特許第5720267号(P5720267)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 株式会社IHIの特許一覧

<>
  • 特許5720267-遠心圧縮機 図000002
  • 特許5720267-遠心圧縮機 図000003
  • 特許5720267-遠心圧縮機 図000004
  • 特許5720267-遠心圧縮機 図000005
  • 特許5720267-遠心圧縮機 図000006
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5720267
(24)【登録日】2015年4月3日
(45)【発行日】2015年5月20日
(54)【発明の名称】遠心圧縮機
(51)【国際特許分類】
   F04D 17/10 20060101AFI20150430BHJP
   F04D 29/44 20060101ALI20150430BHJP
【FI】
   F04D17/10
   F04D29/44 P
   F04D29/44 V
【請求項の数】3
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2011-10500(P2011-10500)
(22)【出願日】2011年1月21日
(65)【公開番号】特開2012-149619(P2012-149619A)
(43)【公開日】2012年8月9日
【審査請求日】2013年11月26日
(73)【特許権者】
【識別番号】000000099
【氏名又は名称】株式会社IHI
(74)【代理人】
【識別番号】100083563
【弁理士】
【氏名又は名称】三好 祥二
(72)【発明者】
【氏名】玉木 秀明
【審査官】 佐藤 秀之
(56)【参考文献】
【文献】 特開2010−270641(JP,A)
【文献】 特開平11−257292(JP,A)
【文献】 特開2010−025041(JP,A)
【文献】 特開平06−033898(JP,A)
【文献】 特開平08−093691(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F04D 17/10
F04D 29/44
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
インペラと、該インペラを回転自在に収納するケーシングとを有し、該ケーシングにはインペラ周囲に環洞流路が形成されると共に該環洞流路に連通する流体吐出口が形成され、又前記インペラを収納する収納部に連通する吸入口が形成され、該吸入口の下流端部の内壁面に該内壁面の母線に対して傾斜する入口ガイドベーンを所定範囲に設け、該入口ガイドベーンの傾斜方向により前記インペラの出口圧力比を増減させ、該インペラの出口圧力比分布を均一化したことを特徴とする遠心圧縮機。
【請求項2】
前記出口圧力比分布が前記入口ガイドベーンが無い状態での前記出口圧力比分布の平均値より高い範囲に対応する範囲、又は前記平均値より低い範囲に対応する範囲の少なくとも一方に前記入口ガイドベーンが設けられ、前記高い範囲に対応する範囲に設けられる入口ガイドベーンは順方向傾斜であり、前記低い範囲に対応する範囲に設けられる入口ガイドベーンは逆方向傾斜である請求項1の遠心圧縮機。
【請求項3】
前記流体吐出口と前記環洞流路との境界部に舌部が形成され、前記逆方向傾斜の入口ガイドベーンが設けられる範囲は、前記インペラの回転中心と前記舌部を結ぶ線に対して±75゜の範囲であり、前記順方向傾斜の入口ガイドベーンが設けられる範囲は前記舌部と対向する部分150゜である請求項2の遠心圧縮機。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、圧縮性流体を昇圧する遠心圧縮機に関するものである。
【背景技術】
【0002】
圧縮性流体を昇圧する遠心圧縮機の作動域を制限するものとして、低流量時に於ける流体の逆流によるサージングの発生がある。サージングが発生すると遠心圧縮機の運転が不能になるので、サージングの発生を抑制することが遠心圧縮機の作動域拡大につながる。
【0003】
遠心圧縮機は、高速で回転するインペラと、インペラを収納し、インペラの周囲にスクロール流路を形成するケーシングを有しており、該ケーシングは非軸対称の形状を有している。この非軸対称性の影響により、流体がインペラより流出するインペラの出口圧力は均一ではなく、インペラの周縁の周方向で圧力分布が生じる。
【0004】
このインペラ出口の圧力分布は、インペラの入口迄伝播し、インペラの入口も周方向に圧力分布を有する。又、サージングの発生限界値が決定される要因の1つにインペラの出口の圧力があり、インペラの出口の圧力が所定値を超えるとサージングが発生する。従って、現状では、遠心圧縮機の流量を減少させた場合、インペラの出口の圧力が高い部分で最初にサージングが発生すると考えられる。
【0005】
尚、サージングの発生を抑制する手段の1つとしてケーシングトリートメントがあり、特許文献1に示される遠心圧縮機はケーシングトリートメントにより、サージング抑制による遠心圧縮機の作動域拡大を図っている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2004−332734号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は斯かる実情に鑑み、インペラ出口での圧力分布を小さくし、局部的にサージングが発生することを抑止することで、遠心圧縮機としてのサージングの発生を抑制し、遠心圧縮機の作動域拡大を図るものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、インペラと、該インペラを回転自在に収納するケーシングとを有し、該ケーシングにはインペラ周囲に環洞流路が形成されると共に該環洞流路に連通する流体吐出口が形成され、又前記インペラを収納する収納部に連通する吸入口が形成され、該吸入口の下流端部の内壁面に該内壁面の母線に対して傾斜する入口ガイドベーンを所定範囲に設け、前記インペラの出口圧力比分布を均一化した遠心圧縮機に係るものである。
【0009】
又本発明は、前記出口圧力比分布が前記入口ガイドベーンが無い状態での前記出口圧力比分布の平均値より高い範囲に対応する範囲、又は前記平均値より低い範囲に対応する範囲の少なくとも一方に前記入口ガイドベーンが設けられ、前記高い範囲に対応する範囲に設けられる入口ガイドベーンは順方向傾斜であり、前記低い範囲に対応する範囲に設けられる入口ガイドベーンは逆方向傾斜である遠心圧縮機に係るものである。
【0010】
又本発明は、前記流体吐出口と前記環洞流路との境界部に舌部が形成され、前記逆方向傾斜の入口ガイドベーンが設けられる範囲は、前記インペラの回転中心と前記舌部を結ぶ線に対して±75゜の範囲であり、前記順方向傾斜の入口ガイドベーンが設けられる範囲は前記舌部と対向する部分150゜である遠心圧縮機に係るものである。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、インペラと、該インペラを回転自在に収納するケーシングとを有し、該ケーシングにはインペラ周囲に環洞流路が形成されると共に該環洞流路に連通する流体吐出口が形成され、又前記インペラを収納する収納部に連通する吸入口が形成され、該吸入口の下流端部の内壁面に該内壁面の母線に対して傾斜する入口ガイドベーンを所定範囲に設け、前記インペラの出口圧力比分布を均一化したので、局部的にサージングが発生することが抑止され、遠心圧縮機としてのサージングの発生を抑制し、遠心圧縮機の作動域拡大が図れるという優れた効果を発揮する。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】本発明が実施される遠心圧縮機の半断面図である。
図2】遠心圧縮機のインペラの出口圧力比の分布を示し、(A)はケーシングとインペラとの関係を示す説明図、(B)はインペラの出口周方向の圧力分布を示す曲線、(C)は圧力分布で平均値より低くなる部分、高くなる部分を示す説明図である。
図3】(A)(B)(C)は、インペラの出口圧力分布とサージ点との関係を示す説明図である。
図4】入口ガイドベーンの傾斜と流体の流れ、インペラの回転方向の関係を示す説明図である。
図5】(A)は入口ガイドベーンが設けられる第1の態様を示す説明図、(B)は入口ガイドベーンが設けられる第2の態様を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、図面を参照しつつ本発明の実施例を説明する。
【0014】
先ず、図1に於いて、本発明が実施される遠心圧縮機1について説明する。
【0015】
図1中、2はケーシング、3は該ケーシング2の中心線を示している。前記ケーシング2はインペラ収納室4と前記中心線3と同心上に設けられた吸入口5とを有し、前記インペラ収納室4にはインペラ6が収納され、該インペラ6は回転軸7を介して回転自在に支持されている。又、前記インペラ6の周囲には環洞流路8が形成され、該環洞流路8と前記インペラ収納室4とはディフューザ流路9によって連通されている。該ディフューザ流路9は断面積が下流側に向って漸次増大し、円周方向で断面積が異なる環洞流路8と接続されており、前記ケーシング2は非軸対称の形状となっている。
【0016】
前記吸入口5の下流端部の内壁11、即ち前記インペラ6より上流側(図1中左側)に、入口ガイドベーン12が周方向に所定ピッチで、所要の範囲で設けられている。又、該入口ガイドベーン12は、前記内壁11を形成する円筒面の母線に対して傾斜しており、後述する様に、設けられる部位によって傾斜方向が異なっている。尚、前記吸入口5は軸心方向に断面が変化するテーパ状となっている場合もあるが、ここでは、テーパ形状等も含め内壁面を円筒面と総称する。
【0017】
又、前記入口ガイドベーン12を設ける方法としては、前記内壁11と同じ曲率を有するリング、或はリングを分割したリング片13に前記入口ガイドベーン12を植設し、前記リング片13を前記内壁11に取付ける等がある。
【0018】
上記した様に、前記ケーシング2は非軸対称であり、非軸対称に起因してインペラ出口で圧力分布を生じる。
【0019】
図2(A)(B)は、ケーシング2のインペラ出口の位置と、インペラ出口の周方向の圧力分布を示している。
【0020】
尚、図2(A)に於いて、前記インペラ6の回転中心を通り、流体吐出口14の中心線と平行で前記流体吐出口14側の半径を基準半径とし、該基準半径の角度を0゜としている。更に、該基準半径に対して時計方向(下流方向)を−、反時計方向(上流方向)を+としている。又、前記ケーシング2の流体吐出口14と前記環洞流路8との境界部に舌部15が形成され、図2(A)に示すケーシング2では、舌部15の位置は60゜となっている。
【0021】
次に、図2(B)は、インペラ6出口の圧力分布を示しており、この圧力分布では、30゜の位置で圧力比(インペラ6の出口圧力/入口圧力)が最小となっている。通常では、舌部15の位置が圧力比最小となるが、ケーシングの形状等によって圧力伝播の経路が異なるので、舌部15の位置が必ずしも圧力比最小の位置と一致しない。但し、舌部15の位置と圧力比最小とは関連性があるので、舌部15の位置に対して圧力比最小の位置は±30°範囲に存在する。
【0022】
図3(A)(B)(C)は、遠心圧縮機の作動特性を模式的に示すものであり、縦軸がインペラ6の出口圧力/入口圧力、横軸が流量を示している。
【0023】
例えば、図3(A)に示される曲線で、Hp点は出口圧力/入口圧力の最も大きい値、Lp点は出口圧力/入口圧力の最も小さい値であり、Ap点は出口圧力/入口圧力の平均値である。図3(A)の特性曲線と、図2(B)の圧力分布曲線を対比させると、図3(A)のLp点の位置は、図2(B)の30゜の位置(圧力比極小値)となる。
【0024】
次に、図3(B)は、出口流量が少なくなり、出口圧力が高くなって特性曲線のHp点がサージ点に到達した状態を示し、同時に遠心圧縮機がサージングを起す限界値である。更に、出口圧力が高くなると、図3(C)の状態となり、インペラ6が失速し、遠心圧縮機が運転不能となる。
【0025】
図3(B)状態、或はインペラ6が失速し、遠心圧縮機が運転不能となる図3(C)の状態でも、Ap点、Lp点はサージ点に到達していない。従って、圧力比の最も高いHp点を例えばAp点迄下げる様、平均化すれば、Ap点がサージ点に到達する迄作動範囲が拡大する。
【0026】
本発明者は斯かる現象に着目し、本発明をなしたものである。
【0027】
本実施例に係る遠心圧縮機では、上記した様に、前記インペラ6より上流側(図1中左側)に、入口ガイドベーン12が周方向に所定ピッチで、所要の範囲で設けられている。又、該入口ガイドベーン12の傾斜方向で、前記圧力比が高くなり、或は低くなることも分っている。而して、前記入口ガイドベーン12を局部的に設けることで、前記圧力比の分布を平均化することが可能である。
【0028】
図4は、前記入口ガイドベーン12を展開して示したものであり、該入口ガイドベーン12の傾斜方向とインペラ6の回転方向との関係を示しており、図4中、白抜き矢印は流体の流れ、黒矢印はインペラの回転方向を示している。
【0029】
図4は、入口ガイドベーン12が順方向に傾斜(順方向傾斜)している場合を示している。即ち、入口ガイドベーン12の下流端がインペラ6の回転方向に変位する様に傾斜しており、この場合、流体が前記入口ガイドベーン12を経てインペラ6に流入し、圧縮されると前記入口ガイドベーン12がない場合に比べて圧縮圧が減少する。逆に、図示していないが前記入口ガイドベーン12を前記インペラ6の回転方向に対して逆方向に傾斜(逆方向傾斜)させると圧縮流体の圧力は、前記入口ガイドベーン12がない場合に比べて増大する。
【0030】
従って、図2の圧力分布に於いて、圧力が高い範囲で前記入口ガイドベーン12を順方向傾斜させて設け、圧力が低い範囲で前記入口ガイドベーン12を逆方向に傾斜させて設けることで、インペラ6の出口の圧力分布を平均化できる。更に、平均化することで、図3に示す特性曲線に於いて、Hp点、Lp点がAp点に接近し、Hp点が局部的にサージングを起すことが抑止され、結果的に遠心圧縮機のサージングの発生が抑制され、遠心圧縮機の作動域が拡大する。尚、圧力が高い範囲のみ、或は圧力が低い範囲のみにそれぞれ対応する入口ガイドベーン12を設けてもよい。
【0031】
図5(A)、図5(B)は、前記入口ガイドベーン12が前記ケーシング2に設けられる態様を示している。尚、前記入口ガイドベーン12は、前記内壁11に軸心方向に沿って設けられるものであるが、図5(A)、図5(B)に於いては、前記入口ガイドベーン12の設けられる範囲、設けられる姿勢の理解を容易にする為、前記入口ガイドベーン12を前記インペラ6の周囲に、又半径方向に(放射状に)設けた状態で示している。
【0032】
先ず、図2(C)、図5(A)に於いて、入口ガイドベーン12の第1の態様について説明する。
【0033】
図2(C)及び図5(A)はインペラ6の出口圧力比が平均圧力比より低くなる範囲Lと高くなる範囲Hを示している。
【0034】
一般的には前記舌部15の圧力比が最小となり、インペラ6の出口圧力分布で平均圧力比より小さくなる範囲は、前記舌部15(図示では60゜)を中心として±90゜であり、一方インペラ6の出口圧力分布で平均圧力比より大きくなる範囲は、前記舌部15の真反対(図示では−120゜)を中心として±90゜である。
【0035】
前記第1の態様では、出口圧力比が平均圧力比より小さくなる範囲Lの内、特に小さい範囲、前記舌部15(図示では60゜を中心として±75°)に限定して逆傾斜した入口ガイドベーン12aを設けて圧力比を増大させ、更に出口圧力比が平均圧力比より大きくなる範囲Hの内、特に大きい範囲、前記舌部15と対向する部分150°の範囲(図示では−120°を中心として±75゜)に限定して順傾斜した入口ガイドベーン12bを設けて圧力比を減少させたものである。
【0036】
前記逆傾斜入口ガイドベーン12a、前記順傾斜入口ガイドベーン12bを設けることで、インペラ6出口圧力比が平均化され、図3(A)に見られるHp点をAp点に近づけ、Lp点をAp点に近づけることができ、結果的に遠心圧縮機の作動領域を拡大させることができる。
【0037】
図5(B)は、前記入口ガイドベーン12が前記ケーシング2に設けられる第2の態様を示している。
【0038】
第2の態様では、インペラ6の出口圧力比が平均圧力比より低くなる範囲L全域(図示では180゜)に逆傾斜入口ガイドベーン12aを設け、高くなる範囲H全域に順傾斜入口ガイドベーン12bを設けた場合を示している。第2の態様でも、範囲Lで出口圧力比が大きくなり、範囲Hで出口圧力比が小さくなり、出口圧力分布が平均化され、やはり遠心圧縮機の作動領域を拡大させることができる。
【0039】
尚、前記入口ガイドベーン12は、範囲L、範囲Hのいずれか一方に設けてもよく、いずれか一方に設ける場合は、範囲Hに順傾斜入口ガイドベーン12bが設けられることが好ましい。
【符号の説明】
【0040】
1 遠心圧縮機
2 ケーシング
3 中心線
4 インペラ収納室
5 吸入口
6 インペラ
7 回転軸
8 環洞流路
9 ディフューザ流路
11 内壁
12 入口ガイドベーン
13 リング片
14 流体吐出口
15 舌部
図1
図2
図3
図4
図5