【実施例1】
【0010】
本発明の実施例1について図を用いて説明する。
図1は、本発明における実施例1の走査型表示装置100のブロック図である。図中一点鎖線は、光ビームの光軸を示す。
レーザ光源101は例えば520nm帯の緑色光ビームを出射する半導体レーザ光源である。レーザ光源101から出射した緑色光ビームは、コリメートレンズ102にて平行光ビームに変換される。
【0011】
レーザ光源103は例えば640nm帯の赤色光ビームを出射する半導体レーザ光源である。レーザ光源103から出射した赤色光ビームは、コリメートレンズ104にて平行光ビームに変換される。
光合成素子107は、緑色光ビームを透過、赤色光ビームを反射するダイクロイックミラーである。さらに、緑色光ビームと赤色光ビームの光軸が略一致するよう調整される。
【0012】
レーザ光源105は例えば440nm帯の青色光ビームを出射する半導体レーザ光源である。レーザ光源105から出射した青色光ビームは、コリメートレンズ106にて平行光ビームに変換される。
光合成素子108は、緑色光ビームおよび赤色光ビームを透過、青色光ビームを反射するダイクロイックミラーである。青色光ビームと緑色および赤色光ビームの光軸が略一致するよう調整される。
【0013】
合成された3色の光ビームは、位相分布変化装置109に入射される。
位相分布変化装置109は、走査素子110、位相分布変化素子111、走査素子112で構成される。
3色の光ビームは、まず走査素子110に入射される。
走査素子110は、例えば所定の走査軸のまわりに反射ミラーを偏向駆動することにより、3色の光ビームを位相分布変化素子111上に所定の方向に走査する機能がある。走査素子110は、例えば、Micro Electro Mechanical Systems(以下、MEMS)ミラーや、ガルバノミラー等を用いることで実現できる。
【0014】
次に、走査素子110で反射された3色の光ビームは、位相分布変化素子111に入射される。この位相分布変化素子111は、後に詳細に説明するように、光ビームが位相分布変化素子111を通過する位置によって異なる位相分布を光ビームに付加する機能を備えている。
次に、3色の光ビームは、走査素子112に入射される。走査素子112は、走査素子110と同様の偏向機能を備え、走査素子110と同期して反射ミラーを偏向駆動することにより、走査素子110内のミラー面と走査素子112内のミラー面とが常時略平行状態を保つよう制御される。走査素子110に入射された3色の光ビームは、走査素子112を反射後、所定の角度、例えば走査素子110に入射した光ビームと略平行な状態で位相分布変化装置109から出射される。走査素子112も、例えば、MEMSミラーやガルバノミラーで実現できる。
【0015】
位相分布変化装置109を出射した3色の光ビームは、所定の角度で画面走査素子113に入射される。画像走査素子113は、水平走査軸と垂直走査軸を有し、反射ミラーを各走査軸のまわりに偏向駆動することでスクリーン上を2次元に走査する機能がある。画像走査素子113も、例えば、MEMSミラーやガルバノミラーで実現できる。
画面走査素子113を通過した3色の光ビームは、走査型表示装置100の上面に設けた制限開口114を通って外部に設置されているスクリーン上の同じ位置に3個の光スポットを重ねて形成する。すなわち、スクリーン上には1個の光スポットとして確認できる。本実施例の走査型表示装置100で表示する画像の場合、1個の光スポットは画像の1画素に相当する。
【0016】
なお、本実施例では制限開口114に3色の光ビームの透過率が十分に高い透明なガラスまたはプラスチックのカバーを取り付けている。このようなカバーを取り付けることで、走査型表示装置100内に入り込む粉塵等により、光学部品の透過率の劣化や走査素子の故障などを防ぐことが可能となる。
以上のように、本実施例の走査型表示装置100は、少なくともレーザ光源101とコリメータレンズ102、レーザ光源103とコリメータレンズ104、レーザ光源105とコリメートレンズ106、ダイクロイックミラー107、ダイクロイックミラー108のような光合成素子、位相分布変化装置109、画面走査素子113、制限開口114にて構成されればよく、途中に回折格子や波長板などの素子が追加され、或いはミラーで光路を折り曲げた構成であっても何ら構わない。
【0017】
続いて、
図2を用いて位相分布変化素子111の具体的構成例について説明する。
位相分布変化素子111は、図のように、片面は平面、もう一方の面は所定の深さの凹凸が平面上に不規則に形成された透明なガラスまたはプラスチックの板である。図中矢印方向は3色の光ビームの進行方向を示す。外形は、3色の光ビームのビーム径に比べ十分に大きい。
【0018】
3色の光ビームが位相分布変化素子111を通過する際、凹部を通過した光ビームより凸部を通過した光ビームの位相が遅れる。そのため、位相分布変化素子111を通過した3色の光ビームは、不揃いな位相分布が付加される。
上記のように、3色の光ビームは、走査素子110にて位相分布変化素子111上に走査されることにより、位相分布変化素子111を通過する位置が動的に変化する。位相分布変化素子111は、平面上に形成された凹凸が不規則なため、光ビームの通過位置によって異なる位相分布が光ビームに付加される。その結果、光ビームは、走査素子110で位相分布変化素子111上を走査されることにより、光ビーム内の位相分布が動的に変化する。
【0019】
位相分布変化素子111を通過した3色の光ビームは、位相分布だけでなく、走査素子110にて位相分布変化素子111上を走査されることにより、その進行方向も変化する。しかし、上記のように、その進行方向の変化は走査素子112で相殺され、結局のところ位相分布変化素子111上の走査位置に関係なく、一定の出射方向を保持したまま位相分布変化装置109から出射される。
このように、位相分布変化装置109は、入射する光ビームの位相分布を動的変化させ、かつ所定角度で出射させるものである。
以下、スペックルノイズの発生理由とその低減方法について説明する。
【0020】
光ビームが通常のスクリーンで反射されると、スクリーンの表面粗さにより散乱光が発生する。一方、レーザ光源から出射された光ビームは一般的に可干渉性があるため、レーザ光ビームの散乱光は網膜内で干渉し、一様な明点と暗点の分布、いわゆるスペックルパターンとなる。スペックルパターンは、画像劣化の要因となり、スペックルノイズと呼ばれる。
スペックルノイズを低減する方法に、互いに相関がない複数のスペックルパターンを重ね合わせ、スペックル強度を平滑化する方法がある。
【0021】
位相分布が異なる複数の光ビームで発生したスペックルパターンは、それぞれ異なり、かつ各光ビーム間で相関がない性質がある。このような相関が異なる複数のスペックルパターンを重ね合わせると、スペックル強度の平均化により、平滑化することができる。また、相関が異なる複数のスペックルパターンを交互に高速表示しても、目は所定の時間積分の光量を感知するため、それぞれのスペックルパターンを重ね合わせたものとして感知される。その結果、スペックル強度が平滑化される。
【0022】
本実施例の位相分布変化装置109は、入射した3色の光ビームの位相分布を動的に変化させることで、相関のない複数のスペックルパターンをスクリーン上に交互に表示させるように作用する。
走査素子110および走査素子112はMEMSミラーやガルバノミラーを想定しており、3色の光ビームを位相分布変化素子111上に高速に走査できる。そのため、3色の光ビームの位相分布は高速変化し、複数の互いに相関のないスペックルパターンを交互に高速表示することが可能である。その結果、スペックル強度は平滑化され、スペックルノイズを低減することができる。
【0023】
本実施例は、上記のように、2個の走査素子と1個の位相分布変化素子を有する位相分布変化装置109を光学系に挿入する簡素な構成で、スペックルノイズの低減が可能である。
なお、位相分布変化素子111は、光ビームの入射側が平面、出射側に凹凸が形成されるとしたが、入射側に凹凸が形成されていてもよい。また、両面に所定の凹凸が形成されていても何ら構わない。さらに、両面または片面に所定の凹凸が形成された複数の透明なガラスまたはプラスチックの板であっても何ら構わない。
また、液晶素子も光ビームの位相を変化させることができる。位相分布変化素子111は、複数の領域を持つ液晶素子で構成されても何ら構わない。
【0024】
上記のように、緑色、赤色、青色の3色の光ビームは、光合成素子108を経た後光軸が合成される。本実施例は、3色の光ビームが合成される構成であればよく、2個のダイクロイックミラーの代わりに2個のダイクロイックプリズムを用いる構成であってもよい。また、緑色、赤色、青色のレーザ光源の配置が異なってもよい。さらに、液晶プロジェクタ等で一般的に用いられる1個のダイクロイッククロスプリズムを用いてもよい。
【0025】
ここでは、緑色、赤色、青色光ビームを出射するレーザ光源は別々のパッケージ内にあると想定しているが、同一パッケージ内にあっても何ら構わない。
本実施例は、3個のコリメートレンズを用いて、3色の光ビームを平行光に変換後、2個のミラーを用いて3色の光ビームを合成する構成である。この構成は、レーザ光源から発散光で出射した光ビームを平行光に変換する取り込み効率を高めることが可能である。取り込み効率が高い程、明るい画像を表示できる効果がある。しかしながら、3色の光ビームをミラーまたはプリズムで合成後、1個のコリメートレンズで平行光に変換しても何ら構わない。また、各コリメートレンズはマイクロレンズアレイであってもよい。
【実施例2】
【0026】
続いて、本発明の実施例2について説明する。
本実施例は、実施例1の位相分布変化素子111を
図3に示す屈折率分布素子211に置き換えたものである。よって、光学系の詳細な説明は割愛する。
屈折率分布素子211は、屈折率が異なる2種類の透明なガラスまたはプラスチックを平面上に不規則に並べて構成された平板である。図に示す網目領域は、他の領域よりも屈折率が高い材料であることを示す。図中矢印方向は3色の光ビームの進行方向を示す。外形は、3色の光ビームのビーム径に対して十分に大きい。
【0027】
3色の光ビームが屈折率分布素子211を通過するとき、屈折率が低い領域を通過する光ビームの位相比べ屈折率が高い領域を通過する光ビームの位相が遅れる。そのため、屈折率分布素子211も位相分布変化素子111と同様、通過する3色の光ビームに不揃いな位相分布を付加できる。
走査素子110で3色の光ビームを屈折率分布素子211上に走査すると、屈折率分布素子211を通過する光ビームの位置が動的に変化する。屈折率分布素子211を構成する屈折率分布は不規則なため、光ビームが通過する位置によって光ビームに付加される位相分布は異なる。その結果、屈折率分布素子211を通過した後の光ビームも、光ビームに付加される位相分布が動的に変化する。すなわち、屈折率分布素子211は、位相分布変化素子111と同じように、通過する光ビームの位置によって異なる位相分布を付加させる機能をもつ。位相分布変化素子111を屈折率分布素子211に置き換えても3色の光ビームの位相分布を動的に高速変化させることが可能であり、スペックルノイズを低減することができる。
【0028】
本実施例も、上記のように、2個の走査素子と1個の屈折率分布素子を光学系に挿入するだけの簡素な構成で、スペックルノイズの低減が可能である。
なお、屈折率分布素子211は、屈折率が異なる2種類の透明なガラスまたはプラスチックにて構成される平板としたが、屈折率が異なる2種類以上の透明なガラスまたはプラスチックにて構成されてもよい。
【0029】
また、屈折率分布素子211は、透明な板上に複数の屈折率が異なる2種類以上の透明なガラスまたはプラスチックが並べられた構成であっても何ら構わない。
また、屈折率が異なる2種類の透明なガラスまたはプラスチックにて構成された平板を2枚以上用いる構成であっても何ら構わない。
また、屈折率が異なる2種類以上の透明なガラスまたはプラスチックにて構成される平板の両面もしくは片面に不規則な深さの凹凸を設けた構成であっても何ら構わない。
【実施例3】
【0030】
続いて、本発明の実施例3について説明する。
本実施例は、実施例1の位相分布変化装置109を偏光分布変化装置に置き換えたものである。よって、光学系の詳細な説明は割愛する。
偏光分布変化装置は、走査素子110、偏光分布変化素子311、走査素子112にて構成される。走査素子110、走査素子112の機能は位相分布変化装置109と同じであり、詳細な説明を割愛する。
【0031】
図4に、偏光分布変化素子311の具体的構成例を示す。
偏光分布変化素子311は、波長板と透明なガラス板を複数個平面上に不規則に並べて構成したものである。図は、斜線領域は波長板、他の領域は透明なガラス板を示す。図中矢印方向は3色の光ビームの進行方向を示す。外形は、3色の光ビームのビーム径に比べて十分に大きい。
偏光分布変化素子311に入射した3色の光ビームは、斜線領域では偏光方向が回転し、その他の領域では偏光方向の回転はなくそのまま通過する。偏光分布変化素子311を通過した3色の光ビームは、不揃いな偏光分布が付加される。
【0032】
一般的に、光ビームの干渉による明点と暗点の分布、いわゆるスペックルパターンの発生は、偏光方向が同一の光ビームで起こる現象である。このことから、偏光分布が異なる光ビームで発生したスペックルパターンもそれぞれ異なり、かつ各光ビーム間において相関がない。偏光分布が異なる複数のスペックルパターンを交互に高速表示しても、スペックル強度は平滑化されスペックルノイズを低減することができる。
偏光分布変化素子311を構成する波長板とガラス板は不規則に並んでいるため、光ビームは通過する位置によって異なる偏光分布が付加される。一方、上記のように、走査素子110は偏光分布変化素子311上を高速に走査可能である。その結果、走査素子110で反射した光ビームは、偏光分布変化素子311を通過すると、その光ビーム内の偏光分布が動的に高速変化する。その結果、偏光分布が異なる複数のスペックルパターンを交互に高速表示することが可能となり、スペックル強度の平滑化によってスペックルノイズを低減することができる。
【0033】
本実施例も、上記のように、2個の走査素子と1個の偏光分布変化素子で構成される偏光分布変化素子を光ビームの光路に挿入するだけで、スペックルノイズの低減が可能である。
なお、偏光分布変化素子311は、波長板と透明なガラス板とで構成されるとしたが、主軸方向が異なる2個以上の波長板で構成されても何ら構わない。
また、液晶素子も、波長板と同様に偏光を回転させることができる。偏光分布変化素子311は、複数の領域を持つ液晶素子で構成されても何ら構わない。
【実施例4】
【0034】
続いて、本発明の実施例4について図を用いて説明する。
図5は、本発明における実施例4の走査型表示装置400のブロック図である。
走査型表示装置400は、走査型表示装置100に対して、位相分布変化装置401、画面走査素子402が異なる。それ以外の部品は走査型表示装置100と同じものであるため、同じ番号を付与し、詳細な説明を割愛する。
【0035】
位相分布変化装置401は、走査素子110と位相分布変化素子111で構成される。すなわち、位相分布変化装置109から走査素子112を除いたものである。
画面走査素子402は、水平走査軸と垂直走査軸を有し、各走査軸のまわりに反射ミラーを偏向駆動することで、スクリーン上を2次元に走査することができる。さらに、画面走査素子402は、その回転角度が走査素子110と同期制御され、走査素子110にて走査されることで変化した光ビームの進行方向を相殺する機能を兼ね備えている。画面走査素子は、例えばMEMSミラーやガルバノミラーで実現できる。
【0036】
すなわち、画面走査素子402は、走査型表示装置100の走査素子112と画面走査素子113を合わせた機能をもつものである。
走査型表示装置400は、複雑な回転機構などを有せず、位相分布変化装置401を光学系に挿入し、画像走査素子402と走査素子110とを同期制御するだけで、スペックルノイズの低減が可能である。
さらに、走査型表示装置400は、走査型表示装置100に対して走査素子112の機能をもつ走査素子を削減することができ、小型化できる。
【0037】
位相分布変化素子111は、実施例2で説明した屈折率分布素子211に置き換えても何ら構わない。
位相分布変化素子111は、実施例3で説明した偏光分布変化素子311に置き換えても何ら構わない。