【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用 平成21年8月28日 社団法人 日本原子力学会発行の「日本原子力学会 2009年秋の大会 予稿集」に発表
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
99Tcや
129Iは、原子力発電によって生じる長寿命核分裂生成物である。
99Tcの半
減期は21万年であり、
129Iの半減期は1600万年である。我が国の現在の政策では
、これらは放射性廃棄物として深地層へ埋設処分されることとなっているが、放射性廃棄物処分にともなう環境負荷の軽減やより一層の安全性の向上のため、高速炉を利用してこれらの核種を安定核種へ核変換させる技術に関する研究を進めている。
【0003】
例えば特許文献1(特開平7−306282号公報)には、中性子減速物質を含む中性子減速物質領域と、前記中性子減速物質領域を取り囲んで、テクネチウム金属またはヨウ化セリウムの長半減期の核分裂生成物を含む核分裂生成物質領域とからなる長寿命核種消滅処理用集合体を高速増殖炉の炉心に配する点が開示されている。
【特許文献1】特開平7−306282号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
これまでは、長寿命核分裂生成物からなる装荷体を充填した中性子照射用ピンを、中性子減速材からなる装荷体を充填したピンで囲むように配置してなるラッパ管を高速増殖炉炉心周囲に配置し、長寿命核分裂生成物の核変換を促す方法が検討されてきたが、このような方法によれば、長寿命核分裂生成物の自己遮蔽と呼ばれる現象によって、核変換率が抑制されてしまう、という問題があった。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記のような問題点を解決するために、請求項1に係る発明は、
ヨウ化バリウム(以下、BaI2と称す、ただし、ヨウ素は129I)と水素化ジルコニウム(以下、ZrH2と称す。)の混合物からなる粉体を複数準備する工程と、中性子減速物質を含むペレット状材料に複数の穴部を形成する工程と、前記ペレット状材料の全ての穴部に前記粉体を装填することでペレット状装荷体を得る工程と、複数の前記ペレット状装荷体を、中性子照射用ピン部材内に段状に装填する工程と、複数の前記ペレット状装荷体が装填された前記中性子照射用ピン部材を中性子照射環境に設置する工程と、からなり、前記ペレット状装荷体におけるBaI
2の混合比によって核変換率を制御する、ことを特徴とする長寿命核分裂生成物の核変換方法である。
【0006】
また、請求項2に係る発明は、
BaI2とZrH2の混合物からなる粉体を複数準備する工程と、中性子減速物質を含むペレット状材料に複数の穴部を形成する工程と、前記ペレット状材料の中央の穴部は中空状態を維持し、前記中央の穴部を除く穴部に前記粉体を装填することで中空穴部形成ペレット状装荷体を得る工程と、複数の前記中空穴部形成ペレット状装荷体を、中性子照射用ピン部材内に段状に装填する工程と、複数の前記中空穴部形成ペレット状装荷体が装填された前記中性子照射用ピン部材を中性子照射環境に設置する工程と、からなり、前記ペレット状装荷体におけるBaI
2の混合比によって核変換率を制御する、ことを特徴とする長寿命核分裂生成物の核変換方法である。
【発明の効果】
【0007】
本発明に係る長寿命核分裂生成物の核変換方法においては、中性子減速物質を含むペレット状材料に複数の穴部を形成し、この穴部にテクネチウムやヨウ素化合物などの長寿命核分裂生成物を充填して、これを中性子照射環境に設置するようにしているので、このような本発明に係る長寿命核分裂生成物の核変換方法によれば、長寿命核分裂生成物の自己遮蔽による影響を抑制することが可能となり、核変換率を向上させることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】本発明の実施形態に係る長寿命核分裂生成物の核変換方法における準備工程を示す図である。
【
図2】本発明の他の実施形態に係る長寿命核分裂生成物の核変換方法における準備工程を示す図である。
【
図3】本発明の他の実施形態に係る長寿命核分裂生成物の核変換方法における準備工程を示す図である。
【
図4】本発明の他の実施形態に係る長寿命核分裂生成物の核変換方法における準備工程を示す図である。
【
図5】本発明の実施形態に係る長寿命核分裂生成物の核変換方法における中性子照射用ピン部材50を示す図である。
【
図6】高速増殖炉炉心70の概要を説明する図である。
【
図7】モンテカルロ解析の前提条件を示す図である。
【
図9】従来例におけるピン部材の配置を示す図である。
【
図10】本発明の実施形態に係る長寿命核分裂生成物の核変換方法におけるペレット状装荷体30装填ピン部材の配置例を示す図である。
【
図11】本発明の他の実施形態に係る長寿命核分裂生成物の核変換方法における中空穴部形成ペレット状装荷体40装填ピン部材の配置例を示す図である。
【
図12】本発明の他の実施形態に係る長寿命核分裂生成物の核変換方法における中空穴部形成ペレット状装荷体40装填ピン部材の配置例を示す図である。
【
図13】
99Tcの存在比の時間経過を示す図である。
【
図14】(a)BaI
2、ZrH
2の混合粉末を長寿命核分裂生成物としたときのペレット状装荷体の仕様を示す図である。(b)モンテカルロ解析の結果を示す図である。
【
図15】
129Iの存在比の時間経過を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明の実施の形態を図面を参照しつつ説明する。
図1は本発明の実施形態に係る長寿命核分裂生成物の核変換方法における準備工程を示す図である。本発明に係る長寿命核分裂生成物の核変換方法においては、
図1(A)に示すように、
99Tcからなる線状部材10を複数準備し、中性子減速物質である水素を含むジルコニウム製のペレット状材料20に複数の穴部21を形成し、ペレット状材料20の全ての穴部21(図においては7つの穴部)に線状部材10を装填することで、
図1(B)に示すようなペレット状装荷体30を得るようにしている。
【0010】
図1に示すようなペレット状装荷体30においては、ZrH
2と接触する
99Tcの表面
積を増大することができるので、自己遮蔽による影響を抑制することができるようになる。
【0011】
また、
図2は本発明の他の実施形態に係る長寿命核分裂生成物の核変換方法における準備工程を示す図である。他の実施形態に係る長寿命核分裂生成物の核変換方法においては、
図2(A)に示すように、
99Tcからなる線状部材10を複数準備し、中性子減速物質である水素を含むジルコニウム製のペレット状材料20に複数の穴部21を形成し、ペレット状材料20の中央の穴部は中空状態を維持しつつ、前記中央の穴部を除く穴部(図に
おいては6つの穴部)に線状部材10を装填することで、
図2(B)に示すような中空穴部41を有する中空穴部形成ペレット状装荷体40を得るようにしている。
【0012】
図2に示すような中空穴部形成ペレット状装荷体40においても、ZrH
2と接触する
99Tcの表面積を増大することができるので、自己遮蔽による影響を抑制することができ
るようになる。
【0013】
また、
図3は本発明の他の実施形態に係る長寿命核分裂生成物の核変換方法における準備工程を示す図である。他の実施形態に係る長寿命核分裂生成物の核変換方法においては、
図3(A)に示すように、BaI
2、又は、BaI
2とZrH
2の混合物からなる粉末1
1を準備し、中性子減速物質である水素を含むジルコニウム製のペレット状材料20に複数の穴部21を形成し、ペレット状材料20の全ての穴部21(図においては7つの穴部)にBaI
2、又は、BaI
2とZrH
2の混合物からなる粉末11を装填することで、図
3(B)に示すようなペレット状装荷体30を得るようにしている。
【0014】
図3に示すようなペレット状装荷体30においては、ZrH
2と接触するBaI
2の表面積を増大することができるので、自己遮蔽による影響を抑制することができるようになる。
【0015】
また、
図4は本発明の他の実施形態に係る長寿命核分裂生成物の核変換方法における準備工程を示す図である。他の実施形態に係る長寿命核分裂生成物の核変換方法においては、
図4(A)に示すように、BaI
2、又は、BaI
2とZrH
2の混合物からなる粉末1
1を準備し、中性子減速物質である水素を含むジルコニウム製のペレット状材料20に複数の穴部21を形成し、ペレット状材料20の中央の穴部は中空状態を維持しつつ、前記中央の穴部を除く穴部(図においては6つの穴部)にBaI
2、又は、BaI
2とZrH
2
の混合物からなる粉末11を装填することで、
図4(B)に示すような中空穴部41を有する中空穴部形成ペレット状装荷体40を得るようにしている。
【0016】
図4に示すような中空穴部形成ペレット状装荷体40においても、ZrH
2と接触する
BaI
2の表面積を増大することができるので、自己遮蔽による影響を抑制することがで
きるようになる。
【0017】
次の工程としては、上記
図1乃至
図4に基づいて説明したペレット状装荷体30、又は中空穴部形成ペレット状装荷体40を中性子照射用ピン部材50に装填する工程を実施する。
図5は本発明の実施形態に係る長寿命核分裂生成物の核変換方法における中性子照射用ピン部材50を示す図である。なお、
図5においては、端栓やプレナム構成などについては図示省略している。中性子照射用ピン部材50には、改良型のSUS316鋼(例えば、PNC316鋼)などの材料が用いられる。
【0018】
上記のように構成されるペレット状装荷体30、又は中空穴部形成ペレット状装荷体40が装填された中性子照射用ピン部材50は、ラッパ管60中に装填され、高速増殖炉炉心70中の中性子照射環境に設置される。
図6は高速増殖炉炉心70の概要を説明する図である。本発明に係るペレット状装荷体30、又は中空穴部形成ペレット状装荷体40が装填された中性子照射用ピン部材50については、長寿命核分裂生成物装填ピンと称することとする。このような長寿命核分裂生成物装填ピンが装填されたラッパ管は、燃料ピンが装填されるラッパ管の周囲を囲むように配置される。
【0019】
ここで、3次元連続エネルギーモンテカルロ燃焼計算を用いた炉心解析(以下、モンテカルロ解析と称す。)を行った結果について説明する。
図7はモンテカルロ解析の前提条件を示す図である。
図8は長寿命核分裂生成物として
99Tcを用いた場合のモンテカルロ
解析の結果を示す図である。
【0020】
図8において、(1)は従来例を用いた際の核変換率及びサポートファクタを示している。なお、サポートファクタとは核変換量/炉心部生成量として定義される数値である。
【0021】
図9は従来例におけるピン部材の配置を示す図である。
図9においては、長寿命核分裂生成物充填ピン部材27本が、100本のZrH
2充填ピン部材に囲まれるようにして配
されている。
【0022】
図8(2)の「混合中実型」は、本発明のペレット状装荷体30装填ピン部材127本をラッパ管内に収容した場合における核変換率及びサポートファクタである。また、
図10は、「混合中実型」のペレット状装荷体30装填ピン部材127本の配置例を示す図である。
【0023】
図8(3)の「混合中空型」は本発明の中空穴部形成ペレット状装荷体40装填ピン部材127本をラッパ管内に収容した場合における核変換率及びサポートファクタである。また、
図11は、「混合中空型」の中空穴部形成ペレット状装荷体40装填ピン部材127本の配置例を示す図である。なお、中空穴部形成ペレット状装荷体40の内半径は3.5mmとし、スミア密度は50%となるように設定した。以下の中空穴部形成ペレット状装荷体40を用いた解析も同様の設定とした。
【0024】
図8(4)の「混合中空型」は本発明の中空穴部形成ペレット状装荷体40装填ピン部材67本を炉心よりにしてラッパ管内に収容し、残りのラッパ管内の空間には60本のSUSピン部材を収容した場合における核変換率及びサポートファクタである。
図12に、「混合中空型」のラッパ管内の配置を示したものである。
【0025】
また、
図13は
99Tcの存在比の時間経過をモンテカルロ解析によって求めたものであり、
99Tcの存在比が少ないほど、核変換率が高いことを示している。
【0026】
図8及び
図13に示すように、本発明の長寿命核分裂生成物の核変換方法、いわゆる
図8の(2)「混合中実型」、同図(3)及び(4)の「混合中空型」によれば、高い核変換率を得ることが可能となる。
【0027】
次に、長寿命核分裂生成物としてBaI
2を用いた場合について説明する。
【0028】
図14(a)は、BaI
2を長寿命核分裂生成物としたときの中性子照射用装荷体30
の材料構成の仕様を示す図である。
図14(b)は、
図14(a)に示した長寿命核分裂生成物としてBaI
2を用いた場合
のモンテカルロ解析の結果を示す図である。
【0029】
図14において、(1)は従来例を用いた際の核変換率及びサポートファクタを示している。
図9は従来例におけるピン部材の配置を示す図である。
図9においては、長寿命核分裂生成物充填ピン部材27本が、100本のZrH
2充填ピン部材に囲まれるようにし
て配されている。
【0030】
図14(2)の「混合中実型(I)」は、ペレット状装荷体30装填ピン部材127本をラッパ管内に収容した場合における核変換率及びサポートファクタである。また、
図10は、「混合中実型(I)」のペレット状装荷体30装填ピン部材127本の配置例を示す図である。また、「混合中実型(I)」においては、装荷体におけるBaI
2の混合比
は10 Vol%としている。
【0031】
図14(2)の「混合中実型(II)」は、ペレット状装荷体30装填ピン部材127本をラッパ管内に収容した場合における核変換率及びサポートファクタである。また、
図10は、「混合中実型(II)」のペレット状装荷体30装填ピン部材127本の配置例を示す図である。また、「混合中実型(II)」においては、装荷体におけるBaI
2の
混合比は25 Vol%としている。
【0032】
図14(2)の「混合中実型(III)」は、ペレット状装荷体30装填ピン部材127本をラッパ管内に収容した場合における核変換率及びサポートファクタである。また、
図10は、「混合中実型(III)」のペレット状装荷体30装填ピン部材127本の配置例を示す図である。また、「混合中実型(III)」においては、装荷体におけるBaI
2の混合比は50 Vol%としている。
【0033】
図14(3)の「混合中空型」は、中空穴部形成ペレット状装荷体40装填ピン部材127本をラッパ管内に収容した場合における核変換率及びサポートファクタである。また、
図11は、(3)の「混合中空型」の中空穴部形成ペレット状装荷体40装填ピン部材127本の配置例を示す図である。また、(3)の「混合中空型」においては、装荷体におけるBaI
2の混合比は10 Vol%としている。
【0034】
図14(4)の「混合中空型」は、中空穴部形成ペレット状装荷体40装填ピン部材67本を炉心よりにしてラッパ管内に収容し、残りのラッパ管内の空間には60本のSUSピン部材を収容した場合における核変換率及びサポートファクタである。また、(4)の「混合中空型」においては、装荷体におけるBaI
2の混合比は10 Vol%としている。
【0035】
また、
図15は、ヨウ素(
129I)の存在比の時間経過をモンテカルロ解析によって求
めたものであり、
129Iの存在比が少ないほど、核変換率が高いことを示している。
【0036】
図14及び
図15に示すように、本発明の長寿命核分裂生成物の核変換方法によれば、高い核変換率を得ることが可能となる。
【0037】
以上、本発明に係る長寿命核分裂生成物の核変換方法においては、中性子減速物質を含むペレット状材料に複数の穴部を形成し、この穴部に
99Tcやヨウ素化合物などの長寿命核分裂生成物を充填して、これを中性子照射環境に設置するようにしているので、このような本発明に係る長寿命核分裂生成物の核変換方法によれば、長寿命核分裂生成物の自己遮蔽による影響を抑制することが可能となり、核変換率を向上させることが可能となる。