特許第5719937号(P5719937)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許5719937イオン成分が固定化されたエラストマー材料およびその製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5719937
(24)【登録日】2015年3月27日
(45)【発行日】2015年5月20日
(54)【発明の名称】イオン成分が固定化されたエラストマー材料およびその製造方法
(51)【国際特許分類】
   C08L 101/00 20060101AFI20150430BHJP
   C08K 3/22 20060101ALI20150430BHJP
   C08K 9/06 20060101ALI20150430BHJP
【FI】
   C08L101/00
   C08K3/22
   C08K9/06
【請求項の数】8
【全頁数】15
(21)【出願番号】特願2013-538489(P2013-538489)
(86)(22)【出願日】2012年9月26日
(86)【国際出願番号】JP2012074703
(87)【国際公開番号】WO2013054657
(87)【国際公開日】20130418
【審査請求日】2014年3月5日
(31)【優先権主張番号】特願2011-223959(P2011-223959)
(32)【優先日】2011年10月11日
(33)【優先権主張国】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000219602
【氏名又は名称】住友理工株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100115657
【弁理士】
【氏名又は名称】進藤 素子
(74)【代理人】
【識別番号】100115646
【弁理士】
【氏名又は名称】東口 倫昭
(72)【発明者】
【氏名】高松 成亮
(72)【発明者】
【氏名】熊谷 信志
【審査官】 久保 道弘
(56)【参考文献】
【文献】 特開平11−080377(JP,A)
【文献】 特開平11−335403(JP,A)
【文献】 特開2011−084712(JP,A)
【文献】 特開2010−059441(JP,A)
【文献】 特開2010−077383(JP,A)
【文献】 特開2008−077383(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L 1/00−101/14
C08K 3/00−3/40
C08K 9/00−9/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
エラストマーと、
アルコキシシリル基を有する第一イオン成分と、該第一イオン成分と反対の電荷を持つ第二イオン成分と、を有する反応性イオン性液体を金属酸化物粒子に反応させて合成され、該金属酸化物粒子に該反応性イオン性液体中の該第一イオン成分が該アルコキシシリル基を介して固定化されてなるイオン固定粒子と、
該反応性イオン性液体中の該第二イオン成分と、
を有し、
該イオン固定粒子は該エラストマーに化学結合されていることを特徴とするイオン成分が固定化されたエラストマー材料。
【請求項2】
前記金属酸化物粒子のメジアン径は、5nm以上100nm以下である請求項1に記載のイオン成分が固定化されたエラストマー材料。
【請求項3】
前記イオン固定粒子は、有機金属化合物の加水分解反応により得られる前記金属酸化物粒子に、前記反応性イオン性液体を反応させて合成される請求項1または請求項2に記載のイオン成分が固定化されたエラストマー材料。
【請求項4】
前記反応性イオン性液体に含まれる前記第一イオン成分のアルコキシシリル基と前記金属酸化物粒子の水酸基との反応により該第一イオン成分が固定化される請求項3に記載のイオン成分が固定化されたエラストマー材料。
【請求項5】
前記イオン固定粒子は水酸基を有し、
前記エラストマーは、該水酸基と反応可能な官能基を有する請求項1ないし請求項4のいずれかに記載のイオン成分が固定化されたエラストマー材料。
【請求項6】
前記金属酸化物粒子は、チタンおよびジルコニウムの少なくとも一方の元素を含む請求項1ないし請求項5のいずれかに記載のイオン成分が固定化されたエラストマー材料。
【請求項7】
前記イオン固定粒子の含有量は、前記エラストマーの100質量部に対して1質量部以上10質量部以下である請求項1ないし請求項6のいずれかに記載のイオン成分が固定化されたエラストマー材料。
【請求項8】
有機金属化合物にキレート剤を添加して、該有機金属化合物のキレート化物を生成するキレート化工程と、
該有機金属化合物のキレート化物に、反応性イオン性液体と、有機溶剤と、水とを添加して、該有機金属化合物の加水分解反応により生成した金属酸化物粒子に、該反応性イオン性液体中の第一イオン成分を固定化してイオン固定粒子を生成し、該イオン固定粒子と、該反応性イオン性液体中の第二イオン成分と、を含むゾルを得るイオン固定化工程と、
該ゾルと、水酸基と反応可能な官能基を有するゴムポリマーを含むポリマー溶液と、を混合して混合液を調製し、該混合液を基材上に塗布して硬化させる硬化工程と、
を有することを特徴とするイオン成分が固定化されたエラストマー材料の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、イオン成分を含むエラストマー材料に関し、詳しくは、イオン成分がエラストマーに固定化されたエラストマー材料に関する。
【背景技術】
【0002】
トランスデューサとしては、機械エネルギーと電気エネルギーとの変換を行うアクチュエータ、センサ等、あるいは音響エネルギーと電気エネルギーとの変換を行うスピーカ、マイクロフォン等が知られている。柔軟性が高く、小型で軽量なトランスデューサを構成するためには、誘電体エラストマー等の高分子材料が有用である。
【0003】
例えば、誘電体エラストマーからなる誘電層の厚さ方向両面に、一対の電極を配置して、アクチュエータを構成することができる。この種のアクチュエータでは、電極間への印加電圧を大きくすると、電極間の静電引力が大きくなる。このため、電極間に挟まれた誘電層は厚さ方向から圧縮され、誘電層の厚さは薄くなる。膜厚が薄くなると、その分、誘電層は電極面に対して平行方向に伸長する。一方、電極間への印加電圧を小さくすると、電極間の静電引力が小さくなる。このため、誘電層に対する厚さ方向からの圧縮力が小さくなり、誘電層の弾性復元力により膜厚は厚くなる。膜厚が厚くなると、その分、誘電層は電極面に対して平行方向に収縮する。このように、アクチュエータは、誘電層を伸長、収縮させることによって、駆動対象部材を駆動させる。
【0004】
アクチュエータから出力される力および変位量は、印加電圧の大きさと、誘電層の比誘電率と、により決定される。すなわち、印加電圧が大きく、かつ誘電層の比誘電率が大きいほど、アクチュエータの発生力および変位量は大きくなる。このため、誘電層の材料としては、耐絶縁破壊性が高いシリコーンゴムや、比誘電率が大きいアクリルゴム、ニトリルゴム等が用いられる(例えば、特許文献1、2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特表2003−506858号公報
【特許文献2】特表2001−524278号公報
【特許文献3】特開2005−51949号公報
【特許文献4】特開平6−264919号公報
【特許文献5】特開2011−148641号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、シリコーンゴムの比誘電率は小さい。このため、誘電層の材料にシリコーンゴムを用いた場合、印加電圧に対する静電引力が小さく、所望の発生力および変位量を得ることは難しい。また、シリコーンゴムの耐絶縁破壊性は充分とはいえず、印加できる電圧には限界がある。
【0007】
一方、アクリルゴムやニトリルゴムの比誘電率は、シリコーンゴムの比誘電率よりも大きい。このため、誘電層の材料にアクリルゴム等を用いると、印加電圧に対する静電引力は、シリコーンゴムを用いた場合と比較して大きくなる。しかしながら、アクリルゴム等の電気抵抗は、シリコーンゴムと比較して小さい。このため、誘電層が絶縁破壊しやすい。また、電圧印加時に電流が誘電層中を流れてしまい(いわゆる漏れ電流)、誘電層と電極との界面付近に電荷が溜まりにくい。したがって、比誘電率が大きいにも関わらず、静電引力が小さくなり、充分な力および変位量を得ることができない。さらに、電流が誘電層中を流れると、発生するジュール熱により、誘電層が破壊されるおそれがある。このように、一つの材料により、耐絶縁破壊性に優れ、かつ静電引力が大きい誘電層を実現することは、難しい。
【0008】
また、複写機、プリンタ、ファクシミリなどの電子写真機器には、帯電ロール、現像ロール、転写ロール等の種々の導電性ロールが用いられる。導電性ロールは、例えば、特許文献4に記載されているように、芯金と、その外周側に形成される導電性弾性体層と、さらにその外周側に形成される抵抗調整層と、から構成される。抵抗調整層は、導電性ロールの電気抵抗を調整する役割を果たす層であり、樹脂やゴムにイオン成分が配合された組成物から形成される。
【0009】
この種の導電性ロールにおいては、長時間電圧を印加すると、イオン成分が抵抗調整層の表面に滲出(ブルーム)してしまう、という問題がある。また、イオン成分とゴム等のマトリックスとの相容性が低い場合には、イオン成分が抵抗調整層の表面に析出しやすいという問題もある。イオン成分が滲出または析出すると、抵抗調整層が剥離しやすくなる。また、導電性ロールの電気抵抗が変化して、帯電不良により、画像に白抜け等の不具合が発生してしまう。
【0010】
本発明は、このような実情に鑑みてなされたものであり、トランスデューサや導電性ロールの構成材料として用いることができ、時間の経過や使用により特性が経時変化しにくいエラストマー材料、およびその製造方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
(1)本発明のイオン成分が固定化されたエラストマー材料は、エラストマーと、金属酸化物粒子に第一イオン成分が固定化されてなるイオン固定粒子と、該第一イオン成分と反対の電荷を持つ第二イオン成分と、を有し、該イオン固定粒子は該エラストマーに化学結合されていることを特徴とする。
【0012】
本発明のイオン成分が固定化されたエラストマー材料(以下適宜、「本発明のエラストマー材料」と称す)においては、イオン固定粒子がエラストマーに化学結合されている。イオン固定粒子は、金属酸化物粒子と、それに固定化された第一イオン成分と、からなる。つまり、第一イオン成分は、金属酸化物粒子を介して、エラストマーに固定化されている。
【0013】
金属酸化粒粒子に固定化される第一イオン成分の電荷は、プラスでもマイナスでもよい。例えば、プラス電荷を有する第一イオン成分が固定化される場合、エラストマー材料は、エラストマーと、該エラストマーに化学結合されており、陽イオンが金属酸化物粒子に固定化された陽イオン固定粒子と、マイナス電荷を有する第二イオン成分(陰イオン)と、を有する。図1に、本態様のエラストマー材料の構成成分の模式図を示す。図1に示すように、エラストマー材料2は、エラストマー20と、陽イオン固定粒子21と、陰イオン22と、を有する。エラストマー20は、カルボキシル基(−COOH)を有する。陽イオン固定粒子21は、TiO粒子210に陽イオン211が固定化されてなる。陽イオン211と陰イオン22とは、対イオンである。エラストマー20の−COOHとTiO粒子210の−OHとの反応により、陽イオン固定粒子21は、エラストマー20に化学結合される。
【0014】
反対に、マイナス電荷を有する第一イオン成分が固定化される場合、エラストマー材料は、エラストマーと、該エラストマーに化学結合されており、陰イオンが金属酸化物粒子に固定化された陰イオン固定粒子と、プラス電荷を有する陽イオン成分と、を有する。図2に、本態様のエラストマー材料の構成成分の模式図を示す。図2に示すように、エラストマー材料2は、エラストマー20と、陰イオン固定粒子23と、陽イオン24と、を有する。エラストマー20は、カルボキシル基(−COOH)を有する。陰イオン固定粒子23は、TiO粒子230に陰イオン231が固定化されてなる。陰イオン231と陽イオン24とは、対イオンである。エラストマー20の−COOHとTiO粒子230の−OHとの反応により、陰イオン固定粒子23は、エラストマー20に化学結合される。なお、図1図2は、本発明のエラストマー材料を説明するための模式図であり、本発明のエラストマー材料を何ら限定するものではない。
【0015】
本発明のエラストマー材料においては、対になるイオン成分のうちの一方が、金属酸化物粒子を介して、エラストマーに固定化される。固定化されたイオン成分は、移動しにくい。このため、イオン成分が滲出したり析出するおそれは小さい。したがって、例えば、本発明のエラストマー材料を、導電性ロールの抵抗調整層に使用すると、抵抗調整層の剥離や電気抵抗の変化が抑制され、帯電不良による画像の不具合を低減することができる。
【0016】
また、本発明のエラストマー材料を、誘電層に積層させて、トランスデューサを構成することができる。この場合、誘電層と、該誘電層の表裏両側に配置される一対の電極と、を備えるトランスデューサにおいて、本発明のエラストマー材料からなるイオン固定層を、該誘電層と該電極との間に介装すればよい。ここで、イオン固定層は、誘電層を挟むように、誘電層の表裏両面に配置してもよく、誘電層の表面または裏面のどちらか一方に配置してもよい。但し、イオン固定粒子の第一イオン成分の電荷は、隣接する電極の極性と同じにする。すなわち、イオン固定層において、第一イオン成分がプラス電荷を有する場合には、当該イオン固定層は、プラス側の電極と誘電層との間に配置される。反対に、第一イオン成分がマイナス電荷を有する場合には、当該イオン固定層は、マイナス側の電極と誘電層との間に配置される。
【0017】
以下、模式図を用いて、トランスデューサの一実施形態の構成および動作を説明する。図3に、トランスデューサの電圧印加前の状態における断面模式図を示す。図4は、同トランスデューサの電圧印加時の状態における断面模式図を示す。
【0018】
図3に示すように、トランスデューサ1は、誘電層10と、陽イオン固定層11と、陰イオン固定層12と、プラス電極13と、マイナス電極14と、を備えている。陽イオン固定層11は、誘電層10の上面に配置されている。プラス電極13は、陽イオン固定層11の上面に配置されている。つまり、陽イオン固定層11は、誘電層10とプラス電極13との間に介装されている。陽イオン固定層11は、エラストマー110と、陽イオン固定粒子111と、陰イオン成分112と、を有している。陽イオン固定粒子111は、陽イオン成分が固定化された金属酸化物粒子である。陽イオン固定粒子111は、エラストマー110に化学結合されている。
【0019】
同様に、陰イオン固定層12は、誘電層10の下面に配置されている。マイナス電極14は、陰イオン固定層12の下面に配置されている。つまり、陰イオン固定層12は、誘電層10とマイナス電極14との間に介装されている。陰イオン固定層12は、エラストマー120と、陰イオン固定粒子121と、陽イオン成分122と、を有している。陰イオン固定粒子121は、陰イオン成分が固定化された金属酸化物粒子である。陰イオン固定粒子121は、エラストマー120に化学結合されている。陽イオン固定層11および陰イオン固定層12は、本発明のエラストマー材料に含まれる。
【0020】
図4に示すように、プラス電極13とマイナス電極14との間に電圧が印加されると、陽イオン固定層11においては、陰イオン成分112がプラス電極13側へ移動する。一方、陽イオン固定粒子111は、エラストマー110と結合されている。このため、陽イオン成分は、ほとんど移動しない。同様に、陰イオン固定層12においては、陽イオン成分122がマイナス電極14側へ移動する。一方、陰イオン固定粒子121は、エラストマー120と結合されている。このため、陰イオン成分は、ほとんど移動しない。また、誘電層10においては、分極により、陽イオン固定層11との界面付近にマイナス電荷が、陰イオン固定層12との界面付近にプラス電荷が、各々蓄えられる。このように、トランスデューサ1においては、陽イオン固定層11、陰イオン固定層12、およびこれらと接する誘電層10の界面付近に、多くの電荷が蓄えられる。したがって、プラス電極13およびマイナス電極14から、誘電層10、陽イオン固定層11、陰イオン固定層12を圧縮するように、大きな静電引力が発生する。これにより、誘電層10、陽イオン固定層11、陰イオン固定層12は上下方向に圧縮され、その分だけ、図4中白抜き矢印で示すように、左右方向に伸長する。
【0021】
誘電層10の電気抵抗が大きい場合、蓄えられた電荷は、誘電層10内を移動しにくい。したがって、いわゆる漏れ電流は少なく、それによるジュール熱も発生しにくい。また、陽イオン固定層11においては、隣接するプラス電極13の極性と同じ陽イオン成分が、金属酸化物粒子を介してエラストマー110に固定される。このため、陽イオン成分は、誘電層10側(プラス電極13と反対方向)に移動しにくい。同様に、陰イオン固定層12においては、隣接するマイナス電極14の極性と同じ陰イオン成分が、金属酸化物粒子を介してエラストマー120に固定される。このため、陰イオン成分は、誘電層10側(マイナス電極14と反対方向)に移動しにくい。このように、陽イオン固定層11および陰イオン固定層12から、誘電層10へ、イオン成分が移動するおそれは小さい。したがって、誘電層10の電気抵抗は低下しにくい。つまり、誘電層10は、経時劣化しにくく、高い耐絶縁破壊性を維持することができる。
【0022】
以上説明したように、耐絶縁破壊性が高い誘電層に、本発明のエラストマー材料からなるイオン固定層を積層することにより、大きな静電引力を発生させることができる。また、イオン固定層においては、隣接する電極の極性と同じ電荷を持つ第一イオン成分が、金属酸化物粒子を介してエラストマーに固定される。このため、イオン固定層中のイオン成分が、誘電層へ移動しにくい。したがって、誘電層の耐絶縁破壊性を維持したまま、大きな静電引力を発生させることができる。このように、本発明のエラストマー材料によると、実用的な電圧範囲において、出力の大きなトランスデューサを構成することができる。
【0023】
ちなみに、上記特許文献3には、一対の電極間に、導電性ポリマー層とイオン電解質含有層とが介装されたアクチュエータが、開示されている。特許文献3のアクチュエータによると、電圧を印加して、イオン電解質含有層のイオンを、導電性ポリマー層にドープまたはアンドープさせる。これにより、導電性ポリマー層を伸縮させて、力を発生させる。特許文献3のアクチュエータは、隣接する層間でイオンを移動させるという点において、本発明のエラストマー材料を用いたトランスデューサとは異なる。
【0024】
(2)本発明のイオン成分が固定化されたエラストマー材料の製造方法(以下適宜、「本発明のエラストマー材料の製造方法」と称す)は、有機金属化合物にキレート剤を添加して、該有機金属化合物のキレート化物を生成するキレート化工程と、該有機金属化合物のキレート化物に、反応性イオン性液体と、有機溶剤と、水とを添加して、該有機金属化合物の加水分解反応により生成した金属酸化物粒子に、該反応性イオン性液体中の第一イオン成分を固定化してイオン固定粒子を生成し、該イオン固定粒子と、該反応性イオン性液体中の第二イオン成分と、を含むゾルを得るイオン固定化工程と、該ゾルと、水酸基と反応可能な官能基を有するゴムポリマーを含むポリマー溶液と、を混合して混合液を調製し、該混合液を基材上に塗布して硬化させる硬化工程と、を有することを特徴とする。
【0025】
本発明のエラストマー材料の製造方法は、キレート化工程と、イオン固定化工程と、硬化工程と、を有する。まず、キレート化工程において、有機金属化合物をキレート化する。有機金属化合物は、水と反応して加水分解すると共に重縮合する(ゾルゲル反応)。有機金属化合物を予めキレート化しておくことにより、次工程において、有機金属化合物と水との急激な反応を抑制し、粒子径の小さな金属酸化物粒子を、凝集させることなく製造することができる。
【0026】
次に、イオン固定化工程において、有機金属化合物のキレート化物に、反応性イオン性液体と、所定の有機溶剤と、水とを添加する。これにより、有機金属化合物の加水分解反応が進行して、金属酸化物粒子が生成されると共に、生成した金属酸化物粒子と、反応性イオン性液体中の第一イオン成分と、が反応して、金属酸化物粒子に第一イオン成分が固定化される。本工程においては、有機金属化合物の加水分解反応と同時に、反応性イオン液体との反応が進行する。このため、反応性イオン性液体中の第一イオン成分は、生成する金属酸化物粒子の表面だけでなく、内部にも固定化される。この点において、単に粒子表面にイオン成分を固定化する従来の手法とは異なる。キレート化工程、イオン固定化工程により、イオン固定粒子および第二イオン成分を含むゾルが得られる。
【0027】
次に、硬化工程において、得られたゾルとゴムポリマーを含むポリマー溶液とを混合し、得られた混合液からエラストマー材料を製造する。ゾル中のイオン固定粒子(金属酸化物粒子)は、水酸基(−OH)を有する。一方、ゴムポリマーは、当該水酸基と反応可能な官能基を有する。このため、混合液の硬化時に、水酸基と官能基とが反応して、イオン固定粒子とゴムポリマーとが化学結合する。このように、本発明の製造方法によると、上記本発明のエラストマー材料を比較的簡単に製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
図1】エラストマー材料の構成成分の模式図である。
図2】エラストマー材料の構成成分の模式図である。
図3】トランスデューサの電圧印加前の状態における断面模式図である。
図4】同トランスデューサの電圧印加時の状態における断面模式図である。
図5】陽イオン固定粒子の模式図である。
図6】測定装置に取り付けられた実施例1のアクチュエータの表側正面図である。
図7図6のVII−VII断面図である。
図8】実施例および比較例の各アクチュエータにおける電界強度と発生力との関係を示すグラフである。
【符号の説明】
【0029】
1:トランスデューサ、10:誘電層、11:陽イオン固定層、12:陰イオン固定層、13:プラス電極、14:マイナス電極、110:エラストマー、111:陽イオン固定粒子、112:陰イオン成分、120:エラストマー、121:陰イオン固定粒子、122:陽イオン成分。
2:エラストマー材料、20:エラストマー、21:陽イオン固定粒子、22:陰イオン、23:陰イオン固定粒子、24:陽イオン、210:TiO粒子、211:陽イオン、230:TiO粒子、231:陰イオン。
5:アクチュエータ、50:誘電層、51a、51b:電極、52:上側チャック、53:下側チャック、500:誘電層、501:陽イオン固定層、502:陰イオン固定層。
【発明を実施するための形態】
【0030】
以下、本発明のエラストマー材料およびその製造方法の実施形態について説明する。なお、本発明のエラストマー材料およびその製造方法は、以下の実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲において、当業者が行い得る変更、改良等を施した種々の形態にて実施することができる。
【0031】
<イオン成分が固定化されたエラストマー材料>
本発明のエラストマー材料は、エラストマーと、イオン固定粒子と、第二イオン成分と、を有する。
【0032】
エラストマーは、イオン固定粒子と化学結合可能なものであれば、特に限定されない。後述するように、イオン固定粒子が水酸基(−OH)を有する場合、エラストマーとしては、当該水酸基と反応可能な官能基を有するものを用いればよい。このような官能基としては、カルボキシル基(−COOH)、アミノ基(−NH)、エポキシ基等が挙げられる。例えば、比誘電率が大きいという観点から、カルボキシル基変性ニトリルゴム(X−NBR)、カルボキシル基変性水素化ニトリルゴム(XH−NBR)等が好適である。なかでも、アクリロニトリル含有量(結合AN量)が33質量%以上のものが望ましい。結合AN量は、ゴムの全体質量を100質量%とした場合のアクリロニトリルの質量割合である。
【0033】
イオン固定粒子は、金属酸化物粒子に第一イオン成分が固定化されてなる。金属酸化物粒子は、絶縁性が高いという観点から、チタンおよびジルコニウムの少なくとも一方の元素を含むものが望ましい。例えば、二酸化チタン(TiO)、二酸化ジルコニウム(ZrO)等の単独の酸化物粒子や、TiO/ZrO、TiO/ZrO/SiO等の複合粒子が挙げられる。後述するように、金属酸化物粒子としては、有機金属化合物の加水分解反応(ゾルゲル法)により製造されるものが望ましい。ゾルゲル法によると、生成する金属酸化物粒子の表面に、−OH基が残存しやすい。したがって、例えば特許文献5に記載された、乾式法により製造される金属酸化物粒子と比較して、エラストマーとの化学結合に有利である。また、エラストマーに化学結合されることにより、イオン固定粒子の凝集が抑制される。
【0034】
エラストマー材料の耐絶縁破壊性を考慮すると、イオン固定粒子は、エラストマー中にできるだけ均一に分散されていることが望ましい。また、イオン固定粒子の粒子径はできるだけ小さい方が望ましい。このような観点から、イオン固定粒子を構成する金属酸化物粒子のメジアン径は、5nm以上100nm以下であることが望ましい。30nm以下、なかでも、8〜20nm程度がより好適である。金属酸化物粒子の粒子径については、透過型電子顕微鏡(TEM)を用いた観察により測定することができる。また、小角X線散乱法により測定してもよい。
【0035】
なお、金属酸化物粒子が、有機金属化合物の加水分解反応により製造される場合、ゾル中の金属酸化物粒子の粒子径と、エラストマー材料中の金属酸化物粒子の粒子径と、は等しくなると推定される。したがって、ゾル中の金属酸化物粒子の粒子径を、エラストマー材料中の金属酸化物粒子の粒子径として採用してもよい。ゾル中の金属酸化物粒子の粒子径は、例えば、日機装(株)製のレーザー回折・散乱式粒子径・粒度分布測定装置を用いて測定することができる。また、ゾルを乾固して、走査型電子顕微鏡(SEM)を用いた観察により測定することができる。
【0036】
エラストマー材料中のイオン固定粒子の含有量は、用途ごとに要求される特性を満足するように、適宜決定すればよい。例えば、トランスデューサの構成材料として用いる場合には、イオン固定粒子の含有量は、エラストマーの100質量部に対して1質量部以上10質量部以下であることが望ましい。イオン固定粒子の含有量が1質量部未満の場合には、静電引力を大きくする効果が小さいからである。一方、イオン固定粒子の含有量が10質量部を超えると、静電引力を大きくする効果が飽和して、いわゆる漏れ電流が多くなるからである。
【0037】
イオン固定粒子を構成する第一イオン成分は、第二イオン成分の対イオンである。イオン固定粒子は、例えば、ゾルゲル法により得られる金属酸化物粒子に、固定化前の第一イオン成分および第二イオン成分を有する反応性イオン性液体を反応させて、合成することができる。詳細は、以下の本発明のエラストマー材料の製造方法において説明する。
【0038】
<イオン成分が固定化されたエラストマー材料の製造方法>
本発明のエラストマー材料の製造方法は、キレート化工程と、イオン固定化工程と、硬化工程と、を有する。以下、各工程を順に説明する。
【0039】
[キレート化工程]
本工程は、有機金属化合物にキレート剤を添加して、該有機金属化合物のキレート化物を生成する工程である。なお、TiO/ZrO等の複合粒子のゾルを製造する場合、本工程において、複合粒子を構成する一つの金属酸化物の原料の有機金属化合物をキレート化しておき、次のイオン固定化工程において、当該キレート化物に、他の金属酸化物の原料の有機金属化合物を添加してもよい。
【0040】
有機金属化合物は、目的とする金属酸化物粒子の種類に応じて、金属アルコキシド化合物や金属アシレート化合物の中から、適宜選択すればよい。金属アルコキシド化合物としては、テトラn−ブトキシチタン、テトラn−ブトキシジルコニウム、テトラi−プロポキシチタン、テトラキス(2−エチルヘキシルオキシ)チタン、チタンブトキシドダイマー等が挙げられる。また、金属アシレート化合物としては、ポリヒドロキシチタンステアレート、ジルコニウムトリブトキシモノステアレート等が挙げられる。
【0041】
キレート剤としては、例えば、アセチルアセトン、ベンゾイルアセトン、ジベンゾイルメタン等のβ−ジケトン、アセト酢酸エチル、ベンゾイル酢酸エチル等のβ−ケト酸エステル、トリエタノールアミン、乳酸、2-エチルヘキサンー1,3ジオール、1,3へキサンジオール等を用いることができる。キレート剤は、硬化工程において、ゴムポリマーを溶解する溶剤と同じものが望ましい。
【0042】
[イオン固定化工程]
本工程は、生成された有機金属化合物のキレート化物に、反応性イオン性液体と、有機溶剤と、水とを添加して、該有機金属化合物の加水分解反応により生成した金属酸化物粒子に、該反応性イオン性液体中の第一イオン成分を固定化してイオン固定粒子を生成し、該イオン固定粒子と、該反応性イオン性液体中の第二イオン成分と、を含むゾルを得る工程である。
【0043】
反応性イオン性液体に含まれる第一イオン成分は、生成される金属酸化物粒子の水酸基(−OH)と反応可能な反応基を有する。反応基としては、例えば、アルコキシシリル基(−Si(OR):Rはアルキル基)が挙げられる。このような第一イオン成分を含む反応性イオン性液体としては、例えば、次式(1)、(2)に示すものが挙げられる。式(1)の反応性イオン性液体においては、陽イオンが第一イオン成分、陰イオンが第二イオン成分になる。また、式(2)の反応性イオン性液体においては、陽イオンが第二イオン成分、陰イオンが第一イオン成分になる。
【化1】
【化2】
【0044】
例えば、本工程において、金属酸化物粒子として二酸化チタン(TiO)が生成される場合、TiOと上記式(1)の反応性イオン性液体とが反応すると、TiOに式(1)の陽イオンが固定化された陽イオン固定粒子が生成される。この場合に生成される陽イオン固定粒子の模式図を、図5に示す(符合は前出図1参照)。なお、陽イオン固定粒子21において、陽イオン(第一イオン成分)は、TiO(金属酸化物粒子)の表面に化学結合されていてもよく、内部に化学結合されていてもよい。
【0045】
有機溶剤は、メタノール、エタノール、イソプロピルアルコール(IPA)等のアルコール類、メチルエチルケトン(MEK)、メチルイソブチルケトン(MIBK)等のケトン類、テトラヒドロフラン(THF)等のエーテル類等を使用すればよい。例えば、IPAを添加すると、キレート化物と水との親和性が向上し、金属酸化物粒子の核が生成されやすくなる。また、MEKを添加すると、エラストマー材料を製造する際に、イオン固定粒子を含むゾルと、ゴムポリマーを溶解した溶液と、の相溶性を向上させることができる。また、使用する有機溶剤の種類や添加量により、生成される金属酸化物粒子の粒子径が変化する。例えば、メジアン径が10〜20nm程度の金属酸化物粒子を生成したい場合には、IPAとMEKとを、IPAのモル数/MEKのモル数=0.6程度になるように添加し、かつ、IPAの添加量を、使用した有機金属化合物のモル数の7〜10倍量にするとよい。水は、有機金属化合物の加水分解に必要な量を添加すればよい。
【0046】
キレート化工程、イオン固定化工程を経て、イオン固定粒子および第二イオン成分を含むゾルが得られる。得られたゾルは、そのまま次の硬化工程に用いてもよいが、さらにエージング処理を施してから、硬化工程に用いることが望ましい。エージング処理は、ゾルを40℃程度の温度下で、数時間静置して行えばよい。エージング処理を行うと、金属酸化物粒子内部に残存する水酸基の数を、減少させることができる。このため、ゾルの保存時におけるイオン固定粒子同士の凝集を、抑制することができる。
【0047】
[硬化工程]
本工程は、得られたゾルと、水酸基と反応可能な官能基を有するゴムポリマーを含むポリマー溶液と、を混合して混合液を調製し、該混合液を基材上に塗布して硬化させる工程である。
【0048】
ポリマー溶液は、エラストマーの架橋前ポリマーを溶剤に溶解して調製すればよい。上述したように、使用する溶剤は、有機金属化合物をキレート化したキレート剤と同じものを用いることが望ましい。ゾルの配合量は、エラストマー中に含有させるイオン固定粒子の量に応じて、適宜決定すればよい。また、混合液には、必要に応じて、架橋剤等の他の成分を配合してもよい。この場合、他の成分は、予めポリマー溶液に配合しておいてもよい。
【0049】
混合液の硬化は、基材上に形成された塗膜を加熱すればよい。加熱によりゴムポリマーが架橋すると共に、イオン固定粒子の表面の水酸基とゴムポリマーの官能基とが反応して、イオン固定粒子がエラストマーに化学結合される。混合液の塗布方法は、特に限定されない。例えば、インクジェット印刷、フレキソ印刷、グラビア印刷、スクリーン印刷、パッド印刷、リソグラフィー等の印刷法の他、ディップ法、スプレー法、バーコート法等が挙げられる。また、塗膜の硬化温度は、用いた溶剤の種類や、反応速度を考慮して適宜決定すればよい。例えば、溶剤の沸点以上とすることが望ましい。
【実施例】
【0050】
次に、実施例を挙げて本発明をより具体的に説明する。
【0051】
<アクチュエータの製造>
[誘電層]
次のようにして、誘電層を作製した。まず、カルボキシル基変性水素化ニトリルゴム(ランクセス社製「テルバン(登録商標)XT8889」)100質量部と、シリカ(日本アエロジル(株)製「Aerosil(登録商標)380」)10質量部と、をロール練り機にて混練りした。次に、混練りした材料を、アセチルアセトンに溶解した。続いて、この溶液に、有機金属化合物のテトラキス(2−エチルヘキシルオキシ)チタン15質量部を混合して、液状のエラストマー組成物を調製した。調製したエラストマー組成物の固形分濃度は、12質量%である。ここで、アセチルアセトンは、カルボキシル基含有水素化ニトリルゴムを溶解させる溶媒であると共に、テトラキス(2−エチルヘキシルオキシ)チタンのキレート剤である。その後、エラストマー組成物を基材上に塗布し、乾燥させた後、150℃で約60分間加熱して、誘電層を得た。誘電層の膜厚は約20μm、体積抵抗率は2×1012Ω・cmであった。
【0052】
[陽イオン固定層]
次のようにして、陽イオン固定層を作製した。まず、有機金属化合物のテトラi−プロポキシチタン0.01molに、アセチルアセトン0.02molを加えてキレート化した。次に、得られたキレート化物に、上記式(1)に示した反応性イオン性液体0.002mol、イソプロピルアルコール(IPA)5ml(0.083mol)、メチルエチルケトン(MEK)10ml(0.139mol)、および水0.04molを添加して、陽イオンが固定化されたTiO粒子(陽イオン固定粒子)、および陰イオンを含むゾルを得た。そして、得られたゾルを、40℃下で2時間静置して、エージング処理した。ゾル中のTiO粒子のメジアン径は、8nmであった。
【0053】
次に、エージング後のゾル20質量部と、誘電層の作製に用いた、カルボキシル基変性水素化ニトリルゴムのアセチルアセトン溶液(シリカ含有)100質量部と、を混合し、さらに架橋剤として、テトラキス(2−エチルヘキシルオキシ)チタンのアセチルアセトン溶液(濃度20質量%)を3質量部添加して、混合液を調製した。そして、調製した混合液を基材上に塗布し、乾燥させた後、150℃で約60分間加熱して、陽イオン固定層を得た。陽イオン固定層の膜厚は約10μm、陽イオン固定粒子の含有量は、6.6質量部であった。また、陽イオン固定層の体積抵抗率は、9×1011Ω・cmであった。作製された陽イオン固定層は、本発明のエラストマー材料に含まれる。
【0054】
[陰イオン固定層]
反応性イオン性液体の種類を上記式(2)に示したものに変更した以外は、上記陽イオン固定層と同様にして、陰イオン固定層を作製した。作製過程で得られたゾルは、陰イオンが固定化されたTiO粒子(陰イオン固定粒子)、および陽イオンを含む。ゾル中のTiO粒子のメジアン径は、10nmであった。陰イオン固定層の体積抵抗率は、2×1011Ω・cmであった。作製された陰イオン固定層は、本発明のエラストマー材料に含まれる。
【0055】
[実施例1のアクチュエータ]
誘電層の表面に陽イオン固定層を、裏面に陰イオン固定層を貼着し、各々から基材を剥離することにより、三層構造の誘電層を作製した。また、アクリルゴムポリマー溶液にカーボンブラックを混合、分散させて導電塗料を調製した。そして、導電塗料を、作製した三層構造の誘電層の表裏両面にスクリーン印刷して、電極を形成した。このようにして、実施例1のアクチュエータを製造した。
【0056】
[実施例2のアクチュエータ]
誘電層の表面にのみ陽イオン固定層を貼着し、基材を剥離することにより、二層構造の誘電層を作製した。そして、実施例1と同じ導電塗料を、作製した二層構造の誘電層の表裏両面にスクリーン印刷して、電極を形成した。このようにして、実施例2のアクチュエータを製造した。
【0057】
[比較例1のアクチュエータ]
陽イオン固定層および陰イオン固定層を用いずに、アクチュエータを製造した。すなわち、誘電層の表裏両面に、実施例1と同じ導電塗料を直接スクリーン印刷して、電極を形成した。このようにして、比較例1のアクチュエータを製造した。
【0058】
<評価>
作製した三種類のアクチュエータについて、印加電圧に対する発生力を測定した。まず、測定装置および測定方法について説明する。図6に、測定装置に取り付けられた実施例1のアクチュエータの表側正面図を示す。図7に、図6のVII−VII断面図を示す。
【0059】
図6図7に示すように、アクチュエータ5の上端は、測定装置における上側チャック52により把持されている。アクチュエータ5の下端は、下側チャック53により把持されている。アクチュエータ5は、予め上下方向に延伸された状態で、上側チャック52と下側チャック53との間に、取り付けられている(延伸率25%)。上側チャック52の上方には、ロードセル(図略)が配置されている。
【0060】
アクチュエータ5は、誘電層50と一対の電極51a、51bとからなる。誘電層50は、自然状態で、縦50mm、横25mm、厚さ約40μmの矩形板状を呈している。誘電層50は、誘電層500と、陽イオン固定層501と、陰イオン固定層502と、からなる。陽イオン固定層501は、誘電層500の表面の全体を覆うように、配置されている。同様に、陰イオン固定層502は、誘電層500の裏面の全体を覆うように、配置されている。電極51a、51bは、誘電層50を挟んで表裏方向に対向するよう配置されている。電極51a、51bは、自然状態で、各々、縦40mm、横25mm、厚さ約10μmの矩形板状を呈している。電極51a、51bは、上下方向に10mmずれた状態で配置されている。つまり、電極51a、51bは、誘電層50を介して、縦30mm、横25mmの範囲で重なっている。電極51aの下端には、配線(図略)が接続されている。同様に、電極51bの上端には、配線(図略)が接続されている。電極51a、51bは、各々の配線を介して、電源(図略)に接続されている。電圧印加時には、電極51aがプラス極、電極51bがマイナス極になる。
【0061】
電極51a、51b間に電圧を印加すると、電極51a、51b間に静電引力が生じて、誘電層50を圧縮する。これにより、誘電層50の厚さは薄くなり、延伸方向(上下方向)に伸長する。誘電層50の伸長により、上下方向の延伸力は減少する。電圧印加時に減少した延伸力を、ロードセルにより測定して、発生力とした。
【0062】
次に、測定結果を説明する。図8に、各アクチュエータにおける電界強度と発生力との関係を示す。図8中、横軸の電界強度は、印加電圧を、誘電層の厚さで除した値である。図8に示すように、同じ電界強度で比較した場合、実施例1、2のアクチュエータの方が、比較例1のアクチュエータよりも、発生力が大きくなった。特に、三層構造とした実施例1のアクチュエータにおいては、大きな発生力が得られると共に、印加可能な電圧も大きくなった。以上より、耐絶縁破壊性が高い誘電層に、本発明のエラストマー材料からなるイオン固定層を積層することにより、より大きな出力が得られることが確認された。
【産業上の利用可能性】
【0063】
本発明のエラストマー材料は、トランスデューサ、なかでも、産業、医療、福祉ロボットやアシストスーツ等に用いられる人工筋肉、電子部品冷却用や医療用等の小型ポンプ、および医療用器具等に用いられる柔軟なアクチュエータの構成材料として有用である。また、電子写真機器に用いられる導電性ロールの構成材料、樹脂製帯電防止フィルムおよび容器、リチウムイオン電池等の固体電解質等にも好適である。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8