特許第5719978号(P5719978)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】5719978
(24)【登録日】2015年3月27日
(45)【発行日】2015年5月20日
(54)【発明の名称】ケーブルシステム
(51)【国際特許分類】
   H02G 11/00 20060101AFI20150430BHJP
   H02G 11/02 20060101ALI20150430BHJP
   B65H 75/42 20060101ALI20150430BHJP
【FI】
   H02G11/00 P
   H02G11/02 E
   H02G11/02 P
   B65H75/42 F
【請求項の数】4
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2014-555657(P2014-555657)
(86)(22)【出願日】2014年6月26日
(86)【国際出願番号】JP2014066997
【審査請求日】2014年11月14日
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000110251
【氏名又は名称】トピー工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100085556
【弁理士】
【氏名又は名称】渡辺 昇
(74)【代理人】
【識別番号】100115211
【弁理士】
【氏名又は名称】原田 三十義
(74)【代理人】
【識別番号】100153800
【弁理士】
【氏名又は名称】青野 哲巳
(72)【発明者】
【氏名】津久井 慎吾
(72)【発明者】
【氏名】大村 誠司
(72)【発明者】
【氏名】岩城 秀和
【審査官】 南 正樹
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2013/099912(WO,A1)
【文献】 特開昭58−188255(JP,A)
【文献】 特開2004−091111(JP,A)
【文献】 米国特許第04666102(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02G 11/00
B65H 75/42
H02G 11/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ア.基地装置(1)と走行体(2)とを繋ぎ少なくとも信号伝送を担うケーブル(3)と、
イ.上記走行体(2)に搭載され、上記ケーブル(3)が巻かれるリール(12)と、このリールを駆動するモータ(15)と、このリールの回転に関する情報を出力する回転センサ(16)を有するリール装置(10)と、
ウ.上記走行体(2)の走行速度に関する情報を出力する速度センサ(50)と、
エ.上記リール装置(10)のモータ(15)を制御するモータコントローラ(40)と、
を備えたケーブルシステムにおいて、
上記モータコントローラ(40)は、上記回転センサ(16)からの出力情報に基づき上記リール(12)の回転方向を判断し、上記リールが上記ケーブル(3)を繰り出す方向に回転していると判断した時には、基本的に上記モータ(15)をフリーにし、上記リール(12)がケーブル(3)を巻き取る方向に回転していると判断した時には、基本的に上記モータ(15)を駆動させて上記リールに巻き取り方向の回転トルクを付与し、
さらに上記モータコントローラ(40)は、上記リール(12)が繰り出し方向に回転している状況にあっても、上記回転センサ(16)からの出力情報に基づく、上記リール(12)からの上記ケーブル(3)の操り出し速度が、上記速度センサ(50)からの出力情報に基づく上記走行体(2)の速度を超えている時には、上記モータ(15)を駆動させて上記リール(12)に巻き取り方向の回転トルクを付与することを特徴とするケーブルシステム。
【請求項2】
上記回転センサは、上記リール(12)の所定角度回転毎にパルスからなる信号を出力するロータリーエンコーダ(16)からなり、
上記モータコントローラ(40)は、上記ロータリーエンコーダ(16)からの上記パルスからなる信号に基づき上記リール(12)の回転方向を判断するとともに、積算エンコーダ値を演算し、この積算エンコーダ値は、上記リール(12)が巻き取り方向に回転している時には上記パルス数を加算し、上記リールが繰り出し方向に回転している時には上記パルス数を減算することにより得、
上記モータコントローラ(40)は、上記積算エンコーダ値と、単位時間当たりに上記ロータリーエンコーダ(16)から出力されるパルスに基づき、上記ケーブル(3)の繰り出し速度を演算することを特徴とする請求項1に記載のケーブルシステム。
【請求項3】
上記モータコントローラ(40)は、上記積算エンコーダ値に基づき上記リール(12)に巻かれたケーブル(3)の最も外側に位置する一巻き部分の径または周長を演算し、上記ロータリーエンコーダ(16)からの単位時間当たりのパルスに基づき上記リール(12)の繰り出し方向の回転速度を演算し、上記ケーブル(3)の一巻き部分の径または周長と上記リール(12)の回転速度に基づき、上記ケーブル(3)の繰り出し速度を演算することを特徴とする請求項2に記載のケーブルシステム。
【請求項4】
上記モータコントローラ(40)は、上記積算エンコーダ値と上記リール(12)に巻き取られたケーブル(3)の長さとの関係を表すデータを予め記憶し、上記ロータリーエンコーダ(16)からの単位時間当たりのパルスと上記データに基づき、単位時間当たりの積算エンコーダ値の変化に対応する単位時間当たりのケーブル長さの変化量を演算し、この単位時間当たりのケーブル長さの変化量を、上記ケーブル(3)の繰り出し速度として用いることを特徴とする請求項2に記載のケーブルシステム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リール装置を装備したケーブルシステムに関する。
【背景技術】
【0002】
走行体をリモートコントローラ(基地装置)の遠隔操縦により走行させることは周知である。走行体にはビデオカメラが搭載されており、このビデオカメラからの映像信号がリモートコントローラに送られ、操作者はリモートコントローラに付随するモニタディスプレイを見ながらリモートコントローラを操作する。このリモートコントローラからの遠隔操縦信号が走行体に送られ、走行体が前進、後退、旋回する。
【0003】
上記映像信号および遠隔操縦信号を伝送する方式として無線方式と有線方式がある。電波の届きにくい曲がりくねった通路を持つ建築物内や水中で走行体を利用するには主に有線方式が適用される。
また、走行体がレスキューまたは探査用の走行体の場合、現場が建造物内であり、且つコントローラの操作者が毒や放射線や爆発危険などのため現場に近づけず、百メートル以上、場合に依っては1Kmも離れた所で操作せざるを得ないことがある。このような場合には、殆ど有線方式の走行体が適用される。
【0004】
有線方式では走行体とリモートコントローラは長いケーブルで繋がっており、このケーブルに信号伝送線が組み込まれている。
上記有線方式の走行体において、ケーブルを巻くリールは走行体に設置するのが一般的である。基地局にリールを配置すると、走行体が基地局のリールからケーブルを引き出す必要があり、負荷が大きいからである。
【0005】
しかし、上記のようにリールを走行体に載せる方式を採った場合、細く長いケーブルをリールに巻き付けるため、ケーブルがたるんで走行体の一部に引っ掛かったり、ケーブルが絡んで信号伝送ができなくなり、その結果として走行体が動かなくなるという問題がある。
【0006】
特許文献1〜3は、クローラ式の走行体に搭載されたリール装置を開示している。このリール装置は、上記ケーブルを巻くリールと、このリールに連結されたモータと、このリールの回転を検出するロータリーエンコーダ(回転センサ)と、モータコントローラとを備えている。
【0007】
上記特許文献1〜3では、上記モータコントローラは、基本的に上記モータを次のように制御する。
走行体がリモートコントローラ(基地局)から離れる方向に移動し(前進し)、ロータリーエンコーダがリールの繰り出し方向の回転を示すパルス信号を出力している時には、モータをフリーにしてケーブルがリール装置から円滑に繰り出されるのを許容し、これにより、ケーブルが張り過ぎて走行体の前進の抵抗にならないようにする。
また、走行体がリモートコントローラに近づく方向に移動する(後退する)場合には、モータを駆動してケーブルをリールに巻き取り、これによりケーブルがたるまないようにする。
【0008】
しかし、上記基本制御だけでは不都合が生じる。例えば走行体が前進している状態ではモータフリーとなってケーブルが繰り出されるが、この状況で走行体が急停止した場合には、慣性によりリールが回り続けるため、ケーブルが必要以上に繰り出され、ケーブルにたるみが生じる。
そこで、上記特許文献1では、走行体に前後方向の加速度を検出する加速度センサを設置し、上記のように走行体が前進中に急停止した時には、上記モータコントローラが、加速度センサにより検出された後退方向の加速度に応答して、上記モータを駆動し上記リールを巻き取り方向に回転させることにより、上記ケーブルを巻き取るようにしている。
【0009】
また、上記基本制御だけでは次のような不都合も生じる。例えば、上記走行体が階段を昇り切った時に、走行体は重力により前側が急激に下降し、傾いた姿勢から水平な姿勢に急激に変化する。この時、上記リールは走行体の姿勢急変に伴い、ケーブルに引っ張られるためリールが高速で回転し、ケーブルを高速で繰り出す。走行体が着地した後もリールは慣性により高速で回転し続ける。その結果、ケーブルにたるみが生じ、このたるみ部分が、繰り出し方向に回転しているリールに絡まったり、リールの近傍に無秩序に広がったり、走行体の一部に引っ掛かったりし、走行体が動かなくなって回収ができなくなる原因となる。
そこで、特許文献2,3では、走行体に上下方向の加速度を検出する加速度センサを設置し、走行体の姿勢が急変した時には、、上記モータコントローラが、この加速度センサからの加速度情報に応答して、上記モータを駆動し上記リールを巻き取り方向に回転させることにより、上記ケーブルを巻き取るようにしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特許4630908号公報
【特許文献2】特許5432419号公報
【特許文献3】特許5426049号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
上記特許文献1〜3ではケーブルのたるみを防止するためのリール用モータの制御に加速度センサを用いるが、加速度情報に依存すると、下記の不都合が生じる。
加速度センサの出力はアナログ信号なのでノイズの影響を受けやすく、平均化処理等を必要とするため、応答速度が遅くなる。
不整地を走行中に衝撃や振動により前後方向や上下方向の加速度を受けた時に、走行体の急停止や階段の昇り切りや降り始めと誤って判断し、リールの巻取り制御を実行してしまう可能性がある。この誤判断を防ぐためには、追加的に複雑な制御ソフトを必要とする。
【0012】
なお、特許文献2,3では、本願発明と同様に、ケーブルの操り出し速度と走行体速度を比較している。しかし、特許文献2,3では、ケーブルの操出速度が走行体速度を超えた時にはモータブレーキを掛けるだけで、本願発明のような巻取り制御を行うものではない。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明は上記課題を解決するためになされたもので、
ア.基地装置と走行体とを繋ぎ少なくとも信号伝送を担うケーブルと、
イ.上記走行体に搭載され、上記ケーブルが巻かれるリールと、このリールを駆動するモータと、このリールの回転に関する情報を出力する回転センサを有するリール装置と、
ウ.上記走行体の走行速度に関する情報を出力する速度センサと、
エ.上記リール装置のモータを制御するモータコントローラと、
を備えたケーブルシステムにおいて、
上記モータコントローラは、上記回転センサからの出力情報に基づき上記リールの回転方向を判断し、上記リールが上記ケーブルを繰り出す方向に回転していると判断した時には、基本的に上記モータをフリーにし、上記リールがケーブルを巻き取る方向に回転していると判断した時には、基本的に上記モータを駆動させて上記リールに巻き取り方向の回転トルクを付与し、
さらに上記モータコントローラは、上記リールが繰り出し方向に回転している状況にあっても、上記回転センサからの出力情報に基づく、上記リールからの上記ケーブルの操り出し速度が、上記速度センサからの出力情報に基づく上記走行体の速度を超えている時には、上記モータを駆動させて上記リールに巻き取り方向の回転トルクを付与することを特徴とする。
【0014】
上記構成によれば、走行体の走行状況に応じてケーブルのたるみを無くすようにリールを制御できるので、走行体を安定して走行させることができる。また、加速度センサを用いずにリール制御を行うので、応答速度が速く、振動や衝撃等による誤検出に基づく不用意なケーブル巻き取り制御も確実に回避できる。また、誤検出を防止するための複雑な制御ソフトも不要である。
【0015】
好ましくは、上記回転センサは、上記リールの所定角度回転毎にパルスからなる信号を出力するロータリーエンコーダからなり、上記モータコントローラは、上記ロータリーエンコーダからの上記パルスからなる信号に基づき上記リールの回転方向を判断するとともに、積算エンコーダ値を演算し、この積算エンコーダ値は、上記リールが巻き取り方向に回転している時には上記パルス数を加算し、上記リールが繰り出し方向に回転している時には上記パルス数を減算することにより得、上記モータコントローラは、上記積算エンコーダ値と、単位時間当たりに上記ロータリーエンコーダから出力されるパルスに基づき、上記ケーブルの繰り出し速度を演算する。
上記構成によれば、積算エンコーダ値を用いることにより、ケーブルのリールへの巻き取り状況に応じて、正確にケーブルの繰り出し速度を演算でき、より正確なケーブルたるみ防止制御を行うことができる。しかも、このケーブルの巻き取り状況は、ロータリーエンコーダからのパルスからなる信号に基づき得られるので、別途検出手段を必要とせず、ケーブルシステムのコストを低減できる。
【0016】
一の態様では、上記モータコントローラは、上記積算エンコーダ値に基づき上記リールに巻かれたケーブルの最も外側に位置する一巻き部分の径または周長を演算し、上記ロータリーエンコーダからの単位時間当たりのパルスに基づき上記リールの繰り出し方向の回転速度を演算し、上記ケーブルの一巻き部分の径または周長と上記リールの回転速度に基づき、上記ケーブルの繰り出し速度を演算する。
他の態様では、上記モータコントローラは、上記積算エンコーダ値と上記リールに巻き取られたケーブルの長さとの関係を表すデータを予め記憶し、上記ロータリーエンコーダからの単位時間当たりのパルスと上記データに基づき、単位時間当たりの積算エンコーダ値の変化に対応する単位時間当たりのケーブル長さの変化量を演算し、この単位時間当たりのケーブル長さの変化量を、上記ケーブルの繰り出し速度として用いる。
【発明の効果】
【0017】
本発明のケーブルシステムによれば、簡単な情報処理でケーブルのたるみを確実かつ迅速に解消できる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】本発明の一実施形態をなすケーブルシステムを備えた探査システムの概略側面図である。
図2】同ケーブルシステムのリール装置の平断面図であり、リール装置のモータを制御するための構成をブロックで付加して示す。
図3】同リール装置のモータを制御するためのフローチャートである。
図4】同リール装置のロータリーエンコーダからのパルスを計数して得られる積算エンコーダ値とケーブルの巻き取り長さとの関係を示す図である。
図5A】上記探査システムの走行体が前進時に階段を昇り切る直前の状態を示す概略図である。
図5B】同走行体が階段を昇り切って傾斜姿勢から水平姿勢に変わった直後の状態を示す概略図である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
以下、本発明の一実施形態をなすケーブルシステムAを含む探査システムについて、図面を参照しながら説明する。図1に示すように、探査システムは、リモートコントローラ1(基地装置)と、クローラ式の走行体2と、これらリモートコントローラ1と走行体2を繋ぐ長いケーブル3を備えている。
【0020】
上記リモートコントローラ1は、モニタディスプレイ1aを有している。上記走行体2は、走行用のモータおよびバッテリ(図示しない)を備えている。上記ケーブル3は光ファイバを内蔵し信号を伝送する。
【0021】
上記走行体2にはビデオカメラ4a,4b(探査装置)が搭載されている。ビデオカメラ4aは走行体2の前方を撮影し、ビデオ4bは走行体2の後方を撮影する。探査装置として、このビデオカメラに加えて、あるいはビデオカメラの代わりに赤外線センサ、化学物質検出センサ、温度センサ、放射線センサ等のセンサを含んでもよい。
【0022】
操作者は、走行体2の前進時にはビデオカメラ4aからの映像を、走行体2の後退時にはビデオカメラ4bからの映像を、モニタディスプレイ1aで見ながら、リモートコントローラ1を操作して、走行体2の走行用モータを制御することにより、走行体2の前進、後退、旋回の遠隔操縦を行う。
【0023】
ケーブルシステムAは、上述したケーブル3と、このケーブル3を巻き取ったり繰り出したりするリール装置10とを備えている。このリール装置10は、例えば上記走行体2の後部に搭載されており、走行体2のボデイ上面に固定された一対のサポート11と、これらサポート11に回転可能に支持されたリール12と、整列機構13とを備えている。このリール12の軸芯は、走行体2の前進、後退方向と直交して水平に延びている。
【0024】
上記整列機構13は、上記リール12の近傍において上記一対のサポート11に支持されており、リール12の回転に伴いケーブル3をリール12の軸方向に移動させ、その移動行程の終端位置に達したらケーブル3の移動方向を逆転させ、これを繰り返すことにより、ケーブル3をリール12の胴部12aに、その軸芯方向にほぼ均一に巻くようになっている。
【0025】
上記ケーブル3の一端はリモートコントローラ1に内蔵されたコンバータに接続されている。このコンバータは、ケーブル3からリモートコントローラ1への信号を、光信号から電気信号に変換し、リモートコントローラ1からケーブル3への信号を電気信号から光信号に変換する。
【0026】
上記ケーブル3は、上述したように上記リール装置10の整列機構13を通ってリール12の胴部12aに巻かれており、このケーブル3の他端はリール12に設けられたロータリージョイント(図示しない)に接続され、さらにコンバータ、ハブを介して複数系統の電気信号線に接続されている。
【0027】
上記複数系統の電気信号線は、走行体2の走行用モータのモータドライバへの制御信号の伝送、ビデオカメラ4a,4bからの映像信号(探査信号)の伝送等のために提供される。上記リール装置10のコンバータでも、光信号と電気信号との間の変換を行う。
【0028】
上記リール装置10は、図2に示すように、リール用モータ15と、ロータリーエンコーダ16(回転センサ)を備えている。
上記モータ15は例えばブラシ付きDCモータであり、サポート11の側壁に固定され、内蔵のギアトレインを介して上記リール12に連結されている。
【0029】
上記ロータリーエンコーダ16は、上記モータ15(ひいては上記リール12)の回転時に、リール12の所定角度回転毎にパルス信号を出力するものである。周知のように、このパルス信号は位相の異なる2つのパルスからなり、この2つの信号の位相差によってリール12の回転方向を見分けられるようになっている。
【0030】
図2に示すように、ケーブルシステムAはさらに、モータドライバ30と、マイクロプロセッサ等を含むモータコントローラ40とを備えている。
上記モータドライバ30は、モータ15への駆動電流を供給する駆動回路を含むとともに、モータ15のコイルを流れる電流を検出する電流検出回路31を含んでいる。
【0031】
上記モータコントローラ40は、上記ロータリーエンコーダ16、上記電流検出回路31、および走行体2のスプロケットの回転を検出するロータリーエンコーダ50(速度センサ)からの出力情報に基づき、モータドライバ30に制御信号を送り、モータ15を制御する。
【0032】
以下、上記モータコントローラ40によるモータ15の制御について、図3のフローチャートを参照しながら説明する。
ステップS1で、上記ロータリーエンコーダ16からのパルス信号に基づき、リール12の回転方向、回転速度Rを演算する。回転方向は上述したようにパルス信号の位相差から検出することができる。回転速度Rは、単位時間あたりにロータリーエンコーダ16から出力されるパルス数に基づき演算することができる。
【0033】
ステップS2では、上記ロータリーエンコーダ16の積算エンコーダ値Nを演算する。この積算エンコーダ値Nは、リール12の胴部12aにケーブル3が巻かれていない状態をゼロとして演算される。リール12が巻き取り方向に回転している時には、ロータリーエンコーダ16のパルス数を加算し、リール12が操り出し方向に回転している時には、ロータリーエンコーダ16のパルス数を減算することにより、積算エンコーダ値Nが得られる。
【0034】
上記積算エンコーダ値Nは、リール12へのケーブル3の巻き取り状況に関する情報を含んでいる。例えば図4に示すように、積算エンコーダ値Nは巻き取られているケーブル3の長さLに関する情報を含んでいる。積算エンコーダ値Nとケーブル3の巻き取り長さLは比例関係ではなく、積算エンコーダ値Nが多くなるほど、その勾配は徐々に増大する。これは、ケーブル3が多く巻かれているほど、リール12の1回転で巻かれるケーブル3の長さが増大するからである。
【0035】
上記積算エンコーダ値Nは、ケーブル3の巻き取り状況として、リール径Dの情報も含んでいる。このリール径Dは、リール12に巻かれたケーブル3のうち最も外側に位置するケーブル3の一巻き部分の径を意味する。積算エンコーダ値Nとリール径Dは略比例関係にあり、下記演算式で求められる。
D=D+k・N・・・(1)
ここでDは、ケーブル3が巻かれていない状態でのリール12の胴部12aの径であり、kは定数である。定数kは、ケーブル3の直径、整列機構13により一列に並ぶケーブル3の巻き数等により決定される。
【0036】
同様に、上記積算エンコーダ値Nはリール周長の情報も含んでいる。リール周長は、リール12に巻かれたケーブル3のうち最も外側に位置するケーブル3の一巻き部分の周長を意味する。積算エンコーダ値Nとリール周長は略比例関係にある。
【0037】
ステップS3では、上記リール径Dを演算する。このリール径Dは、上記積算エンコーダ値Nに基づき上記演算式(1)から求めてもよいし、モータコントローラ40に予め上記積算エンコーダ値Nとリール径Dとの関係を表す実測データを記憶し、このデータから求めてもよい。
【0038】
ステップS4では、ロータリーエンコーダ50からのパルス信号に基づき、走行体2の進行方向、速度Vを演算する。
【0039】
次のステップS5で、上記リール12の回転方向が繰り出し方向か否かを判断する。肯定判断の場合(すなわちリール12が繰り出し方向に回転していると判断した場合)には、原則として後述のモータフリーによる繰り出し制御を実行し、否定判断の場合(すなわちリール12が巻き取り方向に回転しているか停止していると判断した場合)には、原則としてモータ15の駆動による巻き取り制御を実行する。
【0040】
最初に上記巻き取り制御について詳述する。ステップS5で否定判断した時には、ステップS6に進み、ここで、走行体2の移動速度Vが後退方向に設定移動速度V以上であるか否かを判断する。この設定移動速度Vは、通常の後退速度より遥かに低い速度(微速)である。したがって、走行体2が通常の後退をしている状況では、ステップS6で肯定判断し、ステップS7に進む。ステップS7では、リール12に巻き取り方向の回転トルクを付与するように、かつ上記電流検出回路31での検出電流が設定電流Iuになるように、モータ15への供給電流をデューティ制御する。これにより比較的大きな回転トルクでケーブル3を巻き取ることができる。
【0041】
上記ステップS6で否定判断した場合、すなわち走行体2が前進しているか後退方向に設定移動速度V未満(速度ゼロも含む)であると判断した場合には、ステップS8に進む。このステップS8では、リール12の巻き取り方向に回転トルクを発生させるように、かつ上記電流検出回路31での検出電流が設定電流Idになるようにモータ15を制御する。この設定電流Idは上述した設定電流Iuより小さい。したがって、この時の回転トルクはステップS7を実行している時の回転トルクより小さい。
【0042】
上記操り出し制御の原則は、種々の条件により変更される。以下、詳述する。
上記ステップS5で肯定判断した時には、ステップS9で、リール12の回転速度Rが設定回転速度R以上か否かを判断する。この設定回転速度Rは、走行体2の通常の前進状態でのリール12の回転速度に比較して遥かに低い回転速度(微速)であり、走行体2が通常の前進状態にある時には、このステップS9では肯定判断される。
【0043】
上記ステップS9で、否定判断した場合(すなわちリール12が繰り出し方向に回転しているものの、非常に低速であると判断した場合)には、ケーブル3にたるみが生じる事態を想定して上述したステップS6〜S8の巻き取り制御を行い、たるみを予防ないしは解消する。
【0044】
上記ステップS9で肯定判断した場合(すなわちリール12が繰り出し方向に設定回転速度R以上で回転していると判断した場合)には、原則的に繰り出し制御を維持すべく、ステップS10に進む。ステップS10では、上記リール12の回転速度Rと、上記リール径Dから、下記演算により、リール12からケーブル3が繰り出される速度F(単位時間当たりに繰り出されるケーブル3の長さ)を演算する。
F=πD・R・・・(2)
【0045】
次のステップS11では、ケーブル3の繰り出し速度Fが走行体2の前進速度Vより大きいか否かを判断する。ケーブル3の繰り出し速度Fが走行体2の前進速度Vを越えていることは、ケーブル3が必要以上に繰り出されていることを意味する。
【0046】
ステップS11で否定判断した時には、繰り出し制御を実行すべく、次のステップS12に進み、モータ15をフリーにする(モータドライバ30の駆動回路を開くことにより、モータ15の抵抗を受けずにリール12を回転可能な状態にする)。
【0047】
ステップS11で肯定判断した時には、ステップS13に進み、ここでモータ15を駆動して巻き取り制御を実行する。ここでは、検出電流が設定電流Id’になるように、モータ15を駆動し、リール12に巻き取り方向の回転トルクを付与する。なお、この設定電流Id’は、ステップS14の設定電流Iuより小さく設定電流Idより大きい。
【0048】
ステップS11で肯定判断する状況は、例えば以下に説明するような走行体2の姿勢急変時に生じる。
図5Aに示すように、走行体2が階段を昇っている時には走行体2は傾斜しており、階段を昇りきった時に、重力により前側が下降するように走行体2が回転し、図5Bに示す水平姿勢になる。この走行体2の姿勢の急変の過程で、リール12が急に上方へ変位する(本実施形態のようにリール12が走行体2の後部に設けられている場合)ため、リール12はケーブル3に引っ張られて繰り出し方向に高速で回転し、その慣性で回転し続ける。この状況を放置すると、ケーブル3がたるみ、たるんだ部分が絡んだり無秩序にリール12近傍に広がってしまう。しかし、本実施形態では、ステップS11で肯定判断し、ステップS13で迅速にリール12に巻き取り方向の回転トルクを付与することにより、ケーブル3のたるみを制限し、短時間でたるみを解消するので、ケーブル3のたるみ部分がリール12の近傍に広がるような不都合を回避することができる。
【0049】
ここで、走行体2の姿勢が急変する他の態様について説明する。走行体2が前進しながら階段や大きな段差を降り始める時は、走行体2が水平姿勢から傾斜姿勢に急変する。また、走行体2が前進しながら階段や大きな段差を降り切る時は、走行体2の後端が最後の段から落下するため、走行体2が傾斜姿勢から水平姿勢に急変する。これらの場合でも、上述した階段の昇り切りの場合と同様に、リール12がケーブル3に強く引っ張られて繰り出し方向に高速回転するが、上記と同様にステップS11,S13により、ケーブル3のたるみを短時間で解消できる。
【0050】
ステップS11で肯定判断する状況は、例えば走行体2を前進から急停止させた時にも生じる。リール12は走行体2の前進時に繰り出し方向に回転するが、走行体2が急停止しても慣性により繰り出し方向に回転し続けるので、この状況を放置するとケーブル3にたるみが生じるのである。しかし、この状況でもステップS11、S13により、ケーブル3のたるみを解消することができる。
【0051】
本発明の制御態様は上記実施形態に制約されず、種々採用可能である。例えば、ステップS3において上記積算エンコーダ値からリール径を演算する代わりに、上述したリール周長を求め、ステップS10において、このリール周長にリールの回転速度を乗じてケーブルの繰り出し速度を演算してもよい。
【0052】
また、モータコントローラは、図4に示す実測データを記憶しておき、積算エンコーダ値に対応するケーブル3の巻き取り長さLを演算し、単位時間当たりのケーブルの巻き取り長さの変化量を、ケーブルの繰り出し速度として用いてもよい。
【0053】
積算エンコーダ値を用いずに、巻き取られたケーブルに接触する接触アームの角度情報からリール径やリール周長を演算してもよいし、巻き取られたケーブルにレーザーを照射するレーザー距離計からの距離情報によりリール径やリール周長を演算してもよい。
【0054】
さらに、積算エンコーダ値やリール径・周長の検出手段等を用いず、リール回転速度だけの情報からケーブルの繰り出し速度を求めてもよい。この場合には、リール径またはリール周長の平均値を定数として用いる。
【0055】
リール装置のモータを制御するモータコントローラを基地装置に設けてもよい。
ケーブルは信号伝送を行う光ファイバと給電線を含んでいてもよい。この場合、走行体、リール装置の電源を、基地装置近傍に配置することができる。
走行体は複数の車輪を装備した走行体であってもよい。
【産業上の利用可能性】
【0056】
本発明は、探査ロボット等の走行体制御に用いられるケーブルシステムに適用することができる。
【符号の説明】
【0057】
A ケーブルシステム
1 リモートコントローラ(基地装置)
2 走行体
3 ケーブル
10 リール装置
12 リール
15 モータ
16 ロータリーエンコーダ(回転センサ)
40 モータコントローラ
50 ロータリーエンコーダ(速度センサ)
【要約】
ケーブルシステムAは、基地装置1と走行体2とを繋ぐケーブル3と、走行体2に搭載されたリール装置10と、リール装置10のモータ15を制御するモータコントローラ40と、リール12の回転を検出するロータリーエンコーダ16(回転センサ)とを備えている。モータコントローラ40は、リール12が繰り出し方向に回転している時には、基本的にモータ15をフリーにし、リール12が巻き取り方向に回転している時には、基本的にリール12に巻き取り方向の回転トルクを付与する。さらに、リール12が繰り出し方向に回転している状況にあっても、ケーブル3の操り出し速度が走行体2の速度を超えた時には、リール12に巻き取り方向の回転トルクを付与する。これにより、ケーブル3のたるみを防止する。
図1
図2
図3
図4
図5A
図5B