(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
ウェブを巻き取る巻き芯を回転する巻取モータと、巻取モータの回転速度を調整して巻取時の張力を調整する張力調整手段と、前記巻き芯に巻き取られるウェブの外周を押圧するニップローラとを備えたウェブ巻取装置を制御する制御方法において、
前記巻取ロールの巻取比率を検出する巻取比率検出ステップと、
検出された前記巻取比率が80パーセント以上になる巻取範囲においては、当該巻取比率が増えるにつれて前記ニップ荷重を増加するように前記ニップ荷重を制御するニップ荷重制御ステップと、
前記巻取張力を前記巻き芯の径方向座標に関して表す張力関数を定義する張力関数定義ステップと、
少なくとも前記ウェブの巻取ロールに作用する円周方向応力と、層間の摩擦力と、スリップが生じる臨界摩擦力とをパラメータとする目的関数を定義する目的関数定義ステップと、
前記巻取ロール内部の半径方向応力の最小値が正の値をとり、且つ前記摩擦力が前記臨界摩擦力以上となるように前記目的関数の制約を設定する制約関数を定義する制約関数定義ステップと、
前記制約関数が設定する条件下で前記目的関数が小さくなるまで前記張力関数を進化させる進化ステップと、
進化した張力関数で演算した巻取張力に基づいて前記張力調整手段を制御するとともに、前記目的関数が小さくなったときのニップ荷重に基づいて前記巻取装置の前記ニップ荷重を制御する制御ステップと
を備え、
前記ニップ荷重制御ステップは、進化した張力関数で演算した巻取張力に基づいて前記張力調整手段を制御するとともに、前記目的関数が小さくなったときの値に基づいて前記ニップ荷重を制御するものである
ことを特徴とするウェブ巻取装置の制御方法。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、添付図面を参照して、本発明を実施するための最良の形態について説明する。
【0018】
まず
図1を参照して、同図示す巻取装置100は、ウェブ10を巻回した巻出装置101のロール1から、複数のガイドローラ2、一対のピンチローラ3、並びにニップローラ4を介して巻取ロール5の巻き芯5aの外周に巻回するものである。なお、図では省略されているが、ロール1から巻取ロール5に至る経路には、ウェブ10の位置ずれを防止するエッジ位置制御装置や、ウェブ10の巻取張力を検出するロードセルが配置されている。
【0019】
ニップローラ4には、巻取ロール5に対する押圧力を調整する、ニップ荷重制御手段としてのニップ荷重調整装置6が設けられている。ニップ荷重調整装置6は、加圧エア源、エアシリンダ、エアシリンダの出力を調整するレギュレータ等を有する電空変換器で具体化され、ニップローラ4と巻取ロール5との間に形成されるニップ45のニップ荷重Nを調整可能な構成になっている。
【0020】
また、巻取ロール5の巻き芯5aには、モータ7が接続されており、巻き芯5a自身が回転してウェブ10を巻き取るように構成されている。
【0021】
ウェブ10としては、液晶パネル、ディスプレイモニタ、携帯電話、太陽電池システム、その他種々の製品に使用される可撓性シートや、或いは印刷物が対象とすることができる。
【0022】
ニップ荷重調整装置6やモータ7の制御のために、巻取装置100は、制御ユニット20を備えている。制御ユニット20は、記憶部21、制御部22、モータ制御部23、並びにニップ荷重調整部24を論理的なモジュールとして備えている。さらに、制御ユニット20には、表示部25や入出力部26が接続されており、作業者が表示部25の表示を見ながら入出力部26で必要なデータ処理を行うことができるようになっている。
【0023】
記憶部21は、ROM、RAM、補助記憶装置等で具体化され、巻取装置100全体を制御する制御プログラムやパラメータを記憶する領域を備えているモジュールである。
【0024】
制御部22は、マイクロプロセッサ、記憶装置、並びに入出力インターフェイスを備えており、記憶装置に記憶されている制御プログラムやデータを読み取り、当該制御プログラムを実行して、制御ユニット20を構成する要素(モータ制御部23、ニップ荷重調整部24、表示部25、入出力部26)の制御を司るモジュールである。
【0025】
モータ制御部23は、制御部22の演算結果に基づいて、モータ7の回転速度を制御するモジュールである。また、本実施形態において、このモータ制御部23は、モータ7の回転速度の制御を通して、ウェブ10の巻取張力Twを調整する張力調整手段を兼ねている。
【0026】
ニップ荷重調整部24は、制御部22の演算結果に基づいて、ニップ荷重調整装置6による押圧力を調整するモジュールである。本実施形態において、ニップ荷重調整部24は、モータ7の回転数と運転時間とに基づき、巻取ロール5の巻取比率Rrを検出することができるようになっている。ここで巻取比率Rrとは、巻き芯5aの半径rcを初期値(0パーセント)とし、予め設定されている巻取ロール5の最外周半径r
maxを最大値(100パーセント)として、現時点での巻取ロール5の半径rが占める割合をいう。
【0027】
表示部25は、液晶ディスプレイその他の表示装置で具体化されるユニットである。
【0028】
入出力部26は、キーボードやマウスなどのポインティングディバイス、カードリーダ等の入出力装置で具体化されるユニットである。
【0029】
なお、巻取装置100が実施される態様によっては、制御ユニット20に通信機能を持たせ、制御プログラムやデータをホストコンピュータと通信するようにしてもよい。
【0030】
次に、本実施形態における制御部22が実行する巻取張力Twおよびニップ荷重Nの制御について説明する。
【0031】
まず、以下の説明で使用される主要な命名記号(Nomenclature)を表1に示し、
図2に対応する主要な物理量を示す。
【0033】
図2を参照して、巻取ロール5の任意の巻取半径rの位置でのウェブ10には、常に層間圧力(径方向圧縮応力)σ
rが作用し、この内側にあるウェブ10の各層を圧迫すると同時に、この外径にあるウェブ10の各層からの圧迫を受ける。一方、円周方向には、円周方向応力σ
tが作用するが、巻取ロール5の径方向位置によっては、これが引っ張りにも圧縮にもなり得る。巻取ロール5の幅方向の応力は、通常一様とみなして計算される。このような応力状態については、後述するウェブの巻取理論(Hakielモデル)を適用することによって計算で求めることが可能である。
【0034】
また、ニップロール4を用いた場合、巻取ロール5との間に生じるニップ45には、ニップ荷重N[N]が生じる。詳しくは後述するように、ニップ荷重Nも巻取ロール5の内部応力に大きな影響を及ぼす。なお、ニップ荷重Nは、当該ニップ荷重をウェブ幅で割ったニップ線荷重で演算することが好ましく、本実施形態に係る装置では、具体的な演算をニップ線荷重で演算しているが、説明の便宜上、全てニップ荷重Nで統一して説明する。
【0035】
図1および
図2に示した本実施形態に係る巻取装置100は、中心駆動巻取方式と呼称されているものである。このような中心駆動巻取方式における内部応力の分析は、Hakielモデルと呼称されるウェブの巻取理論が有効であることが確認されている。尤も、Hakielモデルは、空気の巻き込みや、ニップ荷重を考慮しておらず、そのまま用いることができない。そこで以下の説明では、本実施形態の理解を深めるため、空気の巻き込みと、ニップ荷重を伴う場合に拡張したHakielモデルを使用する。以下にHakielモデルの概略を示す。
【0036】
巻取ロール5の第i層での半径方向応力σ
riは、第i+1層から第n層(巻取りの最終層)までの各層における応力増分δσ
riを全て可算して求められ、式(1)により表される。ただし、第i層とは、巻き芯5aにおける層を第1番目とし、外層に向けて順番に数えたときの第i番目の層を表す。
【0038】
式(1)のδσ
rij(以下の式では、添え字i、jは、省略する)を支配する方程式は、次のように与えられる。
【0040】
式(2)は、巻取の基本となる方程式であることから、以後、「巻取方程式」とも呼称する。巻取方程式(2)は、変数rに対して最高2階の微分を含み、且つパラメータ(E
teq/E
req)は、r方向の非線形ヤング率E
reqの関数であることから、数学的には非線形2階常微分方程式である。そのため、巻取方程式(2)を解くには、巻取ロール5の最外層(r=s)と最内層に関する2つの境界条件が必要となる。
【0041】
ここで、ニップ荷重を考慮した場合、各境界条件は、下記の通りとなる。
【0043】
初期ウェブ厚さt
f0と空気膜厚さh
0とを併せた厚さ(t
f0+h
0)の等価層の応力と歪みの関係、並びにボイルの法則を用いることにより、空気の巻き込みを考慮した式(3)の径方向並びに円周方向のヤング率E
req、E
teqを次のように求めることができる。
【0045】
但し、空気層のヤング率E
raは、次のように与えられる。
【0047】
さらに、巻取過程において、任意の巻取半径のウェブ厚さt
fと空気層の厚さhは、それぞれ次のように与えられる。
【0049】
式(4)から式(6)において、h
0とt
f0とは、巻取の初期段階での空気層の厚さとウェブ厚さを示している。
【0050】
巻取時に空気が巻き込まれると、巻取ロール5のウェブ層間でのスリップが生じやすくなる。そこで、巻込み空気量を可及的に低減させてスリップを防止する目的で、本実施形態におけるように、ニップローラ4を用いた中心駆動巻取方式を採用することが多い。その場合の空気層の厚さh
0は、巻取ロール5とニップロール間の線接触EHL理論(Elastohydrodynamic lubrication Theory)により評価することができる。本実施形態では、次に示すHamrockとDowsonの結果(詳細については、Hamrock, B. J., and Dowson, D., ”Elastohydrodynamic Lubrication of Elliptical Contacts to Materials of Low Modulus I-Fully Flooded conjunction,” ASME J.Lubrication Technology, Vol.100, 1978, pp. 236-245)を利用する。
【0052】
巻取ロール5の等価内部応力を基礎にし、式(1)−(7)から求められる半径方向応力σ
rを用いて、円周方向応力σ
tは、以下の式によって与えられる。
【0054】
以上がHakielモデルに基づくウェブの巻取理論であり、現在では、所定の数値解析によって張力方程式(2)の定式化と検証が確認されている。また、かかる検証の結果、ロールディフェクトの主な要因であるロール内部応力を最適化する際に大きな影響を及ぼすパラメータは、巻取張力Twであることも確認されている。他方、巻取張力Twを最適化する手法については、これまで充分な検証がなされておらず、ましてやニップ荷重Nを最適化する方法は、これまで検討されていなかった。そこで、本実施形態では、巻取張力Twを最適化するとともに、その過程でニップ荷重Nについても最適化し、トレードオフの関係にある種々の巻取不良を何れも好適に解消する手法を提供する。
【0055】
まず、
図1に示した記憶部21には、以下に説明する張力関数Tw(r)およびニップ荷重関数N(r)、目的関数f(X)、制約関数g
i(X)(i=2n+2m+2)が記憶されている。張力関数Tw(r)は、巻取半径rに関して、巻取張力Twを演算するものである。また、ニップ荷重関数N(r)は、巻取半径rに関して、ニップ荷重Nを演算するものである。これら張力関数Tw(r)および式(10)のニップ荷重関数N(r)を進化(最適化)するため、本実施形態では、円周方向応力σ
tの平均値を目的関数とし、一般にスターディフェクト、塑性変形、並びにテレスコープと呼称されている種々の巻取不良を何れも好適に解消するための条件を与えて、張力の最適化を図るとともに、目的関数を最小化する過程でニップ荷重Nをも最適化することとしている。
【0056】
本実施形態に係る張力関数Tw(r)およびニップ荷重関数N(r)は、関数の柔軟さと扱いやすさを考慮して、以下に示すように、巻取張力Twを巻き取りロール5の巻取半径rに関する三次スプライン関数で表現し、これを記憶部21に記憶している。
【0058】
式(9)(10)から明らかなように、本実施形態では、巻取ロールの巻取開始点から最外周までをn個の等区間に分割し、スプライン法で各区間の巻取張力Twおよびニップ荷重Nを補間することとしている。式(9)、式(10)のM
iを条件として設定することにより、各区間を滑らかにつなぐ関数として、前記巻取張力Twおよびニップ荷重Nが表現される。式(9)の張力関数Tw(r)および式(10)のニップ荷重関数N(r)は、目的関数と制約関数を設定することにより、最適化(進化)される。すなわち、巻取ロール5内の円周方向応力の最小値を非負とし、円周方向応力の平均値が限りなくゼロになるように式(9)、式(10)を進化させ、好適な巻取張力Twおよびニップ荷重Nを得ることが可能となる。
【0059】
図3を参照して、式(9)の張力関数Tw(r)を進化させる方法としては、
図3の破線で示す進化過程((k+1)ステップ)での前段階(実線で示すkステップ)の張力関数に対して、各接点P
(k)(r
i、T
i)のr座標を固定し、Tw座標を正の方向または負の方向にδT
iだけ変化させて新たな接点P
(k+1)(r
i、T
i+δT
i)を得る。このようにして得られた新座標値を用いて式(9)により関数形を更新し、目的関数f(X)の値が最適となるまで逐次進化させていく。
【0060】
また、式(10)のニップ荷重関数N(r)についても、
図4に示すように、
図3と同様の手法で破線で示す進化過程((k+1)ステップ)での前段階(実線で示すkステップ)のニップ荷重関数に対して、各接点P
(k)(r
i、N
i)のr座標を固定し、N座標を正の方向または負の方向にδN
iだけ変化させて新たな接点P
(k+1)(r
i、N
i+δN
i)を得る。このようにして得られた新座標値を用いて式(10)により関数形を更新し、目的関数f(X)の値が最適となるまで逐次進化させていく。
【0061】
次に目的関数f(X)の変数について説明する。
【0062】
本実施形態では、目的関数f(X)の設計変数ベクトルが以下の通り定義され、記憶部21に記憶されている。
【0064】
本実施形態では、式(11)から明らかなように、ニップ荷重を変数として扱っている。この設計変数ベクトルにニップ荷重Nの変数を加えることにより、式(9)の張力関数Tw(r)および式(10)のニップ荷重関数N(r)を進化させる過程でニップ荷重Nを最適化することが可能になる。
【0065】
記憶部21に記憶されている目的関数f(X)は、以下の通り定義されている。
【0067】
本実施形態において、臨界摩擦力F
crは、実験によって定められたものであり、例えば、5kNである。この臨界摩擦力F
crは、テレスコープと呼称される軸線方向の型崩れが生じるか否かの臨界的な値でもあるから、後述するように、「テレスコープ条件値」とも呼称される。また、摩擦力F
i、参照値σ
t,refは、それぞれ以下の通り定義される。
【0069】
他方、設計変数ΔT
iおよびニップ荷重Nの最大値および最小値、円周方向応力σ
tminの最小値、並びにウェブ層間の平均摩擦力F
iを課す制約条件は、下記の通り定義され、記憶部21に記憶されている。
【0071】
(14)式において、制約関数g
i(X)(i=1〜2n+2m+2)は、以下の通り定義され、記憶部21に記憶されている。
【0073】
以上を要約すると、巻取張力Twの最適化は、下記の通り表現される。
【0075】
次に、上述した最適化処理を実現するため、記憶部21には、上述した予測理論モデルを演算するための情報に関するテーブル211〜221が記憶されている。ここで、テーブルとは、データベースシステムにおいて、2次元マトリックス(行と列)で表現されるデータの集合のことをいう。
【0076】
以下、
図5を参照しながら、本実施形態に係るテーブルについて説明する。なお、以下の説明では、テーブルの項目を「列」、テーブルの実現値(列に割り当てられる実際の値)を「行」という。また、
図5において、(PK)は主キーを、(FK)は外部キーを、それぞれ表わしている。主キーは、テーブル内において、行を一意に識別する列である。外部キーは、主キーと同じ値を持つことによって、当該主キーを有するテーブルのデータを参照するためのものである。複数の列を集合として表す場合には、{}でくくって示す。さらに、図中の矢印は、テーブル間の関係(リレーションシップ)を表しており、矢印の終点側のテーブルにある外部キーが矢印の起点側のテーブルにある主キーを参照していることを示している。また、2つのテーブル間において、主キーと外部キーの対応関係をカーディナリティ(行の数)で表し、矢印は、起点が0または1、終点が多のカーディナリティを有することを示している。なお、図示のテーブルは、論理的な存在であり、物理的には、同一のデータ群を複数のテーブルで構成してもよく、或いは、複数のデータ群を同一のテーブルで構成していてもよい。また、各テーブルに設定されている列は、当該テーブルにおいて、本実施形態を説明するために重要なものを列挙しているに過ぎず、図示の項目以外の列を有している場合がある。テーブルは、例えば、テキストデータで実現することが可能である。
【0077】
図5を参照して、記憶部21の補助記憶装置には、マスターテーブルとして、ウェブテーブル211、巻き芯テーブル212、ニップローラテーブル214、巻取設定テーブル215、並びに最適化手法テーブル216が記憶されている。
【0078】
ウェブテーブル211は、ウェブ10の諸元を登録するテーブルであり、ウェブ品番(主キー)毎に、厚さh
f、幅W、半径方向ヤング率E
r、円周方向ヤング率E
t、RMS合成粗さσ
ff、静的摩擦係数μs、半径方向ポアソン比ν
tr、円周方向ポアソン比ν
rtを含むパラメータを登録することができるようになっている。
【0079】
巻き芯テーブル212は、巻き芯5aの諸元を登録するものであり、巻き芯品番(主キー)毎に、ヤング率E
c、巻き芯肉厚t
c、巻き芯半径r
c、ポアソン比νを含むパラメータを登録することができるようになっている。
【0080】
ニップローラテーブル214は、ニップローラ4の諸元を登録するものであり、ニップローラ品番(主キー)毎に、当該ニップローラ4の半径r
n、ヤング率E
n、ポアソン比ν
nを含むパラメータを登録することができるようになっている。
【0081】
巻取設定テーブル215は、巻取設定コードを主キーとして、巻取率毎に巻取張力を設定する(反比例曲線を提供する)ものである。たとえば、後述する例では、この巻取設定テーブル215に登録されている設定により、運転開始から巻取比率が約20パーセントまでは、巻取張力Twが一定値(例えば、150N)になり、20パーセント経過後は、巻取比率の増加に応じて、巻取ロール5の直径と巻取張力Twの積が一定になるように設定することができる。
【0082】
最適化手法テーブル216は、後述する最適化処理において、上述した各式(9)〜(15)を演算処理する際の具体的な条件を与えるための設定条件を定めたものであり、最適化手法コードを主キーとして、初期テーパテンション、巻取張力、ニップ荷重の初期値、並びに最終値を固定するか否かを選定するための設定項目等が登録されている。
【0083】
次に、巻取装置100を運用するためのトランザクションテーブルとして、本実施形態では、巻取計画テーブル220、巻取計画明細テーブル221、ウェブ製品管理テーブル222、最適巻取テーブル223、最適ニップ荷重テーブル224が設けられている。
【0084】
巻取計画テーブル220は、巻取工程の計画を管理するための諸元を記憶するものであり、巻取計画コード(主キー)毎に、製造予定年月日、注文コードを含む項目を登録することができるようになっている。
【0085】
巻取計画明細テーブル221は、巻取計画コード毎に、巻取計画で生産される巻取ロール5の仕様や加工の一般的な仕様を登録するものであり、巻取計画毎の明細コード毎に、使用されるニップローラ4の品番、巻き芯5aの品番、ウェブ10の品番、臨界摩擦力F
cr(テレスコープ条件値)、巻取長、巻数n、最外層ロール半径r
out、巻取ロール5の数量を登録できるようになっている。また、巻取計画明細テーブル221は、巻取設定テーブル215、最適化手法テーブル216の外部キーを含んでおり、当該巻取計画の明細毎に巻取設定を行うことができるとともに、最適化手法を設定することができるようになっている。さらに、設定された最適化手法における初期テーパテンション、ニップ荷重の初期値を設定する列が設けられている。
【0086】
ウェブ製品管理テーブル222は、巻取計画明細テーブル221で決定された仕様毎に生産される個々の具体的な製品(巻取ロール5)の生産条件を管理するためのものであり、巻取計画明細テーブル221と関連づけるための外部キー{生産計画コード、明細コード}と製造番号とで構成される複合キーを主キーとし、製造年月日を登録することができるようになっている。
【0087】
最適巻取テーブル223は、最適な巻取制御に必要な巻取張力Twに関する諸元を設定するものであり、巻取計画明細毎に巻取張力T
W、巻取速度(モータ回転数)V、無次元ロール半径位置r/r
c、巻取比率Rrを設定することができるようになっている。この最適巻取テーブル223には、後述する最適化処理によって、式(9)の張力関数Tw(r)の演算結果が登録される。
【0088】
最適ニップ荷重テーブル224は、最適な巻取制御に必要なニップ荷重Nに関する諸元を設定するものであり、巻取計画明細毎にニップ荷重N、巻取速度(モータ回転数)V、次元ロール半径位置r/r
c、巻取比率Rrを設定することができるようになっている。この最適ニップ荷重テーブル224には、後述する最適化処理によって、式(10)のニップ荷重関数N(r)の演算結果が登録される。また、本実施形態では、最適巻取テーブル223と最適ニップ荷重テーブル224とが1対1の関係で関連づけられており、任意の巻取比率における巻取張力Twとニップ荷重Nとを関連づけて知ることができるようになっている。
【0089】
上述のようなテーブル211〜221を用いることにより、種々の画面やビュー表を作成し、オペレータが最適化演算を実現することができるようになる。
【0090】
図6を参照して、本実施形態では、最適化プログラムを実行するための画面300が設けられている。この画面は、図略のメインメニューから遷移したものである。
【0091】
画面300には、ウェブおよび機械条件を設定するためのコマンドボタン301と、設定された諸条件に基づいて、最適化計算の方法を設定するためのコマンドボタン303とが用意されている。最適化計算の設定結果は、テキストボックス304に表示され、あわせて、巻取装置100の運転速度(モータ7の回転数)と、ニップ荷重Nとが、それぞれテキストボックス305、306に表示されるようになっている。これらテキストボックスに表示された数値を見て、オペレータは、修正が必要かどうかを判断し、修正の必要がないと判断した場合には、転送用のコマンドボタン307を操作して、設定結果を制御ユニット20に指示する。制御ユニット20は、設定された結果に基づき、ウェブ10を巻き取って、巻取ロール5に加工し、そのトランザクション結果を
図7に示した各テーブル221〜224に登録する。また、必要に応じて、メインメニューまたは前画面に遷移することができるように、画面300には、コマンドボタン308が用意されている。
【0092】
図6のコマンドボタン301を操作した場合、画面は、ウェブおよび機械条件を設定するための画面310に遷移する。
【0093】
図7を参照して、画面310には、ウェブ10の品番を選択するためのコンボボックス311と、コンボボックス311で選択されたウェブ10の仕様を表示するリストウィンドウ312が設けられている。コンボボックス311からは、
図5のウェブテーブル211に登録されているウェブ品番がリストアップされるようになっており、その選定された品番に関する各仕様がリストウィンドウ312に表示される。新たな品番を登録する必要がある場合には、メインメニューに戻って、図略の登録画面から登録するようになっている。
【0094】
また、画面310には、巻き芯5aの品番を選択するためのコンボボックス313と、コンボボックス313で選択された巻き芯5aの仕様を表示するリストウィンドウ314が設けられている。コンボボックス313からは、
図5の巻き芯テーブル212に登録されている巻き芯品番がリストアップされるようになっており、その選定された品番に関する各仕様がリストウィンドウ314に表示される。新たな品番を登録する必要がある場合には、メインメニューに戻って、図略の登録画面から登録するようになっている。
【0095】
また、画面310には、ニップローラ4の品番を選択するためのコンボボックス315と、コンボボックス315で選択されたニップローラ4の仕様を表示するリストウィンドウ316が設けられている。コンボボックス315からは、
図5のニップローラテーブル214に登録されているニップローラ品番がリストアップされるようになっており、その選定された品番に関する各仕様がリストウィンドウ316に表示される。新たな品番を登録する必要がある場合には、メインメニューに戻って、図略の登録画面から登録するようになっている。
【0096】
オペレータは、リストウィンドウ312、314、316に表示された仕様を確認し、表示された内容に変更がなければ、実行用のコマンドボタン317を操作して次の画面に遷移する。コマンドボタン317が操作されると、画面は、
図8の運転条件入力用の画面320に遷移する。
【0097】
図8を参照して、画面320には、最適化手法を選定するコンボボックス318が用意されている。コンボボックス318は、
図5の最適化手法テーブル216に設定されている最適化手法コードを表示するものであり、このコードを選定することにより、最適化処理における設定条件を選定することができるようになっている。また、画面320には、運転速度の範囲を設定するためのテキストボックス321と、テレスコープ条件値(臨界摩擦力F
cr)を入力するためのテキストボックス322とを備えている。図示の実施形態では、運転速度の入力によって、所定の換算値を表示するテキストボックス323が用意されている。
【0098】
さらに、画面320には、巻取張力の上限値と下限値を設定するためのテキストボックス324aと324bが設けられており、その換算値(ニップ線荷重)を表すテキストボックス325a、325bが上限値、下限値に対応して設けられている。
【0099】
また、画面320には、ニップ荷重の上限値と下限値を設定するためのテキストボックス326aと326bが設けられている。テキストボックス324a、324b、326a、326bの値は、巻取計画明細テーブル221に登録される。また、画面320には、最適化手法に応じて、ニップ荷重を固定する際に、当該ニップ荷重初期値を入力するテキストボックス326cが設けられている。このテキストボックス326cに入力された値は、巻取計画明細テーブル221に登録される。
【0100】
画面320には、設定された条件に基づいて、最適化処理を実行するための最適化実行ボタン327が設けられている。オペレータは、上述した諸元を対応するテキストボックス等に入力し、この最適化実行ボタン327をクリック(操作)することにより、設定された条件に基づいて、最適化処理が実行される。画面320には、最適化処理が実行されていることを示す表示ウィンドウ328が設けられており、この表示ウィンドウに328に所定のメッセージ「計算中です。経過時間:00:00:00」等が表示される。最適化処理が終了すると、処理結果を示す画面330に遷移する。
【0101】
図9を参照して、画面330は、画面320の一部の項目であるテキストボックス324a、324b、325a、325b、326aと326b、並びにボタン327、308と、グラフ表示用のウィンドウ332とを表示するものである。ウィンドウ332には、演算結果に基づく巻取張力TwのグラフTw
INVと、ニップ荷重N
INVとが表示される。
【0102】
次に、
図10を参照して、最適化処理ついて説明する。
【0103】
図8の画面320に表示された最適化実行ボタン327がクリックされると、制御ユニット20は、
図5の各テーブルから必要なデータを読み取る(ステップS101)。次いで、制御ユニット20は、カウンタ変数kを0に初期化し(ステップS103)、読み取ったデータ、基礎方程式(26)、並びに基礎方程式(26)に関連する諸式に基づいて、張力関数T
W(r)とニップ荷重関数N(r)のそれぞれについて、最適化手法テーブル216に登録された初期テーパテンションを与えて演算し、区画r0〜rsにおける巻取張力T
Wおよびニップ荷重Nを演算する(ステップS104)。この最初のステップ(k=0)では、例えば、
図3の仮想線で示す直線的なテーパ率で、巻取張力T
Wが設定され、
図4の仮想線で示す特性で、ニップ荷重Nが設定される。
【0104】
次いで、制御ユニット20は、制約関数gi(X)の制約下で、k番目の目的関数f(X)
(k)の最小値を探索する(ステップS105)。次いで、制御ユニット20は、この段階で得られた設計変数ベクトルのうち巻取張力T
W(ΔT
W1、ΔT
W2、ΔT
W3、・・・ΔT
Wn)に基づき、張力関数T
W(r)を進化させ、ニップ荷重N(ΔL
1、ΔL
2、ΔL
3、・・・ΔL
m)に基づき、ニップ荷重N(r)を進化させる。具体的には、各接点P
(k)のr座標を固定し、T
W座標を正または負の方向にΔT
Wiだけ変化させて、新たな接点P
(k)を得る。例えば、仮想線で示す初期巻取張力T
W0が進化した場合、実線で示す巻取張力T
Wkに張力関数T
W(r)が進化する。また、ニップ荷重N(r)についても、同様の演算を実施し、新たな接点P
(k)を得る。
【0105】
次いで、制御ユニット20は、探索された目的関数f(X)が最小値であるか否かを検証し(ステップS107)、最小値でなければ、ステップkをインクリメントして(ステップS108)ステップS6以下を繰り返し、最小値に達していれば、制御工程に移行する。
【0106】
具体的には、目的関数f(X)が最小値になるまで進化した式(9)の張力関数T
W(r)に基づく巻取張力T
Wと、式(10)のニップ荷重関数N(r)とによって、モータ7を制御する(ステップS109)。この結果、巻取直後においても、温度変化が生じた後においても、スターディフェクト、塑性変形、並びにテレスコープが何れも生じない巻取ロール5を得ることが可能になる。
【0107】
次に、本実施形態の作用効果を明確にするために、いくつかの演算例について説明する。
【0108】
まず、
図11を参照して、本件発明の開発過程で得られた巻取張力Twの特性について説明する。
【0109】
ニップ荷重Nを所定の値(図示の例ではN=50)で固定し、本件出願人が先に提案した特許文献1に係る技術を利用した場合、その特性は、Tw
covである。この特定では、ウェブ10の巻取張力Twを巻取比率Rrの約20パーセントから後半側で漸減している。モータ7の運転条件が特性Tw
covのように設定されている場合、その出力は、仮想線で示す出力可能範囲Mのように制約される。
【0110】
出力可能範囲Mは、以下の手順で演算したものである。
【0111】
すなわち、巻き芯5aの回転数Nr[rpm]およびトルクτ[N・m]は、次式の通りである。
【0113】
これらの式(17)、式(18)から、ライン速度一定、巻取張力一定のもとでは、モータの回転数Nrおよびトルクτは、巻取径の増加により変化する。
【0116】
式(19’)は、一定速度、一定張力のもとでは、径の変化に関係なく定出力であることを示している。
【0117】
そこで、式(19’)から、モータの必要馬力を次式の通り求めることができる。
【0121】
とすると、馬力は、P=ωτでもあるから、式(21)に基づき、種々の態様を演算することができる。
【0124】
これに対して、本件出願人が先に提案した非特許文献1に係る最適化技術を利用し、ニップ荷重Nを特性Tw
covと同じ定数で固定して巻取張力Twを最適化した場合、その特定は、Tw
optのようになる。図から明らかなように、最適化された特性では、巻取比率Rrが70パーセント以降においては、巻取張力Twを比較的急激に高めるようになっている。このような特性では、
図12に摩擦力F、半径方向応力σr、円周方向応力σ
tは、何れも良好な特性となり、巻崩れ、シワなどの巻取不良を好適に回避できることが分かった。
【0125】
しかしながら、モータ7の運転特性を従来からTw
covのように設定していた場合には、巻取比率Rrが100パーセントのところでは、最適な巻取張力を得るために必要なモータ出力特性がモータ7の出力可能範囲Mの領域外となってしまい、モータ7を特性Tw
optに追従させることが困難であることも分かった。
【0126】
そこで、本件発明者は、Tw
covの運転特性を最適な特性Tw
optと同じ効果の運転特性に近づけるため、
図11に示すいくつかの比較例を検討した。以下に説明する比較例では、何れもニップ荷重Nは、特性Tw
optと同じ定数(N=50)である。
【0127】
第1の比較例Tw
T1は、最適な特性Tw
optに対し、巻取後の巻取張力Twを130パーセントに上げた場合である。
【0128】
第2の比較例Tw
T2は、最適な特性Tw
optに対し、巻取後の巻取張力Twを80パーセントに下げた場合である。
【0129】
第3の比較例Tw
T3は、最適な特性Tw
optに対し、巻取比率が約50パーセントのところで、巻取張力を過渡的に増加した場合である。
【0130】
図12を参照して、第1の比較例Tw
T1の場合、巻取比率Rrの前半側で、摩擦力F、半径方向応力σrが高くなりすぎる傾向があることが認められた。
【0131】
また、第2の比較例Tw
T2の場合、巻取比率Rrの前半側で、摩擦力F、半径方向応力σrが低くなりすぎる傾向があることが認められた。
【0132】
さらに、第3の比較例Tw
T3の場合、巻取張力Twを上昇させたタイミングで、過渡的に摩擦力F、半径方向応力σrが高くなりすぎる傾向が見られた。
【0133】
加えて、各比較例Tw
T1〜
T3の何れにおいても、円周方向応力σ
tが適切な値にならなかった。
【0134】
これらのことから、巻取張力Twの操作のみによっては、単純に特性Tw
covから特性Tw
optに代替可能な特性を得ることが困難であることがわかった。
【0135】
また、その後の研究で、特性Tw
optにおける巻取比率Rrの後半側での巻取張力Twの増加は、テレスコープと呼称される巻取不良を回避するために有効であることも確認された。
【0136】
これらの知見から、本件発明者は、式(11)のように、ニップ荷重Nを変数として扱い、巻取張力Twとニップ荷重Nを同時に最適化することによって、巻取張力Twの巻取比率Rr後半側での張力不足をニップ荷重Nで補うことに成功したのである。
【0137】
以上説明したように、本実施形態によれば、ウェブ10を巻き取る巻き芯5aを回転する巻取モータとしてのモータ7と、モータ7の回転速度を調整して巻取時の張力を調整する張力調整手段としてのモータ制御部23とを備え、好ましくは、巻き芯5aにウェブ10が巻き取られて形成された巻取ロール5の巻取範囲が所定の巻取比率Rrから後半側では、ウェブ10の巻取張力Twを低減するように設定されたウェブ巻取装置100において、巻き芯5aに巻き取られるウェブ10の外周を押圧するニップローラ4と、ニップローラ4によるウェブ10へのニップ荷重Nを調整するニップ荷重調整手段としてのニップ荷重調整装置6と、巻取比率Rrが80パーセント以上になる巻取範囲において、巻取比率Rrが増えるにつれてニップ荷重Nを増加するようにニップ荷重調整装置6を制御するニップ荷重制御手段としてのニップ荷重調整部24とを備えているウェブ巻取装置100である。
【0138】
本実施形態によれば、
図10のステップS109において、巻取ロール5の巻取比率Rrを検出する巻取比率検出ステップと、検出された巻取比率Rrが80パーセント以上になる巻取範囲においては、当該巻取比率Rrが増えるにつれてニップ荷重Nを増加するようにニップ荷重Nを制御するニップ荷重制御ステップとが実行される。
【0139】
このため本実施形態では、予め、巻取ロール5の巻取比率Rrが所定の値から後半側では、巻取張力Twが漸減するので、従来通り、しわや弛みなどの巻取不良のない巻取ロール5を得ることができる。しかも、巻取ロール5の巻取比率Rrが80パーセント以上になる巻取範囲においては、巻取比率Rrが増えるにつれてニップ荷重Nが増加するので、巻取の後半側で生じがちな巻取張力Twの不足分をニップ荷重Nで補完することができる。従って、より好適な巻取特性を発揮し、巻取ロール5の内部応力が好適に配分される。この結果、従来に増して、しわや弛みの発生を防止することができる。
【0140】
また、本実施形態では、巻取張力Twを巻き芯5aの径方向座標に関して表す張力関数を記憶する張力関数記憶手段と、少なくともウェブ10の巻取ロール5に作用する円周方向応力σrと、層間の摩擦力Fと、スリップが生じる臨界摩擦力F
crとをパラメータとする目的関数を記憶する目的関数記憶手段と、巻取ロール5内部の半径方向応力の最小値が正の値をとり、且つ摩擦力Fが臨界摩擦力F
cr以上となるように目的関数の制約を設定する制約関数を記憶する制約関数記憶手段と、制約関数が設定する条件下で目的関数が小さくなるまで張力関数を進化させる進化処理手段とをさらに備え、ニップ荷重調整部24は、進化した張力関数で演算した巻取張力Twに基づいてモータ制御部23を制御するとともに、目的関数が小さくなったときの値に基づいてニップ荷重Nを制御するものである。このため本実施形態では、巻取張力Twを設定する張力関数が所定の条件下で進化し、好適な巻取張力Twを演算することができるので、しわや弛みを防止しつつ、種々のウェブ10をきわめて好適な状態で巻き取ることができる。
【0141】
また、本実施形態では、制約関数記憶手段は、制約関数のパラメータとして、ニップ荷重Nを変数とする設計変数を記憶するものであり、進化処理手段は、ニップ荷重Nを変数として最適化するものである。このため本実施形態では、設計変数の要素として用いられたニップ荷重Nをも考慮して最適化することができるので、より好適にニップローラ4の押圧力を調整することができる。従って、精緻な解析モデルによって、巻取張力Twを最適化することができる。加えて、巻取ロール5の巻取比率Rrが80パーセント以上になる巻取範囲においては、最適な巻取張力Twを維持しつつ、巻取比率Rrの増加につれて増加するニップ荷重Nを最適化することができるので、極めて好適な巻取特性を得ることができる。
【0142】
従って、本実施形態によれば、従来通り、しわや弛みなどの巻取不良のない巻取ロール5を得ることができる一方、巻取ロール5の巻取比率Rrが80パーセント以上になる巻取範囲においては、巻取比率Rrが増えるにつれてニップ荷重Nが増加するので、巻取の後半側で生じがちな巻取張力Twの不足分をニップ荷重Nで補完することができる。従って、より好適な巻取特性を発揮し、巻取ロール5の内部応力が好適に配分される。この結果、従来に増して、しわや弛みの発生を防止することができるという顕著な効果を奏する。
【実施例】
【0143】
以下に実施例を示す。
(第1の実施例)
図13を参照して、第1の実施例では、巻取張力Tw、ニップ荷重Nの初期値を固定せず、自由に調整可能な条件で最適化処理を実行した。第1の実施例において、巻取張力Tw、ニップ荷重Nの特性は、それぞれTw
INV、N
INVの通りとなった。
図13から明らかなように、この巻取張力Tw
INVは、巻取比率Rrが20パーセントのところまでは、大きく降下し、20パーセント以降は、緩やかに降下して、約80パーセントのところで漸増している。そして、巻取比率Rrが100パーセントのところであっても、その値は、特許文献1に係る技術での特性Tw
covと略同じになり、ギャップSHは、可及的に0に近い値となった。
【0144】
図14(A)を参照して、第1の実施例での摩擦力Fは、巻取比率Rrのほぼ全域にわたって、臨界摩擦力F
crよりも高くなっており、良好な摩擦力特性であることが確認された。また、
図14(B)に示されるように、半径方向応力についても、全域にわたって、特性Tw
optと近似した特性が得られることが確認された。さらに、
図14(C)に示されるように、円周方向応力においても、全域にわたって、0以上の値を維持できることが確認された。
【0145】
この結果、特許文献1に係る技術によってモータ7の運転特性を設定したままの状態であっても、第1の実施例によって、最適な巻取張力Twを得ることができることが確認された。
(第2の実施例)
図15を参照して、第2の実施例では、巻取張力Tw、ニップ荷重Nの双方において、初期値を固定して、最適化処理を実行した。その結果、
図14とほぼ同じ結果が得られた。この結果、巻取張力Tw、ニップ荷重Nの双方の初期値を固定して最適化処理を実行した場合においても、特許文献1に係る技術によってモータ7の運転特性を設定しつつ、最適な巻取張力Twを得られることが確認された。
(第1の比較例)
図16を参照して、第1の比較例では、ニップ荷重Nを所定の最適値(図示の比較例では、N=107N/m)に固定し、巻取張力Twのみ最適化する処理を実施した。
【0146】
結果は、Tw
cp1の通りとなった。第1の比較例では、巻取比率Rrが100パーセントのところで、出力可能範囲Mの領域外となってしまった。
(第2の比較例)
図17を参照して、第2の比較例では、ニップ荷重Nの初期値を固定して、巻取初期のシワを防止する措置を施すとともに、巻取比率が25パーセント以降でニップ荷重Nを固定し、巻取張力Twを最適化する処理を施した。
【0147】
結果は、Tw
cp2の通りとなった。この第2の比較例においても、巻取比率Rrが100パーセントのところで、出力可能範囲Mの領域外となってしまった。
(第3の比較例)
図18を参照して、第3の比較例では、ニップ荷重Nを任意の値(N=100)で固定して、巻取張力Twのみ最適化する処理を施した。
【0148】
結果は、Tw
cp3の通りとなった。この第3の比較例においても、巻取比率Rrが100パーセントのところで、出力可能範囲Mの領域外となってしまった。
【0149】
図19〜
図23は、第1、第2の実施例、並びに第1〜第3の比較例の特性に基づく巻取ロール5の内部応力をグラフにしたものである。
【0150】
これらの図から明らかなように、何れの場合も摩擦力F、半径方向応力σr、円周方向応力σ
tは、何れも好適であるが、第1、第2の実施例では、巻取比率Rrが100パーセントのところでの巻取張力Tw
INVを低く抑えることができるのに対し、第1〜第3の比較例では、巻取比率Rrが100パーセントのところでの巻取張力Tw
cp1〜Tw
cp3が高くなることが確認された。
【0151】
本発明は、上述した実施の形態に限定されるものではない。
【0152】
例えば、
図24に示すようなプログラムを用いて、近似的に最適制御を図ることが可能である。
【0153】
図24を参照して、同図に示す変形例では、特許文献1の技術に基づいて、モータ7の運転特性を制御ユニット20に設定しておく(ステップS200)。また、予め設定された巻取比率(好ましくは80パーセント)をしきい値として設定しておく。制御ユニット20は、巻取比率を演算し(ステップS201)、演算された巻取比率がしきい値に達しているか否かを判定する(ステップS202)。仮に巻取比率がしきい値に達している場合、制御ユニット20は、ニップ荷重Nを巻取量に応じて所定の比率で上昇する(ステップS203)。その場合、巻取張力Twは、ステップS200で設定されたままである。制御ユニット20は、巻取量に達したか否か、すなわち巻取比率が100パーセントになったか否かを判定し(ステップS204)、巻取量に達していない場合には、ステップS203に移行して上述した処理を繰り返し、巻取量に達した場合には、処理を終了する。また、ステップS202において、巻取比率がしきい値に達していないと判定された場合には、ステップS200で設定された設定値に基づいて巻取張力を制御し(ステップS205)、ステップS201に移行して上述した処理を繰り返す。
【0154】
図24に示した例では、予め実験や最適値のシミュレーション演算に基づいて、ステップと202におけるしきい値と、ステップS203におけるニップ荷重の上昇比率を定めておくことにより、最適値演算を工程毎に実行することなく、近似的に最適な巻取特性を得ることが可能となる。
【0155】
その他、本発明の特許請求の範囲内で種々の変更が可能であることは、いうまでもない。