特許第5720249号(P5720249)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許5720249中空糸膜およびその製造方法および血液浄化モジュール
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  • 特許5720249-中空糸膜およびその製造方法および血液浄化モジュール 図000007
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5720249
(24)【登録日】2015年4月3日
(45)【発行日】2015年5月20日
(54)【発明の名称】中空糸膜およびその製造方法および血液浄化モジュール
(51)【国際特許分類】
   A61M 1/18 20060101AFI20150430BHJP
   B01D 69/08 20060101ALI20150430BHJP
   B01D 63/02 20060101ALI20150430BHJP
   B01D 71/68 20060101ALI20150430BHJP
   B01D 71/44 20060101ALI20150430BHJP
   D01F 6/00 20060101ALI20150430BHJP
   D01F 6/76 20060101ALI20150430BHJP
【FI】
   A61M1/18 500
   B01D69/08
   B01D63/02
   B01D71/68
   B01D71/44
   D01F6/00 B
   D01F6/76 D
【請求項の数】4
【全頁数】29
(21)【出願番号】特願2010-549467(P2010-549467)
(86)(22)【出願日】2010年2月2日
(86)【国際出願番号】JP2010051395
(87)【国際公開番号】WO2010090174
(87)【国際公開日】20100812
【審査請求日】2013年1月24日
(31)【優先権主張番号】特願2009-23252(P2009-23252)
(32)【優先日】2009年2月4日
(33)【優先権主張国】JP
(31)【優先権主張番号】特願2009-68156(P2009-68156)
(32)【優先日】2009年3月19日
(33)【優先権主張国】JP
(31)【優先権主張番号】特願2009-167376(P2009-167376)
(32)【優先日】2009年7月16日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000003160
【氏名又は名称】東洋紡株式会社
(72)【発明者】
【氏名】大野 仁
(72)【発明者】
【氏名】山本 勇
(72)【発明者】
【氏名】相良 誉仁
(72)【発明者】
【氏名】馬淵 公洋
(72)【発明者】
【氏名】上西 徹
(72)【発明者】
【氏名】小山 伸也
【審査官】 胡谷 佳津志
(56)【参考文献】
【文献】 特開2003−275300(JP,A)
【文献】 特開平05−023554(JP,A)
【文献】 特開2003−033632(JP,A)
【文献】 特開2007−105700(JP,A)
【文献】 特開2003−210573(JP,A)
【文献】 国際公開第2005/046763(WO,A1)
【文献】 特開2006−340977(JP,A)
【文献】 特開平10−108907(JP,A)
【文献】 特開2005−058905(JP,A)
【文献】 特開平07−163659(JP,A)
【文献】 竹澤真吾、外2名,セルロースアセテート膜,ハイパフォーマンスダイアライザー2008,日本,東京医学社,2008年 7月15日,第1版,p. 17-24, 182-183
【文献】 竹澤真吾、外2名,EVAL透析膜,ハイパフォーマンスダイアライザー2008,日本,東京医学社,2008年 7月15日,第1版,p. 83-91, 172-173
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61M 1/18
B01D 63/02
B01D 69/08
B01D 71/44
B01D 71/68
D01F 6/00
D01F 6/76
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
37℃での水の透水性が1〜20mL/(m2・hr・mmHg)の低透水性でありながら、中空糸膜内径基準の膜面積1.5m2の血液浄化モジュールにおけるβ2ミクログロブリンのクリアランスが10mL/min以上30mL/min未満の高透析性を有し、且つ中空糸膜の外側、すなわち血液浄化モジュールの透析液側から0.1MPaの圧力を10分間付与しても中空糸膜が完全に潰れることはなく、圧力を付与しなかったときに比べてプライミングボリュームが50%以上保持され、しかも実質的に逆濾過が発生しないこと、膜構造が均質構造であり、膜厚が10〜30μmであり、ポリスルホン、ポリエーテルスルホン、セルローストリアセテートおよびセルロースジアセテートから選ばれる疎水性高分子あるいは前記疎水性高分子と親水性高分子より形成されることを特徴とする安全性に優れた中空糸膜。
【請求項2】
請求項1に記載の中空糸膜を複数本束ねてケースに収納し、該膜端部とケース端部とを接着樹脂にて固定した後、両端部を切断して中空部を開口させたことを特徴とする血液浄化用モジュール。
【請求項3】
透析液側から0.2MPaの圧力を付与時にも中空糸膜の接着樹脂からの剥離やリークが発生しない安全性に優れた請求項に記載の血液浄化用モジュール。
【請求項4】
ポリスルホン、ポリエーテルスルホン、セルローストリアセテートおよびセルロースジアセテートから選ばれる疎水性高分子あるいは前記疎水性高分子と親水性高分子を溶解した紡糸原液を、チューブインオリフィスノズルよりエアーギャップを介して凝固浴中に吐出し、水洗浴中で水洗し、親水化し、乾燥する工程を含む中空糸膜の製造方法において、前記紡糸原液を凝固浴中で10〜65%延伸し、水洗浴中で2〜10%延伸し、乾燥工程で20〜50℃でかつ0.5%以下の延伸で乾燥することを特徴とする請求項1に記載の中空糸膜の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、血液透析、血液濾過、血液透析濾過などの血液浄化に用いられる中空糸膜に関する。より詳しくは、低透水性とすることにより透析液から血液へのエンドトキシンの侵入を防ぐことができ、また低透水性でありながらβ2ミクログロブリン(β2MG)に代表される低分子タンパクをも除去可能な、安全性と高透析性を兼ね備えた中空糸膜に関する。さらに、従来の中空糸膜に比して著しく外圧耐性を向上しているため、血液浄化モジュール組立時や臨床での透析時のリークのリスクが少ない優れた中空糸膜および血液浄化モジュールに関する。また、強伸度が高く、耐熱性に優れるため、保管時や輸送時の温度変化による品質の低下が少なく、臨床使用において所期の性能を発現できる中空糸膜および血液浄化モジュールに関する。また、繰返し外圧負荷後の透水性保持率が高く、耐外圧性に優れ、しかもモジュール組み立て性(低い接着部リーク率)を満足した中空糸膜の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、慢性腎不全患者に対する維持療法として血液透析が行われてきている。また、近年、急性腎不全や敗血症などの重篤な病態の患者に対して、急性血液浄化療法として、持続血液濾過、持続血液濾過透析、持続血液透析などの療法の実施例も増大しつつある。これらの療法に使用される中空糸膜の素材としては、セルロース、セルロース誘導体などの天然由来の素材と、ポリスルホン系樹脂、ポリメチルメタクリレート、ポリアクリロニトリル、エチレンビニルアルコール共重合体などの合成高分子素材が利用されている。
【0003】
血液透析は一週間に二回から三回実施され、しかも生涯にわたる維持療法であるため、血液透析用のモジュールに対しては透析性能も重要であるが、その安全性も極めて重要となる。中空糸膜の高性能化を図るには、膜の透水性能を高めるいわゆる高透水化が一般的であるが、高透水化により膜強度の低下、特に透析液側からの加圧に対する耐圧性や強度が低下し、剥離やリークが発生する惧れがある。また、高透水化により、透析時に逆濾過によって透析液が患者の体内に侵入するリスクや高透水化により、特に透析液側からの圧力に対する強度低下、中空糸膜接着部の剥離やリークの発生なども問題となる。
【0004】
透析医学会は透析液汚染と血液浄化モジュールの生体適合性不全がアミロイド症などの透析患者の長期合併症を発症させる因子として重要であるとの認識をもとに、透析液水質基準と血液浄化モジュールの性能評価基準の提言を行っている。(非特許文献1参照)。
【0005】
本出願人は、凝固浴中で適度な延伸を施すことにより膜の平滑性を高め、透水性能が1〜30mL/(m2・hr・mmHg)で安全性、性能保持性に優れる膜について既に特許出願を行っている(特許文献1参照)。この技術においては、膜の内部構造を均一微細構造とし、表面平滑性を高めることで親水性高分子の溶出を抑制し、且つ血液接触時の性能保持率を高めているが、低透水性でII型以上の高性能、透析液側からの耐圧についての考慮が十分とは言えなかった。
【0006】
ここで、ダイアライザーの機能分類について簡単にまとめると以下の通りである。(クリアランスは1.5m2換算値)。
[中空糸型および積層型(キール型)の分類]
I型:限外濾過率が3.0ml/mmHg/hr以上、尿素クリアランスが125ml/min以上であってII〜Vに該当しない。
II型:限外濾過率が3.0ml/mmHg/hr以上、尿素クリアランスが150ml/min以上であり、β2MGのクリアランスが10ml/min以上、30ml/min未満。
III型:限外濾過率が3.0ml/mmHg/hr以上、尿素クリアランスが150ml/min以上であり、β2MGのクリアランスが30ml/min以上、50ml/min未満。
IV型:限外濾過率が3.0ml/mmHg/hr以上、尿素クリアランスが150ml/min以上であり、β2MGのクリアランスが50ml/min以上、70ml/min未満。
V型:限外濾過率が3.0ml/mmHg/hr以上、尿素クリアランスが150ml/min以上であり、β2MGのクリアランスが70ml/min以上。
【0007】
特許文献2には、疎水性高分子と親水性高分子とからなる中空糸膜を含む中空糸型血液浄化モジュールにおいて、親水性高分子の溶出が1m2あたり20mg以下であり、牛血を用い灌流を行った際の透水性の保持率に優れた中空糸型血液浄化モジュールが開示されている。該文献によれば、ポリエーテルスルホンの紡糸原液を非凝固性の内液を用い且つ凝固浴温度を低温にすることで凝固を穏やかにすることで、膜構造を均一で平滑な構造にできるとされている。また凝固浴中で適度な延伸を付与することで微細構造が最適化することが記載されている。しかし、該文献に記載の中空糸膜は、凝固速度を制御することで親水性高分子の溶出を抑え、膜構造を平滑にし、且つ細孔の変形を抑制することで血液接触時の性能保持性を高めるものであり、透析時の透析液からのコンタミを抑える低透水性で使いやすい血液浄化モジュールでありながら低分子タンパクの除去性の両立を図る膜構造とはなっていない。
【0008】
一方、特許文献3には、安全性およびモジュール組み立て性に優れており、慢性腎不全の治療に用いる高透水性能を有する医療用中空糸型血液浄化モジュールが開示されている。そして具体的に、ポリスルホン系中空糸膜の膜厚が60μm以下、単糸の破断強力が50g以下、降伏強力が30g以下であり、波長10mm以上、振幅0.2mm以上のクリンプが付与されており、かつ血液浄化モジュールに組み立てた際に接着端面に含まれる扁平糸、異形糸及び閉塞糸をあわせた変形中空糸膜の割合が中空糸膜断面総数の0.5%以下であり、中空糸膜内径基準による膜面積1.5m2の血液浄化モジュールを用いて測定した尿素のクリアランスが160mL/min以上であることが記載されている。しかし、該文献に記載の中空糸膜は、高透水性とすることにより高性能血液浄化モジュールを目指したものであり、中空糸膜強度を高めるために非対称構造化および膜厚を厚くしたものである。
【0009】
特許文献4には、疎水性高分子と親水性高分子とからなり、膜構造を均一微細構造とすることにより親水性高分子の架橋処理を施さなくても溶出を抑制できる親水化選択透過性膜が開示されている。該技術によれば、低透水性でありながら低分子溶質(尿素:分子量60、イヌリン:分子量5200)の透過性が高く、透析型人工腎臓装置承認基準に基づいて測定したUV吸光度が0.00であったことが記載されている。しかし、該刊行物に記載の発明は、従来の低透水性タイプの親水化選択透過性膜に関するものであって、β2MG(分子量11600)などの低分子タンパクの除去は困難である。
【0010】
特許文献5には、高い耐薬品性および物理的強度を有し、再生処理のための薬品処理や逆洗を行なっても、親水性高分子が膜から流れ出ることなく、分離性能が低下しない中空糸膜が開示されている。該文献の記載を参酌すれば、紡糸原液中の高分子の濃度(粘度)を特定範囲とした紡糸原液を用いることにより、膜全体を緻密な均一構造とし、その構造の中に親水性高分子を閉じ込め、前記した作用効果を発現するものである。しかし、該文献に記載の中空糸膜は、透析時の耐圧性ではなく薬品処理や逆洗に対する耐性を高めるために、膜厚を厚くして糸強度を高めたものである。
【0011】
また、特許文献6には、エチレンビニルアルコール共重合体からなり、膜厚が15〜17μmであって、血液浄化モジュールを37℃の水中に浸漬した状態で、モジュールの血液出口を封じ、血液入口から空気圧を徐々にかけていき、中空糸膜が破裂した時の破裂強度が2.1〜4.1Kg/cm2(0.2〜0.4MPa)である血漿分離用の高透水性かつ大孔径の中空糸膜が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】特開2004−305561号公報
【特許文献2】特開2004−305677号公報
【特許文献3】特開2006−000373号公報
【特許文献4】特開2000−042383号公報
【特許文献5】特開平10−216488号公報
【特許文献6】特開平07−185278号公報
【非特許文献】
【0013】
【非特許文献1】秋葉ら、透析会誌41(3)、p159〜167、2008年
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
膜の高性能化、いわゆるβ2ミクログロブリンなどの低分子タンパク除去性能の向上に対する従来の開発は、膜の細孔径と有効開孔率を高める高透水性化として進められてきた。従って、性能が高くなるにつれ膜の透水性は高まるが、その分透析時に透析液中のエンドトキシンなどのパイロジェンが透析膜を通過して血液中に混入するリスクが高まる。高透水性化により膜の細孔径と開孔率が高まる結果として膜強度が低下するし、特に透析液側からの加圧に対する耐圧性や強度の低下は、パイロジェンの混入リスクが高まるだけでなく中空糸接着部の剥離やリークを通して透析時の血液リークにつながる惧れがある。また、従来、中空糸膜の強度を向上させる方法として、膜厚を厚くする手段があるが、膜の空孔に膜径保持剤が多量に付着したり、膜表面に付着し、膜径保持剤が表面に浮き出て糸同士の間で接着剤として働き、糸のバラケ性を損なってモジュールの組み立て歩留りを損なう現象がある。
【0015】
本発明は、上記従来技術の課題を解決することを目的とし、日本透析医学会の定める機能区分、II型以上の高性能を有しながら37℃での水の透水性が1〜20mL/(m2・hr・mmHg)と低く、低透水性のため透析治療時に透析膜を介して透析液が体内に侵入するいわゆる逆濾過のリスクが低く抑えられ、透析液側からの加圧に対する耐圧性を確保し、且つ剥離やリークの発生し難い安全性と性能発現性を同時に満足した、安全で使いやすく高性能の中空糸膜およびその製造方法、ならびに血液浄化モジュールを提供することを目的とする。
また本発明は、親水性高分子が溶出しにくく、血液と接触した際の性能保持性に優れ、かつモジュール組立性に優れ、長期保存にも適した中空糸膜、すなわち、血液適合性、安全性、性能保持性、経済性、長期保存性を同時に満足した中空糸膜を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明者は、上記課題を解決するため鋭意検討した結果、本発明に到達した。すなわち、本発明の中空糸膜およびその製造方法および血液浄化モジュールは、
(1)37℃での水の透水性が1〜20mL/(m2・hr・mmHg)の低透水性でありながら、膜面積1.5m2血液浄化モジュールにおけるβ2ミクログロブリンのクリアランスが10mL/min以上の高透析性を有し、且つ透析液側からの耐圧が0.1MPa以上の安定性を有し、しかも実質的に逆濾過が発生しないことを特徴とする中空糸膜。
(2)中空糸膜が疎水性高分子あるいは疎水性高分子と親水性高分子より形成されることを特徴とする(1)に記載の中空糸膜。
(3)前記(1)または(2)に記載の中空糸膜を複数本束ねてケースに収納し、該膜端部とケース端部とを接着樹脂にて固定した後、両端部を切断して中空部を開口させたことを特徴とする血液浄化モジュール。
(4)透析液側から0.2MPaの圧力をかけても中空糸膜の剥離やリークが発生しないことを特徴とする(3)に記載の血液浄化モジュール。
(5)膜厚が10〜50μm、膜構造が実質的に均質構造、降伏強度が35g/filament以上70g/filament以下、降伏伸度が3%/filament以上10%/filament以下であることを特徴とする中空糸膜。
(6)破断強度が40g/filament以上、破断伸度が50%/filament以上であることを特徴とする(5)に記載の中空糸膜。
(7)原子間力顕微鏡(AFM)を用いて測定した中空糸膜内表面の粗さ(Ra)が10nm未満であることを特徴とする(5)または(6)に記載の中空糸膜。
(8)長さ20.0cmの中空糸膜をアルミ袋に密封し、80℃、20時間加熱処理した後の、中空糸膜長さが19.0cm以上であることを特徴とする(5)〜(7)いずれかに記載の中空糸膜。
(9)ポリスルホン系高分子およびポリビニルピロリドンからなることを特徴とする(5)〜(8)いずれかに記載の中空糸膜。
(10)中空糸膜を内蔵した血液浄化モジュールにおいて、37℃の純水の透水性が1〜30mL/(m2・hr・mmHg)であり、血液側試験液流量200mL/min、透析液側試験液流量500mL/minの条件で測定した尿素クリアランスが120mL/(min・m2)以上である血液浄化モジュール。
(11)血液浄化モジュールをアルミ袋に密封し、80℃、20時間加熱処理した後の尿素クリアランスが、加熱処理前の尿素クリアランスに対して80%以上の保持率を有する(10)に記載の血液浄化モジュール。
(12)ポリマーを溶解した紡糸原液を、チューブインオリフィスノズルより空中走行部を介して凝固浴中に吐出し、水洗浴中で水洗し、親水化し、乾燥する工程を含む中空糸膜の製造方法において、前記紡糸原液を凝固浴中で10〜65%延伸し、水洗浴中で2〜10%延伸し、乾燥工程で20〜50℃でかつ実質的に無延伸で乾燥することを特徴とする中空糸膜の製造方法。
(13)前記(12)の製造方法によって得られる中空糸膜であって、繰り返し外圧負荷後の透水性保持率が80%以上であり、透析液側からの0.1MPaの圧力で50%以上のプライミングボリュームが保持され、透析液側からの0.2MPaの圧力で中空糸膜のリークや剥離損傷が発生せず、かつモジュール組み立て時の接着部リーク率が5%以下であることを特徴とする中空糸膜。
(14)透水性が1〜25mL/(m2・hr・mmHg)であり、かつ降伏強度が33g/filament以上であることを特徴とする(13)に記載の中空糸膜。
【発明の効果】
【0017】
本発明の中空糸膜および血液浄化モジュールは、37℃での水の透水性が1〜20mL/(m2・hr・mmHg)と低透水性でありながら、膜面積1.5m2血液浄化モジュールにおけるβ2ミクログロブリンのクリアランスが10mL/min以上の高透析性(日本透析医学会の定める機能区分、II型以上の高性能)であることが示された。また低透水性で高強度のため透析液側から0.1MPaの圧力をかけても耐圧性を有し、0.2MPaの圧力を4時間かけても中空糸膜の剥離やリークが発生しないことが示された。そのため、透析治療中に患者に透析液が侵入するリスク、いわゆる逆濾過のリスクが実質的に無いことが示された。
また、中空糸膜から親水性高分子が溶出しにくく、血液と接触した際の性能保持性に優れ、かつモジュール組立性に優れ、長期保存にも適した中空糸膜、すなわち、血液適合性、安全性、性能保持性、経済性、長期保存性を同時に満足した中空糸膜、血液浄化モジュールを提供することが可能である。
また、本発明の製造方法によって得られる中空糸膜は、繰り返し外圧負荷後の透水性保持率が80%以上であり、透析液側からの0.1MPaの圧力で50%以上のプライミングボリュームが保持され、透析液側からの0.2MPaの圧力で中空糸膜のリークや剥離損傷が発生せず、かつモジュール組み立て時の接着不良率が低い。従って、本発明の中空糸膜は、高透水化に伴う膜強度の低下による安全性の問題がないとともに生産性が極めて高い。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】本発明の中空糸膜の製造工程の概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
膜の製造方法としては、例えばポリオレフィンに可塑剤を加えて溶融した後、可塑剤を抽出して取り除いて微細孔とする方法やポリオレフィンのスタックラメラを延伸して解裂させ微孔を形成する方法などいくつかの方法があるが、主流はポリマーを溶媒もしくは非溶媒等を加えて溶解させた後、ミクロ相分離により多孔膜とする方法であり、実質的に血液透析用の分離膜はミクロ相分離法によるといえる。ところで、現実の製膜時における相分離プロセスは、ポリマー溶液(以下、紡糸原液、製膜溶液と称することがある)がノズルより吐出された後、凝固プロセスを通る。本研究者は鋭意検討した結果、凝固プロセスはゲル化による収縮プロセスであり、凝固浴中で未だ多量に溶媒を含んだ中空糸膜を水中に付け置くと膜が収縮していくことを見出すにいたった。
【0020】
従来の製膜プロセスはゲル化による収縮プロセスであるため、膜構造が均一膜であろうと非対称膜であろうといずれの場合においても、分離構造部に収縮による斑が発生せざるを得ず、この斑が膜分離時の抵抗となって性能を下げる原因となっていると考えられる。そのため膜の高性能化に向けては収縮斑などの実質的な膜抵抗に対抗して膜の孔径アップや開孔率アップをせざるを得ず、どうしても透水性を高める必要があった。
【0021】
また血液透析においては、尿素などの老廃物の除去効率を上げるために血液と透析液を向かい合った流れ、向流で流す必要があるし、そのように行われており血液浄化モジュールにおいて血液の出口側が透析液の入り口側に位置している。一方、流れがある場合には必ず圧力損失が発生する。従って、通常の血液透析においては透析液の入り口側での圧力が血液の出口側での圧力よりも高くなり、透析液が血液に入り込む逆濾過が起こりうる。この逆濾過の程度は血液浄化モジュールの形態、圧力損失にもよるが明らかに透水性を高めた膜において逆濾過は顕著である。
【0022】
本発明者は鋭意検討した結果、逆濾過の程度は血液の粘度、血液や透析液の流速、血液浄化モジュールの充填率、長さ、純水の透水性、血液中の透水性で規定できることを見出した。より詳しくは、逆濾過速度(mL/min)=血液中の透水性(mL/(m2・hr・mmHg))×膜面積(m2)×(血液側の圧力損失+透析液側の圧力損失)(mmHg)/(1+√(血液中の透水性/37℃の純水の透水性))/(1+√(血液中の透水性/37℃の純水の透水性))/2で近似的に表される。また、非特許文献1では、逆濾過を内部濾過流量(QF)と規定して引用26に峰島らの簡便な推定法を引用している。これによると、逆濾過速度(mL/min)=血液中の透水性(mL/(m2・hr・mmHg))×膜面積(m2)×(血液側入り口の圧力−透析液側出口の圧−膠質浸透圧π)(mmHg)/4で表現される。本発明者はこれら複数のパラメーターが組み合わさった逆濾過であるため、血液浄化モジュールの各形態、各条件での透析を実施し、どのような条件で逆濾過が規定されるかを鋭意検討した。尚、実際の透析時に逆濾過が発生しているか否かは、後述するように血液浄化モジュールの出口での圧力が膠質浸透圧を考慮した際、陽圧であるか陰圧であるかを測定することでダイレクトに判断した。この結果、通常の形態、通常の血液浄化モジュールにおいては、実際の測定が困難である血液中での透水性ではなく、37℃での純水の透水性の値で実際の透析時の逆濾過発生の有無を判定することが出来ること、37℃での純水の透水性の値が20mL/(m2・hr・mmHg)以下の低透水性である場合、実質的に通常の透析条件では逆濾過の影響を無視できることを見出すにいたった。ここで実質的に無視できるとは、通常の透析時には二から三リットル程度の体にたまった水を四時間程度の透析時間の間に除くため、2000mL÷240分=8.3mL/minの除水速度よりも小さく、無視できることを示す。透水性が1mL/(m2・hr・mmHg)にも満たないような場合には、最小限の透析性能すら発現することが難しくなるので、透水性は5mL/(m2・hr・mmHg)以上がより好ましく、10mL/(m2・hr・mmHg)以上がさらに好ましい。
【0023】
本願発明において、37℃での純水の透水性が1〜20mL/(m2・hr・mmHg)の低透水性でありながら、中空糸膜内径基準の膜面積が1.5m2の血液浄化モジュールにおけるβ2ミクログロブリンのクリアランスが10mL/min以上の高透析性を有することが好ましい。本願発明においては、後述するような中空糸膜製造条件の工夫によるものか、詳細な理由は解明できていないが、膜の微細構造や細孔構造、中空糸膜の親疎水バランス、膜とタンパクとの相互作用などが何らか変化しているものと推測している。血液浄化療法において、β2ミクログロブリンのクリアランスは高いほうが好ましく、12mL/min以上がより好ましく、14mL/min以上がさらに好ましい。
【0024】
また、本発明者は実際の透析における課題として透析液からのコンタミに注目した。特許文献3や特許文献6に示されるような中空糸膜の内側からの圧力に対する強度、いわゆるバースト圧、破裂損傷によって起こる例は血液リークとして透析時の漏血センサーで感知され、その時点で透析治療は中断される。本発明者は、より問題とすべきは中空糸膜の外側からの圧力に対する耐性、潰れによる損傷や潰れによっておこる接着部の剥がれによって透析液からのコンタミが起こることであり、外側からの圧力に対する中空糸膜の耐性を高めることが安全な透析に不可欠であることを見出すにいたった。
【0025】
ここでいう中空糸膜の外側からの圧力に対する耐性の第一の条件は、中空糸膜が外側からの圧力で潰れることによって発生する損傷に対する耐性である。この耐性は、中空糸膜の外側、血液浄化モジュールの透析液側から0.1MPaの圧力を10分間付与しても中空糸膜が完全に潰れることはなく、圧力を付与しなかったときに比べてプライミングボリュームが50%以上保持されていることが要求される。実際の透析では、0.1MPaもの外圧が付与されることは想定し難いが、0.1MPaの圧力を設定したのは、透析液の流速が500mL/min程度と高く、この流れが何らかの理由で一時的に出口が塞がれるなどの異常が発生した際にかかる圧力変動の相当値として想定されるためである。
【0026】
中空糸膜の外側からの圧力に対する耐性の第二の条件は、潰れた中空糸膜が接着端部で剥がれたりリークしてしまわないことである。具体的には、透析液側からの0.2MPaもの圧力を30分間付与しても中空糸膜がリークしたり、中空糸膜の接着部で剥がれが生じないことが要求される。0.2MPaの圧力を設定したのは、透析装置に供給される水や水道水の圧力が閉鎖時に0.2MPa付近であることに対応し、また、例えばリユースが実施される場合などに外圧として付与される水道圧が0.2MPa程度であることに対応するためである。また、30分間としたのは外圧洗浄時の上限時間とも言える値のためである。
【0027】
中空糸膜の外側からの圧力に対する耐性の第三の条件は、繰返しの外圧によっても膜が圧密化せず初期の透水性の保持が高いことである。具体的には、0.2MPaの圧力を断続的に繰り返して付与しても中空糸膜が圧密化せず、初期の透水性がほとんど低下しないこと、即ち、繰返し外圧付与後の初期の透水性に対する保持率が80%以上、好ましくは85%以上、より好ましくは90%以上である。ここで、繰返しの外圧としたのは、例えばリユースが実施される場合などに外圧の付与が30回程度繰り返されることに対応したためである。
【0028】
このような外圧に対する特性を親水性高分子単独で発現することは容易ではない。疎水性高分子あるいは疎水性高分子と親水性高分子より形成される必要がある。
【0029】
本発明の中空糸膜は、外圧に対する耐性を有するために、中空糸膜の分離部に構造斑が無いこと、中空糸膜肉厚部に剥離層などの欠陥を有さないこと、フィンガーライク構造を有さず実質的に連続構造であることを構造的な特徴とする。ここで実質的に連続構造とは、膜断面を電子顕微鏡で観測した際、膜表面からもう一方の膜表面にかけて構造的な不均一性が目視で確認できないか、実質的に不連続な構造変化がなくいわゆるスキン層以外の多孔層に構造的な不均一性が目視で確認できないことを示す。
【0030】
一方、中空糸膜をモジュールに組み上げる際には、封止剤、接着剤を中空糸膜の間に含浸しやすくすることがポイントである。このバラケ性を達成するために、一つは中空糸膜の間に適度な隙間を確保し、もう一つは中空糸膜表面と封止剤の間の接着阻害物質を低減させることが重要な要件となる。本発明では、中空糸膜の間に適度な隙間を確保する目的で、糸同士がきっちりとばらけるために糸のコシの目安となる降伏強度の向上、及び、過剰になると糸同士の間で接着剤として働いてしまう孔径保持材の付着状態の適正化を実施した。
【0031】
血液浄化モジュールを組立てる際には、中空糸膜束の整列性を持たせるために、ある一定の荷重を持たせながら糸束を調整するほうが中空糸膜の整列性を向上させることができる。一方で剛直性が高くなりすぎるとモジュールケースに中空糸膜束を挿入する際に折れ易くなるなどの不具合が生じやすくなる。また、降伏強度が低くなりすぎるともろい中空糸膜になり、組立て工程で移載など持ち上げた際に中空糸膜が切れてしまうなどの不具合が生じやすくなる。一方、伸びすぎる中空糸膜では寸法安定性が乏しくなり、モジュールの組立て歩留りが向上しないなどの不具合を生じる可能性がある。以上のことから、本発明の中空糸膜は、降伏強度は単糸あたり30g以上80g以下が好ましい。35g以上70g以下がより好ましく、40g以上60g以下がさらに好ましい。また、降伏伸度は単糸あたり3%以上10%以下が好ましい。3.5%以上8%以下が好ましく、4%以上6%以下がさらに好ましい。
【0032】
また、本発明において、中空糸膜の単糸あたりの破断強度が40g以上、破断伸度が50%以上であることが好ましい。破断強度が低いと、中空糸膜の製造やモジュール化工程において良好な作業性が得られないことがあり、また高すぎる場合、中空糸膜全体が緻密になり所期性能を発現できない可能性がある。したがって、中空糸膜の単糸あたりの破断強度は45g以上80g以下がより好ましく、50g以上75g以下がさらに好ましい。また、中空糸膜の単糸あたりの破断伸度は50%以上が好ましい。より好ましくは55%以上、さらに好ましくは60%以上である。破断伸度が低いと、血液浄化モジュール組立て作業あるいは組立て後の滅菌、運搬等によって中空糸膜に加えられる物理的衝撃、温度変化による中空糸膜の破損の可能性が高くなる。単糸あたりの破断伸度が大きすぎて問題になることはないと考えるが、120%以下がより好ましく、110%以下がさらに好ましい。
【0033】
次に、中空糸膜の降伏強度を確保した上で、中空糸膜の空孔にきっちりと親水化剤を過不足なく付着させ、中空糸膜の縮みを抑制しつつ、血液浄化モジュール組立ての歩留り向上、性能発現を行うことが好ましい。しかしながら、現実的には、中空糸膜外表面に付着する過剰の親水化剤はかきとり等で脱落させても、その後の乾燥工程で、過剰な乾燥熱による収縮をかけたり、延伸による機械的な引っ張りをかけると中空糸膜の縮みを招き、親水化剤が中空糸膜の表面に浮き上がったり、膜に欠陥が発生する。親水化剤が膜の表面に浮き上がると、その後のモジュール組立てにおいて接着阻害を起こすことがある。そこで、本発明では、乾燥工程での温度制御により、親水化剤の付着状態の適正化を行った。
【0034】
中空糸膜の細孔内に含浸させる親水化剤の量は、その上限を中空糸膜の空孔率に対して80%以上98%以下とすることが好ましい。以上説明したような中空糸膜の強伸度や親水化剤の含有量に調整することにより、長さ20.0cmの中空糸膜に80℃×20時間の熱を加えた後の中空糸膜の長さを19.0cm以上保持することが可能となる。19.3cm以上に保持されるのがより好ましく、19.5cm以上に保持されるのがさらに好ましい。
【0035】
一方、血液透析治療において、導入初期の患者のように血液透析装置の除水コントローラを使用せずに、比較的少量の除水を実施する場合には、膜の透水性を低くコントロールしつつ、病因物質である尿素などの低分子物質を効率よく除去する必要がある。低分子物質を効率よく除去するために偏流を防止する目的で種々の方策が講じられる。例えば、中空糸膜の外周面にフィンを設けたり、血液浄化モジュール内の中空糸膜の充填密度を高めたり、モアレ構造と呼ばれるような中空糸膜に物理的に捲縮をかけることにより偏流を防止することができる。フィンを設けるにはノズルの形状が複雑になり、管理が非常に煩雑となる。また、血液浄化モジュール内の中空糸膜充填率を上げると、血液浄化モジュールを組立てる際に封止剤が充填しにくくなる等の不具合が生じる可能性がある。
【0036】
そこで、本発明では中空糸膜に物理的に捲縮(クリンプ)を付与することによりこの課題を解決した。具体的には、中空糸膜長さ20cmあたり振幅100μm以上のクリンプを10個以上付与することが好ましく、血液浄化モジュールの組み立て性、コンパクト性を達成する目的から振幅125μm以上、クリンプ数13個以上がより好ましく、振幅150μm以上、クリンプ数15個以上がさらに好ましい。クリンプの振幅が大きすぎたり、クリンプの数が多すぎて問題となることはないと思われるが、現実的なクリンプの態様として振幅は300μm以下、数は30個以下が妥当である。このようなクリンプを付与して偏流を抑制することにより、尿素クリアランスは163mL/(min・m2)以上を発現することができ、165mL/(min・m2)以上を発現することも可能となる。
【0037】
このような中空糸膜を得る具体的な手段としては、ミクロ相分離による製膜法が挙げられる。膜構成材としてはポリスルホン(PSf)やポリエーテルスルホン(PES)、ポリメチルメタアクリレートやセルローストリアセテート(CTA)、セルロースジアセテート(CA)などの疎水性高分子単独、もしくは該疎水性高分子とポリビニルピロリドン(PVP)などの親水性高分子が上げられる。
【0038】
本発明において、PSf、PESなどのポリスルホン系高分子は生体適合性に優れ、尿毒症関連物質の高い除去性能が得られるので好ましく、PESが特に好ましい。ここで言うポリスルホン系高分子は、官能基やアルキル基などの置換基を含んでいてもよく、炭化水素骨格の水素原子はハロゲンなど他の原子や置換基で置換されていてもよい。また、これらは単独で使用しても、2種以上を混合して使用してもよい。
【0039】
ポリスルホン系高分子は比較的疎水性が強いため、血液と接触した際に、血漿タンパク質を吸着しやすい傾向がある。このためポリスルホン系高分子で中空糸膜を製造する場合には、親水性を付与して血液適合性を向上させるため、親水性高分子を添加するのが一般的である。すなわち、疎水性の強い材料は血漿タンパクを吸着しやすいので、長時間にわたって血液と接触して使用した場合には、表面に吸着した血漿タンパクの影響で膜性能が経時的に低下してしまう。親水性の付与によって血漿タンパクの吸着が低減されるので、親水性高分子添加は血液適合性向上のほか、膜として安定した溶質除去性能を発揮するためにも有効である。
【0040】
本発明における親水性高分子とは、ポリエチレングリコール、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン(PVP)、カルボキシメチルセルロース、ポリプロピレングリコール、グリセリン、デンプンおよびその誘導体などであるが、安全性や経済性よりPVPを用いるのが好ましい実施態様である。PVPの分子量としては重量平均分子量10,000〜1,500,000のものを用いることができる。具体的には、BASF社より市販されている分子量9,000のもの(K17)、以下同様に45,000(K30)、450,000(K60)、900,000(K80)、1,200,000(K90)を用いるのが好ましく、目的とする用途、特性、構造を得るために、それぞれ単独で用いてもよく、分子量の異なる同一の2種類の親水性高分子を、または異なる種類の親水性高分子を適宜2種以上組み合わせて用いても良い。
【0041】
ところが、PVPは血液浄化使用時、血液との接触によって溶出する可能性があり、場合によっては、溶出したPVPによって患者にアナフィラキシー様の症状を呈する可能性も否定できない。膜の高性能化には有効なPVPであるが、このような副作用を招く可能性から、その溶出量は低いほうが好ましく、具体的には、中空糸膜を40%エタノール水溶液で抽出した際の親水性高分子抽出量が10mg/m2(内径基準膜面積)以下であることが好ましく、7mg/m2(内径基準膜面積)以下であることがより好ましく、5mg/m2(内径基準膜面積)以下であることがさらに好ましい。
【0042】
血液適合性、性能安定性に寄与するのは、主として中空糸膜内表面の親水性高分子であると考えられる。本発明の中空糸膜において、内表面の親水性高分子の含有率は好ましくは5〜50重量%、より好ましくは10〜40重量%、さらに好ましくは15〜40重量%である。親水性高分子含有率がこれより低くても高くても、血液成分の過剰な吸着を招く可能性がある。また、親水性高分子含有率がこれよりも高いと、血液との接触で多くの親水性高分子が溶出する可能性があり、安全性の観点から問題となることがある。
【0043】
ミクロ相分離させるための紡糸原液、疎水性高分子もしくは疎水性高分子および親水性高分子を溶解する溶媒としては、例えば、ジメチルアセトアミド(DMAc)、ジメチルスルホキシド(DMSO)、N−メチル−2−ピロリドン(NMP)などの非プロトン性極性溶媒が例示される。中でも、DMAcまたはNMPが好ましい。中空糸膜製造に使用する紡糸原液に添加する非溶媒としては、例えば、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール(TEG)、ポリエチレングリコールなどのグリコール類や、水などが例示される。
【0044】
次に、本発明の中空糸膜の製造工程を図1に従って説明する。まず窒素雰囲気下で溶解した紡糸原液をチューブインオリフィスノズルよりエアーギャップ(空中走行部)を介して凝固浴中に吐出させて膜形成を行う。ここで紡糸原液の酸化劣化を防ぐために溶媒およびポリマーに包含された酸素を置換するため繰り返し窒素パージを行った後、窒素を封じ込め酸素を遮断した状態で加熱溶解を実施することが必要である。芯液は流動パラフィン、ミリスチン酸イソプロピルなどの非凝固性の液体であっても、水、もしくは水と溶媒、あるいはさらにそれらに非溶媒を混合した水系の凝固性液体であってもエアーなどの気体であってもかまわない。
【0045】
紡糸原液における疎水性高分子の濃度は用いる疎水性高分子の種類にもよるが、好ましくは、20〜50重量%、より好ましくは23〜45重量%、さらに好ましくは23〜45重量%である。これよりも濃度が低いと膜の強度を確保するのが困難になり、また、本発明が意図する親水性高分子の含量、40%エタノールで抽出される親水性高分子の量を実現するのが困難となる可能性が高くなり、これよりも濃度が高いと操業性が悪化する恐れがある。
【0046】
紡糸原液における親水性高分子の濃度は好ましくは、1〜15重量%、さらに好ましくは1〜10重量%である。これよりも濃度が低いと本発明が意図する親水性高分子の含量を実現するのが困難となる可能性が高くなり、これよりも濃度が高いと本発明が意図する、40%エタノールで抽出される親水性高分子の量を実現するのが困難となる可能性が高くなる。また、親水性高分子の分子量は大きすぎると紡糸用ドープの溶解性に問題が生じ、小さすぎると膜から溶出しやすくなるため、重量平均分子量で好ましくは2〜120万、さらに好ましくは4万〜110万であることが好ましい。
【0047】
上記のような高濃度の紡糸原液を調製するには通常、高温で溶解する方法が一般に用いられる。しかしながら中空糸膜からの親水性高分子の溶出を抑制するためには比較的低温、具体的には140℃以下で紡糸原液を調製する必要がある。親水性高分子の溶出、すなわち親水性高分子の低分子量化を抑制するためには135℃以下での調製がより好ましく、130℃以下がさらに好ましい。一方、調製温度が極端に低くなると攪拌溶解中に紡糸原液の粘性が高くなり、現実的には紡糸口金に圧力がかかりすぎて紡糸原液を押し出すことができなくなる。この点から紡糸原液の調製時の下限温度は100℃以上が好ましい。操業安定性からは110℃以上がより好ましく、120℃以上がさらに好ましい。
【0048】
親水性高分子の溶出を抑制するためには適正な温度範囲に設定する必要があることは先に述べた。同様に親水性高分子の溶出を抑制するためには紡糸原液を調製し始めてから紡糸口金から吐出するまでの滞留時間が短い方が好ましい。しかしながら、短時間で調製した紡糸原液を用いて中空糸膜を製膜すると、その破断強度、破断伸度は低めになる傾向があり、滞留時間が長くなると破断強度、破断伸度が高値で安定することがわかった。この結果を生むメカニズムは明確ではないが、紡糸原液の均一性に斑がある場合、具体的には不溶解微粒子等が生じた場合に破断強度、破断伸度の低下が生じるのではないかと考える。不溶解微粒子を取り除く目的で紡糸口金の直前にフィルターを設け、そのフィルター径が30μm以下となれば破断強度、破断伸度が所望の値で安定する傾向にある。よってフィルター径は25μm以下がより好ましく、20μm以下がさらに好ましい。フィルター径が10μm以下となった場合は、フィルター圧が上昇し、製膜が不可能となるので、製膜の安定性からは15μm以上がより好ましく、20μm以上がさらに好ましい。
【0049】
紡糸原液をチューブインオリフィスノズルから吐出し、1〜10cmの空中走行部を通過後、凝固浴に導く。凝固液の濃度は0〜70重量%、温度は0〜30℃である。より好ましくは、20〜70重量%、3〜20℃である。凝固工程においては、第1凝固浴にて紡糸原液から中空糸膜へ概ね凝固させ、次に第2凝固浴にて完全に凝固していない中空糸膜を延伸することで、フラックス(透水性能)の調整や強度の付与が行われる。本発明の方法では、凝固浴中で紡糸原液に延伸が加えられる。この凝固プロセス中に延伸を付与することによって、詳細な機構は不明であるが、中空糸膜を形成するポリマーが整列しヤング率が高まり、外圧に対する強度を付与することが出来ると考えられる。ここでの延伸は10〜65%、好ましくは10〜60%である。ここで凝固浴の延伸は、凝固浴入口ローラー速度と凝固浴出口ローラー速度との比、または第二凝固浴入口ローラー速度と第二凝固浴出口ローラー速度との比を表す。
【0050】
ポリスルホンおよびポリエーテルスルホンのような結晶化しにくいポリマーを非凝固性の内液を用いて紡糸する場合は、凝固速度が緩やかであるため、凝固浴中において適度な延伸をかけることにより、血液接触部である内表面の状態は、細孔形状の変形が大きくなりすぎず、孔の整列性が高く、均一で平滑性のある状態となる。このような特徴をもつことにより、血小板の粘着が抑制され、また血中タンパクの吸着が単分子層に抑制されるため、本発明の特徴であるろ過をかけながら血液灌流を行った際にも透水性の経時的低下が少ない中空糸膜が得られると考えられる。また、延伸をすることにより膜表面の緻密化を抑制し、過剰な親水性高分子が除去され易く、使用時の溶出量を低減する効果もある。さらに加えて凝固浴槽で固まらせながら延伸をかけることにより詳細な機構はよくわからないが、膜のなかでポリマー鎖の配列が適正化され、降伏強力が著しく向上し、降伏強力と降伏伸度の比率を好ましい範囲にコントロールするこができる。
【0051】
凝固浴から水洗浴に中空糸膜を導くと凝固の進行とともに中空糸膜が収縮しようとするが、この水洗工程において積極的に延伸を付与することによって透析性能を向上させることができる。この工程は、相分離が進行する際の収縮によって形成される膜構造の斑、溶質の透過を妨げ、透析の抵抗となる層を取り去るものであり、重要な性能付与工程といえる。この工程は膜構造がほぼ形成された後の工程であるから過度の延伸は膜構造の破壊、糸切れやローラーへの巻き付きをもたらす。しかしながら、収縮に抗した延伸付与は重要であり、ここでの延伸は最初の水洗浴の入口ローラー速度に対し最終水洗浴出口ローラーの速度との比として、2.0〜10%、より好ましくは2.0〜6.0%の範囲となるように各水洗浴の段数で分配して付与することが好ましい。
【0052】
水洗浴の後、中空糸膜はグリセリン槽などの親水化工程を経て乾燥工程でドライヤー等によって乾燥される。親水化剤は保湿性があり、空孔に含浸できれば何ら限定されるものではないが、血液透析分野での使用実績が高く、容易に入手できることからグリセリンが特に好ましい。孔径保持に必要なグリセリン水溶液濃度は、30〜70重量%であり、より好ましくは40〜60重量%である。乾燥工程では、過剰な乾燥熱による収縮をかけたり、延伸による機械的な引っ張りをかけると中空糸膜の縮みを招き、親水化剤が中空糸膜の表面に浮き上がったり、膜に欠陥が発生する。親水化剤が膜の表面に浮き上がると、その後のモジュール組み立ての接着において中空糸膜同士の間で接着阻害剤として働き、糸のバラケ性を損なって組み立て歩留りを損なう現象が発生する。そこで、本発明では、乾燥工程での膜の乾燥収縮を抑えるために乾燥温度を20℃〜50℃、好ましくは25〜45℃に設定する。また、乾燥工程では、中空糸膜は実質的に無延伸(即ち、0.5%以下の延伸)で、実質的に等速のローラー速度で乾燥を行って、一種のキュアリングを行うことが必要である。ここで、乾燥時に延伸を行うと中空糸膜の接着性が低下し、剥離が起こりやすくなるし、膜に欠陥が発生し操業性も低下、糸切れし易くなる。
【0053】
即ち本発明における中空糸膜形成においては、チューブインオリフィスノズルから吐出された紡糸原液を凝固浴中、あるいは第二凝固浴中で延伸することによって、膜性能と耐圧強度の付与を行い、続く水洗工程においても連続的に延伸を付与し、次いで必要に応じグリセリン付与工程などを経た後、乾燥する際には実質的に無延伸で乾燥することによってキュアするアニーリング紡糸法ともいえる製膜法を行うことにより、低透水性でありながら高い低分子タンパクの透過性能、逆濾過によるパイロジェンなどのコンタミのリスクが低く、外圧に耐性を有する中空糸膜を得る事ができる。
【0054】
本発明の中空糸膜は、血液適合性、安全性、性能保持性を同時に満足するという観点から、膜厚が10〜30μm、内径が100〜300μmであることが好ましい。膜厚が小さすぎると、十分な強度を確保するのが困難となることがある。膜厚は12μm以上がより好ましく、14μm以上がさらに好ましい。また、膜厚が厚すぎる場合には物質透過性能が低下することがある。したがって、膜厚は27μm以下がより好ましく、23μm以下がさらに好ましい。内径が上記の範囲から外れると、血液灌流時の血液流速が過小または過大となり、膜表面との相互作用による血液成分の吸着などによる血液適合性低下や性能保持性低下を招く可能性がある。内径は130〜280μmがより好ましく、150〜250μmがさらに好ましい。
【0055】
上記得られた中空糸膜を用いて血液浄化モジュールを組立てた後、一定の条件下でγ線や電子線を照射すると親水性高分子が架橋し、親水性高分子の溶出抑制が図れる技術が知られている。しかしながら、この方法を使用すると、架橋させるために親水性高分子の分解(ラジカル生成)が誘発されるために原料の安全性、あるいは使用時の安全性が保証できない可能性がある。よって、γ線照射時、あるいは電子線照射時の架橋は最小限に抑制することが好ましく、具体的には架橋高分子量は全膜重量に対して5%以下が好ましく、3%以下がより好ましく、2%以下がさらに好ましい。なお、本発明の中空糸膜は膜径保持剤(親水化剤)としてグリセリンが付着しているが、グリセリンには架橋阻害の作用があり、したがって架橋高分子量は全膜重量に対して3%以下である。
【0056】
一方、中空糸膜の内表面の粗さの指標は、原子間力顕微鏡(AFM)による形態観察で評価できる。本発明では、数十μmオーダーのエリアの凹凸が影響すると考えられる血液の活性化(血栓の形成や残血)を評価するのではなく、中空糸膜内表面へのタンパク質層の形成のし易さに影響していると考えられる非常に小さなエリアの凹凸度(nmオーダー)の表面状態を観察することで評価される。血液の活性化は中空糸膜内を流れる血液がいかにスムーズに流れるかということを調べるのであるから、できるだけ広いエリアの凹凸を調べる必要がある。できるだけ広いエリアといっても、内径が200μm程度の中空糸膜の内表面を観察するのであるから、そのエリアは数十μmオーダー程度となる。それに対して本発明で調べたいのは、血液タンパク層の形成され易さであり、血液タンパク(主にアルブミン、ストークス半径3.55nm)が中空糸膜内表面に微妙に留まる程度(可逆的吸着)を調べるのであるから、できるだけ狭い範囲を精度良く測定するのが適切であり、例えば、AFMで測定する範囲は3μm四方が適切である。すなわち、中空糸膜内表面の3μm四方をAFMで観察し、表面粗さ(Ra)、最大高低差(PV値)で評価する。血液接触直後、瞬時にタンパク吸着層を形成させるには、血液タンパクが中空糸膜内表面に微妙に留まれる(可逆的吸着)程度の凹凸が必要であり、Ra値は15nm以下が、PV値は150nm以下が好ましい。より好ましくは、Ra値は10nm以下が、PV値は140nm以下、さらに好ましくは、Ra値が5nm以下、PV値が120nm以下である。
【実施例】
【0057】
以下、本発明の有効性を実施例を挙げて説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。なお、以下の実施例における評価方法は以下の通りである。
【0058】
[中空糸膜の透水性の測定方法]
血液浄化モジュールを使用し、膜の内外両側に37℃の純水を満たした。膜の内側に通じる血液浄化モジュール入り口から純水によって圧力をかけて、膜の内側と外側の圧力差、すなわち膜間圧力差を生じせしめ、1分間に膜を通じて膜外側に出てくる純水の量を測定した。4点の異なった膜間圧力差において、1分間の透水量を測定し、膜間圧力差と透水量の2次元座標にプロットして、それらの近似直線の傾きを数値として求めた。この数値に60をかけ、血液浄化モジュールの膜面積で割って中空糸膜の透水性を求めた(以下UFRと略記する。単位はmL/(m2・hr・mmHg))。
【0059】
[中空糸膜の外圧に対する耐圧性の測定方法]
血液浄化モジュールを使用し、膜の内側(血液側)に37℃の純水を満たした。この血液浄化モジュールの血液側の総体積(純水の充填量に相当)をプライミングボリューム(単位mL)とする。血液浄化モジュールの透析液側には水を充填せず血液側のみに純水を充填した状態で透析液側に0.1MPaの空気加圧を実施し、10分間ホールドし中空糸膜の外圧による変形によって内側に充填した純水が排出される体積を測定する。この体積がプライミングボリュームの半分以下の時、耐圧性良好、半分を超えるとき耐圧性不良と判断する。
【0060】
[血液浄化モジュールの耐外圧性の試験評価]
血液浄化モジュールを使用し、膜の内側(血液側)に37℃の純水を満たした。この後、血液浄化モジュールの透析液側には水を充填せず血液側のみに純水を充填した状態で透析液側から0.2MPaの空気加圧を実施し、30分間ホールドし中空糸膜、中空糸膜接着部に外圧による変形を付与する。その後、血液浄化モジュールのリーク試験(水没下、エアー加圧による気泡試験)によって血液浄化モジュールのリーク損傷および血液浄化モジュール断面の拡大鏡検査により剥離の有無を確認する。
【0061】
[β2MGクリアランスの測定方法]
非特許文献1に示された性能評価基準に準じ実施する。膜面積1.5m2(中空糸膜内径基準)の血液浄化モジュールに、総タンパク質濃度6.5±0.5g/dLに調整し、37℃に保温したACD加牛血漿を血液側流量200mL/minで1時間循環する。次いでヒトβ2MGを0.05〜0.1mg/Lの濃度になるように添加した総タンパク質濃度6.5±0.5g/dLに調整し、37℃に保温したACD加牛血漿を血液側流量200mL/minで血液側に流し、市販透析液を500mL/min、ろ過流量15mL/minで透析を実施する。このクリアランス評価はシングルパスで実施する。血液入口、出口、透析液出口中のβ2MG濃度を測定する。クリアランスは以下の式で計算する。
CL(β2MG)=200×[(200×CBi)−(185×CBo)]/(200×CBi)
ここで、CBi:血液入口部濃度、CBo:血液出口部濃度である。
【0062】
[逆濾過の測定方法]
逆濾過の測定は膜面積1.5m2(中空糸膜内径基準)の血液浄化モジュールに、牛全血、ヘマトクリット30±3%、総タンパク質濃度6.5±0.5g/dLに調整し、37℃に保温したACD加牛全血液を用いて測定する。37℃に保温したACD加牛血漿を血液側流量200mL/minで血液側に流し、市販透析液を500mL/min、ろ過流量8mL/minで透析を実施する。ここで濾過流速を8mL/minと低くしたのは、通常の透析における低除水の場合を想定し、それでも逆濾過が起こらないかを確認するためである。逆濾過の発生の有無は血液出口側の圧力PBout(mmHg)と膠質浸透圧π(22mmHg)と透析液入り口側の圧力PDin(mmHg)を測定し、PBout−π(22)−PDinが正の値ならば逆濾過は起こらず、負の値ならば逆濾過が起こっていると判断される。
【0063】
[不溶成分含有量の測定・算出方法]
完成品としての中空糸膜10gを製造の際に使用した溶媒100mLで溶解した。この液を遠心分離により1500rpm、10分で不溶成分を分離し、上清を除去した。この操作を3回繰返し、残った不溶成分を蒸発乾固して重量を測定し、不溶成分の含有量を算出した。
【0064】
[親水性高分子含有量の測定・算出方法]
中空糸膜を重DMSOに溶解し、1H-NMRの測定を行って、疎水性高分子に含まれる水素原子(H1とする)由来のピークと、親水性高分子に含まれる水素原子(H2とする)由来のピークの面積比を求めた(この面積比をa1:a2とする)。疎水性高分子の繰返し単位の分子量をM1、繰返し単位中に含まれる上記a1の個数をn1、親水性高分子の繰返し単位の分子量をM2、繰返し単位中に含まれる上記a2の個数をn2として、次の式により親水性高分子の含有量を算出した。
親水性高分子の含有率(%)=((a2/n2)×M2×100)/((a1/n1)×M1+(a2/n2)×M2)
【0065】
[40%エタノール水溶液での抽出方法]
40%エタノール水溶液での抽出試験は以下の手順で行った。血液浄化モジュールの中空糸膜内側に400mLの純水を流してフラッシングを行った後、血液浄化モジュール内の純水を40容量%のエタノール水溶液で置換した。中空糸膜外側のモジュールケース内部にも40溶量%のエタノール水溶液で満たして封止した。続いて40℃の条件下、200mLの40容量%エタノールを150mL/minで1時間にわたって中空糸膜内側を循環させた後、循環した40容量%エタノール水溶液を回収し、そのPVP濃度を測定した。血液浄化モジュールの中空糸膜内側容積と血液浄化モジュール出入り口のヘッダー部分の体積、すなわちプライミングボリュームに200mLを加えた、抽出液総体積と抽出液中のPVP濃度から、抽出されたPVP総重量を算出し、さらに、血液浄化モジュールの膜面積(内径基準)から、被処理液接触側膜面積1m2あたりのPVP抽出量を求めた。
【0066】
[PVP濃度の測定方法]
PVPの濃度測定は、K.Muellerの方法(K.Mueller,Pharm.Acta.Helv.,43,107(1968))によって行った。すなわち、検体にクエン酸とヨウ素溶液を加え、吸光度を測定し、濃度既知のPVPから求めた検量線により濃度を求めた。ここで、濃度測定の際には、エタノールによる発色の阻害を避けるため2倍以上に希釈する必要がある。具体的には、例えば2倍希釈で濃度測定を行う場合、検体を1.25mL、水1.25mL、0.2mol/Lクエン酸水溶液1.25mL、0.006規定ヨウ素水溶液0.5mLをよく混合し、10分間静置した後、470nmの吸光度を測定し、その測定値からPVP濃度を算出すればよい。
【0067】
[中空糸膜のC特性値の測定方法]
血液浄化モジュールを使用し、ヘマトクリット35%の牛血液を200mL/minの流量で中空糸膜の内側に灌流した。同時に、中空糸膜外側から20mL/minの流量で濾過を行った。灌流・濾過開始15分後の膜間圧力と濾過液量から、牛血液系での透水性(以下MFRと略記することがある。)を算出した。この値を(A)とし、灌流・濾過開始120分後、同様の操作により求めたMFRの値(B)とから、100(%)×(B)/(A)の計算によりC特性値を算出した。
【0068】
[クリアランスの測定方法]
ビタミンB12が20ppm、尿素が1000ppm、塩化ナトリウムが180ppm、リン酸一ナトリウム(無水)が40ppm、リン酸二ナトリウム(12水和物)が480ppmになるよう調製したキンダリー希釈液(35倍希釈)を使い、膜面積1.5m2の血液浄化モジュールで測定した。血液側の流速は200±1mL/min、透析液側の流速は500±10mL/minとし、37℃で上記キンダリー溶液を流した。流し始めて1分後から3分間にわたって透析液側の液をサンプリングし、その間血液側(out)の液のサンプリングを1分間にわたって行った。それぞれの液について尿素の濃度を和光純薬工業株式会社製尿素窒素B−テストワコーを使用したウレアーゼ・インドフェノール法により測定した。また、ビタミンB12の濃度を360nmの吸光度から測定した。これらの測定値から中空糸膜の尿素クリアランス(CLun)、ビタミンB12クリアランス(CLvb)を算出した。
【0069】
[中空糸膜の内径、外径、膜厚の測定]
中空糸膜断面のサンプルは以下のようにして得ることができる。測定には中空形成材を洗浄、除去した後、中空糸膜を乾燥させた形態で観察することが好ましい。乾燥方法は問わないが、乾燥により著しく形態が変化する場合には中空形成材を洗浄、除去したのち、純水で完全に置換した後、湿潤状態で形態を観察することが好ましい。中空糸膜の内径、外径および膜厚は、中空糸膜をスライドグラスの中央に開けられたφ3mmの孔に中空糸膜が抜け落ちない程度に適当本数通し、スライドグラスの上下面でカミソリによりカットし、中空糸膜断面サンプルを得た後、投影機Nikon-V-12Aを用いて中空糸膜断面の短径、長径を測定することにより得られる。中空糸膜断面1個につき2方向の短径、長径を測定し、それぞれの算術平均値を中空糸膜断面1個の内径および外径とし、膜厚は(外径−内径)/2で算出した。5断面について同様に測定を行い、平均値を内径、膜厚とした。
【0070】
[中空糸膜の降伏強度、降伏伸度の測定方法]
東洋ボールドウイン製テンシロンUTMIIを用いて、引っ張り速度100mm/min、チャック間距離100mmで測定した。サンプルはn=5で測定し、平均値を用いた。
【0071】
[中空糸膜のグリセリン付着率の測定方法]
中空糸膜に対するグリセリン付着率は、以下のようにして測定した。得られた中空糸膜を約10,000本の束とし、長さ20cm程度に切り揃え、遠心脱液により中空糸膜内部の芯液を除去した後、完全に乾燥させ、重量Wを測定する。その後、中空糸膜束を40℃に加温した相当量の水に浸漬させ、十分に洗浄した後、120℃の乾熱オーブンで2時間乾燥させ、重量Pを測定する。次に下記式により中空糸膜に対するグリセリン付着率G(重量%)を計算した。
G(重量%)=(W−P)/W×100
【0072】
[中空糸膜縮みの測定方法]
中空糸膜を20.0cmに切り揃え、予め目盛を付した熱収縮が認められないことを確認したプラスチックケースに並べ、中空糸膜の両端は固定せず、庫内を80℃に予備加熱した乾燥機に投入し、そのまま20時間、継続して加熱した。取り出した中空糸膜を30分間、室温で冷却し、目盛を利用して中空糸膜の長さを実測した。
【0073】
[AFM観察(中空糸膜内表面の粗さの測定)]
評価する中空糸膜の内表面を露出させたものを試料とした。原子間力顕微鏡SPI3800にて形態観察をした。この時の観察モードはDFMモード、スキャナーはFS-20A、カンチレバーはDF-3、観測視野は3μm四方である。PV値は膜表面の凹凸を測定した際の基準点に対する全測定点の凹凸の最大値と最小値の差であり、Ra値は基準点に対する全測定点の凹凸の算術平均を表す。
【0074】
[接着部リーク率]
膜面積1.5m2の中空糸膜モジュールを使用し、血液液側から0.15MPaの空気加圧を10秒間かけ、さらに10秒間ホールドし、その後の10秒間の圧力低下値(Pa)を読む。200Pa以下の場合、リーク発生なしと判定し、200Paを超える場合、リーク発生と判定する。
接着剤部リーク率はこの判定結果に基づいて以下の式によって求めた。なお、全組み立てモジュール数は10本とした。
接着部リーク率(%)=接着部リーク発生モジュール数/全組み立てモジュール数×100(%)
【0075】
本発明1について具体例を挙げて、以下に説明する。
【0076】
(実施例1)
PES(住化ケムテックス社製、スミカエクセル4800P)42.5重量%、PVP(BASF社製コリドンK-90)4.5重量%、TEG(三井化学社製)21.2重量%、及びNMP(三菱化学社製)31.8重量%を混合後、窒素封入して撹拌、再度窒素パージして撹拌を三回繰り返した後125℃に昇温して均一に溶解し、製膜溶液を焼結フィルターにより異物を除去し、芯液として流動パラフィンを用いチューブインオリフィスノズルより吐出し、紡糸管により外気と遮断した、30mmの空中走行部を通過した後、5℃の65重量%NMP/TEG(6/4)水溶液の第一凝固浴で凝固させ、次いで同じく5℃の65重量%NMP/TEG(6/4)水溶液の第二凝固浴に導き35%の延伸をかけた後、水洗浴間を延伸比0.3%で15段、65℃の温水中を経た後、87℃、60重量%のグリセリン浴に通過させ、次いでドライヤーで乾燥させるに際して延伸を付与することなく乾燥時引っ張らない緩和型方式で60℃の温風乾燥を実施し、紡糸速度60m/minで巻き上げ、内径200μm、膜厚17μmの中空糸膜を得た。
【0077】
得られた中空糸膜チーズを70℃の乾燥機中で20時間、安定化処理を施した後、定法によってモジュール化を実施、中空糸膜内径基準で膜面積1.5m2の血液浄化モジュールを得た。その評価結果を表1に示す。
【0078】
透水性は14mL/(m2・hr・mmHg)と低透水性でありながら、β2ミクログロブリンのクリアランスは18mL/minと機能分類II型の高性能を示し、且つ耐圧性も良好、逆濾過も見られず安全で高性能な有用な中空糸膜および血液浄化モジュールが得られた。
【0079】
(実施例2)
紡糸速度を90m/minとし、芯液とポリマー溶液の吐出量を1.5倍にしたほかは実施例1と同じ処方で中空糸膜を作製し、同じく中空糸膜チーズを70℃の乾燥機中で20時間、安定化処理を施した後、定法によってモジュール化を実施、膜面積1.5m2の血液浄化モジュールを得た。その評価結果を表1に示す。
【0080】
透水性は18mL/(m2・hr・mmHg)と低透水性でありながら、β2ミクログロブリンのクリアランスは21mL/minと機能分類の定めるII型の高性能を示し、且つ耐圧性も良好、逆濾過も見られず安全で高性能な有用な中空糸膜および血液浄化モジュールが得られた。
【0081】
(実施例3)
PES(住化ケムテックス社製、スミカエクセル4800P)44.5重量%、PVP(BASF社製コリドンK-90)5.5重量%、TEG(三井化学社製)20重量%、及びNMP(三菱化学社製)30重量%、溶解温度を130℃、第二凝固浴での延伸を55%、水洗浴での延伸を各浴0.35%、15段で計5.25%とした以外は実施例1と同じ処方で中空糸膜を作製し、同じく中空糸膜チーズを70℃の乾燥機中で20時間、安定化処理を施した後、定法によってモジュール化を実施、膜面積1.5m2の血液浄化モジュールを得た。その評価結果を表1に示す。
【0082】
透水性は18mL/(m2・hr・mmHg)と低透水性でありながら、β2ミクログロブリンのクリアランスは24mL/minと機能分類の定めるII型の高性能を示し、且つ耐圧性も良好、逆濾過も見られず安全で高性能な有用な中空糸膜および血液浄化モジュールが得られた。
【0083】
(実施例4)
CTA(ダイセル化学製、LT105)24.3重量%、TEG(三井化学社製)22.71重量%、及びNMP(三菱化学社製)52.99重量%を混合後、窒素封入して撹拌、再度窒素パージして撹拌を三回繰り返した後125℃に昇温して均一に溶解し、製膜溶液を焼結フィルターにより異物を除去し、芯液として流動パラフィンを用いチューブインオリフィスノズルより吐出し、紡糸管により外気と遮断された、45mmの空中走行部を通過した後、12℃の30重量%NMP/TEG(7/3)水溶液からなる第一凝固浴で凝固させ、次いで同じく12℃の30重量%NMP/TEG(7/3)水溶液の第二凝固浴に導き10%の延伸をかけた後、水洗浴間を延伸比0.15%で15段、65℃の温水中を経た後、46重量%のグリセリン浴を通過させ、次いでドライヤーで乾燥させるに際して延伸を付与することなく乾燥時引っ張らない緩和型方式で65℃の温風乾燥を実施し、紡糸速度80m/minで巻き上げ、内径201μm、膜厚15.5μmの中空糸膜を得た。
【0084】
得られた中空糸膜チーズを70℃の乾燥機中で20時間、安定化処理を施した後、定法によってモジュール化を実施、膜面積1.5m2の血液浄化モジュールを得た。その評価結果を表1に示す。
【0085】
透水性は14mL/(m2・hr・mmHg)と低透水性でありながら、β2ミクログロブリンのクリアランスは14mL/minと機能分類の定めるII型の高性能を示し、且つ耐圧性も良好、逆濾過も見られず安全で高性能な有用な中空糸膜および血液浄化モジュールが得られた。
【0086】
(比較例1)
第二凝固浴での延伸を5%として引っ張らないようにした以外は実施例1と同じ処方で中空糸膜を作製し、同じく中空糸膜チーズを70℃の乾燥機中で20時間、安定化処理を施した後、定法によってモジュール化を実施、膜面積1.5m2の血液浄化モジュールを得た。その評価結果を表1に示す。
【0087】
透水性は13mL/(m2・hr・mmHg)と低透水性であり、β2ミクログロブリンのクリアランスは9mL/minと機能分類の定めるI型の低いクリアランスしか示さなかった。また0.1MPaの外圧でつぶれ十分な耐圧性がない中空糸膜および血液浄化モジュールであった。
【0088】
(比較例2)
第二凝固浴での延伸を5%と引っ張らず、水洗浴での延伸を各浴0.1%、15段で計1.5%とした以外は実施例1と同じ処方で中空糸膜を作製し、同じく中空糸膜チーズを70℃の乾燥機中で20時間、安定化処理を施した後、定法によってモジュール化を実施、膜面積1.5m2の血液浄化モジュールを得た。その評価結果を表1に示す。
【0089】
透水性は12mL/(m2・hr・mmHg)と低透水性であり、β2ミクログロブリンのクリアランスは6mL/minと機能分類の定めるI型の低いクリアランスしか示さなかった。また0.1MPaの外圧でつぶれ十分な耐圧性がない中空糸膜および血液浄化モジュールであった。
【0090】
(比較例3)
グリセリン浴を通過後、ドライヤーで乾燥させるに際して、走行安定化のために各段0.1%で計10段で延伸を1.0%付与しながら60℃の温風で乾燥した以外は実施例1と同じ処方で中空糸膜を作製し、同じく中空糸膜チーズを70℃の乾燥機中で20時間、安定化処理を施した後、定法によってモジュール化を実施、膜面積1.5m2の血液浄化モジュールを得た。その評価結果を表1に示す。
【0091】
透水性は14mL/(m2・hr・mmHg)と低透水性であり、β2ミクログロブリンのクリアランスは9mL/minと機能分類の定めるI型の低いクリアランスしか示さなかった。また0.2MPaの外圧を付与した際に血液浄化モジュール10本でリークが発生し、血液浄化モジュール端面に剥離が発生する、不十分な接着強度の安全性が低い中空糸膜および血液浄化モジュールであった。
【0092】
(比較例4)
PES(住化ケムテックス社製、スミカエクセル4800P)26.0重量%、PVP(BASF社製コリドンK-90)5.5重量%、TEG(三井化学社製)27.4重量%、及びNMP(三菱化学社製)41.1重量%を混合後、窒素封入して撹拌、再度窒素パージして撹拌を三回繰り返した後125℃に昇温して均一に溶解し、製膜溶液を焼結フィルターにより異物を除去し、芯液として流動パラフィンを用いチューブインオリフィスノズルより吐出し、紡糸管により外気と遮断された、30mmの空中走行部を通過した後、5℃の30重量%NMP/TEG(6/4)水溶液中で凝固させ、次いで同じく5℃の30重量%NMP/TEG(6/4)水溶液の第二凝固に導き5%の延伸をしか付与せず、水洗浴間も延伸比0.1%と延伸を付与しないで15段、65℃の温水中を経た後、87℃、65重量%のグリセリン浴を通過させ、次いでドライヤーで乾燥させるに際して延伸を付与することなく乾燥時引っ張らない緩和型方式で60℃の温風乾燥を実施し、紡糸速度60m/minで巻き上げ、内径200μm、膜厚16μmの中空糸膜を得た。
【0093】
得られた中空糸膜チーズを70℃の乾燥機中で20時間、安定化処理を施した後、定法によってモジュール化を実施、膜面積1.5m2の血液浄化モジュールを得た。その評価結果を表1に示す。
【0094】
透水性は62mL/(m2・hr・mmHg)と高透水性の割には、β2ミクログロブリンのクリアランスは15mL/minと機能分類の定めるII型とはいえ振るわず、0.1MPaの外圧で潰れが発生するなど耐圧も不良な上、逆ろ過が発生するなど目的とする安全で高性能な有用な中空糸膜および血液浄化モジュールは得られなかった。
【0095】
【表1】
【0096】
本発明2について具体例を挙げて、以下に説明する。
【0097】
(実施例5)
PES(住化ケムテックス社製、スミカエクセル4800P)42.5重量%、PVP(BASF社製コリドンK-90)4.5重量%、TEG(三井化学社製)21.2重量%、及びNMP(三菱化学社製)31.8重量%を混合後、窒素封入して撹拌、再度窒素パージして撹拌を三回繰り返した後125℃に昇温して均一に溶解し、製膜溶液を焼結フィルターにより異物を除去し、芯液として流動パラフィンを用いチューブインオリフィスノズルより吐出し、紡糸管により外気と遮断した、25mmの空中走行部を通過した後、5℃の65重量%NMP/TEG(6/4)水溶液の第一凝固浴で凝固させ、次いで同じく5℃の65重量%NMP/TEG(6/4)水溶液の第二凝固浴に導き35%の延伸をかけた後、水洗浴間を延伸比0.3%で15段、65℃の温水中を経た後、87℃、60重量%のグリセリン浴に通過させ、次いでドライヤーで乾燥させるに際して延伸を付与することなく乾燥時引っ張らない緩和型方式で60℃の温風乾燥を実施し、紡糸速度60m/minでボビンにクロスワインドで巻き上げ、内径198μm、膜厚17μmの中空糸膜を得た。
【0098】
得られた中空糸膜チーズを70℃の乾燥機中で20時間、安定化処理を施した後、定法によってモジュール化を実施、中空糸膜内径基準で膜面積1.5m2の血液浄化モジュールを得た。その評価結果を表2、3に示す。
【0099】
(実施例6)
PES(住化ケムテックス社製、スミカエクセル4800P)41.5重量%、PVP(BASF社製コリドンK-90)3.5重量%、TEG(三井化学社製)22重量%、及びNMP(三菱化学社製)33重量%、溶解温度を120℃、第二凝固浴での延伸を30%、水洗浴での延伸を各浴0.25%、15段で計3.75%とした以外は実施例1と同じ処方で中空糸膜を作製し、同じく中空糸膜チーズを70℃の乾燥機中で20時間、安定化処理を施した後、定法によってモジュール化を実施、膜面積1.5m2の血液浄化モジュールを得た。その評価結果を表2、3に示す。
【0100】
(実施例7)
EPS(住化ケムテックス社製、スミカエクセル4800P)44.5重量%、PVP(BASF社製コリドンK-90)5.5重量%、TEG(三井化学社製)20重量%、及びNMP(三菱化学社製)30重量%、溶解温度を130℃、第二凝固浴での延伸を55%、水洗浴での延伸を各浴0.35%、15段で計5.25%とした以外は実施例1と同じ処方で中空糸膜を作製し、同じく中空糸膜チーズを70℃の乾燥機中で20時間、安定化処理を施した後、定法によってモジュール化を実施、膜面積1.5m2の血液浄化モジュールを得た。その評価結果を表2、3に示す。
【0101】
(実施例8)
製膜溶液の吐出量を増やすことにより、内径196μm、膜厚28μmの中空糸膜を得た以外は、実施例5と同じ処方で中空糸膜を作製し、同様にして血液浄化モジュールを得た。
【0102】
(比較例5)
第二凝固浴での延伸を5%として引っ張らないようにした以外は実施例5と同じ処方で内径198μm、膜厚16μmの中空糸膜を作製し、同じく中空糸膜チーズを70℃の乾燥機中で20時間、安定化処理を施した後、定法によってモジュール化を実施、膜面積1.5m2の血液浄化モジュールを得た。その評価結果を表2、3に示す。
【0103】
透水性13mL/(m2・hr・mmHg)と低透水性であり、β2ミクログロブリンのクリアランスは9mL/minと機能分類の定めるI型の低いクリアランスしか示さなかった。また0.1MPaの外圧でつぶれ十分な耐圧性がない中空糸膜および血液浄化モジュールであった。
【0104】
(比較例6)
第二凝固浴での延伸を5%と引っ張らず、水洗浴での延伸を各浴0.1%、15段で計1.5%とした以外は実施例5と同じ処方で内径201μm、膜厚15μmの中空糸膜を作製し、同じく中空糸膜チーズを70℃の乾燥機中で20時間、安定化処理を施した後、定法によってモジュール化を実施、膜面積1.5m2の血液浄化モジュールを得た。その評価結果を表2、3に示す。
【0105】
透水性12mL/(m2・hr・mmHg)と低透水性であり、β2ミクログロブリンのクリアランスは6mL/minと機能分類の定めるI型の低いクリアランスしか示さなかった。また0.1MPaの外圧でつぶれ十分な耐圧性がない中空糸膜および血液浄化モジュールであった。
【0106】
(比較例7)
水洗浴での延伸を各浴0.1%、15段で計1.5%とし、グリセリン浴を通過後、ドライヤーで乾燥させるに際して、走行安定化のために各段0.15%、計10段で延伸を1.5%付与しながら60℃の温風で乾燥した以外は比較例6と同じ処方で内径200μm、膜厚17μmの中空糸膜を作製した。同じく中空糸膜チーズを70℃の乾燥機中で20時間、安定化処理を施した後、定法によってモジュール化を実施、膜面積1.5m2の血液浄化モジュールを得た。その評価結果を表2、3に示す。
【0107】
透水性14mL/(m2・hr・mmHg)と低透水性であり、β2ミクログロブリンのクリアランスは9mL/minと機能分類の定めるI型の低いクリアランスしか示さなかった。また0.2MPaの外圧を付与した際に血液浄化モジュール10本中2本でリークが発生し、血液浄化モジュール端面に剥離が発生する、不十分な接着強度の安全性が低い中空糸膜および血液浄化モジュールであった。
【0108】
(比較例8)
PES(住化ケムテックス社製、スミカエクセル4800P)26.0重量%、PVP(BASF社製コリドンK-90)5.5重量%、TEG(三井化学社製)27.4重量%、及びNMP(三菱化学社製)41.1重量%を混合後、窒素封入して撹拌、再度窒素パージして撹拌を三回繰り返した後80℃に昇温して均一に溶解し、製膜溶液を焼結フィルターにより異物を除去し、芯液として流動パラフィンを用いチューブインオリフィスノズルより吐出し、紡糸管により外気と遮断された、30mmの空中走行部を通過した後、5℃の30重量%NMP/TEG(6/4)水溶液中で凝固させ、次いで同じく5℃の30重量%NMP/TEG(6/4)水溶液の第二凝固に導き5%の延伸しか付与せず、水洗浴間も延伸比0.1%と延伸を付与しないで15段、65℃の温水中を経た後、87℃、65重量%のグリセリン浴を通過させ、次いでドライヤーで乾燥させるに際して延伸を付与することなく乾燥時引っ張らない緩和型方式で60℃の温風乾燥を実施し、紡糸速度60m/minで巻き上げ、内径199μm、膜厚15μmの中空糸膜を得た。
【0109】
得られた中空糸膜チーズを70℃の乾燥機中で20時間、安定化処理を施した後、定法によってモジュール化を実施、膜面積1.5m2の血液浄化モジュールを得た。その評価結果を表2、3に示す。
【0110】
透水性62mL/(m2・hr・mmHg)と高透水性の割には、β2ミクログロブリンのクリアランスは15mL/minと機能分類の定めるII型とはいえ振るわず、0.1MPaの外圧で潰れが発生するなど耐圧も不良な上、逆ろ過が発生するなど目的とする安全で高性能な有用な中空糸膜および血液浄化モジュールは得られなかった。
【0111】
【表2】
【0112】
【表3】
【0113】
本発明3について具体例を挙げて、以下に説明する。
【0114】
(実施例9)
PES(住化ケムテックス社製、スミカエクセル4800P)42.5重量%、PVP(BASF社製コリドンK-90)4.5重量%、TEG(三井化学社製)21.2重量%、及びNMP(三菱化学社製)31.8重量%を混合した後、窒素封入して撹拌、再度窒素パージして撹拌を三回繰り返し、125℃に昇温して均一に溶解した。製膜溶液を焼結フィルターにより異物を除去し、芯液として流動パラフィンを用い、チューブインオリフィスノズルより吐出し、紡糸管により外気と遮断した、30mmの空中走行部を通過した後、5℃の65重量%NMP/TEG(6/4)水溶液の第一凝固浴で凝固させ、次いで同じく5℃の65重量%NMP/TEG(6/4)水溶液の第二凝固浴に導き、そこで35%の延伸をかけた。その後、水洗浴間を延伸比0.3%で15段(延伸の合計4.5%)、65℃の温水中を経た後、87℃、60重量%のグリセリン浴に通過させ、次いでドライヤーで乾燥させるに際して延伸を付与することなく乾燥時引っ張らない緩和型方式で40℃の温風乾燥を実施し、紡糸速度60m/minで巻き上げ、内径200μm、膜厚17μmの中空糸膜を得た。
【0115】
得られた中空糸膜チーズを70℃の乾燥機中で20時間、安定化処理を施した後、常法によってモジュール化を実施し、中空糸膜内径基準で膜面積1.5m2の血液浄化モジュールを得た。その評価結果を表4に示す。
【0116】
(実施例10)
紡糸速度を90m/minとして芯液とポリマー溶液の吐出量を1.5倍にした以外は、実施例9と同じ方法で中空糸膜を作製し、同じく中空糸膜チーズを70℃の乾燥機中で20時間、安定化処理を施した後、常法によってモジュール化を実施し、膜面積1.5m2の血液浄化モジュールを得た。その評価結果を表4に示す。
【0117】
(実施例11)
製膜溶液の成分をPES(住化ケムテックス社製、スミカエクセル4800P)44.5重量%、PVP(BASF社製コリドンK-90)5.5重量%、TEG(三井化学社製)20重量%、及びNMP(三菱化学社製)30重量%とし、溶解温度を130℃とし、第二凝固浴での延伸を55%とし、水洗浴での延伸を各浴0.35%とし、15段で合計5.25%とした以外は、実施例9と同じ方法で中空糸膜を作製し、同じく中空糸膜チーズを70℃の乾燥機中で20時間、安定化処理を施した後、常法によってモジュール化を実施、膜面積1.5m2の血液浄化モジュールを得た。その評価結果を表4に示す。
【0118】
(実施例12)
製膜溶液の成分をPVP(BASF社製コリドンK-90)4.7重量%とし、87℃、56重量%のグリセリン浴に通過させた以外は、実施例9と同じ方法で中空糸膜を作製し、同じく中空糸膜チーズを70℃の乾燥機中で20時間、安定化処理を施した後、常法によってモジュール化を実施、膜面積1.5m2の血液浄化モジュールを得た。その評価結果を表4に示す。
【0119】
(実施例13)
第二凝固浴での延伸を15%にした以外は、実施例9と同じ方法で中空糸膜を作製し、同じく中空糸膜チーズを70℃の乾燥機中で20時間、安定化処理を施した後、常法によってモジュール化を実施、膜面積1.5m2の血液浄化モジュールを得た。その評価結果を表4に示す。
【0120】
(実施例14)
水洗浴での延伸を各浴0.17%、15段で合計2.55%とした以外は、実施例9と同じ方法で中空糸膜を作製し、同じく中空糸膜チーズを70℃の乾燥機中で20時間、安定化処理を施した後、常法によってモジュール化を実施、膜面積1.5m2の血液浄化モジュールを得た。その評価結果を表4に示す。
【0121】
(実施例15)
ドライヤーで乾燥させるに際して、引っ張らない緩和型方式で30℃の温風乾燥を実施した以外は、実施例9と同じ方法で中空糸膜を作製し、同じく中空糸膜チーズを70℃の乾燥機中で20時間、安定化処理を施した後、常法によってモジュール化を実施、膜面積1.5m2の血液浄化モジュールを得た。その評価結果を表4に示す。
【0122】
(比較例9)
第二凝固浴での延伸を5%とした以外は、実施例9と同じ方法で中空糸膜を作製し、同じく中空糸膜チーズを70℃の乾燥機中で20時間、安定化処理を施した後、常法によってモジュール化を実施、膜面積1.5m2の血液浄化モジュールを得た。その評価結果を表5に示す。
【0123】
(比較例10)
第二凝固浴での延伸を5%とし、水洗浴での延伸を各浴0.1%、15段で合計1.5%とした以外は、実施例9と同じ方法で中空糸膜を作製し、同じく中空糸膜チーズを70℃の乾燥機中で20時間、安定化処理を施した後、常法によってモジュール化を実施、膜面積1.5m2の血液浄化モジュールを得た。その評価結果を表5に示す。
【0124】
(比較例11)
ドライヤーで乾燥させるに際して、走行安定化のために各段0.1%、15段で延伸を合計1.5%付与した以外は、実施例9と同じ方法で中空糸膜を作製し、同じく中空糸膜チーズを70℃の乾燥機中で20時間、安定化処理を施した後、常法によってモジュール化を実施、膜面積1.5m2の血液浄化モジュールを得た。その評価結果を表5に示す。
【0125】
(比較例4)
ドライヤーで乾燥させるに際して、60℃の温風で乾燥した以外は、実施例9と同じ方法で中空糸膜を作製し、同じく中空糸膜チーズを70℃の乾燥機中で20時間、安定化処理を施した後、常法によってモジュール化を実施、膜面積1.5m2の血液浄化モジュールを得た。その評価結果を表5に示す。
【0126】
【表4】
【0127】
【表5】
【0128】
表4及び5から明らかなように、実施例9〜15の中空糸膜は、高い透水性保持率を有しながら、耐外圧性が良好で、かつ接着部リークが見られず、安全で生産性の高いものである。これに対して、比較例9〜12の中空糸膜は、透水性保持率、耐外圧性、接着部リークのいずれかにおいて問題があった。
【産業上の利用可能性】
【0129】
本発明の中空糸膜、血液浄化モジュールは、37℃での水の透水性が1〜20mL/(m2・hr・mmHg)と低透水性でありながら、膜面積1.5m2血液浄化モジュールにおけるβ2ミクログロブリンのクリアランスが10mL/min以上の高透析性(日本透析医学会の定める機能区分、II型以上の高性能)であることが示された。また低透水性で高強度のため透析液側から0.1MPaの圧力をかけても耐圧性を有し、0.2MPaの圧力を4時間かけても中空糸膜の剥離やリークが発生しないことが示された。そのため、透析治療中に患者に透析液が侵入するリスク、いわゆる逆濾過のリスクが実質的に無いことが示された。本発明の中空糸膜は、親水性高分子が溶出しにくく、かつ、血液と接触して使用した際の性能保持性に優れており、かつモジュール組立性に優れ、長期保存にも適した中空糸膜であり、すなわち血液適合性、安全性、性能保持性、経済性、長期保存性を同時に満足した中空糸膜を提供することを可能とした。そのため、臨床現場での取り扱いにおいて、血液リークのリスクが少なく、かつ衝撃を受けても安定した性能であることが期待できるという利点がある。したがって、産業界に寄与することが大である。
図1