【実施例】
【0021】
本発明の実施形態のガス体制御弁を燃料電池システムに使用した例について、図に基づいて以下に説明する。
【0022】
図1は燃料電池システムの概要を示すもので、燃料電池システム1は、反応ガスである酸化ガスおよび燃料ガスの供給を受け、この反応ガスの電気化学反応により電力を発生する燃料電池5と、酸化ガスとしての空気を燃料電池5に供給する酸化ガス配管系7と、燃料電池反応後の酸化オフガスを排出する酸化オフガス配管系9と、燃料ガスとしての水素を燃料電池5に供給する図略の水素ガス配管系を有する。排出系として、燃料電池反応後の水素オフガスと生成水を排出する水素・水排出通路15と、水素オフガスと生成水を酸化オフガスで希釈して排出する希釈部17を有する。
【0023】
燃料電池5は、例えば、高分子電解質型の燃料電池であり、多数の単セルを積層したスタック構造となっている。単セルは、イオン交換膜からなる電解質の一方の面にカソード極(空気極)を有し、他方の面にアノード極(燃料極)を有し、さらにカソード極およびアノード極を両側から挟み込むように一対のセパレータを有する構造となっている。この場合、一方のセパレータの水素ガス流路に水素ガスが供給され、他方のセパレータの酸化ガス流路に酸化ガスが供給され、これらの反応ガスが化学反応することで電力が発生する。
【0024】
酸化ガス配管系7は、フィルタ19を介して大気中の酸化ガスを取り込んで圧縮してから送出するコンプレッサ21と、コンプレッサ21から圧送された酸化ガスの熱を冷ますインタークーラ23と、酸化ガスを燃料電池5に供給するための空気供給流路(酸化ガス供給流路)11とを有する。また、酸化オフガス配管系9は、燃料電池5から排出される酸化オフガスを希釈部17に向けて排出するための空気排出流路(酸化オフガス排出流路)13を有する。場合によっては、空気供給流路11および空気排出流路13には、コンプレッサ21から圧送された酸化ガスを燃料電池5から排出された酸化オフガスを用いて水分交換等して加湿する加湿器が設けられてもよい。
【0025】
空気供給流路11には、燃料電池5への酸化ガスの供給を遮断または許容するガス体制御弁2が設けられ、空気排出流路13には、燃料電池5からの酸化オフガスの排出を遮断または許容する遮断弁25が設けられている。なお、空気排出流路13には、遮断弁25の上流側に背圧調整弁27が設けられている。場合によっては、遮断弁25と背圧調整弁27は1つの弁体で構成されてもよい。
【0026】
空気供給流路11には、ガス体制御弁2を介して燃料電池5に対する酸化ガスの供給を空気排出流路13にバイパスさせるためのバイパス流路29が接続されている。
【0027】
ガス体制御弁2について詳述すると、ガス体制御弁2は、
図2乃至
図4に示すように、ケーシング4と弁体6と駆動装置8とを備えている。ケーシング4は、流入口10が形成された流入通路12と、第1流出口14が形成された第1流出通路16と、第2流出口18が形成された第2流出通路20とを備えている。本実施形態において、流入通路12は
図1におけるコンプレッサ21側の空気供給流路11に連通し、第1流出通路16は燃料電池5側の空気供給流路11に連通している。また、第2流出通路20はバイパス流路29に連通している。
【0028】
流入通路12は、
図2において水平方向に延在し、流入通路12の流入口10の開口端周縁には嵌合溝22が設けられている。流入通路12の流入口10の反対側には弁体6が作動する作動室24が設けられ、作動室24の下方には第1開口部26が設けられている。第1開口部26には第1流出通路16が流入通路12に対して直角に設けられている。第1流出通路16は流入通路12や作動室24とは別体に設けられ、一端部にはフランジ部28が形成されている。このフランジ部28において第1開口部26の内周縁に嵌合するようになっている。第1流出通路16を取り外し可能として作動室24を大きく開口することで、第1開口部26は弁体6の組み付け作業穴としての役割を担っている。フランジ部28と第1開口部26の内周縁との間は図略のシール材によりシールされ、図略のボルト及びナットにより組み付け固定される。第1流出通路16の作動室側の開口周縁には第1弁座30が設けられている。
【0029】
作動室24の第1流出通路16の反対側には第2流出通路20に開口する第2開口部32が設けられ、第2開口部32は第1弁座30の開口部である第1流出口14より小径でかつ第1流出口14と同軸に設けられている。第2開口部32の作動室側の開口周縁には第2弁座34が設けられている。第2流出通路20は第1流出通路16に対して直角に設けられている。第2流出通路20の奥部には弁体6を支持する弁軸36が嵌挿される弁体支持部38が第2流出通路に対して直角に突設され、弁体支持部38は第2開口部32の中心を貫通している。
【0030】
弁体6は例えば金属製で円盤状の板材が中央部において下方に凸になるように折り曲げて形成され、円縁部40と漏斗状壁部42とが形成されている。弁体6は中央部において弁軸36の先端部にカシメにより相対回転不能に固定されている。弁体6の円縁部40の表面にはゴム製のシール部材44が被設されている。シール部材44の下部外周縁には第1弁座30と当接する第1弁部としての第1シール部46が凸設され、シール部材44の上部内周縁には第2弁座34と当接する第2弁部としての第2シール部48が凸設されている。弁体支持部38の外周には弁体6の上部と弁体支持部38の基端部との間で圧縮されるコイルばね50が設けられている。
【0031】
駆動装置8は、ステッピングモータ56と、ステッピングモータ56の回転運動を変換して弁体6を直動運動させる運動変換機構52とを備えている。運動変換機構52は、
図5に示すように、円筒部材54と弁軸36とによって主に構成されている。円筒部材54はステッピングモータ56の駆動軸58に上部が例えばキー部材等で相対回転不能に組付けられ、下部にはステッピングモータ56の駆動軸58と同軸となる雌ねじ部60が形成されている。ケーシング4には運動変換機構52のハウジング55が固定されている。ハウジング55と円筒部材54との間には軸受62が設けられ、円筒部材54が回転自在に支承されている。弁軸36は上部において雄ねじ部64が形成され前記雌ねじ部60に螺合する。弁軸36の中間位置には軸の対称位置に2面について面取り66が所定の長さでなされ、ケーシング4の弁体支持部38に対して相対回転不能かつ上下方向の相対移動可能になっている。ステッピングモータ56の駆動軸58が回転すると円筒部材54が軸心周りに回転し、弁体支持部38に回転不能にガイドされた弁軸36が上下に移動する。この弁軸36の先端に組付けられた弁体6は、第1シール部(第1弁部)46が第1弁座30と当接する第1閉鎖位置(
図2参照)と、第2シール部(第2弁部)48が第2弁座34と当接する第2閉鎖位置(
図3参照)との間の作動ストロークSLを移動する。
【0032】
次に、上記のように構成されたガス体制御弁2の作動を説明する。
まず、燃料電池5の停止中においては、ガス体制御弁2の弁体6は、燃料電池5に向かう空気供給流路11を閉弁するように設置される。また、空気排出流路13の遮断弁25も閉弁される。したがって、燃料電池5に対して空気が供給されない状態となっている。他方、コンプレッサ21側の空気供給流路11からバイパス流路29をたて希釈部17に至る経路は開弁されている。
【0033】
また、ガス体制御弁2は、起動時に燃料電池5へ空気を供給するため、もしくは、空気をバイパスさせるために用いられる他、燃料電池5に供給される空気の圧力を調整する際にも補助的に用いられる。例えば、起動時には、まず空気排出流路13の遮断弁25が開弁して燃料電池5内の負圧を開放する。次いでガス体制御弁2が燃料電池5側の空気供給流路11への流路を開弁する。この際、負圧が事前に開放されることによって小さな駆動力で開弁することができる。本実施形態のガス体制御弁2では、第1閉鎖位置より第1シール部46が
図4のように第1弁座30と離れて開度が大きくなる過程において、
図6に示すように、第1シール部46の開度に応じて第1シール部46を通過する流体の有効断面積が直線的に増加する(第1作動領域A)。この場合において、空気供給流路11側の第2シール部48を通過する空気の流量は変化しないので、第1シール部46を通過する空気の流量だけを考慮して制御すればよく、空気供給流路11における流量制御を高い精度で行うことができる。この第1作動領域Aについて、
図7に示すモデルを使って説明する。まず、第1弁座30における開口部面積OS1(第1流出口14)、弁体6(第1シール部46)が第1弁座30から離間した距離と第1シール部46の周囲長との積で求められる円筒状面積SS1、第2弁座34における開口部面積OS2(第2開口部32)、弁体6(第2シール部48)が第2弁座34から離間した距離と第2シール部48の周囲長との積で求められる円筒状面積SS2を考える。ここで、第1シール部46と第1弁座30との間を通過する空気は、第1弁座30における開口部面積OS1及び円筒状面積SS1により規制される。弁体6が第1弁座30に当接した閉鎖位置より離間していく過程において、第1シール部46と第1弁座30との間を通過する空気は、円筒状面積SS1が比例的に増加するに伴って直線的に増加する。しかし、円筒状面積SS1が開口部面積OS1を超えた段階で、第1シール部46と第1弁座30を通過する空気は、開口部面積OS1が増加してもそれに伴って増加することは無いため、ほぼ一定となる。第2シール部48と第2弁座34との間を通過する空気においても同様である。そこで、第1作動領域Aは、第1シール部46側の円筒状面積SS1が、0≦SS1≦OS1であり、かつ、第2シール部48側の円筒状面積SS2が、OS2≦SS2の範囲にあると考えられる。ただし、空気等のガス体が開口部を通過する際の有効断面積は、ガス体の種類、流速、圧力等の条件によって変化するため、この条件が一概に当てはまるわけではなく、例えば実験により具体的な基準値を求め、それに基づいて流量の制御を行うことができる。
【0034】
続いて燃料電池5への空気をバイパスさせる際には、ガス体制御弁2によってバイパス流路29への流量を調整し、コンプレッサ21により供給される空気の一部をバイパス流路29に分流するようにしている。この分流されたバイパス空気によって酸化オフガス中の水素濃度を希釈して、水素濃度が安全な範囲にまで低減された酸化オフガスを希釈部17から外気に排気することができる。ガス体制御弁2は全閉から全開の間で、希釈したい濃度に合わせて任意に開度を調整することができる。本実施形態のガス体制御弁2では、第2閉鎖位置より第2シール部48が第1弁座34と離れて開度が大きくなる過程において、
図6に示すように、第2シール部48の開度に応じて第2シール部48と第2弁座34との間を通過する空気の有効断面積が直線的に増加する(第2作動領域B)。この第2作動領域Bは(前述の第1作動領域Aと同様に)、
図7における第2シール部48側の円筒状面積SS2が、0≦SS2≦OS2であり、かつ、第1シール部46側の円筒状面積SS1が、OS1≦SS1の範囲にあたる。この場合において、空気供給流路11側の第1シール部46と第1弁座30との間を通過する空気の流量は変化しないので、第2シール部48と第2弁座34との間を通過する空気の流量だけを考慮して制御すればよく、バイパス流路29における流量制御を高い精度で行うことができる。
【0035】
また、燃料電池5に供給される空気の圧力を補助的に調整する場合の例として、急激な圧力抜きがある。コンプレッサ21は、多くの場合、スクロール式やルーツ式等の回転により圧力を発生させる方式が採られるが、イナーシャ(慣性)があるため急に回転を下げたり、止めることが困難である。このために、燃料電池5への空気供給流路11の圧力を下げたいのに、追いつかない状況が発生する。その際、ガス体制御弁2のバイパス流路29側を開弁することで、急激に圧力を下げることができる。ガス体制御弁2は全閉から全開の間で、圧力を下げたい量に応じて任意に開度を調整することができる。また、逆に急激に圧力を上げることも可能である。
【0036】
燃料電池5の発電を停止する場合には、酸化ガス配管系7から燃料電池5、および燃料電池5から希釈部17のラインを適宜、排気パージ処理等をした後、コンプレッサ21を止め、ガス体制御弁2の空気供給流路11側を閉弁し、遮断弁25も閉弁する。ガス体制御弁2および遮断弁25によって、燃料電池5のカソード極をほぼ完全に封止することができる。遮断弁25と背圧調整弁27を1つの弁体で構成する場合も同様である。
【0037】
なお、図中の31、33は、コンプレッサ21から圧送された酸化ガスの圧力および燃料電池5から排出された酸化オフガスの圧力を検出する圧力センサである。また、ガス体制御弁2において、弁体6の第1作動領域Aと第2作動領域Bとが連続しているので、常にいずれか一方の弁部を流れる空気流量の制御下に置いて効率よく制御を行うことができる。
【0038】
上記のように構成されたガス体制御弁2によると、空気は流入通路12からケーシング4に流入し、ケーシング4に流入した空気は流入通路12と第1流出通路16との間に設けられた弁体6の開弁状態の第1シール部(第1弁部)46と第1弁座30との間を通過して第1流出通路16から流出し、或いは流入通路12と第2流出通路20との間に設けられた弁体6の開弁状態の第2シール部(第2弁部)48と第2弁座34との間を通過して第2流出通路20から流出する。そして、弁体6の移動する作動ストロークは、第1シール部46の開度に応じて第1シール部46と第1弁座30との間を通過する空気流量が直線的に増加又は減少し、かつ第2シール部48と第2弁座34との間を通過する空気流量が変化しない第1作動領域Aと、第2シール部48の開度に応じて第2シール部48と第2弁座34との間を通過する空気流量が直線的に増加又は減少し、かつ第1シール部46と第1弁座30との間を通過する空気流量が変化しない第2作動領域Bと、を有する作動ストロークSLを備えている。
【0039】
そのため、第1作動領域Aで空気流量の制御を行うと、第2シール部48での空気流量が連動して減少或いは増加するようなことがない状態で、第1シール部46の空気流量の制御を正確に行うことができる。また、第2作動領域Bで空気流量の制御を行うと、第1シール部46での空気流量が連動して減少或いは増加するようなことがない状態で、第2シール部48の空気流量の制御を正確に行うことができる。このように、第1シール部46と第2シール部48との両方において必要な流量を制御して空気供給流路11及びバイパス流路29に供給することができる。
【0040】
弁体6は、流入通路12に対して直角方向に移動して、流入通路12に対して平行に設けられた第1弁座30及び第2弁座34に当接するので、弁体は各弁座30,34に対して均一に面圧がかかりやすく安定した封止(閉鎖)を行うことができる。
【0041】
また、弁体6は、流入通路12に対して平行なので、空気の流れによる風圧をまともにうけない。そのため、強い圧力で空気が流れるときでも弁体6の開口度合いが影響を受けることが少なく、精度の高い流量制御を行うことができる。そのため、安定した弁体6の開口度合いを確保するために、従来のように弁体6の構造を大きく頑丈にする必要がなく、制御弁の小型化及び軽量化を図ることができる。さらに、乱流も発生しにくく、空気の流れに対して脈動や気流音の発生を防止することができる。
【0042】
また、第1作動領域Aと第2作動領域Bとが連続しており、第1シール部46及び第2シール部48の両方において開度に応じて空気流量が変化しないという領域が無いので、作動ストロークSLのすべての領域で効率的に空気流量の制御を行うことができる。また、両方の弁部(第1シール部46及び第2シール部48)の開度が変化しない作動ストロークの分を省略するので、作動ストロークSL全体でコンパクトに製作でき、制御弁の小型化軽量化を図ることができる。
【0043】
また、安価で位置制御が容易なステッピングモータ56の回転運動を運動変換機構52により直線運動に変換して弁体6の作動ストロークの位置を制御する。そのため、低い製造コストで、位置制御が高い精度で容易なガス体制御弁を提供することができる。
【0044】
なお、本実施形態においては、ガス体制御弁を燃料電池のエア系システムに使用するものとしたが、これに限定されず、例えば、一般的な空気圧回路において流入路と二つの流出路との分岐に使用することができる。また、ガス体制御弁を流通するのは空気に限定されず、例えば水素や酸素などのガス体でもよい。
【0045】
また、弁体(ポペット弁)6は、金属製としたが、これに限定されず、例えばゴム等の弾性体であっても良い。
【0046】
また、第1作動領域Aと第2作動領域Bとが連続しているものとしたが、これに限定されず、例えば、第1シール部46及び第2シール部48の両方において開度に応じて流量が変化しない領域を、第1作動領域Aと第2作動領域Bとの間に設けるものでもよい。
【0047】
また、駆動装置としてステッピングモータを使用したが、これに限定されず、例えばサーボモータでもよい。
【0048】
また、第2弁座34の開口部(第2開口部32)は第1弁座30の開口部(第1流出口14)よりも小径としたが、これに限定されず、例えば同じ径でもよい。
【0049】
斯様に、上記した実施の形態で述べた具体的構成は、本発明の一例を示したものにすぎず、本発明はそのような具体的構成に限定されることなく、本発明の主旨を逸脱しない範囲で種々の態様を採り得るものである。