【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、シリコーンゴムの比誘電率は小さい。このため、誘電層の材料にシリコーンゴムを用いた場合、印加電圧に対する静電引力が小さく、所望の発生力および変位量を得ることは難しい。また、シリコーンゴムの耐絶縁破壊性は充分とはいえず、印加できる電圧には限界がある。
【0007】
一方、アクリルゴムやニトリルゴムの比誘電率は、シリコーンゴムの比誘電率よりも大きい。このため、誘電層の材料にアクリルゴム等を用いると、印加電圧に対する静電引力は、シリコーンゴムを用いた場合と比較して大きくなる。しかしながら、アクリルゴム等の電気抵抗は、シリコーンゴムと比較して小さい。このため、誘電層が絶縁破壊しやすい。また、電圧印加時に電流が誘電層中を流れてしまい(いわゆる漏れ電流)、誘電層と電極との界面付近に電荷が溜まりにくい。したがって、比誘電率が大きいにも関わらず、静電引力が小さくなり、充分な力および変位量を得ることができない。さらに、電流が誘電層中を流れると、発生するジュール熱により、誘電層が破壊されるおそれがある。このように、一つの材料により、耐絶縁破壊性に優れ、かつ静電引力が大きい誘電層を実現することは、難しい。
【0008】
また、複写機、プリンタ、ファクシミリなどの電子写真機器には、帯電ロール、現像ロール、転写ロール等の種々の導電性ロールが用いられる。導電性ロールは、例えば、特許文献4に記載されているように、芯金と、その外周側に形成される導電性弾性体層と、さらにその外周側に形成される抵抗調整層と、から構成される。抵抗調整層は、導電性ロールの電気抵抗を調整する役割を果たす層であり、樹脂やゴムにイオン成分が配合された組成物から形成される。
【0009】
この種の導電性ロールにおいては、長時間電圧を印加すると、イオン成分が抵抗調整層の表面に滲出(ブルーム)してしまう、という問題がある。また、イオン成分とゴム等のマトリックスとの相容性が低い場合には、イオン成分が抵抗調整層の表面に析出しやすいという問題もある。イオン成分が滲出または析出すると、抵抗調整層が剥離しやすくなる。また、導電性ロールの電気抵抗が変化して、帯電不良により、画像に白抜け等の不具合が発生してしまう。
【0010】
本発明は、このような実情に鑑みてなされたものであり、トランスデューサや導電性ロールの構成材料として用いることができ、時間の経過や使用により特性が経時変化しにくいエラストマー材料、およびその製造方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
(1)本発明のイオン成分が固定化されたエラストマー材料は、エラストマーと、金属酸化物粒子に第一イオン成分が固定化されてなるイオン固定粒子と、該第一イオン成分と反対の電荷を持つ第二イオン成分と、を有し、該イオン固定粒子は該エラストマーに化学結合されていることを特徴とする。
【0012】
本発明のイオン成分が固定化されたエラストマー材料(以下適宜、「本発明のエラストマー材料」と称す)においては、イオン固定粒子がエラストマーに化学結合されている。イオン固定粒子は、金属酸化物粒子と、それに固定化された第一イオン成分と、からなる。つまり、第一イオン成分は、金属酸化物粒子を介して、エラストマーに固定化されている。
【0013】
金属酸化粒粒子に固定化される第一イオン成分の電荷は、プラスでもマイナスでもよい。例えば、プラス電荷を有する第一イオン成分が固定化される場合、エラストマー材料は、エラストマーと、該エラストマーに化学結合されており、陽イオンが金属酸化物粒子に固定化された陽イオン固定粒子と、マイナス電荷を有する第二イオン成分(陰イオン)と、を有する。
図1に、本態様のエラストマー材料の構成成分の模式図を示す。
図1に示すように、エラストマー材料2は、エラストマー20と、陽イオン固定粒子21と、陰イオン22と、を有する。エラストマー20は、カルボキシル基(−COOH)を有する。陽イオン固定粒子21は、TiO
2粒子210に陽イオン211が固定化されてなる。陽イオン211と陰イオン22とは、対イオンである。エラストマー20の−COOHとTiO
2粒子210の−OHとの反応により、陽イオン固定粒子21は、エラストマー20に化学結合される。
【0014】
反対に、マイナス電荷を有する第一イオン成分が固定化される場合、エラストマー材料は、エラストマーと、該エラストマーに化学結合されており、陰イオンが金属酸化物粒子に固定化された陰イオン固定粒子と、プラス電荷を有する陽イオン成分と、を有する。
図2に、本態様のエラストマー材料の構成成分の模式図を示す。
図2に示すように、エラストマー材料2は、エラストマー20と、陰イオン固定粒子23と、陽イオン24と、を有する。エラストマー20は、カルボキシル基(−COOH)を有する。陰イオン固定粒子23は、TiO
2粒子230に陰イオン231が固定化されてなる。陰イオン231と陽イオン24とは、対イオンである。エラストマー20の−COOHとTiO
2粒子230の−OHとの反応により、陰イオン固定粒子23は、エラストマー20に化学結合される。なお、
図1、
図2は、本発明のエラストマー材料を説明するための模式図であり、本発明のエラストマー材料を何ら限定するものではない。
【0015】
本発明のエラストマー材料においては、対になるイオン成分のうちの一方が、金属酸化物粒子を介して、エラストマーに固定化される。固定化されたイオン成分は、移動しにくい。このため、イオン成分が滲出したり析出するおそれは小さい。したがって、例えば、本発明のエラストマー材料を、導電性ロールの抵抗調整層に使用すると、抵抗調整層の剥離や電気抵抗の変化が抑制され、帯電不良による画像の不具合を低減することができる。
【0016】
また、本発明のエラストマー材料を、誘電層に積層させて、トランスデューサを構成することができる。この場合、誘電層と、該誘電層の表裏両側に配置される一対の電極と、を備えるトランスデューサにおいて、本発明のエラストマー材料からなるイオン固定層を、該誘電層と該電極との間に介装すればよい。ここで、イオン固定層は、誘電層を挟むように、誘電層の表裏両面に配置してもよく、誘電層の表面または裏面のどちらか一方に配置してもよい。但し、イオン固定粒子の第一イオン成分の電荷は、隣接する電極の極性と同じにする。すなわち、イオン固定層において、第一イオン成分がプラス電荷を有する場合には、当該イオン固定層は、プラス側の電極と誘電層との間に配置される。反対に、第一イオン成分がマイナス電荷を有する場合には、当該イオン固定層は、マイナス側の電極と誘電層との間に配置される。
【0017】
以下、模式図を用いて、トランスデューサの一実施形態の構成および動作を説明する。
図3に、トランスデューサの電圧印加前の状態における断面模式図を示す。
図4は、同トランスデューサの電圧印加時の状態における断面模式図を示す。
【0018】
図3に示すように、トランスデューサ1は、誘電層10と、陽イオン固定層11と、陰イオン固定層12と、プラス電極13と、マイナス電極14と、を備えている。陽イオン固定層11は、誘電層10の上面に配置されている。プラス電極13は、陽イオン固定層11の上面に配置されている。つまり、陽イオン固定層11は、誘電層10とプラス電極13との間に介装されている。陽イオン固定層11は、エラストマー110と、陽イオン固定粒子111と、陰イオン成分112と、を有している。陽イオン固定粒子111は、陽イオン成分が固定化された金属酸化物粒子である。陽イオン固定粒子111は、エラストマー110に化学結合されている。
【0019】
同様に、陰イオン固定層12は、誘電層10の下面に配置されている。マイナス電極14は、陰イオン固定層12の下面に配置されている。つまり、陰イオン固定層12は、誘電層10とマイナス電極14との間に介装されている。陰イオン固定層12は、エラストマー120と、陰イオン固定粒子121と、陽イオン成分122と、を有している。陰イオン固定粒子121は、陰イオン成分が固定化された金属酸化物粒子である。陰イオン固定粒子121は、エラストマー120に化学結合されている。陽イオン固定層11および陰イオン固定層12は、本発明のエラストマー材料に含まれる。
【0020】
図4に示すように、プラス電極13とマイナス電極14との間に電圧が印加されると、陽イオン固定層11においては、陰イオン成分112がプラス電極13側へ移動する。一方、陽イオン固定粒子111は、エラストマー110と結合されている。このため、陽イオン成分は、ほとんど移動しない。同様に、陰イオン固定層12においては、陽イオン成分122がマイナス電極14側へ移動する。一方、陰イオン固定粒子121は、エラストマー120と結合されている。このため、陰イオン成分は、ほとんど移動しない。また、誘電層10においては、分極により、陽イオン固定層11との界面付近にマイナス電荷が、陰イオン固定層12との界面付近にプラス電荷が、各々蓄えられる。このように、トランスデューサ1においては、陽イオン固定層11、陰イオン固定層12、およびこれらと接する誘電層10の界面付近に、多くの電荷が蓄えられる。したがって、プラス電極13およびマイナス電極14から、誘電層10、陽イオン固定層11、陰イオン固定層12を圧縮するように、大きな静電引力が発生する。これにより、誘電層10、陽イオン固定層11、陰イオン固定層12は上下方向に圧縮され、その分だけ、
図4中白抜き矢印で示すように、左右方向に伸長する。
【0021】
誘電層10の電気抵抗が大きい場合、蓄えられた電荷は、誘電層10内を移動しにくい。したがって、いわゆる漏れ電流は少なく、それによるジュール熱も発生しにくい。また、陽イオン固定層11においては、隣接するプラス電極13の極性と同じ陽イオン成分が、金属酸化物粒子を介してエラストマー110に固定される。このため、陽イオン成分は、誘電層10側(プラス電極13と反対方向)に移動しにくい。同様に、陰イオン固定層12においては、隣接するマイナス電極14の極性と同じ陰イオン成分が、金属酸化物粒子を介してエラストマー120に固定される。このため、陰イオン成分は、誘電層10側(マイナス電極14と反対方向)に移動しにくい。このように、陽イオン固定層11および陰イオン固定層12から、誘電層10へ、イオン成分が移動するおそれは小さい。したがって、誘電層10の電気抵抗は低下しにくい。つまり、誘電層10は、経時劣化しにくく、高い耐絶縁破壊性を維持することができる。
【0022】
以上説明したように、耐絶縁破壊性が高い誘電層に、本発明のエラストマー材料からなるイオン固定層を積層することにより、大きな静電引力を発生させることができる。また、イオン固定層においては、隣接する電極の極性と同じ電荷を持つ第一イオン成分が、金属酸化物粒子を介してエラストマーに固定される。このため、イオン固定層中のイオン成分が、誘電層へ移動しにくい。したがって、誘電層の耐絶縁破壊性を維持したまま、大きな静電引力を発生させることができる。このように、本発明のエラストマー材料によると、実用的な電圧範囲において、出力の大きなトランスデューサを構成することができる。
【0023】
ちなみに、上記特許文献3には、一対の電極間に、導電性ポリマー層とイオン電解質含有層とが介装されたアクチュエータが、開示されている。特許文献3のアクチュエータによると、電圧を印加して、イオン電解質含有層のイオンを、導電性ポリマー層にドープまたはアンドープさせる。これにより、導電性ポリマー層を伸縮させて、力を発生させる。特許文献3のアクチュエータは、隣接する層間でイオンを移動させるという点において、本発明のエラストマー材料を用いたトランスデューサとは異なる。
【0024】
(2)本発明のイオン成分が固定化されたエラストマー材料の製造方法(以下適宜、「本発明のエラストマー材料の製造方法」と称す)は、有機金属化合物にキレート剤を添加して、該有機金属化合物のキレート化物を生成するキレート化工程と、該有機金属化合物のキレート化物に、反応性イオン性液体と、有機溶剤と、水とを添加して、該有機金属化合物の加水分解反応により生成した金属酸化物粒子に、該反応性イオン性液体中の第一イオン成分を固定化してイオン固定粒子を生成し、該イオン固定粒子と、該反応性イオン性液体中の第二イオン成分と、を含むゾルを得るイオン固定化工程と、該ゾルと、水酸基と反応可能な官能基を有するゴムポリマーを含むポリマー溶液と、を混合して混合液を調製し、該混合液を基材上に塗布して硬化させる硬化工程と、を有することを特徴とする。
【0025】
本発明のエラストマー材料の製造方法は、キレート化工程と、イオン固定化工程と、硬化工程と、を有する。まず、キレート化工程において、有機金属化合物をキレート化する。有機金属化合物は、水と反応して加水分解すると共に重縮合する(ゾルゲル反応)。有機金属化合物を予めキレート化しておくことにより、次工程において、有機金属化合物と水との急激な反応を抑制し、粒子径の小さな金属酸化物粒子を、凝集させることなく製造することができる。
【0026】
次に、イオン固定化工程において、有機金属化合物のキレート化物に、反応性イオン性液体と、所定の有機溶剤と、水とを添加する。これにより、有機金属化合物の加水分解反応が進行して、金属酸化物粒子が生成されると共に、生成した金属酸化物粒子と、反応性イオン性液体中の第一イオン成分と、が反応して、金属酸化物粒子に第一イオン成分が固定化される。本工程においては、有機金属化合物の加水分解反応と同時に、反応性イオン液体との反応が進行する。このため、反応性イオン性液体中の第一イオン成分は、生成する金属酸化物粒子の表面だけでなく、内部にも固定化される。この点において、単に粒子表面にイオン成分を固定化する従来の手法とは異なる。キレート化工程、イオン固定化工程により、イオン固定粒子および第二イオン成分を含むゾルが得られる。
【0027】
次に、硬化工程において、得られたゾルとゴムポリマーを含むポリマー溶液とを混合し、得られた混合液からエラストマー材料を製造する。ゾル中のイオン固定粒子(金属酸化物粒子)は、水酸基(−OH)を有する。一方、ゴムポリマーは、当該水酸基と反応可能な官能基を有する。このため、混合液の硬化時に、水酸基と官能基とが反応して、イオン固定粒子とゴムポリマーとが化学結合する。このように、本発明の製造方法によると、上記本発明のエラストマー材料を比較的簡単に製造することができる。