特許第5720132号(P5720132)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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  • 特許5720132-二次電池用金属端子被覆樹脂フィルム 図000003
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5720132
(24)【登録日】2015年4月3日
(45)【発行日】2015年5月20日
(54)【発明の名称】二次電池用金属端子被覆樹脂フィルム
(51)【国際特許分類】
   H01M 2/06 20060101AFI20150430BHJP
   H01M 2/08 20060101ALI20150430BHJP
   H01M 2/02 20060101ALI20150430BHJP
【FI】
   H01M2/06 K
   H01M2/08 K
   H01M2/02 K
【請求項の数】3
【全頁数】7
(21)【出願番号】特願2010-158364(P2010-158364)
(22)【出願日】2010年7月13日
(65)【公開番号】特開2012-22821(P2012-22821A)
(43)【公開日】2012年2月2日
【審査請求日】2013年6月21日
(73)【特許権者】
【識別番号】000003193
【氏名又は名称】凸版印刷株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100089875
【弁理士】
【氏名又は名称】野田 茂
(72)【発明者】
【氏名】西嶋 一樹
【審査官】 ▲高▼橋 真由
(56)【参考文献】
【文献】 特開2009−224218(JP,A)
【文献】 特開2002−245988(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 2/06
H01M 2/02
H01M 2/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
二次電池の正極または負極に接続された金属端子を被覆する積層された二次電池用金属端子被覆樹脂フィルムにおいて、
前記二次電池用金属端子被覆樹脂フィルムは、前記金属端子と接触する接着層と、最表層を構成する一層の耐熱層とを有し、
前記二次電池用金属端子被覆樹脂フィルムの全層が、ポリプロピレン樹脂により構成され、
前記接着層および前記耐熱層は、いずれもメルトフローレートが3g/10min以上7g/10min以下の樹脂から構成され、
前記耐熱層が、融点150〜165℃を有するプロピレンの単独重合体からなる
ことを特徴とする二次電池用金属端子被覆樹脂フィルム。
【請求項2】
前記接着層および前記耐熱層が、5℃以上の融点差を有することを特徴とする請求項1に記載の二次電池用金属端子被覆樹脂フィルム。
【請求項3】
前記二次電池用金属端子被覆樹脂フィルムが、ポリオレフィン系樹脂を少なくとも片側の最表層に有する二次電池用包装材と接してなることを特徴とする請求項1または2に記載の二次電池用金属端子被覆樹脂フィルム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、加熱時の形状安定性と接着性に優れた二次電池用金属端子被覆樹脂フィルムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来のニッケル水素、鉛蓄電池といった水系電池は水の電気分解電圧による制約からセル単位の電圧は1.2V程度が限界であった。しかし昨今は、携帯機器の小型化や自然発電エネルギーの有効活用が必要とされており、より高い電圧が得られエネルギー密度が高いリチウムイオン電池の必要性が増してきている。このようなリチウムイオン電池に用いられる外装材として、従来は金属製の缶が用いられてきたが、製品の薄型化や多様化の要求に対し、低コストで対応できるアルミニウム箔に樹脂フィルムを積層したものを袋状にしたラミネート包装材が用いられるようになってきた。
【0003】
二次電池用ラミネート包装材(以下、包装材)は、図1に示すようにアルミニウム箔と樹脂との積層体であり、一般には、内層から順にポリオレフィン樹脂層11、内層側接着剤層12、化成処理層13、アルミニウム箔層14、化成処理層13、外層側接着剤層15、外層16(ナイロン、PET等)の構成となっている。
【0004】
このような包装材で構成されるリチウムイオン電池から電力を供給するために、タブと呼ばれる電極端子が必要となる。タブは図2に示すように、金属端子23(リード)と、金属端子被覆樹脂フィルム21(シーラント)から構成される。正極のリードにはアルミニウムが用いられ、腐食防止表面処理22がされていることが多い。負極にはニッケルあるいは銅が用いられている。シーラントにおいてはリードと包装材間との接着性を得ることが目的であることから、主に以下2点の特性が要求されている。1つは金属とポリオレフィン樹脂双方との接着性を有することである。これに対してはシーラントに用いられるポリオレフィン樹脂であるポリプロピレンやポリエチレンを酸変性させ、極性基を導入する手法が一般的に用いられている。もうひとつの要求特性は加熱時の形状安定性である。具体的にはリードとシーラントの熱接着時にシーラントの変形を抑えることである。これらの要求特性に対しての従来技術は特許文献1,2にあるように、樹脂の架橋工程を設けて耐熱性を高める手法や、耐熱層にポリエステル系樹脂を使用して形状安定性を高める方法が提案されている。しかしながら、車載や発電等に代表されるような大型電池の用途ではより一層のシーラントの寸法精度の向上や、リードとシーラント間の接着性の向上が求められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許3114174号
【特許文献2】特開2008−230620号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
そこで、本発明は上記事情に鑑みてなされたものであり、架橋の様な工程の追加を必要とせず、リードとシーラントの熱接着時の形状安定性を向上させるとともに、接着性も確保可能な二次電池用金属端子被覆樹脂フィルムの提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
請求項1に記載の発明は、二次電池の正極または負極に接続された金属端子を被覆する積層された二次電池用金属端子被覆樹脂フィルムにおいて、前記二次電池用金属端子被覆樹脂フィルムは、前記金属端子と接触する接着層と、最表層を構成する一層の耐熱層とを有し、前記二次電池用金属端子被覆樹脂フィルムの全層が、ポリプロピレン樹脂により構成され、前記接着層および前記耐熱層は、いずれもメルトフローレートが3g/10min以上7g/10min以下の樹脂から構成され、前記耐熱層が、融点150〜165℃を有するプロピレンの単独重合体からなることを特徴とする二次電池用金属端子被覆樹脂フィルムである。メルトフローレート(MFR)をこの範囲にすることで、加熱時のシーラントの変形を低減させることができる。
【0008】
また請求項1の構成によれば、包装材の内層との熱接着性を確保することができる。なお、本発明の二次電池用金属端子被覆樹脂フィルム(以下、単に樹脂フィルムということがある)の構成が複数層で構成される場合であっても、層間の接着性も確保するために同種の樹脂(ポリオレフィン樹脂)で構成されていることが好ましい。また、同種の樹脂を積層した樹脂フィルムの場合、共押出し成型法等により、簡便にフィルムを作ることが可能となる。
【0010】
請求項に記載の発明は、前記接着層および前記耐熱層が、5℃以上の融点差を有することを特徴とする請求項1に記載の二次電池用金属端子被覆樹脂フィルムである。この構成によれば、本発明の樹脂フィルムとリードとの熱接着時において、樹脂フィルムの変形を低減させることができる。
【0011】
請求項に記載の発明は、前記二次電池用金属端子被覆樹脂フィルムが、ポリオレフィン系樹脂を少なくとも片側の最表層に有する二次電池用包装材と接してなることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の二次電池用金属端子被覆樹脂フィルムである。この構成によれば、包装材と本発明の樹脂フィルムとの接着性が良好となる。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、架橋の様な工程の追加を必要とせず、また異種材料の積層に伴う接着強度の低下を防ぐことができ、さらにリードと本発明の樹脂フィルムとの熱接着時における形状の安定性と剥離強度の向上が期待できる二次電池用金属端子被覆樹脂フィルムを提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】リチウムイオン電池用ラミネート包装材の一例の断面図である。
図2】一般的なタブの一例の断面図である。
図3】本発明のシーラントの実施形態を示す断面図である。
図4】タブの一例の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明について詳細に説明する。本発明の樹脂フィルム(シーラント)は前述のように加熱時の形状安定性を維持するために高温での流動性が低く、かつ、金属とポリオレフィン樹脂双方に接着性を有する接着性樹脂を用いるのがよい。より絶縁性や形状安定性を向上させる場合には、接着性樹脂に対し融点が高い樹脂を耐熱層として接着層と積層した構成にするのがよい。図3は耐熱層と接着層とを積層した構成の本発明のシーラントの実施形態を示す断面図であり、接着層31と耐熱層32を積層している。
【0015】
<接着層>
接着層31は、リードとポリオレフィン樹脂双方との接着性に優れた樹脂が好ましい。例えば、ポリオレフィン樹脂に無水マレイン酸などをグラフト変性させた酸変性ポリオレフィン樹脂が好ましい。接着層31の厚みは1層あたり10〜200μm程度が好ましく、金属端子と包装材との良好な密着性を得るためには20〜150μmがより好ましい。樹脂の融点は高いほど生産性を損なう恐れがあり、低い場合は信頼性を低下させる可能性があるため、一般的に包装材で用いられる接着層での融点を考慮すると120〜150℃程度が好ましい。また、加熱時の形状安定性を向上するためにMFRが低い方が好ましい。具体的には、7g/10min以下が好ましい。
なお本発明でいうMFRは、ASTM D1238、190℃、2.16kgにて測定した値である。
【0016】
<耐熱層>
耐熱層32は、包装材や、前記接着層31との接着性を考慮すると、ポリオレフィン樹脂であることが好ましい。また、リードとシーラントとの熱接着時の形状の安定性を向上させるために、接着温度よりも高い融点が好ましく、具体的には150〜165℃程度の融点をもつ樹脂(ホモ、ブロック)が好ましい。また、加熱時の形状安定性を向上するためにMFRが低い方が好ましいが、前述した理由により7g/10min以下が好ましい。
【0017】
上記で作成したシーラントとリードの接着には加熱による接着層の溶融と、加圧によるシーラントとリードとの密着を同時に行い熱接着する。十分な剥離強度を得るために、加熱温度は接着層の融点温度以上が必要となる。また、耐熱層がある場合には、加熱温度は、耐熱層の融点温度以下が好ましく、耐熱層がない場合にも、包装材の外層を構成する樹脂の融点温度以下であることが好ましい。具体的には、140℃〜170℃程度が適当である。加熱、加圧時間も剥離強度と生産性を考慮して決定する必要があり、1s〜10s程度が好ましい。
【0018】
図4は、タブの一例の断面図である。接着層41および耐熱層42が交互に積層されてなる本発明のシーラントにより、リード43が被覆されている。
【実施例】
【0019】
以下に本発明の実施例を示すが、本発明は下記例に限定されるわけではない。
【実施例1】
【0020】
図3に示したような、耐熱層32を接着層31で挟んだ3層構成のフィルムを作成した。耐熱層32はホモポリマーのポリプロピレンを用いた。融点は160℃であり、MFRは3g/10minである。接着層31はポリプロピレンに無水マレイン酸をグラフト変性させた樹脂を使用した。融点は140℃であり、MFRは耐熱層32と同様に3g/10minである。上記樹脂を用いた耐熱層32の厚みを40μmとし、接着層31の1層あたりの厚みを30μmとして、総厚100μmのシーラントを押し出し成型にて作成した。上記各シーラントを9mm×20mmに切出し、2枚のシーラントでリードをはさみ、加圧しながらフィルムとリードとを190℃、3秒で熱接着してタブを製作した。リードは軟質アルミニウムで、寸法は5mm×30mm、厚みは100μmを用いた。
【比較例1】
【0021】
実施例1と同様に、耐熱層を接着層で挟んだ3層構成のフィルムを作成した。耐熱層はポリエチレンテレフタレート(PET)を用いた。融点は264℃であり、厚みは25μmとした。接着層はポリプロピレンに無水マレイン酸をグラフト変性させた樹脂を使用した。融点は140℃とし、MFRは実施例1と同様に3g/10minである。上記PET樹脂に接着層をサンドラミネーションして接着層の1層あたりの厚みは30μmとし、総厚85μmのフィルムを作成した。また、作成したフィルムを用いて実施例1と同様にしてタブを作成した。
【比較例2】
【0022】
耐熱層および接着層のMFRが8g/10minであること以外は、実施例1と同様にシーラントとタブを作成した。
【0023】
<評価1:形状安定性の評価>
上記で作成したタブのシーラント部の寸法変動を計測し、±300μm以下を適合品とした。
【0024】
<評価2:剥離強度の評価>
上記で作成したタブを包装材で挟持し、加熱、加圧して熱接着後に包装材を互いに180度方向に引張り、剥離強度を測定した。
【0025】
<評価結果>
表1に評価結果を示す。形状安定性(寸法変動)に関しては実施例1と比較例1が適合品であったが、比較例2が非適合品となった。実施例1と比較例2との違いは樹脂のMFRのみであるため、最適なMFRの選択が重要であることが確認された。また、比較例1の形状安定性においては、融点が高い樹脂(PET)を耐熱層として使用したため、加熱時の変形を受けにくかったためと考えられる。剥離強度においては比較例1のみ低い結果であった。これは、耐熱層と接着層との樹脂の相溶性が低いためであると考えられることから、シーラントは、全層ポリオレフィン系の同種の樹脂を積層することが必要であることが確認された。以上より、実施例1の構成にて加熱時の形状安定性と剥離強度の確保の両立が可能であることから、本発明の有効性が確認された。
【0026】
【表1】
【符号の説明】
【0027】
11 ポリオレフィン樹脂層、12 内層側接着剤層、13 化成処理層、14 アルミニウム箔層、15 外層側接着剤層、16 外層(ナイロン、PET等)、21 シーラント、22 化成処理層、23 リード、31 接着層、32 耐熱層、41 接着層、42 耐熱層、43 リード。
図1
図2
図3
図4