(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
上述の2つの柄合わせ方法は、シート材に伸びや歪がない場合には有効である。しかし多くの自動裁断機では、ロール状に巻回されたシート材から一度の裁断で必要な長さのシート材を引き出してテーブル上に延反している。この際、巻回の状態や引き出しの際の張力などに起因して、シート材に伸びや歪が生じる。
【0012】
伸びや歪が生じたシート材を裁断して得られるパーツは、裁断によって伸びや歪が消失すると本来の裁断パターンと異なる形状になる。このようなパーツを用いて縫製を行うと、他のパーツとの間に柄のずれを生じる。また完成した衣料の寸法が予定していた寸法と異なるため、商品価値が著しく低下する。
【0013】
本発明はこのような問題点に鑑みてなされたもので、シート材の伸びや歪に対応したパターンでパーツを裁断でき、結果として本来のパターン通りのパーツが得られるシート材の裁断方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
上記目的を達成するため本発明にかかるシート材の裁断方法は、柄入りシート材を、少なくとも1つのパーツのパターンに沿って裁断する方法であって、以下の各ステップを含むことを特徴とする。
仮想平面上に、前記シート材の柄の特徴点に対応した理論上の柄のパターンを形成するステップ、
前記理論上の柄のパターンをディスプレイの画面に表示し、その柄のパターンの上に前記パーツのパターンを配置すると共に、パーツ毎に柄合わせポイントを設定するステップ、
前記仮想平面上に、前記理論上の柄のパターンに基づいて基準パターンを形成するステップ、
テーブル上に載置されたシート材に、プロジェクタを用いて前記基準パターンを投射し、前記基準パターンの位置および形状を前記シート材の柄の形状に合わせて移動および変形させると共に、移動および変形に応じて前記基準パターンの座標データを修正するステップ、
修正された前記基準パターンの座標データに対応して前記パーツのパターンおよび柄合わせポイントの座標データを一次修正するステップ、
前記テーブル上に載置されたシート材をカメラで撮影し、得られたシート材の画像を前記ディスプレイの画面に表示するステップ、
前記シート材の画像が表示された画面に前記一次修正されたパーツのパターンおよび柄合わせポイントを重ねて表示するステップ、
前記ディスプレイの画面に表示された柄合わせポイントを移動させて前記シート材の柄の対応する箇所に重ね合わせると共に、前記パーツのパターンの座標データを二次修正するステップ、
前記二次修正されたパーツのパターンの座標データに基づいて前記シート材を裁断するステップ。
【0015】
ここで、前記シート材の柄が格子状である場合には、前記柄合わせポイントを縦縞と横縞の交点に設定することが好ましい。
【0016】
また前記シート材の柄がストライプ状である場合には、前記柄合わせポイントをストライプ上に設定し、前記柄合わせポイントを、前記ディスプレイの画面に表示された前記シート材の柄の対応する箇所に重ね合わせる際、前記柄合わせポイントをストライプと直交する方向に移動させることが好ましい。
【0017】
なお、
前記シート材の柄が格子状であり、かつ前記シート材に生じる伸びや歪のうちシート材の搬送方向と直交する方向の伸びや歪を無視できる場合、前記基準パターンの座標データを修正する際に、前記シート材の
搬送方向と平行な方向の座標軸のデータ
のみを修正するようにしてもよい。
【0018】
また本発明にかかる自動裁断機は、柄入りシート材を、少なくとも1つのパーツのパターンに沿って裁断する自動裁断機であって、
上面に柄入りのシート材が載置されるテーブルを備えた裁断機本体と、
前記テーブルに載置されたシート材を、前記パーツのパターンに沿って裁断する裁断ユニットと、
前記裁断ユニットを駆動する裁断ユニット駆動手段と、
前記裁断ユニット駆動手段の駆動用信号を生成するデータ処理装置と、
作業者が前記データ処理装置に必要なデータを入力する入力手段と、
前記データ処理装置で処理されたデータを画面に表示するディスプレイと、
前記データ処理装置によって作成された画像を前記テーブルに載置されたシート材に投射するプロジェクタと、
前記テーブルに載置されたシート材を撮影して画像データを得るカメラと、を備え、
前記データ処理装置は、上述のいずれかに記載のシート材の裁断方法を実行することを特徴とする。
【発明の効果】
【0019】
本発明において、基準パターンを変形した後の各パーツの裁断用データは、シート材の歪に対応して修正されているため、切り離されたパーツのパターン(形状)は、歪のない本来のパターンに対応した形状および柄になる。このようにして裁断されたパーツを用いて縫製を行うと、柄および寸法のずれのない衣料を作製できる。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明の実施の形態にかかるシート材の裁断方法および自動裁断機について、図面を参照して説明する。
【0022】
(実施の形態1)
<自動裁断機の構成>
図1は、本発明の裁断方法を実施する自動裁断機の全体構成を示す。自動裁断機1は、裁断機本体3、裁断ユニット4、被覆シート送り装置5、データ処理装置6、コントローラ7、プロジェクタ8、カメラ9および裁断ユニット駆動装置10で構成されている。
【0023】
裁断機本体3の上面には、裁断される柄入りのシート材2(図では一部を切欠いて表示)が載置されるテーブル31が設置されている。テーブル31はコンベアで構成されており、図示しない延反装置から繰り出されたシート材2がコンベアによって矢印A方向に搬送され、テーブル31上に広げられる。またテーブル31の表面は、裁断の際にテーブル31が切断されないように剛毛ブラシ32(一部のみ表示)で覆われている。
【0024】
以後の説明では、
図1に示すように、テーブル31のシート材載置面をX−Y座標で表し、シート材2の搬送方向Aと平行な方向をX軸、それと直交する方向をY軸とする。またX−Y座標で規定される面に直交する方向をZ軸とする。
【0025】
裁断ユニット4は、一対のキャリッジ41によりX軸方向に移動できるように構成されており、キャリッジ41には、テーブル31を跨ぐようにアーム42が取り付けられている。アーム42には、Y軸方向に移動可能な裁断ヘッド43が取り付けられ、更に裁断ヘッド43の下部に、シート材31を裁断するカッター44が取り付けられている。カッター44はZ軸方向に移動可能であり、シート材2を裁断する際に下方に移動する。
【0026】
キャリッジ41は、裁断機本体3内に収容されたモータおよび無端ベルト(図示せず)によりX軸方向に移動し、また裁断ヘッド43は、キャリッジ41内のモータとアーム42内のベルト(いずれも図示せず)によりY軸方向に移動する。カッター44は、裁断ヘッド43内のモータ(図示せず)によりZ軸方向に移動する。それぞれのモータの軸にエンコーダが取り付けられており、裁断機本体3に収容された裁断ユニット駆動装置10は、エンコーダから出力される回転数の情報に基づいてそれぞれのモータを制御する。
【0027】
裁断ヘッド43は、カッター44を上下に往復動させた状態でテーブル31上のBで示す領域を前後左右に移動し、裁断ユニット駆動装置10からの信号に従い、シート材2を指定されたパターンに沿って裁断する。なお、カッター44は、ナイフ状の刃を往復動させてシート材を切断するものの他、円盤状の刃を回転させてシート材を切断するものを用いてもよい。
【0028】
被覆シート送り装置5は、シート材2の表面をポリエチレンなどの透明かつ非通気性の被覆シート51(図では一部を切欠いて表示)で覆うものである。被覆シート51は、裁断の際にシート材2の位置がずれるのを防止するために用いられる。ロールシート52から繰り出された被覆シート51は、テーブル31のコンベアによりシート材2と共に矢印A方向に搬送され、テーブル31の前端部に設けられたスタンド54と被覆シート送り装置5との間に広げられる。
【0029】
被覆シート51は、裁断機本体3に内蔵された吸引装置(図示せず)により、テーブル31の表面に形成された通気孔(図示せず)、および裁断機本体3の前端部と後端部の上面に形成された通気孔33を介して吸引され、シート材2および裁断機本体3をテーブル31に押し付ける。
【0030】
データ処理装置6は、シート材裁断用の各種データの作成と修正、ディスプレイ71の表示用データの生成、プロジェクタ8の投射データの生成および裁断ユニット駆動装置10の駆動用データの生成を行う。データ処理装置6で作成されたシート材裁断用のデータが裁断ユニット駆動装置10に送られて、裁断ユニット4の動作を制御する。データ処理装置6は、市販のパーソナルコンピュータで構成することができる。
【0031】
データ処理装置6へのデータ入力のうち、パーツパターンのデータは、ネットワークまたはUSBメモリなどの外部メモリを介して入力され、修正用のデータはコントローラ7またはマウス69を介して入力される。その他のデータは作業者がキーボード70を用いて入力する。ディスプレイ71は、シート材2へのパーツパターンの配置を決める際に用いられ、ディスプレイ71の画面に、シート材の理論上の柄のパターンとパーツのパターン(形状)が表示される。
【0032】
コントローラ7は、市販のゲーム用コントローラと同様の構造を有し、また同様の機能を備えている。コントローラ7は、作業者が裁断用テーブル31の周りを移動しながら操作できるように、データをデータ処理装置6に無線で送信する方式を採用している。
【0033】
プロジェクタ8は、テーブル31上に載置されたシート材2上に、データ処理装置6で作成された画像を投射するものであり、後述する基準パターンをシート材2に投射し、コントローラ7と共に、裁断用データの修正を行うために用いられる。プロジェクタ8は、裁断機本体3に固定された支柱81の上端部に設置されており、市販の液晶プロジェクタやDLPプロジェクタ以外に、種々の投射型表示装置が使用できる。
【0034】
裁断ヘッド43の側面にはカメラ9が取り付けられている。カメラ9はテーブル31に載置されたシート材2を撮影するものであり、裁断ユニット駆動装置10の制御に基づいてキャリッジ41および裁断ヘッド43の位置を変えることにより、シート材2の部分画像を撮影できる。
【0035】
撮影された画像データはカメラ9の位置情報と共にデータ処理装置6に転送され、ディスプレイ71の画面に表示される。カメラ9の位置情報は、キャリッジ41および裁断ヘッド43の駆動用モータの軸に取り付けられたエンコーダから取得する。
【0036】
図示しないが、シート材搬送方法Aの上流側には延反装置が設置され、ロール状に巻回されたシート材2を繰り出してテーブル31の上に広げる。同様に、シート材搬送方法Aの下流側にはピックアップテーブルが設置され、裁断されたシート材2がテーブル上に搬出される。
【0037】
本実施の形態では、テーブル31上に一枚のシート材2を載置して裁断を行う場合について説明するが、延反装置によってシート材2の繰り出しと切断を繰り返して、テーブル31上にシート材2を積層させ、複数枚のシート材を一度に裁断するようにしてもよい。ただしこの場合、積層された各シート材の歪がほとんど同じであることが前提となる。
【0038】
<シート材裁断の処理ステップ>
次に、
図2および
図3を参照し、
図1に示した自動裁断機1を用いて本発明の裁断方法を実施する際の処理ステップを説明する。
図2はパーツパターン(形状)の座標データの一次修正における処理ステップを示し、
図3はパーツパターンの座標データの二次修正における処理ステップを示す。
【0039】
図2(a)は、格子状の柄21を有するシート材2に、裁断されるパーツのパターン(形状)22aおよび22b(以降、総称して「パターン22」ともいう)を配置した状態を示す。
図1に示したように実際に裁断されるシート材は長方形であり、またシート材上にパターンの異なる複数のパーツが配置されるが、
図2では、説明を分かり易くするため、正方形のシート材2の上に2つのパーツが配置された場合を示している。
【0040】
最初に、作業者はデータ処理装置6を用いて、
図2(b)に示すような、X軸−Y軸で構成される仮想平面11上にシート材2の理論上の柄のパターン12を形成し、ディスプレイ71の画面に表示する。図中のX軸およびY軸は
図1のテーブル31のシート材載置面のX軸およびY軸に対応している。また原点Oは位置合わせ用の目印である。
【0041】
理論上の柄パターン12は、シート材2の実際の柄21の間隔や線の太さに基づいて作成されたものであり、通常は、柄そのものではなく、柄の特徴点がわかるように抽象化して表現されている。
図2(b)に示した例では、理論上の柄パターン12は、格子状の柄を構成する縦縞および横縞の中心線だけで構成されている。
【0042】
次に作業者は、
図2(c)に示すように、ディスプレイ71の画面に表示された理論上の柄パターン12に、裁断するパーツのパターン22aおよび22bを重ねて表示する。この状態において、作業者は、マウス69を操作してパーツパターン22aおよび22bの位置や回転角度を調整し、柄を考慮しながらパーツパターンの配置を決定する。
【0043】
なお、パーツパターン22aおよび22bのデータは、予めCAD(Computer Aided Design)装置等を用いて作成し、そのデータを、LAN等のネットワークを介し、またはUSBメモリなどを用いてデータ処理装置6のメモリ(RAM)に取り込んでおく。
【0044】
引き続いて作業者は、マウス69を操作して画面上に位置決め用の十字のマーカ13を表示し、そのマーカを移動させて、パーツ毎に柄合わせポイント14aおよび14b(以降、総称して「柄合わせポイント14」ともいう)を設定する。柄合わせポイント14は柄合わせの際の基準となる点であり、縦縞と横縞の交点のように外観上分かり易く、かつ柄がずれたときの影響の大きな箇所に設定する。パーツのパターンが大きい場合には、柄合わせポイント14を複数設定してもよい。
【0045】
全てのパーツのパターン22について柄合わせポイント14の設定が完了した後、パーツのパターン22および設定された柄合わせポイント14の座標データは、一時的にデータ処理装置6のメモリに格納される。
【0046】
次に、データ処理装置6は作業者の指示に従い、
図2(d)に示すように、仮想平面11上に基準パターン15を作成する。基準パターン15は、シート材2の歪に合わせて裁断用のデータを修正する際に用いられるものであり、理論上の柄パターン12を構成する縦線および横線から任意の線を選択することによって作成される。
【0047】
次に作業者は、
図2(e)に示すように、プロジェクタ8を用い、基準パターン15を、テーブル31上に載置されたシート材2に実寸で投射する。この際、前述の原点Oを併せて投射し、原点Oの位置をシート材2の対応する箇所に合わせて、仮想平面11の座標データの原点Oをシート材の座標データの原点と一致させる。基準パターン15および原点Oは、分かり易いように赤色、緑色などの彩度の高い色で投射することが好ましい。またパーツパターン22を併せて投射してもよい。
【0048】
図2(e)に示すように、テーブル31上に載置されたシート材2は、延反の際に加わった応力などにより歪や伸びが生じている。なお、柄21の縦縞および横縞は、実際には
図2(a)に示すように複雑な形状をしているが、
図2(e)では分かり易くするため、縦縞および横縞を1本の線で表している。以後の図面も同様である。
【0049】
次に作業者は、コントローラ7を操作して、
図2(f)に示すように、プロジェクタ8によって投射された基準パターン15を構成する全ての直線を、柄21に合わせて移動および変形させる。具体的には、各直線を柄21の対応する縦縞または横縞と重なり合うように移動および変形する。
【0050】
データ処理装置6は、作業者がコントローラ7を操作して基準パターン15の変形を行う都度、変位量を算出して座標データを修正し、その値を内蔵のメモリに格納する。なお、変位量の算出は、基準パターンを構成する全ての線の変形が完了した後に一括して行ってもよい。
【0051】
基準パターン15の全ての線について変形が完了した後、作業者がコントローラ7を用いて作業の完了をデータ処理装置6に通知すると、データ処理装置6はメモリに格納された修正済みの基準パターンの座標データを読み出す。
【0052】
データ処理装置6は、読み出したデータを用いて仮想平面11の座標のずれを算出し、算出した値に基づいて、メモリに格納されているパーツパターン22a、22bおよび柄合わせポイント14a、14bの座標データを修正する。
【0053】
参考として
図2(g)に、変形された基準パターン15と、座標データが修正されたパーツパターン22aおよび22bを、仮想平面に貼り付けた状態を示す。
図2(g)に示すパーツパターン22を、プロジェクタ8を用いてテーブル31上に載置されたシート材2に投射し、修正された状態を確認するようにしてもよい。
【0054】
引き続き
図3を参照して、パーツパターンの座標データの二次修正について説明する。作業者は、データ処理装置6のマウス69を操作してカメラ9を動作させ、テーブル31に載置されたシート材2を撮影する。
図3(a)に、カメラ9で撮影され、ディスプレイ71の画面に表示されたシート材の柄21を示す。上述したようにテーブル31上に載置されたシート材2は、延反の際に加わった応力などにより歪や伸びが生じている。
【0055】
次に、
図3(b)に示すように、作業者は、データ処理装置6に指示して、メモリから一次修正されたパーツパターン22a、22bおよび柄合わせポイント14a、14bの座標データを読み出し、画面に表示されたシート材の柄21に重ねて表示する。この際、カメラ9で撮影したシート材2の柄21の原点Oとメモリから読み出されたパーツパターン22a,22bの座標データの原点を一致させる。同様に、シート材の柄21のX軸方向およびY軸方向の寸法を、メモリから読み出した座標データの寸法と一致させる。
【0056】
画面上にマーカ13と共に表示された柄合わせポイント14aおよび14bは、理論上、カメラ9で撮影したシート材の柄21の対応する箇所と重なり合うはずである。しかし
図2(g)に示すように、柄合わせポイント14a、14bが基準パターン15を構成する線と線の間に位置するような場合、座標を修正する際の位置精度が低下することにより、シート材の柄21の対応する箇所と一致しない場合がある。
【0057】
そこで、作業者はマウス69を操作して、
図3(b)に矢印で示すように、柄合わせポイント14aおよび14bを移動させ、シート材の柄21の対応する箇所に重ね合わせる。
図3(c)に、柄合わせポイント14aおよび14bが、実際の柄の対応する箇所に重なった状態を示す。柄合わせポイント14aおよび14bの移動が完了した後、データ処理装置6は、パーツパターン22a,22bの座標データを再度修正(二次修正)した後、メモリに格納する。
【0058】
図3(c)に示すように、二次修正された座標データのパーツパターン22aおよび22bは、シート材2の歪に合わせて変形され、また柄合わせポイント14aおよび14bが、シート材の柄21の対応する箇所に重なっている。従って、二次修正されたパーツパターンのデータを用いて裁断を行えば、伸びや歪の影響がほとんどないパーツが得られる。
【0059】
座標データの修正において、基準パターンを構成する線間の座標データは補間により作成している。従って、線の間隔を狭くすると、修正された座標データの位置精度が高まるが、データの処理量が膨大になり、作業性が悪くなる。これに対し、線の間隔を広げるとデータの処理量が少なくなり、作業性が改善されるが、上述したように柄合わせポイントが線間に位置する場合は、修正された座標データの位置精度が低下し、基準パターンを変形させたときに柄合わせポイントがずれてしまう。
【0060】
そのため本発明では、テーブル31上に載置されたシート材2の撮影画像をディスプレイ71の画面に表示し、その画像に変形されたパーツパターン22と柄合わせポイント14を重ねて表示することにより、柄合わせポイント14の位置ずれを修正している。カメラ9の解像度は0.1mm程度であるため、カメラの撮影画像を用いることで、精度の高い柄合わせが可能となる。
【0061】
上述したように本発明の裁断方法では、理論上の柄パターン12に基づいて作成された基準パターン15を、テーブル31上に載置されたシート材2に実寸で投射し、基準パターン15を実際の柄のパターン21に合わせて変形させることにより、パーツパターンの裁断用データを修正している。理論上の柄パターンを構成する線を適度に間引いて基準パターンを作成することにより、位置精度を保ったまま座標データを修正でき、結果として、精度の高い裁断データを効率的に生成できる。
【0062】
基準パターン15の作成方法として、本実施の形態では、理論上の柄パターン12を構成する線を間引いて作成したが、これに限定されない。理論上の柄パターン12の間隔が広い場合には、理論上の柄パターン12を間引くことなく、基準パターンとしてそのまま使用してもよい。また理論上の柄パターン12とは別に適当なピッチで線を引き、その線を移動させて理論上の柄パターン12に重ね合わせることによって基準パターンを作成してもよい。
【0063】
<自動裁断機の動作>
次に、
図4、
図5および
図6を参照して、自動裁断機1の動作を説明する。
図4は自動裁断機1の制御系の構成を示し、
図4および
図5は自動裁断機1の動作のフローを示す。
【0064】
図4に示すように、自動裁断機1の制御系は、データ処理装置6、コントローラ7、プロジェクタ8、カメラ9および裁断ユニット駆動装置10で構成されている。更にデータ処理装置6は、入力手段としてマウス69およびキーボード70、出力手段としてディスプレイ71を備えている。これらの構成部材のうちデータ処理装置6を除いた部材については、既に説明したため、ここでは、データ処理装置6について説明する。
【0065】
データ処理装置6は、CPUからなる演算部60、メモリであるROM61およびRAM62で構成されている。演算部60は、ROM61または外部記憶装置であるハードディスク(図示せず)に格納されたソフトウェアを読み出して実行することにより、ブロック内に示した多くの機能を実現している。RAM62はワーキングメモリとしての機能を備え、また演算部60で算出したデータを一時的に格納する。
【0066】
演算部60で実現する機能のうちデータ作成手段63は、
図2に示した理論上の柄パターン11、柄合わせポイント14および基準パターン15を作成する。理論上の柄パターン11の作成に必要な柄の間隔、太さ等のデータは、パーツパターン22のデータと共に、USBメモリ等によりRAM62に取り込まれる。柄合わせポイント14および基準パターン15のデータは、マウス69から入力されたデータに基づいて作成される。
【0067】
データ修正手段64は、マウス69やコントローラ8から入力されたデータに基づいて基準パターン15の座標データを修正し、更に修正された基準パターン15の座標データに基づいてパーツパターン22の座標データを修正する。
【0068】
画像データ処理手段65は、カメラ9の位置を変えながら撮影したシート材2の部分画像を、裁断ユニット4の駆動用モータのエンコーダ(図示せず)から取得した位置情報(回転数)に基づいて仮想平面11のX−Y座標に貼り付ける。前述の
図3では、シート材2の全体画像を示しているが、必ずしもシート材の全体を表示する必要はなく、柄合わせを行う部分だけを画面に表示すればよい。
【0069】
表示データ生成手段66は、データ作成手段63およびデータ修正手段64で作成されたデータならびに画像データ処理手段65で処理された画像データに基づいてディスプレイ71に表示されるデータを生成する。同様に投射データ生成手段67は、データ作成手段63およびデータ修正手段64で作成されたデータに基づいてプロジェクタ8に表示されるデータを生成する。
【0070】
裁断データ生成手段68は、データ修正手段64で修正された各パーツのパターン22の座標データに基づいて、裁断ユニット駆動手段10の駆動用データを生成する。
【0071】
次に、
図5および
図6のフローチャートを参照して自動裁断機1における具体的な処理ステップを説明する。
図5のフローは
図2に対応した座標データの一次修正の処理ステップを示し、
図6のフローは
図3に対応した座標データの二次修正における処理ステップを示す。
【0072】
図5のステップS11において、演算部60のデータ作成手段63は、作業者の指示に従い、RAM62に格納されたシート材の柄に関するデータを読み出して、
図2(b)に示す理論上の柄パターン12を仮想平面11上に作成する。表示データ生成手段66は、その柄パターン12をディスプレイ71の画面に表示する。
【0073】
ステップS12において、データ作成手段63は、
図2(c)に示すように、RAM62に格納されたパーツパターン22のデータを読み出して理論上の柄パターン12に重ねて表示する。作業者は、マウス69を操作して画面に表示されたパーツの位置を移動させ、柄の位置および回転角度を考慮しながらパーツの配置を決める。引き続いてステップS13において、作業者は、マーカ13を移動させてパーツ毎に柄合わせポイント14を設定する。
【0074】
ステップS14において、データ作成手段63は、作業者の指示に従い、
図2(d)に示す形状の基準パターン15を作成する。表示データ生成手段66は、その基準パターン15を画面に表示する。
【0075】
ステップS15において、作業者は図示しない延反装置および被覆シート送り装置5を操作して、裁断機本体3のテーブル31上にシート材2と被覆シート51を重ねて載置する。その後、裁断機本体3内に設置された吸引装置を動作させ、負圧によりシート材2と被覆シート51をテーブル31にしっかりと固定する。なお、テーブル31上へのシート材2の載置は、ステップS11〜S14のデータ作成処理と並行して行われる。
【0076】
ステップS16において、投射データ生成手段67は、作業者の指示に従い、
図2(d)に示す基準パターン15のデータをプロジェクタ8に転送する。転送されたデータは、
図2(e)に示すように、プロジェクタ8によりテーブル31上に載置されたシート材2に実寸で投射される。
【0077】
ステップS17において、作業者はコントローラ7を操作して、
図2(f)に示すように、基準パターン15の各直線を対応する柄に合わせて移動および変形させる。基準パターン15の移動および変形に伴い、演算部60のデータ修正手段64は、基準パターン15の座標データを修正する。
【0078】
ステップS18において、作業者は、基準パターン15を構成する全ての線について移動/変形が完了したか否かを判断し、変形が完了した場合にはステップS19の処理に進み、移動/変形が完了していない場合はステップS17の処理に戻る。
【0079】
ステップS19において、作業者の指示に従い、データ修正手段64は、修正された基準パターン15の座標データに対応する形で仮想平面11上に配置されたパーツパターン22と柄合わせポイント14のデータを一次修正する。引き続きステップS20において、データ修正手段64は、一次修正されたパーツパターン22と柄合わせポイント14の座標データをRAM62に格納する。
【0080】
パーツパターン22の座標データの修正に際しては、一例として、基準パターンの座標データの変位量に基づいてX−Y座標に格子状に設定した各点の変位量を算出し、その変位量に対応した値をパーツパターンの座標データに付加する。しかしこの方法に限定されず、柄の特性を考慮して最適の方法を採用すればよい。
【0081】
次に
図6のフローを参照して、二次修正の処理ステップを説明する。ステップS21において、作業者は、データ処理装置6のマウス69を操作してカメラ9を動作させ、テーブル31に載置されたシート材2を撮影する。撮影されたシート材2の画像は、画像データ処理手段65によって仮想平面11のX−Y座標に貼り付けられる。引き続きステップS22において、作業者は表示データ生成手段66に指示して、画像データ処理手段65によってX−Y座標に貼り付けられたシート材2の画像をディスプレイ71の画面に表示する(
図3(a)参照)。
【0082】
ステップS23において、作業者の指示に従い、表示データ生成手段66は、RAM62に格納されたパーツパターン22a、22bおよび柄合わせポイント14a、14bの座標データを読み出し、ディスプレイ71の画面に表示されたシート材の柄21に重ねて表示する(
図3(b)参照)。
【0083】
図3(b)に示した例では、座標の一次修正を行った際の位置精度に起因し、柄合わせポイント14aおよび14bはシート材の対応する柄の箇所と一致していない。ステップS24において、作業者はマウス69を操作して柄合わせポイント14aおよび14bを移動させ、矢印で示すように実際の柄の対応する箇所に重ね合わせる。
【0084】
図3(c)に、座標データのパーツパターン22aおよび22bがシート材2の歪に合わせて変形され、また柄合わせポイント14aおよび14bが、実際の柄の対応する箇所に重なった状態を示す。
【0085】
ステップS25において、作業者は全ての柄合わせポイント14について移動が完了したか否かを判断し、移動が完了した場合はステップS26の処理に進み(S25でYes)、完了していない場合は(S25でNo)ステップS24の処理に戻る。
【0086】
ステップS26において、演算部60のデータ修正手段64は、柄合わせポイント14の移動に合わせてパーツパターン22の座標データを二次修正し、そのデータをRAM62に格納する。更に裁断データ生成手段68は、二次修正された座標データに基づいて裁断用のデータを生成する。
【0087】
ステップS27において、生成された裁断用のデータは裁断ユニット駆動手段10に転送され、裁断ユニット4を駆動することによりシート材2の裁断が実行される。二次修正されたパーツパターンのデータを用いて裁断を行えば、シート材の伸びや歪の影響がほとんどないパーツが得られる。
【0088】
裁断が終了したシート材2は、その後、テーブル31のコンベアを駆動して、被覆シート51と共に図示しないピックアップテーブル上に搬送され、裁断作業は終了する。
【0089】
上述の説明は、基準パターンを移動および変形する際に、X軸方向およびY軸方向の両方の座標データを修正することを前提としている。しかし、
図1の自動裁断機1の構成から分かるように、シート材2の伸びや歪は、主としてシート材2の搬送方向Aと平行なX軸方向に生じ、それと直交するY軸方向には生じにくい。
【0090】
座標データの厳密な修正を行うためには、X軸方向およびY軸方向の両方の座標を修正する必要があるが、Y軸方向の伸びや歪を無視できる場合には、X軸方向の座標データの修正のみを行うことにより、演算部60における演算量を大幅に削減して作業時間を短縮できる。
【0091】
(実施の形態2)
実施の形態1では格子状の柄を有するシート材の裁断について説明したが、ストライプ状の柄を有するシート材の裁断では、裁断までの処理ステップが若干異なっている。本実施の形態では、
図7を参照し、ストライプ状の柄を有するシート材を裁断する場合の処理ステップについて、格子状の柄を有するシート材の裁断と異なる点を中心に説明する。
【0092】
図7(a)は、ストライプ状の縦縞の柄21Aを有するシート材2Aに、裁断されるパーツ22aおよび22bのパターンを配置したものである。
図2と同様、説明を分かり易くするため、正方形のシート材2Aの上に2つのパーツが配置された状態を示している。
【0093】
格子状の柄と異なり、ストライプ状の柄のシート材を裁断する場合、ストライプと平行する方向の柄合わせについてはほとんど考慮する必要がないため、これに対応してシート材を裁断する際の処理内容が異なってくる。
【0094】
図7(b)には、理論上の柄パターン12Aに裁断するパーツのパターン22aおよび22b、ならびに位置決め用のマーカ13を重ねて表示した状態を示す。
図2に示す格子状の柄と異なるのは、ストライプに対応して理論上の柄パターン12Aが上下方向に延びる直線で構成されている点である。格子状の柄では、柄21の縦縞と横縞の交点に柄合わせポイント14を設定したが、ストライプ状の柄では交点は存在しないため、理論上の柄パターン12(図では縦縞)と重なり合う直線上のいずれかの点に柄合わせポイント14を設定する。
【0095】
図7(c)に、基準パターン15Aを理論上の柄パターン12Aに重ねて表示した状態を示す。基準パターン15Aは、格子状の柄の場合と異なり、縦縞と平行な直線で表される。
【0096】
図7(d)に、プロジェクタ8により、基準パターン15Aが、テーブル31上に載置されたシート材2Aに実寸で投射された状態を示す。その後、
図7(e)に示すように、作業者は、コントローラ7を操作し、基準パターン15Aを柄の縦縞21Aに重なり合うように移動および変形させる。
【0097】
基準パターン15Aの全ての線の移動および変形が完了した後、データ修正手段64はパーツパターン22a、22bおよび柄合わせポイント14a、14bの座標データを一次修正する。
図7(f)に、移動および変形された基準パターン15Aと共に、一次修正されたパーツパターン14a、14bが画面に表示された状態を示す
【0098】
次に、作業者はマウス69を操作し、カメラ9を動作させてテーブル31に載置されたシート材2Aを撮影し、
図7(g)に示すように、その画像をディスプレイ71の画面に表示する。更に作業者は、データ処理装置6に指示し、RAM61から一次修正されたパーツパターン14a、14bの画像データを読み出し、
図7(h)に示すように、画面に表示されたシート材21の柄に重ねて表示する。
【0099】
更に作業者は、マウス69を操作して柄合わせポイント14aおよび14bを、シート材の対応する箇所に重ね合わせる。柄合わせポイント14aおよび14bの位置合わせにおいては、格子状の柄と異なり、
図7(h)に矢印で示すように、柄合わせポイント14aおよび14bを、柄の縦縞と一致する位置まで横方向に移動させる。これは、上述したようにストライプ状の柄では、ストライプと平行する方向の柄合わせを考慮する必要がないためである。
【0100】
なお、本実施の形態では、縦縞すなわちY軸と平行な柄を有するシート材を裁断する場合について説明したが、上述の裁断方法は、横縞すなわちX軸と平行な柄を有するシート材にも適用できることは言うまでもない。
【0101】
更に、花柄のように明確な縦縞や横縞を有しない柄についても、柄がX軸方向もしくはY軸方向に繰り返し配置されるのが一般的である。従って、花柄の中心部を結ぶ直線を描くことにより、仮の縦縞や横縞あるいは格子を形成することができ、その仮の縦縞や横縞あるいは格子に対して上述の裁断方法を適用できる。
【0102】
以上説明したように、本発明にかかるシート材の裁断方法を用いれば、裁断テーブル上に載置されたシート材の伸びや歪の影響を除去したパターンのパーツを得られる。このパーツを後いて縫製を行うことにより、柄や寸法のずれのない商品価値の高い衣料を作製できる。
【0103】
なお、上述の実施の形態では、データ処理装置を用いて、理論上の柄パターンの作成からパーツパターンの座標データの修正までの作業を行ったが、理論上の柄パターンの作成から柄合わせポイントの設定までの作業は、別途CAD装置を用いて行ってもよい。データ処理作業を2つの装置で分割して行うことにより、作業効率を高めることができる。