【実施例】
【0017】
〔実施例の構成〕
実施例の殺菌装置1の構成を、図面を用いて説明する。
殺菌装置1は、水溶性切削油を含むクーラントを殺菌処理するものであり、例えば、鉄合金やアルミ合金に切削、研削等の加工を施す金属加工装置に隣接するように配置して使用される。また、殺菌装置1は、オイルスキマー等の油水分離装置と一体にまたは別体に設けられ、油水分離装置により、浮上油等を除去されたクーラントを受け入れて殺菌処理する。
【0018】
ここで、油水分離装置から受け入れたクーラントには、切削油が溶けたまま含まれており、鉄イオン、および鉄イオン以外の金属イオン(例えば、アルミニウムイオン)も含まれている。さらに、油水分離装置から受け入れたクーラントには、鉄合金やアルミ合金の粉体や塊が含まれている。
【0019】
殺菌装置1は、受け入れたクーラントの流動領域2を構成する本体3と、流動領域2に配置される陽極4および陰極5と、所定の制御装置(図示せず。)とを備え、制御装置により所定のポンプ6を動作させてクーラントを流動領域2に通水させるとともに、陽極4と陰極5との間に直流電圧を印加する。
【0020】
流動領域2は、鉛直下方に向かって流れたクーラントが最下部で流れ方向を逆転して鉛直上方に向かって流れるようにU字状に形成されている。
すなわち、本体3では、流動領域2が所定の仕切り壁7によって2つに仕切られ、仕切り壁7の一方側、他方側に形成されるそれぞれの流動領域2a、2bは、仕切り壁7の下端側でのみ連通している。また、流動領域2a、2bは大気開放されており、流動領域2a、2bでは気液の界面8が形成されている。
【0021】
そして、流動領域2aに陽極4および陰極5が挿入されており、さらに、流動領域2bの上端近傍にクーラントの導入路9が接続し、流動領域2aの上端近傍にクーラントの導出路10が接続している。ここで、陽極4は、例えば、白金チタン電極からなり、陰極5はステンレス電極でからなる。また、陽極4、陰極5間に印加される電圧は、例えば、数V〜十数Vの低電圧である。
【0022】
以上の構成により、クーラントは、導入路9から流動領域2bに導入されて下方に向かって流れ、仕切り壁7の下端側を通って流動領域2aに流入する。そして、クーラントは、流動領域2aにおいて上方に向かって流れる上昇流を形成し、導出路10を通じて装置外に導出される。
そして、クーラントは、流動領域2aにおいて陽極4、陰極5間を上昇しながら通過する間、電圧の印加を受ける。
【0023】
これにより、水の電気分解反応によって酸素、水素の気泡が発生し、これらの気泡は、クーラントの上昇流に伴われて界面8に向かって上昇する。また、鉄合金の粉体や塊としてクーラントに含まれる鉄成分が陽極4における酸化作用により鉄イオンとなり、発生した鉄イオンは、当初から存在する鉄イオンとともに鉄の酸化物または水酸化物となる。
【0024】
同様に、アルミ合金の粉体や塊としてクーラントに含まれるアルミニウム成分が陽極4における酸化作用によりアルミニウムイオンとなり、発生したアルミニウムイオンは、当初から存在するアルミニウムイオンとともにアルミニウムの酸化物または水酸化物となる。そして、鉄の酸化物や水酸化物、およびアルミニウムの酸化物や水酸化物は、酸素および水素の気泡により界面8に向かって上昇し、界面8にてフロックを形成する。
【0025】
〔実施例の効果〕
実施例の殺菌装置1は、水溶性切削油を含むクーラント中に配置される陽極4および陰極5を備え、陽極4と陰極5との間に電圧を印加することでクーラント中に酸素の気泡を発生させる。
これにより、クーラントに対し、毒性に配慮することなく、かつ、安価に嫌気性細菌の殺菌効果を高めることができる。
【0026】
ここで、殺菌装置1による嫌気性細菌の殺菌作用は、定かではないものの以下のように推定することができる。
すなわち、殺菌装置1によれば、クーラント中の細菌は、気泡による圧壊、電圧印加による感電、および電圧印加に伴い発生するラジカルの攻撃等を受け、さらに、嫌気性細菌は、酸素による攻撃をも受ける。つまり、殺菌装置1は、クーラントへの電圧印加により、細菌に対して様々な殺菌作用を複合的に及ぼすことができる。このため、殺菌装置1によれば、嫌気性細菌の繁殖を極めて強力に抑制して嫌気性細菌を死滅させることができる。
【0027】
また、殺菌装置1によれば、数V〜十数Vの低電圧をクーラントに印加することで殺菌作用を奏することができるので、毒性に配慮する必要がなく、また、装置コストもランニングコストも安価である。
以上により、殺菌装置1によれば、クーラントに対し、毒性に配慮することなく、かつ、安価に嫌気性細菌の殺菌効果を高めることができる。
【0028】
さらに、殺菌装置1によれば、クーラントに印加される電圧が低いことから、クーラントに溶けている切削油を破壊しないので、クーラントから水溶性切削油を回収したり、殺菌後のクーラントを再利用したりすることができる。
【0029】
また、陽極4および陰極5は、上昇流を形成している流動領域2aに挿入されている。
これにより、酸素の気泡はクーラントとともに上昇するので、酸素の気泡と細菌とは上方に向かって並流する。このため、気泡による圧壊および酸素による攻撃を嫌気性細菌に対して効率的に及ぼすことができるので、嫌気性細菌の殺菌効果を、より一層高めることができる。
【0030】
また、クーラントには鉄イオンが含まれている。
鉄イオンは、好気性細菌の栄養源となるものである。そこで、鉄イオンを含むクーラントに電圧を印加することにより、鉄イオンをクーラントから分離して、好気性細菌の栄養源を低減することができる。
すなわち、流動領域2aにクーラントを導入して陽極4、陰極5間に電圧を印加することにより、鉄イオンを鉄の酸化物や水酸化物とし、同時に酸素や水素の気泡により上昇させて鉄の酸化物や水酸化物のフロックとする。これにより、鉄イオンをクーラントから分離して、好気性細菌の栄養源を低減することができる。
【0031】
また、クーラントには鉄イオン以外の金属イオンであるアルミニウムイオンが含まれている。
そして、流動領域2aにクーラントを導入して陽極4、陰極5間に電圧を印加することにより、鉄イオンの分離と同様にしてアルミニウムイオンをクーラントから分離することができる。
【0032】
また、クーラントには鉄合金やアルミ合金のような金属の粉体や塊が含まれている。
鉄合金の粉体や塊に含まれる鉄成分は、一旦、陽極4の酸化作用によりイオン化された後、鉄の酸化物や水酸化物となり、さらに、酸素および水素の気泡により上昇して鉄の酸化物や水酸化物のフロックとなる。同様に、アルミ合金の粉体や塊に含まれるアルミニウム成分も、アルミニウムの酸化物や水酸化物のフロックとなる。これにより、分離回収が困難である鉄合金やアルミ合金の粉体や塊をクーラントから分離することができる。
なお、殺菌装置1の態様は、実施例に限定されず種々の変形例を考えることができる。