(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記(a)無機化合物と(b)エピスルフィド化合物の少なくとも一部が、相互に予備重合反応して得られる予備重合反応物として含まれていることを特徴とする、請求項1記載のツーポイントフレームメガネ用光学材料用組成物。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明が解決しようとする課題は、高屈折率(neが1.73以上)、高強度(3点曲げ試験の伸びが10%以上、かつ耐ドリル強度が良好であること)、および高耐熱性(TMA測定の軟化点が70℃以上)以上3点を同時に満足させる光学材料を提供し得る光学材料用組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、このような状況に鑑み、鋭意研究を重ねた結果、本課題を解決し、本発明に至った。即ち、本発明は、以下のとおりである。
[1](a)1〜50重量部の硫黄原子および/またはセレン原子を有する無機化合物、
(b)50〜99重量部のビス(β−エピチオプロピル)スルフィド、ビス(β−エピチオプロピル)ジスルフィド、ビス(β−エピチオプロピル)トリスルフィド、ビス(β−エピチオプロピルチオ)メタン、1,2−ビス(β−エピチオプロピルチオ)エタン、1,3−ビス(β−エピチオプロピルチオ)プロパン、1,2−ビス(β−エピチオプロピルチオ)プロパン、1,4−ビス(β−エピチオプロピルチオ)ブタン、およびビス(β−エピチオプロピルチオエチル)スルフィドから選択される1種以上であるエピスルフィド化合物、
(c)前記(a)および(b)化合物の合計を100重量部とした場合に1〜50重量部のキシリレンジチオール化合物、を含有する光学材料用組成物。
【0008】
[2]前記(a)無機化合物が硫黄である、[1]記載の光学材料用組成物。
[3]前記(b)エピスルフィド化合物がビス(β−エピチオプロピル)スルフィドおよび/またはビス(β−エピチオプロピル)ジスルフィドである、[1]記載の光学材料用組成物。
[4]前記(c)キシリレンジチオール化合物が、m−キシリレンジチオールおよび/またはp−キシリレンジチオールである、[1]記載の光学材料用組成物。
【0009】
[5]前記(a)無機化合物の含有割合が、光学材料用組成物全量に対して10重量%以上である、[1]記載の光学材料用組成物。
[6]キシリレンジイソシアネート化合物が、光学材料用組成物全量に対して1重量%以上含まれないことを特徴とする、[1]記載の光学材料用組成物。
[7]前記(a)無機化合物と(b)エピスルフィド化合物の少なくとも一部が、相互に予備重合反応して得られる予備重合反応物として含まれていることを特徴とする、[1]記載の光学材料用組成物。
【0010】
[8]下記(a)、(b)及び(c)化合物を混合する工程を含む、光学材料用組成物の調製方法。
(a)1〜50重量部(ただし光学材料用組成物全量に対して10重量%以上)の硫黄原子および/またはセレン原子を有する無機化合物
(b)50〜99重量部のビス(β−エピチオプロピル)スルフィド、ビス(β−エピチオプロピル)ジスルフィド、ビス(β−エピチオプロピル)トリスルフィド、ビス(β−エピチオプロピルチオ)メタン、1,2−ビス(β−エピチオプロピルチオ)エタン、1,3−ビス(β−エピチオプロピルチオ)プロパン、1,2−ビス(β−エピチオプロピルチオ)プロパン、1,4−ビス(β−エピチオプロピルチオ)ブタン、およびビス(β−エピチオプロピルチオエチル)スルフィドから選択される1種以上であるエピスルフィド化合物
(c)前記(a)および(b)化合物の合計を100重量部とした場合に1〜50重量部のキシリレンジチオール化合物
[9]:さらに前記(a)無機化合物と(b)エピスルフィド化合物の少なくとも一部を予備重合反応させる工程を含むことを特徴とする、[8]記載の光学材料用組成物の調製方法。
【0011】
[10]:下記工程(A)及び(B)を含む、光学材料の製造方法。
(A)下記(a)、(b)及び(c)化合物を混合して光学材料用組成物を調製する工程、
(a)1〜50重量部(ただし光学材料用組成物全量に対して10重量%以上)の硫黄原子および/またはセレン原子を有する無機化合物
(b)50〜99重量部のビス(β−エピチオプロピル)スルフィド、ビス(β−エピチオプロピル)ジスルフィド、ビス(β−エピチオプロピル)トリスルフィド、ビス(β−エピチオプロピルチオ)メタン、1,2−ビス(β−エピチオプロピルチオ)エタン、1,3−ビス(β−エピチオプロピルチオ)プロパン、1,2−ビス(β−エピチオプロピルチオ)プロパン、1,4−ビス(β−エピチオプロピルチオ)ブタン、およびビス(β−エピチオプロピルチオエチル)スルフィドから選択される1種以上であるエピスルフィド化合物
(c)前記(a)および(b)化合物の合計を100重量部とした場合に1〜50重量部のキシリレンジチオール化合物
(B)前記光学材料用組成物を重合硬化させる工程
【0012】
[11]:前記工程(A)が、さらに前記(a)無機化合物と(b)エピスルフィド化合物の少なくとも一部を予備重合反応させる工程を含むことを特徴とする、[10]記載の光学材料の製造方法。
[12]:[10]又は[11]記載の製造方法によって得られる光学材料であって、屈折率(ne)が1.73以上である、光学材料。
[13]:[12]記載の光学材料からなる、ツーポイントフレームメガネ用レンズ。
【発明の効果】
【0013】
本発明は、高屈折率(neが1.73以上)、高強度(3点曲げ試験の伸びが10%以上、かつ耐ドリル強度が良好であること)、および耐熱性について優れた特性を有することを可能とする光学材料用組成物、およびそれを硬化して得られる光学材料用樹脂、並びにそれを用いたツーポイントフレームメガネ用レンズを提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0014】
1.光学材料用組成物
本発明の光学材料用組成物は、(a)硫黄原子および/またはセレン原子を有する無機化合物(以下、(a)化合物)、(b)エピスルフィド化合物(以下、(b)化合物)、及び(c)キシリレンジチオール化合物(以下、(c)化合物)、並びに必要に応じて重合触媒、重合調節剤、性能改良剤等の任意成分を含有してなるものである。
【0015】
(1)(a)化合物
本発明で使用する(a)化合物である硫黄原子および/またはセレン原子を有する無機化合物は、硫黄原子および/またはセレン原子を1個以上有する全ての無機化合物を包含する。(a)化合物は、化合物中の硫黄原子および/またはセレン原子の合計重量の割合が30質量%以上であることが好ましい。この割合が、30質量%未満である場合、光学材料用組成物中の硫黄原子および/またはセレン原子の重量の割合上昇分が小さいため、樹脂の高屈折率化の効果が小さくなる場合がある。(a)化合物の添加量は、(a)および(b)化合物の合計を100重量部とした場合、1〜50重量部使用するが、好ましくは5〜50重量部、より好ましくは10〜40重量部、特に好ましくは10〜30重量部である。
【0016】
硫黄原子を有する無機化合物の具体例としては、硫黄、硫化水素、二硫化炭素、セレノ硫化炭素、硫化アンモニウム、二酸化硫黄、三酸化硫黄等の硫黄酸化物、チオ炭酸塩、硫酸およびその塩、硫酸水素塩、亜硫酸塩、次亜硫酸塩、過硫酸塩、チオシアン酸塩、チオ硫酸塩、二塩化硫黄、塩化チオニル、チオホスゲン等のハロゲン化物、硫化硼素、硫化窒素、硫化珪素、硫化リン、硫化砒素、金属硫化物、金属水硫化物等があげられる。これらの中で好ましいものは硫黄、二硫化炭素、硫化リン、硫化セレン、金属硫化物および金属水硫化物であり、より好ましくは硫黄、二硫化炭素および硫化セレンであり、特に好ましくは硫黄である。
【0017】
セレン原子を有する無機化合物とは、硫黄原子を含む無機化合物の具体例として挙げたセレノ硫化炭素、硫化セレンを除き、この条件を満たす無機化合物をすべて包括する。具体例としては、セレン、セレン化水素、二酸化セレン、二セレン化炭素、セレン化アンモニウム、二酸化セレン等のセレン酸化物、セレン酸およびその塩、亜セレン酸およびその塩、セレン酸水素塩、セレノ硫酸およびその塩、セレノピロ硫酸およびその塩、四臭化セレン、オキシ塩化セレン等のハロゲン化物、セレノシアン酸塩、セレン化硼素、セレン化リン、セレン化砒素、金属のセレン化物等があげられる。これらの中で好ましいものは、セレン、二セレン化炭素、セレン化リン、金属のセレン化物であり、特に好ましくはセレンおよび二セレン化炭素である。
これら硫黄原子および/またはセレン原子を有する無機化合物は、単独でも、2種類以上を混合して使用しても良い。
【0018】
(2)(b)化合物
本発明で使用する(b)化合物としては、ビス(β−エピチオプロピル)スルフィド、ビス(β−エピチオプロピル)ジスルフィド、ビス(β−エピチオプロピル)トリスルフィド、ビス(β−エピチオプロピルチオ)メタン、1,2−ビス(β−エピチオプロピルチオ)エタン、1,3−ビス(β−エピチオプロピルチオ)プロパン、1,2−ビス(β−エピチオプロピルチオ)プロパン、1,4−ビス(β−エピチオプロピルチオ)ブタン、およびビス(β−エピチオプロピルチオエチル)スルフィドからなる群から選択される1種以上のエピスルフィド化合物が挙げられる。
【0019】
中でも好ましい具体例は、ビス(β−エピチオプロピル)スルフィド(式(1))および/またはビス(β−エピチオプロピル)ジスルフィド(式(2))であり、最も好ましい具体例は、ビス(β−エピチオプロピル)スルフィドである。
【0022】
本発明で使用する(b)化合物の添加量は、(a)および(b)化合物の合計を100重量部とした場合、50〜99重量部使用するが、好ましくは50〜95重量部、より好ましくは60〜90重量部、特に好ましくは70〜90重量部である。
【0023】
(3)(c)化合物
本発明で使用する(c)化合物はキシリレンジチオール化合物であり、具体例としては、o−、m−、およびp−キシリレンジチオールが好ましく挙げられる。中でも好ましいキシリレンジチオール化合物は、下記構造式で表されるm−キシリレンジチオール(式(3))、p−キシリレンジチオール(式(4))であり、特に好ましいキシリレンジチオール化合物は常温で液体となるm−キシリレンジチオールである。
【0026】
本発明で使用する(c)化合物の添加量は、(a)及び(b)化合物の合計を100重量部とした場合、1重量部〜50重量部であることが好ましく、より好ましくは2重量部〜30重量部、更に好ましくは3重量部〜10重量部である。
【0027】
(4)重合触媒
本発明の光学材料用組成物には、重合硬化のために、必要に応じて重合触媒を添加することができる。重合触媒としては、アミン類、ホスフィン類、第4級アンモニウム塩類、第4級ホスホニウム塩類、アルデヒドとアミン系化合物の縮合物、カルボン酸とアンモニアとの塩、ウレタン類、チオウレタン類、グアニジン類、チオ尿素類、チアゾール類、スルフェンアミド類、チウラム類、ジチオカルバミン酸塩類、キサントゲン酸塩、第3級スルホニウム塩類、第2級ヨードニウム塩類、鉱酸類、ルイス酸類、有機酸類、ケイ酸類、四フッ化ホウ酸類、過酸化物、アゾ系化合物、酸性リン酸エステル類を挙げることができる。
【0028】
重合触媒は、重合硬化を発現するものであれば、特に限定されるものではない。また、これら重合触媒は単独でも2種類以上を混合して使用してもかまわない。これらのうち好ましい具体例は、テトラ−n−ブチルアンモニウムブロマイド、トリエチルベンジルアンモニウムクロライド、セチルジメチルベンジルアンモニウムクロライド、1−n−ドデシルピリジニウムクロライド等の第4級アンモニウム塩、テトラ−n−ブチルホスホニウムブロマイド、テトラフェニルホスホニウムブロマイド等の第4級ホスホニウム塩が挙げられる。これらの中で、さらに好ましい具体例は、トリエチルベンジルアンモニウムクロライドおよび/またはテトラ−n−ブチルホスホニウムブロマイドであり、最も好ましい具体例は、トリエチルベンジルアンモニウムクロライドである。
【0029】
重合触媒の添加量は、(a)、(b)および(c)化合物の合計100重量部に対して、0.001〜5重量部であり、好ましくは0.002〜5重量部であり、より好ましくは0.005〜3重量部である。
【0030】
(5)重合調節剤
本発明の光学材料用組成物には、重合硬化する際に、ポットライフの延長や重合発熱の分散化などを目的として、必要に応じて重合調節剤を添加することができる。重合調節剤は、長期周期律表における第13〜16族元素のハロゲン化物を挙げることができる。
【0031】
これら重合調節剤は、単独でも2種類以上を混合して使用してもかまわない。これらのうち好ましいものはケイ素、ゲルマニウム、スズ、アンチモンのハロゲン化物である。より好ましくはケイ素、ゲルマニウム、スズ、アンチモンの塩化物であり、さらに好ましくはアルキル基を有するゲルマニウム、スズ、アンチモンの塩化物である。最も好ましいものの具体例はジブチルスズジクロライド、ブチルスズトリクロライド、ジオクチルスズジクロライド、オクチルスズトリクロライド、ジブチルジクロロゲルマニウム、ブチルトリクロロゲルマニウム、ジフェニルジクロロゲルマニウム、フェニルトリクロロゲルマニウム、トリフェニルアンチモンジクロライドである。
【0032】
重合調節剤の添加量は、(a)、(b)および(c)化合物の合計100重量部に対して、0.001〜5重量部であり、好ましくは0.002〜5重量部であり、より好ましくは0.005〜3重量部である。
【0033】
(6)性能改良剤
本発明の光学材料用組成物には、耐酸化性、耐候性、染色性、強度、屈折率等の各種性能の改良を目的として、組成成分の化合物の一部もしくは全部と反応可能な化合物(性能改良剤)を添加することも可能である。この場合は、反応のために必要に応じて公知の重合触媒を別途加えることができる。
【0034】
組成成分の一部もしくは全部と反応可能な化合物(性能改良剤)としては、本願発明のキシリレンチジオール以外のSH基を2個以上有する化合物類、エポキシ化合物類、カルボン酸類、カルボン酸無水物類、フェノール類、アミン類、ビニル化合物類、アリル化合物類、アクリル化合物類、メタクリル化合物類等が挙げられる。
【0035】
性能改良剤の添加量は、(a)、(b)および(c)化合物の合計100重量部に対して、それぞれ0.001〜10重量部であり、好ましくは0.002〜5重量部であり、より好ましくは0.005〜3重量部である。
【0036】
(7)その他の任意成分
本発明の光学材料用組成物においては、任意成分として、公知の酸化防止剤、ブルーイング剤、紫外線吸収剤、消臭剤等の各種添加剤を必要に応じて加え、得られる材料の実用性をより向上せしめることはもちろん可能である。
また、本発明の光学材料が重合中に型から剥がれやすい場合には公知の外部および/または内部密着性改善剤を、または型から剥がれにくい場合には公知の外部および/または内部離型性改善剤を、使用することもできる。これらの外部および/または内部密着性改善剤や外部および/または内部離型性改善剤は、重合硬化時に用いるガラスもしくは金属製の型に塗布することができるほか、本発明の光学材料用組成物に添加して、得られる光学材料と型の密着性または離型性を向上せしめることも有効である。
【0037】
本発明の光学用樹脂組成物では、(a)化合物の含有量が光学用樹脂組成物全量に対し10重量%以上であることが望ましい。(a)化合物の含有量が光学用樹脂組成物全量に対し10重量%以上であると、高屈折率(特にneが1.73以上)を容易に達成することができる。
また、キシリレンジイソシアネート化合物が光学材料用組成物全量に対して1重量%以上含まれないこと、すなわちキシリレンジイソシアネート化合物の含有量が光学用樹脂組成物全量に対し1重量%未満であることが望ましく、更にはキシリレンジイソシアネート化合物を含まないことがより望ましい。キシリレンジイソシアネート化合物の含有量が1重量%以上であると、ジイソシアネートによる屈折率低下が著しく、屈折率を1.73以上にすることが困難となるだけでなく、急速重合が起こり重合硬化物を得ることができなくなる場合がある。
また、(a)化合物と(b)化合物は、その少なくとも一部が相互に予備重合反応して得られる予備重合反応物として含まれていてもよい。
【0038】
2.光学材料用組成物の調製方法
本発明の光学材料用組成物は、上記(a)、(b)及び(c)化合物、並びに必要に応じて用いられる任意成分を通常の方法で混合・攪拌することにより得られるが、(a)化合物と(b)化合物の少なくとも一部を先に予備重合反応させた後、(c)化合物と混合させるのが望ましい。
【0039】
(1)予備重合反応
本発明の光学材料用組成物の調製にあたっては、あらかじめ(a)化合物と(b)化合物とを予備重合反応させ、得られた予備重合反応物と(c)化合物及び任意成分とを混合することが好ましい。(a)化合物と(b)化合物を予備重合反応させることは、固体の(a)化合物をハンドリングする際には有効な手段であり、得られる光学材料の透明性も良好となる。また、これにより(a)化合物(硫黄等を有する無機化合物)を多量に配合することが可能となり、高屈折率、高強度、及び高耐熱性を備えた光学材料を提供しうる光学用樹脂組成物が得られる。
【0040】
(a)化合物と(b)化合物とを予備重合反応させる方法を詳しく述べる。(a)化合物と(b)化合物は、それぞれ一部または全部を、撹拌下または非撹拌下反応させる。予備重合反応させる割合は特に制限されないが、注型時に(a)化合物が固体として存在しない程度に(a)化合物と(b)化合物とを予備重合反応させるのが好ましい。更に好ましくは、(a)化合物、(b)化合物それぞれ50〜100重量%が予備重合反応に供され、特に好ましくは(a)化合物、(b)化合物それぞれ全重量部が予備重合反応に供される。
【0041】
その際、(a)化合物と(b)化合物との反応を促進させる予備重合反応触媒を加えても構わない。予備重合反応触媒としては、前記した重合触媒を用いることもできるが、好ましくは窒素または燐原子を含む化合物が用いられ、より好ましくは窒素または燐原子を含みかつ不飽和結合を有する化合物が用いられる。特に好ましくはイミダゾール類であり、最も好ましくは2−メルカプト−1−メチルイミダゾールである。予備重合反応触媒の添加量は、(a)及び(b)化合物の合計100重量部に対して、0.001〜5重量部であり、好ましくは0.002〜5重量部であり、より好ましくは0.005〜3重量部である。
【0042】
予備重合反応は、大気、窒素または酸素等の気体の存在下、常圧もしくは加減圧による密閉下、または減圧下等の任意の雰囲気下で行ってよい。また、この予備重合反応は、重合調節剤、性能改良剤、紫外線吸収剤など必要に応じて用いられる各種添加剤の存在下に行っても構わない。また、(c)化合物の一部または全部の存在下に行っても構わないが、その場合、該予備重合反応は重合硬化反応の一部を選択的に前倒しして実施する形となるため、穏和な条件を採用するなどして反応を制御するのが望ましい。特に好ましくは、(a)化合物と(b)化合物を予備重合反応させたのち、(c)化合物を加える。
【0043】
予備重合反応時間は1分間〜72時間であり、好ましくは10分間〜48時間であり、より好ましくは30分間〜24時間である。予備重合反応温度は、0℃〜150℃であり、好ましくは10℃〜120℃であり、より好ましくは20℃〜100℃である。
【0044】
さらには、この予備重合反応により、(a)化合物を10モル%以上(反応前の(a)化合物を100モル%とする)反応させておくことが好ましく、20モル%以上反応させておくことがより好ましい。
【0045】
また、この予備重合反応物について、液体クロマトグラフィーおよび/または粘度および/または比重および/または屈折率を測定することで、反応の進行度を観察し制御することは、均質な光学材料用組成物とする上で好ましい。また、(a)化合物の反応割合を知ることもできる。
【0046】
中でも、液体クロマトグラフィーおよび/または屈折率を測定する手法が高感度であることから好ましく、さらには、屈折率を測定する手法が簡便であることからより好ましい。屈折率を測定する場合、リアルタイムで反応の進行度を観察できることから、インライン型の屈折計を用いることが好ましい。
【0047】
(2)混合
光学材料用組成物の製造方法は、詳しく述べるならば以下の通りである。(a)化合物と(b)化合物、および/または(a)化合物と(b)化合物を予備重合反応して得られる予備重合反応物、(c)化合物、性能改良剤(組成成分の一部もしくは全部と反応可能な化合物)、重合触媒、重合調節剤、密着性改善剤または離型性改善剤、酸化防止剤、ブルーイング剤、紫外線吸収剤、消臭剤等の各種添加剤等は、全て同一容器内で同時に撹拌下に混合しても、各原料を段階的に添加混合しても、数成分を別々に混合後さらに同一容器内で再混合しても良い。各原料および添加剤等はいかなる順序で混合しても構わない。さらに、上述した(a)化合物と(b)化合物の組み合わせによる予備重合反応以外にも、各成分の2種類以上についてあらかじめ予備的な反応を行った後、混合しても構わない。例えば(a)化合物と(b)化合物について上記予備重合反応を行い、別途(c)化合物の一部と性能改良剤を(単に混合するのではなく)予備的に反応させ、それらを混合することも可能である。
【0048】
混合にあたり、設定温度、これに要する時間等は基本的には各成分が十分に混合される条件であればよいが、過剰の温度・時間は、各原料や添加剤間の好ましくない反応が起こり易くなり、さらには粘度の上昇をきたし注型操作を困難にする場合がある、などの理由により適当ではない。
【0049】
混合温度は−50℃から100℃程度の範囲で行われるべきであり、好ましい温度範囲は−30℃から70℃、さらに好ましいのは、−5℃から50℃である。混合時間は、1分から12時間、好ましくは5分から10時間、最も好ましいのは5分から6時間程度である。必要に応じて、活性エネルギー線を遮断して混合してもかまわない。またその後、以下の方法で脱気処理を行ってもよい。
【0050】
(3)脱気処理
本発明の光学材料用組成物の製造方法においては、上記混合により樹脂組成物を調製後、脱気処理を行う場合がある。光学材料用組成物を重合硬化前にあらかじめ脱気処理することは、重合硬化して得られる光学材料の高度な透明性を達成する面から好ましい。
脱気処理は、(a)化合物、(b)化合物、(c)化合物、および各種組成成分の一部もしくは全部と反応可能な化合物、重合触媒、重合調節剤、各種添加剤の混合前、混合時あるいは混合後に、減圧下に行う。好ましくは、混合時あるいは混合後に、減圧下に行う。
【0051】
脱気処理条件は、0.1〜15000Paの減圧下、1分間〜24時間、0℃〜100℃で行う。減圧度は、好ましくは1〜10000Paであり、より好ましくは1〜5000Paであり、これらの範囲で減圧度を可変しても構わない。脱気時間は、好ましくは5分間〜18時間であり、より好ましくは10分間〜12時間である。脱気の際の温度は、好ましくは5℃〜80℃であり、より好ましくは10℃〜60℃であり、これらの範囲で温度を可変しても構わない。
【0052】
脱気処理の際は、撹拌、気体の吹き込み、超音波などによる振動などによって、光学材料用組成物の界面を更新することは、脱気効果を高める上で好ましい操作である。
脱気処理により、除去される成分は、主に硫化水素等の溶存ガスや低分子量のメルカプタン等の低沸点物等であるが、脱気処理の効果を発現するのであれば、特に限定されない。
【0053】
このようにして得られる光学材料用組成物は、重合硬化の直前にフィルター等で不純物等をろ過し精製することができる。光学材料用組成物をフィルターに通して不純物等をろ過し精製することは、本発明の光学材料の品質をさらに高める上から望ましいことである。ここで用いるフィルターの孔径は0.05〜10μm程度であり、一般的には0.1〜1.0μmのものが使用される。フィルターの材質としては、PTFEやPETやPPなどが好適に使用される。
【0054】
3.光学材料
本発明の光学材料は、上記光学材料用組成物を重合硬化して得られる。重合硬化は通常、光学材料用組成物をガラスや金属製の型に注入後、電気炉を用いて加熱したり、活性エネルギー線発生装置等を用いて紫外線などの活性エネルギー線を照射したりすることによって行われる。重合時間は0.1〜100時間、通常1〜48時間であり、重合温度は−10℃〜160℃、通常−10℃〜140℃である。重合は所定の重合温度で所定時間のホールド、0.1℃〜100℃/hの昇温、0.1℃〜100℃/hの降温およびこれらの組み合わせで行うことができる。
【0055】
また、重合終了後、材料を50℃から150℃の温度で5分から5時間程度アニール処理を行う事は、光学材料の歪を除くために好ましい処理である。さらに必要に応じて染色、ハードコート、反射防止、防曇性、防汚性、耐衝撃性付与等の表面処理を行うことができる。
【0056】
本発明の好ましい態様である光学材料用組成物を重合硬化することにより、従来困難であった、十分に高い屈折率と良好なアッベ数を有し、更に高い強度および耐熱性を有する光学材料を提供することが可能となった。すなわち、目的とする樹脂の屈折率(ne)としては、好ましくは1.73以上、より好ましくは1.74以上で、強度としては3点曲げ試験の伸びが10%以上、より好ましくは11%以上であり、特に好ましくは12%以上で、かつ耐ドリル強度が良好であること、耐熱性(TMA測定の軟化点)は70℃以上、より好ましくは72℃以上、特に好ましくは75℃以上である光学材料を提供し得る光学材料用組成物および光学材料、並びにそれを用いたツーポイントフレームメガネ用レンズを提供することができる。
【0057】
本発明の好ましい態様においては、高屈折率化剤である硫黄を多量に(例えば光学用樹脂組成物全量に対し10重量%以上)配合した均質な光学材料用組成物を得ることができる。そしてそれを用いることによって、屈折率1.73以上という高屈折率の光学材料を得ることができる。
【0058】
従来の組成・調製方法では、硫黄等を多量に配合すると急速重合のため屈折率1.73以上の硬化物(光学材料)を得ることはできなかった。硫黄(本発明では(a)化合物)と他の組成成分との相溶性が十分ではなく、(a)化合物を多量に配合すると(a)化合物が溶解しきれずに固体として硬化物中に残存し、屈折率低下の原因となるだけでなく透明な光学材料が得られない。
【0059】
本発明によれば、光学材料用組成物の調製段階で(a)化合物をあらかじめ予備重合反応させて適量を消費することによって、(a)化合物を完全に溶解させ、均一な液体組成物とすることが可能となり、その結果、高屈折率の光学材料を得ることができる。また、従来は高強度化のためイソシアネート化合物を配合していたが、(a)化合物を多量に配合した場合、同時にイソシアネートを添加すると急速重合する傾向にあり、重合硬化物を得るのが困難となる。しかし、本発明の好ましい態様では、急速重合を回避するためイソシアネート化合物の含有量を低く制限し(好ましくはイソシアネート化合物を実質的に用いない)、且つ(c)成分としてキシリレンジチオール化合物を用いている。
【0060】
このように、本発明の特徴的な組成・調製方法を採用することにより、高屈折率(neが1.73以上)を達成し、さらに高強度(3点曲げ試験の伸びが10%以上、及び耐ドリル強度が良好)、および高耐熱性をも有する光学材料が容易に得られる。
【実施例】
【0061】
以下、実施例により本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。なお、得られた光学材料の屈折率およびアッベ数、耐熱性、伸びおよび耐ドリル強度の評価は以下の方法で行った。
【0062】
[屈折率(ne)測定、アッベ数(νd)測定]
デジタル精密屈折計(カルニュー光学工業株式会社製、KPR−200)を用い、25℃で測定した。
【0063】
[耐熱性測定]
サンプルを厚さ3mmに切り出し、1mmφのピンに10gの加重を与え、30℃から10℃/分で昇温してTMA測定(セイコーインスツルメンツ製、TMA/SS6100)を行い、軟化点を測定した。
【0064】
[伸び(強度)測定]
JIS規格K-7171に準拠し、厚さ2.5mm、幅10.0mmの平板を、オートグラフ(株式会社島津製作所製、AG−5000B)を用い、支点間距離40mmにおいて3点曲げ試験を行い、破断点の伸びを測定した。
【0065】
[耐ドリル強度]
前記特許文献4(特開2008−101190号公報)に示されている評価方法に準拠して、ドリルの回転数2500rpm、進入速度600mm/分で2.5mm厚の平板に直径2mmの穴を開けたときの周辺部の状態を測定した。周辺部に欠けが見られないものを○、見られたものを×とした。
【0066】
<実施例1>
(a)化合物として硫黄16重量部、(b)化合物としてビス(β−エピチオプロピル)スルフィド84重量部の合計100重量部に、紫外線吸収剤として2−(2−ヒドロキシ−5−tert−オクチルフェニル)ベンゾトリアゾール1重量部を加え、60℃でよく混合し均一とした。次いで、2−メルカプト−1−メチルイミダゾール0.5重量部を加え、(a)化合物が20℃において析出しなくなるまで60℃で予備重合反応させた。
なお、本実施例では、予備重合反応を(a)化合物が約50モル%反応したところで停止させており、得られた組成物中には(a)化合物が残存した状態にある。(a)化合物の反応割合は、反応液を液体クロマトグラフィー分析ならびに屈折率を測定することにより求めた。
【0067】
その後、得られた組成物を20℃に冷却した。そこへ、(c)化合物としてm−キシリレンジチオール(以下c−1化合物と呼ぶ)7重量部、重合触媒としてトリエチルベンジルアンモニウムクロライド0.035重量部、重合調節剤としてジ−n−ブチルスズジクロライド0.22重量部を加えよく混合し均一な組成物とし、4000Pa、20分間、20℃の条件下で脱気処理した。
【0068】
得られた光学材料用組成物を1.0μmのPTFE製のメンブランフィルターでろ過し、2枚のガラス板とガスケットから構成される、厚さ2.5mmの平板型モールドに注入し、30℃で10時間加熱し、その後30℃から100℃まで10時間かけて一定速度昇温させ、最後に100℃で1時間加熱し、重合硬化させた。室温まで放冷した後、モールドから離型し、硬化した光学材料を得た。得られた光学材料の屈折率およびアッベ数、耐熱性、伸びおよび耐ドリル強度の評価結果を表1に示した。
【0069】
<実施例2>
(a)化合物16重量部、(b)化合物84重量部、(c)化合物としてc−1化合物1重量部、紫外線吸収剤として2−(2−ヒドロキシ−5−tert−オクチルフェニル)ベンゾトリアゾール1重量部を加え、50℃でよく混合し均一とした。次いで、2−メルカプト−1−メチルイミダゾール0.05重量部を加え、(a)化合物が20℃において析出しなくなるまで50℃で予備重合反応させた。
なお、本実施例では、予備重合反応を(a)化合物が約50モル%反応したところで停止させており、得られた組成中には(a)化合物が残存した状態にある。
その後、得られた組成物を20℃に冷却した。そこへ、未添加分のc−1化合物7重量部、重合触媒としてトリエチルベンジルアンモニウムクロライド0.050重量部、重合調節剤としてジ−n−ブチルスズジクロライド0.22重量部を加え、実施例1と同様な処理、重合硬化を行い、光学材料を得た。得られた光学材料の屈折率およびアッベ数、耐熱性、伸びおよび耐ドリル強度の評価結果を表1に示した。
【0070】
<実施例3〜6>
(c)化合物の量を変更する以外は実施例1と同様に行った。得られた光学材料の屈折率およびアッベ数、耐熱性、伸びおよび耐ドリル強度の評価結果を表1に示した。
【0071】
<実施例7>
(c)化合物のc−1化合物の代わりに、p−キシリレンジチオール(以下c−2化合物と呼ぶ)を使用する以外は、実施例1と同様に行った。得られた光学材料の屈折率およびアッベ数、耐熱性、伸びおよび耐ドリル強度の評価結果を表1に示した。
【0072】
<比較例1>
組成から(c)化合物のc−1化合物を除く以外は実施例1と同様に行った。得られた光学材料の屈折率およびアッベ数、耐熱性および伸びの評価結果を表1に示した。得られた光学材料は伸びおよび耐ドリル強度が不十分であった。
【0073】
<比較例2>
(c)化合物のc−1化合物の代わりに、ビス(2−メルカプトエチル)スルフィド(以下o−1化合物と呼ぶ)を使用する以外は実施例1と同様に行った。ただし屈折率と耐熱性を確保するために4000Pa、90分間、20℃の条件下で脱気処理した。得られた光学材料の屈折率およびアッベ数、耐熱性、伸びおよび耐ドリル強度の評価結果を表1に示した。得られた光学材料は伸びおよび耐ドリル強度が不十分であった。
【0074】
<比較例3>
o−1化合物の量を変更した以外は比較例2と同様に行った。得られた光学材料の屈折率およびアッベ数、耐熱性、伸びおよび耐ドリル強度の評価結果を表1に示した。得られた光学材料は耐熱性および伸びおよび耐ドリル強度が不十分であった。
【0075】
<比較例4>
(b)化合物100重量部、c−1化合物16重量部、内部離型剤としてポリオキシエチレンラウリルエーテルリン酸ナトリウム0.005重量部、重合調節剤としてジ−n−ブチルスズジクロライド0.05重量部を混合し、均一な組成物とし1300Paの減圧下で30分脱気を行った後、実施例1と同様に重合硬化させた。得られた光学材料の屈折率およびアッベ数、耐熱性、伸びおよび耐ドリル強度の評価結果を表1に示した。得られた光学材料は屈折率および耐熱性が不十分であった。
【0076】
<比較例5〜7>
表1に示した組成に変更した以外は比較例4を繰り返した。得られた光学材料の屈折率およびアッベ数、耐熱性、伸びおよび耐ドリル強度の評価結果を表1に示した。得られた光学材料はいずれも屈折率が不十分であり、耐熱性や耐ドリル強度が不十分なものもあった。
【0077】
<比較例8>
(a)化合物16重量部、(b)化合物84重量部を実施例1と同じ予備重合操作を行い、均一な組成物とした。そこへ、o−1化合物15重量部、o−2化合物12重量部、重合触媒としてトリエチルベンジルアンモニウムクロライド0.035重量部、重合調節剤としてジ−n−ブチルスズジクロライド0.22重量部を加えよく混合し均一化させると、急速重合が起こり硬化した光学材料は得られなかった。
【0078】
【表1】
【0079】
なお、上記表1中の記号は、以下を意味する。
(a)硫黄
(b)ビス(β−エピチオプロピル)スルフィド
(c-1)m−キシリレンジチオール
(c-2)p−キシリレンジチオール
(o-1)ビス(2−メルカプトエチル)スルフィド
(o-2)1,3−ビス(1−イソシアナート−1−メチルエチル)ベンゼン