特許第5719343号(P5719343)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許5719343複合構成偏光板セット及びこれを備えたIPSモード液晶表示装置
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5719343
(24)【登録日】2015年3月27日
(45)【発行日】2015年5月20日
(54)【発明の名称】複合構成偏光板セット及びこれを備えたIPSモード液晶表示装置
(51)【国際特許分類】
   G02F 1/13363 20060101AFI20150430BHJP
   G02F 1/1335 20060101ALI20150430BHJP
   G02B 5/30 20060101ALI20150430BHJP
【FI】
   G02F1/13363
   G02F1/1335 510
   G02B5/30
【請求項の数】2
【全頁数】22
(21)【出願番号】特願2012-501924(P2012-501924)
(86)(22)【出願日】2010年3月18日
(65)【公表番号】特表2012-521578(P2012-521578A)
(43)【公表日】2012年9月13日
(86)【国際出願番号】KR2010001663
(87)【国際公開番号】WO2010110549
(87)【国際公開日】20100930
【審査請求日】2013年1月11日
(31)【優先権主張番号】10-2009-0025074
(32)【優先日】2009年3月24日
(33)【優先権主張国】KR
(73)【特許権者】
【識別番号】503454506
【氏名又は名称】東友ファインケム株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100100158
【弁理士】
【氏名又は名称】鮫島 睦
(74)【代理人】
【識別番号】100068526
【弁理士】
【氏名又は名称】田村 恭生
(74)【代理人】
【識別番号】100138863
【弁理士】
【氏名又は名称】言上 惠一
(72)【発明者】
【氏名】キム・ボンチョン
【審査官】 廣田 かおり
(56)【参考文献】
【文献】 特開2005−309110(JP,A)
【文献】 特表2006−521570(JP,A)
【文献】 特開2008−310064(JP,A)
【文献】 特開2005−309386(JP,A)
【文献】 特開2008−233754(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G02F 1/13363
G02F 1/1335
G02B 5/30
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
上側偏光板と下側偏光板との間に液晶セルが配置された面内切替式液晶表示装置を製造する方法であって、
上から、第一保護フィルム、第一偏光子、及び第一位相差フィルムの順で積層し、前記第一位相差フィルムの遅相軸と前記第一偏光子の吸収軸をフィルムのMD方向に存在させた状態で、ロール・ツ・ロール工程で接合することにより、前記第一位相差フィルムの遅相軸が前記第一偏光子の吸収軸と平行である上側偏光板を製造する工程と、
上から、第二位相差フィルム、第二偏光子、及び第二保護フィルムの順で積層し、前記第二位相差フィルムの遅相軸をフィルムのTD方向に存在させ且つ前記第二偏光子の吸収軸をフィルムのMD方向に存在させた状態で、ロール・ツ・ロール工程で接合することにより、前記第二位相差フィルムの遅相軸が前記第二偏光子の吸収軸と直交する下側偏光板を製造する工程と、
液晶セルの上側に前記上側偏光板を、前記液晶セルの下側に前記下側偏光板を各々積層させ、前記液晶セルの液晶配向方向を、隣接する前記第一位相差フィルムの遅相軸及び前記第二位相差フィルムの遅相軸と直交するように配置して面内切替式液晶表示装置を得る工程と、を含み、
前記第一位相差フィルムは、正面位相差値(R0)が50〜200nmであり、屈折率比(NZ)が−1〜−0.01であり、
前記第二位相差フィルムは、正面位相差値(R0)が50〜250nmであり、屈折率比(NZ)が−2〜−0.5であり、
前記第一位相差フィルムの正面位相差値(R0)と前記第二位相差フィルムの正面位相差値(R0)との和が200〜350nmであることを特徴とする面内切替式液晶表示装置の製造方法。
【請求項2】
前記液晶セルは、589nmの波長で、位相差が300〜330nmであることを特徴とする請求項1に記載の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、IPSモード(面内切替式:In-Plane-Switching mode)液晶表示装置に適用時に、色の歪み現象の最小化とともに、広視野角の確保が可能な複合構成偏光板セット(coupled polarizing plate set)と、これを備えたIPSモード液晶表示装置とに関する。
【背景技術】
【0002】
液晶表示装置(liquid crystal display; LCD)は一般的な画像表示装置として広く使われている。しかし、その様々な優れた特性にもかかわらず、短所として狭い視野角が指摘されていた。
【0003】
液晶表示装置のモードは、液晶の初期配列、電極構造及び液晶の物性によって分けられており、現在、最も多く使われている液晶表示装置のモードとしては、ツイステッドネマチック(TN)、垂直配向(VA)、面内スイッチング(IPS)がある。さらに、電圧無印加の時に光を透過するか否かによって、ノーマルブラックモード又はノーマルホワイトモードに分類され、そして、液晶のドメイン及び初期配列によって、VAモードはPVA(Patterned VA)モード、SPVA(Super PVA)モード及びMVA(Multidomain VA)モードに、IPSモードはS−IPSモード又はFFSモードに分類される。
【0004】
IPSモードは、液晶分子が非駆動状態のときに、基板表面に実質的に水平で、且つ均一な配列を有する。よって、下側偏光板の透過軸と液晶分子の進相軸(Fast axis)との方向が正面で一致するとき、液晶の光学特性によって透過軸と液晶の進相軸との方向が斜め方向でも一致するので、光は、下側偏光板を通過した後に液晶を通過したとしても偏光状態が変化せず、もとの状態のまま液晶層を通過することができる。その結果、基板の上面と下面との上の偏光板の配列によって、非駆動状態において所定の暗状態(black state)を表示することができる。このようなIPSモード液晶表示装置は、一般的に光学フィルムを使用しなくても広い視野角を得ることができるため、当然ながら透過率を保障しつつ、画面全体で均一な画質及び視野角を提供できるという長所を有する。従って、IPSモード液晶表示装置は18インチ以上の高級ディスプレイで主に使われている。
【0005】
従来のIPSモードを適用した液晶表示装置は、液晶が含まれている液晶セルの外側には光を偏光させるための偏光板が要求され、上記偏光板の片面又は両面には三酢酸セルロース(TAC、Triacetate Cellulose)フィルムからなる保護フィルムが、偏光子(PVA)を保護するために備えられる。この構成では、液晶が暗(Black)状態を表示する時に、下側偏光板に備えられた偏光子によって偏光された光は、三酢酸セルロースにより正面では楕円偏向されずに斜め方向では楕円偏光され、この楕円偏光された光は液晶セル内で偏光が増幅されて、その結果、光漏れ(光の透過)とともに光が多様な色を有する。
【0006】
さらに、近年では、IPSモード方式を用いた大型TVなどの大型画像表示装置に対する需要により、広い視野角特性が要求されてきている。これにより、IPSモード液晶表示装置(IPS−LCD)では、広い視野角を確保するために、液晶セルとその液晶セルの一方の偏光板の偏光子(PVA)との間に、TACフィルムの代わりに等方性保護層を配置し、液晶セルと他方の偏光板の偏光子(PVA)との間に、光学特性の異なる2つ以上の位相差層を積層させるか又は1枚のZ軸配向(厚み方向配向)フィルムを積層させることにより、液晶表示装置を製造してきた。
【0007】
従来技術において、視野角補償のために提示されたIPS液晶表示装置の詳細な構成は次のとおりである。IPSモードを有する液晶表示装置の構造によれば、正面から見たときに、電圧無印加時の液晶の配向方向は垂直方向(90°)であり、バックライト側の下側偏光板に含まれた偏光子の吸収軸は90°であり、その偏光板と液晶セルとの間には等方性保護フィルムが位置する。また、視認側(display-sided)の(上側)偏光板に含まれた偏光子の吸収軸は0°であり、液晶セル側において、上記偏光子と液晶セルとの間に後述する光学フィルムが構成されている。
【0008】
ネガティブCプレートとポジティブ二軸性プレートを備えた液晶表示装置[韓国特許出願第2008−118531号]、ポジティブAプレートとポジティブ二軸性プレートを備えた液晶表示装置[韓国特許出願第2008−118532号]、ネガティブ二軸性プレートとポジティブ二軸性プレートを備えた液晶表示装置[韓国特許出願第2008−123002号]、ポジティブAプレートとポジティブCプレートを備えた液晶表示装置、ネガティブ二軸性プレートとポジティブCプレートを備えた液晶表示装置、ポジティブCプレートとネガティブ二軸性プレートを備えた液晶表示装置、ネガティブAプレートとネガティブ二軸性プレートを備えた液晶表示装置[韓国特許出願第2008−27107号]、ポジティブ二軸性プレートとネガティブ二軸性プレートを備えた液晶表示装置[韓国特許出願第2008−43414号]、ネガティブAプレートとネガティブCプレートを備えた液晶表示装置[韓国特許出願第2008−2190号]、ポジティブ二軸性プレートとネガティブCプレートを備えた液晶表示装置[韓国特許出願第2008−26831号]、Z軸配向とポジティブCプレートを備えた液晶表示装置、1枚のZ軸配向を含む液晶表示装置などがある。
【0009】
これらの構成は、大量生産に有利なロール・ツー・ロール(roll-to-roll)方式による製造が可能である。
【0010】
しかし、従来技術で提示されていた液晶表示装置は、液晶層の片面に光学的性質の異なる2層を積層して形成した位相差フィルム3枚型(下側等方性フィルム1枚+上側位相差層2枚)の複合構成偏光板を使用するか、又は、製造工程で、収縮フィルムを使っているので経済性が低く、収縮工程が必ず含まれていて、そのため大面積を有するのが容易ではないZ軸配向フィルムを使用していた。
【0011】
よって、従来技術では、3枚型の位相差フィルムが積層された複合構成偏光板を使用していたので薄型製品の製造が困難であり、液晶セルの両方の厚みが不均一なので温度や湿度の変化で曲がりが発生する可能性が高く、そして高価な位相差フィルムの使用で価格競争力が低いため高価なIPSモード液晶表示装置への利用に限定されていた。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明は、IPSモードにおいて、どの視角(視認方向:viewing direction)からの色の歪み現象も最小化するとともに、広視野角を確保するために、特定の光学特性を有するように設計された位相差フィルムを備えた複合構成偏光板セットと、このような複合構成偏光板セットを備え、ポアンカレ球上での偏光状態の分散の程度が少ないので、色の歪み現象を最小化して高品質の画像を提供でき、同時に広視野角の確保できる経済的な薄型IPSモード液晶表示装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明は、上から、保護フィルム、偏光子、及び第一位相差フィルムの順で積層された上側偏光板と、上から、第二位相差フィルム、偏光子、及び保護フィルムの順で積層された下側偏光板と、を含み、第一位相差フィルムは正面位相差値(又は面内位相差:in-plane retardation)(R0)が50〜200nmで、屈折率比(NZ)が−1〜−0.01であり、第一の位相差フィルムの遅相軸が下側偏光板内の偏光子の吸収軸と平行であり、第二位相差フィルムは正面位相差値(R0)が50〜250nmであり、屈折率比(NZ)が−2〜−0.5であり、第二位相差フィルムの遅相軸が下側偏光板内の偏光子の吸収軸と直交しており、第一位相差フィルムの正面位相差値(R0)と第二位相差フィルムの正面位相差値(R0)との和が200〜350nmである複合構成偏光板セットを提供する。
【0014】
また、本発明は、上記複合構成偏光板セットを備えた面内切替式(IPSモード)液晶表示装置を提供する。
【発明の効果】
【0015】
本発明による複合構成偏光板セットは、IPSモード液晶表示装置に用いられる場合、ポアンカレ球上の偏光状態の分散の程度が少ないので、視角による色の歪み現象の最小化が可能であるとともに、従来の3枚型の位相差フィルムを用いて達成される水準に匹敵する広視野角の確保が可能である。さらに、上側偏光板及び下側偏光板にそれぞれ1枚ずつだけの位相差フィルムによって広視野角を確保することができるため、薄型液晶表示装置を高歩留り(異物、不純物による不良率の減少)での大量生産を実現することができる。
【0016】
上述した本発明の目的、特徴及び利点は、添付の図面を伴って、当業者にとってより明らかになるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】本発明に係るIPS液晶表示装置(IPS-LCD)の構造を示す斜視図である。
図2】本発明に係る位相差フィルムの屈折率を説明するための模式図である。
図3】本発明に係る位相差フィルムと偏光板の展開方向(unrolled direction)を説明するために製造過程での機械方向(MD)を示す模式図である。
図4】本発明の座標系におけるΦ、θの表現を説明するための模式図である。
図5】Φ=45゜、θ=60゜の視角において、本発明に係る第一位相差フィルム、液晶セル、第二位相差フィルムによる偏光状態の変化領域をポアンカレ球(Poincare Sphere)上に示す図である。
図6】本発明の実施例1の全ての視角からの透過率をシミュレーションした結果である。
図7】本発明に係る実施例1において、Φ=45゜、θ=60゜の視角での偏光状態の変化をポアンカレ球上に示す図である。
図8】本発明に係る実施例1の380nm〜780nmの範囲の可視光線領域内で10nm間隔の光に対する偏光状態を示す図である。
図9】本発明に係る実施例1の暗状態における全ての視角での色座標を示す図である。
図10】本発明の実施例2の全ての視角からの透過率をシミュレーションした結果である。
図11】本発明に係る実施例2において、Φ=45゜、θ=60゜の視角で、550nmの短波長での偏光状態の変化の範囲及び本発明の範囲に属するポアンカレ球上の偏光状態の範囲を示す図である。
図12】本発明に係る実施例2の380nm〜780nmの範囲の可視光線領域内で10nm間隔の光に対する偏光状態を示す図である。
図13】本発明の実施例3の全ての視角からの透過率をシミュレーションした結果である。
図14】本発明に係る実施例3において、Φ=45゜、θ=60゜の視角で、550nmの短波長での偏光状態の変化の範囲及び本発明の範囲に属するポアンカレ球上の偏光状態の範囲を示す図である。
図15】本発明に係る実施例3の380nm〜780nmの範囲の可視光線領域内で10nm間隔の光に対する偏光状態を示す図である。
図16】本発明の比較例1の全ての視角からの透過率をシミュレーションした結果である。
図17】本発明に係る比較例1において、Φ=45゜、θ=60゜の視角で、550nmの短波長での偏光状態の変化の範囲及び本発明の範囲に属するポアンカレ球上の偏光状態の範囲を示す図である。
図18】本発明の比較例1の380nm〜780nmの範囲の可視光線領域内で10nm間隔の光に対する偏光状態を示す図である。
図19】本発明の比較例1の暗状態における全ての視角での色座標を示す図である。
図20】本発明の比較例2の全ての視角からの透過率をシミュレーションした結果である。
図21】本発明の比較例2の暗状態における全ての視角での色座標を示す図である。
図22】本発明の比較例3の全ての視角からの透過率をシミュレーションした結果である。
図23】本発明の比較例4の全ての視角からの透過率をシミュレーションした結果である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明は、IPSモード液晶表示装置に用いた場合に、画像の鮮やかさとともに広視野角を確保するために、特定の光学特性を有するように設計された位相差フィルムを備えた複合構成偏光板セットと、この複合構成偏光板セットを備えたIPSモード液晶表示装置に関する。
【0019】
本発明の複合構成偏光板セットは、上から、保護フィルム、偏光子、及び第一位相差フィルムの順で積層された下側偏光板と、上から、第二位相差フィルム、偏光子、及び保護フィルムの順で積層された下側偏光板とを含んでなる。
【0020】
第一位相差フィルムは、正面位相差値(又は面内位相差値:in-plane retardation)(R0)が50〜200nmで、屈折率比(NZ)が−1〜−0.01の光学特性を有し、第二位相差フィルムは正面位相差値(R0)が50〜250nmで、屈折率比(NZ)が−2〜−0.5である光学特性を有しており、第一位相差フィルムの正面位相差値(R0)と第二位相差フィルムの正面位相差値(R0)との和は200〜350nmである。また、第一位相差フィルムは、上側偏光板内の偏光子の吸収軸と平行な遅相軸を有し、第二位相差フィルムは下側偏光板内の偏光子の吸収軸と直交する遅相軸を有する。
【0021】
本発明において、位相差フィルムの光学特性は可視光線領域内の全波長に対して、下記の数式1〜3で定義される。
【0022】
光源の波長に対する言及がない場合は、波長589nmの光に対する光学特性である。ここで、Nxは、面内方向で屈折率が最大である軸方向の屈折率であり、Nyは、面内方向でNxと垂直方向の屈折率であり、Nzは、厚み方向の屈折率であり、それらは以下に説明するように図2に示される。
【0023】
【数1】

(ここで、Nx、Nyは面内屈折率であってNx≧Nyであり、Nzはフィルムの厚み方向で振動する光のの屈折率、dはフィルムの厚みを示す。)
【0024】
【数2】

(ここで、Nx、Nyは位相差フィルムの面内屈折率であり、dはフィルムの厚みを示し、Nx≧Nyである。)
【0025】
【数3】

(ここで、Nx、Nyは面内屈折率であってNx≧Nyであり、Nzはフィルムの厚み方向で振動する光の屈折率、dはフィルムの厚みを示す。)
【0026】
本明細書では、上記Rthは厚み方向の位相差(遅延:retardation)であり、厚み方向における面内平均屈折率との差を示すものであって、実質的な位相差と言えない参考値であり、上記R0は正面位相差(又は面内位相差値:in-plane retardation)であり、光がフィルムをノーマル方向(垂直方向)で通過したときの実質的な位相差である。
【0027】
また、NZは屈折率比であり、位相差フィルムのプレートの種類を区分することができる。位相差フィルムのプレートの種類は、フィルムの面内方向に光軸(光は位相差が存在せずに伝搬する)を有するAプレート、面と垂直方向の光軸を有するCプレート、及び光軸が2つ存在する場合は二軸性プレートと呼ばれる。
【0028】
具体的に、NZ=1の場合は、屈折率はNx>Ny=Nzの関係を満たし、「ポジティブAプレート(POSITIVE A PLATE)」と呼ばれ、1<NZの場合は、屈折率はNx>Ny>Nzを満たし、「ネガティブ二軸性Aプレート(NEGATIVE BIAXIAL A PLATE)」と呼ばれ、0<NZ<1の場合は、屈折率はNx>Nz>Nyの関係を有し、「Z軸配向フィルム」と呼ばれ、NZ=0の場合は、屈折率はNx=Nz>Nyの関係を有し、「ネガティブAプレート(NEGATIVE A PLATE)」と呼ばれ、NZ<0の場合は、屈折率はNz>Nx>Nyの関係を有し、「ポジティブ二軸性Aプレート(POSITIVE BIAXIAL A PLATE)」と呼ばれ、NZ=∞の場合は、屈折率はNx=Ny>Nzの関係を有し、「ネガティブCプレート(NEGATIVE C PLATE)」と呼ばれ、NZ=−∞の場合は、屈折率はNz>Nx=Nyの関係を有し、「ポジティブCプレート(POSITIVE C PLATE)」と呼ばれる。
【0029】
しかし、上記の理論的定義に完璧に一致するAプレート及びCプレートを作ることは実際の工程では不可能である。そのため、一般的な工程では、Aプレートの場合は屈折率比のおよその範囲を設定し、Cプレートの場合は正面位相差の範囲内の所定値を設定することにより、AプレートとCプレートとを区分している。この所定値の設定は、延伸に依存して異なる屈折率を有するすべての他の材料への適用では限られている。よって、本発明の上側及び下側偏光板に含まれる位相差フィルムは、屈折率等方性によるプレート(偏光板)の種類ではなく、プレートの光学特性であるNZ、R0及びRthなどを数値として示している。
【0030】
これらの位相差フィルムは、延伸によって位相差を与えられるが、そのうちで、延伸方向に増加した屈折率を有するフィルムは、「正(+)の屈折率特性」を有しており、延伸方向に減少した屈折率を有するフィルムは、「負(−)の屈折率特性」を有している。正(+)の屈折率特性を有する位相差フィルムは、三酢酸セルロース(TAC)、シクロオレフィンポリマー(COP)、シクロオレフィンコポリマー(COC)、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリプロピレン(PP)、ポリカーボネート(PC)、ポリスルホン(PSF)及びポリメチルメタクリレート(PMMA)からなる群から選ばれたもので製造することができ、負(−)の屈折率特性を有する位相差フィルムは、具体的には変性ポリスチレン(PS)又は変性ポリカーボネート(PC)で製造することができる。
【0031】
また、位相差フィルムに光学特性を与える延伸方法は、固定端延伸と自由端延伸に分けられ、ここで固定端延伸とは、フィルムを延伸する間に延伸する方向以外の長さを固定する方式であり、自由端延伸とは、フィルムを延伸する間に延伸方向以外の方向に対して自由度を付与する方式である。一般的に、フィルムを延伸すると、延伸方向以外の方向は収縮するが、Z軸配向フィルムは、延伸以外に特定の収縮工程が要求される。
【0032】
図3は巻いた状態の原料フィルムの方向を示すものであって、巻いたフィルムの展開方向(unrolled direction)をMD(機械方向:Machine Direction)方向と呼び、これに垂直な方向をTD(横断方向:Transverse Direction)方向と呼ぶ。このとき、工程でフィルムをMD方向の延伸を自由端延伸と呼び、TD方向の延伸を固定端延伸と呼ぶ。
【0033】
(1次工程だけを適用したとき)延伸方法によってNZとプレートの種類を整理すると、ポジティブAプレートは、正(+)の屈折率特性を有するフィルムを自由端延伸して製造することができ、ネガティブ二軸性Aプレートは、正(+)の屈折率特性を有するフィルムを固定端延伸して製造することができ、Z軸配向フィルムは、正(+)の屈折率特性又は負(−)の屈折率特性を有するフィルムを、自由端延伸した後に固定端収縮させて製造することができ、ネガティブAプレートは、負(−)の屈折率特性を有するフィルムを自由端延伸して製造することができ、そしてポジティブ二軸性Aプレートは、負(−)の屈折率特性を有するフィルムを固定端延伸して製造することができる。
【0034】
上記延伸方法以外の追加工程を適用することにより、遅相軸(Slow Axis)の方向、位相差値(phase difference)及びNZの値を制御することができ、この追加工程は当分野において一般的に適用されている工程であれば特に限定されない。
【0035】
本発明の複合構成偏光板セットは、上から、保護フィルム、偏光子、第一位相差フィルムの順で積層された上側偏光板と、上から、第二位相差フィルム、偏光子、保護フィルムの順で積層された下側偏光板とからなる。
【0036】
第一位相差フィルムは、正面位相差値(R0)が50〜200nmで、屈折率比(NZ)が−1〜−0.01であり、第二位相差フィルムは、正面位相差値(R0)が50〜250nmで、屈折率比(NZ)が−2〜−0.5である。
【0037】
本発明に係る第一及び第二位相差フィルムは、それらの位相差フィルムを含むIPS液晶表示装置の広視野角の確保とともに、全ての視角において色の歪み現象を最小化するために、図5に示すように、ポアンカレ球上での偏光状態が赤色円の内側の領域内で変化するような光学特性を有していなければならない。この構成では、赤色円は、Φ=45゜、θ=60゜の視角(visual angle)で550nmの短波長の光が、下側偏光子を通過したときのポアンカレ球上での偏光状態から、上側偏光板の吸収軸に光が最大に吸収される偏光状態までの距離で規定された半径を有する。
【0038】
従って、第一及び第二位相差フィルムは、赤色円の内側の領域を維持するために、一方の位相差フィルムの光学特性を他方の位相差フィルムに対して調節して、偏光状態を制御する。本発明は、赤色円の内側の領域内にすべての偏光状態が維持されるように、第二位相差フィルムに対して、第一位相差フィルムを選択して使用する。
【0039】
具体的に図5を参考して説明すると、第二位相差フィルムの正面位相差値(R0)の下限(minimum limit)である50nmは、位相差フィルムの製造工程で高歩留りを達成可能な値であって、このとき、本発明の目的(赤色円)を満たす液晶表示装置の最小屈折率比(NZ)は−2(赤色円の4番)である。以後、屈折率比(NZ)が−2から増加して−0.7になるまでは、赤色円と接点が生じ、そのときの最大正面位相差値は250nmである(赤色円の3、2及び1番)。また、屈折率比(NZ)が−0.7を超過する場合には、円との接点が生じないが、液晶セルとの補償条件を満たすためには右円偏光が生じない−0.5未満を維持しなければならず、この場合、正面位相差値は、ポアンカレ球上での第二位相差フィルムによる偏光状態が上半球[S3が正(+)]に入らない範囲である250nmを維持しなければならない。
【0040】
結果的に、図5に示すように第一位相差フィルムは本発明での使用に選ばれ、その偏光状態は、ポアンカレ球上での偏光状態の最大変化領域(赤色)内で第二位相差フィルムの光学特性によって決定された偏光状態[赤色1、2、3及び4番]と液晶[青色1、2、3及び4番]とを通過するときに、本発明の補償条件を満たすことができ、黒色F点に近接する。黒色F点に近接することができる光学特性を有するものであれば第一位相差フィルムとして使用可能であるが、ポアンカレ球上へのシミュレーションを容易に行うために、屈折率比(NZ)は−1〜−0.01の範囲内に維持するのが好ましく、このような屈折率比の範囲内でF点に近接することができる正面位相差値(R0)は50〜200nmである。
【0041】
上記で提示された光学特性を満たすものであれば上記第一位相差フィルム及び第二位相差フィルムとして使用可能であるが、第一位相差フィルムは、負(−)の屈折率特性を有するフィルムを1回以上の固定端延伸を適用し、そして遅相軸の方向がMD方向に存在するように、MD方向よりTD方向での延伸を多く適用して製造されるのが好ましい。これはロール・ツー・ロール工程に適用するためであり、その工程中に上側偏光板の吸収軸がMD方向にある。よって、第一位相差フィルムの遅相軸はMD方向に維持されなければならない。また、上記第二位相差フィルムは、負(−)の屈折率特性を有するフィルムを1回以上の固定端延伸を適用し、そして遅相軸の方向がTD方向に存在するように、TD方向よりMD方向での延伸を多く適用して製造される。これはロール・ツー・ロール工程に容易に適用するためであり、その工程中に下側偏光板の偏光子の吸収軸がMD方向にある。よって、第二位相差フィルムの遅相軸はTD方向に維持されなければならない。
【0042】
上記第一位相差フィルムは、その遅相軸が上側偏光板内の偏光子の吸収軸と平行になるように配置され、第二位相差フィルムは、その遅相軸が下側偏光板内の偏光子の吸収軸と直交するように配置される。
【0043】
一方、液晶と位相差フィルムを含む大抵の光学系は光源の波長によって位相差(単位:ラジアン)が異なるので、光学系を通過した後の偏光状態は波長によって変わる。大抵の光学系は、短波長で位相差(単位:ラジアン)が大きく、長波長で位相差(単位:ラジアン)が小さいことから、短波長での偏光状態の変化は長波長より大きく、よって分散性が発生する。分散性は視角による色の歪み現象を起こすので、液晶表示装置の画質に影響を及ぼす。本発明は、分散性を制御して色の歪み現象を最小化したものであって、このような分散性をポアンカレ球上での偏光状態の変化を通じて制御する。
【0044】
液晶の配向方向と位相差フィルムの遅相軸の方向はポアンカレ球上での偏光状態の変化方向を示す。液晶の配向方向と位相差フィルムの遅相軸の方向が水平であれば、これらの偏光状態が同じ偏向になって光の分散性が大きくなり、またそれらが直交していれば、これらの偏光状態が反対方向の偏向になって分散性が抑制される。分散性が大きくなるということは、視角による色の変化が大きくなるということであり、この場合、色の歪み現象が発生することになるので、分散性は可能な限り小さいのが有利である。本発明では、液晶の配向方向と位相差フィルムの遅相軸の方向が直交しており、これらの偏光状態が反対方向の偏向になるので、軸が水平の場合に比べて分散性が小さい。
【0045】
また、液晶の配向方向と位相差フィルムの遅相軸とによる偏光状態の変化が互いに反対方向である場合、第一位相差フィルムの正面位相差値と第二位相差フィルムの正面位相差値との和を液晶の位相差値の範囲と類似範囲内に維持すれば、より優れた分散性の抑制効果を得ることができる。正面位相差値は、各視角での偏光状態の変化に影響を与える因子であるので、正面位相差値の範囲を液晶と類似範囲内に限定することで光の分散性を最小化することができる。具体的に、本発明で用いられる液晶の位相差(△n×d)が、589nmの波長において300〜330nmの範囲にあるので、第一位相差フィルムの正面位相差値と第二位相差フィルムの正面位相差値との和を上記の300〜330nmの範囲に維持すれば、分散性は最小化される。しかし、本発明は広視野角の確保とともに分散性を最小化することに目的があるので、これらの目的を同時に満たすためには第一位相差フィルムと第二位相差フィルムの正面位相差値の和を200〜350nmにすべきである。
【0046】
一般的に位相差フィルムは入射される波長によって異なる位相差値を有する。短波長で大きい位相差値を有し、長波長で小さい位相差値を有するが、このような特性を有する位相差フィルムを、正波長分散性を有する位相差フィルムと呼ぶ。また短波長で小さい位相差値を有し、長波長で大きい位相差値を有するフィルムを、逆波長分散性を有する位相差フィルムと呼ぶ。このような位相差フィルムの分散性は、当分野において一般的に使われている780nmの光源に対する位相差値と、380nmの光源に対する位相差値との比で示す。参考までに、全ての波長に対して同じ偏光状態にすることができる完璧な逆波長分散性を有する位相差フィルムの場合は、[R0(380nm)/R0(780nm)]=0.4872の値を有する。
【0047】
本発明は、分散性に関係なく全ての位相差フィルムを使用可能であるが、上側偏光板の偏光子を通過する直前の偏光状態の波長依存性を少なくするためには[R0(380nm)/R0(780nm)]>1の位相差フィルムを使用するのが好ましい。具体的に、上記上側偏光板の偏光子を通過する直前の偏光状態の波長依存性が少ないということは、暗状態で視角による色の変化が小さいということを意味する。このような光学特性を満たす材料であれば、本発明に適用可能である。
【0048】
上側偏光板及び下側偏光板の偏光子の上には、延伸と染色を通じて偏光機能が与えられた偏光子であるポリビニルアルコール(PVA)層が位置し、下側偏光板のポリビニルアルコール(PVA)層の上と上側偏光板のポリビニルアルコール(PVA)層の上には、液晶セルと対向する側に、それぞれ保護フィルムが位置されている。上記上側及び下側偏光板は当分野において一般的に適用されている工程で製造することができ、具体的にはロール・ツー・ロール(Roll-To-Roll)工程、シート・ツー・シート(Sheet-to-Sheet)工程を適用することができる。歩留り及び製造工程上の効率性などを考慮して、ロール・ツー・ロール工程を適用するのが好ましく、特にPVA偏光子の吸収軸の方向が常にMD方向に固定されるので、この適用が効果的である。
【0049】
この構成では、下側偏光板の保護フィルム及び上側偏光板の保護フィルムでは、屈折率差による光学的特性が視野角に影響を及ぼさないので、本発明では屈折率が特に制限されない。上記上側及び下側偏光板の保護フィルムの材料としては、当分野において一般的に使われているものを適用することができ、具体的には三酢酸セルロース(TAC)、シクロオレフィンポリマー(COP)、シクロオレフィンコポリマー(COC)、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリプロピレン(PP)、ポリカーボネート(PC)、ポリスルホン(PSF)及びポリメチルメタクリレート(PMMA)からなる群から選ばれたものを使用することができる。
【0050】
また、本発明は、上記複合構成偏光板セットを備えた面内切替式(IPSモード)液晶表示装置に関するものである。上記上側偏光板の吸収軸は下側偏光板内の偏光子の吸収軸と直交している。
【0051】
液晶セルは電圧無印加状態で液晶配向が90゜であるIPS液晶であり、下記の数式4で定義されるパネル位相差値(△n×d)が、589nmの波長において300nm〜330nmの範囲であり、本発明の構成において、約310〜320nmであるのが好ましい。これはIPS−LCDパネルに電圧印加時、下側偏光板を通過した後に水平方向に線偏光された光が、液晶セルを通過した後に垂直方向に線偏光されて明状態(white state)になるためには、IPS−LCDパネルの液晶セルの位相差値が、波長589nm(人間が感じる最も明るい単色光)の半波長にならなければならないためである。このとき、白色(White Color)になるように、半波長より少し長いか、少し短くなるように調節することができる。
【0052】
【数4】

(ここで、neは液晶の異常光線屈折率(extraordinary ray refractive index)、noは常光線屈折率(ordinary ray refractive index)、dはセルギャップを示す。△n、dはベクトルではなくスカラーである。)
【0053】
本発明の液晶表示装置は、暗(Black)状態では、全方位からの光の最大透過率が0.2%以下、好ましくは0.05%以下の光学補償を有する。
【0054】
本発明において、斜め方向(inclined surface)の補償原理は、ポアンカレ球(Poincare Sphere)上に各光学層を通過したときの偏光状態の変化を示すことで理解することができる。図7は、Φ=45゜、θ=60゜の視角での、本発明に係る液晶表示装置の偏光状態を示すものである。具体的に、Φ方向の面を、正面のΦ+90゜の軸の周りで視認側にθだけ回転させたときに、正面方向から出る光に対する偏光状態の変化をポアンカレ球上に示したものである。ポアンカレ球上で、S3軸の座標が正(+)を示すときに右円偏光を示し、ここで右円偏光とは、とある偏光水平成分をEx、偏光垂直成分をEyとしたときに、光のEx成分のEy成分に対する位相の遅れ(位相遅延)が0より大きく、半波長より小さいことを言う。また、本発明に係る液晶表示装置は、Φ=45゜、θ=60゜の視角で550nmの短波長の光が各光学層を通過するときに、ポアンカレ球上でのそれぞれの偏光状態は、光が下側偏光板内の偏光子を通過した後の偏光状態から、上側偏光板の吸収軸に光が最大限に吸収される偏光状態までの距離を半径とした円の内側で変化する。これは図5に示した赤色円の内側の領域であり、各偏光状態のいずれか1つでもこの範囲から外れる場合には、本発明が目的とする全視角からの透過率の具現は可能であるが、視角による色の変化が非常に大きくなり、斜め方向での液晶表示装置の色が歪曲される。
【0055】
図1は本発明に係るIPSモード液晶表示装置の基本構造を示す斜視図であって、これを以下に説明する。
【0056】
本発明に係るIPSモード液晶表示装置は、バックライトユニット40側から下側偏光板10、IPS液晶セル30及び上側偏光板20で構成されている。上記下側偏光板10は、上から、第二位相差フィルム14、偏光子11、及び保護フィルム13の順で積層され、上側偏光板20は、上から、保護フィルム23、偏光子21、及び第一位相差フィルム24の順で積層される。上側偏光板の偏光子21と下側偏光板の偏光子11の吸収軸22、12は互いに直交しており、下側偏光板の偏光子11の吸収軸12は正面から見たときに垂直方向に位置しなければならない。
【0057】
具体的に、バックライトユニットから近い下側偏光板の吸収軸が垂直方向であると、下側偏光板を通過した光は水平方向に偏光され、パネルの電圧が印加された液晶セルを通過して明状態になったときに、光は垂直方向に進んで、吸収軸が水平方向である視認側の上側偏光板を通過する。このとき、視認側で吸収軸が水平方向である偏光サングラス(偏光サングラスの吸収軸は水平方向)を掛けている人も、液晶表示装置から出た光を認知することができる。もしバックライトユニットから近い下側偏光板の吸収軸が水平方向である場合には、偏光サングラスを掛けた人には画像が見えなくなる。
【0058】
また、大型の液晶表示装置の場合、視認側で画像がよく見えるようにするためには、人間の主視野角(main visual angle)は垂直方向より水平方向が広いことを考慮して、広告用などの特殊目的の液晶表示装置を除いた一般的な液晶表示装置では4:3タイプ又は16:9タイプで製作されるのである。従って、視認側から見たとき、下側偏光板の吸収軸は垂直方向に、上側偏光板の吸収軸は平行方向に位置する。
【0059】
上側偏光板では、第一位相差フィルム24の遅相軸25と偏光子21の吸収軸22は互いに平行に配置され、下側偏光板では、第二位相差フィルム14の遅相軸15と偏光子11の吸収軸12は互いに直交するように配置される。
【0060】
本発明の視野角補償の効果はポアンカレ球を通じて説明することができる。ポアンカレ球は特定視角における偏光状態の変化を表現するのにとても有用な方法であるため、ポアンカレ球は、偏光を利用して画像を表示する液晶表示装置の中を特定視角に沿って進行する光が、液晶表示装置の内部のそれぞれの光学素子を通過するときの偏光状態の変化を示すことができる。本発明において「特定視角」とは、図4に示した半円座標系でΦ=45゜、θ=60゜の方向であり、この方向に出る光の偏光状態の変化を全波長に対してポアンカレ球上に示すことで波長分散性を確認することができる。
【0061】
以下、上記構成において、電圧非印加時の全視野角における暗状態の具現に対する効果を、実施例と比較例を通して記述する。本発明は下記の実施例によってより理解しやすくなるが、下記の実施例は本発明の単なる例示を提供するものであり、添付された特許請求の範囲によって請求される保護範囲を制限するものではない。
【0062】
<実施例>
下記の実施例1〜実施例3、及び比較例1〜比較例4では、LCDシミュレーションシステムであるTECH WIZ LCD 1D(サナイシステム社、韓国)を用いたシミュレーションを通して広視野角の効果を比べた。
【実施例1】
【0063】
<実施例1>
本発明に係る各光学フィルム、液晶セル及びバックライトなどの実測データを、図1に示すような積層構造と共に、TECH WIZ LCD 1D(サナイシステム、韓国)に使用した。図1の構造を以下に具体的に説明する。
【0064】
バックライトユニット40側から、下側偏光板10と、電圧無印加状態で視認側の正面から見たときに液晶配向が90゜であるIPSモード液晶セル30と、上側偏光板20とが配置され、ここで上記下側偏光板10は、バックライトユニット40側から、保護フィルム13、偏光子11及び第二位相差フィルム14を積層して構成され、上側偏光板20は、IPSモード液晶セル30側から、第一位相差フィルム24、偏光子21、及び保護フィルム23を積層して構成した。
【0065】
液晶セルはLG Display社製の42インチパネルLC420WU5に適用されたものを使用した。
【0066】
一方、本発明の実施例で使われたそれぞれの光学フィルム及びバックライトは、下記のような光学的物性を有している。
【0067】
まず、下側偏光板10及び上側偏光板20の偏光子11、21は延伸されたPVAをヨウ素で染色して偏光子機能を付与しており、このような偏光子の偏光性能は、370〜780nmの可視光線領域では、視感度の偏光度(luminance degree of polarization)99.9%以上、視感度のグループ透過率(luminance group transmittance)41%以上である。視感度の偏光度と視感度のグループ透過率は、波長による透過軸の透過率をTD(λ)、波長による吸収軸の透過率をMD(λ)、JIS Z 8701:1999に定義された視感度の補償値(luminance compensation value)を
としたとき、下記の数式5〜9で定義される。ここで、S(λ)は光源スペクトラムであり、光源はC光源である。
【0068】
【数5】
【0069】
【数6】
【0070】
【数7】
【0071】
【数8】
【0072】
【数9】
【0073】
各フィルムの方向による内部屈折率の差によって生じる光学特性について、589.3nmの光源で、第一位相差フィルム24は、正面位相差(R0)が150nm、屈折率比(NZ)が−0.1であるものを、第二位相差フィルム14は、正面位相差(R0)が70nm、屈折率比(NZ)が−1.2であるものを使用した。このとき、上側偏光板20中で偏光子21の吸収軸22と第一位相差フィルム24の遅相軸25は平行であり、下側偏光板10中で偏光子11の吸収軸12と第二位相差フィルム14の遅相軸15は直交している。上記第一位相差フィルム24の正面位相差(R0)と第二位相差フィルム14の正面位相差(R0)との和は220nmであった。
【0074】
上記第一位相差フィルム24及び第二位相差フィルム14は、2枚のポリメチルメタクリレート(PMMA)間に負の屈折率特性を有するポリスチレン(PS)層が配置されるように3重共押出した後、延伸を通じて位相差フィルム(I-Film、Optes社製、日本)を順次に配置させた。
【0075】
また、上側偏光板10及び下側偏光板20の外側の保護フィルム13、23として、入射光589.3nmに対してRthが50nmである光学特性を有する三酢酸セルロース(TAC)を使用した。バックライトユニット40としては、32インチTV LC320WX4 モデル(LG. PHILIPS LCD社製)に搭載された実測データを使用した。
【0076】
上記の光学素子を図1に示すように積層した後、全方位からの光の透過率のシミュレーションを実施した結果を図6に示す。図6は、暗(BLACK)状態を画面に表示したときの、全方位からの光の透過率の分布を示したものであり、スケール上の範囲は透過率0%〜0.2%であり、暗状態を表示したときに透過率0.02%を超過した部分は赤色、透過率が低い部分は青色で表示する。このとき、中央の青色範囲が広いほど、広視野角の確保が可能であることが確認できた。これは、ポアンカレ球上の偏光状態の変化が、光が最大に漏れる(透過する)視角(Φ=45゜、θ=60゜の方向)で、図7に示されているからである。
【0077】
上記実施例1では、視角Φ=45゜、θ=60゜の方向で、550nmの短波長の光に対する偏光状態の変化を図7に示した。上記図7で、右側(right)の出発点である第一の偏光状態1は下側偏光板の偏光子を通過したときの偏光状態であり、第二の偏光状態2は下側偏光板の第二位相差フィルムを通過したときの偏光状態、第三の偏光状態3は液晶セルを通過したときの偏光状態、第四の偏光状態4は上側偏光板の第一位相差フィルムを通過したときの偏光状態である。実施例1では、上記条件下での層の全ての偏光状態が赤色円内に入ることから、本発明の範囲内に入ることになる。
【実施例2】
【0078】
<実施例2>
上記実施例1と同様に構成されるが、第一位相差フィルム24は、正面位相差(R0)が100nm、屈折率比(NZ)が−0.1であるものを、第二位相差フィルム14は、正面位相差(R0)が150nm、屈折率比(NZ)が−0.7であるものを使用した。上記第一位相差フィルム24の正面位相差(R0)と第二位相差フィルム14の正面位相差(R0)との和は250nmであった。
【0079】
全方位からの光の透過率のシミュレーションを実施した結果、図10に示すような結果を得た。図10は、暗(BLACK)状態を画面に表示したときの、全方位からの光の透過率分布を示したものであって、スケール上の範囲は透過率0%〜0.2%であり、暗状態を表示したときに透過率0.02%を超過した部分は赤色、透過率が低い部分は青色で表示する。このとき、中央の青色範囲が広いほど広視野角の確保が可能であることが確認できた。これは、ポアンカレ球上の偏光状態の変化が、光が最大に漏れる(透過する)視角(Φ=45゜、θ=60゜の方向)で、図11に示されているからである。
【0080】
上記実施例2において、視角Φ=45゜、θ=60゜の方向で、550nmの短波長の光に対する偏光状態の変化を図11に示した。上記図11で右側の出発点である第一の偏光状態は下側偏光板の偏光子を通過したときの偏光状態であり、第二の偏光状態は下側偏光板の第二位相差フィルムを通過したときの偏光状態であり、第三の偏光状態は液晶セルを通過したときの偏光状態であり、第四の偏光状態は上側偏光板の第一位相差フィルムを通過したときの偏光状態である。
【0081】
また、上記実施例2による液晶表示装置の380nm〜780nmの範囲の可視光線領域内で10nm間隔の光に対する偏光状態を図12に示した。
【0082】
このように、実施例2から、本発明による効果を具現するためには図11のように550nmの短波長での偏光状態は、本明細書内に記述した範囲を有するポアンカレ球上の円(赤色円)内で変化されなければならないことが確認できた。
【0083】
上記実施例1及び実施例2に係る図7及び図11における550nmの光源に対する偏光状態の変化のように、偏光状態の変化が赤色円内に入ることを満たす第一及び第二位相差フィルムの光学条件は、数学的に無数ある。即ち、本発明の第一及び第二位相差フィルムには、本発明で提示した特定の光学特性を満たしながら、これらを適用した液晶表示装置の偏光状態の変化が下側偏光板の偏光子を通過した後の偏光状態から上側偏光板の吸収軸に光が最大限に吸収される偏光状態までの距離を半径とした円の内側に入るものであれば、全て使用可能である。
【実施例3】
【0084】
<実施例3>
上記実施例1と同様に構成されるが、第一位相差フィルム24は、正面位相差(R0)が50nm、屈折率比(NZ)が−0.1であるものを、第二位相差フィルム14は、正面位相差(R0)が250nm、屈折率比(NZ)が−0.7であるものを使用した。上記第一位相差フィルム24の正面位相差(R0)と第二位相差フィルム14の正面位相差(R0)のと和は300nmであった。
【0085】
全方位からの光の透過率のシミュレーションを実施した結果、図13に示すような結果を得た。図13は、暗(BLACK)状態を画面に表示したときの、全方位からの光の透過率分布を示したものであって、スケール上の範囲は透過率0%〜0.2%であり、暗状態を表示したときに透過率0.2%を超過した部分は赤色、透過率が低い部分は青色で表示される。このとき、中央の青色範囲が広いほど広視野角の確保が可能であることが確認できた。これは、ポアンカレ球上の偏光状態の変化が、光が最大に漏れる(透過する)視角(Φ=45゜、θ=60゜の方向)で、図14に示されているからである。
【0086】
上記実施例3において、視角Φ=45゜、θ=60゜の方向で、550nmの短波長の光に対する偏光状態の変化を図14に示した。上記図14で右側の出発点である第一の偏光状態は下側偏光板の偏光子を通過したときの偏光状態であり、第二の偏光状態は下側偏光板の第二位相差フィルムを通過したときの偏光状態であり、第三の偏光状態は液晶セルを通過したときの偏光状態であり、第四の偏光状態は上側偏光板の第一位相差フィルムを通過したときの偏光状態である。
【0087】
また、上記実施例3による液晶表示装置の380nm〜780nmの範囲の可視光線領域内で10nm間隔の光に対する偏光状態を図15に示した。
【0088】
このように、実施例3から、本発明による効果を具現するためには図14のように550nmの短波長での偏光状態は、本明細書内に記述した範囲を有するポアンカレ球上の円(赤色円)内で変化されなければならないことが確認できた。
【0089】
<比較例1>
上記実施例1と同様に構成されるが、液晶表示装置は、正面位相差(R0)が60nm、屈折率比(NZ)が−1.3であるポジティブ二軸性Aプレート、正面位相差(R0)が70nm、屈折率比(NZ)が1.7であるポジティブ一軸性Aプレート、偏光子及び保護フィルムを積層して形成した上側偏光板と、正面位相差(R0)が0nmであり、厚み方向位相差(Rth)が0nmである等方性保護層、偏光子及び保護フィルムを積層して形成した下側偏光板と、を積層して製造された。この構成では、ポジティブ一軸性Aプレートとポジティブ二軸性Aプレートの各遅相軸(Slow Axis)は、偏光板内の偏光子の吸収軸と平行である。
【0090】
上記IPS液晶表示装置の全方位からの光の透過率のシミュレーションを実施した結果、図16に示すような結果を得た。
【0091】
上記比較例1において、視角Φ=45゜、θ=60゜の方向における550nmの短波長の光に対する偏光状態の変化を図17に示した。上記図17で、右側の出発点である第一の偏光状態は下側偏光板の偏光子を通過したときの偏光状態であり、第二の偏光状態は下側偏光板の第二位相差フィルムを通過したときの偏光状態であり、第三の偏光状態は液晶セルを通過したときの偏光状態であり、第四の偏光状態は上側偏光板の第一位相差フィルム(NZ=−1.3のポジティブ二軸性Aプレート)を通過したときの偏光状態であり、第五の偏光状態は上側偏光板の2つ目の第一位相差フィルム(NZ=1.7のポジティブ一軸性Aプレート)を通過した時の偏光状態である。
【0092】
また、上記実施例1及び比較例1による液晶表示装置の380nm〜780nmの範囲の可視光線領域内で10nm間隔の光に対する偏光状態を図8図18に示した。一般的に、上側偏光板を通過する直前の偏光状態が各波長で全て等しく、液晶ディスプレイは視角による色の変化が少なく、それなのでこの可視光線領域内の全波長に対するポアンカレ球上の偏光状態の分散程度で色の変化を予測することができる。即ち、実施例1の図8と比較例1の図18を比較すると、色の分散程度は実施例1の方が小さく、色の変化が少ないことが分かる。
【0093】
色の変化を具体的に確認するために、実施例1及び比較例1の液晶表示装置についてブラック状態での全視角の色座標(CIE 1931、XY)を図9及び図19に示した。図9及び図19のように、本発明に係る実施例1の色の変化は、既存のIPS液晶表示装置である比較例1に比べて、顕著に少ないことが確認できた。
【0094】
このように、実施例1から、本発明による効果を具現するためには、図7のように、550nmの短波長での偏光状態は本明細書内に記述した範囲を有する円(赤色円)内で変化されなければならないことが確認できた。
【0095】
<比較例2>
上記実施例1と同様に構成されるが、上側偏光板と下側偏光板の2つ目の位相差フィルムとしてNormal TAC(入射光589.3nmに対してRthが50nmである三酢酸セルロース)を使用してIPS液晶表示装置を製造した。
【0096】
上記IPS液晶表示装置の全方位からの光の透過率を図20、色座標(CIE 1931、XY)を図21に示した。その結果、実施例1に比べて、斜め方向での光漏れが多く、色の変化も大きいことが確認できた。
【0097】
<比較例3>
上記実施例1と同様に構成されるが、上側偏光板と下側偏光板の2つ目の位相差フィルムとして等方性保護フィルム(正面位相差(R0)は0nmで、厚み方向位相差(Rth)は0nmである)を使用してIPS液晶表示装置を製造した。
【0098】
上記IPS液晶表示装置の全方位からの光の透過率を図22に示した。その結果、実施例1に比べて斜め方向で明暗比が低いので、画面が鮮明ではないことが分かった。
【0099】
<比較例4>
上記実施例1と同様に構成されるが、第一位相差フィルム24は正面位相差(R0)が150nm、屈折率比(NZ)が−0.1であり、第二位相差フィルム14は正面位相差(R0)が250nm、屈折率比(NZ)が−0.7であった。上記第一位相差フィルム24の正面位相差(R0)と第二位相差フィルム14の正面位相差(R0)との和は400nmであった。
【0100】
上記IPS液晶表示装置の全方位からの光の透過率は図23に示した。その結果、実施例1に比べて斜め方向で明暗比が低いので、画面が鮮明ではないことが分かった。
本明細書の開示内容は、以下の態様を含み得る。
(態様1)
上から、保護フィルム、偏光子、及び第一位相差フィルムの順で積層された上側偏光板と、
上から、第二位相差フィルム、偏光子、及び保護フィルムの順で積層された下側偏光板と、を含み、
前記第一位相差フィルムは、正面位相差値(R0)が50〜200nmであり、屈折率比(NZ)が−1〜−0.01であり、前記第一の位相差フィルムの遅相軸が、前記上側偏光板内の前記偏光子の吸収軸と平行であり、
前記第二位相差フィルムは、正面位相差値(R0)が50〜250nmであり、屈折率比(NZ)が−2〜−0.5であり、第二位相差フィルムの遅相軸が、下側偏光板内の偏光子の吸収軸と直交しており、
前記第一位相差フィルムの正面位相差値(R0)と前記第二位相差フィルムの正面位相差値(R0)との和が200〜350nmであることを特徴とする複合構成偏光板セット。
(態様2)
前記第一位相差フィルム及び前記第二位相差フィルムは、三酢酸セルロース(TAC)、シクロオレフィンポリマー(COP)、シクロオレフィンコポリマー(COC)、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリプロピレン(PP)、ポリカーボネート(PC)、ポリスルホン(PSF)及びポリメチルメタクリレート(PMMA)からなる群から選ばれたものから、独立して製造されたものであることを特徴とする態様1に記載の複合構成偏光板セット。
(態様3)
前記上側偏光板の前記位相差フィルム及び前記下側偏光板の前記位相差フィルムの各々は、ポリメチルメタクリレート(PMMA)層、ポリスチレン(PS)層及びポリメチルメタクリレート(PMMA)層をこの順で含んでいることを特徴とする態様1記載の複合構成偏光板セット。
(態様4)
態様1乃至3のいずれか1項に記載の複合構成偏光板セットを備えた面内切替式液晶表示装置。
(態様5)
液晶セルは、589nmの波長で、位相差が300〜330nmであることを特徴とする態様4に記載の液晶表示装置。
(態様6)
液晶セルは、液晶の配向方向が下側偏光板の吸収軸と平行になるように構成された態様4に記載の面内切替式液晶表示装置。
(態様7)
ブラックモードにおける全視角からの最大透過率が0.2%以下であることを特徴とする態様4に記載の面内切替式液晶表示装置。
(態様8)
Φ=45゜、θ=60゜の視角で、550nmの短波長の光が各光学層を通過するときに、ポアンカレ球上でのそれぞれの偏光状態は、光が下側偏光板内の前記偏光子を通過した直後の偏光状態から、前記上側偏光板内の前記偏光子の吸収軸に光が最大限に吸収される偏光状態までの距離を半径とした円の内側にあることを特徴とする態様4に記載の面内切替式液晶表示装置。
【産業上の利用可能性】
【0101】
以上のように、本発明に係るIPS液晶表示装置は全ての視角に対して優秀な画質を提供することができるので、高い視野角特性が要求される液晶ディスプレイに適用することができる。
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