特許第5719511号(P5719511)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5719511
(24)【登録日】2015年3月27日
(45)【発行日】2015年5月20日
(54)【発明の名称】変色性インキ組成物および筆記具
(51)【国際特許分類】
   C09D 11/00 20140101AFI20150430BHJP
   C09D 11/16 20140101ALI20150430BHJP
   C09D 11/30 20140101ALI20150430BHJP
   B43K 8/02 20060101ALI20150430BHJP
   B41M 5/28 20060101ALI20150430BHJP
   B41M 5/30 20060101ALI20150430BHJP
   B41J 2/01 20060101ALI20150430BHJP
【FI】
   C09D11/00
   C09D11/16
   C09D11/30
   B43K8/02 F
   B41M5/18 Z
   B41J2/01 501
【請求項の数】16
【全頁数】21
(21)【出願番号】特願2009-540108(P2009-540108)
(86)(22)【出願日】2008年11月10日
(86)【国際出願番号】JP2008070380
(87)【国際公開番号】WO2009060972
(87)【国際公開日】20090514
【審査請求日】2011年9月12日
(31)【優先権主張番号】特願2007-291837(P2007-291837)
(32)【優先日】2007年11月9日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】390039734
【氏名又は名称】株式会社サクラクレパス
(74)【代理人】
【識別番号】100100158
【弁理士】
【氏名又は名称】鮫島 睦
(74)【代理人】
【識別番号】100068526
【弁理士】
【氏名又は名称】田村 恭生
(74)【代理人】
【識別番号】100107180
【弁理士】
【氏名又は名称】玄番 佐奈恵
(72)【発明者】
【氏名】栗原 徳正
(72)【発明者】
【氏名】井上 浩
【審査官】 桜田 政美
(56)【参考文献】
【文献】 特開2001−279144(JP,A)
【文献】 特開2004−137510(JP,A)
【文献】 特開2005−298746(JP,A)
【文献】 特開2003−268248(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09D 11/00
B41J 2/01
B41M 5/28
B41M 5/30
B43K 8/02
C09D 11/16
C09D 11/30
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
電子供与性呈色性有機化合物と電子受容性化合物とを含むワックス粒子、ワックス状の消色剤、および水を含み、ワックス粒子およびワックス状の消色剤が水中に分散している、熱変色性インキ組成物。
【請求項2】
消色剤が、塩基性化合物である、請求項1に記載の変色性インキ組成物。
【請求項3】
消色剤が、
脂肪族アミン、
脂肪族ジアミン、
アミノアルコール、
分子内にアミノ基を1つ以上含み、アミノ基と芳香環の間にアルキレン基を有する、芳香族化合物、
一般式NH2−C2H4−(NH−C2H4)n−NH2(n≧0)で表される化合物およびその誘導体、
イミダゾールおよびその誘導体、
ならびに一般的にヒンダードアミンと呼ばれる、ピペリジル基およびその誘導体を分子内に持つ化合物から選択される少なくとも1つの化合物である、
請求項2に記載の変色性インキ組成物。
【請求項4】
ワックスが、40℃〜120℃の範囲内にある融点を有する、請求項1に記載の変色性インキ組成物。
【請求項5】
電子受容性化合物が不揮発性である、請求項1に記載の変色性インキ組成物。
【請求項6】
加熱により変色しない着色剤をさらに含む、請求項1に記載の変色性インキ組成物。
【請求項7】
請求項1に記載の変色性インキ組成物を、インキとして用いる、筆記具。
【請求項8】
請求項1に記載の変色性インキ組成物から成る、インクジェットプリンタ用のインキ。
【請求項9】
電子供与性呈色性有機化合物と電子受容性化合物とを含むワックス粒子、消色剤を含むワックス粒子、および水を含み、電子供与性呈色性有機化合物と電子受容性化合物とを含むワックス粒子および消色剤を含むワックス粒子が水に分散している、熱変色性インキ組成物。
【請求項10】
消色剤が、塩基性化合物である、請求項9に記載の変色性インキ組成物。
【請求項11】
消色剤が、
脂肪族アミン、
脂肪族ジアミン、
アミノアルコール、
分子内にアミノ基を1つ以上含み、アミノ基と芳香環の間にアルキレン基を有する、芳香族化合物、
一般式NH2−C2H4−(NH−C2H4)n−NH2(n≧0)で表される化合物およびその誘導体、
イミダゾールおよびその誘導体、
ならびに一般的にヒンダードアミンと呼ばれる、ピペリジル基およびその誘導体を分子内に持つ化合物から選択される少なくとも1つの化合物である、
請求項10に記載の変色性インキ組成物。
【請求項12】
ワックスが、40℃〜120℃の範囲内にある融点を有する、請求項9に記載の変色性インキ組成物。
【請求項13】
電子受容性化合物が不揮発性である、請求項9に記載の変色性インキ組成物。
【請求項14】
加熱により変色しない着色剤をさらに含む、請求項9に記載の変色性インキ組成物。
【請求項15】
請求項9に記載の変色性インキ組成物を、インキとして用いる、筆記具。
【請求項16】
請求項9に記載の変色性インキ組成物から成る、インクジェットプリンタ用のインキ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、紙に筆記または印字等した文字および塗膜等を、加熱することにより変色することが可能であり、かつ変色した文字等が元の色に戻りにくい、変色性インキ組成物およびそれを用いた筆記具に関する。
【背景技術】
【0002】
紙に筆記又は印字した筆跡もしくは塗膜を、加熱により、あるいは有機溶剤を用いて、消色できる変色性インキ組成物が、これまでに種々提案されている。変色性インキ組成物は、紙の再利用に資するものとして、または書き誤りを容易に訂正できるものとして、有用である。
【0003】
例えば、特許文献1(特開平9−165537号公報)では、ロイコ染料に顕色剤を反応させて発色してなる着色剤と消色剤とを水に分散してなる熱消去性インキ組成物が提案されている。特許文献2(特開2001−123084号公報)では、顕色剤、呈色性化合物および消去剤からなる可消色性色素組成物であって、発色状態の組成物中では、消色剤の主要成分がその形状を球で近似したときの平均直径が1nm乃至100μmの微粒子乃至ミクロ相分離状態として存在し、消色状態の組成物中では、消色剤の主要成分が分子分散されて存在する、可消色性色素組成物が提案されている。
【0004】
特許文献3(特公平5−87105号公報)は、融点または軟化点が60〜180℃の熱溶融性水不溶樹脂、カラーフォーマ、揮発性顕色剤を少なくとも含有する樹脂組成物と、融点または軟化点が60〜180℃の不揮発性消色剤あるいは該不揮発性消色剤を含有する樹脂組成物が、別々の微粒子として水を主体とする媒体中に混合分散されている、加熱消色性インクジェットインク組成物が提案されている。特許文献4(特開2005−89548号公報)は、(イ)電子供与性呈色性有機化合物、(ロ)電子受容性化合物、(ハ)(イ)、(ロ)の呈色反応をコントロールする媒体として、特定のエステル化合物の均質相溶体からなる感温変色性色彩記憶性組成物を内包したマイクロカプセル顔料と、樹脂を含むビヒクルとからなる感温変色性色彩記憶性液状組成物を提案している。
【0005】
【特許文献1】特開平9−165537号公報
【特許文献2】特開2001−123084号公報
【特許文献3】特公平5−87105号公報
【特許文献4】特開2005−89548号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記特許文献に記載の組成物は、いずれも消色性インキ組成物として使用するには、なお改善の余地を有している。例えば、特許文献1に記載の熱消去性インキ組成物は、着色剤と消色剤とが合わせて水に分散されるため、着色剤が消色剤と接触する確率が高く、熱が加わらなくても、消色が生じる可能性がある。そのような可能性を低くして、着色剤の安定性を高くするには、消色剤を、より高い温度で作用するように選択する必要がある。そのことは、消色に必要な熱量を大きくし、消色作業のコストを高くする、および/または消色のための加熱装置を要し、誰もが簡易に消色作業を行うこと難しくする。
【0007】
特許文献2に記載の可消色性色素組成物は、発色状態における消色剤自体の寸法を制御する必要があり、このことは、組成物の調製を困難にする。また、特許文献2において、消色状態にするために、温度を190℃、200℃とすることが例示されており、このように高い温度を達成するには、大量の熱を要し、また、消色作業に何らかの加熱装置を必ず用いなければならない。
【0008】
特許文献3に記載のインク組成物は、布帛類に裁断や縫製のための位置情報や部材名や使用部分などの情報を付与するために用いられるものであり、紙に筆記または印字するためのインキ組成物ではない。また、同文献の実施例で採用されている消色温度は、160℃および150℃と高く、同文献に記載のインク組成物は、特許文献1および2に関連して指摘した問題と同様の問題を有する。
【0009】
特許文献4に記載の感温変色性色彩記憶性組成物は、同文献の図1および図2に記載のように、高温となると色濃度が低下し(即ち、消色され)、その後、冷却されると、色濃度は低いままであるが、ある温度まで冷却されると、色濃度が再び高くなる。そのため、この組成物で筆記または印字した文字等を消去しても、温度によっては、消去した文字等が「戻る」ことがある。このような「戻り」は、例えば、文字を消去した紙を再び利用する場合、あるいは文字を消去した部分にさらに文字を書く場合には、避ける必要がある。
【0010】
このように、従前の消色性インキ組成物は、消色に要する温度、発色の安定性、製造の容易さ、および消色の安定性等の点から、用途によっては、なお改善の余地があった。本発明は、筆記または印字された文字等の発色が安定して維持されるとともに、紙面を擦るときに生じる摩擦熱程度の熱を加えることにより消色可能であり、かつ消色の安定性が良好である、変色性インキ組成物を提供することを目的とし、さらには、熱を加えることにより、異なる色に変化し、かつ元の色に戻りにくい変色性インキ組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の変色性インキ組成物は、電子供与性呈色性有機化合物が電子受容性化合物により発色している状態で、電子供与性呈色性有機化合物および電子受容性化合物の群を、ワックスを用いて、消色剤から分離することによって、上記課題を解決した。
【0012】
本発明は、第1の要旨において、電子供与性呈色性有機化合物と電子受容性化合物とを含むワックス粒子、消色剤、および水を含む、変色性インキ組成物を提供する。
【0013】
本発明は、第2の要旨において、電子供与性呈色性有機化合物と電子受容性化合物とを含むワックス粒子、消色剤を含むワックス粒子、および水を含む、変色性インキ組成物を提供する。
【0014】
ここで、「変色」という用語は、色の色相、彩度および明度のうち、少なくともいずれか一つが変化することをいい、色が無色に変化すること(即ち、「消色」および「消去」)の概念を含む。また、「消色」および「消去」という用語は、色が全く認識できないようにすること(即ち、無色にすること)のみならず、色を薄くすること(より無色に近い状態にすること)をも含む意味で使用される。
【0015】
本発明の変色性インキ組成物は、加熱前、即ち、電子供与性呈色性有機化合物が電子受容性化合物により発色している状態において、少なくとも電子供与性呈色性有機化合物と電子受容性化合物の群を粒子状のワックスに含有させることによって、電子供与性呈色性有機化合物と消色剤が接触することを防止し、それにより電子供与性呈色性有機化合物の良好な発色を維持している。変色は、ワックスを液化させることにより、消色剤を電子供与性呈色性有機化合物に接近させて、電子受容性化合物と消色剤とを相互作用させることにより行う。本発明の変色性インキ組成物は、発色成分として、電子供与性呈色性有機化合物のみを含む場合には、加熱により、消色されることとなる。
【0016】
消色剤は、いずれの要旨の変色性インキ組成物においても、塩基性化合物であることが好ましい。ここで、塩基性化合物とは、電子対を供与する性質を有する化合物を指す。塩基性化合物は、具体的には、
脂肪族アミン、
脂肪族ジアミン、
アミノアルコール、
分子内にアミノ基を1つ以上含み、アミノ基と芳香環の間にアルキレン基を有する、芳香族化合物、
一般式NH2−C2H4−(NH−C2H4)n−NH2(n≧0)で表される化合物およびその誘導体、
イミダゾールおよびその誘導体、
ならびに一般的にヒンダードアミンと呼ばれる、ピペリジル基およびその誘導体を分子内に持つ化合物から選択されることが好ましい。これらの化合物は、電子受容性化合物と反応しやすく、良好な変色性をインキ組成物に付与する。
【0017】
ワックス粒子は、40℃〜120℃の範囲内にある融点を有することが好ましい。この温度範囲内にある温度は、例えば、紙面に筆記または印字された文字および塗膜等を弾性体で擦るときに発生する摩擦熱により得られる温度である。よって、融点がこの温度範囲内にあるワックスを用いれば、筆記または印字された文字等を、弾性体で擦ることにより、変色させることが可能である。
【0018】
本発明の変色性インキ組成物は、加熱により変色しない着色剤をさらに含んでよい。その場合、電子供与性呈色性有機化合物が消色剤の作用によって消色状態となったときに、当該着色剤の色が現れることとなる。
【0019】
本発明の変色性インキ組成物は、筆記具のインキとして用いることができる。本発明の変色性インキ組成物をインキとして用いる筆記具で筆記した筆跡等は、筆記した後で、例えば、消しゴム又は軟質の弾性樹脂のような弾性体で擦ることにより、変色させる(例えば、消色する)ことができる。あるいは、本発明の変色性インキ組成物は、インクジェットプリンタ用のインキとして用いることができる。
【発明の効果】
【0020】
本発明の変色性インキ組成物は、電子受容性化合物により発色している電子供与性呈色性有機化合物が電子受容性化合物とともにワックス粒子に含有されており、好ましくは消色剤が別のワックス粒子に含有されている状態で、発色を呈し、加熱によりワックスが液状化すると、電子供与性呈色性有機化合物が消色状態になる。即ち、本発明の変色性インキ組成物は、室温では、ワックス粒子によって、発色した電子供与性呈色性有機化合物が消色剤から分離されて退色が防止され、加熱されると、液化したワックス粒子が媒体となって、電子供与性呈色性有機化合物の消色が促進される。
【0021】
よって、本発明のインキ組成物は、発色成分として電子供与性呈色性有機化合物のみを含む場合には、良好な発色の維持と、確実な消色の実行が両立されたものとなる。本発明のインキ組成物が加熱により変色しない着色剤を含有する場合には、発色状態にある電子受容性化合物の色と着色剤の色との混色から、加熱により、その着色剤の色がより強く現れる色に変化するものとなり、加熱前後で異なる色を良好に呈する。
【0022】
本発明のインキ組成物は、融点が40℃〜120℃の範囲内にあるワックスを選択することにより、小さい熱量で消色が可能となる。したがって、例えば、筆記した文字または塗膜を擦る等の比較的簡単な操作で、文字または塗膜を変色させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0023】
本発明の変色性インキ組成物は、電子供与性呈色性有機化合物、電子受容性化合物、消色剤、および水を含み、1)電子供与性呈色性有機化合物と電子受容性化合物との組み合わせがワックス粒子に含有される形態、および2)電子供与性呈色性有機化合物と電子受容性化合物との組み合わせがワックス粒子に含有され、かつ消色剤が別のワックス粒子に含有される形態のいずれかをとる。電子供与性呈色性有機化合物と電子受容性化合物をワックス粒子に含有させることにより、安定した発色状態を得ることができる。さらに、消色剤をワックス粒子に含有させることにより、消色剤がインキ組成物中の添加剤と反応して、その消色機能が阻害されることを防止できる。以下、本発明の変色性インキ組成物(単に「インキ組成物」と呼ぶことがある)に含まれる成分を説明する。
【0024】
(電子供与性呈色性有機化合物)
本発明の変色性インキ組成物は、電子供与性呈色性有機化合物を含む。電子供与性呈色性有機化合物は、電子受容性化合物により呈色する化合物であり、発色成分ともいえる。電子供与性呈色性有機化合物は、特に限定されず、公知の電子供与性呈色性有機化合物(例えば、ロイコ染料)を任意に使用できる。具体的には、例えば、下記の化合物を電子供与性呈色性有機化合物として使用できる。
【0025】
・フルオラン類、例えば、1,2-ベンゾ-6-(N-エチル-N-イソアミルアミノ)フルオラン、2-アニリノ-3-メチル-5-(N-エチル-N-n-プロピルアミノ)フルオラン、2-クロロ-3-メチル-6-(4-ジ-n-ブチルアミノアニリノ)フルオラン、3-ジエチルアミノ-6-ベンジルオキシフル
オラン、3,6−ジフェニルアミノフルオラン、3,6−ジフェニルアミノフルオラン、2'-[(2-クロロフェニル)アミノ]-6'-(ジブチルアミノ)スピロ[イソベンゾフルオラン-1(3H),9'-(9H)キサンテン]-3-オン、6'-[エチル(4-メチルフェニル)アミノ]-2'-メチル-
スピロ[イソベンゾフルオラン-1(3H),9'-(9H)キサンテン]-3-オン、および6-(ジメチルアミノアミノ)-3,3-ビス[4-(ジメチルアミノ)フェニル]-1(3H)-イソベンゾフルオラン
・フェノチアジン類、例えば、ベンゾイルロイコメチレンブルー、エチルロイコメチレンブルー、
・インドリン類、例えば、2-(フェニルイミノエチリデン)-3,3-ジメチルインドリン
【0026】
・スピロピラン類、例えば、1,3,3-トリメチル-インドリノ-7-クロル-β-ナフトスピロピラン、N-3,3-トリメチルインドリノベンゾスピロピラン;
・ロイコオーラミン類、例えば、N-アセチルオーラミン、N-フェニルオーラミン;
・ローダミンラクタム類、例えば、ローダミンBラクタム;
・ポリアリールカルビノール類、例えば、クリスタルバイオレットカルビノール、
マラカイトグリーンカルビノール;
【0027】
・ジフェニルメタンフタリド類、例えば、3,3-ビス(p-ジメチルアミノフェニル)-6-ジメ
チルアミノフタリド、3,3-ビス(p-ジメチルアミノフェニル)フタリド;
・トリフェニルメタンフタリド類、例えば、クリスタルバイオレットラクトン、マラカイトグリーンラクトン;
・フェニルインドリルフタリド類、例えば、3-(4-ジエチルアミノフェニル)-3-(1-エチル-2-メチルインドール-3-イル)フタリド、3-(2-メチル-4-ジエチルアミノ)フェニル-3-(1-(2-メトキシエチル)-2-メチルインドール-3-イル)フタリド;
【0028】
・ジフェニルメタンアザフタリド類、例えば、3,3-ビス-(2-エトキシ-4-ジエチルアミノ
フェニル)-4-アザフタリド;
・フェニルインドリルアザフタリド類、例えば、3-(2-エトキシ-4-ジエチルアミノフェニル)-3-(1-エチル-2-メチルインドール-3-イル)-4-アザフタリド、3-(4-ジエチルアミノ-2-メチルフェニル)-3-(1-エチル-2-メチルインドール-3-イル)-4-アザフタリド;
・スチリルキノリン類、例えば、2-(3-メトキシ-4-ドデコキシスチリル)キノリン;
【0029】
・ピリジン類、例えば、2,6-ビス(6-n-ブトキシフェニル)-4-(4-ジメチルアミノフェニル)ピリジン;
・キナゾリン類、例えば、2-(4-ジメチルアミノフェニル)-4-メトキシキナゾリン、2-(4-ジメチルアミノフェニル)-4-(1-クロロフェニルオキシ)キナゾリン;
・ビスキナゾリン類、例えば、4,4'-(エチレンジオキシ)-ビス[2-(4-ジエチルアミノフェニル)キナゾリン]、4,4'-(エチレンジオキシ)-ビス[2-(4-ピペリジノフェニル)キナゾリ
ン];
【0030】
・エチレノフタリド類、例えば、3,3-ビス[1,1-ビス-(p-ジメチルアミノフェニル)エチレノ-2]フタリド、3,3-ビス[1,1-ビス-(2-メチル-4-ジメチルアミノフェニル)エチレノ-2]
フタリド;
・エチレノアザフタリド類、例えば、3,3-ビス[1,1-ビス-(p-ジメチルアミノフェニル)エチレノ-2]-4-アザフタリド、3,3-ビス[1,1-ビス-(p-ジメチルアミノフェニル)エチレノ-2]-4,7-ジアザフタリド;
・フルオレン類、例えば、3,6-ビス(ジメチルアミノ)フルオレンスピロ(9.3')-4'-アザフタリド、3,6-ビス(ジメチルアミノ)フルオレンスピロ(9.3')-7'-アザフタリド。
【0031】
好ましくは、電子供与性呈色性有機化合物として、フルオラン類である、2'-[(2-クロ
ロフェニル)アミノ]-6'-(ジブチルアミノ)スピロ[イソベンゾフルオラン-1(3H),9'-(9H)キサンテン]-3-オン、3,6−ジフェニルアミノフルオラン、6'-[エチル(4-メチルフ
ェニル)アミノ]-2'-メチル-スピロ[イソベンゾフルオラン−1(3H),9'-(9H)キサンテン]-3-オン、および6-(ジメチルアミノアミノ)-3,3-ビス[4-(ジメチルアミノ)フェニル]-1(3H)-イソベンゾフルオランが用いられる。電子供与性呈色性有機化合物として、1種の
化合物のみを用いてよく、あるいは複数の化合物を用いてよい。
【0032】
電子供与性呈色性有機化合物は、インキ組成物全体において、組成物全体の0.01〜20重量%の量で含まれることが好ましく、0.1〜10重量%の量で含まれることがより好ましい。電子供与性呈色性有機化合物が少なすぎると、発色濃度が低くなる。電子供与性呈色性有機化合物が多すぎると、電子供与性呈色性有機化合物が析出することがある。析出した電子供与性呈色性有機化合物は、ワックス粒子中の電子受容性化合物により発色されないことがあり、あるいは筆記具や印刷機(例えば、インクジェットプリンタ)のインキ吐出部で目詰まりを生じさせる。
【0033】
電子供与性呈色性有機化合物は、ワックス粒子中、0.1重量%〜40重量%含まれることが好ましく、1重量%〜20重量%含まれることがより好ましい。電子供与性呈色性有機化合物が1つのワックス粒子において、0.1重量%未満の量で含まれると、発色濃度が低下し、40重量%を超える量で含まれると、電子供与性呈色性有機化合物が析出するために粒子化が困難になる。
【0034】
(電子受容性化合物)
電子受容性化合物は、電子供与性呈色性有機化合物に作用して、電子供与性呈色性有機化合物を発色させる。電子受容性化合物は、活性プロトンを有する化合物、偽酸性化合物または電子空孔を有する化合物である。
【0035】
電子受容性化合物は、特に限定されない。例えば、フェノール性水酸基を有する化合物(例えば、フェノール、o−クレゾール、m−オクチルフェノール、n−ドデシルフェノール、n−ステアリルフェノール、カルボン酸類及びその金属塩(例えば、サリチル酸亜鉛、3,5−ジ(α−メチルベンジル)サリチル酸亜鉛)、酸性リン酸エステル類及びその金属塩、尿素・チオ尿素系化合物、および1,2,3−トリアゾール及びその誘導体を、電子受容性化合物として使用できる。
【0036】
電子受容性化合物は好ましくは不揮発性であって、昇華性を有しない。電子受容性化合物が揮発性または昇華性であると、筆記または印字した文字または塗膜の色濃度が経時的に変化することがある。
【0037】
好ましくは、電子受容性化合物として、サリチル酸亜鉛および3,5−ジ(α−メチルベンジル)サリチル酸亜鉛が用いられる。電子受容性化合物として、1種の化合物のみ用いてよく、あるいは複数の化合物を用いてよい。
【0038】
電子受容性化合物は、インキ組成物において、組成物全体の0.01〜50重量%の量で含まれることが好ましく、0.1〜20重量%の量で含まれることがより好ましい。電子受容性化合物が少なすぎると、発色濃度が低くなる。電子受容性化合物が多すぎると、電子受容性化合物が析出することがある。電子受容性化合物が析出すると、筆記具や印刷機(例えば、インクジェットプリンタ)の吐出部で目詰まりを生じさせる。
【0039】
電子受容性化合物は、ワックス粒子中、0.1重量%〜60重量%含まれることが好ましく、1重量%〜40重量%含まれることがより好ましい。1つのワックス粒子において、電子受容性化合物が0.1重量%未満の量で含まれると、発色濃度が低下し、60重量%を超える量で含まれると、電子受容性化合物が析出するため、粒子化が困難になる。
【0040】
(消色剤)
消色剤は、電子受容性化合物による顕色作用を阻害する。したがって、消色剤は、消去操作を行うときに、電子供与性呈色性有機化合物の発色を無くす又は弱める役割を果たす。消色剤は、好ましくは塩基性化合物である。インキ組成物の変色性は、消色剤の塩基性の強さと関係すると考えられ、消色剤の塩基性が強いほど、発色状態の電子供与性呈色性有機化合物をより良好に消色状態にすることができ、インキ組成物の加熱による変色性を向上させる。本発明においては、消色剤として、下記の化合物から選択される化合物を使用することが好ましい。
脂肪族アミン、
脂肪族ジアミン、
アミノアルコール、
分子内にアミノ基を1つ以上含み、アミノ基と芳香環の間にアルキレン基を有する、芳香族化合物、
一般式NH2−C2H4−(NH−C2H4)n−NH2(n≧0)で表される化合物およびその誘導体、イミダゾールおよびその誘導体、
ならびに一般的にヒンダードアミンと呼ばれる、ピペリジル基およびその誘導体を分子内に持つ化合物。
【0041】
脂肪族アミンは、第1アミン、第2アミンまたは第3アミンである。脂肪族アミンは、好ましくは、第2アミンまたは第3アミンである。脂肪族アミンは、具体的には、オクチルアミン、デシルアミン、ジオクチルアミン、ジデシルアミン、ジドデシルアミン、トリオクチルアミン、ステアリルアミン、ベヘニルアミン、ジメチルラウリルアミン、ジメチルパルミチルアミン、ジメチルステアリルアミン、ジステアリルアミン、およびビス(2−ヒドロキシエチル)オレイルアミン等である。
【0042】
脂肪族ジアミンは、脂肪族化合物の水素が2つのアミノ基で置換されている化合物である。脂肪族ジアミンは、炭素数の数が大きいほど、消色剤として、より高い消色性能が示す傾向にある。しかし、炭素数がある程度を超えると、消色性能はそれほど変化しない。よって、脂肪族ジアミンは、好ましくは、3〜30個の炭素原子を有する化合物であり、より好ましくは6〜22個の炭素原子を有する化合物である。脂肪族ジアミンは、具体的には、ジアミノデカン、ジアミノオクタン、ヘキサメチレンジアミン、ジアミノブタン、硬化牛脂ジアミン、および硬化牛脂プロピレンジアミン等である。
【0043】
アミノアルコールは、水酸基とアミノ基を有する化合物である。アミノアルコールは、消色剤の消色性能の観点からは、第2アルコールまたは第3アルコールであることが好ましい。アミノアルコールは、具体的には、イソプロパノールアミン、ジイソプロパノールアミン、ベンジルエタノールアミン、およびトリイソプロパノールアミン等である。
【0044】
分子内にアミノ基を1つ以上含み、アミノ基と芳香環の間にアルキレン基を有する、芳香族化合物は、具体的には、キシリレンジアミン、ベンジルエタノールアミン、メタキシリレンジアミンとスチレンの共重合体等である。ベンジルエタノールアミンは、上述のように、アミノアルコールとして分類してよい。
【0045】
一般式NH2−C2H4−(NH−C2H4)n−NH2(n≧0)で表される化合物およびその誘導体は、分子量が大きいほど、消色剤としてより良好な消色性能を示す。この化合物は、例えば、分子量が100〜100000の範囲内にあるものであってよい。一般式NH2−C2H4−(NH−C2H4)n−NH2(n≧0)で表される化合物およびその誘導体は、具体的には、ジエチレントリアミン、トリエチレンテトラミン、テトラエチレンペンタミン、ペンタエチレンヘキサミン、ジエチレントリアミンエチレンオキサイド付加物、ジエチレントリアミンプロピレンオキサイド付加物、およびジエチレントリアミンブチレンオキサイド付加物などである。
【0046】
イミダゾールおよびその誘導体は、具体的には、イミダゾール、2−フェニルイミダゾール等である。
【0047】
一般的にヒンダードアミンと呼ばれる、ピペリジル基およびその誘導体を分子内に持つ化合物としては、テトラキス(2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジル)=1,2,3,4−ブタンテトラカルボキシラート、テトラキス(1,2,2,6,6−ペンタメチル−4−ピペリジル)=1,2,3,4−ブタンテトラカルボキシラート、N,N’−ビス(2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジル)−1,6−ヘキサメチレンジアミンと2,4−ジクロロ−6−(4−モルフォニリル)−1,3,5−トリアジンの共重合体、N,N’−ビス(1,2,2,6,6−ペンタメチル−4−ピペリジル)−1,6−ヘキサメチレンジアミンと2,4−ジクロロ−6−(4−モルフォニリル)−1,3,5−トリアジンの共重合体、2,2,4,4−テトラメチル−7−オキサ−3,20−ジアザジスピロ−[5.1.11.2]−ヘネイコサン−21−オンなどである。
【0048】
これらの化合物のうち、ジオクチルアミン、ジアミノデカン、ペンタエチレンヘキサミン、ヘキサメチレンジアミン、ベヘニルアミン、ジステアリルアミン、硬化牛脂プロピレンジアミン、ジエチレントリアミンブチレンオキサイド付加物、メタキシリレンジアミンとスチレンの共重合体、テトラキス(2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジル)=1,2,3,4−ブタンテトラカルボキシラートが好ましく用いられる。
なお、消色剤として2以上の異なる化合物を使用しても良い。
【0049】
消色剤は、インキ組成物において、組成物全体の0.01〜50重量%の量で含まれることが好ましく、0.1〜20重量%の量で含まれることがより好ましい。消色剤が少なすぎると、電子供与性呈色性有機化合物を十分に消色できず、インキの変色効果が不十分となる。消色剤が多すぎると、インキ組成物の貯蔵安定性が悪化する。また、消色剤の量は、電子受容性化合物の量も考慮して選択することが好ましく、インキ組成物全体において、消色剤:電子受容性化合物=1:10〜10:1(重量比)の割合となるように選択することが好ましい。
【0050】
消色剤は、ワックス粒子に含有される場合には、粒子中、1重量%〜80重量%含まれることが好ましく、5重量%〜60重量%含まれることがより好ましい。消色剤が1つのワックス粒子において、1重量%未満の量で含まれると、加熱によりインキ組成物を変色させる際に十分な変色効果を得られないことがある。
なお、消色剤それ自体がワックス状のものである(即ち、常温では固体状であり、加熱により液状体になる性質を有する)場合には、そのまま使用して、消色剤粒子をインキ組成物中に分散させてよい。
【0051】
(ワックス)
本発明のインキ組成物は、電子供与性呈色性有機化合物と電子受容性化合物とを含むワックス粒子(便宜的に、「第1ワックス粒子」と呼ぶ)を含み、場合により、さらに消色剤を含むワックス粒子(便宜的に、「第2ワックス粒子」と呼ぶ)を含む。
【0052】
ワックスは、樹脂と比較して、液化が開始する温度から、液化が終了する温度までの温度範囲が狭いことから、変色温度の制御を容易にするという利点を有する。ワックスは、その融点(より正確には液化が開始する温度)が40℃〜120℃の範囲内にあることが好ましく、40〜80℃の範囲内にあることがより好ましく、50℃〜70℃の範囲内にあることがさらにより好ましく、55℃〜65℃の範囲内にあることがさらにまたより好ましく、55℃以上60℃未満の範囲内にあることが最も好ましい。融点がこの範囲内にあるワックスは、例えば、紙面に筆記した筆跡または塗膜を、消しゴム又は軟質の弾性樹脂で擦ったときに、摩擦熱により液化する。よって、そのようなワックスから成る粒子を含むインキ組成物は、消しゴムで擦って筆跡を消す感覚で、筆跡を変色させる(例えば、消去する)ことを可能にするインキ組成物を与える。融点が40℃未満であると、ワックスが粒状にならないことがあるため、発色の安定性が低下して、十分な色濃度を得られないことがあり、あるいは経時的に色が薄くなることがある。融点が120℃を超えると、消しゴム又は軟質樹脂で擦ってもワックスが液化せず、簡易な作業でインキ組成物を変色させることが困難となる。
【0053】
融点が40℃〜120℃の範囲内にあるワックスは、例えば、下記の化合物である。括弧内は融点を示す。
脂肪酸:ラウリン酸(44℃)、ミリスチン酸(54℃)、パルミチン酸(63℃)、ステアリン酸(70℃)、ベヘン酸(80℃)等
脂肪酸エステル:ベヘン酸メチルエステル(53℃)、ラウリル酸ステアリル(42℃)、ステアリン酸ステアリル(55℃)、パルミチン酸ステアリル(58℃)、ベヘニン酸ベヘニル(73℃)等
【0054】
脂肪酸無水物:無水ミリスチン酸(53℃)、無水パルミチン酸(64℃)、無水ステアリン酸(71℃)等
【0055】
アシルグリセリン:2−モノラウリングリセリン(52℃)、2−モノミリスチングリセリン(61℃)、2−モノパルミチングリセリン(69℃)、1−パルミトイル−2−オレイングリセリン(46℃)、1−ステアロイル−2−オレイングリセリン(54℃)、グリセリンモノステアレレート(66℃)、グリセリンモノステアレレートとグリセリンジステアレートの混合物(60℃)、グリセリンジステアレレートとグリセリントリステアレートの混合物(56℃)等
アルコール:セチルアルコール(49℃)、ステアリルアルコール(58℃)、アラキニルアルコール(66℃)、1−ドコサノール(71℃)等
脂肪酸アミド:リシノール酸アミド(62℃)、オレイン酸アミド(75℃)、ラウリン酸アミド(87℃)、ベヘン酸アミド(110℃)、ステアリン酸アミド(101℃)、ヒドロキシステアリン酸アミド(107℃)
その他:パラフィンワックス(分子量、分岐、製法に応じて融点48℃〜112℃)、ペンタエリスリトールテトラステアレート(64℃)、ペンタエリスリトールテトラパルミテート(69℃)、エチレングリコールジステアレート(63℃)、プロピレングリコールモノベヘネート(57℃)、ジステアリルチオジプロピオネート(65℃)、ソルビタントリステアレート(54℃)、ソルビタンパルミテート(58℃)
【0056】
本発明のインキ組成物において、ワックスは、特に、ステアリルアルコール、グリセリンモノステアレレートとグリセリンジステアレートの混合物、グリセリンジステアレレートとグリセリントリステアレートの混合物、リシノール酸アミド、プロピレングリコールモノベヘネートであることが好ましいが、電子供与性呈色性有機化合物と電子受容性化合物および消色剤を溶解することができれば、これに限定されるものではない。
なお、ワックスとして、これらの化合物から選ばれる2以上の化合物を用いて良い。
【0057】
本発明のインキ組成物が、第1および第2ワックス粒子をともに含む場合、第1ワックス粒子と第2ワックス粒子は、融点の近いワックスから成ることが好ましい。2種類のワックス粒子が融点の近いワックスで形成されると、2種類のワックスが同じ温度で液化して、消色剤を電子受容性化合物に作用させ得るので、変色をスムーズに実施できる。あるいは、第1および第2ワックス粒子は、同じまたは互いに異なるワックスから成っていてよい。あるいはまた、第1ワックス粒子のうち、一部の粒子のワックスと、他の粒子のワックスとが異なっていてもよい。同じことは、第2ワックス粒子にもあてはまる。
【0058】
第1ワックス粒子において、ワックスは、粒子の30重量%〜99重量%を構成することが好ましく、50重量%〜95重量%を構成することがより好ましい。第1ワックス粒子において、ワックスの量が少ないと、電子供与性呈色性有機化合物が析出するため、粒子化が困難になり、ワックスの量が多いと、発色濃度が低下する。
【0059】
第2ワックス粒子において、ワックスは、粒子の20重量%〜99重量%を構成することが好ましく、40重量%〜95重量%を構成することがより好ましい。第2ワックス粒子において、ワックスの量が少ないと、固形分が少なくなって、粒子化が困難になり、ワックスの量が多いと、消色剤の量が少なくなり、インキ組成物の変色効果が不十分となることがある。
【0060】
ワックスは、インキ組成物全体の5〜60重量%の量で含まれることが好ましく、10〜50重量%の量で含まれることがより好ましい。本発明のインキ組成物においては、電子供与性呈色性有機化合物が必ず第1ワックス粒子に含有されていることを考慮すると、ワックスの量が少ないと、電子供与性呈色性有機化合物の量も少なくなり、発色濃度が低くなることがある。ワックスの量が多すぎると、インキ組成物の貯蔵安定性が低下することがある。
【0061】
(水)
本発明のインキ組成物は、分散媒として機能する、水を含む。水として、通常用いられる水、例えば、イオン交換水および蒸留水等を使用することができる。インキ組成物における水の含有量は特に限定されず、第1および/または第2ワックス粒子の含有量、および得ようとする粘度に応じて、適宜選択される。例えば、水の含有量は、95重量%〜40重量%の範囲内であってよく、好ましくは90重量%〜50重量%程度である。
【0062】
(非熱変色性着色剤)
本発明のインキ組成物は、さらに、上記の成分に加えて、加熱により色相が変化しない着色剤、即ち、非熱変色性着色剤を含んでよい。非熱変色性着色剤は、好ましくは電子受容性化合物および消色剤の影響を受けず、それらによって変色しないものである。本発明のインキ組成物が非熱変色性着色剤を含む場合、本発明のインキ組成物は、加熱前に、発色状態の電子供与性呈色性有機化合物が呈する色と、着色剤が呈する色とが混合された色を有し、加熱後に、電子供与性呈色性有機化合物の呈する色が無色化されて、着色剤の色が強く現れるインキ組成物となる。よって、そのような着色剤を含むインキ組成物は、例えば、ある色相から別の色相に変化する、変色性インキ組成物となる。
【0063】
非熱変色性着色剤は、例えば、酸性染料、直接染料、塩基性染料などの水溶性染料のほか、カーボンブラック、酸化チタン、アルミナのシリカ、タルクなどの無機顔料;アゾ系顔料、ナフトール系顔料、フタロシアニン系顔料、スレン系顔料、キナクリドン系顔料、アンスラキノン系顔料、ジオキサン系顔料、ジオキサジン系顔料、インジゴ系顔料、チオインジゴ系顔料、ペリノン系顔料、ペリレン系顔料、インドレノン系顔料、およびアゾメチン系顔料などの有機顔料;アルミニウム粉およびブロンズ粉等などの金属粉顔料;蛍光顔料;パール顔料;ならびに光輝性顔料等である。また、これらの着色剤は、顔料分散体として用いることもできる。また本発明のインキ組成物において、これらの着色剤は単独で用いてもよく、あるいは2種以上を混合して用いることもできる。
【0064】
あるいは、非熱変色性着色剤として、球状、偏平状、中空等の各種形状のプラスチックピグメント(合成樹脂粒子顔料)などを用いることができる。例えば本発明では100μm以下の樹脂粉末にして用いるか又は100μm以下の樹脂粉末を水中に分散させたものを用いることができる。上記樹脂粉末は顔料または染料で着色して、着色樹脂エマルジョンとして使用することができる。
【0065】
非熱変色性着色剤がインキ組成物に占める量は、特に限定されず、電子供与性呈色性有機化合物が呈色しなくなったときに、所望の色が得られるように、適宜選択される。非熱変色性着色剤の量は、好ましくはインキ組成物の0.001重量%〜30重量%であり、より好ましくはインキ組成物の0.01重量%〜15重量%である。
【0066】
本発明のインキ組成物は、上述の成分の他に、通常用いられる成分を含んでよい。以下、通常用いられる成分について説明する。
【0067】
本発明のインキ組成物は、乳化によりワックス粒子を作製する場合には、乳化剤を含んでよい。乳化剤は、ワックス粒子を分散させるために用いられる。乳化剤は、例えば、ポリビニルアルコール、カルボキシメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、モノステアリン酸ソルビタン、モノステアリン酸ソルビタンポリオキシエチレン誘導体、およびポリオキシエチレンステアリルエーテルである。
【0068】
本発明のインキ組成物は、必要に応じて、上記以外の成分を含んでよい。具体的には、潤滑剤、湿潤剤、防錆剤、防腐剤、防カビ剤、消泡剤、レベリング剤、凝集防止剤、pH調整剤、および界面活性剤等を添加してよい。
【0069】
次に本発明のインキ組成物の製造方法を説明する。本発明のインキ組成物の製造においては、第1ワックス粒子を分散させた分散体(エマルション)、および第2ワックス粒子を分散させた分散体(エマルション)のいずれか一方を少なくとも調製する。分散体は、公知の乳化による方法または粉砕による微粒化方法を用いて、調製することができる。以下に、乳化によりワックス粒子を分散させた分散体の調製方法の一例を示す。
【0070】
第1ワックス粒子を分散させた分散体は、以下の手順で調製される。まず、電子供与性呈色性有機化合物および電子受容性化合物を、120〜160℃に加熱したワックス中に溶解させる。これとは別に、乳化剤(例えばポリビニルアルコール)を水に溶解させた乳化剤水溶液を、30〜60℃に加温する。加温した乳化剤水溶液を、中せん断撹拌しながら、この水溶液に、上記ワックス溶解液を加える。ワックス溶解液は、水溶液:ワックス溶解液の重量比が、95:5〜50:50となるように加えることが好ましい。次いで、高せん断撹拌を行い、O/Wエマルションを得る。さらに、撹拌しながら、室温まで冷却して、電子供与性呈色性有機化合物および電子受容性化合物を含有する第1ワックス粒子の分散体を得る。
【0071】
第2ワックス粒子を分散させた分散体は、以下の手順で調製される。まず、消色剤を、60〜120℃に加熱したワックス中に溶解させる。これとは別に、乳化剤(例えばポリビニルアルコール)を水に溶解させた乳化剤水溶液を、30〜60℃に加温する。加温した乳化剤水溶液中を、中せん断撹拌しながら、この水溶液に、上記ワックス溶解液を加える。ワックス溶解液は、水溶液:ワックス溶解液の重量比が、95:5〜50:50となるように加えることが好ましい。次いで、高せん断撹拌を行い、O/Wエマルションを得る。さらに、撹拌しながら、室温まで冷却して、消色剤を含有する第2ワックス粒子の分散体を得る。
【0072】
第1ワックス粒子を分散させた分散体のみを調製した場合には、この分散体を、消色剤と混合する。その場合、消色剤を溶解させた水溶液を、分散体と混合してよい。第1ワックス粒子を分散させた分散体、および第2ワックス粒子を分散させた分散体を調製した場合には、両者を混合する。混合は、公知の方法で、例えば撹拌しながら、実施する。いずれの場合も、混合は、電子供与性呈色性有機化合物、電子受容性化合物、消色剤および水が、前記した割合で含まれるように、分散体と水溶液の混合割合、または2種類の分散体の混合割合を適宜選択して、実施する。
【0073】
本発明のインキ組成物は、好ましくは、各種筆記具のインキとして用いられる。筆記具は、例えば、インキをペン先から滲出させる、マーカー及びサインペンのような中芯式筆記具、またはボールペンの形態であることが好ましい。ボールペンは、インキを装填したインキ収容管が軸内に設けられ、小さい球を装着したペン先から、インキを滲出させて筆記を行う筆記具である。中芯式筆記具は、インキ収容部として繊維束が収束された中芯、および中芯に貯蔵されたインキを流出するペン先(チップ)を有し、ペン先として、例えば、ボール、繊維、プラスチック芯、ブラシ状物、または筆状物を備える筆記具である。
【0074】
筆記具は、公知の部材を使用して、組み立てることができる。例えば、ボールペンは、公知の材料で公知の寸法に形成されたインキ収容管に、インキを装填して、公知の材料から成る公知の構造のボールペンチップとともに、公知の組立方法で組み立てて作製できる。インキ収容管は、例えば、ポリエチレンおよびポリプロピレン等の合成樹脂製パイプ、または金属製パイプである。ボールペンチップは、通常のものであってよく、ボール直径とボールハウス内径との差が、例えば、0.01mm以上のものを使用できる。
【0075】
あるいは、本発明のインキ組成物は、印刷インキ(特にインクジェットプリンタ用のインキ)、絵の具、または塗料として利用することもできる。
【0076】
本発明のインキ組成物を用いて筆跡又は塗膜を形成する媒体は、好ましくは紙である。あるいは媒体は、合成紙、布、プラスチックから成るフィルム、シートもしくは板、金属から成るシートもしくは板、またはガラスから成るシートもしくは板であってよい。
【0077】
本発明のインキ組成物が発色成分として電子供与性呈色性有機化合物のみを含む場合には、インキ組成物の筆跡または塗膜は、ワックスが融点以上の温度に加熱されたときに、消色される。より具体的には、ワックスの液化により、ワックスで隔てられていた電子受容性化合物と消色剤とが接近し、電子受容性化合物に、消色剤が作用して、インキ組成物が消色される。ワックスの融点が40℃〜120℃である場合、加熱温度は、好ましくはワックスの融点以上であり、より好ましくは1℃〜5℃程度高い温度である。この範囲内の温度であれば、例えば、ゴム又は弾性樹脂で、筆跡または塗膜を擦ることによって、加熱を実施できる。消去用のゴムまたは樹脂は、筆記具の筆先とは反対側の端部に予め取り付けておいてよい。それにより、例えば、書き損じた文字等を消して修正することや、一度マーキングした箇所を、後で消すことが容易となる。消去用の樹脂は、紙面に対する摩擦抵抗の大きい樹脂(例えば、スチレン−ブチレン−スチレン共重合体又はスチレン−エチレン・ブチレン−スチレン共重合体)であることが好ましい。
【0078】
あるいは、加熱は、加熱したロールの上を通過させる、または熱風を吹き付ける等の方法により、実施してよい。ロールまたは熱風を用いると、比較的大きな面積内に筆記された筆跡または比較的大きな面積を有する塗膜等を、一度に消去できる。よって、本発明のインキ組成物と加熱装置を組み合わせて使用することにより、筆記または印刷された紙を繰り返し使用するための、リサイクルシステムを構築することが可能である。
【0079】
前述のとおり、「消去」および「消色」には、色を薄くすることも含まれ、用途によっては完全に無色化されなくても、変色性インキ組成物として実用可能である。例えば、筆記した文字であれば、完全に無色とならず、一部に色が残っていても、加熱後の筆跡が判読不能であれば、筆記した内容を機密上の理由から消去する目的で使用するうえでは十分である。本発明のインキ組成物は、消色の目的で用いる場合には、電子供与性呈色性有機化合物が黒色であり、加熱前に色差計で測定される色差(ΔE)をΔE’、加熱後に色差計で測定される色差(ΔE)をΔE”としたときに、ΔE’−ΔE”が5以上となる程度に、加熱により、その色が薄くなるものであることが好ましい。
【0080】
本発明のインキ組成物が、前述のように非熱変色性着色剤を含み、加熱により非熱変色性着色剤の色が強く現れるように変色させる目的で用いられる場合も、上記と同様に、筆跡または塗膜は、弾性樹脂で擦ってワックスを液化させることにより、変色する。あるいは、本発明のインキ組成物は、複数種類の電子供与性呈色性有機化合物を、それぞれ融点の異なるワックス粒子に電子受容性化合物に含有させたものであってよい。そのようなインキ組成物は、加熱温度を段階的に変化させたときに、それぞれ異なる色が現れる、多段階変色を示す。
【実施例】
【0081】
(第1ワックス粒子の分散体1〜5の調製)
電子供与性呈色性有機化合物として、下記の3種類の化合物を準備し、ワックスとして、ステアリルアルコール、リシノール酸アミド、グリセリンジステアレートとグリセリントリステアレートの混合物を準備し、電子受容性化合物として、3,5−ジ(α−メチルベンジル)サリチル酸亜鉛塩を準備し、乳化剤として、ポリビニルアルコールを準備した。
電子供与性呈色性有機化合物1:2'-[(2-クロロフェニル)アミノ]-6'-(ジブチルアミノ)スピロ[イソベンゾフルオラン-1(3H),9'-(9H)キサンテン]-3-オン
電子供与性呈色性有機化合物2:6'-[エチル(4-メチルフェニル)アミノ]-2'-メチル-スピロ[イソベンゾフルオラン-1(3H),9'-[9H]キサンテン]−3−オン
電子供与性呈色性有機化合物3:6-(ジメチルアミノアミノ)-3,3-ビス[4-(ジメチルア
ミノ)フェニル]-1(3H)-イソベンゾフルオラン
これらの電子供与性呈色性有機化合物と電子受容性化合物の組み合わせは、それぞれ表1に示す色を呈する。
【0082】
電子供与性呈色性有機化合物および電子受容性化合物を、160℃に加熱したワックス中に溶解させた。これとは別に、乳化剤としてポリビニルアルコールを水に溶解させた乳化剤水溶液を、65℃に加温した。加温した乳化剤水溶液中を、中せん断撹拌しながら、この水溶液に、上記ワックス溶解液を加えた。次いで、高せん断撹拌を行い、O/Wエマルションを得た。さらに、撹拌しながら、室温まで冷却して、電子供与性呈色性有機化合物および電子受容性化合物を含有する第1ワックス粒子の分散体を得た。ワックス溶解液および乳化剤水溶液は、最終的に得られる分散体が、下記表1に記載の組成を有するように、調製し、混合した。冷却後の分散体において、ワックス粒子は、約5〜50μmの粒子径を有していた。
【0083】
(分散体6の調製)
電子供与性呈色性有機化合物1、電子受容性化合物、および乳化剤のみを、水に分散させた分散体を調製した。分散体は、下記表1に記載の組成を有するように調製した。
【0084】
【表1】
【0085】
(第2ワックス粒子の分散体A〜Hの調製)
消色剤として、下記表2示す化合物を準備し、ワックスとしてステアリルアルコール、パラフィンワックス、グリセリンモノステアレート、グリセリンジステアレート、グリセリンジステアレートとグリセリンモノステアレートの混合物を準備し、乳化剤として、ポリビニルアルコールを準備した。
【0086】
消色剤を、120℃に加熱したワックス中に溶解させた。これとは別に、乳化剤としてポリビニルアルコールを水に溶解させた乳化剤水溶液を、65℃に加温した。加温した乳化剤水溶液中を、中せん断撹拌しながら、この水溶液に、上記ワックス溶解液を加える。次いで、高せん断撹拌を行い、O/Wエマルションを得た。さらに、撹拌しながら、室温まで冷却して、消色剤を含有する第2ワックス粒子の分散体を得た。ワックス溶解液および乳化剤水溶液は、最終的に得られる分散体が、下記表2記載の組成を有するように、調製し、混合した。冷却後の分散体において、ワックス粒子は、約5〜50μmの粒子径を有していた。
【0087】
【表2】
【0088】
(消色剤水溶液a〜c)
消色剤として、トリイソプロパノールアミン、ペンタエチレンヘキサミン、キシリレンジアミンを用意し、それぞれをイオン交換水に溶解させて、消色剤を15重量%の量で含む水溶液a〜cを得た。
【0089】
(実施例1)
第1ワックス粒子の分散体1と第2ワックス粒子の分散体Aとを、重量比で50:50の割合で混合して、変色性インキ組成物を調製した。得られた変色性インキ組成物を、20μmのバーコータを用いて、ケント紙に塗布して塗膜を形成し、室温で乾燥させた。乾燥後、ケント紙を、65℃に加熱した。加熱は、恒温槽中に入れることにより実施した。
【0090】
加熱前後の発色濃度を、旧ミノルタ株式会社製の色彩色差計CR−300を用いて、筆跡と用紙の色差(ΔE)を求めることにより評価した。この差が小さいほど、筆跡が良好に消去されたことを示す。色差は、下記の式で表わされる。式中、L*は明度指数、a*およびb*はクロマティクネス指数を示す。
【数1】
【0091】
加熱前後のΔEを表3に示す。また、加熱後のケント紙を、−25℃まで冷却した。冷却により、ケント紙に形成した塗膜の発色濃度が高くなる、即ち、再び発色することはなかった。このことは、本発明の変色性インキ組成物の消色が不可逆的であることを示している。
【0092】
(実施例2〜16)
第1ワックス粒子の分散体1〜3から選択される1つの分散体を、第2ワックス粒子の分散体A〜Eから選択される1つの分散体、または消色剤水溶液a〜cから選択される1つの水溶液と、表3に示す割合で混合して、変色性インキ組成物を調製した。得られた変色性インキ組成物を、実施例1と同様にして、ケント紙に塗布して、塗膜を形成し、加熱前後の発色濃度を評価した。評価結果を表3に示す。実施例2〜16において、加熱後のケント紙を−25℃まで冷却しても、発色濃度(ΔE)は高くならなかった。
【0093】
(比較例1)
分散体4(ワックスを含まない、電子供与性呈色性有機化合物と電子受容性化合物の分散体)と、消色剤であるペンタエチレンヘキサミンを、表3に示す割合で混合して、変色性インキ組成物を調製した。得られた変色性インキ組成物を、実施例1と同様にして、ケント紙に塗布して、塗膜を形成し、加熱前後の発色濃度を評価した。評価結果を表3に示す
【0094】
【表3】
【0095】
以上の結果より、発色状態の電子供与性呈色性有機化合物がワックス粒子によって消色剤から隔てられた形態の変色性インキ組成物は、加熱により良好に消色することがわかった。比較例1は、電子供与性呈色性有機化合物の割合が高いにもかかわらず、加熱前のΔEが小さく、また、加熱後もΔEは低下せず、消色性を有していなかった。
【0096】
(実施例17〜18)
第1ワックス粒子の分散体1〜3から選択される1つの分散体、第2ワックス粒子の分散体A〜Eから選択される1つの分散体、および非熱変色性着色剤を、表4に示す割合で混合して、変色性インキ組成物を調製した。着色剤は、下記の2種類を用意した。

得られた変色性インキ組成物を、実施例1と同様にして、ケント紙に塗布して、塗膜を形成し、加熱前後の色相を観察した。いずれのインキ組成物も、加熱後の色相は、加熱前のそれとは異なっており、無彩色から有彩色への変色性および有彩色から別の有彩色への変色性を示した。
着色剤1:マゼンタ顔料分散体: CAB-O-JET 260M Magenta (キャボット社製)
着直剤2:蛍光黄色着色樹脂球分散体:ルミコールNKW C2105E (日本蛍光化学社製)
【0097】
【表4】
【産業上の利用可能性】
【0098】
本発明の変色性インキ組成物は、加熱により、実質的には不可逆的に、無色または他の色に変色可能であり、筆記具のインキとして、あるいは、インクジェットプリンタ用のインキのような印刷用インキ等として有用である。