【実施例】
【0015】
<1>定着治具
図1〜4を参照しながら、本発明の定着治具の実施例について説明する。
【0016】
(1)概要
図1は、本発明の定着治具の分解斜視図である。
定着治具は、挿入孔から充填材が過剰に漏れ出すことを防止するための部材である。
定着治具Aは、挿入孔B1の近傍に配置するベースプレート1と、前記ベースプレート1の移動を規制するための固定具2とを、少なくとも含む。
以下、各部材について説明する。
【0017】
(2)ベースプレート
ベースプレート1は、平面視して、挿入孔B1全体を露出したり、挿入孔B1の一部を閉塞する為の部材である。
ベースプレート1は、平板状の部材で構成することができる。
【0018】
[開口部]
ベースプレート1は、該ベースプレート1を上下に貫通して形成した開口部11を有する。
開口部11は、少なくとも補強鉄筋Cを挿入できる程度の大きさを有し、開口部の11径が挿入孔B1の径よりも小さな径となるように構成していればよく、形状は特段限定しない。
【0019】
[ベースプレートの分割]
ベースプレート1は、前記開口部11を跨ぐように分割してなる一対の分割体によって構成することができる。
なお、
図1では、ベースプレート1の長手方向に分割した2つの分割体1a、1bで構成しているが、分割数は2つに限られず、3つ以上の分割体で構成してもよい。
【0020】
[ベースプレートの取付け]
ベースプレート1を構成する各分割体1a,1bは、互いに接近又は離隔自在とするように、それぞれ個別にコンクリート構造物に取り付ける。
各分割体の取付方法としては、各分割体に各分割体が接近又は離隔する方向に摺動可能な摺動溝12を設け、摺動溝12を介してコンクリート構造物Bにボルト13で取り付ける方法がある。
このとき、ボルト13を緩めればボルト13が摺動溝上を摺動して分割体の移動を許容することとなり、ボルト13を締めれば分割体の移動を規制して位置決めすることとなる。
【0021】
[開口部と挿入孔の関係]
図2に、分割体の移動に伴う、開口部と挿入孔との関係を示す。
ベースプレート1を上記の摺動構造とすることにより、各分割体1a,1bを平面方向に適宜移動させることで、各分割体1a,1bの接近或いは離隔に伴い、開口部11を拡縮することが可能となる。
すなわち、各分割体1a,1bを引き離して分離した状態では、開口部11が前記挿入孔B1を完全に露出した状態を呈し、各分割体1a,1bを引き寄せて一体化した状態では、開口部11が前記挿入孔B1の一部をラップして閉塞し、平面視してあたかも挿入孔が縮小したような状態を呈することとなる。
【0022】
[弾性層の形成]
図3に、ベースプレートの別の実施例を示す。
図3(a)に示すように、各分割体1a,1bの上面には、ゴムなどの弾性層15を形成しても良い。これは、コンクリート構造物とベースプレート1との接触性をより良好にするためである。
また、
図3(b)に示すように、各分割体1a,1bの分割面にも前記弾性層16を形成しても良い。これは、互いの分割体を接近させたときに、各分割面間に隙間が生じることを更に抑制し、当該隙間から充填材が漏れ出すことを防止するためである。
本発明に係るベースプレート1は、さらに、
図3(a)及び(b)を組み合わせた構成としてもよい。
【0023】
(3)固定具
図1を再度参照しながら、固定具の詳細について説明する。
固定具は、少なくとも前記ベースプレートが、前記挿入孔を閉塞する位置で、該ベースプレートの移動を規制するための部材である。
固定具2は、ベースプレート1を構成する各分割体1a,1bに跨るように取り付けることで、各分割体1a,1bの移動を規制することができる。
例えば、固定具2の一端には、一方の分割体1aの下面に設けたボルト14を挿通可能な貫通孔21を設け、他端には、他方の分割体1bに下面に設けたボルト14に係止可能な鉤部22を設けておく。
固定具2は各分割体1a,1bに設けたボルト14に、該固定具2の下面側からナット3で締結することによって固定される。
【0024】
[形状]
固定具2は、前記鉤部22を他方の分割体1bへと係止した際に、挿入した補強鉄筋Cに干渉しない形状とする。本実施例では、固定具2を平面視して略コ字型の形状とし、両端部に貫通孔21或いは鉤部22を設けることで、補強鉄筋Cの側面に回り込むように迂回しながら、一方の分割体1aから他方の分割体1bへと延伸するよう構成している。
【0025】
[固定具の数]
本発明における固定具2の数は特段限定しない。
なお、
図1では、固定具2を対称するように2つ設けてあり、固定具2のそれぞれを一方の分割体1aに設けたボルト14に回転可能に取付け、前後方向から補強鉄筋Cを挟み込むように他方の分割体1bへと係止することにより、挿入孔B1から露出した補強鉄筋Cを押さえ込むように構成している。
【0026】
[補強鉄筋との関係]
図4に、固定具の係止後における、開口部及び固定具と、補強鉄筋との関係を示す。
図4に示すように、固定具2の係止後には、ベースプレート1の開口部11の径が挿入孔B1の径よりも小さな径となるように構成してあるため、開口部11と補強鉄筋Cとの間には、間隙111が生じることとなる。この間隙111が、余剰な充填材の漏出口となる。
また、固定具2の係止後に、固定具2の本体でもって、挿入孔B1の上部及び下部の一部を遮蔽した遮蔽部112を形成するようにすれば、間隙111をより狭小化することができる。
また、固定具2の内側面のうち、補強鉄筋Cと接する面(接触面23)を弧状に形成しておけば、固定具2と補強鉄筋Cとが面接触するため、補強鉄筋Cの押さえ込み効果を発揮することもできる。
【0027】
<2>使用方法
次に、
図5を参照しながら、前記の定着治具を用いた上向き増厚工法の一例について説明する。
【0028】
(1)削孔・定着治具の設置
コンクリート構造物Bの下面を上方向に削孔して、上向きの挿入孔B1を形成する。
そして、挿入孔B1の周囲に定着治具Aを取り付ける。
このとき、ベースプレート1を構成する各分割体1a,1bは互いに引き離しておくことにより、開口部11を拡張して、挿入孔B1を露出した状態としておく。これは、後述する充填材の注入装置を挿入するためであり、該注入装置が挿入できる程度であれば、挿入孔B1を完全に露出した状態とする必要は無い。
【0029】
(2)充填材の注入
露出してある挿入孔B1から充填材の注入装置を挿入して、挿入孔B1の内部に充填材Dを注入する。
充填材Dの種類は、有機系の接着剤や無機系のモルタルなど公知の充填材を適宜選択して使用することができる。
【0030】
(3)補強鉄筋の初期挿入
次に、補強鉄筋Cの先端部分を挿入孔B1に挿入する。
なお、補強鉄筋Cは、ポストヘッドバーや、アンカーなど、コンクリート構造物の補強に用いる公知の埋設材が含まれる。
本実施例では、補強鉄筋Cにポストヘッドバーを想定している。
【0031】
(4)定着治具の閉塞
補強鉄筋Cを挿入孔B1にある程度挿入した時点で、ベースプレート1を構成する各分割体1a,1bを引き寄せて挿入孔B1の開口の一部を閉塞する。
このとき、ベースプレート1の開口部11と補強鉄筋Cとの間の間隙111が外部と連通する領域となり、各分割体1a,1bの引き寄せにより連通領域が実質的に狭まった状態となる。前記連通領域の狭小化により、挿入孔B1内部の充填材Dが自重によって漏れだす作用をある程度抑制することができる。
【0032】
(5)補強鉄筋の再挿入
次に、補強鉄筋Cを再度押しこんで、挿入を再開する。
補強鉄筋Cの挿入に伴う挿入孔B1内部の充填空間の減少により、余剰な充填材D1が前記間隙111を介して外部へと漏出する。
間隙111は、余剰な充填材D1分が漏出しうる程度の隙間でよい。
【0033】
(6)間隙の閉塞
補強鉄筋Cの再挿入が完了した後、間隙111を閉塞する。
閉塞方法は公知の間詰め材、例えばゴムなどを用いることができる。
なお、前記充填材Dが間隙111にも密に詰まっている場合などは、新たに閉塞する必要は無い。
【0034】
以上の工程により、本発明によれば、定着治具Aで充填材Dの過剰な漏れ出しを抑制しつつ、補強鉄筋Cの挿入に伴う余剰な充填材D1の漏れ出しを視認確認することにより、補強鉄筋Cの確実な固定を担保することができる。