【実施例】
【0112】
実施例1:変異体、発現ベクターの構築および細胞系の創製
変異体p185種、発現ベクターおよび細胞系の構築のための詳細な方法は以前に記載された(それぞれ引用により編入される、Qianら、Proc.Natl.Acad.Sci.USA,1994,91,1500;およびWeinerら、Oncogene,1989,4,1175)。
変異体N757の構築
ATP結合変異体Nneu K757M(N757)はサブクローニング技術によりpSV2TneuK757M(引用により編入されるWeinerら、Oncogene,1989,4,1175)から誘導した。この構築物は、部位特異的変異導入によりLys757をMetで置換して製造した。当業者は、部位特異的変異導入によるそのような変異体の製造を容易に理解するはずである。簡単に言えば、公表されたヌクレオチド配列の可能なATP結合部位をまたぐ1.2kbのバンドに対応するpSV2neuTのXbaI断片をM13Mp18にクローニングして、大腸菌株CJ236(dot−,ung−)pU13にトランスフェクトして、その結果ポリリンカーのHindIII部位が挿入された配列の5’末端に落ちた。変異導入は、LysをコードするコドンAAGをMetのコドンに相当するAUGに置換えるプライマーを利用して記載されるとおりに実施した(引用により編入される、Bargmannら、Nature,1986,319,226)。そうして創製された点変異はDNA配列決定により確認された。新規な変異を有するこのプラスミドをXbaIで切断してオリジナルの断片を遊離した。この断片を当業者には公知の標準技術により単離してpSV2−neuに戻して連結することにより、オンコジーンp185neu発現ベクターを再生したが、該ベクターはアミノ酸757においてLysに代えてMetの置換を含んだ(クローンM757)。
変異体N691停止の構築
カルボキシル末端591のアミノ酸の欠失した変異体N691停止は、pSV2Neu(引用により編入される、Bargmannら、Nature,1986,319,226)から、部位特異的変異導入により通常のコドンThr691を停止コドンに置換することにより誘導した。
Ndxの構築
カルボキシル末端541アミノ酸を欠失した変異体Ndxは、c−neu cDNAから、部位特異的変異導入を用いて、XbaI断片の欠失と741位の正常なコドンに代えた停止コドンの挿入により誘導した。
発現ベクターの構築
発現ベクターに関しては、pSV2DHFRからのマウスジヒドロフォレートレダクターゼ(DHFR)cDNAおよびpSV2NEOからのバクテリアネオマイシンホスホトランスフェラーゼ耐性遺伝子(neor)を含む断片(引用により編入される、Sourthernら、J.Mol.Appl.Genet.,1982,1,327)をpSV2Nneuにサブクローン化して、14.8kd DHFR,neor,およびNneu cDNAを組み合わせたベクターを生成した。野生型および変異neuの断片を単離してpSV2neor/dhfr/Nneu発現ベクターに戻して連結した。これらのcDNAの全てはシミアンウイルス40(SV40)遺伝子の初期プロモーター制御下にあった。ヘルペスシンプレックスウイルスチミジンキナーゼプロモーター制御下のバクテリアハイグロマイシン耐性(Hygr)遺伝子をコードする遺伝子ユニットをpHygから単離して、pEGFR1(引用により編入される、Gormanら、J.Cell.Biochem.,1988,12A.Suppl.,C219)内のneor遺伝子断片を置換することにより、他の組み合わせ発現ベクターpEGFR/Hygrを生成した。ヒトEGFR cDNAはSRαの制御下であり、SV40の初期プロモーターを含む効率的転写制御要素およびヒトT細胞白血病ウイルスタイプ1のロングターミナルリピートのR−U5セグメントであった(引用により編入される、Takebeら、Mol.Cell.Biol.,1988,8,466)。
細胞系のトランスフェクションおよび保持
構築物pEGFR/Hygrを最初にリン酸カルシウム沈殿法によりNR6細胞(引用により編入される、Prussら、Proc.Natl.Acad.Sci.USA,1977,74,3918)にトランスフェクトした。ハイグロマイシン選択(35μg/ml)の3週間後、その結果のコロニーのEGFR発現を抗−EGFRイムノブロッティングにより同定した。EGFRを発現した細胞は、cDNA発現ベクターを用いた第2ラウンドのトランスフェクション前に、限定希釈法によりさらにクローン化した。NE91と称されるEGFR−発現細胞をNR6と共に、野生型または変異体neu蛋白質をコードするpSV2neor/dhfr/neuによりトランスフェクトして、G418で選択した。NR6細胞およびNE91細胞内のNeu−発現クローンを抗−neuモノクローナル抗体7.16.4染色を用いてフローサイトメトリーアッセイによりスクリーンし(引用により編入される、Drebinら、Cell,1985,41,695)、そしてそれぞれNR6 NeuおよびNE Neuと名付けた。これらのDHFR−含有単一(Neuのみを発現)または二重(NeuとEGFRを発現)トランスフェクトクローンは、5%胎児ウシ血清、G418(0.3mg/ml)、およびハイグロマイシン(15μg/ml)を含むダルベッコ修飾イーグル培地(DMEM)中に保持した。Neuの増幅は、数カ月かけて段階的な増加投薬量(0.3−1.0μM)のメトトレキセートにより達成して、受容体発現レベルを上昇させた。
フローサイトメトリー
細胞は、バッファー化EDTAを用いて組織培養皿から取り出し(Versene,M.A.Bioproducts)、そしてFACS培地中で2回洗浄した(2%胎児ウシ血清。0.2%アジ化ナトリウム、および10mM HEPESを追加したハンクスバランス化塩溶液(ギブコ))。1X106の細胞を0.1mlのFACS培地中で7.16.4抗neuモノクローナル抗体(引用により編入される、Drebinら、Cell,1985,41,695)またはアイソタイプ適合の無関係な対照抗体と共に1時間4℃においてインキュベートした。細胞を2回2.5mlのFACS培地で洗浄した。細胞沈殿物を懸濁して、細胞を、FACS培地中で1:50希釈した0.1mlのFITC−配合ヤギウサギ抗−マウスIgG(抗体の重鎖および軽鎖と反応性、Tago)と1時間4℃においてインキュベートした。細胞を2回洗浄して、FACS IVベクトンディッキンソン上で分析した。
実施例2:チロシンキナーゼ活性
膜精製
引用により編入されるGaultonら、J.Immunol.,1986,7,2470に記載されたとおりに、スナップ凍結−解凍およびドウンスホモジェナイゼーションの組み合わせにより細胞を溶解した。核画分を2000Xg、5分間の遠心分離により除去した。2000Xg上清画分は次に25000Xg、30分間、4℃において遠心分離し、そして25000Xg上清を細胞質画分として保存した。沈殿物は1.5mlの膜バッファー(40mM NaCl,0.1mM EDTA,20mM HEPES(pH6.8),2mM PMSFおよび5mM Naピロリン酸)中に再度溶解して、次に膜バッファー上の(20%−37%)蔗糖溶液上に重層して、ベックマンSW50.1ローターを用いて22000rpm、18時間2℃にて遠心分離した。膜富裕境界を1mlの全体積にて取り出し、10mlの膜バッファーで希釈し、そしてSW40.1ローターを用いることにより40000rpm、60分間遠心分離したが、引用により編入されるZickら、Biochem.Biophys.Res.Commun.,1984,119,6に記載されるとおりである。精製された膜画分を含むその結果の沈殿物を107オリジナル細胞あたり100μlのキナーゼバッファー(以下参照)に再度溶解した。膜蛋白質はバイオラッドプロテインアッセイキットを用いて定量して、アッセイまで−80℃にて保存した。
膜中のチロシンキナーゼ活性
膜濃度は、引用により編入されるGaultonら、J.Immunol.,1986,7,2470に記載されたとおり、Bradfordの方法により測定した。チロシンリン酸化の特異的インディケーターとしてチロシンを含む合成ポリペプチドの存在または不在下で、膜の希釈物を4重にインキュベートした。キナーゼ反応バッファー(50μlの0.1M Hepes pH7.3,10mM MgCl2,5mM MnCl2,50μM Na3VO4)をATP(1μCiのガンマ[32P]ATP;アマシャム)存在下で室温において5分間インキュベートした。5mM EDTA(最終濃度)を加えて直後にグラスファイバーフィルター(ワットマンGF/C)上にTCA免疫沈殿することにより、反応を停止した。フィルターは、TCAにより広範囲に洗浄し、次にエーテルで洗浄し、空気乾燥し、シンチレーションカクテル(Biofluor)に浸し、そしてベータ放射を測定した。チロシン含有基質の不在下でアッセイされた4重のウエルをチロシン基質含有ウエルから差し引いた。
【0113】
引用により編入される、Zickら、Biochem.Biophys.Res.Commun.,1984,119,6に記載されるとおり膜蛋白質をグルタミン酸−チロシン(4:1)ポリglu:tyr,PGTのランダムポリマーをチロシンリン酸化の基質としてインキュベートした。簡単に言えば、膜蛋白質を、10mM MgCl2,100μM Na3VO4および150μM(10μCi)[32P]ATPを含む50μlの10mM HEPES pH7.2中で15分間室温において2.5mg/mlのポリglu:tyr基質存在(特異的)または不在(バックグラウンド)下でインキュベートした。EDTAを50mM最終濃度まで添加してコールドの過剰ATPを添加することにより反応を停止して、サンプルをワットマングラスファイバーフィルターペーパー上にスポットした。フィルターは10mMのピロリン酸および1mM ATPを含む氷冷10%TCAで3回洗浄して、次にアセテートで洗浄した。次に、サンプルを乾燥してBioFluor(NEN)中で計数した。リン酸化チロシン含有膜蛋白質の免疫沈殿のため、50μgの精製蛋白質を上記のとおりキナーゼバッファーと15分間インキュベートした。標識後、サンプルを5mM EDTA追加溶解バッファー中に溶解して、プレクリアーし、そしてMA−2G8A6からの2μlの腹水+プロテインAアガロースで免疫沈殿した。引用により編入される、Danielら、Proc.Natl.Acad.Sci.USA,1985,82,2084に記載されたとおり、MA−2G8抗体はリン酸化チロシン標識ポリペプチドを特異的に沈殿させる。
実施例3:p185またはEGFRとのダイマー形成
EGFRおよびp185ヘテロダイマーは、EGFおよび化学物質架橋リンカー処理後に、抗受容体特異的抗体免疫沈殿およびイムノブロッティングにより検出する。EGFRとキナーゼ欠損p185蛋白質の物理的対合をこの様式において試験した。
化学物質架橋連結アッセイ
細胞を、一晩10cmペトリ皿中で培養し、EGF(GIBCO/BRL)存在または不在にて37℃において10−15分間インキュベートし、そして冷やしたリン酸バッファー塩(PBS)で2回洗浄した。2mMビス(スルフォサクシニミジル)スベレート(BS3)または3,3’−ジチオビス(スルフォサクシニミジルプロピオネート)(DTSSP)(ピアス)含む3mlのPBSを加えて、プレートの時おりの揺り動かしを伴い、18℃において30分間インキュベートした。クエンチング後に、10mM Tris−HCl,0.9%NaCl、および0.1Mグリシンを含むバッファーと共に架橋反応混合物を2回冷やしたPBSで洗浄して、PI/RIPAバッファーで可溶化した(引用により編入される、Wadaら、Cell,1990,61,1339)。
標識と免疫沈殿
全ての試薬は他に示す以外はシグマ社から得た。[32P]−標識に関しては1X106細胞をプレートして24時間培養し、そして5% FCS/リン酸−不含RPMI中で0.5mCi/mlにて無機[32P](アマシャム)と6時間インキュベートした。標識後、細胞を、400μM EDTA,10mMフッ化ナトリウム、10mMピロリン酸ナトリウムおよび400μMオルトバナジン酸ナトリウムを含む冷却したリン酸バッファー塩で洗浄し、そして溶解バッファー(1% NP40,0.1%デオキシコレート、0.1% SDS,0.15M NaCl,0.01Mリン酸ナトリウムpH7.4,1%トラジロール,1mM PMSF,2mM EDTA,10mM フッ化ナトリウム、10mM ピロリン酸ナトリウム、400μM Na3VO4,10mM ヨードアセトアミドおよび1mM ATP)中で30分間溶解した。プレクリアされた上清を、モノクローナル抗体7.16.4またはヒトおよびラットのneu蛋白質DBW−2を認識するウサギ抗血清で免疫沈殿した(引用により編入される、Kokaiら、Proc.Natl.Acad.Sci.USA,1988,84,8498)。免疫沈殿物はレムリサンプルバッファー中でボイルし、そして8%SDS−PAGEにて分析した(引用により編入される、Laemmli,Nature,1970,227,680)。乾燥したゲルを、予めかぶらせたフィルムに−70℃において暴露した。ゲルのデンシトメーターによるトレーシングはHoefer GS300スキャニングデンシトメーター上で実施した。相対的な密度は、平行実験において関係のあるスキャンされたピークを切り出して分析用秤でそれらを秤量することにより測定した。プロトオンコジーンおよびオンコジーン性p185neuの取り込みを次に直接比較した。
病巣形成および腫瘍原性アッセイ
細胞(104)をペトリ皿にプレートして、2%を含むDMEM中で培養した。培地を3−4日毎に変えた。培養3週間後に細胞を10%ホルマリンで固定してヘマトキシリンで染色することにより、形態的に形質転換された病巣を観察した。無胸腺ヌードマウス中の腫瘍細胞を分析するため、各系の細胞(106)を0.1mlのPBSに懸濁してNCRヌードマウスの背中の真ん中に皮内注射した。PBSのみも対照として注射した。腫瘍の成長は4−5日から10−12週毎に監視した。
結果
NE91はNR6細胞内でEGFRを発現するトランスフェクト細胞(引用により編入される、Prussら、Proc.Natl.Acad.Sci,USA,1977,74,3918)であり、内因性EGFRを欠くマウス繊維芽細胞系である。野生型(WT)細胞性p185(Nneu)またはキナーゼ欠損Neu(即ちN757およびN691停止、それぞれATP−結合ドメインにて点変異K757Mを、および細胞質性ドメイン欠損を有する)はNR6およびNE91細胞の両方で発現された。その結果のトランスフェクトクローンを、それぞれNR6 NeuまたはNE Neuと名付けた。
細胞形質転換におけるEGFR機能を抑圧され且つEGFRとの形質転換相乗を廃止されたキナーゼ欠損変異体neu蛋白質
我々は、以前に、M1細胞系において証明したように、EGFRと細胞性p185の増加したレベルのの同時発現はマウス繊維芽細胞を完全に形質転換したことを示した(引用により編入される、Kokaiら、Cell,1989,58,287)。本研究においては、EGF存在または不在下でWTまたはキナーゼ欠損Neu蛋白質を発現するこれらのトランスフェクト細胞の形質転換された表現型を分析した。
【0114】
EGFRのみを発現するNE91細胞はEGF不在下で単層を形成し、EGF存在下で病巣を形成した。観察された不完全な形質転換(即ち、EGF−依存性様式)は以前の報告と一致する(各々引用により編入される、DiFioreら、Cell,1987,51,1063;Dobashiら、Proc.Natl.Acad.Sci.USA,1991,88,8582)。しかしながら、M1細胞と類似の様式において、NE NneuB2細胞におけるWT細胞性p185とEGFRの同時発現は完全な形質転換をもたらし、即ち、病巣形成はEGF−依存性であった。いずれかの形態のキナーゼ欠損NeuとEGFRを同時発現する細胞系(NE N757およびNE N691停止細胞)はEGF存在下においても病巣を形成しなかった。同様な結果はソフトアガー中での足場(anchorage)−非依存性コロニー成長をアッセイした時に観察された。
【0115】
ヌードマウスにおける腫瘍成長はインビボにおける完全形質転換の基準として用いられた。オンコジーンp185を発現するB104−1−1細胞は陽性対照として用いて、それらの細胞により引き起こされる腫瘍は見かけ上素早かった(5日の潜伏期を伴って)。均等なレベルのEGFR(NE91)または細胞性p185(NR6 Nneu)を発現する細胞のみは腫瘍は成長しなかった。しかしながら、EGFRと細胞性p185を共に発現する細胞の注射(M1およびNE NneuB2)は腫瘍を引き起こさなかった(2−3週間の潜伏期)。結果は以前の結果と一致した(引用により編入される、Kokaiら、Cell,1989,58,287)。
【0116】
しかしながら、キナーゼ欠損Neuのみを発現する細胞系またはEGFRと同時発現する細胞系の注射後は、腫瘍は観察されなかった(>10週)。これらのデータは、正常な細胞性p185キナーゼ活性とEGFR機能は相乗形質転換と腫瘍形成に必要であったことを示唆した。キナーゼ欠損Neu蛋白質のEGFRとの同時発現はこの種の相乗を廃止したのみならず、EGFRのEGF−依存性形質転換能力を抑圧した。よって、リガンド刺激により媒介されるEGF受容体機能をさらに以下の研究において分析した。
EGF−誘導受容体ダウン制御はneuキナーゼ欠損変異体細胞においてほとんど有効でなかった
我々は、次に、正常な受容体のダウン制御がキナーゼ欠損Neuとの同時発現により影響されたか否かを試験した。抗−neu mAb 7.16.4または抗−EGFR mAb 425を用いた細胞表面染色、続くFITCコンジュゲート抗−マウス−IgGを用いた染色前に、細胞を様々な時間EGFとインキュベートした。何れかの受容体の細胞表面発現はフローサイトメトリーを用いて分析した。NE91細胞内のEGFRの細胞表面発現はEGF処置から15分後に低下し、60%を超える受容体が処置1時間後に細胞表面から消えた。M1細胞(WT NeuとEGFRを同時に発現する)内のEGFRダウン制御の効率は、NE91細胞において観察されたのと同様であった。約20%の細胞性p185がM1細胞においてEGFRと共にダウン制御した。同様な結果はNE Nneu B2細胞において観察された。しかしながら、細胞性p185を発現する細胞系のみはEGFに応答しなかった。EGFRがキナーゼ欠損変異体Neu蛋白質と共に発現された細胞系においては、EGFRのダウン制御がほとんど非効率であった(最大低下は約20−25%)。さらに、何れかの変異体Neu蛋白質の表面発現はEGF処理に際してこれらの細胞中で顕著に変化しなかった。
キナーゼ欠損変異体neu同時発現細胞中で観察された受容体の増大した半減期
細胞表面からダウン制御された受容体が分解を受けたか否かを決定するため、受容体蛋白質のパルス−チェース標識を方法と材料に記載されるとおりに実施し、免疫沈殿したNeuとEGFR蛋白質をSDS−PAGEにより分析した。EGF処理はNE91細胞(EGFRのみを発現する)においてEGFRの迅速な分解を引き起こした。同様なEGFR分解速度はEGF処理の際にM1細胞において観察された。しかしながら、EGF−誘導されたEGFR分解は、EGFとNeuキナーゼ欠損変異体の何れかの形態(NE N757またはNE N692停止)を同時発現する細胞においては遅かった。
【0117】
EGF処理に応答したWTまたは変異体Neu蛋白質の分解パターンも調査した。M1細胞およびNE NneuB2細胞の両方における標識WT細胞性p185はEGF処理された時間に正比例して消失したことから、WT細胞性p185はEGFRと共に効率よく分解されることが示唆される。EGF処理から6時間まで、N757蛋白質レベルの僅かな低下のみがあり、そして切断されたN691停止蛋白質の豊富さにおける識別可能な変化はなかった。哺乳類の上皮細胞におけるヒトc−erbB2の示唆された正常な半減期は11−13時間である(引用により編入される、Kormilovaら、Oncogene,1992,7,511)。我々のオートラジオグラムのデンシトメーターの分析は、WT細胞性p185の半減期がEGF処理の3−4時間後は低下し、一方変異体Neuレベルは試験された時間の間、顕著な変化がなかったことを確認した。
wtまたは変異体neu蛋白質発現細胞中のEGF結合親和性
我々の実験は、キナーゼ欠損Neu変異体がEGF機能、例えばキナーゼ活性(引用により編入される、Qianら、Proc.Natl.Acad.Sci.USA,1994,91,1500)、EGF−媒介形質転換、受容体ダウン制御および分解を抑圧することを証明した。これらの効果は、一部、変化させたEGF結合親和性により妨害可能であったため、我々は、スキャッチャード分析により[125I]−EGF結合パラメーターを分析した。
【0118】
これらの細胞系に対する[125I]−EGF結合の平均解離定数(Kd)は、3つの別個の実験から測定した。NE91細胞中のEGFRは、高い(7.5x10−11M)および低い(4.4x10−9M)レベルの結合親和性を表す2つの結合成分を表し、そして高い親和性の受容体の画分は全受容体の5.4%であった。EGFRとWT NeuのNE NneuB2細胞における同時発現は、高い親和性および低い親和性サブクラスに関して、それぞれEGF結合親和性における僅かな増加をもたらし(3.2x10−11M)および(2.0x10−9M)、そして高い親和性受容体の画分は5.7%であった。M1細胞に関する増加した親和性は再現可能であり、そしてKd値(1.3x10−11Mおよび1.8x10−9M)は我々の以前の報告(各々引用により編入される、Kokaiら、Cell,1989,58,287;およびWadaら、Cell,1990,61,1339)と一致した。しかしながら、キナーゼ欠損Neu同時発現細胞におけるEGFRは低親和性EGF結合を支配的に表し、NE N691およびNE N757細胞においてそれぞれ4.9x10−9Mおよび5.2x10−9Mであったが、稀な高親和性サブクラスのEGFRが時々検出可能であり、即ち、NE N691停止細胞において7.2x10−11M(0.5%)およびNE N757細胞において6.6x10−11M(≦1%)であった。これらの稀な種は、キナーゼ不活性化Neu蛋白質と同時発現される場合にまだ観察されるEGFRホモダイマーのセットを表すのかもしれない(引用により編入される、Qianら、Proc.Natl.Acad.Sci.USA,1994,91,1500)。スキャッチャード分析から明らかなことは、キナーゼ活性WT Neuを同時発現する細胞におけるEGFRが正常なパーセンテージの高親和性EGF受容体を表すことであり、NE691細胞と比較した場合にEGFに関する僅かに増加した親和性を伴う。しかしながら、キナーゼ欠損Neu蛋白質の同時発現は、低下したヘテロダイマーキナーゼ活性に相関してEGF−結合親和性を大きく低下させた。
考察
本研究においては、EGFRとWTまたは変異体Neu蛋白質を同時発現する、安定にトランスフェクトされた細胞を用いることにより、細胞系受容体機能と細胞表現型を分析した。WT Neuとは異なり、キナーゼ欠損NeuはEGFRと協同することにより細胞形質転換を媒介しなかった;さらに、我々は、変異体NeuとEGFRの相互作用によりもたらされる支配的な負の受容体機能の新規な側面を示した。
【0119】
EGFRとWT(引用により編入される、Qianら、Proc.Natl.Acad.Sci.USA,1992,89,1330)または変異体Neu蛋白質(引用により編入される、Qianら、Proc.Natl.Acad.Sci.USA,1994,91,1500)の間の分子間の対合およびその結果のチロシンキナーゼ活性化を十分に特徴決定した;我々の研究は、EGFRとc−neuの生成物のヘテロダイマー化がEGF不在下でさえも検出可能であり、そしていずれかのホモダイマーを越えて好まれる。しかしながら、WT EGFRと細胞質ドメイン欠失EGFRのホモダイマー化および同時ダイマー化は等しく効率的でありそしてEGF−依存性であった(引用により編入される、Kashlesら、Mol.Cell Biol.,1991,11,1454)。ヘテロダイマーの優位性はその結果の細胞表現型、およびEGFR抑圧に対するキナーゼ欠損の誘導可能な支配的負作用を説明する助けとなるかもしれず、EGFRと変異体Neu生成物の比が1:1の場合でさえも顕著に起こった。
【0120】
チロシンキナーゼの結果的な活性化を伴う受容体の相互作用は分子間機構により起こり、そして迅速なトランスリン酸化事象にしばしば続き、pp60c−src(引用により編入される、Cooperら、Proc.Natl.Acad.Sci.USA,1988,85,4232)、インスリン受容体(引用により編入される、Boni−Schnetzlerら、J.Biol.Chem.,1988,263,6822)およびEGFR(引用により編入される、Honeggerら、Mol.Cell.Biol.,1990,10,4035)において観察されたとおりの。トランスリン酸化もヘテロ−受容体種、EGFRおよびNeu/c−erbB2の間に起こる(各々引用により編入される、Connelyら、Proc.Natl.Acad.Sci.USA,1990,87,6054;Spivak−Kroizmanら、J.Biol.Chem.,1992,267,8056;およびQianら、Proc.Natl.Acad.Sci.USA,1994,91,1500)。EGFRとNeu受容体の選択的なヘテロダイマー化(引用により編入される、Qianら、Proc.Natl.Acad.Sci.USA,1994,91,1500)は、EGFRによるN757のトランスリン酸化を促進するかもしれない。現在、EGFRおよびNeuキナーゼの特異的な基質は十分に特徴決定されていない。インビトロの結合アッセイが示したことは、リン酸化されたキナーゼ欠損N757が、EGF−処理に際して、まだ組換えSH2−含有蛋白質と対合できたことであった。しかしながら、M1およびNE NneuB2細胞中の活性ヘテロダイマーとは異なり、NE N757細胞の変異体ヘテロダイマーのNeuキナーゼ活性は特定の細胞基質のリン酸化を阻害するかもしれない。さらに、EGFRによるN757の優勢なトランスリン酸化並びに非機能性N757における細胞基質の占有はEGFR機能における定性的および定量的低下を導く細胞シグナリング分子に関してEGFRと競合するかもしれない。よって、該欠損ヘテロダイマーは、競合活性ヘテロダイマーおよびEGFRホモダイマーのように効果的にシグナルを伝達しないかもしれず、即ち、M1およびNE NneuB2細胞において観察される細胞形質転換をもちびく相乗性シグナリングを減じてEGFR機能を阻害する。細胞質ドメイン欠失N691停止とEGFRのヘテロダイマー化の研究は、細胞質ドメイン間の蛋白質−蛋白質相互作用の失敗のため、該ヘテロダイマーの形成が不活性であったことを示し、よって、Neu/c−erbB2はEGFRの単純な基質ではないがEGFRに関しても同じくトランスアクチベーターであることを示す(引用により編入される、Qianら、Proc.Natl.Acad.Sci.USA,1994,91,1500)。即ち、低下した量の正常EGFRホモダイマー形態および非生産性ヘテロダイマーの優勢は、正常なEGFR機能の抑圧およびその結果の支配的な負の表現型をもたらした。上記観察は、WT EGFRと細胞質性ドメイン欠失EGFRの間に形成されるダイマーの作用に匹敵する(引用により編入される、Kashlesら、Mol.Cell.Biol.,1991,11,1454)。
【0121】
キナーゼ活性受容体はリガンド結合に際しての分解のためのリソソームを標的とすることが報告された(引用により編入される、Chenら、Cell,1989,59,33;Felderら、Cell,1990,61,623)。キナーゼ欠失インスリン受容体を用いた以前の研究(各々引用により編入される、McClainら、J.Biol.Chem.,1987,262,14663;およびRusselら、J.Biol.Chem.,1987,262,11833)は、活性キナーゼドメインが正常なリソソーム−誘導受容体伝達(routing)に必須であることを示唆する。我々は、如何にして受容体キナーゼ複合体の活性が受容体エンドサイトーシスおよび破壊と相関するのかを研究するためにEGF−処理した細胞系を使用した。我々の仕事は、EGFRがWT Neu同時発現細胞(M1またはNE NneuB2)であり、EGF刺激に際して迅速なダウン制御および分解を受けることを証明する。このプロセスは、EGFRのみを発現するNE91細胞に比して変異体細胞において顕著に遅延した。キナーゼ欠損変異体Neu蛋白質ではなく、WT細胞性p185のみが、EGFRと同時ダウン制御され且つ同時に分解された。同様に、ヒト哺乳類細胞系HC11細胞のEGF−処理はc−erbB2蛋白質表面発現および蛋白質代謝回転に影響した:リソソームc−erbB2蛋白質において3−4倍の増加、そしてc−erbB2蛋白質の半減期は11時間(未処理)から3.5時間(EGF−処理)に低下した(引用により編入される、Kornilovaら、Oncogene,1992,7,511)。我々の観察と共に、これらの結果は、WT Neu/c−erbB2(しかしキナーゼ欠失Neuではない)がEGFおよび活性受容体チロシンキナーゼの複合体と対合して正常な受容体伝達を受けることを示唆した。
【0122】
結論として、我々の結果は、EGFRとキナーゼ欠失Neu蛋白質の欠損または不活性ヘテロダイマーが相乗的ヘテロ受容体シグナリングを減じ、正常なEGFRの機能を抑圧し、そして生存細胞において形質転換された表現型を廃するとの実験的証拠を提供する。我々の実験モデルは、ヘテロダイマーキナーゼと、臨床上の含蓄を有するかもしれない細胞の悪性度との、病原性の関係を示唆する。最近の報告は、p185c−erbB2受容体を過剰に発現するヒトカルシノーマ細胞の別のRNAプロセシングにより生成されるc−erbB2蛋白質の切断されたエクトドメインが、抗−c−erbB2モノクローナル抗体の成長阻害作用に対する耐性をもたらす(引用により編入される、Scottら、Mol.Cell Biol.,1993,13,2247)。ホモ−またはヘテロ−受容体相互作用により、変異体Neu蛋白質が正常EGFRまたはc−erbB2受容体の何れかの機能を抑圧するかもしれないとおり、キナーゼ欠損NeuのcDNAの、EGFRおよびNeu/c−erbB2を過剰発現する腫瘍細胞系への直接の遺伝子移入が、悪性腫瘍性表現型を軽減するかもしれないと仮定される。
実施例4:P185エクトドメインによる天然EGFR癌蛋白質の阻害:受容体集合へのサブドメインの貢献の暗示
序論
erbBファミリーの受容体活性化は、ホモダイマーおよびヘテロダイマーの集合物形成の両方を含む。多くの場合、erbBファミリーメンバーの間のヘテロダイマーの形成は、リガンド結合親和性を増大させて、細胞表現型に影響するより活性なシグナリング複合体の形成をもたらす。p185neuおよびEGF受容体変異体を用いて、これらのerbB受容体のエクトドメインのみが、熱力学上好ましいヘテロダイマーの物理的対合を許容するのに十分であることが示され、そしてその結果のダイマー中の細胞質性接触がリガンド親和性、シグナリングおよび表現型に影響することを示した。p185neuとEGFRの生化学分析は、細胞外ドメインのみの間のダイマー形成の結果がエクトドメインダイマー形成からもたらされるシグナリングと異なることを示唆する。p185neuエクトドメイン由来の変異体は、マウス繊維芽細胞および初期に形質転換されたEGFR過剰発現ヒト細胞の両者におけるEGF受容体シグナリングの特異的なトランス−阻害からのシグナリング結果とは異なる。Neu分化因子(Neu Differentiation Factor)のための活性受容体複合体(NDF/ヘレグリン)は、erbB2−erbB3またはerbB2−erbB4ヘテロダイマーの何れかであるらしく、p185neu/erbB2が、一部には、他のerbBファミリー受容体キナーゼのトランスレギュレーターとして機能することを示唆する。
【0123】
erbBファミリー内の細胞外ドメインにより媒介されるトランス制御相互作用に必須の受容体サブドメインをさらに試験するため、形質転換細胞におけるEGFとp185/c−erbB2の間の相互作用を分析した。ヒト膠新生物および他のヒト上皮悪性腫瘍において共通に観察されるEGF癌蛋白質(ΔEGFRまたはEGFRvIII)は、140−155kDaの切断され、構成的にリン酸化されたΔEGFRの発現をもたらす分子の細胞外領域をコードする遺伝子内のエクソン2から7(アミノ酸6から273)を含むインフレームの切断によりもたらされる。ΔEGF受容体はダイマー形態で自発的に存在し、そしてリガンド非依存性様式において齧歯類の繊維芽細胞の構成的シグナリングおよびオンコジーン性形質転換を媒介することが観察され、一方、過剰発現されたp170ホロ−EGFRはEGF存在下においてほんの弱く形質転換する。ΔEGFR癌蛋白質はヒト膠芽腫細胞およびマウス繊維芽細胞においてインビボにて劇的な成長上の利点を付与する。
【0124】
最近の報告は、ΔEGF受容体が細胞表面上に存在し、そしてリガンド刺激されたホロ−EGFRよりもゆっくりと内在化し、ΔEGFR癌蛋白質の形質転換効率を増加させるかもしれないことを示す。RTKポリペプチドの細胞外ドメインを膜貫通領域および細胞質領域から機能上分離する他の変異は、自発性ダイマー化および形質転換能力の獲得を導くことも観察され、該細胞外ドメインの一部が、リガンド結合および質量作用によりおそらくは除去されるダイマー形成に構造上の束縛を課することを示唆する。ΔEGFRまたは鳥類のv−erbBオンコジーンにおいて観察される細胞外欠失は、おそらく、リガンド結合によりもたらされるコンフォメーション変化を模倣することによりダイマー形成を促進する。EGFRの可溶性細胞外ドメインはオリゴマー化することが観察され、そしてエクトドメイン内の構造上の変化が細胞外ドメイン、細胞質ドメインまたは両方の自発的オリゴマー化を誘導できる。
【0125】
ΔEGFR内の細胞外欠失はEGFRのサブドメインIおよびIIを含むアミノ酸の大多数を除去し、該受容体の細胞外ドメイン内の2つのシステイン富裕配列の第1の大きな部分(よりアミノ末端)を含む。サブドメインIIIは、EGFRにリガンド結合特性を授けることが報告され、ΔEGFR癌蛋白質において保存されているが、ΔEGFRはNIH3T3細胞内のリガンドに結合しないらしい。ホロ−EGFRとΔEGFRの同時発現はヒト膠芽腫および他の腫瘍サンプルにおいて観察されたことから、EGFR/ΔEGFR同時発現細胞はヒトの疾患の密接な相関であるかもしれないことを示唆する。
【0126】
p185neuオンコジーンのエクトドメイン由来のカルボキシル末端欠失変異体(691停止neu)は、完全なキナーゼドメインおよびカルボキシル末端自己リン酸化部位を欠くが、p185neuエクトドメインが切断されてエクトドメインを欠損させたΔEGFRと対合してΔEGFR媒介シグナリングを変調することができるか否かを試験するため、完全長のEGFRおよびΔEGFRを同時発現するヒト膠芽腫において発現させた。
結果
ヒト膠芽腫細胞内のEGFRおよびp185neu変異形態の発現
U87MGヒト膠芽腫細胞は、上昇レベルの(105受容体/細胞)内因性野生型EGFRを発現する。親のU87MGヒト膠芽腫細胞の3つのクローン誘導体をこれらの研究に利用した:U87/T691−1細胞はU87MGバックグラウンドにおいてT691停止neuを含む;U87MG.ΔEGFR細胞は親U87MG細胞において上昇レベルの(106受容体/細胞)ヒトEGFR蛋白質を発現する;そして二重にトランスフェクトされたU87MG.ΔEGFR/T691s細胞は内因性EGFR、ΔEGFRおよびT691停止変異体neu蛋白質を含む。代謝標識後のU87MG由来のヒト膠芽腫細胞におけるEGFRおよび切断されたneu蛋白質の発現レベルを比較した。ΔEGFRおよび/またはT691停止neu変異体受容体の発現に関して注目に値する親U87MGヒト膠芽腫細胞に由来するサブクローンを35S−システインで15時間標識し、そして細胞溶解物を,EGFRとΔEGFRの両方に反応性の抗−EGFR mAb 528またはp185neuエクトドメインを認識する抗−neu mAb7.16.4の何れかと免疫沈殿させた。免疫複合体を溶解して、8%SDS−PAGEにより分離した。EGFR、ΔEGFR(140−155kDa)、および切断されたT691停止neu蛋白質(115kDa)を表す蛋白質シグナルが観察された。U87MG細胞は内因性の完全長のEGFRのみを発現する;U87/T691−1細胞は内因性EGFRおよびT691停止neu蛋白質を発現する;U87MG.ΔEGFR細胞は内因性EGFRおよびトランスフェクトされたΔEGFRを発現する;そしてU87MG.ΔEGFR/T691s細胞はEGFR、ΔEGFRおよびT691停止neu蛋白質を発現する。全てのシグナルがオートラジオグラフィー後に観察された(24時間暴露)。EGFRおよびΔEGFRと反応性のmAb 528(オンコジーンサイエンス)の免疫沈殿は、U87MG由来の細胞系において発現された全てのEGFR形態を証明した。EGFRはU87MG.ΔEGFRおよびU87MG.ΔEGFR/T691s細胞のみにおいて同定された。代謝標識およびp185neuエクトドメインと反応性のmAb7.16.4を用いた免疫沈殿は、U87/T691−1細胞内およびU87MG.ΔEGFR/T691s細胞内における115kDaのT691致死変異体neu受容体の同定を可能にした。mAb7.16.4を用いたU87/T691−1およびU87MG.ΔEGFR/T691sサブクローンのフローサイトメトリー分析は、T691停止neu蛋白質の細胞表面局在を確証した。フローサイトメトリー分析は、U87MG.ΔEGFRおよびU87MG.ΔEGFR/T691sサブクローンの両者の上でのΔEGFRの細胞表面局在も確証した。U87MG膠芽腫細胞は無視できるレベルのerbB−2またはerbB−3を含む。
【0127】
U87MG.ΔEGFR細胞の免疫沈殿および免疫ブロッティングは、内因性EGFR(170kDa)およびMr140kDaおよび155kDaの二重種として移動する切断されたΔEGFRの存在を明らかにした。U87MG.ΔEGFR細胞の溶解物を、ΔEGFRのみと反応性のmAbΔ124またはEGFRおよびΔEGFRの両方の細胞外ドメインと反応性のmAb528の何れかと免疫沈殿させた。バイオラッドプロテインアッセイキット(Bio−Radラボラトリーズ)により測定された等量の蛋白質を免疫沈殿させ、そして免疫複合体をSDS/8%PAGEにより還元条件下で検出した。免疫沈殿されたEGFRは、ヒトEGFRに対するポリクローナル抗体Ab−4を用いた免疫沈殿により検出した。Δ124抗体は、140−155kDaの2種のΔEGFRを沈殿させた。mAb528は内因性EGFR(Mr=170kDa)並びにΔEGFR(140−155kDa)を沈殿させた。U87MG.ΔEGFR内のΔEGFRの2種は、mAbΔ124によりさらに明瞭に分析した。全ての蛋白質シグナルは増強されたケミルミネッセンス(ECL)系(アマシャム)により可視化した。mAbΔ124で免疫沈殿したΔEGF受容体のスキャニングデンシトメトリーは、140kDaのΔEGFR形態に対する155kDaの比がU87MG.ΔEGFR細胞内で2.3であったことを明らかにした。さらに、mAb528免疫複合体のスキャニングデンシトメトリー分析は、U87MG.ΔEGFR細胞内においてΔEGFR/EGFRの比がやく10:1であったことを示した。このパターンは、U87MG.ΔE/T691s二重トランスフェクタントに関しても証明された。スキャニングデンシトメトリーを用いることにより、EGFRおよびΔEGFRの細胞外ドメインと反応性のmAb528を用いて細胞溶解物を免疫沈殿させ、次にU87MG.ΔEGFR細胞およびU87MG.ΔEGFR/T691s細胞の両方においてEGFRと反応性のポリクローナル抗血清を用いた免疫ブロッティングにより、10:1のΔEGFR:EGFRの化学量論的比率を確認した。
【0128】
T691停止neuエクトドメインは、膜透過性クロスリンカーDTSSP(3,3’−ジチオビス(スルフォサクシニミジルプロピオネート))を用いて、親U87MG細胞の表面上および齧歯類内において完全長の野生型EGFRとヘテロダイマーを効率的に形成することが証明された。p185neuエクトドメインは、免疫沈殿により決定されたところ、U87MG由来の細胞内で内因性EGFRのEGF−誘導されたダウン制御を阻害した。フローサイトメトリー分析は、細胞表面において生じた受容体対合が、エンドサイトーシスおよび分解よりむしろEGFRの阻害を媒介することを示した。特に、内因性EGFRと切断されたneu受容体間のインビボの対合およびT691停止neu受容体を発現する膠細胞におけるEGFRのEGF−誘導ダウン制御の阻害を示す実験を実施した。U87MG親細胞およびU87/T691−1細胞(T691停止neuを発現するU87MG細胞)を、DTSSP(3,3’−ジチオビス(スルフォサクシニミジルプロピオネート))(2mM)(ピアス)による架橋後に、EGF処理あり(100ng/ml、37℃、10−15分間)または無しで、抗−EGFR mAb528(オンコジーンサイエンス)または抗−neu mAb7.16.4で免疫沈殿させた。免疫複合体は、還元条件下でSDS/8%PAGEにより分析した。EGFR(Mr=170kDa)は、ヒトEGFRに対するポリクローナル抗体Ab−4(オンコジーンサイエンス)を用いた免疫沈殿により検出した。同時沈殿されたEGFR蛋白質が、抗−neu mAb7.16.4を用いて免疫沈殿されたU87/T691−1細胞において検出された。EGF処理は、U87/T691−1細胞におけるよりもU87MG細胞においてEGFRのより効率的なダウン制御をもたらした。これらのデータは、齧歯類繊維芽細胞において実施した以前の研究と一致する。T691停止neuエクトドメインは、U87MG−由来の細胞において野生型内因性EGFRのEGF−誘導リン酸化を阻害した。ΔEGFRはU87MG.ΔEGFR細胞において構成的にリン酸化されるが、p170 EGFRはEGF添加の際にのみU87MG親細胞およびU87MG.EGFRにおいてリン酸化される。抗リン酸チロシン抗体を用いたブロッティングは、低分子量種の(p140)のΔEGFRは、U87MG.ΔEGFR細胞においてp155種に比して低度にリン酸化される。U87MG由来のヒト膠芽腫細胞におけるEGFRのリガンド依存性活性化は、以下のとおりに測定された。U87MG細胞、U87/T691−1細胞(内因性完全長EGFRおよびT691停止変異体neuを含む)およびU87MG.ΔEGFR細胞(内因性EGFRおよびΔEGFRを含む)における抗−EGFR免疫複合体のリン酸チロシンの含有量を測定した。等しい数の細胞をプレートして10cm皿への付着後に24時間血清不含培地中で栄養不良にした。細胞を±EGF(37℃、10−15分間において100ng/ml)で処理し、冷やしたPBSで2回洗浄し、そしてPI/RIPAバッファーで可溶化した。バイオラッドプロテインアッセイキット(Bio−Radラボラトリーズ)により測定された等量の蛋白質濃度の溶解物を抗−EGFR mAb528で免疫沈殿させて、免疫複合体を還元条件下でSDS/8%PAGEにより分析した。リン酸化されたEGFRが親U87MGおよびU87MG.ΔEGFR細胞において検出されたが、U87/T691−1細胞においては検出されなかった。内因性の完全長EGFR(170kDa)のリン酸化はU87MG細胞およびU87MG.ΔEGFR細胞中においてはEGF−依存性であった。しかしながら、ΔEGFRのリン酸化はU87MG.ΔEGFR細胞においてEGF処理依存性ではなかった。ブロットをストリップ化して、ポリクローナル抗−EGFR抗体、Ab−4で再プローブした。全てのEGFRの存在が、上記のとおりに処理した細胞種において確認された。EGFR蛋白質は140−155kDaに二重の物(doublet)として現れ、より顕著にリン酸化された高分子量の種を伴う。全ての蛋白質シグナルは増強されたケミルミネッセンス(ECL)系(アマシャム)により可視化した。
T691停止neu変異体によるΔEGFR−媒介細胞成長および形質転換の変調
U87MG−由来のヒト膠芽腫細胞系の細胞増殖および形質転換効率をインビボおよびインビトロにおいて評価することにより、エクトドメイン由来のp185neu変異体蛋白質によるΔEGF受容体シグナリングの変調を測定した。完全または減じられた血清条件における細胞成長の阻害を以下の実験において研究した。各細胞系の2x104の細胞を6ウエルプレート中にプレートして、完全成長培地内で付着することを可能にした。次の日、細胞は、完全成長培地(10%−FBS)内で保持するか、または2%−FBS血清に移し替えた。細胞を4日間成長させ、次にトリプシン処理して計数した。親のU87MG細胞を平均化に使用した(成長比=全ての実験に関して1.0)。全ての誘導細胞系の成長を、比較のために、親細胞系の函数として表した。U87MG.ΔEGFR細胞は内因性EGFRおよびΔEGFRを発現し、U87MG.ΔEGFR/T691s細胞はEGFR、ΔEGFRおよびT691停止neuを発現し、そしてU87/T691−1細胞は内因性EGFRおよびT691停止neu蛋白質を発現する。ΔEGFR発現(U87MG.ΔEGFR細胞)は、親U87MG細胞を超えて、還元血清条件下で細胞増殖を増大させ、ΔEGFRのリガンド非依存性活性化と一致する。T691停止変異体蛋白質の発現は、還元血清中および注目すべきは完全成長培地中においてEGFR/ΔEGFR過剰発現膠芽腫細胞においておよびEGFRのみを含む親U87MG細胞で細胞成長を阻害した。注目すべきは、U87M.ΔEGFR/T691サブクローンが完全成長培地中および、ある低度は、還元された血清条件下の両方で、EGFRを欠く親U87MG細胞よりも低下した細胞増殖を呈した。
【0129】
ΔEGFRは親U87MG細胞を超えて足場(anchorage)−非依存性成長アッセイにおいてインビトロにての形質転換効率を増加させなかった。足場−非依存性成長を以下の実験において研究した。1000−3000の各細胞系をソフトアガー皿に植え、21−28日培養した。次に、コロニーを染色後に可視化して計数した。U87MG細胞は複数の体細胞の遺伝子変化を含む初期に形質転換されたヒト細胞であり、p16の欠失および仮想蛋白質チロシンリン酸化酵素遺伝子PTEN内の欠失を含む。U87MG.ΔEGFR/T691s細胞のソフトアガー成長は、親のU87MGおよびU87MG.ΔEGFR細胞に比してそれぞれ41.3%および45%低下した。T691停止neu蛋白質により達成された足場−非依存性成長の阻害は、ΔEGFRを欠くU87MG親細胞においてより顕著であった(3つの個別の実験において親U87MG細胞に比して平均75.2%の阻害)。
【0130】
ΔEGF受容体はU87MG細胞バックグラウンドにおいてインビボにて選択的な成長の利点を授けるが、多くの研究はp185neu受容体が同時発現される限定条件を除いて、ホロ−EGFRがインビボにて非形質転換性であることを示す。U87MG細胞におけるT691停止変異体neuエクトドメインの発現は、プロトオンコジーン膜貫通領域を含むことによりT691停止とは異なる切断p185neu(N691停止)の形態と比較した場合に、U87MGオンコジーン性表現型を選択的に阻害したことが示された。U87MG−由来の細胞系の間での胸腺欠損マウス内の腫瘍成長の比較を以下のとおりに行った。各細胞系の106の細胞を0日目に皮内注射して、腫瘍の体積を1−2x/週記録した。U87MG細胞は、片方の側面上に注射し、そしてトランスフェクトされた細胞は動物の反対側の側面内に注射した。T691停止neu蛋白質発現は、U87MG細胞においてΔEGFRにより媒介される選択的なインビボ成長の利点を廃した。この結果は、3つの追加のU87MGΔEGFR/T691sサブクローンの分析により確認された。U87MG.ΔEGFR/T691sサブクローンは、親のU87MG細胞と類似の成長キネティックスを呈したが、インビボにおいてはU87MG細胞よりも阻害されたようであった。全てのU87MG.ΔEGFR/T691sサブクローンに関してインビボにて観察された阻害は、T691停止変異体neu発現の化学量論に直接関連する。
T691停止neu変異体はインビボにてΔEGFRとヘテロダイマーを形成する
U87MG.ΔEGFRトランスフェクタントおよびU87MG.ΔEGFR/T691sを二重トランスフェクトされたサブクローンの遺伝子の複雑性のため、勾配SDS−PAGE分析において同様な分子量で移動するヘテロダイマー複合体のため、チオ分割可能な膜不透過性クロスリンカーDTSSPを用いることにより、仮想表面局在ヘテロマー複合体の個々の成分を試験した。mAb528を利用することにより、変異neu蛋白質とヘテロマーを形成するかもしれない全てのEGFR(野生型およびΔEGFR)を免疫沈殿した。抗−neu免疫複合体からの共沈殿ΔEGFRモノマーはDTSSPを使用したインビボクロスリンク実験により検出された。U87MG.ΔEGFR/T691s細胞のクロスリンクと還元条件下のSDS/6−8%PAGEによる免疫複合体の分離は、T691停止neuと、p140ΔEGFR、p155ΔEGFR、およびp170EGFR形態の間のヘテロダイマー形成の証拠を明らかにした。ほとんどのT691停止neu変異体受容体あこれらの方法を用いてp140ΔEGFR形態と対合したが、ヘテロダイマー化されたp155ΔEGFRおよびp170EGFR蛋白質を同定する弱いバンドが繰り返し観察された。U87MG.ΔEGFRとU87MG.ΔEGFR/t691s二重トランスフェクタントの細胞表面上のΔEGFR蛋白質のフローサイトメトリーによる同定は、膜不透過性クロスリンカーにより作成された観察を支持する。インビボクロスリンクによる抗−neu免疫複合体からの共沈殿されたΔEGFRの検出のための実験は以下のとおりに実施した。U87MG親細胞(レーン1、2)、U87MG.EGFR、およびU87MG.EGFR/T691s細胞の1mg溶解物を、DTSSP(3,3’−ジチオビス(スルフォサクシニミジルプロピオネート))(2mM)(ピアス)でクロスリンクし、次にEGF処理(37℃15分間)した後、抗−mAb528または抗−neu mAb7.16.4で免疫沈殿させた。免疫複合体を還元条件下でSDS/8%PAGEにより分析して、ナイロン膜をヒトEGFRに対するポリクローナルAbであるAb−4でブロットした。EGFRは、U87MG細胞(内因性EGFRのみ、Mr=170kDa);U87MG.ΔEGFR細胞(内因性EGFRおよびΔEGFR、Mr140−155kDa);およびU87MG.ΔEGFR/T691s細胞(内因性EGFRおよびΔEGFR,Mr 140−155kDa)において同定された。共沈殿したEGFR蛋白質は、抗−neu mAb7.16.4で免疫沈殿したU87MG.ΔEGFR/T691s細胞において検出された。U87MG.ΔEGFR/T691sにおいては、T691停止neuが、低分子量形態のΔEGFR(140kDa,もっとも強いシグナル)、低移動度形態のΔEGFR(p155)および内因性ホロ−EGFR(p170)と共沈殿したことがわかった。EGFは免疫複合体モノマーの良好な可視化をもたらしたが、共沈殿したEGFRはEGF処理無しにU87MG−誘導細胞系からの抗−neu免疫複合体を同定できた。
【0131】
U87MG.ΔEGFR/T691s細胞における免疫沈殿EGFRのリン酸含有量を上記ブロットを使用して測定した。ブロットをストリップにして、抗リン酸チロシン抗体mAb PY−20(サンタクルズバイオテクノロジー、サンタクルズ、CA)を用いて再プローブした。抗−neu免疫複合体中に検出されたEGFR蛋白質は、U87MG親細胞、およびU87MG.ΔEGFRおよびU87MG.ΔEGFR/t691s細胞における抗−EGFR免疫複合体に比較した場合、U87MG.ΔEGFR/T691s細胞におけるEGF処理後のリン酸チロシン含有量は無視できた。U87MG.ΔEGFRおよびU87MG.EGFR/T691s細胞における抗−免疫複合体のリン酸チロシンの含有量はこれらの蛋白質溶解物濃度において感知しうるほどは異ならなかった。抗リン酸チロシン抗体を用いたブロッティングは、T691停止neuに関連した両ΔEGFR種が低度にリン酸化されることを確証した。T691停止neu受容体に対して免疫複合されたEGFRモノマーに関する無視できるリン酸チロシンの含有量は全ての実験において一貫して証明された。EGFはp170EGFとneuエクトドメインの間のヘテロダイマー形成の効率を増大させることが観察されたが、この対合はリガンド非依存性である。EGFはEGFR−p185neuエクトドメイン免疫複合体の形成を最小に増大させたことから、EGFはEGFRホモダイマー形成がなければヘテロ形成を安定化させるかもしれないことが示唆される。
T691停止neu同時発現によるインビボのEGFRモノマーのリン酸チロシン含有量の低下
T691停止neu受容体に免疫複合したΔEGFRモノマーのリン酸チロシン含有量は全ての実験において無視できた。結果は、低分子量形態のΔEGFR(140kDa)がU87MG.ΔEGFR細胞およびU87MG.ΔEGFR/T691s二重トランスフェクタントの両者においてp155ΔEGFRに比較して相対的に低度にリン酸化されたことも明らかにした。
【0132】
U87MG.ΔEGFR細胞およびU87MG.ΔEGFR/T691sの間の01Eモノマーのリン酸チロシン含有量の差は、全てのEGFR形態に反応するmAb528を用いた、より大きな細胞溶解物の免疫沈殿において、インビボクロスリンク実験に関して観察されなかった。よって、T691停止neu−発現細胞においてΔEGFRのインビボのリン酸チロシン含有量を特定して試験するために、ΔEGFRのみと反応性の抗体を用いることにより、ヘテロダイマー複合体を検出するのに必要なものから減じられた蛋白質濃度を含む細胞溶解物よりΔEGFRを沈殿させた。T691停止変異体neu同時発現を用いるかまたは用いずに、U87MG.ΔEGFR細胞におけるΔEGFRのインビボのリン酸チロシン含有量を以下のとおりに試験した。U87MG.ΔEGFR細胞およびU87MG.ΔEGFR/T691sの溶解物(200μg)を、ΔEGFRのみと反応性のmAb Δ124と免疫沈殿させ、そして抗−リン酸チロシンmAb PY−20または抗−EGFRポリクローナル抗体Ab−4の何れかとブロットさせた。ΔEGFRのみと反応性のmAb Δ124との免疫沈殿後のPY−20とのブロッティングは、U87MG.ΔEGFR細胞およびU87MG.ΔEGFR/T691s 中のいくらかのリン酸化蛋白質を明らかにした。ゆっくりと移動する形態のΔEGFR(155kDa)は検出されたが、早く移動する形態のΔEGFR(140kDa)はPY−20により検出されなかったことから、p155kDaより相対的に低いリン酸チロシン含有量が示唆される。膜をストリップにして全てのEGFRと反応性のAb−4を用いて再プローブした後、両形態のΔEGFRをU87MG.ΔEGFR細胞およびU87MG.ΔEGFR/T691s 二重トランスフェクタントの両者において可視化した。これらの細胞系において免疫沈殿させたp155ΔEGFRモノマーのリン酸含有量のスキャニングデンシトメーターの分析は、完全成長条件下では、U87MG.ΔEGFR細胞に比較した場合に、U87MG.ΔEGFR/T691s細胞における33.7%の低下を明らかにした。ΔEGFRリン酸チロシン含有量における観察された構成的差異は、よって、血清含有因子により打ち勝つことができなかった。U87MG.ΔEGFR細胞におけるPTyr/ΔEGFRの比は1.57であった;U87MG.ΔEGFR/T691s細胞におけるこの比はスキャニングデンシトメーターより測定されたところによると1.04であることがわかった。この差異は2つの追加の実験において観察された。
【0133】
T691停止neu蛋白質に対して免疫複合したΔEGFRモノマーのみではなく、全部の免疫沈殿したΔEGFRモノマーの生存細胞におけるリン酸チロシン含有量を分析した。T691停止neu変異体受容体に免疫複合するΔEGFRは無視できるリン酸チロシン含有量を有するとの発見に加えて、これらのデータは、T691停止neu表面発現のみがトランスにおいてΔEGFRモノマーリン酸チロシン含有量を低下させるのに十分であることを示す。T691停止neu−含有細胞において、免疫沈殿させたΔEGFRモノマーのリン酸チロシンにおける観察された33.7%の低下は活性化されたΔEGF受容体複合体のシグナリングを減じるかもしれないが、このシグナリング複合体は高いオーダーのマルチマーであり、且つΔEGFRはEGF−刺激された野生型EGFRよりも低い化学量論敵リン酸チロシン含有量を有することが報告されているからである。ΔEGFR受容体キナーゼの基質結合および/または触媒活性は、モノマーΔEGFRリン酸チロシン含有量の低下により変化し得た。リガンド−刺激された野生型EGFRに対する低レベルのΔEGFRの構成的リン酸チロシン含有量は、ΔEGFRの末端の自己リン部位における個々の点変異のインビボ成長の挙動に対する無能力化作用を説明するかもしれない。01EダイマーとT691停止neuダイマーの間の対合により形成されたヘテロオリゴマーはΔEGFRリン酸チロシン含有量の低下およびT691停止neu発現および表面局在化によりもたらされる表現型阻害の一つの機構かもしれない。
T691停止neu発現によるΔEGFRのインビボキナーゼ活性の低下
モノマーΔEGFRリン酸チロシン含有量の低下がT691停止neu変異体受容体を発現する細胞において観察されたから、EGFR受容体キナーゼの触媒活性がT691停止neu蛋白質発現により変化し得るのか否かを調査した。クロスリンクしたT691停止neu−対合ヘテロダイマーにおけるΔEGFRの存在を確認した条件と同一の条件を用いて、t691停止neu発現によるEGFRインビトロキナーゼ活性の低下を研究する実験を実施した。200μgの溶解物を、膜透過性クロスリンカーDTSSP(2mM)の前処理をするかしないかして、U87MG.ΔEGFRおよびU87MG.ΔEGFR/T691s細胞から得た。これらの細胞からの抗−EGFR(mAb Δ124)免疫複合体を室温において30分間、0.2mCi[32P]−γ−ATP含有キナーゼ反応バッファー50μlに懸濁した。蛋白質サンプルは10%SDS−PAGEにより分離してオートラジオグラフィーにより分析した。抗−EGFR免疫複合体は膜透過性クロスリンカー(DTSSP)で前処理したU87MG.ΔEGFR細胞において増大したインビトロキナーゼ活性を有することが示されたが、T691停止neu変異体受容体を発現する二重トランスフェクト細胞においては有さなかった。T691停止neu発現はΔEGFRのゆっくりと移動する形態(155kDa)のトランスリン酸化の著しい阻害をもたらし、DTSSPを用いて確認されたヘテロダイマー形成によった。これらの結果は3つの個別の場合において確認された。155kDaのΔEGFRはU87MG.ΔEGFRおよびU87MG.ΔEGFR/T691s細胞の両者において極めて豊富であるから、ΔEGF受容体キナーゼの触媒活性のT691停止neu−媒介の低下は、二重にトランスフェクトされたヒト膠芽腫細胞において観察された表現型阻害を説明するかもしれない。これらのインビトロ実験において、p140ΔEGF形態のリン酸化において顕著な違いは観察されなかった;しかしながら、この種はインビトロにおいてリン酸化されなかったため、画分はインビボにおいてリン酸化されないかもしれない。ΔEGF受容体触媒活性の阻害は受容体トランス−リン酸化に関して一貫して観察された。インビトロキナーゼ実験において用いられた低蛋白質濃度において、全ての抗−EGFR免疫複合体内の内因性ヒストンIII基質の最小のリン酸化が存在した。
【0134】
ヒト膠芽腫細胞におけるT691停止neu変異体受容体により媒介されるΔEGFRシグナリングの表現型阻害は、即ち、(1)p140ΔEGFRとの増大したヘテロダイマー形成は観察されたが、T691停止neu蛋白質と両形態のΔEGFRの間のヘテロダイマー形成;(2)T691停止neu発現による155ΔEGFRモノマーリン酸チロシンの含有量のトランス阻害;および(3)T691停止neu発現とヘテロダイマー形成の結果としてのp155ΔEGFRキナーゼのトランスリン酸化の阻害によりもたらされるらしい。
考察
構成的な活性ΔEGF受容体が内因性EGFRと同時発現されるU87MG細胞は、ヒト膠芽腫の特定のアグレッシブなサブセットの近接の接近を表し、p16の欠失、染色体10q上の対立遺伝子損失およびEGFR活性化含有量生じるがp53は変異していないそれらの腫瘍である。内因性EGFRを発現するU87MG−由来のヒト膠芽腫細胞、上昇した量のΔEGFR癌蛋白質、およびT691停止キナーゼ−欠失neu変異体受容体(U87MG.ΔEGFR./T691s二重トランスフェクトされたサブクローン)は、親U87MG細胞よりも全てのインビトロおよびインビボアッセイにおいて阻害された。これは、U87MGバックグラウンド(U87MG.ΔEGFR細胞)、特にインビボにおいてΔEGFR癌蛋白質のみの発現と共に観察された表現型における顕著な低下を表した。野生型EGFRの過剰発現のみがインビボにおいて非オンコジーン性であり、ΔEGFR−neuエクトドメインヘテロダイマーの観察された形成であり、そしてこれらの細胞中のΔEGFR:EGFR蛋白質比である場合、T691停止neuにより授けられてU87MG.ΔEGFR/T691s細胞により呈された、観察された成長阻害は、内因性p170 EGFRよりもΔEGF受容体を通してシグナリングを無能力化することにより媒介されたらしい。
【0135】
T691停止neu変異体受容体がΔEGFR:EGFRヘテロダイマー複合体を無能力化することは可能であるが、ΔEGFR:EGFRの化学量論比はU87MG.ΔEGFR細胞およびU87MG.EGFR/T691s細胞中において約10:1であった。内因性野生型EGFRとは異なり、膠細胞中でΔEGF受容体ダイマー形成および自己リン酸化はリガンドとは独立して起こり、そしてΔEGFR−発現NIH3T3細胞はリガンド非依存性成長および形質転換特性を呈することから、オンコジーンシグナリングは構成的リン酸化ΔEGFRダイマーからもたらされることが示唆される。他は、U87MG.ΔEGFR細胞においてEGFR−ΔEGFRヘテロダイマーを同定していない。さらに、U87MG細胞中で発現されたΔEGFRのキナーゼ欠損変異体のチロシンのリン酸化はリガンド処理により野生型EGFRを活性化することにより回復できることから、EGFRとΔEGFRの間の実質上のトランスリン酸化の欠如が示唆される。EGFRおよび他のerbB受容体とヘテロダイマー形成するp185neu/erbB2蛋白質の熱力学上の選択性が与えられれば、ΔEGFRは、ホロ−EGFRとよりも容易にp185neuエクトドメイン由来の蛋白質とダイマー形成するかもしれない。
【0136】
T69停止はU87MG細胞においてp170EGFRのリン酸化を阻害し、そしてT691停止neuと免疫複合するEGFRおよびΔEGFRモノマーは無視できるリン酸チロシン含有量を有する。T691停止とΔEGFRの間の対合の証明がp170EGFRを超える選択的な対合を必ずしも示さないのは、ΔEGFRとEGFRがこれらの細胞において比較できるレベルで発現しないからである。U87MG.ΔEGFRおよびU87MG.ΔEGFR/T691sを発現するクローン内の全てのEGFRのフローサイトメトリー分析は、p185neuエクトドメインの発現が全EGFR、野生型EGFR、またはΔEGFR細胞表面集団を、内因性EGFRのみ含有のU87MG細胞またはEGFRおよびΔEGFR含有のU87MG.ΔEGFRトランスフェクタントの何れかにおいて変化させなかったことを示した。これは、ΔEGF受容体内在化およびダウン制御を誘導することよりもむしろ、細胞表面上に局在する欠損ヘテロマーまたはオリゴマーの受容体の形成を通して、p185neuエクトドメインがEGFシグナリングを無能力化するとの観察と一致する。
【0137】
EGF受容体上のチロシンキナーゼの自己リン酸化はシグナリング分子のための結合部位を活性化し、そしてEGF受容体の触媒活性も制御するかもしれない。インビボのΔEGFRモノマーの構成的リン酸チロシン含有量およびインビボのΔEGFRのキナーゼ活性はT691停止neu発現の結果としてトランスにおいて低下する。ΔEGFRのみを発現するU87MG細胞(U87MG.ΔEGFR細胞)に比してのΔEGFRおよびT691停止neu蛋白質を同時発現するU87MG細胞(U87MG.ΔEGFR/T691s細胞)においてインビトロとインビボにおいて観察された表現型の阻害は、一部には、T691停止neuとヘテロダイマーを形成する結果としてのシグナリング分子のためのEGFR上の減少した結合部位による。さらに、ΔEGF受容体または他の基質のトランスリン酸化に関するキナーゼ活性も、T691停止neu変異体受容体と対合することにより誘導されたコンフォメーション変化により低下するかもしれない。上記データは、受容体トランスリン酸化に関するキナーゼ活性の減少が形質転換の低下に寄与することを支持する。内因性ヒストン基質に関するインビトロキナーゼ活性は受容体トランスリン酸化に関するよりもはるかに低いことが観察され、そしてT691停止neu発現により感知できるほどに変化しなかった。内因性基質に関するΔEGFRのインビトロキナーゼ活性は、カルボキシル末端の自己リン酸化部位の置換によりほんの最小に変更される;ΔEGFR内のカルボキシル末端の点変異の結果としてのインビボリン酸チロシン含有量の低下はより信頼性高く表現型阻害と相関するらしかった。U87MG.ΔEGFR細胞中で発現されるT691停止neu変異体によりインビボで達成される阻害レベルは、ΔEGFR内のATP結合部位の点変異によるか、またはチロシン1068、1148、および1173の置換を有するΔEGFR変異体により呈されるのと類似のレベルであった。
【0138】
トランス優性p185neu変異体を用いた研究は、p185neuおよびEGFRのエクトドメインが物理的な対合に十分であること、およびEGFRシグナリングがこれらのキナーゼ陰性p185neu変異体により変調できることを示した。細胞質ドメイン中の受容体相互作用は、p185neuとEGF受容体の両方に関する生産性シグナリングを決定する。p185neuおよびEGFRの細胞外領域に関する結晶構造解析データの不在下で、これらの受容体間のエクトドメイン相互作用の構造上の特徴は、まだ定義されていない。ΔEGF受容体はリガンド不在下でダイマー形態で存在することが観察された。EGFの可溶性細胞外領域はクロスリンク後にEGFに応答してオリゴマー化することが観察されたが、サブドメインIIIのみに由来する蛋白質分解断片はオリゴマー化しなかったことから、他のサブドメインがダイマー形成に寄与することが示唆される。サブドメインIIIはリガンド結合特性をEGFに授けることが報告された。活性化された鳥類のerbBオンコジーンはサブドメインIV(第2システイン富裕ドメイン)の一部以外の完全細胞外領域の欠損を伴うリガンドの不在下ではホモダイマーを形成する。しかしながら、この観察されたホモダイマー形成の物理的重要性は明らかでなく、これがこれらの変異体の組織特異的形質転換特性に相関しなかったからである。
【0139】
物理的対合は、EGF受容体の細胞外領域中の2つの別個のサブドメイン(I,II)の殆どを含む欠損に拘わらず、形質転換細胞中のp185neuとEGF細胞外領域の間で起こることが可能である。サブドメインIまたはIIの何れかを欠くp185neu変異体の細胞外変異体は完全長のEGFとヘテロダイマーを形成する能力をまだ保持することから、これらの配列はp185neu/EGFヘテロダイマーの物理的対合に必須でないことを確証する。T691停止neu蛋白質によるEGF癌蛋白質の表現型阻害は、サブドメインIIIおよびIVにより第1に統治される物理的対合がシグナリングを変調するのに十分であるとの議論を支持する。野生型ヒトEGFRおよびp185neuの細胞外サブドメイン欠損変異体を発現する繊維芽細胞の形質転換効率の分析に基づくと、p185neu中のサブドメインIIIは、形質転換p185neu/EGFRヘテロダイマーシグナリング複合体の形成のためにもっとも関連性が低い細胞外ドメインらしく、サブドメインIV−媒介相互作用はホモダイマーおよびヘテロダイマー受容体複合体のイニシエーションおよび/または安定化にもっとも重要であるかもしれないことが示唆される。
【0140】
p185neuおよびEGFRのサブドメインIIおよびIV中の2つの細胞外システイン富裕ドメインの各々は、「EGFフォールド」または「システインノット」として知られるユニークなフォールドを所有するかもしれない。該モチーフは、6つのシステイン残基の繰り返しおよび少なくとも2つの鎖内部のジスルフィド結合により特徴付けされる。同様なモチーフは他の蛋白質において観察されたが、その存在はサイトカインおよび膜貫通受容体において高度に保存されており、構造上解析された腫瘍ネクローシス因子(TNF)受容体を含む。いくつかのチロシンキナーゼ受容体はこれらのシステイン富裕ドメインを含み得ることが示され、そしてそれらはTNF受容体のそれと類似のコンフォメーションを採用することが仮定される。腫瘍ネクローシス因子(TNF)受容体は未複合形態の結晶構造においてダイマーとして観察された。この形態において、最後の細胞外システイン富裕ドメインは主要なダイマーコンタクトを形成する。これらの研究において、膜に近接したドメインは、おそらく、このドメインを安定状態に維持する膜貫通領域の欠如により不全になる。即ち、全体の受容体において、膜貫通配列のまさにアミノ末端の最後のシステイン富裕ドメインは、膜貫通配列により安定化されて、機能性ダイマーの形成におそらくは関与することが仮定される。p185neuとEGFの第2システインドメイン(サブドメインIV)とTNF受容体内でフォールドされたシステインノットの間の高度の配列相同性が同定された。TNFとp185neu受容体の膜貫通近接ドメイン内の配列の単純な比較は、6システインの少なくとも4つが保存されていることを示す。
【0141】
トランス−受容体相互作用による制御は全てのerbBファミリーメンバーに関して観察され、その多くは、ヒト上皮悪性腫瘍において変更された発現および制御を呈する。この受容体ファミリーがヘテロマー対合を形成する生理学的傾向は、p185neuエクトドメイン内の特定のサブドメインを模倣する構造または薬剤を用いたヒトerbB癌蛋白質の標的化が特定のヒト悪性腫瘍において達成可能であるかもしれないことを示唆する。あるいは、p185neuエクトドメインのcDNAは、ヒト新生物に対する遺伝子治療のアプローチにおいてerbB受容体−陽性腫瘍細胞に送達できた。ΔEGFR癌蛋白質は多くのヒト上皮新生物において異なって発現され、そして腫瘍特異的標的を代表するかもしれないが、しかしながら、これらの受容体はリガンド結合により制御されず、構成的にリン酸化され、そして内在化が貧困である。これらの特徴は、ヒト腫瘍においてΔEGF受容体からのシグナリングを阻害する努力を制限するかもしれない。リガンド不在下のerbBヘテロダイマー形成に関する好ましい熱力学の傾向は、上記p185neuエクトドメイン、新規な薬剤、またはダイマー形成に関連のあるペプチド模倣物を用いたerbB癌蛋白質の標的化が、モノクローナル抗体またはリガンド結合アンタゴニストを伴うリガンド誘導活性化を阻害するよりも、より効率よく成長阻害を達成するはずである。
方法と材料
ベクター構築
欠失変異体T691停止neuは、膜貫通領域において単一の点変異を含むラットオンコジーンneuのcDNA、pSV2Tneuに由来した。部位特異的変異導入を使用することにより、上記エクトドメイン内のThr−691位に停止コドンを導入した。キナーゼ触媒ドメインおよびカルボキシル末端自己リン酸化部位を欠く、この細胞質欠損形態のp185neuを、次に、哺乳類発現ベクターに挿入した。pHYGからのハイグロマイシンr遺伝子を含む断片を、マロニー白血病ウイルスプロモーターおよびLTR(MuLVLTR)の制御下で、APtag−1アルカリホスファターゼ(AO)発現ベクターにサブクローン化した。該AP遺伝子を次に変異体T691停止neuのcDNAで置換えた。即ち、T691停止がpMuLVLTR/T691停止/Hygr発現ベクター内で発現された。
細胞のメンテナンスおよび安定にトランスフェクトされた細胞系の開発
U87MG親ヒト膠芽腫細胞系およびヒトΔEGF受容体を含む以前に報告されたU87MG.ΔEGFRヒト膠芽腫サブクローン(Nishikawaら、1994)は、Webster Cavenee博士(Ludwig Cancer Institute,サンディエゴ、カリフォルニア)から得た。安定な細胞トランスフェクションのためには、10マイクログラムのpMuLVLTR/T691停止/Hygr構築物を、リポフェクチン試薬により(GIBCO/BRL,ガイセルスベルグ、MD)、pCMV−β(バクテリアのβ−ガラクトシダーゼ)(クロンテック)リポーター構築物を用いたトランスフェクションにより決定された条件下で、U87MG.ΔEGFR細胞にトランスフェクトした。最高のトランスフェクション効率は、ルミノメーターにより検出されたとおりにケミルミネッセンスにより測定した。全ての細胞を、10%ウシ胎児血清(ハイクローン、オグデン、UT)、100Uペニシリン、50μg/mlストレプトマイシン、および2mM L−グルタミン(GIBCO BRL)を含むダルベッコ修飾イーグル培地(DMEM,バイオ−ホワイタッカー、ウオーカースビル、MD)中で培養した。培養された細胞は37℃において95%空気/5%CO2にて保持した。U87MG.ΔEGFR細胞に、ΔEGFRトランス遺伝子発現のメンテナンスのため、.4mg/ml G418(ジェネティシン、GIBCO BRL)を添加した。
【0142】
ΔEGFRおよびT691停止neu蛋白質を発現するU87MG由来の二重トランスフェクタントの開発のため、G418硫酸とハイグロマイシンBを培地に加えた。70ug/mlのハイグロマイシンB(ベーリンガーマンハイム)および.4mg/mlのG418硫酸(ジェネティシン、GIBCO BRL)を含む選択培地中で2−3週間後、T691停止neuを発現する確立されたU87MG.ΔEGFRクローン(U87MG.ΔEGFR/T691s細胞と名付けた)を単離し、neuエクトドメインに対するmAb7.16.4を用いたフローサイトメトリー分析によりスクリーンした。安定にトランスフェクトされたサブクローンのための培地は、トランス遺伝子発現のために.4mg/mlのG418硫酸おとび35−70ug/mlのハイグロマイシンBを追加した。安定にトランスフェクトされた細胞系はmAb7.16.4によるフローサイトメトリー分析により定期的にチェックすることにより、T691停止neuトランス遺伝子発現の安定なレベルを証明した。
細胞の代謝標識と続く免疫沈殿
半コンフルエントな細胞(1x106)を一晩10cm皿上で完全培地(10%FBS−DMEM)中に植える。次の日、細胞をシステイン不含DMEM中で1時間飢餓状態にして、次に35S−システイン(50μCi/ml)(アマシャム)で15時間3%透析FBS/システイン不含DMEM中でパルスする。PI/RIPAバッファーを用いてPBS中で2回洗浄したあとに溶解物を回収する。免疫沈殿は氷の上で60分間実施し、そして8%SDS−PAGEによる分離前にプロテインA−セファロースに結合し、乾燥し、そしてフィルムに露出することにより、複合体を分離する。p185neuエクトドメインに対するモノクローナル抗体は米国特許第5,677,171号に記載される。EGFRおよびEGFRの両方の細胞外ドメインに対するモノクローナル抗体528はオンコジーンサイエンスから得た。5μgの抗体を、10cm皿から回収した溶解物からの免疫沈殿蛋白質のために利用した。
クロスリンク研究、免疫沈殿、およびウエスタンブロッティング
等しい数の細胞をプレートして10cm皿中で一晩培養した。細胞は24時間血清不含培地中で飢餓状態にして、EGF処理して(100ng/ml,37℃、10−15分間)、次に冷したリン酸緩衝塩(PBS)で2回洗浄した。クロスリンクのため、2mM DTSSP(3,3’−ヂチオビス(スルフォサクシニミジルプロピオネート))(ピアス)を含むPBSを次に加えて、細胞を23℃において30分間インキュベートし、プレートを時々揺り動かした。クロスリンク反応は、10mM Tris HCl,0.9% NaCl,および0.1Mグリシンを含むバッファーを用いて停止した。次に、細胞を2回冷したPBSで洗浄し、そしてPI/RIPAバッファーに溶解した。細胞溶解物を、抗−neu mAb7.16.4、抗−EGFR mAb528、または抗−ΔEGFR mAbΔ124の何れかを用いた免疫沈殿に供した。neu蛋白質またはEGFRの免疫複合体を次に溶解して、SDS−PAGEゲル(6−8%)により分離し、そして、ポリクローナル抗−EGFR抗体、Ab−4(オンコジーンサイエンス)または抗−リン酸チロシンmAb PY−20(サンタクルズバイオテクノロジー、サンタクルズ、CA)の何れかとの免疫沈殿前に、ニトロセルロースフィルターに移した。
インビトロキナーゼアッセイ
細胞を100mm培養皿にプレートして、次の日に2回氷冷PBSで洗浄し、そして1mlの溶解バッファー(50mM Hepes,pH7.5,150mM NaCl,3% Brij−35,2mM EDTA,0.02mg/mlアプロチニン、10%グリセロール、1.5mM MgCl2)中で溶解した。細胞溶解物を20,000gにて15分間遠心分離した。細胞溶解物の蛋白質濃度はDcプロテインアッセイ(バイオラッド)を用いて測定した。40マイクロリットルの50%(体積/体積)プロテインA−セファロースを用いることにより、免疫複合体を回収し、それを継ぎに3回洗浄バッファー(50mM Hepes,150mM NaCl,0.1% Brij−35,2mM EDTA,0.01mg/mlアプロチニン、0.03mM Na3Vo4)で洗浄した。沈殿物を,5uCiの32P−γ−ATP含有の20マイクロリットルの20mM Hepes(pH7.4,5mM MnCl2,0.1% Brij−35,0.03mM Na3Vo4,0.02mg/mlアプロチニン)に懸濁して、室温にて30分間インキュベートした。反応は、2mM ATPを含む3xの電気泳動サンプルバッファーの添加により停止した。100℃にて3分間インキュベーション後にサンプルをSDS−PAGE分析に供した。
インビトロおよびインビボ腫瘍原性アッセイ
完全または減少血清条件における細胞成長は以下の通りに評価した:各細胞系の2x104細胞を6ウエルプレート中にプレートして、完全成長培地への付着を可能にした。次の日、細胞を、完全成長培地(10%−FBS)中で保持するか、または2%−FBS血清に変えた。細胞は、4日間成長を許容して、次にトリプシン処理して計数した。
【0143】
足場非依存性成長は、ソフトアガーに懸濁した細胞のコロニー形成効率を評価することにより測定した。1−3x103細胞を、10%FBSおよび20mM Hepes(pH7.5)を追加したDMEM中の0.25%アガロースからなる3ml細胞不含フィーダー層中の6cm培養皿中の1mlのトップアガー(0.18%アガロース/10%FBS−DMEM)に懸濁した。p−ヨードニトロテトラゾリウムバイオレット(1mg/ml)で染色後に、コロニー(>0.3mm)を可視化して21−28日目に計数した。各細胞系は3通りに3つの異なる実験に関して試験した。
【0144】
6−8週齢のNCr同型接合ヌードマウスを国立癌研究所から購入した。細胞(1x106)を0.1mlのPBSに懸濁して、各動物の背中中部に皮内注射した。親のU87MG細胞を個々の動物の片方の側面に注射して、安定にトランスフェクトされた細胞系を対側に注射することにより、各動物の成長の直接の比較を行った。追加の対照として、PBSのみを各動物に注射した。動物は、ペンシルバニア大学の動物委員会のガイドラインおよび実験室動物資源の研究所の実験室動物のケアと使用の委員会のガイドラインに従い飼育した。腫瘍の成長は10−12週間にわたり週2回監視する。腫瘍のサイズは腫瘍の体積を測定することにより計算した(長さx幅x厚さ)。
抗体
p185neuのエクトドメインに反応性のモノクローナル抗体(mAb)7.16.4は以前に記載した。抗リン酸チロシン抗体、mAb PY−20は、(サンタクルズバイオテクノロジー、サンタクルズ、CA)から得た。EGFRおよびΔEGFRの細胞外ドメインに反応性のmAb528(Ab−1)はオンコジーンサイエンス(ユニオンデール、NY)から購入した。ΔEGFRのみと反応性のmAbΔ124はWebster K.Cavenee博士,ルドビッヒ癌研究所、サンディエゴ、CAから得た。EGFRと反応性であり免疫ブロッティングに利用したポリクローナル抗体Ab−4はオンコジーンサイエンス(ユニオンデール、NY)から購入した。
実施例5 ヒト癌細胞内のERBB受容体シグナリングを無能力化することによる放射線耐性表現型のより感受性な表現型への変換
序論
放射線または化学治療剤により誘導されるDNA損傷に対して細胞が如何にして多かれ少なかれ感受性になるのかを決定する分子パラメーターはよく理解されていない。細胞周期チェックポイントシグナリング経路の状態は、DNA損傷に対する応答の重要な決定因子であることが論じられ、そしてチェックポイント成分における変異がヒト癌において優勢である。最近導入された模範(paradigm)は、腫瘍細胞がチェックポイント経路の機能状態に依存して細胞障害性治療に応答して成長停止やアポトーシスを呈すること、および放射線誘発されたアポトーシスは傷つけられた成長停止経路によりもたらされるかもしれない事を示唆する。同様に、非形質転換細胞を用いた他のシステムにおいては、チェックポイント相の遅延の間に起こるDNA修復の不完全な機構がアポトーシスを増大させる傾向にある。
【0145】
ヒト膠芽腫は、表皮細胞成長因子受容体(EGFR)をコードする遺伝子の増幅および/または変異を含む多くの遺伝子上の変化を呈し、いくつかの場合は構成的に活性化されたEGF受容体キナーゼの発現をもたらす。
【0146】
p185neuオンコジーン(691停止NEU)のエクトドメイン由来のEGFRのトランス受容体阻害剤の発現は、完全長のEGFRおよびヒト膠腫瘍、特に高い病原性の腫瘍において共通に観察される構成的活性化細胞外欠損変異対EGFR形態の両者とヘテロダイマー形成する。細胞成長およびEGFR−陽性またはEGFR/ΔEGFR共発現ヒト膠芽腫細胞の形質転換は、p185neuのキナーゼ欠損欠失変異体により阻害される。表面局在T691停止neu変異体/EGFRヘテロダイマー受容体複合体は、完全長EGFRおよびEGFRホモダイマー複合体に比して、EGFリガンドに対する減じられた親和性、減少した内在化キネティックス、低下したリン酸チロシン含有量、および減じられた酵素キナーゼ活性を有する。
【0147】
EGFR−陽性形質転換ヒト細胞内でオンコジーン性形質転換を媒介する特定の経路は完全に特徴決定されていない。天然に生じるΔEGFR癌蛋白質は、Grb2/Shc/Ras経路およびシグナリングの構成的活性を、ホスファチジルイノシトール−3(pi−3)キナーゼを通して増加させるかもしれず、おそらくは、別のアダプター蛋白質への結合による。特定の有糸分裂蛋白質(map)キナーゼ、例えばc−junアミノ末端キナーゼ(JNK)ファミリーは、リガンド非依存性オンコジーン性ΔEGF受容体により構成的に活性化されるかもしれない。ホロ−EGFRは繊維芽細胞において高いレベルの受容体発現似てリガンド非依存性ようしきのみにおいて弱く形質転換することが見いだされたが、多くのヒト腫瘍は上昇レベルのEGFRを呈し、これは形質転換細胞において非制御のキナーゼ活性に寄与するかもしれない。
【0148】
放射線耐性ヒト膠芽腫において過剰発現されたEGFRを通してシグナリングの特異阻害がこれらの細胞の生理的応答をゲノム損傷の誘導に変えるか否かに接近するための実験がデザインされた。erbB受容体阻害と組み合わされたガンマ照射は低度の高い商社誘導成長阻止およびイオン化照射に通常は耐性の細胞内のアポトーシスをもたらした。増大したアポトーシスは野生型または変異したp53蛋白質の何れかを含む形質転換ヒト膠腫細胞内に生じ、そしてp53−依存性およびp53−非依存性機構がこの生理的結果を媒介したことが示唆された。T691停止変異体neu蛋白質とEGF受容体の間の特定の阻害的相互作用と遠位の経路はゲノムの損傷に対する腫瘍の必要性を決定し、そしてこれらの経路は近位の受容体対合により媒介されうる。特定の阻害経路は細胞膜のレベルで開始し、そして成長阻止と関連し、そして/あるいは、アポトーシスはDNA損傷に応答して次のチェックポイント結果を変調するかもしれない。これらの結果は、細胞障害性治療に対して細胞を感受性にすることが可能な受容体−特異的因子のデザインに関して示唆を含み、そして細胞障害性処理と組み合わされたerbB受容体−特異的阻害が抗癌剤に対する応答を改良するかもしれないことを示唆する。
材料と方法
ベクター構築
T691停止neu変異体受容体構築物の誘導は前に詳細に説明される。
細胞のメンテナンスと安定にトランスフェクトした細胞系の開発
U87MGヒト膠芽腫細胞系は、Webster K.Cavenee博士,ルドビッヒ癌研究所、サンディエゴ、CAから得た。ヒト未分化神経膠星状細胞から最初に得た、U373MGヒト膠腫細胞は、アメリカンタイプティッシュコレクション(ATCC)(ロックビル、MD)から得た。
細胞周期の分配のフローサイトメトリー分析
細胞は0.003%トリプシン、0.05%トリプシン阻害剤、0.01%のRNaseA溶液、そして次に0.0416%ヨウ化プロピジウム(PI)および5mMスペルミンテトラクロリド溶液の連続処理によりフローサイトメトリーのために染色した。各処理は、室温における連続撹拌で10分間実施した。全ての試薬はシグマに注文した。細胞周期分析はベクトンディッキンソンFACScanフローサイトメーター上の2時間以内の染色で実施した。1万の事象を各サンプルに関して回収し、そしてデータはModFIT細胞周期分析プログラム(ベクトンディッキンソン、バージョン2.0)を用いて分析した。
アポトーシスの核染色および形態学分析
細胞を照射前に少なくとも12時間カバースリップ上にプレーとした。照射はコロニー形成アッセイと同一の条件で実施した。カバースリップは次に示された時間にPBSで洗浄し、そして氷冷メタノール/アセトンの50:50ミックス中で10分間固定した。次に、カバースリップは4’,6−ジアミジノ−2−フェニルインドールジヒドロクロリド水和物(DAPI)(シグマ、セントルイス、MO)をPBS中0.1μg/mlの濃度にて染色した。アポトーシスのカウントの観察者間の一致は、末端デオキシヌクレオチジルトランスフェラーゼ−媒介dUTPニックおよび標識(TUNEL)−染色を用い、そして3人の個別の観察者により確認した。
【0149】
細胞のカウントは染色の30分間以内に実施され、そしてツアイスアクシオプランエピフルオレッセンス顕微鏡上で写真を撮った。100細胞の少なくとも3つの個別の視野を各サンプルに関して計数した。
コロニー形成アッセイ
照射後の細胞の生存はコロニー形成アッセイにより評価した。プレートされる細胞の数は、各照射量において皿あたり20から200のコロニーと計算され、そして10cm培養皿中にプレートされた(フィッシャーサイエンティフィック、ピッツバーグ、PA)。均一な照射を保証するため、回転するプラットフォーム上に細胞を12.8Gy/分で送達する、J.L.シェファードモデル30マークIセシウム−137照射機を用いて細胞を照射した。照射後、細胞は37℃において5%CO2と7−10日間インキュベートし、次に、クリスタルバイオレットで染色した。50細胞より多いコロニーは解剖顕微鏡下で計数した。生存画分は、プレートされた細胞の数に対する、形成されたコロニーの数の比であり、そして平板効率に関して修正された。少なくとも3つの細胞濃度を各照射量に用いた。
ウエスタンブロッティング
各時間点に関して、6cmプレートあたり105細胞を400μlのサンプルバッファー(10%グリセロール、2%SDS,100mM DTT,50mM Tris,pH6.8)中の溶解により回収した。各溶解物30μlを各レーンあたり負荷して、155SDS−ポリアクリルアミドゲル上で電気泳動して分離して、ニトロセルロースフィルター膜(バイオラッド、ヘラクレス、CA)上に転写した。膜は、マウス抗−ヒトp53モノクローナル抗体(ネオマーカーズ、フェモント、CA)で、次いでホースラディッシュパーオキシダーゼにカップリングしたヤギ抗−マウス二次抗体(アマシャム、アーリントンハイツ、IL)によりプローブした。バックグラウンド抗体結合を減じるため、PBS中の2.5%粉末ミルク中の二次抗体とのインキュベーションを実施した。検出は、ケミルミネッセンス(ECL,アマシャム、アーリントンハイツ、IL)により実施した。p53発現の相対レベルはスキャニングデンシトメーター(モリキュラーダイナミックス)を用いたブロットをスキャニングすることにより測定した。
抗体
p185neuエクトドメインに反応性のモノクローナル抗体7.16.4は前に記載した。抗−EKおよび抗−JNK抗体はサンタクルズバイオテクノロジー(サンタクルズ、CA)から得た。p53およびp21と反応性のポリクローナル抗体はネオマーカーズ(フレモント、CA)から得た。bcl−2,bax,およびbcl−xLと反応性の抗体はオンコジーンサイエンス(ユニオンデール、N.Y.)から得た。
結果
ガンマ照射処理した循環ヒト膠芽腫の細胞周期分配:成長阻止に対するerbBシグナリング無能力化の効果
U87MGおよびU87/T691細胞の両者に関して、持続された血清飢餓のみ(72−100時間)がG0/G1での細胞の蓄積の増加を導き、S期とG2/M期両方の集団の適度の低下を伴う。U87/T691細胞は血清存在下または持続された血清欠乏後の何れかにおいて親のU87MG細胞よりも高いG0/G1画分を呈したことから、T691停止neu変異体受容体の発現により誘導される相対的に増加した成長阻止は完全血清中の成長により打破されなかったことを示す。
【0150】
同調せずに循環する形質転換ヒト膠細胞集団のガンマ照射への暴露による成長阻止の誘導は、持続された血清欠乏のみにより誘導されたのよりも高かった。U87MGおよびU87/T691細胞の両方において、完全血清成長条件下で成長した細胞の照射は、DNA含有量のためのフローサイトメトリー染色により測定されたとおり、G0/G1期およびG2/M期における強い増加並びにS相における細胞のパーセンテージの減少を引き起こした(
図1Bおよび1D)。S相画分の減少およびG2期の細胞の蓄積は、DNA損傷を持続する細胞の特徴である。
図1A,1B,1Cおよび1Dのデータは、ガンマ照射72時間後に分析した細胞の代表的実験を描写する。初期の時間点は同様の傾向を示すが、照射72時間後の分析が次の実験との一致であるとして選択された。3つの個別の実験の分析は、細胞周期分散における以下の変化を明らかにした(細胞の平均パーセント±SEM;±照射処理[RT]):
1.)U87MG親細胞:
G0/G1:26±2.8,+RT 51.5±2.1;
S:66±4.2,+RT 21±2.8;
G2/M:8±1.4,+RT 28.5±0.7;
2.)U87/T691細胞:
G0/G1:34.5±4.9,+RT 71±7.1;
S:57.5±4.9,+RT 16±4.2;
G2/M:7.5±0.7,+RT 12.5±3.5。
U87/T691細胞は高いG0/G1画分を呈し、そして照射処理があってもなくても培養において同調せずに成長させた場合に、親膠芽腫細胞と比較した場合、減少したSおよびG2/M集団を呈し、そしてもっとも大きな差異はG0/G1集団においてであった。G2/M画分の照射誘導による増加はU87MGおよびU87/T691細胞の両方においてみられたが、親U87MG細胞においてはより程度が大きかった。これらの細胞集団における血清欠乏と照射処理の組み合わせは付加的でなく、そして完全血清中で照射処理を用いて観察されるものからの何れかの細胞系における細胞周期分散を感知できるほど変化させなかった。即ち、EGFR−媒介シグナリングの無能力化は持続された血清欠乏により観察されたのとは異なる機構による成長阻止を誘導するらしい。
トランス−受容体阻害はヒト膠芽腫細胞を照射誘導アポトーシスに対して感受性にする
ヒト膠芽腫細胞は実験上および臨床上の両方において照射治療に対して本質的に耐性となることが示された。EGFRの過剰発現および/または変異は特に攻撃的なヒト膠腫瘍に相関されてきており、そして癌原性はインビトロおよびインビボにおいて低下したアポトーシスのためであることが示唆された。T691停止neuによるヒト膠芽腫のEGFR媒介シグナリングの阻害が、アポトーシス細胞死に対して細胞を感受性にできるか否かを試験した。
【0151】
持続された血清欠乏により、たった0.1%のアポトーシスが、4’−6−ジアミノ−2−フェニルインドール(DAPI)染色またはTUNEL染色の何れかを用いてU87MG親細胞において観察され、他の研究において観察されたよりも低かった。U87MG由来の細胞はアポトーシスを引き起こす条件下でのPI染色後のフローサイトメトリー分析によりサブG0ピークを呈さないことがわかり、他の研究と一致した。U87MG細胞におけるT691停止neu阻害剤の発現は、アポトーシス核のDAPIによる免疫組織化学の同定により測定されたとおり、持続された血清欠乏によりたった0−2%のみをもたらした。
【0152】
アポトーシスは繰り返しの研究において72時間で細大であり、そしてこの時間点はさらなる全ての実験において選択された。U87MG細胞バックグラウンドにおけるT691停止neu蛋白質の発現は照射誘導アポトーシスのレベルを、4つの個別の実験において完全成長培地中で72時間で23±7.9%(平均±SEM)まで増加させた(
図2A)。照射と組み合わせた持続血清欠乏はU87/T691細胞において33±10.6%のアポトーシスを、そして親U87MG細胞において11±1.5%をもたらし、両方の集団において完全成長培地中の細胞の照射により観察されたのを上回る同等な増加であった。ガンマ照射後のヒト膠腫細胞中のアポトーシスの形態学的評価を含む実験を実施した。ガンマ照射の暴露後に、全ての細胞をDAPIにより染色した。アポトーシス性形態を呈する核を観察した。核の水泡化(brebbing)およびアポトーシスの断片特性が、DAPI染色したU87MG由来の培養細胞の免疫組織化学分析により示される。アポトーシス指数はU87/T691細胞内の照射後の全細胞死の表示不足を表すが、我々が免疫組織化学的に浮遊細胞を試験できなかったためである。
照射されたヒト膠芽腫細胞のクローン原性生存。我々は、放射性感受性を測定するのに共通に用いられたアッセイで成長の阻止または死を逃れてコロニーを形成し始めることが可能な細胞の数を測定した。特定の場合において、クローン原性成長アッセイは照射または化学治療に対する感受性と相関しなかったが、おそらくは死んだかまたは安定に阻止された細胞の運命がこのアッセイにおいて測定されないためである。
図3に示すとおり、U87/T691細胞は照射濃度(2−10Gy)の範囲を超えて照射に対する増加した感受性を呈した。U87/T691細胞は試験された全ての照射量においてそれらの未トランスフェクト親対照物よりも照射に対して約1.5 logより感受性であった。これらの結果は追加のT691停止neu−発現サブクローンにより確認された。U87MG細胞およびそれらの誘導体は野生型p53およびp21蛋白質を含む。
ヒト膠芽腫細胞の照射感受性のp53状態に対する関係
p53状態は形質転換された細胞種および形質転換されていない細胞種の多くにおいてイオン化照射に対する応答に影響することが示された。ガンマ照射後のヒト膠芽腫細胞なあのp53誘導の分析を行った。野生型p53遺伝子産物を含む105のU87MGおよびU87/T691細胞をプレートして、一晩の付着後にガンマ照射した(10Gy)。照射後示された時間において溶解物を取り出し、SDS−PAGEに供し、そしてp53に反応性の抗体で免疫ブロットを行った。対照細胞は免疫反応性のp53蛋白質を含むMCF−7胸部癌細胞であった。U87/T691サブクローン中のガンマ照射後12時間におけるp53蛋白質のより強い誘導が構成的に観察された。照射処理後異なる時間点において得られた細胞溶解物のウエスタン分析は、U87MGとそれらのT691停止neuトランスフェクト誘導体の両方において、照射後6−72時間の間の全ての時間点において検出されたp53蛋白質レベルの永続的増加を示した。ゼロタイム点は、ガンマ照射されて分析のために直後に溶解した細胞を示す。p53密度はこの時間においてモック照射循環細胞に匹敵する。U87/T691細胞における照射12時間後のp53密度の10倍の増加は、試験した他の全ての時間点においてU87MG細胞およびU87/T691細胞の両方におけるほんの1.5−3倍の増加に匹敵することが観察された。この傾向は変わらずに観察され(4つの実験)、そしていくつかの実験において照射6時間よりも早くにU87/T691細胞において観察され、そしてゲノムの損傷の存在下でEGFRを無能力化することにより、p53依存性シグナリング経路がより効率的に活性化されるかもしれないことを示唆する。p53チェックポイント蛋白質における変化はガンマ照射によるゲノムの損傷後12時間に観察された。erbB受容体の連結後の胸部癌細胞の成長阻害および分化は、p53依存性経路の活性化と関連していた。
【0153】
p21は照射後のU87MGおよびU87/T691細胞の両方において誘導され、最高レベルは両細胞系において照射暴露の24時間後に観察された。U87MG細胞およびU87/T691細胞の両方において、照射24時間後のp21蛋白質のレベルは同等であった。他者はbcl−xLのアップ制御がヒト膠腫細胞における低下と関連することを示唆したが、我々は、U87MGまたはU87/T691細胞の何れかにおいて照射後のbcl−xL蛋白質発現における変化を検出しなかった。構成的なbcl−xLおよび照射誘導されたbcl−xL両方のレベルはU87MGおよびU87/T691細胞において均等であった。baxおよびbcl−2蛋白質レベルの試験は膠芽腫細胞とそれらの阻害されたクローンの間の差異を明らかにしなかった。
p53−変異ヒト膠芽腫細胞中のアポトーシス
U373MGヒト膠腫細胞は変異したp53遺伝子産物を含み、p21発現を欠損し、そしてフローサイトメトリー分析により表面EGFRの同等な上昇をU87MG細胞に対して示す。これらの細胞を用いることにより、EGFR媒介シグナリングの阻害およびガンマ照射後に観察されたアポトーシスが野生型p53蛋白質に依存したか否かを測定した。U373MG細胞はガンマ照射後の変異p53蛋白質のレベルの増加を呈したが、p21を構成的または照射処理後に発現しなかった。
【0154】
T691停止neu変異体受容体はU373MG膠腫瘍細胞において発現され、そして代謝標識およびフローサイトメトリー分析により4つのU373/T691サブクローンにおいてU87/T691細胞に匹敵する発現を確認した。フローサイトメトリーは、T691停止変異体neu受容体の表面レベルがU87/T691,U373/T691 cl 1およびU373/T691 cl 12サブクローン、および2つの追加のT691停止neu−発現U373MG誘導体において均等であったことを示した。T691停止neu変異体受容体を発現するU373MG誘導体は低血清において成長阻止が可能であり、そしてインビトロにおいて形態学的に形質転換された病巣無しにコンフルエント細胞の阻止された芝生を表したことから、p52およびp21野生型蛋白質は、erbBシグナリングが無能力化された膠腫瘍細胞の成長を阻止するのにも形質転換を阻害するのにも必要なかったことが示される。U373/T691 cl 1およびU373/T691 cl 12サブクローンは、次に、U373MG細胞と共に照射されて、それらの親対照物を超える増加したレベルのアポトーシスを呈した(
図2B)。示された代表的実験において、2つのU373/T691サブクローンはガンマ照射72時間後にそれぞれ32%および59%のアポトーシスを呈したが、親U373MG細胞における2%アポトーシスおよびU87/T691細胞における20%アポトーシス指数に匹敵した。p53およびp21状態において差異を含む2つの異なるヒト膠芽腫細胞系中のT691停止neuの発現によるEGFRシグナリングを無能力にすることは、増加した照射誘導アポトーシスをもたらした。ゲノム損傷に対するヒト膠芽腫細胞の感受性は、即ち、野生型p53およびp21蛋白質不在下で起こり得る。考慮すると、これらのデータは、p53依存性およびp53非依存性の両経路がトランス受容体阻害およびゲノム損傷の組み合わせにより誘導された細胞死への感受性を媒介するかもしれないことを示唆する。注目すべきは、EGFRシグナリングが無能力化されるヒト膠芽腫は、親細胞に比して、持続された血清欠乏または腫瘍壊死因子α−媒介細胞死の何れかに対してより感受性ではないらしい。
考察
細胞成長および形質転換を阻害するEGFRシグナリングの特異的阻害も、放射線耐性ヒト膠芽腫細胞を照射誘導ゲノム損傷に敏感にした。トランス優勢p185neu由来の変異体受容体を発現する膠芽腫細胞は、それらの親対照物に比して、高いG1期阻止および高いレベルのアポトーシスを照射後に呈した。哺乳類繊維芽細胞および特別の神経細胞において、血清または成長因子欠乏は特定の条件下でアポトーシスを導くことができる。持続された血清欠乏のみは、これらの研究でヒト膠芽腫においてアポトーシスを誘導しなかった。erbB受容体シグナリングまたは血清欠乏の何れかと組み合わせたDNA損傷が、アポトーシスを誘導するのに必要であった。EGFRが無能力化された23%のU87MG誘導体および32−59%のU373MG−由来サブクローンにおいて(親細胞においてはほんの1−2%に匹敵)、照射により完全成長培地中でアポトーシスが誘導されたことから、トランス受容体阻害によるEGFRシグナリングの阻害は血清中の成長により克服できなかったことを示す。照射による損傷と組み合わせた血清剥奪は、親U87MG細胞およびT691停止neu発現ヒト膠芽腫誘導体の両方において、観察されたレベルのアポトーシスを同じ程度に増加させた。注目すべきは、DNA損傷後、細胞表面においてerbB受容体シグナリングを無能力化することにより観察されたアポトーシスは血清欠乏を用いて観察されたよりも大きかった。
【0155】
監視システム、またはチェックポイントは、ゲノムまたは有糸分裂紡錘体への損傷が起こった場合に細胞周期を停止させるように発展してきた。DNA損傷チェックポイントは細胞周期の別々の段階では異なって操作し、そして成長阻止、DNA修復、転写活性化、およびアポトーシスに関与する複数の多面的遺伝子産物の調整された作用を必要とする。DNA損傷チェックポイントは、損傷されたDNAから細胞周期成分までの情報を伝達するシグナルトランスダクション経路を構成する。これらの研究において提示されたデータは、受容体チロシンキナーゼ(RTK)媒介シグナリング事象がDNA損傷チェックポイントシグナリング経路に影響しうることを示す。特に、悪性ヒト膠腫瘍細胞中のEGFRの阻害はX線により引き起こされたDNA損傷後に観察された成長阻止およびアポトーシスの程度を増加させることができる。
【0156】
ガンマ照射細胞の耐性は異なるオンコジーンの機能状態により影響される。オンコジーンRasまたはRafの発現はNIH3T3細胞中の放射線感受性を減じ、そしてRasHプラスc−またはv−mycオンコジーン何れかの発現はガンマ照射に暴露されたラット胚繊維芽細胞に耐性を付与した。低血清または抗癌剤への暴露に際して様々なオンコジーンの発現が細胞をアポトーシスに敏感にさせ得ることも真実である。細胞周期のG1およびG2期の両方において起こる分割の遅延は支配的癌蛋白質、例えばH−rasの発現により影響される。野生型p53蛋白質の発現はガンマ照射後の低下した生存に関連したが、変異したp53蛋白質を含む細胞を超えたアポトーシスの高いフラクションの誘導のためである。しかしながら、変異したp53蛋白質を含む腫瘍細胞およびp53−/−マウス由来の増殖性リンパ球様細胞は照射後にアポトーシスを受けることが示されたため、ゲノム損傷後の細胞死のp53非依存性機構が示唆される。
【0157】
特定の細胞種においてDNA損傷後に観察される成長阻止対アポトーシスの程度を媒介する因子は同定されておらず、そしてDNA損傷検出、細胞回収、およびアポトーシスへの決定に影響する細胞特異的因子は完全に理解されていない。p53依存性機構は比較上の成長阻止および/またはアポトーシスを受けるための阻害された膠腫瘍細胞の応答に影響するかもしれない。U373MG−由来の細胞における結果も、EGFRシグナリングが阻害される形質転ヒト細胞中でゲノム損傷後に起こるアポトーシス細胞死はp53およびp21蛋白質のとは異なる機構を含むことを示す。p21−/−マウスは正常に発生し、そして正常な器官の発生に要求されるプログラムされた細胞死の欠損を有さないらしいことから、p21はアポトーシスに必要ないらしいことが示される。p53−/−マウスは遺伝子不安定性を示し上昇したc−mycレベルを含む。これらのマウスはインビボにおいて顕著なレベルのアポトーシスを受けることから、アポトーシスのp53非依存性機構が正常組織および形質転換相棒の両方で機能することを示す。
【0158】
興味を引くのは、同系適合結腸直腸カルシノーマ細胞内のp21の不在が同じ細胞系のp21陽性誘導体と比較した場合に、低下した成長阻止をもたらし、そしてこれがインビボにおいてより阻害された腫瘍成長に相関したことを最近の仕事が証明する。これらの観察はp21媒介チェックポイント成長阻止における欠損により増加したアポトーシス帰したが、p21−/−細胞によりアポトーシス化する増加傾向はこの仕事において直接は示されなかった。アポトーシスの誘導はインビボにおいて抗癌剤治療における成長阻止に好ましいことが示唆された。我々の研究においては、Waldmannら(1997)の研究と異なり、照射後のアポトーシス、増加した成長阻止およびクローン原性生存の低下の間に相関が存在した。
【0159】
特定の環境、特に癌細胞において、成長阻止を媒介する経路において欠損が存在するなら、アポトーシスはゲノム損傷後に好遇されるかもしれない。さらに、細胞が成長阻止およびアポトーシスの両方を受けることができるとしても、EGFRシグナリングが無能力化されたp21欠損U373MGヒト細胞におけるとおり、細胞は特定のシグナル、例えば照射後にアポトーシスを誘導するかもしれず、おそらくは別の経路を活性化することによる。我々のデータは、ゲノム損傷により誘導された成長阻止またはアポトーシスの相対比がerbBシグナリング経路中の特定のチェックポイントの保全および変化の両方に影響されることを示す。注目すべきは、RTKシグナリング経路を変調することが形質転換細胞中でのDNA損傷後のチェックポイント出力に影響するかもしれないことである。他者は、胸部癌細胞中のerbBシグナリング経路の活性化が放射線耐性に寄与することを示したことから、erbBファミリーシグナリング経路は多くの腫瘍種においてDNA損傷に対する応答に影響することを示唆する。シグナリングの生物学上の阻害を、チロシンキナーゼファミリーの受容体癌蛋白質を特異的に阻害することができる因子と組み合わせることにより、我々は、標準の細胞障害性因子に対する腫瘍細胞の応答のキネティックスに影響することが可能かもしれない。細胞障害性治療の投与のタイミングはそのような組み合わせ治療において最適化してよく、これらのデータは、複数のチェックポイントシグナルトランスダクション経路中の変化を含む進行したヒト悪性腫瘍の治療においてさえ、現存の利用可能な抗癌養生法の選択的抗腫瘍効果が改良できることを示唆する。
実施例6:組換えアデノウイルス
本発明のいくつかの態様による組換えアデノウイルスはElaおよびElbを欠失させることにより無能力化し、他のウイルス遺伝子の発現を活性化するのに通常要求される。これらの組換えアデノウイルスは、ヒトAd5に基づき、アデノウイルス蛋白質の明らかな細胞変性作用または発現無しにヒト肝細胞へ極めて効率よく遺伝子を形質導入できる。本発明における使用のために適合されうる組換えアデノウイルスの構築は、引用により編入されるKozarskyら、1993 Somatic Cell and Molecular Genetics 19(5):449−458に記載される。該文献は、lacZ挿入物を伴う組換えアデノウイルスを教示する。lacZ挿入物は本発明に従いチロシンキナーゼ欠失erbBダイマー形成蛋白質をコードする配列で置換してよい。本発明の遺伝子構築物はlacZ挿入物を部位においてリンカー配列中に挿入される。
方法と材料
組換えアデノウイルス。組換え体E1−欠失アデノウイルスAd.cblacZおよびAd.CBhLDLRを生じさせるために使用されたプラスミドは以下のとおりに構築された。プラスミドCMVβAlacZ(10)をSnaB1およびNheIで消化して、gagβAhLDLR(16)をNheIで消化して、次にXhoIで部分消化することにより、β−アクチンプロモーターおよびlacZ遺伝子またはヒトLDL受容体cDNAの何れかを含む断片を単離した。これらの断片はクレノーにより平滑末端化した。プラスミドpAdCMV−lacZ(17)はSnaBIおよびNotIで消化することにより、CMVプロモーターおよびlacZ遺伝子を除去し(CMVエンハンサーは残す)、クレノーで平滑末端にして、lacZまたはLDLR遺伝子の何れかに融合したβ−アクチンプロモーターを含む挿入物を連結した。その結果のベクターを、それぞれ、pAdCBlacZおよびpAd−CBhLDLRと名付けた。
【0160】
プラスミドをNheIで直鎖状にし、そして5’ITRを除去するためにXbaIとClaIで消化した野生型アデノウイルスDNA(部分的E3欠失を含む株サブ360(18))と同時トランスフェクトした。組換えアデノウイルスはトランスフェクション後に単離し(19)、2ラウンドのプラーク精製に供し、そして塩化セシウム遠心分離により溶解物を精製した(20)。ウイルスストックは293細胞上の限定希釈プラークアッセイにより力価に関して評価し、そして10mM Tris CL,pH8.1,100mM NaCl,0.1%ウシ血清アルブミン、および50%グリセロールで4倍希釈後に20℃で保存した。グリセロールストックの力価は:Ad.CBlacZ,2.4x109プラーク形成ユニット(PFU)/ml;CvhLDLR,4x109PFU/ml;野生型Ad,8x109PFU/mlであった。
【0161】
本発明による遺伝子構築物はlacZ配列に代えてプラーク中のリンカー配列内に挿入される。
実施例7:組換えアデノウイルス
本発明のいくつかの態様による組換えアデノウイルスはElおよびE4を欠失させることにより無能力化し、他のウイルス遺伝子の発現を活性化するのに通常要求される。これらの組換えアデノウイルスは、ヒトAd5に基づき、アデノウイルス蛋白質の明らかな細胞変性作用または発現無しにヒト肝細胞へ極めて効率よく遺伝子を形質導入できる。本発明における使用のために適合されうる組換えアデノウイルスの構築は、引用により編入されるPCT出願連続番号PCT/US96/100245に記載される。該文献は、lacZ挿入物を伴う組換えアデノウイルスを教示する。lacZ挿入物は本発明に従いチロシンキナーゼ欠失erbBダイマー形成蛋白質をコードする配列で置換してよい。本発明の遺伝子構築物はlacZ挿入物を部位においてリンカー配列中に挿入される。
【0162】
図4は、組換えアデノウイルスH5.001CBLacZの概要マップであり、制限エンドヌクレアーゼ控訴部位を示す。縞の棒はCBLacZミニジーンを表し;黒い棒はAd5ウイルスバックボーンを表し;クロスハッチの棒はAd E4セクションを表す。
【0163】
新規のパッケージング細胞系はE1およびE4の両遺遺伝子において機能上欠失した組換えアデノウイルスの生産を可能にする。
【0164】
アデノウイルス血清型5の初期領域4(E4)は、ウイルスDNA複製、宿主細胞シャットオフ、および後期mRNA蓄積に関与すると信じられる7つのオープンリーディングフレーム(ORFs)からなる。E4において欠失させた組換えアデノウイルス(Ad)を生成するためには、E4領域の機能はヘルパーウイルスまたはパッケージング細胞系により組換えウイルスに供給されなければならない。
【0165】
この問題を回避するため、パッケージング細胞系はAd5 E1遺伝子およびAd5 E4遺伝子のORF6のみを含む。E4のORF6のみがウイルスのライフサイクルにおいてE4に関する要求を提供することができる。ORF6は誘導可能なプロモーター、例えば亜鉛によい誘導可能なヒツジメタロチオニンプロモーター、またはグルココルチコイド、特にデキサメタゾンにより誘導可能なマウス哺乳類腫瘍ウイルス(MMTV)プロモーターの転写制御下であることがさらに好ましい。
【0166】
アデノウイルス配列を含む所望のシャトルベクターが細胞系にトランスフェクトされた後で、E4 ORF6の発現は適切なインデューサーにより誘導することができる。
【0167】
好ましい形態において、パッケージング細胞系は、誘導可能なプロモーター制御下でE4 ORF6配列が導入されたヒト胚腎臓(HEK)293E1発現細胞である。そのグルココルチコイドインデューサーを伴うMMTVプロモーターは存在するのが好ましいが、MTプロモーターの硫酸亜鉛インデューサーはそれ自身が細胞に有毒だからである。
【0168】
Ad5 E4領域のORF6のみまたは機能比較のための完全なE4を含むパッケージング細胞系の構築の特別の教示は以下に記載される。簡単に記載すれば、Ad E4遺伝子の完全なE4領域とORF6配列は公知の技術により得る(例えば、すべて引用により編入される、Sambrookら、”Molecular Cloning.A Laboratory Manual.”,第2版、コールドスプリングハーバーラボラトリー、ニューヨーク(1989)および本明細書で引用した全ての文献)。ORF6領域を単離するため、アンカーされたポリメラーゼチェイン反応技術を用いることにより、ORF6配列をその最初のコドンからその最後のコドンまで増幅した。ORF6の公表された配列から選択されたプライマーを用いることにより、該ORF配列および該配列の末端上の挿入物制限部位を増幅する。E4 ORF6配列を含む完全E4遺伝子配列はAd5のGenbank配列にて公表される(Genbank加盟番号M73260)。
【0169】
ミニジーンは選択されたプロモーターの制御下にORF6配列を置くように構築される。該ORF6配列遺伝子はその転写を可能にする様式において制御成分に操作可能なように連結される。そのような成分は、慣用的な制御要素、例えばORF6発現を推進するプロモーターを含む。一つの誘導可能なプロモーターはZn+2誘導可能ヒツジメタロチオニン(MT)プロモーター(M.G.Petersonら、Eur.J.Biochem.,174:417−424(1988))。第2のプロモーターはデキサメタゾン−誘導可能なマウス哺乳類腫瘍ウイルス(MMTV)プロモーターである。
【0170】
MMTV−ORF6ミニジーン内で使用されるポリA配列は成長ホルモン遺伝子ターミネーターおよびSV40複製オリジンにより供給される。
【0171】
ORF6−含有ミニジーンはネオマイシン耐性遺伝子を含んだpBR322シャトルプラスミドにサブクローン化して、シャトルベクターをもたらした。
【0172】
E1/E4 ORF6発現パッケージング細胞系は組換えE1/E4欠失アデノウイルスの生成において有用である。
組換えアデノウイルス
新規のE1/E4発現細胞系は任意の選択されたトランス遺伝子を含むE1/E4欠失組換えアデノウイルスをさらに構築するのに有用である。該組換えアデノウイルスは哺乳類細胞および組織に適当な遺伝子を送達することができる。これらの組換えアデノウイルスは少なくともE1a,E1bおよびE4 Ad遺伝子領域において機能上欠失している。用語「機能上の欠失」は、十分な量の遺伝子領域が除去されるかまたはさもなくば例えば変異または修飾により損傷することで該遺伝子領域がもはや遺伝子発現の産物を生成できないことを意味する。所望であれば、完全遺伝子領域を除いてよい。
【0173】
同様に、ベクター内で有用なウイルス配列の選択、「ミニジーン」のクローニングおよび構築、および所望のウイルスシャトルベクターへのその挿入および組換え感染性ウイルスの生成の方法は、本明細書に提供された教示を与えられた当業者の範囲内である。
「ミニジーン」を含むトランス遺伝子の構築
このコンテクストの中のミニジーンは条規の通りに定義されるが、このミニジーンの成分はインビボにおいて遺伝子産物を発現するようにデザインされることが例外である。そのような成分は、組換えウイルスでトランスフェクトされた細胞中のトランス遺伝子の発現を推進するために必要な慣用的制御要素を含む。このミニジーンのために、選択されたプロモーターをトランス遺伝子に操作可能なように連結し、そして他の制御要素と共に組換えベクターの選択されたウイルス配列内に位置させる。プロモーターの選択は日常的な事柄であり本発明においては制限されない。有用なプロモーターは構成的プロモーターまたは制御(誘導可能な)プロモーターであってよく、発現されるトランス遺伝子の量の制御を可能にする。例えば、所望のプロモーターは、サイトメガロウイルス(CMV)極初期プロモーター/エンハンサーのそれである(tatoebaBoshartら、Cell,41:521−530(1985)を参照されたい)。
【0174】
他の所望のプロモーターは、ラウスサルコーマウイルスLTRプロモーター/エンハンサーを含む。さらに別のプロモーター/エンハンサー配列は、チキン細胞質性β−アクチン(CB)プロモーターである(T.A.Kostら、Nucl.Acids Res.,11(23):8287(1983))。他の適切なプロモーターは当業者により選択されてよい。
組換えアデノウイルスの生産
本発明において有用なアデノウイルス配列は多数のアデノウイルス種のDNA配列を含んでよく、Genbankから利用可能であり、Ad5型(Genbank加盟番号M73260)である。該アデノウイルス配列はあらゆる公知のアデノウイルス種、例えば血清型2、3、4、7、12および40から得てよく、さらに現在同定されている41のヒトタイプの何れをも含む。
【0175】
他の動物に感染することが公知の同様なアデノウイルスも、本発明のベクター構築物内で用いてよい。アデノウイルス種の選択は以下の発明を制限するとは理解されない。様々なアデノウイルス株がアメリカンタイプカルチャーコレクション、ロックビル、メリーランドから入手可能であるか、また様々な商業ソースまたは研究所ソースの請求により入手可能である。以下の例示の態様においては、便利性のためアデノウイルスタイプ5(Ad5)を用いた。
【0176】
本発明のアデノウイルスはアデノウイルス極初期遺伝子E1a(mu1.3から4.5のスパン)および後期遺伝子E1b(mu4.6から11.2のスパン)の機能上の欠失を含んだ。同様に、該アデノウイルスはE4領域(mu92kara97.2のスパン)またはE4領域の少なくともORF6の機能上の欠失を有する。
【0177】
本発明の使用のための例示の組換えアデノウイルスは、例えば、様々な組換えアデノウイルスからの所望の断片の相同組換えにより得てよく、遺伝子治療用途のために他の組換えアデノウイルスを生成するのに共通に採用される技術である。組換えアデノウイルス、H5.001CBLacZは、アデノウイルスdl1004(またはH5dl1004)ウイルスバックボーンとpAdCBLacZミニジーンDNAの間の相同組換えにより構築する。H5dl1004はマップユニット92.1からマップユニット98までの、即ち実質的に完全なE4遺伝子のAd5ウイルス欠失である。dl1004ウイルスは引用により編入される、Bridge and Ketner,J.Virol.,632(2):631−638(1989年2月)に記載される。
【0178】
pAdCBLacZベクターはチキンβ−アクチンプロモーター制御下にバクテリアのβ−ガラクトシダーゼ遺伝子に挿入されたE1欠失であるAd m.u.0−1を含むcDNAプラスミドであり、以下に記載されるとおり他の制御要素を伴い、そしてAd m.u.9−16およびプラスミド配列を周辺に有する。
パッケージング細胞系を発現する新規なE1a/E1bおよびE4
E4 ORF6発現プラスミドの構築
pMTE4ORF6
本発明のパッケージング細胞系の構築のために有用な一つの例示プラスミドはpMTE4ORF6であり、ヒトE4 ORF6遺伝子配列の転写制御下のヒツジメタロチオニンプロモーター(MTプロモーター)、成長ホルモンターミネーター(GH)、SV40複製オリジン、pBR322に基づくプラスミドからのプラスミド配列であり、ネオマイシン耐性遺伝子、SV40ポリアデニル化部位およびアンピシリン耐性遺伝子を含む。
【0179】
このプラスミドの様々な機能断片は他の慣用上用いられる配列で容易に置換えてよく、プラスミドのデザインに必須ではない。
pMMTVE4ORF6
本発明のパッケージング細胞系の構築のために有用な他の例示プラスミドはpMMTVE4ORF6であり、ヒトE4 ORF6遺伝子配列の転写制御下のマウス哺乳類腫瘍ウイルスプロモーター(MMTV)、成長ホルモンターミネーター(GH)、SV40複製オリジン、pBR322に基づくプラスミドからのプラスミド配列であり、ネオマイシン耐性遺伝子、SV40ポリアデニル化部位およびアンピシリン耐性遺伝子を含む。このプラスミドの様々な機能断片は他の慣用上用いられる配列で容易に置換えてよく、プラスミドのデザインに必須ではない。
pLTR.E4(−)内因性E4プロモーター
本発明のパッケージング細胞系の構築のための対照として用いられるプラスミドはpLTR.E4(−)である。このプラスミドは内因性E4プロモーターおよびE4 ORF1の一部が失われたことを除いて、構成的レトロウイルスMLV LTRおよびAd E4遺伝子領域の殆どを含む。他のプラスミド配列は条規と同じままである。
pLTR.E4(+)内因性E4プロモーター
さらに別のプラスミドはpLTR.E4であり、MLV LTRおよび内因性E4プロモーターおよび完全なE4遺伝子を含む。別のプラスミド配列は上記のとおりそのままである。
トランスフェクションおよびクローンの選択
上記プラスミドの各々は、リン酸カルシウム沈殿技術により、アデノウイルスE1遺伝子の産物を発現するヒト胚腎臓細胞系293(ATCC CRL1573)中にトランスフェクトし、100mmプレート上で成長を促した(10μgプラスミド/プレート)。トランスフェクションの24時間後に、細胞を回収して様々な希釈において(1:10−1:100)100mmプレート中で約10日間成長を促した。成長促進(seeding)培地はG418(ジェネティシン、BRL)を1mg/mlにて含む。発生した耐性コロニーは以下のアッセイを使用して選択して増殖させた。クローンの予備分析は、以下のとおり、組換えアデノ関連ウイルスAV.CMVLacZの増強されたトランスダクション効率およびAd Er蛋白質の免疫蛍光局在に基づいた。
AV.CMVLacZトランスダクション増強アッセイ
E1およびE4 Ad遺伝子産物は組換えアデノ関連ウイルス(AAV)機能に必要である。この初期アッセイは、96ウエルの35mm培養プレート中で実施例1のパッケージング細胞系の成長を促し(2x106細胞/ウエル)、そして精製されて熱処理したAV.CMVLacZを1000ウイルス粒子/細胞のMOIで上記細胞に感染させることを含む。
AV.CMVLacZの製造
組換えAAVウイルスはこの実験の目的のための慣用の遺伝子工学技術により製造される。組換えAAVはヘルパーアデノウイルスの存在下でプラスミドトランスフェクションにより生成される(Samulskiら、J.Virol.,63:3822−3828(1989))。シス作用性プラスミドpAV.CMVLacZはpsub201に由来し(Samulskiら、J.Virol.61:3096−3101(1987))、AAV RepおよびCap遺伝子に代えて大腸菌βガラクトシダーゼミニジーンを含む。組換えAV.CMVLacZゲノム(4.9kb)の5’から3’への配置は、
(a)5’AAV ITR(1−173bp)はPCRによりpAV2を用いて鋳型として得られた(C.A.Laughlinら、Gene,23:65−73(1983));
(b)CMB極初期エンハンサー/プロモーター(Boshartら、Cell,41:521−530(1985));
(c)SV40イントロン;
(d)大腸菌ベータ−ガラクトシダーゼcDNA;
(e)SV40ポリアデニレーションシグナル(初期転写ユニットおよび後期転写ユニットの両方からの分割/ポリ−Aシグナルを含む237BanHI−BclII制限断片;および)
(f)pAV2からSnaBI−BglII断片として得られた3’AAV ITR
を含む。
RepおよびCap遺伝子はトランス作用性プラスミドpAAV/Adにより提供される。
【0180】
90%コンフルエンシーまで150mm培養皿中で生育させた293細胞の単層(5x107細胞/プレート)に、H5.CBALPを10のMOIにて感染させる。H5.CBALP(H5.010ALPとも呼ぶ)はアデノウイルスE1AおよびE1b遺伝子配列(GenbankのAd5配列のマップユニット1−9.2(加盟番号M73260))に代えてアルカリホスファターゼミニジーンを含む組換えアデノウイルスである。アルカリホスファターゼcDNAはこのウイルスのCMV−増強β−アクチンプロモーターの転写制御下である。このヘルパーウイルスはGoldmanら、Hum.Gene Ther.,6:839−851(1995年7月);Engelhardtら、Hum.Gene Ther.,5:1217−1229(1994年10月);および本明細書にて引用した文献に記載される。
【0181】
2%胎児ウシ血清(FBS)を20ml培地/150mmプレートにて添加したダルベッコイーグル培地(DMEM)中で感染を行う。感染から2時間後、2.5mlのトランスフェクションカクテル中の50μgのプラスミドDNA(37.5μgトランス作用性および12.5μgシス作用性)を各プレートに加えて等しく分配した。トランスフェクションは上記のとおりリン酸カルシウムに基づく(B.Cullen,Meth.Enzymol.,152:684−704(1987))。細胞はこの条件において10−14時間放置し、その後、感染/トランスフェクション培地を20mlの新鮮なDMEM/2%FBSで置換える。トランスフェクションから40−50時間後に、細胞を回収し、10mM Tris−Cl(pH8.0)バッファーに懸濁し(0.5ml/150mmプレート)、そして音波処理により溶解物を調製する。溶解物は10mM塩化マグネシウムにし、その後、ウシ膵臓DnaseI(20,000ユニット)およびRnase(0.2mg/ml最終濃度)を加え、そして反応物を37℃において30分間インキュベートした。デオキシコレートナトリウムを最終濃度1%で加え、そして37℃においてさらに10分間インキュベートする。
【0182】
処理した溶解物は氷上で10分間冷して、固形CsClを最終密度1.3g/mlまで加えた。溶解物は10mM Tris−Cl(pH8.0)中の1.3g/ml CsCl溶液をもちいて最終体積60mlにし、そして3つの等しいアリコートに分割する。各20mlサンプルを密度1.45g/mlおよび1.60g/mlの2つの9.0ml層からなるCsCl段階勾配上に重層する。
【0183】
遠心分離はベックマンSW−28ローター中で25,000rpmにて24時間4℃において実施する。
【0184】
機能性AV.CMVLacZウイルスのピークの力価を含む画分を混合してCsCl中の平衡沈降の3連続ラウンドに供する。ローターの選択は、ベックマンNVT−90(80,000rpmで4時間)およびSW−41(35,000rpmで20時間)を含む。平衡化に際して、AV.CMVLacZは1.40−1.41g/ml CsClにおいて乳光のバンドとして出現する。密度は屈折率測定から計算する。精製されたベクターを透析により150mM NaCl(HBS)含有20mM HEPESバッファー(pH7.8)に交換して10%グリセロール存在下で−80℃に凍結保存するかまたはHBS/40%グリセロール中20℃において液体保存する。
【0185】
精製されたウイルスは混在するH5.CBALPヘルパーウイルスに関しておよびAV.CMVLacZ力価に関して試験する。ヘルパーウイルスは受容体アルカリホスファターゼ活性に関する組織化学染色により監視する。1.0%の最終産物を表す精製ウイルスのサンプルを60mmプレート中にて生育させた293細胞の成長単層に加える。48時間後、細胞を0.5%グルタルアルデヒド/ホスフェート緩衝塩(PBS)中で室温にて10分間固定し、PBSで洗浄し(3x10分)、そして65℃において40分間インキュベートすることにより、内因性アルカリホスファターゼ活性を失活する。単層を室温において冷し、10mM Tris−Cl(pH9.5)/100m NaCl/5mM NgCl2中で簡単に一度リンスし、そして0.33mg/mlのニトロブルーテトラゾリウムクロリド(NBT)および0.165mg/mlの5−ブロモ−4−クロロ−3−インドリホスフェートp−トルリジン塩(BCIP)を含む同じバッファー中で37℃において30分間インキュベートする。発色は10mM Tris−Cl(pH8.0)/5mM EDTA中の単層を洗浄することにより停止する。日常的には、上記の精製スキムは3ラウンドの浮遊密度超遠心分離により全ての検出可能なH5.CBALPヘルパーウイルスを除去する。
【0186】
AV.CMVLacZ力価はゲノムコピー数(ウイルス粒子/ml)、260nmの吸光度(A260粒子/ml)において、そしてLacZ形成ユニット(LFU/ml)に従い測定する。ウイルス粒子濃度はサザンブロッティングに基づく。簡単にいえば、精製されたAV.CMVLacZのサンプルをキャプシッド消化バッファー(50mM Tris−Cl,pH8.0/1.0mM EDTA,pH8.0/0.5% SDS/プロテイナーゼK 1.0mg/ml)中で50℃において1時間処理することにより、ウイルスDNAを放出させる。反応物は室温において冷し、負荷バッファーを加えて、1.2%アガロースゲルを通して電気泳動する。ds AV.CMVLacZゲノムの標準量はゲル上においても解析する。
【0187】
DNAをナイロン膜上に電気ブロットし、32Pランダムプライマー標識制限断片とハイブリダイズさせ、そしてその結果のブロットをホスホルイメージャー445SI(モリキュラーダイナミックス)上でスキャンする。標準曲線を二重形態から生じさせて、サンプル中のウイルスゲノムの数を推測するのに使用する。LFU力価はウイルスサンプルを限定希釈してインディケーター細胞を感染させることにより生じさせる。インディケーター細胞はヒーラおよび293を含む。24時間後、細胞をグルタルアルデヒド中で固定し、そして細胞を大腸菌β−ガラクトシダーゼ(LacZ)活性に関して組織化学染色したが、J.M.Wilsonら、Proc.Natl.Acad.Sci.USA,85:3014−3018(1988)に記載されるとおりである。一LFUは1細胞中で感染24時間後に可視検出可能なβ−ガラクトシダーゼ発現を引き起こすのに十分なウイルス量として記載される。
ORF6発現の誘導
10μMデキサメタゾンまたは150μM硫酸亜鉛(陰性対照のため、インデューサー不使用)を用いたORF6発現の誘導は、ウイルス添加の2時間前に開始し、実験期間を通して継続する。ウイルスの添加から24時間後、細胞を回収し、音波処理により溶解物を生成させ、そしてβ−ガラクトシダーゼ発現に関して(即ち、β−ガラクトシダーゼ活性)およびウイルスDNAに関して上記のとおり分析した。細胞抽出物からの低分子量DNAのため、ハート抽出物を調製する。ハート抽出物の調製およびサザンハイブリダイゼーションによる次の分析は、当業者に公知の慣用手法を借りて実施する。
【0188】
インデューサー不在下で、パッケージング細胞系はrAAV感染細胞中で低レベルのβ−ガラクトシダーゼを生じる。インデューサーであるデキサメタゾンを用いたORF6の発現の誘導は、AV.AMVLacZ細胞形質導入における親293よりも高いレベルへの付随的上昇をもたらす。E1のみの発現では、rAAV形質導入のアデノウイルス媒介による増加において効果を有するのには不十分である。
Ad5後期蛋白質の免疫蛍光局在
該アッセイからの陽性のクローンは組換えE4欠失アデノウイルスH5Dl1004を感染して、後期遺伝子発現に関して免疫蛍光アッセイを用いてE4相補に関してスクリーンする。H5l1004ウイルスはジョンホプキンス大学のKetner博士から得たが、引用により編入されるBridge and Ketner,J.Virol.,632(2):631−638(1989年2月)に記載されるとおりである。E4のORF6は後期Ad遺伝子の発現、特にアデノウイルスのヘキソンおよびペントン繊維の形成において相補するため、ORF6を含む細胞系はこれらの蛋白質に対する抗体を結合することができる。
【0189】
各細胞系はMOI0.1においてE4欠失ウイルスH5d1l1004を感染させる。細胞はヘキソンまたはペントン繊維のいずれかに対するマウス抗−アデノウイルスFITC−標識モノクローナル抗体で1:10希釈において処理する(ケミコンインターナショナル社、テムクラ、CA)。陽性クローンを上記抗体との反応により同定する。
相対的プラーク効率
強い相補可能性を示す細胞系は、W162細胞(E1を発現しないE4−相補ベロ細胞系)と比した、H5dl1004の相対プラーク効率に関してスクリーンする(Weinberg and Ketner,Proc.Natl.Acad.Sci.,USA,80(17):5383−5386)。RPE%、即ち試験細胞系上のH5dl1004力価/W162細胞上のH5dl1004力価を表す相対プラーク効率を測定する。例えば、293細胞のRPEは0である。
【0190】
全ての基準から選択される陽性細胞を以下の表1に、アッセイ結果と共に示す。
【0191】
【表1】
【0192】
H5.001CBLacZの構築と精製
プラスミドpAd.CBLacZを、引用により編入される、K.Kozarskyら、Som.Cell Mol.Genet.,19(5):449−458(193)に詳細に記載されたとおりに構築する。このプラスミドは5’フランキングNheI制限部位、続くAd5配列m.u.0−1、続くCMVエンハンサー/チキンβ−アクチンプロモーター配列を挿入されたE1欠失を含むミニジーンを含み(T.A.Kostら、Nucl.Acids Res.,11(23):8287(1983))、バクテリアβ−ガラクトシダーゼ後にあって、ポリAを従えて3’周囲にAd m.u.9−16を有し別のNheIを有する転写物を制御する。このプラスミド中で、ミニジーンは両サイドを薬剤耐性マーカー含有プラスミド配列ではさまれる。
【0193】
プラスミドpAd.CBLacZはNheIにより直鎖状にされ、リン酸カルシウム同時トランスフェクション法により新規パッケージング細胞系へClaI消化H5dl1004(ほぼマップユニット92.1からマップユニット98を欠くAd5配列であり、完全E4遺伝子に実質上相当する)と共に同時トランスフェクトする。
【0194】
相同組換えはこれらの2つのウイルス構築物のAdマップユニット9−16の間でおこり、H5.001CBLacZと呼ぶ組換えアデノウイルスをもたらす。この組換えアデノウイルスはpAd.CBLacZからのおよそヌクレオチド1からおよそ4628までおよびH5dl1004からのAdマップユニット9−9.21および9.73から100までの配列を含む。この組換えウイルスはよって、Ad E1およびE4から機能上欠損しており、そして実質上構造的に欠損している。
【0195】
ウイルスのプラークをβ−ガラクトシダーゼアッセイにより選択およびスクリーンし、そして3ラウンドのプラーク精製によりH5.001CBLacZを単離した。該精製ウイルスは塩化セシウム密度勾配遠心分離および大スケール生産にも供される。以下のマウス実験に関しては、カラム精製後のウイルスを使用して、グリセロールを最終濃度10%(v/v)まで加える。ウイルスは−70℃において使用まで保存する。
パッケージング細胞系中のH5.001CBLacZの成長キネティックス
上記細胞系に組換えH5.001CBLacZを5のMOIにて感染させる。生じた最大ウイルスは以下の表2にLFU/mlとして報告される。
【0196】
【表2】
【0197】
293−27−18細胞中で成長させた場合(デキサメタゾンにより誘導されたMMTVプロモーターを用いたE4 ORF6細胞系)、このウイルスの最大収量は2.9x1010LFU/mlである。いくつかの細胞系は5分と20分の間に通過し、そして通過物のウイルス成算は安定したままであった。しかしながら、RPEは細胞の繰り返しの通過後に落ちた。
【0198】
本発明による遺伝子構築物はlacZ配列に代わってプラスミド中のリンカー配列中に挿入される。
実施例8
バックグラウンド:
抗−p185neuモノクローナル抗体(mAbs)はインビトロおよびインビボにおいて投薬量依存性様式においてp185neu発現腫瘍の成長を阻害することがわかった。別のエピトープドメインと反応性の抗−p185neumAbsの組み合わせは、インビボにおける腫瘍のneu−過剰発現に対して相乗阻害効果を明らかにした。これらの研究はmAb−に基づく癌蛋白質特異的治療の可能性を証明した。
【0199】
抗原−抗体の3次元構造は、結合部位が6つの高可変性相補決定領域(CDRs)ループ構造により規定されるが(Peterson and Greene,1994)、相互作用の特異性はCDR3ループにより付与されることを明らかにした。CDRループのコンフォメーションおよび構造の必要条件は、抗−受容体抗体の配列および構造が公知の場合に小さなペプチドにより模倣できる。
【0200】
細胞成長および形質転換の阻害は形質転換膠細胞においてerbB受容体のシグナリングを変調することにより達成できる。我々の最近の研究は、アポトーシスの誘導がヒトの癌の首尾良い治療の基礎となるかもしれないことを示す。erbB需要体シグナリングが切断neu T691のトランスフェクションにより阻害された放射線耐性ヒト膠芽腫細胞はDNA損傷に応答して増大した成長阻止およびアポトーシスを呈した。erbBシグナリングの阻害はアポトーシスの誘導のための有力な刺激である。erbB受容体メンバー間の近位の受容体相互作用は、即ち、DNA損傷に応答して活性化される細胞周期チェックポイント経路に影響する。よって、erbB受容体の無能力化はガンマ照射および他の細胞障害性治療に対する応答を改良するかもしれない。
【0201】
データは、完全なerbBシグナリング経路を必要とする放射線耐性ヒト腫瘍細胞が放射線感受性であり、且つアポトーシス経路においてerbBシグナリング経路の阻害によるあらゆるDNA損傷に対するように変わることができることを示唆する。
【0202】
抗−p185c−erbB−2模倣物、CDR4D5をデザインし、開発し、そして、抗−p185c−erbB−2Ab由来の模倣物CDR4D5がヒトの腫瘍細胞の増殖を阻害してガンマ照射後にアポトーシスを増強することが可能か否かを調査するために使用した。実施した実験は以下のとおりである。
1.ペプチド模倣デザイン
抗−erbB2抗体、4D5はerbB2受容体のダウン変調において効果的であることがわかった。ヒト化抗体の結晶構造(1FVD)を分析する。4D5のCDR3を鋳型として用いた。環状ペプチドのいくつかの類似体を生成した。用いてよいペプチドは以下を含む。
【0203】
【表3】
【0204】
2.細胞系
可変レベルのp185c−erbB−2受容体を発現する以下のヒト腫瘍細胞系を用いた:a)U87MG(検出不可能なp185c−erbB−2)、b)低い変調p185c−erbB−2を発現する親U373MGおよびT691トランスフェクトされたU373/T691、c)変調p185c−erbB−2を発現するMCF7、およびSKBR3(高いレベルのp185c−erbB−2)。
3.表面c−erbB−2受容体発現のフローサイトメトリー分析
準コンフルエントな細胞をトリプシンを用いて瞬間処理(<3分)により回収して、氷上に保存した。細胞を洗浄して、約2x106細胞/ml濃度においてFACSバッファー(0.5% BSAおよび0.1%アジ化ナトリウムを含むPBS)中に懸濁し、そして一次試薬(抗体p185c−erbB−2Ab)および二次(抗−IgG−FITC)試薬と共に30分間各々4℃においてインキュベートし、各工程定間で2回洗浄した。染色後、細胞をFACSバッファー中に懸濁して、直後に分析した。フローサイトメトリー分析はベクトンディッキンソンFACSScan上で実施した。陽性p185c−erbB−2細胞系は抗−受容体抗体で染色した細胞系と二次(抗−IgG−FITC)試薬のみで染色した対応細胞系の間の平均チャンネル蛍光の差異により測定した。p185c−erbB−2陽性クローンの均質性は、その軸の周囲の陽性染色細胞集団のピークにより測定した。FACSヒストグラム上では、バックグラウンドピークからかけはなれた陽性ピークの右へのシフトにより、増大した蛍光が示される。高い表面受容体発現はシフトの程度に相関した。各細胞種上の相対的受容体数は平均蛍光強度を公知の受容体コピー数を有する細胞の強度と比較することにより評価される。
4.細胞増殖アッセイ
MTT[3−(4,5−ジメチルチオアゾール−2−イル)−2,5−ヂフェニルテトラゾリウムブロミド]取り込みにより測定された増殖アッセイ。細胞系を96ウエルプレート(5,000細胞/ウエル)中に10%のDMEM中で、示された量の模倣CDR4D5と共にプレートし、そして48時間インキュベートした。MTTを4時間細胞に与えた。細胞を50%SDS/20%ジメチルスルフォキシド中で溶解して、37℃において一晩放置した。増殖は、ELISAリーダーを用いて570nmにおいて光学密度をとることにより評価した。このアッセイにおいて使用した細胞の数はこの細胞種の直線範囲内であることが決定された。
5.アポトーシスの形態学分析により決定されたとおりの抗−p185c−erbB−2模倣CDR4D5の放射線感受性化効果
30,000細胞を一晩6ウエルのプレート中でカバースリップ上に付着させた。細胞を照射前に50μg/mlの模倣CDR4D5と48時間インキュベートした。10Gyの照射を与えて、細胞を37℃においてインキュベートした。核の形態は以下の時間点:照射後12、24、48および72時間において評価した。カバースリップは示された時間において2回PBSで洗浄し、そして50:50ミックスの氷冷メタノール/アセトン中で1分間固定した。固定した細胞は、次に、PBS中0.25ng/mlの濃度の4’,6’−ジアミディノ−2−フェニルインドールジヒドロクロリド水和物(DAPI)(シグマ、セントルイス、MO)で染色し、そして直接の計数を用いてアポトーシス核の形態学上の評価を決定した。アポトーシス計数の観察者間の一致は、ターミナルデオキシヌクレオチジルトランスフェラーゼ−媒介dUTP末端標識(TUNEL)−染色を用いて、且つ3つの個別の観察者の分析により確認した。
【0205】
細胞の計数は染色の30分以内に実施して、ツアイスアクシオプランエピフルオレッセンス顕微鏡上で写真を撮った。100細胞の少なくとも3つの個別の視野を各サンプルに関して計数した。
結果
1.表面c−erbB−2受容体の発現
フローサイトメトリー分析を用いることにより、ヒト腫瘍細胞上の表面p185c−erbB−2受容体発現を測定した。表面c−erbB2受容体の発現はSkBR3において最高であり、MCF7において中度であり、U373MGにおいて低い中度であり、そしてU87MGにおいて検出されなかった。SKBR3の平均蛍光は対照の50倍であり、MCF7,U373MG,およびU87MGのそれは、対照のそれぞれ6.5、2及び1倍であった。
2.増殖の阻害
CDR4D5処理は、投薬量依存性様式および表面p185c−erbB−2受容体密度逆依存性様式において腫瘍細胞増殖を阻害した。CDR4D5はc−erbB2非発現U373MG親細胞の増殖を阻害せず、そしてU373/T691は1μgの模倣CDR4D5で62%阻害された。MCF7およびSKBR3細胞の増殖は投薬量依存性養成期においてそれぞれ43%−53%、および39%−49%阻害された。
3.抗p185c−erbB−2模倣物CDR4D5の放射線感受性化効果
全ての細胞においてアポトーシスは照射後72時間であった。U373MG細胞上の模倣CDR4D5処理は照射48時間後および72時間後に非処理のU373MGよりも20−28%多いアポトーシスをもたらした。U373MG細胞内のアポトーシスに対するCFR4D5の効果は、erbBシグナリングを無能力化して照射に応答したアポトーシスを誘導する阻害性受容体変異体である切断したneuを用いて得られた結果に匹敵した。CDR4D5の顕著な放射線感受性化効果はMCF7およびSKBR3細胞系において照射から72時間後に同じく観察された(
図6B)。表面p185c−erbB−2受容体レベルとアポトーシス性細胞死に対する感受性が逆に相関したので、表面c−erbB2受容体発現の量に従ってCDR4D5の量を増加させることが上記効果を改良するべきである。
【0206】
この4D5模倣物は約1.5KDのサイズの小ささであり、プロテアーゼ耐性ペプチドであり、ヒト表面p185c−erbB−2受容体に特異的であり、完全長の抗体よりも低い抗原性である。該4D5模倣物は、癌の診断および治療における抗受容体模倣物の使用を例示し、ガンマ照射のような細胞障害性治療と組み合わせて相乗効果を生じるはずである。