを詰めたカラムに通すことにより得られた)を一度に加え攪拌した。ペルオキソ二硫酸水溶液添加後の反応液中のナトリウムイオン濃度は13ppmであり、その他のアルカリ金属イオンは検出されなかった。反応系内の温度を18℃に保ったまま17時間攪拌した。次いで、この反応液に、154部の陽イオン交換樹脂および232部の陰イオン交換樹脂を加えて、2時間攪拌した後、イオン交換樹脂をろ別して、ポリ(3,4−エチレンジオキシチオフェン)とポリスチレンスルホン酸との複合体の水分散体(2,033部:固形分1.30%)を得た。
【0064】
(実施例1.4)
日本エヌエスシー(株)のVERSA−TL125を、ミリポア社製Biomax−100を用いて限外濾過した後、陽イオン交換を行い、脱塩水で希釈することにより、ポリスチレンスルホン酸(重量平均分子量125,000;スルホン化率100%)24.7部を含む1,887部の水溶液を得た。この水溶液に、49部の1%硫酸鉄(III)水溶液、30部の濃硝酸、および8.8部の3,4−エチレンジオキシチオフェンを加えて攪拌し、反応系内の温度を18℃に保ったまま、121部の10.9%のペルオキソ二硫酸水溶液(ペルオキソ二硫酸ナトリウムの15%水溶液を、1.2質量倍のS100Hを詰めたカラムに通すことにより得られた)を6時間かけて滴下した。ペルオキソ二硫酸水溶液添加後の反応液中のナトリウムイオン濃度は169ppmであり、その他のアルカリ金属イオンは検出されなかった。滴下終了後、18℃で17時間攪拌した。次いで、この反応液に、154部の陽イオン交換樹脂および232部の陰イオン交換樹脂を加えて、2時間攪拌した後、イオン交換樹脂をろ別して、ポリ(3,4−エチレンジオキシチオフェン)とポリスチレンスルホン酸との複合体の水分散体(2,033部:固形分1.30%)を得た。
【0065】
(比較例1.1)
日本エヌエスシー(株)のポリスチレンスルホン酸9X401を、ミリポア社製Biomax−100を用いて限外濾過した後、陽イオン交換を行い、脱塩水で希釈することにより、ポリスチレンスルホン酸(重量平均分子量253,000;スルホン化率90%)24.7部を含む1,887部の水溶液を得た。この水溶液に、49部の1%硫酸鉄(III)水溶液、30部の濃硝酸、および8.8部の3,4−エチレンジオキシチオフェンを加え、さらに、121部の10.9%のペルオキソ二硫酸水溶液(ペルオキソ二硫酸ナトリウムの15%水溶液と、0.7質量倍のS100Hを混合し、ろ過を行うことにより得られた)を一度に加え攪拌した。反応液中のナトリウムイオン濃度は802ppmであり、その他のアルカリ金属イオンは検出されなかった。反応系中を10℃に保ったまま29時間攪拌した。次いで、この反応液に、154部の陽イオン交換樹脂および232部の陰イオン交換樹脂を加えて、2時間攪拌した後、イオン交換樹脂をろ別して、ポリ(3,4−エチレンジオキシチオフェン)とポリスチレンスルホン酸との複合体の水分散体(2,033部:固形分1.30%)を得た。
【0066】
(比較例1.2)
日本エヌエスシー(株)のVERSA−TL125を、ミリポア社製Biomax−100を用いて限外濾過した後、陽イオン交換を行い、脱塩水で希釈することにより、ポリスチレンスルホン酸(重量平均分子量125,000;スルホン化率100%)24.7部を含む1,887部の水溶液を得た。この水溶液に、49部の1%硫酸鉄(III)水溶液、30部の濃硝酸、および8.8部の3,4−エチレンジオキシチオフェンを加え、さらに、121部の10.9%のペルオキソ二硫酸水溶液(ペルオキソ二硫酸ナトリウムの15%水溶液と、1.2質量倍のS100Hを混合し、ろ過を行うことにより得られた)を一度に加え攪拌した。反応液中のナトリウムイオン濃度は448ppmであり、その他のアルカリ金属イオンは検出されなかった。反応系内の温度を18℃に保ったまま23時間攪拌した。次いで、この反応液に、154部の陽イオン交換樹脂および232部の陰イオン交換樹脂を加えて、2時間攪拌した後、イオン交換樹脂をろ別して、ポリ(3,4−エチレンジオキシチオフェン)とポリスチレンスルホン酸との複合体の水分散体(2,033部:固形分1.30%)を得た。
【0067】
(実施例2.1)
実施例1.1で得られた複合体の水分散体100部に、25部の変性エタノールおよび25部の脱塩水を加え、10分間攪拌して、150部のコーティング剤を得た。得られたコーティング剤を、乾燥膜厚0.11μmとなるようガラス板に塗布し、次いで、それを乾燥させて薄膜被覆基材を得た。得られた基材表面の薄膜の全光線透過率、ヘイズ値、および表面抵抗率を測定した。その結果を表1に示す。後述の実施例2,2〜2.4および比較例1.1〜1.2の結果も併せて表1に示す。
【0068】
(実施例2.2
および2.4
、ならびに比較例2.3)
実施例1.1で得られた水分散体の代わりに、それぞれ実施例1.2
および1.4
、ならびに比較例1.3で得られた水分散体を用いたこと以外は、実施例2.1と同様に行ってそれぞれ150部のコーティング剤を得た。このコーティング剤を用いて実施例2.1と同様に薄膜を形成し、同様の測定を行った。
【0069】
(比較例2.1〜2.2)
実施例1.1で得られた水分散体の代わりに、それぞれ比較例1.1〜1.2で得られた水分散体を用いたこと以外は、実施例2.1と同様に行ってそれぞれ150部のコーティング剤を得た。このコーティング剤を用いて実施例2.1と同様に薄膜を形成し、同様の測定を行った。
【0070】
【表1】
【0071】
表1の実施例2.1、2.2および2.4と、比較例2.1および2.2との結果を比較すると、酸化剤溶液を滴下し、重合反応を行って得られた複合体を含有する水分散体に由来する薄膜の表面抵抗率は、酸化剤を一度に添加して得られた複合体の水分散体に由来する薄膜に比べて、低い値を示す。このように、酸化剤溶液を滴下により添加することにより得られた水分散体を用いると、高い導電性を有する薄膜が得られることがわかる。
【0072】
さらに、全光線透過率およびヘイズ値についても、前者の方が全光線透過率の値が高く、ヘイズ値が低い値となっている。従って、上記方法により得られる水分散体を用いると、透明性および導電性に優れた薄膜を得られることがわかる。
【0073】
表1の
比較例2.3と、比較例2.1および2.2との結果を参照すると、反応液中のアルカリ金属イオン濃度を400ppm以下とした場合に得られる複合体の水分散体に由来する薄膜の表面抵抗率は、アルカリ金属イオン濃度が400ppmを超える場合に得られる複合体の水分散体に由来する薄膜の表面抵抗率と比較して、低い値を示す。このように、反応液中のアルカリ金属イオン濃度が低いほど、得られる水分散体を用いた場合に、高い導電性を有する薄膜を調製することが可能である。
【0074】
さらに、全光線透過率およびヘイズ値についても、前者の方が全光線透過率の値が高く、ヘイズ値が低い値となっており、この方法により、透明性および導電性に優れた薄膜が得られることがわかる。
【産業上の利用可能性】
【0075】
本発明の方法により、ポリ(3,4−ジアルコキシチオフェン)とポリ陰イオンとの複合体の水分散体が容易に製造される。得られた複合体を含む水分散体は、各種基材上に薄膜を形成するのに好適に用いられる。得られる薄膜は、透明性と導電性とに優れるため、エレクトロルミネッセンスパネルの表面電極、液晶ディスプレイの画素電極、コンデンサーの電極、タッチパネルの透明電極、メンブレンスイッチの透明電極、電子ペーパーの透明電極などの各種透明電極、ブラウン管ディスプレイの電磁遮蔽、液晶ディスプレイやパチンコ台などのノイズカットのための電磁波シールド、調光ガラス、有機TFTの電極などに好適に用いられる。得られる薄膜は可撓性を有することから、プラスチックフィルム用の透明導電膜として特に有用である。