特許第5719346号(P5719346)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許5719346コーヒーホワイトナー、その製造方法及び飲料の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5719346
(24)【登録日】2015年3月27日
(45)【発行日】2015年5月20日
(54)【発明の名称】コーヒーホワイトナー、その製造方法及び飲料の製造方法
(51)【国際特許分類】
   A23L 1/19 20060101AFI20150430BHJP
   A23C 11/06 20060101ALI20150430BHJP
   A23F 3/00 20060101ALI20150430BHJP
   A23F 5/00 20060101ALI20150430BHJP
   A23L 2/00 20060101ALI20150430BHJP
   A23L 2/52 20060101ALI20150430BHJP
【FI】
   A23L1/19
   A23C11/06
   A23F3/00
   A23F5/00
   A23L2/00 B
   A23L2/00 E
【請求項の数】12
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2012-503238(P2012-503238)
(86)(22)【出願日】2011年3月3日
(86)【国際出願番号】JP2011054884
(87)【国際公開番号】WO2011108633
(87)【国際公開日】20110909
【審査請求日】2014年2月3日
(31)【優先権主張番号】特願2010-48312(P2010-48312)
(32)【優先日】2010年3月4日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000000066
【氏名又は名称】味の素株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000216162
【氏名又は名称】天野エンザイム株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100080816
【弁理士】
【氏名又は名称】加藤 朝道
(72)【発明者】
【氏名】三輪 典子
【審査官】 松浦 安紀子
(56)【参考文献】
【文献】 特開2003−250460(JP,A)
【文献】 特開2000−50887(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A23L 1/19
A23C 11/06
A23F 3/00
A23F 5/00
A23L 2/00
A23L 2/52
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
Food Science and Tech Abst(FSTA)(ProQuest Dialog)
Foodline Science(ProQuest Dialog)
WPI
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記条件(a)〜(f)を全て満たすコーヒーホワイトナー:
(a)60〜90質量%の水相と10〜40質量%の油相の水中油型エマルジョンであること;
(b)水相が、カゼイン含有乳タンパク質含量0.05〜5重量%のカゼイン含有乳タンパク質溶液であること;
(c)該乳タンパク質がタンパク質脱アミド酵素による処理が施されていること;
(d)脱アミド処理の程度が、脱アミド化率70%以上であること;
(e)油相が植物性油脂であること;及び
(f)合成乳化剤を有効成分として含有しないこと。
【請求項2】
pHが6.7〜7.8である請求項1記載のコーヒーホワイトナー。
【請求項3】
条件(b)の溶液が、カゼインナトリウムを0.05〜5重量%含有する溶液又は脱脂粉乳を0.1〜15重量%含有する溶液である請求項1又は2記載のコーヒーホワイトナー。
【請求項4】
条件(c)のタンパク質脱アミド酵素が、クリセオバクテリウム属由来の酵素である請求項1乃至3の何れかに記載のコーヒーホワイトナー。
【請求項5】
下記工程(A)〜(C)を含むことを特徴とする合成乳化剤不使用のコーヒーホワイトナーの製造方法:
(A)カゼイン含有乳タンパク質含量が0.05〜5重量%のカゼイン含有乳タンパク質溶液を調製する工程;
(B)該カゼイン含有乳タンパク質溶液にタンパク質脱アミド酵素を添加作用させ、脱アミド化率が70%以上の脱アミド処理乳タンパク質溶液を調製する工程;及び
(C)該脱アミド処理乳タンパク質溶液からなる水相60〜90重量部と植物性油脂からなる油相10〜40重量部とを混合、均質化し、水中油型エマルジョンを調製する工程。
【請求項6】
工程(A)の溶液が、カゼインナトリウムを0.05〜5重量%含有する溶液又は脱脂粉乳を0.1〜15重量%含有する溶液である請求項5記載の製造方法。
【請求項7】
工程(B)におけるタンパク質脱アミド酵素の添加量が、乳タンパク質1g当り、0.1〜100ユニットである請求項5又は6記載の製造方法。
【請求項8】
工程(B)におけるタンパク質脱アミド酵素が、クリセオバクテリウム属由来の酵素である請求項5乃至7の何れかに記載の製造方法。
【請求項9】
下記工程(D)〜(F)を含むことを特徴とする合成乳化剤不使用のコーヒーホワイトナーの製造方法:
(D)カゼイン含有乳タンパク質にタンパク質脱アミド酵素を添加作用させ、脱アミド化率が70%以上の脱アミド処理乳タンパク質を調製する工程;
(E)該脱アミド処理乳タンパク質含量が0.05〜5重量%の脱アミド処理乳タンパク質溶液を調製する工程;及び
(F)該脱アミド処理乳タンパク質溶液からなる水相60〜90重量部と植物性油脂からなる油相10〜40重量部とを混合、均質化し、水中油型エマルジョンを調製する工程。
【請求項10】
工程(D)におけるタンパク質脱アミド酵素の添加量が、乳タンパク質1g当り、0.1〜100ユニットである請求項9記載の製造方法。
【請求項11】
工程(D)におけるタンパク質脱アミド酵素が、クリセオバクテリウム属由来の酵素である請求項9又は10記載の製造方法。
【請求項12】
請求項5乃至11の何れかに記載の方法で製造されたコーヒーホワイトナーを用いる飲料の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
[関連出願についての記載]
本発明は、日本国特許出願:特願2010−048312号(2010年3月4日出願)の優先権主張に基づくものであり、同出願の全記載内容は引用をもって本書に組み込み記載されているものとする。
本発明は、植物油脂からなる液状コーヒーホワイトナーに関する。より詳しくは、合成乳化剤を使用しなくても保存時に優れた乳化安定性が付与され、コーヒー等高温の飲料に添加した場合の乳化分散性が向上したコーヒーホワイトナーに関する。
【背景技術】
【0002】
コーヒーホワイトナーは、コーヒーや紅茶等に加え、苦味や渋味等を低減したり、あるいはコク味を付与したりするために用いられているクリーム様の水中油型エマルジョンである。通常、食用油脂を主原料とし、乳化剤、必要に応じ乳成分、増粘剤、香料等を添加した乳化液を高圧ホモゲナイザー等のせん断力に優れた乳化機で均質化処理をして調製される。コーヒーホワイトナーの多くが冷蔵で保管されているが、使用の際は、高温のコーヒーや紅茶等に添加するため油脂の分離(オイルオフ) や乳蛋白質の変性(フェザーリング) が発生しない安定な品位が要求される。安定性を確保するために、通常グリセリン脂肪酸エステル、プロピレングリコール脂肪酸エステル、ショ糖脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル、ポリグリセリン脂肪酸エステルなどの合成乳化剤が多量に使用されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特公平2−968号公報
【特許文献2】特開平1−160458号公報
【特許文献3】特開平2−257838号公報
【特許文献4】特開平6−253735号公報
【特許文献5】特開平6−125706号公報
【特許文献6】特開2003−9785号公報
【特許文献7】特開2000−50887号公報
【特許文献8】特開2001−218590号公報
【特許文献9】特開2003−250460号公報
【特許文献10】WO2006/075772
【特許文献11】WO2009/154212
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】Yamaguchi et al. Appl. Environ. Microbiol., 66, 3337-3343 (2000)
【非特許文献2】Eur. J. Biochem 268 1410-1421 (2001)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記特許文献1〜11及び非特許文献1、2の全開示内容はその引用をもって本書に繰込み記載する。
以下の分析は、本発明によってなされたものである。
しかしながら、乳化剤には特有のエグ味、苦味などがあり、使用する食品の優れた風味、味、食感が損なわれるという欠点がある。また一般に、乳化剤は溶解性が悪く、均一に溶解させるために60〜70℃に加熱しながら攪拌する必要があり作業面での課題もある。更に乳化剤を使用した食品には、日本では「乳化剤」の表示が必要となるが、近年では、消費者の健康意識の向上から、乳化剤表示のない製品へのニーズが高まってきており、乳化剤の機能を代替できる食品素材の開発が望まれている。そのために、乳化剤代替に関する種々検討が行われているが、とりわけ製パン分野において積極的に進められており、コーヒーホワイトナーではほとんど例がない。
【0006】
カゼイン類や乳清蛋白質などの乳由来の蛋白質(乳蛋白質)を原料とした乳化剤については、これまでに種々のものが開示されている。例えば、全カゼインに蛋白質分解酵素を作用させて得られる反応生成物から、5乃至50個のアミノ酸から構成されるポリペプチドからなる乳化剤(特許文献1)、乳蛋白質に蛋白分解酵素を作用させ、その分解度を5〜20%の範囲に部分的に加水分解してなることを特徴とする乳蛋白性界面活性剤(特許文献2)、酵素により加水分解された乳清蛋白質を主成分として含む加水分解物を含有することを特徴とする水中油型乳化脂組成物(特許文献3)などが開示されている。また、乳化剤とカゼイン類を組み合わせることにより、油脂含有飲食物などの乳化安定性を向上させる方法ついても報告されており、例えば、親水性乳化剤、カゼインナトリウム、κ−カラギーナンを含有する乳飲料用乳化安定剤(特許文献4)、ショ糖脂肪酸エステル、グリセリン脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル、グリセリンコハク酸脂肪酸エステル、及びカゼインナトリウムを必須成分として含有してなる乳飲料用乳化安定剤(特許文献5)、乳化安定剤としてカゼイン分解物を含有する方法(特許文献6)などが開示されている。しかしながら、いずれも合成乳化剤との併用であり、コーヒーホワイトナーにおける合成乳化剤の機能を完全に代替する技術は見当たらない。
【0007】
ところで、タンパク質脱アミド酵素は、タンパク質中のアミド基に直接作用し、脱アミドする反応を触媒する酵素である。それによってタンパク質中のグルタミン残基はグルタミン酸残基に変換され、カルボキシル基が生じることから、タンパク質の負電荷の増加、静電反発力の上昇、等電点の低下、水和力の増加等が起こる。その結果、タンパク質の溶解性、水分散性の増加、乳化力の向上など様々な機能特性の向上をもたらすことが知られている(非特許文献1、2、特許文献7〜11)。また、タンパク質脱アミド酵素を食品に用いる方法は、特許文献7、9、10、及び11に開示されており、これら先行文献の中には、本酵素を用いた小麦グルテン、乳タンパク質(主にホエータンパク質)の機能特性の改変に関する記述がある。また、特許文献7には、タンパク質脱アミド酵素処理により脱アミド化されたグルテンを用いて調製したコーヒーホワイトナーが安定なエマルション状態を示し、コーヒーへ添加した場合に良好な分散・溶解性、口当たりを示した旨開示されている。しかしながら、このコーヒーホワイトナーは合成乳化剤であるモノグリセリド、ポリソルベートを使用して製造されているもので、あくまでグルテンの溶解性、分散性を改善する方法に関するものであり、合成乳化剤不使用のコーヒーホワイトナーの製造を示唆するものでは全くない。
【0008】
また、タンパク質脱アミド酵素処理は、タンパク質の負電荷の増加に伴うタンパク質の高次構造の変化が表面疎水性の増加をもたらし、それが乳化力向上につながると考えられている。ところが、主要な乳タンパク質であるカゼインはもともと規則性の低いランダムコイル構造、かつ両親媒構造であるために古くより乳化力に優れるタンパク質として知られている。そのため、改めて本酵素を用いた乳タンパク質の乳化機能の改善を図った例は少ない。特許文献7には、脱アミド化カゼインが高濃度カルシウム存在下においても高い溶解性を示すことが開示されている。また、特許文献10には、タンパク質脱アミド酵素をヨーグルト、チーズ、プリンに用いる方法が開示されており、特許文献11には、タンパク質脱アミド酵素処理した乳をパン、ソースなどの澱粉含有食品へ添加することにより、色・つや・食感が良好で、調理後の経時劣化の抑制された澱粉含有食品を製造する方法が開示されている。しかしながら、コーヒーホワイトナーの製造において、とりわけ合成乳化剤を代替する試みとして、これまでタンパク質脱アミド酵素を使用した例は未だ報告されていなかった。
【0009】
本発明は、合成乳化剤を使用しなくても保存安定性のみならず、コーヒー等の飲料への分散性に優れるコーヒーホワイトナー、その製造方法を提供すること、並びにそれを使用した飲料の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記の目的を達成すべく本発明者らは、鋭意検討を重ねた。その結果、様々な乳タンパク質素材のなかでも、カゼインナトリウム又は脱脂粉乳等のカゼイン含有乳タンパク質の脱アミド酵素処理物と、植物性油脂とを混合・均質化した水中油型乳化物からなるコーヒーホワイトナーが、優れた保存安定性およびコーヒー分散性を示すことを見出した。すなわち、本発明は以下の通りである。
(1)下記条件(a)〜(f)を全て満たすコーヒーホワイトナー:
(a)60〜90質量%の水相と10〜40質量%の油相の水中油型エマルジョンであること;
(b)水相が、カゼイン含有乳タンパク質含量0.05〜5重量%のカゼイン含有乳タンパク質溶液であること;
(c)該乳タンパク質がタンパク質脱アミド酵素による処理が施されていること;
(d)脱アミド処理の程度が、脱アミド化率70%以上であること;
(e)油相が植物性油脂であること;及び
(f)合成乳化剤を有効成分として含有しない。
(2)pHが6.7〜7.8である(1)記載のコーヒーホワイトナー。
(3)条件(b)の溶液が、カゼインナトリウムを0.05〜5重量%含有する溶液又は脱脂粉乳を0.1〜15重量%含有する溶液である(1)又は(2)記載のコーヒーホワイトナー。
(4)条件(c)のタンパク質脱アミド酵素が、クリセオバクテリウム属由来の酵素である(1)乃至(3)の何れかに記載のコーヒーホワイトナー。
(5)下記工程(A)〜(C)を含むことを特徴とする合成乳化剤不使用のコーヒーホワイトナーの製造方法:
(A)カゼイン含有乳タンパク質含量が0.05〜5重量%のカゼイン含有乳タンパク質溶液を調製する工程;
(B)該カゼイン含有乳タンパク質溶液にタンパク質脱アミド酵素を添加作用させ、脱アミド化率が70%以上の脱アミド処理乳タンパク質溶液を調製する工程;及び
(C)該脱アミド処理乳タンパク質溶液からなる水相60〜90重量部と植物性油脂からなる油相10〜40重量部とを混合、均質化し、水中油型エマルジョンを調製する工程。
(6)工程(A)の溶液が、カゼインナトリウムを0.05〜5重量%含有する溶液又は脱脂粉乳を0.1〜15重量%含有する溶液である(5)記載の製造方法。
(7)工程(B)におけるタンパク質脱アミド酵素の添加量が、乳タンパク質1g当り、0.1〜100ユニットである(5)又は(6)記載の製造方法。
(8)工程(B)におけるタンパク質脱アミド酵素が、クリセオバクテリウム属由来の酵素である(5)乃至(7)の何れかに記載の製造方法。
(9)下記工程(D)〜(F)を含むことを特徴とする合成乳化剤不使用のコーヒーホワイトナーの製造方法:
(D)カゼイン含有乳タンパク質にタンパク質脱アミド酵素を添加作用させ、脱アミド化率が70%以上の脱アミド処理乳タンパク質を調製する工程;
(E)該脱アミド処理乳タンパク質含量が0.05〜5重量%の脱アミド処理乳タンパク質溶液を調製する工程;及び
(F)該脱アミド処理乳タンパク質溶液からなる水相60〜90重量部と植物性油脂からなる油相10〜40重量部とを混合、均質化し、水中油型エマルジョンを調製する工程。
(10)工程(D)におけるタンパク質脱アミド酵素の添加量が、乳タンパク質1g当り、0.1〜100ユニットである(9)記載の製造方法。
(11)工程(D)におけるタンパク質脱アミド酵素が、クリセオバクテリウム属由来の酵素である(9)又は(10)記載の製造方法。
(12)(5)乃至(11)の何れかに記載の方法で製造されたコーヒーホワイトナーを用いる飲料の製造方法。
【発明の効果】
【0011】
本発明によると、合成乳化剤を使用せずとも保存安定性、分散性に優れるコーヒーホワイトナーを得ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明を詳細に説明する。本発明の特定の水中油型エマルジョンを含むコーヒーホワイトナーは、乳やクリームの代用としてコーヒー、紅茶等の飲料に添加されるもので、通常、適量の水、植物性油脂、乳分を含有する均質組成物として調製される。油相に用いる植物性油脂としては、食品に通常使用されるもの、例えば、ナタネ油、綿実油、コーン油、ヒマワリ油、大豆油、ココナッツ油、パーム核油、パーム油、それらを硬化または分別したものが挙げられる。これらは必要に応じて適宜組み合せて使用される。中でも、常温、特に20〜30℃付近で液状の脂肪は、コーヒーホワイトナーのオイルオフ(脂肪分離)を起こし難い利点があるため、好適に使用される。
【0013】
本発明のコーヒーホワイトナーの水相には、カゼインを含有する乳タンパク質をタンパク質脱アミド酵素により脱アミド化して得られる、脱アミド化率が70%以上100%以下の脱アミド処理乳タンパク質の溶液を用いる。酵素処理を施す乳蛋白質の原料としては、カゼイン、カゼインナトリウム、あるいはカゼインを含有する乳原料である脱脂乳、脱脂粉乳、全粉乳、牛乳などが用いられる。溶液中の乳蛋白質の量は0.05〜5重量%が好ましく、0.15〜3重量%がより好ましい。脱脂粉乳を用いる場合、脱脂粉乳中のタンパク質含量にもよるが、例えば36%の場合は、水相中の脱脂粉乳の含有量は0.1〜15重量%が好ましく、0.4〜11重量%がより好ましく、1.5〜9重量%がさらに好ましい。
【0014】
本発明におけるタンパク質脱アミド酵素は、タンパク質のアミド基に直接作用してペプチド結合の切断及びタンパク質の架橋を伴わず脱アミドする作用を有する限りにおいてその種類は特に限定されるものではない。この様な酵素の例として、特開2000−50887号公報〈参考文献1〉、特開2001−21850号公報〈参考文献2〉、WO2006/075772〈参考文献3〉に開示された、クリセオバクテリウム属、フラボバクテリウム属又はエンペドバクター属由来のタンパク質脱アミド酵素、市販されているクリセオバクテリウム属由来のプロテイングルタミナーゼ等があるが、これらに特に限定されるものではない。好ましくはクリセオバクテリウム属由来の酵素が選択される。尚、トランスグルタミナーゼは食品原料に作用させる場合、タンパク質の架橋反応が優先的に起こり、脱アミド反応はほとんど起こらないため、本発明におけるタンパク質脱アミド酵素にはトランスグルタミナーゼは含まれない。尚、上記参考文献1〜3の記載内容は、引用をもって本書に組み込まれる。
【0015】
前記タンパク質脱アミド酵素としては、タンパク質脱アミド酵素を産生する微生物の培養液より調製したものを用いることができるが、その調製方法については、公知のタンパク質分離、精製方法(遠心分離、UF濃縮、塩析、イオン交換樹脂等を用いた各種クロマトグラフィー等)を用いることができる。例えば、培養液を遠心分離して菌体を除去し、その後塩析、クロマトグラフィー等を組み合わせて目的の酵素を得ることができる。菌体内から酵素を回収する場合には、例えば菌体を加圧処理、超音波処理などによって破砕した後、上記と同様に分離、精製を行うことにより目的の酵素を取得することができる。尚、ろ過、遠心処理などによって予め培養液から菌体を回収した後、上記一連の工程(菌体の破砕、分離、精製)を行ってもよい。酵素は凍結乾燥、減圧乾燥等の乾燥法により粉末化してもよいし、その際に適当な賦形剤、乾燥助剤を用いてもよい。
【0016】
本発明において、タンパク質脱アミド酵素の活性は、下記の方法で測定する。
(1)30mM Z−Gln−Glyを含む0.2Mリン酸バッファー(pH6.5)1mlにタンパク質脱アミド酵素を含む水溶液0.1mlを添加して、37℃、10分間インキュベートした後、0.4M TCA溶液を1ml加えて反応を停止する。ブランクとして、30mM Z−Gln−Glyを含む0.2Mリン酸バッファー(pH6.5)1ml と0.4M TCA溶液を1ml加えたものに、タンパク質脱アミド酵素を含む水溶液0.1mlを添加して、37℃で10分間インキュベートしたものを調製する。
(2)(1)で得られた溶液についてアンモニアテストワコー(和光純薬)を用い、反応により生じたアンモニア量の測定を行う。アンモニア標準液(塩化アンモニウム)を用いて作成したアンモニア濃度と吸光度(630nm)の関係を表す検量線より、反応液中のアンモニア濃度を求める。
(3)タンパク質脱アミド酵素の活性は、1分間に1μmolのアンモニアを生成する酵素量を1単位とし、以下の式から算出する。
酵素活性(U/mL)=反応液中のアンモニア濃度(mg/L)×(1/17.03)×(反応液量/酵素溶液量)×(1/10)×Df
(17.03:アンモニアの分子量2.1:酵素反応系の液量0.1:酵素溶液量10:反応時間Df:酵素溶液の希釈倍数)
【0017】
本発明のコーヒーホワイトナーの水相部分の調製方法を2通り記述する。一つは、乳タンパク質を含有する溶液を乳タンパク質含量が0.05〜5重量%、好ましくは0.15〜3重量%となるよう溶解・調製した後、タンパク質脱アミド酵素を作用させる方法(プレインキュベーション法)である。もう一つは、タンパク質脱アミド酵素で予め改質した脱アミド処理乳タンパク質を水相に再溶解させる方法(脱アミド処理乳タンパク質添加法)である。すなわち、乳タンパク質を含む溶液にタンパク質脱アミド酵素を作用させ脱アミド処理乳タンパク質を調製し、溶液又はそれを乾燥・粉末化したものを、再び脱アミド処理タンパク質含量が0.05〜5重量%、好ましくは0.15〜3重量%となるよう溶液を調製する方法である。いずれの方法も、酵素は75℃以上の加熱により適宜失活させてもよい。
【0018】
続いて、乳タンパク質に、タンパク質脱アミド酵素を添加、作用させる方法について記述する。本発明では、乳タンパク質の脱アミド化率が70%以上となるように酵素反応を行うことが重要であり、そのような状態にするための酵素反応条件(酵素量、反応の時間、温度、反応溶液のpHなど)は、乳原料混合液中の乳タンパク質の脱アミド化率が適正範囲となるよう適宜設定すればよい。脱アミド化率は高いほど好ましく、70%未満の場合、小さいエマルジョン粒子径が得られず十分な保存安定性が得られないといった問題が生じる。例えば酵素量が少ない場合は、反応時間を長くすればよいが、一般的なタンパク質脱アミド酵素の添加量は乳タンパク質1g(乾物重量)に対して、0.01〜100ユニットが好ましく、0.1〜25ユニットがより好ましい。好ましい反応温度は、5〜80℃、より好ましくは20〜60℃である。好ましい反応溶液のpHは2〜10、より好ましくは4〜8である。好ましい反応時間は10秒〜48時間、より好ましくは10分〜24時間である。
【0019】
なお、本発明における脱アミド化率とは、水相である乳タンパク質溶液の乳タンパク質中のグルタミン残基がタンパク質脱アミド酵素によりどの程度脱アミド反応したかを示すものである。乳原料混合液のタンパク質のグルタミンが全て脱アミドされた状態を100%とする。乳タンパク質1gに対し、タンパク質脱アミド酵素を15ユニット添加し、55℃で1時間反応させると、脱アミド反応は飽和に達するので、脱アミド化率100%を示す、最大反応量(アンモニア量)を求めることができる。つまり、脱アミド化率は、下式より求める。
脱アミド化率(%)=[乳原料混合液にタンパク質脱アミド酵素を反応させた際に生じたアンモニア量]÷[同じ乳原料混合液に酵素を乳タンパク質1gあたり15ユニット添加し、55℃1時間反応させた際に生じたアンモニア量]×100
【0020】
脱アミド反応によって生じたアンモニア量は、市販のアンモニア測定キットにより測定できる。例えば、乳原料混合液(プレインキュベーション法の場合)あるいは乳タンパク質溶液(脱アミド処理乳タンパク質添加法の場合)と等量の12%TCAを添加することで酵素反応を停止し、遠心分離(12,000rpm、5℃、5分間)により得られた上清中のアンモニア量をF−kit(Roche社)を用いて測定する。詳しくは、試薬II液(F−kit付属品)100μlに上清10μlと0.1Mトリエタノールアミンバッファー(pH8.0)190μlを加え、室温で5分間放置後100μlを用いて340nmの吸光度を測定する。残りの200μlに、1.0μlの試薬III(F−kit付属、グルタメートデヒドロゲナーゼ)を加えた後、更に20分間室温に放置した後に残り200μlの340nmの吸光度を測定する。F−kitに付属のアンモニア標準液を用いて作成したアンモニア濃度と吸光度(340nm)の変化量の関係を表す検量線より、上清中のアンモニア濃度を求め、これより乳原料混合液あるいは乳タンパク質溶液中のアンモニア量を求める。尚、検量線の範囲からはずれる場合は、水で適宜希釈後同様に測定すればよい。
【0021】
コーヒーホワイトナーの配合組成は、油相として植物性油脂10〜40重量%、水相として脱アミド処理乳タンパク質溶液60〜90重量%であり、合成乳化剤は配合されないことが特徴であるが、適宜、塩類(リン酸塩、クエン酸塩等)や甘味や粘度の調整を目的として糖類も配合してもよい。糖類としては、例えば、水飴、粉飴、ショ糖、麦芽糖、ソルビトール、マルチトール、エリスリトール、トレハロース等が挙げられ、これらは、必要に応じ、適宜組合せて配合される。本発明のコーヒーホワイトナーには使用されない合成乳化剤としては、モノグリセリド、グリセリン脂肪酸エステル、有機酸モノグリセリド、有機酸グリセリン脂肪酸エステル、プロピレングリコール脂肪酸エステル、ショ糖脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル、ポリソルベート、ポリグリセリン脂肪酸エステルなどが挙げられる。
【0022】
本発明のコーヒーホワイトナーは、上記の油相10〜40重量部と水相60〜90重量部とを混合し、常法に従って均質化することにより製造することが出来る。例えば、植物性油脂からなる油相成分を調製する一方、別途、脱アミド処理乳タンパク質溶液からなる水相成分を調製し、両成分を適当な温度に加温し、混合・攪拌しながら予備的に均質化した後、通常の均質化工程、滅菌工程、無菌均質化工程、冷却工程、エージング工程を経てコーヒーホワイトナーを得る。均質化に使用するホモミキサー、ホモジナイザーは特にこの機器に限定するものではなく、乳化性能をもつ機器の使用はいずれも可能である。
【0023】
本発明のコーヒーホワイトナーを用いて製造される飲料として、コーヒー、紅茶等が挙げられ、それらの缶入り製品、ペットボトル入り製品も包含される。
【0024】
以下に実施例、比較例を挙げ、本発明をさらに詳しく説明するが、本発明は、これらの実施例により何ら限定されるものではない。
【実施例1】
【0025】
ローヒート脱脂粉乳(よつ葉乳業社 蛋白35.6%)の10%(w/w)溶液に充分に脱アミドする条件、すなわちタンパク質脱アミド酵素を蛋白1gあたり15U加えて55℃で60分間反応させた。なお、タンパク質脱アミド酵素としてプロテイングルタミナーゼ(天野エンザイム社製 500U/g クリセオバクテリウム属由来;以下PGと略すことがある)を用いた。その後沸騰浴中で80℃に達するまで加熱して酵素を失活させた後、冷却した。次に粉末化するため−80℃で凍結後、フリーズドライに供し、脱アミド率100%のPG処理脱脂粉乳を調製した。同様にして、PGを蛋白1gあたり1.5U、4U、そして15Uそれぞれ加えて55℃で60分間反応させ、その後、加熱して酵素を失活させた後、冷却した。次に粉末化するため−80℃で凍結後、フリーズドライに供し、脱アミド化率それぞれ27.5%、70.4%、そして100%のタンパク質脱アミド酵素処理脱脂粉乳を調製した。
【0026】
このようにして調製された脱アミド化率の異なる3種の脱脂粉乳を乳タンパク質の含量がそれぞれ0.15重量%となるように水に溶解させた(水相)。これを水相80:油相20の配合比率で、コーン油(油相)と混合し、超音波乳化(Handy Sonic;株式会社トミー精工)を出力9で30秒間行った。得られた水中油型(o/w)エマルジョンの粒子径を粒度分布計(マイクロトラック;日機装株式会社)で測定した。その結果を表1に示す。
【0027】
【表1】
【0028】
タンパク質脱アミド酵素無添加(対照品)及びタンパク質脱アミド酵素1.5u/gp処理(脱アミド化率27.5%)(比較品)では、エマルジョンの平均粒子径はそれぞれ9.0μm、7.5μmであり、加熱後1週間常温保存後の状態は不良であり、水相と油相の分離が生じていた。一方、タンパク質脱アミド酵素4U/gp処理、15U/gp処理(それぞれ脱アミド化率70.4%、100%)(本発明品)では、エマルジョンの平均粒子径はそれぞれ4.7μm、4.1μmと対照品・比較品に比べて小さく、また加熱後1週間常温保存後の状態は分離することなく良好であった。このように、脱アミド化率が70%以上で乳化力、乳化安定性が良好なエマルジョンが作成可能であることが示された。
【実施例2】
【0029】
表2に示す配合の水中油型エマルジョンからなるコーヒーホワイトナーを作成した。カゼインナトリウムを0.5%、1.5%、3%含む溶液にタンパク質脱アミド酵素4U/gp処理、10U/gp処理した後、80℃達温加熱により酵素を失活させた。このように調製された水相560重量部とコーン油(油相)140重量部を混合し、55℃で予備乳化を行った。予備乳化は、TKホモミキサー(特殊機化工業社製)を用い、処理条件は5000rpmで5分間とした。予備乳化後、高圧ホモジナイザー(エスエムテー社製)を用い、300bar(1次圧60bar、2次圧240bar)で均質化を行った。得られたエマルジョンの平均粒子径を測定し、残りは5℃および55℃保存テストとして透明容器に移した。15日間保存後の平均粒子径の測定及び外観観察から保存安定性を評価した。対照品として、カゼインナトリウムを0.5%、1.5%、3%含む溶液に酵素を添加しない以外は同様の処理をしたものも調製した。また、比較品として1.5%カゼインナトリウム溶液に合成乳化剤としてショ糖グリセリンエステル(P−1670;三菱化学フーズ株式会社製)を0.1%、0.5%、1.0%添加した水相を調製して、上記と同様の処理を行った。以上の結果を表3に示す。
【0030】
【表2】
【0031】
【表3】
【0032】
対照品1〜3において、カゼインナトリウム含量が減少するに従って、エマルジョンの平均粒子径が増加した。また、カゼインナトリウム含量によらず、保存中の平均粒子径の変化が大きく、保存安定性は低かった。比較品4〜6においては、合成乳化剤含量が減少するに従って、エマルジョンの平均粒子径が増加し、保存安定性が低下する傾向があった。これより、カゼインナトリウムと乳化剤が細かく安定なエマルジョンの作成に必要な成分であることがわかる。一方、合成乳化剤(P−1670)の代わりに、カゼインナトリウムをタンパク質脱アミド酵素4U/gp、10U/gp処理したサンプル(本発明品7〜12)のエマルジョンの平均粒子径はいずれも、対照品1〜3の同条件と比べて小さかった。また、カゼインナトリウム含量3%、1.5%の本発明品7〜10では、5℃及び55℃保存サンプルも粒子径変化が対照品に比べ抑えられ安定性が向上していた。特に、3%カゼインナトリウムをタンパク質脱アミド酵素4U/gp、10U/gp処理したサンプル(本発明品7、8)は、合成乳化剤(P−1670)1.0%添加したサンプル(比較品4)の結果と匹敵するものであり、この結果はタンパク質脱アミド酵素したカゼインナトリウムが合成乳化剤(P−1670)の代替となり得ることを示す結果と言える。
【0033】
次に、対照品1〜3、本発明品7〜12についてコーヒーテストを行った。市販のインスタントコーヒーに80℃の湯を注ぎ、1.5重量%のコーヒー溶液を作成した。該コーヒー溶液45gに対し、コーヒーホワイトナーサンプルを1.5g添加し、よくかき混ぜた。凝集物(フェザリング)の有無について評価を行った結果を表4に示す。対照品ではカゼインナトリウム含量の増加に伴い凝集物が多く認められたのに対し、本発明品7〜12では凝集物はほとんど認められなかった。
【0034】
【表4】
【実施例3】
【0035】
表5に示す配合の水中油型エマルジョンからなるコーヒーホワイトナーを作成した。脱脂粉乳及びPGは実施例1記載のものを用いた。脱脂粉乳を1.5%、4.5%、9%含む溶液にタンパク質脱アミド酵素10U/gp処理した後、80℃達温加熱により酵素を失活させた(水相とする)。前述と同様にして、水相とコーン油(油相)を混合し、55℃で予備乳化を行った後、高圧ホモジナイザー処理を行った。得られたエマルジョンの平均粒子径を測定し、残りは5℃および55℃保存テストとして透明容器に移した。15日間保存後の平均粒子径の測定及び外観観察から保存安定性を評価した(本発明品16、17、18)。対照品として、脱脂粉乳を1.5%、4.5%、9%含む溶液に酵素を添加しない以外は同様の処理をしたものも調製した(比較例13、14、15)。その結果を表6に示す。
【0036】
【表5】
【0037】
【表6】
【0038】
対照品はいずれも、5℃、55℃保存中のエマルジョン平均粒子径が調製直後に比べて著しく増大し、凝集分離が著しかった。特に55℃保存品のサンプルでは平均粒子径の測定が困難であった。一方、本発明品16〜17では、対照品の同じ条件のサンプルと比べてエマルジョンの平均粒子径が小さく維持されていた。とりわけ、本発明品16では5℃、55℃いずれの保存温度でも15日間エマルジョンの平均粒子径が変わらず良好な安定性を示すことが確認できた。この結果は、表3の比較品4として示された合成乳化剤(P−1670)を用いたときの結果に匹敵するものであり、タンパク質脱アミド酵素した脱脂粉乳が合成乳化剤の代替可能性を示す結果と言える。
【0039】
表5に示した比較例13と本発明品16を用い、各ホワイトナーサンプルのpHを調整しないもの(pH6.7)、そして重曹によりpH調整(pH7.1〜7.8)したものについてコーヒー飲料への分散性を評価した。各コーヒーホワイトナーサンプルを1.5重量%コーヒー溶液(調製方法は本明細書の段落[0032]に記載の通り)に添加して凝集の状態を観察した。本発明品では、いずれのpHでも対照品に比べて凝集物の発生が抑えられており、とりわけpH7以上にしたものはほとんど凝集物が認められなかった。この結果より、pH調整することによってタンパク質脱アミド酵素処理の高い効果が期待される。
本発明の全開示(請求の範囲を含む)の枠内において、さらにその基本的技術思想に基づいて、実施形態ないし実施例の変更・調整が可能である。また、本発明の請求の範囲の枠内において種々の開示要素の多様な組み合わせ、ないし、選択が可能である。すなわち、本発明は、請求の範囲を含む全開示、技術的思想にしたがって当業者であればなし得るであろう各種変形、修正を含むことは勿論である。
【産業上の利用可能性】
【0040】
本発明によると、合成乳化剤を使用しなくても保存安定性のみならず、コーヒー分散性に優れるコーヒーホワイトナーを得ることができるので、食品分野において極めて有用である。