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特許5719454ガス分析による熱分析装置及び熱分析方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5719454
(24)【登録日】2015年3月27日
(45)【発行日】2015年5月20日
(54)【発明の名称】ガス分析による熱分析装置及び熱分析方法
(51)【国際特許分類】
   G01N 25/00 20060101AFI20150430BHJP
   G01N 25/20 20060101ALI20150430BHJP
   G01N 5/04 20060101ALI20150430BHJP
   G01N 27/62 20060101ALI20150430BHJP
【FI】
   G01N25/00 P
   G01N25/20 F
   G01N5/04 A
   G01N27/62 F
【請求項の数】10
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2013-549711(P2013-549711)
(86)(22)【出願日】2011年1月18日
(65)【公表番号】特表2014-507652(P2014-507652A)
(43)【公表日】2014年3月27日
(86)【国際出願番号】DE2011000045
(87)【国際公開番号】WO2012097765
(87)【国際公開日】20120726
【審査請求日】2013年9月10日
(73)【特許権者】
【識別番号】301077552
【氏名又は名称】ネッチ ゲレーテバウ ゲーエムベーハー
(74)【代理人】
【識別番号】100147485
【弁理士】
【氏名又は名称】杉村 憲司
(74)【代理人】
【識別番号】100161148
【弁理士】
【氏名又は名称】福尾 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100173794
【弁理士】
【氏名又は名称】色部 暁義
(72)【発明者】
【氏名】ユルゲン ブルム
【審査官】 黒田 浩一
(56)【参考文献】
【文献】 特開平04−278448(JP,A)
【文献】 特開昭61−213655(JP,A)
【文献】 特開平07−260663(JP,A)
【文献】 特開平06−300748(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 25/00−25/72
G01N 5/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱分析装置であって,
検査する試料(16)の温度(T)を制御下で変化させるように制御可能な温度調整手段(ST, 20)と,
・試料温度(T)が変化する間,試料(16)の特性を表す少なくとも1種の信号(TG)を連続的に検出するための検出手段(ST)と,
・試料(16)から放出される各種ガスを検査するためのガス分析手段(26)と,
を備える熱分析装置において,試料温度(T)が変化する間,
・温度調整手段(20)を,検出された信号(TG)に基づく所定の制御アルゴリズムに従って制御し,及び,
・ガス分析手段(26)を制御可能(28, 30)に構成し,かつ検出された信号(TG)に基づく所定の制御アルゴリズムに従って制御することを特徴とする熱分析装置。
【請求項2】
請求項1に記載の熱分析装置であって,試料(16)を収める試料室(14)が,加熱可能な搬送管(32)及び加熱可能なバルブ/インジェクタシステム(28,30)を介してガス分析手段(26)に接続されていることを特徴とする熱分析装置。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の熱分析装置であって,前記制御アルゴリズムは,検出手段(ST)が変化率(DTG)を連続的に算出する目的で検出する信号(TG)に対して事前処理を施すことを特徴とする熱分析装置。
【請求項4】
請求項1〜3の何れか一項に記載の熱分析装置であって,前記制御アルゴリズムにおける少なくとも1つの制御パラメータが,使用者により予め設定可能とされていることを特徴とする熱分析装置。
【請求項5】
請求項1〜4の何れか一項に記載の熱分析装置であって,前記制御アルゴリズムは,検出された信号(TG)及び/又は該信号(TG)から算出された変化率(DTG)が所定の基準を満たしたときに,温度調整手段(20)又はガス分析手段(26)の制御を行うことを特徴とする熱分析装置。
【請求項6】
請求項5に記載の熱分析装置であって,前記制御は,温度調整手段(20)により試料温度(T)の変化率を変更すること及び/又はガス分析手段(26)の作動を開始させることを含むことを特徴とする熱分析装置。
【請求項7】
請求項1〜6の何れか一項に記載の熱分析装置であって,前記制御アルゴリズムが,試料温度(T)の予定された変化を時間に応じて実行する所定の温度プログラムであり,該温度プログラムは,検出された信号(TG)及び/又は該信号(TG)から算出された変化率(DTG)が所定の基準を満たした時点で一時的に中断することを特徴とする熱分析装置。
【請求項8】
請求項7に記載の熱分析装置であって,温度変化を中断させている間にガス分析手段(26)を動作させ,ガス分析手段(26)によるガス検査の完了後に前記制御アルゴリズムにより温度変化を再開させることを特徴とする熱分析装置。
【請求項9】
請求項1〜8の何れか一項に記載の熱分析装置であって,評価手段(A)を更に備え,該評価手段(A)は,試料温度(T)の制御下での変化を完了した後,試料温度(T)の測定及びガス検査結果に基づいて評価結果を提供し,該評価結果は,試料の熱分解過程又は熱蒸発過程が生じる温度を示すことを特徴とする熱分析装置。
【請求項10】
熱分析方法であって,
検査する試料(16)の温度調整を制御することにより試料温度(T)を制御下で変化させるステップと,
・試料温度(T)が変化する間,試料(16)の特性を表す少なくとも1種の信号(TG)を連続的に検出するステップと,
・試料(16)から放出される各種ガスを検査するステップと,
を含む方法において,試料(16)の温度(T)が変化する間,
・試料(16)の温度調整を,検出された信号(TG)に基づく制御アルゴリズムに従って制御し,及び,
・各種ガスの分析を,検出された信号(TG)に基づく制御アルゴリズムに従って制御された状態で行うことを特徴とする熱分析方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は,請求項1の上位概念部分に記載した熱分析装置と,請求項10の上位概念部分に記載した熱分析方法とに関するものである。
【背景技術】
【0002】
熱分析のための装置及び方法は従来技術において既知であり,特に材料特性を評価する手法として国際的に確立されている。これにより,例えばポリマ,製薬材料,繊維,金属,セラミックス及び他の有機又は無機材料の分析及び評価が可能である。
【0003】
熱分析においては,温度調整手段(例えば電気ヒータ)を使用して検査対象としての試料に制御された温度変化,例えば予め設定可能な温度プログラムに基づく温度変化を生じさせる。その際に試料は,加熱し,冷却し,又は定温に維持することができる。
【0004】
温度プログラムに基づいて可及的に正確な温度変化を生じさせるための前提条件は,試料温度を例えば温度測定センサにより連続的に検出し,かつ,試料温度を表す検出信号又は測定信号を試料温度の制御(例えばPID制御)に利用可能とすることである。
【0005】
更に,試料温度を制御下で変化させる間,試料の他の特性を表す少なくとも1種の更なる信号を連続的に検出し,試料温度の変化と共に記録する。
【0006】
このように,熱分析によれば,試料内に熱的に生じた事象を含めて,温度に依存する試料材料特性の変化を検査し,又は評価することが可能である。
【0007】
ここに,信号の検出(例えば測定)に関して「連続的に」とは,ほぼ連続的に,又は短い時間間隔で周期的に行われる検出も包含する。
【0008】
試料温度を制御下で変化させる間,試料温度に加えて検出される更なる1種以上の信号に応じて,熱分析手法がより詳細に規定されている。この種の特別な熱分析手法も既知であるため,ここに詳述する必要はないが,敢えて例示すれば,示差熱分析(DTA),示差走査熱量測定(DSC)又は動的示差熱量測定(DDK),熱重量測定(TG)又は熱重量分析(TGA),並びに熱機械分析(TMA)が挙げられる。
【0009】
熱的な蒸発及び熱分解効果の評価では,熱重量測定又は同時熱分析(STA)が適用されることが多く,ここに同時熱分析とは,熱重量測定と示差走査熱量測定又は動的示差熱量測定とを組み合わせたものである。他の実施形態においては,試料における質量損失の検出に加えて,例えば試料から放出されるガスの検査を同時に行うことができる。ガス検査には,フーリエ変換赤外分光法(FTIR)や,例えば四極質量分析計を使用する質量分析法(MS)を適用することができる。
【0010】
上述した従来方法は,揮発性試料成分及び分解物を分析可能とするものである。しかしながら,実際の適用においては,熱分析の時間経過に伴って複数又は極めて多数の異なる成分又は分解物が放出され,時間又は温度に応じた可及的に高精度のガス分析を行うべき場合に限界を呈する。
【0011】
この場合に考慮すべき点は,既知のガス分析手段によるガス検査が,その精度にもよるが,熱分析過程のために一般的に設定される時間,又は温度プログラムにおいて一般的に設定される温度変化率(約1 K/min〜50 K/min(K/分))との対比において比較的長時間を要することである。
【0012】
それ故に従来は,熱的に惹起されるガス放出を高精度で検査することができず,特に,異なるガスが同時に放出される場合にガス成分を正確に評価することができなかった。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
上述した背景技術に鑑み,本発明の課題は,冒頭に記載した形式の熱分析装置又は熱分析方法を改善し,分解した揮発性成分及び分解物に対して時間又は温度に応じた高精度の検査を可能とし,本来のガス分析のために各種ガスを分離可能とすることである。
【課題を解決するための手段】
【0014】
この課題は,本発明の請求項1に係る装置,又は請求項10に係る方法によって解決される。従属請求項は,本発明に係る装置の有利な構成に関するものであり,本発明に係る方法に対しても個別的に適用し,又は任意に組み合わせることができる。
【0015】
本発明の基本概念は,試料のための温度調整手段と,放出された各種ガスの検査手段との間に独自の機能接続手段を設けることにある。
【0016】
本発明は,試料温度を変化させる間に,試料の温度調整を検出された信号に基づく制御アルゴリズムに従って制御し,及び/又は,各種ガスの分析を検出された信号に基づく制御アルゴリズムに従う制御下で行うものである。
【0017】
本発明において,ガスが放出される特定の時点又は試料温度は,信号を連続的に検出すことによりリアルタイムで容易に検出可能である。
【0018】
更に,ガスが放出される時点又は温度に関連付けられるガス検査結果を熱分析の間に得るため,放出が検出された時点で例えば温度変化を所定時間に亘って中断し,上記時点における温度下で放出されるガスを検査するために試料温度を一定に維持することができる。
【0019】
代替的又は付加的には,検出された信号を温度調整に関して考慮する他に,放出の検出に際して,試料から放出される所定量のガスをガス検査部に対して比較的急速に,かつ好適には短時間に亘って供給することも可能である。
【0020】
この場合のガス検査は,検出された信号に基づく制御下で行われる。ここに「制御下」とは,基本的には以下のガス検査との関連,即ち,試料の周囲に存在するガスの連続的な検査との関連ではなく,試料のガスをアクティブ制御によりガス分析手段に供給する場合も含めて,ガス分析手段を何らかの形でアクティブ制御して動作させる検査との関連で使用するものである。
【0021】
ガスを供給するための制御は,例えばガス分析手段の上流側に接続された1個以上のバルブ及び/又は「ガスインジェクタ」で構成されるアセンブリ(以下,「バルブ/インジェクタシステム」とも称する。)により行うことができる。
【0022】
特に好適な実施形態において,ガス分析手段はガスクロマトグラフとして構成され,又は各種ガスを分離するためのガスクロマトグラフを上流側に接続した,本来のガス分析用の質量分析計(例えば四極質量分析計)として構成される。
【0023】
本発明の実施形態において,試料を収める試料室は,搬送管を介してガス分析手段に接続されている。ガスが搬送途上において搬送管内で吸着されるのを回避するため,搬送管は加熱可能に構成する。これは,搬送管の始端部又は終端部や,搬送管の途中に配置されることのあるバルブ/又はインジェクタシステムについても同様である。
【0024】
一実施形態において,バルブ/インジェクタシステムは,互いに連携させて制御可能とした複数のバルブで構成されるバルブ手段を含んでいる。このバルブ手段は,所定量のガスを所望の時点でバルブ手段に流入させた後,所望の時間に亘って又は所望の時点で,ガスをバルブ手段の他の箇所からガス分析装置に向けて再放出可能とするものである。これにより,ガス放出の検出に際して所定量のガスを試料室又は搬送管から効果的に採取し,ガス検査部に供給することができる。
【0025】
上述したバルブ手段の代替的又は付加的な手段として,バルブ/インジェクタシステムは,いわゆる(ガス)インジェクタを設けた構成としてもよい。このインジェクタは,例えばガスクロマトグラフの流入要素として知られている。本発明に有利に適用可能なバルブ手段及びインジェクタは,例えばドイツ国所在のJAS社(joint analytical systems社)により市販されている。
【0026】
温度調整手段及び/又はガス分析手段を制御するための制御アルゴリズムを実行する場合には相応の電子システム,特にソフトウェアに基づくシステム,例えばプログラム制御された制御システム(マイクロコントローラ等を含む)を使用することができる。このような制御システム又は制御装置には,検出手段によって連続的に検出される信号を,そして好適には実際の試料温度を表す信号も供給することができる。これにより,検出された信号に基づいて作動するソフトウェアとして構成される制御アルゴリズムに従って,温度調整手段又はガス分析手段の制御にとって適切な制御信号を生成(算出)する。
【0027】
この場合に使用される制御システムは,試料の温度調整を行うための温度制御手段を兼用する構成とするか,又は温度制御手段と構造的に統合することができる。更に,制御手段は,特にソフトウェアに基づく構成とした実施形態の場合,ガス分析手段から供給される検査結果(及び検査結果と分解温度との相関関係)の評価に使用することも可能である。
【0028】
本発明の一実施形態において,制御アルゴリズムは,検出手段からの検出信号を,変化率の連続的算出のために事前処理するものとする。
【0029】
本発明の一実施形態において,上記の検出信号は試料質量を表す信号(質量信号)である。この場合,質量信号からその経時的変化率を算出すれば,経時的な質量変化率を得ることができる。試料温度を制御下で変化させる間,質量変化率の観測により,蒸発過程及び分解過程の如何を問わず,試料からガスが放出される時点又は温度を容易に特定することができる。このような過程の開始は,(負の)質量変化率の絶対値が大幅に増加することから確認可能である。
【0030】
従って,温度調整手段及び/又はガス分析手段を作動させるための制御を,例えば質量変化率の絶対値が特定閾値の超過する際に実行させることが可能であり,その閾値は例えば使用者によって予め設定される。
【0031】
基本的に,本発明で使用される制御アルゴリズムにおける少なくとも1つの制御パラメータを,使用者が予め設定可能とするのが有利である。ここに「制御パラメータ」とは,制御アルゴリズムに入力される信号の入力値を意味する。この入力値は,制御アルゴリズムによる制御(特に,温度調整手段及び/又はガス分析手段の制御)に影響すると共に,遅くとも試料温度を制御下で変化させる段階までに設定するものである。このような制御パラメータは,熱分析過程の間は不変とすることができる。
【0032】
制御アルゴリズムは,例えば,好適には予め設定可能な制御パラメータに基づいている。このような制御パラメータには,連続的又は周期的な試料温度測定の時間間隔,連続的又は周期的な信号検出の時間間隔,温度プログラムに従う温度勾配が線形的な場合における試料温度の予測変化率が含まれる。
【0033】
本発明の一実施形態において,制御アルゴリズムは,検出された信号及び/又は検出信号から算出された変化率により所定の数理的基準が満たされたときに温度調整手段又はガス分析手段の制御を行うものとする。
【0034】
このような基準も,制御アルゴリズムにおける1つ以上の制御パラメータに基づいている。この基準が,算出された変化率(例えば質量変化率)が特定閾値を超過するか否かであれば,この閾値を,好適には,他の制御パラメータ同様に使用者が予め設定できる制御パラメータと見なすことができる。
【0035】
各制御は,試料温度を制御下で変化させる間に所定の基準が満たされたときに行われ,制御を行わない場合と対比して温度調整手段及び/又はガス分析手段の動作に何らかの変化を生じさせる。
【0036】
本発明の一実施形態において,制御は,温度調整手段による試料温度変化率の変更,及び/又はガス分析手段の作動開始を含む。
【0037】
例えば,予め設定された温度プログラムにより試料温度又はその変化率が経時的に単調増加する場合に制御を行えば,その時点を基点として試料温度に初期設定値から逸脱する変化率が生じ,好適には初期設定値に比べて変化率が大幅に減少し,より好適には変化率がゼロとなり,試料温度が一定に維持される。
【0038】
制御の実行に伴う温度調整の完了については,特に二つの基準がある。
【0039】
即ち,一方では,例えば試料温度を一定に維持するための温度調整を,所定時間の経過後に完了させることができる。この所定時間は,例えば予め設定可能なパラメータとすることができる。その後,予め設定された温度プログラムを,制御により中断された温度から再開させることができる。
【0040】
温度プログラムを中断させる時間は,例えば,ガス分析手段が所定量のガスを検査するために通常必要とする時間に対応させることが可能である。この所定量のガスは,制御を実行した後にガス分析手段まで搬送することができる。
【0041】
他方では,温度調整は,放出されたガスをガス分析手段により検査した時点で完了させることができる。これは,例えばガス分析手段又はガス分析手段に接続された評価手段からの応答に基づいて実行可能である。
【0042】
温度調整手段の動作を変更する代わりに,又は付加的に,制御によりガス分析手段の動作を変更することもできる。好適な実施形態において,例えば,制御を行う際に所定量のガスを試料の周囲からガス検査部に供給することが可能である。これは,例えば上述したバルブ/インジェクタシステムを適切に制御することにより実現するものである。このようなバルブ/インジェクタシステムの制御は,ガス分析手段の作動開始を意味する。
【0043】
本発明の一実施形態において,制御アルゴリズムは,時間に応じて試料温度の予定された変化を生じさせる所定の温度プログラムとして実現され,この温度プログラムは,検出された信号及び/又は該信号から算出された変化率が所定の基準を満たした時点で一時的に中断する。
【0044】
他の実施形態においては,温度変化が中断している間にガス分析手段を動作させ,ガス分析手段によるガス検査の完了後に制御アルゴリズムに基づいて温度変化を再開させる。
【0045】
本発明の一実施形態において,熱分析装置は更に評価手段を備え,この評価手段は,試料温度の制御下での変化が完了した後に,試料温度の測定結果及びガス検査結果に基づいて評価結果を提供する。この評価結果は,熱分解又は熱蒸発が生じる温度を示すと共に,好適にはその温度を対応するガス検査結果に関連付けた状態で示すものである。これにより,例えば時間又は温度に応じて分解した熱分解物を有利に分析することが可能である。また,評価手段が全自動で動作する際に分解温度とガス分析結果との直接的な相関関係を求めることができる。
【0046】
本発明に係る熱分析装置又は熱分析方法は,各種物質の特性,特に工業材料の特性を評価するために有利に使用可能である。更に,既知の方法と対比して分析結果の正確性又は精度を大幅に向上することができる。
【0047】
以下,本発明を図示の実施形態に基づいて更に詳述する。
【図面の簡単な説明】
【0048】
図1】本発明に係る熱分析装置の一実施形態を示す説明図である。
図2図1の装置による熱分析により得られる異なる信号値の経時的変化を例示するグラフである。
図3図2の質量分析で記録した総信号につき,熱分析過程の特定段階における経時的変化を示すグラフである。
図4図3に従って測定した質量分析の特定段階における変化につき,質量スペクトルを示すグラフ(上側)と,これに対応する比較用の基準スペクトルを示すグラフ(下側)である。
【発明を実施するための形態】
【0049】
図1は,熱重量測定セル12を備える熱分析装置10を示す。熱重量測定セル12内には試料室14が形成されており,試料16は試料ホルダ18上に配置されるものである。
【0050】
試料室14内に更に配置されている電気炉20(例えば小型オーブン)は,炉の動作を制御する制御ユニットST及び試料温度Tを測定するセンサ(図示せず)と共に,熱分析過程における試料温度Tを一定の制御下で変化させるように制御可能とした温度調整手段を構成している。
【0051】
図示の実施形態における制御ユニットSTは,プロセッサ制御装置として構成し,このプロセッサ制御装置においては,ソフトウェアとして構成した適切な制御アルゴリズムが実行される。この場合に制御アルゴリズムは,とりわけ試料温度Tの制御下での変化,例えば試料16の制御加熱を,経時的に一定の加熱率で実行するものである。そのために,制御ユニットSTは,制御信号S1を発信することで電気炉20の熱量を制御し,これにより,連続的に測定される実際の試料温度Tを考慮しながら,試料16にとって最適な加熱率を調整する。
【0052】
熱分析過程における試料温度Tが変化する間,試料16の各種特性の特徴を表す信号を検出し,かつ記録することができる。
【0053】
図示の実施形態においては,例えば試料16の質量が連続的に測定されているため,試料ホルダ18は秤(図示せず)に連結され,又は秤を含んでいる。実際の試料質量を表す質量記号TGは,秤から制御ユニットSTに伝達される。
【0054】
熱分析装置10に関する以上の構成要素は,既知の熱重量測定装置を構成する。この熱分析装置10により,試料質量TGの変化を,時間又は温度に応じて試料が分解した状態で測定し,かつ記録することができる。
【0055】
図2は,図1に示す熱分析装置10を使用して,特定のゴム化合物に関する熱重量検査の過程を例示する。図2において破線は試料温度Tの変化を,また実線は試料質量TGの変化を示し,何れも時間tとの関連で表されている。
【0056】
図2に示すように,試料16の加熱に伴い,その質量TGが減少している。これは,図示例では熱的に惹起された分解過程に起因する。
【0057】
後述する手法により,熱分析装置10を使用する熱分析が極めて正確に実施可能である。なぜなら,個別的な分解温度又は質量損失段階と,その分解で放出される揮発性物質(各種ガス)の組成との直接的な相関関係が明らかになるからである。
【0058】
この目的のため,熱分析装置10は,図示の実施形態において,四極質量分析計が後続接続されたガスクロマトグラフGCとして構成したガス分析手段26を更に備えると共に,加熱可能な搬送管32,制御可能なバルブ装置28及び制御可能なインジェクタシステム30を介して熱重量セル12に接続されている。
【0059】
この場合に搬送管32は,アダプタ34を介して熱重量測定セル12に接続されている。アダプタ34領域にはバイパス管36が接続され,バイパス管36により,搬送管32と,後続接続要素28,30及び26とをヘリウム洗浄することができる。
【0060】
バルブ装置28は,インジェクタシステム30と共に,制御ユニットSTにより制御可能なバルブ/インジェクタシステムをガス分析手段26用に構成しており,バイパス管36を介して流入するヘリウム(又は他の不活性ガス)を搬送ガスとして機能させることによってガス分析手段26に更なる各種ガスを供給可能とされている。
【0061】
制御可能なバルブ装置28は6個のバルブポートを有し,図1に6個の点として表されている。これらポートは,切り替え状態に応じて,個別バルブ(図示せず)を介して互いに異なる態様で接続可能である。図2に示すように,バルブポートの1個は,搬送管32の終端部に直接接続されている。他の1個のバルブポートは,真空ポンプ(図示せず)に対して常時接続されている(矢印38は,この接続箇所における吸引を表している)。更に他の1個のバルブポートは,バルブ40を介して搬送ガス供給ポートに接続されている(矢印42は,この箇所における搬送ガス供給を表す)。この場合の搬送ガス,例えばヘリウムは所定の圧力(数bar)でバルブ40に供給される。更に他の1個のバルブポートは,インジェクタシステム30の入口に接続されている。
【0062】
バルブ装置28は,制御ユニットSTにおいて実行される制御アルゴリズムにより,送信された制御信号に基づいて2つの切り替え状態の一方に制御される。
【0063】
第1切り替え状態において,各バルブポートは,図2に示すバルブポート間の実線で表すよう互いに接続されており,また搬送ガス供給バルブ40は開弁した状態にある。この第1切り替え状態では,試料室14から搬送されるガスの検査は行われず,基本的に不活性ガス(ヘリウム)による洗浄が行われる。バイパス管36を介して供給されたヘリウムは,搬送管32内を流通した後にバルブ装置28内を吸引ポート(矢印38を参照)に向けて流れる。更に,ヘリウムは,開弁したバルブ40を介しても供給され,バルブ装置28からインジェクタシステム30に流れる。
【0064】
試料16の熱分析過程に際して,ガス放出が検出された場合,制御ユニットSTによる制御が行われ,制御信号S2に基づいてバルブ装置28が第2切り替え状態に切り替わる。
【0065】
バルブ装置28の第2切り替え状態において,各バルブポートは,図2におけるバルブポート間の破線で表すように互いに接続されている。第2切り替え状態では,バルブ装置28領域に貯蔵されたガス試料,即ち,予め試料室14から搬送管32を介してバルブ装置28内に供給されたガス試料がインジェクタシステム30に供給される。このガス試料の供給は,第1切り替え状態の段階で,ヘリウムが搬送管32内を流れることによって行われる。バルブ装置28が第1切り替え状態から第2切り替え状態に切り替わった後,試料16からの一定量のガスがバルブ装置28のガス試料貯蔵部43内に捕集され,インジェクタシステム30に供給するために貯蔵される。この第2切り替え状態において,搬送ガス供給バルブ40は閉弁状態にある。
【0066】
次いで,インジェクタシステム30を使用する既知の手法により,ガス試料をガスクロマトグラフGCにおけるキャピラリ(分離管)44に供給する。その後,これら個々のガス又はガス成分は,一定の時差(滞留時間)を置いて質量分析計MSに到達する。インジェクタシステム30は,ガス試料のキャピラリへの供給に際して,制御ユニットSTによる制御信号S3に基づいて制御され,ガス試料をキャピラリ44に導入する。
【0067】
熱分析の間にガス分析手段26で実施したガス検査結果,即ち滞留時間に応じた1種以上の質量スペクトルは,制御ユニットST領域における利用可能又は記録された情報,即ち試料温度T及び検出された他の信号の変化に関する情報と共に,評価手段Aに集約した後,少なくとも部分的に自動評価する。
【0068】
上述したように,本発明に係る熱分析装置10の構成的特徴は,制御可能なガス分析手段28,30,26を,搬送管32を介して熱分析手段(熱重量測定セル12)に直接的に接続した状態で使用する点にある。
【0069】
装置10は,制御ユニットSTの構成又はこれにより実行される熱分析過程との関連において,更なる特徴を備えている。即ち,試料温度Tを制御下で変化させる間に制御を行う場合,以下に詳述する独自の制御/動作変更に基づいて試料温度を調整することである。
【0070】
制御ユニットST内で実行される制御アルゴリズムは,熱天秤からの質量信号TGに対して事前処理を施すものである。この事前処理により,質量信号TGから試料質量の経時的変化率DTGが連続的に(即ちリアルタイムで,例えば周期的又は小さな時間間隔で)算出される。この質量変化信号DTGも,図2に示されている。
【0071】
質量変化信号DTGの値は,熱分析に亘って測定される。質量変化信号DTGの値が所定の基準を満たしたとき,即ち,質量変化信号DTGの絶対値が予め設定した閾値(5 %/min(%/分))を超過したときに制御を行うことにより,図示例では一定の加熱率(通常は20 K/min(K/min))を示す試料温度Tの上昇が自動的に中断すると共に,バルブ装置28及びインジェクタシステム30を制御して上述したガス分析手段26によるガス検査を行うものである。
【0072】
換言すれば,装置10においては,試料16の温度調整のみならず試料16から放出されたガス検査も,熱重量測定によって検出された質量信号TG(処理後に質量変化信号DTGに変換される)を考慮する制御アルゴリズムに従って制御される。
【0073】
図2に例示的に示す熱分析過程においては,上述したような制御が,時間t = 17.3 min(分)が経過し,試料温度Tが368°Cに達した時に初めて行われる。この場合に質量変化信号DTGの閾値(-5 %/min)は,制御パラメータとして使用者が予め設定したものである。
【0074】
図2に示すように,上記の時間t = 17.3 minから所定時間(図示例では15分間)に亘って試料16の加熱が中断され,試料16から放出される分解ガスが短時間に亘ってバルブ装置28に流入するか,又は質量分析計MSがバルブ/インジェクタシステム28,30を介して後続接続されたガスクロマトグラフGCに供給される。滞留時間に応じた質量スペクトルの測定は,自動的に始まる。
【0075】
この場合に使用される制御アルゴリズムは,上述したように,時間に応じて試料温度Tの一定の変化を生じさせる所定の温度プログラムで構成されており,この温度プログラムは,制御が行われる度に一時的に中断するものである。試料温度Tの変化を中断させる間,ガス分析手段26を,制御が行われた時点で供給されたガス試料を分析するために動作させる。
【0076】
ガス分析手段26の動作終了後,温度変化を自動的に再開させる。図2の実施形態において,温度変化は時間t ≒ 32.5 minで再開させる。この時点から,20 K/minの加熱率を得るための電気炉20の「通常動作」が再開される。
【0077】
その後,図示の実施形態では時点t = 36.2 min及び温度441°Cで制御が再開される。この制御により,時間t = 17.3 minについて上述した場合と同様の制御を行う。即ち,時点t = 36.2 minにおいてもガス分析手段26によるガス検査が始まると共に試料16の加熱が中断する。この測定の完了後,熱重量測定セル12に関する温度プログラムが再開される。図示の実施形態において,電気炉20の通常動作は時点t = 51.0 minで再開される。
【0078】
図2に示すように,この実施形態においては,時点t = 74.5 minにおいて試料温度Tが予め設定された最終値(本例では約925°C)に達し,従って熱重量測定が完了するまで制御が再開されることはない。
【0079】
本発明に係る熱分析装置10は,一方では熱重量測定を実施するための独自の機能接続により,他方ではガスクロマトグラフィのための独自の制御,又は質量分析計が後続接続されたガスクロマトグラフのための独自の制御により,有利には,使用者による操作を必要とすることなく,ガス分析結果を特定の温度段階に直接関連付けることが可能となる。図示の実施形態においては,評価ユニットAにより,温度T = 368°C〜441°Cにおけるガス検査結果が,対応する温度段階に関連付けられる。これにより,使用者は極めて正確な検査結果を得ることができる。
【0080】
本例において368°Cの放出温度で得られたガス検査結果を明示するため,図3は,質量分析計MSによる総信号を示す。この総信号は,時点t = 17.3 minで始まるガス検査段階の全体に亘って得られたものである。
【0081】
図3は,質量分析計MSによる総イオン電流,即ち質量計測計MSが検出した計測率(存在量)を,測定段階(t = 17.3 min)からの経過時間tretに応じて表すものである。この経過時間tretは,ガスクロマトグラフィによって,質量分析計MSがガス成分を実際に検出する滞留時間に対応する。
【0082】
図3に示すように,質量分析計による総信号における信号ピークは,分解が始まる温度T = 368°Cにおいて試料16から放出されるガスが多数の成分を含んでいることを明示するものである。
【0083】
これらのガス成分を正確に特定するため,全滞留時間(本例では約5分間)に亘って,時間に応じた質量スペクトルを検出した後に評価ユニットAに供給する。
【0084】
図4の上側は,質量分析計MSにより得られた図3の総信号のうち,1.26分の滞留時間にあるピークに関連するガス成分を,質量分析計で測定した質量スペクトルの中で例示的に示す。評価ユニットAにより,半自動的又は全自動的に,上述した質量スペクトルを既知の質量スペクトル(基準スペクトル)と比較することにより,関連するガス成分を特定することができる。図示の実施形態において,上記ガス成分は2-メチル-1,3-ブタジエン(イソプレン)であることが特定された(図4の下側に示す基準スペクトルを参照)。
【符号の説明】
【0085】
10 熱分析装置
12 熱重量測定セル
14 試料室
16 試料
18 試料ホルダ
20 炉
26 ガス分析手段
GC ガスクロマトグラフ
MS 質量分析計
28 バルブ装置
30 インジェクタ
32 搬送管
34 アダプタ
36 バイパス管
38 吸引
40 バルブ
42 ガス試料貯蔵部
44 キャピラリ
t 時間
tret 滞留時間
T 試料温度
TG 試料質量
DTG 質量変化率
図1
図2
図3
図4