特許第5719498号(P5719498)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5719498
(24)【登録日】2015年3月27日
(45)【発行日】2015年5月20日
(54)【発明の名称】脂肪酸合成阻害剤
(51)【国際特許分類】
   A61K 36/18 20060101AFI20150430BHJP
   A61K 31/522 20060101ALI20150430BHJP
   A61P 3/00 20060101ALI20150430BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20150430BHJP
【FI】
   A61K35/78 C
   A61K31/522
   A61P3/00
   A61P43/00 111
【請求項の数】2
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2008-93445(P2008-93445)
(22)【出願日】2008年3月31日
(65)【公開番号】特開2009-242342(P2009-242342A)
(43)【公開日】2009年10月22日
【審査請求日】2011年3月24日
【審判番号】不服2013-20813(P2013-20813/J1)
【審判請求日】2013年10月25日
(73)【特許権者】
【識別番号】504139662
【氏名又は名称】国立大学法人名古屋大学
(73)【特許権者】
【識別番号】312017444
【氏名又は名称】ポッカサッポロフード&ビバレッジ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100105957
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100068755
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 博宣
(72)【発明者】
【氏名】堀尾 文彦
(72)【発明者】
【氏名】山内 理愛
(72)【発明者】
【氏名】小林 美里
(72)【発明者】
【氏名】杉山 峰雄
(72)【発明者】
【氏名】山本 祐子
(72)【発明者】
【氏名】井上 孝司
【合議体】
【審判長】 蔵野 雅昭
【審判官】 増山 淳子
【審判官】 渕野 留香
(56)【参考文献】
【文献】 Park S et al.,Long−term consumption of caffeine improves glucose homeostasis by enhancing insulinotropic action through islet insulin/insulin−like growth factor 1 signaling in diabetic rats.,Metabolism.,2007年 5月,Vol.56 No.5,pp.599−607
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K31/00-33/44
A23L1/27-1/308
A61K38/00-45/08
A61K48/00
A61P1/00-43/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
焙煎されたコーヒー豆熱水抽出物を有効成分として含有することを特徴とする医薬品として適用される脂肪酸合成阻害剤。
【請求項2】
前記脂肪酸合成阻害は、SREBP−1及びFASから選ばれる少なくとも一種のタンパク質の遺伝子の発現抑制であることを特徴とする請求項1に記載の脂肪酸合成阻害剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、コーヒー豆熱水抽出物を有効成分とする脂肪酸合成阻害剤に関する
【背景技術】
【0002】
従来より、糖尿病の中でも多くを占める2型糖尿病(インスリン抵抗性糖尿病又はインスリン非依存型糖尿病)が知られている。2型糖尿病は、インスリンの標的組織(脂肪、肝、骨格筋)でインスリンの作用効率が低下している状態をいう。2型糖尿病の惹起させる原因としては、遺伝的な要因、高脂肪食、内臓脂肪型肥満、サイトカインネットワークの異常、炎症等が関連しているものと考えられているが、詳しいメカニズムはほとんど解明されていない。したがって、2型糖尿病に対する有効な治療法は確立されておらず、その解明による予防薬や治療薬の開発が急務となっている。
【0003】
従来より、特許文献1,2、及び非特許文献1に開示されるように、コーヒー豆の熱水抽出物又はコーヒー豆の熱水抽出物中に含まれているポリフェノール類(例えば、クロロゲン酸)に血糖値を下げる効果を有することが知られている。したがって、コーヒーを定期的に摂取することにより、2型糖尿病の発症リスクを抑えることができると考えられている。
【特許文献1】特開2002−308766号公報
【特許文献2】特開2003−34636号公報
【非特許文献1】栄養学雑誌 Vol.62 No.6 323-327(2004)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、コーヒー抽出物中には、クロロゲン酸をはじめとするポリフェノール類以外に、カフェイン等のアルカロイド、糖類、脂質、及びアミノ酸等の多数の成分が含有されている。コーヒーの摂取による2型糖尿病の発症リスクの低減は、クロロゲン酸以外の成分も関与していると考えられている。
【0005】
本発明者らは、コーヒー抽出物中の成分としてカフェインに着目し、2型糖尿病の発症リスクの低減に関し、より具体的なメカニズムの解明を模索した。その結果、カフェインに脂肪組織炎症抑制作用及び脂肪酸合成阻害作用を有することを見出した。本発明の目的とするところは、脂肪酸合成阻害作用に優れた脂肪酸合成阻害剤を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するために請求項1に記載の発明の脂肪酸合成阻害剤は、焙煎されたコーヒー豆熱水抽出物を有効成分として含有することを特徴とする。請求項2に記載の発明の脂肪酸合成阻害剤は、請求項1に記載の脂肪酸合成阻害剤において、前記脂肪酸合成阻害は、SREBP−1及びFASから選ばれる少なくとも一種のタンパク質の遺伝子の発現抑制であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、脂肪酸合成阻害作用に優れた脂肪酸合成阻害剤を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
(第1の実施形態(以下参考例とする)
以下、本発明の脂肪組織炎症抑制剤を具体化した第1の実施形態を詳細に説明する。
第1の実施形態の脂肪組織炎症抑制剤は、有効成分としてカフェインを含有する。この有効成分であるカフェインによって、脂肪組織(脂肪細胞)の炎症を抑制する作用を発揮する。脂肪組織における炎症は、例えば、2型糖尿病、及びアテローム性動脈硬化症等の炎症性疾患を惹起させる原因の一つとして考えられている。脂肪組織は、脂肪の蓄積によるエネルギーを蓄積する役割を有するのみならず、サイトカイン等の生理活性物質(アディポサイトカイン)を分泌する組織としての役割も担っている。肥満、特に内臓脂肪型肥満に伴って脂肪組織では、脂肪組織自体が慢性的に炎症性変化を起こし、それによりマクロファージの浸潤が増大することが報告されている。例えば、動脈硬化等の血管系炎症においては、マクロファージの浸潤・活性化(泡沫化)が増大し、血管壁再構築が行なわれるが、肥満の脂肪組織も同様な形態的変化が生じているものと考えられている。
【0014】
脂肪組織へマクロファージが浸潤することにより、脂肪細胞及び浸潤したマクロファージから炎症性サイトカインが生成され、さらに炎症性変化を増大するという悪循環が生ずる(脂肪細胞とマクロファージによるパラクリン調節系)。炎症性サイトカインとして、例えばTNF-α(Tumor Necrosis Factor-α:腫瘍壊死因子α)及びMCP-1等が知られている。TNF-αは、炎症時に脂肪細胞が産生する炎症性アディポサイトカインであり、局所(脂肪組織のTNF-α濃度)のみならず、血中のTNF-α濃度を上昇させ、インスリン抵抗性を引き起こす。MCP-1(Monocyte Chemoattractant Protein-1)は、炎症箇所において、主にマクロファージより分泌され、炎症を惹起する。MCP-1は、さらには、動脈硬化症、遅延型アレルギー、関節リウマチ、あるいは肺疾患といった各種炎症性疾患において単球及びT細胞の組織浸潤に関与すると考えられている。以上により、脂肪組織の炎症を抑制することは、2型糖尿病及び各種炎症性疾患の発症又は症状の改善を図るものと期待される。
【0015】
有効成分であるカフェインは、摂取により、脂肪組織における炎症の抑制作用を発揮する。より具体的には、脂肪組織へのマクロファージの浸潤及び炎症性サイトカインの産生を抑制する。カフェインは、2型糖尿病及び各種炎症性疾患の発症又は症状の改善を図ることができるものと期待される。
【0016】
第1の実施形態の有効成分であるカフェインは、メチルテオブロミンとも呼ばれる。カフェインは一水和物であっても無水物であってもいずれでもよい。カフェインの配合形態としては、生合成品、化学合成品、天然素材からの精製品を適用することができる。精製方法としては、公知のクロマトグラフィを用いて実施することができる。また、カフェインを含有する天然素材又はその抽出物を有効成分として配合してもよい。カフェインを含有する天然素材としては、例えば、アラビカ種、カネフォーラ種ロブスタ、コニロン又はリベリカ種、及びそれらの雑種が挙げられる。コーヒー豆は、生豆の状態でもカフェインが含まれるが、嗜好性の観点から焙煎するのが好ましい。例えば、アラビカ種、カネフォーラ種ロブスタ、コニュロン又はリベリカ種、及びそれらの雑種が挙げられる。コーヒー豆は、好ましくは焙煎される。コーヒー豆の焙煎条件は、焙煎度L*値が飲料品や食品に使用される範囲内であることが好ましいが、特に限定されない。茶は、カフェインを含有する種類であれば特に限定されない。例えば、緑茶、紅茶、烏龍茶及び玄米茶が挙げられる。カフェインを含有する天然素材からの抽出物は、蒸気抽出や水(熱水)抽出等の公知の方法に従って抽出されることにより得られる。例えば、茶及びコーヒーの水抽出により得られる抽出物には、水量等にもよるが通常カフェインが0.001〜1%程度含有されている。
【0017】
以上のように、得られた抽出物は、そのまま本実施形態の脂肪組織炎症抑制剤の有効成分(カフェイン)含有素材として利用することが可能である。また、必要に応じて濃縮、乾燥又は水希釈した状態で利用することも可能である。
【0018】
本実施形態の脂肪組織炎症抑制剤は、主に脂肪組織炎症抑制作用を効果・効能とする医薬品、医薬部外品、機能性食品(例えば特定保健用食品)、健康食品、健康飲料、栄養補助食品、動物用医薬品、飼料等に適用することができる。
【0019】
本実施形態の脂肪組織炎症抑制剤を医薬品として使用する場合は、服用(経口摂取)により投与する場合の他、血管内投与、経皮投与等のあらゆる投与方法を採用することが可能である。剤形としては、特に限定されないが、例えば、散剤、粉剤、顆粒剤、錠剤、カプセル剤、丸剤、坐剤、液剤、注射剤等が挙げられる。また、添加剤として賦形剤、基剤、乳化剤、溶剤、安定剤等を配合してもよい。
【0020】
本実施形態の脂肪組織炎症抑制剤を飲食品として使用する場合、種々の食品素材又は飲料品素材に添加することによって、例えば、粉末状、錠剤状、顆粒状、液状(ドリンク剤等)、カプセル状、シロップ、キャンディー等の形状に加工して機能性食品、健康食品製剤、栄養補助食品等として使用することができる。前記飲食品としては、コーヒー豆抽出成分からなるコーヒー飲料、茶抽出成分からなる茶類飲料の他、カフェインを配合したスポーツドリンク、牛乳やヨーグルト等の乳製品、ペクチンやカラギーナン等のゲル化剤含有食品、グルコース、ショ糖、果糖、乳糖やデキストリン等の糖類、香料、ステビア、アスパルテーム、糖アルコール等の甘味料、植物性油脂及び動物性油脂等の油脂等を含有する飲料品や食料品が挙げられる。また、基材、賦形剤、添加剤、副素材、増量剤等を適宜添加してもよい。
この脂肪組織炎症抑制剤を摂取する場合には、成人1日当たり上記有効成分(カフェイン)の配合量として好ましくは0.75〜200mg/kg(体重)、より好ましくは1〜100mg/kg(体重)、最も好ましくは3〜20mg/kg(体重)である。1日当たりの摂取量が0.75mg/kg(体重)未満の場合には前記有効成分による脂肪組織炎症抑制剤を効果的に高めることができないおそれがある。一方、有効成分の摂取量が200mg/kg(体重)を越える場合には不経済であるとともに、それ以上の脂肪組織炎症抑制作用の向上効果は得られない。更に、カフェインの副作用として不眠等の症状が現れる場合があるため200mg/kg(体重)/day以下とすることが好ましい。なお、摂取量の目安は、マウスの体重当たりの一日の摂取カロリーが約60kcal/100g/dayであることから、成人一日あたりの必要な摂取カロリーが2200kcalと比較することで、最適な成人のカフェインの摂取量を、約1/15として算出した。
【0021】
第1の実施形態の脂肪組織炎症抑制剤によれば、以下のような効果を得ることができる。
(1)本実施形態の脂肪組織炎症抑制剤では、カフェインを有効成分として含有する。したがって、摂取により脂肪組織炎症抑制作用を有効に発揮することができる。
【0022】
(2)本実施形態の脂肪組織炎症抑制剤では、有効成分であるカフェインによって、優れた脂肪組織炎症抑制作用を発揮する。したがって、インスリン抵抗性改善剤として脂肪組織の炎症が発症原因の一つとされるインスリン抵抗性糖尿病の治療又は予防に好ましく適用できるものと期待される。
【0023】
(3)本実施形態の脂肪組織炎症抑制剤では、有効成分であるカフェインによって、優れた脂肪組織炎症抑制作用を発揮する。したがって、脂肪組織の炎症が発症原因の一つとされる動脈硬化等の炎症性疾患の治療又は予防に好ましく適用できるものと期待される。
【0024】
(4)また、動脈硬化症は、心筋梗塞、狭心症、及び脳梗塞等の生活習慣病の他、腎不全、閉塞型動脈硬化症等の循環器病の原因とされる症状であるため、本実施形態の脂肪組織炎症抑制剤をそれらの循環器病の改善剤又は予防剤として適用することができるものと期待される。
【0025】
(5)本実施形態において、カフェインを、茶、コーヒー等の天然素材由来のものを使用した場合、安全に生体に適用することができる。
なお、上記実施形態の脂肪組織炎症抑制剤は、次のように変更して具体化することも可能である。
【0026】
・上記実施形態の脂肪組織炎症抑制剤は、脂肪組織へのマクロファージの浸潤及び炎症性サイトカインの産生を抑制する。したがって、カフェインを有効成分とする脂肪組織へのマクロファージの浸潤抑制剤、及び炎症性サイトカインの産生抑制剤として適用してもよい。
【0027】
・上記実施形態の脂肪組織炎症抑制剤は、好ましくは脂肪組織の炎症が関連する各種疾患の治療に適用される。しかしながら、治療の用途のみならず、健常者が脂肪組織の炎症の悪化を予防するための予防剤として摂取してもよい。
【0028】
・上記実施形態の脂肪組織炎症抑制剤は、上述したような脂肪組織との関連性が高い生活習慣病の予防剤及びメタボリック症候群の予防剤として摂取してもよい。
・上記実施形態における脂肪組織炎症抑制剤は、ヒトに適用される飲食品、及び医薬品のみならず、家畜等の飼養動物に対するサプリメント及び栄養補助食品等の飲食品、並びに医薬品として適用してもよい。
【0029】
(第2の実施形態)
以下、本発明の脂肪酸合成阻害剤を具体化した第2の実施形態を詳細に説明する。
第2の実施形態の脂肪酸合成阻害剤は、有効成分としてカフェインを含有する。この有効成分であるカフェインによって、脂肪酸合成に関連するタンパク質の発現を抑制し、脂肪酸の合成を阻害する作用を発揮する。それにより、肝臓トリグリセリド量を減少させるとともに、血中中性脂肪(トリグリセリド)濃度を低下させる。2型糖尿病を惹起させる原因の一つとして、上述したように高脂肪食及び内臓脂肪型肥満等の脂肪の蓄積が関連しているものと考えられている。より具体的には、高トリグリセリド(中性脂肪)血症、高脂肪酸血症、及び中性脂肪や脂肪酸の肝臓への蓄積等がインスリン抵抗性の原因と考えられている。本実施形態の有効成分であるカフェインによって、脂肪酸の合成が阻害されるため、高トリグリセリド血症、高脂肪酸血症、及び中性脂肪や脂肪酸の肝臓への蓄積が抑制される。それにより、インスリン抵抗性の改善が図れるものと期待される。
【0030】
カフェインによる脂肪酸合成阻害作用としては、より具体的には、例えば肝臓での脂肪酸生合成に関連する酵素や受容体の遺伝子群の発現調節を行なう核内転写因子SREBP−1及び脂肪酸合成酵素(FAS)の遺伝子群の発現抑制が挙げられる。
【0031】
カフェインは、第1の実施形態の有効成分であるカフェインが挙げられる。つまり、生合成品、化学合成品、天然素材からの精製品、及びカフェインを含有する天然素材自体又はその抽出物が挙げられるこれらの中で、コーヒー豆熱水抽出物が用いられる。
本実施形態のカフェインを有効成分として配合する脂肪酸合成阻害剤は、第1の実施形態と同様に主に脂肪酸合成阻害作用を効果・効能とする医薬品、医薬部外品、動物用医薬品等に適用することができる。また、カフェインの配合量も第1の実施形態と同様に、成人1日当たり上記有効成分(カフェイン)の配合量として好ましくは0.75〜200mg/kg(体重)、より好ましくは1〜100mg/kg(体重)、最も好ましくは3〜20mg/kg(体重)である。1日当たりの摂取量が0.75mg/kg(体重)未満の場合には前記有効成分による脂肪酸合成阻害剤を効果的に高めることができないおそれがある。一方、有効成分の摂取量が200mg/kg(体重)を越える場合には不経済であるとともに、それ以上の脂肪酸合成阻害作用の向上効果は得られない。更に、カフェインの副作用として不眠等の症状が現れる場合があるため200mg/kg(体重)/day以下とすることが好ましい。
【0032】
第2の実施形態の脂肪酸合成阻害作用によれば、以下のような効果を得ることができる。
(1)本実施形態の脂肪酸合成阻害剤では、カフェインを有効成分として含有する。したがって、摂取により脂肪酸合成阻害作用を有効に発揮することができる。
【0033】
(2)本実施形態の脂肪酸合成阻害剤では、有効成分であるカフェインによって、優れた脂肪酸合成阻害作用を発揮する。したがって、インスリン抵抗性改善剤として脂肪酸の蓄積が発症原因の一つとされるインスリン抵抗性糖尿病の治療又は予防に好ましく適用できるものと期待される。
【0034】
(3)本実施形態の脂肪酸合成阻害剤では、有効成分であるカフェインによって、優れた脂肪酸合成阻害作用を発揮する。したがって、脂肪酸の合成に関し、体脂肪の増加に関連する生活習慣病(成人病)の予防又は治療に適用できるものと期待される。
【0035】
なお、上記実施形態の脂肪酸合成阻害剤は、次のように変更して具体化することも可能である。
・上記実施形態の脂肪酸合成阻害剤は、核内転写因子SREBP−1及び脂肪酸合成酵素(FAS)の遺伝子群の発現を抑制する。したがって、カフェインを有効成分とする核内転写因子SREBP−1発現抑制剤、及び脂肪酸合成酵素(FAS)の発現抑制剤として適用してもよい。
【0036】
・上記実施形態の脂肪酸合成阻害剤は、第1の実施形態と同様に健常者が脂肪酸の蓄積に関連する疾患を予防するための予防剤として摂取してもよい。
・上記実施形態の脂肪酸合成阻害剤は、脂肪酸合成との関連性が高い生活習慣病の予防剤及びメタボリック症候群の予防剤として摂取してもよい。
【0037】
・上記実施形態の脂肪酸合成阻害剤は、第1の実施形態と同様にヒト以外の動物に投与してもよい。
【実施例】
【0038】
以下、試験例を挙げて前記実施形態をさらに具体的に説明する。
(カフェイン入り飲料の調製及び摂取)
実施例1のカフェイン入り飲料として無糖ブラックコーヒーを以下の通り調製した。アラビカ種生豆を遠赤外線焙煎機にて焙煎した(L*値=24)。焙煎豆3.0kgを用い、熱湯でコーヒー豆に対してよく比7.5倍程度(コーヒー抽出液22.5kg)まで抽出を行い(抽出率25%)、焙煎豆量が50g/Lとなるよう抽出液を計量し、重曹0.6g/Lを混合した。
【0039】
このように調製した無糖ブラックコーヒーの調合液を缶に充填し、レトルト殺菌機にて殺菌を実施した(F0=5)。この殺菌後の溶液のカフェイン含有量は630ppmであった。これを蒸留水にて2倍希釈しカフェイン含有量を315mgとし、カフェイン入りコーヒー飲料とした。
【0040】
実施例2として無水カフェイン(シグマアルドリッチジャパン社製)を蒸留水にて、150ppmとなるように溶解させてカフェイン水溶液を調製した。尚、以下、実施例2は、参考例2とする。
実施例3として無水カフェイン(シグマアルドリッチジャパン社製)を蒸留水にて、250ppmとなるように溶解させてカフェイン水溶液を調製した。尚、以下、実施例3は、参考例3とする。
【0041】
尚、各実施例の対照(コントロール)として蒸留水を使用した。
4週齢(雄)のKKAyマウスを用いて、飼料として市販固形飼料(日本クレア社製、CE−2)を自由摂取させ、飲水として、上記実施例1のカフェイン入りコーヒー飲料又は実施例2及び実施例3のカフェイン水溶液を自由摂取させた。体重及び血糖値を1週間ごとに測定し、実施例1は、4週間後に、実施例2,3は5週間後に屠殺した。そして、血清、肝臓、精巣上体脂肪組織を分析に供した。体重の変化を示すグラフを図1,3に示す。尚、図1,3から、本実施例のカフェインを摂取することにより体重に及ぼす影響はほとんどないことが明らかとなった。
【0042】
(血糖値、血清の実験材料及び方法)
マウスより採取した血液は、5000rpm、4℃で10分間遠心分離(NRX-1000、トミー精工社製)して血清を得た。血清は血糖値の測定に供した。血糖値は、ムタロターゼ・グルコースオキシダーゼ法に基づく市販のキット(グルコースCIIテストワコー、和光純薬工業社製)を用いて、血清中のグルコース濃度を測定した。値は全て平均±標準誤差で表した。血糖値の変化を示すグラフを図2,4に示す。
【0043】
(肝臓、精巣上体脂肪組織の実験材料及び評価方法)
(Total RNAの抽出)
TRIzol Reagent(Invitrogen社製)1.0mLの入ったチューブに、上記で得た肝臓100mgまたは精巣上体脂肪組織200mgを加え、ホモゲナイズした。その後、クロロホルム200μL加えて15秒間撹拌混合し、11110rpm、4℃で15分間遠心分離した。得られた上層を別のチューブに移し、イソプロピルアルコール500μL加えて転倒混和し、室温で15分間放置し、11110rpm、4℃で10分間遠心分離した。上清を取り除いた沈殿に75%エタノール1.0mLを加え、ボルテックスミキサーにて撹拌した後、8780rpm、4℃で5分間遠心分離する。上清を取り除き、約10分間乾燥させ、DEPC水(肝臓:130μL、精巣上体脂肪:30μL)を加えたものをtotal RNA溶液とした。
【0044】
(DNase処理)
各組織から得たtotalRNA溶液のDNase処理には、市販のキット(TURBO DNase Treatment and Removal Reagents、Ambion社製)を用いた。RNA溶液25μL中に核酸5μg含むようにDEPC水で調節したものをチューブに加え、10×TURBO DNase Buffer 2.5μLおよびTURBO DNase 0.5μLを加えてタッピングにより撹拌し、37℃のウォーターバスにて30分間反応させた。その後、DNase Inactivation Reagent 2.5μL加えてボルテックスミキサーにて撹拌しながら2分間反応させ、10140rpm、4℃で2分間遠心分離し、得られた上清を新しいチューブに移し、これをDNA-free RNA溶液とした。
【0045】
(cDNA合成)
DNase処理を行ったRNA溶液(DNA-free RNA溶液)のcDNA合成には、市販のキット(High Capacity cDNA Reverse Transcription Kit、Biosystems社製)を用いた。下記表1の試薬10μLをPCR用チューブに加え、DNase処理した溶液の濃度が一番低い試料に濃度を合わせ、Nuclease-free H2Oにて調節した溶液10μLを加えた。タッピングにより混合し、25℃10分、37℃120分、及び85℃5秒の条件で逆転写反応(GeneAmp PCR System 9700、Biosystems社製)を行い、cDNA溶液を得た。
【0046】
【表1】
(Real-time PCR反応)
1試料当たりの量が表2に示されるように各試薬をチューブに加え、タッピングにて混合し、PCR用96穴プレートに24μLずつ分注した。そこに、上記cDNA溶液を1μLずつ入れ、タッピングにて混合し、50℃2分、95℃10分、95℃9秒×50サイクル、及び60℃1分の条件でPCR反応(7300 Real-time PCR System、Biosystems社製)を行った。標準曲線は、発現が最も高いことが予想されるサンプルのcDNAを段階希釈(1、4、16、64、256倍希釈)した時の値を用いて作成した。なお、PCR反応においては、マウス用のTaqmanプローブの中のDNA用のプライマーとして、CPT-1、PPAR-α、SREBP-1、FAS、MCP-1、F4/80、TNF-α、を用いた。
【0047】
上記に示すそれぞれの物質の機能としては以下の通りである。CPT-1は、脂肪酸のβ酸化に関連するタンパク質である。核内転写因子PPAR-αは、脂肪酸酸化関連遺伝子の発現調節を行うことが知られている。核内転写因子SREBP-1は、肝臓での脂肪酸生合成に関連する酵素や受容体の遺伝子群の発現調節を行なうことが知られている。FASは、脂肪酸の合成に関連するタンパク質である。MCP-1は、単球走化活性因子とも呼ばれ、炎症を惹起する作用を有するケモカインであり、主としてマクロファージから産生される。F4/80は、マクロファージにのみ発現するマクロファージマーカーである。TNF-αは、炎症性アディポサイトカインの一つである。
【0048】
各遺伝子発現量の値は、内在性コントロール遺伝子として用いた18S rRNAの値で割り、さらにコントロールの平均値を1とした時の相対比で表し、全て平均±標準誤差で表した。数値が大きいほど遺伝子発現量が多くなることを示し、遺伝子発現量はその物質の含量に比例する。結果を表3,4に示す。なお、カフェイン入りコーヒー飲料を摂取させた群をコーヒー群と記した。
【0049】
【表2】
【0050】
【表3】
【0051】
【表4】
表3に示されるように、脂肪酸の酸化に関連するタンパク質の遺伝子CPT-1及びPPAR-αは実施例1〜3において何れも変化がなかった。一方、脂肪酸の合成に関連するタンパク質の遺伝子SREBP-1及びFASのmRNAレベルは、実施例1〜3において低下傾向が見られた。以上により、カフェインにより脂肪酸の合成が阻害されることが確認された。カフェインは、脂肪酸の合成を阻害することにより生体における脂肪の蓄積を防止することができるものと思料される。
【0052】
表4に示されるように、脂肪組織の炎症に関連するMCP-1、F4/80、及びTNF-αが減少することが確認された。以上により、カフェインは脂肪組織の炎症を抑制することが確認された。
【0053】
図2,4に示されるように実施例1〜3の血糖値は、コントロールに比べて有意に低下していることが確認された。以上により、カフェインのみによって、脂肪酸の合成を阻害するとともに脂肪組織の炎症を抑制することにより2型糖尿病の発症リスクを抑えることができると思料される。
【図面の簡単な説明】
【0054】
図1】実施例1のカフェイン入りコーヒー飲料を摂取した場合の体重の変化を測定したグラフ。
図2】実施例1のカフェイン入りコーヒー飲料を摂取した場合の血糖値の変化を測定したグラフ。
図3】実施例2,3のカフェイン水溶液を摂取した場合の体重の変化を測定したグラフ。
図4】実施例2,3のカフェイン水溶液を摂取した場合の血糖値の変化を測定したグラフ。
図1
図2
図3
図4