特許第5719231号(P5719231)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5719231
(24)【登録日】2015年3月27日
(45)【発行日】2015年5月13日
(54)【発明の名称】複合成形体
(51)【国際特許分類】
   C08J 9/40 20060101AFI20150423BHJP
【FI】
   C08J9/40CET
【請求項の数】2
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2011-106817(P2011-106817)
(22)【出願日】2011年5月12日
(65)【公開番号】特開2012-236914(P2012-236914A)
(43)【公開日】2012年12月6日
【審査請求日】2014年4月9日
(73)【特許権者】
【識別番号】000131810
【氏名又は名称】株式会社ジェイエスピー
(74)【代理人】
【識別番号】100094547
【弁理士】
【氏名又は名称】岩根 正敏
(72)【発明者】
【氏名】山路 弘行
(72)【発明者】
【氏名】林 香純
(72)【発明者】
【氏名】中岫 弘
【審査官】 加賀 直人
(56)【参考文献】
【文献】 特開昭58−002259(JP,A)
【文献】 特開平10−219021(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08J 9/40
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
流動パラフィンがコーティングされ、表面に高さ10〜400μmの凹凸が形成されている熱可塑性樹脂発泡粒子を加熱して相互に融着させて得られた、外部と連通した空隙を有する熱可塑性樹脂発泡粒子成形体と、該熱可塑性樹脂発泡粒子成形体の連通した空隙の全体にわたって充填された連続相の石膏とからなる複合成形体であって、前記熱可塑性樹脂発泡粒子成形体の嵩密度が35kg/m3以下であると共に、前記熱可塑性樹脂発泡粒子成形体の重量W2[g]に対する石膏の重量W1[g]の比(W1/W2)が0.9以上であることを特徴とする、複合成形体。
【請求項2】
複合成形体の空隙率が5%以上であることを特徴とする、請求項1に記載の複合成形体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複合成形体に関するもので、特に、難燃性の高い複合成形体に関するものである。
【背景技術】
【0002】
発泡スチロール製品に難燃性を付与する技術が、特許文献1に開示されている。
かかる技術は、発泡性を有するスチレンビーズ表面に硼酸系無機物質をフェノール樹脂等の熱硬化性樹脂をバインダーとしてコーティングし、該硼酸系無機物質をコーティングした発泡性粒子を金型内においてスチーム成形するものである。
【0003】
一方、特許文献2には、発泡性ポリスチレン系樹脂粒子の表面を水で濡らし、次いで無機物である石膏粒子を所定量添加してかき混ぜることにより表面に石膏を被覆し、該石膏を被覆した発泡性ポリスチレン系樹脂粒子を予備発泡して得られた予備発泡粒子を型内発泡成形し、ポリスチレン系樹脂発泡粒子成形体を得る技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許第3163282号公報
【特許文献2】特開2008−127531号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、先ず特許文献1に開示された発泡スチロール製品に難燃性を付与する技術にあっては、スチレンビーズの各々に硼酸系無機物質をコーティングする必要があるため、そのコーティング作業、及びコーティング後の乾燥作業等に非常に手間がかかり、経済的ではないと言う課題があった。また、バインダーとして使用するフェノール樹脂等の熱硬化性樹脂はスチーム成形する際に型から流れ出し、成形機のバルブや配管等を詰まらせると言う課題も存在した。
【0006】
また、特許文献2に開示された技術は、自動車用フロア嵩上材などとして用いる場合に、きしみ音の発生が少ないポリスチレン系樹脂発泡粒子成形体を得ることを目的とする技術であり、石膏で表面が被覆された粒子を型内発泡成形するものであるため、粒子界面に存在する石膏量の過多は粒子同士の融着を阻害することとなり、わずかな石膏しかコーティングすることができず、その石膏量は厚みにして5μm以下程度の薄い皮膜となる。そのため、均一に発泡性ポリスチレン系樹脂粒子の表面を石膏でコーティングすることが難しいと共に、該石膏による粒子の被覆によって目的とする成形体のきしみ音の発生は低減できるものの、燃やすと石膏がコーティングされてない部分等より火がつき、燃え広がってしまうことから、成形体に難燃性までをも付与できる技術ではなかった。
【0007】
本発明は、上述した背景技術が有する課題に鑑み成されたものであって、その目的は、本来発泡粒子成形体が有する軽量性と成形容易性とを備えつつ、燃焼時に燃え広がることがなく、全体の形状が崩れ難い複合成形体を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記した目的を達成するため、本発明は、次の〔1〕および〔2〕の複合成形体とした。
〔1〕流動パラフィンがコーティングされ、表面に高さ10〜400μmの凹凸が形成されている熱可塑性樹脂発泡粒子を加熱して相互に融着させて得られた、外部と連通した空隙を有する熱可塑性樹脂発泡粒子成形体と、該熱可塑性樹脂発泡粒子成形体の連通した空隙の全体にわたって充填された連続相の石膏とからなる複合成形体であって、前記熱可塑性樹脂発泡粒子成形体の嵩密度が35kg/m3以下であると共に、前記熱可塑性樹脂発泡粒子成形体の重量W2[g]に対する石膏の重量W1[g]の比(W1/W2)が0.9以上であることを特徴とする、複合成形体。
〔2〕複合成形体の空隙率が5%以上であることを特徴とする、上記〔1〕に記載の複合成形体。
【発明の効果】
【0009】
上記した本発明に係る複合成形体によれば、所定の嵩密度以下の発泡粒子成形体中に所定量以上の石膏が全体にわたって満遍なく連続相の状態で充填されているので難燃性の高い複合成形体となり、発泡粒子成形体の軽量性と成形容易性とを備えつつ、燃焼時に燃え広がることがなく、さらに、発泡粒子同士が融着しているので全体の形状が崩れ難いものとなる。そのため、型物成形できる利点を利用すれば航空機や電車等の難燃性を必要とする複雑形状の難燃断熱材の分野や、建材として広く用いられている石膏ボードに替わる軽量性と断熱性をも兼ね備えた不燃建材として利用することができる。
特に、本発明によれば、外部と連通した空隙を有する熱可塑性樹脂発泡粒子成形体を得る熱可塑性樹脂発泡粒子を、流動パラフィンがコーティングされ、表面に高さ10〜400μmの凹凸が形成されている熱可塑性樹脂発泡粒子としたので、該発泡粒子表面の凹凸の存在によって、粒子同士の融着が強固に成され、空隙率が高くても融着性に優れた成形体が得られると共に、石膏が発泡粒子表面に付着し易いため、石膏の充填率の高い複合成形体が得られ、このような複合成形体は難燃性に特に優れたものとなる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、上記した本発明に係る複合成形体の実施の形態を、詳細に説明する。
【0011】
本発明に係る複合成形体は、全体にわたって連通した空隙を有する熱可塑性樹脂発泡粒子成形体と、該熱可塑性樹脂発泡粒子成形体の連通した空隙の全体にわたって充填された連続相の石膏とからなる複合成形体であって、前記熱可塑性樹脂発泡粒子成形体の嵩密度が35kg/m3以下であると共に、前記熱可塑性樹脂発泡粒子成形体の重量W2[g]に対する石膏の重量W1[g]の比(W1/W2)が0.9以上であることを特徴とするものである。
【0012】
ここで、上記熱可塑性樹脂発泡粒子成形体の基材樹脂としては、例えば、ポリスチレン系樹脂、ポリエチレン,ポリプロピレン等のポリオレフィン系樹脂、ポリブチレンサクシネート,ポリエチレンテレフタレート,ポリ乳酸等のポリエステル系樹脂、ポリカーボネート系樹脂などを挙げることができるが、中でも、軽量性、耐水性、耐久性等の特性並びにコストの観点から、ポリスチレン系樹脂、或いはポリオレフィン系樹脂を使用することが好ましく、特にはポリスチレン系樹脂を使用することが好ましい。
【0013】
上記ポリスチレン系樹脂とは、本明細書においては次の(1)〜(6)のいずれかに該当するものを意味する。
(1)1種のスチレン系単量体から得られる単独重合体。
(2)2種以上のスチレン系単量体から得られる共重合体。
(3)1種又は2種以上のスチレン系単量体に由来する構造単位を50重量%以上含有すると共にスチレン系単量体以外の単量体に由来する構造単位を50重量%未満含有する共重合体。
(4)ブタジエンゴムなどのゴム成分の存在下で、スチレン系単量体、またはスチレン系単量体およびスチレン系単量体以外の単量体を重合してなる(共)重合体であって、スチレン系単量体に由来する構造単位を50重量%以上含有するもの。
(5)上記(1)〜(4)の群から選ばれた2種以上の混合物。
(6)上記(1)〜(4)の群から選ばれた1種以上と、これらとは異なる(共)重合体との混合物であって、スチレン系単量体に由来する構造単位を50重量%以上含有するもの。
【0014】
上記スチレン系単量体としては、例えば、スチレン、α−メチルスチレン、o−メチルスチレン、m−メチルスチレン、p−メチルスチレン、ビニルトルエン、p−エチルスチレン、2,4−ジメチルスチレン、p−メトキシスチレン、p−フェニルスチレン、p−n−ブチルスチレン、p−n−ヘキシルスチレン、p−オクチルスチレン、p−t−ブチルスチレン、o−クロロスチレン、m−クロロスチレン、p−クロロスチレン、2,4−ジクロロスチレン、2,4,6−トリブロモスチレン、スチレンスルホン酸、スチレンスルホン酸ナトリウム等が挙げられる。スチレン系単量体以外の単量体としては、例えば、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸プロピル、アクリル酸ブチル、アクリル酸−2−エチルヘキシル等のアクリル酸の炭素数が1〜10のアルキルエステル;メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸プロピル、メタクリル酸ブチル、メタクリル酸−2−エチルヘキシル等のメタクリル酸の炭素数が1〜10のアルキルエステル;アクリロニトリル、メタクリロニトリル等のニトリル基含有不飽和化合物等や、ジビニルベンゼン等の架橋性単量体が挙げられる。
【0015】
熱可塑性樹脂発泡粒子は、例えば、上記ポリスチレン系樹脂等の熱可塑性樹脂を基材樹脂とする樹脂粒子に発泡剤を含浸させて発泡性樹脂粒子とし、該発泡性樹脂粒子を発泡させたものである。発泡性樹脂粒子を得る方法としては、一般的な懸濁重合法や押出ペレット法等の公知の方法により熱可塑性樹脂粒子を製造し、これに発泡剤を適宜含有させて発泡性樹脂粒子とすることが挙げられる。また、熱可塑性樹脂粒子に発泡剤を含有させる方法としては、重合の途中及至重合終了後に発泡剤を添加して含有させる方法、また、押出途中で発泡剤を添加して含有させる方法等が挙げられる。該発泡性樹脂粒子には、さらに必要に応じて可塑剤、その他公知の種々の助剤を添加することもできる。発泡剤の添加量は、使用する熱可塑性樹脂、発泡剤、助剤の種類によって異なるが、通常熱可塑性樹脂100重量部に対して0.1〜2.0重量部の割合で添加される。
【0016】
全体にわたって連通した空隙を有する熱可塑性樹脂発泡粒子成形体を得るための方法としては、(i)熱可塑性樹脂発泡粒子を金型内に充填し、充填時の発泡粒子間の空隙がなくならないように発泡粒子を加熱することにより発泡粒子同士の一部を互いに融着させることにより発泡粒子間に連通した空隙を形成する方法、(ii)貫通孔を有する熱可塑性樹脂発泡粒子を金型内に充填し、加熱することにより発泡粒子同士を融着させ、前記貫通孔による連通した空隙を形成する方法や、(iii)これらの方法を組み合わせることによって粒子間の空隙と貫通孔による空隙の両方を形成する方法などが挙げられる。
【0017】
上記熱可塑性樹脂発泡粒子成形体の嵩密度は35kg/m3以下である。
これは、嵩密度が35kg/m3を超える発泡粒子成形体である場合には、該発泡粒子成形体の空隙に連続相の石膏が形成された複合成形体であっても、十分な難燃性が得られないことが試験により判明したためである。
なお、本明細書において熱可塑性樹脂発泡粒子成形体の嵩密度は、石膏を充填する前の発泡粒子成形体の重量を、発泡粒子成形体の外形寸法から求められた容積により割り算し、さらに[kg/m3]に単位換算することにより求めたものである。
【0018】
また、熱可塑性樹脂発泡粒子成形体が上記(i)の方法により発泡粒子間に連通した空隙を有する発泡粒子成形体に形成されたものである場合には、成形前の熱可塑性樹脂発泡粒子の平均粒子径X[mm]と成形後の熱可塑性樹脂発泡粒子成形体の空隙率Y[%]との関係が、下記(1)式を満足するものであることが好ましい。

Y>22×X-0.4・・・(1)

これは、上記(i)の方法により形成された発泡粒子成形体の場合には、空隙の大きさは、主に発泡粒子の粒子径と空隙率とで定まるが、同じ空隙率であっても発泡粒子の粒子径が小さい方が空隙の開口面は小さくなる。かかる空隙に石膏を吸引含浸し、複合成形体全体にわたって石膏の連続相を形成するためには、発泡粒子の粒子径が小さいほど空隙率を大きくする必要がある。本発明者等は、発泡粒子成形体の空隙内に石膏を吸引含浸して、複合成形体内に石膏を連続相の状態で均一に充填させるためには、発泡粒子の平均粒子径X[mm]と発泡粒子成形体の空隙率Y[%]とは、上記式を満足する関係にあれば良好な結果が得られることを試験により見出したことによる。
上記式に当てはまる具体的な数値としては、平均粒子径1mmの場合は空隙率25%以上、平均粒子径2mmの場合は空隙率17%以上、平均粒子径3mmの場合は空隙率15%以上、平均粒子径4mmの場合は空隙率14%以上の発泡粒子成形体が好ましいことになる。
【0019】
なお、本明細書において熱可塑性樹脂発泡粒子の平均粒子径Xは、以下の方法により求めたものである。
まず、温度23℃のエタノールの入ったメスシリンダーを用意し、温度23℃、相対湿度50%の環境下で24時間以上放置した任意の量の熱可塑性樹脂発泡粒子を上記メスシリンダー内のエタノール中に金網などの道具を使用して沈める。そして、金網などの道具の体積を考慮して水位上昇分より読みとられる熱可塑性樹脂発泡粒子の容積V1[L]を測定し、この容積V1をメスシリンダーに入れた熱可塑性樹脂発泡粒子の個数N[個]にて割り算(V1/N)することにより、発泡粒子1個あたりの平均体積を算出する。そして、得られた平均体積と同じ体積を有する仮想真球の直径をもって熱可塑性樹脂発泡粒子の平均粒子径X[mm]とする。
【0020】
また、熱可塑性樹脂発泡粒子成形体の空隙率Yは、以下の方法により求めたものである。
温度23℃、相対湿度50%の環境下で24時間以上放置した熱可塑性樹脂発泡粒子成形体から直方体サンプルを切り出し、該サンプルの外形寸法より嵩体積Va[cm3]を求める。次いで該サンプルを温度23℃のエタノールの入ったメスシリンダー中に金網などの道具を使用して沈め、軽い振動等を加えることにより成形体中の空隙に存在している空気を脱気する。そして、金網などの道具の体積を考慮して水位上昇分より読みとられる該サンプルの真の体積Vb[cm3]を測定する。求められたサンプルの嵩体積Va[cm3]と真の体積Vb[cm3]から、次式により空隙率Y[%]を求める。

空隙率Y[%]=〔(Va−Vb)/Va〕×100
【0021】
また、上記成形前の熱可塑性樹脂発泡粒子の平均粒子径Xは0.5〜4.5mmであることが好ましく、上記成形後の熱可塑性樹脂発泡粒子成形体の空隙率Yは15〜40%であることが好ましい。
これは、発泡粒子の粒子径は小さい方が難燃性に優れた複合成形体が得られ易く、4.5mmを超える粒子径のものである場合には十分な難燃性を有するものが得られ難くなる。逆に、平均粒子径Xが小さすぎる場合は石膏の充填性が悪くなり、目的とする難燃性の複合成形体が得られないおそれがある。かかる観点から、熱可塑性樹脂発泡粒子の平均粒子径Xは0.5〜2.5mmであることがより好ましい。
一方、成形後の発泡粒子成形体の空隙率は大きい方が石膏が充填され易く且つ石膏量が多くなるために難燃性の高い複合成形体が得られるが、空隙率が大きな発泡粒子成形体を得ようとすると、発泡粒子同士の融着力が弱くなり、脆い成形体となり易い。この両者の兼ね合いから、熱可塑性樹脂発泡粒子成形体の空隙率Yは15〜40%が好ましく、25〜35%がより好ましい。
【0022】
さらには、上記熱可塑性樹脂発泡粒子成形体を製造するに際して、表面に高さ10〜400μmの不定形の凹凸が形成されている熱可塑性樹脂発泡粒子を使用することが好ましい。
これは、該凹凸の存在によって、粒子同士の融着が強固に成され、空隙率が高くても融着性に優れた成形体が得られると共に、石膏が発泡粒子表面に付着し易いため、石膏の充填率の高い複合成形体が得られ、このような複合成形体は難燃性に特に優れたものとなるために好ましい。
このような表面に高さ10〜400μmの不定形の凹凸が形成された熱可塑性樹脂発泡粒子は、予備発泡前の発泡性樹脂粒子及び/又は予備発泡後の発泡粒子の表面に樹脂溶融剤をコーティングすることにより得られる。このコーティングする樹脂溶融剤としては、流動パラフィン、ひまし油、牛脂、ヤシ油、落花生油、なたね油、ジオクチルフタレート、ジオクチルアジペート、グリセリン高級脂肪酸エステル、アセチル化グリセリド、ブチルステアレート、或いはこれら2種類以上の混合物等が好適であり、コーティング量は重量比にて0.05〜20%程度が好ましい。
【0023】
熱可塑性樹脂発泡粒子成形体の連通した空隙の全体にわたって石膏を充填させる具体的な方法としては、石膏100gに対し水を10〜150g、好ましくは30〜130g加えて液状にしたものを、真空圧600〜780mmHgで発泡粒子成形体の空隙内へと吸引することにより含浸させることができる。
この吸引含浸操作は、金型内で発泡粒子成形体の一面側に液状の石膏を載せ、他面側から吸引することにより行なってもよく、前記のように一面側から石膏を吸引含浸させた後、他面側からも石膏を吸引含浸させる操作を行なってもよい。また、液状の石膏が入った袋状のフィルム内に発泡粒子成形体を入れ、袋内を吸引することにより、発泡粒子成形体の空隙内へ石膏を吸引含浸してもよい。
【0024】
上記のようにして熱可塑性樹脂発泡粒子成形体の連通した空隙の全体にわたって石膏を充填し、該発泡粒子成形体内に石膏の連続相を形成すると共に、熱可塑性樹脂発泡粒子成形体(複合成形体の発泡粒子部分)の重量W2[g]に対する石膏の重量W1[g]の比(W1/W2)が0.9以上である複合成形体とする。
これは、上記複合成形体中の発泡粒子部分の重量に対する石膏の重量の比(W1/W2)が0.9に満たないものである場合は、難燃性を発揮するのに必要な石膏量が不足し、十分な難燃性が得られないことが試験により判明したためである。かかる観点から、該比(W1/W2)は1.0以上であることが好ましく、より好ましくは1.5以上である。一方、難燃性の観点からは該比(W1/W2)の上限は特に限定されるものではないが、該比(W1/W2)が大き過ぎると軽量性の点で不利であるため、該比(W1/W2)は2.2以下であることが好ましい。
また、石膏の連続相が形成されていない、即ち複合成形体の表層部に石膏が局在していたり石膏の充填が途切れている部分等が存在すると、石膏の存在していない部分から燃焼してしまって難燃性が確保できないと共に、複合成形体の形状を維持することができない。
【0025】
上記比(W1/W2)は、含浸させる際の石膏の濃度や、石膏の吸引条件(真空圧、時間)、さらには発泡粒子成形体の嵩密度、空隙率などを適宜調整することにより調整することができる。具体的には、含浸させる石膏の濃度が低ければ該比(W1/W2)は小さくなり、同じ濃度の石膏を用いても、吸引時の吸引力が小さかったり、吸引時間が短かったりするとやはり該比(W1/W2)は小さくなる。また、同じ石膏の含浸量であっても、発泡粒子成形体の嵩密度が大きかったり、発泡粒子成形体の空隙率が小さかったりすると該比(W1/W2)は小さくなる。
【0026】
また、複合成形体の空隙率は5%以上であることが好ましく、8%以上であることがより好ましい。
これは、複合成形体が一定の空隙率を有することにより、発泡体本来の軽量性を備えながらも、より十分な難燃性が得られるためである。上記複合成形体の空隙率の上限は、元々の発泡粒子成形体の空隙率未満となる。
なお、複合成形体の空隙率は、上記の発泡粒子成形体の空隙率と同様の測定方法により求めることができる。また、複合成形体の空隙率は、上記比(W1/W2)と同様な方法で調整することができる。
【0027】
熱可塑性樹脂発泡粒子成形体の連通した空隙に充填させる上記石膏の種類としては、二水石膏(CaSO4・2H2O)、半水石膏(CaSO4・1/2H2O)、無水石膏(CaSO4)が挙げられるが、本発明においては、半水石膏(α型及びβ型を含む。)が空隙への含浸性の観点から好ましく用いられる。また、その平均粒径は50μm以下が好ましく、且つできるだけ粒径分布が狭いものであることが、連続相の状態で均一に発泡粒子成形体の空隙に充填できるために好ましい。さらに、石膏に硼酸の水溶液5〜40%加えたものを充填することとすると、熱で硼酸がガラス皮膜に変化して燃焼をより防止するので、難燃性を向上させる上で好ましい。
なお、本明細書における石膏の平均粒径とは、体積平均粒子径のことをいう。また、体積平均粒子径は、石膏を水中に分散させ、レーザー回折散乱法(日機装株式会社製マイクロトラックMT−3300EX)により粒度分布を測定し、全粒子の体積に対する累積体積が50%になる時の粒子径(d50)として求められる。
【0028】
上記のようにして得られた発泡粒子と石膏との複合成形体は、難燃性の高い複合成形体となり、発泡粒子成形体の軽量性と成形容易性を備えつつ、火に強く、燃焼時に燃え広がることがなく、全体の形状が崩れ難いものとなる。これは、石膏の結晶水は常温では非常に安定しており発散することはないが、ひとたび火に接すると熱分解をおこし蒸発を始め水蒸気となって放出されるので石膏の温度は一定以上に上昇しない性質を有する。そのため、該石膏を所定以上、具体的には複合成形体中の発泡粒子部分の重量に対する石膏の重量の比(W1/W2)が0.9以上含有し、しかも該石膏を全体にわたって満遍なく連続相の状態で充填された複合成形体は、このものに炎を接触させた場合、石膏皮膜にて熱可塑性樹脂発泡粒子は燃焼が抑制されると同時に石膏より結晶水が放出されて燃焼が継続せず、優れた難燃性を示すものとなると共に全体の形状が崩れ難いものとなる。
また、石膏の結晶は針状結晶なので発泡粒子成形体の表面に凹凸が存在する場合には該凹凸に入りこみ、粒子表面にアンカー効果で強固に固着すると共にその固着量も増えるため、表面に適度な高さの不定形の凹凸が形成されている熱可塑性樹脂発泡粒子を用いた複合成形体にあっては、難燃性はより高いものとなる。更に、充填する石膏に硼酸を適量加えたものにあっては、硼酸が熱でガラス皮膜に変化するので難燃性能は更に向上したものとなる。
【実施例】
【0029】
以下、上記した本発明に係る複合成形体の実施例につき説明するが、本発明は、何らこれらの実施例によって限定されるものではない。
【0030】
種々の粒子径の発泡性ポリスチレン粒子(株式会社ジェイエスピー製:スチロポール)をバッチ式予備発泡機(株式会社ダイセン工業製:DYH850)にて種々の倍率に発泡させ、平均粒子径及び発泡倍率の異なるポリスチレン発泡粒子を得た。このポリスチレン発泡粒子に対して流動パラフィンをポリスチレン発泡粒子100重量部に対して10重量部コーティングし、その後、ポリスチレン発泡粒子を24時間熟成させた。
【0031】
熟成したポリスチレン発泡粒子を成形機(株式会社ダイセン工業製:VS−500)に充填し、加熱温度、加熱時間等を種々変更することにより、発泡粒子間に空隙を有する状態で発泡粒子同士を融着させ、空隙率の異なるおこし状のポリスチレン発泡粒子成形体(300×75×25mm)を製造した。
成形前のポリスチレン発泡粒子の平均粒子径X、該平均粒子径Xを上記(1)式に入れた場合の右辺の値、及び成形後のポリスチレン発泡粒子成形体の嵩密度αおよび空隙率Yの値を表1に示す。
【0032】
続いて、得られたポリスチレン発泡粒子成形体の空隙に石膏をそれぞれ含浸させた。
石膏を含浸させるための金型として、上面開口部299mm×74mm、深さ30mmの直方体状の空間を有し、底面に吸引孔を有する金型を用い、上記発泡粒子成形体をそれぞれ該金型内に押し込み側面をシールし、表1に示した量の半水石膏に対し青色に着色した水を125g加えて種々の濃度とした石膏水を発泡粒子成形体の上に注ぎ、底面側から真空圧760mmHgで10秒間吸引することにより、石膏を発泡粒子成形体の空隙に含浸させた。
複合成形体の発泡粒子部分の重量に対する石膏の重量の比(W1/W2)、および複合成形体の空隙率Zを表1に示す。
【0033】
得られた複合成形体を板厚方向にカッターで切断し、その切断面を観察することにより石膏の充填性を評価した。
石膏の充填性の評価は、全体にわたって石膏が十分に連続相の状態で発泡粒子成形体の空隙に充填されている場合を『〇』、石膏が全体にわたって連続相を形成していない場合を『×』と評価した。その評価結果を表1に併記する。
【0034】
続いて、製造した各複合成形体に対して燃焼テストを実施した。
燃焼テストは、JIS A9511に準拠し、各複合成形体(300×75×25mm)を45度の角度でスタンドに固定し、この各テストサンプルの下からろうそくの炎を10秒間接触させた後、ろうそくを取り除いた場合の燃焼状況で判断した。
ろうそくを取り除いた後に炎が残るものを『×』、すぐに消えたものを『○』と評価し、その評価結果を表1に併記する。
【0035】
【表1】
【0036】
表1から、発泡粒子成形体の嵩密度αが35kg/m3を超えるものにあっては石膏の充填性等に係らず全て燃えることが分かる。よって難燃性の観点からは嵩密度が35kg/m3以下の発泡粒子成形体である必要があることが分かった。また、発泡粒子部分の重量に対する石膏の重量の比(W1/W2)が0.9に満たない複合成形体にあってはやはり全て燃えていることから、該比(W1/W2)が少なくとも0.9以上である複合成形体である必要があることが分かった。