特許第5719161号(P5719161)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5719161
(24)【登録日】2015年3月27日
(45)【発行日】2015年5月13日
(54)【発明の名称】ピストン体
(51)【国際特許分類】
   F16F 9/32 20060101AFI20150423BHJP
   F16J 1/06 20060101ALI20150423BHJP
【FI】
   F16F9/32 L
   F16J1/06
【請求項の数】2
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2010-279261(P2010-279261)
(22)【出願日】2010年12月15日
(65)【公開番号】特開2012-127414(P2012-127414A)
(43)【公開日】2012年7月5日
【審査請求日】2013年6月25日
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000000929
【氏名又は名称】カヤバ工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100067367
【弁理士】
【氏名又は名称】天野 泉
(74)【代理人】
【識別番号】100122323
【弁理士】
【氏名又は名称】石川 憲
(72)【発明者】
【氏名】石丸 健太
(72)【発明者】
【氏名】小松 誠一郎
(72)【発明者】
【氏名】古田 雄亮
【審査官】 杉▲崎▼ 覚
(56)【参考文献】
【文献】 特開2009−257571(JP,A)
【文献】 特開2008−303927(JP,A)
【文献】 実開平05−083920(JP,U)
【文献】 国際公開第2012/116190(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16F 9/00− 9/54
F16J 1/00− 1/24
F16J 7/00−10/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
軸芯部に開穿されてピストンロッド体の先端取付部を貫通させるロッド貫通孔と、前記ロッド貫通孔の外周側部に開穿されて作動流体の通過を許容する流路とを有する一方の分割ピストン体および他方の分割ピストン体を備え、前記一方の分割ピストン体および前記他方の分割ピストン体は、互いに対向する端面を積層面にして互いに積層されるときに互いに前記流路の位置を合わせて前記一方の分割ピストン体および前記他方の分割ピストン体における作動流体の通過を許容するピストン体において、
前記一方の分割ピストン体は、円板状に形成の本体部と、前記本体部の外周側部に円筒状に突出形成されて内側を収容凹部にするガイド部とを有するように形成され、
前記他方の分割ピストン体は、前記一方の分割ピストン体における前記ガイド部の内側たる前記収容凹部に収装される円板状に形成され、
前記一方の分割ピストン体および前記他方の分割ピストン体の前記積層面における前記ロッド貫通孔と前記流路との間には、前記一方の分割ピストン体と前記他方の分割ピストン体との相互間における周方向の位置決め手段が設けられており、
前記位置決め手段は、円周方向に延びて互いに噛合可能な凸部あるいは凹部を有し、
前記凸部あるいは前記凹部は、前記ピストンロッド体の軸芯と交差する方向に傾斜する傾斜面と、前記ピストンロッド体の軸芯に平行な垂直面とをそれぞれ有する鋸刃状に形成され、
前記位置決め手段を構成する前記凸部は、前記一方の分割ピストン体に形成され、
前記位置決め手段を構成する前記凹部は、前記他方の分割ピストン体に形成される
ことを特徴とするピストン体。
【請求項2】
前記位置決め手段を構成する前記凸部あるいは凹部の数は、前記流路の数と同一もしくは1/2であることを特徴とする請求項1に記載のピストン体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、ピストン体に関し、特に、分割ピストン体を積層結合してなるピストン体の改良に関する。
【背景技術】
【0002】
凡そ、筒型の油圧緩衝器におけるシリンダ体内に収装のピストン部を構成するピストン体にあっては、軸芯部にピストンロッド体における先端取付部を貫通させるためのロッド貫通孔が設けられ、このロッド貫通孔の外周側部にピストン体を両端面から貫通する複数の流路、すなわち、伸側および圧側の各流路が設けられる。
【0003】
ところで、ピストン体が両端面に減衰要素としての、たとえば、環状に形成のリーフバルブを隣接させる場合に、ピストン体に設けられる伸側および圧側の各流路がピストン体にいわゆる斜めに開穿されることがある。
【0004】
この斜めの流路をピストン体に設けるのに際しては、多くの場合に、いわゆる型利用ではなく、ドリルを利用する孔加工によるが、そのため、ピストン体における部品コストの低減化を図り辛くする。
【0005】
一方、単筒型の油圧緩衝器にあっては、伸側および圧側の流量をできるだけ多くする、すなわち、減衰要素たる環状のリーフバルブにおける受圧面積をできるだけ大きくすることが望ましいと認知されている。
【0006】
そこで、たとえば、特許文献1に開示されているように、ピストン体が言わば二分割された分割ピストン体を積層結合してなるとし、各分割ピストン体にあって、型利用による流路の形成を容易にする、すなわち、分割ピストン体を積層結合したピストン体にあって、いわゆる斜めとなる流路の形成を容易にする提案がある。
【0007】
そして、この提案による場合には、環状のリーフバルブに対向する端面に形成されて環状のリーフバルブを着座させるバルブシート部を環状に形成することが可能になり、環状のリーフバルブにおける受圧面積をできるだけ大きくし得ることになる。
【0008】
その結果、この特許文献1に開示の提案による場合には、単筒型の油圧緩衝器におけるシリンダ体内に収装のピストン部を構成するピストン体への利用に最適となる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特許第4352390号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかしながら、上記した特許文献1に開示の提案にあっては、単筒型の油圧緩衝器におけるシリンダ体内に収装のピストン部を構成するピストン体への利用に最適となる点で、基本的に問題がある訳ではないが、その実施を勘案すると、些かの不具合があると指摘される可能性がある。
【0011】
すなわち、上記の提案によるピストン体にあっては、一方の分割ピストン体と他方の分割ピストン体との積層結合が双方の分割ピストン体に形成の円弧状の嵌合凹部と円弧状の嵌合凸部との圧入嵌合によるとしている。
【0012】
そのため、二つの分割ピストン体を積層結合した際の双方間におけるガタ発生、特に、双方間における周方向のガタ発生の防止ために高度な精度が要求され、部品コストの低減化を図り辛くすると共に、確実な位置合せ作業が必須になり、ピストン体の組立作業を手間取らせ、たとえば、機械利用による自動組立に適さないことが懸念される。
【0013】
この発明は、上記した事情を鑑みて創案されたもので、その目的とするところは、分割ピストン体を積層結合してなるピストン体にあって、部品コストの低減化と組立作業の迅速化を可能にするピストン体を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0014】
上記した目的を達成するために、本発明の課題解決手段は、軸芯部に開穿されてピストンロッド体の先端取付部を貫通させるロッド貫通孔と、前記ロッド貫通孔の外周側部に開穿されて作動流体の通過を許容する流路とを有する一方の分割ピストン体および他方の分割ピストン体を備え、前記一方の分割ピストン体および前記他方の分割ピストン体は、互いに対向する端面を積層面にして互いに積層されるときに互いに前記流路の位置を合わせて前記一方の分割ピストン体および前記他方の分割ピストン体における作動流体の通過を許容するピストン体において、前記一方の分割ピストン体は、円板状に形成の本体部と、前記本体部の外周側部に円筒状に突出形成されて内側を収容凹部にするガイド部とを有するように形成され、前記他方の分割ピストン体は、前記一方の分割ピストン体における前記ガイド部の内側たる前記収容凹部に収装される円板状に形成され、前記一方の分割ピストン体および前記他方の分割ピストン体の前記積層面における前記ロッド貫通孔と前記流路との間には、前記一方の分割ピストン体と前記他方の分割ピストン体との相互間における周方向の位置決め手段が設けられており、前記位置決め手段は、円周方向に延びて互いに噛合可能な凸部あるいは凹部を有し、前記凸部あるいは前記凹部は、前記ピストンロッド体の軸芯と交差する方向に傾斜する傾斜面と、前記ピストンロッド体の軸芯に平行な垂直面とをそれぞれ有する鋸刃状に形成され、前記位置決め手段を構成する前記凸部は、前記一方の分割ピストン体に形成され、前記位置決め手段を構成する前記凹部は、前記他方の分割ピストン体に形成されることを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0015】
各請求項の発明によれば、他方の分割ピストン体に対して一方の分割ピストン体がネジの捩じ込み方向に回動されるとき、凹部における垂直面に凸部における垂直面が突き当るようになって、他方の分割ピストン体に対する一方の分割ピストン体の回動が阻止される。すなわち、双方の分割ピストン体は、それぞれ垂直面に連続する傾斜面を有してなるから、それぞれの傾斜面が合わさるとき、位置決めが不十分であっても、一方を回動させることで、あるいは、加振することで、自重作用による相互間における周方向の位置決めを簡単に実現できる。したがって、この発明によれば、分割ピストン体を積層結合してなるピストン体にあって、部品コストの低減化と組立作業の迅速化を可能にし得ると共に、その取り扱い性や搬送性を良くすることになる。また、他方の分割ピストン体に凹部が形成され、一方の分割ピストン体に凸部が形成されるので、凸部をガイド部で保護できる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】この発明の一実施形態によるピストン体を示す縦断面図である。
図2図1のピストン体を上下方向に分離した状態を図1と同様に示す図である。
図3】位置決め手段を構成する凸部および凹部を示す展開図で、(A)は、鋸刃状に形成された状態を示し、(B)は、連続する山形状に形成された状態を示し、(C)は、波形状に形成された状態を示す。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下に、図示した実施形態に基づいて、この発明を説明するが、この発明によるピストン体は、図示しないが、モノチューブタイプのショックアブソーバ、すなわち、単筒型の油圧緩衝器におけるシリンダ体内に摺動可能に収装のピストン部を構成する。
【0018】
そして、このピストン体は、同じく図示しないが、シリンダ体内に摺動可能に収装されてシリンダ体内にピストンロッド体を軸芯部に挿通させるロッド側室と、ピストン体を挟んで反対側となるピストン側室とを画成する。
【0019】
そしてまた、このピストン体は、図1に示すように、軸芯部にピストンロッド体の先端取付部(図示せず)を貫通させるロッド貫通孔aを有すると共に、このロッド貫通孔aの外周側部に開穿されて作動流体の通過を許容する伸側の流路bと圧側の流路cとを有する。
【0020】
このとき、伸側の流路bは、図1中でピストン体の上方に位置決めされる上記のロッド側室の図1中でピストン体の下方に位置決めされる上記のピストン側室への連通を許容し、圧側の流路cは、反対に、上記のピストン側室の上記のロッド側室への連通を許容する。
【0021】
そして、このピストン体にあっては、上記の各流路b,cの下流側端を開口させる図中で上下となる端面(符示せず)に、すなわち、後述する図中で上方部材となる他方の分割ピストン体2における上端面および図中で下方部材となる一方の分割ピストン体1における下端面に図示しない減衰要素としての環状に形成のリーフバルブを隣接させる。
【0022】
そのため、このピストン体は、上端面、つまり、他方の分割ピストン体2における上端面に環状のリーフバルブを離脱可能に着座させる環状に形成のバルブシート部を有し、また、下端面、つまり、一方の分割ピストン体1における下端面に環状のリーフバルブを離脱可能に着座させる環状に形成のバルブシート部を有する。
【0023】
ちなみに、このバルブシート部d,eは、図示するところでは、ピストン体2にあってロッド貫通孔aを形成させるボス部f,gに対して、若干の高低差、たとえば、0.1mm単位の高低差を有し、内周端固定の態様に配設される環状のリーフバルブにあって、このバルブシート部d,eに着座する外周端部に撓み荷重たる初期荷重が付与されるが、この高低差が出現されないとしても良いことはもちろんである。
【0024】
なお、環状のリーフバルブにおける外周端部に初期荷重を付与することを鑑みると、上記した環状のバルブシート部d,eは、環状のリーフバルブに対する受圧面積をより大きく設定する上からも、花十字状に形成されるよりも、環状に形成されるのが良い。
【0025】
また、上記のピストン体を摺動可能に収装させるシリンダ体は、上記のピストン側室に摺動可能に収装されて背後側にガス室を画成する、たとえば、円板状に形成のフリーピストンを有し、ピストンロッド体を有するピストン体がシリンダ体内を摺動するときのロッド側室およびピストン側室における体積差をフリーピストンの摺動で補うと共にフリーピストンの摺動時にフリーピストンの背後側のガス室における膨縮で所定のバネ力を発生する。
【0026】
ところで、この発明によるピストン体は、図1に示すように、互いに積層される一方の分割ピストン体1と他方の分割ピストン体2とを有し、この双方の分割ピストン体1,2が積層結合されて、上記したシリンダ体内に収装のピストン部を構成するピストン体とされる。
【0027】
このとき、この発明にあって、一方の分割ピストン体1は、円板状に形成の本体部11を有すると共にこの本体部11の外周側部に円筒状に突出形成されて内側を収容凹部12(図2参照)にするガイド部13を有し、他方の分割ピストン体2は、一方の分割ピストン体1におけるガイド部13の内側たる収容凹部12に収装される円板状に形成される。
【0028】
このことから、図示するピストン体にあって、双方の分割ピストン体1,2を積層結合するのに際しては、一方の分割ピストン体1におけるガイド部13の内側たる収容凹部12に他方の分割ピストン体2を収装させることが可能になる。
【0029】
これにより、双方の分割ピストン体1,2の積層結合に際して、双方の分割ピストン体1,2における径方向となる相対移動を阻止し得ることになり、双方の分割ピストン体1,2間における径方向のガタ発生を効果的に阻止し得ると共に、爾後の双方の分割ピストン体1,2を結合する作業に迅速に移行できる。
【0030】
特に、この発明にあっては、後述するように、一方の分割ピストン体1と他方の分割ピストン体2との間に位置決め手段4を有してなるが、この位置決め手段4において、一方の分割ピストン体1と他方の分割ピストン体2との間における径方向に相対移動を阻止する構成を有しなくて済む利点がある。
【0031】
すなわち、この発明にあって、位置決め手段4は、一方の分割ピストン体1と他方の分割ピストン体2との間における相互間の自重作用で相互間における周方向の位置決めを実現するから、その構成を簡素化できる。
【0032】
なお、一方の分割ピストン体1は、ガイド部13の外周にピストンリング3を巻装させ、このピストンリング3は、図示しないが、外周が油圧緩衝器を構成するシリンダ体の内周に摺接して、ピストン体のシリンダ体に対する摺動性を保障すると共に、シリンダ体内における前記したロッド側室とピストン側室との液密状態での画成を実現する。
【0033】
一方、この発明にあって、一方の分割ピストン体1と他方の分割ピストン体2との積層結合は、爾後にシリンダ体内に出没可能に挿通されるピストンロッド体の先端取付部(図示せず)にこのピストン体が連結されるときに実施される。
【0034】
すなわち、分割ピストン体を積層結合してなるピストン体をピストンロッド体の先端取付部に連結する際には、前記した特許文献1に開示の提案にもあるように、従来は、先ず、分割ピストン体を積層結合して部品としてのピストン体を完成させることが先決となる。
【0035】
それに対して、この発明にあっては、先ずは、ピストンロッド体の先端取付部に、たとえば、他方の分割ピストン体2を導通させ、その後に、この他方の分割ピストン体2に一方の分割ピストン体1を被せるように、すなわち、積層するように一方の分割ピストン体1をピストンロッド体の先端取付部に導通する。
【0036】
つまり、分割ピストン体を積層結合してなるピストン体をピストンロッド体の先端取付部に連結するのに際して、この発明にあっては、分割ピストン体をあらかじめ積層結合して一体化しておくことを要求しない。
【0037】
このことから、この発明のピストン体にあっては、このピストン体を構成する双方の分割ピストン体1,2を分割状態のまま取り扱うことを可能にし、したがって、部品としての取り扱いを容易にすると共に、事前に積層結合されて一体化されないから、圧入などで積層結合された状態のピストン体の搬送中に双方の分割ピストン体1,2が分離する不具合の招来を危惧しなくて済む。ちなみに、この発明にあっては、双方の分割ピストン体1,2を適宜の手段の利用であらかじめ一体化しておくことを妨げるものではない
次に、この発明によるピストン体にあって、一方の分割ピストン体1および他方の分割ピストン体2は、図2に示すように、軸芯部に開穿されてピストンロッド体の先端取付部を挿通させるロッド貫通孔1a,2aと、このロッド貫通孔1a,2aの外周側部に開穿されて作動流体の通過を許容する流路1b,2bおよび1c,2cとを有する。
【0038】
そして、この発明によるピストン体にあっては、双方の分割ピストン体1,2が互いに対向する平坦面からなる端面を積層面1d,2dにし、この積層面1d,2dを合わせるようにして、双方の分割ピストン体1,2が互いに積層されて一体化されるときに、上記のロッド貫通孔1a,2aが互いに位置が合わされて、上記のピストン体におけるロッド貫通孔aが出現する(図1参照)。
【0039】
そして、この発明によるピストン体にあっては、積層面1d,2dを介して双方の分割ピストン体1,2が互いに積層されて一体化されるときに、上記の流路1bと上記の流路2bとが互いに位置合わされて、上記のピストン体における伸側の流路b(図1参照)が出現する。
【0040】
さらに、この発明によるピストン体にあっては、積層面1d,2dを介して双方の分割ピストン体1,2が互いに積層されて一体化されるときに、上記の流路1cと上記の流路2cとが互いに位置合わせされて、上記のピストン体における圧側の流路c(図1参照)が出現する。
【0041】
それゆえ、この発明によるピストン体にあっては、積層面1d,2dを介して双方の分割ピストン体1,2が互いに積層されて一体化されることで、ピストンロッド体における先端取付部への連結が可能とされると共に、双方の分割ピストン体1,2における作動流体の通過、すなわち、ピストン体における作動流体の通過を許容する。
【0042】
このとき、この発明によるピストン体にあっては、上記の積層面1d,2dが平坦に形成されることもあって、一方の分割ピストン体1と他方の分割ピストン体2とが積層結合されるとき、図示しないが、たとえば、ピストンナットのピストンロッド体における先端螺条部に対する螺合の際の締め付け力が双方の分割ピストン体1,2を積層結合する際の軸力となって双方の分割ピストン体1,2を確実に密着させる。
【0043】
以上のようにしてピストン体、すなわち、双方の分割ピストン体1,2が形成されるときに、この発明にあっては、一方の分割ピストン体1と他方の分割ピストン体2とからなる双方の分割ピストン体1,2が互いに対向する端面たる積層面1d,2dに位置決め手段4を設け、この位置決め手段4が双方の分割ピストン体1,2を積層結合する際に、双方の分割ピストン体1,2間における相互間の位置決めを実現できる。
【0044】
すなわち、一方の分割ピストン体1において、前記したロッド貫通孔1aと前記した流路1b,1cとの間となる前記した積層面1dに、詳しくは図示しないが、位置決め手段4を構成する位置決め構造4aを有してなる。
【0045】
そして、他方の分割ピストン体2において、前記したロッド貫通孔2aと前記した流路2b,2cとの間となる前記した積層面2dに、詳しくは図示しないが、位置決め手段4を構成する位置決め構造4bを有してなる。
【0046】
そこで、以下に、位置決め手段4、すなわち、位置決め構造4aおよび位置決め構造4bについて説明するが、この位置決め構造4aおよび位置決め構造4bは、基本的には、上記した双方の分割ピストン体1,2間におけるいわゆる凹部と凸部、すなわち、上記の積層面1d,2dにおいて円周方向に周回形成される凹部と凸部とを有する凹凸構造からなる。
【0047】
つまり、位置決め手段4は、上記積層面1d,2dにおいて円周方向に延びて互いに噛合可能とされる凸部あるいは凹部もしくは凹凸部を有し、凸部および凹部が山形状もしくは波形状に形成されてなる。
【0048】
そして、図3は、位置決め手段4、すなわち、位置決め構造4aおよび位置決め構造4bを展開して示すが、この位置決め構造4a,4bは、上記の積層面1d,2d(図2参照)においてロッド貫通孔1a,2aを周回する円周方向に延びて互いに噛合可能とされる凸部41あるいは凹部42を有する。
【0049】
ちなみに、凸部41を有する位置決め構造4aにあって、各凸部41の間がいわゆる凹部になり、また、凹部42を有する位置決め構造4bにあって、各凹部42の間がいわゆる凸部になるが、この発明の説明においては、位置決め構造4aが凸部41を有し、位置決め構造4bが凹部42を有する。
【0050】
なお、位置決め構造4a,4bにあって、凸部41間の凹部には対向する凹部42間の凸部が位置を合わせ、凹部42間の凸部には対向する凸部41間の凹部が位置を合わせるから、このことからすると、凸部41と凹部42は、図3(A)乃至図3(C)に示すように、その正面形状が同一となるように形成される。ちなみに、同一と言っても、いわゆる完全同一を言うものでなく、双方間に多少の角度差があっても良いことはもちろんである。
【0051】
以下に説明すると、図3(A)に示すところは、位置決め手段4、つまり、各位置決め構造4a,4bを構成する凸部41および凹部42が、正面形状において、鋸刃状に形成される。
【0052】
ちなみに、鋸刃形状は、垂直線と稜線とで形成され、山形形状は、左右の稜線で形成されるが、この発明において、鋸刃状の凸部および凹部については、これが山形状の凸部および凹部に含まれるとしても良い。
【0053】
そして、図3(B)に示すところでは、各位置決め構造4a,4bを構成する凸部41および凹部42が、正面形状において、山形状に形成され、図3(C)に示すところでは、各位置決め構造4a,4bを構成する凸部41および凹部42が、正面形状において、波形状に形成される。
【0054】
先ず、各位置決め構造4a,4bを構成する凸部41および凹部42が、図3(A)に示すように、正面形状において、鋸刃状に形成されるとき、この凸部41および凹部42がピストンロッド体の軸心と交差する方向に傾斜する傾斜面41a,42aと、ピストンロッド体の軸心と平行な垂直面41b,42bとを有して形成されるから、たとえば、図中に矢印で示すように、他方の分割ピストン体2に対して一方の分割ピストン体1がネジの捩じ込み方向に回動されるとき、凹部42における垂直面42bに凸部41における垂直面41bが突き当るようになって、他方の分割ピストン体2に対する一方の分割ピストン体1の回動が阻止される。
【0055】
このことからすると、図示しないが、他方の分割ピストン体2が下方にいわゆる静止状態に位置決めされている状態で、この他方の分割ピストン体2に対して上方から一方の分割ピストン体1を積層する場合には、鋸刃状に形成される凸部41および凹部42が互いに噛合して双方の分割ピストン体1,2間における周方向の位置決めが実現されて、相対回動が阻止される。
【0056】
すなわち、双方の分割ピストン体1,2は、それぞれ垂直面41b,42bに連続する傾斜面41a,42aを有してなるから、それぞれの傾斜面41a,42aが合わさるとき、位置決めが不十分であっても、一方を回動させることで、あるいは、加振することで、自重作用による相互間における周方向の位置決めを簡単に実現できる。
【0057】
つまり、双方の分割ピストン体1,2間において、自重作用で凸部41および凹部42の噛合が可能になり、双方の分割ピストン体1,2間における周方向の位置決めが実現された状態での積層結合が容易に可能になる。
【0058】
このとき、双方の分割ピストン体1,2間に設けられる位置決め手段4が上記積層面1d,2dにおいて円周方向に延びて互いに噛合可能とされる凸部41あるいは凹部42を有し、凸部41および凹部42が山形状もしくは波形状に形成されてなるとするから、双方の分割ピストン体1,2における自重作用で凸部41と凹部42との噛合、つまり、相互間の位置決めを実現できる。
【0059】
そしてまた、この発明にあっては、凸部41と凹部42とが噛合するときに双方の分割ピストン体1,2間の相対回動が阻止されるから、図示しないが、たとえば、ピストンナットを利用して双方の分割ピストン体1,2をピストンロッド体の先端取付部に連結する作業に際して、ピストンロッド体の先端取付部に1導通された一方の分割ピストン体に対して他方の分割ピストン体2を積層するようにして結合することで足りる。
【0060】
そして、この発明にあっては、双方の分割ピストン体を分割状態のまま取り扱えるから、ピストンロッド体の先端取付部にピストン体を連結させる以前に、双方の分割ピストン体1,2を積層結合して一体化しておく必要がないく、搬送する場合も含めて部品としての取り扱いを容易にする。
【0061】
また、双方の分割ピストン体1,2を積層させてピストン体とするので、ネジの捩じ込み方向となるピストンナットのピストンロッド体の先端取付部への捩じ込みの際に、一方の分割ピストン体1を他方の分割ピストン体2に対して回動し得ることになり、上記の垂直面41b,42b同士の当接で双方の分割ピストン体1,2における相対回動を阻止でき、一方の分割ピストン体1および他方の分割ピストン体2からなるピストン体のピストンロッド体の先端取付部への連結作業を確実にする。
【0062】
そしてさらに、この発明にあっては、双方の分割ピストン体1,2において、位置決め手段4を構成する位置決め構造4a,4bが軸芯部に形成のロッド貫通孔1a,2aとこのロッド貫通孔1a,2aの外周側部に形成の流路1b,1cおよび2b,2cとの間となる積層面1d,2dに設けられるから、この位置決め構造4a,4bが上記の流路1b,1cおよび2b,2cの外周側部に、つまり、双方の分割ピストン体1,2の外周側部に設けられる場合に比較して、減衰要素たるリーフバルブを着座させるための環状に形成されるバルブシート部d,eにおける有効径を減少させない。
【0063】
ところで、双方の分割ピストン体1,2は、上記の流路1b,1cおよび2b,2cを有し、この流路1b,1cおよび2b,2cは、双方の分割ピストン体1,2が位置決め手段4を介して積層結合されるとき、ピストン体における伸側の流路bおよび圧側の流路cになる。
【0064】
このことからすると、位置決め手段4によって、双方の分割ピストン体1,2がいわゆる一体化される場合、すなわち、積層結合される場合には、双方の分割ピストン体1,2間でどのような回転位置状態にあっても、確実に伸側の流路bおよび圧側の流路cが出現されることが肝要となる。
【0065】
そこで、この発明にあっては、基本的には、上記した凸部41および凹部42の数が上記の伸側の流路bおよび圧側の流路cの数と同一になる、すなわち、流路b,cがたとえば、偶数の6本となるとき、凸部41および凹部42の数が同じ6個となるか、あるいは、その1/2の3個となるかに設定されるとする。
【0066】
ちなみに、流路b,cの数が、たとえば、奇数の5本となるときには、凸部41および凹部42の数は、同じ5個となるように設定されるのを基本とする。
【0067】
上記したところでは、位置決め手段4、すなわち、位置決め構造4aを構成する凸部41が一方の分割ピストン体1に形成されると共に、位置決め構造4bを構成する凹部42が他方の分割ピストン体2に形成されるが、この位置決め構造4a,4bが機能するところからすると、図示しないが、逆に、一方の分割ピストン体1が凹部を有し、他方の分割ピストン体2が凸部を有しても良い。
【0068】
ただ、図示する実施形態のように、他方の分割ピストン体2に凹部42が形成され、一方の分割ピストン体1に凸部41が形成される場合には、以下の点で有利となる。
【0069】
つまり、円板状に形成される他方の分割ピストン体2においては、上下端面、すなわち、特に、位置決め構造4bを構成する凹部42を有する端面たる積層面2dがいわゆる剥き出し状態になるので、この剥き出し状態にある積層面2dに凸部を形成する場合には、この凸部が他部にぶつかって、欠損したり変形したりする不具合が招来される危惧があるのに対して、凹部42が積層面2dから突出しない点で、上記の欠損や変形を危惧しなくて済む。
【0070】
それに対して、一方の分割ピストン体1においては、積層面1dに設けられる凸部41が円筒状に形成されるガイド部13で保護され、この凸部41が他部にぶつかって、欠損したり変形したりする不具合の招来を危惧しなくて済む点からすると、一方の分割ピストン体1においては、位置決め構造4aが凹部でなく、凸部41を有するのが好ましい。
【産業上の利用可能性】
【0071】
単筒型の油圧緩衝器におけるシリンダ体内に収装されるピストン部を構成するピストン体への利用に向く。
【符号の説明】
【0072】
1 一方の分割ピストン体
1b,1c,2b,2c 流路
1d,2d 積層面
2 他方の分割ピストン体
3 ピストンリング
4 位置決め手段
4a,4b 位置決め構造
11 本体部
12 収容凹部
13 ガイド部
41 凸部
42 凹部
a,1a,2a ロッド貫通孔
b 伸側流路
c 圧側流路
d,e バルブシート部
f,g ボス部
図1
図2
図3