【課題を解決するための手段】
【0014】
この課題は,本発明の請求項1に係る装置,又は請求項10に係る方法によって解決される。従属請求項は,本発明に係る装置の有利な構成に関するものであり,本発明に係る方法に対しても個別的に適用し,又は任意に組み合わせることができる。
【0015】
本発明の基本概念は,試料のための温度調整手段と,放出された各種ガスの検査手段との間に独自の機能接続手段を設けることにある。
【0016】
本発明は,試料温度を変化させる間に,試料の温度調整を検出された信号に基づく制御アルゴリズムに従って制御し,及び/又は,各種ガスの分析を検出された信号に基づく制御アルゴリズムに従う制御下で行うものである。
【0017】
本発明において,ガスが放出される特定の時点又は試料温度は,信号を連続的に検出すことによりリアルタイムで容易に検出可能である。
【0018】
更に,ガスが放出される時点又は温度に関連付けられるガス検査結果を熱分析の間に得るため,放出が検出された時点で例えば温度変化を所定時間に亘って中断し,上記時点における温度下で放出されるガスを検査するために試料温度を一定に維持することができる。
【0019】
代替的又は付加的には,検出された信号を温度調整に関して考慮する他に,放出の検出に際して,試料から放出される所定量のガスをガス検査部に対して比較的急速に,かつ好適には短時間に亘って供給することも可能である。
【0020】
この場合のガス検査は,検出された信号に基づく制御下で行われる。ここに「制御下」とは,基本的には以下のガス検査との関連,即ち,試料の周囲に存在するガスの連続的な検査との関連ではなく,試料のガスをアクティブ制御によりガス分析手段に供給する場合も含めて,ガス分析手段を何らかの形でアクティブ制御して動作させる検査との関連で使用するものである。
【0021】
ガスを供給するための制御は,例えばガス分析手段の上流側に接続された1個以上のバルブ及び/又は「ガスインジェクタ」で構成されるアセンブリ(以下,「バルブ/インジェクタシステム」とも称する。)により行うことができる。
【0022】
特に好適な実施形態において,ガス分析手段はガスクロマトグラフとして構成され,又は各種ガスを分離するためのガスクロマトグラフを上流側に接続した,本来のガス分析用の質量分析計(例えば四極質量分析計)として構成される。
【0023】
本発明の実施形態において,試料を収める試料室は,搬送管を介してガス分析手段に接続されている。ガスが搬送途上において搬送管内で吸着されるのを回避するため,搬送管は加熱可能に構成する。これは,搬送管の始端部又は終端部や,搬送管の途中に配置されることのあるバルブ/又はインジェクタシステムについても同様である。
【0024】
一実施形態において,バルブ/インジェクタシステムは,互いに連携させて制御可能とした複数のバルブで構成されるバルブ手段を含んでいる。このバルブ手段は,所定量のガスを所望の時点でバルブ手段に流入させた後,所望の時間に亘って又は所望の時点で,ガスをバルブ手段の他の箇所からガス分析装置に向けて再放出可能とするものである。これにより,ガス放出の検出に際して所定量のガスを試料室又は搬送管から効果的に採取し,ガス検査部に供給することができる。
【0025】
上述したバルブ手段の代替的又は付加的な手段として,バルブ/インジェクタシステムは,いわゆる(ガス)インジェクタを設けた構成としてもよい。このインジェクタは,例えばガスクロマトグラフの流入要素として知られている。本発明に有利に適用可能なバルブ手段及びインジェクタは,例えばドイツ国所在のJAS社(joint analytical systems社)により市販されている。
【0026】
温度調整手段及び/又はガス分析手段を制御するための制御アルゴリズムを実行する場合には相応の電子システム,特にソフトウェアに基づくシステム,例えばプログラム制御された制御システム(マイクロコントローラ等を含む)を使用することができる。このような制御システム又は制御装置には,検出手段によって連続的に検出される信号を,そして好適には実際の試料温度を表す信号も供給することができる。これにより,検出された信号に基づいて作動するソフトウェアとして構成される制御アルゴリズムに従って,温度調整手段又はガス分析手段の制御にとって適切な制御信号を生成(算出)する。
【0027】
この場合に使用される制御システムは,試料の温度調整を行うための温度制御手段を兼用する構成とするか,又は温度制御手段と構造的に統合することができる。更に,制御手段は,特にソフトウェアに基づく構成とした実施形態の場合,ガス分析手段から供給される検査結果(及び検査結果と分解温度との相関関係)の評価に使用することも可能である。
【0028】
本発明の一実施形態において,制御アルゴリズムは,検出手段からの検出信号を,変化率の連続的算出のために事前処理するものとする。
【0029】
本発明の一実施形態において,上記の検出信号は試料質量を表す信号(質量信号)である。この場合,質量信号からその経時的変化率を算出すれば,経時的な質量変化率を得ることができる。試料温度を制御下で変化させる間,質量変化率の観測により,蒸発過程及び分解過程の如何を問わず,試料からガスが放出される時点又は温度を容易に特定することができる。このような過程の開始は,(負の)質量変化率の絶対値が大幅に増加することから確認可能である。
【0030】
従って,温度調整手段及び/又はガス分析手段を作動させるための制御を,例えば質量変化率の絶対値が特定閾値の超過する際に実行させることが可能であり,その閾値は例えば使用者によって予め設定される。
【0031】
基本的に,本発明で使用される制御アルゴリズムにおける少なくとも1つの制御パラメータを,使用者が予め設定可能とするのが有利である。ここに「制御パラメータ」とは,制御アルゴリズムに入力される信号の入力値を意味する。この入力値は,制御アルゴリズムによる制御(特に,温度調整手段及び/又はガス分析手段の制御)に影響すると共に,遅くとも試料温度を制御下で変化させる段階までに設定するものである。このような制御パラメータは,熱分析過程の間は不変とすることができる。
【0032】
制御アルゴリズムは,例えば,好適には予め設定可能な制御パラメータに基づいている。このような制御パラメータには,連続的又は周期的な試料温度測定の時間間隔,連続的又は周期的な信号検出の時間間隔,温度プログラムに従う温度勾配が線形的な場合における試料温度の予測変化率が含まれる。
【0033】
本発明の一実施形態において,制御アルゴリズムは,検出された信号及び/又は検出信号から算出された変化率により所定の数理的基準が満たされたときに温度調整手段又はガス分析手段の制御を行うものとする。
【0034】
このような基準も,制御アルゴリズムにおける1つ以上の制御パラメータに基づいている。この基準が,算出された変化率(例えば質量変化率)が特定閾値を超過するか否かであれば,この閾値を,好適には,他の制御パラメータ同様に使用者が予め設定できる制御パラメータと見なすことができる。
【0035】
各制御は,試料温度を制御下で変化させる間に所定の基準が満たされたときに行われ,制御を行わない場合と対比して温度調整手段及び/又はガス分析手段の動作に何らかの変化を生じさせる。
【0036】
本発明の一実施形態において,制御は,温度調整手段による試料温度変化率の変更,及び/又はガス分析手段の作動開始を含む。
【0037】
例えば,予め設定された温度プログラムにより試料温度又はその変化率が経時的に単調増加する場合に制御を行えば,その時点を基点として試料温度に初期設定値から逸脱する変化率が生じ,好適には初期設定値に比べて変化率が大幅に減少し,より好適には変化率がゼロとなり,試料温度が一定に維持される。
【0038】
制御の実行に伴う温度調整の完了については,特に二つの基準がある。
【0039】
即ち,一方では,例えば試料温度を一定に維持するための温度調整を,所定時間の経過後に完了させることができる。この所定時間は,例えば予め設定可能なパラメータとすることができる。その後,予め設定された温度プログラムを,制御により中断された温度から再開させることができる。
【0040】
温度プログラムを中断させる時間は,例えば,ガス分析手段が所定量のガスを検査するために通常必要とする時間に対応させることが可能である。この所定量のガスは,制御を実行した後にガス分析手段まで搬送することができる。
【0041】
他方では,温度調整は,放出されたガスをガス分析手段により検査した時点で完了させることができる。これは,例えばガス分析手段又はガス分析手段に接続された評価手段からの応答に基づいて実行可能である。
【0042】
温度調整手段の動作を変更する代わりに,又は付加的に,制御によりガス分析手段の動作を変更することもできる。好適な実施形態において,例えば,制御を行う際に所定量のガスを試料の周囲からガス検査部に供給することが可能である。これは,例えば上述したバルブ/インジェクタシステムを適切に制御することにより実現するものである。このようなバルブ/インジェクタシステムの制御は,ガス分析手段の作動開始を意味する。
【0043】
本発明の一実施形態において,制御アルゴリズムは,時間に応じて試料温度の予定された変化を生じさせる所定の温度プログラムとして実現され,この温度プログラムは,検出された信号及び/又は該信号から算出された変化率が所定の基準を満たした時点で一時的に中断する。
【0044】
他の実施形態においては,温度変化が中断している間にガス分析手段を動作させ,ガス分析手段によるガス検査の完了後に制御アルゴリズムに基づいて温度変化を再開させる。
【0045】
本発明の一実施形態において,熱分析装置は更に評価手段を備え,この評価手段は,試料温度の制御下での変化が完了した後に,試料温度の測定結果及びガス検査結果に基づいて評価結果を提供する。この評価結果は,熱分解又は熱蒸発が生じる温度を示すと共に,好適にはその温度を対応するガス検査結果に関連付けた状態で示すものである。これにより,例えば時間又は温度に応じて分解した熱分解物を有利に分析することが可能である。また,評価手段が全自動で動作する際に分解温度とガス分析結果との直接的な相関関係を求めることができる。
【0046】
本発明に係る熱分析装置又は熱分析方法は,各種物質の特性,特に工業材料の特性を評価するために有利に使用可能である。更に,既知の方法と対比して分析結果の正確性又は精度を大幅に向上することができる。
【0047】
以下,本発明を図示の実施形態に基づいて更に詳述する。