(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
請求項1または2に記載のターボ分子ポンプ用の電源装置において、前記ベース部材および前記覆い部材により構成される前記電源容器の内側に、前記絶縁性の保護材料が充填されていることを特徴とするターボ分子ポンプ用の電源装置。
【発明を実施するための形態】
【0010】
(実施形態1)
以下、図を参照して本発明に係るターボ分子ポンプ装置の一実施の形態について説明する。
図1は、この発明に係るターボ分子ポンプ装置の一実施の形態を示す外観側面図であり、
図2は、
図1に図示されたターボ分子ポンプ装置の断面図である。
図1および
図2に図示されたターボ分子ポンプ装置1は、ターボ分子ポンプ10と、このターボ分子ポンプ10の底部に取り付けられた電源装置50とを備えている。
ターボ分子ポンプ10は、上ケース12と下ケース13とにより構成されるポンプ用ケース11を備えている。
【0011】
ポンプ用ケースの中心軸上には、ロータ軸5が配置されている。ロータ軸5にはロータ軸5と同軸に取り付けられたロータ30が配置されている。ロータ軸5とロータ30とは、ボルト等の締結部材98により強固に固定されている。
ロータ軸5は、ラジアル方向の磁気軸受31(2箇所)およびスラスト方向の磁気軸受32(上下一対)によって非接触で支持される。ロータ軸5の浮上位置は、ラジアル変位センサ33a、33bおよびアキシャル変位センサ33cによって検出される。磁気軸受31、32によって回転自在に磁気浮上されたロータ軸5は、モータ35により高速に回転駆動される。
【0012】
ロータ軸5の下面には、メカニカルベアリング34を介してロータディスク38が取り付けられている。また、ロータ軸5の上部側にはメカニカルベアリング36が設けられている。メカニカルベアリング34、36は非常用のメカニカルベアリングであり、磁気軸受31、32が作動していない時にはメカニカルベアリング34、36によりロータ軸5が支持される。
【0013】
ロータ30は、上部側と下部側の二段構造を有し、上部側には複数段のロータ翼6が設けられている。最下段のロータ翼6から下方が下段側とされ、下段側にはロータ円筒部9が設けられている。
ロータ30のロータ翼6の外周は上ケース12により覆われている。上ケース12のロータ30に設けられた複数のロータ翼6の間にはステータ翼7とスペーサ21とが交互に配置されている。すなわち、ロータ翼6とステータ翼7とは、リング状のスペーサ21を間に挟んで、ポンプの軸方向に交互に積層されている。下ケース13の上面上にスペーサ21とステータ翼7とを交互に積層し、上ケース12を下ケース13に被せて固定すると、ステータ翼7とロータ翼6とがポンプの軸方向に沿って複数段に配列される。
【0014】
ロータ30のロータ円筒部9の外周は下ケース13により覆われている。下ケース13のロータ円筒部9に対応する内面には、リング状のネジステータ8がボルト41により固定されている。ネジステータ8は螺旋状突部8aを有し、螺旋状突部8a間にはネジ溝部8bが形成されている。ロータ30のロータ円筒部9の外周面とネジステータ8の内周面とは、ロータ30が高速に回転したときに、気体分子を上方から下方に移送することができるような間隙が設けられている。
【0015】
上ケース12の上面には吸気口25が設けられている。下ケース13には排気口45が設けられ、この排気口45にバックポンプが接続される。ロータ30を磁気浮上させ、この状態でモータ35により高速に回転駆動することにより、吸気口25側の気体分子が排気口45側へと排気される。
【0016】
以上説明したように、ターボ分子ポンプ10は、上ケース12の内部空間に翼排気部を有し、下ケース13の内部空間にネジ溝排気部を有するターボ分子ポンプである。翼排気部は複数段のロータ翼6と複数段のステータ翼7とで構成され、ネジ溝排気部3はロータ円筒部9とネジステータ8とで構成されている。
【0017】
モータ35によりロータ30を回転駆動すると半導体製造装置等の外部装置の真空チャンバ内の気体分子が吸気口25から流入する。吸気口25から流入した気体分子は翼排気部2において、下流側へと叩き飛ばされる。気体分子は、翼排気部において圧縮されて図示下方のネジ溝排気部へ移送される。
【0018】
下ケース13は、ネジステータ8の外周を囲む大略円筒形状を有する。下ケース13の軸芯には、ロータ軸5、およびロータ軸5の周囲に配置されたモータ35、磁気軸受31、32、ラジアル・アキシャル変位センサ33a〜33c、メカニカルベアリング34、35およびロータディスク38等が取り付けられた筒部13Aが形成されている。下ケース13には平面視で円形状の上部フランジ13aおよび下部フランジ13bが形成されている。
【0019】
上ケース12には、上部の吸気口25側の周縁部から外周側に張り出す上部フランジ12aが形成され、下部側に周縁部から外周側に張り出す下部フランジ12bが形成されている。上部フランジ12aには複数の貫通孔46が形成されており、上部フランジ12aの貫通孔46に挿通されたボルト等の締結部材91により、上ケース12が半導体製造装置等の外部装置(図示せず)に取り付けられる。
上ケース12の下部フランジ12bと下ケース13の上部フランジ13aとがシール部材42を介在してボルト等の締結部材93により固定されている。
【0020】
下ケース13の下部フランジ13bには、ボルト等の締結部材95により電源装置50がそのベース部材51を介して取り付けられている。ターボ分子ポンプ10は、生成物がポンプ内部に付着しやすいガスを排気する場合、ヒータや冷却装置によりターボ分子ポンプ10の温度を一定にコントロールする必要がある。また、ターボ分子ポンプ10のモータ35や磁気軸受31、32を駆動制御する電源装置は、熱発生源であるコンバータやインバータを内蔵するために冷却をする必要がある。そこで、電源装置50の上部には、冷却水導入管61および冷却水排出管62が取り付けられている(
図1参照)。冷却水導入管61および冷却水排出管62は、図示はしないが、ターボ分子ポンプ装置1を冷却するための冷却水を循環させるポンプに連結されている。また、詳細は後述するが、電源装置50内には、外部から入力される交流電源を直流に変換してターボ分子ポンプ10のモータ35および磁気軸受31、32等に駆動電力を供給する各回路を構成するための複数の回路部品が収容されている。
【0021】
図3は、
図1および
図2に図示されたターボ分子ポンプ装置の電気的接続状態を示すブロック図である。
図3では、動力の伝達を実線の矢印で示し、制御信号の伝達を白抜きの矢印で示している。ターボ分子ポンプ装置1は、
図1および
図2に示したように、ターボ分子ポンプ10と電源装置50とによって構成されている。電源装置50は、電力系回路部110と信号制御系回路部120とで構成されている。電力系回路部110は、外部AC電源入力をDC電源化するためのAC/DCコンバータ回路111を有する。AC/DCコンバータ回路111には、外部AC電源から、例えば、200V程度の電圧が入力される。
【0022】
AC/DCコンバータ回路111は、DC電力をインバータ/モータドライブ回路112および制御電源113へと出力する。インバータ/モータドライブ回路112は、ターボ分子ポンプ10のモータ35を駆動制御する。制御電源113は、信号制御系回路部120に設けられた制御回路121および磁気軸受ドライブ回路122の電源を構成している。AC/DCコンバータ回路111およびインバータ/モータドライブ回路112はパワー回路であり、電源装置50の中でも特に消費電力が大きく、放熱のため冷却が必要になる部分である。例えば、インバータ/モータドライブ回路112は、120V程度のモータ駆動電圧を出力する。
【0023】
信号制御系回路部120は、制御回路121および磁気軸受ドライブ回路122を備えている。磁気軸受ドライブ回路122は、磁気軸受31、32のマグネット(図示せず)を駆動制御する。制御回路121はマイコンやDSPなどを備え、電力系回路部110の制御、磁気軸受ドライブ回路122の制御および後述する種々のインターフェース制御を行う。オペレータがアクセスする人的インターフェースとしては、RS‐232C、RS5‐485およびイーサネット(登録商標)などの通信インターフェース123と、運転状態や異常アラームを表示または通知する表示部124と、運転モ−ドや表示設定などを切り替えるためのスイッチ125とを備えている。表示部124には、LED等が用いられている。また、制御回路121には、ラジアル変位センサ33a、33bおよびアキシャル変位センサ33cによって検出された検出値が入力される。
【0024】
図4は、
図1に図示されたターボ分子ポンプ用の電源装置のベース部材の平面図であり、
図5は、
図4に図示されたターボ分子ポンプ用の電源装置の断面図である。
電源装置50は、平板状のベース部材51と、このベース部材51に取り付けられる覆い部材52により構成される電源容器を有する。
ベース部材51は、アルミニウムまたは鉄により形成され、
図4に図示されるように平面視でほぼ正八角形状を有する。
図5に図示されるように、ベース部材51は、厚肉の周縁部51aと、周縁部51aの内周側において内面から陥没する凹部51bを有する底部51cを有する。底部51cは、周縁部51aよりも薄肉であり、周縁部51aと底部51cの外面である上面は平坦面である。
【0025】
ベース部材51の周縁部51aには、冷却水通路(冷却用通路)53が設けられている
。冷却水通路53は、ベース部材51の周縁部51a内を環状にほぼ全周に亘り形成され、一端が冷却水導入管61に、他端が冷却水排出管62に連結されている。
ベース部材51の周縁部51aには、外周に沿って、複数のねじ穴51d(
図4参照)が形成されている。電源装置50は、ボルト等の締結部材95を、ねじ穴51dに締結することによりターボ分子ポンプ10の下ケース13の下部フランジ13bに固定されている(
図2参照)。
【0026】
ベース部材51の凹部51b側には、ボルト等の締結部材96により周縁部51aにおいて覆い部材52が取り付けられている。
覆い部材52は、アルミニウムまたは鉄により、ほぼ逆ハット形状に形成されている。覆い部材52の周縁部がベース部材51の周縁部51aに固定されることにより、内部に電源装置50の各回路部を構成する電子部品が収容される空間を有する電源容器が構成される。
【0027】
ベース部材51の凹部51b内には、電力系回路部110を構成する電力系ユニット70が配置されている。電力系ユニット70は、配線(図示せず)が形成された回路基板71と、回路基板71に取り付けられた複数の電子部品等により構成されている。回路基板71は、固定具76によりベース部材51の底部51cに取り付けられている。電子部品には、端子部72aが回路基板71のスルーホールに挿入された基板挿入型の電子部品72、および端子部73aが回路基板71の一面上に実装された表面実装型の電子部品73が含まれる。また、回路基板71には、コネクタ74が取り付けられている。
【0028】
電力系ユニット70では、上述した如く、200V程度の高電圧が入出力されるため、結露に対する対策が重要である。
そこで、本実施形態では、電力系ユニット70を保護材料55で被覆して短絡の発生を防止する短絡防止構造を採用している。
保護材料55としては、エポキシ樹脂等の樹脂モールド材料または、アルミナ等のセラミックス微粉末が分散された樹脂モールド材料を用いることができる。回路基板71が高温となる場合には、セラミックス微粉末が分散された樹脂モールド材料を用いることが望ましい。
【0029】
保護材料55による被覆は、電力系ユニット70全体を完全に被覆する必要はない。
図5に図示される如く、例えば、実装状態における高さが高い基板挿入型の電子部品72は、上端部が保護材料55から露出する状態でもよい。要は、回路基板71の配線、電子部品72、73の端子部72a、73a等の導電部が保護材料55によって確実に被覆されるようにすればよい。
【0030】
電力系ユニット70は、ベース部材51の凹部51b内に配置されているため、保護材料55による電力系ユニット70の被覆は、ベース部材51が単体の状態で、凹部51b内に樹脂を流し込む簡単な作業とすることができる。凹部51bの深さを、保護材料55を流し込んだ際、電力系ユニット70の回路基板71に実装された表面実装型の電子部品73が保護材料55により適度な厚さに被覆されるようにしておけば、保護材料55が凹部51bの外側に流出することもない。これにより、保護材料55が無駄に塗布されるのを防ぎ、コストの節減を図ることができる。
【0031】
覆い部材52の内面側には、信号制御系回路部120を構成する制御系ユニット80が配置されている。制御系ユニット80は、配線(図示せず)が形成された回路基板81と、回路基板81に取り付けられた複数の電子部品82等により構成されている。回路基板81は、固定具86により覆い部材52の内面に取り付けられている。回路基板81には、コネクタ84が取り付けられている。
【0032】
ベース部材51の周縁部51aには、ベース部材51の厚さ方向に貫通してコネクタ87が取り付けられている。コネクタ87の接続端子は、電源装置50の内部側および外部側に露出している。コネクタ74、84、87は、ハーネス(接続部材)88により接続されており、ターボ分子ポンプ10と電源装置50とは
図3に図示される回路を構成するように接続される。
【0033】
実施形態1では、電源装置50の中で最も結露対策が必要な電力系ユニット70のみを樹脂材で被覆することにより、コストを抑制した結露対策を行うことができる。
【0034】
(実施形態2)
図6は、本発明の実施形態2としてのターボ分子ポンプ用の電源装置の拡大断面図である。
図6に図示された実施形態2のターボ分子ポンプ用の電源装置が
図5に図示された実施形態1と相違する点は、制御系ユニット80が、保護材料56により被覆されている点である。この実施形態2においても、電力系ユニット70は保護材料55により被覆されている。保護材料56は、電力系ユニット70を被覆する保護材料55と同一の材料でもよいし、異なる材料を用いてもよい。
【0035】
例えば、電力系ユニット70を被覆する保護材料55としてセラミックス微粉末が分散された樹脂モールド材料を用い、制御系ユニット80を被覆する保護材料56としてセラミックス微粉末が分散されていない樹脂モールド材料を用いるようにしてもよい。
実施形態2の電源装置50によれば、電源装置50内におけるすべての電子部品に対し、結露に起因する短絡の発生を防止することが可能となる。
実施形態2における上記以外の構成は実施形態1と同様であり、対応する部材に同一の符号を付して、その説明を省略する。
【0036】
(実施形態3)
図7は、本発明の実施形態3としてのターボ分子ポンプ用の電源装置の拡大断面図である。
図7に図示された実施形態3が
図5または
図6に図示された実施形態1または実施形態2と相違する点は、電源装置50内全体が保護材料55で充填されている点である。すなわち、ベース部材51および覆い部材52により構成される電源容器の内部は、保護材料55によって充填されている。
【0037】
この状態では、電力系ユニット70および制御系ユニット80の構成部品を含み、コネクタ84等の電源容器内のすべての部品、およびベース部材51と覆い部材52の内面のすべてが保護材料55によって被覆されている。
従って、電源装置50における結露に起因する短絡の発生を、より確実に防止することができる。
実施形態3における上記以外の構成は実施形態1と同様であり、対応する部材に同一の符号を付して、その説明を省略する。
【0038】
以上説明した通り、本発明の各実施形態では、電源装置50内の回路基板71、82および電子部品72、73、82等を保護材料55、56により被覆するようにしたので、電源装置50が冷えて内部に結露が生じた場合でも、結露に起因する短絡の発生を防止することができる。
【0039】
この場合、結露の発生をセンサにより検出して、ターボ分子ポンプ10を駆動制御する各回路をシャットダウンする方式と異なり、結露が生じていても短絡を防止する短絡防止
構造であるので、ターボ分子ポンプ装置1の電源投入に影響を与えることはない。このため、電源装置50内に発生した結露が消失するまでの待機時間を無くすことができ、ターボ分子ポンプ装置1の稼働率を向上することができる。
【0040】
電源装置50のベース部材51に凹部51bを設け、この凹部51b内に電力系ユニット70を配置したので、電源装置50全体の厚さを、凹部51bの深さに対応して薄くすることができる。
【0041】
ベース部材51の周縁部51aを厚肉にしているので、冷却効果を大きくすることができる。また、電源装置50のベース部材51の周縁部51aに、直接、冷却水通路53を形成しているので、ターボ分子ポンプ装置1の構造が簡素となり、かつ、冷却も効果的となる。
【0042】
なお、上記各実施形態においては、電力系ユニット70の回路基板71を1個の場合で例示したが、回路基板は複数個としてもよい。
【0043】
覆い部材52にも凹部を形成し、制御系ユニット80を凹部内に収容して、保護材料を凹部内に流し込むようにしてもよい。
【0044】
その他、本発明は、発明の趣旨の範囲において種々変形して適用することが可能であり、要は、電源装置50内に収容された複数の電子部品(回路基板を含む)の導電部の中、少なくとも、結露により短絡が発生する確率が大きい導電部を保護材料55により被覆するようにすればよい。