(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、図面を参照しながら、本発明を実施するための形態の説明を行う。本発明の一実施形態である操作入力装置は、操作者の手指等による力を受けて、その受けた力に応じて変化する出力信号を出力する操作インターフェイスである。その出力信号に基づいて操作者による操作入力が検出される。操作入力の検出によって、その検出された操作入力に対応する操作内容をコンピュータに把握させることができる。
【0010】
例えば、ゲーム機、テレビ等の操作用リモートコントローラ、携帯電話や音楽プレーヤーなどの携帯端末、パーソナルコンピュータ、電化製品などの電子機器において、そのような電子機器に備えられるディスプレイの画面上の表示物(例えば、カーソルやポインタなどの指示表示や、キャラクターなど)を、操作者が意図した操作内容に従って、移動させることができる。また、操作者が所定の操作入力を与えることにより、その操作入力に対応する電子機器の所望の機能を発揮させることができる。
【0011】
一方、通常、コイル(巻線)等のインダクタのインダクタンスLは、係数をK、透磁率をμ、コイルの巻数をn、断面積をS、磁路長をdとした場合、
L=Kμn
2S/d
という関係式が成り立つ。この関係式から明らかなように、コイルの巻数や断面積といった形状に依存するパラメータを固定した場合、周囲の透磁率と磁路長の少なくともいずれかを変化させるかによって、インダクタンスが変化する。
【0012】
このインダクタンスの変化を利用する操作入力装置の実施例について以下説明する。この操作入力装置は、X,Y,Z軸によって定まる直交座標系において、正のZ座標の方向から入力される操作者の力を受け付けるものである。操作入力装置は、操作入力の作用によりコイルとの位置関係が変化することによって、そのコイルのインダクタンスを変化させる変位部材を備えている。操作入力装置は、そのインダクタンスの大きさに応じて変化する所定の信号に基づいて、操作者の操作入力により変位する変位部材の動きを検知することにより、その操作入力を検出することができる。
【0013】
図1は、本発明の操作入力装置の構成を説明するための模式図であって、操作入力が上ヨーク6の上面6bに作用していない初期位置状態において、その構成を断面図で表したものである。
【0014】
操作入力装置は、下ヨーク4と、基板3と、コイル2と、上ヨーク6と、検出部160とを備えている。以下、各部について説明する。
【0015】
下ヨーク4は、板状の磁性体である。下ヨーク4は、基板3に形成された開口部3aに挿入されるように形成された段差部4aを有している。
【0016】
基板3は、下ヨーク4の上に固定された板状部材である。基板3の上面には、コイル2が配置される。基板3は、コイル2の中空部2aに通ずるように開口部3aが形成されている。基板3が、コイル2を構成する線材の両端と導通可能に接続されるランドパターンを有すると、コイル2の基板3への実装性を高めることができる。
【0017】
コイル2は、基板3の上面に固定され、円筒状に線材(導線)が巻かれたものである。コイル2の形状は、円筒状が好ましいが、筒状であればよく、例えば角筒状でもよい。コイル2は、上ヨーク6との距離に応じてインダクタンスが変化し、その変化に基づいて、上ヨーク6の変位量に応じた信号波形を出力する。
【0018】
上ヨーク6は、上面6bに直接又は間接的に作用する操作入力により、コイル2の上方空間において下方に変位することによって、コイル2のインダクタンスを変化させる変位部材である。上ヨーク6は、コイル2に対して操作者の力が入力されてくる側に設けられており、コイル2の上端面に対向する下面6aと、操作者の力が直接又は間接的に作用する上面6bとを有している。上ヨーク6は、コイル2の中空部2aの中心軸Cの軸線方向に、コイル2の上端面の上方領域において変位する板状の磁性体である。
【0019】
上ヨーク6は、下面6bとコイル2の上端面との距離が中心軸Cの軸線方向で弾性的に変化可能なように、支持部材5a,5bによって支持される。支持部材5a,5bは、例えば、バネ部材でもよいし、ゴム部材でもよいし、スポンジ部材でもよいし、空気や油が充填されたシリンダーでもよい。例えば、バネ部材を採用することによって、軽量化や構造の単純化を図ることができ、ゴム部材を採用することによって、絶縁性を図ることができる。また、支持部材5a,5bは、粘性を有する粘性部材であってもよい。
【0020】
上ヨーク6及び下ヨーク4は、比透磁率が1よりも高い材質であればよい。例えば、比透磁率は1.001以上であると好適であり、具体的には、鋼板(比透磁率5000)などが好ましい。
【0021】
検出部160は、コイル2のインダクタンスの変化を電気的に検出することで、上ヨーク6の連続的に変化するアナログ変位量(言い換えれば、上ヨーク6の変位量(操作入力量))に応じた検出信号を出力する検出手段である。検出部160は、基板3又は不図示の基板に実装される検出回路によって構成されるとよい。
【0022】
例えば、検出部160は、コイル2のインダクタンスの変化に等価的に変化する物理量を検出し、その物理量の検出値を上ヨーク6の変位量に等価な値として出力する。また、検出部160は、コイル2のインダクタンスの変化に等価的に変化する物理量を検出することによりコイル2のインダクタンスを算出し、そのインダクタンスの算出値を上ヨーク6の変位量に等価な値として出力するものでもよい。また、検出部160は、その物理量の検出値又はそのインダクタンスの算出値から上ヨーク6の変位量を演算し、その変位量の演算値を出力するものでもよい。
【0023】
具体的には、検出部160は、パルス信号をコイル2に供給することによって、コイル2のインダクタンスの大きさに対応して変化する信号波形をコイル2に発生させ、その信号波形に基づいてコイル2のインダクタンスの変化を電気的に検出するとよい。
【0024】
例えば、コイル2の上端面の上方領域における上ヨーク6の下方への変位量が増加するにつれて、コイル2周辺の透磁率が増加し、コイル2のインダクタンスが増加する。コイル2のインダクタンスが増加するにつれて、パルス信号の供給によりコイル2の両端に発生するパルス電圧波形の振幅も大きくなる。そこで、その振幅をコイル2のインダクタンスの変化に等価的に変化する物理量とすることで、検出部160は、その振幅を検出することによって、その振幅の検出値を上ヨーク6の変位量に等価な値として出力することができる。また、検出部160は、その振幅の検出値からコイル2のインダクタンスを算出し、そのインダクタンスの算出値を上ヨーク6の変位量に等価な値として出力することもできる。
【0025】
また、コイル2のインダクタンスが増加するにつれて、パルス信号の供給によりコイル2に流れるパルス電流波形の傾きが緩やかになる。そこで、その傾きをコイル2のインダクタンスの変化に等価的に変化する物理量とすることで、検出部160は、その傾きを検出することによって、その傾きの検出値を上ヨーク6の変位量に等価な値として出力することができる。また、検出部160は、その傾きの検出値からコイル2のインダクタンスを算出し、そのインダクタンスの算出値を上ヨーク6の変位量に等価な値として出力することもできる。
【0026】
このように、
図1の構成は、コイル2の中空部2aに通ずる開口部3aが基板3に形成され、開口部3aに挿入された突起状の段差部4aが下ヨーク4に形成されている。この構成によれば、コイル2の周囲の透磁率が磁性体の段差部4aによって上昇するので、段差部4aが無い場合に比べて、上ヨーク6の変位量に対して大きなインダクタンスを容易に生じさせることができる。
【0027】
また、下ヨーク4に段差部4aが形成されているため、上ヨーク6の変位に伴いコイル2の中空部2aに進入可能なコアを下面6aに形成しなくても、上ヨーク6の変位量に対して大きなインダクタンスを容易に生じさせることができる。すなわち、変位部材である上ヨーク6の重量がコアの追加により増えることによって、操作性が低下するおそれがあるが、コイル2に対して位置が固定された下ヨーク4に段差部4aが形成されているため、操作性が低下することなく、上ヨーク6の変位量に対して大きなインダクタンスを容易に生じさせることができる。
【0028】
ここで、段差部4aは、開口部3aを貫通していなくてもよいが、開口部3aを貫通していると、上ヨーク6の変位量に対して大きなインダクタンスを生じさせる点で有利である。また、段差部4aの上面4bが、コイル2の上端面よりも下方に位置するように形成されていると、上ヨーク6の下方に変位可能なストローク量を確保しつつ、上ヨーク6の変位量に対して大きなインダクタンスを容易に生じさせることができる。
【0029】
次に、本発明の操作入力装置の具体的な構成について説明する。
【0030】
図2は、本発明の一実施形態である操作入力装置1の分解斜視図である。操作入力装置1は、
図1と同様に、基板50と、コイルと、上ヨーク75と、下ヨーク80と、検出部160とを備えている。
図2の場合、複数のコイル71a,72a,73a,74aが、基板50の上に固定されている。基板50は、コイル71aの中空部に通ずる開口部51aと、コイル72aの中空部に通ずる開口部51bと、コイル73aの中空部に通ずる開口部51cと、コイル74aの中空部に通ずる開口部51dとを有している。開口部51a〜51dは、基板50に形成された貫通穴である。
【0031】
図3は、下ヨーク80と、基板50と、コイル71a,72a,73a,74aとを組み合わせた斜視図である。コイル71a,72a,73a,74aは、基板50の上面に固定され、基板50は、下ヨーク80の上面に固定されている。基板50上には導線やランド等のパターンが形成されている。コイル71aは、一方の端子がランドパターン58aに接続され、他方の端子がランドパターン58bに接続される。コイル72a,73a,74aについても同様である。各コイルと基板50上の各ランドパターンとの接続は、例えば、半田付け、溶接、導電性接着剤などによって固定される。また、基板50は、例えば、粘着テープ、接着剤などによって下ヨーク80に固定される。
【0032】
図4は、操作入力装置1を斜め上方から見た図である。
図5は、操作入力装置1を斜め下方から見た図である。下ヨーク80は、
図2,5に示されるように、基板50の開口部51a〜51dに挿入されるように形成された段差部として、半抜き加工して形成された半抜き部を有する。操作入力装置1には、この半抜き部として、開口部51aに挿入される半抜き部81aと、開口部51bに挿入される半抜き部81bと、開口部51cに挿入される半抜き部81cと、開口部51dに挿入される半抜き部81dとが形成されている。各半抜き部は、下ヨーク80の下面に対する凹部として形成され、且つ下ヨーク80の上面に対する凸部として形成される。基板50の開口部51a等に挿入される段差部を半抜き加工で形成することにより、切削加工で形成する場合に比べて、加工時間を短縮できる。
【0033】
図6は、操作入力装置1の平面図である。
図7は、
図6のA−Aにおける操作入力装置1の断面図である。上ヨーク75は、方向キー10の操作面13に作用する操作入力によって、コイル71a,72a,73a,74aの上方空間において下方に変位することにより、コイル71a,72a,73a,74aのインダクタンスを変化させる。
【0034】
方向キー10は、操作面13を有し、操作面13に作用する操作入力によって下方に傾倒可能に変位する操作部材である。上ヨーク75は、方向キー10の下面14に設けられ、方向キー10の変位に連動して変位する。図示の形態では、方向キー10の下面14に形成された突起状の4つのボス(
図7には、17a,17cが表示)が、上ヨーク75の四隅に形成された取り付け孔78a〜78d(
図2参照)に挿入されることによって、上ヨーク75は方向キー10の下面14に位置決めされている。コイル71a,72a,73a,74aのそれぞれは、上ヨーク75によって方向キー10の位置を非接触で検出し、方向キー10の下方への変位量に応じた信号を出力する。
【0035】
方向キー10(上ヨーク75)の下方への変位量が大きくなるにつれて、コイルのインダクタンスは増加する。次に、半抜き部の有無によるコイルのインダクタンスの違いについて説明する。
【0036】
図8Aは、半抜き部81が下ヨーク80に形成されている場合の斜視図である。
図8Bは、
図8Aの断面図である。半抜き部81は、基板50の開口部に挿入可能な位置に形成され、基板50の開口部はコイル71の中空部に通ずるように形成されている。
図9Aは、半抜き部が下ヨーク80に形成されていない場合の斜視図である。
図9Bは、
図9Aの断面図である。これらの2種類の形態について、ヨークをコイル71に上方から近づくようにストロークさせたときの、コイル71のインダクタンスの違いを測定した。
【0037】
図10は、ヨークのストローク量とコイル71のインダクタンスとの関係を測定したグラフである。横軸のストローク量は、ヨークの下方への変位量を表す。ストローク量が0mmとは、ヨークとコイル71との距離が最大のときを表す。ストローク量が0mmのとき、半抜き部81が有る場合、コイル71のインダクタンスは0.106mHであるのに対し、半抜き部81が無い場合、コイル71のインダクタンスは0.097mHであった(増加率8.9%)。また、ストローク量が0.3mmのとき、半抜き部81が有る場合、コイル71のインダクタンスは0.132mHであるのに対し、半抜き部81が無い場合、コイル71のインダクタンスは0.119mHであった(増加率11.2%)。このように、コイル71の内周部のヨークに半抜き部を設けることで、インダクタンスが全体的に1割程度増加する。
【0038】
ここで、基板50上の各コイルが、それぞれに対応する段差部(半抜き部)によって位置決めされることにより、コイルの基板50への組み付け誤差を抑えることができる。この組み付け誤差が抑えられることにより、個々の操作入力装置の間において、インダクタンスが設計値に対してばらつくことを抑制できる。
【0039】
ところで、
図2,3に示されるように、基板50は、操作入力装置1の外側に突出する接続部55を有する。接続部55は、上ヨーク75の変位量に応じた信号を出力する配線パターンを有する。基板50の一部を延伸させた接続部55を有することにより、操作入力装置1の基板50と操作入力装置1の外部装置の回路(例えば、検出部160)との接続が容易になる。外部装置の具体例として、操作入力装置1が搭載されるゲーム機等の電子機器本体が挙げられる。
【0040】
基板50は、可撓性を有するフレキシブルプリント基板(FPC)であると好適である。FPCの可撓性によって、操作入力装置1の外部装置への取り付け自由度が増す。例えば、操作入力装置1の製品本体への取り付け高さを変更しても、FPCが撓むことによって、製品高さの制限を受けない。なお、基板50は、FPCに限らず、FR−4基板等の他の樹脂製基板でもよい。
【0041】
また、基板50には、クリックバネ70の周縁部が導通可能に半田等で接続される周囲電極57と、クリックバネ70の変形時にその頂点部が接する中央電極56とが形成されている。クリックバネ70は、方向キー10の中央部に設けられたセンターキー20によって変形する。センターキー20は、方向キー10の操作面13に露出した面をZ軸上に有する押下部である。センターキー20の周縁部には、方向キー10の中央部に形成された開口部11に嵌合した状態で位置決めされるように、フランジ12が形成されている。センターキー20は、上方から押されることにより、基板50上に配置されたクリックバネ70をその頂点部から下方に変形させる。
【0042】
また、基板50には、
図3,4に示されるように、静電気シールドとして機能するカバー65を接地するためのシールドランド54a〜54hが形成されている。カバー65の周囲に形成されたピン67a〜67hが、シールドランド54a〜54hに半田または導通接着剤等によって接続される。これにより、シールドランド54a〜54hに静電気を逃がすことができる。また、カバー65を基板50に固定できる。
【0043】
54a〜54h,58a〜58h,56,57等の基板50に形成された一部又は全部のランドパターンは、接続部55に接続される外部装置に電気的に接続される。
【0044】
また、基板50には、下ハードストップ部30を固定するための貫通穴83a〜83dが形成されている。下ハードストップ部30は、方向キー10の下方に配置された係止部である。下ハードストップ部30は、方向キー10が操作面13の外縁部18の直下で下ハードストップ部30の当接面32(32a〜32d)に当接してから、当接面32の位置よりも方向キー10が下方に変位しないように規制するものである。言い換えれば、方向キー10は、当接面32に当接するまで下方に変位可能である。
【0045】
また、下ヨーク80は、基板50と、コイル71a,72a,73a,74aと上ヨーク75とを格納可能なケース60を固定する位置決め部が形成されている。下ヨーク80に位置決め部を形成することにより、ケース60を固定するための別の位置決め部品が不要となる。
図2,3,5には、下ヨーク80に形成されたケース60を固定する位置決め部として、ケース60を溶着により固定するための貫通穴82a,82b,82c,82d、及び下ヨーク80の下面側にこれらの各貫通穴周囲に形成された凹部84a,84b,84c,84dが例示されている。ケース60の下面に形成された突起部が、基板50の四隅に形成された貫通穴52a〜52d及び下ヨーク80の四隅に形成された貫通穴82a〜82dに挿入されて、その突起部の先端が凹部84a〜84dに溶着される。
【0046】
また、下ヨーク80に、操作入力装置1を固定する位置決め部が形成されていると、操作入力装置1を固定するための別の位置決め部品が不要となる。
図11には、この位置決め部材として、下ヨーク80の側面から延びたブラケット85が例示されている。下ヨーク80は、ガラスエポキシなどの基板材料よりも強度が高いため、破断、割れ、欠けなどが発生しにくい。そのため、このような高強度の下ヨーク80を操作入力装置1の取り付け用ブラケットとして用いることができる。また、下ヨーク80を操作入力装置1の外部フレームとして用いることで、製品全体の強度が向上する。
【0047】
以上、本発明の好ましい実施例について詳説したが、本発明は、上述した実施例に制限されることはなく、本発明の範囲を逸脱することなく、上述した実施例に種々の変形、改良及び置換を加えることができる。
【0048】
例えば、方向キー10を弾性的に支持する支持部材は、リターンバネ40のような弾性部材に限らず、ゴム部材でもよいし、スポンジ部材でもよいし、空気や油が充填されたシリンダーでもよい。
【0049】
また、本発明の操作入力装置は、手指に限らず、手のひらで操作するものあってもよい。また、足指や足の裏で操作するものであってもよい。また、操作者が触れる面は、平面でも、凹面でも、凸面でもよい。