特許第5720690号(P5720690)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5720690
(24)【登録日】2015年4月3日
(45)【発行日】2015年5月20日
(54)【発明の名称】ショットピーニング方法
(51)【国際特許分類】
   B24C 1/10 20060101AFI20150430BHJP
   B24C 11/00 20060101ALI20150430BHJP
【FI】
   B24C1/10 G
   B24C11/00 Z
【請求項の数】2
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2012-531142(P2012-531142)
(86)(22)【出願日】2011年8月4日
(65)【公表番号】特表2013-535341(P2013-535341A)
(43)【公表日】2013年9月12日
(86)【国際出願番号】JP2011004416
(87)【国際公開番号】WO2012017658
(87)【国際公開日】20120209
【審査請求日】2014年3月28日
(31)【優先権主張番号】特願2010-176681(P2010-176681)
(32)【優先日】2010年8月5日
(33)【優先権主張国】JP
【早期審査対象出願】
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000191009
【氏名又は名称】新東工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100071010
【弁理士】
【氏名又は名称】山崎 行造
(74)【代理人】
【識別番号】100118647
【弁理士】
【氏名又は名称】赤松 利昭
(74)【代理人】
【識別番号】100138438
【弁理士】
【氏名又は名称】尾首 亘聰
(74)【代理人】
【識別番号】100138519
【弁理士】
【氏名又は名称】奥谷 雅子
(74)【代理人】
【識別番号】100123892
【弁理士】
【氏名又は名称】内藤 忠雄
(74)【代理人】
【識別番号】100169993
【弁理士】
【氏名又は名称】今井 千裕
(72)【発明者】
【氏名】小林 祐次
(72)【発明者】
【氏名】辻 俊哉
【審査官】 橋本 卓行
(56)【参考文献】
【文献】 特開2009−131912(JP,A)
【文献】 特開2009−263756(JP,A)
【文献】 特開2010−030036(JP,A)
【文献】 小川一義 浅野 高司,ショットピーニングにより浸炭焼入れ鋼に付与される残留応力の理論的予測と実験検証,材料,日本,日本材料学会,1999年12月,Vol.48, No.12,1360-1366
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B24C 1/10
B24C 11/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下式(1)〜(4)から推定される最大圧縮残留応力発生位置zにおける硬度がHV750以上の表面層に軟質層が存在するガス浸炭材からなる被加工材に対し、前記被加工材の最大圧縮残留応力発生位置zの硬度よりもHV50以上の高い硬度を有する投射材を投射し、前記被加工材に残留圧縮応力を付与することを特徴とするショットピーニング方法。
【数1】
【請求項2】
前記投射材の直径を0.2〜1.0mmの範囲としたことを特徴とする請求項1に記載のショットピーニング方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ショットピーニング方法に関し、具体的にはガス浸炭材を対象としたショットピーニング方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、歯車の疲労強度を向上させるため、圧縮残留応力と硬さの付与を目的としたショットピーニングが行われていることは公知である(ショットピーニング技術協会「金属疲労とショットピーニング」現代工学社(2004)参照)。また、部品の軽量化を目的とし、高疲労強度化を達成すべく、圧縮残留応力の付与量を増加させるためのショットピーニング方法も知られている(特開2009−131912号公報参照)。さらに、ショットピーニングによって被加工材に付与される残留圧縮応力を理論的に推定する手法も知られている(小川一義, 浅野高司「ショットピーニングにより高硬さ鋼に付与される残留応力の理論的予測」ばね論文集、第48号(2003)参照)。
【0003】
しかしながら、これらの技術は材料表面もしくは材料表面近傍における硬さの平均値に着目したものである。即ち、本来的には、圧縮残留応力は投射材の衝突によって発生する塑性変形と、その塑性変形箇所を抑える被加工材側の機械的性質との関係が重要であるため、材料表面に軟質層が存在するガス浸炭材には適用が難しいという問題があった。
【発明の概要】
【0004】
そこで、本発明は、材料表面もしくは材料表面近傍における硬さを用いるのではなく、最大圧縮残留応力発生位置を推定することで、軟質層を有するガス浸炭材に対しても高圧縮残留応力を付与するためのショットピーニング方法を提供することを課題とする。
【0005】
本発明の第1の態様のショットピーニング方法は、下記式(1)〜(4)から推定される最大圧縮残留応力発生位置zにおける硬度がHV750を超えるガス浸炭材からなる被加工材に対し、前記被加工材の最大圧縮残留応力発生位置zの硬度よりもHV50以上の高い硬度を有する投射材を投射し、前記被加工材に残留圧縮応力を付与することを特徴とする。
【数1】
【0006】
本発明の第2の態様のショットピーニング方法は、前記第1の態様のショットピーニング方法において、投射材の直径を0.2〜1.0mmの範囲としたことを特徴とする。
【0007】
本発明の第1の態様のショットピーニング方法によれば、投射材の衝突によって発生する接触応力下における応力が最大値となる位置(深さ位置)に定数を掛けた値を最大圧縮残留応力発生位置と推定し、その位置における硬度がHV750を超えるガス浸炭材からなる被加工材に対し、その位置における硬度よりもHV50以上の高い硬度を有する投射材を投射することで、1600MPa以上の最大圧縮残留応力を被加工材に付与することができ、被加工材の高疲労強度化を図ることができる。即ち、上記の式(1)〜(4)から最大圧縮残留応力発生位置zを推定することにより、軟質層を有するガス浸炭材に対しても高圧縮残留応力を付与することができる。
【0008】
本発明の第2の態様に記載のショットピーニング方法によれば、投射材の直径を0.2〜1.0mmの範囲とすることで、1600MPa以上の最大圧縮残留応力を被加工材に確実に付与することができる。
【0009】
この出願は、日本国で2010年8月5日に出願された特願2010−176681号に基づいており、その内容は本出願の内容として、その一部を形成する。
また、本発明は以下の詳細な説明により更に完全に理解できるであろう。しかしながら、詳細な説明および特定の実施例は、本発明の望ましい実施の形態であり、説明の目的のためにのみ記載されているものである。この詳細な説明から、種々の変更、改変が、当業者にとって明らかだからである。
出願人は、記載された実施の形態のいずれをも公衆に献上する意図はなく、開示された改変、代替案のうち、特許請求の範囲内に文言上含まれないかもしれないものも、均等論下での発明の一部とする。
本明細書あるいは請求の範囲の記載において、名詞及び同様な指示語の使用は、特に指示されない限り、または文脈によって明瞭に否定されない限り、単数および複数の両方を含むものと解釈すべきである。本明細書中で提供されたいずれの例示または例示的な用語(例えば、「等」)の使用も、単に本発明を説明し易くするという意図であるに過ぎず、特に請求の範囲に記載しない限り本発明の範囲に制限を加えるものではない。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】本発明に係る実施形態で用いた被加工材の硬さ分布を示すグラフである。
図2】本発明に係る実施形態で用いたショットピーニングの条件およびその結果を示す表である。
図3】最大圧縮残留応力の推定値と実測値との関係を示すグラフである。
図4】投射材硬さと最大圧縮残留応力発生位置における硬さの差と、最大圧縮残留応力との関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下に、本発明に係る実施形態を図面に基づき説明する。
【0012】
図1は、本発明に係る実施形態で用いた被加工材の硬さ分布を示すグラフである。横軸は材料表面からの深さ(μm)であり、縦軸はビッカース硬さである。被加工材としては、ガス浸炭材を用いた。図中のTP.Aは180℃焼き戻しを行ったもの、TP.Bは250℃焼き戻しを行ったものである。
【0013】
図2は、本発明に係る実施形態で用いたショットピーニングの条件およびその結果を示す表である。ショットピーニングはエア式であり、投射材として硬さHV700〜1000で粒径(平均直径)0.2〜1.0mmのものを用いた。
【0014】
表中の最大σ(MPa)は被加工材の最大圧縮残留応力を示す。尚、圧縮残留応力の測定には、リガク製微小X線応力測定機(管球:Cr−Kα、回折面:(220)、応力定数:−318MPa/deg、無歪み角2θ:156.4°)を用いた。
【0015】
また、表中のピーク位置は最大圧縮残留応力を示す材料表面からの深さ位置を示す。ピーク位置硬さはピーク位置における硬さ、即ち最大圧縮残留応力を示す位置の被加工材のビッカース硬さを示す。相対硬さは投射材と被加工材の硬さの偏差、具体的には投射材の硬さから被加工材のピーク位置硬さを引いた値を示す。表から分かるように、相対硬さが50以上であると−1600MPa以上の高い最大圧縮残留応力が得られた。尚、最大圧縮残留応力−1600MPaは歯車部品に要求される代表的な値である。
【0016】
図3は、最大圧縮残留応力の発生位置(深さ位置)の推定値と実測値との関係を示すグラフである。最大圧縮残留応力の発生位置の推定値は下記の式(1)から(4)を用いて算出される。
【0017】
【数1】
【0018】
図3に示す如く、最大圧縮残留応力の発生位置の推定値と実測値はほぼ一致する。これは、即ち、最大圧縮残留応力発生位置は、投射材の衝突によって発生する接触応力下における応力が最大値となる位置(深さ位置)に定数Kを乗算することによって推定可能なことを意味する。
【0019】
図4は、投射材硬さと最大圧縮残留応力発生位置における硬さの差と、最大圧縮残留応力との関係を示すグラフである。詳しくは、横軸に投射材硬さから最大圧縮残留応力発生位置における被加工材の硬さを引いた値(前記した相対硬さ)を、縦軸に被加工材の最大圧縮残留応力(MPa)をプロットした図である。
【0020】
図4に示す如く、投射材硬さから最大圧縮残留応力発生位置における被加工材の硬さを引いた値がHV50未満の場合、最大圧縮残留応力が−1600MPaに達しないことが分かる。これは、ショットピーニングにおいて投射材が被加工材に衝突した際、投射材の塑性変形が発生し、投射エネルギーが十分に被加工材に伝わらないことに起因する。
【0021】
一方、投射材硬さから最大圧縮残留応力発生位置における被加工材の硬さを引いた値がHV50以上の場合、最大圧縮残留応力が−1600MPaを上回る(圧縮残留応力は通常負値で示されるため、絶対値において1600MPaを上回るという意味)ことが分かる。これは、ショットピーニングにおいて投射材が被加工材に衝突した際、投射材の塑性変形が発生し難く、投射エネルギーが十分に被加工材に伝わるためである。
【0022】
また、図4に示す如く、最大圧縮残留応力発生位置における被加工材の硬さがHV750未満の場合、投射材硬さから最大圧縮残留応力発生位置における被加工材の硬さを引いた値がHV50以上であっても最大圧縮残留応力が−1600MPaに達しないことが分かる。これは、最大圧縮残留応力の付与限界は、降伏強度までとされており、その降伏強度は硬さと比例関係があるとされている。そのため、最大圧縮残留応力発生位置における被加工材の硬さがHV750以上でないと、最大圧縮残留応力を−1600MPaを付与するための降伏強度が確保できないためと考えられる。
【0023】
尚、投射材と被加工材の硬度差に関するHV50の臨界値は、図4に示す如く、投射材硬さから最大圧縮残留応力発生位置における被加工材の硬さを引いた値に対して最大圧縮残留応力をプロットし、そのプロットに沿う近似曲線を最小二乗法によって定めた上で既定したものである。また、最大圧縮残留応力発生位置における硬度に関するHV750の臨界値も同様に、被加工材の硬さに対して最大圧縮残留応力をプロットし、そのプロットに沿う近似曲線を最小二乗法によって定めた上で既定したものである。
【0024】
このように、本発明に係る実施形態にあっては、上記の式(1)〜(4)から推定される最大圧縮残留応力発生位置zにおける硬度がHV750を超えるガス浸炭材からなる被加工材に対し、前記被加工材の最大圧縮残留応力発生位置zの硬度よりもHV50以上の高い硬度を有する投射材を投射し、前記被加工材に残留圧縮応力を付与することで、換言すれば、投射材の衝突によって発生する接触応力下における応力が最大値となる位置(深さ位置)に定数を掛けた値を最大圧縮残留応力発生位置と推定し、その位置における硬度がHV750を超えるガス浸炭材からなる被加工材に対し、その位置における硬度よりもHV50以上の高い硬度を有する投射材を投射することで、1600MPa以上の最大圧縮残留応力を被加工材に付与することができ、被加工材の高疲労強度化を図ることができる。即ち、上記の式(1)〜(4)から最大圧縮残留応力発生位置zを推定することにより、軟質層を有するガス浸炭材に対しても高圧縮残留応力を付与することができる。
【0025】
また、前記投射材の直径を0.2〜1.0mmの範囲とすることで、1600MPa以上の最大圧縮残留応力を被加工材に確実に付与することができる。
【0026】
尚、本発明において投射材の種類は問わないが、鉄系の投射材を用いると良い。
図1
図2
図3
図4