(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
本出願人による先行技術文献として、例えば、特許文献1(WO2009/157197)には、溶融状態の熱可塑性樹脂シートを用いて樹脂成形品を成形する成形装置について開示されている。
【0003】
上記特許文献1の成形装置100は、
図12に示すように、分割金型32の外周部に型枠33を摺動可能に設け、その型枠33を分割金型32に対して相対的に移動し、
図13に示すように、熱可塑性樹脂シートPの側面に型枠33を当接し、熱可塑性樹脂シートP、型枠33、キャビティ116により、密閉空間を形成する。次に、
図14に示すように、密閉空間内の空気を真空吸引室120から吸引穴122を介して吸引し、熱可塑性樹脂シートPをキャビティ116に吸着させ、熱可塑性樹脂シートPをキャビティ116の表面に沿った形状に賦形する。その後は、型枠33と分割金型32とを一体で移動し、分割金型32の型締めを行い、分割金型32のピンチオフ部118により熱可塑性樹脂シートPの周縁部同士を溶着し、2枚の熱可塑性樹脂シートPの接合面にパーティングラインを形成すると共に、2枚の熱可塑性樹脂シートPの内部に密閉中空部を形成する。次に、型枠33と分割金型32とを一体で移動し、分割金型32の型開きを行い、樹脂成形品を取り出し、外周部のバリを除去し、樹脂成形品を成形している。
【0004】
なお、上記特許文献1の成形装置100は、Tダイ28に設けられた所定間隔の押出スリットから、熱可塑性樹脂を単位時間当たり所定の押出量で間欠的に押し出し、溶融状態の熱可塑性樹脂シートPが下方に垂下するように所定の押出速度で熱可塑性樹脂シートPを押し出すようにしている。そして、下方に押し出された熱可塑性樹脂シートPが一対のローラ30の間を通過するようにし、また、一対のローラ30同士の間隔を狭めて熱可塑性樹脂シートPを挟み込み、一対のローラ30の回転により熱可塑性樹脂シートPを下方に送り出すようにしている。この時、熱可塑性樹脂シートPが一対のローラ30に送られている間、一対のローラ30による熱可塑性樹脂シートPの送出速度が、押出スリットから押し出される熱可塑性樹脂シートPの押出速度以上となるように一対のローラ30の回転速度を調整することにしている。これにより、熱可塑性樹脂シートPのドローダウンあるいはネックインを有効に防止し、押出方向に一様な厚みの熱可塑性樹脂シートPを形成することにしている。なお、ドローダウンとは、時間経過と共にシートの自重により溶融状態のシートが引き延ばされてシートの上方ほど薄肉となる現象をいう。また、ネックインとは、ドローダウンに起因してシートの幅方向に収縮してシート幅が小さくなる現象をいう。
【0005】
しかし、上記特許文献1の成形装置100は、Tダイ28から押し出された熱可塑性樹脂シートPを用いて樹脂成形品を形成するため、Tダイ28から押し出された熱可塑性樹脂シートPが波打つ現象(カーテン現象)が発生してしまう場合がある。
【0006】
熱可塑性樹脂シートPにカーテン現象が発生してしまうと、熱可塑性樹脂シートPの側面に型枠33を当接しても、熱可塑性樹脂シートPと型枠33との間に隙間が発生し、熱可塑性樹脂シートP、型枠33、キャビティ116により、密閉空間を形成することができない状況が発生してしまう。その結果、真空吸引室120から吸引穴122を介して空気を吸引しても、熱可塑性樹脂シートPをキャビティ116に吸着させることができず、熱可塑性樹脂シートPをキャビティ116の表面に沿った形状に賦形することができなくなる。なお、熱可塑性樹脂シートPが発泡樹脂シートの場合は、カーテン現象が顕著に発生するため、上述した問題が更に重要視されることになる。
【0007】
このため、熱可塑性樹脂シートPを型枠33に密着させ、熱可塑性樹脂シートP、型枠33、キャビティ116により、密閉空間を形成し、真空吸引を安定して行うことが可能な仕組みの開発が必要視されている。
【0008】
なお、特許文献2(特開平6-99474号公報)には、型半体10,20に枠体30,40を設け、型開きした型半体10,20の間に複数のシートパリソン1,2を導入し、その後、枠体30,40を型押圧方向に躍動させ、枠体30,40に包囲された領域のシートパリソン1,2を型半体10,20の型キャビティ13,23に向かって膨張させ、型半体10,20を型閉し、シートパリソン1,2を圧着すると共に、シートパリソン1,2間に気体を吹き込んでブロー成形する技術について開示されている。
【0009】
また、特許文献3(特開昭54-112965号公報)には、二枚のシート状熱可塑性材料7a,7bを溶融軟化状態で垂下し、両金型1a,1bの外周で互いに対向して進退し得る型枠4a,4bによって二枚のシート状熱可塑性材料7a,7bから袋状体を形成し、その二枚のシート状熱可塑性材料7a,7b間で進退自在に配したブロー管13,14及び両金型1a,1b面に配した圧力制御手段によってシート状熱可塑性材料7a,7bの内外面の圧力を制御しつつ両面の厚さが異なる二重壁構造品を成型する技術について開示されている。
【発明を実施するための形態】
【0019】
<本実施形態の成形装置1の概要>
まず、
図1、
図2を参照しながら、本実施形態の成形装置1の概要について説明する。
【0020】
本実施形態の成形装置1は、溶融混練した熱可塑性樹脂Pをシート状に押し出す押出装置12と、押出装置12からシート状に押し出した熱可塑性樹脂Pと、金型32の周囲に位置して当該金型32に対して移動可能な型枠33と、を当接した後に、金型32のキャビティ116に対向する熱可塑性樹脂Pをキャビティ116に真空吸引し、熱可塑性樹脂Pをキャビティ116に沿った形状に賦形し、金型32を型締めし、樹脂成形品を成形する型締装置10と、を有する成形装置1である。
【0021】
本実施形態の成形装置1の型枠33は、
図2(a)に示すように、熱可塑性樹脂Pと当接する当接面100に、熱可塑性樹脂Pを吸引するための吸引部34が設けられている。
【0022】
本実施形態の成形装置1は、上記構成を有することで、型枠33に設けられた吸引部34から空気を吸引し、押出装置12からシート状に押し出した熱可塑性樹脂Pを型枠33に吸引し、熱可塑性樹脂Pを型枠33に密着させることができる。その結果、型枠33と熱可塑性樹脂Pとの間に隙間が発生することがないため、熱可塑性樹脂Pをキャビティ116の表面に沿った形状に賦形することができる。以下、添付図面を参照しながら、本実施形態の成形装置1について詳細に説明する。
【0023】
<成形装置1の構成例>
まず、
図1を参照しながら、本実施形態の成形装置1の構成例について説明する。
【0024】
本実施形態の成形装置1は、樹脂成形品を成形するための装置であり、押出装置12と、型締装置10と、を有して構成し、押出装置12から溶融状態の熱可塑性樹脂シートPを型締装置10に押し出し、型締装置10で熱可塑性樹脂シートPを型締めし、樹脂成形品を成形する。
【0025】
押出装置12は、ホッパ16が付設されたシリンダ18と、シリンダ18内に設けられたスクリュ(図示せず)と、スクリュに連結された油圧モータ20と、シリンダ18と連通したアキュムレータ22と、アキュムレータ22と連通したプランジャ24と、Tダイ28と、を有して構成する。
【0026】
本実施形態の押出装置12は、ホッパ16から投入された樹脂ペレットが、シリンダ18内で油圧モータ20によるスクリュの回転により溶融、混練され、溶融状態の樹脂(溶融樹脂)を形成する。次に、溶融樹脂がアキュムレータ22に移送されて一定量貯留され、プランジャ24の駆動により、Tダイ28に向けて溶融樹脂を送り、Tダイ28の押出スリット(図示せず)から連続的なシート状の熱可塑性樹脂シートPを押し出す。Tダイ28の押出スリットから押し出された熱可塑性樹脂シートPは分割金型32の間に垂下される。これにより、熱可塑性樹脂シートPが鉛直方向(押出方向)に一様な厚みを有する状態で、分割金型32の間に配置されることになる。
【0027】
押出装置12の押出能力は、成形する樹脂成形品の大きさ、熱可塑性樹脂シートPのドローダウンあるいはネックイン発生防止の観点から適宜選択する。具体的には、実用的な観点から、間欠押出における1ショットの押出量は、好ましくは1〜10kgであり、押出スリットからの熱可塑性樹脂シートPの押出速度は、数百kg/時以上、より好ましくは、700kg/時以上である。また、熱可塑性樹脂シートPのドローダウンあるいはネックイン発生防止の観点から、熱可塑性樹脂シートPの押出は、なるべく短いことが好ましく、樹脂の種類、MFR値、MT値に依存するが、一般的に、押出は、40秒以内、より好ましくは10〜20秒以内に完了するのが好ましい。
【0028】
このため、熱可塑性樹脂の押出スリットからの単位面積(1cm
2)、単位時間(h)当たりの押出量は、50kg/h cm
2以上、より好ましくは、150kg/h cm
2以上である。例えば、スリット間隔が0.5mm、スリットの幅方向の長さが1000mmのTダイ28の押出スリットから、密度0.9g/cm
3の熱可塑性樹脂を用いて、厚さ1.0mm、幅1000mm、押出方向の長さが2000mmの熱可塑性樹脂シートPを15秒間で押し出す場合は、1.8kgの熱可塑性樹脂を1ショット15秒間で押し出したことになり、押出速度は432kg/時であり、単位面積当りの押出速度は約86kg/h cm
2と算出することができる。
【0029】
なお、Tダイ28に設けられる押出スリットは、鉛直下向きに配置され、押出スリットから押し出された熱可塑性樹脂シートPは、そのまま押出スリットから垂下する形態で、鉛直下向きに送られるようになっている。押出スリットは、スリット間隔を可変にすることで、熱可塑性樹脂シートPの厚みを変更することができる。
【0030】
但し、Tダイ28から押し出された熱可塑性樹脂シートPは、分割金型32間に垂下された状態で、つまり、型締めされる時点において押出し方向の厚みが均一となるように調整することが好ましい。この場合、スリット間隔を押出し開始から徐々に広げ、押出し終了時に最大となるように変動させることもできる。これにより、Tダイ28から押し出される熱可塑性樹脂シートPの厚みは、押出し開始から徐々に厚くなるが、溶融状態で押し出された熱可塑性樹脂シートPは、自重により引き伸ばされてシートの下方から上方へ徐々に薄くなるため、スリット間隔を広げて厚く押し出した分とドローダウン現象により引き伸ばされて薄くなった分とが相殺されて、シート上方から下方にわたって均一な厚みに調整することができる。
【0031】
本実施形態の型締装置10は、分割金型32と、分割金型32を熱可塑性樹脂シートPの供給方向に対して略直交する方向に開位置と閉位置との間で移動させる金型駆動装置(図示せず)と、を有して構成する。
【0032】
分割金型32は、キャビティ116を対向させた状態で配置され、それぞれのキャビティ116が略鉛直方向を向くように配置される。キャビティ116の表面には、溶融状態の熱可塑性樹脂シートPに基づいて成形される樹脂成形品の外形、および表面形状に応じて凹凸部が設けられている。また、分割金型32のキャビティ116の周りには、
図2(a)に示すように、ピンチオフ部118が形成されている。
図2(a)〜(d)は、一方の分割金型32A及び型枠33Aの構成例を示している。なお、他方の分割金型32B及び型枠33Bの構成例もほぼ同様に構成する。
【0033】
ピンチオフ部118は、キャビティ116の周りに環状に形成されており、対向する分割金型32に向かって突出している。これにより、分割金型32を型締めした際に、それぞれのピンチオフ部118の先端部が当接し、樹脂成形品の周縁にパーティングラインPLを形成することができる。
【0034】
また、分割金型32の外周部には、型枠33を有し、型枠駆動装置(図示せず)により型枠33を分割金型32に対して相対的に移動可能にしている。より詳細には、一方の型枠33Aは、分割金型32Bに向かって突出しており、分割金型32間に配置された熱可塑性樹脂シートPに当接可能にしており、また、他方の型枠33Bは、分割金型32Aに向かって突出しており、分割金型32間に配置された熱可塑性樹脂シートPに当接可能にしている。なお、分割金型32と型枠33との間の距離は、型枠33の移動に支障が発生しない程度の距離とし、なるべく隙間がないようにすることが好ましい。分割金型32と型枠33との間の距離は、1mm未満が好ましく、0.5mm未満が更に好ましい。
【0035】
本実施形態の型枠33は、
図2(a)〜(d)に示すように、型枠33Aの下側を構成する枠下部33A-2の中央部33A-2''が型枠33Aから分離しており、
図2(b)〜(d)に示すように、枠下部33A-2の中央部33A-2''のみを型枠33Aから独立して移動できるようにしている。
【0036】
このため、本実施形態の型枠33は、
図2(a)〜(d)に示すように、枠下部33A-2の中央部33A-2''の型枠33Aで構成する第1の型枠201Aと、第1の型枠201A以外の部分の型枠33Aで構成する第2の型枠200Aと、を各々独立して移動させるように、第1の型枠201Aを移動させる第1の型枠駆動装置(図示せず)と、第2の型枠200Aを移動させる第2の型枠駆動装置(図示せず)と、を有して構成する。型枠駆動装置の駆動は、油圧式で行うことが好ましい。油圧式で行うことで、各々の型枠200A,201Aの移動をコントロールし易くすることができる。なお、各々の型枠駆動装置は、各々の型枠200A,201Aを構成する中央部分に配置することが好ましい。各々の型枠200A,201Aを構成する中央部分は、熱膨張の影響を受けにくいため、その熱膨張の影響を受けにくい中央部分に型枠駆動装置を配置することで、各々の型枠200A,201Aが熱膨張しても各々の型枠200A,201Aを安定して移動させることができる。
【0037】
なお、本実施形態の型枠33は、
図2(b)〜(d)に示すように、分割金型32Aを四角形で囲むように設けられており、第1の型枠201Aは、四角形の下辺を構成し、また、第2の型枠200は、四角形の上辺及び左右辺を一体で構成しており、第1の型枠201Aと、第2の型枠200Aと、を分離して移動させることができるため、まず、
図2(c)に示すように、第2の型枠駆動装置(図示せず)により第2型枠200Aを移動させ、第2の型枠200Aを熱可塑性樹脂シートP(図示せず)に当接させた後に、
図2(d)に示すように、第1の型枠駆動装置(図示せず)により第1の型枠201Aを移動させ、第1の型枠201Aを熱可塑性樹脂シートP(図示せず)に当接させることができる。その結果、第2の型枠200Aの左右辺に沿うように熱可塑性樹脂シートPを垂下させつつ、当該熱可塑性樹脂シートPが第1の型枠201Aに乗らないようにし、枠下部33A-2の中央部33A-2''の最上端に樹脂だまりが発生するのを防止することができる。また、コの字状部分(第2の型枠200A)に沿って熱可塑性樹脂シートPを垂下させることができるので、熱可塑性樹脂シートPが下方に垂れ下がる抵抗になりやすく、ドローダウンを抑制できる。
【0038】
例えば、型枠33Aに沿って熱可塑性樹脂シートPが垂下した場合は、熱可塑性樹脂シートPの一部の樹脂が枠下部33A-2の中央部33A-2''の最上端から型枠33Aの内部に流出し、枠下部33A-2の中央部33A-2''の最上端に樹脂だまりが発生してしまうおそれがある。このため、本実施形態の成形装置1は、
図2(c)、(d)に示すように、第2の型枠200Aのみを移動して熱可塑性樹脂シートPに当接させ、熱可塑性樹脂シートPが枠下部33A-2の位置を通過した後に、第1の型枠201Aを移動して熱可塑性樹脂シートPに当接させ、熱可塑性樹脂シートPの一部の樹脂が枠下部33A-2の中央部33A-2''の最上端から型枠33Aの内部に流出しないようにしている。これにより、第2の型枠200Aの左右辺に沿うように熱可塑性樹脂シートPを垂下させつつ、当該熱可塑性樹脂シートPが第1の型枠201Aに乗らないようにし、枠下部33A-2の中央部33A-2''の最上端に樹脂だまりが発生するのを防止することができる。また、コの字状部分(第2の型枠200A)に沿って熱可塑性樹脂シートPを垂下させることができるので、熱可塑性樹脂シートPが下方に垂れ下がる抵抗になりやすく、ドローダウンを抑制できる。
【0039】
また、型枠33Aは、
図2(a)に示すように、熱可塑性樹脂シートPと当接する当接面100に吸引部34を有して構成している。吸引部34は、空気を吸引するものであり、吸引部34の吸引により熱可塑性樹脂シートPを型枠33Aに吸引し、熱可塑性樹脂シートPを型枠33Aに密着させることにしている。なお、吸引部34は、様々な形状(例えば、円状、楕円状、多角形状など)で形成することが可能であるが、
図2(a)に示すように溝状(線状)に形成することが好ましい。例えば、吸引部34を孔状(点状)にした場合は、熱可塑性樹脂シートPを当接面100に部分的に吸着することになり、吸引部34により吸着されていない部分の熱可塑性樹脂シートPが当接面100から浮いてしまう場合がある。このため、吸引部34を溝状(線状)に形成することで、熱可塑性樹脂シートPを当接面100に溝状に吸着することができるため、吸引部34により吸着されていない部分の熱可塑性樹脂シートPを当接面100から浮き難くさせることができる。
【0040】
<吸引部34の構成例>
次に、
図3、
図4を参照しながら、吸引部34の構成例について説明する。
図3(a)は、吸引部34の上面構成例を示し、
図3(b)、(c)は、吸引部34の断面構成例を示す。
図4は、吸引部34を構成する蓋部材344の構成例を示す。
【0041】
本実施形態の吸引部34は、
図3(a)に示すように、型枠33の当接面100に設けられており、
図3(b)に示すように、当接面100から内側に窪んだ第1の凹部341と、その第1の凹部341の底面から更に内側に窪んだ第2の凹部342と、第2の凹部342の底面の一部を開口して形成した孔343と、第1の凹部341に配置された蓋部材344と、を有して構成する。
【0042】
蓋部材344は、
図4に示す形状で構成し、蓋部材344を第1の凹部341に嵌め込み、ネジなどの接合部材345により第2の凹部342の底面上に締め付けて配置される。本実施形態の蓋部材344は、
図4に示すように、孔343に対応する部分だけ内側に窪んだ凹部346を有している。
図3(b)は、凹部346が設けられた位置(A1-A2の位置)の吸引部34の断面構成例を示し、
図3(c)は、凹部346が設けられていない位置(B1-B2の位置)の吸引部34の断面構成例を示す。
図3(b)に示すように、凹部346が設けられている位置は、第1の凹部341の底面と蓋部材344との間に空間が形成される。これに対し、
図3(c)に示すように、凹部346が設けられていない位置は、第1の凹部341の底面と蓋部材344との間に空間が形成されず、第1の凹部341の底面と蓋部材344とが接している。
【0043】
本実施形態の吸引部34は、
図3(b)に示すように、第1の凹部341の側壁と、蓋部材344の側壁と、の間に溝状の隙間101(
図3(a)参照)を有しており、その隙間101と孔343とが凹部346により形成された空間で連通している。また、孔343は、減圧可能な吸引経路347に連通している。このため、吸引経路347、孔343、凹部346により形成された空間、隙間101を介して当接面100の空気を吸引し、当接面100に熱可塑性樹脂シートPを吸引することができる。
【0044】
なお、本実施形態の吸引部34は、当接面100に熱可塑性樹脂シートPを吸引した際に、隙間101に熱可塑性樹脂シートPを食い込ませるため、隙間101の幅は、0.3mm以上にすることが好ましく、0.5mm以上にすることが更に好ましい。これにより、隙間101に熱可塑性樹脂シートPを食い込ませ、当接面100に熱可塑性樹脂シートPを密着させることができる。
【0045】
また、本実施形態の吸引部34は、
図3(a)に示すように蓋部材344の両端に溝状の隙間101を有して構成した。しかし、蓋部材344の一方の端部に溝状の隙間101を有して構成することも可能である。即ち、本実施形態の吸引部34は、溝状の隙間101を複数列配置して構成したり、1列だけ配置して構成したりすることが可能である。但し、吸引部34は、溝状の隙間101を複数列配置して構成することが好ましい。これにより、熱可塑性樹脂シートPを当接面100に密着し易くすることができる。
【0046】
本実施形態の分割金型32は、金型駆動装置(図示せず)により駆動し、開位置において、分割金型32の間に、溶融状態の熱可塑性樹脂シートPを配置可能にしている。また、閉位置において、分割金型32のピンチオフ部118が互いに当接し、分割金型32内に密閉空間を形成するようにしている。なお、開位置から閉位置への各分割金型32の移動について、閉位置は、溶融状態の熱可塑性樹脂シートPの中心線の位置とし、各分割金型32が金型駆動装置により駆動されてその位置に向かって移動するようにしている。
【0047】
熱可塑性樹脂シートPは、ポリプロピレン、ポリオレフィン系樹脂などから形成する。本実施形態の熱可塑性樹脂シートPは、ドローダウン、ネックインなどにより肉厚のバラツキが発生することを防止する観点から溶融張力の高い樹脂材料を用いることが好ましく、一方で分割金型32への転写性、追従性を良好とするため流動性の高い樹脂材料を用いることが好ましい。
【0048】
具体的には、エチレン、プロピレン、ブテン、イソプレンペンテン、メチルペンテン等のオレフィン類の単独重合体あるいは共重合体であるポリオレフィン(例えば、ポリプロピレン、高密度ポリエチレン)であって、230℃におけるMFR(JIS K-7210に準じて試験温度230℃、試験荷重2.16kgにて測定)が3.5g/10分以下のものが適用可能である。MFRが3.5g/10分より大きくなると、ドローダウンが激しくなり、薄肉の成形品を成形するのが困難になる。
【0049】
また、平均肉厚が2mm以下であり、且つ、所定以上の角度(60度以上)で屈曲した屈曲部を有する複雑な形状の樹脂成形品を成形する場合には、シリカ、マイカ、タルク、炭酸カルシウム等の粉状の無機フィラー、または、ガラス繊維、カーボン繊維等の繊維状の無機フィラーを添加することが好ましい。これにより、平均肉厚を薄くすることができ、且つ、複雑な形状の樹脂成形品を成形することができる。なお、無機フィラーは、添加量が多くなると、成形品の表面に荒れが発生し、ピンホールが発生し易くなる。このため、成形品の表面の荒れを抑え、且つ、ピンホールを発生し難くするために、無機フィラーは、30重量%未満で添加することが好ましい。
【0050】
なお、樹脂成形品を成形する際は、繊維状のフィラーよりも粉状のフィラーを適用することが好ましい。これは、繊維状のフィラーは、繊維が押出し方向を向くため、押出方向と直交する方向の皺を抑え難いためである。また、粉状のフィラーの中でも、特に、タルクを適用することがより好ましい。これは、タルクは、樹脂中での分散性が良いためである。
【0051】
また、衝撃により割れが生じることを防止するために、水素添加スチレン系熱可塑性エラストマーを30wt%未満、好ましくは15wt%未満の範囲で添加することも可能である。水素添加スチレン系熱可塑性エラストマーとしては、スチレンーエチレン・ブチレンースチレンブロック共重合体、スチレンーエチレン・プロピレンースチレンブロック共重合体、水添スチレンーブタジエンゴムおよびその混合物が適用可能である。
【0052】
また、可塑剤、安定剤、着色剤、帯電防止剤、難燃剤、発泡剤等を添加することも可能である。
【0053】
<成型装置1の成型工程例>
次に、
図1、
図5〜
図9を参照しながら、本実施形態の成形装置1を用いた樹脂成形品の成形工程例について説明する。
【0054】
まず、
図1に示すように、熱可塑性樹脂シートPをTダイ28から押し出し、その押し出した熱可塑性樹脂シートPを一対の分割金型32の間に垂下させる。
【0055】
熱可塑性樹脂シートPが型枠33の枠上部33-1の位置を通過した後は、
図5に示すように、分割金型32の周囲に位置する第2の型枠200を熱可塑性樹脂シートPに向かって前方に移動させ、第2の型枠200を熱可塑性樹脂シートPに当接させる。これにより、熱可塑性樹脂シートPが第2の型枠200の側面形状に沿って下方に垂下することになる。
【0056】
この場合、熱可塑性樹脂シートPは、第2の型枠200の当接面100に沿って下方に垂下するため、熱可塑性樹脂シートPと当接面100との間で摩擦が発生する。このため、熱可塑性樹脂シートPにかかる自重が摩擦により減少し、熱可塑性樹脂シートPのドローダウンを抑制することができる。
【0057】
なお、第2の型枠200を熱可塑性樹脂シートPに当接した後は、第2の型枠200で熱可塑性樹脂シートPを押すために所定の距離だけ第2の型枠200を前方に移動させることが好ましい。これにより、第2の型枠200で熱可塑性樹脂シートPを押しながらその熱可塑性樹脂シートPが第2の型枠200の側面形状に沿って下方に垂下することができる。
【0058】
熱可塑性樹脂シートPが型枠33の枠下部33-2の位置を通過した後は、
図6に示すように、第1の型枠201を熱可塑性樹脂シートPに向かって前方に移動させ、第1の型枠201を熱可塑性樹脂シートPに当接させる。これにより、熱可塑性樹脂シートPを型枠33の全周囲の当接面100に当接させることができる。なお、第1の型枠201は、
図6に示すように、第1の型枠201を熱可塑性樹脂シートPに当接させた際に、第1の型枠201の後端部がキャビティ116よりも前方に位置せず、第1の型枠201と分割金型32とが鉛直方向で重なるようにようにする。これにより、第1の型枠201と分割金型32との間に隙間を形成しないようにすることができる。
【0059】
型枠33の全周囲の当接面100に熱可塑性樹脂シートPを当接した後は、当接面100に設けられた吸引部34から空気を吸引し、熱可塑性樹脂シートPを吸引部34に吸引する。これにより、熱可塑性樹脂シートPを当接面100に密着させることができる。その結果、熱可塑性樹脂シートP、型枠33、キャビティ116により、密閉空間を形成することができる。
【0060】
吸引部34により熱可塑性樹脂シートPを当接面100に密着させ、密閉空間を形成した後は、型枠33を後方に移動させ、熱可塑性樹脂シートPをピンチオフ部118-1,118-2に当接させ、
図7に示すように、密閉空間内の空気を真空吸引室120から吸引穴122を介して吸引し、熱可塑性樹脂シートPをキャビティ116に吸着させ、熱可塑性樹脂シートPをキャビティ116の表面に沿った形状に賦形する。なお、密閉空間内の空気を吸引する際は、熱可塑性樹脂シートPをキャビティ116側に膨らませ、熱可塑性樹脂シートPをキャビティ116の表面に沿った形状に賦形することが好ましい。これにより、効率的に熱可塑性樹脂シートPをキャビティ116の表面に沿った形状に賦形することができる。
【0061】
次に、型枠33及び分割金型32を前方に移動し、
図8に示すように分割金型32が互いに近接するように構成し、分割金型32の型締めを行い、分割金型32のピンチオフ部118により熱可塑性樹脂シートPの周縁部同士を溶着する。これにより、2枚の熱可塑性樹脂シートPの接合面にパーティングラインPLが形成されると共に、2枚の熱可塑性樹脂シートPの内部に密閉中空部151が形成される。
【0062】
次に、
図9に示すように、分割金型32を互いに遠ざかるように移動させ、分割金型32の型開きを行い、樹脂成形品を取り出し、外周部のバリを除去する。これにより、樹脂成形品を成形することができる。
【0063】
<本実施形態の成形装置1の作用・効果>
このように、本実施形態の形成装置1は、分割金型32の周囲に位置する型枠33に設けられた吸引部34から空気を吸引し、押出装置12から押し出した熱可塑性樹脂シートPを型枠33に吸引し、熱可塑性樹脂シートPを型枠33に密着させる。そして、熱可塑性樹脂シートPを型枠33に密着させた状態で、分割金型32のキャビティ116に対向する熱可塑性樹脂シートPを真空吸引し、熱可塑性樹脂シートPをキャビティ116に沿った形状に賦形し、分割金型32を型締めし、樹脂成形品を成形する。
【0064】
本実施形態の成形装置1は、型枠33に設けられた吸引部34から空気を吸引し、押出装置12から押し出した熱可塑性樹脂シートPを型枠33に吸引し、熱可塑性樹脂シートPを型枠33に密着させるため、型枠33と熱可塑性樹脂シートPとの間に隙間が発生せず、熱可塑性樹脂シートPをキャビティ116の表面に沿った形状に賦形することができる。
【0065】
なお、上述した実施形態は、本発明の好適な実施形態であり、上記実施形態のみに本発明の範囲を限定するものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲において種々の変更を施した形態での実施が可能である。
【0066】
例えば、上述した実施形態は、
図1に示す成形装置1を用いて樹脂成形品を成形することにした。しかし、
図10に示すローラ30を有する成形装置1を用いて樹脂成形品を成形することも可能である。
【0067】
図10に示す成形装置1では、一対のローラ30を通過させて熱可塑性樹脂シートPの肉厚を調整するため、カーテン現象の発生を低減することができる。しかし、一対のローラ30を通過した後もカーテン現象が発生することがあるため、
図10に示す成形装置1を用いて樹脂成形品を成形する際にも、
図1に示す成形装置1と同様な型枠33を用いることで、熱可塑性樹脂シートP、型枠33、キャビティ116により、密閉空間を確実に形成することができる。その結果、真空成形を安定して行うことができる。なお、
図10に示すようにローラ30を有する成形装置1を用いて樹脂成形品を成形する場合は、平均肉厚が1mm以下の樹脂成形品を成形することも可能である。
【0068】
また、上記の実施形態では、型枠33は、
図2(a)〜(d)に示すように、第2の型枠200と、第1の型枠201と、に分離し、双方の型枠200,201を個別に移動できるようにし、且つ、各々の型枠200、201の当接面100に吸引部34を設けることにした。しかし、型枠33を一体型で構成し、その一体型の型枠33の当接面100に吸引部34を設けることも可能である。この場合は、
図11(a)、(b)に示すように、溝状の隙間101を連続して形成することも可能である。また、
図11(c)、(d)に示すように、溝状の隙間101を断続して形成することも可能である。