(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5719266
(24)【登録日】2015年3月27日
(45)【発行日】2015年5月13日
(54)【発明の名称】ウイルス不活性化熱処理へ供するための血漿タンパク質の寒冷沈降物を安定化する方法
(51)【国際特許分類】
A61K 38/00 20060101AFI20150423BHJP
A61K 35/14 20150101ALI20150423BHJP
A61K 9/19 20060101ALI20150423BHJP
A61K 47/18 20060101ALI20150423BHJP
【FI】
A61K37/02
A61K35/14 Z
A61K9/19
A61K47/18
【請求項の数】10
【外国語出願】
【全頁数】16
(21)【出願番号】特願2011-209633(P2011-209633)
(22)【出願日】2011年9月26日
(62)【分割の表示】特願2006-518297(P2006-518297)の分割
【原出願日】2004年7月8日
(65)【公開番号】特開2012-51895(P2012-51895A)
(43)【公開日】2012年3月15日
【審査請求日】2011年10月26日
(31)【優先権主張番号】03/08403
(32)【優先日】2003年7月9日
(33)【優先権主張国】FR
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】500280870
【氏名又は名称】ラボラトワール、フランセ、デュ、フラクショヌマン、エ、デ、ビオテクノロジ
【氏名又は名称原語表記】LABORATOIRE FRANCAIS DU FRACTIONNEMENT ET DES BIOTECHNOLOGIES
(74)【代理人】
【識別番号】110000796
【氏名又は名称】特許業務法人三枝国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】バルダ アニー
(72)【発明者】
【氏名】ビギン エディス
【審査官】
光本 美奈子
(56)【参考文献】
【文献】
特許第0495822(JP,B2)
【文献】
特開昭63−024951(JP,A)
【文献】
特開昭64−019023(JP,A)
【文献】
特開昭62−089628(JP,A)
【文献】
特開昭58−135817(JP,A)
【文献】
特開2001−270900(JP,A)
【文献】
特開2003−055257(JP,A)
【文献】
特表平10−510257(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 38/00
A61K 9/19
A61K 35/14
A61K 47/18
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
寒冷沈降性タンパク質を得るための方法であって、
(a)第VIII因子、フォン・ビルブラント因子、第XIII因子、フィブリノーゲンおよびフィブロネクチンから選択される少なくとも1つの寒冷沈降性タンパク質の組成物を、25〜50g/lの濃度のアルギニン、少なくとも1つの疎水性アミノ酸および0.5〜12g/lの濃度のクエン酸三ナトリウムの混合物を含む安定化および可溶化製剤と接触させる工程(ただし、トリス緩衝液を含む組成物および炭水化物を含む組成物を除く。)、
(b)前記タンパク質の組成物を凍結乾燥形態に変換する工程、ならびに
(c)前記タンパク質の凍結乾燥化形態の熱処理によるウイルス不活性化工程、を包含し、
該疎水性アミノ酸が、ロイシン、イソロイシンまたはそれらの混合物であることを特徴とする、方法。
【請求項2】
前記製剤が、アルギニン、少なくとも1つの疎水性アミノ酸およびクエン酸三ナトリウムの前記混合物から構成されることを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記アルギニンの濃度が35〜45g/lであることを特徴とする、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
グリシンおよび/またはリシンが前記工程(a)の製剤にさらに添加されていることを特徴とする、請求項1〜3のいずれか1項に記載の方法。
【請求項5】
グリシンおよびリシンが、各々、1〜5g/lの濃度で存在することを特徴とする、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
グリシンおよびリシンのこれらの濃度の各々が、1.5〜2.5g/lであることを特徴とする、請求項4に記載の方法。
【請求項7】
前記工程(b)の凍結乾燥が、−40℃〜−30℃の温度で48時間行われることを特徴とする、請求項1〜6のいずれか1項に記載の方法。
【請求項8】
前記工程(c)のウイルス不活性化の熱処理が、80℃〜90℃の温度で72時間行われることを特徴とする、請求項1〜7のいずれか1項に記載の方法。
【請求項9】
前記工程(a)の前に、ウイルス不活性化ならびに/あるいは溶媒−洗浄剤によるおよび/または35nmのフィルターにおけるナノ濾過による前記寒冷沈降性タンパク質の組成物からの除去のうち少なくとも1つの工程を更に包含することを特徴とする、請求項1〜8のいずれか1項に記載の方法。
【請求項10】
請求項1〜9のいずれか1項に記載の方法によって導入された安定化および可溶化製剤を含む少なくとも1つの寒冷沈降性タンパク質の濃縮物であって、0.20±0.02μmの多孔性を有するフィルターにおいて約2ml/cm2の濾過性を有する、濃縮物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、一般的に寒冷沈降または冷アルコール沈降により、凍結乾燥工程および該凍結乾燥化プロダクトの引き続いてのウイルス不活性化の熱処理工程を使用する、血漿から寒冷沈降性タンパク質を得るための方法であって、該タンパク質の液体組成物の凍結乾燥とウイルス不活性化の熱処理後の該凍結乾燥化形態の容易な再溶解とを可能にする、安定化および可溶化製剤の添加工程を包含する方法に関する。本発明の範囲において、用語“タンパク質”は、単独のまたはこのような他のタンパク質との混合物としての、特に治療的使用のための、該タンパク質そのもの、ならびにこのようなタンパク質を含有する濃縮物およびフラクションも同様に包含することが理解される。これらの濃縮物およびフラクションは、先行技術において公知のヒトまたは動物血漿の分別方法によって得られる。また、用語“寒冷沈降性タンパク質の液体組成物”は、凍結したヒトまたは動物血漿を解凍する際のその寒冷不溶性、あるいは血漿への有機溶媒(例えば、エタノール)の添加による寒冷沈降反応時のその不溶性を特徴とする、少なくとも1つのタンパク質を含む液体組成物を意味する。
【背景技術】
【0002】
治療における使用(特に、血友病のような遺伝性出血トラブルの場合)のために、ヒト血漿から得られる治療製品(例えば、凝固因子)を使用することは、血液産物中のウイルスの存在に起因して、非常に危険にさらされ得、これは、血友病患者に高リスクである。個々のドナーの厳格な選択にもかかわらず、種々のウイルス、特に肝炎およびAIDS、ならびに未知のウイルス(これは、自らが血液産物によって伝染可能であると示し得る)の伝染の継続した危険性が存在している。
【0003】
従って、ウイルス伝染は、ドナー血漿から得られそして治療的使用に意図される種々の精製フラクションの適切な処理によって回避されるべきである。このため、血漿から得られる種々のタンパク質フラクションへ適用される種々のウイルス不活性化および除去方法が、周知である。例えば、溶媒洗浄剤処理(solvent-detergent treatmetns)、限外濾過およびナノ濾過(nanofiltration)、低温殺菌または延長加熱(extended heating)が、言及され得る。延長熱処理の場合、これは、通常、予備凍結乾燥へ供された血漿タンパク質フラクションへのみ適用され得、最適なウイルス不活性化を得るためには、50〜100時間の期間における少なくとも70℃の加熱温度を必要とする。しかし、このような厳しい熱処理条件下では、敏感でかつ熱不安定性の血漿タンパク質は分解し、これは、それらの生物学的機能の重大な減少を生じさせる。
【0004】
この欠点の解決法を見出すために、血漿タンパク質のための保護賦形剤および安定剤が、凍結乾燥前に、タンパク質の液体組成物へ前もって添加され、組み合わさった2つの目的を満たす。第一の目的は、一方で、凍結乾燥の間、考慮されるタンパク質を、そして他方で、保存の間、凍結乾燥化タンパク質を安定化させる必要性を満たし、そして第二の目的は、ウイルス不活性化の熱処理の間、凍結乾燥化タンパク質を保護する必要性に対応する。
【0005】
特許EP 0 094 611に開示されている、凍結乾燥された血漿からのタンパク質フラクション、第VIII因子またはフィブリノーゲンの加熱方法は、60℃の温度で72〜96時間、乾燥プロダクトを加熱することからなる。熱処理の間の安定化賦形剤の特定の組成物は、この特許において記載されていない。
【0006】
カナダ特許1 260 389は、68℃で約72時間の乾燥加熱に対してこれらのタンパク質
を安定化させるために、凍結乾燥前に、血漿タンパク質の液体組成物へ、80より重い分子量を有する非極性アニオンのような賦形剤(特に、糖、還元糖およびアミン酸)を組み込むことを記載している。しかし、アミノ酸と還元糖との会合は、メイラード化合物へと至り、その特性は、処理されるタンパク質の安全性(活性、免疫原性、アレルギー等)の原因とならない。この処理は、真空または不活性雰囲気において行われなければならない。
【0007】
安定化賦形剤の大部分は、30〜96時間、60℃〜68℃の温度範囲での、その乾熱処理の間、血漿タンパク質フラクションを保護すると判明し得る(P. Thomas, British Journal of Haematology, 70, 1998, 393-395およびJ.A. Levyら, The Lancet , June 22,
1985, 1456-1457)。しかしながら、これらの条件下でのこのような処理後、ウイルス力価の減少にもかかわらず、それでも感染症(例えば、HIV、HBV、HBCおよびパルボウイルスB19)が伝染され得ることが示された(前述のP. Thomas)。それらの効果
的な除去の観点から、より高温へ、凍結乾燥化血漿タンパク質フラクションを加熱することが提案された。そして、S.J.Skidmoreら(Journal of Medical Virology,
30, 1990, 50-52)は、80℃の温度で72時間の凍結乾燥化第VIII因子濃縮物の熱処理が、HCV非Aおよび非Bウイルスの伝染を回避することを示した。そして、米国特許5 831 027は、80℃の温度で72時間の、血漿の寒冷沈降物から得られた凍結乾燥化
タンパク質(フィブリノーゲン)の熱処理方法を開示しており、これは、可能なウイルス(例えば、HBV、HBCまたはパルボウイルスB19)を含まないフィブリノーゲンを得ることを可能にする。凍結乾燥およびウイルス不活性化の熱処理の両方の間、フィブリノーゲン組成物を保護するために添加される安定化賦形剤は、スクロースおよび/またはアミノ酸(アルギニン)、トリス緩衝液およびクエン酸ナトリウムを含む。L.Wilkelmanら(Virus Inactivation in Plasma Products, Curr. Stud Hematol Blood Transfus., Basel, Karger, 1989, n
o56, 55-69)はまた、凍結乾燥前および80℃で72
時間のウイルス不活性化の熱処理前に、第VIII因子への賦形剤の添加の必要性を示している。記載される賦形剤は、NaCl、クエン酸ナトリウム、トリス、CaCl
2およびスクロースである。
【0008】
その上、凍結乾燥およびウイルスの不活性化の熱処理へ供されている、血漿分別によって得られる種々のタンパク質は、それらの臨床使用の前に、好適な媒体における再構成(reconstitution)を必要とするので、これは、ヨーロッパ薬局方によって推奨される要件に従う比較的短時間で行われるのが容易であるべきである。この点において、Synthamin 17%(Travenol Laboratories Ltd.)(静脈投与に適した天然アミノ酸の混合物)を凍結乾燥前に含有する凍結乾燥化寒冷沈降物中の第VIII因子の加熱安定性の研究(J. Margolisら, The Lancet, December 8, 1984, 1345)は、80℃で16時間の
熱処理が、その活性がゼロに等しくなる程度の第VIII因子の分解に至るだけでなく、記載の工程後の該寒冷沈降物の再溶解の不可能性に至ることを示した。米国特許5 399 670は、その凍結乾燥前に第VIII因子溶液へアルギニンを添加する工程を包含する、注
射用の精製水中における凍結乾燥化第VIII因子複合体の組成物の溶解または再構成を促進する方法を開示している。この特許は、ウイルス不活性化の熱処理を記載していない。ヒスチジンおよびアルブミンの添加もまた提供され得る。前に引用した米国特許5 831 027に記載の安定化賦形剤はまた、治療的使用の前に純水中における凍結乾燥化フィブリ
ノーゲンの溶解を好むように意図されている。
【0009】
にもかかわらず、安定化製剤の選択は、血漿タンパク質の特異性によって支配されている。従って、N.Heimburgerら(Virus Inactivation in Plasma Products., Curr Stud Hematol Blood Transfus., Basel, Karger, 1989, N
o56, 23-33)による論文
を参照すると、特定の安定化製剤は、所定の問題の活性タンパク質を含有するたった1つ
のタンパク質フラクションに好適化され得ると通常考えられる。更なる困難性は、より複雑なタンパク質フラクションが考慮される場合において、特に、血漿フラクションから得られる全ての凝固および止血タンパク質が考慮される場合において見られる。更に、考慮されるフラクションが凍結乾燥され、次いで乾熱処理に供されるように意図される場合、炭水化物(特に、スクロース)は、血漿タンパク質フラクションの安定化および再溶解のための賦形剤として有効に使用され得るが、それらの効果はウイルス不活性化を減速させる(前述のN. Heimburgerら)。従って、その様式で処理されたタンパク質フラクション
は、完全にウイルスフリーではないかもしれず、そして従ってそれらの臨床使用は制限される。更には、いくつかの炭水化物(例えば、マルトースまたはスクロース)は、腎欠陥(kidney deficiency)および/または糖尿病に罹患する被験体には、安全に使用され得
ない。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
従って、凝固および止血を担ういくつかのタンパク質(特に、寒冷沈降性タンパク質)の医療的必要性を考慮して、本出願人は、寒冷沈降性タンパク質の液体組成物へ添加されると、一方で、その凍結乾燥の間および後、全ての考慮される問題の活性タンパク質に、そして他方で、ウイルス破壊に必要な熱的衝撃に対して、十分な保護を付与し、そして、同時に(in the time)、これらのタンパク質の凍結乾燥化形態の再可溶化の短縮された
時間を可能にする、治療的使用と適合性の、単純な、炭水化物フリーかつトリス緩衝液フリーの組成物を開発することを試みた。
【課題を解決するための手段】
【0011】
この目的のために、寒冷沈降性タンパク質の液体組成物へのアルギニンの添加が、凍結乾燥の間および後に保護的効果を提供すると共に、それらの凍結乾燥化形態の溶解を可能にするが、ウイルスの不活性化の熱処理に対するそれらの安定性を確実にしないことを考慮して、本出願人は、アルギニンへのその添加が熱変性に対する保護を提供する、単独または混合物の、種々の化合物を検査した。従って、本出願人は、驚くべきことに、アルギニン(非常に親水性のアミノ酸)へ、Kyteら(J. Mol. Biol., 157, 105-132, 1982
)に従う最も疎水性の酸から好ましくは選択される少なくとも1つの疎水性アミノ酸とクエン酸三ナトリウムとを添加することが、ウイルス不活性化の熱処理後の凍結乾燥化形態の可溶化の顕著な改善と共に、凍結乾燥の間および後の寒冷沈降性タンパク質の安定化を可能にすることを見出した。
【0012】
従って、本発明は、タンパク質の凍結乾燥化形態の熱処理によるウイルス不活性化工程を包含する、寒冷沈降性(cryoprecipitable)タンパク質を得るための方法であって、該タンパク質を凍結乾燥化形態へ変換する前に、該タンパク質へ、アルギニン、少なくとも1つの疎水性アミノ酸およびクエン酸三ナトリウムの混合物を含む安定化および可溶化製剤(stabilizing and solubilizing formulation)を添加する初期工程を包含することを特徴とする方法に関する。
【0013】
従って、本発明の方法における安定化および可溶化製剤の添加は、凍結乾燥およびウイルス不活性化の熱処理後、該最後の1つが厳しいとしても、血漿から得られる寒冷沈降性タンパク質の生物学的活性の満足ゆくレベルを維持することを可能にし、そして、短縮された再溶解時間を可能にすると共に、凍結乾燥化形態の再構成された溶液の透明性を保存する。その上、この製剤は、かなりの時間の節約を伴う、容易性、普遍性および工業規模での容易な実施という利点を有する。
【0014】
好ましくは、本発明の方法において使用される安定化および可溶化製剤は、前記アルギニン、少なくとも1つの疎水性アミノ酸およびクエン酸三ナトリウムの比類のない混合物
から構成される。これら3つの化合物からもっぱら構成されるこのような製剤は、最小であるが有効な数の添加物の存在のおかげで、特に、工業規模における製造の減少された時間および費用を伴うという利点を示す。
【0015】
任意の疎水性アミノ酸(前述のKyteらに従う)、例えば、バリンおよびフェニルアラニンが、本発明の枠内において好適であるが、有利な選択はロイシン、イソロイシンまたはそれらの混合物である。
【0016】
安定化および可溶化製剤はまた、一方で、上述の処理前に寒冷沈降性タンパク質の液体組成物のpHを調節することを可能にし、そして、他方で、その保護効果を増大させることを可能にするクエン酸三ナトリウムを含有する(但し、濃度が調節される)。
【0017】
最後に、グリシンおよび/またはリシンが、該安定化および可溶化製剤に更に添加され得る。
【0018】
また、必要であれば、当該分野において公知の安定化添加剤(stabilizing additives
)が添加され得る。
【0019】
本発明の文脈において、問題の3成分の混合物を含む安定化および可溶化製剤は、寒冷沈降性タンパク質の液体組成物へ添加され得るか、あるいは、寒冷沈降性タンパク質が、問題の3成分の混合物を含む該製剤の水溶液に溶解され得る。
【0020】
該安定化製剤のために考慮される種々の添加剤の濃度は、期待される安定化効果を得る目的をもって当業者によって選択される。有利には、寒冷沈降性タンパク質の液体組成物1リットル当たりの各添加剤の濃度は、以下である:
− アルギニン、25〜50g/lそして好ましくは35〜45g/l(米国特許5 399 670を参照);
− クエン酸三ナトリウム、0.5〜約12g/l;
− ロイシン、イソロイシンおよびそれらの混合物、5〜15g/l、そして好ましくは9〜11g/l;ならびに
− グリシンおよび/またはリシン、各々、1〜5g/l、そして好ましくは1.5〜2.5g/l。
【0021】
本発明の枠内において、タンパク質の予め凍結された液体組成物の凍結乾燥は、当業者に公知の実施条件に従って、現在の装置を使用しての従来の方法に従って行われる。有利には、凍結乾燥は、−40℃〜−30℃の温度で約48時間行われる。
【0022】
ウイルス不活性化の熱処理は、ウイルスを効果的に不活性化するような様式で行われる。それは、好ましくは、80℃〜90℃の温度で72時間行われる。
【0023】
ウイルス不活性化の熱処理は、ウイルスフリー凍結乾燥化プロダクトを得ることを可能にするが、該方法は、ウイルスの全体のおよび完全な不活性化および除去を最終的に確実にするために、寒冷沈降性タンパク質の液体組成物への安定化および可溶化製剤の添加の工程の前に、少なくとも1つの追加のウイルス不活性化ならびに/あるいは溶媒洗浄剤および/またはナノ濾過(例えば、35nmのフィルターにおける)による該液体組成物の除去工程を包含し得る。
【0024】
従って、該方法の実施は、凍結乾燥化およびウイルス不活性化寒冷沈降性タンパク質へと導き、これは、液体の薬学的に適合性の媒体(例えば、注射用精製水)中に一旦再構成されると、患者へ直接注射され得る。この寒冷沈降性タンパク質の治療品質は、該安定化
および可溶化製剤のおかげで得られ、これは、全ての上述の処理(特に、ウイルス不活性化および除去処理)の使用を可能にすると共に、これらの処理された寒冷沈降性タンパク質の生物学的活性および該凍結乾燥化形態の溶解特性が維持される。
【0025】
本発明の方法に従って使用される安定化および可溶化製剤は、当業者に公知の血漿分別法によって得られる、寒冷沈降性タンパク質(例えば、第VIII因子、フォン・ビルブラント因子、第XIII因子、フィブリノーゲンおよびフィブロネクチン)に適用する。該安定化および可溶化製剤はまた、Wickerhauserら(Vox Sang., 35, 18-31, 1978)によって記載されるような、トリス緩衝液における可溶化/抽出およびアルミナゲルにおける吸着によって例えば得られる、半精製タンパク質の種々の濃縮物に適用する。第VIII因子およびフォン・ビルブラント因子に富む、このようにして得られる濃縮物は、特許EP 0 094 611に開示される条件下で加熱され得る。
【0026】
この製剤はまた、凝固因子の各々に富む精製タンパク質またはフラクション(例えば、例えば特許EP 0 359 593に開示されているクロマトグラフィー方法の実施後に特に得られるもの)の安定化および可溶化に好適であり、その後凍結乾燥されそしてウイルス不活性化の熱処理に供される。その上、この製剤は、Kislerら(Vox Sang., 7, 1962, 414-424)によって記載されるような、冷アルコール沈降反応(cold alcohol precipitation)によって血漿の寒冷沈降物からまたは血漿から得られる精製フィブリノーゲンの安定
化に好適である。本発明の文脈において、当業者に公知の任意の分別技術による寒冷沈降物からのフィブリノーゲンの精製の間、その治療的活性に損傷を与えない、低含有量の第XIII因子(FXIII)が常に伴うことに注意すべきである。
【0027】
この方法は、特に有利であり、何故ならば、それが、全ての寒冷沈降性タンパク質、あるいはそれから、そして特に、第VIII因子、フォン・ビルブラント因子、第XIII因子、フィブリノーゲンおよびフィブロネクチンから選択される少なくとも1つのタンパク質に適用され得るためである。
【0028】
本発明はまた、本発明の方法に従って安定化および可溶化製剤を含む、特に治療的使用のための、少なくとも1つの寒冷沈降性タンパク質の濃縮物に関する。
【0029】
最後に、本発明は、アルギニン、少なくとも1つの疎水性アミノ酸およびクエン酸三ナトリウムの混合物を含む、凍結乾燥およびウイルス不活性化の熱処理へ供されるように意図された寒冷沈降性タンパク質のための安定化および可溶化製剤に関する。好ましくは、該安定化および可溶化製剤は、アルギニン、少なくとも1つの疎水性アミノ酸およびクエン酸三ナトリウムの混合物から構成される。
【0030】
以下の実施例は、その範囲を限定することなく、本発明を示す。
【実施例】
【0031】
実施例1
大部分について第VIII因子、フォン・ビルブラント因子、第XIII因子、フィブリノーゲンおよびフィブロネクチンからなる寒冷沈降物を、表1に与えられる化合物の混合物を含む本発明の安定化および可溶化製剤(溶液A)中に再溶解させた。タンパク質の濃度は約15g/lである。
【0032】
【表1】
【0033】
該混合物の均質化後、このようにして得られる溶液を、0.45μmのフィルターで濾過し、そして5mlを採取してそしてバイアルに入れる。その後、該溶液を、−30℃で48時間、凍結乾燥に供する。それを、前者のものと同一の寒冷沈降物[しかし、これは、それぞれトリス(2.4g/l)、クエン酸三ナトリウム(5.88g/l)およびNaCl(1.16g/l)の混合物を含む標準製剤(溶液B)中に再溶解させた]を含む参照溶液を用いて、同様に処理する。
【0034】
凍結乾燥に続いて、両方の得られた凍結乾燥化寒冷沈降物(即ち、一方は、本発明の製剤を含み、そして他方は、標準製剤を含む)を、注射用の精製水5mlに再溶解させる(それぞれ、溶液A’および溶液B’と呼ぶ)。次いで、得られた凍結乾燥化形態の可溶化と共に、凍結乾燥間、全体としての考慮されるタンパク質を保護または安定化する標準製剤の能力および本発明のそれを評価するために、実験を行った。その目的のために、当業者に公知の方法によって、種々のタンパク質の活性および量と共に、以下の3つのパラメータを、各溶液A’およびB’について評価する:再溶解前の凍結乾燥化形態の外観、注射用の精製水中における凍結乾燥化形態の再溶解時間、およびこのようにして得られる溶液の濁度。種々の測定結果を表2に示し、表中、容積の単位は、注射用の精製水5mlで再構成された凍結乾燥化プロダクトの溶液に関する。
【0035】
【表2】
【0036】
得られた結果は、まず第一に、寒冷沈降性タンパク質への本発明の製剤(溶液A)の添加は、標準製剤(溶液B)と比較して、凍結乾燥化形態の再溶解時間を顕著に減少させる(約40%)ことを可能にすることを示している。また、製剤Aは、濁度のよりよい結果をもたらし、このことは、溶液Bと比較して、水に不溶性の分解産物の減少された存在を示唆していることが言及される。両方の場合において、溶液AおよびBは、凍結乾燥後、考慮されるタンパク質の同一の量および活性を全体で回復させる。
【0037】
実施例2
上述の寒冷沈降物からの凍結乾燥化タンパク質の両方(即ち、一方は、本発明の製剤を含み、そして他方は標準製剤を含む)を、80℃で72時間、乾燥加熱する。本発明の製剤(溶液A)を含む寒冷沈降物の加熱された凍結乾燥化タンパク質を、注射用の精製水5mlにおいて再構成する(溶液A”)。標準製剤(溶液B)を含む寒冷沈降物の加熱された凍結乾燥化タンパク質は、再溶解できないことが言及される。この再溶解の不可能性は、加熱変性されたそして不溶性のタンパク質の存在によって説明され得、これは、溶液Bは、熱処理の間これらのタンパク質を安定化しないことの指標である。しかし、実施例1のそれらの凍結乾燥化形態を用いて行われたウイルス不活性化の熱処理後も、考慮されるタンパク質の全体を安定化および可溶化する、本発明の製剤の能力を評価するために、実施例1におけるように、同一の実験を行う。測定の種々の結果を表3に示し、表中、容積の単位は、精製された注射用水5mlで再構成された凍結乾燥化プロダクトの溶液に関する。
【0038】
【表3】
【0039】
それぞれ表1および2から引き出される溶液A’およびA”について得られた測定結果の比較は、驚くべきことに、溶液A(本発明の製剤)は、それらの生物学的機能の顕著な損失無しに、凍結乾燥後に得られるものと比較して、熱処理されたタンパク質の再溶解に必要な時間を非常に大きく減少(約50%)させることを可能にすることを示している。
【0040】
実施例3
Kistlerらの方法によって寒冷沈降物から単離および精製されたフィブリノーゲンのバッチを、クエン酸三ナトリウム(2.5g/l)、リシン(2g/l)およびグリシン(2g/l)の混合物から構成されるコントロール製剤(溶液C)中に、15g/lの割合で溶解させた。フィブリノーゲンの濃縮溶液をこのようにして得る。種々のアミノ酸をこの溶液へ添加して、加熱の前および後の凍結乾燥化フィブリノーゲンの再溶解時間に対するそれらの影響を研究する。アミノ酸の得られる溶液および濃度を、表4に示す。
【0041】
【表4】
【0042】
その後、種々の溶液(溶液C〜C5)を濾過し、そして各溶液10mlを、実施例1に従う凍結乾燥および熱処理に供する。それぞれの凍結乾燥化プロダクトを、注射用の精製水10mlに溶解し、そして該凍結乾燥化プロダクトの完全な再溶解に必要な時間を測定する。結果を表5に示す。
【0043】
【表5】
【0044】
結果は、本発明の溶液C5が、最短時間の再溶解を生じさせることを示している。
【0045】
また、添加されるアミノ酸の性質に依存して、考慮されるフィブリノーゲン溶液が凍結乾燥および該乾燥形態の加熱の間安定化される能力を示すために、前述の再構成された溶液の濁度測定を行った。表6は、凍結乾燥された溶液C〜C5の加熱前および加熱後の濁度の測定値を示している。
【0046】
【表6】
【0047】
結果は、疑いの余地無く、本発明の製剤(溶液C5)が、加熱の前および後で、再構成された溶液の濁度の最小の差異をもたらすことを示しており、それは、その増加が42.9%である溶液Cと比較して、たった8.2%増加した。
【0048】
実施例4
フィブリノーゲンの他のバッチを含有する、実施例3からの溶液C、C3およびC5を、凍結乾燥し、そして80℃で72時間加熱する。その後、対応の凍結乾燥化形態を、注射用精製水10mlに溶解し、そして、当業者に公知の方法によって、以下のパラメータを測定する:
再溶解時間、不溶性マルチマー(multimers)の量、濁度および再構成された溶液の濾
過性(filterability)。特に濾過性は、タンパク質(本ケースにおいてはフィブリノー
ゲン)の変性度(degree of denaturation)を評価することを可能にするが、粒子、フィブリル(fibrils)またはマルチマーの量に比例し得る変性の因子を規定することは可能
にしない。同様に、マルチマー含有量はまた、フィブリノーゲンの変性度に比例し、そして電気泳動(SDSPage)によって測定される。濾過性分析は、試験される溶液を10ml含有する注射器を使用して、該溶液の滅菌を確実にするために十分な多孔性を有するフィルター(即ち、0.20±0.02μmのものでありそして25mm直径のもの)によって回収され濾過された溶液の容積の測定からなる。回収され濾過された容積は、分解産物による該フィルターの詰まりの重要性を表している。従って、回収される容積が多いほど、フィブリノーゲンの分解はより低い。種々の測定結果を、表7に示す。
【0049】
【表7】
【0050】
4つの上記で分析されたパラメータは、本発明の製剤(溶液C5)が、加熱されたフィブリノーゲンの凍結乾燥化形態の安定化および再溶解に特に好適であることを示唆している。再構成された凍結乾燥化フィブリノーゲンは、約2ml/cm
2のフィルターの表面に関連する濾過性を有している。
【0051】
熱処理の厳しい条件下でさえ、フィブリノーゲンに関しての本発明に従う溶液C5の安定化および可溶化力を実証するために、フィブリノーゲンの種々のバッチを含有する溶液C3およびC5を、凍結乾燥し、そして90℃で72時間加熱した。上記の4つのパラメータの検査に加えて、フィブリノーゲンの分解産物(degradation products of fibrinogen;DPF)の量の測定からなる追加の分析を行った。この実施例の枠内において、DPF(μ/ml)は、フィブリノーゲンの変性時に生成される種々のサイズのペプチドである。この値が高いほど、その分解が高く、そして例えば血餅(clots)を形成しやすくな
る。種々の測定結果を、表8に示す。
【0052】
【表8】
【0053】
上記の結果は、非常に厳しい加熱条件にもかかわらず、本発明の製剤(溶液C5)が、凍結乾燥および90℃で72時間の熱処理後、依然として、フィブリノーゲンの保護を与えそして可溶化を可能にすることを実証しており、これは、検査されたパラメータの良好
な値で示されている。再構成されたフィブリノーゲンの凍結乾燥化形態はまた、約2ml/cm
2のフィルターの表面に関連する濾過性を有している。
【0054】
実施例5
この実施例は、凍結乾燥されそして80℃で72時間加熱されるように意図されるフィブリノーゲン溶液の安定化および可溶化に対する、本発明の製剤(溶液A)中に含有されるクエン酸三ナトリウムの濃度の影響に関する。寒冷沈降物から得られるフィブリノーゲンのバッチを、溶液A(ここで、クエン酸三ナトリウムの濃度は、溶液ごとに異なった)中において15g/lの割合で可溶化しそして均質化した。それぞれ0.5g/l、1g/l、2g/lおよび11.2g/lのクエン酸三ナトリウムを含有する、それぞれ溶液A1、A2、A3およびA4という4つの溶液が得られた。その後、これらの溶液を実施例1に記載のように濾過し、そして各溶液5mlを採取してそしてバイアルに入れた。フィブリノーゲンを含有する上記4つの溶液を、実施例1に記載される凍結乾燥および熱処理に供した。その後、一方で、4つの非加熱の凍結乾燥化フィブリノーゲンを、そして他方で、加熱したものを、注射用精製水5mlに再溶解し、上記4つの溶液A1、A2、A3およびA4を作製した。いずれの前処理にも供されていない溶液(コントロール溶液に対応する)と比較しての、凍結乾燥の間フィブリノーゲンを保護しそして該凍結乾燥化形態の加熱後それを可溶化させる能力に対する、本発明の製剤中のクエン酸三ナトリウムの濃度の影響を評価するために、実験を行った。その目的のために、当業者に公知の方法によって、以下のパラメータを、各溶液A1、A2、A3およびA4について測定する:注射用精製水中における凍結乾燥化形態の再溶解時間、このようにして得られる溶液の濁度、不溶性マルチマーの量、フィブリノーゲンの重量および凝固性フィブリノーゲンの量。種々の測定結果を表9に示し、表中、容積の単位は、注射用精製水5mlで再構成された凍結乾燥化プロダクトの溶液に関する。
【0055】
【表9】
【0056】
得られた結果は、本発明の上記製剤の1つにおけるクエン酸三ナトリウムの0.5〜約12g/lの値の範囲において選択される濃度は、コントロール溶液と比較して、凍結乾燥および熱処理の間のフィブリノーゲンの満足いく安定化を可能にするだけでなく、乾燥加熱されたフィブリノーゲンと比較して、凍結乾燥されたフィブリノーゲンの再溶解の全
体的に同一の時間を維持することを可能にすることを示している。
【0057】
実施例6
この実施例は、一方で凍結乾燥される、そして他方で80℃で72時間加熱される、フィブリノーゲン溶液中に含有される第XIII因子の安定化に対する、本発明に従う製剤(溶液A)中に含有されるクエン酸三ナトリウムの濃度の影響に関する。寒冷沈降物から得られたこれら2つのタンパク質を、それぞれ2.5g/l(溶液A)および11.2g/l(溶液A4)のクエン酸三ナトリウムを含有する本発明(実施例1)に従う2つの製剤中において、15g/lの割合で再溶解し(フィブリノーゲン+第XIII因子)、そして均質化した。凍結乾燥前に、溶液AおよびA4を、実施例1に記載の処理に供した。フィブリノーゲンおよび第XIII因子の凍結乾燥化形態の両方(一方で加熱せず、そして他方で加熱した)を、その後、注射用精製水5mlに再溶解して、上記溶液AおよびA4の両方を作製した。伝統的な分析方法によって、IU/ml(注射用精製水)で表されるFXIIIおよびIU/mlで表されるFXIII−抗原の活性、ならびにFXIII:FXIII−抗原の活性の割合(Rと呼ぶ)を測定した。種々の測定結果を、表10に示す。
【0058】
【表10】
【0059】
結果は、熱処理されなかった凍結乾燥化形態と比較して、熱処理された場合の各凍結乾燥化形態について、割合Rの僅かな減少を示している。更に、割合Rの減少は、該クエン酸塩含有量が高い場合ほど、より重要性が低いことが言及される。更には、この表は、1つの溶液のクエン酸塩の濃度が他のものと比較して増加する場合(この場合、溶液AおよびA4)、およびこれらが凍結乾燥される場合、割合Rもまた増加することを表している。同一の現象が、凍結乾燥化形態が加熱される場合に言及される。従って、クエン酸塩の濃度は、FXIIIの安定化に影響を与え、これはまた、種々の活性の値によって実証される。
【0060】
実施例7
この実施例において、実施例5に従って調製された4つの溶液を、凍結乾燥および熱処理(80℃で72時間)後に再構成する。以下の表11は、IU/ml(注射用精製水)で表されるFXIII活性およびIU/mlで表されるFXIII−抗原、ならびに活性FXIII:FXIII−抗原の割合(Rと呼ぶ)の測定値を示しており、溶液中のクエン酸塩濃度の変化に依存している。
【0061】
【表11】
【0062】
得られた結果は、本発明の製剤中のクエン酸三ナトリウムの濃度が高いほど、FXIIIの分解が低いということを示している。