(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
従来、X線CT(Computed Tomography)装置など、X線を被写体に照射して断層写真などのX線画像を作成するX線装置では、単位時間当たりに撮影するX線画像の枚数を増やすことで撮影の高速化を図っている。単位時間当たりの撮影枚数を増やすためには、X線管からのX線の出力を高めることが必要となる。
X線管では、陰極(フィラメント)から放出された熱電子が加速し、陽極に衝突することによってX線が発生する。このとき、熱電子が陽極に衝突すると、衝突エネルギの一部が熱エネルギに変化して陽極は多量に発熱する。また、陰極から放出された熱電子の一部は陽極に衝突して反射する反射電子になる。この反射電子は、再度陽極に衝突したり、陽極を真空状態で収納する真空容器に衝突したりして、ここでも発熱する。
【0003】
陰極から放出される熱電子が有する電子エネルギのうち、X線となってX線管から放出されるエネルギ量は微量であり、その大部分はX線管内で熱エネルギに変化している。そして、この発熱によって、陽極、陽極と接する部材、および真空容器が高温になる。
しかしながら、X線管を構成する部材には、X線が透過する窓部や真空容器のロウ付け部など、耐熱性の低い部分があるため、発熱を抑えるために冷却する必要がある。また、陽極の同じ面に熱電子が衝突することを避けるために、陽極は回転軸回りに回転しているが、陽極を回転支持する軸受は耐熱性の低い部材であり、高温になると正常な動作が妨げられる。したがって、特に陽極の軸受が高温にならないようにX線管を冷却する必要がある。
【0004】
従来、X線管と、その外周に配設されるハウジング(X線管容器)との間に充填される液体の冷媒を、循環冷却することでX線管を冷却している。
このようにX線管を冷却する冷却ユニットは、冷媒を送液するポンプと、冷媒と外気との間で熱交換するラジエータを含んで構成される。
しかしながら、X線管から放射されるX線の出力(X線出力)が高くなるにともなって、X線管はサイズが大きくなって重量も増大する。このように巨大化したX線管に従来型の冷却ユニットを取り付けて一体構造とすると、このX線管が取り付けられるX線CT装置等も巨大化して重量が重くなり、例えば、メンテナンスの際の取り扱いが困難になるという問題がある。
したがって、X線管と冷却ユニットを別体構成とする構造が考えられている。
【0005】
このようにX線管と冷却ユニットを別体構成とすると、例えばメンテナンス時にX線管と冷却ユニットを連結するコネクタが着脱されたときに、周囲の空気がコネクタのわずかな隙間等から冷媒に混入する場合がある。そして、混入した空気が気泡となって窓部とX線管容器の間を横切ると、冷媒と気泡はX線の吸収率が異なるため、X線管で発生して窓部を透過したX線の強度(X線強度)が変動する。そのため、X線装置から出射されるX線強度が一様ではなくなるという問題が発生する。
【0006】
例えば、特許文献1,2には、X線管を冷媒で冷却する際に、冷媒に混入した空気などの気体からなる気泡を気泡ポケットに導いて、気泡が窓部(X線放射窓)を横切らないように構成する技術が開示されている。
特許文献1,2に開示される技術によると、冷媒に混入した空気等の気体からなる気泡が自体の浮力によってガイド版に沿って移動して気泡ポケットに集められ、気泡が窓部を横切ることを抑制できる。
【発明を実施するための形態】
【0013】
《第1実施形態》
以下、本発明の第1実施形態について、適宜図を参照して詳細に説明する。
X線装置100は、例えば、X線管1で発生するX線5を出射して図示しない被写体(被検者など)に照射し、X線画像を作成する装置(CT装置等)である。
図1に示すように、X線管1は、フィラメント2(陰極)から放出される熱電子4を回転陽極3に衝突させ、そこで発生するX線5を、ベリリウムなどで構成される窓部(X線照射窓6)を透過させて外部に出射するように構成される。
このとき、フィラメント2から放出された熱電子4が回転陽極3に衝突すると、多量の熱が発生し、回転陽極3は非常に高温になる。また、回転陽極3に衝突した熱電子4の一部は、散乱や反射によって反射電子となり、その一部はX線照射窓6等に衝突する。このとき、反射電子の衝突によってX線照射窓6も高温になる。
なお、フィラメント2、回転陽極3、X線照射窓6など、X線管1を構成する各部材は、内部を真空状態に維持可能な筐体(真空容器1a)に収納され、X線管1は、真空容器1aの内部でX線5を発生するように構成される。
【0014】
そして、X線管1はX線管容器7に収納され、さらに、X線管1の真空容器1aとX線管容器7の間に液体の冷媒15(冷却油など)を流通させて、この冷媒15でX線管1を真空容器1aの周囲から冷却する構成とする。
そして、X線管1の真空容器1a内で発生してX線照射窓6を透過したX線5は、冷媒15を通過してX線管容器7から出射される。
また、冷媒15は、例えば冷却ユニット14に備わる図示しない送液ポンプによって、
図1に矢印で示すように冷却ユニット14とX線管容器7を循環する。
【0015】
X線管1の内部で発生する熱をX線管容器7の内部で真空容器1aを介して吸熱して高温になった冷媒15は、X線管側冷媒戻り管8、冷媒戻り側コネクタ11、冷却ユニット側冷媒戻り管13を介して冷却ユニット14に取り込まれる。冷却ユニット14では図示しない熱交換器によって高温の冷媒15と外気が熱交換して冷媒15が冷却される。
そして、冷却された冷媒15は、冷却ユニット側冷媒送り管12、冷媒送り側コネクタ10、X線管側冷媒送り管9を介してX線管容器7に送り込まれ、X線管1の周囲を流通してX線管1から真空容器1aを介して熱を吸熱する。
このように冷媒15はX線管容器7と冷却ユニット14を循環し、X線管1の周囲を流通してX線管1を冷却する。
【0016】
冷媒送り側コネクタ10は、冷却ユニット側冷媒送り管12とX線管側冷媒送り管9を着脱可能に連結するコネクタであり、冷媒戻り側コネクタ11は、冷却ユニット側冷媒戻り管13とX線管側冷媒戻り管8を着脱可能に連結するコネクタである。
このように、冷媒送り側コネクタ10と冷媒戻り側コネクタ11が備わる構成によって、X線管1(X線管容器7)と冷却ユニット14は着脱可能に別体で構成される。
【0017】
X線管1と冷却ユニット14は、例えばX線装置100のメンテナンス時に切り離され、メンテナンス終了時に再度連結される。このとき、分離した状態の冷媒送り側コネクタ10、冷媒戻り側コネクタ11に生じている隙間から冷媒15に空気が混入することがある。冷媒15に混入した空気は冷媒15内で気泡15aになり、この気泡15aがX線照射窓6の前面6a(X線管1で発生したX線5が真空容器1aの外部に出射する面)を横切ると、前記したように、X線管容器7から出射されるX線5のX線強度が変動する。
【0018】
そこで、第1実施形態に係るX線装置100には、冷媒15内の気泡がX線照射窓6の前面6aを横切らないように、冷媒15内の気泡を捕捉する捕捉部(気泡トラップ20)が備わっている。
図1,2に示すように、気泡トラップ20は、X線照射窓6のX線管側冷媒送り管9側に、冷媒15の流れの方向に直列に配置される2枚の気泡トラップ板(第1トラップ板21,第2トラップ板22)を含んで構成される。
なお、冷媒15はX線管側冷媒送り管9からX線管容器7に送り込まれてX線管側冷媒戻り管8に送り出される構成であるため、X線管側冷媒送り管9の側は冷媒15の流れの上流になる。つまり、気泡トラップ20は、X線照射窓6の、冷媒15の流れの上流に配設される。
以下、上流および下流はX線装置100における冷媒15の流れに対する上流および下流を示す。
【0019】
図2に詳細を示すように、第1トラップ板21、第2トラップ板22は、X線管1の真空容器1aの外側に、X線管容器7(
図1参照)との間に冷媒15の流路が形成される高さで立設する板状部材である。また、第1トラップ板21、第2トラップ板22は、例えば、X線照射窓6の幅方向(冷媒15の流れの方向と直交する方向)に等しい幅で、互いに平行に、かつ、冷媒15の流れの方向に直列に並んで配置される。
なお、上流側の気泡トラップ板を第1トラップ板21、下流側の気泡トラップ板を第2トラップ板22としている。
【0020】
図3に示すように、気泡15aが、X線管側冷媒送り管9から冷媒15とともにX線管容器7に送り込まれると、気泡15aは、冷媒15の流れにともなって上流側に備わる第1トラップ板21に接近する。
第1トラップ板21が配設される位置(
図3にA部で示す位置)は、第1トラップ板21とX線管容器7の間が冷媒15の流路になることから、冷媒15の流路は他の場所(気泡トラップ板が配設されない場所)に比べて狭くなり、冷媒15の流速はA部で速くなる。また、冷媒15の圧力は、他の場所(気泡トラップ板が配設されない場所)よりA部で高くなる。
【0021】
一方、第1トラップ板21の下流の位置(
図3にB部で示す位置)は、X線管1の真空容器1aの外側とX線管容器7の間が冷媒15の流路になることから冷媒15の流路がA部に比べて広がり、冷媒15の流速はA部に対してB部で低下する。つまり、第1トラップ板21が備わることによって、A部(上流)よりB部(下流)で、冷媒15の流速が遅くなる。そして、A部にはB部より高い動圧が発生し、この動圧の差分に相当する圧力差がA部とB部に発生する。このことによって、冷媒15の圧力はA部に対してB部で低くなる。
換言すると、A部(上流)とB部(下流)で冷媒15に流速差が生じ、さらに、この流速差による圧力差が生じて、B部はA部より低圧になる。
【0022】
そして、冷媒15内の気泡15aは破線の矢印で示されるように低圧のB部(低圧部)に吸い寄せられる。つまり、冷媒15内の気泡15aは第1トラップ板21より下流の位置で、第1トラップ板21の側に吸い寄せられて捕捉される。また、第1トラップ板21で捕捉されずに第2トラップ板22を通過した気泡15aは、第2トラップ板22より下流の位置で、第2トラップ板22の側に吸い寄せられて捕捉される。
【0023】
このように、X線管側冷媒送り管9からX線管容器7に送り込まれる冷媒15内の気泡15aは、X線照射窓6(
図2参照)の上流で第1トラップ板21または第2トラップ板22に捕捉され、X線照射窓6の前面6a(
図2参照)を横切ることが防止される。
冷媒15内の気泡15aは微量であるため、第1トラップ板21および第2トラップ板22で気泡15aは確実に捕捉される。
また、冷媒15内の気泡15aは、冷媒15の流れによって生じる圧力差で捕捉される構成であり、X線装置100の位置や状態(上下反転など)に左右されない。つまり、X線装置100の位置や状態が変わっても、冷媒15の流れの方向が変わらない以上、X線装置100に対するB部の位置(低圧の位置)は変わらない。したがって、気泡トラップ20で冷媒15内の気泡15aを捕捉することができ、X線照射窓6の前面6aを気泡15aが横切ることを抑制できる。
【0024】
そして、冷媒15が流れている間は、
図3に示すA部とB部に常に圧力差が生じることから、冷却15の流れにともなって流れる気泡15aが、X線照射窓6の前面6a(
図2参照)を横切ることを確実に抑制できる。
【0025】
なお、気泡トラップ20が1枚の気泡トラップ板からなる構成、または、3枚以上の気泡トラップ板からなる構成であってもよいことはいうまでもない。
また、第1トラップ板21と第2トラップ板22の高さ(X線管1の真空容器1aからの高さ)は、X線管容器7との間に冷媒15の流路が確保できる高さであれば、同じであってもよいし、異なっていてもよい。
また、第1トラップ板21と第2トラップ板22の間隔は適宜決定される値であればよい。例えば、実験計測等によって求めれる、効果的に気泡15aを捕捉できる間隔とすればよい。
さらに、第1トラップ板21と第2トラップ板22の幅がX線照射窓6の幅と等しい構成に限定されず、例えば、第1トラップ板21と第2トラップ板22の幅がX線照射窓6の幅より広い構成であってもよい。また、第1トラップ板21と第2トラップ板22の幅が異なる構成であってもよい。
【0026】
《第2実施形態》
図4に示す本発明の第2実施形態では、冷却ユニット14(
図1参照)からX線管容器7に冷媒15を送り込むための管路であるX線管側冷媒送り管9に気泡トラップ20が備わる。
図4に示すように、X線管側冷媒送り管9の内壁に起立し、かつ冷媒15の流路が確保されるように、つまり、X線管側冷媒送り管9を狭めるように、例えば、2枚の気泡トラップ板(第1トラップ板21、第2トラップ板22)が配設されて気泡トラップ20が構成される。第1トラップ板21および第2トラップ板22は、互いに平行に、かつ、冷媒15の流れの方向に対して直列に配設される。
そして、第1トラップ板21および第2トラップ板22によって、X線管側冷媒送り管9において冷媒15の流路が狭まる狭路部が形成され、気泡トラップ20が構成される。
【0027】
このように構成される気泡トラップ20は、第1トラップ板21の位置(狭路部)でX線管側冷媒送り管9を狭め、その下流でX線管側冷媒送り管9を広げて、流通する冷媒15に流速差を生じさせる。さらに、その流速差によって第1トラップ板21の位置(上流)とその下流に圧力差を生じさせ、第1トラップ板21の位置に比べて、その下流を低圧にする。
【0028】
X線管側冷媒送り管9を流れる冷媒15内の気泡15aは、例えば第1トラップ板21の下流の位置(狭路部の下流の位置)で、第1実施形態と同様に破線で示す矢印のように捕捉される。また、第1トラップ板21で捕捉されない気泡15aは、下流側に配設される第2トラップ板22の下流の位置で破線で示す矢印のように捕捉される。
【0029】
このように、例えばX線管側冷媒送り管9に設けられる気泡トラップ20(第1トラップ板21、第2トラップ板22)であっても冷媒15内の気泡15aを確実に捕捉することができ、気泡15aがX線照射窓6の前面6a(
図1参照)を横切ることが抑制される。
また、第2実施形態は、気泡トラップ20の第1トラップ板21および第2トラップ板22がX線管側冷媒送り管9に配設される構成であり、例えば、X線管1(
図1参照)の、X線照射窓6(
図1参照)の上流に、
図2に示すように第1トラップ板21および第2トラップ板22を備える空間が確保できない場合であっても気泡トラップ20を備えることができる。
【0030】
なお、X線管側冷媒送り管9に限定されず、X線管側冷媒戻り管8(
図1参照)、冷却ユニット側冷媒送り管12(
図1参照)、冷却ユニット側冷媒戻り管13(
図1参照)、に気泡トラップ20を構成する第1トラップ板21および第2トラップ板22が配設される構成であってもよい。
または、X線管1の真空容器1a(
図1参照)の外周、X線管側冷媒送り管9、X線管側冷媒戻り管8、冷却ユニット側冷媒送り管12、冷却ユニット側冷媒戻り管13の2箇所以上に気泡トラップ20を構成する第1トラップ板21および第2トラップ板22が配設される構成であってもよい。
【0031】
以上、第1実施形態および第2実施形態に示すように、本発明は、X線管1(
図1参照)の真空容器1a(
図1参照)の外周やX線管側冷媒送り管9(
図4参照)の内壁に、板状の気泡トラップ板(第1トラップ板21(
図2参照)、第2トラップ板22(
図2参照))を配設するという簡単な構造で、確実に冷媒15内の気泡15a(
図3参照)を捕捉できる。
また、X線装置100(
図1参照)の位置や状態が変わっても、冷媒15内の気泡15aを確実に捕捉できる。
したがって、X線管1で発生するX線5(
図1参照)が透過するX線照射窓6の前面6a(
図1参照)を冷媒15内の気泡15aが横切ることを効果的に抑制でき、X線管容器7から出射されるX線5のX線強度が気泡の影響によって変動することを効果的に抑制できる。
【0032】
なお、気泡トラップ20(
図1参照)は、気泡トラップ板(第1トラップ板21(
図2参照)、第2トラップ板22(
図2参照))に限定されず、例えば、X線管1の真空容器1a(
図1参照)に、X線管容器7との間の冷媒流路を狭めるように形成される凸状部であってもよい。